IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カリフレックス・ピー・ティー・イー・リミテッドの特許一覧

特許7337152分岐ポリマーから形成されたラテックス及びラテックス物品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】分岐ポリマーから形成されたラテックス及びラテックス物品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/12 20060101AFI20230825BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20230825BHJP
   A41D 19/04 20060101ALI20230825BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20230825BHJP
   C08G 83/00 20060101ALI20230825BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C08J5/12 CFH
A41D19/00 A
A41D19/04 B
C08F293/00
C08G83/00
C08J5/18
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021521536
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 US2019064177
(87)【国際公開番号】W WO2020117764
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】62/775,624
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/889,781
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520197561
【氏名又は名称】カリフレックス・ピー・ティー・イー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デル・ハイゼン,アドリー
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デ・ウェヒ,ヘンク
(72)【発明者】
【氏名】デ・ヨング,ワウテル
(72)【発明者】
【氏名】トロンプ,マールテン
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-538360(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0104663(US,A1)
【文献】国際公開第2012/086496(WO,A2)
【文献】特表平08-505426(JP,A)
【文献】特開2001-163934(JP,A)
【文献】特表2000-505483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/12
C08F 293/00
C08G 83/00
A41D 19/04
A41D 19/00
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のポリマーブロックA及び1つ以上のポリマーブロックBを含み、式(A-B)(RO)3-mSi-Y-Si(RO)3-n(B-A)を有する分岐ブロックコポリマーを含むラテックスから作製したフィルム物品であって、
各Aブロックが、独立して、少なくとも90モルパーセントのアルケニル芳香族炭化水素を含み、前記1つ以上のAブロックが、前記ブロックコポリマーの総重量の8~13重量パーセントを形成し、
各Bブロックが、独立して、少なくとも90モルパーセントの1つ以上の1,3-ジエンを含むポリ(1,3-ジエン)ブロックであり、
各Aブロックが、独立して、9~15kg/モルの重量平均分子量を有し、各Bブロックが、独立して、75~150kg/モルの重量平均分子量を有し、
及びRが、独立して、H又はC-Cアルキル基であり、Yが、C-Cアルキレン基であり、m及びnが、独立して、1~3の値を有する整数であり、
前記分岐ブロックコポリマーが、少なくとも40%のカップリング効率(CE)を有し、
前記フィルム物品が、少なくとも20MPaの引張強度を示す、
フィルム物品。
【請求項2】
(m+n)が、3~6の値を有する、請求項1に記載のフィルム物品。
【請求項3】
Yが、-CHCH-であり、R及びRが、水素、メチル基又はエチル基である、請求項1に記載のフィルム物品。
【請求項4】
