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特許7337376ダブルナット機構、並びにこれを備えた締結ネジ機構および金属製アンカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】ダブルナット機構、並びにこれを備えた締結ネジ機構および金属製アンカー
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/12 20060101AFI20230828BHJP
   F16B 39/30 20060101ALI20230828BHJP
   F16B 35/04 20060101ALI20230828BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
F16B39/12 A
F16B39/30 E
F16B35/04 B
F16B35/04 C
E04B1/41 501
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019185412
(22)【出願日】2019-10-08
(65)【公開番号】P2021060095
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】506162828
【氏名又は名称】FSテクニカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正吾
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-301829(JP,A)
【文献】特開2000-120644(JP,A)
【文献】登録実用新案第3144051(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/12
F16B 39/30
F16B 35/04
E04B 1/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト部材に螺合し、前記ボルト部材との間に配設した被締結対象物を締結するダブルナット機構であって、
前記ボルト部材のボルト軸部に螺合する内ナット部材と、前記内ナット部材に先端側から螺合する外ナット部材と、を備えると共に、
前記外ナット部材を螺合した前記内ナット部材を前記ボルト部材に螺合し、前記内ナット部材により仮締めした後、前記内ナット部材を固定としておいて前記外ナット部材を本締めとする締付け形態を採るものにおいて、
前記内ナット部材は、内周面に形成され前記ボルト軸部に螺合する内ナット雌ネジ部と、外周面に形成された内ナット工具掛け部および前記内ナット工具掛け部に連なる内ナット雄ネジ部と、を有し、
前記外ナット部材は、内周面に形成され前記内ナット雄ネジ部に螺合する外ナット雌ネジ部および前記外ナット雌ネジ部に小径となって連なる環状段部と、外周面に形成された外ナット工具掛け部と、を有し、
前記ボルト軸部および前記内ナット雌ネジ部から成る第1ネジ機構と、前記内ナット雄ネジ部および前記外ナット雌ネジ部から成る第2ネジ機構とは、同ピッチ且つ同リードの右ネジで構成されていることを特徴とするダブルナット機構。
【請求項2】
請求項1に記載のダブルナット機構と、
前記ダブルナット機構が螺合する前記ボルト部材と、を備えたことを特徴とする締結ネジ機構。
【請求項3】
請求項1に記載のダブルナット機構と、
前記ダブルナット機構が螺合するボルト部材と、を備え、
前記ボルト部材が、コンクリート躯体に定着されるアンカーボルトであることを特徴とする金属製アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩止め機能を奏するダブルナット機構、並びにこれを備えた締結ネジ機構および金属製アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダブルナット機構として、外溝部を介して螺合部と固着部とを一体化したナットを有する締結具が知られている(特許文献1参照)。
この締結具は、ボルトにナットを螺合して部材を締結固定するものであって、ナットは、内周面に雌ネジ部を有し、外周面に締結用工具がそれぞれ係合する螺合部および固着部を有すると共に、螺合部と固着部との間に環状の外溝部を有している。また、螺合部の外溝部側の内周面には、軸方向において外溝部との間に環状の破断部を存して環状の内溝部が形成されている。
