(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】回転部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2706 20220101AFI20230825BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20230825BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20230825BHJP
D06M 13/322 20060101ALI20230825BHJP
D06M 11/74 20060101ALI20230825BHJP
B29B 15/14 20060101ALI20230825BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20230825BHJP
【FI】
H02K1/2706
H02K15/03 Z
H02K15/02 Z
D06M13/322
D06M11/74
B29B15/14
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2022565511
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2021043891
(87)【国際公開番号】W WO2022114225
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2020199243
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小向 拓治
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 麻季
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/151009(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/188006(WO,A1)
【文献】特開2018-043521(JP,A)
【文献】特開2009-084080(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043046(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/2706
H02K 15/03
H02K 15/02
D06M 13/322
D06M 11/74
B29B 15/14
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周と外周とを有し、その周方向に沿って回転する回転部材において、
前記周方向に巻いた炭素繊維と、
前記炭素繊維を包埋するマトリックス樹脂と、
屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成し、前記炭素繊維の表面に設けられた構造体と
、
前記接触部の周りで直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋して固定し、水性架橋剤として機能する第1サイジング剤とを備え
、
前記構造体では、複数本の前記カーボンナノチューブが囲む空隙部が形成され、前記第1サイジング剤は前記空隙部を閉塞しない
ことを特徴とする回転部材。
【請求項2】
前記第1サイジング剤は、カルボジイミド由来の構造を有す
ることを特徴とする請求項1に記載の回転部材。
【請求項3】
前記構造体は、厚さが50nm以上200nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の回転部材。
【請求項4】
前記炭素繊維の繊維体積含有率が75%未満であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の回転部材。
【請求項5】
内周と外周とを有し、その周方向に沿って回転する回転部材の製造方法であって、
屈曲部を有する曲がった形状のカーボンナノチューブが分散されるとともに超音波振動を印加した分散液に炭素繊維を浸漬し、前記炭素繊維に複数の前記カーボンナノチューブを付着させて、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を備える構造体を前記炭素繊維の表面に形成する構造体形成工程と、
前記構造体形成工程後に、第1サイジング処理液に前記炭素繊維を接触させ、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋して固定し、水性架橋剤として機能する第1サイジング剤を付与する第1サイジング処理工程と、
前記第1サイジング処理工程後に、前記構造体が形成された前記炭素繊維にマトリックス樹脂を塗布し、前記マトリックス樹脂を塗布した前記炭素繊維をマンドレルに巻回し、前記マトリックス樹脂を硬化させた後に前記マンドレルを引き抜く成形工程とを有
し、
前記構造体では、複数本の前記カーボンナノチューブが囲む空隙部が形成され、前記第1サイジング剤は前記空隙部を閉塞しない
ことを特徴とする回転部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1サイジング処理液は、カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物を溶解した
処理液であることを特徴とする請求項5に記載の回転部材の製造方法。
【請求項7】
前記第1サイジング処理工程は、前記第1サイジング剤の質量を前記炭素繊維の質量に対して0.6%以上1.1%以下の範囲内で付与することを特徴とする請求項6に記載の回転部材の製造方法。
【請求項8】
前記構造体形成工程は、厚さが50nm以上200nm以下の範囲内の前記構造体を形成することを特徴とする請求項6または7に記載の回転部材の製造方法。
【請求項9】
前記成形工程は、回転部材における炭素繊維の繊維体積含有率が75%未満となるように前記マトリックス樹脂を塗布した前記炭素繊維をマンドレルに巻回することを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1項に記載の回転部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速で回転する回転部材として、例えば表面磁石型電動機のロータに外嵌されるものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。表面磁石型電動機のロータには、その外周面に複数の永久磁石が組み込まれており、それらの永久磁石が遠心力によってロータから剥がれて飛散することを防止するため、回転部材の中空な内部にロータが圧嵌されている。回転部材には、その径方向外側に向かう永久磁石からの力が作用するため、回転部材の周方向に高い引張強度が要求されている。また、回転部材自体の質量にも遠心力が作用する。このため、回転部材として、炭素繊維を強化繊維とした炭素繊維強化プラスチック製のものも知られている。この他に、高速で回転する回転部材としては、遠心分離に用いられる遠心分離機の筒状の回転胴等もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような炭素繊維強化プラスチックで作製された回転部材は、軽量であり、引張強度も高いが、表面磁石型電動機や遠心分離機のより高速な回転に対応して、より高い引張強度が望まれている。
【0005】
本発明は、軽量でありながら、より高い引張強度を有する回転部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回転部材は、周方向に沿って回転する回転部材において周方向に巻いた炭素繊維と、前記炭素繊維を包埋するマトリックス樹脂と、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成し、前記炭素繊維の表面に設けられた構造体とを備えるものである。
【0007】
本発明の回転部材の製造方法は、屈曲部を有する曲がった形状のカーボンナノチューブが分散されるとともに超音波振動を印加した分散液に炭素繊維を浸漬し、前記炭素繊維に複数の前記カーボンナノチューブを付着させて、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を備える構造体を前記炭素繊維の表面に形成する構造体形成工程と、前記構造体が形成された前記炭素繊維にマトリックス樹脂を塗布し、前記マトリックス樹脂を塗布した前記炭素繊維をマンドレルに巻回し、前記マトリックス樹脂を硬化させた後に前記マンドレルを引き抜く成形工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面にカーボンナノチューブによる構造体が形成された炭素繊維をマトリックス樹脂が包埋する構造であるため、軽量でありながら引張強度がより高くなった回転部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る表面磁石型電動機の要部構成を示す説明図である。
【
図2】回転部材中の複合素材を示す部分断面図である。
【
図4】CNTへの第1サイジング剤の付着状態を示す説明図である。
【
図5】CNT同士が接触している接触部における第1サイジング剤の付着状態を示す説明図である。
【
図6】CNTへの第1サイジング剤の別の付着状態を示す説明図である。
【
図7】CNT同士が接触している接触部における第1サイジング剤の別の付着状態を示す説明図である。
【
図8】回転部材を作製する手順の概略を示す説明図である。
【
図9】炭素繊維にCNTを付着する付着装置の構成を示す説明図である。
【
図10】ガイドローラ上で開繊された状態の炭素繊維束を示す説明図である。
【
図11】分散液中における炭素繊維の通過位置を示す説明図である。
【
図12】フィラメントワインダの例を示す斜視図である。
【
図14】マトリックス樹脂を硬化させる際に加熱温度を段階的に変化させる例を示すグラフである。
【
図15】炭素繊維同士が架橋した状態を示す説明図である。
【
図16】複合素材を用いたロッドのX線CTによる内部構造を示す画像である。
【
図17】炭素繊維の原糸を用いたロッドのX線CTによる内部構造を示す画像である。
【
図18】CNTへの第2サイジング剤の付着状態を示す説明図である。
【
図19】実施例に用いた材料CNTの曲がった状態を示すSEM写真である。
【
図20】実施例3の3点曲げ試験の結果を示すグラフである。
【
図21】実施例4のNOLリング試験の結果を示すグラフである。
【
図22】実施例5のフラグメンテーション法による切断繊維長さを示すグラフである。
【
図23】サイジング剤質量比率Rmが0.8%の構造体への第1サイジング剤の付着状態を示すSEM写真である。
【
図24】サイジング剤質量比率Rmが1.1%の構造体への第1サイジング剤の付着状態を示すSEM写真である。
【
図25】サイジング剤質量比率Rmが1.5%の構造体への第1サイジング剤の付着状態を示すSEM写真である。
【
図26】実施例6、比較例6におけるNOLリング試験の結果を示すグラフである。
【
図27】実施例6、比較例6におけるNOLリング試験の結果のうち繊維体積含有率60%以上、引張強度(指標値)90以上の領域を拡大して示すグラフである。
【
図28】断層破壊モードで破壊したリング試験片を示す写真である。
【
図29】層間破壊モードで破壊したリング試験片を示す写真である。
【
図30】実施例8におけるリング試験片から取り出した観察サンプルの断面を示すSEM写真である。
【
図31】比較例8におけるリング試験片から取り出した観察サンプルの断面を示すSEM写真である。
【
図32】実施例8におけるリング試験片から取り出した観察サンプルの断面をさらに拡大して示すFE-SEM写真である。
【
