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7337049リチウムイオン二次電池用正極組成物、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極組成物、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20230825BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230825BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/62 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020518278
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2019017989
(87)【国際公開番号】W WO2019216275
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2018090074
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】永井 達也
(72)【発明者】
【氏名】大角 真一朗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021073(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/024525(WO,A1)
【文献】特開2017-182989(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047454(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/051067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/525
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な活物質及び導電材を含むリチウムイオン二次電池用正極組成物であり、
前記活物質がリチウムコバルト複合酸化物であり、
前記導電材がカーボンブラック、及びカーボンナノチューブであり、
前記カーボンブラックのBET比表面積が100~400m2/gであり、DBP吸収量が250~400ml/100gであり、
前記カーボンナノチューブの平均直径が20nm以下であり、BET比表面積が170m2/g以上であり、アスペクト比が50以上であり、
前記正極組成物中の前記カーボンブラックの含有量X(単位:質量%)、及び前記カーボンナノチューブの含有量Y(単位:質量%)が、下記条件(A)、(B)を満たすことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極組成物。
(A)0.5≦(X+Y)≦2.0
(B)0.80≦{X/(X+Y)}≦0.95
【請求項2】
前記リチウムコバルト複合酸化物の平均粒子径D50が10~20μmであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極組成物。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブのBET比表面積が200m2/gより大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極組成物。
【請求項4】
前記リチウムイオン二次電池用正極組成物において、前記リチウムコバルト複合酸化物が96質量%以上含まれることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極組成物を用いたリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極組成物、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
環境・エネルギー問題の高まりから、化石燃料への依存度を減らす低炭素社会の実現に向けた技術の開発が盛んに行われている。このような技術開発の例としては、ハイブリッド電気自動車や電気自動車等の低公害車の開発、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギー発電・蓄電システムの開発、電力を効率よく供給し、送電ロスを減らす次世代送電網の開発等があり、多岐に渡っている。
【0003】
これらの技術に共通して必要となるキーデバイスの一つが電池であり、このような電池に対しては、システムを小型化するための高いエネルギー密度が求められる。また、使用環境温度に左右されずに安定した電力の供給を可能にするための高い出力特性が求められる。さらに、長期間の使用に耐えうる良好なサイクル特性等も求められる。そのため、従来の鉛蓄電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池から、より高いエネルギー密度、出力特性及びサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池への置き換えが急速に進んでいる。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池の基本構成は、正極、負極、セパレーター、電解質からなり、正極は、一般的には、リチウム複合酸化物等の正極活物質、導電材、結着剤を含む正極組成物、及びアルミニウム等の金属箔集電体からなる。導電材には、一般的に、カーボンブラック等の粒子状炭素材料が用いられる。