ボルトにナットを螺合し、螺合部により部材を締め付けてゆくと、所定の締付力に達したところで、破断部が破断する。さらに、螺合部の締め付けを行い、螺合部を固着部に圧接させることで、緩み止め効果および戻り止め効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6363270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来の締結具では、螺合部を締め付けると破断部が破断し、さらに、螺合部を締め付けて固着部に圧接させると、螺合部と固着部とがダブルナットの構造となって緩み止め効果を得るようになっている。
このダブルナットの構造では、螺合部が締付けナット(本ナット:上ナット)として機能し、固着部が止めナット(ロックナット:下ナット)として機能する。締め付けた上ナットと下ナットとは、相互に逆方向にボルトを強く引くことになり、ボルトに生ずる上ナットおよび下ナット間の引張り力(ロッキング力)による、ネジ山間の接触面圧力が緩み止めとして機能する。
したがって、従来の締結具において、厳密な意味でダブルナットの構造(緩み止め)を得るためには、最終的に上ナット(螺合部)および下ナット(固着部)に締付工具を掛けておいて、下ナットをわずかに逆転させて所望のロッキング力を得ることとなる。
ところで、この種のダブルナットでは、ボルトの上ナット-下ナット間に生ずる部分引張り力(の反力)がロッキング力となり、且つロッキング力を得る分、ボルトの軸力が低下することとなる(下ナットをわずかに逆転)。このため、従来のダブルナットでは、ロッキング力を大きくしようとすると軸力が小さくなり、軸力を大きくしようとするとロッキング力が小さくなってしまう、特有の問題があった。このため、緩止め効果は、ワッシャー類よりは大きいものの、さほど大きなものではなく、且つ高い軸力を必要とするものには、不向きであった。
【0005】
本発明は、ボルト部材の軸力を低下させることなく、極めて大きなロッキング力を得ることができるダブルナット機構、並びにこれを備えた締結ネジ機構および金属製アンカーを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のダブルナット機構は、ボルト部材に螺合し、ボルト部材との間に配設した被締結対象物を締結するダブルナット機構であって、ボルト部材のボルト軸部に螺合する内ナット部材と、内ナット部材に先端側から螺合する外ナット部材と、を備えると共に、外ナット部材を螺合した内ナット部材をボルト部材に螺合し、内ナット部材により仮締めした後、内ナット部材を固定としておいて外ナット部材を本締めとする締付け形態を採るものにおいて、内ナット部材は、内周面に形成されボルト軸部に螺合する内ナット雌ネジ部と、外周面に形成された内ナット工具掛け部および内ナット工具掛け部に連なる内ナット雄ネジ部と、を有し、外ナット部材は、内周面に形成され内ナット雄ネジ部に螺合する外ナット雌ネジ部および外ナット雌ネジ部に小径となって連なる環状段部と、外周面に形成された外ナット工具掛け部と、を有し、ボルト軸部およびット雌ネジ部から成る第1ネジ機構と、内ナット雄ネジ部および前記外ナット雌ネジ部から成る第2ネジ機構とは、同ピッチ且つ同リードの右ネジで構成されていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、先ず内ナット部材に外ナット部材を螺合する。次に、被締結対象物を締結すべく、内ナット部材および外ナット部材をボルト部材に螺合し、内ナット部材を仮締めする。最後に、内ナット部材を回止めとして状態で、外ナット部材を本締めする。このようにして、内ナット部材および外ナット部材を締め付けることにより、外ナット部材は内ナット部材を引き、内ナット部材はボルト部材を引くことになり、この引張り力によりボルト部材に軸力が生ずる。そして、この軸力により被締結対象物が圧縮されるようにして締結される。
この場合、内ナット部材では、軸力によりネジ山の上斜面がボルト部材のネジ山の下斜面と密接し、外ナット部材では、ネジ山の上斜面が内ナット部材のネジ山の下斜面と密接する(図4(c)参照)。すなわち、ボルト部材の軸力に基づくネジ山間の接触面圧力が、内ナット部材の内周側と外周側とにおいて逆方向に作用し、これがロッキング力となり、このロッキング力が緩止めとして機能する。
