(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】視覚特性の検査方法、光学フィルタの特性決定方法、光学フィルタ、視覚特性検査用の光学素子セット、および視覚特性の検査用画像
(51)【国際特許分類】
A61B 3/06 20060101AFI20230828BHJP
G02C 7/10 20060101ALN20230828BHJP
【FI】
A61B3/06
G02C7/10
(21)【出願番号】P 2022501962
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006094
(87)【国際公開番号】W WO2021166996
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020028739
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515109779
【氏名又は名称】イリスコミュニケーション株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519078857
【氏名又は名称】株式会社NiCO
(74)【代理人】
【識別番号】100078880
【氏名又は名称】松岡 修平
(72)【発明者】
【氏名】矢野 雅文
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-209047(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244431(WO,A1)
【文献】特開2017-80135(JP,A)
【文献】特開2012-135528(JP,A)
【文献】特開2014-160391(JP,A)
【文献】特表2010-518903(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0199006(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0149483(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/06
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者が、検査用光学素子を通して検査用画像を見たときに所定の第1検査条件を満たすか否かを判定する第1判定ステップを含む視覚特性の検査方法であって、
前記視覚特性の検査方法は、
前記検査用光学素子として用意された複数の光学素子を含む光学素子セットのうち、前記被検者と前記検査用画像との間に配置する光学素子を切り替える切替ステップと、
前記被検者に対し、前記検査用画像として所定の提示画像を提示する提示ステップと、
のうち、少なくとも一方を含み、
前記提示画像は、人の桿体細胞が感度を有する色を含む第1画像領域を含み、該第1画像領域は、前記被検者が前記提示画像の略中央を見たときに、該第1画像領域から発した光が該被検者の網膜上のうち中心窩の外側の領域に結像するように配置されており、
前記光学素子セットは、可視光帯域のうち、前記桿体細胞が感度を有する第1波長範囲の光を透過させる複数の第1光学素子を含み、該複数の第1光学素子はそれぞれ、前記第1波長範囲において異なる透過率を有しており、
前記複数の第1光学素子は、前記第1波長範囲の共通する上限を有しており、前記第1波長範囲の上限が、人のS錐体細胞の吸収スペクトルと前記桿体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長と、前記桿体細胞の吸収スペクトルと人のM錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長と、の間に設定されており、
前記視覚特性の検査方法が前記切替ステップを含む場合、前記第1判定ステップにおいて、前記被検者が、該被検者と前記検査用画像との間に配置された前記第1光学素子を通して該検査用画像を見たときに前記第1検査条件を満たす一の第1光学素子が特定される、
視覚特性の検査方法。
【請求項2】
前記第1検査条件は、前記被検者が前記検査用画像を見たときに、該被検者が該検査用画像に対して眩しさを感じない条件である、
請求項1に記載の視覚特性の検査方法。
【請求項3】
前記視覚特性の検査方法が前記切替ステップを含む場合、前記第1判定ステップでは、前記複数の第1光学素子の中に前記第1検査条件を満たす第1光学素子が複数存在する場合、該第1検査条件を満たす複数の第1光学素子のうち、最も透過率が高い第1光学素子が特定される、
請求項1又は請求項2に記載の視覚特性の検査方法。
【請求項4】
前記提示画像は第2画像領域を更に含み、該第2画像領域は、前記被検者が該第2画像領域の略中央を見たときに、該第2画像領域から発した光が該被検者の網膜上のうち中心窩の内側の領域に結像するように配置されており、
前記第2画像領域は、互いの色が異なる少なくとも2つの分割領域を含み、
前記少なくとも2つの分割領域の色は、RGB色空間におけるR成分とG成分のうち少なくとも一方が互いに異なっており、且つ、該少なくとも2つの分割領域のそれぞれの色におけるB成分の大きさは任意であり、
前記被検者が、前記第2画像領域を見たときに所定の第2検査条件を満たすか否かを判定する第2判定ステップを含む、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の視覚特性の検査方法。
【請求項5】
前記第2検査条件は、前記被検者が前記第2画像領域を見たときに、前記少なくとも2つの分割領域の色の違いを明瞭に認識できる条件である、
請求項4に記載の視覚特性の検査方法。
【請求項6】
前記視覚特性の検査方法が前記切替ステップを含む場合、
前記光学素子セットは、人のM錐体細胞が感度を有する第2波長範囲の光を透過させる複数の第2光学素子と、人のL錐体細胞が感度を有する第3波長範囲の光を透過させる複数の第3光学素子と、を含み、
前記複数の第2光学素子はそれぞれ、前記第2波長範囲において異なる透過率を有しており、
前記複数の第3光学素子はそれぞれ、前記第3波長範囲において異なる透過率を有しており、
前記第2判定ステップでは、前記被検者が前記複数の第2光学素子のうち何れか一つ、又は、前記複数の第3光学素子のうち何れか一つを通して前記第2画像領域を見たときに、前記第2検査条件を満たすか否かが判定される、
請求項4又は請求項5に記載の視覚特性の検査方法。
【請求項7】
前記S錐体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人のS錐体細胞の吸収スペクトルであり、
前記桿体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人の桿体細胞の吸収スペクトルであり、
前記M錐体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人のM錐体細胞の吸収スペクトルである、
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の視覚特性の検査方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の視覚特性の検査方法であって、前記切替ステップを含む視覚特性の検査方法の前記第1判定ステップで特定された前記第1検査条件を満たす前記第1光学素子の前記第1波長範囲における透過率に基づいて、光強度を調整する光学フィルタの透過率であって、該光学フィルタを透過する光のうち前記第1波長範囲の光に対する透過率を決定する決定ステップ、
を含む光学フィルタの特性決定方法。
【請求項9】
前記光学フィルタの前記第1波長範囲における透過率を、前記第1検査条件を満たす前記第1光学素子の前記第1波長範囲における透過率に決定する、
請求項8に記載の光学フィルタの特性決定方法。
【請求項10】
請求項6に記載の視覚特性の検査方法の前記第2判定ステップで特定された前記第2検査条件を満たす前記第2光学素子の前記第2波長範囲における透過率に基づいて、光強度を調整する光学フィルタの透過率であって、該光学フィルタを透過する光のうち前記第2波長範囲の光に対する透過率と、前記第2検査条件を満たす前記第3光学素子の前記第3波長範囲における透過率に基づいて、光強度を調整する光学フィルタの透過率であって、該光学フィルタを透過する光のうち前記第3波長範囲の光に対する透過率と、の少なくとも一方を決定する決定ステップ、
を含む光学フィルタの特性決定方法。
