IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プロビオドルグ エージーの特許一覧

<>
  • 特許-ヒト化脱免疫化抗体 図1
  • 特許-ヒト化脱免疫化抗体 図2A
  • 特許-ヒト化脱免疫化抗体 図2B
  • 特許-ヒト化脱免疫化抗体 図3
  • 特許-ヒト化脱免疫化抗体 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】ヒト化脱免疫化抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20230825BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230825BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230825BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230825BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230825BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230825BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230825BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230825BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
A61K39/395 N
A61K45/00
A61P25/28
A61P25/00
A61P43/00 121
C12P21/08
C12N15/13
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020541707
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2019052100
(87)【国際公開番号】W WO2019149689
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】18154427.1
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505403119
【氏名又は名称】ビボリョン セラピューティクス エヌブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス‐ウルリッチ ラフフェルド
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ギリース
(72)【発明者】
【氏名】トレ ヘットマン
(72)【発明者】
【氏名】ステファン スチルリング
(72)【発明者】
【氏名】マーティン クレインシュミット
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/009459(WO,A2)
【文献】特表2011-528561(JP,A)
【文献】国際公開第2018/005282(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体であって、前記抗体の軽鎖の可変部分が、
【化1】
のアミノ酸配列を含む、又は該アミノ酸配列からなり、
且つ
前記抗体の重鎖の可変部分が、
【化2】
のアミノ酸配列を含む、又は該アミノ酸配列からなる、前記抗体。
【請求項2】
前記軽鎖中に、CDR領域:
【化3】
を含む、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
前記重鎖中に、CDR領域:
【化4】
を含む、請求項1記載の抗体。
【請求項4】
前記軽鎖が、
【化5】
のアミノ酸配列を含む、又は該アミノ酸配列からなる、請求項1~3のいずれか1項記載の抗体。
【請求項5】
前記重鎖が、
【化6】
のアミノ酸配列を含む、又は該アミノ酸配列からなる、請求項1~4のいずれか1項記載の抗体。
【請求項6】
前記重鎖が、
【化7】
のアミノ酸配列を含む、又は該アミノ酸配列からなる、請求項1~5のいずれか1項記載の抗体。
【請求項7】
記抗体が、Aβ N3pEエピトープのピログルタミン酸保有N末端に特異的に結合する、請求項1~6のいずれか1項記載の抗体。
【請求項8】
記抗体が、
【化8】
からなる群から選択されるエピトープに特異的に結合する、請求項1~7のいずれか1項記載の抗体。
【請求項9】
記抗体が、Aβ N3pEバリアントに結合し、ここでは該Aβ N3pEバリアントは、pE-Aβ3-Xと定義され、ここではxは、19から42までの整数と定義される、請求項1~6のいずれか1項記載の抗体。
【請求項10】
前記Aβ N3pEバリアントが、
pE-Aβ3-38
pE-Aβ3-40
pE-Aβ3-42
から選択される、請求項9記載の抗体。
【請求項11】
前記抗体が、N末端にピログルタミン酸を保有しないエピトープには結合しない、請求項1~10のいずれか1項記載の抗体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項記載の抗体を含む医薬組成物。
【請求項13】
さらなる生物活性物質及び/又は医薬として許容し得る担体及び/又は希釈剤及び/又は賦形剤をさらに含む、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記さらなる生物活性物質が、中性子透過増強剤、精神治療薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、カルシウムチャネル遮断薬、生体アミン、ベンゾジアゼピントランキライザー、アセチルコリン合成、貯蔵又は放出増強剤、アセチルコリンシナプス後受容体アゴニスト、モノアミンオキシダーゼA又はB阻害剤、N-メチル-D-アスパラギン酸型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、非ステロイド性抗炎症薬、抗酸化剤、及びセロトニン受容体アンタゴニストから選択される、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記さらなる生物活性物質が、酸化ストレスに対して有効な化合物、抗アポトーシス化合物、金属キレート剤、ピレンゼピン及び代謝産物などのDNA修復の阻害剤、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸(3APS)、1,3-プロパンジスルホネート(1,3PDS)、α-セクレターゼ活性化剤、β-及びγ-セクレターゼ阻害剤、タウタンパク質、神経伝達物質、βシートブレーカー、アミロイドβを排除/枯渇させる細胞成分の誘引物質、ピログルタミン酸化されたアミロイドβ3-42を含めたN末端が切断されたアミロイドβの阻害剤(グルタミニルシクラーゼの阻害剤など)、抗炎症性分子、又はコリンエステラーゼ阻害剤(ChEI)(タクリン、リバスチグミン、ドネペジル、及び/又はガランタミンなど)、Mlアゴニスト、並びにあらゆるアミロイド又はタウ修飾薬及び栄養補助剤を含めた他の薬物、コリンエステラーゼ阻害剤(ChEI)、メマンチン、又はグルタミニルシクラーゼ阻害剤からなる群から選択される、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
アミロイドーシスの診断、治療に使用するための、請求項1~15のいずれか1項記載の抗体又は医薬組成物。
【請求項17】
軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症からなる群から選択される神経変性疾患の治療;及び/又は前駆期AD、軽度AD、中等度AD、及び重度ADから選択される状態の治療、及び/又は臨床期又は前臨床期のアルツハイマー病、ダウン症候群、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症から選択される状態と診断された患者における認知低下を遅らせることに使用するための、請求項1~16のいずれか1項記載の抗体又は医薬組成物。
【請求項18】
前記抗体又は前記医薬組成物の投与が、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、並びに臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症、及び/又は前駆期AD、軽度AD、中等度AD、及び重度ADから選択される状態と診断された対象における、認知低下の逆行、認知の改善、又は認知低下の予防をもたらす;又は
前記抗体又は前記医薬組成物の投与が、斑又は他の生物学的複合体からのAβ N3pEのクリアランス又は除去をもたらす;又は
前記抗体又は前記医薬組成物の投与が、脳組織などの罹患組織からの斑負荷の減少及び/又は完全体の斑の除去をもたらす、
請求項16又は17記載の使用のための抗体又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ピログルタミン酸化されたアミロイドβ(Aβ N3pE)ペプチドのN末端のエピトープに結合するヒト化且つ脱免疫化された抗体に、並びに、アミロイドペプチドの蓄積及び沈着に関連しているアミロイドーシスなどの疾患及び状態、アルツハイマー病、ダウン症候群、脳アミロイド血管症のようなピログルタミン酸化されたアミロイドペプチドに関連した一群の障害及び異常、及び他の関連する状況の予防的及び治療的処置に関する。より具体的には、本発明は、脳内の及び末梢における様々な組織内のAβ N3pEの蓄積を防止する又は沈着を逆行させるための、またアミロイドーシスを軽減するための、血漿、脳、及び脳脊髄液中のピログルタミン酸化されたアミロイドβペプチドと結合する本発明のモノクローナル抗体の使用に関連する。本発明はさらに、本発明の抗体を使用するアミロイドーシスの診断のための、診断アッセイに関連する。
【背景技術】
【0002】
(背景技術)
アミロイドーシスは、単独の疾患実体ではなく、むしろ1以上の器官又は体組織に蓄積するアミロイドと称されるろう状のデンプン様タンパク質の細胞外組織沈着物によって特徴付けられる多様な進行性疾患過程の群である。アミロイド沈着物は、蓄積するにつれて、器官又は体組織の正常な機能を妨害し始める。少なくとも15種の異なるタイプのアミロイドーシスが存在する。主な形態は、既知の前駆症状のない原発性アミロイドーシス、何らかの他の状態に続く続発性アミロイドーシス、及び遺伝性アミロイドーシスである。
【0003】
続発性アミロイドーシスは、結核、家族性地中海熱と呼ばれる細菌感染症、骨感染症(骨髄炎)、関節リウマチ、小腸の炎症(肉芽腫性回腸炎)、ホジキン病、及びハンセン病などの、慢性感染症又は炎症性疾患の間に発生する。
【0004】
アミロイド沈着物は、アミロイドP(五角形)成分(AP)、すなわち通常の血清アミロイドP(SAP)に関連する糖タンパク質、及び硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)、すなわち結合組織の複合糖質を含む。アミロイド物質の約90%を占めるアミロイドタンパク質原線維は、いくつかの異なるタイプのタンパク質のうちの1つを含む。これらのタンパク質は、いわゆる「β-プリーツ」シート原線維、すなわちアミロイドタンパク質の特有の染色特性をもたらすコンゴーレッドの結合部位を呈する特有のタンパク質立体形状へのフォールディングが可能である。
【0005】
多くの加齢に伴う疾患は、アミロイド様タンパク質に基づく又はアミロイド様タンパク質と関連し、一つには、発病、並びに疾患の進行の一因となるアミロイド又はアミロイド様物質の細胞外沈着物の堆積によって特徴付けられる。これらの疾患としては、限定はされないが、神経障害、例えば、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、レビー小体型認知症、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型);グアムのパーキンソン・認知症複合(Guam Parkinson-Dementia complex)が挙げられる。アミロイド様タンパク質に基づく又はアミロイド様タンパク質と関連する他の疾患は、進行性核上性麻痺、多発性硬化症;クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、HIV関連認知症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、成人発症型糖尿病;老人性心アミロイドーシス;内分泌腫瘍、及び黄斑変性症を含めたその他のものである。
【0006】
これらの疾患の病因は多様であり得るが、その特徴的沈着物は、多くの共通の分子構成成分を含有することが多い。これは、活性化された補体成分、急性期反応物質、免疫修飾因子、及び他の炎症メディエーターの同時沈着がそれによってもたらされる炎症促進性経路の局所的活性化に、かなりの程度起因する可能性がある(McGeerらの文献、Tohoku J Exp Med. 174(3):269-277(1994))。
【0007】
最近、累積的証拠により、アルツハイマー病におけるN末端修飾されたAβペプチドバリアントの関与が立証されている。狙い撃ち生検(aiming biopsy)により、アルツハイマー患者の脳だけではなく、罹患していない個人の老人斑でもAβ1-40及びAβ1-42の存在が示されている。しかし、N末端切断型及びpyroGlu修飾型のAβ N3pE-40/Aβ N3pE-42は、アルツハイマー病患者の斑内にほぼ限定的に染み付いていることから、このAβバリアントが、適格な診断マーカー及び潜在的な創薬標的となっている。
【0008】
現在、いくつかの商業的製造業者が、低ピコグラム(pg)範囲内のAβ1-40/1-42及びAβ N3pE-40/Aβ N3pE-42の検出を可能にするELISAキットを提供している。
【0009】
アルツハイマー病(AD)患者の脳は、神経原線維変化の存在によって、及び新皮質脳構造におけるAβペプチドの沈着によって形態学的に特徴付けられる(Selkoe, D.J.及びSchenk, D.の文献、「アルツハイマー病:分子的理解は、アミロイドに基づく治療法を予測する(Alzheimer's disease: molecular understanding predicts amyloid-based therapeutics.)」、Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 43, 545-584(2003))。Aβペプチドは、β-及びγ-セクレターゼによる連続的切断後に、アミロイド前駆体タンパク質(APP)から遊離される。γ-セクレターゼ切断は、そのC末端が異なり、凝集、原線維形成、及び神経毒性の異なる潜在能力を呈する、Aβ1-40ペプチドとAβ1-42ペプチドの産生をもたらす(Shin, R. W.らの文献、「アミロイドβ-タンパク質(Aβ)1-40は、ラット脳内のアルツハイマー病アミロイド原線維の実験的形成に寄与するが、Aβ1-42は寄与しない(Amyloid beta-protein (Abeta) 1-40 but not Abeta 1-42 contributes to the experimental formation of Alzheimer disease amyloid fibrils in rat brain.)」、J. Neurosci. 17, 8187-8193(1997);Iwatsubo, T.らの文献、「末端特異的Aβモノクローナルを用いた老人斑のAβ42(43)及びAβ40の可視化:最初に沈着する種がAβ42(43)である証拠(Visualization of Abeta 42 (43) and Abeta 40 in senile plaques with end-specific Abeta monoclonals: evidence that an initially deposited species is Abeta 42(43).)」、Neuron 13, 45-53(1994);Iwatsubo, T., Mann, D.M., Odaka, A., Suzuki, N.、及びIhara, Y.の文献、「アミロイドβタンパク質(Aβ)沈着:ダウン症候群ではAβ42(43)はAβ40よりも前に現れる(Amyloid beta protein (Abeta) deposition: Abeta 42(43) precedes Abeta 40 in Down syndrome.)」、Ann. Neurol. 37, 294-299(1995);Hardy, J.A.及びHiggins, G.A.の文献、「アルツハイマー病:アミロイドカスケード仮説(Alzheimer's disease: the amyloid cascade hypothesis.)」、Science 256, 184-185(1992);Rossner, S., Ueberham, U., Schliebs, R., Perez-Polo, J.R.、及びBigl, V.の文献、「コリン作動性機構及び神経栄養因子受容体シグナル伝達によるアミロイド前駆体タンパク質代謝の調節(The regulation of amyloid precursor protein metabolism by cholinergic mechanisms and neurotrophin receptor signaling.)」、Prog. Neurobiol. 56, 541-569(1998))。
【0010】
