(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】ドライブ装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 27/04 20160101AFI20230825BHJP
【FI】
H02P27/04
(21)【出願番号】P 2022528578
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2021022102
(87)【国際公開番号】W WO2022259459
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【氏名又は名称】梶井 良訓
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100207192
【氏名又は名称】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】マムン モスタファ
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 昭彦
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0024231(US,A1)
【文献】特開昭55-150786(JP,A)
【文献】特開平07-123782(JP,A)
【文献】特開昭62-044089(JP,A)
【文献】特開平10-066372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次側巻線と2次側巻線とを備える変圧器であって、前記2次側巻線に電動機が接続されている変圧器と、
電流を前記変圧器の1次側巻線に流す電力変換器と、
前記電動機の起動が指示された後の第1段階の期間中に前記電力変換器から前記変圧器の1次側巻線に、予め定められた所望の周波数の電流が流れるように前記電力変換器を定電流制御することで前記変圧器の1次側巻線に流す電流の変動を低減させて、前記第1段階後の第2段階に前記電動機を可変電圧可変周波数制御によって前記電力変換器を制御する制御装置
を備え、
前記制御装置は、
前記変圧器を消磁させるように前記変圧器の1次巻線に流す電流に、前記所望の周波数に予め定められた周波数よりも高い周波数成分が含まれるように前記電力変換器が流す電流の周波数を制御する、
ドライブ装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記第1段階の期間中に前記変圧器の1次側巻線に流す電流を時間の経過に応じて低減させて、かつ前記第1段階の期間中の前記所望の周波数として前記変圧器の1次側巻線に流す電流の周波数を前記時間の経過に応じて減少させる、
請求項1に記載のドライブ装置。
【請求項3】
前記変圧器の1次側巻線に流れる電流を検出する電流検出器
を備え、
前記制御装置は、
前記第1段階の期間中に前記電流の検出結果と電流値の指標である電流基準とに基づいて前記電力変換器によって定電流制御する、
請求項1に記載のドライブ装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記第1段階の期間の中で、前記変圧器を消磁させるように前記変圧器の1次巻線に流す電流の周波数の最大値が発生した後、周波数が時間の経過に従って単調に減少するように前記電力変換器が流す電流の周波数を制御する、
請求項1に記載のドライブ装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記第1段階の期間の中で、前記変圧器を消磁させるように前記変圧器の1次巻線に流す電流の周波数の最小値が予め定められた所定の値に達した後、前記第2段階を開始する
請求項1に記載のドライブ装置。
【請求項7】
前記制御装置は、
電圧基準と基準位相とに基づいて前記電力変換器の電力用半導体素子をスイッチングさせるための制御信号を生成する制御信号生成部と、
前記電動機の起動に係る第1段階の前記電圧基準として利用される第1電圧基準を生成する第1電圧基準生成器と、
前記第1段階の周波数基準として利用される第1周波数基準を生成する第1周波数基準生成器と、
前記第1段階後の第2段階に前記電動機を可変速制御するための前記電圧基準として利用される第2電圧基準を生成する第2電圧基準生成器と、
前記第2段階に前記電動機を可変速制御するための周波数基準として利用される第2周波数基準を生成する周波数基準生成器と、
前記第1周波数基準と前記第2周波数基準の何れかから基準位相を生成する積分器と、
前記電動機の起動に係る第1段階に前記第1周波数基準に基づく前記基準位相と前記第1電圧基準とを前記制御信号生成部に対して供給させて、前記第1段階後の第2段階に前記周波数基準に基づく前記基準位相と前記第2電圧基準とを前記制御信号生成部に対して供給させるように信号を切り替える制御指令を生成する制御器と、
を備える請求項1に記載のドライブ装置。
【請求項8】
前記第1電圧基準を有効化する第1スイッチと、
前記第2電圧基準を有効化する第2スイッチと、
前記第1周波数基準を有効化する第3スイッチと、
前記第2周波数基準を有効化する第4スイッチと、
を備え、
前記制御器は、
前記第1段階の期間に前記第1電圧基準と前記第1周波数基準とを有効化させるように前記第1スイッチと前記第3スイッチとを夫々制御して、
前記第2段階の期間に前記第2電圧基準と前記第2周波数基準とを有効化させるように前記第2スイッチと前記第4スイッチとを夫々制御する、
請求項7に記載のドライブ装置。
【請求項9】
前記制御装置は、
電圧基準と基準位相とに基づいて前記電力変換器の電力用半導体素子をスイッチングさせるための制御信号を生成する制御信号生成部と、
前記電動機の起動に係る第1段階の電流基準として利用される第1電流基準を生成する第1電流基準生成器と、
前記第1段階の周波数基準として利用される第1周波数基準を生成する第1周波数基準生成器と、
前記第1段階後の第2段階に前記電動機を可変速制御するための前記電流基準として利用される第2電流基準を生成する第2電流基準生成器と、
前記第2段階に前記電動機を可変速制御するための周波数基準として利用される第2周波数基準を生成する周波数基準生成器と、
前記電動機の起動に係る第1段階に前記第1周波数基準に基づく基準位相と前記第1電流基準とを前記制御信号生成部に対して供給させて、前記第1段階後の第2段階に前記周波数基準に基づく基準位相と前記第2電流基準とを前記制御信号生成部に対して供給させるように信号を切り替える制御指令を生成する制御器と、
を備える請求項1に記載のドライブ装置。
【請求項10】
1次側巻線と2次側巻線とを備える変圧器であって、前記2次側巻線に電動機の巻線が接続されている変圧器と、
電流を前記変圧器の1次側巻線に流す電力変換器と、を備えるドライブ装置の制御方法であって、
