(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】メタボリックシンドロームの予防、改善のあるイナゴマメ多糖類及びその製造方法並び使用
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20230825BHJP
A23L 29/206 20160101ALI20230825BHJP
A23L 33/21 20160101ALI20230825BHJP
A61K 31/715 20060101ALI20230825BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20230825BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20230825BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230825BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230825BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230825BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230825BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C08B37/00 Q
A23L29/206
A23L33/21
A61K31/715
A61K36/48
A61P1/10
A61P3/04
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/10
A61P9/12
(21)【出願番号】P 2023058591
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2023-03-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523118886
【氏名又は名称】ナガヨシ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オウ・コウトウ
(72)【発明者】
【氏名】カン・ビカ
(72)【発明者】
【氏名】有賀 庸介
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス・ウエイ
(72)【発明者】
【氏名】カン・ケンエイ
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/068466(WO,A1)
【文献】特表2006-506464(JP,A)
【文献】特開2008-127364(JP,A)
【文献】特表2012-525840(JP,A)
【文献】特開2022-185605(JP,A)
【文献】J. Sep. Sci.,2007年,30,557-562
【文献】J. Pharm. Sci. & Res.,2017年,9(11),2189-2195
【文献】Acta Cirurgica Brasileira,2015年,30(5),366-370
【文献】ローカストビーンガム,別冊フードケミカル,1996年,8,67-72
【文献】フードスタイル21,2003年,7(6),116-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A61K
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)~(iii)の特徴を有する
、イナゴマメ莢果由来の新規多糖類。
(i)水に可溶。エタノールに不溶。
(ii)構成単糖が
、グルコース、フルクトース及びマンノースの3種からなり、その構成モル比が、グルコース:フルクトース:マンノース=
6.4~6.6:88.0~88.2:5.3~5.5である。
(iii)構成単糖の結合様式が、下記(a)~(d)の組み合わせからなる。
(a)(1→4)結合グルコース
(b)(1→)結合フルクトース
(c)(1→6)結合フルクトース
(d)(1→3)及び(1→6)結合マンノース
【請求項2】
さらに、下記(iv)の特徴を有する請求項1に記載の新規多糖類。
(iv)ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて測定した分子量が、1×10
4~1×10
7である。
【請求項3】
前記(iv)における前記分子量が、7×10
6~8×10
6であることを特徴とする請求項
2に記載の新規多糖類。
【請求項4】
さらに、下記(v)の特徴を有する請求項1に記載の新規多糖類。
(v)分子量分布(Mw/Mn)が、1.7~1.8である。
【請求項5】
脂質代謝異常、高脂血症、動脈硬化、糖尿病、インスリン抵抗性、高血圧症、便秘及びメタボリックシンドロームからなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防、改善若しくは治療用の医薬組成物であって、請求項1~
4のいずれか1項に記載の新規多糖類を有効成分
とする医薬組成物。
【請求項6】
脂質代謝異常、高脂血症、動脈硬化、糖尿病、インスリン抵抗性、高血圧症、便秘及びメタボリックシンドロームからなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防、改善若しくは治療用の飲食品組成物であって、請求項1~
4のいずれか1項に記載の新規多糖類を
有効成分とする飲食品組成物。
【請求項7】
イナゴマメ(Ceratonia siliqua)の莢果に水を加えて抽出液を得る工程、
前記抽出液又はその濃縮液に対し、エタノールを最終濃度が40~80重量%となるように添加して沈殿を得る工程、及び、
