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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】フォトマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/40 20120101AFI20230828BHJP
   G03F 1/00 20120101ALI20230828BHJP
   G03F 1/42 20120101ALI20230828BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
G03F1/40
G03F1/00 Z
G03F1/42
G03F7/20 521
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019032968
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2019168677
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2018056906
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】剱持 大介
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-223328(JP,A)
【文献】特開平02-178913(JP,A)
【文献】特開平08-234410(JP,A)
【文献】特開2003-140320(JP,A)
【文献】特開2002-023340(JP,A)
【文献】特開2007-310175(JP,A)
【文献】特開2000-098585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、転写用パターンを形成するための転写領域と、前記転写領域の外周を囲む外周領域とを有し、前記転写領域と前記外周領域には、前記透明基板上に形成された透明導電膜と光学膜との積層膜を有する、フォトマスクブランクを用意する工程と、
前記光学膜のみをパターニングすることにより、前記転写領域に前記転写用パターンを形成するとともに、前記外周領域にマークパターンを形成し、かつ、前記転写用パターンと前記外周領域との間に、前記透明基板が所定幅で露出する部分をもつ、透光環状部を形成する、パターニング工程と、
前記パターニング工程によって前記転写領域内に露出した透明導電膜を除去する、除去工程とを含む
フォトマスクの製造方法。
【請求項2】
透明基板上に、光学膜をパターニングして形成された転写用パターン、前記転写用パターンの外周を囲みマークパターンを有する外周領域、および、前記転写用パターンと前記外周領域との間に、所定幅の透明基板が露出する部分をもつ透光環状部を有するフォトマスク中間体を用意する工程と、
前記外周領域に、透明導電膜を積層する工程とを有する
フォトマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトマスクの製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置(フラットパネルディスプレイ)および半導体集積回路等の電子デバイスの製作に、フォトリソグラフィ技術が利用されている。これらの電子デバイスの製造に適用するフォトリソグラフィ技術においては、透明基板の一主表面上に遮光膜等の光学膜をパターニングして形成された、転写用パターンをもつフォトマスクが使用される。
【0003】
フォトマスクの製造過程や、フォトマスクを使用する過程において、フォトマスクと他の機器等との接触、または、外来の電磁波等の影響により、フォトマスクの一部が静電気を帯びる場合がある。転写用パターン内において、微小な間隔を隔てた複数の孤立部分の間で静電気による電位差が生じた場合、放電が発生してパターンが破壊され、欠陥となる場合がある。
【0004】
フォトマスクの帯電による放電が生じたときの衝撃で、パターンに欠陥が生じる問題に対し、マスク基板上に、透光性および導電性を有する静電破壊防止膜を形成し、その上に遮光膜を設けたフォトマスクブランク、およびそれをパターニングしたフォトマスクが提案されている(特許文献1)。また、ガラス基板の遮光膜成膜面に、反射防止膜を介して透明導電膜を設けたフォトマスク基板が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-81449号公報
【文献】特開2014-134667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のフォトマスクを用いて、露光装置によってパターン転写を行なう場合、静電破壊防止膜により露光光の透過率が低下する。そのため、転写に必要な光量を得るためには、露光に要する時間が長くなり、スループットを下げるという問題がある。
