(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】懸濁重合用分散助剤及びビニル系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/20 20060101AFI20230825BHJP
C08F 218/08 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C08F2/20
C08F218/08
(21)【出願番号】P 2020541150
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033587
(87)【国際公開番号】W WO2020050106
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018165758
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 亘
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-042407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/20
C08F 218/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価(KOH mg/g)が5以上100未満であ
り、粘度平均重合度が100~570であるビニルエステル系重合体を含有するビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤。
【請求項2】
前記ビニルエステル系重合体が酢酸ビニル系重合体であるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤。
【請求項3】
前記ビニルエステル系重合体のケン化度が5モル%以下である請求項1
又は2に記載の懸濁重合用分散助剤。
【請求項4】
前記ビニルエステル系重合体を60質量%以上含有する請求項1~
3のいずれか一項に記載の懸濁重合用分散助剤。
【請求項5】
前記ビニルエステル系重合体の酸価(KOH mg/g)が10以上40未満である請求項1~4のいずれか一項に記載の懸濁重合用分散助剤。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の懸濁重合用分散助剤を用いて、ビニル系化合物単量体、又はビニル系化合物単量体とそれに共重合し得る単量体との混合物を水中に分散させて懸濁重合を行うことを含むビニル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁重合用分散助剤、とりわけビニル系化合物、特に塩化ビニルの懸濁重合に適した懸濁重合用分散助剤に関するものである。
【0002】
塩化ビニル系樹脂などのビニル系重合体の製造は工業的には水溶性媒体中で分散剤の存在下にビニル系化合物を分散させ、油溶性触媒を用いて、重合を行う懸濁重合法が広く実施されている。一般に該樹脂の品質を支配する要因としては、重合率、水-モノマー比、重合温度、重合開始剤の量や仕込み時期、重合槽の形式、撹拌速度あるいは分散剤の種類、量等が挙げられるが、この中でも分散剤の影響が大きいと言われている。
【0003】
ビニル系化合物の懸濁重合用分散剤に要求される性能としては、(1)少量の使用で懸濁重合安定性に顕著に優れ、得られるビニル系重合体粒子の粒径分布をできるだけシャープにする働きがあること、(2)可塑剤の重合体粒子への吸収速度を大きくして重合体の加工性を容易にし、重合体粒子中に残存する塩化ビニルなどのモノマーの除去を容易にし、かつ成形品中のフィッシュアイなどの生成を防止するために、多孔性にする働きがあること、(3)かさ比重の大きい重合体粒子を形成する働きがあること、(4)ハンドリング性が良いことなどが挙げられる。
【0004】
これらの性能(1)~(4)への要求レベルは日々高まってきている。特に上記(2)に記載のモノマー成分の除去性では環境の観点から残存モノマー量の規制が非常にハイレベルになっている。また、ポリ塩化ビニル重合終了後の乾燥工程で粒子中に残存する塩化ビニルモノマーが除去しづらい場合、残存モノマー除去のために、長時間または高温条件での乾燥が必要となるが、同時にポリ塩化ビニル樹脂の変質についても懸念される。また、上記(4)に記載のハンドリング性については、環境問題上、近年ではメタノール等の有機溶媒を使用することは好まれておらず、懸濁重合用分散剤が水性液の形態で使用できることへの要望がある。
【0005】
かかる懸濁重合用分散剤としては、主にポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVAと略記することがある)の主分散剤が用いられている。中でも、主分散剤としてケン化度65~99モル%のPVAが用いられ、また、ケン化度65モル%未満のPVAが分散助剤として多用されている。主分散剤は主に(1)や(3)の性能を、分散助剤は(2)の性能を期待して使用される。また、(4)の性能は使用する分散剤全てに要求される。
