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特許7337342PEG化ホウ素クラスター化合物、およびPEG化ホウ素クラスター化合物を含む抗腫瘍剤、およびPEG化ホウ素クラスターを含む増感剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】PEG化ホウ素クラスター化合物、およびPEG化ホウ素クラスター化合物を含む抗腫瘍剤、およびPEG化ホウ素クラスターを含む増感剤
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/337 20060101AFI20230828BHJP
   A61K 31/77 20060101ALI20230828BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230828BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20230828BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20230828BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20230828BHJP
【FI】
C08G65/337
A61K31/77
A61P35/00
A61K47/60
A61K31/69
A61K41/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020538491
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019033062
(87)【国際公開番号】W WO2020040296
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2018156145
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300032112
【氏名又は名称】森田薬品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505065984
【氏名又は名称】学校法人 福山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白川 真
(72)【発明者】
【氏名】冨田 久夫
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亮太
(72)【発明者】
【氏名】堀 均
(72)【発明者】
【氏名】亀川 展幸
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/164334(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/030715(WO,A1)
【文献】KIKUCHI, Shunsuke et al.,Maleimide-functionalized closo-dodecaborate albumin conjugates (MID-AC): Unique ligation at cysteine and lysine residues enables efficient boron delivery to tumor for neutron capture therapy,Journal of Controlled Release,2016年,237,160-167,DOI:10.1016/j.jconrel.2016.07.017
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/337
A61K 31/77
A61P 35/00
A61K 47/60
A61K 31/69
A61K 41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール基を有するホウ素クラスターと、マレイミド官能基を付与した4官能基タイプのマルチアームポリエチレングリコールとが結合したことを特徴とするPEG化ホウ素クラスター化合物。
【請求項2】
チオール基を有するホウ素クラスターが、ホウ素イオンクラスターの単分子化合物ボロカプテイト(BSH)であることを特徴とする請求項1に記載のPEG化ホウ素クラスター化合物。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載のPEG化ホウ素クラスター化合物を含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項4】
請求項1または請求項に記載のPEG化ホウ素クラスター化合物を有効成分として含むことを特徴とする腫瘍の放射治療に用いる増強剤。
【請求項5】
請求項に記載の放射線治療が、中性子捕捉療法であることを特徴とする増強剤。
【請求項6】