【請求項11】
前記第2判定ステップで前記第2検査条件を満たす前記第2光学素子が特定された場合、前記光学フィルタの前記第2波長範囲における透過率を、前記第2検査条件を満たす前記第2光学素子の前記第2波長範囲における透過率に決定し、
前記第2判定ステップで前記第2検査条件を満たす前記第3光学素子が特定された場合、前記光学フィルタの前記第3波長範囲における透過率を、前記第2検査条件を満たす前記第3光学素子の前記第3波長範囲における透過率に決定する、
請求項10に記載の光学フィルタの特性決定方法。
【請求項12】
請求項8又は請求項9に記載の光学フィルタの特性決定方法で決定された前記第1波長範囲の光に対する透過率が、該第1波長範囲の光に対する透過率に設定された、
光学フィルタ。
【請求項13】
請求項10又は請求項11に記載の光学フィルタの特性決定方法で前記第2波長範囲の光に対する透過率が決定された場合に、該決定された第2波長範囲の光に対する透過率が、該第2波長範囲の光に対する透過率に設定され、
請求項10又は請求項11に記載の光学フィルタの特性決定方法で前記第3波長範囲の光に対する透過率が決定された場合に、該決定された第3波長範囲の光に対する透過率が、該第3波長範囲の光に対する透過率に設定された、
光学フィルタ。
【請求項14】
複数の光学素子を含む視覚特性検査用の光学素子セットであって、
前記光学素子セットは、可視光帯域のうち、人の桿体細胞が感度を有する第1波長範囲の光を透過させる複数の第1光学素子を含み、該複数の第1光学素子はそれぞれ、前記第1波長範囲において異なる透過率を有しており、
前記複数の第1光学素子は、前記第1波長範囲の共通する上限を有しており、前記第1波長範囲の上限が、人のS錐体細胞の吸収スペクトルと前記桿体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
S-Rodと、前記桿体細胞の吸収スペクトルと人のM錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
Rod-Mと、の間に設定されている、
視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項15】
前記S錐体細胞の吸収スペクトルと前記桿体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
Rod-Mと、前記桿体細胞が最も高い感度を有する波長P
Rodとの差をΔとした場合に、
前記第1波長範囲の上限が、波長P
Rod±Δの範囲内に設定されている、
請求項14に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項16】
前記第1波長範囲の上限が、前記桿体細胞が最も高い感度を有する波長P
Rodに設定されている、
請求項14又は請求項15に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項17】
前記第1波長範囲の上限が、略498nmに設定されている、
請求項14又は請求項15に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項18】
前記複数の第1光学素子は、前記第1波長範囲の共通する下限を有しており、前記第1波長範囲の下限が、前記S錐体細胞が最も高い感度を有する波長P
Sに設定されている、
請求項14から請求項17の何れか一項に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項19】
前記複数の第1光学素子は、前記第1波長範囲の共通する下限を有しており、前記第1波長範囲の下限が、略420nmに設定されている、
請求項14から請求項17の何れか一項に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項20】
前記S錐体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人のS錐体細胞の吸収スペクトルであり、
前記桿体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人の桿体細胞の吸収スペクトルであり、
前記M錐体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人のM錐体細胞の吸収スペクトルである、
請求項14から請求項19の何れか一項に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項21】
前記光学素子セットは、人のM錐体細胞が感度を有する第2波長範囲の光を透過させる複数の第2光学素子と、人のL錐体細胞が感度を有する第3波長範囲の光を透過させる複数の第3光学素子と、を含み、
前記複数の第2光学素子はそれぞれ、前記第2波長範囲において異なる透過率を有しており、
前記複数の第3光学素子はそれぞれ、前記第3波長範囲において異なる透過率を有している、
請求項14から請求項20の何れか一項に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項22】
前記複数の第2光学素子は、前記第2波長範囲の共通する上限を有しており、前記第2波長範囲の上限が、前記M錐体細胞の吸収スペクトルと前記L錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
M-Lに設定されている、
請求項21に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項23】
前記M錐体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人のM錐体細胞の吸収スペクトルであり、
前記L錐体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人のL錐体細胞の吸収スペクトルである、
請求項22に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項24】
前記複数の第2光学素子は、前記第2波長範囲の共通する上限を有しており、前記第2波長範囲の上限が、略548nmに設定されている、
請求項21に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項25】
前記複数の第2光学素子は、前記第2波長範囲の共通する上限を有しており、前記第2波長範囲の上限が、人の明所視が最も高い感度を有する波長P
Phoに設定されている、
請求項21に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項26】
前記複数の第2光学素子は、前記第2波長範囲の共通する下限を有しており、前記第2波長範囲の下限が、前記桿体細胞が最も高い感度を有する波長P
Rodと、前記桿体細胞の吸収スペクトルと前記M錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
Rod-Mと、の間に設定されている、
請求項21から請求項25の何れか一項に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項27】
前記第2波長範囲の下限が、前記桿体細胞が最も高い感度を有する波長P
Rodに設定されている、
請求項26に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項28】
前記第2波長範囲の下限が、略498nmに設定されている、
請求項26に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項29】
前記第2波長範囲の下限が、前記桿体細胞の吸収スペクトルと前記M錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
Rod-Mに設定されている、
請求項26に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項30】
前記第2波長範囲の下限が、略515nmに設定されている、
請求項26に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項31】
前記複数の第3光学素子は、前記第3波長範囲の共通する下限を有しており、前記第3波長範囲の下限が、前記M錐体細胞の吸収スペクトルと前記L錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