【0006】
かかる分散助剤としては、片末端にイオン性基をもつけん化度10~85モル%のポリビニルアルコール系重合体(特許文献1)や酢酸ビニルと不飽和カルボン酸とからなる重合体をケン化してなるポリビニルアルコール系重合体(特許文献2)、ケン化度が35モル%以上65モル%以下、末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有するビニルアルコール系重合体(特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-168128号公報
【文献】特開2013-203994号公報
【文献】国際公開第2015/019614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、近年高まった(1)~(4)の要求性能に対し、特許文献1~3に記載のPVAを用いた分散助剤を含め、これらの要求性能を十分満足させるビニル系化合物の分散助剤が存在するとは言いがたい。また、従来の分散助剤はビニルエステル系単量体を重合してビニルエステル系重合体を得た後、アルカリ等でケン化反応を行い製造する為、ケン化反応時に用いる溶剤が製品中に残存する懸念があることや、工程が長くコストがかかるという欠点があった。
【0009】
そこで、本発明は、ハンドリング性に優れる懸濁重合用分散助剤であって、該懸濁重合用分散助剤をビニル系化合物の懸濁重合に用いた場合に、粗大粒子の形成が少なく、可塑剤の吸収性が高いビニル系樹脂粒子が得られる懸濁重合用分散助剤を提供することを課題の一つとする。更に、本発明は、そのような懸濁重合用分散助剤を用いたビニル系樹脂の製造方法を提供することを別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸価(KOH mg/g)が5以上100未満であるビニルエステル系重合体をビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤として使用することが有効であることを見出した。
【0011】
従って、本発明は一側面において、酸価(KOH mg/g)が5以上100未満であるビニルエステル系重合体を含有する懸濁重合用分散助剤である。
【0012】
本発明に係る懸濁重合用分散助剤の一実施形態においては、前記ビニルエステル系重合体が酢酸ビニル系重合体である。
【0013】
本発明に係る懸濁重合用分散助剤の別の一実施形態においては、前記ビニルエステル系重合体の粘度平均重合度が100~1000である。
【0014】
本発明に係る懸濁重合用分散助剤の更に別の一実施形態においては、前記ビニルエステル系重合体のケン化度が5モル%以下である。
【0015】
本発明に係る懸濁重合用分散助剤の更に別の一実施形態においては、前記ビニルエステル系重合体を60質量%以上含有する。
【0016】
本発明に係る懸濁重合用分散助剤の更に別の一実施形態において、前記ビニルエステル系重合体の酸価(KOH mg/g)が10以上40未満である。
【0017】
本発明は別の一側面において、本発明に係る懸濁重合用分散助剤を用いて、ビニル系化合物単量体、又はビニル系化合物単量体とそれに共重合し得る単量体との混合物を水中に分散させて懸濁重合を行うことを含むビニル系樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、ハンドリング性に優れる懸濁重合用分散助剤であって、該懸濁重合用分散助剤をビニル系化合物の懸濁重合に用いた場合に、粗大粒子の形成が少なく、可塑剤の吸収性が高いビニル系樹脂粒子が製造できる懸濁重合用分散助剤が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散助剤が含有するビニルエステル系重合体は、水溶性および性能の観点から、酸価(KOH mg/g)が5以上100未満であることが重要である。酸価が5mg/g未満である場合、水溶性が不十分となり、ハンドリングの面から実用上問題である。したがって、酸価は5mg/g以上であることが必要であり、7mg/g以上であることが好ましく、10mg/g以上であることがより好ましい。また、酸価が100mg/g以上となると、分散系が不安定化し、得られるビニル系樹脂粒子の粗大粒子が生成する等、実用上問題となる。したがって酸価は100mg/g未満であることが必要であり、90mg/g未満であることが好ましく、80mg/g未満であることがより好ましく、70mg/g未満であることが更により好ましく、60mg/g未満であることが更により好ましく、50mg/g未満であることが更により好ましく、40mg/g未満であることがより好ましく、30mg/g未満であることがより好ましい。
