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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】電磁ステンレス棒状鋼材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230825BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230825BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230825BHJP
   C21D 8/06 20060101ALN20230825BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20230825BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
H01F1/147
C22C38/00 303S
C21D8/06 B
C21D8/12 F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022501852
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005231
(87)【国際公開番号】W WO2021166797
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2020026141
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山先 祥太
(72)【発明者】
【氏名】高野 光司
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/196595(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/190422(WO,A1)
【文献】特開2003-213382(JP,A)
【文献】特開2013-185183(JP,A)
【文献】特開2012-201929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項11】
前記化学組成が、質量%でさらに、
Pb:0.0001~0.30%、
Se:0.0001~0.80%、
Te:0.0001~0.30%、
Bi:0.0001~0.50%、
S:0.0001~0.50%、
P:0.0001~0.30%、
から選択される一種以上を含有する、
請求項1、請求項9、請求項10のいずれか1項に記載のステンレス棒状鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ステンレス棒状鋼材、特に軟磁気特性に優れるステンレス棒状鋼材及びそれを用いた電磁部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁弁などに代表されるような、電磁ステンレス製品は、SUS430、SUS410Lなどを代表とするフェライト系ステンレス鋼線材、鋼線を素材として加工・成型・熱処理され製造されてきた。しかしながら、上記のようなフェライト系ステンレス鋼線材から加工、製造されたステンレス製品の軟磁気特性は高精度・高出力な部品に十分対応できず、用途の制限を受ける欠点があった。上記課題に対して、軟磁気特性の向上として、CrやSi、Alなどの合金元素の最適化による技術が検討されている(例えば、特許文献1~3)が、成分とプロセスの組合せによる集合組織制御を活用したフェライト系ステンレス棒線の軟磁気特性向上に着目した発明はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-49606号公報
【文献】特開平6-49605号公報
【文献】特開2004-307979号公報
【文献】特開平05-329510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上を踏まえ、本発明は、上記課題を解決し、軟磁気特性に優れるステンレス棒状鋼材及びそれを用いた電磁部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のステンレス棒状鋼材及び電磁部品を要旨とする。
[1]化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.030%、
Si:0.01~4.00%、
Mn:0.01~2.00%、
Ni:0.01~4.00%、
Cr:6.0~35.0%、
Mo:0.01~5.00%、
Cu:0.01~2.00%、
N:0.001~0.050%、
Ti:0~2.00%、
Nb:0~2.00%、
V:0~2.0%、
B:0~0.1%、
Al:0~7.000%、
W:0~3.0%、
Ga:0~0.05%、
Co:0~2.5%、
Sn:0~2.5%、
Sb:0~2.5%、