前記1,3-ジエンが、イソプレンであり、前記アルケニル芳香族炭化水素が、スチレンである、請求項1に記載のフィルム物品。
【請求項5】
前記フィルム物品が、少なくとも20Mpaの引張強度、少なくとも500%の破断点伸び及び少なくとも15kN/mの引裂強度のうちの少なくとも1つを示す、請求項1~4のいずれかに記載のフィルム物品。
【請求項6】
前記フィルム物品が、コンドーム及び手袋から選択される浸漬物品である、請求項1~4のいずれかに記載のフィルム物品。
【請求項7】
式(C)(RO)3-mSi-Y-Si(RO)3-n(C)を有する分岐ポリイソプレンホモポリマーを含むラテックスから作製したフィルム物品であって、
各Cブロックが、独立して、400~1000kg/モルの重量平均分子量を有するポリイソプレンブロックであり、
及びRが、独立して、H又はC-Cアルキル基であり、Yが、C-Cアルキレン基であり、m及びnが、独立して、1~3の値を有する整数であり、
前記分岐ポリイソプレンホモポリマーが、少なくとも40%のカップリング効率(CE)を有し、
前記フィルム物品が、少なくとも20MPaの引張強度を示す、
フィルム物品。
【請求項8】
(m+n)が、3~6の値を有する、請求項7に記載のフィルム物品。
【請求項9】
Yが、-CHCH-であり、R及びRが、水素、メチル基又はエチル基である、請求項7に記載のフィルム物品。
【請求項10】
前記Cブロックが、500~700kg/モルの重量平均分子量を有する、請求項7に記載のフィルム物品。
【請求項11】
前記フィルム物品が、少なくとも500%の破断点伸び及び少なくとも15kN/mの引裂強度のうちの少なくとも1つを示す、請求項7~10のいずれかに記載のフィルム物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年12月5日に出願された米国特許仮出願第62/775,624号及び2019年8月21日に出願された米国特許仮出願第62/889,781号の優先権を主張し、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、多官能性カップリング剤を使用して作製した分岐ポリマーを含むラテックス及びそれから作製した物品に関する。
【背景技術】
【0003】
エラストマーのブロックコポリマー及びホモポリマーは、幅広い最終用途に有用な合成材料である。重合共役ジエンブロックの1つ以上のブロックを有するホモポリマー及びブロックコポリマーは、そのような材料の例である。例としては、スチレン-ブタジエンブロックコポリマーなどのスチレン系ブロックコポリマー、並びにポリブタジエンホモポリマー及びポリイソプレンホモポリマーが挙げられる。比較的狭い分子量分布を有するスチレン系ブロックコポリマー及びポリイソプレンは、一般にアニオン重合を用いて調製される。合成ポリイソプレンはまた、チーグラー・ナッタ触媒を使用してイソプレンを重合することによって製造される。ポリイソプレンホモポリマーは、合成の、主に立体規則性ポリマーであり、分子構造と同様に特性において天然ゴムに酷似している。ポリマーは最初に有機溶液中で製造され、その後凝固させ、乾燥させて固体ゴムにするか、又は水性ラテックス形態に変換することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
改良された特性を有するブロックコポリマー及びホモポリマーから作製したラテックス、ラテックス物品、並びにラテックスを作製するための方法の生産性をさらに改善することも継続的に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、ラテックス物品、例えば、1つ以上のポリマーブロックA及び1つ以上のポリマーブロックBを含み、式(A-B)(RO)3-mSi-Y-Si(RO)3-n(B-A)を有する分岐ブロックコポリマーを含むラテックスから作製した浸漬フィルムである。各Aブロックは、独立して、少なくとも90モルパーセントのアルケニル芳香族炭化水素を含み、9~15kg/モルの重量平均分子量を有し、1つ以上のAブロックは、ブロックコポリマーの総重量の8~13重量パーセントを形成する。各Bブロックは、独立して、少なくとも90モルパーセントの1つ以上の1,3-ジエンを含み、75~150kg/モルの重量平均分子量を有するポリ(1,3-ジエン)ブロックである。R及びRは、独立して、H又はC-Cアルキル基であり、Yは、C-Cアルキレン基であり、m及びnは、独立して、1~3の値を有する整数である。ブロックコポリマーは、少なくとも40%、好ましくは80%超のカップリング効率(CE)を有する。
【0006】