前記沈殿から、請求項1~
4のいずれか1項に記載の新規多糖類を分離する工程、を有することを特徴とする新規多糖類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マメ科植物であるイナゴマメ(Ceratonia siliqua L.)から分離、精製して得られる新規な多糖類及びその用途に関し、さらに、この新規多糖類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イナゴマメ(Ceratonia siliqua L.)は、主に地中海地方を原産とするマメ科植物である。イナゴマメの種子からは、ガラクトマンナン多糖類のローカストビーンガムが得られ、増粘剤やゲル化剤などの食品添加物として利用されている。また、イナゴマメの莢果、すなわち、イナゴマメの莢及び果肉はキャロブ(carob)と呼ばれ、古くから食用又は食品原料として利用されてきた。成熟した莢果は長さ10~25cm程度で、甘味を呈する。イナゴマメの莢果には、多糖類、セルロース及びミネラル類が多く含まれ、タンパク質や非炭水化物系の低分子化合物等が少量含まれている。
【0003】
近年、イナゴマメの莢果の新たな機能に関する研究が進められており、イナゴマメの莢果(pod)の水抽出物が、消化管における止瀉、抗酸化、抗菌、抗潰瘍及び抗炎症作用等の複数の薬理作用を有し、潰瘍性大腸炎や胃潰瘍などの消化器疾患の予防及び治療効果を有することが報告されている。また、イナゴマメの莢果から分離されたポリフェノール化合物、フェニルプロパノイド化合物及びイソフラボン化合物がそれぞれ所定の薬理作用を奏する活性成分であることが報告されているが、イナゴマメの莢果に含まれる多糖類に関する研究はこれまでほとんどなされていなかった。
【0004】
他方、メタボリックシンドローム(MetS)とは、内臓脂肪型肥満をベースとして、高血圧、高血糖及び脂質代謝異常といった危険因子が集積した病態のことをいい、高血圧症、糖尿病、動脈硬化性疾患及び心血管疾患のリスク増加と強く関連することが知られている。しかしながら、今のところ、メタボリックシンドロームを統合的に治療できる医薬品はなく、メタボリックシンドロームに対する治療は、高血圧症、糖尿病又は脂質異常症といった個々の疾病や病態に応じた薬物療法のほか、運動や食生活の改善、減量が実施されているのみである。そのため、メタボリックシンドロームを統合的に治療、改善又は予防できる薬剤が期待されている。そして、イナゴマメの莢果をメタボリックシンドロームの統合的な予防、改善又は治療のために用いることについての検討はこれまでなされておらず、その有効性はまったく不明であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、イナゴマメの莢果由来の新規な活性成分及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、下記(i)~(iii)の特徴を有する新規多糖類である。(i)水に可溶。エタノールに不溶。(ii)構成単糖が、実質的にグルコース、フルクトース及びマンノースの3種からなり、その構成モル比が、グルコース:フルクトース:マンノース=1~10:10~100:1~10である。
【0007】
(iii)構成単糖の結合様式が、(1→4)-Glc、(1→)-Fru、(1→6)-Fru、(1→3,6)-Manの組み合わせからなる。
【0008】
本明細書において、Glcはグルコースを示し、Fruはフルクトースを示し、Manはマンノースを示す。
【0009】
また、本発明の新規多糖類は、上述した特性(ii)における構成単糖のモル比が、グルコース:フルクトース:マンノース=6.0~7.0:87.5~89.0:4.5~5.5であることが好ましい。これにより、本発明の多糖類を構成するグルコース、フルクトース及びマンノースのより好ましい構成単糖のモル比が選択される。
【0010】
また、本発明の新規多糖類は、上述した特性(ii)における構成単糖のモル比が、グルコース:フルクトース:マンノース=6.4~6.6:88.0~88.2:5.3~5.5であることがより好ましい。これにより、本発明の多糖類を構成するグルコース、フルクトース及びマンノースのさらに好ましい構成単糖のモル比が選択される。
【0011】
後述する実施例においては、一例として、構成モル比がグルコース:フルクトース:マンノース=6.5:88.1:5.4である多糖類が示されている。
【0012】
また、本発明の新規多糖類は、さらに、下記(iv)の特徴を有することも好ましい。(iv)ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて測定した分子量が、1×104~1×106である。これにより、本発明の多糖類として好ましい分子量が選択される。
【0013】
また、本発明の新規多糖類は、上述した特性(iv)における分子量が、7×106~8×106であることも好ましい。これにより、本発明の多糖類としてさらに好ましい分子量が選択される。
【0014】
また、本発明の新規多糖類は、さらに、下記の特徴を有することも好ましい。分子量分布(Mw/Mn)が、1.7~1.8である。これにより、本発明の多糖類として好ましい分子量分布が選択され、分子量分布が狭く、高純度の多糖類が得られる。
【0015】
後述する実施例においては、一例として、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて測定された分子量が7.428×106であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.774の多糖類が示されている。
【0016】
本発明に係る新規多糖類「Cycarney」は、イナゴマメの莢果から分離、精製することにより得ることができる。