図33】比較例8におけるリング試験片から取り出した観察サンプルの断面をさらに拡大して示すFE-SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に実施形態に係る回転部材2を示す。この例の回転部材2は、表面磁石型電動機3の飛散防止部材として設けられている。回転部材2は、環状体、この例では円筒形状である。回転部材2は、ロータ4に外嵌されている。すなわち、回転部材2は、その中空な内部にロータ4が圧入により嵌め込まれて固定され、ロータ4と一体に回転する。したがって、回転部材2は、その周方向に回転する。ロータ4の外周面には、複数の永久磁石5がロータ4の周方向に沿って所定の間隔をあけて埋め込まれている。回転部材2は、ロータ4の高速回転時に、永久磁石5がそれに作用する遠心力でロータ4の径方向外側に剥がれて飛散しないように、遠心力に抗して永久磁石5を抑える。なお、回転部材2は、幅が狭い(軸心方向な長さが短い)リング状等であってもよい。また、幅が狭いリング状のものを複数組み合わせて使用してもよい。
【0011】
図2に模式的に示すように、回転部材2は、複合素材10と、この複合素材10の炭素繊維11(
図3参照)を包埋するマトリックス樹脂Mとを有する炭素繊維強化成形体(炭素繊維強化プラスチック)である。複合素材10(炭素繊維11)は、回転部材2の周方向すなわち回転方向(図中A方向)に巻かれ、複数の複合素材10が回転部材2の径方向に1層以上の繊維層を形成している。繊維層は、軸心方向に緻密に並んだ複合素材10で構成される。
【0012】
複合素材10は、回転部材2の周方向に巻かれている。回転部材2の周方向に巻かれているとは、複合素材10が回転部材2の周方向に沿った成分を持っていること、すなわち回転部材2の軸心方向に対して所定の斜交角度(≠0°)で巻かれていることを意味する。したがって、後述するように、繊維層は、マンドレルの外周面にその軸心に対しほぼ直角(斜交角度≒90°)となるように複合素材10を巻き付けるフープ巻き(平行巻き)または軸心に対し90°未満の斜交角度で複合素材10を巻き付けるヘリカル巻き(ら旋巻き)によって形成される。回転部材2が必要とする特性から、斜交角度は、リング組付け時などにフープ層が崩れることを防止するためのものであり、任意に決めることができる。複数の繊維層がある場合、繊維層ごとに斜交角度を決めることができる。
【0013】
なお、
図2では、説明の便宜上、複合素材10を誇張して描いてあり、また1つ1つの複合素材10の断面を円形にして区別できるように描いてあるが、実際にはこのように区別できるものではない。
【0014】
[複合素材]
図3において、複合素材10は、複数の連続した炭素繊維11をまとめた炭素繊維束12を含む。各炭素繊維11の表面には、それぞれ構造体14が形成されており、構造体14には、第1サイジング剤15(
図4参照)が付与されている。
【0015】
炭素繊維束12を構成する炭素繊維11は、実質的に互いに絡まり合うことなく各炭素繊維11の繊維軸方向が揃っている。繊維軸方向は、炭素繊維11の軸の方向(延びた方向)である。この例では、炭素繊維束12は、1万2千本の炭素繊維11から構成されている。炭素繊維束12を構成する炭素繊維11の本数は、特に限定されないが、例えば1万本以上10万本以下の範囲内とすることができる。なお、
図3では、図示の便宜上、十数本のみの炭素繊維11を描いてある。また、この例では、上記のような構造体14及び第1サイジング剤15を有する複数の炭素繊維11をもって複合素材10としているが、複合素材10は、上記のような構造体14及び第1サイジング剤15を有する1本の炭素繊維11であってもよい。なお、以下の説明では、表面に構造体14が形成された繊維(この例では炭素繊維11)をその構造体14とあわせてCNT複合繊維と称することがある。
【0016】
炭素繊維束12中における炭素繊維11の絡まり合いは、炭素繊維11の乱れの程度によって評価することができる。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により炭素繊維束12を一定倍率で観察して、観察される範囲(炭素繊維束12の所定長さの範囲)における、所定の本数(例えば10本)の炭素繊維11の長さを測定する。この測定結果から得られる所定の本数の炭素繊維11についての長さのばらつき、最大値と最小値との差、標準偏差に基づいて、炭素繊維11の乱れの程度を評価することができる。また、炭素繊維11が実質的に絡まり合っていないことは、例えば、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の交絡度測定方法に準じて交絡度を測定して判断することもできる。測定された交絡度が小さいほど、炭素繊維束12における炭素繊維11同士の絡まり合いは少ないことになる。
【0017】
炭素繊維11同士が実質的に互いに絡まり合っていない、あるいは絡まり合いが少ない炭素繊維束12は、炭素繊維11を均一に開繊しやすい。これにより、原糸である各炭素繊維11にCNT17を均一に付着させやすく、またCNT複合繊維では、炭素繊維束12にマトリックス樹脂Mが均一に含浸し、炭素繊維11のそれぞれを強度に寄与させることができる。
【0018】
炭素繊維11は、特に限定されず、ポリアクリルニトリル、レーヨン、ピッチなどの石油、石炭、コールタール由来の有機繊維の焼成によって得られるPAN系、ピッチ系のもの、木材や植物繊維由来の有機繊維の焼成によって得られるもの等を用いることができ、市販されているものでもよい。また、炭素繊維11の直径及び長さについても、特に限定されない。炭素繊維11は、その直径が約5μm以上20μm以下の範囲内のものを好ましく用いることができ、5μm以上10μm以下の範囲内のものをより好ましく用いることができる。炭素繊維11は、長尺なものが好ましく用いることができ、その長さは、50m以上が好ましく、より好ましくは100m以上100000m以下の範囲内、さらに好ましくは100m以上10000m以下の範囲内である。なお、プリプレグ、炭素繊維強化成形体としたときに、炭素繊維11が短く切断されていてもかまわない。
【0019】
上述のように炭素繊維11の表面には、構造体14が形成されている。構造体14は、複数のカーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)17が絡み合ったものである。構造体14を構成するCNT17は、炭素繊維11の表面のほぼ全体で均等に分散して絡み合うことで、複数のCNT17が互いに絡み合った状態で接続されたネットワーク構造を形成する。ここでいう接続とは、物理的な接続(単なる接触)と化学的な接続とを含む。CNT17同士は、それらの間に界面活性剤などの分散剤や接着剤等の介在物が存在することなく、CNT17同士が直接に接触する直接接触である。
【0020】
構造体14を構成する一部のCNT17は、炭素繊維11の表面に直接付着して固定されている。これにより、炭素繊維11の表面に構造体14が直接付着している。CNT17が炭素繊維11の表面に直接付着するとは、CNT17と炭素繊維11の表面との間に界面活性剤等の分散剤や接着剤等が介在することなく、CNT17が炭素繊維11に直接に付着していることであり、その付着(固定)はファンデルワールス力による結合によるものである。構造体14を構成する一部のCNT17が炭素繊維11の表面に直接付着していることにより、分散剤や接着剤等が介在せずに、炭素繊維11の表面に構造体14が直接接触した状態になっている。
【0021】
また、構造体14を構成するCNT17には、炭素繊維11の表面に直接接触せず、他のCNT17と絡むことで炭素繊維11に固定されているものもある。さらに、炭素繊維11の表面に直接付着するとともに他のCNT17と絡むことで炭素繊維11に固定されているものもある。以下では、これら炭素繊維11へのCNT17の固定をまとめて炭素繊維11への付着と称して説明する。なお、CNT17が絡むまたは絡み合う状態には、CNT17の一部が他のCNT17に押え付けられている状態を含む。
【0022】
構造体14を構成するCNT17は、上記のように炭素繊維11の表面に直接付着しているものの他に、炭素繊維11の表面に直接接触していないが他のCNT17と絡み合うこと等で炭素繊維11に固定されているものがある。このため、この例の構造体14は、従来の複合素材の構造体のように炭素繊維の表面に直接付着したCNTだけで構成されるよりも多くのCNT17で構成される。すなわち、炭素繊維11へCNT17が付着する本数が従来のものよりも多くなっている。
【0023】
上記のように、複数のCNT17が互いの表面に介在物無しで互いに接続されて構造体14を構成しているので、複合素材10は、CNT由来の電気導電性、熱伝導性の性能を発揮する。また、CNT17が炭素繊維11の表面に介在物無しで付着しているので、構造体14を構成するCNT17は、炭素繊維11の表面から剥離し難く、複合素材10を含む回転部材2は、引張強度を含む機械的強度が向上する。
【0024】
上述のように回転部材2では、構造体14が形成された複数の炭素繊維11すなわち複数のCNT複合繊維で構成される炭素繊維束12にマトリックス樹脂Mが含浸して硬化している。構造体14にマトリックス樹脂Mが含浸しているので、各炭素繊維11の構造体14が炭素繊維11の表面とともにマトリックス樹脂Mに固定される。これにより、各炭素繊維11がマトリックス樹脂Mに強固に接着した状態、すなわち炭素繊維11とマトリックス樹脂Mとの界面接着強度が高く、回転部材2の引張強度が高くなっている。
【0025】
後述するようにCNT17を曲がった形状とすることで、直線性の高いCNTを用いた場合と比べて、炭素繊維11へのCNT17の付着本数を多く、構造体14の厚さが大きいとともに、CNT17が不織布の繊維のごとく編み込まれたような構造体14が構成されている。回転部材2の各炭素繊維11の周囲には、構造体14にマトリックス樹脂Mが含浸して硬化した領域(以下、複合領域という)18(
図14参照)が形成されている。このような複合領域18が形成されていることによって、炭素繊維11とマトリックス樹脂Mとの界面接着強度がより高くなり、回転部材2の引張強度がより高くなる。また、隣り合う炭素繊維11の間の樹脂部分にCNT17が介在することにより、炭素繊維間の相互作用が強くなり、炭素繊維11に存在する欠陥起因の強度低下を隣接する他の炭素繊維11が支えるため、欠陥起因の強度低下が抑制される。
【0026】
なお、炭素繊維11の表面にCNT17が付着すること及び厚さの大きな不織布状の構造体14を形成することによって向上する炭素繊維強化成形体(回転部材2)の特性としては、引張強度の他に、弾性率、振動減衰特性(制振性)、繰り返し曲げに対する耐久性等がある。
【0027】
複数の炭素繊維11にそれぞれ形成された構造体14は、互いに独立した構造であり、一の炭素繊維11の構造体14と他の炭素繊維11の構造体14は、同じCNT17を共有していない。すなわち、一の炭素繊維11に設けられた構造体14に含まれるCNT17は、他の炭素繊維11に設けられた構造体14に含まれない。
【0028】
第1サイジング剤15は、
図4に示すように、CNT17同士が互いに直接接触している接触部を包み覆う状態でCNT17に付与されている。第1サイジング剤15は、CNT17の表面に存在する官能基、例えばヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)等の親水基と、カルボジイミド化合物のカルボジイミド基(-N=C=N-)が反応することにより生じたカルボジイミド由来の構造を有するものである。すなわち、第1サイジング剤15は、カルボジイミド由来の構造を介して、直接接触したCNT17同士を架橋する。これにより、CNT17同士は、それらが互いに直接接触する接触部と第1サイジング剤15とで固定される。
【0029】
CNT17の表面の官能基の付与手法は、特に限定されず、CNT17を作製したあとに行われる各種処理によって結果的に付与されてもよいし、官能基付与処理によって付与してもよい。官能基付与処理は、例えば、湿式にて行われる陽極電解酸化法やオゾン酸化法等を用いることができる。第1サイジング剤15を構造体14に付与する第1サイジング処理のときにCNT17の表面に官能基があれば、CNT17の表面に官能基を付与するタイミングは特に限定されない。
【0030】
