(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】音響装置
(51)【国際特許分類】
H04R 9/02 20060101AFI20230828BHJP
H04R 1/00 20060101ALN20230828BHJP
【FI】
H04R9/02 101B
H04R9/02 101A
H04R9/02 103Z
H04R1/00 311
(21)【出願番号】P 2019152782
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-050141(JP,A)
【文献】特開2010-062888(JP,A)
【文献】特開2016-021693(JP,A)
【文献】特開2006-109010(JP,A)
【文献】実開平05-093196(JP,U)
【文献】実開昭62-032698(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0103307(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/02
H04R 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ケースと、
前記本体ケースの内部に固定されるスピーカユニットと、が設けられ、
前記スピーカユニットは、磁石を含む磁気回路部と、前記磁気回路部で発生する磁界が作用するコイルと、前記コイルと共に振動する振動体と、を有している、音響装置において、
前記振動体を境界として、前記本体ケースの内部空間と、外部空間と、が区画され、
前記振動体の発音方向と逆方向である後方であって前記振動体と対向する位置に、振動体規制部が設けられて
おり、
前記振動体と前記振動体規制部は、前記振動体の中心軸方向に向かうにしたがって、後方に向けて傾斜し、前記振動体規制部が、前記振動体に倣う形状であることを特徴とする音響装置。
【請求項2】
本体ケースと、
前記本体ケースの内部に固定されるスピーカユニットと、が設けられ、
前記スピーカユニットは、磁石を含む磁気回路部と、前記磁気回路部で発生する磁界が作用するコイルと、前記コイルと共に振動する振動体と、を有している、音響装置において、
前記振動体を境界として、前記本体ケースの内部空間と、外部空間と、が区画され、
前記振動体の発音方向と逆方向である後方であって前記振動体と対向する位置に、振動体規制部が設けられており、
前記スピーカユニットは、前記コイルを支持して前記振動体と共に振動するボビンと、前記磁気回路部を支持して前記本体ケースに固定されるブラケットと、前記ボビンと前記ブラケットとの間に設けられたダンパーと、前記ダンパーよりも後方に配置されるダンパー規制部と、を有し、
前記ダンパーが中立位置から前記ダンパー規制部に当たる位置までにコイルが移動する距離は、前記振動体が中立位置から前記振動体規制部に当たる位置までにコイルが移動する距離より小さい
ことを特徴とする音響装置。
【請求項3】
前記振動体は、
前記振動体の外周側に形成されるエッジ部と、前記振動体の内周側に形成される振動板部と、を有しており、
前記振動体規制部は、前記エッジ部に対向して配置されている
請求項1または2記載の音響装置。
【請求項4】
前記振動体規制部は、前記ブラケットに固定された規制部形成部材の前方に向く表面である
請求項2記載の音響装置
【請求項5】
前記ブラケットは、前記ブラケットの内周側に形成されるブラケット内底部と、前記ブラケットの外周側に形成されるブラケット外底部とを有し、前記ブラケット外底部は前記ブラケット内底部より前記発音方向前方に形成されており、
前記ダンパーは前記規制部形成部材と前記ブラケット外底部とで挟持されている
請求項4記載の音響装置。
【請求項6】
前記振動体規制部は、前記ブラケットと一体に形成されている
請求項2記載の音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体ケースと、スピーカユニットと、を有する音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両に搭載される警告音発生スピーカや、携帯型電子機器に備えられているスピーカは、防水構造を採用することが要求されている。防水性能が低いスピーカでは水が容易にスピーカ内に侵入し、これが故障の原因となるからである。
【0003】