請求項に記載の腫瘍が、 悪性脳腫瘍、悪性黒色腫、頭頚部腫瘍、肝臓がん、肺がん、中皮腫、または骨軟部肉腫であることを特徴とする増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の放射線治療に用いる増感剤およびその有効成分に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療の一つとして、原子炉や加速器から生成された中性子と、悪性腫瘍に取り込まれたホウ素(10B)との核反応により生じるα線により悪性腫瘍を治療するホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が知られている。本治療法は、その原理から正常細胞にほとんど損傷を与えず、腫瘍細胞のみを選択的に破壊することができる(非特許文献1)。
【0003】
BNCTの臨床研究で用いられているホウ素化合物としては、ボロノフェニルアラニン(BPA)および、ホウ素イオンクラスターの単分子化合物ボロカプテイト(BSH)が知られているが、腫瘍集積の観点からは治療効果は十分とはいえず、腫瘍内ホウ素濃度および腫瘍・正常組織におけるホウ素濃度比(T/N比)をさらに向上させる必要がある。このため、さらに腫瘍組織のみへ高濃度でホウ素を集積させる技術として、表面をポリエチレングリコール(PEG)で被覆したリポソームにBSHなどの親水性ホウ素化合物を封入する手法が用いられている(非特許文献2)。しかしながら、これらの方法でも有効な治療域までのホウ素集積が難しい。
【0004】
以下の式(II)
【0005】
【化1】
【0006】
[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1~4の整数であり、qは、1~280の整数であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数8~22の炭化水素基である。]
の構造を持つホウ素クラスター修飾PEG脂質誘導体(PBL)およびこれを膜表面に被覆したリポソームも知られている(特許文献1)が、より強い効果を示す化合物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6206925号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】ヤマモト ティー,ナカイ ケー,カゲイ ティー,クマダ エィチ,エンドウ ケー,マツダ エム、アンド マツムラ エー、ラジオセラピー アンドオンコロジー、2009年、4月、91巻、1号、80―84頁
【文献】マツヤマ ケー、イシダ オー、カサオカ エス、タキザワ ティー,ウトグチ エヌ、シノハラ エー、チバ エム、コバヤシ エイチ、エリグチ エム、ヤナギ エイチ、ジャーナル オブ コントロール リリース、2004年、8月11日、98巻、2号、195―207頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ホウ素中性子捕捉療法に用いられている公知のホウ素化合物は、一定の評価は得られているものの再発例も多く、理想的な薬剤とはいえなかった。ホウ素中性子捕捉療法の原理から理想的な薬剤に必要な条件は、腫瘍内でホウ素濃度が20ppm以上になること、腫瘍・血液におけるホウ素濃度比(T/B比)および腫瘍・正常組織におけるホウ素濃度比(T/N比)が5以上になること、さらに化合物が水溶性であることが必要であり、そのような条件を充足する化合物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕チオール基を有するホウ素クラスターと、マレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールとが結合したことを特徴とするPEG化ホウ素クラスター化合物、
〔2〕チオール基を有するホウ素クラスターが、ホウ素イオンクラスターの単分子化合物ボロカプテイト(BSH)であることを特徴とする〔1〕に記載のPEG化ホウ素クラスター化合物、
〔3〕マルチアームポリエチレングリコールが、4官能基タイプであることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のPEG化ホウ素クラスター化合物、
〔4〕構造式が以下の式(1)
【0011】
【化2】
【0012】
〔式中、m、n、p、およびqは同一または異なって1~100の整数である。〕
で示されることを特徴とする〔1〕から〔3〕のいずれかひとつに記載のPEG化ホウ素クラスター化合物、
〔5〕構造式が以下の
【0013】
【化3】
【0014】
で示されることを特徴とする〔1〕から〔4〕のいずれかひとつに記載のPEG化ホウ素クラスター化合物、
〔6〕〔1〕から〔5〕のいずれかひとつに記載のPEG化ホウ素クラスター化合物を含有することを特徴とする抗腫瘍剤、
〔7〕〔1〕から〔5〕のいずれかひとつに記載のPEG化ホウ素クラスター化合物を有効成分として含むことを特徴とする腫瘍の放射性治療に用いる増強剤、
〔8〕〔7〕に記載の放射線治療が、中性子捕捉療法であることを特徴とする増強剤、および
〔9〕〔7〕又は〔8〕に記載の腫瘍が、 悪性脳腫瘍、悪性黒色腫、頭頚部腫瘍、肝臓がん、肺がん、中皮腫、または骨軟部肉腫であることを特徴とする増強剤に関する。
本発明はまた、
〔10〕〔1〕から〔4〕のいずれかひとつに記載のPEG化ホウ素クラスター化合物を使用することを特徴とする腫瘍のホウ素中性子捕捉療法、
〔11〕〔10〕に記載の腫瘍が、 悪性脳腫瘍、悪性黒色腫、頭頚部腫瘍、肝臓がん、肺がん、中皮腫、または骨軟部肉腫であることを特徴とする腫瘍のホウ素中性子捕捉療法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1はBAMPの純度分析LCクロマトグラムの結果である。
