(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】豚用飼料添加物および哺乳子豚の発育改善方法
(51)【国際特許分類】
A23K 50/30 20160101AFI20230828BHJP
A23K 50/60 20160101ALI20230828BHJP
A23K 20/105 20160101ALI20230828BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20230828BHJP
【FI】
A23K50/30
A23K50/60
A23K20/105
A23K20/158
(21)【出願番号】P 2018237027
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2017243301
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510336200
【氏名又は名称】日本ニュートリション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】角田 淳
(72)【発明者】
【氏名】井口 亮太
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519552(JP,A)
【文献】特表平06-507784(JP,A)
【文献】特表2015-502982(JP,A)
【文献】特開2011-062093(JP,A)
【文献】特開2011-206050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0297686(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルニチンと、
脂肪酸組成としてC16:1
およびC18:0を含有する油脂と
を有効成分とすることを特徴とする豚用飼料添加物。
【請求項2】
カルニチンと、
脂肪酸組成としてC16:1
およびC18:0を含有する油脂と
を配合したことを特徴とする豚用飼料。
【請求項3】
前記カルニチンの添加量が5~200ppmとなるように前記カルニチンを配合したことを特徴とする請求項
2に記載の豚用飼料。
【請求項4】
前記豚用飼料中の
粗脂肪における脂肪酸組成として、C16:1が0.1~15質量%となるように、前記油脂を配合したことを特徴とする請求項
2または
3に記載の豚用飼料。
【請求項5】
前記豚用飼料中の
粗脂肪における脂肪酸組成として、C18:0が7~30質量%となるように、
前記油脂を配合したことを特徴とする請求項
2~
4のいずれか一項に記載の豚用飼料。
【請求項6】
請求項
2~
5のいずれか一項に記載の豚用飼料を母豚に給与することを特徴とする母豚の飼育方法。
【請求項7】
請求項
2~
5のいずれか一項に記載の豚用飼料を母豚に給与し、
前記母豚から得られる母乳を哺乳子豚に摂取させる
ことを特徴とする哺乳子豚の飼育方法。
【請求項8】
請求項
2~
5のいずれか一項に記載の豚用飼料を母豚に給与し、
前記母豚から得られる母乳を哺乳子豚に摂取させる
ことを特徴とする哺乳子豚の発育改善方法。
【請求項9】
前記母豚は授乳期の母豚であることを特徴とする請求項
7または
8に記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳子豚は、請求項
2~
5のいずれか一項に記載の豚用飼料を妊娠期に給与された母豚から分娩された子豚であることを特徴とする請求項
7~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項
2~
5のいずれか一項に記載の豚用飼料を哺乳子豚に給与することを特徴とする哺乳子豚の飼育方法。
【請求項12】
請求項
2~
5のいずれか一項に記載の豚用飼料を哺乳子豚に給与することを特徴とする哺乳子豚の発育改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚用飼料添加物およびこれを配合した豚用飼料に関する。さらに、本発明は、当該豚用飼料を用いた母豚の飼育方法、ならびに当該母豚から得られる母乳を用いた哺乳子豚の飼育方法および発育改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