前記電動機の起動に係る第1段階の期間中に前記電力変換器から前記変圧器の1次側巻線に、予め定められた所望の周波数の電流が流れるように前記電力変換器を定電流制御することで前記変圧器の1次側巻線に流す電流の変動を低減させるステップと、
前記第1段階後の第2段階に前記電動機を可変電圧可変周波数制御によって前記電力変換器を制御するステップと、
前記変圧器を消磁させるように前記変圧器の1次巻線に流す電流に、前記所望の周波数に予め定められた周波数よりも高い周波数成分が含まれるように前記電力変換器が流す電流の周波数を制御するステップと、
を含むドライブ装置の制御方法。
【請求項11】
1次側巻線と2次側巻線とを備える変圧器であって、前記2次側巻線に電動機が接続されている変圧器と、
電流を前記変圧器の1次側巻線に流す電力変換器と、
前記電動機の起動が指示された後の第1段階の期間中に前記電力変換器から前記変圧器の1次側巻線に、予め定められた所望の周波数の電流が流れるように前記電力変換器を定電流制御することで前記変圧器の1次側巻線に流す電流の変動を低減させて、前記第1段階後の第2段階に前記電動機を可変電圧可変周波数制御によって前記電力変換器を制御する制御装置
を備え、
前記制御装置は、
前記第1段階の期間中に前記変圧器の1次側巻線に流す電流を時間の経過に応じて低減させて、かつ前記第1段階の期間中の前記所望の周波数として前記変圧器の1次側巻線に流す電流の周波数を前記時間の経過に応じて減少させる、
ドライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ドライブ装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機を駆動する電力変換器の出力と電動機との間に変圧器を設けて、変圧器によって電力変換器の出力電圧を昇降圧するドライブ装置がある。実際の変圧器は、理想的な変圧動作に加えて、直流偏磁などによる磁気飽和の影響が生じたり、残留磁束の影響が生じたりする。磁気飽和と残留磁束の影響によって電力変換器の保護回路が作動してドライブ装置が停止することなどによりドライブ装置の駆動制御が安定しないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、変圧器を介して電動機を駆動する電力変換器による駆動制御の安定性をより高めることができるドライブ装置及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のドライブ装置は、変圧器と、電力変換器と、制御装置とを備える。前記変圧器は、1次側巻線と2次側巻線とを備える変圧器であって、前記2次側巻線に電動機が接続されている。前記電力変換器は、電流を前記変圧器の1次側巻線に流す。前記制御装置は、前記電動機の起動が指示された後の第1段階の期間中に前記電力変換器から前記変圧器の1次側巻線に、予め定められた所望の周波数の電流が流れるように前記電力変換器を定電流制御することで前記変圧器の1次側巻線に流す電流の変動を低減させて、前記第1段階後の第2段階に前記電動機を可変電圧可変周波数制御によって前記電力変換器を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図3A】実施形態の変圧器のB-H特性を説明するための図。
【
図3B】比較例として、電圧源を用いて変圧器を励磁したときの変圧器の励磁状態を説明するための図。
【
図3C】実施形態の電流源を用いて変圧器を励磁したときの変圧器の励磁状態を説明するための図。
【
図4】実施形態のドライブ装置の起動段階の制御について説明するための図。
【
図5A】実施形態のドライブ装置の起動段階の動作を説明するためのタイミングチャート。
【
図5B】比較例のドライブ装置の起動段階の動作を説明するためのタイミングチャート。
【
図6A】第2の実施形態に係るドライブ装置の構成図。
【
図7】第3の実施形態に係るドライブ装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態のドライブ装置及び制御方法を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。以下の説明に示す「直交する」とは、略直交する場合を含む。なお、「大きさが等しい」場合には、略等しい場合も含む。
【0008】
図1は、実施形態のドライブ装置1の構成図である。
図2は、実施形態の電力変換器4の構成図である。
【0009】
ドライブ装置1は、例えば、電力変換器4と、変圧器5と、制御装置10とを備える。
電力変換器4は、例えばコンバータ4Aと、リアクトル4Bと、インバータ4Cとを備える。インバータ4Cは、電流型インバータ回路として機能する電力変換器の一例である。これに関する詳細は、後述する。
【0010】
電源3は、交流電力を電力変換器4に供給する。電力変換器4は、電源3から供給される交流電力を変換して、電動機2の駆動に利用する。電動機2の出力軸には機械負荷が連結されていて、機械負荷は、電動機2の出力軸の回転に応じて転動する。電動機2は、例えば誘導電動機である。
【0011】
変圧器5は、1次側巻線と2次側巻線とを備える。変圧器5は、その2次側巻線に電動機2の巻線が接続されている。電力変換器4は、電力用半導体素子のスイッチングによって所望の電流を変圧器5の1次側巻線に流す。
【0012】
電流検出器6は、電流センサを含む。電流検出器6は、例えば、電力変換器4の出力と変圧器5の1次巻線との間の配線に設けられている。電流検出器6は、電力変換器4のインバータ4Cの出力電流、つまり変圧器5の1次側巻線に流れる電流を検出する。その電流の検出結果を示す電流指標値は、制御装置10に供給される。例えば、電力変換器4の出力電流は、変圧器5の1次巻線の各相に流す電流(線電流)に対応する。なお、電流検出器6は、例えば、コンバータ4Aとインバータ4Cとを接続する直流リンクに設けられていてもよい。この場合、電流検出器6は、直流リンクに流れる電流を検出する。以下の説明では、図に示す前者の一例に基づいて説明する。
【0013】
制御装置10は、電力変換器4の出力電流の検出結果に基づいた電流制御の帰還制御系を含めて形成される。例えば、制御装置10は、電動機2の起動に係る第1段階の期間中に電力変換器4の出力電流の検出結果に基づいて電力変換器4を定電流制御することで変圧器5の1次側巻線に流す電流の変動を低減させる。その後、制御装置10は、第1段階後の第2段階に電動機2を可変周波数可変電圧制御(以下VVVF制御という。)するように電力変換器4を制御する。第1段階として、第2段階に電動機2をVVVF制御によって制御するための準備期間が、所定の期間に亘って提供される。例えば、コンバータ4Aによって電流制御を実現し、インバータ4CによってVVVF制御を実現してもよい。
【0014】
制御装置10のより具体的な一例を示す。例えば、制御装置10は、第1電圧基準生成器11と、第2電圧基準生成器12と、第1周波数基準生成器13と、周波数基準生成器14と、スイッチ部15と、積分器16と、制御信号生成部17と、変換器19と、制御器20と、を備える。