図2図2はBAMPのTOF-MSの結果である。
図3図3はBAMPおよびBSHの抗腫瘍効果を示した結果である。
図4図4はBAMPと、BSH、PBL修飾リポソームおよびBSH内封PBL修飾リポソームの抗腫瘍効果を示した結果である。
図5図5はBAMPと、BPAの抗腫瘍効果を示した図である。
図6図6はBAMP24mg10B/Kg投与群とBAMP10mg10B/Kg投与群の抗腫瘍効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のPEG化ホウ素クラスター化合物は、チオール基を有するホウ素クラスターとマレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールとが結合したことを特徴とする。
【0017】
本発明において、ホウ素クラスターとは、ホウ素イオンクラスターの単分子化合物であって、カルボラン、ドデカボレート、分子式がB1010で表されるイオンクラスター、分子式がM(C10 で表わされるサンドイッチ型イオンクラスター(Mは遷移元素)(これらは置換基を有していてもよい)から選択される。ただし、とりわけチオール基と結合している化合物として、ボロカプテイト(BSH)を用いることが好ましい。
【0018】
マレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールとは、ポリエチレングリコール(PEG)の中で、3-8個、好ましくは4個のPEGが枝分かれをした形状をしたマルチアームポリエチレングリコールを他の化合物と結合させるために、マルチアームポリエチレングリコールに化学修飾用のマレイミド官能基を結合させた化合物を言う。マルマルチアームポリエチレングリコールに結合するマレイミド官能基の数は、2個以上であれば良いが、好ましくは4個が良い。このようなマルチアームポリエチレングリコールはDDS用ポリエチレングリコール修飾剤サンブライト(商品名、油化産業株式会社製)として市販されており、マレイミド官能基2基がマルチアームポリエチレングリコールに結合した化合物としては、サンブライト2TS-GL2-020BO3、サンブライト2TS-GL2-020AZ3、サンブライト2TS-B12-AZ、サンブライト2TS-B12-DB、サンブライト2TS-B12-BOが挙げられ、マレイミド官能基3基がマルマルチアームポリエチレングリコールに結合した化合物としては、サンブライト2TS-B12-BO、サンブライト2TS-GL2-020MA4が挙げられ、マレイミド官能基4基がマルマルチアームポリエチレングリコールに結合した化合物としては、サンブライトPTE-100MA、サンブライトPTE-200MA、サンブライトPTE-400MA、が挙げられるが、とりわけ好ましくはマレイミド官能基4基がマルチアームポリエチレングリコールに結合した化合物である。なお、マレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールの例示に商品名を用いたが、商品名が異なっていても構造が同一であれば、本発明のマルチアームポリエチレングリコールに含まれる。
【0019】
本発明のチオール基を有するホウ素クラスターとマレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールとが結合したことを特徴とするPEG化ホウ素クラスター化合物には以下の式(I)の化合物が含まれる。
【0020】
【化4】
【0021】
〔式中、m、n、p、およびqは同一または異なって1~100の整数である。〕
上記式(I)において、ポリエチレングリコールの重合度を示すm、n、p、およびqは同一または異なって1~100の整数を示すが、好ましくは30~60、より好ましくは40~50を示す。本発明のとりわけ好ましい構造としては以下の化合物BAMP(ボロンアタッチドマルチアームペグ)が挙げられる。
【0022】
本発明のPEG化ホウ素クラスター化合物の製造方法は、チオール基を有するホウ素クラスターとマレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールとを、マルチアームポリエチレングリコールの官能基数や分子量により相違があるが、1対1から1対10、好ましくは1対2の重量比で、pH7.0~pH9.0好ましくはpH8.0の緩衝液中、10~30℃,好ましくは20℃付近の室温状態で,1~5時間,好ましくは2.5時間~3.5時間、攪拌を行ないながら反応させる。緩衝液としてはリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等どのようなものでも良いが、とりわけリン酸緩衝生理食塩水を(PBS)を用いることが好ましい。
【0023】
得られた反応溶液を透析法等により脱塩を行ない不要な低分子を取り除いた後、凍結乾燥法により固体として保存する。具体的には反応溶液を透析チューブ等に入れ、外液には蒸留水等を用い、随時外液を交換しながら36~72時間、好ましくは48時間透析を行ない、得られた反応物を12時間~36時間、好ましくは24時間凍結乾燥を行なうことにより固体化したPEG化ホウ素クラスター化合物を得ることができる。
【0024】