この技術の一例として、特許文献1に、圧力変動による防水振動膜の破壊を防止することを目的とした音響装置の発明が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載されている音響装置は、防水振動膜と磁性部とを備えている。防水振動膜は、なだらかな凹凸曲面の成型加工がなされており、磁性部には、防水振動膜の凸部の形状に対応した凹部の圧緩衝部と、防水振動膜の凹部の形状に対応した凸部の圧緩衝部と、が設けられている。浸水中などによって防水振動膜が加圧されて、防水振動膜が磁性部に押し付けられたとしても、防水振動膜の成形曲面形状が保護され、防水振動膜の破壊を防止することができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された発明では、磁性部の上方に位置する防水振動膜の成形曲面形状は、磁性部の圧緩衝部で保護されることが可能である。しかしながら、ボイスコイルより外周側では、防水振動膜の成形曲面形状に対向する圧緩衝部が設けられておらず、防水振動膜が保護されていないため、防水振動膜が圧力で変形して引っ張られたときに、ケースからの剥がれや、防水振動膜の破壊が生じるのを防止することができないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、圧力の急激な変動などによって、振動体が変形して引っ張られたとしても、振動体のケースからの剥がれや、振動体の破壊が生じるのを防止可能な構造の音響装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、本体ケースと、
前記本体ケースの内部に固定されるスピーカユニットと、が設けられ、
前記スピーカユニットは、磁石を含む磁気回路部と、前記磁気回路部で発生する磁界が作用するコイルと、前記コイルと共に振動する振動体と、を有している、音響装置において、
前記振動体を境界として、前記本体ケースの内部空間と、外部空間と、が区画され、
前記振動体の発音方向と逆方向である後方であって前記振動体と対向する位置に、振動体規制部が設けられており、
前記振動体と前記振動体規制部は、前記振動体の中心軸方向に向かうにしたがって、後方に向けて傾斜し、前記振動体規制部が、前記振動体に倣う形状であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の音響装置の前記振動体は、
前記振動体の外周側に形成されるエッジ部と、前記振動体の内周側に形成される振動板部と、を有しており、
前記振動体規制部は、前記エッジ部に対向して配置されることが好ましい。
【0011】
本発明の音響装置の前記スピーカユニットは、前記コイルを支持して前記振動体と共に振動するボビンと、前記磁気回路部を支持して前記本体ケースに固定されるブラケットと、前記ボビンと前記ブラケットとの間に設けられたダンパーと、前記ダンパーよりも後方に配置されるダンパー規制部と、を有し、
前記ダンパーが中立位置から前記ダンパー規制部に当たる位置までにコイルが移動する距離は、前記振動板が中立位置から前記振動板規制部に当たる位置までにコイルが移動する距離より小さいことが好ましい。
【0012】
本発明の音響装置の前記振動体規制部は、例えば、前記ブラケットに固定された規制部形成部材の後方に向く表面である。
【0013】
本発明の音響装置の前記ブラケットは、前記ブラケットの内周側に形成されるブラケット内底部と、前記ブラケットの外周側に形成されるブラケット外底部とを有し、前記ブラケット外底部は前記ブラケット内底部より前記発音方向前方に形成され、前記ダンパーは前記規制部形成部材と前記ブラケット外底部とで挟持されていることが好ましい。
【0014】
本発明の音響装置の前記振動体規制部は、前記ブラケットと一体に形成されていることが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の音響装置は、振動体の発音方向とは逆方向である後方であって、振動体と対向する位置に振動体規制部が設けられている構成としている。そのため、圧力の急激な変化などによって、振動体が変形して引っ張られたときに、振動体とブラケットとの接合部の剥がれが生じるのを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態の音響装置の外観を示す斜視図。
【
図2】
図1に示す音響装置において、本体ケースとスピーカユニットとを示す分解斜視図。
【
図4】
図1に示す音響装置の断面部を正面から示す断面図。
【
図5】本発明のスピーカユニットの作用を説明する半断面図。
【