M-Lに設定されている、
請求項21から請求項30の何れか一項に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項32】
前記M錐体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人のM錐体細胞の吸収スペクトルであり、
前記L錐体細胞の吸収スペクトルは、最大値で規格化された人のL錐体細胞の吸収スペクトルである、
請求項31に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項33】
前記第3波長範囲の下限が、略548nmに設定されている、
請求項31に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項34】
前記複数の第3光学素子は、前記第3波長範囲の共通する下限を有しており、前記第3波長範囲の下限が、人の明所視が最も高い感度を有する波長P
Phoに設定されている、
請求項21から請求項30の何れか一項に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項35】
被検者の視覚特性の検査に用いられる検査用画像であって、
人の桿体細胞が感度を有する色を含む第1画像領域を含み、該第1画像領域は、前記被検者が前記検査用画像の略中央を見たときに、該第1画像領域から発した光が該被検者の網膜上のうち中心窩の外側の領域に結像するように配置されている、
視覚特性の検査用画像。
【請求項36】
前記検査用画像の前記第1画像領域の色は無彩色である、
請求項35に記載の視覚特性の検査用画像。
【請求項37】
第2画像領域を更に含み、該第2画像領域は、前記被検者が該第2画像領域の略中央を見たときに、該第2画像領域から発した光が該被検者の網膜上のうち中心窩の内側の領域に結像するように配置されており、
前記第2画像領域は、互いの色が異なる少なくとも2つの分割領域を含み、
前記少なくとも2つの分割領域の色は、RGB色空間におけるR成分とG成分のうち少なくとも一方が互いに異なっており、且つ、該少なくとも2つの分割領域のそれぞれの色におけるB成分の大きさは任意である、
請求項35又は請求項36に記載の視覚特性の検査用画像。
【請求項38】
前記第2画像領域の大きさは、該被検者が該第2画像領域の略中央を見たときに、該被検者の2度の視野角内に収まるように設定されている、
請求項37に記載の視覚特性の検査用画像。
【請求項39】
前記第1画像領域は、
前記第2画像領域の周辺に配置され、
前記検査用画像上において、前記第2画像領域の外周から、該被検者が該第2画像領域を見たときの該被検者の40度の視野角に対応する位置までに亘って配置されている、
請求項37又は請求項38に記載の視覚特性の検査用画像。
【請求項40】
複数の光学素子を含む視覚特性検査用の光学素子セットであって、
前記光学素子セットは、可視光帯域内の第1波長範囲の光を透過させる複数の第1光学素子を含み、該複数の第1光学素子はそれぞれ、前記第1波長範囲において異なる透過率を有しており、
前記複数の第1光学素子は、前記第1波長範囲の共通する上限を有しており、前記第1波長範囲の上限が、略453nmと略515nmとの間に設定されている、
視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項41】
前記複数の第1光学素子は、前記第1波長範囲の共通する下限を有しており、前記第1波長範囲の下限が、略420nmに設定されている、
請求項40に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項42】
前記光学素子セットは、可視光帯域内の第2波長範囲の光を透過させる複数の第2光学素子と、可視光帯域内の第3波長範囲の光を透過させる複数の第3光学素子と、を含み、
前記複数の第2光学素子はそれぞれ、前記第2波長範囲において異なる透過率を有しており、
前記複数の第3光学素子はそれぞれ、前記第3波長範囲において異なる透過率を有している、
請求項40又は請求項41に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項43】
前記複数の第2光学素子は、前記第2波長範囲の共通する上限を有しており、前記第2波長範囲の上限が、略548nmと略570nmとの間に設定されている、
前記複数の第2光学素子は、前記第2波長範囲の共通する下限を有しており、前記第2波長範囲の下限が、略498nmと略515nmとの間に設定されている、
請求項42に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項44】
前記複数の第3光学素子は、前記第3波長範囲の共通する下限を有しており、前記第3波長範囲の下限が、略548nmと略570nmとの間に設定されている、
請求項42又は請求項43に記載の視覚特性検査用の光学素子セット。
【請求項68】
前記第2波長範囲の光の光強度を、前記被検者の前記第2波長範囲の光に対する視覚特性に基づいて変化させ、
前記第3波長範囲の光の光強度を、前記被検者の前記第3波長範囲の光に対する視覚特性に基づいて変化させる、
請求項54から請求項67の何れか一項に記載の光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚特性の検査方法、光学フィルタの特性決定方法、光学フィルタ、視覚特性検査用の光学素子セット、および視覚特性の検査用画像に関する。
【背景技術】
【0002】
人の視覚に関する障害として、特定の波長帯域の光に対する感度が低い色盲や色弱、特定の波長の光を眩しく感じる光過敏症などが知られている。光過敏症は、例えば、アーレンシンドロームである。これらの視覚障害は、患者の網膜上の3つの錐体細胞(S錐体細胞、M錐体細胞、L錐体細胞)や桿体細胞の感度が、健常者と比較して高い又は低いことによって発生する。S錐体細胞、M錐体細胞、L錐体細胞は、それぞれ青、緑、赤の光に対して反応する細胞である。桿体細胞は、光の強弱に反応する細胞である。また、人の光に対する感度は周りの明るさによって変わり、明るいところでの感度を明所視、暗いところでの感度を暗所視という。明所視は主に錐体細動が担っており、暗所視は主に桿体細胞が担っている(
図7参照)。両者の中間の明るさのところでの感度は薄明視という。薄明視は、錐体細胞と悍体細胞との両方が担っている。視覚障害を持つ患者の視覚を補正する方法として、光の透過特性が人に合わせて調整された光学フィルタを使用する方法が知られている。患者が、特性の調整された光学フィルタを有する眼鏡をかけることにより、患者の視覚異常が緩和される。
【0003】
患者に合わせた光学フィルタを作成するためには、患者の様々な色の光に対する視覚特性(感度)を検査する必要がある。しかし、様々な光の感度の組み合わせは無数にあるため、視覚特性の検査は、検査をする者と患者の両方にとって負荷が大きかった。
【0004】
患者に合わせた光学フィルタを作製する方法は従来から知られている。例えば、特開平6-18819号公報に、患者の色覚特性を分類する眼鏡の作製方法が記載されている。特許文献1に記載の眼鏡の作製方法では、複数の患者の色覚特性の検査結果に基づいて、色覚特性が32種に分類されている。特許文献1では、患者の色覚特性が、32種の色覚特性の何れに該当するかが検査される。検査結果に基づいて光学フィルタの特性を決定することにより、患者の色覚異常が緩和される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の色覚検査方法では、患者の色覚特性が予め定められた分類の何れに該当するかが判定される。そのため、予め定められた分類に該当しない色覚特性を有する患者や、複数の分類の中間の色覚特性を有する患者に対しては、正確な検査結果が得られないという問題がある。また、特許文献1に記載の色覚検査方法では、錐体細胞が感度を有する波長範囲に従って色覚特性が分類されており、桿体細胞の感度が考慮されていない。そのため、特許文献1に記載の色覚検査方法では、桿体細胞の影響で起こる視覚特性の異常を検査できないという問題がある。また、特許文献1では、錐体細胞の感度と桿体細胞の感度が複合的に影響する明所視、暗所視、薄明視が考慮されていない。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被検者への負荷が少なく、被検者の視覚特性検査可能な視覚特性の検査方法、光学フィルタの特性決定方法、光学フィルタ、視覚特性検査用の光学素子セット、および視覚特性の検査用画像を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る視覚特性の検査方法は、被検者が、検査用光学素子を通して検査用画像を見たときに所定の第1検査条件を満たすか否かを判定する第1判定ステップを含む。