(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】インジケータ層を備えた繊維工具
(51)【国際特許分類】
D04B 35/18 20060101AFI20230828BHJP
D04B 15/02 20060101ALI20230828BHJP
D04B 35/02 20060101ALI20230828BHJP
D05B 85/00 20060101ALI20230828BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230828BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20230828BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20230828BHJP
C23C 16/32 20060101ALI20230828BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20230828BHJP
C23C 28/00 20060101ALN20230828BHJP
【FI】
D04B35/18
D04B15/02 A
D04B15/02 B
D04B35/02
D05B85/00
C23C14/06 A
C23C14/06 F
C23C14/06 B
C23C14/14 D
C23C16/27
C23C16/32
C23C16/34
C23C28/00 A
(21)【出願番号】P 2018210121
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-10-30
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598132646
【氏名又は名称】グロツ・ベッケルト コマンディートゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】ヨッヘン コーペキ
(72)【発明者】
【氏名】トアセン ブッツ
(72)【発明者】
【氏名】ヨルグ ブレーデマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ヨルグ ベッカー
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-069285(JP,U)
【文献】特開2010-013787(JP,A)
【文献】実開昭53-091644(JP,U)
【文献】実開平06-076383(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 3/00-19/00
D04B 23/00-39/08
D05B 1/00-97/12
C23C 14/00-16/56
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの糸又は繊維材料及び/又は不織材を案内するよう構成された糸凹部(16)を備えたワーク部(15)と、
芯材からできた工具芯部(20)と、
少なくとも前記ワーク部(15)において、前記工具芯部(20)に設けられる摩耗防護層(21)と、
少なくとも前記ワーク部(15)の少なくとも1つのインジケータ区域(22)において、前記工具芯部(20)と前記摩耗防護層(21)との間に配置されるインジケータ層(23)
と
を備え、
前記インジケータ層(23)は前記工具芯部(20)と前記摩耗防護層(21)とは色が異なり、視認により識別され、前記インジケータ層(23)は第1の層厚(d1)を有し、前記第1の層厚(d1)は、最小0.1μm、最大1.0μmであり、
前記摩耗防護層(21)は第2の層厚(d2)を有し、前記第1の層厚(d1)と前記第2の層厚(d2)とは前記ワーク部(15)の如何なる箇所においても異なり、前記第2の層厚(d2)は前記糸凹部(16)外より前記糸凹部(16)内で小さく、前記糸凹部(16)外において最小1.0μmである、
繊維工具(10)。