図6】比較例のスピーカユニットが有する課題を説明するための半断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示す本発明の実施形態の音響装置1は、車載用であり、車が浸水した場合にも破壊しないことが求められている。音響装置1はY1方向が発音方向に向く前方であり、Y2方向が発音方向と逆向きの後方である。
図1と
図4には、発音方向に延びる中心線Oが示されている。
【0018】
音響装置1は、本体ケース2を有している。
図1と
図2に示されるように、本体ケース2は前方ケース3と後方ケース4とに分離されている。
図1と
図4に示されるように、前方ケース3の後端部と後方ケース4の前端部が嵌め合されており、複数か所に設けられた凹凸嵌合部5によって、前方ケース3と後方ケース4とが互いに固定されている。前方ケース3と後方ケース4は、合成樹脂材料を用いた射出成型、あるいは軽金属材料を用いたダイキャスト成型により形成されている。
図1に示されるように、前方ケース3の前方に向く前面部には、複数の開口部3aとそれぞれの開口部3aを仕切る仕切部3bとが形成されている。
図4に示されるように、後方ケース4の後方に向く底部には、小さな通気口部4bが形成されている。通気口部4bよりも前方(Y1方向)は、通気口部4bと接触する膜部材23で塞がれている。膜部材23は、空気は通すものの水は通さない素材で形成される。
【0019】
図2と
図4に示すように、前方ケース3の内部にスピーカユニット6が設けられている。
図3と
図4に示すように、スピーカユニット6は非磁性または磁性の金属板で形成されたブラケット7を備えており、
図2と
図3に示されているブラケット7の外径側に形成されたブラケット曲げ面部7aが、前方ケース3の内面に、ねじ9で固定されている。
図5に示されるように、ブラケット7の後端部に、中心線Oと垂直なブラケット内底部7bとブラケット外底部7cが形成され、ブラケット外底部7cはブラケット内底部7bより、前方(Y1方向)に位置している。
【0020】
ブラケット内底部7bの後方(Y2方向)に向く下面に磁気回路部10が固定されている。
図4と
図5に示されるように、磁気回路部10は、磁石11と、磁石11の後方(Y2方向)に向く下面が接合される下部ヨーク12と、磁石11の前方(Y1方向)に向く上面が接合される上部ヨーク13とから構成されており、上部ヨーク13の前方に向く上面が、ブラケット7のブラケット内底部7bの後方(Y2方向)に向く下面に接着されて固定されている。下部ヨーク12と上部ヨーク13は磁性材料で形成されている。下部ヨーク12の中心部には、前方(Y1方向)に突出するセンターポール部12aが一体に形成されており、センターポール部12aの外周面と、リング状の上部ヨーク13の内周面との間に磁気ギャップGが形成されている。
【0021】
磁気回路部10よりも前方(Y1方向)に振動体15が設けられている。振動体15は、振動板部16と、エッジ部17とで構成されている。エッジ部17は、中心線Oと垂直な平面に向く全ての仮想軸の軸方向を曲率方向とする曲げ剛性が、振動板部16の同じ方向での曲げ剛性よりも低い。エッジ部17は、ゴム、あるいはウレタンや布にゴムを含侵したものにより形成されている。前記曲げ剛性は、縦弾性係数Eと断面二次モーメントIとの積である。振動板部16の外周部16aは、エッジ部17と接着されている。
図4と
図5に示されるように、エッジ部17の外端部17aはブラケット7に接着されて固定され、接合部(a)が形成されている。エッジ部17は振動板部16に接着されて固定され、接合部(b)が形成されている。振動板部16の内周部16bには、ボビン18の外周面が接着されて固定され、接合部(c)が形成されている。
【0022】
振動体15の振動板部16はコーン形状であり、中心線Oに向かうにしたがって後方(Y2方向)に向けて傾斜するテーパ形状である。詳しくは
図5に示すように、振動板部16のテーパ角度α、すなわち、振動板部16が中心線Oと垂直な平面に対してなす角は、20°~60°の範囲に設定されている。なお、振動板部16のテーパは、距離に対し径が線形に変わるテーパ、距離に対し径が指数関数的に変わるテーパ、または径が先端からの距離の平方根に比例し、全体の形状が放物線になるテーパのいずれかで形成される。
【0023】
図3と
図4に示すように、規制部形成部材21が、エッジ部17より後方(Y2方向)であって、エッジ部17と対向した位置に設けられ、ブラケット7と固定されている。規制部形成部材21は、合成樹脂材料を用いた射出成型、あるいは軽金属材料を用いたダイキャスト成型により形成されている。