本開示の別の態様は、式(C)(RO)3-mSi-Y-Si(RO)3-n(C)を有する分岐ポリイソプレンホモポリマーを含むラテックス物品であり、、各Cブロックは、400~1000kg/モル、好ましくは500~700kg/モルの重量平均分子量を独立して有するポリイソプレンブロックである。R及びRは、独立して、H又はC-Cアルキル基であり、Yは、C-Cアルキレン基であり、m及びnは、独立して、1~3の値を有する整数である。ホモポリマーは、少なくとも40%、好ましくは80%超のカップリング効率(CE)を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書で使用される以下の用語は、以下の意味を有する。
【0008】
「活性材料」という用語は、成長末端に反応性カルバニオン中心を有するポリマー鎖を表すために使用される。
【0009】
「カップリング効率」(CE)という用語は、GPCによって決定したカップリングされたポリマーに対する非カップリングポリマーの比を定量化するために使用される。
【0010】
「分岐度」という用語は、分岐ブロックコポリマーの分子あたりに存在するポリマーアームの平均総数を指す。
【0011】
多官能性カップリング剤:ラテックス物品の作製に使用するための分岐ブロックコポリマー及び分岐ポリイソプレンホモポリマーは、一般式(I):
(RO)Si-Y-Si(RO)(I)
で表される多官能性カップリング剤を使用して調製され、
、R及びRは、独立して、H又はC-Cアルキル基であり、Yは、C-Cアルキレン基である。カルバニオン鎖末端を有する反応性ポリマー鎖は、カップリング剤(I)の2つのケイ素中心と反応して、カップリングされたブロックコポリマー及びカップリングされたホモポリマーを形成する。式(I)は6個の脱離基(アルコキシ基)を有するので、カップリング剤は六官能性であり、したがって理論的には、各ケイ素上に1~3つのポリマー鎖が存在し得る。式(I)を含む任意の六官能性有機ケイ素化合物を、カップリング剤として使用することができる。一実施形態では、好ましい多官能性カップリング剤は、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン(BTMSE)、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTESE)又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0012】
分岐ブロックコポリマー及び分岐ポリイソプレンホモポリマー:式(I)の多官能性カップリング剤を使用して調製された分岐ブロックコポリマーは、1つ以上のポリマーブロックA及び1つ以上のポリマーブロックBを含み、一般式(II):
(A-B)(RO)3-mSi-Y-Si(RO)3-n(B-A)(II)
で表され、
、R及びYは、式(I)について上述したようなものであり、m及びnは、以下でさらに説明するように、分岐の程度を与える整数である。いくつかの実施形態では、分岐ブロックコポリマー(II)は、H、メチル又はエチルから独立して選択されるR及びRを有し、Yは、-CH-CH-基である。
【0013】
Aブロックは、1つ以上のアルケニル芳香族炭化水素に由来する繰り返し単位から主に構成される芳香族ブロックである。いくつかの実施形態では、Aブロックは、少なくとも90モルパーセント、90~95モルパーセント又は少なくとも95モルパーセントのアルケニル芳香族炭化水素を含む。ブロックコポリマー全体におけるAブロックの重量パーセントは、一般に15重量パーセント未満である。いくつかの実施形態では、Aブロックは、8~13重量パーセント、あるいは8~10重量パーセント、あるいは10~13重量パーセントを形成する。Aブロックは、9~15kg/モルの重量平均分子量を有する。他の実施形態では、Aブロック分子量は、9~12kg/モル、あるいは12~15kg/モルである。当技術分野で公知のアルケニル芳香族炭化水素のいずれか、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラ-メチルスチレン、ビニルナフタレンなどを用いることができる。スチレンは、好ましいモノマーである。
【0014】
Bブロックは、1つ以上の共役ジエン(1,3-ジエン)に由来する繰り返し単位から主に構成されるエラストマーブロックである。いくつかの実施形態では、Bブロックは、少なくとも90モルパーセント、90~95モルパーセント又は少なくとも95モルパーセントの1,3-ジエンを含む。各Bブロックは、75~150kg/モルの重量平均分子量を有する。他の実施形態では、Bブロック分子量は、75~100kg/モル、100~125kg/モル又は125~150kg/モルであり得る。Bブロックを調製するのに好適な1,3-ジエンの非限定的な例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、シクロヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、ミルセン、ファルネセンなどが挙げられる。
