(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】液状食品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/21 20160101AFI20230828BHJP
A23L 33/24 20160101ALI20230828BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20230828BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20230828BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20230828BHJP
A23L 29/231 20160101ALI20230828BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20230828BHJP
A23L 33/00 20160101ALN20230828BHJP
A23F 3/16 20060101ALN20230828BHJP
【FI】
A23L33/21
A23L33/24
A23L29/20
A23L29/269
A23L29/256
A23L29/231
A23L23/00
A23L33/00
A23F3/16
(21)【出願番号】P 2019022071
(22)【出願日】2019-02-08
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018022446
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 清香
(72)【発明者】
【氏名】中馬 誠
(72)【発明者】
【氏名】合田 喬
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-178411(JP,A)
【文献】特開2017-171593(JP,A)
【文献】特開2017-139974(JP,A)
【文献】特開2017-160177(JP,A)
【文献】特開2017-169484(JP,A)
【文献】特開2017-171592(JP,A)
【文献】特開平10-237220(JP,A)
【文献】特開平11-187826(JP,A)
【文献】特開平05-015319(JP,A)
【文献】特開2017-205099(JP,A)
【文献】特開2013-111006(JP,A)
【文献】特開2017-217000(JP,A)
【文献】国際公開第2017/030206(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/159990(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/
A23L 5/
A23L 29/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状食品であって、
(A)カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類、
(B)不溶性食物繊維又はウェランガム、及び、
(C)中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩
を含有し、
前記(B)の不溶性食物繊維が、発酵セルロース、シトラスファイバー、微小繊維状セルロース、及びセルロースナノファイバーからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記液状食品の1/5の量の人工胃液を添加した後にB型回転粘度計により回転数12rpm、25℃で測定される粘度、又は前記液状食品の1/3の量の人工胃液を添加した後B型回転粘度計により回転数6rpm、25℃で測定される粘度が、800mPa・s以上である、
液状食品。
【請求項2】
(A)カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類が、アルギン酸又はその塩、HMペクチン、LMペクチン、脱アシル型ジェランガム及びカラギナンからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の液状食品。
【請求項3】
(A)カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類の含量が0.2~1.5質量%である、請求項1又は2に記載の液状食品。
【請求項4】
(B)不溶性食物繊維又はウェランガムの総含有量が0.01~1質量%である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の液状食品。
【請求項5】
(C)中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩が、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム及びグルコン酸カルシウムからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の液状食品。
【請求項6】
(C)中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩の含量が、カルシウムとして0.02~0.25質量%である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の液状食品。
【請求項7】
さらに(D)乳化剤を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の液状食品。
【請求項8】
(D)乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群より選ばれる1種以上である、請求項
7に記載の液状食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空腹を感じた際に摂取すると胃内でゲル化及び/又は増粘し、空腹感が軽減される液状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食に対する消費者の嗜好は益々多様化する一方で、肥満の増加が問題となっている。肥満は成人病の原因となることが多く、糖尿病や動脈硬化等の障害を起こしやすいことが知られている。肥満の原因として多食、過食、運動不足をはじめ、体質、遺伝、年齢や内分泌疾患等が挙げられる。
【0003】
上記多食・過食を原因とする肥満であれば、摂取するエネルギー量を抑えることによって肥満を解消できると考えられるため、飲食品の腹持ちを良くし、又は満腹感を持続させることで飲食品の摂取量を減らすといった、様々な方法が検討されている。
【0004】
また、日常生活においてちょっとした空腹(小腹が空いた)を感じることがある。軽い食事を摂ることができればよいが、仕事中等であれば困難なことが多く、空腹による胃痛や腹鳴を起こすこともある。このような事態を回避するため、簡便に空腹感を解消でき、或いは少量でも腹持ちの良い飲食品等が提案されている。
【0005】
上記の具体例としては、DE値40%以下であるペクチンを含有しpH3以下でゲル状となることを特徴とする液状食品(特許文献1)、水溶性食物繊維及び不溶性カルシウム化合物を含有するダイエット・糖尿病用食品(特許文献2)、ヒドロゲルが胃内で膨潤したままでいる時間量を増加させる方法(特許文献3)、特定のLMペクチン、アルギン酸若しくはその塩、又はジェランガムを含有する水性炭酸飲料(特許文献4)、LMペクチン、ミソハギ科等の植物の果汁を含む水性液体飲料(特許文献5)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-30729号公報
【文献】特開平7-147935号公報
【文献】特表2009-531462号公報
【文献】特許第5748114号公報
【文献】国際公開第2016/104334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし従来技術にはさらなる改善の余地があった。例えば特許文献1ではpH3以下でゲルが形成されるまで15時間かかっており、簡便に空腹感を解消する方法としては不適であり、特許文献2ではゲル化の具体的な数値データが記載されておらず、技術的な解決に至っているとはいえないのが現状である。
【0008】
本発明は、上記のような肥満の予防としては簡便な方法である空腹感の軽減に着目し、より効果的に空腹感を軽減させ得るための液状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について検討を重ね、特定の成分を含有する液状食品を調製することにより、胃液によるpH低下で溶出するカルシウムイオンによって胃内で液状食品がゲル化及び/又は増粘し、簡便かつ効果的に空腹感を軽減できるとの知見を得て、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下の態様を有する液状食品に関する。
項1.
次の成分(A)~(C)を含有することを特徴とする液状食品;
(A)カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類、
(B)不溶性食物繊維又はウェランガム、及び、
(C)中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩。
項2.