びまん性老人斑に沈着したAβペプチドの大部分は、N末端が切断又は修飾されている。Piccini及びSaidoの研究は、老人斑及び血管沈着物のコア構造が50%のピログルタミン酸(pyroGlu)修飾ペプチドからなることを示している(Picciniらの文献、J Biol Chem. 2005 Oct 7;280(40):34186-92;Saidoらの文献、Neuron. 1995 Feb; 14(2): 457-66)。pyroGlu修飾ペプチドは、他のAβ種よりも細胞毒性が強く、アミノペプチダーゼに対して安定である(Russoらの文献、J Neurochem. 2002 Sep;82(6):1480-9)。したがって、pyroGlu Aβ種は、半減期がより長く、それにより、この種の蓄積、並びに神経毒性のオリゴマー及び凝集体の形成が有利となる(Saidoの文献, Neurobiol Aging. 1998 Jan-Feb;19(1 Suppl):S69-75)。グルタミン酸からpyroGluへの環化により、荷電アミノ酸が失われ、それによってペプチドの溶解度が強く低下し、凝集傾向の増大が生じることとなる。インビトロ研究により、例えばAβ3(pE)の初期のオリゴマー化は、非修飾ペプチドと比較してはるかに速いことが示されている(Schillingらの文献、Biochemistry. 2006 Oct 17;45(41):12393-9)。Aβ N3pE-42ペプチドは、Aβ1-40/1-42ペプチドと共存し(Saido, T.C.らの文献、「老人斑中の特徴的なβアミロイドペプチド種Aβ N3pEの優勢且つ差次的な沈着(Dominant and differential deposition of distinct beta-amyloid peptide species, Abeta N3pE, in senile plaques)」、Neuron 14, 457-466 (1995);Saido, T.C., Yamao, H., Iwatsubo, T. 及びKawashima, S.の文献、「ヒト脳内に沈着したβ-アミロイドペプチドのアミノ-及びカルボキシル-末端の不均一性(Amino- and carboxyl-terminal heterogeneity of beta-amyloid peptides deposited in human brain)」、Neurosci. Lett. 215, 173-176 (1996))、また、いくつかの知見に基づくと、ADの発症機序において顕著な役割を果たす可能性がある。例えば、Aβ N3pE-42ペプチドの特定の神経毒性は概説されており(Russo, C.らの文献、「培養されたニューロン及び星状膠細胞の生存に強力に影響を及ぼすピログルタミン酸修飾されたアミロイドβ-ペプチド--AβN3(pE)--(Pyroglutamate-modified amyloid beta-peptides--AbetaN3(pE)--strongly affect cultured neuron and astrocyte survival)」、J. Neurochem. 82, 1480-1489 (2002))、また、N-切断型AβペプチドのpE修飾は、大抵のアミノペプチダーゼ並びにAβ分解性エンドペプチダーゼによる分解に対する抵抗性を与える(Russo, C.らの文献、「培養されたニューロン及び星状膠細胞の生存に強力に影響を及ぼすピログルタミン酸修飾されたアミロイドβ-ペプチド--AβN3(pE)--」、J. Neurochem. 82, 1480-1489 (2002);Saido, T.C.の文献、「タンパク質分解性障害としてのアルツハイマー病:β-アミロイドの同化作用及び異化作用(Alzheimer's disease as proteolytic disorders: anabolism and catabolism of beta-amyloid)」、Neurobiol. Aging 19, S69-S75 (1998))。グルタミン酸のpEへの環化は、N末端電荷の喪失につながり、修飾されていないAβペプチドと比較して、Aβ N3pEの凝集の加速がもたらされる(He, W.及びBarrow, C.J.の文献、「老人斑に認められるAβ3-ピログルタミル及び11-ピログルタミルペプチドは、インビトロで完全長Aβよりも大きいβ-シート形成及び凝集傾向を有する(The Abeta 3-pyroglutamyl and 11-pyroglutamyl peptides found in senile plaque have greater beta-sheet forming and aggregation propensities in vitro than full-length A beta)」、Biochemistry 38, 10871-10877 (1999);Schilling, S.らの文献、「pGlu-アミロイドペプチドのシーディング及びオリゴマー化(インビトロ)(On the seeding and oligomerization of pGlu-amyloid peptides (in vitro))」、Biochemistry 45, 12393-12399 (2006))。したがって、Aβ N3pE-42形成の減少は、このペプチドをより分解されやすくすることによって不安定化されるはずであり、ひいては、より高い分子量のAβ凝集体の形成を防止し、ニューロンの生存を増強するであろう。
【0011】
しかし、長い間、AβペプチドのpE-修飾が発生する様式は不明であった。最近、グルタミニルシクラーゼ(QC)が弱酸性条件下でAβ N3pE-42形成を触媒可能であること、また、特定のQC阻害剤がインビトロでAβ N3pE-42産生を妨げることが発見された(Schilling, S., Hoffmann, T., Manhart, S., Hoffmann, M.、及びDemuth, H.-U.の文献、「グルタミニルシクラーゼは弱酸性条件下でグルタミルシクラーゼ活性を進展させる(Glutaminyl cyclases unfold glutamyl cyclase activity under mild acid conditions)」、FEBS Lett. 563, 191-196 (2004);Cynis, H.らの文献、「グルタミニルシクラーゼの阻害は哺乳類細胞におけるピログルタミン酸形成を変化させる(Inhibition of glutaminyl cyclase alters pyroglutamate formation in mammalian cells)」、Biochim. Biophys. Acta 1764, 1618-1625 (2006))。
【0012】
あらゆる事実により、pyroGlu Aβが原線維形成の初期設定のある種の芽生えであることが示唆されている。さらなる研究(Picciniらの文献、2005、前掲)では、斑沈着を有するがAD特異的な病変を有しない志願者を、Aβ種の特徴的な量により、AD患者と区別することができた。それに関して、N末端切断型のpyroGlu修飾ペプチドの量は、AD患者の脳において、有意に多かった。
【0013】
Aβ-ペプチドの3又は11位でのpyroGluの翻訳後形成は、N末端グルタミン酸残基の環化を示唆する。グルタミニルシクラーゼ(QC)は、pyroGluペプチドの産生において重要な役割を果たす。QCは、植物及び動物界に広く見られ、とりわけ、ペプチドホルモンの成熟に関与する。アンモニアの遊離によるグルタミンのpyroGluへの環化と、水の遊離によるグルタミン酸のpyroGluへの環化はどちらも、QCによって行なわれる。グルタミン環化とは対照的に、グルタミン酸環化は、自然には起こらない。QCは、グルタミン酸からpyroGluへの効率的な(望ましくない)副反応を触媒する。産生されたpyroGlu残基は、タンパク質をタンパク質分解から保護する。QCがpyroGlu Aβの産生において重要な役割を果たすことを示す、いくつかの参考文献が存在する:
1. いくつかの研究では、QCが、AβのN末端でのグルタミン酸からのpyroGlu残基の形成を触媒することが示された(Cynisらの文献、Biochim Biophys Acta. 2006 Oct;1764(10):1618-25、Schillingらの文献、FEBS Lett. 2004 Apr 9;563(1-3):191-6);
2. AβペプチドとQCはどちらも、海馬及び皮質において大量に発現される。これらの脳領域は、特に、ADのリスクが高い(Pohlらの文献、Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 Nov 15;88(22):10059-63、Selkoeの文献、Physiol Rev. 2001 Apr;81(2):741-66);
3. APPは、形質膜への輸送中にβ-セクレターゼによって切断され、それによって、遊離のグルタミン酸残基を有するAβのN末端を生じることができる(Greenfieldらの文献、Proc Natl Acad Sci U S A. 1999 Jan 19;96(2):742-7)。分泌小胞では、プロセシングされたAPPとQCの共局在が明らかにされた。したがって、小胞の弱酸環境では、グルタミン酸残基からピログルタミン酸への修飾の加速が起こり得る。
4. また、他の神経変性疾患(家族性デンマーク型認知症(FDD)又は家族性イギリス型認知症(FBD))は、N末端pyroGlu修飾ペプチド、例えばBri2と関連しているが、これらは、一方で、その一次構造の点では、Aβと関連していない(Vidal R.らの文献、1999 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97, 4920-4925)。
【0014】
QCによって触媒されるpyroGlu Aβ形成は、神経変性疾患の発症及び進行に関与する可能性がある。N末端修飾されたアミロイドペプチドの形成は、確実に、Aβ凝集の過程における根本的要因に相当し、疾患の始まりである可能性がある。QCの阻害によるpyroGlu Aβ形成の抑制は、治療手法を代表するものとなり得る。QC阻害剤は、pyroGlu Aβの形成を防止し、脳内のピログルタミン酸Aβの濃度を低下させ、従って、Aβ-ペプチドのオリゴマー化を遅延させることができるであろう。Schillingらは、QC発現がAD患者の皮質において上方調節され、pyroGlu修飾Aβ-ペプチドの出現と相関していたことを示している。QC阻害剤の経口適用は、ADの2つの異なるトランスジェニックマウスモデルにおいて、及び新しいショウジョウバエ(Drosophila)モデルにおいて、ピログルタミン酸修飾AβpE(3-42)レベルの低下をもたらした(Schillingらの文献、2008 Biol. Chem.(389), 983-991)。
【0015】
レビー小体型認知症(LBD)は、65歳を超える人に起こる可能性があり、且つ典型的には認知(思考)障害の症状及び異常な行動変化を引き起こす、神経変性障害である。症状としては、認知障害、神経学的徴候、睡眠障害、及び自律神経不全を挙げることができる。認知障害は、大抵の症例において、LBDの主兆候である。患者は、次第に悪化する錯乱のエピソードに繰り返し見舞われる。認知能力の変動は、多くの場合、注意力及び敏捷性の程度の変化を伴う。認知障害、及び思考の変動は、数分間、数時間、又は数日間にわたって変化する可能性がある。レビー小体は、リン酸化された及びリン酸化されていないニューロフィラメントタンパク質から形成され;これらは、シナプスタンパク質α-シヌクレイン、及び損傷又は異常タンパク質の排除に関与するユビキチンを含有する。レビー小体に加えて、神経細胞の細胞突起における封入体であるレビー神経突起も存在する可能性がある。アミロイド斑は、DLBに悩む患者の脳において形成される可能性があるが、アルツハイマー病を有する患者において見られるよりも数が少ない傾向にある。ADの他の顕微病理学的特徴である神経原線維変化は、LBDの主要な特徴ではないが、アミロイド斑に加えて、高頻度で存在する。
【0016】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位及び下位運動ニューロンの変性を特徴とする。一部のALS患者では、認知症又は失語症が存在する可能性がある(ALS-D)。認知症は、最も一般的には、前頭側頭型認知症(FTD)であり、これらの症例の多くは、歯状回、並びに前頭葉及び側頭葉の表層のニューロンに、ユビキチン陽性、タウ陰性の封入体を有する。
【0017】
封入体筋炎(IBM)は、通常50歳を超える人々に見られる、手足が不自由になる疾患であり、この疾患では、筋繊維が炎症を起こし、萎縮し始めるが、脳は影響を免れ、患者はその完全な知力を保持している。アミロイドβタンパク質の産生に関与する2種の酵素が、この最も一般的な高齢者の進行性筋疾患を有する患者の筋細胞の内部で増加し、ここではアミロイドβも増加していることが判明している。
【0018】
アミロイド様タンパク質の蓄積及び沈着に基づく又はそれと関連する別の疾患は、黄斑変性症である。黄斑変性症は、網膜(光感受性細胞が視覚シグナルを脳に送る、眼底の紙のように薄い組織)の中心領域である黄斑の変質を引き起こす、一般的な眼疾患である。鮮明な明瞭な「直進性の」視覚が、黄斑によって加工される。黄斑の損傷は、盲点の発生及びぼやけた又は歪んだ視覚をもたらす。加齢性黄斑変性症(AMD)は、米国における視力障害の主な原因であり、コーカソイド間では65歳を超える人々にとって、法的盲の主因である。40歳以上のおよそ180万人の米国人が進行期のAMDを有し、中間期のAMDを有する別の730万人は、視力喪失のリスクがかなりある。米国政府は、2020年までに、進行期のAMDを有する人が290万人になる推定している。AMDの犠牲者は、この盲目状態の原因及び治療についていかに何も分かっていないかということに気付いて、しばしば驚き、失望する。
【0019】
2つの形態の黄斑変性症:萎縮型(dry)黄斑変性症及び滲出型(wet)黄斑変性症が存在する。黄斑の細胞がゆっくりと崩壊し始める萎縮型は、黄斑変性症症例の85%において診断される。通常、両目が萎縮型AMDに罹患するが、一方の目が視力を失う一方で、もう一方の目は罹患しないままであることもある。網膜の下の黄色い沈着物であるドルーゼンは、萎縮型AMDの一般的な初期徴候である。ドルーゼンの数又はサイズが増大するにつれて、進行期の萎縮型AMD又は滲出型AMDが発症するリスクは増大する。萎縮型AMDが、この疾患の滲出型に変わらずに、進行して視力の喪失を引き起こす可能性があるが;初期の萎縮型AMDが滲出型に突然変化する可能性もある。
【0020】
滲出型は、症例のわずか15パーセントを占めるに過ぎないが、失明の90パーセントをもたらし、進行期のAMDと考えられる(滲出型AMDの初期段階又は中間段階は存在しない)。滲出型AMDの前には、この疾患の萎縮型が必ず生じる。萎縮型が悪化するにつれて、黄斑の裏側に異常な血管成長を有し始める患者もいる。これらの血管は、非常に脆く、体液及び血液を漏出することとなり(それ故に「滲出型」黄斑変性症)、黄斑への急速な損傷を引き起こす。
【0021】
萎縮型のAMDは、多くの場合、最初にわずかに視界がぼやけることとなる。その後、特に視覚中心がぼやけ始める可能性があり、この領域は、疾患が進行するにつれて大きくなる。片方の目のみが罹患している場合には、症状に気付かないこともある。滲出型AMDでは、直線が波状に見える可能性があり、中心視力喪失は、急速に起こり得る。
【0022】
黄斑変性症の診断は、典型的には、散瞳検査、視力検査、及び、AMDの診断を助けるための眼底検査と呼ばれる手順を使用する眼底の観察を伴い、滲出型AMDが疑われる場合には、蛍光眼底血管造影を実施することもできる。萎縮型AMDが進行段階に達している場合には、今のところ、視力喪失を予防するための現在の治療は存在しない。しかし、特定の高用量処方の抗酸化剤及び亜鉛は、中間期のAMDが発展期から進行期に進むのを遅延させる又は予防することができる。Macugen(登録商標)(ペガプタニブナトリウム注射)、レーザー光凝固術、及び光線力学的療法は、黄斑における異常な血管成長及び出血を制御することができ、滲出型AMDを有する一部の人々には有益であるが;既に喪失した視力がこれらの技術によって回復することはない。視力を既に喪失している場合には、生活の質を向上させるのを助けることができる視覚補助具が存在する。
【0023】
加齢性黄斑変性症(AMD)の最も初期の徴候の1つは、網膜色素上皮(RPE)の基底膜とブルッフ膜(BM)との間の、ドルーゼンとして公知である細胞外沈着物の蓄積である。Andersonらによって行われた最近の研究は、ドルーゼンがアミロイドβを含有することを確認している(Experimental Eye Research 78(2004) 243-256)。
【0024】
ピログルタミン酸化されたAβペプチドは、アルツハイマー病におけるAβペプチドの蓄積及び斑形成において重要な役割を果たすことが示されている。その疎水能に起因して、これらのペプチドは、凝集及び斑形成を促進することが示されている。このペプチドは、ニューロンにおいてAβ N3pE-42を発現しているトランスジェニックマウスモデルでは、インビボで神経毒性であり、ニューロンの喪失をもたらすことがさらに示されている(Wirthsらの文献、(2009) Acta Neuropatho/118, 487-496)。
【0025】
AβペプチドのN末端ピログルタミン酸に対する特異性を有する抗体は、N末端ピログルタミン酸を伴わないAPP又は他のAβ種を検出しない、N末端にピログルタミン酸を保有するAβの病因種のみに対するその特異性により、有利であると考えられる。したがって、制御できない脳炎などの潜在的副作用のリスクは、本発明の抗体の使用によって、ピログルタミン酸化されたバリアントである他のAβ種に対する抗体と比較して低下することとなると考えられる。
【0026】
Aβ N3pEペプチドを標的にする抗体は、公知である(Aceroらの文献、(2009) J Neuroimmunol 213, 39-46;Saidoらの文献、(1996) Neuron 14, 457-466;米国特許第7,122,374号及びWO 2012/136552)。
【0027】
しかし、ヒト治療において使用することができ、且つアミロイドーシスに、特に、Aβ N3pEが関与する可能性がある疾患及び状態、例えば臨床期又は前臨床期のアルツハイマー病、ダウン症候群、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症などの認知に良い影響を与える、Aβ N3pEペプチドに対する特異性を有するヒト化且つ脱免疫化された抗体の必要性が存在する。
【0028】
本発明の抗体の親抗体は、WO 2017/009459中で配列番号:14として開示されているアミノ酸配列:
【化1】
を有する軽鎖可変領域を有し;
且つ
WO 2017/009459中で配列番号:27として開示されているアミノ酸配列:
【化2】
を有する重鎖可変領域を有する、
WO 2017/009459に開示されているクローン#6バリアントである。
【0029】
しかし、WO 2017/009459に開示されているクローン#6バリアントを用いて、CMC製造を確立することは可能ではなかった。特に、いくつかの試みにもかかわらず、CHO-DG44細胞では安定な細胞クローンは樹立できず、このクローン#6バリアントの弱い一過性発現(不十分な抗体量をもたらす)のみが認められ、CMC製造の必要条件としての安定発現は確立できなかった。
【発明の概要】
【0030】
(発明の概要)
したがって、従来技術の抗体の欠点を克服するための向上した特性を有するヒト化且つ脱免疫化された抗体を提供することが、本発明の目的であった。
【0031】
本発明は、概して、凝集物、線維、微細線維の形状の、もしくは斑の凝縮形状の、単量体、二量体、三量体など、又は多量体型の抗体に対して提示され得る広範なβ-アミロイド抗原、特にAβ N3pEペプチド由来の特定のエピトープを特異的に認識して結合する能力を有する、高度に特異的且つ高度に有効な抗体(部分的又は完全にヒト化された抗体及びその断片を含めたキメラ抗体及びその断片が含まれる)を含む、新規の方法及び組成物を提供する。
【0032】
本発明の目的は、具体的には、抗体又はその機能的バリアントであって、前記抗体の軽鎖の可変部分が、
【化3】
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなり、
且つ
前記抗体の重鎖の可変部分が、
【化4】
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる、前記抗体又はその機能的バリアントによって解決される。
【0033】
重鎖(配列番号:2)の可変部分は、WO 2017/009459に開示されている親抗体と比較してK12V、S14P、及びN55D位置での3つの変異を含有する。
【0034】
驚いたことに、これらの3つの点変異の導入が、高収量でのCMC製造を可能にするヒト化且つ脱免疫化された抗体をもたらすことが判明した。これらの3つの点変異を含む本発明の抗体を伴う、CHO-DG44細胞における抗体産生細胞株を樹立することが可能であった。さらに、抗体の好都合な結合特性を維持しながら、親抗体と比較してK12V、S14P、及びN55D変異を含む、より高い収量の本発明の抗体をもたらす、CHO-DG44における向上された一過性発現を確立することが可能であった。最後に、CMC生成を可能にする、高い発現レベルを有する、K12V、S14P、及びN55D変異を含む本発明の抗体を用いて、安定発現を確立することができた。
【0035】
本発明は、Aβ N3pEが関与する可能性があるアミロイドーシスの疾患及び状態に良い影響を与える、ヒト化且つ脱免疫化された抗体又はその断片を提供する。
【0036】
別の実施態様では、本発明は、循環及び組織内、特に脳内のAβ N3pEペプチドに結合する抗体及びその断片を提供する。本発明の抗体は、遊離のAβ N3pEペプチド分子、さらには結合型のAβ N3pEペプチドに結合することが可能である。
【0037】
したがって、本発明はさらに、脳などの中枢神経系、及び血漿などの循環内の可溶型及び結合型のAβ N3pEペプチドのクリアランスを変化させる抗体を提供する。
【0038】
さらなる実施態様では、本発明は、Aβ N3pEのピログルタミン酸保有N末端に特異的に結合する抗体及びその断片を提供する。
【0039】