Ta:0~2.5%、
Ca:0~0.05%、
Mg:0~0.012%、
Zr:0~0.012%、
REM:0~0.05%、
Pb:0~0.30%、
Se:0~0.80%、
Te:0~0.30%、
Bi:0~0.50%、
S:0~0.50%、
P:0~0.30%、
残部:Feおよび不純物であり、(a)式に示すF値が20.0以下であり、
圧延方向の結晶方位RD//<100>分率が0.05以上であるステンレス棒状鋼材。
ただし、圧延方向の結晶方位RD//<100>分率とは、<100>方位と圧延方向との角度差が25°以下である結晶の面積比率を意味する。
F値=700C+800N+20Ni+10Cu+10Mn-6.2Cr-9.2Si-9.3Mo-74.4Ti-37.2Al-3.1Nb+63.2 ・・・(a)
但し、式中の各元素記号は、それぞれの元素の鋼中における含有量(質量%)を意味する。
【0006】
[2]表面から直径の1/8深さ位置部の圧延方向の結晶方位RD//<334>分率が0.2以下である[1]に記載のステンレス棒状鋼材。
ただし、結晶方位RD//<334>分率とは、<334>方位と圧延方向との角度差が10°以下である結晶の面積比率を意味する。
【0007】
[3]前記化学組成が、質量%でさらに、
Ti:0.001~2.00%、
Nb:0.001~2.00%、
V:0.001~2.0%
B:0.0001~0.1%
Al:0.001~7.000%、
W:0.05~3.0%、
Ga:0.0004~0.05%、
Co:0.05~2.5%、
Sn:0.01~2.5%、
Sb:0.01~2.5%、および
Ta:0.01~2.5%、
から選択される一種以上を含有する、
[1]又は[2]に記載のステンレス棒状鋼材。
【0008】
[4]前記化学組成が、質量%でさらに、
Ca:0.0002~0.05%、
Mg:0.0002~0.012%、
Zr:0.0002~0.012%、および
REM:0.0002~0.05%、
から選択される一種以上を含有する、
[1]~[3]のいずれか1項に記載のステンレス棒状鋼材。
【0009】
[5]前記化学組成が、質量%でさらに、
Pb:0.0001~0.30%、
Se:0.0001~0.80%、
Te:0.0001~0.30%、
Bi:0.0001~0.50%、
S:0.0001~0.50%、
P:0.0001~0.30%、
から選択される一種以上を含有する、
[1]~[4]のいずれか1項に記載のステンレス棒状鋼材。
【0010】
[6]5Oeにおける磁束密度がそれぞれ0.10T以上である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のステンレス棒状鋼材。
[7]2kHzの交流周波数で10Oeにおける最大磁束密度が0.05T以上である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のステンレス棒状鋼材。
【0011】
[8][1]~[7]のいずれか一項に記載のステンレス棒状鋼材を用いた電磁部品。
【0012】
本発明によれば、軟磁気特性に優れるステンレス棒状鋼材及び電磁部品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは軟磁気特性に優れるステンレス棒状鋼材及び電磁部品を得るために、種々の検討を行なった。その結果、以下の(a)~(c)の知見を得た。
【0014】
(a)フェライト系ステンレス鋼と熱延プロセス(傾斜圧延時間)の組み合わせで、線材圧延方向の結晶方位RD//<100>分率を高めることができる。併せて、表面から直径の1/4深さ位置の間の線材圧延方向の結晶方位RD//<334>分率を低減することができる。
【0015】
(b)前記線材と二次加工プロセス(線材熱処理温度、伸線加工率、鋼線熱処理温度)の組合せで、鋼線圧延方向の結晶方位RD//<100>分率を高めることができる。併せて、表面から直径の1/4位置深さの間の鋼線圧延方向の結晶方位RD//<334>分率を低減することができる。
【0016】
(c)その結果、5Oeにおける磁束密度が0.10T以上であり、2kHzで10Oeにおける最大磁束密度が0.05T以上となり、軟磁気特性の向上を見出した。
【0017】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。また、本発明の好ましい一実施形態を詳細に説明する。以降の説明では、本発明の好ましい一実施形態を本発明として記載する。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。本発明の棒状の鋼材において、熱間加工ままの材料を「棒線」、伸線加工などの冷間加工を行った材料を「鋼線」、それらを総称して「棒状鋼材」と呼ぶ。
【0018】
1.圧延方向の結晶方位RD//<100>分率