本発明におけるチオール基を有するホウ素クラスターとマレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールとが結合したことを特徴とするPEG化ホウ素クラスター化合物を含有することを特徴とする抗腫瘍剤とは、前記PEG化ホウ素クラスター化合物を含有し、腫瘍内またはその近傍に吸収されたホウ素が中性子との核反応により放出するα線によって腫瘍細胞の成長、分裂を阻害する機能を持つ医薬品を示し、経口剤または注射剤として用いることができるが、好ましくは注射剤として用いる。前記抗腫瘍剤が用いられる腫瘍としてはどのようなものでもよいが、悪性脳腫瘍、悪性黒色腫、頭頚部腫瘍、肝臓がん、肺がん、中皮腫、または骨軟部肉腫等が挙げられる。
【0025】
本発明におけるチオール基を有するホウ素クラスターとマレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールとが結合したことを特徴とするPEG化ホウ素クラスター化合物を含有することを特徴とする腫瘍の放射性治療に用いる増強剤とは、放射性治療の一つであるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において、中性子による腫瘍の生育阻害または殺傷効果を増強するために、予め腫瘍細胞内に浸透し、中性子線によりホウ素が放出するα線により腫瘍細胞の生育阻害または殺傷効果を持つ、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の増強剤となり得るPEG化ホウ素クラスター化合物を含有する増強剤であれば良く、通常、医薬品の経口剤または注射剤、好ましくは注射剤の形態を持つものを言う。
【0026】
前記抗腫瘍剤および放射性治療に用いる増強剤における経口剤、局所吸収製剤または注射剤は、チオール基を有するホウ素クラスターとマレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールとが結合したことを特徴とするPEG化ホウ素クラスター化合物と当該技術分野で周知の薬学的に許容し得る担体とを、組み合わせることによって容易に製剤することができる。
【0027】
注射剤としては、溶液または注射前に液体に溶解するのに適した固体形態として、従来方法により注射剤の形態に調製することができる。好適な賦形剤は、例えば、水、食塩水、デキストロース、マンニトール、ラクトース、レシチン、アルブミン、グルタミン酸ナトリウム、塩酸システインなどである。さらに、注射可能な医薬組成物は、必要に応じて、少量の無毒性補助物質、例えば湿潤剤、pH緩衝剤などを含んでもよい。生理学的に適合するバッファーは、限定されずに、ハンクス液、リンゲル液または生理食塩水バッファーを含む。
【0028】
皮膚投与等に用いる局所製剤のゲル化剤、クリーム、軟膏および経口投与に用いる錠剤、カプセル剤等は常法により調製することができ、溶液状、懸濁液状、乳液状等の液状;ゲル状、ペースト状、クリーム状等の半固形状;粉末状、顆粒状、錠剤、ハード又はソフトカプセルに封入されたカプセル剤等の固形状等の形態とすることができる。
【0029】
前記製剤に用いる添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、被覆剤、基剤、溶剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、安定化剤、粘稠剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、矯味剤、甘味剤、香料、着色剤等が挙げられる。
【0030】
賦形剤としては、無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、デンプン(トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン等)、糖類(ブドウ糖、乳糖、白糖等)、糖アルコール(ソルビトール、マルチトール、マンニトール等)等が挙げられる。
【0031】
結合剤としては、ゼラチン、カゼインナトリウム、デンプンおよび加工デンプン(トウモロコシデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン等)、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。
【0032】
崩壊剤としては、ポビドン、クロスポビドン、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、メチルセルロース等)等が挙げられる。
【0033】
滑沢剤としては、タルク、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0034】
被覆剤としては、メタクリル酸共重合体(メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体等)、メタクリレート共重合体(アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体等)等が挙げられる。
【0035】
基剤としては、炭化水素(流動パラフィン等)、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、マクロゴール1500等)等が挙げられる。