【0005】
ところで、カーボンブラックは、その共通の構造として、球形に近い1次粒子が数珠状に繋がりあった構造を有しており、このような構造をストラクチャと呼ぶ。ストラクチャの長さは、JIS K6217-4に準拠して測定されるDBP吸収量を用いて間接的に評価され、一般的にDBP吸収量が大きいほどストラクチャが長く、導電性を付与する効果と、非水電解液を保持する能力である保液性が優れる。
【0006】
近年ではこのリチウムイオン二次電池のエネルギー密度の更なる向上が求められている。このため電極中で充放電容量に寄与しない成分である導電材の含有量をより少なくし、活物質の含有量を多くすることが求められている。この課題を解決する手段として、カーボンブラック等の粒子状炭素材料よりも高いアスペクト比を有し、より少ない添加量で導電性を付与することができる、繊維状炭素材料をカーボンブラックと併用する技術が提案されている。
【0007】
特許文献1では、カーボンナノファイバが活物質とカーボンブラックとの電気的な橋渡しを行うことにより、電極中に良好な導電経路が作られ、サイクル特性に優れた電池を得る技術が開示されている。しかし、より少ない添加で導電性の付与が可能な、粒子径が小さくストラクチャの長いカーボンブラックを用いた場合には、十分な導電経路が形成されず、活物質の含有量を増やせないことが課題であった。
【0008】
特許文献2では、カーボンブラックとカーボンナノチューブを併用することで、電極中に導電材が偏在することを防ぎ、出力特性に優れた電池を得る技術が開示されている。また、特許文献3では、導電材全体を100重量%としたときの繊維状炭素材料の割合を1~20重量%、粒状炭素材料の割合を99~80重量%とすることで、電極内での導電性が向上し、サイクル特性、出力特性に優れた電池を得る技術が開示されている。しかし、何れの発明によっても多量の導電材を添加することを前提とした技術であるため、活物質の含有量を増やせないことが課題であった。
【0009】
特許文献4では、カーボンブラックと黒鉛化カーボンファイバーを併用することで、正極中の導電経路を安定なものとし、出力特性、サイクル特性に優れた電池を得る技術が開示されている。また、特許文献5では、カーボンブラックと繊維状炭素を併用することで、抵抗が低く、放電容量、サイクル特性に優れた電池を得る技術が開示されている。しかし、何れの発明によっても、使用する繊維状炭素材料の繊維径が太いため、十分な導電経路を形成させるには、繊維状炭素材料を多量に添加する必要があり、併用するカーボンブラックの割合が少なくなってしまう。そのため、活物質の近傍に十分な電解液を保持させることができないので、低温環境使用時に十分な出力特性が得られないことが課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2013/179909号
【文献】特開2007-80652号公報
【文献】特開平11-176446号公報
【文献】特開2001-126733号公報
【文献】特開2010-238575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題と実情に鑑み、エネルギー密度が高く、内部抵抗が小さく、出力特性、サイクル特性、低温特性に優れたリチウムイオン二次電池を簡便に得ることができるリチウムイオン二次電池用正極組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究の結果、特定の活物質に対して、粒子径が小さくストラクチャの長いカーボンブラックと繊維径が細く、かつ特定のBET比表面積とアスペクト比を有するカーボンナノチューブを導電材として用いることにより、上記課題が解決できることを見出した。
具体的には、本発明において、活物質としてコバルト酸リチウム、導電材として粒子径が小さく、かつストラクチャの長いカーボンブラックと、繊維径が細く、特定のBET比表面積とアスペクト比を有するカーボンナノチューブを含むリチウムイオン二次電池用正極組成物を用いて製造したリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、内部抵抗が小さく、出力特性、サイクル特性、低温特性に優れることを見出し、完成されたものである。
【0013】
すなわち、本願発明は以下のように特定される。
(1)リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な活物質及び導電材を含むリチウムイオン二次電池用正極組成物であり、前記活物質がリチウムコバルト複合酸化物であり、前記導電材がカーボンブラック、及びカーボンナノチューブであり、前記カーボンブラックのBET比表面積が100~400m2/gであり、DBP吸収量が210~400ml/100gであり、前記カーボンナノチューブの平均直径が20nm以下であり、BET比表面積が170m2/g以上であり、アスペクト比が50以上であり、前記正極組成物中の前記カーボンブラックの含有量X(単位:質量%)、及び前記カーボンナノチューブの含有量Y(単位:質量%)が、下記条件(A)、(B)を満たすことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極組成物。