さらなる実施態様では、本発明は、Aβペプチドのオリゴマー及び/又は原線維に対する選択性の増大を示す抗体、及びその断片を提供する。本発明の抗体は、Aβ(1-42)のオリゴマー及び/又は原線維に対する結合について、従来技術において公知の匹敵するモノクローナル抗体よりも、特にWO 2017/009459に開示されている親抗体と比較して、何倍も、例えば10倍、25倍、50倍、100倍、150倍、200倍、250倍低い、又は250倍以上低い結合定数(KD値)を示す。したがって、Aβ N3pEペプチドに選択的に結合することが確立された本発明の抗体は、Aβ N3pEペプチドに対して、より特異的であり、且つAβ N3pE以外のAβペプチドに対する低下された交差反応性を示す。
【0040】
いっそうさらなる実施態様では、本発明はまた、ベクターで形質転換された、又は本発明の抗体又はその断片を発現する核酸分子を組み込んだ宿主細胞に関する。
【0041】
さらに、本発明は、本発明の抗体及びその断片を含む医薬組成物を提供する。
【0042】
本発明はさらに、ヒトにおけるAβ N3pEに結合して排除又は除去するのに、また、それによってアミロイドーシス又はAβ N3pE毒性を特徴とする疾患及び状態を診断、予防、及び治療するのに有用である、本発明の抗体及びその断片の使用に関する。
【0043】
特定の実施態様では、体液及び組織中のAβ N3pEペプチドに結合して排除又は除去することが可能である本発明の抗体は、脳内のびまん性の斑、神経突起斑、及び脳血管斑などのAβ N3pE含有斑の形成に関連した状態の予防及び/又は治療に有用である。
【0044】
免疫反応性のその断片を含めた本発明の抗体の投与は、前述の斑又は他の生物学的複合体からのAβ N3pEのクリアランス又は除去をもたらすことができる。したがって、本発明の抗体は、循環、他の体液中で、及び前述の斑及び/又は他の生物学的複合体が形成される又は他のどこかAβ N3pEが損傷作用を呈する部位に、容易に輸送されることとなる。
【0045】
さらに、斑又は他の生物学的複合体からの本発明の抗体によるAβ N3pEの除去は、不溶性形態の斑の可溶化をもたらし、したがって、脳組織などの罹患組織からの完全体の斑の除去をもたらすことができる。これは、ひいては、神経変性疾患、例えば、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)、又はその他のもののような)、ダウン症候群における神経変性、レビー小体型認知症、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型);グアムのパーキンソン・認知症複合と診断された患者における認知の改善をもたらすことができる。特に、本発明は、前駆期AD、軽度AD、中等度AD、及び重度ADから選択される状態の治療に使用するための本発明の抗体を提供する。別の実施態様では、本発明は、臨床期又は前臨床期のアルツハイマー病、ダウン症候群、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症から選択される状態と診断された患者における認知低下を遅らせるのに使用するための本発明の抗体を提供する。
【0046】
本発明の抗体の循環又は他の体液中のAβ N3pEに対する結合は、さらに、循環又は可溶形態のAβ N3pEの除去をもたらすことができる。先に論じた通り、Aβ N3pEは、高い疎水性を呈し、他のもの、例えばピログルタミン酸化されていないAβペプチドに対する高い親和性を有し、これによって、アミロイド斑などのオリゴマー及び超分子構造の形成がもたらされる。特にこれらのオリゴマー構造は、高度に神経毒性であることが示されている。オリゴマー構造の形成は、神経細胞の細胞損傷及び死滅をもたらす。したがって、循環又は可溶形態のAβ N3pEの除去、さらにはAβ N3pEを含むオリゴマーの除去は、細胞損傷及び/又は神経毒性の予防をもたらす。したがって、本発明はまた、神経変性疾患、例えば、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)、又はその他のもののような)、ダウン症候群における神経変性、レビー小体型認知症、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型);グアムのパーキンソン・認知症複合の予防の方法も提供する。特に、本発明は、前駆期AD、軽度AD、中等度AD、及び重度ADから選択される状態の治療の方法を提供する。別の実施態様では、本発明は、臨床期又は前臨床期のアルツハイマー病、ダウン症候群、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症から選択される状態と診断された患者における認知低下を遅らせる方法を提供する。
【0047】
本発明はさらに、アミロイド様タンパク質、特にAβ N3pEに基づく又はそれと関連する他の疾患、例えば、進行性核上性麻痺、多発性硬化症、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、HIV関連認知症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、成人発症型糖尿病に関連する認知症;老人性心アミロイドーシス、及び黄斑変性症を含めた他のものの予防及び/又は治療の方法を提供する。
【0048】
本発明はさらに、生物学的試料、例えば、液体試料又は血清試料、好ましくは血清試料、又は組織試料中のAβバリアント、特にAβ N3pEの定量的測定を可能にする、高度に感受性が高い且つ同時に確固たる検出技術を提供する。血液中のこれらのAβ N3pEペプチドの存在量が低いことを考慮すると、これは、驚異的な挑戦である。しかし、こうした利用可能な検出技術を得ることは、薬物スクリーニング及び創薬プログラムにおける小分子阻害剤の有効性を研究するための必要条件である。
【0049】
本発明の教示によって可能となる抗体は、限定はされないが、ほんの数例を挙げると、神経障害、例えば、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症、ダウン症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型)、グアムのパーキンソン・認知症複合、並びにアミロイド様タンパク質に基づく又はそれと関連する他の疾患、例えば、進行性核上性麻痺、多発性硬化症;クロイツフェルト・ヤコブ病、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血・オランダ型、パーキンソン病、HIV関連認知症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、成人発症型糖尿病に関連する認知症;老人性心アミロイドーシス、及び黄斑変性症を含めた他のものを含めた、続発性アミロイドーシス及び加齢性アミロイドーシスを含めた、アミロイドーシス、すなわちアミロイド斑形成に関連した一群の疾患及び障害の診断に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
(図面の説明)
図1】本発明の抗体の個々のバリアントの、重鎖内の点変異の一過性発現(A)及び標的結合(B)に対する影響を示す図である。試験されたすべての抗体は、配列番号.1の軽鎖の可変部分と、重鎖内のK324A変異を含有する。Ab 1:親配列:配列番号:49と比較して、重鎖の可変部分内の2つの変異K12V及びS14Pを含有する;Ab 2:親配列:配列番号:49と比較して、重鎖の可変部分内の変異N55Dを含有する;Ab 3:いずれの変異も伴わない重鎖の可変部分の親配列:配列番号:49に相当する。
図2】本発明の抗体の個々のバリアントの、重鎖内の点変異の一過性発現(A)及び標的結合(B)に対する影響を示す図である。試験されたすべての抗体は、配列番号.1の軽鎖の可変部分と、重鎖内のK324A変異を含有する。Ab 1:親配列:配列番号:49と比較して、重鎖の可変部分内の2つの変異K12V及びS14Pを含有する;Ab 2:親配列:配列番号:49と比較して、重鎖の可変部分内の変異N55Dを含有する;Ab 3:親配列:配列番号:49と比較して、重鎖の可変部分内の3つの変異K12V、S14P、及びN55Dを含有する。
図3】96ウェルプレートから選び取ったコロニーから24ウェルプレートのウェルに播種した7、10、及び13日後の、配列番号:1の軽鎖の可変部分と配列番号:2の重鎖の可変部分を有する抗体を発現するCHO-DG44クローンを示す図である。
図4】MTX曝露を通じた遺伝子増幅後のCHO-DG44発現力価(第7日)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
(発明の詳細な説明)
(定義)
用語「抗体」は、最も広範な意味で使用され、具体的には、それが所望の生物活性を呈する限り、無傷のモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの無傷の抗体から形成された多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を包含する。抗体は、例えば、IgM、IgG(例えばIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4)、IgD、IgA、又はIgEであり得る。しかし、好ましくは、抗体はIgM抗体ではない。
【0052】
「抗体断片」は、無傷の抗体の一部分、一般に、無傷の抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、及びFv断片:二重特異性抗体;単鎖抗体分子;並びに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0053】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体をいう、すなわち、その集団を構成している個々の抗体は、微量で存在し得る天然に生じる潜在的な突然変異以外は同一である。モノクローナル抗体は、単一の抗原性部位に対するものであり、高度に特異的である。さらに、様々な決定基(エピトープ)に対する様々な抗体が典型的には含まれる「ポリクローナル抗体」調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。モノクローナル抗体は、その特異性に加えて、他の免疫グロブリンが夾雑しないハイブリドーマ培養によって合成される点で、しばしば有利であり得る。「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体の集団から得られるものとしての抗体の性質を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されることとなるモノクローナル抗体は、Kohlerらの文献(Nature, 256:495 (1975))によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製することもできるし、一般に周知である組換えDNA法によって作製することもできる。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clacksonらの文献(Nature, 352:624-628 (1991))及びMarksらの文献(J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991))に記載された技術を使用して、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0054】
本明細書のモノクローナル抗体には、具体的には、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が、特定の種に由来する又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同であるが、これらの鎖(1又は複数)の残部は、別の種に由来する又は別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同である、キメラ抗体(免疫グロブリン)、並びに所望の生物学的活性を呈する限りはこうした抗体の断片が含まれる。
【0055】
「ヒト化」型の非ヒト(例えば、マウス)抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有する、免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、又はその断片(Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、又は抗体の他の抗原結合性部分配列など)である。ヒト化抗体は、ほとんどの場合、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望される特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、又はウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置き換えられている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にも、移入されたCDR又はフレームワーク配列中にも見られない残基を含むことができる。
【0056】
これらの修飾は、抗体能力をさらに改善及び最適化するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むこととなり、ここでは、CDR領域のすべて又は実質的にすべては、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、且つFR領域のすべて又は実質的にすべては、ヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分も含むこととなる。さらなる詳細については、Jonesらの文献, Nature, 321:522-525(1986)、Reichmannらの文献, Nature, 332:323-329(1988):及びPrestaの文献, Curr. Op. Struct. Biel., 2:593-596(1992)を参照されたい。
【0057】
「脱免疫化」には、「ヒト化」に加えて、T細胞エピトープを除去することなどの他の変更が含まれる。
【0058】
本明細書で及び添付の特許請求の範囲中で使用される用語「治療有効量」は、投与される抗体の量が、意図される目的、例えば、この場合、少なくとも、循環又は可溶形態のピログルタミン酸化されたアミロイドβ(Aβ N3pE)ペプチド及びそのバリアントの除去、好ましくは、斑又は他の生物学的複合体からのAb N3pEペプチドのクリアランス又は除去、又は、より好ましくは、脳組織などの罹患組織からの斑負荷の減少及び/又は完全体の斑の除去を実現するのに十分な量のものであることを意味する。
【0059】
「単鎖Fv」又は「sFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、ここでは、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在する。一般に、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含み、このリンカーによって、sFvが、抗原結合のための望ましい構造を形成することが可能となる。sFvの総説については、Pluckthunの文献、「モノクローナル抗体の薬理学(The Pharmacology of Monoclonal Antibodies)」, 第113巻, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, 269-315頁(1994)を参照されたい。
【0060】
用語「二重特異性抗体」とは、その断片が、同じポリペプチド鎖内の軽鎖可変ドメイン(VD)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む、2つの抗原結合部位を有する小型の抗体断片(VH-VD)をいう。同じ鎖上の2つのドメインを対合させるには短すぎるリンカーを使用することによって、これらのドメインが、別の鎖の相補ドメインと対合し、2つの抗原結合部位を形成するようにさせる。二重特異性抗体は、Hollingerらの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)に、より十分に記載されている。
【0061】
「単離された」抗体は、同定され、且つその天然の環境の構成要素から分離及び/又は回収されているものである。その天然の環境の夾雑成分は、その抗体の診断的又は治療的使用を妨げる物質であり、これには、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質が含まれ得る。好ましい実施態様では、抗体は、(1)Lowry法によって決定された場合に抗体の95重量%を上回るまで、最も好ましくは99重量%を上回るまで、(2)スピニングカップ配列決定装置(spinning cup sequenator)の使用によって、N末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、又は(3)クーマシーブルー、もしくは好ましくは銀染色を使用する還元もしくは非還元条件下でのSDS-PAGEによる均質まで、精製されることとなる。単離された抗体には、組換え細胞内のインサイチューの抗体が含まれる。なぜなら、抗体の天然環境の少なくとも1つの構成要素が存在しないこととなるからである。しかし、通常、単離された抗体は、少なくとも1つの精製ステップによって調製されることとなる。
【0062】
本明細書で使用する場合、表現「細胞」、「細胞株」、及び「細胞培養物」は、互換的に使用され、すべてのこうした呼称には、後代が含まれる。したがって、語句「形質転換体」及び「形質転換された細胞」には、植え継ぎの数とは関係なく、初代の対象細胞及びそこから派生した培養物が含まれる。すべての後代は、意図的又は偶発性の変異が原因で、DNA含有量が厳密には同一でない可能性があることも理解されよう。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされたのと同じ機能又は生物学的活性を有する、変異体の後代が含まれる。異なる呼称が意図される場合、これは文脈から明からになるであろう。
【0063】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、本明細書で使用する場合、互換性があり、且つ、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸で構成される生体分子を意味すると定義される。
【0064】
ペプチド又はアミノ酸配列が、本明細書で言及される場合、各アミノ酸残基は、次の慣例的なリストに従って、アミノ酸の慣用名に対応する1文字又は3文字呼称によって表される:
【表1】
【0065】
本明細書で使用される用語「a」、「an」、及び「the」は、「1以上」を意味するものと定義され、文脈が不適切でない限りは、複数が含まれる。
【0066】
「アミロイドもしくはアミロイド様タンパク質によって引き起こされる又はそれと関連する疾患及び障害」という言葉には、限定はされないが、単量体、原線維、もしくは多量体の状態、又はこれら3つの任意の組み合わせのアミロイド様タンパク質の存在又は活性によって引き起こされる疾患及び障害が含まれる。こうした疾患及び障害としては、限定はされないが、アミロイドーシス、内分泌腫瘍、及び黄斑変性症が挙げられる。
【0067】