【0015】
式(II)中のm及びnの値については、独立して1~3の範囲である。m及びnの値が1~3に増加するにつれて、コポリマー全体におけるより高度に分岐したコポリマーの量がそれに対応して増加する。いくつかの実施形態では、式(II)におけるm及びnの値は、それぞれ、1、2;1、3;2、2;2、3;3、2;3、1及び3、3であり得る。反応性ポリマー鎖が多官能性カップリング剤とカップリングする場合、化学量論及び反応条件に応じて、1~3の範囲のm及びn値の範囲を有する分岐ブロックコポリマーの混合物となる可能性がある。したがって、理論的には、カップリング反応から生じる全体的な生成物は、m及びnの平均値、並びに生成物中の分岐ブロックコポリマーの総量の程度を与える全体的な分岐度によって特徴付けることができる。これは次に、コポリマーの物理的及び/又は化学的特性に影響を及ぼし得る。一態様では、分岐ブロックコポリマー(II)は、(m+n)が2より大きく6以下となるような1~3のm及びnの値を有することができ、これは数学的に2<(m+n)≦6として表すことができる。
【0016】
分岐ポリイソプレンホモポリマーは、1つ以上のポリマーブロックCを含み、一般式(III):
(C)(RO)3-mSi-Y-Si(RO)3-n(C)(III)
で表され、
、R及びYは、式(I)について上述したようなものであり、m及びnは、式(II)について上述したようなものである。Cブロックは、1つ以上の共役ジエン(1,3-ジエン)に由来する繰り返し単位から主に構成される。Cブロックを調製するのに有用な好適な1,3-ジエンの非限定的な例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、シクロヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、ミルセン、ファルネセンなどが挙げられる。Cブロックは、独立して、400~1000kg/モル、好ましくは500~700kg/モルの重量平均分子量を有する。分岐ホモポリマー(III)における分岐度は、m及びnの値に依存し、分岐ブロックコポリマー(II)について上で説明したのと同様に変化し得る。一実施形態では、m及びnは、1又は1の値を有する。別の実施形態では、m及びnは、(m+n)が2より大きく6以下となるような1~3の値を有し、これは数学的に2<(m+n)≦6として表すことができる。m+nの値は、3~6であり得る。いくつかの実施形態では、式(III)におけるm及びnの値は、それぞれ、1、2;1、3;2、2;2、3;3、2;3、1及び3、3であり得る。好ましい実施態様では、R及びRは、H、メチル又はエチルから独立して選択され、Yは、-CH-CH-基である。
【0017】
分岐コポリマーの製造方法:式(II)の分岐ブロックコポリマーは、最初にポリマーブロックA、次いでブロックBを構築し、続いて反応性鎖末端を多官能性カップリング剤(I)でカップリングすることによって得られる。ブロックAは、アニオン開始剤を使用して、少なくとも90モルパーセントのアルケニル芳香族炭化水素を含む1つ以上のアルケニル芳香族炭化水素であり得る第1のモノマーを重合することによって構築される。少量(最大で10モルパーセント)の他のアニオン重合性モノマー、例えば、1,3-ジエンが、第1のモノマー中に存在し得る。次いで、少なくとも90モルパーセントの1つ以上の1,3-ジエンを含む第2のモノマーを添加し、重合によりブロックBを得る。第2のモノマーは、少量(最大で10モルパーセント)の別のアニオン重合性モノマー、例えば、アルケニル芳香族炭化水素を含むことができる。反応は、不活性ガス雰囲気(窒素又はアルゴン)下で実施される。アニオン開始剤は、一般に、アルキルリチウム、例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、n-ヘキシルリチウムなどである。好適な溶媒は、例えば、液体低級炭化水素溶媒などの液体炭化水素溶媒である(例として、n-ペンタン、シクロペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタンなど)。反応は、-50℃~150℃又は20℃~100℃の温度で実施することができる。イソプレンは、主に直鎖状に重合して、「リビング」アニオン鎖末端を有するポリイソプレン鎖を形成する。モノマーの所望の転化率パーセントに達した後、式(I)の多官能性カップリング剤を添加することによって重合を停止させる。得られた生成物(II)は、所望の分岐ブロックコポリマーを含み、所望であれば、固体ゴム生成物に凝固させるか、又は水性ラテックス形態に変換することができる。