(A)0.5≦(X+Y)≦2.0
(B)0.80≦{X/(X+Y)}≦0.95
(2)前記リチウムコバルト複合酸化物の平均粒子径D50が、10~20μmであることを特徴とする(1)に記載のリチウムイオン二次電池用正極組成物。
(3)前記カーボンナノチューブのBET比表面積が200m2/gより大きいことを特徴とする(1)又は(2)に記載のリチウムイオン二次電池用正極組成物。
(4)前記リチウムイオン二次電池用正極組成物において、前記リチウムコバルト複合酸化物が96質量%以上含まれることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極組成物。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極組成物を用いたリチウムイオン二次電池用正極。
(6)(5)に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、内部抵抗が小さく、出力特性、サイクル特性、低温特性に優れたリチウムイオン二次電池を簡便に得ることができるリチウムイオン二次電池用正極組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例、比較例で用いた試験用電池の構造を示す模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のリチウムイオン二次電池用正極組成物は、活物質及び導電材を含むリチウムイオン二次電池用正極組成物であり、前記活物質はリチウムコバルト複合酸化物であり、前記導電材はカーボンブラック、及びカーボンナノチューブであり、前記カーボンブラックのBET比表面積が100~400m2/gであり、DBP吸収量が210~400ml/100gであり、前記カーボンナノチューブの平均直径が20nm以下であり、BET比表面積が170m2/g以上であり、アスペクト比が50以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極組成物である。
【0017】
本発明における活物質であるリチウムコバルト複合酸化物として、例えばコバルト酸リチウムを用いることができる。コバルト酸リチウムは、一般の電池用活物質としてのコバルト酸リチウム同様、固相法、液相法、気相法など従来公知の方法により製造したものが用いられる。また、ZrO2、Al23、TiO2、SiO2、MgO、TiO2などの金属酸化物やLi2CO3、AlF3などで活物質の表面を被覆処理したものを用いても良い。なお、本発明の効果を妨げない限り、コバルト酸リチウム以外、他の活物質も含み得る。
【0018】
本発明におけるコバルト酸リチウムなどのリチウムコバルト複合酸化物の平均粒子径D50は、10~20μmであることが好ましい。このような範囲の平均粒子径にすることで、得られる正極内で活物質の充填率が良くなり、高エネルギー密度の正極が得られ易くなる。また、後述する導電材の特長を引き出し易くなり、極めて少ない添加量の導電材で、高出力の電池が得られ易くなる。さらに、得られる電池を充放電する際に電解液の分解を抑制し、良好なサイクル特性が得られ易くなる。なお本発明の平均粒子径は、エタノールを分散媒として正極活物質を分散させたものを、JIS Z 8825に準拠してレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した値である。また、本発明におけるコバルト酸リチウムなどのリチウムコバルト複合酸化物の含有量は、コバルト酸リチウム、導電材及び結着剤を含む正極組成物に対して、96質量%以上であることが好ましい。このような含有量とすることで、十分に高いエネルギー密度を有する電池が得られ易くなる。
【0019】
本発明における導電材は、カーボンブラック、及びカーボンナノチューブである。カーボンブラックは、一般の電池用導電材としてのカーボンブラック同様、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどの中から選ばれるものである。中でも、結晶性及び純度に優れるアセチレンブラックが好ましい。なお、本発明の効果を妨げない限り、カーボンブラック及びカーボンナノチューブ以外、他の導電材も含み得る。
【0020】
本発明におけるカーボンブラックのBET比表面積は100~400m2/gである。BET比表面積を100m2/g以上とすることで、活物質及び集電体との電気的接点が多くなり、良好な導電性付与効果が得られる。また、400m2/g以下とすることで、粒子間の相互作用が抑制されるため、正極活物質の間に均一に分散され、良好な導電経路が得られる。この観点から、カーボンブラックのBET比表面積は120~380m2/gであることがより好ましい。なお、本発明のBET比表面積は、吸着質として窒素を使用し、JIS Z 8830に準拠して静的容量法により測定した値である。
【0021】
本発明におけるカーボンブラックのDBP吸収量は210~400ml/100gである。DBP吸収量を210ml/100g以上とすることで、導電材として使用される際のストラクチャが十分な長さと広がりを持ち、良好な導電経路と非水電解液の保液性が得られる。また、400ml/100g以下とすることで、ストラクチャ同士の絡み合いによる凝集が抑えられるため、正極活物質の間に均一に分散され、良好な導電経路の形成と十分な非水電解液の保液性を両立することができる。この観点から、カーボンブラックのDBP吸収量は250~320ml/100gであることがより好ましい。なお、本発明のDBP吸収量は、JIS K6217-4に準拠して測定した値である。