用語「アミロイドーシス」とは、限定はされないが、神経障害、例えば、アルツハイマー病(AD)(例えば軽度認知障害(MCI)などの、認知記憶能力の喪失を特徴とする疾患又は状態が含まれる)、孤発性アルツハイマー病、レビー小体型認知症、ダウン症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型);グアムのパーキンソン・認知症複合、家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性のアルツハイマー病;並びにアミロイド様タンパク質に基づく又はそれと関連する他の疾患、例えば、進行性核上性麻痺、多発性硬化症;クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、HIV関連認知症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、封入体筋炎(IBM)、成人発症型糖尿病、及び老人性心アミロイドーシス;及び黄斑変性症を含めた様々な眼疾患、ドルーゼン関連の視神経症、及びβ-アミロイド沈着に起因する白内障を含めた疾患などの、限定はされないが、続発性アミロイドーシス及び加齢性アミロイドーシスを含めた、アミロイド斑形成に関連した一群の疾患及び障害をいう。
【0068】
「アミロイドβ、Aβ、又はβ-アミロイド」は、当技術分野で認識されている用語であり、アミロイドβタンパク質及びペプチド、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)、並びにその修飾物、断片、及び任意の機能的等価物をいう。特に、本明細書で使用されるアミロイドβは、APPのタンパク分解性の切断によって生じる任意の断片を意味するが、とりわけ、限定はされないがAβ1-38、Aβ1-40、Aβ1-42を含めた、アミロイド病変に関与又は関連する断片を意味する。これらのAβペプチドのアミノ酸配列は、次の通りである:
【化5】
【0069】
「pGlu-Aβ」又は「Aβ N3pE」は、Aβのアミノ酸配列中の3位のグルタミン酸残基から開始し、且つ前記グルタミン酸残基が環化されてピログルタミン酸化残基を形成する、N末端切断型のAβをいう。特に、本明細書で使用されるpGlu-Aβ又はAβ N3pEは、限定はされないがpGlu-Aβ3-38、pGlu-Aβ3-40、p-Glu-Aβ3-42を含めた、アミロイド病変に関与又は関連する断片を意味する。
【0070】
N末端切断型のAβ、すなわちAβ3-38、Aβ3-40、Aβ3-42の配列は、次の通りである:
【化6】
【0071】
本発明は、N末端のアミノ酸番号1及び2が切断される又は喪失されることによってN-末端が切断され、それにより露出したN末端アミノ酸番号3がピログルタミン酸形成によって修飾され、したがってN末端の第3位にピログルタミン酸 残基を保有する、ヒトAβペプチド(さらに、Aβ N3pEペプチド又はN3pE-Aβペプチド又はピログルタミン酸化されたAβペプチドと称される)に特異的な抗体に関する。
【0072】
第1の態様では、本発明は、抗体であって、前記抗体の軽鎖の可変部分が、アミノ酸配列:
【化7】
を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなり
前記抗体の重鎖の可変部分が、アミノ酸配列:
【化8】
を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる、前記抗体に関する。
【0073】
本発明の好ましい実施態様では、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる抗体の軽鎖の可変部分を有する前記抗体は、軽鎖中に、以下のCDR領域:
【化9】
を含む。
【0074】
本発明のさらなる好ましい実施態様では、配列番号:2のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる抗体の重鎖の可変部分を有する前記抗体は、重鎖中に、以下のCDR領域:
【化10】
を含む。
【0075】
本発明は、本発明の抗体の軽鎖及び重鎖をさらに提供する。
【0076】
好ましい実施態様では、本発明の抗体は、軽鎖を有し、ここでは、軽鎖は、
【化11】
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる。
【0077】
さらなる好ましい実施態様では、本発明の抗体は、重鎖を有し、ここでは、重鎖は、
【化12】
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる。
【0078】
C1q、並びに2つのセリンプロテアーゼC1r及びC1sは、補体依存性細胞傷害(CDC)経路の第1の構成成分である複合体C1を形成する。C1qは、およそ460,000の分子量と、6つの膠原質の「茎」が6つの球状の頭部領域に接続されたチューリップの花束に例えられる構造を持つ、六価分子である(Burton及びWoofの文献, Advances in Immunol 51:1-84; 1992)。IgG1分子のC1qに対する結合は、補体活性化を開始し、続いて、補体介在性の細胞溶解をもたらす。本発明の抗体は、炎症疾患及び状態の治療に使用されるものとなる、すなわち本発明の抗体は、抗炎症特性を有するものとなる。
【0079】
本発明の抗体のエフェクター機能はまた、抗体のFc領域と、造血細胞上の特化された細胞表面受容体であるFc受容体(FcR)との相互作用によって媒介され得る。Fc受容体は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属しており、免疫複合体の食作用による抗体によって被覆された病原体の除去と、対応する抗体で被覆された赤血球及び様々な他の細胞標的(例えば腫瘍細胞)の溶解との両方を、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)を介して媒介することが示されている(Van de Winkel及びAndersonの文献, J. Leuk. Bioi. 49:511-24; 1991)。
【0080】
したがって、本発明は、そのエフェクター機能を果たすために、Fc受容体にそれでもなお結合する抗体をさらに提供する。しかし、本発明の抗体は、補体依存性細胞傷害を示さないことが好ましい。より好ましくは、本発明の抗体は、補体系を活性化するのではなく、むしろ補体介在性の細胞溶解を阻害する。
【0081】
したがって、好ましい実施態様では、本発明の抗体は、1つ以上のアミノ酸置換、好ましくは3つ又は2つのアミノ酸の置換、最も好ましくは1つのアミノ酸の置換を含む、ヒトIgG Fc領域を有する。アミノ酸置換は、本発明の抗体のヒトIgG1 Fc領域の部位特異的変異誘発などの、従来の方法によって達成することができる。
【0082】
より好ましい実施態様では、本発明の抗体は、配列番号:18に示した通りの第324位のアミノ酸置換を含む、ヒトIgG Fc領域を有する[EUナンバリングスキームによれば、第324位は、第322位に相当する。Kabatらの文献、免疫学的に興味深いタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest), 5th Ed., US Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)、Bethesda, MD (1991 );Edelmanらの文献、PNAS USA 63:78-85 (1969)]。アミノ酸置換は、好ましくはK324Aである。
【0083】
最も好ましい実施態様では、本発明の抗体は、アミノ酸配列:
【化13】
を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる重鎖を有する。
【0084】
さらに本発明によれば、軽鎖及び重鎖の可変部分並びに軽鎖及び重鎖の、以下の組み合わせを含む、又は本質的に該組み合わせからなる、又は該組み合わせからなる抗体が好ましい:
A)軽鎖可変部分:配列番号:1
重鎖可変部分:配列番号:2
軽鎖:配列番号:17
重鎖:配列番号:19
B)軽鎖可変部分:配列番号:1
重鎖可変部分:配列番号:2
軽鎖:配列番号:17
重鎖:配列番号:18
【0085】
B)による抗体が、最も好ましい。その重鎖は、K324Aアミノ酸交換を含有する。
【0086】
本発明による好ましい抗体は、ハイブリドーマ細胞株Aβ 6-1-6(寄託番号DSM ACC 2924)によって産生されるヒト化型のモノクローナルマウス抗体であり、これらは、WO 2010/009987に記載されている。
【0087】
本発明の抗体の軽鎖及び重鎖の配列は、変動し得る。これらの免疫グロブリンは、2対の軽鎖/重鎖複合体を有することができ、少なくとも1本の鎖は、ヒトフレームワーク領域セグメントに機能的に連結された1以上のマウス相補性決定領域(CDR)を含む。
【0088】
好ましい実施態様では、本発明の抗体は、各軽鎖のアミノ酸配列が配列番号:17であり、且つ各重鎖のアミノ酸配列が配列番号:18又は配列番号:19である、2本の軽鎖と2本の重鎖を含む。
【0089】
より好ましくは、本発明の抗体は、各軽鎖のアミノ酸配列が配列番号:17であり、且つ各重鎖のアミノ酸配列が配列番号:19である、2本の軽鎖と2本の重鎖を含む。
【0090】
最も好ましくは、本発明の抗体は、各軽鎖のアミノ酸配列が配列番号:17であり、且つ各重鎖のアミノ酸配列が配列番号:18である、2本の軽鎖と2本の重鎖を含む。
【0091】
別の実施態様では、本発明は、本明細書に記述した重鎖及び軽鎖CDRを含む、本発明の抗体をコードしている組換え型の核酸分子を対象とする。
【0092】
本発明の抗体のヒトフレームワーク領域は、CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域又は可変領域アミノ酸配列と、ヒト免疫グロブリン可変領域を含む配列コレクション中の対応する配列との比較によって決定される。同一のアミノ酸の割合が高い配列が選択される。
【0093】
本発明の好ましい実施態様では、配列番号:1によるアミノ酸配列を有する軽鎖の可変部分は、
【化14】
の核酸配列を含む、又は本質的に該核酸配列からなる、又は該核酸配列からなる核酸分子によってコードされる。
【0094】
本発明のさらなる好ましい実施態様では、配列番号:2によるアミノ酸配列を有する重鎖の可変部分は、
【化15】
の核酸配列を含む、又は本質的に該核酸配列からなる、又は該核酸配列からなる核酸分子によってコードされる。
【0095】
本発明のさらなる好ましい実施態様では、本発明の抗体の軽鎖のCDR領域は、核酸配列:
【化16】
を有する核酸分子によってコードされる。
【0096】
本発明のさらなる好ましい実施態様では、本発明の抗体の重鎖のCDR領域は、核酸配列:
【化17】
を有する核酸分子によってコードされる。
【0097】
本発明のさらなる好ましい実施態様では、軽鎖は、
【化18】
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる核酸分子によってコードされる。
【0098】
本発明のさらなる好ましい実施態様では、重鎖は、
【化19】
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる核酸分子によってコードされる。
【0099】
本発明のさらなる好ましい実施態様では、重鎖は、
【化20】
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる核酸分子によってコードされる。
【0100】
さらに本発明によれば、
C)軽鎖可変部分:配列番号:9
重鎖可変部分:配列番号:10
軽鎖:配列番号:20
重鎖:配列番号:22
D)軽鎖可変部分:配列番号:9
重鎖可変部分:配列番号:10
軽鎖:配列番号:20
重鎖:配列番号:21
を含む、又は本質的にこれらからなる、又はこれらからなる核酸分子の組み合わせによってコードされる抗体が好ましい。
【0101】
組み合わせD)が、重鎖内のK324Aアミノ酸交換を含有するヒト化且つ脱免疫化された抗体をコードするので、最も好ましい。
【0102】
前述の核酸分子は、当技術分野で周知の発現ベクターに組み込むことができる。適切な宿主におけるこれらの発現ベクターの遺伝子導入、宿主の選択、並びに軽鎖、重鎖、軽/重鎖二量体もしくはインタクトな抗体、結合断片、又は他の免疫グロブリン型の発現コレクション及び精製は、当技術分野における周知の手法である。
【0103】
当業者は、例えば、哺乳類細胞又は細菌細胞などの特定の細胞におけるベクターの生成のために、所望される性質に基づいてベクターを選択することができる。
【0104】
本発明の抗体又は調節され得る核酸の発現のために、様々な誘導性プロモーター又はエンハンサーのいずれかを、ベクター内に含めることができる。こうした誘導システムには、例えば、テトラサイクリン誘導システム(Gossen及びBizardの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992);Gossenらの文献、Science, 268:17664769 (1995);Clontech社, Palo Alto, Calif.);重金属によって誘導されるメタロチオネインプロモーター;エクジソンに反応性の昆虫ステロイドホルモン、又はムリステロンなどの関連するステロイド(Noらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996);Yaoらの文献、Nature, 366:476-479 (1993);Invitrogen社, Carlsbad, Calif.);糖質コルチコイド及びエストロゲンなどのステロイドによって誘導されるマウス乳癌ウイルス(MMTV)(Leeらの文献、Nature, 294:228-232 (1981));並びに温度変化によって誘導されるヒートショックプロモーター;ラットニューロン特異性エノラーゼ遺伝子プロモーター(Forss-Petterらの文献、Neuron 5; 197-197 (1990));ヒトβ-アクチン遺伝子プロモーター(Rayらの文献、Genes and Development (1991) 5:2265-2273);ヒト血小板由来増殖因子B(PDGF-B)鎖遺伝子プロモーター(Sasaharaらの文献、Cell (1991) 64:217-227);ラットナトリウムチャネル遺伝子プロモーター(Maueらの文献、Neuron (1990) 4:223-231);ヒト銅-亜鉛スーパオキシドジスムターゼ遺伝子プロモーター(Ceballos-Picotらの文献、Brain Res. (1991) 552:198-214);並びに哺乳類POUドメイン調節遺伝子ファミリーのメンバーに対するプロモーター(Xiらの文献、(1989) Nature 340:35-42)が含まれる。
【0105】
プロモーター又はエンハンサーを含めた調節エレメントは、調節の性質に応じて、恒常的であり得る又は調節され得る。調節配列又は調節エレメントは、核酸分子配列と調節配列との間の物理的及び機能的関係によって核酸分子配列の転写が可能となるように、本発明の核酸分子配列の1つに作動可能に連結される。真核細胞における発現に有用なベクターは、例えば、CAGプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)ステロイド誘導性プロモーター、Pgtf、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)プロモーター、thy-1プロモーターなどを含めた調節エレメントを含むことができる。
【0106】
所望される場合、ベクターは、選択マーカーを含有することができる。本明細書で使用する場合、「選択マーカー」とは、選択マーカーが導入されている細胞に、選択可能な表現型を提供する遺伝因子をいう。選択マーカーは一般に、その遺伝子産物が細胞成長を阻害する又は細胞を死滅させる物質に対する抵抗性を提供する遺伝子である。例えばAusubelらの文献(「分子生物学最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」(補遺47)、John Wiley & Sons社, New York(1999))及び米国特許第5,981,830号に記載されている通りの、例えばNeo、Hyg、hisD、Gpt、及びBle遺伝子を含めた様々な選択マーカーを、本発明のDNA構築物に使用することができる。選択マーカーの存在についての選択に有用な薬物には、例えば、NeoのためのG418、Hygのためのヒグロマイシン、hisDのためのヒスチジノール、Gptのためのキサンチン、及びBleのためのブレオマイシンが含まれる(Ausubelらの文献、前掲(1999);米国特許第5,981,830号を参照されたい)。本発明のDNA構築物は、陽性選択マーカー、陰性選択マーカー、又はこれらの両方を組み込むことができる(例えば、米国特許第5,981,830号を参照されたい)。
【0107】
組換えタンパク質を発現させるために、様々な哺乳類細胞培養システムも用いることができる。哺乳類発現系の例としては、Gluzmanの文献、Cell, 23: 175 (1981)によって記載されている、サル腎線維芽細胞のCOS-7株が挙げられる。適合性のあるベクターを発現させることが可能な他の細胞株には、例えば、C127、3T3、CHO、HeLa、及びBHK細胞株が含まれる。哺乳類発現ベクターは一般に、複製起点、好適なプロモーター及びエンハンサー、さらにはあらゆる不可欠なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライス供与及び受容部位、転写終結配列、並びに5'フランキング非転写配列を含むこととなる。SV40スプライス及びポリアデニル化部位由来のDNA配列を使用して、必要とされる非転写遺伝因子を提供することもできる。
【0108】
該ポリペプチドは、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、及びレクチンクロマトグラフィーを含めた方法によって、組換え細胞培養物から回収及び精製することができる。ポリペプチドが細胞の表面に発現されるならば、回収を容易にすることができるが、こうしたことは必要条件ではない。より長い形態のポリペプチドの発現後に切断される切断産物の回収も望ましい可能性がある。当技術分野で公知のタンパク質再フォールディングステップを、必要に応じて使用して、成熟タンパク質の立体配置を完成させることができる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を、最終精製ステップに用いることができる。
【0109】
ヒト定常領域DNA配列は、様々なヒト細胞から、周知の手順に従って単離することができる。
【0110】
本発明は、特に、高い親和性でAβ N3pEペプチドに結合することを特徴とする抗体に関する。本発明はまた、高い親和性でAβ N3pEペプチド又は免疫学的に活性なその断片に結合することを特徴とする抗体にも関する。前記の高い親和性は、本発明の状況では、10-5M、10-6M、又は10-7M、又はそれよりも優れたKD値、好ましくは10-8M又はそれよりも優れたKD値、より一層好ましくはKD値が10-9M~10-12MのKD値の親和性を意味する。それによって、本発明の抗体は、以前から公知の抗体よりも高い親和性で単量体のAβ N3pEに結合する。
【0111】
好ましくは、Aβ N3pEにおける本発明の抗体の結合エピトープは、N末端にピログルタミン酸を保有するエピトープである。より好ましくは、本発明の抗体の結合エピトープは、
【化21】
からなる群から選択される。
【0112】
最も好ましくは、本発明の抗体は、N末端にピログルタミン酸を保有しない結合エピトープには結合しない。
【0113】
さらに最も好ましくは、前述の及びこれ以降に言及する結合エピトープに対する結合の場合、本発明の抗体は常に、N末端にピログルタミン酸を含有する配列又は配列の一部に結合する。本発明の抗体は、N末端にピログルタミン酸を含有しない配列又は配列の一部には結合しない。
【0114】
さらに、本発明の抗体は、Aβ N3pEバリアントにも結合することができる。
【0115】
本発明の状況では、Aβ N3pEバリアントは、具体的には、
pE-Aβ3-38
pE-Aβ3-40
pE-Aβ3-42
である。
【0116】
