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  • 特許-膜厚センサ素子 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】膜厚センサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01B 17/02 20060101AFI20230828BHJP
【FI】
G01B17/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019054225
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020153887
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(73)【特許権者】
【識別番号】519250327
【氏名又は名称】株式会社XMAT
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】大橋 雄二
(72)【発明者】
【氏名】吉川 彰
(72)【発明者】
【氏名】面 政也
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-250926(JP,A)
【文献】国際公開第2017/078135(WO,A1)
【文献】特開2017-019681(JP,A)
【文献】特開2014-011650(JP,A)
【文献】特開2011-174940(JP,A)
【文献】特開2018-059201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と、前記振動子の中央部に前記振動子を挾んで互いに向かい合って形成された第1電極および第2電極とを備え、前記振動子に堆積した薄膜の厚さを測定するための膜厚センサ素子であって、
前記振動子は、Ca3Ta1+aGa3+bSi2+c14(a=1.03,b=-0.05,c=0.08)の単結晶から構成され、
前記単結晶は、X軸を回転軸としてXZ平面からの回転角をθとし、薄膜の厚さを測定する雰囲気の温度をTとしたとき、0.00008T2+0.00855T+20.97064=θとされている
ことを特徴とする膜厚センサ素子。
【請求項2】
請求項1記載の膜厚センサ素子において、
前記第1電極および前記第2電極は、平面視で、長軸の方向が前記単結晶のX軸に沿った楕円形とされている
ことを特徴とする膜厚センサ素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の膜厚センサ素子において、
前記振動子の表面を覆って形成された酸化アルミニウムからなる保護膜をさらに備える
ことを特徴とする膜厚センサ素子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の膜厚センサ素子において、
前記振動子の板厚は、周辺部より中心部の方が厚くされている
ことを特徴とする膜厚センサ素子。
【請求項5】
請求項4記載の膜厚センサ素子において、
前記振動子の板厚は、周辺部から中心部にかけて徐々に厚くなることを特徴とする膜厚センサ素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の膜厚センサ素子において、
前記振動子は、平面視円形の板状とされていることを特徴とする膜厚センサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚センサ素子に関し、より詳しくは、圧電振動子を用いた膜厚センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造においては、半導体層や絶縁層などを様々な気相成長法により形成している。例えば、200~300℃程度の温度で良質な薄膜がより均質な状態で形成可能であるなどの種々の特徴を備える気相成長法として、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法がある。原子層堆積法は、形成対象の膜を構成する各元素の原料を基板に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する技術である。原子層堆積法では、各元素の原料を供給している間に1層あるいはn層(nは2以上の整数)だけを表面に吸着させ、余分な原料は成長に寄与させないようにしている。原子層堆積法は、一般的なCVD(chemical vapor deposition)法と同様に高い形状適応性と膜厚制御性を併せ持っている。