視覚特性の検査方法は、検査用光学素子として用意された複数の光学素子を含む光学素子セットのうち、被検者と検査用画像との間に配置する光学素子を切り替える切替ステップと、被検者に対し、検査用画像として所定の提示画像を提示する提示ステップと、のうち、少なくとも一方を含む。提示画像は、人の桿体細胞が感度を有する色を含む第1画像領域を含み、第1画像領域は、被検者が提示画像の略中央を見たときに、第1画像領域から発した光が被検者の網膜上のうち中心窩の外側の領域に結像するように配置されている。光学素子セットは、可視光帯域のうち、桿体細胞が感度を有する第1波長範囲の光を透過させる複数の第1光学素子を含み、複数の第1光学素子はそれぞれ、第1波長範囲において異なる透過率を有している。複数の第1光学素子は、第1波長範囲の共通する上限を有しており、第1波長範囲の上限が、人のS錐体細胞の吸収スペクトルと桿体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長と、桿体細胞の吸収スペクトルと人のM錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長と、の間に設定されている。視覚特性の検査方法が切替ステップを含む場合、第1判定ステップにおいて、被検者が、被検者と検査用画像との間に配置された第1光学素子を通して検査用画像を見たときに第1検査条件を満たす一の第1光学素子が特定される。
【0008】
視覚特性の検査方法が切替ステップを含んでいる場合、桿体細胞が感度を有する第1波長範囲の光を透過させる複数の第1光学素子のうち、被検者にとって所定の条件を満たす第1光学素子が特定される。これにより、被検者の桿体細胞の感度を検査することができる。また、視覚特性の検査方法が提示ステップを含んでいる場合、提示画像のうち、第1画像領域から発した光が、被検者の網膜上のうち、桿体細胞が配置された領域に結像される。第1画像領域は桿体細胞が感度を有する色を有しているため、この検査方法により、被検者の桿体細胞の感度を検査することができる。
【0009】
本発明の一実施形態に係る光学フィルタの特性決定方法は、第1検査条件を満たす第1光学素子の第1波長範囲における透過率に基づいて、光強度を調整する光学フィルタの透過率であって、光学フィルタを透過する光のうち第1波長範囲の光に対する透過率を決定する。
【0010】
本発明の一実施形態に係る光学フィルタは、上記の光学フィルタの特性決定方法で決定された第1波長範囲の光に対する透過率が、第1波長範囲の光に対する透過率に設定されている。
【0011】
本発明の一実施形態に係る複数の光学素子を含む視覚特性検査用の光学素子セットは、
可視光帯域のうち、人の桿体細胞が感度を有する第1波長範囲の光を透過させる複数の第1光学素子を含み、複数の第1光学素子はそれぞれ、第1波長範囲において異なる透過率を有している。また、複数の第1光学素子は、第1波長範囲の共通する上限を有しており、第1波長範囲の上限が、人のS錐体細胞の吸収スペクトルと桿体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長XS-Rodと、桿体細胞の吸収スペクトルと人のM錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長XRod-Mと、の間に設定されている。
【0012】
本発明の一実施形態に係る被検者の視覚特性の検査に用いられる検査用画像は、人の桿体細胞が感度を有する色を含む第1画像領域を含み、第1画像領域は、被検者が検査用画像の略中央を見たときに、第1画像領域から発した光が被検者の網膜上のうち中心窩の外側の領域に結像するように配置されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、被検者への負荷が少なく、被検者の視覚特性検査可能な視覚特性の検査方法、視覚検査用の光学素子セット、および視覚検査用画像が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態にかかる視覚検査システムの概略図である。
【
図2】
図2は、人の錐体細胞(S錐体細胞、M錐体細胞、L錐体細胞)および桿体細胞の吸収スペクトルの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態にかかるカラーフィルタのバンド帯域を示すである。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態にかかる検査用画像の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態にかかる視覚検査方法のフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態にかかる補正フィルタの特性を示すである。
【
図7】
図7は、人の明所視および暗所視を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
[視覚検査システム]
図1は、本発明の一実施形態における視覚検査を実行する視覚検査システム1の概略図である。視覚検査システム1は、表示装置100、遮光フード200、カラーフィルタ300を備えており、被検者500の視覚特性を検査するためのものである。
【0017】
表示装置100は、例えば、液晶ディスプレイ又はCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイである。表示装置100には、検査用画像110が表示される。なお、表示装置100は、被検者500に検査用画像110を見せるものであればよく、液晶ディスプレイのように画像信号に応じた画像を表示するものに限定されない。例えば、表示装置100は、検査用画像110が印刷されたフィルムと、フィルムに照明光を当てるバックライトを備えており、フィルムに照明光を当てることによって被検者500に検査用画像110を提示するものであってもよい。
【0018】
表示装置100には、遮光フード200が被せられている。遮光フード200は、外光が検査用画像110に照射され、被検者500から見える検査用画像110の明るさや色が変化することを防止する。遮光フード200の内側は、光の反射を防ぎ、視覚検査に影響を与えることを防止するため、光を吸収する黒色であることが望ましい。
【0019】
カラーフィルタ300は、視覚特性の検査時に、メガネのように被検者500の目に装着される。なお、カラーフィルタ300は、被検者500の目と検査用画像110との間に配置されればよく、その形態は限定されない。例えば、カラーフィルタ300は、表示装置100の前面に検査用画像110を覆うように配置されてもよく、被検者500と表示装置100との間で、且つ、遮光フード200内に配置されてもよい。カラーフィルタ300には、特性の異なる複数のフィルタが使用される。複数のカラーフィルタ300は、視覚検査用の光学素子セットの一例である。
【0020】
視覚検査では、被検者500は、カラーフィルタ300を介して検査用画像110を見る。そして、使用されるカラーフィルタ300を変更しながら、被検者500が検査用画像110に対してどの程度眩しさを感じるか(すなわち、光過敏症の度合い)、および、検査用画像110の色をどのように感じるか(すなわち、色覚)が検査される。なお、カラーフィルタ300は、被検者500の検査に用いられるものであるため、可視光帯域の光のみを透過させる特性を有していればよい。また、カラーフィルタ300は、可視光帯域以外の帯域では、どのような透過率を有していてもよい。
【0021】
視覚検査により、被検者500の視覚特性が検査されると、その検査結果に基づき、被検者の視覚特性を補正する補正フィルタを作製することができる。なお、検査結果は、補正フィルタの作製だけでなく、照明装置や被検者500が使用するテレビや携帯端末などのモニタなどの明るさや色を、被検者500の視覚特性に合わせて調整するために使用されてもよい。
【0022】
[カラーフィルタ]
カラーフィルタ300は、特定の波長範囲の光のみを透過させるバンドパスフィルタである。バンドパスフィルタのバンド帯域は、人の錐体細胞および桿体細胞の特性に基づいて決定される。
【0023】
図2は、人の錐体細胞(S錐体細胞、M錐体細胞、L錐体細胞)および桿体細胞の吸収スペクトルの一例を示す。