Aβ N3pEペプチドのさらなるバリアントは、アルツハイマー病の結果として又はアルツハイマー病に先だって脳内に蓄積することが示されているすべてのAβ N3pEバリアントである。これらは、pE-Aβ3-Xペプチドであり、ここでは、xは、19から42の整数と定義され、例えば、先述のpE-Aβ3-42では、「42」が、「x」に代わる整数となる。
【0117】
本発明の状況では、本発明の抗体の「機能的バリアント」は、結合能、具体的にはpE-Aβ3-xペプチドに対して高親和性の結合能を保持する抗体である。こうした機能的バリアントの条件は、当技術分野で公知であり、抗体及びその断片の定義下で示された先に言及した可能性を包含する。
【0118】
さらなる実施態様では、抗体は、先に定義した通りの抗体断片である。
【0119】
さらなる好ましい実施態様では、本発明の抗体は、先に定義した抗体の相補性決定領域(CDR)を有するヒト化且つ脱免疫化された抗体である。好ましくは、抗体は、標識することができ;可能な標識は、先に言及したもの及び特に抗体の診断的使用の当業者に公知のすべてのものである。
【0120】
別の実施態様では、抗体は、固相に固定化することができる。
【0121】
別の実施態様では、本発明による及び本明細書で先に記載した通りの抗体又はその断片は、Aβ N3pE単量体に対する結合親和性よりも、少なくとも2倍、特に少なくとも4倍、特に少なくとも10倍、特に少なくとも15倍、より特別には少なくとも20倍、ただしとりわけ少なくとも25倍高い、Aβ N3pEオリゴマー、線維、原線維、又はフィラメントに対する結合親和性を呈する。
【0122】
さらに別の実施態様では、哺乳類、特にヒトの脳における、Aβ N3pEを含有する、Aβ斑を含めた凝集したAβに実質的に結合するが、アミロイド前駆体タンパク質(APP)とのいかなる顕著な交差反応性も好ましくは示さない、本明細書で先に記載した通りの抗体又はその断片が提供される。
【0123】
本発明の別の態様では、哺乳類、特にヒトの脳における、Aβ N3pEを含有するオリゴマー又は多量体のアミロイド、特にアミロイドβ(Aβ)に実質的に結合するが、アミロイド前駆体タンパク質(APP)とのいかなる顕著な交差反応性も好ましくは示さない、本明細書で先に記載した通りの抗体又はその断片が提供される。
【0124】
本発明はまた、前記抗体を含む組成物、並びに哺乳類における、特にヒトにおけるアミロイドーシスの治療のための、特に神経変性疾患の治療のための前記組成物の使用に関する。前記神経変性疾患は、具体的には、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性からなる群から選択される。好ましくは、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病である。
【0125】
したがって、好ましい実施態様では、本発明は、哺乳類における、好ましくはヒトにおける、Aβ N3pEを含む斑の形成によって特徴付けられる状態を治療及び/又は予防するための方法であって、N末端にピログルタミン酸を保有するAβ N3pEペプチドのエピトープに特異的に結合する治療又は予防有効量の本発明のモノクローナル抗体又はその免疫反応性の断片を、こうした治療を必要とするヒトに、好ましくは末梢に投与することを含む前記方法を対象とする。
【0126】
別の実施態様では、本発明は、哺乳類における、好ましくはヒトにおける、アミロイド斑の形成を阻害するための、及びアミロイド斑を排除又は除去するための方法であって、循環、体液、又は組織中の、特に脳内のAβ N3pEに結合し、且つ、さらに好ましくは血漿及び脳内のAβ N3pEのクリアランスをもたらす、有効量の抗体を、こうした阻害を必要とするヒト対象に投与することを含む前記方法を対象とする。
【0127】
したがって、本発明はまた、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症、好ましくはアルツハイマー病と診断された対象において、認知低下を逆行させる、認知を改善する、認知低下を治療する、及び認知低下を予防する方法であって、有効量の本発明の抗体を対象に投与することを含む前記方法を提供する。
【0128】
本発明はまた、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症、好ましくはアルツハイマー病を治療する、予防する、もしくは逆行させるための;又は、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症、好ましくはアルツハイマー病と診断された対象において、認知低下を逆行させる、認知を改善する、認知低下を治療する、及び認知低下を予防するための、医薬品の製造のための本発明の抗体の使用を提供する。
【0129】
本発明はさらに、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、並びに臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症、好ましくはアルツハイマー病の予防、治療、又は逆行に使用するための;軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、並びに臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症、好ましくはアルツハイマー病と診断された対象における、認知低下の治療、予防、又は逆行、認知の改善、認知低下の治療、及び認知低下の予防;或いは、哺乳類における、好ましくはヒトにおけるアミロイド斑の形成又はAβ N3pEの作用の阻害のための、本明細書に開示した抗体を提供する。
【0130】
具体的実施態様では、本発明は、本発明の抗体、又は本発明による及び本明細書で先に記載した通りの抗体を含む医薬組成物を、動物、特に哺乳類又はヒトに投与することによって、記憶障害を患う哺乳類、特にヒトの認知記憶能力を保持する又は向上させるための、ただし、特に認知記憶能力を回復させるための方法を提供する。
【0131】
本発明はさらに、Aβ N3pEと結合する抗体又はそのバリアントでの治療に対するヒト対象の反応を評価するための方法であって、
a)本発明の抗体又はその断片を対象に投与することと;
b)対象から採取された生体試料中のAβ N3pEの濃度を測定することと
を含む前記方法を提供する。
【0132】
本発明はまた、Aβ N3pEと結合する抗体又はそのバリアントでヒト対象を治療する方法であって、
a)第1の量の抗体又はその断片を対象に投与することと;
b)第1の用量の投与後3時間~2週以内に、対象から採取された生体試料中のAβ N3pEの濃度を測定することと;
c)必要であれば、抗体又はその断片の第1の量と同じ又は異なる第2の量を、ステップb)の結果に基づいて計算することと;
d)第2の量の抗体又は断片を投与すること
を含む前記方法を提供する。
【0133】
本発明はまた、Aβ N3pE関連のアミロイド斑形成を阻害する又は予防することについて、Aβ N3pEを含有する斑の負荷を低下させることについて、毒性のAβ N3pE及びそのバリアントの作用を低下させることについて、又はAβ N3pEを含有する斑に関連する状態もしくは疾患を治療することについて、Aβ N3pEに結合する抗体又はその断片の有効性を、哺乳類、好ましくはヒト対象において評価する方法であって、
a)対象から第1の生体試料を得ること;
b)第1の試料中のAβ N3pEのベースライン濃度を測定することと;
c)本発明の抗体又はその断片を対象に投与することと;
d)抗体又はその断片の投与後3時間~2週以内に、対象から第2の生体試料を入手することと;
e)第2の生体試料中のAβ N3pEの濃度を測定することと
を含み、ここでは、有効性は、血液中の抗体に結合したAβ N3pEの量、及びAβ N3pEの濃度、特に、第1の生体試料と比較した場合の第2の生体試料におけるAβ N3pEの濃度の低下に関連している、前記方法を含む。
【0134】
生体試料は、例えばヒト由来の、任意の試料であり得る。ある具体例では、試料は、組織試料、体液試料、又は細胞試料である。一実施態様では、生体試料は、血液、血清、尿、脳脊髄液(CSF)、血漿、リンパ液、唾液、汗、胸膜液、滑液、涙液、胆汁、及び膵臓分泌液からなる群から選択される。さらなる実施態様では、生体試料は、血漿である。好ましい実施態様では、生体試料は、CSFである。
【0135】
生体試料は、対象から、当業者に周知の様式で得ることができる。特に、血液試料は、対象から得ることができ、且つ血液試料は、従来の方法によって血清と血漿に分離することができる。生体試料を得る対象は、好ましくは、アミロイドーシスの疾患又は状態、好ましくはアルツハイマー病に罹患している疑いがある、及び/又はアルツハイマー病を発症するリスクがある、及び/又はいずれか他の種類の認知症のリスクがあるもしくは他の種類の認知症を有する対象である。特に、試料は、軽度認知障害(MCI)を有する疑いがある及び/又はアルツハイマー病の初期段階にある疑いがある対象から入手される。
【0136】
軽度認知障害、アルツハイマー病、家族性イギリス型認知症又は家族性デンマーク型認知症、及び例えばダウン症候群における神経変性などのアミロイドーシスの診断、予防、及び/又は治療における、本発明の抗体の有効性は、アルツハイマー病の既存の動物モデルにおいて試験することができる。
【0137】
アルツハイマー病の好適な動物モデルは、McGowanらの文献、TRENDS in Genetics、第22巻、2006年5月号、281-289頁に概説されており、以下に記載する通りのPDAPP、Tg2576、APP23、TgCRND8、PSEN1M146V又はPSEN1M146L、PSAPP、APPDutch、BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42、JNPL3、TauP301S、TauV337M、TauR406W、rTg4510、Htau、TAPP、3xTgADから選択される。
【0138】
PDAPP:頑強な斑病変を伴う最初の変異APPトランスジェニックモデル。マウスは、インディアナ型変異(APPV717F)を伴うヒトAPP cDNAを発現する。斑病変は、ヘミ接合性PDAPPマウスにおいて6~9ヶ月の間に始まる。シナプス喪失が存在するが、明らかな細胞喪失及びNFT病変は認められない。このモデルは、ワクチン療法戦略において広範に使用されている。
【0139】
Tg2576:マウスは、ハムスタープリオンプロモーターの制御下で、変異APPSWEを発現する。斑病変は、月齢9か月から認められる。これらのマウスは、認知障害を有するが、細胞喪失又はNFT病変は有しない。このモデルは、アルツハイマー病の分野において最も広範に使用されるトランスジェニックモデルの1つである。
【0140】
APP23:マウスは、Thy1プロモーターの制御下で、変異APPSWEを発現する。顕著な脳血管アミロイド、アミロイド沈着が、月齢6か月から認められ、一部の海馬での神経細胞脱落は、アミロイド斑形成と関連している。
【0141】
TgCRND8:マウスは、複数のAPP変異(スウェーデン型とインディアナ型)を発現する。認知障害は、月齢約3か月での急速な細胞外の斑発達と同時に起こる。認知障害は、Aβワクチン療法によって逆行させることができる。
【0142】
PSEN1M146V又はPSEN1M146L(それぞれ6.2及び8.9系統):インビボでその変異PSEN1が最初に明らかになったこれらのモデルは、Aβ42を選択的に上昇させる。明らかな斑病変は、認められない。
【0143】
PSAPP(Tg2576×PSEN1M146L、PSEN1-A246E+APPSWE):PSEN1によって駆動されるAβ42の上昇が斑病変を増大させることを実証する、1遺伝子導入変異体APPマウスと比較してアミロイド病変を顕著に促進する変異PSEN1導入遺伝子を追加した2遺伝子組換えトランスジェニックマウス。
【0144】
APPDutch:マウスは、ヒトにおいてアミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型)を引き起こすオランダ型変異を伴うAPPを発現する。APPDutchマウスは、重度のコンゴーレッド親和性アミロイドアンギオパチーを発症する。変異PSEN1導入遺伝子の追加は、アミロイド病変を実質に再分布し、これは、血管及び実質のアミロイド病変におけるAβ40及びAβ42の異なる役割を示唆している。
【0145】
BRI-Aβ40及びBRI-Aβ42:マウスは、APP過剰発現を伴わずに個々のAβアイソフォームを発現する。Aβ42を発現しているマウスのみが、老人斑及びCAAを発症するのに対し、BRI-Aβ40マウスは、斑を発症せず、これは、Aβ42が斑形成に必須であることを示唆している。
【0146】
JNPL3:マウスは、P301L変異を伴う4R0N MAPTを発現する。これは、MAPTが単独で細胞損傷及び喪失を引き起こすことができることを実証する、顕著なもつれ(tangle)病変及び細胞喪失を伴う最初のトランスジェニックモデルである。JNPL3マウスは、脊髄における重度の病変及び運動ニューロン脱落による、年齢に伴う運動障害を発症する。
【0147】
TauP301S:P301S変異を伴う4R MAPTの最も短いアイソフォームを発現するトランスジェニックマウス。ホモ接合体マウスは、脳及び脊髄における広範な神経原線維病変、並びに脊髄における神経細胞脱落を伴い、月齢5~6か月で重度の不全対麻痺を発症する。
【0148】
TauV337M:血小板由来増殖因子(PDGF)のプロモーターによって駆動されるV337M変異を伴う4R MAPTの低レベル合成(1/10の内在性MAPT)。これらのマウスにおける神経原線維病変の発達は、絶対的なMAPTの細胞内濃度ではなく、MAPTの性質が、病変を引き起こすことを示唆している。
【0149】
TauR406W:CAMKIIプロモーターの制御下で、R406W変異を伴う4RヒトMAPTを発現するマウス。マウスは、月齢18か月から、前脳におけるMAPT封入体を生じ、連合記憶障害を有する。
【0150】
rTg4510:TET-offシステムを使用する誘導型MAPTトランスジェニックマウス。異常なMAPT病変は、月齢1か月から発生する。マウスは、進行性のNFT病変及び重度の細胞喪失を有する。認知障害は、月齢2.5か月から明らかである。導入遺伝子をオフにすることにより、認知能力が改善されるが、NT病変は悪化する。
【0151】
Htau:ヒトゲノムMAPTのみを発現するトランスジェニックマウス(MAPTノックアウトマウス)。Htauマウスは、6か月から、過剰リン酸化されたMAPTを蓄積し、月齢15か月の時点までに、Thio-S陽性のNFTを生じる。
【0152】
TAPP(Tg2576×JNPL3):JNPL3と比較したTAPPマウスにおける増加したMAPT前脳病変の増大は、変異APP及び/又はAβが、下流のMAPT病変に影響を及ぼし得ることを示唆している。
【0153】
3×TgAD:PSEN1M146V「ノックイン」バックグラウンド(PSNE1-KI)上で変異APPSWE、MAPTP301Lを発現するトリプルトランスジェニックモデル。マウスは、6か月から斑を生じ、月齢12か月の時点からMAPT病変を生じ、これは、APP又はAβが神経原線維病変に直接的に影響を及ぼし得るという仮説を裏付けている。
【0154】
さらに、WO 2009/034158は、導入遺伝子が、AβN3E-42、AβN3Q-42、AβN3E-40、及びAβN3Q-40からなる群から選択される少なくとも1種のアミロイドβ(Aβ)ペプチドをコードする、非ヒトトランスジェニック動物モデルを開示している。これらのAβペプチドは、N末端グルタミン(Q)又はグルタミン酸(N)の、ピログルタミン酸(pGlu)への環化をもたらす、QC及びQPCTLの基質である。したがって、これらのトランスジェニック動物モデルは、神経変性の発生の過程に対するpGlu-Aβペプチドの効果の調査のためのモデルシステムを提供する。
【0155】
抗Aβ pN3pE抗体はまた、Aβ pN3pEについての診断アッセイ、例えば特定の細胞、組織、又は血清中のその存在を検出することにおいて有用であり得る。したがって、本発明による抗体は、アミロイドーシス、特に、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性からなる群から選択される神経変性疾患;好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断方法において特に有用である。
【0156】
診断用途のために、抗体は、典型的には、検出可能部分を用いて標識されることとなる。多数の標識が利用可能であり、これらは、一般に、以下のカテゴリーに分類することができる:
(a)放射性同位体、例えば、35S、14C、125I、3H、及び131I。抗体は、例えば、「免疫学の最新プロトコル(Current Protocols in Immunology)」、第1巻及び第2巻, Gutigenら編, Wiley-Interscience社. New York, New York. Pubs,(1991)に記載されている技術を使用して、放射性同位体で標識することができ、放射能は、シンチレーション計数を使用して測定することができる。
(b)蛍光標識、例えば、希土類キレート(ユーロピウムキレート)又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、リサミン、フィコエリスリン、並びにテキサスレッドが利用可能である。蛍光標識は、例えば、「免疫学の最新プロトコル」(前掲)に開示されている技術を使用して、抗体にコンジュゲートさせることができる。蛍光は、蛍光光度計を使用して定量することができる。
(c)様々な酵素-基質標識が利用可能である。酵素は一般に、様々な技術を使用して測定することができる、発色基質の化学的変化を触媒する。例えば、酵素は、分光光度法によって測定することができる、基質の色変化を触媒することができる。或いは、酵素は、基質の蛍光又は化学発光を変化させることができる。蛍光の変化を定量するための技術は先に記載している。化学発光基質は、化学反応によって電子励起状態になり、その後(例えば化学発光測定装置(chemiluminometer)を使用して)測定できる光を放出する又は蛍光受容体にエネルギーを供与することができる。酵素標識の例としては、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)などのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、O-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、複素環式オキシダーゼ(ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼなど)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼなどが挙げられる。酵素を抗体にコンジュゲートさせるための技術は、O'Sullivanらの文献、「酵素イムノアッセイにおける使用のための酵素-抗体コンジュゲートの調製方法(Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay)」、Methods in Enzym内(Langone及びH. Van Vunakis編), Academic Press社, New York, 73:147-166(1981)に記載されている。
【0157】
酵素-基質の組み合わせの例としては、例えば:
(i)西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)と、基質としての水素ペルオキシダーゼ(ここでは、水素ペルオキシダーゼは、色素前駆体(例えば、オルトフェニレンジアミン(OPD)又は塩酸3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB))を酸化する);
(ii)アルカリホスファターゼ(AP)と、発色基質としてのリン酸パラニトロフェニル;及び