このように、ボルト部材の軸力を、ロッキング力として利用することができるため、上記従来のダブルナットに比して、極めて大きなロッキング力(接触面圧力)を得ることができる。また、構造上、上記従来のダブルナットのようにロッキング力が軸力に対しマイナスに作用することがなく、軸力が低下することが無い。したがって、高い緩止め機能を得ることができる。
【0012】
本発明の締結ネジ機構は、上記したダブルナット機構と、ダブルナット機構が螺合するボルト部材と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ボルト部材の軸力を低下させることなく、極めて大きなロッキング力(接触面圧力)を得ることができる。したがって、高い緩止め機能を得ることができるだけでなく、大きく軸力を必要とする被締結対象物に好適なものとなる。
【0014】
本発明の金属製アンカーは、上記したダブルナット機構と、ダブルナット機構が螺合するボルト部材と、を備え、ボルト部材が、コンクリート躯体に定着されるアンカーボルトであることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、ボルト部材の軸力を低下させることなく、極めて大きなロッキング力(接触面圧力)を得ることができる。したがって、高い緩止め機能を得ることができるだけでなく、大きな軸力を必要とする被締結対象物、特に振動や衝撃を伴う被締結対象物の支持(締結)に好適なものとなる。
なお、金属製アンカーには、金属拡張アンカーや金属製のアンカーボルトを接着剤により定着させる接着系アンカー等のあと施工アンカーの他、コンクリートの打設時に埋め込む先付アンカーが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態(第1実施形態)に係る締結ネジ機構の構造図であって、締結に先立つ分解状態の図(a)、および締結状態の図(b)である。
図2】ダブルナット機構における内ナット部材の構造図(a)、および外ナット部材の構造図(b)である。
図3】締結ネジ機構における締付け方法の説明図であって、内ナット部材と外ナット部材とを組んだ図(a)、ダブルナット機構をボルト部材に仮締めした図(b)、およびダブルナット機構をボルト部材に本締めした図(c)である。
図4】ダブルナット機構の緩止め機能を、他のナット類と比較するための説明図であって、通常のナットによる締結図(a)、通常のダブルナットによる締結図(b)、および本実施形態のダブルナット機構による締結図(c)である。
図5】実施形態(第2実施形態)に係るあと施工アンカーの構造図である。
図6】第1変形例に係るダブルナット機構の分解図(a)、および第2変形例に係るダブルナット機構の分解図(b)である。
図7】第3変形例としてのダブルナット機構およびワッシャーの分解図(a)、およびワッシャーの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るダブルナット機構、並びにこれを適用した締結ネジ機構および金属製アンカーについて説明する。緩止めとして用いる既存のダブルナットが、いわゆる上ナット(本ナット)および下ナット(止めナット)の形態を有するのに対し、このダブルナット機構は、内ナットおよび外ナットの形態を有し、いずれも本ナットの機能を有している。締結ネジ機構は、被締結対象物を締結するボルトおよびナットの、ナットにこのダブルナット機構を適用したものである。
【0018】
同様に、金属製アンカーは、アンカーボルトに被締結対象物を締結するナットに、このダブルナット機構を適用したものであり、本実施形態のものは、ダブルナット機構を適用した金属拡張アンカー(あと施工アンカー)である。以下、ダブルナット機構を適用した締結ネジ機構およびあと施工アンカー(金属拡張アンカー)について説明する。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、被締結対象物を締結する締結ネジ機構の構造図である。同図に示すように、この締結ネジ機構10は、被締結対象物Cである第1板材Caと第2板材Cbとを重ね合わせて接合する接合部材として機能させたものである。締結ネジ機構10は、締結ボルト11(ボルト部材)と、ダブルナット機構12とを備え、ダブルナット機構12は、内ナット部材14と外ナット部材15とを有している。この場合、締結ボルト11およびダブルナット機構12は、スチールやステンレス等で形成されている。
