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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】植物育成用部材及び植物育成方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20230828BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20230828BHJP
   F21V 33/00 20060101ALI20230828BHJP
   F21V 9/30 20180101ALI20230828BHJP
   F21V 7/30 20180101ALI20230828BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20230828BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230828BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230828BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G13/02 D
A01G7/00 601B
F21V33/00 400
F21V9/30
F21V7/30
B32B7/023
B32B27/18 Z
B32B27/30 D
B32B27/38
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019062876
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020156450
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】一條 利治
(72)【発明者】
【氏名】本田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 孝俊
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-029351(JP,U)
【文献】特開昭48-052523(JP,A)
【文献】特開平03-262419(JP,A)
【文献】特開2010-115193(JP,A)
【文献】特開2015-130459(JP,A)
【文献】特開2014-105272(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0345195(US,A1)
【文献】特開平06-335325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 13/02
F21V 33/00
F21V 9/30
F21V 7/30
B32B 7/023
B32B 27/18
B32B 27/30
B32B 27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光不透過性樹脂基材と、前記光不透過性樹脂基材の上に形成されており、蛍光体を含む波長変換体とを有する、積層構造体、および前記積層構造体を封止する光透過性封止体
を備える、植物育成用部材であって、
前記積層構造体を積層方向から見たとき、前記積層構造体の周囲に、前記光透過性封止体で構成されたマージン部が形成され、前記マージン部に切り欠き部が形成されており、
プレート状であり、0.5mm以上の厚みを有している、植物育成用部材。
【請求項2】
光不透過性樹脂基材と、前記光不透過性樹脂基材の上に形成されており、蛍光体を含む波長変換体とを有する、積層構造体、および前記積層構造体を封止する光透過性封止体
を備える、植物育成用部材であって、
前記積層構造体を積層方向から見たとき、
前記積層方向と直交する面内方向において、複数の前記積層構造体が設けられており、
隣接する前記積層構造体の間に前記光透過性封止体で構成された分離部が形成されており、
プレート状であり、0.5mm以上の厚みを有している、植物育成用部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の植物育成用部材であって、
前記光不透過性樹脂基材が、テフロン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、及びポリ塩化ビニルからなる群から選ばれる1種以上を含む、
植物育成用部材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
前記光不透過性樹脂基材が、光散乱層を含む、植物育成用部材。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
前記光不透過性樹脂基材は、白色樹脂シートで構成される、植物育成用部材。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
前記光不透過性樹脂基材の厚みが、0.01mm以上10mm以下である、植物育成用部材。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
前記蛍光体が、赤色蛍光体を含む、植物育成用部材。
【請求項8】
請求項に記載の植物育成用部材であって、
前記赤色蛍光体が、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、硫化物蛍光体、及びフッ化物蛍光体からなる群から選ばれる1種以上を含む、植物育成用部材。
【請求項9】
請求項又はに記載の植物育成用部材であって、
前記赤色蛍光体が、賦活元素としてマンガン、ユウロピウムからなる群から選ばれる1種以上を含む、植物育成用部材。
【請求項10】
請求項のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
前記赤色蛍光体が、マンガンを賦活したカルシウムアルミネート系赤色蛍光体、CaAlSiN:Eu2+からなる群から選ばれる1種以上を含む、植物育成用部材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
前記波長変換体は、前記蛍光体の粒子が内部に分散している光透過性樹脂層を含む、
植物育成用部材。
【請求項12】
請求項11に記載の植物育成用部材であって、
前記光透過性樹脂層を構成する樹脂材料が、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、及びビニル樹脂からなる群から選ばれる1種以上を含む、植物育成用部材。
【請求項13】