【0007】
特許文献2のフォトマスクにおいては、反射防止膜を介して透明導電膜を形成することにより、特許文献1において生じた、透過率低下の問題は軽減される。しかしながら、反射防止膜と透明導電膜とを透明基板全面に形成する際、それぞれの膜厚や膜質の面内ばらつきが生じることを完全に防止することはできないため、光学特性の面内均一性が確保できないという問題がある。光学特性の面内ばらつきが生じている場合には、パターンの転写を正確に行なえない。特に、フラットパネルディスプレイ用のフォトマスクは、面積が大きいものを含めて多様なサイズが存在するため、成膜装置内において、膜厚の面内ばらつきを無くすことは難しい。
【0008】
本発明は、一つの側面では、静電破壊の発生を防止したフォトマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフォトマスクの製造方法は、透明基板上に、転写用パターンを形成するための転写領域と、前記転写領域の外周を囲む外周領域とを有し、前記転写領域と前記外周領域には、前記透明基板上に形成された透明導電膜と光学膜との積層膜を有する、フォトマスクブランクを用意する工程と、前記光学膜のみをパターニングすることにより、前記転写領域に前記転写用パターンを形成するとともに、前記外周領域にマークパターンを形成し、かつ、前記転写用パターンと前記外周領域との間に、前記透明基板が所定幅で露出する部分をもつ、透光環状部を形成する、パターニング工程と、前記パターニング工程によって前記転写領域内に露出した透明導電膜を除去する、除去工程とを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、一つの側面では、静電破壊の発生を防止したフォトマスクの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態1によるフォトマスクの模式正面図である。
図2図1に示すフォトマスクのA部拡大図である。
図3図1のIII-III線によるフォトマスクの模式断面図である。
図4】実施の形態1によるフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図5図4に続くフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図6図5に続くフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図7図6に続くフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図8図7に続くフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図9図8に続くフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図10】フォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図11】実施の形態2のフォトマスクの模式断面図である。
図12】実施の形態3のフォトマスクの模式断面図である。
図13】実施の形態4のフォトマスクの模式断面図である。
図14】実施の形態4のフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図15図14に続く実施の形態4のフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図16図15に続く実施の形態4のフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図17図16に続く実施の形態4のフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図18図17に続く実施の形態4のフォトマスクの製造工程を説明する説明図である。
図19】実施の形態5のフォトマスクの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1によるフォトマスク10の模式正面図である。本実施の形態においては、フラットパネルディスプレイの製造に使用される大型フォトマスク10を例にして説明する。本実施の形態のフォトマスク10は、その主表面が、一辺が300から2000ミリメートルの四角形(正方形または長方形)、厚みが5から16ミリメートルの平板状である。なお、図1においては、説明のためにフォトマスク10の外周領域31を誇張して太く示す。
【0013】
図2は、図1に示されたフォトマスク10のA部拡大図であり、図3は、図1のIII-III線によるフォトマスクの模式断面図である。
【0014】