【0020】
第1板材Caおよび第2板材Cbには、同軸上において、いわゆるバカ孔Caa,Cbaがそれぞれ形成され、このバカ孔Caa,Cbaに締結ボルト11のボルト軸部17が挿通している。ボルト頭部18は、図示の下側から第2板材Cbに宛がわれ、ボルト軸部17に螺合したダブルナット機構12により、第1板材Caおよび第2板材Cbがボルト頭部18との間に挟持されるようにして締結される。
【0021】
締結ボルト11は、雄ネジ17aが形成されたボルト軸部17と、ボルト軸部17に連なるボルト頭部18とから成り、ごく一般的なボルトで構成されている。すなわち、締結ボルト11は、いわゆる六角ボルトであり、雄ネジ17aは、いわゆるメートルネジ等の一条ネジであり且つ右ネジで構成されている。
【0022】
図1および図2に示すように、ダブルナット機構12は、ボルト軸部17に螺合する内ナット部材14と、内ナット部材14に対し第1板材Ca(被締結対象物C)側に位置し、内ナット部材14に螺合する外ナット部材15と、を備えている。内ナット部材14と外ナット部材15とは、相互に螺合するようにして組み付けておいて、締結ボルト11に螺合するようになっており、締め付けた状態で、外ナット部材15の座面15aが第1板材Caに着座する。
【0023】
内ナット部材14は、内周面に形成されボルト軸部17に螺合する内ナット雌ネジ部21と、外周面に形成された内ナット工具掛け部22および内ナット工具掛け部22に連なる内ナット雄ネジ部23と、を有している。内ナット雌ネジ部21は、内ナット部材14の内周面において軸方向の全域に形成されており、この内ナット雌ネジ部21とボルト軸部17の雄ネジ17aとにより、一条ネジ且つ右ネジの第1ネジ機構25が構成されている。
【0024】
内ナット部材14の外周面において、内ナット工具掛け部22は図示の上側半部に形成され、内ナット雄ネジ部23は図示の下側半部に形成されている。この場合の内ナット工具掛け部22は、スパナやレンチ用の六角のもので構成されている。また、外ナット部材15が螺合する内ナット雄ネジ部23は、第1ネジ機構25と同ピッチのネジ山を有する一条ネジ且つ右ネジで構成されている。
【0025】
外ナット部材15は、内周面に形成され内ナット雄ネジ部23に螺合する外ナット雌ネジ部31および外ナット雌ネジ部31に連なる環状段部32と、外周面に形成された外ナット工具掛け部33と、有している。外ナット雌ネジ部31は、第1ネジ機構25よりも十分に太径に形成され、軸方向において内ナット雄ネジ部23に対応する長さを有している。環状段部32は、外ナット部材15の座面15aの一部を構成している。そして、内ナット雄ネジ部23と外ナット雌ネジ部33とにより、一条ネジ且つ右ネジの第2ネジ機構35が構成されている。言うまでもないが、第1ネジ機構25と第2ネジ機構35とは、同ピッチ且つ同リードのネジ山を有している。
【0026】
[締付け方法]
次に、図3を参照して、ダブルナット機構12(締結ネジ機構10)の締付け方法について説明する。この締付け方法では、第1板材Caおよび第2板材Cbに挿通した締結ボルト11(ボルト軸部17)にダブルナット機構12を締め付けるが、ダブルナット機構12を構成する内ナット部材14と外ナット部材15とは、予め接合しておく(図3(a)参照)。すなわち、内ナット部材14の図示下端に外ナット部材15の上端が当接するように、内ナット部材14と外ナット部材15とを相互に螺合しておく(軽く締め付けておく)。
【0027】
次に、接合した内ナット部材14と外ナット部材15とを、締結ボルト11のボルト軸部17に螺合する。好ましくは、内ナット部材14の内ナット工具掛け部22を把持し、内ナット部材14および外ナット部材15をボルト軸部17にねじ込んでゆく。外ナット部材15が、第1板材Caに当接したら、レンチ等で内ナット部材14を仮締めする(図3(b)参照)。
【0028】
次に、内ナット部材14にレンチを掛けたまま(回止め)、他のレンチにより外ナット部材15を本締めする(図3(c)参照)。なお、本締めは、トルクレンチ等を用い、所定のトルクで締め付ける。
【0029】