【0015】
積分器16は、後述する周波数基準f*に基づいて、周波数基準f*を積分することで2次磁束角φREFを演算する。2次磁束角φREFは、電動機2の制御の基準位相として利用される。
【0016】
制御信号生成部17は、電圧基準V*と2次磁束角φREFとに基づいて、後述する電力変換器4に含まれる各相の電力用半導体素子をスイッチングさせるための制御信号GPを生成する。
【0017】
例えば、制御信号生成部17は、座標変換ユニット17Aと、PWM制御ユニット17Bとを備える。
【0018】
座標変換ユニット17Aは、電圧基準V*を3相座標系に変換して、各相の電圧基準を生成する。例えば、座標変換ユニット17Aは、スカラー値の電圧基準V*と、電動機2の2次磁束角φREFとに基づいて、2次磁束角φREFを用いて電圧基準V*を3相座標系に変換して、コンバータ4Cの各相の電圧基準を生成する。電圧基準VU_REF、VV_REF、VW_REFは、夫々U相、V相、W相の電圧を規定する電圧基準である。この変換処理の一例を、式(1)に示す。コンバータ4Aの制御についても同様である。
【0019】
(VU_REF、VV_REF、VW_REF)
=V*×(sinφREF、sin(φREF-2π/3)、sin(φREF-4π/3)) (1)
【0020】
PWM制御ユニット17Bは、電圧基準に基づいて、所定のキャリア信号を用いたPWM(Pulse Width Modulation)制御によって各相の電力用半導体素子をスイッチングさせるための制御信号GPを生成する。例えば、PWM制御ユニット17Bは、電圧基準VU_REF、VV_REF、VW_REFを得て、電圧基準VU_REF、VV_REF、VW_REFに基づいて、所定のキャリア信号を用いたPWM制御によって、コンバータ4Cの各相の電力用半導体素子をスイッチングさせるための制御信号GPを生成する。PWM制御ユニット17Bは、各相の電力用半導体素子に対して夫々制御信号GPを供給して、コンバータ4Cの各相の電力用半導体素子を夫々スイッチングさせる。なお、コンバータ4Aの制御についても、インバータ4Aの制御と同様に3相のそれぞれに対して制御するとよい。
【0021】
変換器19は、電流検出器6の検出結果の電流指標値に基づいて電流帰還Ifbkを生成する。変換器19は、例えば、電流検出器6によって検出された2つの相又は3つの相の電流の大きさに対応する電流帰還Ifbkを生成する。
【0022】
第1電圧基準生成器11は、電動機2の起動に係る第1段階の電圧基準として利用される第1電圧基準V1*を生成する。第1電圧基準生成器11は、例えば、第1電圧基準V1*の値を、後述する周波数基準f2*に基づいて決定する。第1電圧基準V1*の値と、周波数基準f2*の値との間には、相関性がある。
【0023】
例えば、第1電圧基準生成器11は、起動電流パターン生成ユニット11Aと、減算器11Bと、電流制御器11Cとを備える。
【0024】
起動電流パターン生成ユニット11Aは、起動段階(第1段階)における電流値の大きさを規定するための起動電流パターンを生成する。起動電流パターンが示す電流値は、予め定められた固定値として規定されてもよく、起動開始後の時間の経過に応じて値が変化するように規定されてもよい。起動電流パターン生成ユニット11Aは、起動電流パターンに基づいた電流基準Irefを減算器11Bに供給する。
【0025】
減算器11Bは、起動電流パターン生成ユニット11Aから供給された電流基準Irefから、電流検出器6によって検出された電流値に基づいた電流帰還Ifbkを減算して、電流基準Irefと電流帰還Ifbkとの偏差である電流偏差ΔIを生成して、これを電流制御器11Cに供給する。
【0026】
電流制御器11Cは、電流偏差ΔIを得て、電流偏差ΔIが小さくなるように、又はゼロになるように電圧基準V1*を演算して電圧基準として出力する。例えば、電流制御器11Cは、電流偏差ΔIに対する比例ゲインKPと積分ゲインKIを用いた比例積分演算によって電圧基準V1*を算出する。
【0027】
第1周波数基準生成器13は、電動機2を消磁させる電流を電動機2の巻線に流すように規定された第1周波数基準f1*を生成する。例えば、第1周波数基準生成器13は、起動段階(第1段階)に利用される。第1周波数基準生成器13は、電動機2の巻線に流す電流の周波数を規定するための起動周波数パターンに従った周波数成分を含む信号(周波数基準f1*)を生成する。起動周波数パターンが示す周波数は、予め定められた固定の周波数として規定されてもよく、起動開始後の時間の経過に応じて変化するように規定されていてもよい。より具体的には、起動周波数パターンが示す周波数は、起動開始後の時間の経過に応じて周波数が徐々に低くなるように規定されていてもよい。第1周波数基準生成器13は、起動周波数パターンに基づいた第1周波数基準f1*をスイッチ部15に供給する。
【0028】
第2電圧基準生成器12は、電動機2を可変速制御するための第2電圧基準V2*を電圧基準として生成する。例えば、第2電圧基準生成器12は、後述する周波数基準生成器14が生成する周波数基準f2*を得て、周波数基準f2*に基づいて電動機2を可変速制御するための第2電圧基準V2*を電圧基準として生成する。第2電圧基準生成器12は、例えば、V/f一定制御用の変換規則を、その周波数基準f2*と第2電圧基準V2*との関係を示す変換規則として有している。これを単にV/fパターンと呼ぶ。
【0029】
周波数基準生成器14は、電動機2を可変速制御するための周波数基準f2*を生成する。例えば、周波数基準生成器14は、後述する制御器20から指定される周波数F*を得て、周波数F*に基づいて周波数基準f2*を生成する。周波数基準生成器14は、制御器20から指定される周波数F*を量子化して、周波数基準f2*を生成するためのテーブルを備えている。このテーブルは、周波数F*が高くなるにつれて、より大きな値の量子化値を示す周波数基準f2*を出力するように設定されている。この変換特性は、設計の結果に基づいて適宜定めてよい。量子化とは、入力変数の値に基づいて、とり得る値の粒度が入力変数の値の粒度よりも荒い飛び飛びの値に変換すること、又は連続して変化する入力値に基づいて所定の粒度で規定される値に変換すること、を示す。
【0030】
スイッチ部15は、例えば、スイッチ151から154を備える。スイッチ151(第1スイッチ)は、制御器20の制御によって第1電圧基準V1*を、電圧基準V*として有効化する。スイッチ152(第2スイッチ)は、制御器20の制御によって第2電圧基準V2*を、電圧基準V*として有効化する。スイッチ153(第3スイッチ)は、制御器20の制御によって第1周波数基準f1*を、周波数基準f*として有効化する。スイッチ154(第4スイッチ)は、制御器20の制御によって周波数基準f2*を、周波数基準f*として有効化する。