養豚において、生産性の向上は常に重要な課題である。養豚の生産性には、母豚の分娩成績、出生した子豚の発育等が大きく影響する。例えば、子豚は免疫系や消化管系が未成熟な状態で出生し、各種感染病や下痢等に罹患しやすいため、子豚の発育を管理することは極めて重要である。ここで、子豚は、出生前は母豚の胎内で母豚より栄養を受け、また出生後はしばらく母乳を給与して育成され、子豚の発育は母乳中の栄養および泌乳量に依存する。そのため、母豚の健康状態を管理することにより子豚の発育を向上させることが考えられる。
【0003】
母乳の給与を介して子豚の発育を改善させる方法として、所定の飼料添加物を添加した飼料を母豚に給与する方法が種々提案されている。そのような飼料添加物として、リボ核酸を含有する酵母エキス(特許文献1)、補酵素Q(特許文献2)などが挙げられる。
【0004】
また、子豚の発育改善に関するものではないが、カルニチンおよびラクトパミンを有する飼料を仕上げ飼育している豚に給与することにより、仕上げ飼育される豚の食肉の品質を改良する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-313178号公報
【文献】国際公開第2011/145719号
【文献】特表2005-520506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、母豚または哺乳子豚に給与することにより、哺乳子豚の発育を改善させることのできる物質を見出し、それを有効成分とする飼料添加物、およびこれを配合した豚用飼料を提供することを目的とする。また、本発明は、上記飼料添加物または豚用飼料を用いることによる、母豚の飼育方法、ならびに哺乳子豚の飼育方法および発育改善方法を提供することを更なる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1に本発明は、カルニチンと、脂肪酸組成としてC16:1を含有する油脂とを有効成分とすることを特徴とする豚用飼料添加物を提供する(発明1)。
【0008】
上記発明(発明1)においては、前記油脂が、脂肪酸組成としてC18:0を含有することが好ましい(発明2)。
【0009】
第2に本発明は、上記発明(発明1,2)に係る豚用飼料添加物を配合したことを特徴とする豚用飼料を提供する(発明3)。
【0010】
上記発明(発明3)に係る豚用飼料は、前記カルニチンの添加量が5~200ppmとなるように前記豚用飼料添加物を配合することが好ましく(発明4)、豚用飼料中の粗脂肪における脂肪酸組成として、C16:1が0.1~15質量%となるように、前記豚用飼料添加物を配合することが好ましい(発明5)。
【0011】
また、上記発明(発明2)に係る豚用飼料添加物を配合した豚用飼料にあっては、当該豚用飼料中の粗脂肪における脂肪酸組成として、C18:0が7~30質量%となるように、前記豚用飼料添加物を配合することが好ましい(発明6)。
【0012】
第3に本発明は、上記発明(発明3~6)に係る豚用飼料を母豚に給与することを特徴とする母豚の飼育方法を提供する(発明7)。
【0013】
第4に本発明は、上記発明(発明3~6)に係る豚用飼料を母豚に給与し、前記母豚から得られる母乳を哺乳子豚に摂取させることを特徴とする哺乳子豚の飼育方法を提供する(発明8)。
【0014】
第5に本発明は、上記発明(発明3~6)に係る豚用飼料を母豚に給与し、前記母豚から得られる母乳を哺乳子豚に摂取させることを特徴とする哺乳子豚の発育改善方法を提供する(発明9)。
【0015】
上記発明(発明8,9)において、前記母豚は授乳期の母豚であることが好ましい(発明10)。
また、上記発明(発明8~10)において、前記哺乳子豚は、妊娠期に上記豚用飼料(発明3~6)を給与された母豚から分娩された子豚であることが好ましい(発明11)。
【0016】
第6に本発明は、上記発明(発明3~6)に係る豚用飼料を哺乳子豚に給与することを特徴とする哺乳子豚の飼育方法を提供する(発明12)。
【0017】
第7に本発明は、上記発明(発明3~6)に係る豚用飼料を哺乳子豚に給与することを特徴とする哺乳子豚の発育改善方法を提供する(発明13)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る豚用飼料添加物および豚用飼料は、母豚または哺乳子豚に給与することにより、哺乳子豚の発育を改善することができる。また、本発明に係る母豚の飼育方法、ならびに哺乳子豚の飼育方法および発育改善方法によれば、上記飼料添加物または豚用飼料を用いることで、哺乳子豚の発育を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
〔豚用飼料添加物〕
本実施形態に係る豚用飼料添加物は、カルニチンと、脂肪酸組成としてC16:1を含有する油脂とを有効成分とするものである。
なお、本明細書においては、本実施形態の有効成分の一つとして用いる油脂を、「油脂A」と称することがある。