【請求項2】
前記第1の層厚(d1)が前記第2の層厚(d2)より小さい、ことを特徴とする請求項
1に記載の繊維工具。
【請求項3】
前記摩耗防護層(21)の前記第2の層厚(d2)は前記ワーク部(15)内で変化する、ことを特徴とする請求項
1に記載の繊維工具。
【請求項4】
前記摩耗防護層(21)の前記第2の層厚(d2)は、前記ワーク部(15)
内において、最小1.0μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の繊維工具。
【請求項5】
前記摩耗防護層(21)の前記第2の層厚(d2)は、前記ワーク部(15)内で最大15.0μmである、ことを特徴とする請求項
1乃至
4の何れか1つに記載の繊維工具。
【請求項6】
前記インジケータ層(23)の色は
炭色、灰色、銀色ではなく、
光学的な補助を必要とせず視認が可能である、ことを特徴とする請求項1乃至
5の何れか1つに記載の繊維工具。
【請求項7】
前記繊維工具(10)を繊維機械に保持するよう構成された保持部(17)が設けられ、前記保持部(17)の少なくともその一部は前記摩耗防護層(21)及び前記インジケータ層(23)が設けられていない、ことを特徴とする請求項1乃至
6の何れか1つに記載の繊維工具。
【請求項8】
前記摩耗防護層(21)がDLC層、炭化物層、窒化層、又は高硬度クロム層及び/又はガルバニック層である、ことを特徴とする請求項1乃至
7の何れか1つに記載の繊維工具。
【請求項9】
前記少なくとも1つのインジケータ区域(22)に隣接する前記ワーク部(15)内の前記インジケータ層(23)は、前記摩耗防護層(21)が前記工具芯部(20)に直接接続されている少なくとも1つの接続区域(31)を備える、ことを特徴とする請求項1乃至
8の何れか1つに記載の繊維工具。
【請求項10】
請求項1乃至
9の何れか1つに記載の繊維工具(10)を製造する方法であって、
-前記芯材から前記工具芯部(20)を製造する工程と、
-前記繊維工具(10)の前記ワーク部(15)において、前記インジケータ層(23)を少なくとも前記少なくとも1つのインジケータ区域(22)に設ける工程と、
-前記繊維工具(10)の前記ワーク部(15)の前記少なくとも1つのインジケータ区域(22)において、摩耗防護層(21)を前記インジケータ層(23)に設ける工程と
を含む方法。
【請求項11】
前記繊維工具(10)の前記ワーク部(15)の前記少なくとも1つの前記インジケータ区域(22)外において、前記摩耗防護層(21)は前記工具芯部(20)に直接設けられる、ことを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維機械で使用するよう構成された繊維工具に関する。繊維工具は、例えば、繊維機械での編み目の編成又は糸又は糸の部分の取り扱い若しくは案内に用いられる。この種の繊維工具としては、例えば、ミシン縫い針、編機縦編針、編機横編針、タフティング針、フック、案内針、目移し針、糸コーム等の機械針がある。例えば、かかる繊維工具が重度の摩耗に晒され得るのは、研磨糸による専門的な繊維の製造のための編み目の編成の際である。ミシン針、縦編針、及び/又はタフティング針の場合、さらに針が繊維の製造プロセス中に個体物又は研磨性材料を通ることにより、それら固体物又は研磨性材料から高水準の摩耗が発生することがある。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、薄い摩耗防護層が設けられた芯材を含む摩耗部品が記載されている。この摩耗防護層と芯材との間には、任意に中間層を設けることができる。
【0003】