(A)カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類が、アルギン酸又はその塩、HMペクチン、LMペクチン、脱アシル型ジェランガム及びカラギナンからなる群より選ばれる1種以上である、項1に記載の液状食品。
項3.
(A)カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類の含量が0.2~1.5質量%である、項1又は2に記載の液状食品。
項4.
(B)の不溶性食物繊維が、発酵セルロース、シトラスファイバー、結晶セルロース、微小繊維状セルロース、及びセルロースナノファイバーからなる群より選ばれる1種以上である、項1~3のいずれか一項に記載の液状食品。
項5.
(B)不溶性食物繊維又はウェランガムの含量が0.01~1質量%である、項1~4のいずれか一項に記載の液状食品。
項6.
(C)中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩が、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム及びグルコン酸カルシウムからなる群より選ばれる1種以上である、項1~5のいずれか一項に記載の液状食品。
項7.
(C)中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩の含量が、カルシウムとして0.02~0.25質量%である、項1~6のいずれか一項に記載の液状食品。
項8.
胃内においてゲル化及び/又は増粘して粘度が600mPa・s以上となる、項1~7のいずれか一項に記載の液状食品。
項9.
さらに(D)乳化剤を含む、項1~8のいずれか一項に記載の液状食品。
項10.
(D)乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群より選ばれる1種以上である、項9に記載の液状食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類、不溶性食物繊維又はウェランガム、中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩を含有する液状食品を調製し、空腹を感じた際に摂取することによって、容易に空腹感を軽減し、胃痛や腹鳴を抑え、さらには多食や過食を抑制することができる。
【0012】
さらには、本発明によって得られる液状食品は、その構成によって胃内で胃液と反応しゲル化及び/又は増粘するため、胃食道逆流やダンピング(胃から小腸への急激な食物の移動)予防、胃等の消化管内壁の保護といった効果を見込むこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実験例2の表6の処方の流動食をパウチ詰めして室温に1ヶ月静置した後の外観を示す画像である。
【
図2】実験例2の表7の処方の流動食をパウチ詰めして室温に1ヶ月静置した後の外観を示す画像である。
【
図3】実験例2の表8の処方の流動食をパウチ詰めして室温に1ヶ月静置した後の外観を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類、不溶性食物繊維又はウェランガム、並びに中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩を含有する液状食品に関するものである。
【0015】
((A)成分:カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類)
本発明で使用される(A)成分である、カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類は、カルシウムと反応してゲル化及び/又は増粘する性質を有する多糖類である。かかる性質を利用し、胃液によるpH低下で溶出したカルシウムイオンと結合して、摂食した液状食品がゲル化及び/又は増粘し、空腹感を解消することに加え、食欲も抑制されることとなる。
【0016】
使用できるカルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類としては、アルギン酸又はその塩、HMペクチン、LMペクチン、カラギナン、脱アシル型ジェランガム等が例示でき、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類の含有量は、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、調製する液状食品の全量に対し、好ましくは0.2~1.5質量%、より好ましくは0.2~1.25質量%、さらに好ましくは0.2~1質量%、特に好ましくは0.2~0.7質量%である。該含有量は、調製する液状食品に応じて適宜調整してもよく、例えば飲料であれば0.2~0.7質量%、スープ類であれば0.3~1質量%、流動食であれば0.3~1.5質量%とすることができる。
また、カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類を2種以上組み合わせて使用する場合は、それぞれの配合割合を任意で設定できる。
【0018】
本発明で使用されるカルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類として好ましいものとしては、アルギン酸又はその塩、HMペクチン、LMペクチン、カラギナン、脱アシル型ジェランガム或いはこれらの組合せであり、より好ましいものとしては、アルギン酸又はその塩、HMペクチン、又はLMペクチン、或いはこれらの組み合わせである。
【0019】
アルギン酸又はその塩は、食品添加物の増粘剤やゲル化剤等として使用されるもので、海藻から抽出した多糖類である。本発明で用いるアルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等の各種塩が挙げられるが、特に限定されるものではない。該アルギン酸又はその塩は商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のアルギン酸ナトリウムである「サンサポート[登録商標]P-80」、「サンサポートP-81」、「サンサポートP-82」及び「サンサポートP-84」を挙げることができる。かかるアルギン酸又はその塩には、耐酸性、耐熱性、耐圧性、撹拌耐性を有するものが知られ、これらのいずれの特性を有するものであってもよい。