本発明に係る棒状鋼材では、圧延方向(RD)の結晶方位を制御する。具体的には、圧延方向の結晶方位RD//<100>分率(面積比率)(以下単に「RD//<100>分率」という。)を0.05以上とする。RD//<100>分率が0.05未満となると、軟磁気特性が低下するためである。RD//<100>分率は0.10以上とするのがより好ましく、0.20以上とするのがさらに好ましく、0.40以上とするのが一層好ましい。
【0019】
なお、RD//<100>分率は、以下の手順を用い、算出する。具体的には、RD//<100>分率は、棒状鋼材のL断面(鋼材の長手方向に平行な断面)において、表層部、中心部、および表層部と中心部との間に存在する1/4深さ位置部において、200倍の視野で、各1視野以上測定を行う。そして、観察視野における各結晶粒の結晶方位を、FE-SEM/EBSDを用いて解析する。圧延方向をRDとし、RD方向における結晶面の解析を行い、<100>の方位成分をクリアランス25°以内の部分のみ表示させ、RD//<100>分率を測定する。なお、上記表層部とは表面から中心軸方向に1mm深さ位置を指す。即ち、圧延方向の結晶方位RD//<100>分率とは、<100>方位と圧延方向との角度差が25°以下である結晶の面積比率(表層部、中心部、1/4深さ位置部の平均)を意味する。
【0020】
2.圧延方向の結晶方位RD//<334>分率
本発明に係る棒状鋼材で好ましくは、圧延方向(RD)の軟磁気特性を劣化させる結晶方位を制御する。表面から直径の1/8深さ位置部の棒線圧延方向の結晶方位RD//<334>分率を好ましくは0.20以下とする。
圧延方向の結晶方位RD//<334>分率(面積比率)(以下単に「RD//<334>分率」という。)を0.20以下とする。RD//<334>分率が0.2超となると、軟磁気特性が低下するためである。RD//<334>分率は0.10以下とするのがより好ましく、0.05以下とするのがさらに好ましい。
【0021】
なお、RD//<334>分率は、以下の手順を用い、算出する。具体的には、RD//<334>分率は、棒状鋼材のL断面(鋼材の長手方向に平行な断面)において、表面から直径の1/4深さ位置の間の1/8深さ位置部において、200倍の視野で、1視野以上測定を行う。そして、観察視野における各結晶粒の結晶方位を、FE-SEM/EBSDを用いて解析する。圧延方向をRDとし、RD方向における結晶面の解析を行い、<334>の方位成分をクリアランス10°以内の部分のみ表示させ、RD//<334>分率を測定する。即ち、圧延方向の結晶方位RD//<334>分率とは、<334>方位と圧延方向との角度差が10°以下である結晶の面積比率(表面から直径の1/8深さ位置部)を意味する。
【0022】
3.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0023】
C:0.001~0.030%
Cは、鋼材の強度を高める。このため、C含有量は、0.001%以上とする。しかしながら、Cを過剰に含有させると、軟磁気特性が劣化する。このため、C含有量は0.030%以下とする。C含有量は0.020%以下とするのが好ましく、0.015%以下とするのがより好ましく、0.010%以下とするのがさらに好ましい。
【0024】
Si:0.01~4.00%
Siは、脱酸元素として含有させ、高温酸化特性や交流磁気特性を向上させる。このため、Si含有量は0.01%以上とし、0.10%以上とするのが好ましい。しかしながら、Siを過剰に含有させると、軟磁気特性が劣化する。このため、Si含有量は4.00%以下とする。Si含有量は3.00%以下とするのが好ましく、1.50%以下とするのがより好ましい。
【0025】
Mn:0.01~2.00%
Mnは、鋼材の強度と交流磁気特性を向上させる。このため、Mn含有量は、0.01%以上とし、0.05%以上とするのが好ましい。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。また、耐食性が低下する場合もある。このため、Mn含有量は2.00%以下とする。Mn含有量は1.00%以下とするのが好ましく、0.50%以下とするのがより好ましい。
【0026】
Ni:0.01~4.00%
Niは、鋼材の靭性を向上させる。このため、Ni含有量は0.01%以上とし、0.05%以上とするのが好ましい。しかしながら、Niを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。このため、Ni含有量は4.00%以下とする。Ni含有量は3.00%以下とするのが好ましく、1.00%以下とするのがより好ましく、0.50%以下とするのがさらに好ましい。
【0027】
Cr:6.0~35.0%
Crは、耐食性と交流磁気特性を向上させる。このため、Cr含有量は、6.0%以上とする。Cr含有量は7.0%以上とするのが好ましく、10.0%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Crを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。Cr含有量は35.0%以下にする。Cr含有量は21.0%以下とするのが好ましく、20.0%以下とするのがより好ましい。