高品質の繊維製品を製造するためには、摩耗した繊維工具は適宜交換する必要がある。そうでないと、製造される繊維製品に誤差又はムラが発生し得る。摩耗防護層が設けられてはいても、繊維工具の摩耗は不可避であり、それに対してできることは摩耗を低減させることだけである。繊維工具の寿命は使い方によって大きく変わるため、繊維機械の繊維工具を交換すべき正確な時期を判断することは作業者にとって難しいことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独国特許出願公開第10126118号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、摩耗の状態を容易に判断することができる繊維工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は請求項1による繊維工具によって解決される。かかる繊維工具は請求項15による方法によって製造することができる。
【0007】
本発明の繊維工具はワーク部を有し、繊維工具はそのワーク部で糸、複数の糸、繊維材料、及び/又は不織材と接触する。ワーク部は、繊維の製造中に持続可能に糸を案内若しくは配置又は糸に作用するよう構成されている。繊維工具は特に保持部をさらに有し、この保持部は繊維機械に繊維工具を配置するよう構成されるとともに、その目的のために繊維機械の対応の保持手段又は支持手段と協働するよう構成されている。
【0008】
繊維工具は、例えば、編機横編針、編機縦編針、タフティング針、ミシン縫い針、フック、案内針、目移し針、糸コーム等でよい。
【0009】
繊維工具は芯材(芯となる部材)から成る工具芯部を有する。芯材として金属材料又は金属合金、例えば、合金鋼が使用されることが好ましい。
【0010】
工具芯部には、少なくとも部分的に摩耗防護層が設けられる。この摩耗防護層は、少なくとも繊維工具のワーク部において工具芯部を覆う。この摩耗防護層は、工具芯部の芯材とは異なり、特に芯材よりも高硬度の材料から成る。摩耗防護層は、例えば、高硬度クロム層、特にガルバニック高硬度クロム層、酸化アルミニウム層、炭素層、DLC層、PVD層、CVD層、炭化物層、例えば、炭化チタン層(TiC)、又は窒化層、例えば、アルミニウム窒化チタン層(AlTiN)若しくは炭窒化チタン層(TiCN)である。例えば、DLC層は、水素含有アモルファスカーボン層(a-C:H)としてよい。
【0011】
インジケータ層は、少なくとも少なくとも1つのインジケータ区域において、摩耗防護層と芯材との間に設けられる。インジケータ層は、摩耗防護層がさらに設置されている領域全体に設け得る。インジケータ層もワーク部内の少なくとも1つのインジケータ区域のみに設けてよく、このインジケータ区域は工具芯部が摩耗防護層で覆われている領域全体を覆わない。そのため、少なくとも1つのインジケータ区域は、摩耗防護層が覆う工具芯部の領域より面積が小さくてよい。少なくとも1つのインジケータ区域は、少なくとも繊維工具が所望の通り使用された時繊維工具の摩耗が最大となるワーク部の領域において配置されることが好ましい。
【0012】
インジケータ層は、摩耗防護層及び好ましくはさらに工具芯部から肉眼で光学的に容易にそのインジケータ層が区別できるように、色によって選択される。この識別は、摩耗防護層の色、さらには工具芯部の色とインジケータ層の色との波長及び/又はコントラストの差が十分であると実現できる。
【0013】
インジケータ層は狭帯域波長スペクトルの色を有することができ、その帯域は特に30nm未満、20nm未満、又は10nm未満であって、完全に可視領域に収まる領域である。追加的又は代替的に、白光に照射された際の摩耗防護層の平均輝度LV及びインジケータ層の平均輝度LIに基づく第1のコントラストK1は、少なくとも0.3、0.5、又は0.7でよい。これは、以下の式で計算することができる。
【0014】
【0015】
追加的又は代替的に、白光に照射された際の工具芯部の芯材の平均輝度LK及びインジケータ層の平均輝度LIに基づく第2のコントラストK2は、少なくとも0.3、0.5、又は0.7でよい。これは、以下の式で計算することができる。
【0016】
【0017】
インジケータ層の色は炭色、灰色、銀色等の金属色と異なり、光学的な補助を必要とせず視認が可能である。インジケータ層は、赤、橙、黄等の信号色であることが好ましい。
【0018】
本発明の態様によるインジケータ層は、発光性の材料及び特に燐光性の材料をさらに含んでよい。照度は、例えば、UV光による特定の光波長での照光により増幅され得る。