【0020】
ペクチンは、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等の柑橘類や、リンゴ、シュガービート等の植物から抽出される多糖類であり、エステル化度が50%を超えるHMペクチン(ハイメトキシルペクチン)と、エステル化度が50%以下のLMペクチン(ローメトキシルペクチン)に分けられる。本発明で使用されるペクチンは、LMペクチンであることが好ましく、エステル化度が40%以下のものを使用することがより好ましい。該LMペクチンは商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンサポートP-166」、「サンサポートP-181」、「サンサポートP-182」等が挙げられる。かかるペクチンには、耐酸性、耐熱性、耐圧性、撹拌耐性を有するものが知られ、これらのいずれの特性を有するものであってもよい。
【0021】
脱アシル型ジェランガムは、グルコース、グルクロン酸、ラムノースを構成糖とし、スフィンゴモナス・エロディア(Sphingomonas elodea)による発酵により産生されるジェランガム(ネイティブ型ジェランガム)の主鎖の1-3結合したグルコース上のアシル基(アセチル基とグリセリル基)を除去したものであり、脱アシル化の度合いは特に限定されない。
【0022】
アルギン酸又はその塩の含有量は、液状食品の全量に対して、好ましくは0.2~1.5質量%、より好ましくは0.2~1.25質量%、さらに好ましくは0.2~1.0質量%、さらにより好ましくは0.3~1.0質量%、特に好ましくは0.3~0.7質量%である。また、LMペクチンの含有量は、液状食品の全量に対して、好ましくは0.2~1.5質量%、より好ましくは0.2~1.25質量%、さらに好ましくは0.2~1.0質量%、さらにより好ましくは0.3~1.0質量%、特に好ましくは0.3~0.7質量%である。
アルギン酸又はその塩とLMペクチンを組み合わせた際の配合割合は、1:9~9:1を例示できる。
【0023】
((B)成分:不溶性食物繊維又はウェランガム)
本発明で使用される(B)成分である、不溶性食物繊維又はウェランガムは、食品製造で用いられる天然由来又は合成によって得られるもののいずれでも良い。不溶性食物繊維の例としては、発酵セルロース、シトラスファイバー、結晶セルロース、微小繊維状セルロース、セルロースナノファイバー等が例示できるが、好ましくは発酵セルロース、シトラスファイバー及び結晶セルロースからなる群より選ばれる1種以上であり、より好ましくは発酵セルロース及び/又は結晶セルロースであり、さらに好ましくは発酵セルロースである。
【0024】
セルロースとは、草木類や微生物等から得られるセルロースのことであり、最も一般的なものとしては木材パルプを機械的若しくは化学的に処理して得られる粉末セルロース、結晶セルロースや発酵セルロース等が挙げられる。
【0025】
結晶セルロースとは、微結晶セルロースとも呼ばれ、例えば木材パルプ、精製リンター等のセルロース系素材を、酸処理、アルカリ処理、酵素処理等により解重合処理して得られる平均重合度30~400、結晶性部分が10%を超えるものをいう。本発明で使用される結晶セルロースは、一般に流通している結晶セルロースを広く利用することができる。
【0026】
発酵セルロースは、セルロース生産菌(例:アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌)が産生するセルロースである。発酵セルロースは、植物由来の一般的なセルロース繊維の繊維径に比べて非常に微細な繊維径を有する。一方でその繊維長は長く、純粋な結晶領域のみを取得して得られる結晶セルロースとは大きく異なる。
【0027】
本発明では発酵セルロースとして、当該発酵セルロースと他の高分子物質との複合体である発酵セルロース複合体を使用することが望ましい。当該複合体は、発酵セルロースと他の高分子物質とから実質的になり、好ましくは発酵セルロース繊維の表面に他の高分子物質が付着している。このような複合化に使用される「他の高分子物質」は、食品に使用可能な高分子物質であれば特に限定されない。例えば、ガラクトマンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)とその塩、キサンタンガム、タマリンド種子ガム、トラガントゴム、カラヤガム、寒天、カードラン、プルラン、サイリウムシードガム、グルコマンナン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0028】
なかでも好ましくは、キサンタンガム、ガラクトマンナン、並びにカルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩が挙げられる。ガラクトマンナンとして好ましくはグァーガムが挙げられ、CMC又はその塩として好ましくはCMCナトリウムが挙げられる。本発明では特に、グァーガムとCMC又はその塩を用いて複合化された発酵セルロースを好適に使用できる。
【0029】
発酵セルロース複合体は、例えば、発酵セルロースを含有する液体(所望により、本液体が含有し得る発酵セルロース生産菌体をアルカリ処理等によって溶解することが可能である)と他の高分子物質の溶液とを混合し、その後、イソプロピルアルコール等のアルコール沈殿又はスプレードライ等によって発酵セルロース複合体を取得する方法、発酵セルロースのゲルを他の高分子物質の溶液に浸漬させる方法、又は特開平09-121787号公報に開示されている方法、具体的には、発酵セルロース産生微生物の培養において、用いる培地中に他の高分子物質を添加する方法等を用いて、発酵セルロースの複合化が可能である。なお、所望により、発酵セルロース複合体を乾燥させて、乾燥粉末を得ることができる。
【0030】
発酵セルロース複合体の乾燥粉末は商業上入手可能であり、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンアーティスト[登録商標]PG(発酵セルロース20%、グァーガム6.7%、CMCナトリウム6.7%及びデキストリン66.6%からなる複合体製剤)」、「サンアーティストPN(発酵セルロース18.3%、キサンタンガム12.1%、CMCナトリウム6.2%及びデキストリン63.4%の複合体製剤)」を例示できる。
【0031】