【0031】
制御器20は、起動要求に応じて電動機2の起動時に係る第1段階に第1電圧基準V1*と第1周波数基準f1*とを利用して、第1段階の開始後に第2段階を開始して第2電圧基準V2*を利用するための制御指令SEL1*、SEL2*を生成する。
【0032】
例えば、制御器20は、第1段階の期間の中で、制御指令SEL1*を用いてスイッチ151とスイッチ153との有効化と無効化を切り替えて、第2段階の期間の中で、制御指令SEL2*を用いてスイッチ152とスイッチ154との有効化と無効化を切り替えるように、各スイッチを夫々制御する。各スイッチを有効化するとは、例えば各スイッチをON状態にすることである。
【0033】
次に、
図2を参照して、電力変換器4について説明する。
電力変換器4は、コンバータ4Aと、リアクトル4Bと、インバータ4Cとを含む。
【0034】
コンバータ4Aは、例えば複数個のサイリスタ又はダイオードを含むコンバータである。コンバータ4Aは、整流によって、受電した交流電力を直流電力に変換して、直流電圧を発生させる。コンバータ4Aは、これに基づいて電流制御を実施する。コンバータ4Aとインバータ4Cとを接続する直流リンクには、リアクトル4Bが設けられている。インバータ4Cは、直流リンクを経て供給される直流電力に基づいて、電動機2の速度制御に必要な電圧、周波数の交流電力に変換する。インバータ4Cは、例えば、複数個のスイッチング素子をブリッジ接続して構成されている。これ等の複数個のスイッチング素子は、制御装置10によってオンオフ制御される。
【0035】
例えば、
図2に示すインバータ4Cは、スイッチング素子としてサイリスタを用いて構成した直列ダイオード方式インバータの一例である。インバータ4Cの各相に対応するレグは、2つのサイリスタと2つのダイオードとを含み、2つのサイリスタの間に2つのダイオードを挟むように夫々が直列に接続されている。各レグのサイリスタとダイオードとの接続点は、転流コンデンサによって互いに接続されている。この転流コンデンサに蓄えられた電荷による電圧によって、サイリスタに逆バイアスが掛かると転流が生じる。なお、この
図2に示すインバータ4Cの回路構成は、これに制限されることはなく、他の回路構成を適宜適用してもよい。例えば、インバータ4Cは、2レベル型インバータでも、3レベル型インバータでもよい。本実施形態は、インバータの方式、回路構成によらずに適用できる。
【0036】
次に、
図3Aから
図3Cを参照して、実施形態の定電流駆動について説明する。
図3Aは、実施形態の変圧器5のB-H特性を説明するための図である。
図3Bは、比較例として、電圧源を用いて変圧器5を励磁したときの変圧器5の励磁状態を説明するための図である。
図3Cは、実施形態の変圧器5を、電流源を用いて励磁したときの変圧器5の励磁状態を説明するための図である。
【0037】
B-H特性は、一般的にヒステリシスを有する閉曲線で示される。
図3Aに示す例では、横軸の磁場Hに対する縦軸の磁束密度Bの関係について、B-H特性のヒステリシスを省略して、全領域を3つの線分を用いて折れ線近似した結果を示す。この近似によるB-H特性では、残留磁束が生じることが示されていないが、実際の変圧器5はヒステリシス特性を有するために残留磁束が生じることがある。
【0038】
図3Aに示す近似の結果、磁場Hの値が比較的小さな非飽和領域の線分の傾き(透磁率)に対して、磁場Hの値が比較的大きな飽和領域の線分の傾きは、磁気飽和のため緩くなる。この非飽和領域と飽和領域との境界付近で励磁された場合に生じ得る事象について説明する。
【0039】
図3Bに示す比較例では、電圧源からの正弦波状の電圧波形の電圧によって変圧器5が励磁されることにより、B-H特性(B-H特性曲線)に対応する電流が変圧器5の巻線に流れる。その電流の変動範囲を矢印で示す。この電圧波形において正の電圧を示す期間の電流の変動幅ΔIPに対して、負の電圧を示す期間の電流の変動幅ΔINの方が、より大きな値を示す。このように変動幅ΔIPと変動幅ΔINが不均衡になっていて、電流の振幅がその極性に対して非対称になる。
【0040】
この比較例の場合、VVVF制御によって電動機2を起動する起動時のその周波数(角速度)は、比較的低い値に維持されている。上記の比較例の駆動方法を適用して、過度に加速するように制御すると、起動時における不均衡な電圧が発生して、電圧x時間面積による磁束の飽和が発生しやすい。また、その起動時における変圧器の鉄心の残留磁束の大きさも、B-H特性内の位置も不明である。そのため、残留磁束の大きさに関係して磁気飽和による過電流の恐れもある。このような事象が発生することを避けるように、ギャップ入りの変圧器を適用する場合があった。ギャップ入りの変圧器は、その大きさがギャップなしの変圧器に比べて大きくなる傾向がある。
【0041】
特に、起動トルクが大きい機械負荷への適用は、起動時に電流を大きくする必要があり、VVVF制御の下で電圧をブーストさせることがある。これは、さらに変圧器の磁気飽和を発生させる要因になる。比較例の方法で、このような起動トルクが大きい機械負荷を駆動する場合、過電流が発生しやすくなり、これに対して、より大きな変圧器を設けるなどの対策が必要とされていた。
【0042】
なお、電気回路の抵抗分による電圧降下が生じることにより、徐々に残留磁束は消えていく。比較例の起動方法の場合には、電動機の起動時の速度に対応する比較的低い周波数で励磁するために、所定数を超える回数の交番磁束を変圧器にかけるには時間が掛かる。そのため、比較例の起動方法では、電動機の起動時などに要求される比較的短い時間の中で残留磁束を効率よく低減させることは難しい。
【0043】
図3Cに示す本実施形態の事例では、電流源から正弦波状の電流波形の電流によって変圧器5が励磁されることにより、B-H特性(B-H特性曲線)に対応する電圧が変圧器5の巻線に印加される。その電圧の変動範囲を矢印で示す。この電流波形において順方向に流れる正の電流を示す期間の電圧の変動幅ΔVPに対して、負の電圧を示す期間の電圧の変動幅ΔVNの方が、小さくなっている。このように変動幅ΔVPと変動幅ΔVNが不均衡であることにより、電圧の振幅がその極性に対して非対称になる。この場合、その変動幅ΔIPと変動幅ΔINを合わせた変動幅の中心は、電圧波形の基準電圧を示す点よりも飽和領域側になる。つまり、その中心の位置は、磁気飽和を減らす側へ動く量は大きく、磁気飽和が増える側へは動かない。その結果、残留磁束の非対称分が消えていく方向に作用する。
【0044】
図4を参照して、実施形態のドライブ装置1の起動段階の制御について説明する。
図4は、実施形態のドライブ装置1の起動段階の制御について説明するための図である。
図4中の(a)に、起動電流パターンの一例を示す。
図4中の(b)に、起動周波数パターンの一例を示す。
図4中の(c)に、テーブルを用いて周波数F*を量子化して生成される周波数基準f2*の一例を示す。
【0045】