【0020】
カルニチンは、ミトコンドリア内部への脂肪酸の輸送に関与することで、エネルギー代謝に寄与することが知られている。本実施形態に係る豚用飼料添加物は、カルニチンと油脂Aとを有効成分とすることで、母豚や哺乳子豚におけるエネルギー代謝効率を高め、哺乳子豚の発育を改善することができるものと考えられる。
【0021】
ここで、本実施形態における「カルチニン」には、L-カルニチンの他、アルカノイル-L-カルニチン(例えば、アセチル-L-カルチニン、プロピオニル-L-カルチニン等)をはじめとするL-カルニチン誘導体、およびこれらの塩が含まれる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本明細書において「母豚」とは、種付けから離乳までの雌豚をいう。
また、本明細書にて「哺乳子豚」とは、新生から離乳までの子豚をいう。本実施形態における「哺乳子豚の発育改善」は、特に限定されないが、生存率の向上、離乳率の向上、離乳時体重の増加、増体重の向上、飼料摂取量の増加、飼料要求率の改善などが含まれ、離乳時体重の増加および増体重の向上のうち少なくとも1つが満たされることが好ましい。
【0023】
油脂Aは、脂肪酸組成としてC16:1を含有する油脂である。
ここで、C16:1とは、炭素数16、不飽和結合1の脂肪酸であり、具体的にはパルミトレイン酸、サピエン酸等が挙げられるが、好ましくはパルミトレイン酸である。
【0024】
上記油脂Aは、脂肪酸組成としてC18:0を含有することが好ましい。C18:0とは、炭素数18、不飽和結合0の脂肪酸であり、具体的にはステアリン酸である。
【0025】
上記油脂Aは、上記脂肪酸組成を有することで、例えば、カルニチンの脂肪酸代謝への寄与と相乗的に作用して、母豚や哺乳子豚におけるエネルギー代謝効率を高め、哺乳子豚の発育を改善することができるものと考えられる。ただし、カルニチンおよび上記油脂Aの作用は、かかる作用に限定されるものではない。
【0026】
カルニチンと、油脂Aとの組み合わせは、哺乳子豚に対する発育改善効果に優れているため、豚用飼料添加物の有効成分として使用することができる。ここで、本実施形態に係る飼料添加物は、カルニチンと油脂Aとの組み合わせのみからなるものでもよいし、カルニチンと油脂Aとの混合物を製剤化したものでもよい。
【0027】
本実施形態において、カルニチンと油脂Aとの混合物を製剤化する場合、例えば、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のたん白質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、ヒマワリ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類;など、任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。さらに、助剤として、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等の、飼料添加物において通常使用し得るものを用いてもよい。
【0028】
本実施形態に係る飼料添加物を製剤化した場合、カルニチンと油脂Aとの混合物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0029】
なお、本実施形態に係る飼料添加物は、必要に応じて、カルニチンと油脂Aとの組み合わせに加え、哺乳子豚に対する発育改善作用を有する他の成分をともに配合して有効成分として用いることができる。
【0030】
本実施形態に係る飼料添加物は、通常は、母豚に給与される母豚用飼料や、哺乳子豚に給与される母乳または人工乳などの飼料に添加して、母豚または哺乳子豚に経口投与される。
【0031】
〔豚用飼料〕
本実施形態に係る豚用飼料は、上記豚用飼料添加物を配合したものである。ここで、上記豚用飼料添加物を配合する方法は特に限定されず、カルニチンと、油脂Aとを別々に豚用飼料に配合し、飼料中で混合させてもよく、カルニチンと油脂Aとの混合物として配合してもよく、カルニチンと油脂Aとの混合物を製剤化した豚用飼料添加物として配合してもよい。
【0032】
本実施形態に係る豚用飼料は、上記豚用飼料添加物を配合するほかは特に制限されない。例えば、母豚に給与する飼料は、一般的な豚用飼料と同様に、脱脂粉乳、ホエー等の動物質飼料;小麦、大麦、ライ麦、トウモロコシ、大豆等の穀類;ブドウ糖、砂糖等の糖類;油脂;ミネラル;ビタミンなどを適宜組み合わせて製造することができる。この場合において、豚用飼料は、飼料安全法に基づく公定規格に定められた成分および成分量を満たすように製造することが好ましい。