カルボジイミド化合物は、nを1以上の整数として、式(1)に示す構造を2以上含む化合物である。Rは、例えば炭化水素である。炭化水素としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。
【0031】
【0032】
カルボジイミド化合物としては、例えば特開2007-238753号公報等に記載されるように、水性樹脂用硬化剤等として用いられているものを用いることができ、市販されているものでもよい。カルボジイミド化合物の市販品としては、例えば「カルボジライトV-02」(商品名、日清紡ケミカル社製)等を挙げることができる。親水性セグメントをもつカルボジイミド化合物は、水に溶解して、CNT17同士を架橋させる水性架橋剤として機能する。
【0033】
接触部におけるCNT17同士は、
図5に示すように直接接触が維持されており、各CNT17の表面が近接した接触部の周りではCNT17同士が第1サイジング剤15により架橋されている。
【0034】
上記のように、第1サイジング剤15は、架橋剤となって、構造体14を構成する接触しているCNT17同士を架橋することにより、CNT17同士が付着している状態をより強固なものとし、構造体14をより崩壊し難くしている。
【0035】
また、第1サイジング剤15は、
図4に示されるように、炭素繊維11とこれに直接接触しているCNT17の接触部を包み覆う状態で炭素繊維11とCNT17とに付着している。第1サイジング剤15は、CNT17同士の場合と同様に、そのカルボジイミド基が、炭素繊維11及びCNT17の表面の官能基と反応をしたことにより生じたカルボジイミド由来の構造により、炭素繊維とCNT17とを架橋する。このように、第1サイジング剤15は、炭素繊維とCNT17とを架橋することにより、炭素繊維11にCNT17が付着している状態をより強固なものとし、炭素繊維11から構造体14を剥がれ難くしている。
【0036】
上記の第1サイジング剤15によって、複合素材10ないし回転部材2の製造時において、炭素繊維11からの構造体14の脱落、構造体14からのCNT17の脱落が抑えられ、それらにより界面接着強度の低下ひいては回転部材2の引張強度を含む特性の低下を防止でき、均一な好ましい特性を得ることができる。
【0037】
なお、CNT17同士の直接接触が維持され、かつ直接接触している接触部の周りでCNT17同士が第1サイジング剤15により架橋していれば、上記のようにCNT17が第1サイジング剤15により包み覆われていてもよく、
図6及び
図7に示すように、CNT17が包み覆われていなくてもよい。同様に、炭素繊維11とCNT17との直接接触が維持され、かつ直接接触している接触部の周りで炭素繊維11とCNT17とが第1サイジング剤15により架橋していれば、
図6に示されるように、第1サイジング剤15がCNT17を包み覆っていなくてもよい、
【0038】
なお、構造体14では、複数本のCNT17によって、それらが囲む空隙部(メッシュ)19が形成される。構造体14内へのマトリックス樹脂Mの含浸を妨げないために、第1サイジング剤15は、その空隙部19を閉塞しないようにすることが好ましい。空隙部19を閉塞しないようにするために、構造体14に付着している第1サイジング剤15の質量の炭素繊維11の質量に対する比率であるサイジング剤質量比率Rmは、0.6%以上1.1%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
炭素繊維11の径の大小により、炭素繊維11の単位長さあたりの質量が増減し、構造体14に付着させる好適な第1サイジング剤15の質量も増減する。しかし、一般的に炭素繊維強化成形体に用いられている炭素繊維11の径の範囲では、炭素繊維11の径の変化に対する好適なサイジング剤質量比率Rmの変化は微小であって、いずれの径の炭素繊維11であっても上記のサイジング剤質量比率Rmの範囲内であれば空隙部19の閉塞を防止できる。直径が4μm以上8μm以下の範囲内の炭素繊維11についてサイジング剤質量比率Rmが0.6%以上1.1%以下であれば空隙部19を閉塞しないことを確認している。マトリックス樹脂Mが構造体14内に含浸して硬化することは、マトリックス樹脂Mが構造体14からひいては炭素繊維11から剥離し難くなり、機械的強度の向上に有利である。
【0040】
炭素繊維11に付着したCNT17は、曲がった形状である。このCNT17の曲がった形状は、CNT17のグラファイト構造中に炭素の五員環と七員環等の存在により屈曲した部位(屈曲部)を有することによるものであり、SEMによる観察でCNT17が湾曲している、折れ曲がっている等と評価できる形状である。例えば、CNT17の曲がった形状は、CNT17の後述する利用範囲の平均の長さあたりに少なくとも1カ所以上に屈曲部があることをいう。このような曲がった形状のCNT17は、それが長い場合でも、曲面である炭素繊維11の表面に対して様々な姿勢で付着する。また、曲がった形状のCNT17は、それが付着した炭素繊維11の表面との間や付着したCNT17同士の間に空間(間隙)が形成されやすく、その空間に他のCNT17が入り込む。このため、曲がった形状のCNT17を用いることにより、直線性が高い形状のCNTを用いた場合に比べて、炭素繊維11に対するCNT17の付着本数(構造体14を形成するCNT17の本数)が大きくなる。
【0041】
CNT17の長さは、0.1μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましい。CNT17は、その長さが0.1μm以上であれば、CNT17同士が絡まり合って直接接触ないしは直接接続された構造体14をより確実に形成することができるとともに、前述のように他のCNT17が入り込む空間をより確実に形成することができる。またCNT17の長さが10μm以下であれば、CNT17が炭素繊維11間にまたがって付着するようなことがない。すなわち、上述のように、一の炭素繊維11に設けられた構造体14に含まれるCNT17が他の炭素繊維11に設けられた構造体14に含まれるようなことがない。
【0042】
CNT17の長さは、より好ましくは0.2μm以上5μm以下の範囲内である。CNT17の長さが0.2μm以上であれば、CNT17の付着本数を増やして構造体14を厚くすることができ、5μm以下であれば、CNT17を炭素繊維11に付着させる際に、CNT17が凝集し難く、より均等に分散しやすくなる。この結果、CNT17がより均一に炭素繊維11に付着する。
【0043】
なお、炭素繊維11に付着するCNTとして、直線性の高いCNTが混在することや、上記のような長さの範囲外のCNTが混在することを排除するものではない。混在があっても、例えば、CNT17で形成される空間に直線性の高いCNTが入り込むことにより、炭素繊維11に対するCNTの付着本数を多くすることができる。
【0044】
CNT17は、平均直径が0.5nm以上30nm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3nm以上10nm以下の範囲内である。CNT17は、その直径が30nm以下であれば、柔軟性に富み、炭素繊維11の表面に沿って付着しやすく、また他のCNT17と絡んで炭素繊維11に固定されやすく、さらには構造体14の形成がより確実になる。また、10nm以下であれば、構造体14を構成するCNT17同士の結合が強固となる。なお、CNT17の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)写真を用いて測定した値とする。CNT17は、単層、多層を問わないが、好ましくは多層のものである。
【0045】
炭素繊維11に対するCNT17の付着本数は、構造体14の厚さ(炭素繊維11の径方向の長さ)で評価することができる。構造体14の各部の厚さは、例えば炭素繊維11の表面の構造体14の一部をセロハンテープ等に接着して剥離し、炭素繊維11の表面に残った構造体14の断面をSEM等で計測することで取得できる。炭素繊維11の繊維軸方向に沿った所定長さの測定範囲をほぼ均等に網羅するように、測定範囲の10カ所で構造体14の厚さをそれぞれ測定したものの平均を構造体14の厚さとする。測定範囲の長さは、例えば、上述のCNT17の長さの範囲の上限の5倍の長さとする。
【0046】
上記のようにして得られる構造体14の厚さ(平均)は、10nm以上300nm以下の範囲内、好ましくは15nm以上200nm以下の範囲内、より好ましくは50nm以上200nm以下の範囲内である。構造体14の厚さが200nm以下であれば、炭素繊維11間の樹脂の含浸性がより良好である。
【0047】
また、炭素繊維11に付着しているCNT17のCNT複合繊維に対する質量比であるCNT質量比Rcを用いて、炭素繊維11に対するCNT17の付着状態を評価することができる。所定の長さの炭素繊維11のみの質量(以下、CF質量という)をWa、その炭素繊維11に付着しているCNT17の質量(以下、CNT質量という)をWbとしたときに、CNT質量比Rcは、「Rc=Wb/(Wa+Wb)」で得られる。
【0048】
CNT17は、炭素繊維11に均一に付着していることが好ましく、炭素繊維11の表面を覆うように付着していることが好ましい。炭素繊維11に対するCNT17の均一性を含む付着状態は、SEMにより観察し、得られた画像を目視により評価することができる。この場合、繊維軸方向に沿って炭素繊維11の所定の長さの範囲(例えば1cm、10cm、1mの範囲)をほぼ均等に網羅するように複数箇所(例えば10箇所)について観察して評価することが好ましい。
【0049】
また、上述のCNT質量比Rcを用いて、炭素繊維11に対するCNT17の付着の均一性を評価することができる。CNT質量比Rcは、0.001以上0.008以下であることが好ましい。CNT質量比Rcが0.001以上であれば、回転部材2としたときに、上記のような構造体14による特性の向上の効果を確実に得ることができる。CNT質量比Rcが0.008以下であれば、構造体14へのマトリックス樹脂Mの樹脂含浸が確実になされる。また、CNT質量比Rcが0.002以上0.006以下以下であることがより好ましい。CNT質量比Rcが0.002以上であれば、ほぼ全ての炭素繊維11間にて構造体14(CNT17)がより確実に機能する。CNT質量比Rcが0.006以下であれば、構造体14へのマトリックス樹脂Mの樹脂含浸が確実になされ、また回転部材2におけるマトリックス樹脂Mの比率が低い場合であっても構造体14がより確実に機能する。さらに、樹脂Mの比率が低い場合であっても、炭素繊維間樹脂には高濃度でCNT17が存在するため、その補強効果により靱性強度を高めることが出来る。
【0050】
1本の炭素繊維11の長さ1mの範囲(以下、評価範囲と称する)内に設定される10点の測定部位の各CNT質量比Rcの標準偏差sが0.0005以下であることが好ましく、0.0002以下であることがより好ましい。また、標準偏差sのCNT質量比Rcの平均に対する割合は、40%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。10点の測定部位は、評価範囲をほぼ均等に網羅するように設定することが好ましい。標準偏差sは、炭素繊維11に付着したCNT17の付着本数(付着量)、構造体14の厚さのばらつきの指標となり、ばらつきが小さいほど小さな値となる。したがって、この標準偏差sが小さいほど望ましい。CNT17の付着本数、構造体14の厚さのばらつきは、複合素材10及びそれを用いた回転部材2のCNT17に由来の特性の違いとして現われる。標準偏差sが0.0005以下であれば、複合素材10及び炭素繊維強化成形体のCNT17に由来の特性をより確実に発揮でき、0.0002以下であれば、CNT17に由来の特性を十分かつ確実に発揮できる。なお、標準偏差sは、式(2)によって求められる。式(2)中の値nは、測定部位の数(この例ではn=10)、値Riは、測定部位のCNT質量比Rcであり、値RaはCNT質量比Rcの平均である。
【0051】
【0052】
[CNT質量比の測定]
CNT質量比Rcは、それを求めようとする測定部位について1m程度に炭素繊維束12(例えば12000本程度のCNT複合繊維)を切り出して測定試料として、下記のようにして求める。