平面視では、フォトマスク10の主表面に、転写用パターン35が形成されている。転写用パターン35は、フォトマスク10の基板である透明基板21上に成膜された光学膜を、パターニングして形成される。光学膜の多くは導電性の膜によって形成される。たとえば、光学膜として遮光膜23(図3参照)を適用することにより、透光部と遮光部とを含む転写用パターン35を形成し、いわゆるバイナリマスクとすることができる。この場合、透光部においては透明基板21が露出する。遮光部においては、透明基板21上に少なくとも遮光膜23が形成されてなる。図3では光学膜として、遮光膜23が単層で使用されている。
【0015】
フォトマスク10は、光学膜として、遮光膜23と、露光光を一部透過する半透光膜とを用い、それぞれをパターニングして形成した転写用パターンをもつ、多階調フォトマスク(階調マスク、または、グレートーンマスクとも呼ばれることがある)としてもよい。この場合、半透光膜は、露光光の代表波長に対して、透過率が20~60%程度、位相シフト量が60度以下であることが好ましい。
【0016】
フォトマスク10は、光学膜として、露光光を一部透過するとともに位相を略180度シフトする位相シフト膜を用い、この位相シフト膜をパターニングして形成した転写用パターンをもつ、位相シフトマスクとしてもよい。更には、フォトマスク10は、光学膜として、遮光膜と該位相シフト膜とを用い、それぞれをパターニングして形成した転写用パターンをもつ、位相シフトマスクとしてもよい。この場合、位相シフト膜の露光光透過率は、3~70%程度にすることができる。ここで略180度とは、180±30度の範囲を意味する。
【0017】
転写用パターン35は、得ようとする電子デバイスの設計に基づくパターンであって、露光によって被転写体上に転写するパターンである。図1および図2においては、転写用パターン35に格子状のハッチングを施して示してある。転写用パターン35の詳細な形状については、図示を省略する。
【0018】
転写用パターン35の外縁は、所定幅をもつ環状の部分によって囲まれている。図1から理解できるように、本明細書中の「環状」は、リング状のみを意味するものではなく、四角形等の枠形状も含む。この環状の部分は、転写用パターン35を構成する1つ以上の膜からなるものであることが好ましい。以下、光学膜が遮光膜23である場合を例として説明することから、この環状部を遮光環状部34とする。ここでは、遮光環状部34は、透明基板21上に、上記光学膜(遮光膜23)が形成されてなる。もちろん、光学膜が位相シフト膜である場合には、この環状部は該位相シフト膜パターンからなるものとすることができる。また、転写用パターン35が複数膜の積層である場合には、この部分も同様に積層とすることができる。
【0019】
転写用パターン35の外縁形状に凹凸や、鋭角状の部分を有する場合には、後述の外周領域31との間で放電を生じるリスクが生じる。そこで、転写用パターン35の外縁には、転写用パターン35と電気的に導通する遮光環状部34が形成されることにより、転写用パターン35の外縁形状を整え、後述の透光環状部33の適切な幅を確保する機能を有する。そして、上記放電が生じるリスクを低減する。したがって、遮光環状部34の外縁は、透明基板21の四隅近傍を除き、鋭角や直角の部分を含まないことが好ましい。遮光環状部34の外縁の形状は、曲線を含んでも良いが、製造時(描画工程)の便宜を考慮すると、フォトマスク10の主表面の縁を形成する四角形の各辺と平行な直線を含むことが好ましく、該直線のみからなることが、さらに好ましい。尚、図3等に示す断面図では、転写用パターン35と遮光環状部34の間に隙間があるが、本態様のフォトマスク10においては、転写用パターン35の外縁のいずれかの部分において、遮光環状部34と連続している。
【0020】
遮光環状部34の外周側には、透光環状部33が形成されている。つまり遮光環状部34は、透光環状部33と隣接し、透光環状部33によって外周を囲まれている。本形態では透光環状部33は、透明基板21の表面が露出した所定幅の部分として形成され、その幅は、1ミリメートル以上であることが好ましく、具体的には1から5ミリメートルの幅とすることが好ましい。透光環状部33は、転写用パターン35と、後述の外周領域を電気的に分離する機能を有するところ、その幅が細すぎると電気的な分離効果が不確実になる。一方、透光環状部33が太すぎると、転写用パターン35のエリアに制約が生じる。
【0021】
透光環状部33の外縁も、透明基板21の四隅近傍を除き、鋭角や直角の部分を有さないことが好ましい。透光環状部33の外縁形状は、上記遮光環状部34と同様に考えることができる。すなわち、フォトマスク10の主表面を形成する四角形の各辺と平行な直線のみからなることがより好ましい。透光環状部33は、全周にわたって、一定幅の部分を有するようにすることができる。
【0022】