本発明で使用されるシトラスファイバーは、一般に流通しているシトラスファイバーを広く利用することができる。シトラスファイバーは、柑橘類由来の食物繊維であり、果実の圧搾後に果汁を除いた残渣、又はその精製物として得られる。本発明で使用されるシトラスファイバーは、好適に、ペクチン質を含有する食物繊維であることができる。
【0032】
不溶性食物繊維として利用可能なシトラスファイバー、結晶セルロースに関しても、複合化したものを利用することができる。簡便には、一般に入手可能な製品等を利用することができる。
【0033】
ウェランガムは、スフィンゴモナス属(Sphingomonas sp.)の培養液から得られた多糖類を主成分とするものである。簡便には、一般に流通している市販製品を利用することが可能であり、具体的には三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のビストップ[登録商標]W等が例示できる。
【0034】
(B)成分の総含有量は、特に限定されないが、液状食品の全量に対して、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.01~0.9質量%、さらに好ましくは0.01~0.8質量%、特に好ましくは0.01~0.7質量%である。
【0035】
或いは、液状食品中の(A)成分のカルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類の総含有量100部に対し、(B)成分の総含有量は、好ましくは1~100部、より好ましくは1~50部であり、調製する液状食品に応じて適宜調節すればよい。
【0036】
(B)成分として発酵セルロースを含有する場合、発酵セルロースの含有量は、特に限定されないが、液状食品の全量に対して、好ましくは0.01~0.2質量%、より好ましくは0.02~0.15質量%、さらに好ましくは0.03~0.12質量%である。
【0037】
(B)成分として結晶セルロースを含有する場合、結晶セルロースの含有量は、特に限定されないが、液状食品の全量に対して、好ましくは0.02~1質量%、より好ましくは0.1~0.8質量%、さらに好ましくは0.2~0.7質量%、特に好ましくは0.35~0.65質量%である。
【0038】
(B)成分の不溶性食物繊維として、発酵セルロース複合体製剤(例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンアーティスト[登録商標]PG。発酵セルロース含量20質量%)を使用した場合、発酵セルロース複合体製剤の含有量は、特に限定されないが、液状食品の全量に対して、好ましくは0.04~1質量%、より好ましくは0.05~1質量%、さらに好ましくは0.05~0.75質量%、特に好ましくは0.1~0.6質量%である。
【0039】
(B)成分のうち、結晶セルロース製剤(例えば旭化成株式会社製のセオラスCL-611。結晶セルロース含量85質量%)を使用した場合、結晶セルロース製剤の含有量は、特に限定されないが、液状食品の全量に対して、好ましくは0.02~1.1質量%、より好ましくは0.1~1質量%、さらに好ましくは0.2~0.9質量%、特に好ましくは0.4~0.8質量%である。
【0040】
(C成分:中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩)
本発明で使用される(C)成分である、中性域で水難溶性又は不溶性のカルシウム塩は、食品製造に使用されるものであれば制限なく使用することができる。具体的には、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、ステアリン酸カルシウム、炭酸カルシウム等が例示できる。中でもリン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム及びグルコン酸カルシウムからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。本発明ではこれらを適宜選択して添加するか、もしくは前記カルシウム塩を適当量含有する素材を添加して液状食品を調製すればよい。
【0041】
かかるカルシウム塩の含量は、特に限定されないが、カルシウムの含有量に換算して、液状食品の全量に対し、好ましくは0.02~0.25質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%、さらに好ましくは0.02~0.1質量%、特に好ましくは0.02~0.08質量%の範囲である。
【0042】
本発明で使用される(C)成分の水難溶性又は水不溶性のカルシウム塩の20℃での水中の溶解度は、特に限定されないが、好ましくは1g/100ml以下、より好ましくは0.1g/100ml以下、さらに好ましくは0.01g/100ml以下である。
【0043】
((D)成分:乳化剤)
本発明の液状食品には、さらに(D)成分として、乳化剤を使用することができる。乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、有機酸モノグリセリド等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチン、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、キラヤ抽出物、サポニン、ポリソルベート(ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80等)、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル等が挙げられ、好ましくはグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群より選ばれる1種以上であり、より好ましくはコハク酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる1種以上である。
かかる乳化剤の含量は、特に限定されないが、液状食品の全量に対し、好ましくは0.02~2.0質量%、より好ましくは0.02~1.0質量%である。
【0044】
(その他増粘多糖類)