(1)CNT17の分散媒となる液(以下、測定液という)に測定試料を投入する。測定液としては、例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン、CAS登録番号:872-50-4)に分散剤を入れたものを用いる。分散剤は、CNT17を炭素繊維11に再付着させないために測定液に添加しているが、添加しなくてもよい。測定液の量は、例えば測定試料10gに対して100mlである。
(2)測定試料を投入する前の測定液の質量と、投入後の測定試料を含む測定液の質量との差分を計測し、これを測定試料の質量、すなわち炭素繊維11のCF質量Waとその炭素繊維11に付着しているCNT17のCNT質量Wbとの和(Wa+Wb)とする。
(3)測定試料を含む測定液を加熱して、炭素繊維11からそれに付着しているCNT17を完全に分離し、CNT17を測定液中に分散する。
(4)吸光光度計を用いて,CNT17が分散している測定液の吸光度(透過率)を測定する。吸光光度計による測定結果と、予め作成しておいた検量線とから測定液中のCNT17の濃度(以下、CNT濃度という)を求める。CNT濃度は、その値をC、測定液の質量をW1、この測定液に含まれるCNT17の質量をW2としたときに、「C=W2/(W1+W2)」で与えられる質量パーセント濃度である。
(5)得られるCNT濃度と測定試料を投入する前の測定液の質量とから測定液中のCNT17のCNT質量Wbを求める。
(6)(2)で求められるCF質量WaとCNT質量Wbとの和(Wa+Wb)と、CNT17のCNT質量(Wb)とから、CNT質量比Rc(=Wb/(Wa+Wb))を算出する。
【0053】
上記吸光度の測定では、分光光度計(例えば、SolidSpec-3700、株式会社島津製作所製等)を用いることができ、測定波長としては例えば500nm等を用いればよい。また、測定の際には、測定液を石英製のセルに収容することが好ましい。さらに、分散剤以外の不純物を含まない分散媒の吸光度をリファレンスとして測定し、CNT17の濃度Cは、CNT17が分散している測定液の吸光度とリファレンスとの差分を用いて求めることができる。なお、CNT質量比Rcの測定においては、炭素繊維束12から第1サイジング剤15を除去したものを用いる。但し、炭素繊維11の質量に対して第1サイジング剤15の1/100程度である場合には、第1サイジング剤15の付着の有無、すなわち第1サイジング剤15の質量は、CNT質量比Rcの好ましい範囲に実質的に影響を与えることながないので、この場合には、第1サイジング剤15が付着しているCNT複合繊維の質量を、CF質量WaとCNT質量Wbとの和(Wa+Wb)とみなすことができる。
【0054】
CNT質量比Rcによって均一性を評価する場合には、評価する炭素繊維束12の評価範囲(例えば、長さ1m)をほぼ均等に網羅するように10ヶ所の測定部位を設定する。これら10ヶ所の測定部位は、評価範囲の両端とその間の8カ所とし、各測定部位のそれぞれについて、上述の手順でCNT質量比Rcを求める。
【0055】
[サイジング剤質量比の測定]
サイジング剤質量比率Rmの測定では、各炭素繊維11の構造体14に第1サイジング剤15を付着させて作成した炭素繊維束12から、例えば3本のCNT複合繊維を切り出して測定試料として、下記のようにして求める。測定試料として切り出すCNT複合繊維の長さは例えば5mとする。なお、測定試料とするCNT複合繊維の本数、長さは、これらに限定されない。
【0056】
(1)CNT17の測定液に測定試料を投入する。測定液及び分散媒の条件は、上記のCNT質量比Rcを測定する場合と同じである。
(2)測定試料を投入する前の測定液の質量と、投入後の測定試料を含む測定液の質量との差分を計測し、これを測定試料の質量、すなわち炭素繊維11のCF質量Wa、炭素繊維11に付着しているCNT17のCNT質量Wb及びCNT17に付着している第1サイジング剤15のサイズ剤質量Wcとの和(Wa+Wb+Wc)とする。
(3)測定試料を含む測定液加熱して、炭素繊維11からそれに付着しているCNT17を完全に分離し、CNT17を測定液中に分散する。
(4)CNT質量比Rcを測定する場合と同様に、吸光光度計を用いてCNT17が分散している測定液の吸光度を測定し、その吸光度と、予め作成しておいた検量線とから測定液中のCNT17のCNT濃度を求める。得られるCNT濃度と測定試料を投入する前の測定液の質量とから測定液中のCNT質量Wbを求める。
(5)使用している炭素繊維11(原糸)のカタログ値からCF質量Waを特定する。
(6)測定試料の質量(Wa+Wb+Wc)から、(5)で得られるCF質量Wa及び(4)得られるCNT質量Wbを減算した差を求め、これを測定試料に付与されていた第1サイズ剤のサイズ剤質量Wcとする。
(7)(5)で得られるCF質量Waと、(6)で得られるサイズ剤質量Wcとからサイジング剤質量比率Rm(=(Wc/Wa)×100%)を算出する。
【0057】
なお、上記のサイジング剤質量比率Rmの測定において、炭素繊維11(原糸)のカタログ値からCF質量Waを特定する場合に、サイジング剤が付着していない炭素繊維11(原糸)の質量を特定する。ここでいうサイジング剤は、炭素繊維11(原糸)同士の絡み等を防止するために炭素繊維11(原糸)の表面に付着しているものであって、第1サイジング剤とは異なる。ただし、絡み等を防止するためのサイジング剤の質量は、一般的に炭素繊維11のCF質量Waに対して1/100程度であって、このような場合には当該サイジング剤の付着の有無は、サイジング剤質量比率Rmの好ましい範囲に実質的に影響を与えることがない。したがって、このような場合にはサイジング剤が付着している炭素繊維11の質量を、サイジング剤質量比率Rmを求める際のCF質量Waとみなしてもよい。
【0058】
また、CF質量Waの特定は、カタログ値から特定することに限定されない。例えば、CNT17を分離した後の炭素繊維11の質量を実測してCF質量Waとしてもよい。さらに、測定試料としたCNT複合繊維に用いている炭素繊維11と同種であって、CNT17を付着させていない炭素繊維について質量を測定したものからCF質量Waを特定してもよい。
【0059】
回転部材2は、
図8に示すように、構造体形成工程ST1、第1サイジング処理工程ST2、成形工程ST3を経て作製される。構造体形成工程ST1では、炭素繊維束12の各炭素繊維11(原糸)のそれぞれにCNT17を付着させて構造体14を形成する。このために、CNT17が単離分散したCNT単離分散液(以下、単に分散液と称する)中に炭素繊維束12を浸漬し、分散液に機械的エネルギーを付与する。単離分散とは、CNT17が1本ずつ物理的に分離して絡み合わずに分散媒中に分散している状態をいい、2以上のCNT17が束状に集合した集合物の割合が10%以下である状態をさす。ここで集合物の割合が10%以上であると、分散媒中でのCNT17の凝集が促進され、CNT17の炭素繊維11に対する付着が阻害される。
【0060】
図9に一例を示すように、付着装置21は、CNT付着槽22、ガイドローラ23~26、超音波発生器27、炭素繊維束12を一定の速度で走行させる走行機構(図示省略)等で構成される。CNT付着槽22内には、分散液28が収容される。超音波発生器27は、超音波をCNT付着槽22の下側よりCNT付着槽22内の分散液28に印加する。
【0061】
付着装置21には、構造体14が形成されていない長尺(例えば100m程度)の炭素繊維束12が連続的に供給される。供給される炭素繊維束12は、ガイドローラ23~26に順番に巻き掛けられ、走行機構により一定の速さで走行する。付着装置21には、各炭素繊維11にサイジング剤が付着していない炭素繊維束12が供給される。なお、ここでいうサイジング剤は、上述の炭素繊維11の絡み等を防止するためものである。
【0062】
炭素繊維束12は、開繊された状態でガイドローラ23~26にそれぞれ巻き掛けられている。ガイドローラ23~26に巻き掛けられた炭素繊維束12は、適度な張力が作用することで炭素繊維11が絡まり合うおそれが低減される。炭素繊維束12のガイドローラ24~26に対する巻き掛けは、より小さい巻掛け角(90°以下)とすることが好ましい。
【0063】
ガイドローラ23~26は、いずれも平ローラである。
図10に示すように、ガイドローラ23のローラ長(軸方向の長さ)L1は、開繊された炭素繊維束12の幅WLよりも十分に大きくしてある。ガイドローラ24~26についても、ガイドローラ23と同様であり、それらのローラ長は、開繊された炭素繊維束12の幅WLよりも十分に大きくしてある。例えば、ガイドローラ23~26は、全て同じサイズであり、ローラ長L1が100mm、ローラの直径(外径)が50mmである。開繊された炭素繊維束12は、厚み方向(ガイドローラの径方向)に複数本の炭素繊維11が並ぶ。
【0064】
ガイドローラ23~26のうちのガイドローラ24、25は、CNT付着槽22内に配置されている。これにより、ガイドローラ24、25間では、炭素繊維束12は、分散液28中を一定の深さで直線的に走行する。炭素繊維束12の走行速度は、0.5m/分以上100m/分以下の範囲内とすることが好ましい。炭素繊維束12の走行速度が高いほど、生産性を向上させることができ、走行速度が低いほど、CNT17の均一付着に有効であり、また炭素繊維11同士の絡み合いの抑制に効果的である。また、炭素繊維11同士の絡み合いが少ないほど炭素繊維11に対するCNT17の付着の均一性を高めることができる。炭素繊維束12の走行速度が100m/分以下であれば、炭素繊維11同士の絡み合いがより効果的に抑制されるとともに、CNT17の付着の均一性をより高くできる。また、炭素繊維束12の走行速度は、5m/分以上50m/分以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0065】
超音波発生器27は、機械的エネルギーとしての超音波振動を分散液28に印加する。これにより、分散液28中において、CNT17が分散した分散状態と凝集した凝集状態とが交互に変化する可逆的反応状態を作り出す。この可逆的反応状態にある分散液28中に炭素繊維束12を通過させると、分散状態から凝集状態に移行する際に、各炭素繊維11にCNT17がファンデルワールス力により付着する。CNT17に対する炭素繊維11の質量は、10万倍以上と大きく、付着したCNT17が脱離するためのエネルギーは、超音波振動によるエネルギーより大きくなる。このため、分散液28中において、炭素繊維11に一度付着したCNT17は、付着後の超音波振動によっても炭素繊維11から剥がれない。なお、CNT17同士では、いずれも質量が極めて小さいため、超音波振動によって分散状態と凝集状態とに交互に変化する。
【0066】
分散状態から凝集状態への移行が繰り返し行われることで、各炭素繊維11に多くのCNT17がそれぞれ付着して構造体14が形成される。上述のように、CNT17として曲がった形状のものを用いることにより、CNT17とそれが付着した炭素繊維11の表面との間や付着したCNT17同士の間等に形成された空間に他のCNT17が入り込むことで、より多くのCNT17が炭素繊維11に付着し、構造体14が形成される。
【0067】
分散液28に印加する超音波振動の周波数は、40kHz以上950kHz以下であることが好ましい。周波数が40kHz以上であれば、炭素繊維束12中の炭素繊維11同士の絡まり合いが抑制される。また、周波数が950kHz以下であれば、炭素繊維11にCNT17が良好に付着する。炭素繊維11の絡み合いをより低減するためには、超音波振動の周波数は、100kHz以上が好ましい。
【0068】
また、炭素繊維11に付着するCNT17の本数は、CNT17の分散状態から凝集状態への移行回数が10万回以上となることで、炭素繊維11同士の絡み合いが良好に抑制され、また構造体14の厚さの均一性を確保できることを、発明者らは見出した。なお、付着本数の最大値は、分散液28のCNT濃度によって変化し、分散液28のCNT濃度が高いほど大きくなる。ただし、分散液28のCNT濃度が、超音波振動を印加しているときにCNT17が分散状態をとり得ないほどの高濃度になると、炭素繊維11に対するCNT17の付着が行えなくなる。
【0069】