【0003】
集積度を向上するために素子を3次元的な構造とする半導体デバイスが開発され、また、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)などの複雑な構造のデバイスも開発されている。これらのデバイスの製造では、複雑な形状に均質に薄膜を形成する必要があり、上述した特徴を有する原子層堆積法が多用されるようになっている。
【0004】
一方、気相成長法で薄膜を形成する装置では、nm単位の厚さの薄膜を形成するため、形成されている薄膜の厚さを測定することが重要となる。この種の膜厚測定では、水晶振動子からなる膜厚センサを用いた膜厚モニタが用いられている。この膜厚モニタは、膜厚センサに堆積した薄膜の質量の増加によって、膜厚センサを構成する水晶振動子の固有振動数が減少することを利用して、堆積した薄膜の厚さを測定している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平04-223211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水晶振動子からなる膜厚センサでは、測定環境の温度が300℃以上の高温となると、水晶の相転移などの影響により圧電性能が劣化し、正確な膜厚の測定ができなくなるという問題がある。また、水晶振動子からなる膜厚センサでは、測定環境の温度が変化すると、共振周波数が変化し、膜厚測定の精度が低下するという問題もある。また、水晶振動子からなる膜厚センサでは、膜厚の変化と固有振動数の変化との間の直線性に問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、300℃以上の高温でもより正確に膜厚が測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る膜厚センサ素子は、振動子と、振動子の中央部に振動子を挾んで互いに向かい合って形成された第1電極および第2電極とを備え、振動子に堆積した薄膜の厚さを測定するための膜厚センサ素子であって、振動子は、Ca3Ta1+a(Ga1-dAld3+bSi2+c14(a=1.03,b=-0.05,c=0.08)の単結晶から構成され、単結晶は、X軸を回転軸としてXZ平面からの回転角をθとし、薄膜の厚さを測定する雰囲気の温度をTとしたとき、0.00008T2+0.00855T+20.97064=θとされている。
【0009】
上記膜厚センサ素子の一構成例において、第1電極および第2電極は、平面視で、長軸の方向が単結晶のX軸に沿った楕円形とされている。
【0010】
上記膜厚センサ素子の一構成例において、振動子の表面を覆って形成された酸化アルミニウムからなる保護膜をさらに備える。
【0011】
上記膜厚センサ素子の一構成例において、振動子の板厚は、周辺部より中心部の方が厚くなる。
【0012】
上記膜厚センサ素子の一構成例において、振動子の板厚は、周辺部から中心部にかけて徐々に厚くなる。
【0013】
上記膜厚センサ素子の一構成例において、振動子は、平面視円形の板状とされている。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したことにより、本発明によれば、300℃以上の高温でもより正確に膜厚が測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A図1Aは、本発明の実施の形態に係る膜厚センサ素子の構成を示す平面図である。
図1B図1Bは、本発明の実施の形態に係る膜厚センサ素子の構成を示す平面図である。
図1C図1Cは、本発明の実施の形態に係る膜厚センサ素子の構成を示す断面図である。
図1D図1Dは、本発明の実施の形態に係る他の膜厚センサ素子の構成を示す平面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る膜厚センサ素子の振動子101の構成を示す斜視図である。
図3図3は、振動子101のカット角と頂点温度との関係を示す特性図である。
図4図4は、原子層堆積法による酸化アルミニウム膜の成膜において、成膜室内に配置している膜厚センサ素子の共振周波数の変化を示す特性図である。