本発明の液状食品には、(A)~(C)成分の他に、本発明の効果を奏される限りにおいて、さらに増粘多糖類を含有することができる。増粘多糖類としては、特に限定されないが、寒天、ネイティブ型ジェランガム、大豆多糖類、アラビアガム、ガティガム、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、サクシノグリカン、ラムザンガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、トラガントゴム、カラヤガム、カードラン、プルラン、キチン、キトサン等が挙げられる。これらの増粘多糖類は、1種単独であっても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
(液状食品)
本発明における液状食品とは、液状又は半固形状の飲食品を指し、好ましくは中性域の液状食品である。かかる液状食品は、摂取前は流動性のある低粘度の状態で飲み易く、胃内に入るとゲル化及び/又は増粘するものである。具体的な液状食品の例としては、コーヒー、ココア飲料、抹茶入り飲料、野菜又は果汁入り飲料、清涼飲料、豆乳飲料、乳飲料、ゼリー入り飲料、汁粉、カルシウム強化飲料等が挙げられる。また、コーンスープ、ポタージュスープ、卵入りスープ、味噌汁といったスープ類も含まれる。さらには、嚥下食、経管栄養剤、流動食をも含むものである。流動食の投与形態は特に制限されないが、経口摂取のほか、チューブを利用した胃瘻や経鼻投与等が例示される。
【0046】
本発明における液状食品が流動食である場合、タンパク質、脂質、糖質、ミネラル、ビタミン等を含むことが好ましい。本発明における流動食のカロリー値は、特に制限されないが、例えば、0.1~7kcal/g、好ましくは0.3~5kcal/g、より好ましくは0.5~3kcal/gが挙げられる。
【0047】
タンパク質は、一般に食用として利用されているタンパク質を用いることができる。具体的には、例えば、脱脂粉乳、カゼインもしくはそのナトリウム塩、ホエイタンパク質、全乳タンパク質等の乳タンパク質、脱脂豆乳粉末、大豆タンパク質、小麦タンパク質、及びこれらタンパク質の分解物等が挙げられる。本発明の乳化食品組成物に配合するタンパク質は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。本発明における流動食のタンパク質含有量は特に制限されないが、例えば、0.5~10質量%、好ましくは1~6質量%、より好ましくは1~5質量%が挙げられる。
【0048】
脂質は、一般に食用として利用されている脂質を用いることができる。具体的には、例えば、大豆油、綿実油、サフラワー油、コーン油、米油、ヤシ油、シソ油、ゴマ油、アマニ油、パーム油、ナタネ油(キャノーラ油等)等の植物油や、イワシ油、タラ肝油等の魚油、必須脂肪酸源としての長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等が挙げられる。なかでも、通常炭素数が8~10であるMCTが好ましい。MCTを用いることにより、脂質の吸収性が高まる。本発明における流動食の脂質含有量は特に制限されないが、例えば、0.5~20質量%、好ましくは1.0~15質量%が挙げられる。
【0049】
炭水化物としては、一般に食用として利用されている糖質および食物繊維を用いることができる。具体的には、例えば、グルコース、フルクトース等の単糖類;マルトース、蔗糖等の二糖類等の通常の各種の糖類;キシリトール、ソルビトール、グリセリン、エリスリトール等の糖アルコール類;デキストリン、シクロデキストリン等の多糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクトスクロース等のオリゴ糖類等、食物繊維、澱粉等が挙げられる。本発明における流動食の糖質含有量は特に制限されないが、例えば、0.5~30質量%、好ましくは1~20質量%が挙げられる。
【0050】
ミネラルは、カルシウム以外としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛等が挙げられる。ミネラルとしては、特に限定されないが、食品(食品添加物を含む)として取り扱われる塩を本発明における流動食に含有させることができる。
本発明における流動食のミネラル含有量は、厚生労働省が策定する「日本人の食事摂取基準」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量に従い適宜設定することが可能であり、通常、ナトリウムとして6000~20000mg/L、カリウムとして2000~3500mg/L、マグネシウムとして260~650mg/L、鉄として10~40mg/L、銅として1.6~9mg/L、亜鉛として7~30mg/Lである。
【0051】
ビタミンは、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、D、E、K、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、及び葉酸等が挙げられる。
本発明における流動食のビタミン含有量は、「日本人の食事摂取基準」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量に従い適宜設定することが可能であり、通常、ビタミンAとして0.54~1.5mg/L、ビタミンB1として0.8~1.0mg/L、ビタミンB2として1~100mg/L、ビタミンB6として1.0~1,000mg/L、ビタミンB12として2.4~100mg/L、ビタミンCとして100~1000mg/L、ビタミンDとして0.0025~0.05mg/L、ビタミンEとして8~600mg/L、ビタミンKとして0.055~30mg/L、ナイアシンとして13~30mg/L、ビオチンとして0.030~0.1mg/L、パントテン酸として5~100mg/L、葉酸として0.2~1.0mg/Lである。
【0052】
また、本発明における流動食は、本発明の効果が奏される限りにおいて、さらに、流動食が通常含有する添加剤等を含有することができる。
【0053】
本発明にかかる上記液状食品は、いずれも空腹感を軽減する効果を有しており、その効果発揮のメカニズムは、液状食品が胃に到達後、胃酸によってカルシウム塩がイオンとなり、該カルシウムイオンと、カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類とが結合してゲル化及び/又は増粘し、空腹感の解消や胃内滞留時間の延長といった効果を発揮するものである。
【0054】
また、本発明では不溶性食物繊維又はウェランガムを含有することにより、摂取前の液状食品に含まれる不溶性成分の沈殿や凝集を抑制し、胃内における増粘を助長するといった効果を有している。
【0055】