【0028】
Mo:0.01~5.00%
Moは、耐食性と交流磁気特性を向上させる。このため、Mo含有量は0.01%以上とする。しかしながら、Moを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。このため、Mo含有量は5.00%以下とする。Mo含有量は3.00%以下とするのが好ましく、2.00%以下とするのがより好ましく、1.50%以下とするのがさらに好ましい。
【0029】
Cu:0.01~2.00%
Cuは、耐食性と交流磁気特性を向上させる。このため、Cu含有量は0.01%以上とし、0.05%以上とするのが好ましい。しかしながら、Cuを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。このため、Cu含有量は2.00%以下とする。Cu含有量は1.00%以下とするのが好ましく、0.80%以下とするのがより好ましく、0.40%以下とするのがさらに好ましい。
【0030】
N:0.001~0.050%
Nは、鋼材の強度を向上させる。このため、N含有量は0.001%以上とし、0.002%以上とするのが好ましい。しかしながら、Nを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。このため、N含有量は0.050%以下とする。N含有量は0.040%以下とするのが好ましく、0.020%以下とするのがより好ましく、0.010%以下とするのがさらに好ましい。
【0031】
本発明に係る棒状鋼材は、上記元素に加え、必要に応じて、Ti、Nb、V、B、Al、W、Ga、Co、Sn、SbおよびTaから選択される一種以上の元素を含有させてもよい。
【0032】
Ti:0~2.00%
Tiは、鋼材の強度を高める効果を有する。また、Tiは炭窒化物を形成するので、Cr炭化物の生成を抑制し、Cr欠乏層の生成を抑制する。この結果、粒界腐食を防止する効果を有する。すなわち、Tiは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。また、Ti炭窒化物の形成によりC、Nを固定することで軟磁気特性を高める元素である。
しかしながら、Tiを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、Ti含有量は2.00%以下とする。Ti含有量は1.00%以下とするのが好ましく、0.50%以下とするのがより好ましく、0.50%以下とすることがさらに好ましく、0.25%以下とすると一層好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は0.001%以上とするのが好ましい。
【0033】
Nb:0~2.00%
Nbは、鋼材の強度を高める効果を有する。また、Nbは炭窒化物を形成するため、Cr炭化物の生成を抑制し、Cr欠乏層の生成を抑制する。この結果、Nbは粒界腐食を防止する効果を有する。すなわち、Nbは、耐食性の向上に有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。また、Nb炭窒化物の形成によりC、Nを固定することで軟磁気特性を高める元素である。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、Nb含有量は2.00%以下とする。Nb含有量は1.00%以下とするのが好ましく、0.80%以下とするのがより好ましく、0.60%以下が一層好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は0.001%以上とするのが好ましい。
【0034】
V:0~2.0%
Vは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、V含有量は2.0%以下とする。V含有量は1.0%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましく、0.1%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は0.001%以上とするのが好ましい。
【0035】
B:0~0.1%
Bは、熱間加工性および耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。このため、B含有量は0.1%以下とする。B含有量は0.02%以下とするのが好ましく、0.01%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上とするのが好ましい。
【0036】
Al:0~7.000%
Alは、脱酸を促進させ、介在物清浄度レベルを向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。また、Alの添加は交流磁気特性を高める。しかしながら、Alを過剰に含有させると、その効果は飽和し、軟磁気特性が低下する。また、粗大介在物によって靭性が低下する。このため、Al含有量は7.000%以下とする。Al含有量は3.000%以下とするのが好ましく、0.100%以下とするのがより好ましく、0.020%以下とするのがさらに好ましい。一方、前記効果を得るためには、Al含有量は0.001%以上とするのが好ましい。