【0021】
酸価は、JIS K0070:1992に準拠して測定される。すなわち、ビニルエステル系重合体の中和に必要な水酸化カリウムの量から求める。
【0022】
本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散助剤が含有するビニルエステル系重合体は、ケン化度が好ましくは5モル%以下であり、より好ましくは2モル%以下であり、更に好ましくは1モル%以下である。ケン化度を0モル%とすることもできる。ケン化度を小さくすることは、ケン化の工程の省略または短縮が行えるため経済的に有利であり、酸価を高めるのにも有利である。
【0023】
ビニルエステル系重合体のケン化度は、JIS-K6726:1994に従った方法にて測定される。すなわち、JIS-K8951:2006に規定されているN/10の硫酸とJIS-K8576:2019に規定されているN/10の水酸化ナトリウム溶液を用いた逆滴定から求められる。
【0024】
本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散助剤が含有するビニルエステル系重合体の製造方法は特に制限されないが、ビニルエステル系単量体をラジカル重合する際に、不飽和カルボン酸共存下で重合する方法が簡便である。
【0025】
本発明に用いる不飽和カルボン酸としては、例えばクロトン酸、イソクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。不飽和カルボン酸は一種を使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。ビニルエステルとの反応性比やハンドリングの容易さから、クロトン酸の使用が最も好ましい。
【0026】
ビニルエステル系単量体としては、限定的ではないが、酢酸ビニル、蟻酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等が挙げられる。ビニルエステル系単量体は一種を使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。入手の容易さやハンドリング、経済的な側面から、酢酸ビニルの使用が最も好ましい。
【0027】
懸濁重合用分散助剤が含有するビニルエステル系重合体の粘度平均重合度は、ビニル系化合物を懸濁重合する際の分散安定性や生産効率の観点から、100以上であることが好ましい。粘度平均重合度が100未満である場合、ビニル系化合物を懸濁重合する際に分散系が不安定になりやすく、得られるビニル系樹脂の粒度が粗大化しやすくなる。また、懸濁重合用分散助剤の軟化温度が低くなるため、乾燥工程でブロック化しやすくなり製造が困難になる。したがって、粘度平均重合度は100以上である事が好ましく、150以上であることが更により好ましく、200以上であることが更により好ましい。また、懸濁重合用分散助剤が含有するビニルエステル系重合体の粘度平均重合度は、水溶液粘度が高くなって取り扱いが困難になることの防止やビニル系化合物を懸濁重合した際に得られる粒子のポロシティを高めて可塑剤吸収性を高めるために、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、600以下であることが更により好ましい。
【0028】
粘度平均重合度は、JIS K6725:1977に準拠して測定される。すなわち、懸濁重合用分散助剤が含有するビニルエステル系重合体を30℃のアセトン中で測定した極限粘度[η]から求める。
【0029】
本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散助剤が含有するビニルエステル系重合体の重合法は特に制限はなく、重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。単量体は一括して仕込んでもよいし、分割して仕込んでもよく、あるいは連続的又は断続的に添加してもよい。また、溶液、乳化、懸濁、塊状重合等公知の重合方法が任意に用いられるが、重合後に溶剤が残らず、重合体が粒子で得られる方法が製品に溶剤を残さず、乾燥を行いやすい点から好適であり、懸濁重合法が好ましい。
【0030】
この際、本発明の効果を損なわない範囲でなら、他の単量体をさらに共重合させても良い。他の単量体としては、具体的には、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、マレイン酸ジアルキルエステル類、フマル酸ジアルキルエステル類、アルキルビニルエーテル類などが挙げられる。
【0031】