【0022】
本発明におけるカーボンブラックの体積抵抗率はとくに限定されるものではないが、導電性の観点から低いほど好ましい。具体的には、7.5MPa圧縮下で測定した体積抵抗率は0.30Ω・cm以下が好ましく、0.25Ω・cm以下がより好ましい。
【0023】
本発明におけるカーボンブラックの灰分及び水分は特に限定されるものではないが、副反応の抑制の観点から、どちらも少ないほど好ましい。具体的には、灰分は0.04質量%以下が好ましく、水分は0.10質量%以下が好ましい。
【0024】
本発明におけるカーボンナノチューブの平均直径は20nm以下であり、BET比表面積が170m2/g以上であり、かつアスペクト比が50以上である。平均直径を20nm以下で、かつBET比表面積を170m2/g以上とすることで、活物質表面との電気的接点が多くなり、良好な導電経路が得られる。この観点から、カーボンナノチューブの平均直径は15nm以下、BET比表面積は200m2/gより大きいことがより好ましい。また、アスペクト比を50以上にすることで、活物質の表面に間断の少ない導電経路を効率良く形成することができる。この観点から、カーボンナノチューブのアスペクト比は100以上であることがさらに好ましい。なお、本発明の平均直径とアスペクト比は、透過型電子顕微鏡、反射型電子顕微鏡、光学顕微鏡などを用いて、画像解析法で測定される形状のことであり、具体的には、20個のカーボンナノチューブの平均値で表される大きさである。またアスペクト比とは、平均長さ/平均直径の比のことである。さらに、本発明のBET比表面積は、吸着質として窒素を使用し、JIS Z 8830に準拠して静的容量法により測定した値である。
【0025】
本発明におけるカーボンブラックの含有量X(単位:質量%)及びカーボンナノチューブの含有量Y(単位:質量%)は0.5≦(X+Y)≦2.0かつ0.80≦{X/(X+Y)}≦0.95である。0.5≦(X+Y)≦2.0とすることで、正極組成物中で充放電容量に寄与しない成分である導電材の含有量を低く抑えつつ、十分な導電性付与効果が得られる。また、0.80≦{X/(X+Y)}≦0.95とすることで、正極組成物中でカーボンブラックが活物質間の導電経路形成と活物質の近傍に非水電解液を保液する役割を担い、カーボンナノチューブが活物質表面の導電経路形成を担う電極構造が形成される。これにより得られる電極は、良好な導電経路とイオン伝導経路を併せ持ち、電池に用いた時に良好な電池特性が得られる。上記観点から、X+Yは0.9以上であることがより好ましく、1.3以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極組成物の製造には、特に制限は無く、従来公知の方法を用いることができる。例えば、正極活物質、導電材、結着剤の溶媒分散溶液をボールミル、サンドミル、二軸混練機、自転公転式攪拌機、プラネタリーミキサー、ディスパーミキサー等により混合することで得られ、一般的には、分散媒に分散させた分散液の状態で製造及び使用される。正極活物質及び導電材としては、既述したものを用いれば良い。カーボンブラックとカーボンナノチューブは別々に混合器に投入しても、あるいは事前に混合しておいても良い。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリビニルアルコール、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、カルボン酸変性(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の高分子が挙げられる。これらの中では、耐酸化性の点でポリフッ化ビニリデンが好ましい。分散媒としては、水、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。結着剤としてポリフッ化ビニリデンを使用する際には、溶解性の点でN-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
【0027】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、正極活物質、導電材、結着剤以外の成分を含むことができる。例えば、分散性を向上させる目的でポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロース又はカルボン酸変性(メタ)アクリル酸エステル共重合体などを含んでいても良い。
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極の作製方法には、特に制限は無く、従来公知の正極作製方法を用いて行えばよいが、例えば以下の方法により作製することができる。すなわち、前記分散液をアルミニウム等の金属箔集電体上に塗布した後、加熱により本発明の正極組成物に含まれる分散媒を除去し、二次電池用正極組成物が集電体表面に製膜することで得られる。さらに集電体と電極合材層をロールプレス等により加圧して密着させることにより、目的とする電極を得ることができる。
【0029】