図2の横軸は光の波長を示し、縦軸は各錐体細胞および桿体細胞の吸収率を示す。
図2内の「S」、「M」、「L」、「Rod」はそれぞれ、S錐体細胞、M錐体細胞、L錐体細胞、桿体細胞の吸収スペクトルを示している。
図2に示される各吸収スペクトルは、吸収率の最大値で規格化されている。各錐体細胞および桿体細胞は、吸収率が高いほど、その光に対する感度(感受性)が高くなる。S錐体細胞は波長420nm付近に最大感度を有する。M錐体細胞は波長534nm付近に最大感度を有する。L錐体細胞は波長564nm付近に最大感度を有する。桿体細胞は波長498nm付近に最大感度を有する。なお、各錐体細胞と桿体細胞の最大感度を有する波長には、個人差がある。
【0024】
また、S、M、L錐体細胞はそれぞれ、青、緑、赤の波長帯域の光に対して感度を有する。ただし、人が色を認識する場合、必ずしも、S、M、L錐体細胞が吸光した光の高度が、RGB色空間におけるB、G、R成分に対応しているわけではない。以下では、エドウィン・ハーバード・ランド(Edwin Herbert Land)による、人の色覚に関する2色実験について説明する。2色実験では、被写体を赤色のフィルタを通して撮影した画像のスライド(ポジフィルム)Rと、緑色のフィルタを通して撮影した画像のスライド(ポジフィルム)Gが使用される。各スライドR、Gの画像は、撮影した被写体像の光強度分布に応じたグレースケールで表されるモノクロ画像である。
【0025】
スライドRには赤色の光を照射されて、スクリーンに投影される。また、スライドGには白色の光が照射されて、スクリーンに投影される。これにより、スクリーン上には、赤色の波長成分のみを有する投影画像と白色の波長成分を有する投影画像が重ねられた合成投影画像が表示される。スクリーンに投影される2つの投影画像の光強度は、合成投影画像を観察する被験者に合わせて適宜調整される。すると、当該被験者には、合成投影画像が、青色や緑色を含むフルカラーの画像として認識される。言い換えると、この2色実験において、被験者は、赤と白の2色の光によって合成された投影画像に対して青や緑の色を認識する。
【0026】
また、2色実験において、スライドRに白色の光が照射され、スライドGには緑色の光が照射され、スクリーン上に、白色の波長成分のみを有する投影画像と緑色の波長成分を有する投影画像が重ねられた合成投影画像が表示された場合、被検者は、白と緑の2色の光によって合成された投影画像に対して青や赤の色を認識する。
【0027】
このように、人の色覚は、単なる3原色(赤、緑、青)の光の線形の足し合わせではなく、脳の認知機能に大きくかかわっている。2色実験において、人は、赤色と白色の光によって合成された投影画像、又は、白色と緑色の光によって合成された投影画像に対してフルカラーの色を認識する。そのため、緑色と赤色の光に対してそれぞれ感度を有するM錐体細胞とL錐体細胞が、人がフルカラーの色を認識するために用いられていると考えられる。
【0028】
また、明所視は主に錐体細胞が担っていることから、明所では、人は、M錐体細胞とL錐体細胞によって色を認識し、残るS錐体細胞で光の明るさを認識していると考えられる。一方、暗所視は主に桿体細胞が担っているため、暗所では、人は、この桿体細胞によって光の明るさを認識していると考えられる。そのため、光の明るさの認識に用いられるS錐体細胞や桿体細胞の感度が高い人には、光を眩しく感じる光過敏症の症状が発生する。また、色の認識に用いられるM錐体細胞の感度とL錐体細胞の感度(すなわち、緑色の光に対する感度と赤色の光に対する感度)に差がある人には、色弱や色盲の症状が発生する。
【0029】
カラーフィルタ300の特性は、光過敏症の度合いの検査、および、緑色の光に対する感度と赤色の光に対する感度差の検査に適するように決定されている。カラーフィルタ300は、光過敏症の度合いの検査に適したフィルタ300Rodと、緑色の光に対する感度と赤色の光に対する感度差の検査に適したフィルタ300M、300Lを含んでいる。
【0030】
図3は、複数のカラーフィルタ300の光を透過させるバンド帯域を示す。
図3中の(a)~(c)はそれぞれ、3種類のフィルタ300Rod、300M、300Lのそれぞれのバンド帯域B
Rod、B
M、B
Lを示す。
図3の横軸は光の波長を示し、縦軸は各フィルタの規格化された透過率を示す。なお、
図3には、各錐体細胞と桿体細胞の吸収スペクトルを重ねて示されており、
図3の右側の縦軸が吸収率を示している。
【0031】
フィルタ300Rodは、被検者500の光過敏症の度合いを検査するためのフィルタであり、S錐体細胞と桿体細胞が感度を有する波長帯域の光を透過させる特性を有する。
【0032】
フィルタ300Rodは、
図3(a)に実線で示されているように、S錐体細胞の感度のピーク波長P
S(約420nm)以上、且つ、桿体細胞の感度のピーク波長P
Rod(約498nm)以下の波長の光のみを透過させる。言い換えると、フィルタ300Rodのバンド帯域B
Rodの下限はP
Sであり、上限は波長P
Rodである。
【0033】
なお、S錐体細胞が感度を有する波長帯域の光をより多く透過させるために、フィルタ300Rodは、S錐体細胞の感度のピーク波長PS未満の波長の光も透過させてもよい。しかし、S錐体細胞の感度のピーク波長PS未満の波長の光は、人に対して光の明るさを感じさせるものの、人が感じる色に与える影響は小さい。そのため、被検者500が、光過敏症の症状を有している場合は、フィルタ300Rodが、S錐体細胞の感度のピーク波長PS未満の波長の光を透過させない特性を有している方が、被検者500の色覚に大きな影響を与えることなく、被検者500の光過敏症の症状を効果的に抑えることができる。
【0034】
また、フィルタ300Rodは、被検者500のS錐体細胞と桿体細胞の感度を検査するためのフィルタであればよく、フィルタ300Rodのバンド帯域B
Rodの上限は、桿体細胞のピーク波長P
Rod(約498nm)に限定されない。
図3(a)に、フィルタ300Rodのバンド帯域B
Rodの上限の別の例、および、その時のバンド帯域B
Rodを点線で示す。
【0035】
例えば、フィルタ300Rodのバンド帯域BRodの上限は、桿体細胞の吸収スペクトルとM錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長XRod-M(約515nm)であってもよい。この波長XRod-M波長は、ピーク波長PRodよりも長く、且つ、ピーク波長PMよりも短い。波長XRod-Mよりも波長が長い帯域では、桿体細胞の感度が比較的低くなり、M錐体細胞の感度が比較的大きくなる。そのため、仮に、フィルタ300Rodのバンド帯域BRodの上限が波長XRod-Mよりも長く設定されている場合、M錐体細胞によって吸収される光の割合が大きくなり、桿体細胞による光過敏症を正確に検査できなくなる可能性がある。
【0036】
また、フィルタ300Rodのバンド帯域BRodの上限は、桿体細胞の感度のピーク波長PRod(約498nm)よりも短くてもよい。例えば、フィルタ300Rodのバンド帯域BRodの上限は、S錐体細胞の吸収スペクトルと桿体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長XS-Rod(約453nm)であってもよい。この波長XS-Rod波長は、ピーク波長PSよりも長く、且つ、ピーク波長PRodよりも短い。波長XS-Rodよりも波長が短い帯域では、桿体細胞の感度が比較的低くなり、S錐体細胞の感度が比較的大きくなる。そのため、仮に、フィルタ300Rodのバンド帯域BRodの上限が波長XS-Rodよりも短く設定されている場合、S錐体細胞によって吸収される光の割合が大きくなり、桿体細胞による光過敏症を正確に検査できなくなる可能性がある。
【0037】
また、桿体細胞による光過敏症を正確に検査するためには、フィルタ300Rodのバンド帯域BRodに、桿体細胞の感度ピーク波長PRodに近い波長帯域が含まれていることが望ましい。そのため、フィルタ300Rodのバンド帯域BRodの上限は、桿体細胞の感度のピーク波長PRodよりも短くてもよいが、ピーク波長PRodから離れすぎていない方がよい。例えば、桿体細胞の感度ピーク波長PRodと桿体細胞の吸収スペクトルとM錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長XRod-Mとの差分をΔとした場合、フィルタ300Rodのバンド帯域BRodの上限を、PRod±Δの範囲内に設定することにより、桿体細胞による光過敏症を正確に検査することができる。
【0038】