ビニルエステル系単量体をラジカル重合する際の重合開始剤は、特に限定するものではないが、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリルなどのアゾ化合物、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテートなどの過酸化物、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物、α-クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエートなどのパーエステル化合物などを単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0032】
また、共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の酸化分解に起因するアルデヒドが発生して縮合物が生成することで着色等が見られることがある。その場合には着色防止の目的で重合系にクエン酸のような酸化防止剤を1ppm以上100ppm以下(ビニルエステル系単量体の全質量に対して)程度添加してもよい。
【0033】
本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散助剤は、所望の性能を発揮するという観点から、酸価(KOH mg/g)が5以上100未満であるビニルエステル系重合体を60質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましく、90質量%以上含有することが更により好ましい。また、本発明の懸濁重合用分散助剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、各種添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類などの重合調整剤;フェノール化合物、イオウ化合物、N-オキサイド化合物などの重合禁止剤;pH調整剤;架橋剤;防腐剤;防黴剤、ブロッキング防止剤;消泡剤等が挙げられる。
【0034】
本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散助剤は、特にビニル系化合物の懸濁重合に好適に用いることができる。ビニル系化合物としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステル及び塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステル及び無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、本発明の懸濁重合用分散助剤は、特に好適には塩化ビニルを単独で、又は塩化ビニルを塩化ビニルと共重合することが可能な単量体と共に懸濁重合する際に用いられる。塩化ビニルと共重合することができる単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα-オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0035】
本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散助剤は、可塑剤吸収性の優れた塩化ビニル樹脂粒子を製造する点では軟質用塩化ビニル樹脂の製造に適しているが、脱モノマー性、粒度分布等に優れている点から硬質用塩化ビニル樹脂の製造にも適用できる。
【0036】
本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散助剤は、単独で使用できるが、他の安定剤、例えばセルロース系誘導体、界面活性剤等と併用することもできる。
【0037】
本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散助剤は可塑剤吸収量が多いことから、これを使用することにより、樹脂粒子が多孔性であり、フィッシュアイが少ない等物性の非常に優れた塩化ビニル樹脂が常に得られる。以下、ビニル系化合物の重合法について例を挙げ具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0038】
塩化ビニル樹脂粒子等のビニル系化合物の樹脂粒子を製造する場合には、一実施形態において、ビニル系化合物単量体100質量部に対し、上述の懸濁重合用分散助剤を0.01質量部~0.3質量部、好ましくは0.02質量部~0.10質量部添加する。また、ビニル系化合物と水の比は質量比でビニル系化合物:水=1:0.9~1:3とすることができ、好ましくはビニル系化合物:水=1:1~1:1.5である。
【0039】
重合開始剤は、ビニル系化合物の重合に従来使用されているものでよく、これにはジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート等のパーエステル化合物、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、更には過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を単独又は組み合わせて使用することができる。