【0037】
W:0~3.0%
Wは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、W含有量は3.0%以下とする。W含有量は2.0%以下とするのが好ましく、1.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は0.05%以上とするのが好ましく、0.10%以上とするのがより好ましい。
【0038】
Ga:0~0.05%
Gaは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaを過剰に含有させると、熱間加工性が低下する。このため、Ga含有量は0.05%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は0.0004%以上とするのが好ましい。
【0039】
Co:0~2.50%
Coは、鋼材の強度を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。また、適量のCo添加は飽和磁束密度を高めるため、軟磁気特性を高める。しかしながら、Coを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。このため、Co含有量は2.50%以下とする。Co含有量は1.00%以下とするのが好ましく、0.80%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は0.05%以上とするのが好ましく、0.10%以上とするのがより好ましい。
【0040】
Sn:0~2.50%
Snは、軟磁気特性や耐食性、切削性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Snを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。また、Snの粒界偏析によって靭性が低下する。このため、Sn含有量は2.50%以下とする。Sn含有量は1.00%以下とするのがより好ましく、0.20%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.05%以上とするのがより好ましい。
【0041】
Sb:0~2.5%
Sbは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sbを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。このため、Sb含有量は2.5%以下とする。Sb含有量は1.0%以下とするのがより好ましく、0.2%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sb含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.05%以上とするのがより好ましい。
【0042】
Ta:0~2.5%
Taは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taを過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。このため、Ta含有量は2.5%以下とする。Ta含有量は1.5%以下とするのが好ましく、0.9%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.04%以上とするのがより好ましく、0.08%以上とするのがさらに好ましい。
【0043】
本発明に係る棒状鋼材は、上記元素に加え、必要に応じて、Ca、Mg、Zr、およびREMから選択される一種以上の元素を含有させてもよい。
Ca:0~0.05%
Mg:0~0.012%
Zr:0~0.012%
REM:0~0.05%
Ca、Mg、Zr、およびREMは、脱酸のため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、これら各元素を過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。また、粗大介在物によって靭性が低下する。このため、Ca:0.05%以下、Mg:0.012%以下、Zr:0.012%以下、REM:0.05%以下とする。Ca含有量は、0.010%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。Mgは、0.010%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。Zrは、0.010%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。REMは、0.010%以下とするのが好ましい。