【0033】
また、本実施形態において、哺乳子豚に給与される飼料としては、上記豚用飼料添加物を配合し前述した母豚と同様の原料を組み合わせて製造した飼料のほか、上記豚用飼料添加物を配合した母乳であってもよい。ここで、哺乳子豚に必要な栄養素は発育の過程により変遷するため、哺乳子豚用飼料は、哺乳子豚の発育の過程に合わせ、液体飼料(代用初乳,餌つけ飼料,人工乳等)から固体飼料(一部の餌つけ飼料,人工乳,子豚育成飼料等)へ、また乳たん白質等の動物質性飼料を主とする飼料から穀類等を主とする飼料へ、徐々に切り替えていくことが望ましいとされている。本実施形態において、哺乳子豚に給与される豚用飼料は、これらのいずれであってよい。
【0034】
本実施形態に係る豚用飼料において、上記豚用飼料添加物の配合量は、飼料全体に対し、カルニチンの添加量が5~200ppm(mg/kg)となるように、さらには10~100ppmとなるように、特に30~70ppmとなるように、上記豚用飼料添加物を配合することが好ましい。豚用飼料添加物の配合量をかかる範囲とすることで、カルニチンによる哺乳子豚の発育改善効果をより優れたものとすることができる。なお、カルニチンの添加量は、L-カルニチンに換算した値である。
【0035】
また、豚用飼料における上記豚用飼料添加物の配合量は、豚用飼料中の粗脂肪における脂肪酸組成として、C16:1が0.1~15質量%となるように、さらには0.3~8質量%となるように、特に0.5~2質量%となるように、上記豚用飼料添加物を配合することが好ましい。
【0036】
さらに、上記豚用飼料添加物の油脂AがC18:0を含有する場合には、豚用飼料における上記豚用飼料添加物の配合量は、豚用飼料中の粗脂肪における脂肪酸組成として、C18:0が7~30質量%となるように、さらには8~20質量%となるように、特に9~15質量%となるように、上記豚用飼料添加物を配合することが好ましい。
【0037】
豚用飼料中の粗脂肪における脂肪酸組成が上記範囲となるように豚用飼料添加物を配合することで、カルニチンと油脂Aとの相乗効果により、哺乳子豚の発育改善効果をより優れたものとすることができる。
なお、豚用飼料中の粗脂肪における脂肪酸組成はガスクロマトグラフ法により測定することができ、例えば、豚用飼料を有機溶媒抽出し、けん化し、遊離脂肪酸をメチルエステル化して測定することができる。
【0038】
本実施形態に係る豚用飼料は、必要に応じて、カルニチンと油脂Aとの組み合わせに加え、哺乳子豚の発育改善作用を有する他の成分をともに配合してもよい。
【0039】
本実施形態に係る豚用飼料は、カルニチンと油脂Aとの組み合わせが有する作用により、給与した母豚から得られる母乳を給与した哺乳子豚の発育を改善することができる。さらに、本実施形態に係る豚用飼料は、カルニチンと油脂Aとの組み合わせが有する作用により、給与した哺乳子豚の発育を改善することができる。
【0040】
〔母豚の飼育方法〕
本実施形態に係る母豚の飼育方法は、上記の実施形態に係る豚用飼料を母豚に給与するものである。
【0041】
本実施形態において、上記実施形態に係る豚用飼料を母豚に給与する期間は、種付けから離乳までの間であれば特に制限されず、種付けから受胎までの交配期であってもよく、受胎から分娩までの妊娠期であってもよく、また分娩後の授乳期であってもよい。これらの中でも、授乳期に給与することが好ましく、妊娠期から授乳期にかけて給与することが特に好ましい。
【0042】
本実施形態に係る母豚の飼育方法は、前述した豚用飼料を母豚に給与する以外は特に制限されず、養豚における一般的な母豚の飼育方法を採用することができる。
【0043】
以上述べた実施形態によれば、カルニチンと油脂Aとを有効成分とする豚用飼料添加物を豚用飼料に配合し、当該豚用飼料を母豚に給与することで、母豚からの栄養供給を介して子豚の発育を改善することができる。
【0044】
〔哺乳子豚の飼育方法および発育改善方法〕
本実施形態に係る哺乳子豚の飼育方法は、上記実施形態に係る豚用飼料を母豚に給与し、当該母豚から得られる母乳を哺乳子豚に摂取させるものである。
【0045】
本実施形態においては、上記実施形態に係る豚用飼料を母豚に給与することで、母豚の健康状態が改善され、これにより、泌乳量の増加、母乳に含まれる脂肪分、タンパク質、糖分等の濃度の増加がもたらされ、かかる母乳を摂取することで哺乳子豚の発育が改善するものと考えられる。また、前述した飼料添加物に含まれるカルニチンおよび油脂Aは、母乳における濃度が増加することも考えられ、これにより哺乳子豚の発育をより直接的に改善する可能性が考えられる。ただし、本実施形態による哺乳子豚の発育改善効果は、これらの作用に限定されるものではない。
