(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】吸収散乱比導出装置、方法、プログラム、記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01N 21/47 20060101AFI20230825BHJP
G01J 3/46 20060101ALI20230825BHJP
G01J 3/02 20060101ALI20230825BHJP
D01H 13/32 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
G01N21/47 Z
G01J3/46 Z
G01J3/02 C
D01H13/32
(21)【出願番号】P 2022139313
(22)【出願日】2022-09-01
【審査請求日】2023-01-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100113354
【氏名又は名称】石井 総
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】藤山 英子
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳夫
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-029553(JP,A)
【文献】特開昭63-142225(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112668174(CN,A)
【文献】特開平08-247932(JP,A)
【文献】清澤 雄、 外5名,糸間反射の影響を考慮した交織織物の色彩予測,SEN’I GAKKAISHI,日本,2006年09月,第62巻第9号,第212頁-第217頁,DOI:10.2115/fiber.62.212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01J 3/00 - G01J 3/52
D01H 1/00 - D01H 17/02
A41D 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数および散乱係数の比である吸収散乱比を導出する吸収散乱比導出装置であって、
前記繊維が所定の形態をとった場合における前記繊維の反射率の測定結果を記録する反射率記録部と、
前記繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、前記繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する補正係数記録部と、
前記所定の色に対応する前記反射率記録部の記録内容と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する前記補正係数記録部の記録内容とに基づき、前記繊維の吸収係数および散乱係数の比を導出する吸収散乱比導出部と、
を備え
、
前記所定の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であり、
前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であり、
前記所定の形態と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態とが異なる、
吸収散乱比導出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の吸収散乱比導出装置であって、
前記着色剤が、染料および顔料のいずれかまたは双方である吸収散乱比導出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の吸収散乱比導出装置であって、に対応
前記繊維が、原着糸である吸収散乱比導出装置。
【請求項4】
所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数および散乱係数の比である吸収散乱比を導出する吸収散乱比導出方法であって、
前記繊維が所定の形態をとった場合における前記繊維の反射率の測定結果を記録する反射率記録工程と、
前記繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、前記繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する補正係数記録工程と、
前記所定の色に対応する前記反射率記録工程の記録内容と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する前記補正係数記録工程の記録内容とに基づき、前記繊維の吸収係数および散乱係数の比を導出する吸収散乱比導出工程と、
を備え
、
前記所定の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であり、
前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であり、
前記所定の形態と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態とが異なる、
吸収散乱比導出方法。
【請求項5】
所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数および散乱係数の比である吸収散乱比を導出する吸収散乱比導出処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記吸収散乱比導出処理が、
前記繊維が所定の形態をとった場合における前記繊維の反射率の測定結果を記録する反射率記録工程と、