【0017】
本発明に係る新規多糖類「Cycarney」は、脂質代謝異常の改善作用、耐糖能異常の改善作用、腸蠕動運動の亢進作用及び血圧降下作用を併せて備えている。そのため、メタボリックシンドロームの危険因子である高血圧、高血糖及び脂質代謝異常を統合的に予防、改善若しくは治療できるため、統合的なメタボリックシンドロームの予防、改善若しくは治療剤として用いることができる。
【0018】
本発明に係る新規多糖類「Cycarney」は、後述する実施例4で示すように、血中の総コレステロール及び中性脂肪の値を低下させる作用を有しており、それゆえ、脂質代謝異常、高脂血症及び動脈硬化の予防、改善若しくは治療剤として用いることができる。
【0019】
本発明に係る新規多糖類「Cycarney」は、後述する実施例5で示すように、食後の血糖値の上昇(耐糖能異常)を抑制する作用を有しており、それゆえ、糖尿病及びインスリン抵抗性の予防、改善若しくは治療剤として用いることができる。
【0020】
本発明に係る新規多糖類「Cycarney」は、後述する実施例6で示すように、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用を有しており、それゆえ、高血圧症の予防、改善若しくは治療剤として用いることができる。
【0021】
本発明に係る新規多糖類「Cycarney」は、後述する実施例7で示すように、腸蠕動運動の亢進作用を有する。それゆえ、便秘症の予防、改善若しくは治療剤として用いることができる。
【0022】
本発明の医薬組成物は、上述した本発明に係る新規多糖類「Cycarney」を有効成分として含有するものであり、ヒト又は動物のための医薬品として用いることができ、脂質代謝異常、高脂血症、動脈硬化、糖尿病、インスリン抵抗性、高血圧症、便秘及びメタボリックシンドロームからなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防、改善若しくは治療に用いられる。
【0023】
本発明の飲食品組成物は、上述した本発明に係る新規多糖類「Cycarney」を含有するものであり、ヒト又は動物のための食品及び医薬部外品として用いることができ、脂質代謝異常、高脂血症、動脈硬化、糖尿病、インスリン抵抗性、高血圧症、便秘及びメタボリックシンドロームからなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防、改善若しくは治療に用いられる。また、飲食品組成物には、サプリメント、健康食品、機能性食品、特定保健用食品及び栄養補助食品等が含まれる。
【0024】
本発明の新規多糖類「Cycarney」を含む組成物を医薬品として用いる場合には、従来慣用されている方法により種々の形態に調製することができる。この場合、通常製剤用の薬理学的に許容される担体や賦形剤、滑沢剤、分散剤、崩壊剤、緩衝剤、溶剤、増量剤、保存剤、香料又は安定化剤など、医薬品の添加剤として許容されている添加剤を用いて製剤化することができる。さらに、この多糖類のバイオアベイラビリティーや安定性を向上させるために、マイクロカプセル、リポソーム製剤、微粉末化又はシクロデキストリン等を用いた包接化などの製剤技術を含むドラッグデリバリーシステムを用いることもできる。また、経口投与製剤として用いる場合には、錠剤、顆粒剤、カプセル剤又は内服用液剤等の形態で用いることができるが、消化管からの吸収に適した形態で用いることが好ましい。また、流通性や保存性などの理由から固形製剤を使用時に適当な溶剤で溶解してから用いる形態とすることもでき、液剤および半固形剤の形態で提供することも従来の製剤技術により可能である。
【0025】
さらに、本発明の新規多糖類「Cycarney」を含む飲食品組成物は、錠剤やカプセル剤、顆粒剤、シロップ剤などのサプリメント形態、清涼飲料、果汁飲料、アルコール飲料などの飲料、キャンディー、ガム、タブレット菓子、クッキー、ビスケット、チョコレート等の菓子、パン、粥、シリアル、麺類、スナックバー、ゼリー、スープ、乳製品、シロップ、甘味料や香辛料等を含む調味料等のあらゆる形態とすることができる。このように飲食品組成物として用いる際には、本発明の有効成分の効能に影響を与えない範囲において、他の有効成分や、ビタミン、ミネラル若しくはアミノ酸等の栄養素等を種々組み合わせることも可能である。また、動物用の食品組成物(飼料、ペットフード;ドライタイプ、ウェットタイプ、動物用サプリメント、動物用飲料等)として用いることも可能である。
【0026】
上述した医薬品組成物又は飲食品組成物における、本発明の新規多糖類「Cycarney」としての投与量又は有効摂取量は、目標とする治療効果、投与方法、投与対象及び剤形によって変化するため、特に限定されないが、一日の経口投与量としては、有効成分として約10mg/kg体重~約2000mg/kg体重であり、好ましくは、約50mg/kg体重~約1000mg/kg体重であり、これを1~3回に分割して投与することが好ましい。
【0027】
本発明の別の態様によれば、さらに、下記のようなイナゴマメ多糖類の製造方法が提供され、当該製造方法によれば、本発明に記載のイナゴマメ多糖類を製造することができ、その純度は95%以上に達することができる。
【0028】
<イナゴマメ莢果の前処理>