図4中の(a)に示す起動電流パターンは、例えば、起動開始時から時間Tが経過するまでの段階(以下、単に第1段階と呼ぶ。)に適用される電流基準Irefを規定する。例えば、電流基準Irefは、一定値又は一定値に比較的近い値に決定されている。一定値に比較的近い値の電流基準Irefについても、これらを纏めて、単に一定値の電流基準Irefと呼ぶ。
【0046】
図4中の(b)に示す起動周波数パターンは、上記の第1段階における第1周波数基準f1*を規定する。例えば、起動周波数パターンによって規定する第1周波数基準f1*によって、第1段階において変圧器5の1次巻線に流す電流に下記の特徴を与えて、変圧器5を消磁させるとよい。
【0047】
第1周波数基準f1*の第1の特徴として、第1周波数基準f1*が示す周波数成分に、例えば、予め定められた周波数よりも高い周波数成分が含まれるように規定する。上記の「予め定められた周波数」を、電動機2の起動時に電動機2に空転が生じる速度よりも高い周波数にするとよい。
【0048】
第1周波数基準f1*の第2の特徴として、例えば、第1周波数基準f1*によって規定される周波数の最大値が、第1段階の期間の開始直後(起動開始直後)に発生するように規定する。
【0049】
第1周波数基準f1*の第3の特徴として、例えば、第1段階の期間の中で、第1周波数基準f1*によって規定される周波数の最大値を発生させた後、第1周波数基準f1*によって規定される周波数が時間の経過に従って単調に減少するように規定する。
【0050】
第1周波数基準f1*の第4の特徴として、例えば、第1周波数基準f1*によって規定される周波数の最小値が予め定められた所定の値に第1段階の期間の中に達するように規定する。
【0051】
上記の第1の特徴から第4の特徴の中の1つ以上の特徴を、第1周波数基準f1*の特徴として付与するとよい。
【0052】
例えば、制御装置10は、第1段階の期間中に変圧器5を消磁させるための電流を変圧器5の1次巻線に流すようにインバータ4Cを制御する。制御装置10は、第2段階の期間中に電動機2をVVVF制御するための電流を変圧器5の1次巻線に流すようにインバータ4Cを制御する。
【0053】
その際に、制御装置10は、第1の特徴を有している第1周波数基準f1*を用いることで、制御装置10は、変圧器5を消磁させるように変圧器5の1次巻線に流す電流に、予め定められた周波数よりも高い周波数成分が含まれるようにインバータ4Cを制御できる。
【0054】
制御装置10は、第2の特徴を有している第1周波数基準f1*を用いることで、変圧器5の1次巻線に流す電流の周波数の最大値が第1段階の期間の開始直後に発生するように、インバータ4Cを制御できる。
【0055】
制御装置10は、第3の特徴を有している第1周波数基準f1*を用いることで、第1段階の期間の中で、変圧器5を消磁させるように変圧器5の1次巻線に流す電流の周波数の最大値が発生した後、周波数が時間の経過に従って単調に減少するようにインバータ4Cを制御できる。
【0056】
制御装置10は、第4の特徴を有している第1周波数基準f1*を用いることで、変圧器5を消磁させるように変圧器5の1次巻線に流す電流の周波数の最小値が第1段階の期間の中の後半に発生するようにインバータ4Cを制御できる。さらに制御装置10は、第1段階の期間の中で、変圧器5を消磁させるように変圧器5の1次巻線に流す電流の周波数の最小値が発生した後、第2段階を開始させるとよい。
【0057】
以下、上記の第1の特徴から第4の特徴のすべてを満たすように第1周波数基準f1*の特徴として付与した事例について説明する。
【0058】
図5Aと
図5Bとを参照して、実施形態のドライブ装置1の起動段階の動作について説明する。
図5Aは、実施形態のドライブ装置1の起動段階の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図5Bは、比較例のドライブ装置の起動段階の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【0059】
図5A中の上段側から順に、(a)インバータ4Cの出力電流とその周波数f、(b)インバータ4Cの運転状態、(c)スイッチ151、153の状態、及び(d)スイッチ152、154の状態を夫々示す。
【0060】
時刻t1に至るまでの初期段階は、インバータ4Cが流す電流(出力電流)がなく、電動機2が停止状態にある。スイッチ151からスイッチ154のすべてがOFF状態にある。
【0061】
時刻t1になると、制御器20は、周波数基準生成器14と、スイッチ部15とにそれぞれを制御する制御信号を送って、
図5Aの中の(b)に示すように、停止状態にあったドライブ装置1の運転を開始して運転状態にする。制御器20は、
図5Aの中の(c)に示すように、スイッチ151とスイッチ153(纏めてSWAと呼ぶ。)をON状態にして、
図5Aの中の(d)に示すように、スイッチ152とスイッチ154(纏めてSWBと呼ぶ。)のOFF状態を維持する。
【0062】
例えば、制御器20は、周波数基準生成器14に対して、電動機2の所望の回転数を指定するための周波数F*を送る。制御器20は、スイッチ部15に対して、所望の信号(第1信号)を選択するための選択信号を送り、スイッチ部15の状態を起動段階用に切り替える。例えば、制御器20は、上記こよって決定された状態を時刻t2になるまで維持する。
【0063】
周波数基準生成器14は、周波数F*の供給を受けて、これに応じた周波数基準f2*を、テーブルを参照して生成して、この周波数基準f2*を第1電圧基準生成器11と、第1周波数基準生成器13と、第2電圧基準生成器12と、スイッチ部15とに供給する。
【0064】
第1電圧基準生成器11は、周波数基準f2*の供給を受けると、起動電流パターン生成ユニット11Aによって、起動段階(第1段階)における電流値の大きさを規定するための起動電流パターンに基づいた電流基準Irefを生成する。また、電流制御器11Cは、電流基準Irefと電流帰還Ifbkとの偏差である電流偏差ΔIを得て、電流偏差ΔIに基づいて電圧基準V1*を演算する。第1電圧基準生成器11は、この電圧基準V1*を出力する。電圧基準V1*は、電圧基準V*として利用される。
【0065】
第1周波数基準生成器13は、周波数基準f2*の供給を受けると、起動周波数パターンに基づいた周波数指標f1*を生成して、スイッチ部15に供給する。例えば、起動周波数パターンは、予め定められてテーブル化されていてもよい。起動周波数パターンは、起動段階(第1段階)における周波数fの大きさを規定するものである。例えば、起動周波数パターンとして、運転開始後に、周波数fmaxから周波数fminまで、時間の経過とともに単調に減少する周波数指標f1*が規定されている。この起動周波数パターンは、時間の関数として規定することもできる。その周波数は、周波数基準f2*に対応させて周波数指標f1*の値が変化するように、相関性が予め決定されていてもよい。
【0066】