前記繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、前記繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する補正係数記録工程と、
前記所定の色に対応する前記反射率記録工程の記録内容と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する前記補正係数記録工程の記録内容とに基づき、前記繊維の吸収係数および散乱係数の比を導出する吸収散乱比導出工程と、
を備え
、
前記所定の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であり、
前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であり、
前記所定の形態と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態とが異なる、
プログラム。
【請求項6】
所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数および散乱係数の比である吸収散乱比を導出する吸収散乱比導出処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体であって、
前記吸収散乱比導出処理が、
前記繊維が所定の形態をとった場合における前記繊維の反射率の測定結果を記録する反射率記録工程と、
前記繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、前記繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する補正係数記録工程と、
前記所定の色に対応する前記反射率記録工程の記録内容と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する前記補正係数記録工程の記録内容とに基づき、前記繊維の吸収係数および散乱係数の比を導出する吸収散乱比導出工程と、
を備え
、
前記所定の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であり、
前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であり、
前記所定の形態と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態とが異なる、
記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原着糸の色のCCM(コンピュータカラーマッチング)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、CCM(コンピュータカラーマッチング)が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4を参照)。
【0003】
また、糸の原材料を溶かす時点で、染料または顔料を糸の原材料に混合して着色を行った原着糸も知られている。
【0004】
ここで、CCMにより、複数種類の色の染料または顔料を混合した原着糸の色を計算する場合がある。この場合、複数種類の色の各々により着色された原着糸の反射率の値(予め測定しておく)から、加法性が成立する吸収係数Kおよび散乱係数Sの比(K/S)を求める。これらのK/Sを合計すれば、複数種類の色の染料または顔料を混合した原着糸のK/Sが分かるので、色を計算することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭60-174932号公報
【文献】特開2002-090222号公報
【文献】特開2003-294530号公報
【文献】特開2019-184346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、原着糸等の繊維の形態(例えば、毛束、カード巻き、タフトおよび編地)により、繊維の反射率が変動するため、吸収係数Kおよび散乱係数Sの比(K/S)も変動する。
【0007】
これにより、繊維の反射率を測定した際の繊維の形態(例えば、毛束)と、計算したい色に関する繊維の形態(例えば、カード巻き)とが異なる場合、複数種類の色の染顔料を混合した繊維の色を正確に計算できなくなる。
【0008】
また、繊維の反射率を測定した際の繊維の形態(例えば、毛束)と、計算したい色に関する繊維の形態(例えば、毛束)とが同じであっても、反射率から求めたK/Sと、実際のK/Sとが異なってしまうこともある。
【0009】
そこで、本発明は、繊維の反射率の値から、吸収係数Kおよび散乱係数Sの比を、より正確に求めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる吸収散乱比導出装置は、所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数および散乱係数の比である吸収散乱比を導出する吸収散乱比導出装置であって、前記繊維が所定の形態をとった場合における前記繊維の反射率の測定結果を記録する反射率記録部と、前記繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、前記繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する補正係数記録部と、前記所定の色に対応する前記反射率記録部の記録内容と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する前記補正係数記録部の記録内容とに基づき、前記繊維の吸収係数および散乱係数の比を導出する吸収散乱比導出部とを備えるように構成される。