本発明の新規多糖類「Cycarney」のイナゴマメからの分離方法について詳細に説明する。まず、イナゴマメの莢果から抽出液を得る。本発明におけるイナゴマメの莢果の抽出液とは、イナゴマメの莢果に抽出溶媒として水を加え、抽出処理を施すことによって得られた抽出液をいう。イナゴマメの莢果とは、イナゴマメの莢付果実の莢と果肉のことを意味し、莢又は果肉のいずれか一方を抽出材料として用いることも可能であるが、莢及び果肉を用いることがより好ましい。抽出処理は、採取された状態、すなわち、生の状態のイナゴマメ莢果、又は乾燥状態のイナゴマメ莢果に対して行われるが、抽出効率の向上を図るため、又は取り扱いを容易とするために種々の前処理が施されたイナゴマメ莢果に対して抽出処理を施すことも可能である。前処理としては、特に限定されないが、乾燥処理、破砕処理、粉砕処理及び/又は脱脂処理等が挙げられ、これらの前処理が施されたイナゴマメの莢果に抽出処理を施して抽出物を得てもよい。このうち、粉砕処理としては、イナゴマメの莢果の細胞構造を壊して細胞内物質の溶出を高めると共に抽出溶媒である水との接触面積を増やして抽出効率を向上させる観点から、イナゴマメの莢果を70~300メッシュの粉末に粉砕することが好ましい。また、脱脂処理としては、一例として、イナゴマメの莢果を2~5倍重量の90~95%エタノールに浸漬させた後、イナゴマメの莢果を回収することにより行われる。
【0029】
<イナゴマメ莢果の水抽出処理>
抽出処理としては、イナゴマメの莢果に抽出溶媒である水を加えて浸漬させ、抽出を行う。例えば、イナゴマメ莢果を含水率10%未満の乾燥微粉末とした場合には、植物体1重量部に対し、抽出溶媒である水を2~5重量部用いて抽出することが好ましく、2~4重量部用いることがより好ましく、2~3重量部用いることがさらに好ましい。また、抽出方法としては、室温での抽出、加温抽出、加圧加熱抽出等のいずれの方法でも行うことが可能であるが、抽出温度を40~50℃とした加温抽出が好ましく、特に45℃で抽出することが好ましい。抽出温度を40~50度、特に45℃とすることにより、イナゴマメの莢果から本発明の多糖類の抽出が効率的に行われる。また、回収率を向上させるため、抽出処理は複数回行うことが好ましく、2~5回行うことが好ましい。抽出時間は、抽出方法、抽出材料の状態又は抽出温度等に応じて種々設定されるが、1回の抽出時間として1~5時間程度とすることが好ましく、1.5~3時間程度とすることがより好ましい。上述した抽出処理後、残渣を遠心分離、デカンテーション又はろ過等により取り除くことによりイナゴマメの莢果の抽出液が得られる。得られた抽出液は、減圧蒸留等の処理を施すことにより、濃縮液とすることも可能である。なお、抽出溶媒には水を用いるが、本発明の多糖類の抽出を妨げない範囲において、他の成分を含有させることも可能である。
【0030】
<多糖類の沈殿生成>
上述のようにして得られたイナゴマメの莢果の抽出液に対し、エタノール等のアルコールを添加することにより、本発明に係る新規多糖類を含有する沈殿が得られる。エタノールは、液中に不溶性の沈殿が生じる程度の量及び濃度で添加されればよいが、効率よく沈殿形成を促す観点から、具体的には、抽出液又は濃縮液と、エタノールからなる混合液中のエタノールの最終濃度が40重量%~80重量%となるように添加することが好ましく、エタノールの最終濃度が40重量%~60重量%となるように添加することが好ましく、40重量%~50重量%となるように添加することが特に好ましい。生成した沈殿は遠心分離処理等によって集められ、回収される。
【0031】
<タンパク質除去>
上述のようにして得られた沈殿には、本発明に係る新規多糖類以外に、イナゴマメの莢果に元来含まれるタンパク質等の不要な成分も存在するため、これら不要な成分を除去することを目的として、さらなる分離精製操作を行ってもよい。具体的には、タンパク質除去を目的として、得られた沈殿の水分散液にクロロホルムとn-ブタノールの混合液からなるSevage試薬(クロロホルム:n-ブタノール=4:1)を、水分散液:Sevage試薬=4:1の割合(体積比)で加えて混合し、数十分振とうした後に静置して成層分離し、上層側の有機相を除去することが行われる。このSevage試薬による脱タンパク処理は、複数回行うことが好ましく、2~10回程度行うことがより好ましく、4~7回程度行うことが特に好ましい。水相を回収することにより、本発明の新規多糖類「Cycarney」を含む画分が回収される。
【0032】
<分離精製>
また、上述のようにして得られた沈殿や上述した脱タンパク処理後の回収物には、本発明に係る新規多糖類以外に、イナゴマメの莢果由来の天然色素等の不要な成分が存在する。そのため、これら不要な成分を除去すると共に目的物質たる新規多糖類の純度を向上させることを目的として、さらなる分離精製操作を行ってもよい。特に限定されないが、具体的には、得られた沈殿又は上述した脱タンパク処理物の水分散液をマクロポーラス吸着樹脂に通し、溶出画分を回収した後、この回収画分をDEAE-セルロースカラムに供して蒸留水で溶出させた後、この溶出画分をゲルろ過クロマトグラフィーに供して脱イオン水で溶出させ、同じ分子量の溶出ピークを有する画分を回収することにより、本発明に係る新規多糖類が単離される。各種クロマトグラフィーに用いられる担体等は、各種クロマトグラフィーに対応して適宣選択することができる。これらの分離精製操作により、分子量分布(Mw/Mn)の幅が狭く、高純度の新規多糖類「Cycarney」を得ることができる。
【0033】
なお、上述のようにしてイナゴマメの莢果から分離、精製された本発明の多糖類は、完全な純物質として単離されていなくてもよく、イナゴマメ原料由来の他の成分が一部含まれていてもよい。
【0034】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する新規多糖類、並びにこれを含有する脂質代謝異常、高脂血症、動脈硬化、糖尿病、インスリン抵抗性、高血圧症、便秘及びメタボリックシンドロームからなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防、改善若しくは治療用の医薬組成物又は飲食品組成物を提供することができる。
【0035】
(1)血中の総コレステロール及び中性脂肪の値を低下させ、脂質代謝異常を改善することができる。
(2)食後の血糖値の上昇を抑制し、耐糖能異常を改善することができる。
(3)腸の蠕動運動を亢進させ、便秘状態を改善することができる。