透光環状部33の外周側には、外周領域31が形成されている。外周領域31は、フォトマスク10の主平面の外縁付近に、環状に形成され、透光環状部33を囲んでいる。この外周領域31は、フォトマスクを露光する際に転写対象とならない、いわば非転写領域とすることが好ましい。外周領域31には、透明導電膜25が形成され、その上に光学膜パターン(ここでは遮光膜パターン)を有することが好ましい。外周領域31に形成された遮光膜パターンは、たとえば後述のマークパターンを含む。
【0023】
ここで、外周領域31に形成された光学膜(ここでは遮光膜23)は、透明基板21の主表面の外縁を含んで形成されてもよいが、外縁から所定距離(たとえば1~5ミリメートル)離間して形成されることが好ましい。この場合、透明基板の外縁から光学膜が脱離して異物となるリスクを低減できる。
【0024】
上記透光環状部33により、転写用パターン35と外周領域31とは、電気的に絶縁されている。絶縁を確実に行なうために、透光環状部33は、1ミリメートル以上の幅を全周にわたって有することが好ましい。
【0025】
透光環状部33は、上記のとおり透明基板21が露出してなることが好ましいが、透光環状部33の幅を十分に太くし、そのエリア内に他のパターンが形成されてもよい。たとえば、透光環状部33の幅を2分するライン状パターンを設け、上記電気的な絶縁効果を二重にしてもよい。その場合にも、透明基板21の露出部分として、1ミリメートル以上の幅が確保されることが望ましい。
【0026】
外周領域31には、フォトマスクの露光時に、被転写体上に転写されないマークパターンが形成されている。ここでは、マークパターンの一例として、露光時のフォトマスク10の位置決めに用いるアライメントマーク32を図1および図2に示す。このように、所定の間隔で複数のアライメントマーク32を設けることができる。
【0027】
図1および図2においては、アライメントマーク32は、四角形の透光部の内部に十字型の遮光部を配置した形状である。ここで、十字型の遮光部は、外周領域31内にあって、パターン形状として島状に孤立している。このように孤立部分が電気的にも孤立して配置された場合には、該孤立部分とその近傍にある遮光膜パターン(外周領域31の遮光膜23)との間で放電が生じ、静電破壊が生じるリスクがある。しかし本形態1では、孤立部分とその近傍にある遮光膜パターンとを透明導電膜25によって、電気的に導通させているので、放電による静電破壊を防止する、本発明の効果が得られる。この作用については、詳細に後述する。
【0028】
なお、アライメントマーク32の形状および数は例示であり、任意の形状および任意の数のアライメントマーク32を設けることができる。マークパターンとしては、上記アライメントマーク32のほか、製品や製造者の識別や表示等を設けることができる。マークパターンの機能および内容に制限はない。これらマークパターンは、その機能に応じて様々なデザインがあり得るが、いずれの場合にも本発明によれば、静電破壊を誘発するリスクが避けられる。
【0029】
図1から図3を使用して、本実施の形態のフォトマスク10の構成をさらに説明する。
【0030】
フォトマスク10は、透明基板21の一主表面に形成された、透明導電膜25および光学膜(ここでは遮光膜23)がパターニングされてなる構成である。
【0031】
透明基板21は、合成石英ガラスまたはソーダ石灰ガラス等の透明材料の基板を平坦かつ平滑に研磨したものである。透明基板21は、フォトマスク10の露光に用いる露光光に含まれる代表波長の光を90%以上透過させることが望ましい。
【0032】
露光光としては、半導体装置製造用の露光装置であれば、i線、KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザなどの光源が用いられる。フラットパネルディスプレイ製造用の露光装置であれば、i線、h線、g線のいずれか1又は2波長、または、i線~g線をすべて含む波長域を有する光源が用いられる。
【0033】
転写用パターン35は、フォトマスク10を用いて得ようとする電子デバイスに基づいて設計された、光学膜パターンからなるパターンであり、ここでは透明基板上に直接形成されている。その製造工程により、1つの光学膜がパターニングされ、または複数の光学膜がそれぞれパターニングされて積層してなるものとすることができる。転写用パターン35は、本形態1で示すようにたとえば遮光膜23からなり、または、遮光膜23と共に、もしくは、遮光膜23の代わりに、上述の半透光膜や位相シフト膜から形成されたパターンであってもよい。または、上記いずれかの光学膜パターンと共に、透明基板21の表面に堀り込みを形成した、位相シフタを有していても良い。
【0034】