スイッチ部15は、上記の制御によって、起動段階用の信号が有効化される設定になる。これにより、積分器16には周波数指標f1*が供給される。積分器16は、この周波数指標f1*を積分して、2次磁束角φREFを生成する。また、この制御によって、制御信号生成部17には、電圧基準V1*に基づいた電圧基準V*と、周波数指標f1*に基づいた2次磁束角φREFとが供給される。
【0067】
制御信号生成部17は、電圧基準V1*と、周波数指標f1*に基づいた2次磁束角φREFとに基づいた制御信号GPを生成して、電力変換器4のインバータ4Cを制御する。制御信号生成部17は、例えば、所定の電圧基準又は電圧基準V1*と、直流リンクの検出電圧と、電源3側の交流に関わる基準位相とに基づいた制御信号GPを生成して、電力変換器4のコンバータ4Aを制御してもよい。
【0068】
上記の状態が、時刻t2まで継続される。
例えば、
図5A中の(a)に示すように、周波数指標f1*が示す周波数は、時刻t1からt2までの間に起動開始後の時間の経過に応じて、起動周波数パターンによって規定されるように周波数fmaxから周波数fminまで徐々に低下する。この周波数の変化に応じて、電流の周期が徐々に長くなる。この期間の電流の振幅は、電流制御によって一定になるように調整されている。
【0069】
時刻t2になると、制御器20は、周波数基準生成器14と、スイッチ部15とにそれぞれを制御する制御信号を送って、
図5Aの中の(a)に示すように、電動機2の速度を速めるように、周波数を徐々に高くする。
【0070】
このとき、制御器20は、
図5Aの中の(c)に示すように、スイッチ151とスイッチ153をOFF状態にして、
図5Aの中の(d)に示すように、スイッチ152とスイッチ154のON状態にする。これにより、第1電圧基準生成器11と、第1周波数基準生成器13の出力が、後段から切り離されて、その出力値が無効化される。これに代えて、第2電圧基準生成器12と、周波数基準生成器14の出力が後段に接続されて、その出力値が有効化される。
【0071】
上記の通り、周波数基準生成器14が出力する周波数指標f2*が示す周波数は、時刻t2以降に、時間の経過に応じて、周波数fminから徐々に高くなる。
【0072】
第2電圧基準生成器12が出力する第2電圧基準V2*の大きさは、第2電圧基準生成器12のV/fパターンに従い、周波数指標f2*が示す周波数が高くなるについて高くなる。
【0073】
図5Aに示すように、時刻t5に至るまで、周波数指標f2*が示す周波数が高くなり、電動機2の軸出力トルクも高くなる。時刻t1に運転を開始してから時刻t5に至るまでの間に、閾値OC1を超える過電流は生じない。
【0074】
次に、
図5Bを参照して、比較例について説明する。
この比較例の構成には、上記の通り過電流を抑制するための構成が設けられていない。そのため、時刻t11に運転を開始した段階で、周波数を比較的低く設定していても、起動時のトルクと、変圧器5の磁気飽和の関係で、正負非対称の電流が生じて、さらに、その振幅も過電流保護の閾値OC1を超えることがありうる。例えば、時刻t11aに閾値OC1を超えると、過電流保護のため運転を停止させることが必要になる。
【0075】
仮に、全体の構成を見直して、過電流保護の閾値OC1を閾値OC2に高めることができたとしても、変圧器が飽和していて、時刻t12に至っても残留磁束が比較的高い状態にあると、電動機2の加速時に生じるトルクによって過大な電流が流れることがある。このような場合に、閾値CO2を超えた段階で、過電流保護のため運転を停止させることが必要になる。このように運転の停止になる確度を下げることができても、その発生を抑制することは困難であった。
【0076】
上記の比較例との対比の結果からも明らかなように、実施形態によれば、変圧器5は、1次側巻線と2次側巻線とを備え、2次側巻線に電動機の巻線が接続されている。電力変換器4は、電力用半導体素子のスイッチングによって電流を変圧器5の1次側巻線に流す。制御装置10は、電動機2の起動に係る第1段階の期間中に電力変換器4を定電流制御することで変圧器5の1次側巻線に流す電流の変動を低減させて、第1段階後の第2段階に電動機2をVVVF制御によって電力変換器4を制御する。これにより、変圧器5を介して電動機2を駆動する電力変換器4による駆動制御の安定性をより高めることができる。この電力変換器4は、インバータ4Cを含むとよい。
【0077】
制御装置10は、上記の第1段階の期間中に変圧器5の1次側巻線に流す電流の電流基準Irefを低減させて、かつ第1段階の期間中に変圧器5の1次側巻線に流す電流の周波数を時間の経過に応じて減少させるとよい。これにより、第1段階に変圧器5の残留磁束を減少させるための交流電流を、比較的短時間の中でより多くのサイクルで流すことができ、より短い時間で残留磁束を減少させることができる。
【0078】
制御装置10は、上記の第1段階の期間中に、上記の電流の検出結果である電流帰還Ifbkと電流値の指標である電流基準Irefとに基づいて電力変換器4を定電流制御により機能させることにより、第1段階の期間中の電流を制限することができる。
【0079】
制御装置10は、上記の第1段階の期間中に変圧器5を消磁させるための電流を変圧器5の1次巻線に流すように電力変換器4を制御する。さらに、制御装置10は、上記の第2段階の期間中に電動機2をVVVF制御するための電流を変圧器5の1次巻線に流すように電力変換器4を制御する。これによって、第1段階に変圧器5の残留磁束を低減させた後に、VVVF制御によって電動機2を駆動させることができる。変圧器5の残留磁束が少ないほど好適であるが、第1段階を終えた段階で、変圧器5の飽和領域に掛からずに駆動できる程度に変圧器5の残留磁束が低減されていれば、過電流が発生しにくくなる。
【0080】
制御装置10は、上記の第1段階の期間の中で、変圧器5を消磁させるように変圧器5の1次巻線に流す電流の周波数の最小値が予め定められた所定の値に達した後に、上記の第2段階を開始するとよい。
【0081】
制御装置10は、比較的高い周波数の電流を流し、電流を流しながらその周波数を徐々に下げることで、変圧器5の磁気飽和による過電流が発生するリスクを軽減し、電動機2の起動時の初期段階で変圧器5の残留磁束を低減させることができる。これにより、上記のリスクに対する対策のために過大な定格容量の変圧器を設けることが不要になる。
【0082】
このように、電動機2の起動時の初期段階に、電流制御を行う期間を設けたことで、起動トルクの大きい場合にも、過電流が生じるリスクを低減して、比較的大きな電流を流して電動機を起動できる。
【0083】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。先に示した第1の実施形態の事例は、電流型インバータ回路を利用するものであった。本実施形態では、これに代えて、電圧型インバータ回路を利用する事例について説明する。
【0084】