フィルタ300Mは、被検者500の緑色の光に対する感度を検査するためのフィルタであり、M錐体細胞が感度を有する波長帯域の光を透過させる特性を有する。
【0039】
フィルタ300Mは、
図3(b)に実線で示されているように、桿体細胞の感度ピーク波長P
Rod(約498nm)以上、且つ、M錐体細胞の吸収スペクトルとL錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
M-L(約548nm)以下の波長の光のみを透過させる。この波長X
M-L波長は、ピーク波長P
Mよりも長く、且つ、ピーク波長P
Lよりも短い。言い換えると、フィルタ300Mのバンド帯域B
Mの下限は波長P
Rodであり、上限は波長X
M-Lである。
【0040】
なお、フィルタ300Mの特性は、被検者500の視覚特性を補正する補正フィルタの作製に使用される。被検者500が補正フィルタの明るさを重視したい場合、フィルタ300Mのバンド帯域B
Mの上限は、波長X
M-Lではなく、
図7に示す明所視が最大感度となる波長P
Pho(約570nm)としても良い。これにより、フィルタ300Mの特性を用いて作製された補正フィルタによる明所視への影響を低くすることができる。
【0041】
なお、フィルタ300Mを透過する光のうち、M錐体細胞が感度を有する波長帯域の光の割合を上げるために、フィルタ300Mのバンド帯域B
Mの下限は、桿体細胞の吸収スペクトルとM錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
Rod-M(約515nm)に設定されていてもよい。この場合の、フィルタ300Mのバンド帯域B
Mを、
図3(b)に点線で示す。これにより、桿体細胞や他の錐体細胞に比べて、M錐体細胞の感度が比較的高い波長帯域の光のみがフィルタ300Mを透過することになる。
【0042】
なお、桿体細胞は、光の強弱に反応する細胞であり、被検者の色の認識(色覚)には影響しない。そのため、フィルタ300Mのバンド帯域BMの下限を桿体細胞の感度ピーク波長PRodに設定したとしても、M錐体細胞の緑色の光に対する感度を検査することができる。また、バンド帯域BMの下限を桿体細胞の感度ピーク波長PRodに設定した場合、下限を波長XRod-Mに設定した場合に比べて被検者500が見る検査用画像110はより明るくなるため、被検者500が検査用画像110を見やすくなる。
【0043】
フィルタ300Lは、被検者500の赤色の光に対する感度を検査するためのフィルタであり、L錐体細胞が感度を有する波長帯域の光を透過させる特性を有する。
【0044】
フィルタ300Lは、
図3(c)に実線で示されているように、M錐体細胞の吸収スペクトルとL錐体細胞の吸収スペクトルとが交差する波長X
M-L(約548nm)以上の波長の光のみを透過させる。言い換えると、フィルタ300Lのバンド帯域B
Lの下限は波長X
M-Lである。
【0045】
波長XM-Lよりも波長が短い帯域では、L錐体細胞の感度が低くなり、M錐体細胞の感度が支配的となる。そのため、仮に、フィルタ300Lのバンド帯域BLの下限が波長XM-Lよりも短く設定されている場合、L錐体細胞による赤色の光に対する感度を正確に検査できなくなる可能性がある。
【0046】
また、被検者500が、フィルタ300Lの特性に基づいて作製される補正フィルタの明るさを重視したい場合、フィルタ300Lのバンド帯域B
Lの下限は、波長X
M-Lではなく、
図7に示す明所視が最大感度となる波長P
Pho(約570nm)としても良い 。
【0047】
なお、フィルタ300Rod、300M、300Lの特性は、
図3に示すような完全な矩形である必要はない。フィルタ300Rodの特性は、フィルタ300Rodを透過する光のうち、S錐体細胞と桿体細胞が感度を有する波長帯域の光が支配的であればよく、バンド帯域B
Rod以外の波長帯域の光が完全に遮光されなくてもよい。フィルタ300Mの特性は、フィルタ300Mを透過する光のうち、M錐体細胞が感度を有する波長帯域の光が支配的であればよく、バンド帯域B
M以外の波長帯域の光が完全に遮光されなくてもよい。フィルタ300Lの特性は、フィルタ300Lを透過する光のうち、L錐体細胞が感度を有する波長帯域の光が支配的であればよく、バンド帯域B
L以外の波長帯域の光が完全に遮光されなくてもよい。
【0048】
また、カラーフィルタ300は、バント帯域が異なる3種類のフィルタ300Rod、300M、300Lのそれぞれついて、透過率の異なる複数のフィルタを含んでいる。詳しくは、カラーフィルタ300は、フィルタ300Rod、300M、300Lのそれぞれついて、バンド帯域内の透過率が10%から100%まで10%刻みで異なっている10種類のフィルタを有している。すなわち、カラーフィルタ300は、バンド帯域および透過率が異なる計30種類のフィルタを含んでいる。なお、カラーフィルタ300のバンド帯域内の透過率は、10%刻みで異ならせる必要はない。透過率の刻みを小さくし、カラーフィルタ300の数を増やすことにより、被検者500の各錐体細胞および桿体細胞の感度特性をより正確に検査できるが、検査に必要な時間と負荷が大きくなる。一方、透過率の刻みを大きく、カラーフィルタ300の数を減らすことにより、検査に必要な時間と負荷を低減できるが、被検者500の各錐体細胞および桿体細胞の感度特性の検査結果の正確性が小さくなる。
【0049】
また、本実施形態のフィルタ300Rod、300M、300Lの特性は、
図2に示される、最大値で規格化された各錐体細胞と桿体細胞の吸収スペクトルに基づいて設定されるが、本発明の実施形態はこの構成に限定されない。例えば、フィルタ300Rod、300M、300Lの特性は、最大値で規格化されていない各錐体細胞と桿体細胞の吸収スペクトルに基づいて設定されてもよい。各錐体細胞と桿体細胞の吸収スペクトルが最大値で規格化されていない場合、各吸収スペクトルの最大値は、100%ではなく、各細胞の間で異なる。この場合、各吸収スペクトルのピーク波長P
S、P
Rod、P
M、P
Lは、最大値で規格化されている場合のピーク波長P
S、P
Rod、P
M、P
Lと同じである。一方、2つの吸収スペクトルが交差する波長(例えば、波長X
S-Rod、波長X
Rod-M、波長X
M-L)は、最大値で規格化されている場合の波長とは異なる。このような、最大値で規格化されていない吸収スペクトルを用いることで、各フィルタ300Rod、300M、300Lの特性を細胞間の感度の違いを考慮したものとすることができる。
【0050】
[検査用画像]
次に、表示装置100に表示される検査用画像110について説明する。
図4は、検査用画像110の一例を示している。検査用画像110は、本願の提示画像の一例である。
【0051】
検査用画像110は、検査用画像110の中央付近に配置された円形の内側領域120と、その周辺の外側領域130を有している。検査用画像110の内側領域120と外側領域130とは異なる色を有している。
図4に示す例では、外側領域130は円形状を有しており、外側領域130の更に外側の周辺領域140は黒色である。
【0052】
内側領域120は、人の網膜上の中心窩に対応する領域である。内側領域120の大きさは、内側領域120から発した光が中心窩内に結像するように設定されている。例えば、内側領域120の大きさは、内側領域120を底面、被検者500の目を頂点とした円錐の頂角θ
IN(
図1参照)が約2度となるように設定されている。この約2度の頂角θ
INは、中心窩による視野の広さ(すなわち、視野角)に対応する。なお、内側領域120の直径は、視覚検査システム1の被検者500と表示装置100との間の距離に応じて異なる。また、内側領域120の大きさは、内側領域120から発した光が中心窩内に結像するように設定されていればよく、頂角θ
INは、厳密に2度でなくてもよい。
【0053】
外側領域130は、人の網膜上の中心窩の周囲の領域に対応する。外側領域130の大きさは、外側領域130から発した光が中心窩の外側にある桿体細胞に結像するように設定されている。例えば、外側領域130の大きさは、外側領域130を底面、被検者500の目を頂点とした円錐の頂角θ
OUT(
図1参照)が約40度となるように設定されている(
図1参照)。桿体細胞は、中心窩を視野の中心(0度)とした場合に、±20度付近に多く配置されている。そのため、外側領域130は、頂角θ
OUTが40度以上となるように設定されていることが望ましい。なお、外側領域130の形状は円形に限定されない。表示装置100の表示画面が矩形である場合、表示画面のうち、内側領域120以外の領域全てが外側領域130であってもよい。
【0054】