このようにして、第1板材Caおよび第2板材Cbを挟み込んだ状態で、締結ボルト11に内ナット部材14および外ナット部材15(ダブルナット機構12)を締め付けると、軸方向において、内ナット部材14、外ナット部材15、第1板材Caおよび第2板材Cbに圧縮力が生じ、締結ボルト11に引張り力が生ずる。すなわち、締結ボルト11に第1板材Caおよび第2板材Cbを締結する軸力が生ずる。
【0030】
[緩止め機能]
ここで、図4を参照して、本実施形態のダブルナット機構12の緩止め機能について、他のナット類と比較しながら説明する。
【0031】
図4(a)は、被締結対象物Cを通常のナットNによりで締め付けたものである。被締結対象物Cとの間に座金Wを介在させた状態で、所定の締付け力によりナットNを締め付ける。このナットNの締付けによりボルトBに軸力が生じ、この軸力により被締結対象物C(第1板材Caおよび第2板材Cb)が締結される。この場合、ナットNを締付けると、ナットNのネジ山の上斜面がボルトBのネジ山の下斜面と密接し(ネジ山の詳細図参照)、この接触面圧力が緩止めとして機能する。すなわち、ナットNは、ボルトBの軸力(ナットNの締付け力)に基づく接触面圧力により緩みが抑制されている。
【0032】
一方、被締結対象物Cからの振動や衝撃によりボルトBが瞬間的に伸長し、この接触面圧力が低下すると、微小に戻り回転し緩むこととなる。したがって、この場合のナットNは、ボルトBの軸力が低下するような振動等によって緩みを生ずることとなる。なお、高力ボルト等では、軸力が極端に大きいため、振動の影響を受け難いこともあって(がたつかない)、極めて緩み難いものとなっている。
【0033】
図4(b)は、被締結対象物Cを通常のダブルナットNNによりで締め付けたものである。ダブルナットNNの締付け方法は、先ず下ナットLNをボルトBに適度に締め付ける(仮締め)。次に、上ナットUNを所定の締付け力で締め付ける(本締め)。最後に、上ナットUNを回止めとしておいて、下ナットLNを逆方向に回転させて軽く締め付けるものである。これが、ダブルナットNNの正しい締付け方法であり、いわゆる「下ナット逆転法」といわれるものである。
【0034】
これにより、上ナットUNはボルトBを上方に引き、下ナットLNはボルトBを下方に引くため、ボルトBにおける上ナットUNの位置と下ナットLNの位置との間に引張り力が生ずる。このボルトBの部分引張り力により、上ナットUNでは、ネジ山の上斜面がボルトBのネジ山の下斜面と密接し、下ナットLNでは、ネジ山の下斜面がボルトBのネジ山の上斜面と密接する(ネジ山の詳細図参照)。すなわち、ボルトBの部分引張り力(下ナットLNの逆転締付け力)に基づく接触面圧力が、上ナットUNと下ナットLNでは逆方向に作用し、これがいわゆるロッキング力であり、このロッキング力が緩止めとして機能する。
【0035】
下ナットLNの逆転は、下ナットLNに接触面圧力を生じさせるものであるため、これを行わないと、ダブルナットNNの緩止め機能は発揮されない。このため、ダブルナットNNでは、接触面圧力分、上ナットUNによるボルトBの軸力は低下する。したがって、ダブルナットNNは、大きな軸力を必要としないものに用いられている。
【0036】
ダブルナットNNは、上ナットUNに対応するボルトBの部分に上記の部分引張り力に抗する伸長が、下ナットLNに対応するボルトBの部分に上記の部分引張り力に抗する圧縮が作用したときに、緩みを生ずる。すなわち、波長のごく短い振動等により、緩みを生ずることがある。部分引張り力は、軸力に比して十分に小さいものであり、この場合の軸力も比較的小さく振動等の影響を受けやすいものとなる。このため、ダブルナットNNの緩止め効果は、ワッシャー類よりも高いが極端に高いものではない。
【0037】
図4(c)は、被締結対象物Cを本実施形態のダブルナット機構12により締め付けたものである。この締付け方法は、上述のように、内ナット部材14と外ナット部材15とを相互に螺合しておいて、締結ボルト11にネジ込み、内ナット部材14を締め付けた後、内ナット部材14を回止めとしておいて外ナット部材15を本締めする。
【0038】
これにより、外ナット部材15および内ナット部材14は、締結ボルト11を上方に引くことになり、締結ボルト11に軸力が発生する。この締結ボルト11の軸力により、内ナット部材14では、ネジ山の上斜面が締結ボルト11のネジ山の下斜面と密接し、外ナット部材15では、ネジ山の上斜面が内ナット部材14のネジ山の下斜面と密接する(ネジ山の詳細図参照)。すなわち、締結ボルト11の軸力に基づく接触面圧力が、内ナット部材14の内周側と外周側とにおいて逆方向に作用し、これがロッキング力となり、このロッキング力が緩止めとして機能する。