請求項12に記載の植物育成用部材であって、
前記エポキシ樹脂が、分子内に脂環式構造を有するものを含む、植物育成用部材。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
前記波長変換体が、蓄光材を含む、植物育成用部材。
【請求項15】
請求項14に記載の植物育成用部材であって、
前記蓄光材は、前記蛍光体の励起光を発光するものを含む、植物育成用部材。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
自立するように構成される、植物育成用部材。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
植物の葉の裏面に光照射するために用いられる、植物育成用部材。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
前記光透過性封止体が、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、及びポリ塩化ビニルからなる群から選ばれる1種以上を含む、
植物育成用部材。
【請求項19】
請求項18のいずれか一項に記載の植物育成用部材であって、
前記積層構造体を積層方向から見たとき、前記積層構造体の周囲に位置する端部の全てが、前記光透過性封止体により覆われた構造を有する、
植物育成用部材。
【請求項20】
請求項に記載の植物育成用部材であって、
前記分離部が、前記光不透過性樹脂基材よりも柔軟な材料で形成されている、
植物育成用部材。
【請求項21】
植物の下方又は側方に、請求項1~20のいずれか一項に記載の植物育成用部材を配置する工程と、
前記植物育成用部材に励起光を照射する工程と、を含む、
植物育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物育成用部材及び植物育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで植物の育成方法について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、植物の葉の表面側に光を照射する技術について、表面又は内部に蛍光体を有する透光体を備える色変換器を用いることが記載されている(特許文献1の請求項1、図1~3など)。特許文献1の図2には、光源から照射した投入光を、透光体の通過中に蛍光体によって波長変換し、植物の葉の表面側に照射することにより、植物を育成する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-181771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の色変換器において、植物の葉の裏面側からの光照射による植物の育成促進能の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般的な植物育成方法には、葉の表面側から光照射する方法がある。植物の葉の表面側に葉緑体の多くが存在するためである。上記特許文献1の技術も、この方法に分類される。
【0006】
本発明者は、植物の育成方法について、葉数、最大葉長、葉の新鮮重量、乾燥重量などの具体的な植物の成長評価指標を用いて検討を重ねた結果、葉の裏面側からも適当な光照射することによって、このような成長評価指標を改善し、良好な植物育成促進効果を示すことを見出した。
【0007】
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、葉の裏面に光照射するために、光不透過性基材と波長変換体とを有する積層構造体を備える植物育成用部材を作成した。そして、植物の上方から照射された光の少なくとも一部を、植物の葉の下方側に設置した植物育成用部材により、適当な葉長に変換し反射・散乱させて、植物の下方から、葉の裏面に光照射することで、植物の育成促進が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明によれば、
光不透過性樹脂基材と、前記光不透過性樹脂基材の上に形成されており、蛍光体を含む波長変換体とを有する、積層構造体
を備える、植物育成用部材が提供される。
【0009】
また本発明によれば、
植物の下方又は側方に、上記の植物育成用部材を配置する工程と、
前記植物育成用部材に励起光を照射する工程と、を含む、
植物育成方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物の葉の裏面側からの光照射による植物の育成促進能に優れた植物育成用部材、及びそれを用いた植物育成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一実施形態の植物育成用部材の一例を模式的に示す側面概要図である。
図2】(a)第二実施形態の植物育成用部材の一例を模式的に示す側面概要図、(b)その上面概要図である。
図3】(a)光反射層(鏡面反射層)の場合の光路、(b)光散乱層の場合の光路の概要を示す図である。
図4】(a)CaAl1219:Mn4+の励起・発光スペクトル、(b)CaAl:Mn4+の励起・発光スペクトルを示す図である。
図5】(a)植物光合成効率の波長依存性のスペクトルとCaAl1219:Mn4+の発光スペクトルとを重ね合わせた図、(b)植物光合成効率の波長依存性のスペクトルとCaAl:Mn4+の発光スペクトルとを重ね合わせた図である。
図6】植物光合成効率の波長依存性のスペクトルとCaAlSiN:Eu2+の発光スペクトルとを重ね合わせた図である。
図7】本実施形態の植物育成用部材の変形例の一例を模式的に示す上面図である。
図8】(a)本実施形態の植物育成用部材の変形例の一例を模式的に示す側面概要図、(b)その上面概要図である。
図9】実施例1、比較例1の分光スペクトルの結果を示す図である。
図10】植物育成用部材の配置図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
なお、本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものである。したがって、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0013】
本実施形態の植物育成用部材の概要について説明する。
【0014】
第一実施形態の植物育成用部材は、光不透過性樹脂基材と、光不透過性樹脂基材の上に形成されており、蛍光体を含む波長変換体とを有する積層構造体を備える。
【0015】
本発明者の知見によれば、葉の裏面に適当な光照射することによって、葉数、最大葉長、葉の新鮮重量、乾燥重量などの成長評価指標が改善し、良好な植物育成促進効果が得られることが見出された。