【0019】
繊維工具の使用のための摩耗防護層が少なくとも1つのインジケータ区域に設けられると、その下に設けられるインジケータ層が見えるようになる。そのため、繊維機械の操作者は、迅速に繊維工具の摩耗の激しい箇所を特定することができる。インジケータ層が外から見える場合、その時点で摩耗防護層が損傷を受けているか完全に除去された状態であり、繊維工具は遅くともその時点で交換しなければならない。以前にこのような摩耗が肉眼では見えにくかったのは、芯材と摩耗防護層は光学的にほとんど又は全く違いがないのが通常であったためである。特に工場の建物内では、繊維工具の摩耗の状態を迅速かつ容易に検出することはできなかった。芯材と摩耗防護層の間の中間層として光学的に十分に識別が可能なインジケータ層により、深刻な摩耗は迅速かつ容易に特定できる。製造された繊維製品の品質へ悪影響が及ぶ前に又は繊維工具の故障若しくは損傷が発生して費用が嵩むか又は機器の稼働停止が長期に及ぶ前に、操作者は前もって迅速な行動を取ることができる。
【0020】
インジケータ層は特に摩耗防護効果を必要としてはいないうえ、硬度は摩耗防護層より低くてもよく、場合によってはさらに工具芯部の芯材の硬度より低くてよい。
【0021】
本発明のある態様においては、ワーク部の繊維工具は糸凹部を有し、この糸凹部は、例えば、針の穴、案内針の通り穴、対向する縁により区切られるフックの凹部、編機横編針のフックの内部領域等、糸を案内するよう構成されている。
【0022】
インジケータ層が第1の層厚を有し、摩耗防護層が第2の層厚を有することが好ましい。この「層厚」という用語は、繊維工具が摩耗していない状態の場合、製造方法によってはその厚さがなくなる、特定の層が外縁区域を有する際の厚さと解される。第1の層厚と第2の層厚は、少なくとも1つのインジケータ区域における1箇所、複数の箇所、又はすべての対象箇所において異なる。インジケータ層の第1の層厚は、例えば、摩耗防護層の第2の層厚より少なくとも2倍、5倍、又は10倍小さいことが好ましい。
【0023】
摩耗防護層の第2の層厚はワーク部内において変わり得る。例えば、糸凹部内の摩耗防護層の第2の層厚は、糸凹部外の第2の層厚より小さくてよい。
【0024】
ワーク部内及び糸凹部外の摩耗防護層の第2の層厚は、最小1.0μmであることが好ましい。実施例において、摩耗防護層の第2の層厚はワーク部内で最大15μmである。例えば、第2の層厚は、公差±4μmで11μmでよい。
【0025】
インジケータ層の第1の層厚が最小0.1μmで、好ましくは最大1.0μmであれば優位性がある。
【0026】
繊維工具の態様において、保持部の少なくとも一部は摩耗防護層及びインジケータ層を設けなくともよい。
【0027】
摩耗防護層及び/又はインジケータ層は、例えば、PVDプロセス、CVDプロセス、又はPACVDプロセス等の物理的又は化学的プロセスにより成膜され得る。インジケータ層は、スパッタリングプロセスによって蒸着してもよい。摩耗防護層はガルバニック層としてもよく、ガルバニックプロセスにより設けられ得る。
【0028】
インジケータ層を芯材に直接設けることが好ましい。インジケータ層と摩耗防護層の間にさらなる中間層がなく、代わりに摩耗防護層が少なくとも1つのインジケータ区域において直接インジケータ層に設けられているとさらに好ましい。少なくとも1つのインジケータ区域が覆う面積が摩耗防護層よりも小さい場合、摩耗防護層は少なくとも1つのインジケータ区域外で工具芯部に直接設け得る。
【0029】
本発明の1つの態様において、インジケータ層は複数のインジケータ区域及び/又は開口部又は凹部を有する連続したインジケータ区域を備えてよく、少なくとも1つの接続区域が少なくとも1つのインジケータ区域外に形成される。少なくとも1つの接続区域において、摩耗防護層と工具芯部の芯材は直接接続される。接続区域は接続区域の縁で、例えば、完全に少なくとも1つのインジケータ区域で区切られる。このような態様により、少なくとも1つの接続区域又は少なくとも1つのインジケータ区域外において、摩耗防護層と工具芯部を直接接続することができる。この態様が有用となるのは、特にインジケータ層の摩耗防護層への接着が工具芯部の芯材への接着よりも弱い場合である。