【0011】
上記のように構成された吸収散乱比導出装置によれば、所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数および散乱係数の比である吸収散乱比が導出される。反射率記録部が、前記繊維が所定の形態をとった場合における前記繊維の反射率の測定結果を記録する。補正係数記録部が、前記繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、前記繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する。吸収散乱比導出部が、前記所定の色に対応する前記反射率記録部の記録内容と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する前記補正係数記録部の記録内容とに基づき、前記繊維の吸収係数および散乱係数の比を導出する。
【0012】
なお、本発明にかかる吸収散乱比導出装置は、前記所定の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であるようにしてもよい。
【0013】
なお、本発明にかかる吸収散乱比導出装置は、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態が、毛束、カード巻き、タフトまたは編地であるようにしてもよい。
【0014】
なお、本発明にかかる吸収散乱比導出装置は、前記所定の形態と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態とが異なるようにしてもよい。
【0015】
なお、本発明にかかる吸収散乱比導出装置は、前記所定の形態と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態とが同じであるようにしてもよい。
【0016】
なお、本発明にかかる吸収散乱比導出装置は、前記着色剤が、染料および顔料のいずれかまたは双方であるようにしてもよい。
【0017】
なお、本発明にかかる吸収散乱比導出装置は、前記繊維が、原着糸であるようにしてもよい。
【0018】
本発明は、所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数および散乱係数の比である吸収散乱比を導出する吸収散乱比導出方法であって、前記繊維が所定の形態をとった場合における前記繊維の反射率の測定結果を記録する反射率記録工程と、前記繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、前記繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する補正係数記録工程と、前記所定の色に対応する前記反射率記録工程の記録内容と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する前記補正係数記録工程の記録内容とに基づき、前記繊維の吸収係数および散乱係数の比を導出する吸収散乱比導出工程とを備えた吸収散乱比導出方法である。
【0019】
本発明は、所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数および散乱係数の比である吸収散乱比を導出する吸収散乱比導出処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記吸収散乱比導出処理が、前記繊維が所定の形態をとった場合における前記繊維の反射率の測定結果を記録する反射率記録工程と、前記繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、前記繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する補正係数記録工程と、前記所定の色に対応する前記反射率記録工程の記録内容と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する前記補正係数記録工程の記録内容とに基づき、前記繊維の吸収係数および散乱係数の比を導出する吸収散乱比導出工程とを備えたプログラムである。
【0020】
本発明は、所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数および散乱係数の比である吸収散乱比を導出する吸収散乱比導出処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体であって、前記吸収散乱比導出処理が、前記繊維が所定の形態をとった場合における前記繊維の反射率の測定結果を記録する反射率記録工程と、前記繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、前記繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する補正係数記録工程と、前記所定の色に対応する前記反射率記録工程の記録内容と、前記吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する前記補正係数記録工程の記録内容とに基づき、前記繊維の吸収係数および散乱係数の比を導出する吸収散乱比導出工程とを備えた記録媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態にかかる吸収散乱比導出装置1の構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】反射率記録部12の記録内容の一例を示す図である。
【