さらに本発明で得られる液状食品は、胃内でゲル化及び/又は増粘することから、胃食道への逆流やダンピング予防等、嚥下食や介護食としての利用においても有用な効果を期待できる。
【0056】
本発明の液状食品の胃内における増粘をin vitroで再現するための方法として、人工胃液を液状食品の質量の1/3~1/5加え、室温で10分又は60分静置した後、十分に混合し、粘度を測定する方法が用いられる。人工胃液としては、0.7%塩酸及び0.2%食塩の水溶液をpH1.2としたものを用いることができる。本明細書において、胃内における粘度は、上記の人工胃液を用い、後述する方法によって測定された「人工胃液添加後」の粘度として表される。
【0057】
粘度測定の具体的な手順を以下に示す。
(手順)
1.液状食品をガラス製円筒管(内径35mm、高さ100mm)に入れ、下記の条件で粘度測定し、これを人工胃液添加前の粘度(mPa・s)とする。
2.上記1の液状食品に人工胃液を添加したのち、円筒管にキャップで封をし、10回転倒させて、液状食品と人工胃液を混和し、室温で10分~60分静置する。
3.上記2の液状食品、人工胃液の混和物を、均一な状態になるまでよく振って混合し、下記の条件で粘度測定し、これを人工胃液添加後の粘度(mPa・s)とする。
【0058】
本明細書中における粘度は、25℃にて、B型(ブルックフィールド型)回転粘度計で回転数12rpm又は6rpmのいずれかで測定される粘度である。より具体的には、東機産業株式会社製BL VISCOMETERを用い、回転数12rpmにおいて、400mPa・s以下のときNO.1ローターを、400mPa・sを超え2000mPa・s以下のときNO.2ローターを、2000mPa・sを超え8000mPa・s以下のときNO.3ローターを使用するか、又は回転数6rpmにおいて、800mPa・s以下のときNO.1ローターを、800mPa・sを超え4000mPa・s以下のときNO.2ローターを、4000mPa・sを超え16000mPa・s以下のときNO.3ローターを、16000mPa・sを超えるときNO.4ローターを使用することによって得られる粘度である。
【0059】
本明細書における「粘度増加量」は、式1により求められる。なお、人工胃液添加後の粘度は、液状食品と人工胃液を混和し、室温で60分静置した後(人工胃液添加60分後)の粘度とする。
式1:(粘度増加量)=
(人工胃液添加後の粘度)-(人工胃液添加前の粘度)(mPa・s)
【0060】
液状食品の摂食前の粘度(人工胃液添加前の粘度)は飲み込み易いものであれば特に制限されない。一方、胃液と接触した後の粘度(人工胃液添加後の粘度)は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば600mPa・s以上、好ましくは800mPa・s以上、より好ましくは1000mPa・s以上、さらにより好ましくは1,000~50,000mPa・sの範囲が例示できる。十分にゲル化した場合の粘度は10,000~50,000mPa・s程度となり、増粘或いは半固形状のゲルである場合は10,000mPa・s以下となるが、空腹感の軽減(腹持ち)という効果においてはいずれの状態であってもよい。
【0061】
本発明の液状食品の粘度増加量は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、好ましくは700mPa・s以上、より好ましくは800mPa・s以上、さらに好ましくは900mPa・s以上、特に好ましくは1000mPa・s以上である。これにより、胃液と混合する前の粘度は摂取又は投与しやすい流動性を持ちながら、胃内では粘度が増加し、本発明の効果を良好に発揮することができる。
【0062】
本発明の液状食品の20℃におけるpHは、本発明の効果を顕著に奏する観点から、好ましくは5以上、より好ましくは5.5以上、さらに好ましくは6以上であり、外観や風味を良好とする観点から、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、さらに好ましくは8.5以下である。
【0063】
pHの調整は、必要に応じて、例えば、有機酸及び/又はその塩、無機酸及び/又はその塩等のpH調整剤を用いて行うことができる。pH調整剤としては、例えば、フィチン酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸、アジピン酸、酒石酸、及びリンゴ酸等の有機酸又はその塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、並びに水酸化ナトリウム等を挙げることができる。中でも、本発明の効果を顕著に奏する観点から、クエン酸又はその塩が好ましい。
【0064】
本発明は、上記のような液状食品に対して利用可能な技術であり、カルシウムと結合してゲル化及び/又は増粘する多糖類、不溶性食物繊維又はウェランガム、カルシウム塩をその原材料として含む以外は、通常の食品素材や添加物等を使用して製造でき、その製造条件も何ら制限されないため、産業上も有意である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の内容を以下の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、本発明の効果を胃内で検証することは困難であるため、人工胃液(0.7%塩酸及び0.2%食塩の水溶液、pH1.2)を使った試験により検証した。尚、処方中の「*」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標を、「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品であることを示す。
【0066】
実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」を意味する。
【0067】
[実験例1 コンソメスープ]
表1の処方に従って、本発明の液状食品であるコンソメスープを調製した。なお、表2~4で発酵セルロース複合体製剤(サンアーティスト[登録商標]PG)の処方量を記載している。従って、表2~4の処方の発酵セルロース自体の量は、処方量に製剤量中の発酵セルロースの割合(20質量%)を乗じて得られる。
【0068】
【0069】
<調製方法>
イオン交換水に4を添加し80℃に加熱し、7以外の原料を添加し混合した。