【0040】
更に、ビニル系化合物の重合に適宜使用される重合調整剤、連鎖移動剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤、PH調整剤等を添加することも任意である。
【0041】
ビニル系化合物の重合を実施するに当たっての各成分の仕込み割合、重合温度等はビニル系化合物の懸濁重合で従来採用されている条件に準じて定めればよく、特に限定する理由は存在しない。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。
尚、以下特に断りがない限り、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0043】
(実施例1)
〈懸濁重合用分散助剤の製造〉酢酸ビニル97部、水180部、分散剤のポリビニルアルコール(デンカ株式会社製W-20N)0.3部、連鎖移動剤のノルマルブチルアルデヒド(nBA)1.6部、クロトン酸3部及びアゾビスイソブチロニトリル0.9部を重合缶に仕込み、加熱して60℃で重合せしめ、7時間重合した。重合終了時点における重合率を下記に示す方法で測定した。次いで常法により未重合の酢酸ビニルを除去し、得られたビニルエステル系重合体を40℃で流動乾燥して懸濁重合用分散助剤Aを得た。この実施例では添加剤を添加しておらず、ビニルエステル系重合体自体が懸濁重合用分散助剤Aを構成する。得られた懸濁重合用分散助剤Aについて、以下に示す方法で粘度平均重合度、ケン化度、酸価及び水溶性を評価し、評価結果を表1に示した。
【0044】
[重合率]
重合率は、ビニルエステルモノマー及びビニルエステル系重合体粒子が水中で均一に分散している状態で少量サンプリングし、そのサンプリングした溶液を150℃で30分乾燥させ、重量法から求めた。
【0045】
[粘度平均重合度]
JIS K6725:1977に準拠して、得られた懸濁重合用分散助剤Aを30℃のアセトン中で測定した極限粘度[η]から求めた。
【0046】
[ケン化度]
JIS-K6726:1994に準拠して、得られた懸濁重合用分散助剤Aのケン化度を求めた。
【0047】
[酸価]
JIS K0070:1992に準拠して、得られた懸濁重合用分散助剤Aの中和に必要な水酸化カリウムの量から求めた。
【0048】
[水溶性]
水90部に対し懸濁重合用分散助剤A10部を加えた後、pHを7.5~8.5になるよう炭酸ナトリウムを加えて室温で4時間撹拌したのち、撹拌を止め、沈殿の有無を目視で確認し、以下の基準に従って評価した。
○:均一な溶液又は分散液となっており、沈殿が生じていない。
×:沈殿が生じている。
【0049】
〈塩化ビニルの懸濁重合〉攪拌器を備えた容量30Lのステンレス製オートクレーブ中に攪拌下30℃の水14kg、主分散剤としてケン化度80モル%のポリビニルアルコール(デンカ株式会社製W-20N)12gと、上述で得られた懸濁重合用分散助剤Aを2g、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシネオデカノエートを4.6g、α-クミルパーオキシネオデカノエートを1g仕込んだ。オートクレーブを真空で脱気した後、塩化ビニル単量体を10kg加え、57℃で4時間重合した。
【0050】
〈塩化ビニル樹脂の評価〉得られた塩化ビニル樹脂について、以下に示す方法で平均粒径、粒度分布、可塑剤吸収量、及びかさ比重について評価し、評価結果を表1に示した。
【0051】
[平均粒径、粒度分布]
JIS Z8815:1994に準拠して、60メッシュ(目開き250μm)、80メッシュ(目開き180μm)、100メッシュ(目開き150μm)、150メッシュ(目開き106μm)、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて得られた塩化ビニル樹脂を分粒し、累積頻度50%の粒子径(D50)を平均粒径、累積頻度80%の粒子径(D80)と累積頻度20%の粒子径(D20)の差を粒度分布とした。
【0052】
[可塑剤吸収量]
ISO 4608:1998(E)に準拠して測定した。
【0053】
[かさ比重]
JIS K6720-2:1999に準拠して測定した。
【0054】
【0055】
(実施例2~3)
ノルマルブチルアルデヒド添加量及びクロトン酸添加量を表1に記載の条件に変えた以外は実施例1と同様にして、懸濁重合用分散助剤B及びCを得た。次いで、得られた懸濁重合用分散助剤B及びCを使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施した。懸濁重合用分散助剤B及びC及びこれを用いて得られた塩化ビニル樹脂の評価結果を表1に示す。
【0056】
(実施例4)