(iii)β-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)と、発色基質(例えば、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシダーゼ)又は蛍光発生基質4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシダーゼ
が挙げられる。
【0158】
他の多数の酵素-基質の組み合わせが、当業者に利用可能である。
【0159】
標識は、時として、抗体と間接的にコンジュゲートされる。当業者は、これを達成するための様々な技術を知っているであろう。例えば、抗体をビオチンとコンジュゲートさせることができ、且つ、先に言及した3つの広範なカテゴリーの標識のうちのいずれかをアビジンとコンジュゲートさせることができるし、その逆も可能である。ビオチンは、アビジンと選択的に結合するので、この間接的な様式で、標識を抗体とコンジュゲートさせることができる。或いは、標識と抗体との間接的コンジュゲーションを達成するために、抗体を、小さいハプテン(例えばジゴキシン)とコンジュゲートさせ、先に言及した異なるタイプの標識のうちの1つを抗ハプテン抗体(例えば抗ジゴキシン抗体)とコンジュゲートさせる。このようにして、標識と抗体との間接的コンジュゲーションを達成することができる。
【0160】
本発明の抗体は、競合結合アッセイ、直接的及び間接的サンドイッチアッセイ、並びに免疫沈降アッセイなどの、あらゆる公知のアッセイ方法において用いることができる。Zolaの文献、「モノクローナル抗体:技術マニュアル(Monoclonal Antibodies A Manual of Techniques)」、pp.147-158(CRC Press社, 1987)。
【0161】
競合結合アッセイは、標識された標準物質が、限られた量の抗体との結合について、被験試料分析物と競合する能力に依存する。被験試料中のAβ N3pEの量は、抗体に結合されるようになる標準物質の量に反比例する。結合されるようになる標準物質の量を決定することを容易にするために、抗体は、一般に、競合の前又は後に不溶化され、その結果、抗体に結合されている標準物質及び検体を、結合されないままの標準物質及び検体から、好都合に分離することができる。
【0162】
サンドイッチアッセイは、検出されるべきタンパク質の異なる免疫原性部分又はエピトープにそれぞれが結合することが可能な2つの抗体の使用を含む。サンドイッチアッセイでは、被験試料分析物は、固形支持体上に固定化されている第1の抗体によって結合され、その後、第2の抗体が分析物に結合し、したがって、不溶性の3部分の複合体が形成される。第2の抗体は、検出可能な部分でそれ自体を標識することもできるし(直接的サンドイッチアッセイ)、検出可能な部分で標識されている抗免疫グロブリン抗体を使用して測定することもできる(間接的サンドイッチアッセイ)。例えば、サンドイッチアッセイの1つの好ましいタイプはELISAアッセイであり、この場合、検出可能な部分は酵素である。
【0163】
免疫組織化学については、組織試料は、新鮮なものであっても凍結されたものであってもよいし、パラフィンに包埋された、例えば、ホルマリンなどの保存剤で固定されたものであってもよい。
【0164】
本発明はまた、先に定義した通りの抗体を含む組成物に関し、ここでは、前記組成物は、診断用途のための、特に、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性からなる群から選択される神経変性疾患;好ましくはアルツハイマー病の診断のための;具体的には生体試料中のAβ N3pE又はそのバリアントの検出による組成物である。
【0165】
(診断キット)
便宜上、本発明の抗体は、キット、すなわち、所定の量の試薬と診断アッセイを実施するための指示書とを包装して組み合わせたもので提供することができる。抗体が酵素で標識される場合、キットは、その酵素が必要とする基質及び補因子(例えば、検出可能な発色団又はフルオロフォアを提供する基質前駆体)を含むこととなる。さらに、安定剤、緩衝液(例えば、ブロック緩衝液又は溶解緩衝液)などの他の添加剤が含まれていてもよい。アッセイの感度を実質的に最適化する試薬の溶液中濃度を提供するために、種々の試薬の相対量を幅広く変化させることができる。特に、試薬は、溶解時に適切な濃度を有する試薬溶液を提供することとなる賦形剤を含めた、通常は凍結乾燥された乾燥粉末として提供することができる。
【0166】
本発明による診断キットは、以下に記載する通りのさらなる生物活性物質を含有することができる。前記のさらなる生物活性物質としての、診断キットにおける使用のために特に好ましいものは、グルタミニルシクラーゼの阻害剤である。
【0167】
本発明の診断キットは、アミロイドと関連する疾患及び状態、特に、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性からなる群から選択される神経変性疾患;好ましくは、アルツハイマー病の検出及び診断のために、特に有用である。
【0168】
本発明はまた、インビトロでの診断方法に使用するための、どちらも先に定義した通りの本発明の抗体又は該抗体を含む組成物に関する。特に、この診断方法は、特に、生体試料中のAβ N3pE又はそのバリアントを検出することによる、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性からなる群から選択される神経変性疾患;好ましくは、アルツハイマー病の診断を対象とする。
【0169】
特に好ましい実施態様では、本発明は、アミロイドと関連する疾患又は状態、好ましくはアルツハイマー病の診断のためのインビトロ又はインサイチューでの診断方法であって、次のステップ:
本発明による抗体を、好ましくは血清、体液、又はCSF試料から選択された、最も好ましくは血清から選択された試料と;或いは前記状態又は疾患に罹患していることが疑われる対象の特定の体の一部又は体の領域と接触させるステップと
抗体のAβ N3pEに対する結合を試料から検出するステップと
を含む前記方法に関する。
【0170】
より具体的には、本発明は、試料中の又はインサイチューでの、本発明の抗体又は免疫学的に活性なその断片の、Aβ N3pEに対する免疫特異的結合を検出することを含む、アミロイドと関連する疾患又は状態、好ましくはアルツハイマー病の診断の方法であって、
(a)アミロイドタンパク質を含有することが疑われる試料又は特定の体の一部もしくは体の領域を、本発明の抗体又はその断片と接触させるステップと;
(b)抗体及び/又はその機能的部分を、Aβ N3pEに結合させて、免疫複合体を形成させるステップと;
(c)免疫複合体の形成を検出するステップと;
(d)免疫複合体の存在又は非存在を、試料又は特定の体の一部もしくは領域中のAβ N3pEの存在又は非存在と相関させるステップと
を含む前記方法に関する。
【0171】
含まれるのはまた、組織及び/又は体液中のアミロイド原性斑負荷の程度を決定する方法であって、
(a)検査下にある組織及び/又は体液を代表する試料を得ることと;
(b)本発明による抗体、又はそのキメラ抗体もしくは断片を用いて、アミロイドタンパク質の存在について前記試料を試験することと;
(c)該タンパク質に結合した抗体の量を決定することと;
(d)組織及び/又は体液中の斑負荷を算出することと
を含む前記方法である。
【0172】
特に、本発明は、組織及び/又は体液中のアミロイド原性斑負荷の程度を決定する方法に関し、ここでは、免疫複合体の存在又は非存在が、アミロイドタンパク質、特にAβ N3pEの存在又は非存在と相関するように、ステップc)における免疫複合体の形成が決定される。
【0173】
さらに別の実施態様では、本発明は、本発明による抗体、又はそのキメラ抗体もしくは断片を含み、且つ本明細書で先に記載した通りに任意の機能的に等価の抗体又はその任意の誘導体もしくは機能的部分を含む組成物、特に、医薬として許容し得る担体を任意にさらに含む医薬組成物である組成物に関する。
【0174】
本発明の別の実施態様では、前記組成物は、治療有効量の本発明の抗体を含む。
【0175】
本発明によってさらに含まれるのは、本発明の抗体、又はそのキメラ抗体もしくは断片を含み、且つ本明細書で先に記載した通りに、治療有効量の任意の機能的に等価の抗体又はその任意の誘導体もしくは機能的部分と、任意に、さらなる生物活性物質及び/又は医薬として許容し得る担体及び/又は希釈剤及び/又は賦形剤とを含む混合物である。
【0176】
特に、本発明は、さらなる生物活性物質が、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性からなる群から選択される神経変性疾患;好ましくは、アルツハイマー病に関与するアミロイドーシス、すなわちアミロイド又はアミロイド様タンパク質、例えばAβ N3pEに関連した一群の疾患及び障害の薬物療法において使用される化合物である、混合物に関する。
【0177】
本発明の別の実施態様では、他の生物活性物質又は化合物も、Aβ N3pEによって引き起こされるアミロイドーシスの治療において使用することができる、又は他の神経障害の薬物療法において使用することができる治療薬であり得る。
【0178】
他の生物活性物質又は化合物は、本発明による抗体と同じもしくは類似の機構によって、又は無関係の作用機序によって、又は多様な関連する及び/又は無関係の作用機構によって、その生物学的効果を発揮することができる。
【0179】
一般に、他の生物活性化合物には、中性子透過増強剤、精神治療薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、カルシウムチャネル遮断薬、生体アミン、ベンゾジアゼピントランキライザー、アセチルコリン合成、貯蔵又は放出増強剤、アセチルコリンシナプス後受容体アゴニスト、モノアミンオキシダーゼA又はB阻害剤、N-メチル-D-アスパラギン酸型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、非ステロイド性抗炎症薬、抗酸化剤、及びセロトニン受容体アンタゴニストが含まれ得る。
【0180】
より具体的には、本発明は、本発明による抗体、並びに、任意に、医薬として許容し得る担体及び/又は希釈剤及び/又は賦形剤と共に、酸化ストレスに対して有効な化合物、抗アポトーシス化合物、金属キレート剤、ピレンゼピン及び代謝産物などのDNA修復の阻害剤、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸(3APS)、1,3-プロパンジスルホネート(1,3PDS)、α-セクレターゼ活性化剤、β-及びγ-セクレターゼ阻害剤、タウタンパク質、神経伝達物質、βシートブレーカー、アミロイドβを排除/枯渇させる細胞成分の誘引物質、ピログルタミン酸化されたアミロイドβ3-42を含めたN末端が切断されたアミロイドβの阻害剤(グルタミニルシクラーゼの阻害剤など)、抗炎症性分子、又はコリンエステラーゼ阻害剤(ChEI)(タクリン、リバスチグミン、ドネペジル、及び/又はガランタミンなど)、Mlアゴニスト、並びにあらゆるアミロイド又はタウ修飾薬及び栄養補助剤を含めた他の薬物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む混合物に関する。
【0181】
本発明はさらに、化合物がコリンエステラーゼ阻害剤(ChEI)である混合物、特に、化合物がタクリン、リバスチグミン、ドネペジル、ガランタミン、ナイアシン及びメマンチンからなる群から選択される1つである混合物に関する。
【0182】
さらなる実施態様では、本発明による混合物は、本発明による抗体、並びに、任意に、医薬として許容し得る担体及び/又は希釈剤及び/又は賦形剤と共に、ナイアシン又はメマンチンを含むことができる。
【0183】
さらなる実施態様では、本発明による混合物は、本発明による抗体、並びに、任意に、医薬として許容し得る担体及び/又は希釈剤及び/又は賦形剤と共に、グルタミニルシクラーゼ阻害剤を含むことができる。
【0184】
グルタミニルシクラーゼの好ましい阻害剤は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる、WO 2005/075436、WO 2008/055945、WO 2008/055947、WO 2008/055950、WO 2008/065141、WO 2008/110523、WO 2008/128981、WO 2008/128982、WO 2008/128983、WO 2008/128984、WO 2008/128985、WO 2008/128986、WO 2008/128987、WO 2010/026212、WO 2011/131748、WO 2011/029920、WO 2011/107530、WO 2011/110613、WO 2012/123563及びWO 2014/140279に記載されている。
【0185】
本発明のさらに別の実施態様では、抗体、特に、本発明によるモノクローナル抗体、しかし、特にそのキメラ抗体もしくは断片、又は本発明による及び本明細書に記載した通りの抗体もしくはその断片、並びに、任意に、医薬として許容し得る担体及び/又は希釈剤及び/又は賦形剤と共に、幻覚、妄想、思考障害(顕著な思考散乱、脱線、脱線思考が現れる)、及び奇異又は無秩序な行動、並びに快感喪失、情動の平坦化、感情鈍麻、及び社会的離脱を含めた陽性及び陰性の精神病症状の治療のための、例えばクロザピン、ジプラシドン、リスペリドン、アリピプラゾール、又はオランザピンなどの「非定型抗精神病薬」を含む、混合物が提供される。
【0186】
本発明の具体的実施態様では、本発明による及び本明細書で先に記載した通りの組成物及び混合物は、それぞれ治療的有効量の、本発明の抗体と生物活性物質を含む。
【0187】
PEP阻害剤(43/44頁)、LiCl、ジペプチジルアミノペプチダーゼの阻害剤、好ましくはDP IV又はDP IV様酵素の阻害剤(48/49頁参照);アセチルコリンエステラーゼ(ACE)阻害剤(47頁参照)、PIMTエンハンサー、βセクレターゼの阻害剤(41頁参照)、γセクレターゼの阻害剤(41/42頁参照)、中性エンドペプチダーゼの阻害剤、ホスホジエステラーゼ-4(PDE-4)の阻害剤(42/43頁参照)、TNFα阻害剤、ムスカリンM1受容体アンタゴニスト(46頁参照)、NMDA受容体アンタゴニスト(47/48頁参照)、σ-1受容体阻害剤、ヒスタミンH3アンタゴニスト(43頁参照)、免疫調節剤、免疫抑制剤、又は、アンテグレン(ナタリズマブ)、Neurelan(ファムプリジン-SR)、キャンパス(アレムツズマブ)、IR 208、NBI 5788/MSP 771(チプリモチド)、パクリタキセル、Anergix.MS(AG 284)、SH636、Differin(CD 271、アダパレン)、BAY 361677(インターロイキン-4)、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤(例えば、BB 76163)、インターフェロン-τ(トロホブラスチン)、及びSAIK-MSからなる群から選択される薬剤;β-アミロイド抗体(44頁参照)、システインプロテアーゼ阻害剤(44頁参照);MCP-1アンタゴニスト(44/45頁参照)、アミロイドタンパク質沈着阻害剤(42参照)、並びにβアミロイド合成阻害剤(42頁参照)を含めた、本発明による抗体と組み合わせて、混合物中で好適に使用することができる他の化合物は、WO2008/065141(この文献は、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている(特に、37/38頁を参照されたい)。
【0188】
別の実施態様では、本発明は、治療的有効量の、本発明による抗体、又は本明細書で先に記載した通りのそのキメラ抗体又は断片、及び/又は生物活性物質を含む混合物に関する。
【0189】
医薬組成物は、「レミントン薬科学(Remington : The Science and Practice of Pharmacy)」、第21版, Gennaro編, Mack Publishing Co., Easton, PA, 2005)に公開されているものなどの従来の技術に従って、医薬として許容し得る担体又は希釈剤、並びに任意の他の公知の補助剤及び賦形剤と共に製剤化することができる。
【0190】
医薬として許容し得る担体又は希釈剤、並びに任意の他の公知の補助剤及び賦形剤は、選択された本発明の抗体及び選択された投与様式に適しているべきである。医薬組成物の担体及び他の構成成分に対する適合性は、抗原結合に関して、選択された本発明の抗体又は医薬組成物の所望される生物学的特性に対する著しい負の影響がないこと(例えば、実質的影響よりも小さい(10%以下の相対阻害、5%以下の相対阻害など))に基づいて決定される。
【0191】
本発明の医薬組成物はまた、希釈剤、充填剤、塩、緩衝液、界面活性剤(例えば、Tween-20又はTween-80などの非イオン性界面活性剤)、安定剤(例えば、糖又はタンパク質不含アミノ酸)、保存剤、組織固定剤、可溶化剤、及び/又は医薬組成物への包含に適した他の材料も含むことができる。
【0192】
本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、特定の患者、組成物、及び投与様式に対する所望される治療反応を達成するのに有効である活性成分の量を得るように、変えることができる。この選択される投薬量レベルは、用いられる本発明の特定の組成物又はそのアミド(amide)の活性、投与経路、投与の時間、用いられている特定の抗体の排泄率、治療の期間、用いられる特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物、及び/又は材料、治療されている患者の年齢、性別、体重、状態、全身健康状態、及び既往歴、並びに医学分野で周知の同様の因子を含めた、様々な薬物動態学的因子に依存することとなる。
【0193】
医薬組成物は、任意の好適な経路及び様式によって投与することができる。インビボ及びインビトロで本発明の抗体を投与する好適な経路は、当技術分野で周知であり、当業者が選択することができる。
【0194】
一実施態様では、本発明の医薬組成物は、非経口的に投与される。
【0195】
本明細書で使用される表現「非経口投与」及び「非経口的に投与される」は、通常は注射による、腸内及び局所投与以外の投与様式を意味し、表皮、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外、及び胸骨内(intrasternal)注射及び注入が含まれる。
【0196】
一実施態様では、その医薬組成物は、静脈内又は皮下注射又は注入によって投与される。
【0197】
医薬として許容し得る担体には、本発明の抗体と生理学的に適合性がある、ありとあらゆる好適な溶媒、分散媒、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張化剤、抗酸化剤、及び吸収遅延薬などが含まれる。
【0198】
本発明の医薬組成物に用いることができる好適な水性及び非水性担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、エタノール、デキストロース、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物、植物油、例えばオリーブ油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、綿実油、及びゴマ油など、カルボキシメチルセルロースコロイド溶液、トラガカントガム、及びオレイン酸エチルなどの注射可能有機エステル、及び/又は様々な緩衝液が挙げられる。他の担体は、医薬分野で周知である。
【0199】
医薬として許容し得る担体には、無菌の注射用溶液又は分散液の即時調製のための、無菌の水溶液又は分散液及び無菌の散剤が含まれる。医薬として活性な物質のためのこうした媒体及び薬剤の使用は、当技術分野で公知である。任意の従来の媒体又は薬剤が、活性な抗体と不適合でない限り、本発明の医薬組成物中でのその使用が企図される。
【0200】