(4)アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用による血圧降下作用を有し、高血圧を改善することができる。
(5)メタボリックシンドロームを統合的に改善することができる。
(6)古来から食用とされているイナゴマメの莢果由来物を有効成分とするものであるため、人体に対する安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】実施例3における本発明の多糖類の分子量分布を示すGPCクロマトグラムである。
【
図2】実施例3における本発明の多糖類の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図3】実施例3における本発明の多糖類の構成糖分析におけるGC-MSトータルイオンカレント(TIC)クロマトグラムである。
【
図4】実施例3における本発明の多糖類の構成糖-グルコースの同定に用いられたスペクトルデータである。
【
図5】実施例3における本発明の多糖類の構成糖-フルクトースの同定に用いられたスペクトルデータである。
【
図6】実施例3における本発明の多糖類の構成糖-マンノースの同定に用いられたスペクトルデータである。
【
図7】実施例3における本発明の多糖類のメチル化分析におけるGC-MSトータルイオンカレント(TIC)クロマトグラムである。
【
図8】実施例5のグルコース負荷テストにおけるラットの血糖値を示すグラフである。
【
図9】実施例6における本発明の多糖類のACE阻害率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
実施例により本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0038】
本発明で用いられるイナゴマメとは、学名をCeratonia siliquaといい、マメ科ジャケツイバラ亜科イナゴマメ属の植物である。地中海沿岸地方を原産とする植物であるが、本発明においては、産地や栽培環境は特に限定されず、あらゆる産地及び栽培環境のイナゴマメを用いることができる。
【0039】
実施例1 イナゴマメ莢果の水抽出物の調製
採取後、乾燥処理されたイナゴマメ(Ceratonia siliqua)の莢付果実から種を取り除いた。このイナゴマメの莢果8kgを粉砕機で粉砕して80メッシュの微粉末状の破砕物を得た。この微粉末に対し、3倍重量の95%エタノールを加えて脱脂処理を行った。脱脂処理後の微粉末を乾燥させた後、微粉末に脱イオン水を、微粉末:脱イオン水=1:2.3(g/mL)の割合で加え、45℃条件下で2時間抽出を行った。この抽出操作を合計で4回行い、4回分の抽出液を合わせて5000rpmで10分間、遠心分離処理を行って上清を回収した。この上清を60℃、100Paの条件下で減圧濃縮し、1200gの粘稠な濃縮抽出液を得た。
【0040】
実施例2 イナゴマメ莢果の水抽出物からの多糖類の分離及び精製
実施例1で得られた濃縮抽出液1200gに95%エタノールをゆっくりと添加し、エタノールの最終濃度が40重量%となるまでエタノールを加えた。生成した多糖類の沈殿を遠心分離処理により回収し、沈殿物を乾燥させ、イナゴマメ多糖類Cycarneyを含むイナゴマメ抽出物を得た。Cycarneyを含んだ抽出物は粗イナゴマメ多糖類、Cycarney含有量は250gである。その遠心分離後の残り部分が「Cycarney」を含まない(あるいは含有量が非常に少ない)混合物である。
【0041】
続いて、このCycarney粗抽出物250gに、20倍重量の精製水を添加して分散させた。粗抽出物中に含まれるタンパク質を除去するため、水分散液にクロロホルムとn-ブタノールの混合液からなるSevage試薬(クロロホルム:n-ブタノール=4:1)を、水分散液:Sevage試薬=4:1の割合(体積比)で加えて混合し、20分間振とうした後に静置して成層分離し、上層側の有機相を除去して水相を得た。この操作を合計で6回行い、乾燥させて、タンパク質が除去された粉末状の粗抽出物225gを得た。
【0042】
タンパク質が除去された粗抽出物225gを10倍量の水に分散させ、イオン交換樹脂(マクロポーラス吸着樹脂D101)に通してイナゴマメ莢果由来の天然色素を吸着させた。カラム容量の2倍量の蒸留水で多糖類を溶出させ、溶出画分を回収した。この溶出画分について、DEAE-セルロース(カラム充填材:DE52)を用いてカラムクロマトグラフィーを行い、カラム容量の2倍量の蒸留水で順次溶出させた。さらに、この溶出画分について、ゲルろ過クロマトグラフィー(カラム充填材:Sephadex G-100)に供し、脱イオン水で溶出させた。回収した溶出画分のうち、分子量の同じ溶出ピークを有する画分を合わせて減圧濃縮し、凍結乾燥を行った。得られた本発明のイナゴマメ莢果由来の多糖類(以下、この多糖類を「Cycarney」という。)の収量は15.3gであり、純度は95%であった。以降の実施例3~7では、本実施例で分離・精製して得られたCycarneyをサンプルとして試験を行った。
【0043】
実施例3 Cycarneyの構造解析
実施例2で得られた多糖類「Cycarney」の構造解析を行った。構造解析としては、(1)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量及び分子量分布の測定、(2)赤外吸収スペクトル分析、(3)構成糖分析及び(4)メチル化分析を行った。
【0044】
(1)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
実施例2で得られたCycarneyのサンプルを正確に10.0mg秤量し、2mg/mLの濃度の溶液とした。移動相には0.1mol/LのNaNO