【0024】
規制部形成部材21はエッジ部17と対向している振動体規制部21aを備えている。振動体規制部21aは、これに対向する振動体15の形状に倣う形状であり、倣うように傾斜している。実施形態では、振動体規制部21aは、中心線Oに向かうにしたがって後方(Y2方向)に向けて傾斜している振動体規制面である。すなわち、振動体規制部21aはテーパ状をなしている。詳しくは
図5に示すように、振動体規制部21aのテーパ角度β、すなわち、振動体規制部21aが中心線Oと垂直な平面に対してなす角は、5°~75°の範囲に設定されている。なお、振動体規制部21aのテーパは、距離に対し径が線形に変わるテーパ、距離に対し径が指数関数的に変わるテーパ、または径が先端からの距離の平方根に比例し、全体の形状が放物線になるテーパのいずれかで形成される。
【0025】
振動体規制部21aと、振動体15を構成している振動板部16は同じ方向に傾いており、振動板部16のテーパ角度αと振動体規制部21aのテーパ角度βとの差は0°~15°の範囲に設定されている。振動板部16のテーパ角度αと振動体規制部21aのテーパ角度βとの差は、小さい方が望ましい。
【0026】
図4に示すように、ボビン18の外周面とブラケット7との間には、断面がコルゲート形状のダンパー19が設けられている。エッジ部17とダンパー19の弾性変形によって、コーン形状の振動板部16が前後方向(Y1-Y2方向)に振動可能である。ボビン18の後方に向く下端部にコイル20が巻かれており、コイル20が磁気ギャップG内に位置している。前記中心線Oは、コイル20の巻き中心、ダンパー19の中心及び振動体15の中心を通過し、さらに磁気回路部10の重心を通過する仮想線である。ダンパー19は規制部形成部材21とブラケット7の外周側に形成されるブラケット外底部7cとで挟持されている。これにより、ダンパー19とブラケット7との固定を行うスペースと、規制部形成部材21の設置スペースとを兼用させることができ、さらに、ダンパー19が規制部形成部材21とブラケット7とで挟持されているので、ダンパー19とブラケット7の間の固定力を高めることができる。
【0027】
図5に示すように、ダンパー19の後方(Y2方向)には、ダンパー規制部22が配置されている。ダンパー規制部22は、中立位置の振動体15が後方(Y2方向)に移動したときに、ダンパー19の少なくとも一部が最初に当たる場所を意味している。本実施形態では、ダンパー規制部22は、ブラケット7または上部ヨーク13の少なくとも一方の前方に向く表面部分である。ダンパー19が中立位置からダンパー規制部22に当たる位置までにコイル20が移動する距離D1は、振動体15が中立位置から振動体規制部21aに当たる位置までにコイル20が移動する距離D2より小さい。
【0028】
後方ケース4の内部には、電子部品を実装した回路基板8や、その他の部材が収納されている。
【0029】
次に、音響装置1の発音動作を説明する。
コイル20に電流が与えられると、磁気回路部10においてコイル20に作用する磁界と電流とで励起される電磁力によって、振動体15が前後方向(Y1-Y2方向)に振動し、音圧が発音方向の前方(Y1方向)へ与えられる。通常の発音動作では、中立位置の振動体15およびボビン18の後方(Y2方向)へ最大に移動する距離は、ダンパー19の少なくとも一部がダンパー規制部22に当たるまでの移動量に規制されている。ダンパー19が中立位置からダンパー規制部22に当たる位置までにコイル20が移動する距離D1(
図5参照)は、振動体15が中立位置から振動体規制部21aに当たる位置までにコイル20が移動する距離D2より小さいため、ダンパー19がダンパー規制部22に当たるまで移動したとしても、振動体15が振動体規制部21aに当たることはなく、振動体規制部21aの存在が通常の発音動作を妨げることはない。
【0030】
音響装置1は、振動体15を境界として本体ケース2が区切られており、振動体15の下面と本体ケース2とで区画された内部空間Aと、振動体15の上面と本体ケース2で区画された前方空間およびケースの外部の空間である外部空間Bとに区画される。
【0031】
通常使用時において、音響装置1は、膜部材23および通気口部4bを通じて内部空間Aの空気と外部空間Bの空気とがお互いの空間を自由に移動することが可能なため、内部空間Aの空気の圧力と外部空間Bの空気の圧力とを同じにすることが可能である。
【0032】