一方、上記効果を得るためには、Ca:0.0002%以上、Mg:0.0002%以上、Zr:0.0002%以上、REM:0.0002%以上とするのが好ましい。Ca含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。Mg含有量は、0.0004%以上とするのが好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。Zr含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。REM含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。
なお、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称である。これらの17元素のうちの1種以上を鋼に含有させることができ、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0044】
本発明に係る棒状鋼材は、上記元素に加え、必要に応じて、Pb、Se、Te、Bi、SおよびPから選択される一種以上の元素を含有させてもよい。
Pb:0~0.30%、
Se:0~0.80%、
Te:0~0.30%、
Bi:0~0.50%、
S:0~0.50%、
P:0~0.30%、
Pb、Se、Te、Bi、SおよびPは、切削性のため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、これら各元素を過剰に含有させると、軟磁気特性が低下する。また、靭性が低下する。このため、Pb:0.30%以下、Se:0.80%以下、Te:0.30%以下、Bi:0.50%以下、S:0.50以下、P:0.30以下とする。Pb含有量は、0.1%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。Se含有量は、0.1%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。Te含有量は、0.1%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。Bi含有量は、0.1%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。S含有量は、0.1%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。P含有量は、0.1%以下とするのが好ましく、0.05%以下とするのがより好ましい。
一方、上記効果を得るためには、Pb:0.0001%以上、Se:0.0001%以上、Te:0.0001%以上、Bi:0.0001%以上、S:0.0001%以上、P:0.0001%以上とするのが好ましい。Pb含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。Se含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。Te含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。Bi含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。S含有量は、0.0001%以上とするのがより好ましく、0.0002%以上とするのがさらに好ましい。P含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。
【0045】
(F値)
F値:20.0以下
F値は下記式(a)により求められる。F値は、凝固や固溶加熱処理時にフェライト単相に近づくか否かの指標であり、フェライト単相に近ければ鋳片の柱状晶が増加し後述する傾斜熱間圧延中にRD//<100>分率を高め、軟磁気特性を高める。F値が20.0を超えると、フェライトに加えオーステナイトやマルテンサイトを含有するため、RD//<100>分率が減少する。この結果、軟磁気特性が低下する。そのため、F値は20.0以下とする。F値は、10.0以下であることが好ましく、0.0以下であることが好ましく、-10.0以下であることがより好ましい。
F値=700C+800N+20Ni+10Cu+10Mn-6.2Cr-9.2Si-9.3Mo-74.4Ti-37.2Al-3.1Nb+63.2 ・・・(a)
但し、式中の各元素記号は、それぞれの元素の鋼中における含有量(質量%)を意味する。
【0046】
本発明の鋼材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0047】
なお、不純物としては、例えば、O、Zn、H等が例示される。不純物は低減されることが好ましいが、含有される場合は、O,ZnおよびHは0.01%以下とするのが望ましい。
【0048】
4.製造方法