【0036】
溶剤としては、精製水、一価アルコール(エタノール等)、多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン等)等が挙げられる。
【0037】
乳化剤としては、非イオン性界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等)、陰イオン性界面活性剤(アルキル硫酸ナトリウム、N-アシルグルタミン酸塩等)、精製大豆レシチン等が挙げられる。
【0038】
分散剤としては、アラビアゴム、アルギン酸プロピレングリコール、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等)、陰イオン性界面活性剤(アルキル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0039】
懸濁化剤としては、アルギン酸ナトリウム、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等)等が挙げられる。
【0040】
安定化剤としては、アジピン酸、エチレンジアミン四酢酸塩(カルシウム二ナトリウム塩、二ナトリウム塩等)、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0041】
粘稠剤としては、水溶性高分子(ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー等)、多糖類(アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、トラガント等)等が挙げられる。
【0042】
pH調整剤としては、塩酸、リン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、水酸化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0043】
本発明の抗腫瘍剤および放射線治療に用いる増強剤の投与量は、理想的には最終的に腫瘍内でホウ素濃度が20ppm以上になることが好ましく、各有効成分の分子量によっても投薬量は薬物ごとに異なるが、患者の体重に対して30mg/Kg-300mg/Kg、好ましくは30mg/Kg-200mg/Kgより好ましくは30mg/Kg-100mg/Kgが投与される。投与部位は、BNCTにおける中性子線照射部位が腫瘍の位置により異なるため、静脈内、皮下、筋肉内等各種部位に適用されることが必要である。また、投与間隔もBNCTの治療方針により決定されるが、単回投与で終了することもあり得る。
【0044】
以下に処方例を示す。
処方例(注射剤)
BAMP凍結乾燥粉末 1800mg
注射用蒸留水 100ml
リン酸緩衝剤 適量
全量 100ml
このような化合物は、そのまま、あるいは薬学的に許容できる塩の形態で、あるいはそれらと薬学的に許容できるキャリアーと混合して当業者に公知の製剤の形で、あるいはBSH封入ウイルスエンベロープベクターなどの形で、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に好都合に用いられうる。
【0045】
本発明のPEG化ホウ素クラスター化合物製剤を用いるBNCT治療は、任意の適当な投与経路で、PEG化ホウ素クラスター化合物が標的腫瘍中に蓄積するような方法で、投与することによって行われる。PEG化ホウ素クラスター化合物は放射線照射前に腫瘍に濃縮することが好ましく、放射線照射前の腫瘍:血液比が約2:1または少なくとも1.5:1であると有利である。PEG化ホウ素クラスター化合物は一度に投与することもできるし、順次投与することもできる。腫瘍内に化合物が望ましく蓄積した後、その部位に有効量の低エネルギー中性子を照射する。皮膚を通してその部位を照射することができるし、あるいはその部位を照射前に完全にあるいは部分的に暴露することもできる。PEG化ホウ素クラスター化合物の投与とそれに続く放射線照射を必要に応じて繰り返すことができる。所望であれば、腫瘍を外科的に可能な程度に除去した後、残りの腫瘍を本発明のPEG化ホウ素クラスター化合物を使って破壊する。もう1つの態様として、患者に適当量のPEG化ホウ素クラスター化合物を投与し、天然に存在する中性子放射物質である252カリフォルニウムの有効量で照射する。これは腫瘍中に挿入し、適当な時間に取り出すことが好ましい。
【0046】
ここで、腫瘍の種類は特に限定されないが、神経膠芽腫および悪性神経膠腫などを含む脳腫瘍、悪性黒色腫、乳がん、あるいは前立腺がんなどが特に好適な対象となり得る。その他、肺がん、子宮がん、腎臓がん、肝臓がんなどの上皮細胞がん、各種肉腫なども対象となり得る。
【実施例
【0047】
[実施例1]
4個のマレイミド官能基を付与したマルチアームポリエチレングリコールであるサンブライトPTE-100MA(油化産業株式会社製)120mgと、ホウ素イオンクラスターの単分子化合物である10Bエンリチッド ソデユウムメルカプトデカボレート(略称BSH、カッチェム社製)60mgとをpH8.0のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)10ml中で、室温条件下、3時間混合攪拌することにより反応させた。反応は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で進行度合いを確認しながら行なった。