人の網膜上の中心窩には、緑色の光に対して感度を有するM錐体細胞と、赤色の光に対して感度を有するL錐体細胞が多く配置されている。また、中心窩には、S錐体細胞と桿体細胞はほとんど含まれていない。一方、中心窩の外側の領域には、S、M、L錐体細胞と桿体細胞が配置されている。
【0055】
人の視力は、中心窩を用いる場合に高くなる。人は、物や映像、文字を見る際に、主に中心窩に配置されたM、L錐体細胞を用いて、観察対象の形や色を認識している。つまり、人は、M錐体細胞とL錐体細胞のみで、色を認識することが可能である。また、人は、中心窩の周りのS、M錐体細胞や桿体細胞を用いることにより、色だけでなく、明るさを認識している。このことから、中心窩のM、L錐体細胞を対象とした視覚検査を行うことにより、人の色覚を検査することが可能である。また、中心窩の周りのS錐体細胞と桿体細胞を対象とした検査により、光過敏症の度合いを検査可能である。
【0056】
検査用画像110の内側領域120は、中心窩のM、L錐体細胞による色覚の検査に用いられる領域であり、有彩色を含んでいる。一方、外側領域130は無彩色である(すなわち、RGB色空間におけるR、G、B成分の大きさが同じである)ことが好ましい。これは、外側領域130に有彩色が用いられていると、外側領域130の色によって、内側領域120を用いた色覚の検査に影響する可能性があるからである。なお、外側領域130の色は、無彩色に限定されないが、桿体細胞が感度を有する色を含んでいる必要がある。例えば、外側領域130の色は、黒色(すなわち、R、G、B成分の大きさがゼロ)以外の色である。また、外側領域130の色は白色でもよい。また、外側領域130は、全体にわたって一様な色である必要はなく、輝度が比較的低い箇所や高い箇所を含んでいてもよい。
【0057】
内側領域120は、互いに異なる色を有する少なくとも2つの分割領域121、122を含んでいる。分割領域121の色と分割領域122の色との間で、R成分とG成分の一方又は両方の大きさが異なっている。分割領域121、122の色のB成分の大きさは任意である。具体的には、分割領域121と分割領域122との間で、B成分の大きさは同じであってもよく、異なっていてもよい。更に、分割領域121と分割領域122のB成分の大きさはゼロであってもよい。また、内側領域は色の異なる3つ以上の分割領域を含んでいてもよい。また、視覚検査には、内側領域120の分割領域の数、形状、色などが異なる複数種類の検査用画像110が用いられてもよい。
【0058】
また、分割領域121、122のうち、一方がR成分を有している(すなわち、R成分の大きさがゼロではない)場合、他方のR成分はゼロであってもよい。また、分割領域121、122のうち、一方がG成分を有している(すなわち、G成分の大きさがゼロではない)場合、他方のG成分はゼロであってもよい。
【0059】
内側領域120の2つの分割領域121、122の色は、色覚以上を有しない健常者が、この2つの分割領域121、122を見たときに、2つの色の違いを明瞭に認識できるように設定されている。
【0060】
外側領域130の色の明るさは、光過敏症を有しない健常者が、検査用画像110に対して眩しさを感じないように設定されている。
【0061】
[視覚検査方法]
次に、視覚検査システム1を用いた視覚検査方法について説明する。
図5は、本発明の実施形態における視覚検査方法のフローチャートを示す。
【0062】
[
図5の処理ステップS101]
処理ステップS101では、被検者500の光過敏症の度合いが検査される。言い換えると、被検者500のS錐体細胞と桿体細胞が、健常者よりもどの程度高い感度を有しているかが検査される。
【0063】
視覚検査の検査員は、表示装置100に検査用画像110を表示させて、被検者500に提示する。
【0064】
被検者500は、バンド帯域の透過率が異なる複数のフィルタ300Rodのうちの一つを装着し、遮光フード200内の表示装置100に表示された検査用画像110を観察する。このとき、被検者500は、検査用画像110の中央付近、すなわち、内側領域120に視線を向ける。これにより、外側領域130から発した光が、網膜上のうち、桿体細胞が多く配置された中心窩の外側の領域に結像する。
【0065】
被検者500は、バンド帯域BRodの透過率が異なる10種類のフィルタ300Rodを切り替えながら検査用画像110を観察する。そして、検査用画像110に対して眩しさを感じなかったフィルタ300Rodを選択する。なお、被検者500が検査用画像110に対して眩しさを感じなかったフィルタ300Rodが複数存在する場合、被検者500は、それらのフィルタ300Rodのうち最も透過率の高いフィルタ300Rodを選択する。被検者500が、検査用画像110に対して眩しさを感じない条件は、本願の第1検査条件の一例である。
【0066】
検査用画像110の明るさは、光過敏症を有しない健常者が、眩しさを感じないように設定されている。そのため、被検者500の光過敏症の度合いが小さい、あるいは、被検者が光過敏症を有していなければ、被検者500は、透過率が比較的高いフィルタ300Rodを選択する。一方、被検者500の光過敏症の度合いが大きい場合、被検者500は、透過率の比較的低いフィルタ300Rodを選択する。
【0067】
なお、被検者500が感じる眩しさは、被検者500の主観によるものである。そのため、被検者500が選択するフィルタ300Rodの透過率は、必ずしも、S錐体細胞と桿体細胞の感度の大きさのみによって決まらず、被検者500の視覚に対する好みの影響を含む。
【0068】
[
図5の処理ステップS102]
処理ステップS102では、被検者500が緑色の光と赤色の光のうち、いずれの光に対して低い(あるいは、高い)感度を有するかが検査される。言い換えると、被検者500のM錐体細胞の感度とL錐体細胞の感度との差が検査される。
【0069】
この検査は、例えば、周知の石原式色覚検査の図を用いて行われる。石原式色覚検査の図は、色覚異常の検査において一般的に使用される図である。石原式色覚検査の図は、色覚が正常な場合、或いは、色覚異常が適切に補正されている場合に文字(例えば、数字)が認識できるように色付けされている。石原式色覚検査の図を用いた検査は当業者にとって周知であるため、本明細書での説明は省略する。
【0070】
[
図5の処理ステップS103]
処理ステップS103では、被検者500の色覚が検査される。詳しくは、処理ステップS102の検査おいて、感度が高いと判断されたM錐体細胞とL錐体細胞のいずれか一方の感度が、他方の感度に比べてどの程度高いかが検査される。
【0071】
被検者500は、フィルタ300M、300Lのうち何れか一方を装着し、遮光フード200内の表示装置100に表示された検査用画像110を観察する。もし、処理ステップS102で、被検者500のM錐体細胞の方が、L錐体細胞に比べて高い感度を有していると判断された場合、被検者500は、フィルタ300Mを装着する。処理ステップS102で、被検者500のL錐体細胞の方が、M錐体細胞に比べて高い感度を有していると判断された場合、被検者500は、フィルタ300Lを装着する。
【0072】
被検者500は、フィルタ300M、300Lのうち何れか一方を装着した状態で、検査用画像110の中央付近、すなわち、内側領域120に視線を向ける。これにより、内側領域120から発した光が、網膜上のうち、M錐体細胞とL錐体細胞が多く配置された中心窩に結像する。
【0073】
被検者500は、バンド帯域の透過率が異なる10種類のフィルタ300M又はフィルタ300Lを切り替えながら検査用画像110を観察する。そして、内側領域120の複数の分割領域121、122の色の違いを明瞭に認識できるフィルタ300M又はフィルタ300Lを選択する。なお、被検者500が、複数の分割領域121、122の色の違いを明瞭に認識できるフィルタ300M又はフィルタ300Lが複数存在する場合、その中で色の違いを最も明瞭に認識可能なフィルタ300M又はフィルタ300Lが選択される。被検者500が、分割領域121、122の色の違いを明瞭に認識できる条件が、本願の第2検査条件の一例である。
【0074】
例えば、被検者500のM錐体細胞の感度が、L錐体細胞の感度よりも大きい場合、処理ステップS103で、被検者500はフィルタ300Mを装着する。そして、被検者500が、分割領域121、122の色の違いを最も明瞭に認識できるフィルタ300Mを選択する。もし、M錐体細胞の感度とL錐体細胞の感度との差が小さい場合、被検者500は、バンド帯域BMの透過率の比較的高いフィルタ300Mを選択する。また、M錐体細胞の感度がL錐体細胞の感度よりも大きいほど、被検者500は、バンド帯域BMの透過率の低いフィルタ300Mを選択する。