【0046】
本実施形態において、上記実施形態に係る豚用飼料を母豚に給与する期間は、種付けから離乳までの間であれば特に制限されず、種付けから受胎までの交配期であってもよく、受胎から分娩までの妊娠期であってもよく、また分娩後の授乳期であってもよいが、授乳期の母豚に給与すると、母乳に対し効果的に作用し、これを介して哺乳子豚の発育をより効果的に改善できることから、好ましい。この場合において、母豚への給与は、交配期から開始してもよく、妊娠期から開始してもよく、授乳期から開始(授乳期にのみ上記豚用飼料を給与)してもよい。
【0047】
また、発育改善の対象とする哺乳子豚は、上記実施形態に係る豚用飼料を妊娠期に給与された母豚から分娩された子豚であることが好ましい。この場合において、子豚を分娩した母豚と、当該子豚(哺乳子豚)に母乳を摂取させる母豚とは、上記豚用飼料を給与した母豚である限りにおいて、同一個体であってもよく、異なっていてもよい。
妊娠期の母豚に上記豚用飼料を給与することで、母豚の健康状態が改善され、これにより、母豚の胎内にある子豚に対し母豚から供給される栄養分の増加がもたらされることにより子豚の発育が改善し、その好ましい効果が出生後の哺乳子豚にも持続するものと考えられる。ただし、かかる好ましい実施形態による哺乳子豚の発育改善効果は、これらの作用に限定されるものではない。
【0048】
なお、特定の成分を母豚に給与して哺乳子豚の発育を改善する場合、妊娠期から授乳期にかけて母豚に給与することが一般的であり、授乳期にのみ所定の成分を母豚に給与しても、哺乳子豚の発育改善効果が認められない場合が多かった。しかし、本実施形態においては、授乳期にのみ上記豚用飼料を母豚に給与しても哺乳子豚の発育を改善することができる。
【0049】
本実施形態に係る哺乳子豚の飼育方法は、前述した豚用飼料を母豚に給与し、当該母豚から得られる母乳を哺乳子豚に摂取させる以外は特に制限されず、養豚における一般的な哺乳子豚の飼育方法を採用することができる。
【0050】
また、本発明の他の実施形態に係る哺乳子豚の飼育方法として、上記実施形態に係る豚用飼料を子豚に給与してもよい。かかる実施形態によれば、上記飼料添加物の有効成分が、母乳を介さず直接的に子豚に給与され、子豚においてエネルギー代謝効率を高め、子豚の発育を改善することができる。
【0051】
以上述べた実施形態に係る哺乳子豚の飼育方法によれば、カルニチンと油脂Aとの組み合わせが有する作用により、哺乳子豚の発育を改善することができる(本発明に係る哺乳子豚の発育改善方法に該当)。
【0052】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0053】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0054】
〔試験例〕給与試験
受胎した母豚を4頭ずつ以下の6区に分け、対照区には通常の母豚用飼料(妊娠期は妊娠期用飼料、授乳期は授乳期用飼料)を給与した。一方、試験区1~4には、表1に示す通り、カルニチン、油脂Aを配合した妊娠期用飼料および/または授乳期用飼料を、それぞれ妊娠期および/または授乳期に給与した。なお、粗脂肪量については、表1に示すように、妊娠期用飼料で2.8質量%、授乳期用飼料で5.8質量%となるように油脂Aおよびその他の油脂の配合量を調整した。
【0055】
【0056】
上記対照区および試験区について、母豚から新生した子豚の出生時体重および離乳時体重を測定し、出生時から離乳時までの増体重を算出したところ、試験区3が最も良好な成績であった。また、試験区4は、試験区3ほどではないものの、対照区よりも良好な成績であり、さらに試験区1よりも良好であった。一方、試験区2の成績は対照区と同等であった。
【0057】
以上より、カルニチンと油脂Aとを組み合わせて母豚に給与することにより(試験区3,4)、カルニチンのみの給与(試験区1,2)と比較して、哺乳子豚の発育改善効果に優れていた。また、カルニチンのみを給与する場合、哺乳子豚の発育改善効果を得るためには、妊娠期および授乳期に給与する必要があると考えられていたが、カルニチンと油脂Aとを組み合わせることにより、授乳期のみの給与(試験区4)でも哺乳子豚の発育改善効果を得ることができ、カルニチンのみを妊娠期および授乳期に給与(試験区1)するよりも哺乳子豚の発育改善効果に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、子豚の発育を改善することができるため、養豚における生産性を向上させることができ、養豚産業にとって非常に有用である。