【0018】
分岐ポリイソプレンホモポリマー(III)は、上で説明したものと同様の条件下でアニオン開始剤を用いてイソプレンを重合させ、続いて反応性鎖末端を多官能性カップリング剤(I)でカップリングすることによって得られる。モノマーの所望の転化率パーセントに達した後、カップリング剤(I)よって重合を停止させる。得られた分岐ブロックコポリマーは、固体ゴム生成物に凝固させるか、又は水性ラテックス形態に変換することができる。
【0019】
上記で得られたゴムセメントは、一般に、一実施形態では5重量%~35重量%、別の実施形態では15重量%~25重量%の固形分含有量を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー(II)及び(III)中のポリイソプレン鎖におけるシス含有量は、70%~95%の範囲である。
【0020】
温度依存性の動的粘度プロファイルは、所与の重量%濃度についてそれを示し、同程度の分子量で、コポリマー(II)及びホモポリマー(III)の粘度は、カップリング剤なしで作製した対応する直鎖状のコポリマー及びホモポリマーの粘度より著しく低い。いくつかの実施形態では、ポリマー(II)を有するゴムセメントは、15重量%~25重量%の固形分含有量で、70%~95%のシス含有量、25,000mPas未満、又は20,000mPas未満、又は15,000mPas未満のゼロせん断粘度、及び350kg/モル~700kg/モルの重量平均分子量を有する。他の実施形態では、ポリマー(III)を有するゴムセメントは、15重量%~25重量%の固形分含有量で、70%~95%のシス含有量、80,000mPas未満、又は75,000mPas未満、又は70,000mPas未満のゼロせん断粘度、及び1,000kg/モル~3,500kg/モルの重量平均分子量を有する。ゴムセメントの粘度の低下は、加工装置を大型化する必要なく、最大100%又はさらに高いスループットのゴムセメントの取り扱いを可能にするため、製造セットアップにおいて有用な利点を提供する。
【0021】
重合ステップから得られた有機溶媒中のカップリングされたポリマー(II)又は(III)のゴム溶液は、高せん断ミキサーを使用して界面活性剤水溶液と混合することによって水性ラテックスに変換することができる。続いて、得られたエマルジョンから溶媒を除去して、残留溶媒を0.1%未満にする。得られた希釈水性ラテックスは、遠心分離又はクリーミングによって60重量%のゴムに濃縮することができる。
【0022】
乳化行程で使用される界面活性剤はまた、一旦形成されたラテックスを安定化する。使用される界面活性剤の量は、乾燥基準でのポリイソプレンの重量に基づいて、一般に0.5~2.0重量%の範囲である。アニオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤の例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、他のアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩(例えば、Cl4オレフィンスルホネート)、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルコール硫酸塩、任意選択的に、カプリル酸カリウム、ポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテルなどの1つ以上の他の界面活性剤との組み合わせが挙げられる。一実施形態では、界面活性剤は、ロジン、二量体ロジン、不均化ロジン、及び水素添加ロジンを含む、ロジンタイプ材料のアルカリ金属塩であってもよい。別の実施形態では、界面活性剤はまた、トール油脂肪酸、例えば12~20個の炭素原子を有する長鎖脂肪酸などのアルカリ金属塩から選択される1つ以上の要素であってもよい。
【0023】
特性:分岐ホモポリマー(II)及びコポリマー(III)のラテックスは、非常に良質の浸漬フィルムを形成する。そこから形成された硬化フィルムは、改善された特性を示した。いくつかの実施形態では、硬化フィルムは、20MPa~40MPa、又は少なくとも25MPa、若しくは少なくとも30MPaの引張強度を示す。いくつかの実施形態では、フィルムはまた、500%~1250%、若しくは750%~1250%、又は少なくとも750%の破断点伸びを示す。いくつかの実施形態では、フィルムはまた、15kN/m~35kN/m、又は少なくとも20kN/mの引裂強度を示す。上記範囲の3つの特性を全て有するフィルムを形成することも可能である。
【0024】
