(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】医療ライトガイド
(51)【国際特許分類】
G02B 6/00 20060101AFI20230828BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20230828BHJP
A61B 18/22 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
G02B6/00 326
G02B6/02 411
G02B6/02 391
G02B6/02 366
A61B18/22
(21)【出願番号】P 2019082890
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018085611
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】島川 修
(72)【発明者】
【氏名】為國 芳享
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-174660(JP,A)
【文献】特開2017-211472(JP,A)
【文献】特開平06-201917(JP,A)
【文献】特表2006-516465(JP,A)
【文献】特開2010-231144(JP,A)
【文献】特開2002-196150(JP,A)
【文献】特開2008-186649(JP,A)
【文献】特開2006-276335(JP,A)
【文献】特開平02-084948(JP,A)
【文献】特表2011-505655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0044740(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0729917(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00 - 6/10
G02B 6/245 - 6/25
G02B 6/44 - 6/54
A61B 18/20 - 18/28
A61M 36/10 - 36/14
A61N 5/00 - 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療ライトガイドに用いられる光ファイバであって、
光軸が延びる方向に延在する樹脂製のコアと、
前記コアを覆う樹脂製のクラッドと、
前記光軸に交差する方向に一周にわたって延びると共に前記クラッドの表面から前記コアまで切り欠かれた複数の溝と、
を備え、
前記複数の溝のそれぞれは、
前記光軸を含む断面において前記クラッドの表面の幅が広く、深くなるにつれて前記幅が狭くなる略三角形状を有し、
前記溝の表面は、光を散乱する粗面である、
光ファイバと、
前記光ファイバを覆うチューブと、
前記光ファイバに設けられたマーカと、
を備え、
前記光ファイバは、前記マーカと共に前記チューブの内部に挿入されており、
前記複数の溝と前記チューブの内面との間に間隙を有し、
前記マーカは、前記クラッドの表面から前記コアまで切り欠かれたマーカ溝であって、
前記マーカ溝は、前記光軸を含む断面において前記クラッドの表面の幅が広く、深くなるにつれて前記幅が狭くなる略三角形状を有
し、
複数の前記マーカ溝を有し、複数の前記マーカ溝よりも光が進む先端側に前記複数の溝が形成されている、
医療ライトガイド。
【請求項2】
前記粗面の表面粗さは、前記光ファイバを伝搬する光の波長の5倍以上且つ50倍以下である、
請求項1に記載の医療ライトガイド。
【請求項3】
前記コアの直径は、前記クラッドの外径の0.90倍以上且つ0.98倍以下である、
請求項1又は2に記載の医療ライトガイド。
【請求項4】
前記クラッドの表面の前記溝の幅は、前記クラッドの外径の0.05倍以上且つ0.10倍以下であり、
前記溝の深さは、前記クラッドの外径の0.10倍以下である、
請求項3に記載の医療ライトガイド。
【請求項5】
互いに隣接する2つの前記溝の間隔は、光が進む先端側に向かうにつれて狭くなる、
請求項4に記載の医療ライトガイド。
【請求項6】
前記複数の溝の深さは一定である、
請求項5に記載の医療ライトガイド。
【請求項7】
前記溝は、光が進む先端側に向かうにつれて深くなる、
請求項4に記載の医療ライトガイド。
【請求項8】
互いに隣接する2つの前記溝の間隔は一定である、
請求項7に記載の医療ライトガイド。
【請求項9】
互いに隣接する2つの前記溝の間隔は、前記クラッドの表面の前記溝の幅の2倍以上且つ30倍以下である、
請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の医療ライトガイド。