図3に示すフォトマスク10において、転写用パターン35を構成する遮光膜23は導電性を有する。遮光膜23は、クロム、タンタル、モリブデン、チタンまたはタングステン等の金属を含む膜とすることができる。たとえば、遮光膜23は、上記金属からなる膜、またはその酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化窒化炭化物を含むものであってもよい。遮光膜23は、タンタル、モリブデン等の金属を含む金属シリサイド、またはその酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化窒化炭化物であっても良い。遮光膜23は、露光光を実質的に透過させない。たとえば、光学濃度OD(Optical Density)が3以上、より好ましくは5以上とすることができる。
【0035】
遮光環状部34においては、透明基板21の上に上記遮光膜23が環状に形成され、転写用パターン35を囲み、転写用パターン35の最外縁の形状を整える機能を奏している。前述したように、転写用パターン35を構成する遮光膜23と、遮光環状部34を構成する遮光膜23とは、電気的に連続している。又は、転写用パターン35と遮光環状部の境界とが識別できない形態でもよい。
【0036】
透光環状部33においては、透明基板21の上に膜が積層されておらず、透明基板21が露出している。
【0037】
外周領域31においては、透明基板21の上に透明導電膜25が形成され、その上に、遮光膜パターンからなる、アライメントマーク32が形成されている。アライメントマーク32は、透光部と遮光部とを含む。透光部においては、透明基板21上に形成された透明導電膜25の上に遮光膜23が積層されておらず、遮光部においては、透明導電膜25の上に遮光膜23が積層されている。
【0038】
透明導電膜25は、たとえばITO(Indium Tin Oxide)膜、ZnO(酸化亜鉛)膜、またはSnO2(酸化スズ)膜、In23(酸化インジウム)膜のほか、InxSnYz膜、SnxSbYz膜等、透光性と導電性とを有する膜である。たとえば、i線、h線、またはg線に対する透過率が85%以上、好ましくは90%以上であり、シート抵抗値が、10MΩ/□以下であることが好ましい。透明導電膜25の膜厚は、20ナノメートル以下であることが好ましい。上記膜上に透明保護層としてのTaXY(タンタル酸化物)膜を積層してもよい。その場合、積層膜として、上記膜厚、透過率や導電性を満たすことが好ましい。
【0039】
透明導電膜25は、透明基板21側に反射防止膜を伴っていてもよい。反射防止膜は、上記透明導電膜25と積層されることにより、露光光の透過率を向上させる機能をもつ。透明導電膜25の素材としては、透過性と導電性を有するものが好ましく、たとえば、Si34、ZrO2を主成分とするものが挙げられる。積層構造である場合は、積層膜全体で、上記膜厚および導電性を満たすことが好ましく、光透過率は90%以上であることが好ましい。
【0040】
透明導電膜25に起因して、外周領域31においては透光部の光透過率が若干低下することがあるが、アライメントマーク32等の、マークパターンの識別には問題が生じない。一方、転写用パターン35においては、透明導電膜25が形成されていない透光部をもつため、光透過率が低下する不都合が存在せず、微細パターンの転写を精緻に行なえる。
【0041】
透明導電膜25は、遮光膜23のエッチング剤に対して、耐性をもつ材料であることが好ましい。すなわち、透明導電膜25と遮光膜23は、エッチング選択性を有することが好ましい。
【0042】
液晶表示パネルまたは有機EL(Electro-Luminescence)表示パネルのTFT(Thin-Film-Transistor)アレイ基板を製作する場合を例にして、本実施の形態のフォトマスク10を使用して、電子デバイスを製造する工程の概略を説明する。
【0043】
ガラス基板等の被転写体の一面に金属膜とレジストとを順次積層した、TFT基板を用意する。
【0044】
上記TFT基板を、フラットパネルディスプレイ用露光装置にセットする。外周領域31にアライメント用の照明光をあててアライメントマーク32を検出し、位置決めを行なう。
【0045】
転写用パターン35に、露光光を照射する。露光光源は、たとえば水銀ランプとし、露光光はi線~g線の波長範囲を含む混合波長の光とする。露光光により転写用パターン35が被転写体に転写されて、現像によりレジストパターンが形成される。
【0046】
上記レジストパターンをマスクとした、エッチングにより、金属膜がパターニングされる。その後、レジストを剥離する。エッチングは、ウェットエッチング又はドライエッチングが適用できる。
【0047】
なお、本発明のフォトマスク10を用いる露光方式は、被転写体とフォトマスク10との間に結像光学系を配置するプロジェクション露光、または、被転写体とフォトマスク10の間に、数十~数百マイクロメートルのギャップを設ける近接露光のいずれを適用してもよい。フォトマスク10は、フラットパネルディスプレイ装置のほか、半導体回路の製造等の、任意の用途のリソグラフィ工程に使用されても良い。フラットパネルディスプレイ装置を製造する場合のプロジェクション露光装置としては、NA(Numerical Aperture)が0.08~0.15程度の光学系が好ましく用いられる。