本発明のリチウムイオン二次電池の作製方法にも、特に制限は無く、従来公知の二次電池の作製方法を用いて行えば良いが、例えば、以下の方法により作製することもできる。すなわち、正極と負極との間に絶縁層となるポリオレフィン製微多孔膜を配し、正極、負極及びポリオレフィン製微多孔膜の空隙部分に非水電解液が十分に染込むまで注液することで作製することができる。
【0030】
本発明のリチウムイオン二次電池は、特に限定されないが、例えば、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ポータブルオーディオプレイヤー、携帯液晶テレビ等の携帯AV機器、ノート型パソコン、スマートフォン、モバイルPC等の携帯情報端末、その他、携帯ゲーム機器、電動工具、電動式自転車、ハイブリッド自動車、電気自動車、電力貯蔵システム等の幅広い分野において使用することができる。
【実施例
【0031】
以下、実施例及び比較例により、本発明のリチウムイオン二次電池用正極組成物を詳細に説明する。しかし、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
<実施例1>
(リチウムイオン二次電池用正極組成物)
活物質として平均粒子径D50が20μmのコバルト酸リチウム(ユミコア社製、「KD-20」)LiCoO2、導電材としてBET比表面積が370m2/g、DBP吸収量が310ml/100gのカーボンブラック(デンカ社製、「SAB」、表1中にアセチレンブラック-Aと記載)、及び平均直径が9nm、BET比表面積が243m2/gのカーボンナノチューブのN-メチルピロリドン分散液(CNano社製、「LB107」、表1中にCNT-Aと記載)を用意した。前記コバルト酸リチウム98.4質量%、前記カーボンブラック0.76質量%、前記カーボンナノチューブを分散質量で0.04質量%に、結着剤としてポリフッ化ビニリデンのN-メチルピロリドン溶液を溶質量で0.8質量%、さらに分散媒としてN-メチルピロリドンを加えて混合し、リチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液を得た。
【0033】
(リチウムイオン二次電池用正極)
前記リチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液を、ベーカー式アプリケーターを用いて厚さ20μmのアルミニウム箔に塗布、乾燥し、その後、プレス、裁断して、リチウムイオン二次電池用正極を得た。
【0034】
(リチウムイオン二次電池用負極)
リチウムイオン二次電池用負極組成物[黒鉛(Shenzhen BTR社製、「AGP-2A」)95質量%、カーボンブラック(デンカ社製、「Li-400」)1.0質量%、ポリフッ化ビニリデン1.5質量%、スチレン-ブタジエン共重合体質量2.5%]をベーカー式アプリケーターを用いて厚さ20μmの銅箔に塗布、乾燥し、その後、プレス、裁断して、リチウムイオン二次電池用負極を得た。
【0035】
(リチウムイオン二次電池)
前記正極、セパレーター、前記負極を共に重ね、積層した後、アルミラミネートフィルムでパック、プレシーリングし、続いて電解液を注入し、バッテリーフォーマッティング、真空シーリングして、ラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。
【0036】
[内部抵抗]
作製したリチウムイオン二次電池を、電圧範囲2.75~4.2Vで5サイクル、充電/放電した後、周波数範囲10MHz~0.001Hz、振動電圧5mVでインピーダンス解析を行った。本実施例の内部抵抗は1.62Ωであった。
【0037】
[出力特性(3C放電時の容量維持率)]
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃において4.2V、0.2C制限の定電流定電圧充電をした後、0.2Cの定電流で2.75Vまで放電した。次いで、放電電流を0.2C、3Cと変化させ、各放電電流に対する放電容量を測定した。そして、0.2C放電時に対する3C放電時の容量維持率を計算した。本実施例の3C放電時の容量維持率は96.8%であった。
【0038】
[サイクル特性(サイクル容量維持率)]
作製したリチウムイオン電池を、25℃において4.2V、1C制限の定電流定電圧充電をした後、1Cの定電流で2.75Vまで放電した。充電及び放電のサイクルを繰り返し行い、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の比率を求めてサイクル容量維持率とした。本実施例のサイクル容量維持率は96.2%であった。
【0039】
[低温出力特性(-20℃放電時の容量維持率)]
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃において4.2V、0.2C制限の定電流定電圧充電をした後、0.5Cの定電流で2.75Vまで放電した。次いで、-20℃において4.2V、0.2C制限の定電流定電圧充電をした後、0.5Cの定電流で2.75Vまで放電した。そして、25℃放電時に対する-20℃放電時の容量維持率を計算した。本実施例の-20℃放電時の容量維持率は68.7%であった。
【0040】
<実施例2>
実施例1のカーボンブラックをBET比表面積が133m2/g、DBP吸収量が270ml/100gのカーボンブラック(デンカ社製、「Li-435」、表1中にアセチレンブラック-Bと記載)に変更し、その含有量を0.9質量%に変更し、カーボンナノチューブ分散液の分散質量を0.10質量%に変更し、ポリフッ化ビニリデン溶液の溶質量を1.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0041】