図3】補正係数記録部14の記録内容の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態にかかる吸収散乱比導出装置1の構成を示す機能ブロック図である。
【0024】
本発明の実施形態にかかる吸収散乱比導出装置1は、反射率記録部12、補正係数記録部14、吸収散乱比導出部16を備える。
【0025】
吸収散乱比導出装置1は、所定の色の着色剤により着色された繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比である吸収散乱比K/Sを導出する。
【0026】
着色剤は、染料であってもよいし、顔料であってもよいし、染料および顔料であってもよい。繊維は、例えば、原着糸である。所定の色は、例えば、ベースカラーa、bまたはcである。なお、ベースカラーa、bおよびcは、糸の原材料を溶かす時点で、それらの色a、bおよびcの着色剤を糸の原材料に混合して着色するものである。
【0027】
ただし、吸収散乱比導出装置1は、ベースカラーa、bおよびcの各々の着色剤により着色された繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比である吸収散乱比K/Sを導出する。例えば、吸収散乱比導出装置1は、ベースカラーaについての吸収散乱比K/S、すなわち、ベースカラーaの着色剤により着色された繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比である吸収散乱比K/Sを導出する。
【0028】
なお、ベースカラーaについて導出された吸収散乱比K/Sと、ベースカラーbについて導出された吸収散乱比K/Sと、ベースカラーcについて導出された吸収散乱比K/Sとを合計すると、ベースカラーa、bおよびcの着色剤を糸の原材料に混合して着色したものの吸収散乱比K/Sとなる。
【0029】
反射率記録部12は、繊維が所定の形態をとった場合における繊維の反射率の測定結果を記録する。所定の形態は、例えば、毛束、カード巻き、タフトまたは編地である。
【0030】
図2は、反射率記録部12の記録内容の一例を示す図である。
図2においては、所定の形態は毛束である。
図2に示す例においては、繊維が毛束の場合における、ベースカラーaの着色剤により着色された繊維の反射率A(λ)、ベースカラーbの着色剤により着色された繊維の反射率B(λ)、ベースカラーcの着色剤により着色された繊維の反射率C(λ)が、反射率記録部12に記録されている。ただし、反射率A(λ)、B(λ)およびC(λ)は、繊維への入射光の波長λの関数である。
【0031】
補正係数記録部14は、繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する。
【0032】
図3は、補正係数記録部14の記録内容の一例を示す図である。
図3においては、所定の形態は、
図2と同じく毛束である。繊維がとり得る形態は、例えば、毛束、カード巻き、タフトまたは編地である。
【0033】
図3に示す例においては、繊維が毛束の場合の吸収散乱比と、繊維が毛束の場合の吸収散乱比との比P1と、繊維が毛束の場合の吸収散乱比と、繊維がカード巻きの場合の吸収散乱比との比P2と、繊維が毛束の場合の吸収散乱比と、繊維がタフトの場合の吸収散乱比との比P3と、繊維が毛束の場合の吸収散乱比と、繊維が編地の場合の吸収散乱比との比P4とが記録されている。これらのP1、P2、P3およびP4は一定の値の補正係数である。
【0034】
なお、補正係数P1、P2、P3およびP4は、繊維への入射光の波長λが変動しても一定の値をとる。これは、繊維に入射光を入射したときの散乱成分が、入射光の波長λによらずほぼ一定だからである。
【0035】
吸収散乱比導出部16は、所定の色に対応する反射率記録部12の記録内容と、吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する補正係数記録部14の記録内容とに基づき、繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比を導出する。
【0036】
吸収散乱比導出部16は、所定の色および吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態の入力を受ける。吸収散乱比導出部16は、さらに、所定の色に対応する反射率記録部12の記録内容を読み出す。吸収散乱比導出部16は、さらに、吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する補正係数記録部14の記録内容を読み出す。さらに、吸収散乱比導出部16は、繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比を導出する。
【0037】
例えば、ベースカラーaの着色剤により着色されたカード巻きの繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比である吸収散乱比K/Sを導出する場合を考える。吸収散乱比導出部16は、所定の色(ベースカラーa)および吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態(カード巻き)の入力を受ける。
【0038】
この場合、吸収散乱比導出部16は、所定の色(ベースカラーa)に対応する反射率記録部12の記録内容(反射率A(λ))を読み出し、吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態(カード巻き)に対応する補正係数記録部14の記録内容(補正係数P2)を読み出し、反射率A(λ)および補正係数P2に基づき、繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比を導出する。
【0039】