ただし、音響装置1は車に搭載されるため、高温の空気環境に置かれた後、低温の水に浸水するなどして温度が急激に低下することがある。浸水中は、膜部材23を介して、内部空間Aの空気と外部空間Bの空気とがお互いの空間を自由に移動することができないため、温度が急激に低下すると、内部空間Aの空気の圧力が急に低下する。また、音響装置1は、高温の空気環境から低温の空気環境に移動され、温度が急激に低下することも考えられる。その場合においても、通気口部4bは内径がきわめて小さく、空気の流量が制限されており、通気口部4b内の空気の流量が内部空間Aの圧力の急激な変化には追従できず、内部空間Aの空気の圧力が急に低下する。
【0033】
内部空間Aの空気の圧力が急に低下すると、
図5に示されるように、中立状態(v)の振動板部16およびエッジ部17が後方(Y2方向)へ向けて吸引されるが、このとき、エッジ部17が振動体規制部21aに当たることで、振動板部16とエッジ部17の後方への急激な移動が規制される。すなわち、エッジ部17は、振動板部16よりも曲げ剛性が低いため、内部空間Aの圧力の急激な低下に伴ってエッジ部17が後方(Y2方向)へ向けて反転しようとするが、
図5に示すように、反転しようとするエッジ部17が(vi)の姿勢で規制部形成部材21の振動体規制部21aに当たるため、その反転を防ぐことができる。
【0034】
特に、振動体規制部21aが振動板部16と同じ向きに傾斜するテーパ面となっており、振動板部16のテーパ角度αと振動体規制部21aのテーパ角度βの差が小さいため、エッジ部17が振動体規制部21aに面当接しやすくなり、エッジ部17の反転が防止されやすい。よって、内部空間Aの圧力が低下してもエッジ部17に大きな力が作用しなくなり、エッジ部17の外端部17aとブラケット7との接合部(a)の剥がれや、振動板部16とエッジ部17との接合部(b)の剥がれ及び振動板部16とボビン18との接合部(c)の剥がれが生じにくくなる。また、振動板部16とエッジ部17の破壊も生じにくくなる。
【0035】
比較例として、
図6に、規制部形成部材21がない音響装置1が示されている。この比較例では、内部空間Aの空気に急激な圧力低下が生じたときに、剛性の低いエッジ部17が中立位置(i)から後方(Y2方向)へ吸引されて、内部空間Aに向けて反転状態(ii)になる。エッジ部17の反転に追従して、振動板部16が内部空間Aに向けて折り曲げられた変形状態(iii)となる。折り曲げられた変形状態(iii)でさらに内圧の低下で後方へ強く引かれると、エッジ部17の外端部17aがブラケット7から剥がれるおそれがある。または、振動板部16とエッジ部17との接合部や、振動板部16とボビン18との接合部の剥がれも生じやすい。
【0036】
図5に示す実施形態では、曲げ剛性の低いエッジ部17の後方への反転が規制されるため、
図6に示したように振動板部16が折り曲げられた変形状態(iii)となるのを規制でき、エッジ部17の外端部17aとブラケット7との接合部(a)、振動板部16とエッジ部17との接合部(b)及び振動板部16とボビン18との接合部(c)の剥がれを防止しやすくなり、振動板部16とエッジ部17の破壊を防止できる。
【0037】
本発明の他の実機形態の音響装置に用いられる規制部形成部材21として、規制部形成部材21がブラケット7と一体に形成されているものが考えられる。規制部形成部材21は、ブラケット7の側面から中心線Oの方向に突出する絞り部や曲げ部として形成される。この実施形態においても、規制部形成部材21が、エッジ部17より後方(Y2方向)であって、エッジ部17と対向した位置に設けられているため、エッジ部17の変形が抑制される。よって、エッジ部17の外端部17aとブラケット7との接合部(a)、振動板部16とエッジ部17との接合部(b)及び振動板部16とボビン18との接合部(c)の剥がれを防止しやすくなり、振動板部16とエッジ部17の破壊を防止できる。
【符号の説明】
【0038】
1 音響装置
2 本体ケース
3 前方ケース
3a 開口部
3b 仕切部
4 後方ケース
5 凹凸嵌合部
6 スピーカユニット
7 ブラケット
7a ブラケット曲げ面部
7b ブラケット内底部
7c ブラケット外底部
9 ねじ
10 磁気回路部
11 磁石
12 下部ヨーク
13 上部ヨーク
15 振動体
16 振動板部
17 エッジ部
18 ボビン
19 ダンパー
20 コイル
21 規制部形成部材
21a 振動体規制部
22 ダンパー規制部
23 膜部材
A 内部空間
B 外部空間
D1 振動板部移動量
D2 ダンパー規制部移動量
G 磁気ギャップ
O 中心線