【0039】
この場合のロッキング力は、締結ボルト11の軸力に基づくものであり、上記のダブルナットNNのロッキング力よりも数段大きなものとなる。また、内ナット部材14と外ナット部材15とは、軸方向において、略同位置に配設されているため、締結ボルト11が伸縮する振動等を受けても、締結ボルト11-内ナット部材14間の接触面圧力が弱くなったときに内ナット部材14-外ナット部材15間の接触面圧力が強くなり、逆に内ナット部材14-外ナット部材15間の接触面圧力が弱くなったときに締結ボルト11-内ナット部材14間の接触面圧力が強くなるため、内ナット部材14および外ナット部材15は極めて緩み難いものとなる。
【0040】
以上のように、本実施形態では、締結ボルト11の軸力を、ダブルナット機構12のロッキング力として利用することができるため、従来のダブルナットNNに比して、極めて大きなロッキング力(接触面圧力)を得ることができる。また、構造上、従来のダブルナットNNのようにロッキング力が軸力に対しマイナスに作用することがなく、軸力が低下することが無い。したがって、高い緩止め機能を得ることができる。
【0041】
なお、本発明の締結ネジ機構10は、鉄骨造の建築物な鉄骨造の橋梁等において、鋼材同士を接合する高力ボルト(高力ボルト接合)にも、適用可能である。特に、振動や衝撃を受ける橋梁等に有用である。
【0042】
[第2実施形態]
次に、図5を参照して、ダブルナット機構12を適用したあと施工アンカー(金属製アンカー)について説明する。
このあと施工アンカー40は、コンクリート躯体Aに定着される、いわゆる金属拡張アンカーであり、アンカーボルト42を主体とするアンカー本体41と、アンカーボルト42の露出部分に螺合するダブルナット機構12と、を備えている。アンカー本体41は、先端部にコーン部43aを有する打込みスリーブ43と、打込みスリーブ43に挿通するアンカーボルト42と、アンカーボルト42に先端部に螺合し、打込みスリーブ43のコーン部43aにより拡開される拡開ナット44と、を有している。
【0043】
このアンカー本体41は、アンカーボルト42に螺合した拡開ナット44に対し、打込みスリーブ43を打ち込むことにより、拡開ナット43の打込みスリーブ43側の半部である拡開部44aが拡開する。一方、コンクリート躯体Aに形成された下穴Hには、穴奥に拡径部Haが形成されており、拡開した拡開ナット44の拡開部44aは、拡径部Haの周壁に向かって広がり、拡径部Haに定着される。一方、定着されたアンカーボルト42の基端側は、下穴Hから突出して露出しており、この部分において、被締結対象物Cがダブルナット機構12により締結される。
【0044】
ダブルナット機構12は、上記のものと同様に、アンカーボルト42に螺合する内ナット部材14と、内ナット部材14に対し被締結対象物C側に位置し、内ナット部材14に螺合する外ナット部材15と、を備えている。下穴Hを介してアンカー本体41をコンクリート躯体Aに定着させた後、アンカーボルト42の露出部分に被締結対象物C(のベースプレート)を設置し、これをダブルナット機構12により締結する。
【0045】
このように、ダブルナット機構12により、アンカーボルト42に被締結対象物Cを固定するようにしているため、高い緩止め機能を得ることができるだけでなく、大きな軸力を必要とする被締結対象物C、特に振動や衝撃を伴う被締結対象物Cの支持(締結)に好適なものとなる。なお、ダブルナット機構12は、接着系のあと施工アンカー40にも適用可能であるし、先付けアンカーにも適用可能である。
【0046】
[変形例]
次に、図6および図7を参照して、これらの実施形態に共通するダブルナット機構12の変形例について説明する。図6(a)は、第1変形例に係るダブルナット機構12Aであり、図6(b)は、第2変形例に係るダブルナット機構12Bである。また、図7は、第1実施形態のダブルナット機構12に、特殊なワッシャー50を付加したものである。
【0047】
[第1変形例]