【0048】
フォトマスク10の静電破壊とその防止策について説明する。フォトマスク10の製造工程、または、使用工程における、フォトマスク10ハンドリングの際、接触する機材や治具等の接触により、フォトマスク10の外縁付近などから電荷が注入される場合が生じる。たとえば、保管ケースまたは運搬装置等が静電気を帯び、これらにより、フォトマスク10の光学膜(遮光膜23)が帯電する。
【0049】
一般に、近接しているが、連続していない導電体間に電位差が生じた場合、空中での放電が発生する場合がある。したがって、フォトマスク10の転写用パターン35中で、放電が発生した部分、もしくはその近傍で、遮光膜23の破断が生じたり、破断により生じる異物が転写用パターン35に付着したりする等の異常をもたらす静電破壊が生じる可能性がある。一般的に放電は電位差が生じた遮光膜23同士が最も近接した場所で生じる。
【0050】
転写用パターン35においてこれらの異常が生じた場合、被転写体にも異常のあるパターンが転写される。外周領域31においてこれらの異常が生じた場合、マークパターンが破壊され、フォトマスク10の位置情報の検出が困難になる。いずれの場合であっても、TFT基板等の電子デバイスを正しく製造することができない。
【0051】
発明者による電場シミュレーションによれば、遮光膜23からなる孤立パターン間の間隔が1ミリメートル以上であれば、1キロボルト程度の電位差が生じても空中での放電は、実質的に防止できる。
【0052】
前述のとおり、透光環状部33は1ミリメートル以上の幅を有する。これにより、外周領域31と、遮光環状部34とを、電気的に分離する。透光環状部33の幅が一定であり、外周領域31の遮光膜23および透明導電膜25と、遮光環状部34の遮光膜23とが局所的に近接した部分を無くすることによって、仮に両者の間に大きな電位差が生じた場合であっても、放電が生じにくい。
【0053】
転写用パターン35は、電気的に導通した遮光環状部34により囲まれているため、転写用パターン35への電荷の注入は生じにくく、この領域の遮光膜23と、外周領域31の遮光膜23との間の放電を抑止できる。さらに、転写用パターン35の遮光膜23に偶発的に電荷が注入されても、遮光環状部34と導通しているため、電荷が遮光環状部34の遮光膜23に拡散して電位差が低下する。そのため、転写用パターン35における放電の可能性も低減できる。
【0054】
外周領域31は、導電性を有する透明導電膜25を有するため、図2に示すようにアライメントマーク32が透光部に囲まれ、パターンデザインとしては孤立した部分が含まれる場合であっても、電気的には孤立していない。このため、パターンデザインとしての該孤立部分に電荷が蓄積せず、外周領域31内に電位差が発生しない。そのため、外周領域31における放電を防止できる。フォトマスク製造過程、又はフォトマスクのハンドリング過程において、外周領域31を電気的に接地接続してもよい。
【0055】
以上に説明したように、透光環状部33および遮光環状部34を設けることにより、瞬間的な放電が発生する可能性を低減できる。そのため、転写用パターン35、およびアライメントマーク32のいずれにおいても静電破壊する可能性を低減できる。
【0056】
転写用パターン35においては、透光部に透明導電膜25が形成されていないため、露光光の透過率を低減せず、転写されるパターンのコントラストを有利に維持できる。また、透明導電膜25の膜厚ばらつきに起因する問題も生じず、膜素材に起因する透過率波長依存性の影響を受けないことから、所定波長域を含む露光光源を使用する場合にも、転写条件の変動を生じず、好ましい。
【0057】
図4から図10は、フォトマスク10の製造工程を説明する説明図である。図4から図10は、いずれも図3と同じ断面を示す。
【0058】
図4に示す透明基板21の主平面上の外縁付近に、透明導電膜25を形成した状態のフォトマスクブランク15を図5に示す。フォトマスクブランク15は、透明導電膜25で覆われた外周領域31の内側に、転写用パターンを形成するための転写領域36を有する。転写領域36においては、透明基板21が露出している。
【0059】
上記フォトマスクブランク15を用意するにあたり、透明基板21の中央部をマスキングした状態で、スパッタリング等の成膜手法により、透明導電膜25を成膜することができる。透明導電膜25が、透明基板21側に反射防止膜を伴う場合には、この2膜を順次積層する。図4~19においては、反射防止膜を有しない場合を例として示す。
【0060】
又は、透明導電膜25、または反射防止膜と透明導電膜25との積層膜を透明基板21の主表面全体に成膜した後、リソグラフィにより転写用パターン35が形成される中央部の膜を除去してもよい。以上により、外周領域31に透明導電膜25が形成された、フォトマスクブランク15が完成する。