【0075】
なお、被検者500が感じる分割領域121、122の色の違いは、被検者500の主観によるものである。そのため、被検者500が選択するフィルタ300M又はフィルタ300Lは、必ずしもM錐体細胞とL錐体細胞との感度の違いのみによって決まらず、被検者500の色覚に対する好みの影響を含む。
【0076】
なお、被検者500が、M錐体細胞とL錐体細胞の両方について、健常者よりも低い(あるいは高い)感度を有している場合もありえる。そのため、処理ステップS103では、被検者500がフィルタ300Mを装着した状態での検査と、被検者500が300Lを装着した状態での検査との両方が行われてもよい。これにより、被検者500のM錐体細胞とL錐体細胞の感度が、健常者のM錐体細胞とL錐体細胞の感度に対してどの程度異なるかを検査することができる。
【0077】
また、被検者500が光過敏症を有していないことが予め分かっている場合は、処理ステップS101が省略されてもよい。また、被検者500の光過敏症の度合いのみを検査する場合は、処理ステップS101のみが実行されてもよい。
【0078】
[補正フィルタ]
視覚検査方法によって被検者500の視覚特性が検査されると、その検査結果は、被検者500の視覚特性を補正する補正フィルタの作製に使用される。補正フィルタは、透過スペクトルを変更させるものであればよく、その材料や透過スペクトルを変更させる原理については特に限定されない。なお、補正フィルタは、本願の光学フィルタの一例である。
【0079】
補正フィルタの特性は、処理ステップS101で選択されたフィルタ300Rodの特性および、処理ステップS103で選択されたフィルタ300Mとフィルタ300Lはとのいずれか一方、又は、両方の特性に基づいて決定される。
【0080】
補正フィルタのうち、フィルタ300Rodと同じバンド帯域BRodの透過率は、選択されたフィルタ300Rodと略同じ透過率に設定される。
【0081】
補正フィルタのうち、フィルタ300Mと同じバンド帯域BMの透過率は、処理ステップS103でフィルタ300Mが選択された場合は選択されたフィルタ300Mと略同じ透過率に設定される。一方、処理ステップS103でフィルタ300Mが選択されていない場合(例えば、フィルタ300Lのみが選択された場合)、補正フィルタのバンド帯域BMの透過率は、略100%に設定される。
【0082】
補正フィルタのうち、フィルタ300Lと同じバンド帯域BLの透過率は、処理ステップS103でフィルタ300Lが選択された場合は選択されたフィルタ300Lと略同じ透過率に設定される。一方、処理ステップS103でフィルタ300Lが選択されていない場合(例えば、フィルタ300Mのみが選択された場合)、補正フィルタのバンド帯域BLの透過率は、略100%に設定される。
【0083】
図6に、補正フィルタの特性の一例を示す。
図6の横軸は光の波長を示し、縦軸は補正フィルタの光の透過率を示す。
図6において示される補正フィルタは、処理ステップS101で、バンド帯域B
Rodの透過率が30%のフィルタ300Rodが選択され、処理ステップS102で、被検者500が赤色の光に対する感度が、緑色に対する感度よりも高いと判断され、処理ステップS103で、バンド帯域B
Lの透過率が50%のフィルタ300Lが選択された場合の例である。なお、
図6には、各錐体細胞と桿体細胞の吸収スペクトルが重ねて示されており、
図6の右側の縦軸が各錐体細胞と桿体細胞の吸収率を示している。
【0084】
図6に示されるように、補正フィルタのバンド帯域B
Rodにおける透過率は30%、バンド帯域B
Mにおける透過率は100%、バンド帯域B
Lにおける透過率は50%である。なお、
図6に示す例では、バンド帯域B
Rodよりも波長が短い領域の透過率はほぼ0%である。これは、光過敏症を有する被検者500が感じる眩しさを軽減するためである。ただし、被検者500の光過敏症は、補正フィルタのバンド帯域B
Rodにおける透過率を下げることによって補正されているため、バンド帯域B
Rodよりも波長が短い領域の透過率は0%でなくてもよい。また、
図6に示す例では、バンド帯域BLでは、波長X
M-L(約548nm)以上がすべて50%に設定されている。ただし、波長650nm前後付近よりも長い波長の光は、いずれの錐体細胞および桿体細胞においても吸収率が低く、人の色覚に対してほとんど影響を与えない。そのため、補正フィルタの波長650nm前後付近よりも長い波長の光に対する透過率は、どのような値に設定されていてもよい。
【0085】
また、
図6に示す例では、3つのバンド帯域B
Rod、B
M、B
Lの間にギャップがない。しかし、使用するフィルタ300Rod、300M、300Lの特性によっては、3つのバンド帯域B
Rod、B
M、B
Lの間にギャップが生じる場合がある。例えば、フィルタ300Rodのバンド帯域B
Rodの上限が波長P
Rodであり、且つ、フィルタ300Mのバンド帯域B
Mの下限が波長X
Rod-Mである場合、バンド帯域B
Rodとバンド帯域B
Mとの間にギャップが生じる。この場合、補正フィルタの波長P
Rodと波長X
Rod-Mとの間の透過率は、バンド帯域B
Rodにおける透過率とバンド帯域B
Mにおける透過率との間の透過率に設定されてもよく、約0%に設定されてもよい。
【0086】
このように、視覚特性の検査結果に基づいて補正フィルタを作製し、被検者500がこの補正フィルタを装着することにより、被検者500の視覚特性を補正することができる。詳しくは、この補正フィルタにより、被検者500のS錐体細胞と桿体細胞に起因する光過敏症を抑えることができる。また、この補正フィルタにより、被検者500のM錐体細胞とL錐体細胞の感度差又は感度比に起因する色覚異常を緩和することができる。
【0087】
また、本実施形態では、被検者500が、透過率の異なる複数のフィルタ300Rod(本実施形態では、最大10種類のフィルタ300Rod)を交換しながら、検査用画像110を観察することにより、光過敏症の度合いを検査することができる。また、本実施形態では、フィルタ300Rodは、S錐体細胞と桿体細胞が感度を有する光を透過させるため、桿体細胞に起因する光過敏症の度合いを検査することができる。
【0088】
また、被検者500が、透過率の異なる複数のフィルタ300M、又は、透過率の異なる複数のフィルタ300L(本実施形態では、最大10種類のフィルタ300M、又は、最大10種類のフィルタ300L)を交換しながら、検査用画像110を観察することにより、被検者500の色覚を検査することができる。また、本実施形態では、フィルタ300MはM錐体細胞が感度を有する光を透過させ、フィルタ300LはL錐体細胞が感度を有する光を透過させるため、M錐体細胞とL錐体細胞との間の感度差又は感度比に起因する色覚異常を検査することができる。
【0089】
更に、本実施形態では、カラーフィルタ300として、フィルタ300Rod、フィルタ300M、フィルタ300Lのそれぞれについて、互いに透過率が異なる10種類のフィルタが用意される。しかし、本実施形態では、被検者500の視覚特性を検査するための、これらのカラーフィルタ300の全ての組み合わせについて検査を行う必要はない。本実施形態では、各錐体細胞と桿体細胞の特性を考慮した独自の視覚特性の測定方法により被検者500の視覚特性を検査しており、検査に使用するカラーフィルタ300は20種類(フィルタ300Rodが10種類、フィルタ300M又は300Lが10種類)のみである。そのため、視覚検査によって生じる被検者500および視覚検査の検査員への負担を抑えることができる。
【0090】
また、本実施形態では、検査用画像110として、中心窩に対応する内側領域120に、それぞれ異なる色を有する複数の分割領域121、122を設け、その周辺の外側領域130を無彩色にしている。これにより、一つの検査用画像110のみで、被検者500の色覚特性(すなわち、M錐体細胞とL錐体細胞の感度の差又は比に相当する特性)と光過敏症の度合い(すなわち、S錐体細胞や桿体細胞の感度に相当する特性)を検査することが可能である。そのため、視覚検査によって生じる被検者および検査員への負担を抑え、かつ、各錐体細胞と桿体細胞の特性を考慮した正確な視覚特性を検査することができる。
【0091】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた内容も本発明の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1 視覚検査システム
100 表示装置
200 遮光フード
300 カラーフィルタ
500 被検者