【0030】
上述の繊維工具は以下の通り製造する。
【0031】
最初に、工具芯部を芯材から製造する。次に少なくとも1つのインジケータ区域では、インジケータ層を工具芯部に直接設けることが好ましい。最後に、摩耗防護層を少なくとも1つのインジケータ区域でインジケータ層に設け、任意に少なくとも1つのインジケータ区域外で工具芯部に設ける。ここでは摩耗防護層を少なくとも1つのインジケータ層にのみその全体に塗布することが可能である。あるいは、摩耗防護層を工具芯部及び/又は他の中間層の少なくとも1つのインジケータ区域外、例えば、少なくとも1つの接続区域及び/又はワーク部外にさらに直接接続してもよい。
【0032】
本発明のインジケータ層は、繊維工具を摩耗から保護するためには用いられない。そのため、インジケータ層の硬度は、摩耗防護層及び/又は工具芯部の芯材より低くて良い。インジケータ層の場合は、特に摩耗防護層の色との光学的な区別ができることが重要である。
【0033】
本発明の実施例は、従属項、発明の詳細な説明、及び図面から明らかになろう。以下で本発明の実施例について添付の図面に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】繊維工具の実施例の極めて基本的な概略を示す図である。
【
図2】繊維工具の実施例の基本的な概略を示す図である。
【
図3】繊維工具の実施例の基本的な概略を示す図である。
【
図4】繊維工具の実施例の基本的な概略を示す図である。
【
図5】無摩耗状態の本発明の基本的な繊維工具の工具芯部、インジケータ層、及び摩耗防護層を示す図である。
【
図6】
図5の概略的な構造を示し、ある箇所では摩耗防護層が摩耗により除去され、インジケータ層が見えるようになっている。
【
図7】別の実施例における基本的な層構造構成を示す図である。
【
図8】別の実施例における基本的な層構造を示す図である。
【
図9】別の実施例における基本的な層構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1乃至4はそれぞれ、繊維工具10の実施例を極めて概略的に示す。繊維工具10は、例えば、ミシン縫い針11(
図1)、縦編機の案内針等の案内針12(
図2)、横編機のフック13(
図3)、又は横編機編針14(
図4)である。図示の実施例に代えて、繊維工具10は、タフティング針、編機縦編針、目移し針等でもよい。
【0036】
各繊維工具10はワーク部15を有し、ワーク部15は、繊維工具10が所望のとおりに使用される際に、1つ又は複数の糸に接触し、かかる糸に影響又は案内するよう構成されている。図示の実施例において、繊維工具10は糸凹部16をワーク部15に有し、この糸凹部16は繊維製品の製造中に糸を案内するよう構成されている。糸凹部16は、ミシン縫い針11の場合は糸目(アイ)として形成され、編機案内針12の場合はワーク部15の貫通孔により形成することができ、フック13の場合はフック13の前方領域の切込により形成することができ、編機横編針14の場合はフックの内部領域で形成することができる。
【0037】
各繊維工具10は保持部17をさらに備え、この保持部17により繊維機械に繊維工具10を保持又は装着させることができる。
【0038】
繊維工具10は多層構造を有する。繊維工具10は、芯となる素材(芯材)からできた工具芯部20を備える。この芯材は、例えば、金属合金、好ましくは合金鋼から成る。しかし、この芯材は摩耗に対して十分な耐性を有してはいない。繊維工具10では、そのため、少なくともワーク部15に、摩耗防護層21が設けられる。摩耗防護層21は、ワーク部15において工具芯部20を完全に覆っている。摩耗防護層21は、所望により、さらにワーク部15外に広げてもよい。
【0039】