このため、炭素繊維束12が分散液28中を走行している期間の長さ、すなわちガイドローラ24、25の間を走行している時間(以下、浸漬時間という)が、分散液28に印加する超音波振動の周期の10万倍またはそれ以上となるように、炭素繊維束12の走行速度、炭素繊維束12が分散液28中を走行する距離(ガイドローラ24、25の間隔)、分散液28に印加する超音波振動の周波数を決めることが好ましい。すなわち、超音波振動の周波数をfs(Hz)、浸漬時間をTs(秒)としたときに、「Ts≧100000/fs」を満たすようにすることが好ましい。例えば、超音波振動の周波数が100kHz、炭素繊維束12が分散液28中を走行する距離が0.1mであれば、炭素繊維束12の走行速度を6m/分以下とすればよい。また、炭素繊維束12を複数回に分けて分散液28に浸漬する場合でも、合計した浸漬時間が超音波振動の周期の10万倍またはそれ以上とすればCNT17の付着本数をほぼ最大にできる。
【0070】
図11に模式的に示すように、超音波発生器27から印加される超音波振動によってCNT付着槽22内の分散液28には、音圧(振幅)の分布が定まった定在波が生じる。この付着装置21では、分散液28中において、超音波振動の定在波の節すなわち音圧が極小となる深さを炭素繊維束12が走行するように、ガイドローラ24、25の深さ方向の位置が調整されている。したがって、炭素繊維束12が分散液28中を走行する分散液28の液面からの深さは、その深さをD、分散液28中に生じる超音波振動の定在波の波長をλ、nを1以上の整数としたときに、「D=n・(λ/2)」を満たすように決められている。なお、定在波の波長λは、分散液28中の音速、超音波発生器27から印加される超音波振動の周波数に基づいて求めることができる。
【0071】
上記のように、分散液28中を走行する炭素繊維束12の深さを調整することにより、音圧による炭素繊維11の振動を抑制して、糸たるみによる糸乱れを防ぐことができ、炭素繊維11同士あるいは各炭素繊維11の表面に付着しているCNT14同士の擦れを抑えて、厚さの大きい構造体14を形成することができる。また、擦れが抑えられることによって、構造体14の厚さが大きくても、CNT質量比Rcのばらつきが抑えられ、上述の標準偏差sが小さくなる。なお、炭素繊維束12が分散液28中を走行する深さは、定在波の節から多少ずれてもよく、その場合にはn・λ/2-λ/8以上n・λ/2+λ/8以下の範囲内(n・λ/2-λ/8≦D≦n・λ/2+λ/8)とすることが好ましい。これにより、炭素繊維11の糸たるみによる糸乱れを許容できる範囲とすることができる。
【0072】
分散液28は、例えば長尺のCNT(以下、材料CNTと称する)を分散媒に加え、ホモジナイザーや、せん断力、超音波分散機などにより、材料CNTを切断して所望とする長さのCNT17とするとともに、CNT17の分散の均一化を図ることで調製される。
【0073】
分散媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類やトルエン、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、ノルマルヘキサン、エチルエーテル、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル等の有機溶媒及びこれらの任意の割合の混合液を用いることができる。分散液28は、分散剤、接着剤を含有しない。
【0074】
上述のように曲がった形状のCNT17の元となる材料CNTは、曲がった形状のものである。このような材料CNTは、個々の材料CNTの直径が揃っているものが好ましい。材料CNTは、切断によって生成される各CNTの長さが大きくても、CNTを単離分散することができるものが好ましい。これにより、上述のような長さの条件を満たすCNT17を単離分散した分散液28が容易に得られる。
【0075】
この例の複合素材10では、上述のように、CNT17として曲がった形状のものを付着させているので、CNT17とそれが付着した炭素繊維11の表面との間や付着したCNT17同士の間等に形成された空間に他のCNT17が入り込む。これにより、より多くのCNT17が炭素繊維11に付着する。また、強固にCNT17が炭素繊維11に付着して構造体14が形成されるので、炭素繊維11からCNT17がより剥離し難い。そして、このような複合素材10を用いて作製される回転部材2は、CNTに由来して特性がより高くなっている。
【0076】
分散液28のCNT17の濃度は、0.003wt%以上3wt%以下の範囲内であることが好ましい。分散液28のCNT17の濃度は、より好ましくは0.005wt%以上0.5wt%以下である。
【0077】
炭素繊維束12は、分散液28中から引き出された後に乾燥される。乾燥された炭素繊維束12に対して第1サイジング処理を行うことで、第1サイジング剤15が構造体14に付与される。
【0078】
第1サイジング処理工程ST2は、第1サイジング処理を行う。第1サイジング処理は、乾燥された炭素繊維束12に対して第1サイジング処理液を付与する(接触させる)工程と乾燥させる工程とを含む。第1サイジング処理液は、上述のカルボジイミド化合物を、溶媒に溶解することによりつくることができる。カルボジイミド化合物を溶解する溶媒としては、水、アルコール、ケトン類およびそれらの混合物等を用いることできる。
【0079】
第1サイジング処理液の付与は、第1サイジング処理液が収容された液槽に炭素繊維束12を浸漬する手法、炭素繊維束12に第1サイジング処理液を噴霧する手法、炭素繊維束12に第1サイジング処理液を塗り付ける手法等、いずれの手法を用いてもよい。第1サイジング処理液は、CNT17同士の直接接触を維持した状態で、CNT17の表面に付与された状態になり、粘度が低いほど、CNT17同士の接触部近傍及び炭素繊維11とCNT17の接触部近傍に凝集しやすい。
【0080】
第1サイジング処理工程ST2において、炭素繊維束12に対する第1サイジング処理液の付与量、第1サイジング処理液におけるカルボジイミド化合物の濃度などを調整することで、所望とするサイジング剤質量比率Rmにすることできる。
【0081】
第1サイジング処理液の付与後の乾燥は、第1サイジング処理液の溶媒(この例では水)を蒸発させる。乾燥の手法は、第1サイジング処理液が付与された炭素繊維束12を放置乾燥する手法、炭素繊維束12に空気等の気体を送る手法、炭素繊維束12を加熱する手法等の公知の乾燥手法を用いることができ、放置乾燥または気体を送るいずれかの手法に加熱を併用してもよい。
【0082】
成形工程ST3は、第1サイジング処理工程ST2を経た複合素材10を用い、フィラメントワインディング法により回転部材2を成形する。
図12に一例を示すように、例えば複数本の複合素材10がクリール(給糸装置)31から所定の張力に調整されながら繰り出され、繰り出された複合素材10が樹脂付与装置32を介してフィラメントワインダ33に給糸される。複合素材10は、樹脂付与装置32を通過する際に、CNT複合繊維の表面に未硬化の液状のマトリックス樹脂Mが付与される。このときに、樹脂付与装置32は、炭素繊維11の表面に形成された構造体14にマトリックス樹脂Mを含浸させる。
【0083】
フィラメントワインダ33には、マンドレル34が回動自在にセットされている。フィラメントワインダ33によってマンドレル34が回転されることにより、マトリックス樹脂Mが付与された複合素材10は、それに所定の張力が付与されながら、マンドレル34に巻回される。マンドレル34への複合素材10の巻き付け位置は、樹脂付与装置32に設けられたヘッド(図示省略)によって決められている。マンドレル34の回転に同期して樹脂付与装置32をマンドレル34の軸心方向に往復動することで、マンドレル34に対する複合素材10の巻き付け位置をマンドレル34の軸心方向にずらしながら巻回する。
【0084】
このときに、マンドレル34の軸心方向に対する複合素材10の巻き付け角度(斜交角度)を、例えばほぼ90°に調整することによって、マトリックス樹脂Mが付与されたCNT複合繊維は、マンドレル34にフープ巻きすなわちマンドレル34の外周面にその軸心に対しほぼ直角となる方向に緻密に巻き付けられる。また、マンドレル34の軸心方向に対する複合素材10の巻き付け角度を、90°よりも小さい角度、例えば45°に調整することによって、マトリックス樹脂Mが付与されたCNT複合繊維は、マンドレル34にヘリカル巻きすなわちマンドレル34の外周面にその軸心に対して45°となる角度を持って緻密に巻き付けられる。
【0085】
上記のようにマンドレル34の外周面上に複合素材10を所定の層数(1層以上)で巻回した成形体を形成した後、成形体とともにマンドレル34をフィラメントワインダ33から外す。成形体は、例えば外されたマンドレル34とともに加熱され、CNT複合繊維に付与されたマトリックス樹脂Mが硬化される。マトリックス樹脂Mが硬化した成形体は、マンドレル34から外され、必要に応じて所望とする幅(軸心方向の長さ)に切断されて回転部材2とされる。
【0086】
樹脂付与装置32としては、例えば、
図13に示すように、タッチロール方式のものを用いている。この樹脂付与装置32は、貯留槽36内に貯留された未硬化の液状のマトリックス樹脂Mにタッチロール35の下部が浸漬され、そのタッチロール35の上部外周面に複合素材10が一対のガイドローラ35aで押し付けられている。タッチロール35が回転することによって、貯留されている液状のマトリックス樹脂Mがタッチロール35の外周面を介してCNT複合繊維に塗布される。タッチロール35の回転速度、一対のガイドローラ35aによるタッチロール35に対する複合素材10の押し付け力等を調整することで、複合素材10すなわち構造体14が形成された炭素繊維11へのマトリックス樹脂Mの付与量が調整されるとともに、構造体14に付与されたマトリックス樹脂Mが十分に含浸するようにされている。
【0087】
マトリックス樹脂Mは、特に限定されず、種々の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂の混合物でもよい。また、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂(PMMA等)、熱可塑性エポキシ樹脂等の汎用樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂等のエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。
【0088】
回転部材2の引張強度と炭素繊維11の繊維体積含有率(Vf)とは、正の相関性を有していることを確認しており、引張強度を高める観点から炭素繊維11の繊維体積含有率(Vf)がより高いことが好ましく、その炭素繊維11の繊維体積含有率が例えば75%以上であっても75%未満であってもかまわない。一方で、回転部材2の耐脆性の観点から繊維体積含有率を75%未満にしておくことが好ましい。また、回転部材2の製造時における成形の容易性の観点からは炭素繊維11の繊維体積含有率を50%以上とすることが好ましい。このようなことから、回転部材2の繊維体積含有率を50%以上75%未満とすることは好ましい態様である。なお、回転部材2における炭素繊維11の繊維体積含有率は、例えば、樹脂付与装置32による複合素材10に対するマトリックス樹脂Mの付与量やマンドレル34に巻き付け時の複合素材10の張力を調整することにより変えることができる。
【0089】
なお、回転部材2の炭素繊維11の繊維体積含有率は、例えば、式(3)を用いて次のようにして求めることができる。式(3)中における値ρは、回転部材2の比重、値ρfは、炭素繊維11の比重、値ρmは、マトリックス樹脂Mの比重である。回転部材2の比重ρ及びマトリックス樹脂Mの比重ρmは、測定器(例えば、高精度電子比重計SD-200L(アルファミラージュ(株)製))により測定される値が用いられる。炭素繊維11の比重ρfは、回転部材2等と同様に測定器で測定される値を用いてもよいし、カタログ値(炭素繊維11のメーカの公称値)を用いてもよい。なお、炭素繊維11に付着しているCNT17、第1サイジング剤15の各比重は、炭素繊維11の比重に対して非常に小さい値であるため、炭素繊維11単体の比重を比重ρfと見做してもよい。
【0090】
【0091】