本発明に係るステンレス棒状鋼材の好ましい製造方法を説明する。本発明に係るステンレス棒状鋼材は、例えば、以下のような製造方法により、本発明に係るステンレス棒状鋼材を安定して得ることができる。
【0049】
本発明に係るステンレス棒状鋼材では、上記化学組成を有する鋼を溶製し、所定の径を有する鋳片を鋳造した後、熱間または温間の傾斜圧延と線材圧延を行う。その後、必要に応じて、適宜、溶体化処理、酸洗、二次加工、熱処理を行う。
【0050】
4-1.傾斜圧延工程
加熱された鋳片は、傾斜圧延を用い、熱間加工されるのが好ましい。なお、熱間加工は傾斜圧延に限定されず、同様の熱加工履歴を辿る方法であればよく、例えば分塊圧延(ブレークダウン)であっても、同様の熱加工履歴を取れれば用いることができる。
傾斜圧延は、例えば特許文献4に開示されているとおり、3個のワークロールを被圧延材を中心にして同方向に捩って傾斜したロール軸に配置し、各ワークロールが被圧延材の周囲を自転しながら公転することにより、被圧延材は前進しながらスパイラル状に圧延される。フェライト系ステンレス鋼の柱状晶は鋼材半径方向に対し<100>へ配向しているが、傾斜圧延を施すことで柱状晶の<100>を鋼材半径方向から圧延方向へ配向できる。しかし、傾斜圧延の圧延時間(鋼材が3個のワークロールに接触する時間)が短くなると高速加工によって圧延方向へ配向した<100>が<100>以外のランダムな方位の再結晶粒を形成してしまう。
したがって、傾斜圧延の圧延時間は、RD//<100>分率を変化させる。併せて、表面から直径の1/4深さ位置の間のRD//<334>分率を変化させる。このため、傾斜圧延の圧延時間は軟磁気特性に影響を与える。傾斜圧延の圧延時間を0.10s未満とすると、RD//<100>分率が減少する。併せて、表面から直径の1/4深さ位置の間のRD//<334>分率が増加する。この結果、軟磁気特性が低下する。このため、傾斜圧延の圧延時間は0.10s以上とし、1s以上が好ましく、10s以上とするのがより好ましく、50s以上とするのがさらに好ましい。一方で傾斜圧延の圧延時間が長すぎると生産性を落とすため、200s以下とするのが好ましい。
【0051】
4-2.棒線熱処理温度
熱間圧延された棒線は熱処理されるのが好ましい。棒線の熱処理温度は、RD//<100>分率を変化させる。このため、棒線熱処理温度は軟磁気特性に影響を与える。棒線熱処理温度を1400℃超とすると、RD//<100>の核が成長せず、RD//<100>分率が減少する。この結果、軟磁気特性が低下する。このため、棒線熱処理温度は1400℃以下とし、1300℃以下が好ましい。一方で棒線熱処理温度が500℃未満となると、RD//<100>の核が成長しないため、500℃以上とする。棒線熱処理温度は600℃以上で好ましく、700℃で更に好ましく、800℃以上が一層好ましい。RD//<334>分率も棒線熱処理温度の影響を受け、他の製造条件とともに棒線熱処理温度500~1400℃の範囲内で条件を調整することにより、好適なRD//<334>分率範囲とすることができる。
【0052】
4-3.伸線加工率
熱間圧延後に熱処理された棒線は伸線加工して鋼線とすることが好ましい。伸線加工率は、RD//<100>分率を変化させる。このため、伸線加工率は軟磁気特性に影響を与える。伸線加工率を50%超とすると、後工程の熱処理で再結晶が促進され、RD//<100>分率が減少する。この結果、軟磁気特性が低下する。このため、伸線加工率は50%以下とし、30%以下が好ましく、15%以下が更に好ましく、5%以下が一層好ましい。一方で伸線加工率が0.01%未満となると、後工程の熱処理でRD//<100>の核が成長できないため、0.01%以上とする。なお、伸線加工率(%)は、伸線前後の鋼材の断面積変化量を伸線前断面積で除した値の百分率表示である。RD//<334>分率も伸線加工率の影響を受け、他の製造条件とともに伸線加工率0.01~50%の範囲内で条件を調整することにより、好適なRD//<334>分率範囲とすることができる。
【0053】
4-4.鋼線熱処理温度
伸線加工された鋼線は熱処理されるのが好ましい。鋼線の熱処理温度は、RD//<100>分率を変化させる。このため、鋼線熱処理温度は軟磁気特性に影響を与える。鋼線熱処理温度を1400℃超とすると、RD//<100>の核が成長せず、RD//<100>分率が減少する。この結果、軟磁気特性が低下する。このため、鋼線熱処理温度は1400℃以下とし、1300℃以下が好ましい。一方で鋼線熱処理温度が500℃未満となると、RD//<100>の核が成長しないため、500℃以上とする。鋼線熱処理温度は600℃以上で好ましく、700℃で更に好ましく、800℃以上が一層好ましい。RD//<334>分率も鋼線熱処理温度の影響を受け、他の製造条件とともに鋼線熱処理温度500~1400℃の範囲内で条件を調整することにより、好適なRD//<334>分率範囲とすることができる。
【0054】
5.電磁部品
本発明のステンレス棒状鋼材を用いた電磁部品は、例えばインジェクタや電磁弁などのコアやコネクタなどであり、素材とする棒状鋼材が優れた軟磁気特性を有することから、“磁気吸引力の向上”や“部品の細径化”、“応答性の向上”などという効果を奏することができる。