【請求項10】
前記コアの材料は、ポリメタクリル酸メチル樹脂又はポリカーボネートであり、
前記クラッドの材料は、フッ素が添加されたポリマーである、
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の医療ライトガイド。
【請求項11】
医療ライトガイドに用いられる光ファイバであって、
光軸が延びる方向に延在する樹脂製のコアと、
前記コアを覆う樹脂製のクラッドと、
前記光ファイバを伝搬する光を照射する照射部と、
を備え、
前記照射部は、
光を散乱する粗面と、
前記クラッドが除去されて前記コアが露出すると共に前記光軸に交差する方向に一周にわたって切り欠かれた複数の溝と、
を有する、
光ファイバと、
前記光ファイバを覆うチューブと、
前記光ファイバに設けられたマーカと、
を備え、
前記光ファイバは、前記マーカと共に前記チューブの内部に挿入されており、
前記複数の溝と前記チューブの内面との間に間隙を有し、
前記マーカは、前記クラッドの表面から前記コアまで切り欠かれたマーカ溝であって、
前記マーカ溝は、前記光軸を含む断面において前記クラッドの表面の幅が広く、深くなるにつれて前記幅が狭くなる略三角形状を有
し、
複数の前記マーカ溝を有し、複数の前記マーカ溝よりも光が進む先端側に前記複数の溝が形成されている、
医療ライトガイド。
【請求項12】
前記粗面の表面粗さは、前記光ファイバを伝搬する光の波長の5倍以上且つ50倍以下である、
請求項11に記載の医療ライトガイド。
【請求項13】
前記複数の溝のそれぞれの表面粗さは、前記粗面の表面粗さと同等であり、
互いに隣接する2つの前記溝の間隔は、光が進む先端側に向かうに従って狭くなる、
請求項11又は12に記載の医療ライトガイド。
【請求項14】
前記複数の溝のそれぞれの表面粗さは、前記粗面の表面粗さよりも小さく、
互いに隣接する2つの前記溝の間隔は、光が進む先端側に向かうに従って広くなる、
請求項11又は12に記載の医療ライトガイド。
【請求項15】
前記複数の溝の深さは一定である、
請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の医療ライトガイド。
【請求項16】
前記マーカ溝の深さは、前記複数の溝のそれぞれの深さよりも浅い、
請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の医療ライトガイド。
【請求項17】
前記マーカ溝よりも光が進む先端側に前記複数の溝が形成されており、
前記マーカ溝から前記複数の溝までの距離は、前記複数の溝の前記光軸が延びる方向への長さと同一である、
請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の医療ライトガイド。
【請求項18】
複数の前記マーカ溝の間隔は、前記複数の溝の前記光軸が延びる方向への長さと同一である、
請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の医療ライトガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ、医療ライトガイド、及び光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療ライトガイドとしては種々のものが知られている。特許文献1には、光線力学的癌治療(PDT:Photo Dynamic Therapy)に用いられる光散乱ライトガイドの構造が記載されている。光散乱ライトガイドは、内視鏡チューブの内部に挿入されて使用される。光散乱ライトガイドは、光ファイバと、光ファイバを覆うと共に光を散乱する散乱物質を含む押し出しチューブとを備える。光ファイバは、コアの表面が剥き出しとなった部分を有し、当該部分は粗面化されている。光ファイバを通る光は、粗面化された当該部分において光ファイバの側方に散乱する。
【0003】
特許文献2には、光ファイバの端部構造及び光照射部品が記載されている。光ファイバは、光を通過させるコアと、コアの周囲に設けられたクラッドとを有する。この光ファイバの一方の端部にはテーパ部が形成されており、テーパ部は先端に向かうに従って径が小さくなる先細の形状を有している。テーパ部の一部ではコアが露出している。テーパ部には螺旋状の溝が設けられている。この溝の深さは、一定であり且つコアまで達する深さを有する。この溝のコアに達した部分からは光が光ファイバの外部に放射される。
【0004】
特許文献3には、光拡散デバイスが記載されている。光拡散デバイスは、プラスチック製の光ファイバを備える。この光ファイバは、光が伝搬するコアファイバと、コアファイバを囲むクラッドとを有する。光ファイバは先端側に発光部を有し、発光部はクラッドを貫通してコアファイバが露出する複数の光放射口を有する。発光部において各光放射口は円形状とされており、光放射口の配置は先端側に向かうに従って密になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第6315775号公報