【0016】
植物育成用部材は、葉の裏面に光照射するために用いられるものである。
植物の側方側あるいは下方側に植物育成用部材を設置する。例えば、植物を栽培する土壌などの地面に植物育成用部材を設置してもよい。
【0017】
太陽光や照明などの光源より、植物の上方側から光が照射されたとき、その光の一部は、植物育成用部材によって反射され、植物の葉の裏面に向かって照射される。そして、植物育成用部材中の波長変換体によって、光が適切な波長に変換され、樹脂製の光不透過性基材によって、光が拡散反射又は散乱される。
このように植物育成用部材は、適切な波長の光を、拡散又は散乱したものを葉の裏面に照射できるために、植物の育成促進能を高めることができる。
【0018】
また、第二実施形態の植物育成用部材は、光不透過性基材と波長変換体とを有する積層構造体を、光透過性封止体で封止した構造を備える。
【0019】
本発明者の知見によれば、植物育成用部材に耐久性が要求されるときがある。屋内だけでなく、屋外で使用するときや、液体肥料や水を植物に供給する最中に使用するとき、比較的に高めの湿度環境で使用するときなどが挙げられる。
【0020】
このような事情を踏まえさらに検討を進めた結果、積層構造体を光透過性封止体で封止することで、水分や汚れなどに対する耐久性を高められることが判明した。また、封止体が適当な光透過性材料で構成されるため、上述の植物育成促進能を維持できる。
【0021】
以下、本実施形態の植物育成用部材の各構成について説明する。
【0022】
図1は、第一実施形態の植物育成用部材の一例を模式的に示す側面概要図である。図2(a)は、第二実施形態の植物育成用部材の一例を模式的に示す側面概要図で、図2(b)は上面概要図である。図2(a)は、図2(b)のA-A矢視断面図である。
【0023】
第一実施形態の植物育成用部材100は、光不透過性樹脂基材(樹脂製の光不透過性基材10)と、光不透過性樹脂基材の上に形成されており、蛍光体を含む波長変換体20とを有する積層構造体50を備える。
【0024】
第二実施形態の植物育成用部材110は、積層構造体50を封止する光透過性封止体30を備えてもよい。この植物育成用部材110は、光不透過性基材10と、光不透過性基材10の上に形成されており、蛍光体を含む波長変換体20とを有する積層構造体50と、積層構造体50を封止する光透過性封止体30と、を備える。
【0025】
光不透過性基材10は、光を透過させずに反射するものであれば限定されず、植物の光合成に有効な光を反射するものである。反射される光には、太陽光や照明光、蛍光体の励起光などが含まれる。
【0026】
光不透過性基材10は、部材として使用できる程度の機械的強度を有してもよい。
【0027】
光不透過性基材10の形状は、特に限定されないが、シート状でもよく、一部に湾曲構造や屈曲構造を有してもよい。
【0028】
シート状の光不透過性基材10は、単層で構成されてもよいが、複数の層で構成されてもよい。この複数層は、同じ材料で構成されてもよく、少なくとも一部の層が異なる材料で構成されてもよい。
【0029】
光不透過性基材10の厚みの下限は、例えば、0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上である。これにより、機械的強度を高めることができる。一方、光不透過性基材10の厚みの上限は、例えば、10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。これにより、軽量化や、製造コストの低減を実現できる。
【0030】
光不透過性基材10は、樹脂材料、紙材料、及び/又は無機材料で構成されてもよい。第一実施形態では、樹脂材料で構成された光不透過性基材10(光不透過性樹脂基材)を使用し、第二実施形態では、樹脂材料、紙材料、及び/又は無機材料で構成された光不透過性基材10を使用してもよい。
【0031】
樹脂製の光不透過性基材10は、テフロン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、及びポリ塩化ビニルからなる群から選ばれる1種以上を含む樹脂材料で構成されてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂材料は、必要に応じて、各種の添加剤を含んでもよい。
【0032】
樹脂材料の中でも、光合成に有効な光の反射の観点から、白色を示す材料を示してもよい。すなわち、樹脂製の光不透過性基材10は、白色樹脂で構成され得る。白色樹脂として、樹脂自体が白色のもの、樹脂に白色顔料又は白色染料を混合したものが用いられる。白色樹脂の具体例として、例えば、テフロンなどが挙げられる。
【0033】
シート状の樹脂製の光不透過性基材10は、白色樹脂シートで構成されてもよい。白色樹脂シートは、1層でもよく、複数層で構成されてもよい。
【0034】
光不透過性基材10は、表面又は内部に、光反射層を有していればよい。光反射層が、光散乱層でもよく、鏡面反射層であってもよい。ここで、光散乱層とは、光を散乱するものや光を拡散反射するものを含んでもよい。
【0035】
光散乱層は、樹脂材料、紙材料、無機材料を適切に選択して構成される。表面処理によって光不透過性基材10の表面に微細凹凸構造を形成してもよい。紙材料として、例えば、白紙を使用してもよい。
鏡面反射層は、公知の無機材料を用いた鏡板で形成される。
【0036】
光不透過性基材10は、植物育成促進の観点から、光反射層として光散乱層を有することが好ましい。
【0037】
植物の光合成に有効な光色として、赤色光や青色光があることが一般的に知られている。
これらの光は、太陽光や照明光などの、植物の育成に利用される光源から照射される光に含まれる。
【0038】
本発明者の知見によれば、赤色光や青色光を、光不透過性基材10により鏡面反射する場合よりも、拡散反射又は散乱させる場合の方が、より植物育成促進能を高められることが判明した。
【0039】
図3(a)は、光不透過性基材10が光反射層(鏡面反射層)を含む場合の光路の概要を示した図であり、図3(b)は、光不透過性基材10が光散乱層を含む場合の光路の概要を示した図である。
【0040】
青色光よりも赤色光が光合成に有効である点から、波長変換体20が含む蛍光体が赤色光を発光する赤色蛍光体を用い、波長変換体20が含む蛍光体が青色蛍光体を用いない構成を検討した。
【0041】
光源から照射された光によって赤色蛍光体が励起され、赤色蛍光体から赤色光が発光される。蛍光体から発光された光は、高度に分散されるため、植物育成能を高めることが可能である。
【0042】