分岐ポリマー(II)及び(III)の使用:ポリマー(II)又は(III)を含有するラテックスは、物品の製造に有用である。この方法は、凝固剤を含まないか、又は凝固剤でコーティングされた成形具を、水性ラテックスエマルジョンに少なくとも1回浸漬して、成形具の表面にカップリングされたポリイソプレンの個々の粒子を有するラテックスフィルムの薄層を形成することを含む。当技術分野で公知の任意の成形具を使用することができる。この技術はまた、成形具上にラテックス粒子の複数のフィルムを積層して、物品、例えば、手袋、コンドームなどを製造し、次いで、ラテックスフィルムを成形具から剥がすために使用することができる。
【実施例
【0025】
実施例では、ポリマー分子量(本明細書では「重量平均分子量」又は「GPC分子量」と呼ばれる)は、ポリスチレン較正標準を使用したHMW-GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって決定することができる。ラテックスの中央粒径は、Beckman Coulter LS13320を使用したレーザー回折によって決定することができる。固形分含有量は、Sartorius MA35水分計を用いて測定することができる。
【0026】
多官能性カップリング剤を用いた反応によるカップリング効率は、より高分子量のカップリングされたポリマーに対する非カップリングポリマーのピーク積分比からGPCによって決定することができる。
【0027】
撹拌しながら60℃でCa(NO.4HO(約14%)及びCaCO(約5%)を水に溶解/分散させることによって、凝固剤溶液/分散液を調製した。参照試料を含む全てのラテックスを、5phrの市販のマスターバッチ組成物(硫黄、促進剤及び酸化防止剤を含有する)と配合し、市販の界面活性剤で安定化した。化合物を脱塩水で希釈して、必要とする30%の固形分含有量を得た。1M KOH溶液の添加によってpHを11~11.5に調整した。化合物を撹拌しながら周囲で保存した。
【0028】
凝固剤浸漬実行のために、金属板を使用し、標準的な浸漬手順を適用した。フィルムを1,3及び6日の熟成後に浸漬した。浸漬フィルムの機械的特性は、ASTM D412/ISO37(ダイC)に従って、500Nロードセル及び長伸度伸び計を備えたInstron3365引張試験機を使用して決定した。引張特性を表5に示す。
【0029】
実施例1~5
分岐ポリイソプレンホモポリマーの調製。
【0030】
重合は、撹拌機、冷却、温度プローブ、圧力プローブ及び溶媒、モノマー及び他の試薬の添加/回収のための補助装置を備えた10Lステンレス鋼反応器中で、窒素雰囲気下にて行った。溶媒及びモノマーを、使用に先立ってアルコア上で精製した。基本手順として、反応器に5Lの乾燥溶媒及び450gのイソプレンを投入し、60℃に加熱した。希釈s-BuLi溶液(0.04M)を混合物に添加して、重合を開始した。必要量のモノマーを必要な分子量に転化した後、カップリング剤(BTMSE又はBTESE)を、リビング鎖/カップリング剤のモル比4/1で添加することによって反応を停止させた。場合によっては、この手順をモノマーが完全に転化するまで1回又は2回繰り返した。
【0031】
BTMSE及びBTESEを、異なるリビング鎖濃度でのイソプレン重合において評価した。結果を表1にまとめた。データは、BTMSE及びBTSEが同等のカップリング性能を有することを示している。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例6~8
分岐ポリイソプレンホモポリマーの調製。これらを、上記手順を使用してゴムセメントとして調製した。結果を表2に示す。対照試料は、カップリング剤を使用せずに作製した直鎖状の(非分岐)ポリイソプレンであった。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例9~11
分岐ポリイソプレンゴムラテックスの調製。ゴムセメント試料を、ポリマー及び石鹸溶液用の投入ポンプを有するインライン高せん断混合装置を備えたベンチスケールラテックス製造設備に移し、セメントと不均化ロジン酸カリウム塩水溶液との固定比から標準化した乳化条件下でエマルジョンを製造した。続いて、エマルジョンを溶媒除去して希釈ラテックスを得、これをアルギン酸ナトリウムの添加後にクリーミングによって濃縮した。結果を表3に示す。対照-2は、上記の対照-1のゴムセメントから調製した参照ポリイソプレンゴムラテックスである。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
表4は、多官能性カップリング剤を使用して作製した分岐ポリイソプレン(実施例12及び13)から作製した浸漬フィルムの引張特性が非常に良好であり、対照試料フィルム(対照-3)で見られるものと同等であることを示している。
【0039】
実施例14
分岐スチレン-イソプレンブロックコポリマーの調製。
【0040】