3水溶液を用い、流速は0.7mL/minにてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析を行った。検出器には示差屈折計と光散乱検出器とを併用した。Cycarneyの分子量測定結果を
図1に示す。
図1の横軸は溶出体積を、縦軸は屈折率を示している。分析の結果、平均分子量は7.428×10
6であった。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)の値は1.774と小さく、実施例2でイナゴマメ莢果から分離、精製されたCycarneyは分子量のバラツキが少なく、純度が高いことが示された。
【0045】
(2)赤外吸収スペクトル分析
実施例2で得られたCycarneyのサンプルを5mg秤量し、適量の乾燥臭化カリウム(KBr)と一緒に粉砕して均質なタブレットを作製した。これを試料として、FTIR分光分析法にて4000cm
-1~400cm
-1の範囲の赤外吸収スペクトルを得た。
図2に得られた赤外吸収スペクトルを示す。
図2の横軸は波数を、縦軸は透過率(%)を示している。
図2によれば、-OHの伸縮振動を表す3424cm
-1のピーク、-CH
3の伸縮振動を表す2937cm
-1のピークが観察され、C-O伸縮振動を表す1010cm
-1にも強い吸収ピークが観察された。
【0046】
(3)構成糖分析
実施例2で得られたCycarneyのサンプルを5.5mg秤量してチューブに入れ、2mol/Lのトリフルオロ酢酸(TFA)を1mL加えた後、チューブを窒素で密封し、110℃で120分間加熱してCycarneyを加水分解させた。引き続いて、加水分解後のサンプルを溶解し、90mgのNaBH
4を加えて4時間還元反応を行った。還元後のサンプルをオーブンで乾燥させ、5mLの無水酢酸を加えて、110℃でアセチル化処理を行った。アセチル化処理後のサンプルを酢酸エチルに溶解させてフィルターろ過した後、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)により、構成糖の組成分析を行った。
図3にCycarneyの構成糖分析におけるGC-MSトータルイオンカレント(TIC)クロマトグラムを示す。
図3の横軸は各出現ピークの時間を、縦軸は相対強度を示している。
【0047】
マススペクトルライブラリとの照合により分析した結果、イナゴマメ莢果由来の多糖類「Cycarney」の構成糖組成(モル比)は、グルコース:フルクトース:マンノース=6.5:88.1:5.4であった。分析結果を
図4~6に示す。
図4は、Cycarneyの構成単糖としてグルコースを同定したスペクトルを示しており、保持時間t=18.07、表中の(replib)D-Glucose,2,3,4,5,6-pentaacetateは、D-グルコース-2,3,4,5,6-ペンタアセテートを示している。
図5は、Cycarneyの構成単糖としてフルクトースを同定したスペクトルを示しており、保持時間t=19.80であり、表中の(mainlib) D-Fructose,1,3,4,5,6-pentaacetateは、D-フルクトース-1,3,4,5,6-ペンタアセテートを示す。また、
図6は、Cycarneyの構成単糖としてマンノースを同定したスペクトルを示しており、保持時間t=19.94、(replib)D-Mannitol,hexaacetateはD-マンノース ヘキサアセテートを示している。
【0048】
(4)メチル化分析
次に、Cycarneyの構成糖残基間のグリコシド結合の様式をメチル化分析によって解析した。実施例2で得られたCycarneyのサンプルを20mg秤量し、6mLのDMSOに添加した。CycarneyがDMSOに完全に溶解するまで、マグネチックスターラーを用い、40℃で15時間攪拌した。メチル化処理を行ってCycarneyの糖鎖に存在する水酸基を完全にメチル化させた後、上述した(3)構成糖分析と同一の手順によって、加水分解処理を行い、引き続いてアセチル化処理を行った。一連の処理によって得た、部分メチル化・アセチル化物について、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)により分析を行った。
図7にCycarneyのメチル化分析におけるGC-MSトータルイオンカレント(TIC)クロマトグラムを示す。
図7の横軸は各出現ピークの時間を、縦軸は相対強度を示している。分析結果を表1に示す。表1におけるGlcはグルコース、Fruはフルクトース、Manはマンノースを表している。
【0049】
【0050】
イオンフラグメンテーションパターンを解析した結果、Cycarneyのグリコシド結合の様式は、1→4結合グルコース、1→結合フルクトース(非還元末端フルクトース)、1→6結合フルクトース、1→3,6結合マンノースであり、多糖類の末端は主にフルクトースで構成されていることが明らかとなった。
【0051】
上述の構造解析の結果より、本発明に係るイナゴマメ莢果由来の多糖類「Cycarney」はグルコース6.5%、フルクトース88.1%、マンノース5.4%で構成されており、平均分子量は7.428×106であること、末端が全てフルクトースの分岐型多糖類であり、すべての分岐点はマンノースの位置にあることがわかった。下記式にCycarneyの多糖フラグメントを示す。グルコース(Glc)65個、フルクトース(Fru)881個及びマンノース(Man)54個からなるCycarneyの多糖フラグメントの分子量は162177となるので、この多糖類には約2473もの分岐があり(7428000÷162177×54)、平均すると、各分岐はマンノース1に対しグルコース1.2を有しており、残りはフルクトースから構成される。
【0052】
【0053】
上式中のx、y、z、o、p及びqは単糖類の数を表しており、0又は正の整数である。また、式中のR1とR2は他分岐の末端位のフルクトースまたはマンノースを示し、式中のR3は他分岐のフルクトースを示している(R3が他分岐のマンノースである確率は非常に低いと推察される)。フラグメント全体の平均分子量は162177である。