【0061】
図5の上記主表面に、光学膜として遮光膜23をさらに成膜する。この状態を図6に示す。遮光膜23も、たとえばスパッタリング等の成膜手法により形成される。なお、図6に示す状態を、フォトマスクブランク15とよぶこともある。
【0062】
図6の一面にレジスト24を塗布した状態を、図7に示す。レジスト24は、たとえばスリットコータまたはスピンコータにより塗布することができる。塗布後にプリベークを行なうことにより、レジスト24と遮光膜23との密着性を高めることができる。なお、図7に示す状態のものを、フォトマスクブランク15とよんでも良い。以下の説明では、レジスト24はポジ型である場合を例にして説明する。
【0063】
レーザまたは電子線等を用いた描画装置により、描画を行なう。所定の転写用パターン35、遮光環状部34、透光環状部33、および外周領域31中のアライメントマーク32を形成するためのパターンデータに基づいてレジスト24の上に描画がなされる。以下の説明ではレーザ描画装置を用いる場合を例にして説明する。図8に示すように、レジスト24に、レーザ光が照射された感光部241と、レーザ光が照射されない非感光部242とが形成される。
【0064】
レジスト24を現像し、図9に示すレジストパターン243を得る。
【0065】
図9に示すレジストパターン243を用いて、遮光膜23に対するエッチング工程が行われる。すなわち、レジストパターン243に覆われていない遮光膜23が、透明基板21から除去される。外周領域31に形成された透明導電膜25は、遮光膜23のエッチング剤(ここではウェットエッチングであるためエッチング液)に対して耐性を有するため、ダメージを受けない。エッチング工程後の状態を、図10に示す。その後、レジストパターン243を剥離する。以上により、図3を使用して説明したフォトマスク10が完成する。
【0066】
なお、レジストパターン243を剥離した後に、ペリクルを取り付けてフォトマスク10を完成させても良い。ペリクルは、ペリクル膜を保持するペリクル枠を、外周領域31の遮光膜23に接着することにより取り付ける。
【0067】
本実施の形態によると、静電破壊の発生を防止したフォトマスク10を提供できる。転写用パターン35には、静電気防止用の膜を設けないため、露光光の減衰が生じず、所定のパターンを精度良く転写できるフォトマスク10を提供できる。
【0068】
本実施の形態によると、静電破壊の発生を防止したフォトマスク10用のフォトマスクブランク15を提供できる。
【0069】
[実施の形態2]
本実施の形態は、外周領域31において、遮光膜パターンのエッジと透明導電膜パターンのエッジが同一位置ではなく、後者のエッジが露出しているフォトマスク10に関する。実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0070】
図11は、実施の形態2のフォトマスク10の模式断面図である。本実施の形態においては、外周領域31に設けられた透明導電膜25は、外周領域31と透光環状部33との境界よりも内側に延びている。
【0071】
透光環状部33は、外側は透明導電膜25で覆われ、内側は透明基板21が露出した二重の環状である。透光環状部33は、透明基板21が露出した部分を1ミリメートル以上の一定の幅で有する。図示を省略するが、フォトマスク10を正面視した場合に、透明導電膜25の内縁と、遮光環状部34の外縁とは平行である。
【0072】
本実施の形態によると、あらかじめフォトマスクブランク15に設けられた透明導電膜25の幅に限定されずに、外周領域31の幅を定めることが可能である。
【0073】
[実施の形態3]
本実施の形態は、外周領域31において、遮光膜パターンの幅よりも透明導電膜25の幅が小さいフォトマスク10に関する。実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0074】
図12は、実施の形態3のフォトマスク10の模式断面図である。本実施の形態においては、透明導電膜25の幅は、外周領域31の幅よりも小さい。そのため、外周領域31は、透明導電膜25の内側で透明基板21の表面を覆っている。図示を省略するが、フォトマスク10を正面視した場合に、外周領域31の内縁と、遮光環状部34の外縁とは平行である。
【0075】
本実施の形態によると、あらかじめフォトマスクブランク15に設けられた透明導電膜25の幅に限定されずに、外周領域31の幅を定めることが可能である。
【0076】
なお、透明導電膜25の代わりに、アライメントマーク32の近傍に、透光性と導電性とを有する膜を設け、アライメントマーク32中の孤立した遮光膜23と外周領域31における遮光膜23とを導通させても良い。
【0077】
[実施の形態4]