【文献】特開2016-9106号公報
【文献】特表2012-506569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1の光散乱ライトガイドでは、粗面化された部分において光が光ファイバの側方に散乱する。この粗面化は、光ファイバの表面を化学的にエッチング加工したり、サンドブラスト又はサンドペーパ等で機械的に加工したりすることによって実現される。しかしながら、この光散乱ライドガイドにおいて光を光ファイバの側方から均一に散乱させるためには、光ファイバの長手方向において加工の程度を異ならせる必要がある。すなわち、光ファイバの先端に向かうに従って加工の程度を大きくする必要がある。このように、加工の程度を変えることは面倒であってコストの増大を招来する可能性があり、製造を容易に行うことができないという現状がある。
【0007】
前述した特許文献2の光ファイバでは、テーパ部に螺旋状の溝が形成されており、この溝から光ファイバの外部に光が放射する。しかしながら、テーパ部を形成するためには、研磨加工又は溶融延伸加工が必要である。従って、テーパ部の形成のための加工が面倒である。よって、コストの増大を招来する可能性があり、この場合も製造を容易に行うことができない可能性がある。
【0008】
前述した特許文献3の光拡散デバイスでは、発光部に複数の光放射口を有し、光放射口の配置は光ファイバの先端側に向かうに従って密になっている。この光放射口は、レーザ光を光ファイバに照射して光ファイバを溶融させることによって形成される。しかしながら、レーザ光を光ファイバに照射して光ファイバを溶融させると、溶融した部分が液状化し、その後に当該部分が冷えて固まる。従って、溶融した部分の光放射口の形状が滑らかな形状となるため、光放射口において光を十分に散乱させることができないという問題が起こりうる。すなわち、光放射口では、光の散乱よりも光の屈折が生じやすくなるので光の散乱性の点で改善の余地がある。このように、光ファイバの側面から光が十分に散乱しないので、光ファイバの残光が増えて光の利用効率がよくないという問題が起こりうる。
【0009】
本発明の一側面は、製造を容易に行うことができると共に、光の散乱性を高めて光の利用効率を高めることができる光ファイバ、医療ライトガイド、及び光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係る光ファイバは、医療ライトガイドに用いられる光ファイバであって、光軸が延びる方向に延在する樹脂製のコアと、コアを覆う樹脂製のクラッドと、光軸に交差する方向に一周にわたって延びると共にクラッドの表面からコアまで切り欠かれた複数の溝と、を備え、複数の溝のそれぞれは、光軸を含む断面においてクラッドの表面の幅が広く、深くなるにつれて幅が狭くなる略三角形状を有し、溝の表面は、光を散乱する粗面である。
【0011】
本発明の別の側面に係る光ファイバは、医療ライトガイドに用いられる光ファイバであって、光軸が延びる方向に延在する樹脂製のコアと、コアを覆う樹脂製のクラッドと、光ファイバを伝搬する光を照射する照射部と、を備え、照射部は、光を散乱する粗面と、クラッドが除去されてコアが露出すると共に光軸に交差する方向に一周にわたって切り欠かれた複数の溝と、を有する。
【0012】
本発明の一側面に係る医療ライトガイドは、前述の光ファイバと、光ファイバを覆うチューブと、光ファイバに設けられたマーカと、を備え、光ファイバは、マーカと共にチューブの内部に挿入されており、複数の溝とチューブの内面との間に間隙を有する。
【0013】
本発明の一側面に係る光ファイバの製造方法は、前述した光ファイバの複数の溝をアブレーションにより加工する工程を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面によれば、製造を容易に行うことができると共に、光の散乱性を高めて光の利用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る医療ライトガイドを示す側断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る光ファイバを示す側断面図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係る光ファイバを示す側断面図である。
【
図4】
図4は、第3実施形態に係る光ファイバを示す側面図である。
【
図5】
図5は、
図4の光ファイバの製造途中の状態を模式的に示す側面図である。
【
図6】