【0054】
実施例4 Cycarneyの血中脂質に対する作用の検討
実施例2で得たCycarneyを用いて、高血糖及び高脂肪モデルラットにCycarneyを投与したときの血中脂質に与える影響を調べた。
【0055】
体重180~220gの成熟した雄のSDラット(供給源:北京維通利華実験動物有限公司)を温度が23±2℃、相対湿度が50%~60%、照明が12時間周期の環境条件下にて1週間馴化飼育した。馴化飼育時には標準飼料を供し、飼料は自由摂取とし、飲水も吸水瓶からの自由飲水とした。1週間予備飼育後、実験に供した。アロキサン誘導剤を腹腔内注射する、同時に、糖尿病性脂質障害を誘発するために、糖尿病動物に高脂肪食(標準食に基づいて0.2%コレステロールと15%ラードを追加)を与え、自由に摂取させ、毎日可溶性ラード10-20ml/kgを定量に投与する。
【0056】
本実験はSDラット6匹ずつ、次のように7対照群に分けた。群1、蒸留水を投与した正常対照群。群2、蒸留水を投与した高血糖・高脂血症モデルコントロール群。群3-5、イナゴマメ多糖類Cycarney(イナゴマメ多糖類Cycarney含有量20%の40%エタノールで抽出したエキス)の低用量群(0.1g/kg)、中用量群(0.2g/kg)、高用量群(0.4g/kg)の投与群。群6、シンバスタチン4mg/kgを投与した陽性対照群。群7、イナゴマメ多糖類Cycarneyを含まないの40%エタノールで抽出したエキス0.4g/kg投与した溶媒対照群。各群に対して連続21日間経口投与し、眼窩静脈から叢採血した。試薬キットを用いてTC、TGを測定し、各群のSDラットの血清TC、TG値を測定したところ、結果を表2に示した。
【0057】
【0058】
表2によれば、Cycarneyは用量依存的に血清中のTC(総コレステロール)及びTG(中性脂肪)を低下させる作用を有している。また、イナゴマメ多糖類CycarneyのTC、TGに対する効果は、高用量群ではモデルコントロール群と比較して有意差が認められた。陽性群と比較して有意な差も示していた。イナゴマメ多糖類CycarneyのTC、TGに対する効果は、陽性(PC)群とほぼ等しかった。溶媒対照群とモデルコントロール群の間に有意差が認められなかったことと合わせ、イナゴマメ多糖類CycarneyはTCとTGを低下させる効果があると判断した。これらのことから、Cycarneyが高血糖・高脂肪モデル群の脂質代謝異常を改善する効果を有することが示された。
【0059】
実施例5 Cycarneyの血糖値上昇抑制作用の検討
実施例2で得たCycarneyを用いて、高血糖及び高脂肪モデルラットにCycarneyを投与したときの血糖値に与える影響をグルコース負荷テストにより調べた。
【0060】
体重180~220gの成熟した雄のSDラット(供給源:北京維通利華実験動物有限公司)を温度が23±2℃、相対湿度が50%~60%、照明が12時間周期の環境条件下にて1週間馴化飼育した。馴化飼育時には標準飼料を供し、飼料は自由摂取とし、飲水も吸水瓶からの自由飲水とした。1週間予備飼育後、実験に供した。アロキサン誘導剤を腹腔内注射する、同時に、糖尿病性脂質障害を誘発するために、糖尿病動物に高脂肪食(標準食に基づいて0.2%コレステロールと15%ラードを追加)を与え、自由に摂取させ、毎日可溶性ラード10-20ml/kgを定量に投与する。
【0061】
本実験はSDラット6匹ずつ、次のように8群に分けた。群1、蒸留水を投与した正常対照群。群2、イナゴマメ多糖類Cycarneyの中用量(0.2g/kg)を投与した正常対照群。群3、蒸留水を投与した高血糖・高脂血症モデルコントロール群。群4-6、イナゴマメ多糖類Cycarney(イナゴマメ多糖類Cycarney含有量20%の40%エタノールで抽出したエキス)の低用量群(0.1g/kg)、中用量群(0.2g/kg)、高用量群(0.4g/kg)の投与群。群7、メトホルミン200mg/kgを投与した陽性対照群。群8、イナゴマメ多糖類Cycarneyを含まないの40%エタノールで抽出したエキス、0.4g/kg投与した溶媒対照群。1日1回21日間続けます。
【0062】
動物は一晩断食した後、各グループに対応する薬を胃に充填する。30分後グルコース2gを与え、抗凝固採血サンプルなし時間帯0,0.5,1.0,1.5、2.0と2.5h目縁の静脉から遠心分離を収集します(3500 rpm・min-1,4℃条件下で回転速度を遠心分離10min、血清を分離します)後血糖値を検出します。結果を
図8のグラフに示す。
【0063】
図8によれば、モデル群は正常対照群に比べ、耐糖能異常が認められた。モデル群と比較して、イナゴマメ多糖類Cycarney投与群は0.5hと1.0hの血糖値上昇を抑制し、陽性対照群は0.5h、1.0h、1.5h、2.0h、2.5hの血糖値上昇を抑制した。イナゴマメ多糖類Cycarneyを投与した正常群では、効果は認められなかった。また、イナゴマメ多糖類Cycarney中用量群、高用量群、陽性対照群の間にも効果の有意差は認められなかった。溶媒対照群とモデルコントロール群との間にも有意差はなかった。これらのことから、Cycarneyが高血糖・高脂肪モデル群の耐糖能異常を改善する効果を有することが示された。
【0064】
実施例6 Cycarneyのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用の検討