一方、光源から照射された光に含まれる青色光は、図3(a)の鏡面反射層によって、分散されずに鏡面反射するため、反射方向が限定的となり、植物に照射されない光が多くなる。すなわち、光源に含まれる青色光の一部しか、植物の育成に利用できない。
【0043】
これに対して、光源から照射された光に含まれる青色光は、図3(b)の光散乱層によって、光が分散(散乱又は拡散反射)するため、反射方向が限定されず、植物に照射される光が多くなる。すなわち、図3(a)の鏡面反射層の場合と比較して、光源に含まれる青色光の多くを、植物の育成に利用できる。
【0044】
したがって、図1の樹脂製の光不透過性基材10や図2の光不透過性基材10が、光散乱層を備えることで、蛍光体から発光する光や、光源に含まれる光を拡散できるために、植物の育成に利用できる光成分の多くを、より有効に活用することが可能になる。
よって、本実施形態の植物育成用部材100、110は、良好な植物の育成促進能を発揮できる。
【0045】
シート状の光不透過性基材10の主面又は裏面のうち少なくとも一方に、波長変換体20が設けられている。主面及び裏面の両面のそれぞれに、波長変換体20が設けられていてもよい。
【0046】
光不透過性基材10の主面又は裏面の表面の少なくとも一部の領域に、波長変換体20が形成されてもよく、その表面全体に波長変換体20が形成されていてもよい。光不透過性基材10の表面の平面内において、1又は2以上の波長変換体20が形成されていてもよい。
【0047】
光不透過性基材10の表面のうち、波長変換体20が設けられた面は、平面で構成されてもよく、一部が凹凸面で構成されていてもよい。
【0048】
波長変換体20は、光不透過性基材10の表面に、接着層などの中間層を介して密着してもよいが、直接密着してもよい。中間層は透明性材料で構成され得る。光束効率の観点から、波長変換体20と光不透過性基材10とが直接結合した積層構造体50を採用してもよい。
【0049】
波長変換体20は、内部又は表面に蛍光体を含む。蛍光体は、シート状でもよく、粒子状でもよい。
【0050】
蛍光体は、植物の育成に利用できる光を発光するものであれば特に限定されないが、赤色光を発光する赤色蛍光体を含んでもよい。
【0051】
赤色蛍光体として、可視光領域に励起強度を有する可視光励起可能な赤色蛍光体を用いてもよい。
紫外光だけで励起される赤色蛍光体は、太陽光の、近紫外~可視光にかけての幅広い波長のフォトンにより十分励起されず、太陽光下で十分な赤色光を発光できない恐れがある。これに対して、可視光励起可能な赤色蛍光体は、幅広い波長で十分に励起される。このため、より植物育成促進能を高められる。
【0052】
赤色蛍光体は、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、硫化物蛍光体、及びフッ化物蛍光体からなる群から選ばれる1種以上を含んでもよい。これらの中では、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。これにより、長時間使用したときや大量の蛍光体を使用したときにおいて、植物育成用部材の耐久性を高めることが可能である。酸化物蛍光体はコストに優れ、窒化物蛍光体は強度に優れる。
【0053】
赤色蛍光体は、賦活元素として、Mn、Euからなる群から選ばれる1種以上を含んでもよいが、安価なMnを含んでもよい。耐久性及び製造コストの観点から、赤色蛍光体は、賦活元素のMnを含む酸化物蛍光体を含んでもよく、具体的には、Mn4+を賦活した酸化物蛍光体(Mn4+賦活酸化物蛍光体)を含んでもよい。
酸化物蛍光体からなる赤色蛍光体としては、CaTiO:Pr3+を含んでもよい。
【0054】
Mn4+賦活酸化物蛍光体は、クラーク数が大きい元素を含んでもよい。これにより、大面積の植物育成用部材を安定的に製造することが可能となる。具体的には、Mn4+賦活酸化物蛍光体は、Ca、Al、及びMnを含んでもよい。
【0055】
本発明者の知見によれば、Ca、Al、及びMnを含むMn4+賦活酸化物蛍光体によって、可視光励起ができ、かつ、植物の最大の光合成速度をもたらす波長範囲600nm~700nmの光の領域だけに発光ピークを有する赤色蛍光体を実現できることが分かった。
【0056】
赤色蛍光体は、Ca、Al、及びMnを含むMn4+賦活酸化物蛍光体として、マンガンを賦活したカルシウムアルミネート系赤色蛍光体を含んでもよい。マンガンを賦活したカルシウムアルミネート系赤色蛍光体としては、CA相に対応するCaAl1219:Mn4+で表された蛍光体、CA2相に対応するCaAl:Mn4+の化学式で表された蛍光体からなる群から選ばれる1種以上の蛍光体を含んでもよい。
【0057】
図4(a)には、CaAl1219:Mn4+の励起・発光スペクトルを示し、図4(b)には、CaAl:Mn4+の励起・発光スペクトルを示す。
図5(a)には、植物光合成効率の波長依存性のスペクトルとCaAl1219:Mn4+の発光スペクトルとを重ね合わせた図を示し、図4(b)には、植物光合成効率の波長依存性のスペクトルとCaAl:Mn4+の発光スペクトルとを重ね合わせた図を示す。図5~6において、太線は波長依存性のスペクトルを示し、細線は発光スペクトルを示す。
【0058】
比較のために、図6には、植物光合成効率の波長依存性のスペクトルとCaAlSiN:Eu2+の発光スペクトルとを重ね合わせた図を示す。CaAlSiN:Eu2+は、可視光励起赤色発光のユーロピウム賦活窒化物蛍光体の典型例である
【0059】
図6に示すように、窒化物蛍光体であるCaAlSiN:Eu2+から発光された赤色発光のピークは範囲が広く、光合成最高効率の600nm~700nmの波長領域からはみ出している。このため、CaAlSiN:Eu2+の赤色光を用いても、光合成効率向上に十分に高められない恐れがある。
【0060】
これに対して、図5(a)、(b)に示すように、CaAl1219:Mn4+、及びCaAl:Mn4+の赤色発光ピークの範囲は、光合成最高効率の領域にある。このため、CaAl1219:Mn4+、及び/又はCaAl:Mn4+を用いることで、光合成効率向上に十分に高められる。
【0061】
ただし、赤色蛍光体が窒化物蛍光体の場合には、(Ca,Sr)AlSiN:Eu又は(Sr,Ba)Si:Euは赤色光束を強くできるので、比較的好ましい。
【0062】
CaAl1219:Mn4+、及びCaAl:Mn4+において、Mn4+のCaに対するモル比は、例えば、0.002~0.4、好ましくは0.005~0.1である。いずれも、その励起・発光特性が大きく変わらない範囲内で、Caに対して3モル%の範囲内で異種元素が置換されてもよい。
【0063】