図6は、第4実施形態に係る光ファイバを示す側面図である。
【
図7】
図7は、第5実施形態に係る光ファイバを示す側面図である。
【
図8】
図8は、第6実施形態に係る医療ライトガイドの光ファイバを示す側面図である。
【
図9】
図9の(a)部は、
図8の光ファイバの体内照射用溝を示す断面図である。
図9の(b)部は、
図8の光ファイバのマーカ溝を示す断面図である。
【
図10】
図10の(a)部、(b)部及び(c)部のそれぞれは、体内に挿入された医療ライトガイドの状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に、本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。実施形態に係る光ファイバは、医療ライトガイドに用いられる光ファイバであって、光軸が延びる方向に延在する樹脂製のコアと、コアを覆う樹脂製のクラッドと、光軸に交差する方向に一周にわたって延びると共にクラッドの表面からコアまで切り欠かれた複数の溝と、を備え、複数の溝のそれぞれは、光軸を含む断面においてクラッドの表面の幅が広く、深くなるにつれて幅が狭くなる略三角形状を有し、溝の表面は、光を散乱する粗面である。本明細書において、溝が「略三角形状」であるとは、クラッドの表面の幅が広く、深くなるにつれて幅が狭くなる形状を示している。「略三角形状」は、三角形状を含むと共に、例えば角が丸い三角形状等、外観としては三角形状であるが厳密には三角形状と異なる形状を含む。
【0017】
この光ファイバでは、クラッドの表面からコアまで切り欠かれた複数の溝を備える。よって、光ファイバのコアを通る光を複数の溝のそれぞれから光ファイバの側方に照射することができる。また、光ファイバの光軸を含む断面において、複数の溝のそれぞれは、深くなるにつれて幅が狭くなる略三角形状を有し、各溝の表面は粗面である。従って、略三角形状とされた複数の溝のそれぞれから光ファイバの側方に光を散乱させることができる。また、各溝の表面が粗面とされていることにより、各溝から光ファイバの側方に均一に光を散乱させることができる。更に、この光ファイバでは、粗面化された複数の略三角形状の溝を形成すればよいので、製造を容易に行うことができる。
【0018】
また、当該粗面の表面粗さは、光ファイバを伝搬する光の波長の5倍以上且つ50倍以下であってもよい。この場合、各溝において光の屈折を抑えると共に、各溝から光を効果的に散乱させることができる。本明細書において「粗面」とは、光の散乱が生じる程度に粗らされた面を示しており、散乱が生じる程度に表面粗さが高い面を示している。
【0019】
また、コアの直径は、クラッドの外径の0.90倍以上且つ0.98倍以下であってもよい。この場合、各溝が浅くても各溝がコアに達するので、溝が深すぎることによる光ファイバの強度の低下を抑制することができる。
【0020】
また、クラッドの表面の溝の幅は、クラッドの外径の0.05倍以上且つ0.10倍以下であり、溝の深さは、クラッドの外径の0.10倍以下であってもよい。この場合、溝の加工による光ファイバの歪みを抑制することができると共に、精度よく各溝を作製することができる。
【0021】
また、互いに隣接する2つの溝の間隔は、光が進む先端側に向かうにつれて狭くなってもよい。この場合、光ファイバの基端側から先端側に向かうにつれて2つの溝の間の間隔が狭くなるので、光ファイバの基端側から出射する光の強度と光ファイバの先端側から出射する光の強度とをより均一にすることができる。また、複数の溝の深さは一定であってもよい。
【0022】
また、溝は、光が進む先端側に向かうにつれて深くなってもよい。この場合、光ファイバの基端側から先端側に向かうにつれて溝が深くなるので、光ファイバの基端側から出射する光の強度と光ファイバの先端側から出射する光の強度とをより均一にすることができる。また、互いに隣接する2つの溝の間隔は一定であってもよい。
【0023】
また、互いに隣接する2つの溝の間隔は、クラッドの表面の溝の幅の2倍以上且つ30倍以下であってもよい。この場合、複数の溝から確実に光を散乱させることができると共に、溝の作製を容易に行うことができる。
【0024】
また、コアの材料は、ポリメタクリル酸メチル樹脂又はポリカーボネートであり、クラッドの材料は、フッ素が添加されたポリマーであってもよい。コアがポリメタクリル酸メチル樹脂を含むことにより、コアにおける光の透過率を高めることができる。一方、コアがポリカーボネートを含むことにより、光ファイバにおけるコアの屈折率とクラッドの屈折率との差を大きくすることができる。
【0025】
別の実施形態に係る光ファイバは、医療ライトガイドに用いられる光ファイバであって、光軸が延びる方向に延在する樹脂製のコアと、コアを覆う樹脂製のクラッドと、光ファイバを伝搬する光を照射する照射部と、を備え、照射部は、光を散乱する粗面と、クラッドが除去されてコアが露出すると共に光軸に交差する方向に一周にわたって切り欠かれた複数の溝と、を有する。