例えば、DLC層等の炭素含有層が摩耗防護層として使用され得る。DLC層は、水素含有アモルファスカーボン層(a-C:H)として実施され得る。あるいは、高硬度クロム層、炭化物層、及び/又は窒化層が摩耗防護層21として使用され得る。実施例において、摩耗防護層21は炭化チタン層、アルミニウム窒化チタン層、又は炭窒化チタン層である。摩耗防護層21は、酸化アルミニウム層として実施してもよい。摩耗防護層21は、PVDプロセス、CVDプロセス、又はPACVDプロセス等の物理的又は化学的プロセスにより成膜され得る。摩耗防護層21は電気的に絶縁されていることが好ましい。
【0040】
インジケータ層23が、この摩耗防護層21のすぐ下に、少なくともワーク部15内の少なくとも1つのインジケータ区域22に配置される。少なくとも1つのインジケータ区域22は、ワーク部15全体又はワーク部15の部分若しくは領域、特に繊維工具10の使用が意図されている場合に最も大きな摩耗に晒される領域、例えば、糸凹部16の縁又は内部領域を覆うことができる。
【0041】
インジケータ層22の色は摩耗防護層21の色と異なっていて、好ましくは工具芯部20の芯材の色とも異なる。特に色の違いが非常に重要となるのは、観察者が光学拡大カメラ、顕微鏡、光学拡大メガネ等の光学的拡大補助手段を必要とせずに、インジケータ層23を摩耗防護層21と区別できるようにするためである。インジケータ層23は、赤、黄、橙、緑、青等の信号色であることが好ましい。摩耗防護層21又は芯材と比較したインジケータ層23の色の波長及び/又はコントラストは、繊維機械の操作者が色の違いを、特に光学的な補助を必要とせず視認できるように選択される。
【0042】
実施例の1つにおいて、インジケータ層23は発光性及び好ましくは燐光性の粒子又は材料を含んでよい。繊維工具が照らされた場合、このインジケータ層23は容易且つ明確に特定され得る。
【0043】
図5は、未使用の繊維工具10又は摩耗していない摩耗防護層21における、少なくとも1つのインジケータ区域22の層構造を示す。層厚が一貫して小さくなる縁領域外においては、摩耗防護層21及びインジケータ層23が摩耗していない場合、インジケータ層23の厚さは第1の層厚d1、摩耗防護層21の厚さは第2の層厚d2である。2つの層厚d1、d2は少なくとも1つのインジケータ区域22内での同じ計測個所で異なり、インジケータ層23の第1の層厚d1は好ましくは第2の層厚d2よりも小さい。第2の層厚d2は、ワーク部15内で変わり得る。例えば、糸凹部16内の第2の層厚d2は、糸凹部16の外側の第2の層厚d2と異なってよい。例えば、糸凹部16内の第2の層厚d2は、糸凹部16の外側の第2の層厚d2より小さくてもよい。
【0044】
インジケータ層23の第1の層厚d1は、少なくとも1つのインジケータ区域22内で変わっているか又は一定でよい。
【0045】
図6に概略的に示される状況では、摩耗点30での摩耗防護層21が摩耗、特に糸、複数の糸、繊維材料、及び/又は不織材との摩耗接触によって除去されている。そのため、インジケータ層23は摩耗点30で露出されている。インジケータ層23は摩耗点30で見えるため、繊維工具10の重度の摩耗は保護層21とインジケータ層23の光学的又は色の違い(波長及び/又はコントラスト)により迅速且つ容易に特定することができ、繊維機械の摩耗した繊維工具10の交換を開始することができる。繊維工具の損耗がこうして回避され、摩耗による製造された繊維製品の品質の誤差又は不良が防止される。
【0046】
実施例において、糸凹部の外側の第2の層厚d2は最小1.0μm、最大15.0μmとしてよい。糸凹部16内、特に非常に小さい寸法の糸凹部内では、第2の層厚d2は1.0μm未満でもよい。
【0047】
インジケータ層23の第1の層厚d1は、少なくとも1つのインジケータ区域22の各点において、最小0.1μmであることが好ましい。インジケータ層23の最大厚は、少なくとも1つのインジケータ区域内で、1.0μmであることが好ましい。
【0048】
少なくとも1つのインジケータ区域22内のインジケータ層23は、工具芯部20の芯材に直接設けられることが好ましい。少なくとも1つのインジケータ区域22において、摩耗防護層21は直接インジケータ層23に設けられる。少なくとも1つのインジケータ区域22の区域外に摩耗防護層21を設ける場合、摩耗防護層21は直接工具芯部22に設けられる。