【0055】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
表1、2に記載の化学組成を有する鋼を溶製した。鋼の溶製の際には、ステンレス鋼の安価な溶製プロセスであるAOD溶製を想定し、100kgの真空溶解炉にて溶解し、直径180mmの鋳片に鋳造した。その後、下記の製造条件により直径20.0mmのステンレス棒線とした。
表2、表4~6において、成分組成又はRD//<100>分率が本発明範囲から外れる数値に下線を付している。表4~6において、磁気特性が本発明の好適範囲から外れる数値、及び表5、6において、製造条件が本発明の好適範囲から外れる数値に、それぞれ下線を付している。
【0057】
以下に条件を記載する。具体的には、鋳造した鋳片を加熱し、傾斜圧延を3sの圧延時間で施し、引き続き連続で焼鈍、圧延を施し、直径20.0mmの棒線(棒状鋼材)を作製し、900℃で棒線熱処理を行った。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
得られた棒線(棒状鋼材)について、RD//<100>分率、RD//<334>分率、および軟磁気特性を測定した。以下、表3、表4にまとめて結果を示す。なお、これらの測定は以下の手順に従い、測定を行った。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
RD//<100>分率は、線材のL断面において、表層部、中心部、および表層部と中心部との間に存在する1/4深さ位置部において、200倍の視野で、各1視野以上測定を行った。そして、観察視野における各結晶粒の結晶方位を、FE-SEM/EBSDを用いて解析した。圧延方向をRDとし、RD方向における結晶面の解析を行い、<001>の方位成分をクリアランス25°以内の部分(<100>方位と圧延方向との角度差が25°以下である結晶)のみ表示させ、RD//<100>分率(面積率(-))(表層部、中心部、1/4深さ位置部の平均)を測定した。
【0064】
RD//<334>分率は、線材のL断面において、表面から直径の1/4深さ位置の間、具体的には表面から直径の1/8深さ位置部において、200倍の視野で、1視野以上測定を行った。そして、観察視野における各結晶粒の結晶方位を、FE-SEM/EBSDを用いて解析した。圧延方向をRDとし、RD方向における結晶面の解析を行い、<334>の方位成分をクリアランス10°以内の部分のみ表示させ、RD//<334>分率(面積比率(-))(表面から直径の1/8深さ位置部)を測定した。
【0065】
直流磁気特性は、5Oeにおける磁束密度(T)を測定した。厚さ3mm×外径10mm×内径8mmのリング状試験片を作製し、900℃×2hrの熱処理を施した後に5Oeにおける磁束密度を測定した。なお、圧延方向とリング状試験片の直径方向が平行となるように試験片加工を行うことで、RD//<100>と磁気特性の関係を評価し、以下も同様にサンプリングを行った。磁束密度:0.1T以上を良好とした。
【0066】
交流磁気特性は、前記リング状試験片に900℃×2hrの熱処理を施し、2kHzで10Oeにおける最大磁束密度(T)を測定した。最大磁束密度:0.05T以上を良好とした。
【0067】
No.1~39は、本発明の規定を満足し、軟磁気特性が良好であった。一方、本発明の規定を満足しないNo.40~55は軟磁気特性が不良であった。
【実施例2】
【0068】
続いて表1に示す鋼種Qを用いて、表5に記載の条件により、直径15mmの棒状鋼材を作製した。なお、傾斜圧延の圧延時間以外の履歴は前記実施例1と同様とした。作製した棒線(棒状鋼材)について、RD//<100>分率、RD//<334>分率および軟磁気特性を、上述の方法で測定した。以下、結果をまとめて、表5に示す。
【0069】
【表5】
【0070】
No.109~120については、本発明の好適な条件を満足するため、軟磁気特性が良好であった。一方、本発明の好適な条件を満足しないNo.121~123は軟磁気特性が不良であった。
【実施例3】
【0071】
続いて表1に示す鋼種Pを用いて、鋳造した鋳片を加熱し、傾斜圧延の時間は50sとし、引き続き連続で焼鈍、圧延を施し、種々の直径の棒線を作製した。続いて、表6記載の条件により、棒線熱処理および伸線加工、鋼線熱処理を行い、直径20mmの鋼線(棒状鋼材)を作製した。作製した鋼線(棒状鋼材)について、RD//<100>分率、RD//<334>分率および軟磁気特性を、上述の方法で測定した。以下、結果をまとめて、表6に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
No.124~138については、本発明の好適な条件を満足するため、軟磁気特性が良好であった。一方、本発明の好適な条件を満足しないNo.139~144は軟磁気特性が不良であった。
【0074】
本発明によれば、軟磁気特性に優れる棒状鋼材を得ることができ、産業上極めて有用である。