(9のペクチンを添加する場合は、13を適宜添加しpHを7~8に調整したのち)蒸発水をイオン交換水で補正した後に、150kgf/cm2で一回ホモジナイズ処理を行った。
得られた溶液を容器に充填して殺菌処理(8添加の場合は121℃20分間レトルト殺菌、9添加の場合は85℃30分間の湯浴殺菌)を行い、液状食品とした。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
<粘度およびpHの測定方法>
・粘度及びpHは、コンソメスープ調製後1日室温(25℃)保存後に下記の手順に従って測定した。結果を表2~4に示す。
(手順)
1.液状食品をガラス製円筒管(内径35mm、高さ100mm)に入れ、下記の条件で粘度およびpH測定し、これを人工胃液添加前の粘度(mPa・s)およびpHとした。
2.上記1の液状食品の質量に対して1/5量の人工胃液を添加したのち、円筒管にキャップで封をし、10回転倒させて、液状食品と人工胃液を混和し、室温で10分もしくは60分静置する。
3.上記2の液状食品、人工胃液の混和物(10分もしくは60分静置後のもの)を、それぞれ均一な状態になるまでよく振って混合し、下記の条件で粘度およびpH測定し、これを人工胃液添加後の粘度(mPa・s)およびpHとした。
・粘度測定条件: B型回転粘度計(東機産業株式会社製BL VISCOMETER)、回転数12rpm、室温(25℃)で測定した。ローターについては、400mPa・s以下のときNO.1ローターを、400mPa・sを超え2000mPa・s以下のときNO.2ローターを、2000mPa・sを超え8000mPa・s以下のときNO.3ローターを使用した。粘度の単位はmPa・sで表す。
・pH測定条件: 室温(25℃)で測定した。
【0074】
<物性評価結果>
アルギン酸ナトリウム、発酵セルロース複合体製剤及びリン酸三カルシウムを併用した実施例1-1~8では、人工胃液添加前のコンソメスープは低い粘度で飲み易い状態であったが、人工胃液を添加、混合すると粘度が上昇した。10分後には600mPa・s以上の粘度が発現し、それが60分後まで維持されていた。また、不溶性食物繊維である発酵セルロース複合体製剤無添加の比較例1-1と比べ、発酵セルロース複合体製剤添加の実施例1-1~4では、それらを人工胃液と混合した際の粘度に大きな違いが見られ、発酵セルロース複合体を併用することによる顕著な効果を確認することができた。
【0075】
アルギン酸ナトリウム無添加の比較例1-2は、人工胃液と混合しても粘度の上昇は見られなかった。アルギン酸ナトリウムを0.5質量%添加した実施例1-5、1-7及び1-8、並びにアルギン酸ナトリウムを0.7質量%添加した実施例1-6において600mPa・s以上の十分な粘度となることがわかった。
【0076】
さらに、リン酸三カルシウム無添加の比較例1-3においても、人工胃液と混合しても十分な粘度の上昇が見られなかった。しかし、リン酸三カルシウムの含量を0.06~0.2質量%とした実施例1-2、及び実施例1-7、8では、十分な粘度の上昇が見られた。
【0077】
アルギン酸ナトリウム、ウェランガム及びリン酸三カルシウムの組み合わせで評価を行った実施例1-9~11のコンソメスープについても人工胃液と混合することによって十分な増粘効果が得られた。
【0078】
さらにペクチン、不溶性食物繊維としての発酵セルロース複合体製剤及びリン酸三カルシウムの組み合わせである実施例1-12~15では、いずれも人工胃液とコンソメスープを混合した後に十分な粘度の上昇が見られた。
【0079】
全体を通じての効果として、不溶性食物繊維及びウェランガム無添加の比較例1-1では沈殿を生じていたが、不溶性食物繊維である発酵セルロース複合体及びウェランガムを添加したそれ以外の実施例、比較例のコンソメスープでは沈殿は抑制されており、不溶性食物繊維及びウェランガムを併用することによって沈殿の発生を抑制するという効果が顕著に現れていた。
【0080】
<官能評価方法>
5名の被験者(20~40代の男女、男性2名、女性3名)に、実施例1-2及び比較例1-1の2種のコンソメスープ100gを摂取させ、10分後の空腹感の軽減効果を6段階(効果なし:0点~非常に効果あり:5点)で評価させた。なお、空腹状態の試験とするため、食事から3時間以上経っていること、試験間隔は5時間あけることとした。
<官能評価結果>
その結果、実施例1-2では空腹感軽減効果は3.6点、比較例1-1では2.6点(いずれも5名の平均)と評価された。
【0081】
上記一連の試験によって、人工胃液を用いた物性評価と、実際に液状食品を摂取して官能評価した空腹感軽減効果の結果に、相関関係がみられることが確認された。
【0082】
[実験例2 濃厚流動食配合-1]
表5、表6~8の処方に従って、本発明の液状食品である濃厚流動食を調製した。なお、表6~8の(B)成分の量は、それぞれの製剤の処方量を記載している。従って、表6~8の処方の(B)成分自体の量は、これらの処方量に製剤量中の(B)成分の割合(発酵セルロース複合体製剤:20質量%、結晶セルロース製剤:85質量%)を乗じて得られる。
【0083】
【0084】
<調製方法>
イオン交換水に1~10を添加し、室温で攪拌溶解した。
湯浴中で80℃まで加熱し、10分間さらに撹拌し溶解した。
蒸発水をイオン交換水で補正した後に、500kgf/cm2で一回ホモジナイズ処理を行った。
得られた溶液を容器(耐熱性のラミネートパック)に充填して殺菌処理(121℃10分間レトルト殺菌)を行い、濃厚流動食とした。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
<クリーミング・沈殿・分離の評価方法>
胃酸を投入する前の流動食サンプルを目視観察し、クリーミング(乳化状態が壊れて油滴が凝集し、クリーム状の層を形成する現象)、分離(水分が上層又は下層に分離する現象)、及び沈殿(凝集物が下に溜まる現象)を、以下の尺度で評価した。結果を表6~8に示す。なお、いずれの尺度も3点以上については、品質が不合格であると判定する。
・評価尺度
0:クリーミング/分離/沈殿が全くない
1:クリーミング/分離/沈殿が僅かにある
2:クリーミング/分離/沈殿が若干ある(少しある)
3:クリーミング/分離/沈殿がある
4:クリーミング/分離/沈殿がやや多い
5:クリーミング/分離/沈殿が激しい
【0089】
<粘度およびpH測定方法>
・粘度、粘度増加量及びpHは、流動食調製後1ヶ月室温(25℃)保存後に以下の手順に従って測定した。人工胃液添加前、及び人工胃液を添加して混合してから60分後にサンプルをよく振り、均一にしたのちの、粘度とpHを測定し、粘度増加量を求めた。結果を表6~8に示す。