図5図5は、原子層堆積法による酸化アルミニウム膜の成膜において、成膜室内に配置している、保護膜を形成した膜厚センサ素子の共振周波数の変化を示す特性図である。
図6図6は、頂点温度が285℃となるカット角で作製した水晶から構成した膜厚センサ素子の周波数温度依存性(実線)と、上述した実施の形態の膜厚センサ素子の周波数温度依存性(点線)とを比較した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る膜厚センサ素子について図1A図1B図1C図1D図2を参照して説明する。なお、図1Cは、図1Aのaa’線の断面を示している。
【0017】
この膜厚センサ素子は、振動子101と、振動子101の中央部に振動子101を挾んで互いに向かい合って形成された第1電極102および第2電極103とを備える。この膜厚センサ素子は、振動子101に堆積した薄膜の厚さを測定するために用いられる。
【0018】
振動子101は、Ca3Ta1+a(Ga1-dAld3+bSi2+c14(-0.5<a≦0または0<a<0.5、-0.5<b≦0または0<b<0.5、-0.5<c≦0または0<c<0.5、0≦d<1、ただしa=b=c=0の場合を除く)の単結晶から構成されている。また、振動子101は、例えば、平面視円形の板状とされている。
【0019】
また、図2に示すように、振動子101を構成する単結晶は、X軸を回転軸としてXZ平面からの回転角をθとし、薄膜の厚さを測定する雰囲気の温度をTとしたとき、0.00008T2+0.00855T+20.97064=θとされている。なお、XY面がCa3Ta1+a(Ga1-dAld3+bSi2+c14単結晶の(001)面、YZ面がCa3Ta1+a(Ga1-dAld3+bSi2+c14単結晶の(110)面、XZ面がCa3Ta1+a(Ga1-dAld3+bSi2+c14単結晶(0<x≦1)の(100)面である。θは、IEC(International Electrotechnical Commission)の定義による。この定義において、例えば水晶ATカットの角度θは、31°15’となる。
【0020】
振動子101は、例えばチョクラルスキー法により得られたCa3Ta1+a(Ga1-dAld3+bSi2+c14単結晶のインゴットより、ワイヤーソーで板状に切り出し、所望とする厚さとなるまで両面を研磨することにより得られる。
【0021】
第1電極102には、第1配線104が接続している。また、第1電極102は、第1配線104を介して第1端子105が接続している。また、第2電極103には、第2配線106が接続している。また、第2電極103には、第2配線106を介して第2端子107が接続している。第1電極102および第2電極103以外の、配線および端子の各々は、振動子101を挾んで互いに向かい合うことがないように配置されている。例えば、図1Dに示すように、平面視で、第1端子105、第1配線104に重ならない範囲で、より広い面積の第2配線106aを形成することもできる。
【0022】
この膜厚センサ素子は、第1端子105および第2端子107の各々に、信号(励振信号)を印加する回路、および振動子101の共振周波数の変化により、堆積した薄膜の厚さを測定する測定回路などを接続して用いる。
【0023】
第1電極102、第1配線104、第1端子105は、振動子101の一方の面に、所定の金属材料を蒸着して金属膜を形成し、形成した金属膜を公知のフォトリソグラフィ技術でパターン加工することで形成できる。また、第1電極102、第1配線104、第1端子105は、公知のリフトオフ法により形成することもできる。金属膜は、例えば、金層およびクロム層の多層構造から構成することができる。クロム層が、振動子101の側に配置される。また、金属膜は、白金層およびチタン層の多層構造、白金層およびタングステン層の多層構造から構成することもできる。チタン層またはタングステン層が、振動子101の側に配置される。第2電極103、第2配線106、第2端子107も同様である。
【0024】
実施の形態における膜厚センサ素子は、例えば、所定のホルダに格納して用いられる。ホルダには、接続端子が設けられ、この接続端子と第1端子105、第2端子107とが、例えば、ワイヤあるいはバネ端子等機械的接触により電気的に接続される。また、膜厚センサ素子を格納したホルダは、成膜装置の処理室内の所定の箇所に設置される。ホルダには、開口が形成されている。この開口を介し、振動子101のいずれかの面に、成膜装置で形成する薄膜の原料ガスが接触可能とされている。所定の成膜条件とされている処理室内に供給された原料ガスが接触した振動子101の上に、成膜装置で形成する薄膜が形成される。