実施例2で得たCycarneyを用いて、Cycarneyのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用を調べた。まず、基質溶液として、0.3mol/LのNaClを含む0.1mol/Lホウ酸緩衝液(pH8.3)を用いて、Hippuryl-His-Leu(HHL)の5mmol/L溶液を調製した。サンプル濃度は、それぞれ低用量群(0.1mg / mL)、中用量群(0.2mg / mL)、高用量群(0.4mg / mL)のイナゴマメ多糖類Cycarneyであり、イナゴマメ多糖類を含まないCycarneyを採取しました。エタノール沈殿物の分離中、投与量は0.4g/kgでした。実施例2で得たCycarneyを適宜蒸留水に溶解し、希釈して複数の濃度の試料溶液、その中サンプル濃度は、それぞれ低用量群であった(0.1g/kg)、中用量群(0.2g/kg)と高用量群(0.4g/kg)角豆多糖類Cycarney(40%エタノール部位濃縮ディップペーストを採用、その中多糖類含量は20%)を調整した。
【0065】
5.0mmol/LのHHL溶液80μLと試料溶液20μLを1.5mL容量のチューブに加えて混合し、37℃で5分間予備加熱した。予備加熱処理後のチューブに、ACE溶液(0.1U/mL)を20μL勢いよく加え、直ちにボルテックスミキサーを用いて撹拌混合し、37℃で30分間反応させた。30分後、1.0mol/Lの塩酸溶液200μLを添加して混合撹拌し、酵素を失活させて反応を終了させた。反応収量後の溶液について、HPLC分析を行い、遊離した馬尿酸を測定した。HPLC条件は、以下の通りであった。
【0066】
<液体クロマトグラフィー条件>
・HPLC使用カラム:C18カラム(150mm×4.6mm)
・カラム温度:30℃
・移動相:アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸溶液(50:50:0.05,v/v)
・流速:0.4mL/min
・検出波長:228nm
・注入量:10μL
【0067】
また、ブランク対照として、試料溶液の代わりに同量のホウ酸緩衝液を用い、試験を行った。HPLCによる馬尿酸ピーク面積に基づき、「ACE阻害率(%)=(B-A)/B×100」の式によりACE阻害率(%)を求めた。ここで、「A」は試料溶液を添加して反応を行ったときの馬尿酸ピーク面積、「B」はブランク対照(試料溶液の替わりにホウ酸緩衝液を用いた)の馬尿酸ピーク面積である。結果を
図9のグラフに示す。
【0068】
図9によれば、Cycarney投与群のACE阻害活性は、ブランク対照群と比較して有意に高いことが明らかとなった(P<0.01)、対照群とブランク対照群の間に有意差はなく。これらのことから、Cycarneyが優れたアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有すること、そして、このACE阻害作用に基づく高血圧の改善効果を有することが示された。
【0069】
実施例7 Cycarneyの腸蠕動運動改善作用の検討
実施例2で得たCycarneyを用いて、高血糖及び高脂肪モデルラットにCycarneyを投与したときの腸蠕動運動に与える影響を調べた。
【0070】
実施例4実験動物とグループ分けの方法は、血中脂質と血糖の異常代謝の影響に関する上記の実験と同じで、各グループのラットは水を飲んで正常に食べました。各グループのラットには1 mL/100が与えられました。BWインク1g(アラビアゴム100g、水800mLを加え、溶液が透明になるまで煮沸し、活性化炭素を秤量した)上記の溶液に50gを加え、3回煮沸した。冷却し、水を加えて容量を1000mLにした)強制経口投与。25分後、エーテル麻酔下にてラットを安楽死させた。各個体の腹腔を開いて腸間膜を分離し、幽門部から回腸部までの腸管を切断した。回収した腸管をトレーに載せて直線状にし、腸管の長さを「小腸の全長」、幽門部からエバンスブルーのインク端までの長さを「インク進入距離」として測定した。これらの測定値に基づき、「インク進入率(%)={インク進入距離(mm)/小腸の全長(mm)}×100」の式により、インク進入率(%)を求めた。結果を下記表5に示す。
【0071】
表5に示すように、対照群、高血糖・高脂肪モデル群と陽性対照物質投与群は、インク進入率の値が20%代と小さく、この値は正常対照群と比較して有意差があることから、高血糖・高脂肪モデル群と陽性対照物質投与群のラットの腸の蠕動運動は鈍化していることが明らかとなった。また、高血糖・高脂肪モデル群と陽性対照物質投与群のラットは、排便状況からも便秘が観察されていた。他方、Cycarneyの中用量投与群及び高用量投与群は、インク進入率の値が35%を超えており、この値は正常対照群との有意差がなく、高血糖・高脂肪モデル群及び陽性対照物質投与群との有意差はあることがわかった。これらのことから、Cycarneyが高血糖・高脂肪モデル群の腸の蠕動運動の鈍化を改善する効果を有し、Cycarneyの投与によって便秘が改善され、正常対照群の腸の状態にまで回復され得ることが示された。
【0072】
【0073】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の新規多糖類は、脂質代謝異常、高脂血症、動脈硬化、糖尿病、インスリン抵抗性、高血圧症、便秘又はメタボリックシンドロームの予防、改善若しくは治療剤として使用され、医療及び食品(機能性食品・健康食品を含む)の分野において幅広く利用されるものである。
【要約】
【課題】イナゴマメの莢果由来の新規な活性成分及びその用途を提供すること。
【解決手段】本発明は、下記(i)~(iii)の特徴を有する新規多糖類である。
(i)水に可溶。エタノールに不溶。(ii)構成単糖が、実質的にグルコース、フルクトース及びマンノースの3種からなり、その構成モル比が、グルコース:フルクトース:マンノース=1~10:10~100:1~10である。(iii)構成単糖の結合様式が、下記(a)~(d)の組み合わせからなる。
(a)(1→4)結合グルコース (b)(1→)結合フルクトース (c)(1→6)結合フルクトース (d)(1→3)及び(1→6)結合マンノース
【選択図】なし