【0049】
ここで記載した実施例において、摩耗していない状態の摩耗防護層21は、ワーク部15に最外層を形成する。
【0050】
実施例の摩耗防護層21は、工具芯部20の芯材よりも高い硬度を持つ。インジケータ層23の硬度は、例えば、摩耗防護層21の硬度及び/又は工具芯部20の芯材の硬度より低い。着色したインジケータ層23は、摩耗点30において摩耗防護層21が完全に除去されたか否かを示す役割のみを担う。インジケータ層23は、工具芯部20を摩耗から防ぐようには構成されていない。
【0051】
実施例では、インジケータ層23及び摩耗防護層21をワーク部15全体に設けることができる。製造過程では、最初に工具芯部20が設けられる。そしてインジケータ層23は、化学的プロセス、物理的プロセス、ガルバニックプロセス、又はスパッタリングプロセスにより設けられる。インジケータ層23の塗布に続き、摩耗防護層21が物理的又は化学的蒸着プロセスにより設けられる。
【0052】
図7乃至9は、層構造の変形実施例を示す。ここでは、インジケータ区域22が複数設けられるか、又は開口部を備えた連続するインジケータ区域22が設けられ、その開口部がそれぞれ接続区域31を形成する(
図9)。この接続区域31には、ワーク部15内に配けられたインジケータ層23はない。これらの接続区域31では、摩耗防護層21は工具芯部20と直接接触する。この種の実施例が有用となるのは、摩耗防護層21の接着がインジケータ層23で阻害される場合である。接続区域31において、摩耗防護層21は工具芯部20と直接接触し、強固な部材同士の接着結合を形成する。
【0053】
図9は接続区域31を概略的にのみ示す。各接続区域31の輪郭と大きさは機械的必要条件に適合させ得る。少なくとも1つのインジケータ区域22を含む部分は、高摩耗領域に配置され、インジケータ層23の出現により摩耗点30での摩耗が可視化されるように選択される。少なくとも1つの接続区域31は、少なくとも1つのインジケータ区域22で完全に囲われ得る。
【0054】
図9の少なくとも1つのインジケータ区域22及び少なくとも1つの接続区域31は、インジケータ23が設けられる際、工具芯部20に直接塗布されたマスキング材32により後に接続区域31を形成する領域が常時マスクされるようにして、製造され得る。次に、インジケータ層23は、マスキング材32に隣接して、少なくとも1つのインジケータ区域22に設けられる(
図7)。マスキング材32は続いて除去される(
図8)。開口部33はこのようにしてインジケータ層23に形成され、そこでは工具芯部20は開口部で露出し、インジケータ層23により覆われてはない。次に摩耗防護層21を設けると、その摩耗防護層21は開口部33へと貫通し、その結果として接続区域31の工具芯部20との直接接続が形成される(
図9)。ワーク部15内の接続区域31は、このように1つ又はそれ以上のインジケータ区域22で完全に囲まれ得る。
【0055】
本発明は、繊維機械、例えば、横編機、縦編機、又は縫製機で使用するよう構成された繊維工具に関する。繊維工具10はワーク部15を有し、このワーク部15は糸案内用の糸凹部16を備える。ワーク部15において、繊維工具10は糸、複数の糸、繊維材料、及び/又は不織材と接触し、さらなる摩耗に晒される。そのため、摩耗防護層21を少なくともワーク部15の工具芯部20に設ける。ワーク部15の少なくとも1つのインジケータ区域22において、インジケータ層23は摩耗防護層21と工具芯部20との間に配置され、摩耗防護層21と直に接する。インジケータ層23の色は摩耗防護層21の色とは異なり、好ましくは工具芯部20の色とも異なり、特に光学的に拡大補助する必要無く識別できる。
【符号の説明】
【0056】
10 繊維工具
11 ミシン縫い針
12 編機案内針
13 フック
14 編機横編針
15 ワーク部
16 糸凹部
17 保持部
20 工具芯部
21 摩耗防護層
22 インジケータ区域
23 インジケータ層
30 摩耗点
31 接続区域
32 マスキング材
33 開口部
d1 第1の層厚
d2 第2の層厚