(手順)
1.液状食品をガラス製円筒管(内径35mm、高さ100mm)に入れ、下記の条件で粘度およびpH測定し、これを人工胃液添加前の粘度(mPa・s)およびpHとした。
2.上記1の液状食品の質量に対して1/3量の人工胃液を添加したのち、円筒管にキャップで封をし、10回転倒させて、液状食品と人工胃液を混和し、室温で60分静置する。
3.上記2の液状食品、人工胃液の混和物を、均一な状態になるまでよく振って混合し、下記の条件で粘度およびpH測定し、これを人工胃液添加後の粘度(mPa・s)およびpHとした。
また、「粘度増加量」は、式1により求めた。
式1:(粘度増加量)=
(人工胃液添加後の粘度)-(人工胃液添加前の粘度)(mPa・s)
・粘度測定条件:粘度測定は、B型回転粘度計(東機産業株式会社製BL VISCOMETER)を用い、回転数6rpm、室温(25℃)で測定した。ローターについては、800mPa・s以下のときNO.1ローターを、800を超え4000mPa・s以下のときNO.2ローターを、4000を超え16000mPa・s以下のときNO.3ローターを、16000mPa・sを超えるときNO.4ローターを使用した。
・pH測定条件: 室温(25℃)で測定した。
【0090】
<結果・考察>
表6の実施例2-1~11に示されるように、(A)成分(ペクチン)、(C)成分(リン酸三カルシウム)に加えて、(B)成分として発酵セルロース複合体製剤を0.1~0.75質量%、結晶セルロース製剤を0.3~1.0質量%、又はウェランガム0.1~0.15質量%を加えることで、比較例2-2と比較してクリーミング、分離、沈殿が抑えられることがわかった。同時に、人工胃液の添加によって流動食の粘度が大幅に増加し、粘度増加量が1000以上となった。また、実施例2-12~2-14のように、複数の(B)成分を組み合わせた場合もクリーミング等が抑えられ、さらに粘度も人工胃液添加前は低く、添加後に大きく増加する性質を示した。
【0091】
以上から、実験例1と同様に(B)成分は、胃液存在下において流動食の粘度を増大させるだけでなく、流動食の保存時のクリーミング、分離、沈殿を抑制する効果があるものと推察される。
【0092】
表7の実施例3-1~3に示されるように、(A)成分としてアルギン酸ナトリウムを0.3~0.8質量%用いた場合、あるいは実施例3-4~7のようにペクチンの濃度を0.3質量%~1.0質量%に変化させた場合も、クリーミング、沈殿、分離が抑えられ、かつ人工胃液添加前は粘度が低く、添加後に十分に粘度が増加する性質が得られた。
【0093】
表6~8に示されるように、(D)成分である乳化剤として、コハク酸モノグリセリド、レシチン、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、又はショ糖脂肪酸エステルを(A)~(C)成分に加えて流動食に処方しても、クリーミング、沈殿、分離が抑えられ、かつ人工胃液添加前は粘度が低く、添加後に十分に粘度が増加する性質が維持された。
【0094】
[実験例3 濃厚流動食配合-2]
表5、表9の処方に従い、本発明の液状食品である濃厚流動食を調製した。実施例5-1~4、6-3~5では表5の成分のほかにクエン酸三ナトリウム0.5質量%を追加している。また、実施例7-2では表5の成分のほかにクエン酸0.02質量%、クエン酸三ナトリウム0.07質量%追加している。実施例6-1~4ではタンパク質として表5のカゼインナトリウムの代わりにカゼイン分解物(タンパク質含量90質量%)、コラーゲンペプチド(ペプチド含量93%)、大豆タンパク質(タンパク質含量85.3質量%)、又は大豆ペプチド(ペプチド含量89.2質量%)を用いている。実施例7-1では表5の中鎖脂肪酸トリグリセリドを2質量%から2.5質量%に増量している。実施例7-3では表5の中鎖脂肪酸トリグリセリド2.0質量%を、キャノーラ油2.0質量%に置き換えている。
【0095】
【0096】
調製方法、クリーミング・沈殿・分離の評価、粘度及びpHの測定については、流動食調製後1週間室温(25℃)保存後のサンプルを評価・測定に用いたことを除き、実験例2と同じ条件で行った。
【0097】
<結果>
表9の実施例5-1~6に示されるように、(C)成分として、リン酸三カルシウムの代わりにクエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、又はリン酸二水素カルシウムを用いても、クリーミング、沈殿、分離が抑えられ、人工胃液添加によって大きく粘度が増加する濃厚流動食が得られた。
【0098】
表9の実施例6-1~5に示されるように、タンパク質として、カゼインナトリウムの代わりに同量のカゼイン分解物、コラーゲンペプチド、大豆タンパク質、又は大豆ペプチドを用いた場合においても、クリーミング、沈殿、分離が抑えられ、人工胃液添加によって大きく粘度が増加する濃厚流動食が得られた。
【0099】
表9の実施例7-1のように、中鎖脂肪酸トリグリセリドを増量した場合、実施例7-2のようにクエン酸及びクエン酸三ナトリウムを加えた場合、あるいは実施例7-3のように中鎖脂肪酸の代わりにキャノーラ油を用いた場合においても、(A)~(C)成分によるクリーミング、沈殿、分離の抑制と人工胃液添加依存的に粘度増加する性質は保たれていた。
【0100】
[実験例4 ウーロン茶]
表10、11の処方に従って、本発明の液状食品であるウーロン茶を調製した。なお、表11は発酵セルロース複合体製剤の処方量を記載している。従って、表11の処方の発酵セルロース自体の量は、これらの処方量に製剤量中の発酵セルロースの割合(20質量%)を乗じて得られる。
【0101】
【0102】
【0103】
<調製方法>
1Lのイオン交換水に対し、ウーロン茶葉2.5gを加え、3分間沸騰して煮出し、茶葉を除いた。
得られたウーロン茶抽出液(表10の1)に、他の原料(表10の2~5)を添加し、80℃で10分間攪拌溶解した。
蒸留水を補正後、圧力150kgf/cm2でホモジナイズ処理した。
容器に充填し、121℃20分間レトルト殺菌処理を行った。
【0104】
<測定条件>
粘度・pHの測定条件及び人工胃液の添加割合は、実験例1と同じ条件を使用した。
【0105】
<結果>
結果を表11に示す。(A)成分として、脱アシル型ジェランガム又はイオタカラギナンを用いた場合にも、人工胃液添加前の保存時には沈殿は認められず人工胃液の添加によって大きく粘度が上昇した。