なお、吸収散乱比導出部16は、繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比K/Sを、以下の式(1)に基づき、導出する。
【0040】
【数1】
ただし、R’は繊維の反射率、rは空気と繊維の境界面における補正係数、Pは補正係数である。式(1)の右辺の×の左側の項((1-R’)
2/(2(1-r)(R’-r)))(以下、「第1項」という)はPineoの式によって比K/Sを表したものである。rは予め求めておき、R’に反射率A(λ)を代入する。さらに、補正係数PにP2を代入する。これにより、式(1)の左辺のK/Sを求める。
【0041】
すなわち、式(1)の右辺の第1項は、ベースカラーaの着色剤により着色され、形態が毛束(所定の形態)である繊維のK/SをPineoの式により求めたものとなる。しかし、吸収散乱比K/Sを導出する対象の繊維の形態は、毛束(所定の形態)とは異なりカード巻きであるので、補正係数P(=P2)を、式(1)の右辺の第1項に乗じて、カード巻きの吸収散乱比K/Sを導出する。
【0042】
なお、
図3を参照して、吸収散乱比K/Sを導出する対象の繊維の形態がタフトであれば、式(1)の補正係数PにP3を代入して、吸収散乱比K/Sを導出する。また、吸収散乱比K/Sを導出する対象の繊維の形態が編地であれば、式(1)の補正係数PにP4を代入して、吸収散乱比K/Sを導出する。
【0043】
なお、これまで、所定の形態(毛束)と、吸収散乱比K/Sを導出する対象の繊維の形態(カード巻き、タフトまたは編地)とが異なる場合を説明してきた。しかし、所定の形態(毛束)と、吸収散乱比K/Sを導出する対象の繊維の形態(毛束)とが同じ場合でも、(1ではない)補正係数P1を用いることが有益である。
【0044】
本来、所定の形態と、吸収散乱比K/Sを導出する対象の繊維の形態とが同じであれば、式(1)の右辺の第1項が吸収散乱比K/Sと等しくなるはずである。よって、補正係数Pを乗ずることが不要となるはずである。しかし、式(1)の右辺の第1項と、吸収散乱比K/Sとが相違することがあるので、補正係数P(
図3の例でいえばP1)を式(1)の右辺の第1項に乗ずることで、吸収散乱比K/Sを正しく求めることができる。
【0045】
次に、本発明の実施形態の動作を説明する。
【0046】
まず、吸収散乱比導出装置1に、所定の色(例えば、ベースカラーa)および吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態(例えば、カード巻き)を入力する。これらの入力は、吸収散乱比導出部16が受ける。
【0047】
吸収散乱比導出部16は、反射率記録部12から、ベースカラーaに対応する反射率A(λ)を読み出す。さらに、吸収散乱比導出部16は、補正係数記録部14から、カード巻きに対応する補正係数P2を読み出す。
【0048】
吸収散乱比導出部16は、さらに、上記の式(1)の、R’に反射率A(λ)を代入する。さらに、補正係数PにP2を代入する。これにより、式(1)の左辺の吸収散乱比K/Sを求める。
【0049】
本発明の実施形態によれば、繊維の反射率の値から、吸収係数Kおよび散乱係数Sの比を、より正確に求めることができる。
【0050】
すなわち、繊維の反射率の値から、Pineoの式(式(1)の右辺の第1項)により、吸収散乱比K/Sを求めることができるものの、R’を測定した繊維の形態(例えば、毛束)と、吸収散乱比K/Sを導出する対象の繊維の形態(例えば、カード巻き)とが異なると、吸収散乱比K/Sを正確に求めることができない。
【0051】
しかしながら、式(1)の右辺の第1項に、補正係数P(例えば、P2(
図3参照))を乗じることによって、カード巻きの吸収散乱比K/Sをより正確に導出することができる。
【0052】
しかも、R’を測定した繊維の形態(例えば、毛束)と、吸収散乱比K/Sを導出する対象の繊維の形態(例えば、毛束)とが同じであっても、式(1)の右辺の第1項と、吸収散乱比K/Sとが相違することがある。かかる場合に、補正係数P(例えば、P1(
図3参照))を式(1)の右辺の第1項に乗ずることで、吸収散乱比K/Sを正しく求めることができる。
【0053】
また、上記の実施形態は、以下のようにして実現できる。CPU、ハードディスク、メディア(USBメモリ、CD-ROMなど)読み取り装置を備えたコンピュータに、上記の各部分、例えば、反射率記録部12、補正係数記録部14および吸収散乱比導出部16を実現するプログラムを記録したメディアを読み取らせて、ハードディスクにインストールする。このような方法でも、上記の機能を実現できる。
【符号の説明】
【0054】
1 吸収散乱比導出装置
12 反射率記録部
14 補正係数記録部
16 吸収散乱比導出部
K 吸収係数
S 散乱係数
K/S 吸収散乱比
a、b、c ベースカラー
A(λ)、B(λ)、C(λ) 反射率
λ 繊維への入射光の波長
P1、P2、P3およびP4 補正係数
R’ 繊維の反射率
【要約】
【課題】繊維の反射率の値から、吸収係数Kおよび散乱係数Sの比を、より正確に求める。
【解決手段】吸収散乱比導出装置1は、ベースカラーの着色剤により着色された繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比である吸収散乱比K/Sを導出する。吸収散乱比導出装置1は、繊維が所定の形態をとった場合における繊維の反射率の測定結果を記録する反射率記録部12と、繊維が所定の形態をとった場合の吸収散乱比と、繊維がとり得る形態をとった場合における吸収散乱比との比である補正係数を記録する補正係数記録部14と、所定の色に対応する反射率記録部12の記録内容と、吸収散乱比を導出する対象の繊維の形態に対応する補正係数記録部14の記録内容とに基づき、繊維の吸収係数Kおよび散乱係数Sの比を導出する吸収散乱比導出部16とを備える。
【選択図】
図1