CaAl1219:Mn4+、及びCaAl:Mn4+などの赤色蛍光体の製造方法において、マンガン、アルミニウムの炭酸塩、酸化物、硝酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩などの有機酸塩が原料として使用できる。カルシウムについては、炭酸塩を除く同様の化合物が原料として使用できる。焼成時の分解物の扱いやすさや汎用性の観点から、炭酸塩、酸化物、硝酸塩を使用できる。
【0064】
原料の混合は、ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミルなどの乾式粉砕機を用いて粉砕した後、原料粉末を十分に均一に混合できる通常の方法が使用できる。
【0065】
混合方法としては、ボールミル、パールミル、振動ボールミルなどの分散メディアを使用する方法、V型ブレンダーなどの重力を利用する方法、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどの撹拌翼を有する混合機を利用する方法などが挙げられる。
【0066】
原料の混合物は、空気、窒素、又は、酸素と窒素を適当な割合で混合したガスの下で、例えば1200℃~1500℃の範囲で焼成してもよい。加圧又は減圧のガスの下で焼成してもよいが、常圧ガス下で焼成することが簡便な点で好ましい。焼成時間は、例えば、1時間~12時間、より好ましくは、2時間~6時間である。焼成後の合成物は、軽く粉砕してもよい。粉砕は、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下となるように行ってもよい。
【0067】
(Ca,Sr)AlSiN:EuにおけるSr/(Ca+Sr)モル比は、通常0~1であるが、植物成長を促進する発光波長、及び安定性の観点から、0~0.8がよりこの好ましく、0~0.3が更により好ましく、0が最も好ましい。
【0068】
植物成長を促進する赤色光束、及び経済性の観点から、Alに対するEuのモル比は、0.01~0.2が好ましく、0.004~0.02がより好ましい。
【0069】
(Ca,Sr)AlSiN:Euなどの、Eu2+賦活赤色無機蛍光体(発光ピーク波長:600nm~700nm)の製造方法において、カルシウム、ストロンチウム、アルミニウム、珪素の窒化物、金属、又は合金が原料として好ましい。
【0070】
原料の混合では、ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、パールミル、振動ボールミル、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどを使用することが好ましい。
【0071】
原料の混合物を焼成する際、装置としては、抵抗加熱式真空加圧雰囲気熱処理炉、常圧雰囲気炉、熱間など方加圧装置(HIP)などが好ましい。焼成用ガスは、高純度窒素ガス、水素含有窒素ガス、アンモニアなどが好ましい。焼成温度は、1450以上、1900℃以下が好ましい。焼成時間は、1時間~24時間が好ましく、2時間~8時間がより好ましい。焼成後の合成物は、軽く粉砕してもよい。粉砕は、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下となるように行ってもよい。
【0072】
蛍光体は、赤色蛍光体以外の他の蛍光体を含んでもよく、例えば、青色光を発光する青色蛍光体を含んでもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
植物に与える光の波長分布を調整する観点から、赤色蛍光体以外の発光色をもつ発光物質を少量添加してもよい場合がある。
【0074】
波長変換体20は、蛍光体に加えて、蓄光材を含んでもよい。蓄光材は、例えば、光が照射されるとその光を吸収して蓄え、光照射を停止した後でも、例えば夜間においても、所定の時間発光し続けるものである。蓄光材は、光励起終了後は、数分~数十時間程度の残光持続性を有する。
【0075】
蓄光材を用いることにより、日中の蓄光によって、夜間にも、植物に育成に必要な光、好ましくは赤色光を発光させて、植物の成長を増進できる。
【0076】
蓄光材は、赤色光を発光する蓄光材を含んでもよいが、蛍光体の励起光を発光する蓄光材を含んでもよい。
【0077】
赤色光を発光する蓄光材として、赤色燐光体を用いてもよい。
この赤色燐光体は、紫外光でしか励起されず、太陽光があたる日中にも夜間にも微弱な赤色光しか発生させることができない。
【0078】
このような事情を踏まえて本発明者が検討した結果、蛍光体と、蛍光体の励起光を発光する蓄光材とを併用することが見出された。具体的な組み合わせとして、可視光励起赤色蛍光体と、青~黄緑色蓄光材との組み合わせが挙げられる。
青~黄緑色蓄光材としては、高い蓄光強度を示すEu,Dy賦活アルミン酸ストロンチウムが使用できる。
【0079】
日中には、可視光励起赤色蛍光体により赤色発光が起こるとともに、Eu,Dy賦活アルミン酸ストロンチウムが太陽光の紫外光を蓄光する。夜間になると、Eu,Dy賦活アルミン酸ストロンチウム粉が蓄えていたエネルギーを青~黄緑色の光として発光する。蓄光材の近傍に存在する可視光励起赤色蛍光体が、その発光を励起光として用いて、赤色光を発光できる。このため、夜間にも、比較的強力な赤色光によって、植物に育成を促進可能となる。
Eu,Dy賦活アルミン酸ストロンチウムは、緑~黄緑色のSrAl:Eu,Dy又は青色のSrAl1425:Eu,Dyからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。可視光励起蛍光体に対するEu,Dy賦活アルミン酸ストロンチウムの使用モル比は、0.3~40が好ましく、1~20がより好ましい。
【0080】
波長変換体20は、複数の蛍光体の粒子と、蛍光体の粒子が内部に分散している光透過性樹脂層とを備えてもよい。これにより、波長変換体20は、全体に亘って蛍光体による発光特性のバラツキを抑制できる。光透過性樹脂層が樹脂で構成されるため、取り扱いやすい。
【0081】
光透過性樹脂層を構成する樹脂材料は、例えば、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0082】
これらの中では、樹脂材料は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、及びビニル樹脂からなる群から選ばれる1種以上を含んでもよい。これにより、光不透過性基材10などの下地との密着性を高められる。
【0083】
屈折率及び製造コストの観点から、ビニル樹脂を使用してもよい。ビニル樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂からなる群から選ばれる1種以上を使用してもよい。また、屈折率及び光学特性の観点から、エポキシ樹脂を使用してもよい。
【0084】