図6Aは、第2の実施形態に係るドライブ装置1Aの構成図である。
図6Bは、第2の実施形態の電力変換器40の構成図である。
【0085】
ドライブ装置1Aは、例えば、電力変換器40と、変圧器5と、制御装置50とを備える。電力変換器40と、制御装置50は、ドライブ装置1の電力変換器4と、制御装置10とに代わるものである。
【0086】
電力変換器40は、例えばコンバータ40Aと、キャパシタ40Bと、インバータ40Cとを備える。
【0087】
コンバータ40Aは、例えばコンバータ4Aと同様の構成でよい。キャパシタ40Bは、コンバータ40Aによって変換された電力を平滑化する。インバータ40Cは、複数個のスイッチング素子をブリッジ接続して構成されている。インバータ40Cは、電圧型インバータ回路を含む電力変換器の一例である。これ等の複数個のスイッチング素子は、制御装置50によってオンオフ制御される。
【0088】
制御装置50は、例えば、速度制御器50aと、周波数基準生成器50b(図中の記載は速度演算部)と、磁束演算部50cと、磁化電流演算部50dと、滑り周波数演算部50eと、積分器50fと、3相/2相座標変換器50g、電流制御器50hと、2相/3相変換器50iと、PWM制御器50jと、第1周波数基準生成器50kと、減算器50lと、除算器50mと、加算器50nと、減算器50r、50sと、スイッチ部60と、制御器70とを備える。
【0089】
速度制御器50aは、減算器50lによって算出される速度の偏差に基づいて、この偏差がゼロとなるようにトルク基準信号Tm*(以下*は目標値を示す)を演算して出力する。例えば、減算器50lは、周波数基準生成器50bからの速度基準信号ωr*と、速度センサ(回転子速度検出器)2SSからの速度フィードバック信号ωrとの偏差を、上記の速度の偏差として算出する。磁束演算部50cは、速度フィードバック信号ωrに基づいて、交流電動機4aの2次磁束基準信号φ2*を演算する。除算器50mは、トルク基準信号Tm*を2次磁束基準信号φ2*で除算して、トルク電流基準信号iq*を得る。磁化電流演算部50dは、2次磁束基準信号φ2*に基づいて、励磁電流基準信号id*を演算する。滑り周波数演算部50eは、トルク成分の電流基準信号iq*と2次磁束基準信号φ2*とに基づいて、滑り周波数信号ωsを演算する。加算器50nは、滑り周波数信号ωsと、速度基準信号ωr*とを加算することで、速度基準信号ω2*を演算する。
【0090】
周波数基準生成器50bは、制御器70から周波数F*の供給を受けて、これに応じた速度基準信号ωr*を生成して、この速度基準信号ωr*を減算器50lに供給する。周波数基準生成器50bにおける速度基準信号ωr*の生成において、周波数基準生成器50bは、前述の周波数基準生成器14のようにテーブルを用いて、量子化された速度基準信号ωr*を生成するとよい。
【0091】
第1周波数基準生成器50kは、制御器70から周波数F*の供給を受けて、これに応じた速度基準信号ω1*を生成する。第1周波数基準生成器50kは、速度基準信号ω1*を、例えば、前述の起動周波数パターンに従い生成するとよい。
【0092】
このようにして得られたトルク電流基準信号iq*と、励磁電流基準信号id*と、速度基準信号ω1*と、速度基準信号ω2*とが、スイッチ部60に与えられる。
【0093】
例えばスイッチ部60は、制御信号切替スイッチ60bと、電流設定部60cと、電流調節部60dと、を備える。
電流設定部60cは、起動時の指標値である起動トルク電流io*0を出力する。電流調節部60dは、起動時の指標値である起動励磁電流ip*を出力する。上記の起動トルク電流io*0と起動励磁電流ip*は、予め定められた所定の電流値に設定するとよい。
【0094】
制御信号切替スイッチ60bは、制御器70からの制御により、トルク電流基準信号iq*と起動トルク電流io*0とを切り替えて、励磁電流基準信号id*と起動励磁電流ip*とを切り替えて、速度基準信号ω1*と速度基準信号ω2*とを切り替える。制御信号切替スイッチ60bは、起動時の第1段階に、トルク電流基準信号iq*と、励磁電流基準信号id*と、速度基準信号ω1*とを出力する。制御信号切替スイッチ60bは、その後の第2段階に、起動トルク電流io*0と、起動励磁電流ip*と、速度基準信号ω2*とを出力する。この第2段階は、通常の運転状態に相当する。
【0095】
制御器70は、図示されないタイマーを備えて構成されているコントローラである。制御器70は、上位装置から運転開始の指令を受けて、ドライブ装置1Aの運転を開始して、第1段階と第2段階とに分けて電動機2を起動させる。制御器70は、運転開始の指令を受けてからの経過時間などに基づいて、起動時の各段階に応じて、制御信号切替スイッチ60bと、第1周波数基準生成器50kとを制御する。この制御は、前述の第1の実施形態の制御に準じて実施するとよい。
【0096】
積分器50fは、速度基準信号ω1*と速度基準信号ω2*の何れかに基づいた速度基準信号ω3*を積分して2次磁束位置θ0を得る。
【0097】
3相/2相座標変換器50gは、この2次磁束位置θ0を基準位相として用いて、電流検出器31からの電流信号を、トルク電流フィードバック信号iqとこれと直交する励磁電流フィードバック信号idとに分解してこれらを出力する。
【0098】
電流制御器50hは、減算器50rによって算出されたトルク電流基準信号iq*とトルク電流フィードバック信号iqの偏差Δiqが小さくなるように、又はゼロになるように、その偏差Δiqに所定のゲインを乗じて、トルク電圧基準信号Eq*を算出して出力する。電流制御器50hは、減算器50sによって算出された励磁電流基準信号id*と励磁電流フィードバック信号idの偏差Δidが小さくなるように、又はゼロになるように、偏差Δidに所定のゲインを乗じて、励磁電圧基準信号Ed*を算出して出力する。
【0099】
2相/3相変換器50iは、トルク電圧基準信号Eq*と励磁電圧基準信号Ed*及び2次磁束位置θ0に基づいて、3相電圧基準信号Vu*、Vv*、Vw*を演算して出力する。ここでPWM制御器50jは、得られた3相電圧基準信号Vu*、Vv*、Vw*に基づき、パルス幅変調されたゲートパルス信号(制御信号GP)を出力する。インバータ40Cに制御信号GPを与えて、インバータ40Cがその複数個のスイッチング素子をオン・オフさせることにより、所望の電力変換を行う。
【0100】
上記の実施形態によれば、ドライブ装置1Aにおける制御信号生成部は、電圧基準と基準位相とに基づいてインバータ40Cの電力用半導体素子をスイッチングさせるための制御信号GPを生成する。上記の電流制御器50hと、2相/3相変換器50iと、PWM制御器50jは、制御信号生成部の一例である。
【0101】
第1電流基準生成器は、電動機2の起動に係る第1段階の電流基準として利用される第1電流基準を生成する。電流設定部60cと、電流調節部60dは、第1電流基準生成器の一例である。第1周波数基準生成器50kは、第1段階の周波数基準として利用される第1周波数基準を生成する。