適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。
【0201】
本発明の医薬組成物はまた、医薬として許容し得る抗酸化剤、例えば、(1)水溶性の抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、塩酸システイン、硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2)油溶性の抗酸化剤、例えばパルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α-トコフェロールなど;並びに(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などを含むことができる。
【0202】
本発明の医薬組成物はまた、該組成物中に、糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、グリセロール、又は塩化ナトリウムなどの等張化剤を含むことができる。
【0203】
本発明の医薬組成物はまた、該医薬組成物の保存寿命又は有効性を増強することができる、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、保存剤、又は緩衝液などの、選択される投与経路に適した1種以上の補助剤を含有することができる。本発明の抗体は、植込錠、経皮貼付剤、及びマイクロカプセル化送達システムを含めた制御放出製剤などの急速な放出から抗体を保護することとなる担体と共に調製することができる。こうした担体は、ゼラチン、モノステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸(単独若もしくはワックスとの併用)、又は当技術分野で周知の他の材料を含むことができる。こうした製剤の調製のための方法は、一般に、当業者に公知である。例えば、「持続及び制御放出薬物送達システム(Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems)」、J. R. Robinson編、Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照されたい。
【0204】
一実施態様では、本発明の抗体は、インビボでの適切な分布を確実にするように製剤化することができる。非経口投与のための医薬として許容し得る担体には、無菌の注射用溶液又は分散液の即時調製のための、無菌の水溶液又は分散液及び無菌の散剤が含まれる。医薬として活性な物質のためのこうした媒体及び薬剤の使用は、当技術分野で公知である。任意の従来の媒体又は薬剤が、抗体と不適合でない限り、本発明の医薬組成物中でのその使用が企図される。
【0205】
注射のための医薬組成物は、典型的には、無菌であり、且つ製造及び保管の条件下で安定でなければならない。この組成物は、液剤、マイクロエマルジョン、リポソーム、又は高い薬物濃度に適した他の規則構造体として製剤化することができる。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物、植物油、例えばオリーブ油、及びオレイン酸エチルなどの注射可能有機エステルを含有する、水性又は非水性の溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、該組成物中に、等張化剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばグリセロール、マンニトール、ソルビトールなど、又は塩化ナトリウムを含むことが好ましいこととなる。注射用組成物の持続的吸収は、該組成物中に、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸塩及びゼラチンを含めることによってもたらすことができる。無菌の注射液は、必要とされる量の抗体を、必要に応じて、例えば先に列挙した通りの1つの成分又は成分の組み合わせを伴う適切な溶媒中に導入し、それに続いて滅菌精密濾過を行うことによって調製することができる。一般に、分散液は、基本の分散媒と、例えば先に列挙したものの中からの必要とされる他の成分とを含有する無菌のビヒクルに抗体を導入することによって調製される。無菌の注射液の調製のための無菌の散剤の場合、調製の方法の例は、活性成分プラス任意の追加の所望される成分の粉末を、あらかじめ滅菌濾過したその溶液からもたらす、真空乾燥及びフリーズドライ(凍結乾燥)である。
【0206】
無菌の注射液は、必要とされる量の抗体を、必要に応じて、先に列挙した1つの成分又は成分の組み合わせを伴う適切な溶媒中に導入し、それに続いて滅菌精密濾過を行うことによって調製することができる。一般に、分散液は、基本の分散媒と、先に列挙したものの中からの必要とされる他の成分とを含有する無菌のビヒクルに抗体を導入することによって調製される。無菌の注射液の調製のための無菌の散剤の場合、調製の方法の例は、活性成分プラス任意の追加の所望される成分の粉末を、あらかじめ滅菌濾過したその溶液からもたらす、真空乾燥及びフリーズドライ(凍結乾燥)である。
【0207】
治療及び使用の先述の方法における投薬レジメンは、所望される最適な反応(例えば治療反応)を提供するように調節される。例えば、単回ボーラスを投与することもできるし、いくつかの分割した用量を時間をかけて投与することもできるし、用量を、治療状況の緊急性によって示される通りに相対的に低下又は増大させることもできる。非経口組成物は、投与の容易さ及び投薬の均一性のために、単位剤形に製剤化することができる。本明細書で使用される単位剤形とは、本明細書で使用する場合、各単位が、所望される治療効果をもたらすように算出された、あらかじめ決定された量の抗体を、必要とされる医薬担体と共に含有する、治療されることとなる対象に対する単位投薬量として適した物理的に不連続の単位をいう。本発明の単位剤形に関する詳細は、(a)抗体の固有の特性及び達成されるべき特定の治療効果;並びに(b)個人における感受性の、治療のためのこうした抗体を配合する技術分野に固有の制限;によって定められ、また直接的にこれらに依存する。
【0208】
本発明の抗体に関する有効な投薬量及び投薬レジメンは、治療されることとなる疾患又は状態に依存し、当業者によって決定することができる。本発明の抗体の治療有効量の例示的な非限定的な範囲は、約0.1~10mg/kg/体重、例えば約0.1~5mg/kg/体重、例えば約0.1~2mg/kg/体重、例えば約0.1~1mg/kg/体重、例えば約0.15、約0.2、約0.5、約1、約1.5又は約2mg/kg/体重である。
【0209】
当技術分野の通常の技術を有する医師又は獣医師は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定及び処方することができる。例えば、医師又は獣医師は、所望される治療効果を達成するために必要とされるよりも低いレベルで医薬組成物中で用いられる8ηii-AβρE3抗体の用量から開始し、所望される効果が達成されるまで、投薬量を徐々に増大させるのではないだろうか。一般に、本発明の組成物の好適な1日量は、治療効果をもたらすのに有効な最低用量である抗体の量であることとなる。こうした有効な用量は、一般に、先に記載した因子に依存することとなる。投与は、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下であり得、例えば、標的部位の近位に投与することができる。所望される場合、医薬組成物の有効な1日量を、任意に単位剤形で、1日全体を通して適切な間隔で別々に投与される、2、3、4、5、6又はそれよりも多い分割用量として投与することができる。本発明の抗体は、単独で投与されることが可能であるが、この抗体を先に記載した通りの医薬組成物として投与することが好ましい。
【実施例
【0210】
(実施例)
(1. N3pE-Aβ特異的な抗体を産生するためのヒト化手法)
本発明によるヒト化且つ脱免疫化された抗体は、WO 2010/009987に記載されている、ハイブリドーマ細胞株Aβ 6-1-6(寄託番号DSM ACC 2924)によって産生されるヒト化且つ脱免疫化された型のモノクローナルマウス抗体である。ヒト化は、WO 2017/009459に記載されている通りに実施した。WO 2017/009459内の58~60頁に開示されている実施例1を、参照によって本明細書に組み込む。
【0211】
(2. RNA単離及びcDNA合成)
定常配列の供給源として、ヒトB細胞のRNAを、500μlの全血の、5mlの1×FACS溶解液(Lysis Solution)(Becton Dickinson社)での室温での10分間の溶解によって単離した。この溶解物を、300gで5分間遠心分離し;ペレットを、PBSで2回洗浄し、次いでNucleo Spin(登録商標)RNA II(Macherey-Nagel社)の350μlのRA1緩衝液中に溶解し、3.5μlの0.5M TCEP(SIGMA社)を添加した。RNAを、製造業者の指示によって単離した。10μlのRNAを、最初に、1μlの0.5μg/μl OligodTプライマー(Invitrogen社)及び1μlの10mM dNTPと共に、65℃で5分間インキュベートした。次いで、20μlに、4μlの5×First Strand緩衝液(Invitrogen社)、2μlの100mM DTT、及び0.5μlのSuperScript III逆転写酵素(Reverse Transcriptase)(Invitrogen社)を添加し、混合物を、25℃で5分間、50℃で50分間、及び70℃で15分間インキュベートした。表2に示すプライマー対を用いるPCRによって、軽鎖及び重鎖の定常領域の合成されたcDNAを増幅することが可能であった。
【0212】
表2:定常領域のクローニングのためのプライマー
【表2】
【0213】
クローン#6の軽鎖のPCR産物の増幅のために、以下のフォワード及びリバースプライマーを使用した:
【化22】
【0214】
参照遺伝子の増幅のために、マウスHPRTプライマーを使用した。
【0215】
増幅を実施するために、7.5μlのSybergreen(Firma社)、1μlのプライマー・フォワード(25pmol/μl)、1μlのプライマー・リバース(25pmol/μl)、5.5μlのddH2O、及び1μlのcDNAを、サイクラー内で使用した。
【0216】
(3. 2種の異なる発現プラスミドにLC及びHCを別々にクローニングすることによるCHO細胞における組換え抗体の発現)
抗体の軽鎖及び重鎖の配列を、それぞれ、2種の異なる哺乳類発現ベクターpCDNA3.1及びHC-pOptiVECに、別々にクローニングした。CHO細胞培養物中での組換え抗体を発現させるためのベクターの最適な組み合わせを特定するために、異なるプラスミドの組み合わせを使用して、接着性のCHO細胞における一過性発現を実施した。第2のステップでは、LCとHCプラスミド間の異なるDNAの比が、発現レベルに影響を及ぼすかどうかを調べた。3μgのLC-pCDNA3.1及び1μgのHC-pOptiVECの遺伝子導入を用いると、発現レベルの増大が見られた。
【0217】
抗体のさらなる接着性のCHO細胞発現については、LC-pCDNA3.1と1μg HC-pOptiVECのプラスミド組み合わせ、及びLC 3:1 HCのプラスミドDNA比を使用した。
【0218】
Freestyle(商標)CHO浮遊細胞を、その後の遺伝子導入において使用して、より高い量の一過性発現している細胞を培養し、組換え抗体を産生した。最初に、過剰量のLCプラスミドが、接着細胞の場合のように、抗体の発現を向上させることができるかどうかを試験した。接着性のCHO細胞のように、1:1及び3.1のLC対HCプラスミドDNA比を使用した。ウエスタンブロット分析は、過剰量のLCプラスミドが、接着性のCHO細胞の場合のように、抗体の発現を増大させることを明らかにした。細胞生存率の測定によって、細胞生存率は、6日後に、遺伝子導入された細胞の約50%まで低下することが明らかになる。第6日の後、上清中の抗体レベルのさらなる増大は検出できなかった。したがって、培養上清は、その後の遺伝子導入の場合、第6日に収集した。
【0219】
産生された抗体が、細胞上清に効率的に輸送されるかどうかを調べるために、細胞溶解物試料をSDS PAGEに適用し、ウエスタンブロットによって分析した。ハウスキーピング細胞質タンパク質であるGAPDHを、参照のために使用し、SDSゲルに同等量の細胞溶解物タンパク質を装加した。抗体発現CHO細胞の細胞溶解物において、細胞上清中に検出されるのと同じサイズで泳動する120kDaの強力なバンドが生じる。
【0220】
(4. プロテインGクロマトグラフィーによる組換え抗体の精製)
抗体クローン#6を精製して、元のマウス抗体と比較した場合のこのタンパク質の抗原結合特性を調べた。したがって、発現させたキメラのヒト化抗体を含む300mlの上清を生成し、プロテインGクロマトグラフィーによって精製した。発現された抗体の量は非常に少なかったので、収量は0.1μg/ml未満、合計25μgの精製されたタンパク質であった。溶離された抗体を、約200μg/mlまで濃縮し、2μgのタンパク質をSDS-PAGEに適用し、その後、クーマシーブルー染色を行った。
【0221】
(5. ヒト化抗体の安定な細胞株産生)
本発明の抗体の親抗体は、
WO 2017/009459中で配列番号:14として開示されているアミノ酸配列:
【化23】
を有する軽鎖可変領域を有し;
且つ
WO 2017/009459中で配列番号:27として開示されているアミノ酸配列:
【化24】
を有する重鎖可変領域
を有する、WO 2017/009459に開示されているクローン#6バリアントである。
【0222】
安定な細胞株産生について、親クローン#6バリアントの2種のクローン、すなわちC06.08及びC06.09を選択した。C06.08及びC06.09を産生するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)DG44細胞の産生のために、両方の抗体に対する重鎖及び軽鎖遺伝子の配列を含有する発現プラスミドを最初に産生した。このプラスミドを直線化し、イソプロパノール沈殿によって精製し、10mM Tris pH8.0中に再構成し、次の通りに遺伝子導入に使用した:1×106個のCHO-DG44細胞を、100μL Nucleofector溶液V(Lonza社)に懸濁し、10μgの直線化されたベクターDNAと混合した。この懸濁液に、電気穿孔装置Amaxa Nucleofector II(Lonza社)で電気パルスを与えた。続いて、500μLのCD CHO培地(Invitrogen社)を添加し、遺伝子導入された細胞のプールを、24時間培養した。
【0223】
安定なミニプール(MP)の産生のために、遺伝子導入の翌日、遺伝子導入された細胞プールを合わせ、CD CHO培地に移して、96ウェルプレートにそれぞれ2000細胞/ウェル及び4000細胞/ウェルで播種するか、2.5nMメトトレキサート(MTX)を含むCD CHO培地に移して、96ウェルプレートに4000細胞/ウェルで播種した。21(C06.08)又は27(C06.09)日の培養期間後、20個のMPを、24ウェルプレートに移した。遺伝子導入後の第22日又は第28日に、MPを12ウェルプレートに移し、第34日又は第48日に、MPを6ウェルプレートに広げた。第34日(C06.08)又は第48日(C06.09)に、増幅プロセスを誘発するために、プールを、30nM MTXを含む選択培地に移し、Octet測定によって抗体発現力価を決定した。
【0224】
結果
【表3】
【0225】
【表4】
【0226】
表2及び3にまとめて示した通り、すべてのMPは、細胞成長不良、非常に低い検出可能な抗体産生ないし検出可能な抗体産生なし(<10pg/細胞/日)を示し、多くのMPは、MTX増幅を生き延びなかった。一連の新しい試薬を用いる繰り返しの遺伝子導入実験が、同様の結果をもたらすのに対して、対照ベクターでの遺伝子導入は、正常なタンパク質発現レベルをもたらした。これらの結果は、ゲノムに組み込まれたC06.08及びC06.09タンパク質が、CHO-DG44細胞に対する固有の毒作用を有する可能性がある、例えば、これらのタンパク質は、核内のミスフォールドされたC06.08及びC06.09タンパク質の過剰発現に起因して細胞死を誘発する可能性があることを示唆していた。タンパク質ミスフォールディングを正し、且つCHO-DG44細胞死の誘発をなくす、C06.08及びC06.09の一次配列に対するさらなる改変が正当化される。
【0227】
(タンパク質のフォールディング及び発現を向上させるためのPBD-C06改変)
C06アミノ酸配列のインシリコ(in silico)解析は、タンパク質フォールディングに負の影響を与えることが予想される、重鎖のフレームワーク領域内のアミノ酸のいくつかのストレッチ(stretch)(スポット)を明らかにした。これらのスポットを、タンパク質発現を向上させる代替アミノ酸と交換できるかどうかを調べるために、4つの個々の重鎖変位(K12V、S14P、N55D、及びF64V)を最初に合成し、配列番号:17の軽鎖と共に、タンパク質発現について、一過性遺伝子導入において個々に試験した。標的結合研究は、F64V改変が、抗体結合を妨げることを明らかにした。第2セットの実験では、それぞれの変位の組み合わせを、個々の重鎖遺伝子に、2つ一組及び3つ一組で組み込み、発現及び標的結合研究について、配列番号:17の軽鎖と組み合わせて試験した(図1及び2)。
【0228】
(結果)
K12V、S14P、及びN55D変位の組み合わせが、最良の一過性C06発現力価及び最適な標的結合特性をもたらし(図1及び2)、これらの3つの変位すべてを含むそれぞれのクローンを、CHO-DG44安定遺伝子導入研究のために選択した。
【0229】
(CHO-DG44細胞におけるヒト化抗体の安定発現)
CHO-DG44親細胞は、元々、Gibco, Life Technologies社(現在はThermo Fisher Scientific社によって経営されている)(FreedomTM DG44 Kit)から入手した。CHO細胞株は、DHFR欠損性であり、文書と共にcGMPでバンク化されている。
【0230】
配列番号:1の軽鎖と配列番号:2の重鎖を含む(K12V、S14P、及びN55D変位を含む)ヒト化抗体を発現するベクターでのCHO-DG44細胞の遺伝子導入は、遺伝子導入前の試み(先述のことを参照)と比較して、CHO-DG44クローンの数の数倍の向上をもたらした。さらに、MTX曝露後、高い標的抗体発現力価を有する複数のクローンが同定され、K12V、S14P、及びN55D変位が、CHO-DG44ゲノムへの安定な組み込み後に、抗体フォールディング及び発現を向上させることが明らかになった。流加条件下では、長期の培養期間にわたって、安定発現の延長が確認され、親クローン#6の重鎖における選択された変更(K12V、S14P、及びN55D)が、CHO-DG44細胞における適切なフォールディング及び発現を助長することが確認された。
【0231】
さらなるベクター及び電気穿孔の最適化後に、追加の安定な細胞株が得られた。遺伝子増幅前の最初の遺伝子導入体(transfectant)は、単離、及び24ウェルプレートでの0.5ml培養への拡大後の早い時期に、高いレベルの抗体を発現した(図3)。第7日での産生力価は、最初のMTX曝露後に、さらに増大し(図4)、これは、これらのクローン、特にc17が、よりいっそう効率的な産生体であることとなることを示唆していた。
【0232】
(まとめ)
それらが、一過性遺伝子導入されたHEK293細胞において抗体発現を増大させることとなるかどうかを確かめるために、4つの重鎖変位を個々に試験した。これらの変位のうちの3つは、抗体発現を有意に増大させたが、4つ目は、発現を低下させた。個々の変位の組み合わせも、2つ一組及び3つ組の変異で試行し、これらをすべて十分に発現させ、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。Biacore解析では、4つの変位の組み合わせが結合を低下させるのに対して、特定の変位の組み合わせK12V、S14P、及びN55Dは、十分に発現され、最適な結合特性を有することが判明した。軽鎖配列の変化は高発現に必須ではなかった。