蛍光体の屈折率に対してより近い屈折率を有する樹脂材料を使用してもよい。これにより、太陽光の蛍光体中への進入や、蛍光体からの発光の取り出しがより大きくなる。よって、植物の育成促進能をより高めることが可能である。
【0085】
例えば、屈折率1.54の塩化ビニル樹脂、屈折率1.58のエポキシ樹脂、屈折率1.43のシリコーン樹脂、屈折率1.48のポリプロピレン樹脂の使用を考えた場合、CaAl1219:Mn4+、CaAl:Mn4+、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、そして(Sr,Ba)Si:Euなどの蛍光体の屈折率が1.55~2.5を示すため、シリコーン樹脂よりも、塩化ビニル樹脂やエポキシ樹脂の使用が好ましい。これにより、植物に向かう赤色光束をより大きくできる。
【0086】
樹脂材料は、紫外光による劣化を抑制する観点から、分子内に脂環式構造を有するエポキシ樹脂を含んでもよい。
【0087】
樹脂材料が熱硬化性樹脂を含む場合、熱硬化性樹脂の硬化剤として各種酸、酸無水物、アミン、アミドなどを使用することができる。
【0088】
樹脂材料には、分散剤などの他の添加剤を含んでもよい。分散剤として、例えば、ポリカルボン酸塩などのアニオン性化合物、脂肪酸アミン塩などのカチオン性化合物、アミノ酸などの両性化合物などを使用してもよい。
【0089】
波長変換体20中の蛍光体の含有量は、樹脂材料で構成される光透過性樹脂層100質量%に対して、特に限定されないが、例えば、0.1質量%以上40質量%以下、好ましくは0.3質量%以上8質量%以下としてもよい。
【0090】
波長変換体20の成形方法は、特に限定はなく、ロールを用いた押出し成形、圧縮プレス成形、キャスト成形、型枠を用いた成形方法など、公知の方法を適宜採用することができる。
【0091】
植物育成用部材100,110は、シート状でもよく、一部に湾曲や屈曲構造を有していてもよい。
【0092】
シートの形状はマルチフィルム状、プレート状でも実施可能であり、その使用用途で適宜、アレンジが可能である。特にプレート状のものは植物の第一葉の直下に設置しておき、植物の生育状況に合わせて設置場所や設置角度を調整可能である。
【0093】
植物育成用部材100,110は、自立するように構成されていてもよい。これにより、設置時の取扱性を高められる。植物育成用部材100,110を、地面に平置きしてもよいし、土壌にその一部を突き刺した状態で設置してもよい。
【0094】
植物育成用部材100,110の厚みの下限は、例えば、0.1mm以上、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上である。これにより、機械的強度を高められる。一方、植物育成用部材100,110の厚みの上限は、例えば、10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。これにより、軽量化や、製造コストの低減を実現できる。
【0095】
図2(a)(b)の植物育成用部材110は、光透過性封止体30を備える。
光透過性封止体30は、積層構造体50の少なくとも一部を覆うものであればよく、波長変換体20の表面や側面を覆うように構成されていてもよく、積層構造体50の主面、側面、及び裏面の全体を覆ってもよい。これにより、植物育成用部材110の耐久性や取扱性を高められる。
【0096】
光透過性封止体30は、植物の育成に必要な光、蛍光体の励起光、或いは蛍光体からの発光を透過する透明性材料で構成されていれば特に限定されない。光透過性封止体30は、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、及びポリ塩化ビニルからなる群から選ばれる1種以上を含んでもよい。
【0097】
光透過性封止体30の成形方法として、透明性材料を用いた、塗布法やフィルムラミネート法などを用いてもよい。成形時に加熱・加圧処理を施してもよい。
【0098】
植物育成用部材110には、積層構造体50を積層方向から見たとき、積層構造体50の周囲に、光透過性封止体30で構成されたマージン部32が形成されてもよい。マージン部32によって、積層構造体50の側面が保護されるため、植物育成用部材110の長期耐久性を高められる。
【0099】
植物育成用部材110は、積層構造体50を積層方向から見たとき、積層構造体50の周囲に位置する端部の全てが、光透過性封止体30により覆われた構造を有してもよい。これにより、端部から水が入り込むことを抑制できるため、防水性を高められる。
【0100】
また、マージン部32は、目的に応じて各種の形状に加工可能である。
【0101】
図7(a)(b)は、第二実施形態の変形例を示す。図7(a)(b)は、植物育成用部材114、植物育成用部材116の一例を模式的に示す上面図である。
【0102】
植物育成用部材114は、光透過性封止体30のマージン部32に、切り欠き部36が形成されてもよい。切り欠き部36によって形成された凹部に植物を配置してもよい。これにより、植物育成用部材114を植物が栽培された領域上に敷き詰められる。あるいは、切り欠き部36によって形成された凹部と凸部とを組み合わせて、複数の植物育成用部材114を連結させてもよい。
【0103】
植物育成用部材116は、光透過性封止体30のマージン部32に、土壌に突き刺すことが可能な形状を有する切り欠き部38が形成されていてもよい。これにより、所定の角度を維持した状態で、植物育成用部材116を土壌に安定的に設置可能である。
【0104】
図8(a)(b)は、第二実施形態の他の変形例を示す。図8(a)は、植物育成用部材112の一例を模式的に示す側面図、図8(b)は、その上面図である。図8(a)は、B-B矢視の断面図になる。
【0105】
植物育成用部材112は、積層構造体50を積層方向から見たとき、積層方向と直交する面内方向において、複数の積層構造体50が設けられており、隣接する積層構造体50の間に光透過性封止体30で構成された分離部34が形成された構造を有する。
【0106】
植物育成用部材112は、面内方向において、複数の積層構造体50が配置されていてよい。植物の栽培位置などの目的に応じて、積層構造体50が適切に配置され得る。
【0107】
複数の積層構造体50の側面が分離部34で覆われているため、植物育成用部材112の耐久性を高められる。また、光不透過性基材10よりも柔軟な材料で光透過性封止体30を形成してもよい。これにより、分離部34によって、植物育成用部材112の形状を変形させることも可能である。
【0108】
植物育成用部材112の上面視において、分離部34のパターンは、特に限定されないが、縦、横、斜め方向に延在してもよく、これらが交差してもよい。分離部34のパターンは、各方向において、それぞれ複数本形成されていてもよい。
【0109】
分離部34は、切断可能な材料で構成されていてもよい。