<実施例3>
実施例2の活物質を平均粒子径D50が10μmのコバルト酸リチウム(ユミコア社製、「KD-10」)に変更し、カーボンブラックの含有量を1.2質量%変更し、カーボンナノチューブを平均直径が15nm、BET比表面積が207m2/gのカーボンナノチューブのN-メチルピロリドン分散液(CNano社製、「LB100」、表1中にCNT-Bと記載)に変更し、その分散質量を0.3質量%に変更し、ポリフッ化ビニリデン溶液の溶質量を1.5質量%に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0042】
<実施例4>
実施例2の活物質を平均粒子径D50が5μmのコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、「セルシードC-5」)に変更し、カーボンブラックの含有量を1.8質量%に変更し、カーボンナノチューブ分散液の分散質量を0.2質量%に変更し、ポリフッ化ビニリデン溶液の溶質量を2.0質量%に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0043】
<比較例1>
実施例2のカーボンブラックの含有量を2.0質量%に変更し、カーボンナノチューブ分散液の分散質量を0質量%に変更し、ポリフッ化ビニリデン溶液の溶質量を2.0質量%に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0044】
<比較例2>
実施例2のカーボンブラックの含有量を0質量%に変更し、カーボンナノチューブ分散液の分散質量を2.0質量%に変更し、ポリフッ化ビニリデン溶液の溶質量を2.0質量%に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0045】
<比較例3>
実施例2のカーボンブラックの含有量を0.7質量%に変更し、カーボンナノチューブ分散液の分散質量を0.3質量%に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0046】
<比較例4>
実施例2のカーボンブラックを、BET比表面積が58m2/g、DBP吸収量が200ml/100gのカーボンブラック(デンカ社製、「Li-250」、表1中にアセチレンブラック-Cと記載)に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0047】
<比較例5>
実施例2のカーボンブラックを、BET比表面積が877m2/g、DBP吸収量が390ml/100gのカーボンブラック(ライオン社製、「ECP」、表1中にカーボンブラック-Aと記載)に変更し、その含有量を0.4質量%に変更し、カーボンナノチューブ分散液の分散質量を1.6質量%に変更し、ポリフッ化ビニリデン溶液の溶質量を2.0質量%に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0048】
<比較例6>
実施例2のカーボンブラックを、BET比表面積が877m2/g、DBP吸収量が390ml/100gのカーボンブラック(ライオン社製、「ECP」、表1中にカーボンブラック-Aと記載)に変更し、その含有量を0.9質量%に変更し、カーボンナノチューブ分散液の分散質量を0.1質量%に変更し、ポリフッ化ビニリデン溶液の溶質量を1.0質量%に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0049】
<比較例7>
実施例2のカーボンナノチューブを、平均直径が25nm、BET比表面積が100m2/gのカーボンナノチューブ(ワコーケミカル社製、表1中にCNT-Cと記載)に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0050】
<比較例8>
実施例2の活物質を平均粒子径D50が8μmのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.5Mn0.3Co0.22(Jiangxi Jiangte Lithium Battery Materials社製、「L532」)に変更し、カーボンブラックの含有量を1.8質量%に変更し、カーボンナノチューブ分散液の分散質量を0.2質量%に変更し、ポリフッ化ビニリデン溶液の溶質量を2.0質量%に変更した以外は、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池用正極組成物の分散液、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を作製し、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1の結果から、本発明のリチウムイオン二次電池用正極組成物を用いて作製したリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、内部抵抗が小さく、出力特性、サイクル特性、低温特性に優れることがわかった。
【符号の説明】
【0053】
1・・・正極
2・・・負極
3・・・正極アルミタブ
4・・・負極ニッケルタブ
5・・・ポリオレフィン製微多孔膜
図1