【0025】
一方、第1端子105、第2端子107および第1配線104、第2配線106を介し、第1電極102、第2電極103の各々に励振信号を印加すると、主に、振動子101の厚さで決定される固有振動数により共振が生じる。上述したように、振動子101の上に薄膜が形成されると、薄膜が形成されたことによる質量増加により、振動子101の共振周波数が変化する。この共振周波数の変化を捉えることで膜厚を計測することができる。
【0026】
一般に、気相成長による成膜は、成膜室内の温度を、設定されている所定の条件に制御して行われるが、このように温度制御を実施していても、成膜室内の温度は、例えば、原料ガスの導入などにより変化する。このような温度変化によっても、振動子101の共振周波数が変化するため、振動子101の雰囲気は、設定されている条件の温度に一定にしておくことが望ましい。このため、例えば、ホルダの内部に、温度測定器およびヒータを設け、温度測定器が測定する温度が、成膜条件で設定されている温度となるようにヒータによる加熱を制御することで、ホルダの内部の温度の変化を抑制することもできる。
【0027】
ここで、上述したように、この種の成膜では、成膜室内の温度を、成膜温度に制御している。一方、振動子101の共振周波数は温度によっても変化する。この変化は、一般的には、2次曲線カーブに沿ったものとなる。この温度による共振周波数の変化を抑制するため、振動子101の共振周波数温度変化が最小となる2次曲線の頂点と、成膜温度、つまり薄膜の厚さを測定する雰囲気の温度が一致するように、振動子101のX軸を回転軸としたXZ平面からの回転角(切り出しカット角)θを調整する。
【0028】
実施例を用いてより詳細に説明する。まず、チョクラルスキー法すなわち回転引き上げ法を用いて、Ca3Ta1+aGa3+bSi2+c14(a=1.03,b=-0.05,c=0.08)の単結晶を作製した。次に、カット角θを7条件設定し、各カット角の条件で振動片を形成した。また、形成した7つの振動片の各々について、研磨を行って、共振周波数がほぼ6MHzとなる板厚に加工した。また、各振動片に対し、外形加工を行い、平面視で直径14mmの円盤状の振動子を作製した。また、各振動子に対し、クロム層および金層からなる多層構造の第1電極、第2電極、第1配線、第2配線、第1端子、第2端子を形成した。クロム層および金属層は、公知の蒸着法により形成した。また、クロム層は層厚0.01μmとし、金層は、層厚0.3μmとした。
【0029】
ところで、初期の条件では、第1電極および第2電極を、平面視で円形に形成し、周波数特性を測定したところ、共振周波数付近に不要な副振動によるスプリアスが多数発生した。このため、シミュレーションを用いて最適電極形状を計算した。このシミュレーションの結果、第1電極および第2電極は、平面視で、長軸の方向が単結晶のX軸に沿った楕円形とされているとよいことが判明した。また、上述した各寸法で形成した膜厚センサ素子では、第1電極および第2電極は、長径と短径の比を1:0.56+0.1/-0.2とした楕円形とすれば良いことが分かった。これらの検討の結果を基に、第1電極および第2電極は、長径を4mm、短径を2.8mmの楕円形に形成した。
【0030】
設定したカット角の条件の各々について、周波数温度特性を測定することで、図3に示すカット角と頂点温度の関係を得た。
【0031】
次に、原子層堆積法で、成膜温度条件を365℃とて酸化アルミニウムの成膜を実施した。成膜温度条件365℃は、水晶を用いた膜厚センサ素子では膜厚測定が困難な条件である。成膜室内の、所定の基板を搬入し、成膜室を密閉状態とし、成膜室内の温度が365℃で安定するまで成膜室内を加熱したのち、基板の上に酸化アルミニウムの膜を形成した。
【0032】
まず、成膜室内にTMA(トリメチルアルミニウム)からなる原料ガスを導入し、基板の上に原料ガスを供給する。これより、基板の上に原料であるTMA分子が吸着した吸着層が形成される。
【0033】
次に、成膜室への原料ガスの導入を停止し、成膜室より原料ガスを排出する。次に、例えばオゾンガスなどの酸化ガスを成膜室の内部に導入し、オゾンガスを吸着層の表面に供給する。このオゾンガスにより、基板の表面に吸着している吸着層が酸化され、基板の表面にアルミニウム1原子層分の酸化アルミニウム層が形成された状態となる。次に、成膜室へのオゾンガスの導入を停止し、成膜室よりオゾンガスを排出する。