【0233】
研究は、安定に遺伝子導入されたCHO DG44細胞において実施し、最初の選択、及びメトトレキサート(MTX)の段階的増加によって誘発されるその後の遺伝子増幅後に、より高いレベルの抗体発現が得られた。より高いレベルの抗体発現が、良好な細胞成長を妨げないことが、さらに観察された。手短に言うと、この遺伝子導入作戦によって、CMC製造のためのいくつかの新しい候補の特定がもたらされる。
【0234】
(5. ヒト化且つ脱免疫化された抗体の単量体のAβペプチドに対する結合を分析するための表面プラズモン共鳴測定)
表面プラズモン共鳴測定を使用して、配列番号.1を有する軽鎖の可変部分と配列番号.2を有する重鎖の可変部分を含む抗体の結合有効性を調べた。測定中の物質移動及びアビディティ効果(avidity effect)を防止するために、以下の手順を使用した。
【0235】
最初に、ポリクローナルα-ヒト抗体を、SPRチップにカップリングさせ、その後、反応単位(Response Unit)が1000を超えるまで、抗体を負荷した。
【0236】
動態測定を、異なる濃度(5から1000nM)のAβ-ペプチドで実施した。測定された系列のグラフを、センサーグラムとの重ね合わせプロットとして示し、泳動用緩衝液を測定するセンサーグラムによって補正し、注入の時点、及び注入前にゼロに調節したベースラインの時点で揃えた。これらの結果を、koff及びkon速度定数を奨励する、単純な1:1相互作用モデル(ラングミュアフィット(Langmuir fit))に従って評価する。
【0237】
1:1ラングミュアフィッティング(Langmuir fitting)に従う見かけの速度定数を、表4に列挙した。抗体がチップ表面に非共有結合的に結合するという事実により、少量の抗体分子は、測定中に洗い流された。したがって、Rmax値は、一つ一つのセンサーグラムについて局所的に適合された。
【0238】
表4:ヒト化且つ脱免疫化された抗体クローン#6の動態におけるラングミュアフィットの統計
【表5】
【0239】
(Aβ(pE3-18)に対する結合)
記録されたセンサーグラムの定性及び外観検査により、結合並びに解離段階についての良好な形態が示される。さらに、応答シグナルの濃度依存性の上昇、及び結合段階における初期勾配の増大が観察された。最大SPRシグナルは、約44RUであり、これは、物質輸送効果なし又はごくわずかな物質輸送効果の結合動態を測定する最適範囲の範囲内であった。ベースラインドリフトは観察されず、したがって、データを、ラングミュア1:1結合モデルを使用して評価し、この相互作用の結合特性、及び適合の質を得た(表4)。
【0240】
(Aβ(3-18)に対する結合)
記録されたセンサーグラムの定性及び外観検査により、結合並びに解離段階についての良好な形態が示される。さらに、応答シグナルの濃度依存性の上昇、及び結合段階における初期勾配の増大が観察された。最大SPRシグナルは、約44RUであり、これは、物質輸送効果なし又はごくわずかな物質輸送効果の結合動態を測定する最適範囲の範囲内であった。ベースラインドリフトは観察されず、したがって、データを、ラングミュア1:1結合モデルを使用して評価し、この相互作用の結合特性、及び適合の質を得た(表4)。
【0241】
(Aβ(1-18)に対する結合)
記録されたセンサーグラムの定性及び外観検査により、使用されるペプチド濃度に適した弱い結合についての典型的な形態が示される。わずかなベースラインドリフトが観察され;したがって、データを、ドリフトするベースラインのモデルを用いるラングミュア1:1結合を使用して適合させた。動態学的データの評価(表4)は、23.1μMの解離定数をもたらし、これは、測定された最も高いAβ(1-18)濃度を超えていた。さらに、算出されたRmax値は、最も高い濃度の応答値よりも有意に高かった。両方の事実から、得られた結合特性が、明らかにKD>10μMの範囲内であることが示される。
【0242】
(Aβ(4-18)に対する結合)
記録されたセンサーグラムの定性及び外観検査により、使用されるペプチド濃度に適した非常に弱い結合についての典型的な形態が示される。非常に速い結合及び解離が原因で、データを動態学的に評価することができず、したがって、定常状態モデルを使用した。定常状態における応答シグナルの評価(表4)は、28.3μMの解離定数をもたらし、これは、測定された最も高いAβ(4-18)濃度を超えていた。さらに、算出されたRmax値は、最も高い濃度の応答値よりも有意に高かった。両方の事実から、得られた結合特性が、明らかにKD>10μMの範囲内であるに違いないことが示される。
【0243】
(6. Aβ原線維及びAβオリゴマーに対する結合)
Aβ(1-42)ペプチドの原線維を、pH8.7及び37℃で、標準のプロトコルに従って産生した。完全な線維形成後、その構造体を、60μl吸引し、140μlの泳動用緩衝液に希釈し、1μl/分の流速を伴う捕捉抗体の使用によってセンサーチップに負荷した。次いで、このシステムを、安定なベースラインを得るまで洗浄した。約100RUのAβ(1-42)原線維が、センサーチップに捕捉された。
【0244】
Aβ(1-42)ペプチドのオリゴマーを、4℃で一晩、HamのF12培地中で、ACUMENプロトコルに従って産生し、遠心分離によって凝集したAβから分離した。その後、このオリゴマーを、20μl吸引し、60μlの泳動用緩衝液に希釈し、1μl/分の流速を伴う捕捉抗体の使用によってセンサーチップに負荷した。次いで、このシステムを、安定なベースラインを得るまで100μl/分で一晩、洗浄した。約300RUのAβ(1-42)オリゴマーが、センサーチップに捕捉された。
【0245】
Aβ(1-42)ペプチドの原線維について:安定なベースラインを得た後、30μl/分、480秒の接触時間、及び1200秒の解離時間を用いて、WO 2017/009459に開示されている通りの親抗体クローン#6及び本発明のヒト化且つ脱免疫化された抗体クローン#6の11回の連続注入(10pM、30pM、90pM、270pM、810pM、2.43nM、7.29nM、21.87nM、65.61nM、196.83nM、及び590.49nM)によって、相互作用分析を実施した。得られたセンサーグラムを、(結合を示す最初の注入から開始する)5つの連続的濃度と、Rmax及びベースラインドリフトの全体的適合並びにあらゆる注入のバルク効果の局所適合を用いるシングルサイクルカイネティクス(Single Cycle Kinetics)モデルを使用して評価した。
【0246】
Aβ(1-42)ペプチドのオリゴマーについて:安定なベースラインを得た後、30μl/分、480秒の接触時間、及び3600秒の解離時間を用いて、WO 2017/009459に開示されている通りの親抗体クローン#6及び本発明のヒト化且つ脱免疫化された抗体クローン#6の11回の連続注入(10pM、30pM、90pM、270pM、810pM、2.43nM、7.29nM、21.87nM、65.61nM、196.83nM、及び590.49nM)によって、相互作用分析を実施した。得られたセンサーグラムを、(結合を示す最初の注入から開始する)5つの連続的濃度と、Rmax及びベースラインドリフトの全体的適合並びにあらゆる注入のバルク効果の局所適合を用いるシングルサイクルカイネティクス(Single Cycle Kinetics)モデルを使用して評価した。
【0247】
(結果)
表5:原線維Aβ(1-42)ペプチドに対する結合
【表6】
【0248】
表6:Aβ(1-42)ペプチドのオリゴマーに対する結合
【表7】
【0249】
(表5及び表6では)
Aは、配列番号:1の軽鎖の可変領域と配列番号:49の重鎖の可変領域を含む、WO 2017/009459に開示されている親抗体クローン#6であり、
Bは、配列番号:1の軽鎖の可変領域と配列番号:2の重鎖の可変領域を含む、本発明のヒト化且つ脱免疫化された抗体クローン#6である。
【0250】
これらの結果からわかる通り、本発明は、Aβペプチドのオリゴマー及び/又は原線維に対する選択性の増大を示す抗体、及びその断片を提供する。本発明の抗体は、Aβ(1-42)のオリゴマー及び/又は原線維に対する結合について、従来技術において公知の匹敵するモノクローナル抗体よりも、特にWO 2017/009459に開示されている親抗体と比較して、何倍も、例えば10倍、25倍、50倍、100倍、150倍、200倍、250倍低い、又は250倍以上低い結合定数(KD値)を示す。したがって、Aβ N3pEペプチドに選択的に結合することが確立された本発明の抗体は、Aβ N3pEペプチドに対して、より特異的であり、且つAβ N3pE以外のAβペプチドに対する低下された交差反応性を示す。
【0251】
(7. Fcγ受容体に対する結合)
配列番号:19の重鎖又はそのK324A変異バリアント(配列番号:18)のいずれかを含む2種の抗体の、様々なFcγ受容体(CD16A、CD32A、CD32B、及びCD64)に対する結合を比較した。
【0252】
K324A変異体を、部位特異的変異誘発によって産生した。結合は、完全長ヒトCD16A、CD32A、CD32B、又はCD64を安定して発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に対する、FACSに基づくバイオアッセイにおいて測定した。両方の抗体を、7つの異なる濃度で、各細胞株と共に1時間インキュベートし、それに続いて洗浄を行った。受容体に結合したH6又はH67を、蛍光色素をコンジュゲートした抗Fab'で検出した。結合能は、FACSによって測定し、Kd及びBmaxは、非線形回帰によって算出した。
【0253】
結果:どちらの抗体も、全ての受容体に対して同等の結合を示した。
【0254】
(8. C1qに対する結合)
抗体のエフェクター機能をより良く特徴付けるために、配列番号:19の重鎖又はそのK324A変異バリアント(配列番号:18)のいずれかを含む2種の抗体の、C1qに対する結合を比較した。
【0255】
これらの抗体のC1qに対する結合の、
a)2種の抗体の、プレートに対する直接的結合、及びその後の溶液中のC1qに対する結合;及び
b)ビオチン化されたpE-Aβペプチドと共に最初にインキュベートした、ストレプトアビジンでコーティングされたプレートの、抗体に対する、次いでC1qに対する結合
を含めたいくつかのアッセイフォーマットを試験した。
【0256】
手短に言うと、フォーマットa)が、最良の結果をもたらした。その手順を以下に要約する:
ELISAプレートを、10、8、6、4、3、2、1、及び0μg/mlの、配列番号:19の重鎖、そのK324A変異バリアント(配列番号:18)を含む抗体、及びC1qと結合しないK324A対照でコーティングし(3連)、4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレートを、1×PBSで3回洗浄し、次いで、50μl/ウェルの1%BSA(1×PBS中)でブロッキングした。C1q(Sigma社、カタログ番号C1740)を、2μg/ml(ブロッキング緩衝液中)で各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。次いで、プレートを、200μlの1×PBSで3回洗浄した。このプレートに、抗C1q-HRP(Thermo社、カタログ番号PA1-84324)を、1:250希釈(ブロッキング緩衝液中)(50μl/ウェル)で添加して、1時間、結合を検出した。このプレートを、200μlの1×PBSで再び3回洗浄した。50μlのTMB(Invitrogen社、カタログ番号002023)を、各ウェルに添加して、相互作用(Invitrogen社、カタログ番号002023)を2分間可視化させた。50μlの停止溶液(1M硫酸)50μlを各ウェルに添加し、その後450nmでの吸光度を読み取った。
【0257】
結果:配列番号:19の野生型重鎖を含む抗体は、C1qに確かに結合した。そのK324A変異バリアント(配列番号:18の重鎖を含む)は、C1qに結合しなかった。
【0258】
(9. 免疫組織化学)
IHC(免疫組織化学)を用いて、脳の組織切片における抗原Aβ N3pEの場所を突き止めることができる。したがって、本発明の抗体を、Aβ N3pEの検出のために使用した。
【0259】
IHCのために、AD患者からの海馬及び前頭皮質のヒト脳組織切片、さらに、本明細書に記載した通りのアルツハイマー病の既存の動物モデルからの海馬の脳組織切片を使用することができる。これらのマウスモデルは、脳Aβレベルの増大、それに続く神経突起斑の発生を示す。組織切片は、パラフィン包埋し、連続切片とされた。これらの切片を、ヘマトキシリンで染色して細胞の核を着色し、次いで、本発明の抗Aβ N3pE抗体で免疫染色した。組織切片の調製及び染色は、標準の方法論に従って実施した。
【0260】
(10. インビボでのアルツハイマーマウスの治療)
合計62匹の雄マウスを、この研究に利用した。免疫化の開始前に、アルツハイマー病の既存のマウスモデルの4匹(平均5.6±0.45か月)のマウスを、ベースライン対照として屠殺して、治療の開始時の脳のAβ斑負荷を評価した。残りのマウスは4つの群に分けられ、以下の治療:250μlの滅菌PBS(n=12;平均5.89±0.13か月)、200μgの本発明の抗体を受けた。月齢及び性別を適合させたWt同腹仔の群に、250μlのPBSを注射し(n=12;平均5.80±0.12か月)、行動対照とした。マウスを、28週間、腹腔内注射による250μlの総体積の(抗体又はPBS)で治療した。
【0261】
(安楽死及び組織調製)
月齢6か月(ベースライン)又は13か月で、マウスを安楽死させ、灌流し、血漿を収集した。脳を摘出し、矢状方向に分割した。海馬、皮質、及び小脳を、一方の半球から切断し、生化学的分析のために瞬間凍結させた。他方の半球を、4%パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences社)中で、4℃で24時間、浸漬固定(drop-fix)し、4℃の段階的なスクロース溶液中で凍結保護し、OCTコンパウンド(Tissue Tek社)中に包埋した。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
抗体又はその機能的バリアントであって、前記抗体の軽鎖の可変部分が、
(化1)
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなり、
且つ
前記抗体の重鎖の可変部分が、
(化2)
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる、前記抗体又はその機能的バリアント。
(態様2)
前記軽鎖中に、CDR領域:
(化3)
を含む、態様1記載の抗体。
(態様3)
前記重鎖中に、CDR領域:
(化4)
を含む、態様1記載の抗体。
(態様4)
前記軽鎖が、
(化5)
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる、態様1~3のいずれか1項記載の抗体。
(態様5)
前記重鎖が、
(化6)
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる、態様1~4のいずれか1項記載の抗体。
(態様6)
前記重鎖が、
(化7)
のアミノ酸配列を含む、又は本質的に該アミノ酸配列からなる、又は該アミノ酸配列からなる、態様1~5のいずれか1項記載の抗体。
(態様7)
前記ヒト化抗体が、Aβ N3pEエピトープのピログルタミン酸保有N末端に特異的に結合する、態様1~6のいずれか1項記載の抗体。
(態様8)
前記ヒト化抗体が、
(化8)
からなる群から選択されるエピトープに特異的に結合する、態様1~7のいずれか1項記載の抗体。
(態様9)
前記本発明のヒト化抗体が、Aβ N3pEバリアントに結合し、ここでは該Aβ N3pEバリアントは、pE-Aβ 3-X と定義され、ここではxは、19から42までの整数と定義される、態様1~6のいずれか1項記載の抗体。
(態様10)
前記Aβ N3pEバリアントが、
pE-Aβ 3-38
pE-Aβ 3-40
pE-Aβ 3-42
から選択される、態様9記載の抗体。
(態様11)
前記抗体が、N末端にピログルタミン酸を保有しないエピトープには結合しない、態様1~10のいずれか1項記載の抗体。
(態様12)
態様1~11のいずれか1項記載の抗体を含む医薬組成物。
(態様13)
さらなる生物活性物質及び/又は医薬として許容し得る担体及び/又は希釈剤及び/又は賦形剤をさらに含む、態様12記載の医薬組成物。
(態様14)
前記さらなる生物活性物質が、中性子透過増強剤、精神治療薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、カルシウムチャネル遮断薬、生体アミン、ベンゾジアゼピントランキライザー、アセチルコリン合成、貯蔵又は放出増強剤、アセチルコリンシナプス後受容体アゴニスト、モノアミンオキシダーゼA又はB阻害剤、N-メチル-D-アスパラギン酸型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、非ステロイド性抗炎症薬、抗酸化剤、及びセロトニン受容体アンタゴニストから選択される、態様13記載の医薬組成物。
(態様15)
前記さらなる生物活性物質が、酸化ストレスに対して有効な化合物、抗アポトーシス化合物、金属キレート剤、ピレンゼピン及び代謝産物などのDNA修復の阻害剤、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸(3APS)、1,3-プロパンジスルホネート(1,3PDS)、α-セクレターゼ活性化剤、β-及びγ-セクレターゼ阻害剤、タウタンパク質、神経伝達物質、βシートブレーカー、アミロイドβを排除/枯渇させる細胞成分の誘引物質、ピログルタミン酸化されたアミロイドβ3-42を含めたN末端が切断されたアミロイドβの阻害剤(グルタミニルシクラーゼの阻害剤など)、抗炎症性分子、又はコリンエステラーゼ阻害剤(ChEI)(タクリン、リバスチグミン、ドネペジル、及び/又はガランタミンなど)、Mlアゴニスト、並びにあらゆるアミロイド又はタウ修飾薬及び栄養補助剤を含めた他の薬物、コリンエステラーゼ阻害剤(ChEI)、メマンチン、又はグルタミニルシクラーゼ阻害剤からなる群から選択される、態様14記載の医薬組成物。
(態様16)
アミロイドーシスの診断、治療に使用するための、特に、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症からなる群から選択される神経変性疾患の治療;及び/又は前駆期AD、軽度AD、中等度AD、及び重度ADから選択される状態の治療、及び/又は臨床期又は前臨床期のアルツハイマー病、ダウン症候群、及び臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症から選択される状態と診断された患者における認知低下を遅らせることに使用するための、態様1~15のいずれか1項記載の抗体又は医薬組成物。
(態様17)
前記抗体又は前記医薬組成物の投与が、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)(例えば、孤発性アルツハイマー病(SAD)、又は家族性イギリス型認知症(FBD)及び家族性デンマーク型認知症(FDD)のような家族性アルツハイマー型認知症(FAD)のような)、ダウン症候群における神経変性、並びに臨床期又は前臨床期の脳アミロイド血管症、及び/又は前駆期AD、軽度AD、中等度AD、及び重度ADから選択される状態と診断された対象における、認知低下の逆行、認知の改善、又は認知低下の予防をもたらす;又は
前記抗体又は前記医薬組成物の投与が、斑又は他の生物学的複合体からのAβ N3pEのクリアランス又は除去をもたらす;又は
前記抗体又は前記医薬組成物の投与が、脳組織などの罹患組織からの斑負荷の減少及び/又は完全体の斑の除去をもたらす、
態様24記載の使用のための抗体又は医薬組成物。
図1
図2A
図2B
図3
図4
【配列表】
0007337077000001.app