【0102】
第2電流基準生成器は、第1段階後の第2段階に電動機2を可変速制御するための電流基準として利用される第2電流基準を生成する。磁化電流演算部50dと除算器50mは、第2電流基準生成器の一例である。周波数基準生成器50bは、第2段階に電動機2を可変速制御するための周波数基準として利用される第2周波数基準を生成する。
【0103】
制御器70は、電動機2の起動に係る第1段階に第1周波数基準に基づく基準位相と第1電流基準とを制御信号生成部に対して供給させて、第1段階後の第2段階に周波数基準に基づく基準位相と第2電流基準とを制御信号生成部に対して供給させるように信号を切り替える制御指令を生成する。これにより、上記の第1段階に変圧器5の1次巻線に流す電流の周波数と大きさを調整することができる。これにより、第1の実施形態と同様に、過電流によって運転停止になることを抑制することができる。
【0104】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。先に示した第2の実施形態の事例は、速度センサ2SSを用いて電動機2の速度を検出する事例について説明した。本実施形態では、これに代えて、所謂センサレス型制御の事例について説明する。
【0105】
図7は、第3の実施形態に係るドライブ装置1Bの構成図である。
ドライブ装置1Bは、ドライブ装置1Aの制御装置50と、スイッチ部60と、制御器70とに代えて制御装置50Aと、スイッチ部60Aと、制御器70Aとを備え、速度センサ2SSが除かれている。
【0106】
制御装置50Aは、制御装置50に対して速度位相推定部50tをさらに備える。制御装置50Aは、制御装置50の速度制御器50aと磁束演算部50cと積分器50fとに代えて、速度制御器50Aaと磁束演算部50Acと積分器50Afとを備える。制御装置50Aは、磁化電流演算部50dと、滑り周波数演算部50eと、除算器50mと、加算器50nと、を備えずに構成されている。
【0107】
速度位相推定部50tは、トルク電圧基準信号Eq*と、励磁電圧基準信号Ed*と、トルク電流フィードバック信号iqと、励磁電流フィードバック信号idとに基づいて、電動機2の速度の推定値を示す速度フィードバック信号ωrと、電動機2の運転中に2次磁束位置θ0として利用する2次磁束位置θ2*とを算出する。
【0108】
速度位相推定部50tによる、この速度フィードバック信号ωrと、電動機2の2次磁束位置θ2*の生成は、センサレス磁界方向制御(FOC)などの既知の手法を適用してよい。なお、速度フィードバック信号ωrと、電動機2の2次磁束位置θ0(2次磁束位置θ2*)の生成方法として、上記以外の変数を用いる手法が知られている。これらの適用を制限するものではなく、適宜適用してもよい。
【0109】
制御装置50Aにおける各部は、前述の速度センサ2SSによる検出値に基づいた速度フィードバック信号ωrに代えて、速度位相推定部50tが生成した速度フィードバック信号ωrを利用する。
【0110】
例えば、速度制御器50Aaは、速度フィードバック信号ωrを用いて減算器50lによって算出される速度の偏差がゼロとなるようにトルク電流基準信号iq*を演算する。磁束演算部50Acは、速度フィードバック信号ωrに基づいて、励磁電流基準信号id*を演算する。積分器50Afは、速度フィードバック信号ωrに基づいて第1周波数基準生成器50kによって算出された速度基準信号ω1*を積分して電動機2の起動時に利用する2次磁束位置θ1*を生成する。
【0111】
スイッチ部60Aの制御信号切替スイッチ60bは、制御器70Aからの制御により、トルク電流基準信号iq*と起動トルク電流io*0とを切り替えて、励磁電流基準信号id*と起動励磁電流ip*とを切り替えて、2次磁束位置θ1*と2次磁束位置θ2*とを切り替える。制御信号切替スイッチ60bは、起動時の第1段階に、トルク電流基準信号iq*と、励磁電流基準信号id*と、2次磁束位置θ1*とを出力する。制御信号切替スイッチ60bは、その後の第2段階に、起動トルク電流io*0と、起動励磁電流ip*と、2次磁束位置θ2*とを出力する。この第2段階は、通常の運転状態に相当する。
【0112】
制御器70Aは、図示されないタイマーを備えて構成されているコントローラである。制御器70Aは、上位装置から運転開始の指令を受けて、ドライブ装置1Bの運転を開始して、第1段階と第2段階とに分けて電動機2を起動させる。制御器70Aは、運転開始の指令を受けてからの経過時間などに基づいて、起動時の各段階に応じて、制御信号切替スイッチ60bと、第1周波数基準生成器50kとを制御する。この制御は、前述の第1の実施形態の制御に準じて実施するとよい。
【0113】
上記の実施形態によれば、制御信号生成部と、第1電流基準生成器と、第1周波数基準生成器50kと、周波数基準生成器50bは、第2の実施形態のものに相当する。
【0114】
第3の実施形態の第2電流基準生成器は、第2の実施形態の場合と対応関係が異なる。例えば、速度制御器50Aaと磁束演算部50Acは、第3の実施形態の第2電流基準生成器の一例である。
【0115】
さらに、制御器70Aは、電動機の起動に係る第1段階において、第1周波数基準から生成した基準位相を制御信号生成部に供給させて、第2段階において電動機2の第2磁束の推定結果を制御信号生成部に供給させるように信号を切り替える制御指令を生成する。
【0116】
このように構成されたセンサレス型制御によるドライブ装置1Bについても、第1の実施形態と同様の制御方法により、上記の第1段階に変圧器5の1次巻線に流す電流の周波数と大きさを調整することができる。これにより、第1の実施形態と同様に、過電流によって運転停止になることを抑制することができる。
【0117】
以上に説明した少なくとも一つの実施形態によれば、ドライブ装置は、変圧器と、電力変換器と、制御装置とを備える。変圧器は、1次側巻線と2次側巻線とを備える変圧器であって、その2次側巻線に電動機の巻線が接続されている。電力変換器は、電流を変圧器の1次側巻線に流す。制御装置は、電動機の起動に係る第1段階の期間中に電力変換器を定電流制御することで変圧器の1次側巻線に流す電流の変動を低減させて、第1段階後の第2段階に電動機を可変電圧可変周波数制御によって電力変換器を制御する。これにより、ドライブ装置は、変圧器を介して電動機を駆動する電力変換器による駆動制御の安定性をより高めることができる。
【0118】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0119】
1…ドライブ装置、2…電動機、3…電源、4…電力変換器、4C…インバータ、5…変圧器、6…電流検出器、10、50、50A…制御装置、11…第1電圧基準生成器、12…第2電圧基準生成器、13、50k…第1周波数基準生成器、14、50b…周波数基準生成器、15、60、60A…スイッチ部、16…積分器、17…制御信号生成部、20、70、70A…制御器