酢酸ビニル97部、水180部、分散剤のポリビニルアルコール(デンカ株式会社製W-20N)0.3部、連鎖移動剤のノルマルブチルアルデヒド(nBA)1.4部、及びアゾビスイソブチロニトリル0.9部を重合缶に仕込み、加熱して60℃になった後、イタコン酸を総添加量が1.0部になるように6時間連続添加しながら重合せしめ、更に1時間重合した。重合終了時点における重合率を表1に示す。次いで常法により未重合の酢酸ビニルを除去し、得られたビニルエステル系重合体を40℃で流動乾燥して懸濁重合用分散助剤Dを得た。この実施例では添加剤を添加しておらず、ビニルエステル系重合体自体が懸濁重合用分散助剤Dを構成する。得られた懸濁重合用分散助剤Dについて、実施例1と同じ方法で粘度平均重合度、ケン化度、酸価及び水溶性を評価し、評価結果を表1に示した。
【0057】
(比較例1)
懸濁重合用分散助剤を使用しなかった以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施した。塩化ビニル樹脂の評価結果を表1に示す。
【0058】
(比較例2)
クロトン酸添加量を表1に記載の条件に変えた以外は実施例1と同様にして、懸濁重合用分散助剤Eを得た。得られた懸濁重合用分散助剤Eは水溶性を示さなかった。次いで、得られた懸濁重合用分散助剤Eを使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施した。懸濁重合用分散助剤E及びこれを用いて得られた塩化ビニル樹脂の評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例3)
ノルマルブチルアルデヒド添加量及びクロトン酸添加量を表1に記載の条件に変えた以外は実施例1と同様にして、懸濁重合用分散助剤Fを得た。得られた懸濁重合用分散助剤Fは水溶性を示した。次いで、得られた懸濁重合用分散助剤Fを使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施したが、塩化ビニルがオートクレーブ中でブロック化し、塩化ビニル粒子は得られなかった。懸濁重合用分散助剤Fの評価結果を表1に示す。
【0060】
(比較例4)
酢酸ビニル100部と、メタノール150部(溶媒兼連鎖移動剤)と、アゾビスイソブチロニトリル(1%メタノール溶液として)0.03部とを、重合缶に仕込み、窒素雰囲気下、60℃で8時間重合を行った。重合終了時点における重合率を表1に示す。次いで常法により未重合の酢酸ビニルを除去し、ビニルエステル系重合体の溶媒を乾燥で除いて懸濁重合用分散助剤Gを得た。この比較例では添加剤を添加しておらず、ビニルエステル系重合体自体が懸濁重合用分散助剤Gを構成する。得られた懸濁重合用分散助剤Gは水溶性を示さなかった。次いで、得られた懸濁重合用分散助剤Gを使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施した。懸濁重合用分散助剤G及びこれを用いて得られた塩化ビニル樹脂の評価結果を表1に示す。
【0061】
(比較例5)
酢酸ビニル100部と、メタノール22.5部(溶媒兼連鎖移動剤)と、連鎖移動剤の3-MPA(3-メルカプトプロピオン酸)0.23部とアゾビスイソブチロニトリル(1%メタノール溶液として)0.03部とを、重合缶に仕込んで窒素雰囲気に置換した。加熱し60℃となった時点から10%のメルカプトプロピオン酸メタノール溶液1.81部を6時間で全て入りきるよう一定に連続添加しながら6時間重合を行った。重合終了時点における重合率を表1に示す。次いで常法により未重合の酢酸ビニルを除去し、ビニルエステル系重合体の溶媒を乾燥で除いて変性ビニルエステル系重合体を得た。得られた変性ビニルエステル系重合体をメタノールに溶解し、メタノール中の重合体の濃度が35%のメタノール溶液を得た。これを水酸化ナトリウムにて35℃で90分間ケン化した。水酸化ナトリウムの使用量は得られた変性ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して7ミリモル当量とした。ろ過、乾燥することで懸濁重合用分散助剤Hを得た。この比較例では添加剤を添加しておらず、ビニルエステル系重合体自体が懸濁重合用分散助剤Hを構成する。得られた懸濁重合用分散助剤HはJIS K6726:1994に準拠して測定されたケン化度が43モル%であった。得られた懸濁重合用分散助剤Hを使用した以外は実施例1と同様の条件で塩化ビニルの懸濁重合を実施した。懸濁重合用分散助剤H及びこれを用いて得られた塩化ビニル樹脂の評価結果を表1に示す。
【0062】
表1に示した結果から、本発明の懸濁重合用分散助剤は、水溶性であるためハンドリング性に優れ、これを用いて懸濁重合して得られたビニル系樹脂は可塑剤吸収性が高く、かつ粗大粒子の形成が少ないものになることが分かる。なお、比較例5では酸価が低いにもかかわらず水溶性であった理由は、ケン化をして水酸基が導入されたためである。