上記成形工程ST3において、マンドレル34に複合素材10を巻回して作製した成形体のマトリックス樹脂Mを硬化させる際に、そのマトリックス樹脂Mがエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂である場合には、回転部材2の内径寸法の精度を高めるうえで加熱温度を段階的に変化させることも好ましい。
図14に示す例は、成形体のマトリックス樹脂Mを硬化させる硬化工程で2段階に温度を変化させるものであり、室温から第1加熱温度T1まで昇温してその第1加熱温度T1に所定の時間維持し、その後に第1加熱温度T1よりも高い第2加熱温度T2まで昇温して、第2加熱温度T2を所定の時間維持する。第2加熱温度T2を所定の時間維持した後には、成形体を自然冷却し、その後にマンドレル34から成形体が外されて回転部材2とされる。
【0092】
第1加熱温度T1で成形体を加熱する第1加熱工程は、作製される回転部材2の内径寸法の誤差を小さくするために、加熱によるマンドレル34の熱膨張ないし熱収縮を抑制した状態で成形体をサイズ変動の少ない安定した形状にまで硬化することを主たる目的としてマトリックス樹脂Mのゲル化を進めて硬化させる工程である。このため、第1加熱温度T1としては、マンドレル34の熱膨張を小さく抑えるような温度に設定される。また、第1加熱温度T1での加熱は、成形体の安定形状が得られるまで、すなわち最終強度を得ないまでも硬化したといえる程度になるまで行われる。より具体的には、第1加熱温度T1に維持する時間は、例えばマトリックス樹脂Mの貯蔵弾性率がほぼ一定となるまでの時間として決められる。なお、第1加熱工程において、成形体の熱膨張ないし熱収縮を抑制することは、回転部材2の内径寸法の誤差をより小さくするうえで好ましい。この場合には、第1加熱温度T1は、マンドレル34の熱膨張または熱収縮を小さく抑えるような温度であって、成形体の熱膨張ないし熱収縮を抑制するために第1加熱工程の終了時におけるマトリックス樹脂Mのガラス転移点以下の温度(第1加熱工程中に増大するマトリックス樹脂Mのガラス転移点以下の一定の温度)に設定する。この例でもそのようにしている。
【0093】
第1加熱温度T1に維持する時間は、マトリックス樹脂Mの貯蔵弾性率の変化率(増加率)が減少に転じるまで、損失弾性率がピークに達するまであるいはピークアウトするまでの時間等としてもよい。なお、例えばレオメータを用いて、加熱温度ごとの加熱時間に対するマトリックス樹脂Mの貯蔵弾性率、損失弾性率の変化を知ることができ、第1加熱温度T1に維持する時間を予め決めておくことができる。また、マトリックス樹脂Mのガラス転移点も予め知ることができる。
【0094】
第2加熱温度T2で成形体を加熱する第2加熱工程は、第1加熱温度T1よりも高い第2加熱温度T2で成形体を加熱することにより、第1加熱工程を経たマトリックス樹脂Mの硬化を進ませ、回転部材2の最終的な強度、弾性率、また耐熱性を得る。マトリックス樹脂Mがシアネートエステル樹脂である場合には、例えば、第1加熱温度T1は、100℃以上200℃以下の範囲内、第2加熱温度T2は、200℃以上300℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0095】
上記のように段階的に加熱温度を変化させることにより、第1加熱工程において第1加熱温度T1で成形体が加熱されることにより、マトリックス樹脂Mが硬化して成形体の安定形状が形成される。この後に第2加熱工程において、成形体のマトリックス樹脂Mの硬化が進み、成形体が最終的な強度、弾性率、耐熱性とされる。このようにして作製される回転部材2の内径寸法は、第1加熱工程において成形体の安定形状が形成された時点でほぼ決まり、第1加熱工程では、第1加熱温度T1で加熱を行っているから、マンドレル34の熱膨張及びマトリックス樹脂Mの熱膨張ないし熱収縮がそれぞれ小さい。これにより、内径寸法の誤差の小さな成形体すなわち回転部材2が得られる。
【0096】
なお、第2加熱工程において第2加熱温度T2で成形体が加熱されることにより、マンドレル34が第1加熱工程よりも大きく熱膨張し、その熱膨張によって安定形状となった成形体が変形するが、その変形のほとんどは弾性変形であるので冷却後に元に戻る。このため、第2加熱工程において、成形体の内径寸法が与える影響は非常に小さい。
【0097】
上記のように段階的に加熱温度を変化させて、実際にマンドレル34の材料として機械構造用炭素鋼鋼材S45Cを用いて、50個の回転部材2を作製したときの内径寸法は、40mm±0.003mmであった。これに対して、成形体を同じ材料で作製したマンドレル34とともに室温から第2加熱温度T2まで昇温して硬化させ50個の回転部材2を作製したときの内径寸法は、40mm±0.01mm以上であった。なお、前者の場合には、室温から昇温して第1加熱温度T1を90分間維持し、その後に第1加熱温度T1から昇温して第2加熱温度T2を120分間維持した。後者の場合には、室温から第2加熱温度T2まで昇温し、第2加熱温度T2を210分間維持した。前者における第1加熱温度T1は145℃、前者及び後者の第2加熱温度T2は200℃とした。したがって、上記のように段階的に加熱温度を変化させて成形体のマトリックス樹脂Mを硬化させることで、作製される回転部材2の内径寸法の制御が容易になり、所望とする内径寸法に対して誤差が抑えられた回転部材2を作製できることがわかる。なお、このような手法は、構造体14や第1サイジング剤15等の有無にかかわらずフィラメントワインディング方式で回転部材を作製する場合に用いることができる。なお、第1加熱工程における加熱温度を2段階以上で段階的に変化させ、加熱温度ごとに所定の時間加熱するようにしてもよい。
【0098】
上記の複合素材10を用いた回転部材2では、
図15に模式的に示すように、炭素繊維11の間の複合領域18の一部が互いに固着した架橋部CLによって、炭素繊維11同士が架橋した架橋構造を有する。上述のように複合領域18は、構造体14とこの構造体14に含浸して硬化したマトリックス樹脂Mとからなる領域である。複合領域18は、硬化したマトリックス樹脂単体よりも硬度が高くなるとともに、高弾性すなわち弾性限界が大きい。また、複合領域18は、マトリックス樹脂よりも耐摩耗性が高い。このような複合領域18同士の結合によって、炭素繊維11同士の結合が強固なものとなり、複合素材10を用いた回転部材2の引張強度を向上させる。
【0099】
架橋構造は、構造体14同士が接触する程度に炭素繊維11間の距離が近接している場合に形成されるため、構造体14の厚さが大きいほど、架橋を多くする上で有利である。ただし、構造体14の厚さは、均一な厚さによる品質安定性の確保、炭素繊維11からの脱落の防止等の観点から、大きくとも300nm以下とすることが好ましい。特には、構造体14の厚さを50nm以上200nm以下の範囲内とするのがよい。
【0100】
また、構造体14は、複数のCNT17が不織布状に厚みを持って絡み合っているため、炭素繊維11に付与されたマトリックス樹脂Mが構造体14内に含浸した状態で保持される。したがって、回転部材2のような炭素繊維強化成形体において、その成形手法によらず炭素繊維11の表面でマトリックス樹脂Mの偏りがほとんどなく、炭素繊維同士の間隔が均一になる。このため、マトリックス樹脂Mのせん断力を介在した炭素繊維間における荷重伝達が均一に行われ、回転部材2の引張強度が効果的に大きくなる。
【0101】
図16は、引抜成形法であるが複合素材10を用いて炭素繊維強化成形体として作製した円柱状のロッドのX線CTによる内部構造の画像を示している。複合素材10を用いて作製したロッドでは、マトリックス樹脂Mの大きな偏り及びボイドがなく、炭素繊維間の距離がロッド全体でほぼ均一になっていることが確認できる。これに対して、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)を用いて同様に作製したロッドの内部構造は、
図17に示すように、マトリックス樹脂Mの大きな偏り及びボイドが生じていることが確認された。
【0102】
複合素材に、カルボジイミド由来の構造を有する第1サイジング剤とは別に、構造体のCNTの表面を覆う被覆剤としての第2サイジング剤を付与してもよい。
図18に示すように、第2サイジング剤37は、構造体14のCNT17の表面を覆うように、CNT17に付着している。この第2サイジング剤37は、反応硬化性樹脂、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂の硬化物あるいは未硬化物からなる。
【0103】
第2サイジング剤37は、第1サイジング剤15を付与する第1サイジング処理の後に、第2サイジング処理により複合素材10に付与する。第2サイジング処理は、一般的な方法により行うことができ、分散媒に第2サイジング剤37となる樹脂(ポリマー)を溶解した第2サイジング処理液に、第1サイジング処理後の開繊した炭素繊維束12(炭素繊維11)を接触させて炭素繊維束12に第2サイジング剤37を付与した後、分散媒を蒸発させるとともに第2サイジング剤37を硬化または半硬化させる。なお、第2サイジング剤となる液滴状の樹脂を含むエマルジョンタイプの第2サイジング処理液を用いることもできる。
【0104】
第2サイジング剤37となる樹脂は、特に限定されず、種々の反応硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド、シアネートエステル樹脂、反応性基を有する樹脂等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂(PMMA等)、塩化ビニル、熱可塑性エポキシ樹脂等の汎用樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。
【0105】
第2サイジング剤37は、第1サイジング剤15を含むCNT17の表面を覆う。このような第2サイジング剤37のうち、第1サイジング剤15の部分はこの第1サイジング剤15と架橋するが、第1サイジング剤15がない部分では架橋が生じないため粘稠性を有している。この第2サイジング剤37により、構造体14が形成された複数の炭素繊維11からなる繊維束の集束性が向上する。第2サイジング剤37は、第1サイジング剤15と同様に、構造体14の空隙部19を閉塞しないようにすることが好ましい。
【0106】
上記では表面磁石型電動機に用いられる回転部材について説明しているが、回転部材とは、これに限定されるものではない。例えば、上記表面磁石型電動機と同様の構造を有する発電機のロータに外嵌されるもの、遠心分離機に用いられる回転胴等の回転部材であってもよい。また、円筒状、リング状等の回転部材の内周や外周等に他の部材が一体に形成ないし組み付けられている構造でもよい。したがって、他の部材を含む部材の一部として回転部材となる炭素繊維強化層が形成されていてもよい。
【実施例】
【0107】
<実施例1>
実施例1では、上記手順により複合素材10を作製し、CNT17の剥離実験を行い、第1サイジング剤15の効果を確認した。複合素材10の作製の際に用いた分散液28は、上述のように曲がった形状を有する材料CNTを用いて調製した。
図19に分散液28の調製に用いた材料CNTのSEM写真を示す。この材料CNTは、多層であり、直径が3nm以上10nm以下の範囲であった。材料CNTは、硫酸と硝酸の3:1混酸を用いて洗浄して触媒残渣を除去した後、濾過乾燥した。分散液28の分散媒としてのアセトンに材料CNTを加え、超音波ホモジナイザーを用いて材料CNTを切断し、CNT17とした。分散液28中のCNT17の長さは、0.2μm以上5μm以下であった。また、分散液28中のCNT17は、曲がった形状と評価できるものであった。分散液28のCNT17の濃度は、0.12wt%(=1200wt ppm)とした。分散液28には、分散剤や接着剤を添加しなかった。
【0108】
炭素繊維束12としては、トレカ(登録商標)T700SC-12000(東レ株式会社製)を用いた。この炭素繊維束12には、12000本の炭素繊維11が含まれている。炭素繊維11の直径は7μm程度であり、長さは500m程度である。なお、炭素繊維束12は、CNT17の付着に先立って、炭素繊維11の表面から炭素繊維11の絡み等を防止するためのサイジング剤を除去した。