【0034】
次に、基板の上に前述同様に原料ガスを供給し、酸化アルミニウム層の上に新たな吸着層を形成する。次に、成膜室への原料ガスの導入を停止し、成膜室より原料ガスを排出する。次に、成膜室の内部に前述同様にオゾンガスを導入してTMA分子層(吸着層)の表面に供給する。これにより、既に形成されている酸化アルミニウム層の表面に吸着している吸着層が酸化され、酸化アルミニウム層の表面にアルミニウム1原子層分の新たな酸化アルミニウム層が形成される。
【0035】
以上説明したように、吸着→原料ガス排出→酸化→酸化ガス排出の一連の基本工程により、基板の上に、酸化アルミニウム層が形成されるようになる。このような原子層堆積による酸化アルミニウム層(酸化アルミニウム膜)の形成工程を繰り返し、所望の厚さの酸化アルミニウム膜を基板の上に形成する。
【0036】
上述した酸化アルミニウム膜の成膜において、成膜室内に配置している膜厚センサ素子の共振周波数は、図4に示すように、25原子層までは1原子層ごとの原子層の増加に対応して線形な応答を示さなかった。これに対し、30原子層以降は、原子層の増加に応じて共振周波数が線形に変化することがわかった。この変化量は、3Hz/原子層であった。上述した初期の非線形な振る舞いは、この種の成膜処理雰囲気における、振動子の酸素欠陥などによる表面状態の変化が原因と考えられる。
【0037】
上述した知見の元に、酸化アルミニウムからなる保護膜を、振動子の表面を覆って形成した膜厚センサ素子を作製した。上述した原子層成長法により、振動子の表面に30原子層以上の厚さに酸化アルミニウム膜を形成することで保護膜とした。このように、表面に保護膜を形成した振動子による実施の形態の膜厚センサ素子で、前述同様の膜厚測定を実施したところ、図5に示すように、25原子層までの上述した酸化アルミニウム膜の成膜あっても、1原子層ごとの原子層の増加に対応して線形な共振周波数の応答が得られた。
【0038】
次に、頂点温度が285℃となるカット角で作製した水晶から構成した膜厚センサ素子の周波数温度依存性(実線)と、上述した実施の形態の膜厚センサ素子の周波数温度依存性(点線)とを比較した結果を図6に示す。図6に示されているように、点線で示す実施の形態の膜厚センサ素子は、水晶から構成した膜厚センサ素子に比較して、温度変化に対する周波数変化が少ないことがわかる。すなわち、実施の形態の膜厚センサ素子は、成膜室内の温度変化などの外乱に対する影響が少ないため、高精度な膜厚測定を行うことができることがわかる。実施の形態の膜厚センサ素子は、365℃においても、温度変化±2.5℃に対して周波数変化量が1Hz以下と非常に小さかった。なお、原子層堆積では原料ガスなどの吸着・脱離がなされるため、各状態に応じて振動子の共振周波数は上下に変化する。
【0039】
上述した実施の形態は、一例に過ぎず、振動子の共振周波数は6MHzに限定されない。また、振動子は、平面視矩形に形成することもできる。また、第1電極および第2電極は、平面視楕円形に限らず、他の形状とすることもできる。保護膜は、酸化アルミニウム膜に限定されず、TiO2、TiN、AlN、HfO2などの膜から構成することもできる。
【0040】
また、振動子は、板厚を、周辺部から中心部にかけて徐々に厚くすることもできる。例えば、板状の振動子の一方の面、もしくは両方の面を、凸形状に形成することができる。このように構成することで、振動子の副振動がより抑制できるようになり好ましい。また、振動子の端部をベベル加工して断面視で傾斜を形成することで、上述同様の効果が得られる。
【0041】
以上に説明したように、本発明では、振動子は、Ca3Ta1+a(Ga1-dAld3+bSi2+c14(a=1.03,b=-0.05,c=0.08)の単結晶から構成し、この単結晶は、X軸を回転軸としてXZ平面からの回転角をθとし、薄膜の厚さを測定する雰囲気の温度をTとしたとき、0.00008T2+0.00855T+20.97064=θとされているようにした。この結果、本発明によれば、300℃以上の高温でもより正確に膜厚が測定できるようになる。
【0042】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0043】
101…振動子、102…第1電極、103…第2電極、104…第1配線、105…第1端子、106…第2配線、107…第2端子。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6