本実施の形態は、転写用パターン35および遮光環状部34が2層構造であるフォトマスク10に関する。実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0078】
図13は、実施の形態4のフォトマスク10の模式断面図である。本実施の形態のフォトマスク10の遮光環状部34および転写用パターン35は、透明導電膜25と遮光膜23との積層膜からなる。
【0079】
図14から図18は、実施の形態4のフォトマスク10の製造工程を説明する説明図である。
【0080】
透明基板21の一主表面に透明導電膜25と遮光膜23とを積層したフォトマスクブランク15を、図14に示す。図14の一面にレジスト24を積層した、レジスト付フォトマスクブランクを、図15に示す。なお、フォトマスクブランク15は、図15に示す状態であっても良い。
【0081】
描画工程後、現像工程によってレジストパターン243を形成し、このレジストパターン243を用いて初回のエッチング工程によって、遮光膜23をパターニングした後の状態を、図16に示す。透明導電膜25は、遮光膜23のエッチング剤に対して耐性をもつ。
【0082】
次に、外周領域31のみにレジストパターン243を形成した状態を、図17に示す。
【0083】
図16に示すレジストパターン243を剥離し、スリットコータ等の手法により全面に新たなレジスト24を塗布した後に、露光および現像を行なって外周領域31に対応するレジスト部分のみを残すことにより、図17に示すレジストパターン243を形成できる。
【0084】
上記レジストパターン243を用いて、透明導電膜25のエッチングを行なった後の状態を、図18に示す。透明導電膜25は、転写用パターン35における透光部において除去され、それ以外は残留する。
【0085】
本実施の形態によると、フォトマスクブランク15の段階では透明導電膜25の幅が規定されない。したがって、フォトマスク製造業者が透明導電膜25の幅を任意に定めることができる。
【0086】
本実施の形態は、実施の形態1と比較して、フォトマスクブランク15の形成が簡便である点で有利である。転写用パターン35においては、遮光膜パターンの透明基板21側に透明導電膜25が存在していても、何ら問題はない。但し、転写用パターン35が、遮光膜パターンのみでなく、半透光膜(位相シフト膜を含む)パターンを含む場合には、転写用パターン35の透明基板21側に他の膜を有しない、実施の形態1のフォトマスク10が有利である。
【0087】
[実施の形態5]
本実施の形態は、外周領域31において透明導電膜25と遮光膜23とが逆順に積層されたフォトマスク10に関する。実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0088】
図19は、実施の形態5のフォトマスク10の模式断面図である。外周領域31において、マークパターンを形成する遮光膜パターンは透明導電膜25により覆われている。本実施の形態のフォトマスク10は、透明基板21の一主表面に形成された遮光膜23をフォトリソグラフィにより所定の形状にパターニングして、転写用パターン35と、アライメントマーク32をもつ外周領域31と、両者の間に所定幅の透明基板21が露出した透光環状部33とをもつフォトマスク中間体とした後、外周領域31の遮光膜23上及びアライメントマーク32の透光部に透明導電膜25を積層してある。
【0089】
透明導電膜25の積層に際しては、外周領域31以外の領域をマスキングした状態で透明導電膜25を成膜してもよい。上記フォトマスク中間体に対し、その主表面に透明導電膜25を成膜したのち、フォトリソグラフィ工程によって、外周領域31以外の部分を除去してもよい。
【0090】
本実施の形態によると、透明基板21の一主表面に転写用パターン35が積層された一般的なフォトマスクを使用して、静電破壊の発生を防止したフォトマスク10を製作できる。
【0091】
各実施例で記載されている技術的特徴(構成要件)はお互いに組合せ可能であり、組み合わせすることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものでは無いと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味では無く、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0092】
10 フォトマスク
15 フォトマスクブランク
21 透明基板
23 遮光膜
24 レジスト
241 感光部
242 非感光部
243 レジストパターン
25 透明導電膜
31 外周領域
32 アライメントマーク
33 透光環状部
34 遮光環状部
35 転写用パターン
36 転写領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19