【0109】
炭素繊維束12を開繊した状態でガイドローラ23~26に巻き掛け、CNT付着槽22内の分散液28中を走行させた。炭素繊維束12の走行速度は、1m/分とし、分散液28には、超音波発生器27により周波数が200kHzの超音波振動を与えた。なお、ガイドローラ24、25の間を走行している浸漬時間は、6.25秒であった。この浸漬時間は、分散液28に与える超音波振動の1250000周期分である。分散液28中では、炭素繊維束12は、「D=n・(λ/2)」を満たす分散液28の液面からの深さDを走行させた。
【0110】
分散液28から引き出された炭素繊維束12を乾燥させた後に、第1サイジング処理を実施して、構造体14を構成するCNT17に第1サイジング剤15を付与した。第1サイジング処理では、カルボジイミド化合物として「カルボジライトV-02」(商品名、日清紡ケミカル社製)を水に溶解した第1サイジング処理液を用いた。第1サイジング処理液のカルボジイミド化合物の濃度は、サイジング剤質量比率Rmが1.0%となるように調整した。第1サイジング処理を施した炭素繊維束12を乾燥させて複合素材10を得た。
【0111】
上記のように第1サイジング処理を施した炭素繊維束12の一部を切り出して取得した複数本の炭素繊維11(以下、サンプル繊維という)に複数のCNT17が均一に分散して付着していることをSEM観察した。この結果、炭素繊維11の繊維軸方向の狭い範囲(局所的)でも、また広い範囲でも均一にCNT17が付着して構造体14が形成されていることが確認された。また、構造体14は、多数のCNT17からなる三次元的なメッシュ構造すなわち空隙部19を有する不織布状に形成されており、空隙部19のほとんどが第1サイジング剤15で閉塞されていないことが確認された。
【0112】
CNT17の剥離実験では、水と界面活性剤とを混合した混合液に、サンプル繊維を浸漬し、その混合液に超音波発生器から超音波振動を10分間与えた。混合液に浸漬した炭素繊維11の長さは、1m、混合液における界面活性剤の濃度は0.2質量%、混合液に与えた超音波振動の周波数は100kHzであった。
【0113】
比較例1として、カルボジイミド化合物に代えてエポキシ樹脂をアセトンに溶解したサイジング処理液を用いて第1サイジング処理を行って得られた炭素繊維に対して、CNTの剥離実験を行った。この比較例1では、サイジング処理液が異なる他は、上記と同じ条件とした。サイジング処理液のエポキシ樹脂の濃度は、サイジング剤質量比率Rmが1.0%になるように調整した。
【0114】
比較例1の剥離実験では混合液が黒く濁り、剥離実験後に確認したところ9割以上のCNTが炭素繊維から脱落していることが確認された。これに対して、実施例1における剥離実験では混合液が僅かに濁った程度であり、炭素繊維11からのCNT17の脱落がほとんどないことが確認できた。すなわち、カルボジイミド由来の構造を有する第1サイジング剤15により、CNT17同士及びCNT17と炭素繊維11との接触が強固なものとなり、構造体14の崩壊及び炭素繊維11からの構造体14の剥がれが効果的に抑制されることが分かった。
【0115】
<実施例2>
実施例2では、実施例1と同じ条件で作製した複合素材10を用いて、炭素繊維強化成形体である試験片A21を作製し、モードI層間破壊靱性試験を行った。試験片A21は、長さ160mmとし、幅23mm、厚さ3mmとなるように作製した。実施例2では、第1サイジング処理を施した複合素材10を用いてプリプレグを作製し、長方形(160mm×23mm)に切断した複数枚のプリプレグを積層し、加圧しながら加熱してマトリックス樹脂を硬化させることで試験片A21を作製した。各プリプレグは、長手方向が炭素繊維11の繊維軸方向と一致するように切断し、試験片A21は、その長手方向に全ての炭素繊維11の繊維軸方向を一致させた。
【0116】
モードI層間破壊靱性試験は、上記試験片A21に対して、オートグラフ精密万能試験機AG5-5kNX((株)島津製作所製)を用い、JIS K7086に準拠して行った。試験法としては、双片持ち梁層間破壊靱性試験法(DCB法)を用いた。すなわち、鋭利な刃物等で試験片A21の先端から2~5mmの初期き裂を形成し、その後にさらにき裂を進展させて初期き裂の先端から、き裂進展長さが60mmに到達した時点で試験を終了させた。試験機のクロスヘッドスピードは、き裂進展量に応じて変更した。具体的には、き裂進展量が20mmまでのクロスヘッドスピードは、0.5mm/分とした。き裂進展量が20mmを超えた際には、クロスヘッドスピードは1mm/分とした。き裂進展長さは顕微鏡を用いて試験片A21の両側面から測定し、荷重、およびき裂開口変位を計測することにより、荷重-COD(Crack Opening Displacement)曲線からモードI層間破壊靱性値(GIC)を求めた。
【0117】
比較例2として、カルボジイミド化合物に代えてエポキシ樹脂をアセトンに溶解したサイジング処理液を用いて第1サイジング処理を行って得られる複合素材を用い、この複合素材を強化繊維とした炭素繊維強化成形体である試験片B21と、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)を強化繊維とした炭素繊維強化成形体である試験片B22をそれぞれ作製し、モードI層間破壊靱性試験を行った。試験片B22では、サイジング処理は行っていない。比較例2では、上記の条件の他は、試験片A21と同じ条件とした。
【0118】
き裂進展量20mmにおけるモードI層間破壊靱性値(GIC)のモードI層間破壊靱性強度GIRは、実施例2の試験片A21が0.425kJ/m2、比較例2の試験片B21が0.323kJ/m2、試験片B22が0.231kJ/m2とであった。この結果より、実施例2の試験片(炭素繊維強化成形体)A21は、モードI層間破壊靱性強度GIRが比較例2の試験片B21に対して約1.32倍、試験片B22に対して約1.84倍向上していることが分かる。
【0119】
<実施例3>
実施例3では、実施例1と同様に作製した複合素材10を強化繊維とした炭素繊維強化成形体である中実のロッドA31、A32を作製し、これらロッドA31、A32について3点曲げ試験を行った。実施例3では、引抜成形法によって複合素材10とマトリックス樹脂とから直接に直径約2.6mmの円柱状の成形体を作製し、この成形体にセンタレス研磨を行って断面がより真円に近い直径約2.2mmのロッドA31、A32を作製した。したがって、ロッドA31、A32は、その軸心方向と炭素繊維11の繊維軸方向が一致する。なお、ロッドA31の炭素繊維11(原糸)としては、トレカT700SC(東レ株式会社製)を、ロッドA32の炭素繊維11(原糸)としては、トレカT800SC(東レ株式会社製)をそれぞれ用いた。ロッドA31、A32の、他の作製条件は、実施例1と同じにした。
【0120】
上記のロッドA31、A32をそれぞれ切断して、長さ120mmの試験片を複数作製し、それら試験片に対して、JIS K 7074:1988「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して3点曲げ試験を行った。支点間距離は、80mmとした。3点曲げ試験は、圧子の降下速度を相対的に低速にしたもの(以下、低速曲げ試験という)と、高速なもの(以下、高速曲げ試験という)を行って、それぞれ破壊荷重(N)を求めた。低速曲げ試験では、圧子の降下速度を5mm/秒とし、高速曲げ試験では、圧子の降下速度を1m/秒と5m/秒の2種類とした。破壊荷重(N)としては、低速曲げ試験及び2種類の高速曲げ試験の各結果のそれぞれについて、繊維体積含有率(Vf)が60%換算の値を求めた。なお、ロッドA31、A32のそれぞれについて、低速曲げ試験及び2種類の高速曲げ試験のいずれも複数の試験片を用いて複数回の試験を行った。
【0121】
比較例3として、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)を強化繊維とした炭素繊維強化成形体である中実のロッドB31、B32を作製し、これらのロッドB31、B32について3点曲げ試験を行った。ロッドB31の炭素繊維は、ロッドA31のものと同じであり、ロッドB32の炭素繊維は、ロッドA32のものと同じである。ロッドB31、B32は、炭素繊維を原糸で用いた以外は、ロッドA31、A32と同じ条件で作製した。また、ロッドB31、B32についての3点曲げ試験は、ロッドA31、A32と同じ条件で行い、破壊荷重(N)を求めた。
【0122】
上記の試験結果を
図20に示す。低速曲げ試験では、ロッドA31は、ロッドB31よりも11%、ロッドA32は、ロッドB32よりも23%破壊強度が向上していた。また、高速曲げ試験では、ロッドA31は、ロッドB31よりも14%、ロッドA32は、ロッドB32よりも11%破壊強度が向上していた。
【0123】
<実施例4>
実施例4では、実施例1と同様に作製した複合素材10を用いた炭素繊維強化成形体であるリング状試験片A41、A42を回転部材として作製し、NOLリング試験(ASTM D2290準拠)を行った。すなわち、繊維基材としての複合素材10を一方向に平行巻きしたリング状試験片A41、A42を用いて円周方向の引張強度を求めた。リング状試験片A41、A42は、上述のように、フィラメントワインディング法を用いて作製した。すなわち、フィラメントワインダ33に装着した円筒状のマンドレル34に、第1サイジング処理後の複合素材10(CNT複合繊維)にマトリックス樹脂Mを含浸させてから巻き付けて成形体を形成した。成形体は、マンドレル34とともに加熱してマトリックス樹脂Mを硬化させた。マトリックス樹脂Mの硬化後、マンドレル34を抜いた成形体を所定の幅に切断してリング状試験片A41、A42とした。マトリックス樹脂Mは、ロールコータを用いて第1サイジング処理後の複合素材10に塗布した。炭素繊維11(原糸)としては、トレカT1100(東レ株式会社製)を用いた。複合素材10の他の作製条件は、実施例1と同じにした。
【0124】
リング状試験片A41、A42は、内径35mm、外径40mm、幅3mmとした。NOLリング試験では、5582型万能材料試験機(インストロン社製)を用いて、引張速度2mm/minで行った。この試験結果を
図21に示す。
図21は、横軸が繊維体積含有率(Vf)であり、縦軸は、繊維体積含有率が100%であるときの理論強度を100とした場合の相対的な引張強度を示す指標値である。また、
図21のグラフには、リング状試験片A41、A42と同じ繊維体積含有率についての引張強度の理論値を併せて示してある。
【0125】
比較例4として、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)を強化繊維とした炭素繊維強化成形体であるリング状試験片B41~B44を作製し、NOLリング試験を行った。リング状試験片B41~B44の炭素繊維は、リング状試験片A41、A42のものと同じものを用い、炭素繊維を原糸で用いた以外は、リング状試験片A41、A42と同じ条件で作製した。これら比較例4のリング状試験片B41~B44の試験結果を
図21に示す。
【0126】
図21のグラフより、CNT17を付着させた炭素繊維11を強化繊維としているリング状試験片A41、A42は、炭素繊維(原糸)を強化繊維としたリング状試験片B41~B44よりも引張強度が向上し、引張強度の理論値に近くなっていることがわかる。
【0127】
[実施例5]
実施例5では、フラグメンテーション法により炭素繊維11とマトリックス樹脂との界面接着強度を評価した。あわせて、サイジング剤質量比率Rmの違いによる炭素繊維11とマトリックス樹脂との界面接着強度を評価した。
【0128】
まず、第1サイジング処理液のカルボジイミド化合物の濃度を調整し、サイジング剤質量比率Rmが0.6%、0.8%、1.0%、1.1%、1.5%となる複合素材10をそれぞれ作製した。作製した複合素材10のそれぞれについて、炭素繊維束12から1本のCNT複合繊維を取り出し、そのCNT複合繊維を軟質エポキシ樹脂中に埋設した試験片A51~A55を作製した。試験片A51~A55は、複合素材10の複数の作製ロットについてそれぞれ3個作製した。炭素繊維11としては、トレカT700SC(東レ株式会社製を用いた。なお、この他の複合素材10の作製条件は、実施例1と同じである。