図6(a)に示すように、第1変形例に係るダブルナット機構12Aでは、第1ネジ機構25のリードに対し、第2ネジ機構35Aのリードが長く形成されている。すなわち、ボルト軸部17と内ナット雌ネジ部21とから成る第1ネジ機構25のリードに対し、内ナット雄ネジ部23と外ナット雌ネジ部31とから成る第2ネジ機構35Aのリードが長く形成されている。言い換えれば、このダブルナット機構12Aでは、第1ネジ機構25のピッチに対し、第2ネジ機構35Aのピッチが長く形成されている。
【0048】
この場合の締付け方法は、には、先ず内ナット部材14に外ナット部材15を螺合する。次に、内ナット部材14および外ナット部材15を締結ボルト11(アンカーボルト42)に螺合し、内ナット部材14を仮締めする。最後に、外ナット部材15を回止めとして状態で、内ナット部材14を逆転させて本締めとする。
【0049】
このダブルナット機構12Aでは、第1ネジ機構25のリードに対して、第2ネジ機構35Aのリードが長いため、本締めにおいて内ナット部材14を逆転させると、両ネジ機構25,35Aのリードの相違により、内ナット部材14の内周側と外周側との間でこれを撓ませようとする力が作用する。すなわち、この撓ませようとする力と軸力との和に基づくロッキング力を得ることができる。したがって、極めて高い緩止め機能を得ることができる。
【0050】
[第2変形例]
図6(b)に示すように、第2変形例に係るダブルナット機構12Bは、第1ネジ機構25が右ネジで構成される一方、第2ネジ機構35Bは左ネジで構成されている。すなわち、ボルト軸部17と内ナット雌ネジ部21とから成る第1ネジ機構25は、右ネジで構成され、内ナット雄ネジ部23と外ナット雌ネジ部31とから成る第2ネジ機構35Bは、左ネジで構成されている。
【0051】
この場合の締付け方法は、先ず内ナット部材14に外ナット部材15を螺合する。次に、内ナット部材14および外ナット部材15を締結ボルト11(アンカーボルト42)に螺合し、内ナット部材14(右ネジ)を仮締めする。最後に、内ナット部材14を回止めとして状態で、外ナット部材15(左ネジ)を本締めする。
【0052】
このダブルナット機構12Bでも、締結ボルト11(アンカーボルト42)の軸力に基づくネジ山間の接触面圧力が、内ナット部材14の内周側と外周側とにおいて逆方向に働き、これがロッキング力となり、このロッキング力が緩止めとして機能する。したがって、高い緩止め機能を得ることができる。
【0053】
なお、この場合も、逆ネジではあるが、第1ネジ機構25のリード(ピッチ)に対して、第2ネジ機構35Bのリード(ピッチ)が長くすることも可能である。かかる場合には、内ナット部材14および外ナット部材15を締結ボルト11(アンカーボルト42)に螺合し、内ナット部材14をそのまま本締めすることで、適切な締結状態とすることができる。
【0054】
[第3変形例]
図7は、第1実施形態のダブルナット機構12に、特殊な形態の特殊ワッシャー50を付加したものである。特殊ワッシャー50は、円環状に形成されたワッシャー本体51と、ワッシャー本体51の周方向の一部に、且つ表裏両面にダイヤモンド52を固着して構成されている(図7(b)参照)。この場合、ダイヤモンド52は、ワッシャー本体51の表面および裏面からわずかに突出(盛り上がる)している。
【0055】
このため、特殊ワッシャー50を設けた締結ボルト11(アンカーボルト42)に、ダブルナット機構12を螺合してゆくと、特殊ワッシャー50の表側のダイヤモンド52は、ダブルナット機構12の外ナット部材15に食い込み、裏側のダイヤモンド52は、被締結対象物Cに食い込むことになる。また、外ナット部材15は、表裏のダイヤモンド52により、わずかに傾くこととなる。これにより、より一層高い緩止め機能を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
10…締結ネジ機構、11…締結ボルト、12,12A,12B…ダブルナット機構、14…内ナット部材、15…外ナット部材、17…ボルト軸部、17a…雄ネジ、18…ボルト頭部、21…内ナット雌ネジ部、22…内ナット工具掛け部、23…内ナット雄ネジ部、25…第1ネジ機構、31…外ナット雌ネジ部、32…環状段部、33…外ナット工具掛け部、35,35A,35B…第2ネジ機構、40…あと施工アンカー、41…アンカー本体、42…アンカーボルト、A…コンクリート躯体、C…被締結対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7