【0048】
反応混合物を透析チューブ(MWCO:500~1000)に入れ、透析外液の蒸留水の中に入れ、12時間毎に透析外液を交換しながら48時間、透析を行なった。透析により脱塩が行なわれた反応溶液の凍結乾燥を、24時間行い反応生成物を得た。得られた反応生成物BAMPの構造および収率を純度分析LCクロマトグラム〔カラム名:ACUITY UPLC BECH C18(ウオーターズ社製)、溶離液A:0.1%TEA/HO、溶離液B:0.2%TFA/ACN、グラジエント条件:B25%、6分、99%0.5mL/min、カラム温度50℃、分析時間6.8分〕およびTOF-MS〔島津バイオテックAXIMA(商品名:島津製作所製)〕で行なった。その結果を図1および図2に示した。得られたBAMPの純度は99.8%であった。
[実施例2]
実施例1で得られたBAMP、BSH(カッチェム社製)、常法によりPBL修飾リポソームにBSHを封入して製造して得たPBL-BSH(BSHをリポソームに包接させたもの)およびPBL修飾リポソーム(PBL-plane)の4種類の試験化合物を、担がんマウスに投与し、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)実施時の治療増強効果および抗腫瘍効果を検討した。
担がんマウスモデルはBALB/cAマウス(メス、5週齢、体重16-20g)にマウス大腸がん細胞(CT26.3X10cells)を右大腿部に播種し、腫瘍直径6―8mmとなるように作製した。
処置後約14日後に前記試験化合物をホウ素換算量として10mg10B/Kgの濃度(BSH投与群では最も抗腫瘍効果が得られるように57mg10B/Kgの濃度)で尾部に静注した。また、放射線のみ照射した群(コントロール)や無処置群は前投与を行わなかった。
24時間後に中性子線照射を京都大学研究用原子炉(KUR)で行なった。中性子線量は5.2X1012neutron/cmとし、照射時間は2時間とした。腫瘍抑制効果は照射後の腫瘍径を経時的に26日目までに測定し、コントロール群と比較した。コントロールには、中性子線照射のみを行った群と投与および照射を行わなかった群(無処置群)を用いて比較検討を行なった。なお、腫瘍サイズの測定は下記計算式により行なった。
〔長径(mm)〕X〔短径(mm)〕/2=腫瘍サイズ(mm
その結果、BAMP投与群とBSH投与群の腫瘍の大きさを比較すると、BSH投与群のほうがホウ素投与量が多いにもかかわらず、BAMP投与群のほうがBSH投与群よりも抗腫瘍効果が著しく強かった(図3)。
【0049】
また、BAMP投与群はBSHをPBL修飾リポソームに包接させたPBL-BSH群よりも抗腫瘍効果が著しく強かった(図4)。
〔実施例3〕
実施例1で得られたBAMP、BPA(インターファーマ社製)の2種類の試験化合物を、担がんマウスに投与し、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)実施時の治療増強効果および抗腫瘍効果を検討した。担がんマウスモデルはBALB/cAマウス(メス、4週齢、体重16-20g)にマウス大腸がん細胞(CT26.5X10cells)を右大腿部に播種し、腫瘍直径6―8mmとなるように作製した。
処置後約12日後にBAMPをホウ素換算量として10mg10B/Kgおよび24mg10B/Kgの2種類の投与量、BPAはホウ素換算量として10mg10B/Kgの投与量で尾部に静注した。
BAMP投与群は36時間後に、BPA投与群は2時間後に中性子線照射を京都大学研究用原子炉(KUR)で行なった。中性子線量は1.8-4.0X1012neutron/cmで1時間照射した。抗腫瘍効果は照射後の腫瘍径を経時的に24日目までに測定し、照射のみを行ったコントロール群と比較した。また、投与も照射も行っていない無処置群を用いた比較検討も行なった。なお、腫瘍サイズの測定は下記計算式により行なった。
〔長径(mm)〕X〔短径(mm)〕/2=腫瘍サイズ(mm
その結果、BAMP投与群とBPA投与群の腫瘍の大きさを比較すると、BAMP10mg10B/Kg投与群は、BPA10mg10B/Kg投与群よりも、抗腫瘍効果が有意に高かった(図5)。
また、BAMP24mg10B/Kg投与群は、BAMP10mg10B/Kg投与群より抗腫瘍効果が有意に高く(図6)、BAMPの効果には用量依存性が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、ホウ素中性子捕捉療法に理想的な水溶性が高く、腫瘍内でホウ素濃度が20ppm以上になり、T/B比が5以上になる抗腫瘍剤・放射線医療の増感剤が提供される。
【符号の説明】
【0051】
BAMP:BAMP投与群
BSH:BSH投与群
PBL-BSH:PBL修飾リポソームに包接させたBSH投与群
PBL-plane:PBL修飾リポソーム投与群
iiradiation only2hour:中性子線2時間照射群
iiradiation only1hour:中性子線1時間照射群
no treatment:無処置群
BAMP10mgB/Kg:BAMP10mg10B/Kg投与群
BAMP24mgB/Kg:BAMP24mg10B/Kg投与群
BPA10mgB/Kg:BPA10mg10B/Kg投与群
iiradiation only :中性子線1時間照射群
図1
図2
図3
図4
図5
図6