【0129】
試験片A51~A55のそれぞれについて、炭素繊維11が切断されなくなるまで引張荷重を加えてから、一定長における炭素繊維11の各切断片の長さを個々の試験片について測定し、試験片A51~A55のそれぞれについて、作製ロットごとに切断片の長さの平均(切断繊維長さ)を求めた。この測定結果を
図22のグラフに示す。
【0130】
比較例5として、CNTを付着させていない1本の炭素繊維(原糸)を軟質エポキシ樹脂中に埋設した試験片B51を作製した。試験片A51~A55と同様に、試験片B51に引張荷重を加え、作製ロットごとに切断片の長さの平均(切断繊維長さ)を求めた。この測定結果を
図22のグラフに示す。なお、試験片B51の作製条件は、CNTが炭素繊維に付着していない他は、試験片A51~A55と同じとした。
【0131】
試験片A51~A55の切断繊維長さは、比較例5の試験片B51の切断繊維長さよりも短くなっており、CNT複合繊維とマトリックス樹脂との界面接着強度が、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)のものよりも高くなっていることがわかる。また、試験片B51に対して、サイジング剤質量比率Rmが0.6%以上1.1%以下の範囲内の試験片A51~A54の界面接着強度が顕著に高くなっていることがわかる。
【0132】
上記のように作製された複合素材10のうちサイジング剤質量比率Rmが0.8%、1.1%、1.5%ものについて、構造体14の表面の第1サイジング剤15を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した状態を
図23ないし
図25に示す。サイジング剤質量比率Rmが0.8%、1.1%の構造体14では、CNT17が形成する空隙部19が第1サイジング剤15によって閉塞されていなかったが、サイジング剤質量比率Rmが1.5%の構造体14では多くの空隙部19が第1サイジング剤15によって閉塞されていることが確認された。
【0133】
[実施例6]
実施例6では、複合素材10を強化繊維として、炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)が異なる回転部材2としての複数のリング状試験片A6を作製し、それぞれの引張強度を、NOLリング試験(ASTM D2290準拠)により測定した。また、比較例6として、原糸(炭素繊維)を強化繊維として、炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)が異なる複数のリング状試験片B6を作製し、それぞれの引張強度を同様に測定した。実施例6、比較例6のNOLリング試験は、いずれも前述の5582型万能材料試験機を用い、引張速度2mm/minとして行った。なお、リング状試験片A6、B6は、実施例4と同様に作製した。ただし、リング状試験片A6、B6のいずれにも、炭素繊維11としてトレカT1100SC-12000(東レ株式会社製)を用いた。
【0134】
上記の測定結果を
図26に示す。
図26の●は、実施例6の各測定結果のプロット、▲は、比較例6の各測定結果のプロットである。また、
図26は、横軸がリング状試験片における炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)であり、縦軸は、引張強度(指標値)である。実線は、実施例6の測定値に基づいて、最小自乗法で求めた繊維体積含有率と引張強度(指標値)との関係を示す近似直線であり、破線は、比較例6の測定値に基づいて、実施例6と同様に求めた繊維体積含有率と引張強度(指標値)との関係を示す近似直線である。引張強度(指標値)は、比較例6の繊維体積含有率と引張強度(指標値)との関係(近似直線)から求めた強化繊維の繊維体積含有率が70%であるときの引張強度を「100」とした場合の相対的な引張強度を示す値である。また、
図27には、
図26の繊維体積含有率60%以上、引張強度(指標値)90以上の領域を拡大して示す。
【0135】
図26、
図27より、繊維体積含有率に正比例して引張強度が向上することが確認できた。各リング状試験片A6の引張強度(指標値)は、比較的に繊維体積含有率が低い60%以上70%未満の範囲においても、また繊維体積含有率が高い70%以上(75%未満)の範囲においても、比較例6の繊維体積含有率と引張強度(指標値)との関係を示す近似直線よりも上側にプロットされている。すなわちCNT複合繊維を強化繊維とする各リング状試験片A6は、同じ繊維体積含有率の炭素繊維の原糸を強化繊維とするリング状試験片よりも高い引張強度をもつことが分かる。具体的には、同じ繊維体積含有率の場合において、実施例6のように複合素材10を強化繊維としたリング状試験片の引張強度は、比較例6のように原糸を強化繊維としたリング状試験片の引張強度に対して約10%高い値である。また、同じ引張強度を得るための繊維体積含有率は、複合素材10を強化繊維とした場合では原糸を強化繊維とした場合に対して約10%小さい値となる。近似直線より、複合素材10を強化繊維としたリング状試験片の繊維体積含有率74%の場合の引張強度は、原糸を強化繊維としたリング状試験片の繊維体積含有率81%の場合の引張強度の値に相当する。
【0136】
一般的に炭素繊維強化成形体は、繊維体積含有率が80%を超えるとマトリックス樹脂量の減少により、それ自体が脆くなるため、引張強度を向上させるための繊維体積含有率の増加にも限界があるが、回転部材2の強化繊維として複合素材10を用いることにより、相対的に小さい繊維体積含有率でも、強化繊維として原糸を用いたものよりも高い引張強度が得られるため、高い引張強度と高い耐脆性とを両立できる。
【0137】
[実施例7]
実施例7として、繊維体積含有率(Vf)が異なる複数のリング状試験片について、破壊状態を評価した。評価した複数のリング状試験片は、上述の実施例6で引張強度の測定を実施した各リング状試験片A6を含んでいる。破壊状態の評価は、以下のように行った。まず、評価対象の複数のリング状試験片A6を、繊維体積含有率60%以上70%未満の第1グループと、70%以上の第2グループとにグループ分けした。そして、5582型万能材料試験機を用いて2mm/minの引張速度で引っ張り、破壊した各リング試験片の破壊状態を調べた。リング試験片の破壊状態は、断層破壊モードと層間破壊モードとの2種類に概ね分類できることがわかった。グループ毎に断層破壊モードと層間破壊モードとに分類した。各グループにおいて各破壊モードに分類された個数の割合を百分率で求めた。求めた割合は、評価結果として表1に示す。また、比較例7として、原糸を強化繊維とし、炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)が異なる複数のリング状試験片について、実施例7と同様に破壊状態を評価した。評価した複数のリング状試験片は、上述の比較例6で引張強度の測定を実施した各リング状試験片B6を含んでいる。この評価結果を表2に示す。
【0138】
上記断層破壊モードは、
図28に示すように、リング状試験片を構成する複数の炭素繊維の各々が切断される破壊形態である。この断層破壊モードは、X線CT画像の解析の結果、各繊維層を斜めに横断してひび割れが生じて破壊に至り、破壊後の各繊維層間の全部またはほとんどで剥離が生じていなことが確認された。一方、層間破壊モードは、
図29に示すように、円周方向に亀裂が入って崩れた形状になる破壊形態である。層間破壊モードは、X線CT画像の解析の結果、リング状試験片の各繊維層間に剥離が生じて破壊に至った形跡がX線CT像により確認された。破壊後の各繊維層間の剥離はほぼ全層にて生じていることが確認された。
【0139】
【0140】
【0141】
比較例7においては、引張強度が相対的に高い第2グループ(70%≦Vf)では、全て断層破壊モードであり、引張強度が相対的に小さい第1グループ(60%≦Vf<70%)では全て層間破壊モードとなっている。これに対し、実施例7では、第2グループでは比較例7と同様に全て断層破壊モードであったが、第1グループでは、21%が層間破壊モードであり79%が断層破壊モードであった。これは、実施例7では、繊維体積含有率が60%以上70%未満の場合でも、複合領域18の形成により実質的なマトリックス樹脂Mと炭素繊維11との界面接着強度の向上により維層層間の剥離が生じにくくなり、比較例7に対して層間破壊モードが少なくなったためと考えられる。
【0142】
[実施例8]
実施例8では、実施例6の引張試験にて破断したリング状試験片A6の一部を切り出して切断面を観察するための観察サンプルとした。この観察サンプルの切断面を研磨し、走査電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)と、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、Field-Emission Scanning Electron Microscope)とのそれぞれで観察した。また、比較例8では、比較例6の引張試験にて破断したリング状試験片B6の一部を切り出して観察サンプルをつくり、実施例8と同様に観察した。
図30は実施例8のSEM写真、
図31は比較例8のSEM写真、
図32は実施例8のFE-SEM写真、
図33は比較例8のFE-SEM写真である。なお、観察サンプルを切り出したリング状試験片A6は72.2%の繊維体積含有率、リング状試験片B6は72.5%の繊維体積含有率のものである。
【0143】
リング状試験片A6、B6は、
図30及び
図31に破線で囲む領域のように、リング状試験片A6、B6のいずれも炭素繊維が非常に密に充填した最密充填箇所が観察され、実施例8と比較例8とに明確な差は認められなかった。繊維体積含有率が72%程度の場合に、最密充填箇所が確認されることから、さらに繊維体積含有率を増加させると、変形を吸収するマトリックス樹脂量が少なくなることによる脆弱化が問題になる領域となると考えられる。したがって、繊維体積含有率を増加させることによる引張強度の向上には限界がある。
【0144】
リング状試験片A6は、
図32に示されるように、炭素繊維11とマトリックス樹脂Mとの界面に厚さ約0.1μmの複合領域18が炭素繊維11の表面を覆うように均一な膜厚にて存在しており、複数のCNT17が不織布状に互いに絡み合ったすなわち立体的な網目状の構造体14内の空隙にマトリックス樹脂Mが入り込みそのマトリックス樹脂Mが立体的な網目状になって互いに網目構造として入り込んでおり、CNT17とマトリックス樹脂Mとがナノレベルで相互網目構造を形成しているのが観察された。最密充填箇所において、隣り合う炭素繊維11が接近している領域では、複合領域18が圧縮され厚さが0.01μm以下となっていることが確認された。このような隣り合う炭素繊維11上の複合領域18同士は、互いに固着して一体化しており、上述の炭素繊維11同士が架橋した架橋構造を形成していることがわかる。
【0145】
一方、
図33に示されるように、リング状試験片B6は、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面に、明瞭な境界線が観察された。最密充填箇所において、隣り合う炭素繊維は互いに接触しているか、隣り合う炭素繊維の間に極薄いマトリックス樹脂が介在しているにすぎない。したがって、隣り合う2本の炭素繊維の結合強度は、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面における接着強度を超えることはない。
【0146】
リング状試験片A6では、架橋構造により隣り合う2本の炭素繊維11がリング状試験片B6よりも強固に接着した状態になっている。このため、リング状試験片A6にその径方向外向きに大きな引張力を作用させた場合であっても、隣接する炭素繊維11同士の架橋構造による結合が容易に破壊されず、一体化した複数の炭素繊維11によってリング状試験片B6よりも高い引張強度が発現することがわかる。
【符号の説明】
【0147】
2 回転部材
3 表面磁石型電動機
4 ロータ
10 複合素材
11 炭素繊維
14 構造体
15 第1サイジング剤
17 カーボンナノチューブ
37 第2サイジング剤
M マトリックス樹脂