これによって、光不透過性基材10の強度を大きくしたい場合、分離部34を切断して、植物育成用部材112を適当な大きさや形状に加工し、土壌に設置できる。植物の栽培現場において、植物育成用部材112を適切な形状に加工可能となる。
【0110】
本実施形態の植物育成用部材は、植物の育成に好適に用いることが可能である。
植物育成方法は、植物の下方又は側方に、植物育成用部材を配置する工程と、植物育成用部材に励起光を照射する工程と、を含む。
【0111】
植物は、特に限定されないが、葉を備える植物でもよく、農業用植物でもよい。
【0112】
本実施形態によれば、植物の育成を促進させることが可能となる。
【0113】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
1. 光不透過性樹脂基材と、前記光不透過性樹脂基材の上に形成されており、蛍光体を含む波長変換体とを有する、積層構造体
を備える、植物育成用部材。
2. 1.に記載の植物育成用部材であって、
前記光不透過性樹脂基材が、テフロン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、及びポリ塩化ビニルからなる群から選ばれる1種以上を含む、
植物育成用部材。
3. 1.又は2.に記載の植物育成用部材であって、
前記光不透過性樹脂基材が、光散乱層を含む、植物育成用部材。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
前記光不透過性樹脂基材は、白色樹脂シートで構成される、植物育成用部材。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
前記光不透過性樹脂基材の厚みが、0.01mm以上10mm以下である、植物育成用部材。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
前記蛍光体が、赤色蛍光体を含む、植物育成用部材。
7. 6.に記載の植物育成用部材であって、
前記赤色蛍光体が、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、硫化物蛍光体、及びフッ化物蛍光体からなる群から選ばれる1種以上を含む、植物育成用部材。
8. 6.又は7.に記載の植物育成用部材であって、
前記赤色蛍光体が、賦活元素としてマンガン、ユウロピウムからなる群から選ばれる1種以上を含む、植物育成用部材。
9. 6.~8.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
前記赤色蛍光体が、マンガンを賦活したカルシウムアルミネート系赤色蛍光体、CaAlSiN :Eu 2+ からなる群から選ばれる1種以上を含む、植物育成用部材。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
前記波長変換体は、前記蛍光体の粒子が内部に分散している光透過性樹脂層を含む、
植物育成用部材。
11. 10.に記載の植物育成用部材であって、
前記光透過性樹脂層を構成する樹脂材料が、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、及びビニル樹脂からなる群から選ばれる1種以上を含む、植物育成用部材。
12. 11.に記載の植物育成用部材であって、
前記エポキシ樹脂が、分子内に脂環式構造を有するものを含む、植物育成用部材。
13. 1.~12.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
前記波長変換体が、蓄光材を含む、植物育成用部材。
14. 13.に記載の植物育成用部材であって、
前記蓄光材は、前記蛍光体の励起光を発光するものを含む、植物育成用部材。
15. 1.~14.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
自立するように構成される、植物育成用部材。
16. 1.~15.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
植物の葉の裏面に光照射するために用いられる、植物育成用部材。
17. 1.~16.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
前記積層構造体を封止する光透過性封止体、
を備える、植物育成用部材。
18. 17.に記載の植物育成用部材であって、
前記光透過性封止体が、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、及びポリ塩化ビニルからなる群から選ばれる1種以上を含む、
植物育成用部材。
19. 17.又は18.に記載の植物育成用部材であって、
前記積層構造体を積層方向から見たとき、前記積層構造体の周囲に、前記光透過性封止体で構成されたマージン部が形成されている、
植物育成用部材。
20. 19.に記載の植物育成用部材であって、
前記マージン部に切り欠き部が形成されている、
植物育成用部材。
21. 17.~20.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
前記積層構造体を積層方向から見たとき、前記積層構造体の周囲に位置する端部の全てが、前記光透過性封止体により覆われた構造を有する、
植物育成用部材。
22. 17.~21.のいずれか一つに記載の植物育成用部材であって、
前記積層構造体を積層方向から見たとき、
前記積層方向と直交する面内方向において、複数の前記積層構造体が設けられており、
隣接する前記積層構造体の間に前記光透過性封止体で構成された分離部が形成されている、
植物育成用部材。
23. 22.に記載の植物育成用部材であって、
前記分離部が、切断可能に構成される、
植物育成用部材。
24. 植物の下方又は側方に、1.~23.のいずれか一つに記載の植物育成用部材を配置する工程と、
前記植物育成用部材に励起光を照射する工程と、を含む、
植物育成方法。
【実施例
【0114】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0115】
<植物育成用部材の作成>
(実施例1)
可視光励起赤色蛍光体(450nm励起下でピーク波長660nmの発光を発する赤色蛍光体、組成:Ca0.99Eu0.01AlSiN)0.16gに、透明性エポキシ樹脂(ボンドE70、コニシ社製)9.84gを添加し、混練装置(ARV-310、シンキー社製)に導入し、回転数1000rpm、圧力0.7Pa、撹拌時間3分といった条件で真空脱泡攪拌し、混合物を得た。ボンドE70は、エポキシ樹脂からなる主剤と、変性脂環式ポリアミン硬化剤とからなる。ボンドE70は、主剤70質量部と硬化剤30部とを混合したものを使用した。得られた混合物を、白色テフローンコート上に設置した成形型中に入れ込み、25℃で一晩かけて硬化させた。