重合は、撹拌機、冷却、温度プローブ、圧力プローブ及び溶媒、モノマー及び他の試薬の添加/回収のための補助装置を備えた10Lステンレス鋼反応器中で、窒素雰囲気下にて行った。溶媒及びモノマーを、使用に先立ってアルコア上で精製した。反応器に5Lの乾燥溶媒及び400gのスチレンを投入し、60℃に加熱した。希釈s-BuLi溶液(0.04M)を混合物に添加して、重合を開始した。スチレンの転化後、3kgのイソプレンモノマーを投入した。第2のモノマーを必要な分子量に転化した後、BTMSEカップリング剤を、リビング鎖/カップリング剤のモル比4/1で添加することによって反応を停止させた。結果を表5に示す。対照-4は、カップリング剤としてGPTS(グリシジルプロピルトリメトキシシラン)を使用して作製したポリイソプレンの市販のロット試料である。
【0041】
【表5】
【0042】
実施例15
分岐スチレン-イソプレンブロックコポリマーラテックスの調製。
【0043】
実施例14によるゴムセメント試料を、ポリマー及び石鹸溶液用の投入ポンプを有するインライン高せん断混合装置を備えたベンチスケールラテックス製造設備に移した。セメントと不均化ロジン酸カリウム塩水溶液との一定の比率から標準化した乳化条件下でエマルジョンを製造した。続いて、エマルジョンを溶媒除去して希釈ラテックスを得、アルギン酸ナトリウムの添加後、クリーミングによって濃縮した。結果を表6に示す。
【0044】
【表6】
【0045】
実施例16は、実施例15の分岐スチレン-イソプレンブロックコポリマーラテックスから作製した浸漬フィルムを表す。対照5は、対照4のブロックコポリマーに由来する分岐スチレン-イソプレンブロックコポリマーラテックスから作製した浸漬フィルムを表す。表7は、多官能性カップリング剤を使用して作製した分岐スチレン-イソプレンブロックコポリマーから作製した浸漬フィルム(実施例16)の引張特性が非常に良好であり、対照試料フィルム(対照-5)で見られるものと同等であることを示している。
【0046】
【表7】
【0047】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的において、特に明記しない限り、本明細書及び本特許請求の範囲で使用される数量、パーセンテージ又は割合及び他の数値を表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものとして理解される。したがって、特に明記しない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、1つの指示対象に明示的及び明確に限定されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。本明細書で使用する場合、「含む(include)」という用語及びその文法上の変形は非限定的であることを意図しており、そのため、リスト内の項目の列挙は、この列挙された項目に置換又は追加され得る他の同様の項目を排除することを意図するものではない。
【0048】
本明細書で使用する場合、「含む(comprising)」という用語は、その用語の後に特定される要素又はステップを含むことを意味するが、任意のそのような要素又はステップは網羅的ではなく、実施形態は他の要素又はステップを含むことができる。「含む(comprising)」及び「含む(including)」という用語は、様々な態様を説明するために本明細書で使用されているが、「含む(comprising)」及び「含む(including)」の代わりに「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」という用語を使用して、本開示のより具体的な態様を提供することができ、また開示されている。
【0049】
特に指定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、開示される開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。個々の成分又は成分の混合物を選択することができる要素、材料又は他の成分の種類の列挙は、列挙された成分及びそれらの混合物の全ての可能な下位の種類の組み合わせを含むことが意図されている。
【0050】
特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者が想到する他の実施例を含むことができる。そのような他の実施例は、それらが特許請求の範囲の文言と相違しない構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文言と実質的に相違しない同等の構造要素を含む場合、特許請求の範囲内にあることが意図されている。本明細書と矛盾しない範囲で、本明細書で参照される全ての引用は、参照により本明細書に組み込まれる。