成形型の横枠を取り外し、厚み0.3mm×縦28cm×横28cmの白色テフロンシートの上に、厚み1mm、1.6質量%の赤色蛍光体を含む赤色蛍光体膜が形成された植物育成用部材aが得られた。
また、この赤色蛍光体膜の厚みを0.5mmとした植物育成用部材bを準備した。
【0116】
(実施例2)
可視光励起赤色蛍光体(450nm励起下でピーク波長660nmの発光を発する赤色蛍光体、組成:Ca0.99Eu0.01AlSiN)、緑色蓄光材(ネモト・ルミマテリアル社製、N夜光「ルミノーバ」G-300L160、組成:SrAl:Eu,Dy)、透明性エポキシ樹脂(ボンドE70、コニシ社製)を、それぞれ0.16g、3.2g、6.64g使用したこと以外は、実施例1と同様にして、厚み0.3mm×縦28cm×横28cmの白色テフロンシートの上に、厚み1mmの赤色蛍光体膜(32質量%の緑色蓄光材、及び1.6質量%の可視光励起赤色蛍光体を含む複合材料膜)が形成された植物育成用部材cが得られた。可視光励起蛍光体に対するEu,Dy賦活アルミン酸ストロンチウムの使用モル比は13である。
【0117】
(比較例1)
蛍光体を含まない植物育成用部材dとして、厚み0.3mm×縦28cm×横28cmの白色テフロンシートをそのまま使用した。
【0118】
得られた各実施例・比較例の植物育成用部材について、以下の評価項目に基づいて評価を行った。
【0119】
(分光スペクトル)
暗室中、植物育成用部材b(実施例1)の赤色蛍光体膜の表面、植物育成用部材d(比較例1)白色テフロンシートの表面のそれぞれに、表面からの距離が35cm、表面に対して垂直方向、強度が0.4mW/cmの条件にて、キセノンランプ光を照射した。実施例1、比較例1の各表面からの光の分光スペクトルについて、分光測定器を用いて測定した。
分光測定器として、コニカミノルタ社製、CL-500Aを使用し、測定器の受光軸と各表面とのなす角を斜め上60度とし、表面中心からの測定器までの距離を16cmとした条件で、分光スペクトルを測定した。
分光スペクトルの結果を、図9に示す。実施例1の植物育成用部材bは、比較例1の植物育成用部材dに比べて、近紫外、青、緑の領域の光束が顕著に減少し、赤の領域の光束が顕著に増大する結果を示した。
【0120】
(植物試験)
実施例1、2、及び比較例1の植物育成用部材a、c、dを4分割し、それぞれ、28cm×7cmのシートを4枚作成した。
植物としてコマツナ(品種:楽天)を5株、一列になど間隔で土壌に播種した。播種の10日後、コマツナを挟むように、土壌表面に4分割したシート(植物育成用部材)を配置した。植物育成用部材の配置図を図10に示す。図10(a)には、コマツナの葉の裏面に対して、植物育成用部材の表面で反射した光が照射されるように、植物育成用部材を配置した図が示されている。
植物育成用部材を配置した後、下記の栽培試験1~3の試験条件にて、2週間コマツナを育成した。育成したコマツナを図10(b)に示す。
【0121】
・栽培試験1
試験条件:屋外ビニルハウス
光量(光量子束密度):1,000~1,500μmolm-2-1
・栽培試験2
試験条件:人口気象機(25℃、6時間日長)
光量(光量子束密度):151μmolm-2-1
・栽培試験3
試験条件:人口気象機(25℃、12時間日長)
光量(光量子束密度):29μmolm-2-1
【0122】
その後、コマツナの地上部を収穫した。収穫した地上部の本葉数(枚)、その中の最大葉長(cm)、収穫した地上部の葉の質量(乾燥前の地上部新鮮質量、g)、その葉を、105℃恒量乾燥法にて乾燥した後の葉の質量(地上部乾燥質量、g)を測定し、葉中に含まれる葉緑素含有量(SPAD値)をコニカミノルタ社製SPAD-502Plusを使用して計測した。コマツナの評価結果について、表1は5株、表2は4株、表3は4株の測定値に基づく平均値(Mean)、及び標準偏差(S.D)を示す。
比較のため、植物育成用部材を配置しないで(対照)、上記の植物試験(栽培試験1~3)を行った。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
実施例1、2、比較例1、及び対照のいずれも、植物の葉に含まれる葉緑素含有量が、実験誤差範囲内で同程度であったが、実施例1、2の植物育成用部材a、cを用いることによって、植物育成用部材を用いない場合(対照)や植物育成用部材dを用いる場合(比較例1)と比べて、優れた植物育成促進効果が得られることが示された。
【0127】
また、蓄光材として緑色蓄光材を含む実施例2の植物育成用部材cは、蓄光材を含まない実施例1の植物育成用部材aと比べて、さらに優れた植物育成促進効果が得られることが示された。光合成能を向上する効果は小さいが、燐光により日没後にも光合成を促し作物の生育を促進していると考えられる。
【0128】
(実施例3、4)
実施例1で得られた植物育成用部材aの両面のそれぞれに、厚み0.2mm×縦30cm×横30cmの光透過性のポリプロピレンフィルムを熱ラミネートし、上下のポリプロピレンフィルムによって、白色テフロンシート及び赤色蛍光体膜を封止して、植物育成用部材eを得た(実施例3)。
実施例2で得られた植物育成用部材cを用いたこと以外は、植物育成用部材eと同様にして、上下のポリプロピレンフィルムによって、白色テフロンシート及び赤色蛍光体膜が封止された植物育成用部材fを得た(実施例4)。
実施例3、4の植物育成用部材e、fは、防水性や繰り返し使用時の耐久性に優れていた。白色テフローンコートの周囲に設けられたポリプロピレンフィルムのマージン部は、容易に加工可能であっため、取扱性に優れていた。
また、実施例3、4の植物育成用部材e、fは、それぞれ、実施例1、2の植物育成用部材a、cと同程度の植物育成促進効果を示した。
赤色蛍光体として、マンガンを賦活したカルシウムアルミネート系赤色蛍光体を使用した場合、植物育成促進効果を示した。
【0129】
以上のような実施例1~4の植物育成用部材を用いて、葉の裏側から適切な波長の光を照射することにより、より効率的・生産的に植物の育成が可能になる。また、曇天時や冬季の日本海側の様に光が弱い条件下で、より効果が発揮される。
【符号の説明】
【0130】
10 光不透過性基材
20 波長変換体
30 光透過性封止体
32 マージン部
34 分離部
36 切り欠き部
38 切り欠き部
50 積層構造体
100 植物育成用部材
110 植物育成用部材
112 植物育成用部材
114 植物育成用部材
116 植物育成用部材
図1
図2
図3
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図10