【0026】
この光ファイバでは、光を照射する照射部が光を散乱する粗面を有する。よって、照射部において光を光ファイバの側方に散乱させることができる。また、照射部は光軸に交差する方向に一周にわたって切り欠かれた複数の溝を有する。従って、複数の溝のそれぞれから光ファイバの側方に光を散乱させることができる。更に、この光ファイバでは、光を散乱する粗面と複数の溝とを形成すればよいので、製造を容易に行うことができる。
【0027】
また、当該粗面の表面粗さは、光ファイバを伝搬する光の波長の5倍以上且つ50倍以下であってもよい。この場合、当該粗面において光の屈折を抑えると共に、当該粗面から光を効果的に散乱させることができる。
【0028】
また、複数の溝のそれぞれの表面粗さは、粗面の表面粗さと同等であり、互いに隣接する2つの溝の間隔は、光が進む先端側に向かうに従って狭くなってもよい。この場合、光ファイバの基端側から先端側に向かうにつれて2つの溝の間の間隔が狭くなるので、光ファイバの基端側において散乱する光の強度と光ファイバの先端側において散乱する光の強度とを均一にすることができる。なお、「表面粗さが同等」であるとは、ある2つの面のそれぞれの表面粗さの値が、2つの面のそれぞれにおける光の散乱の程度に有意な差が生じない程度に近いことを示している。
【0029】
また、複数の溝のそれぞれの表面粗さは、粗面の表面粗さよりも小さく、互いに隣接する2つの溝の間隔は、光が進む先端側に向かうに従って広くなってもよい。この場合、各溝の表面粗さは、溝でない粗面の表面粗さよりも小さいので、各溝よりも溝でない粗面の方が光の散乱性が高い。この光ファイバでは、基端側から先端側に向かうにつれて2つの溝の間隔が広くなるので、相対的に光の散乱性が高い粗面の領域が先端側に向かうほど広くなる。従って、光ファイバの基端側において散乱する光の強度と光ファイバの先端側において散乱する光の強度とを均一にすることができる。また、複数の溝の深さは一定であってもよい。
【0030】
実施形態に係る医療ライトガイドは、前述の光ファイバと、光ファイバを覆うチューブと、光ファイバに設けられたマーカと、を備え、光ファイバは、マーカと共にチューブの内部に挿入されており、複数の溝とチューブの内面との間に間隙を有する。
【0031】
この医療ライトガイドは、前述した光ファイバを備えるので、光ファイバの側方に均一に光を散乱させることができると共に、製造を容易に行うことができる。また、光ファイバにマーカが設けられているので、マーカの位置を検出することによって体内等における医療ライトガイドの位置を容易に把握することができる。更に、複数の溝とチューブの内面との間に間隙が設けられているので、チューブに対して外力が付与されても、当該間隙の内側に位置する複数の溝に外力を伝達させにくくすることができる。従って、外力の付与による光ファイバの破損を防止することができる。
【0032】
また、マーカは、X線を遮蔽する金属によって構成されて、光ファイバに固定されていてもよい。この場合、マーカはX線を遮蔽する金属によって設けることができる。
【0033】
実施形態に係る光ファイバの製造方法は、前述の光ファイバの複数の溝をアブレーションにより加工する工程を備える。アブレーションによる加工では、溶融痕が残る熱加工とは異なり、レーザのエネルギーで分子結合を破壊して複数の溝を形成する。従って、溶融痕による曲面形状の発生が抑制されるので、略三角形状であって鋭利な形状の溝を形成することができる。その結果、加工を容易に行うことができると共に、各溝における光の散乱性を一層高めることができる。
【0034】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下では、実施形態に係る光ファイバ、医療ライトガイド、及び光ファイバの製造方法の具体例を図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示され、特許請求の範囲と均等の範囲における全ての変更が含まれることが意図される。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は理解を容易にするため一部を簡略化又は誇張して描いており、寸法等は図面に記載のものに限定されない。
【0035】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る医療ライトガイド1を示す部分断面図である。医療ライトガイド1は、例えば、内視鏡チューブの内部に挿入され、光線力学的治療法(PDT:Photo Dynamic Therapy)と称される癌治療に用いられる。PDTでは、光感受性物質への光照射によって光化学反応を発生させる。例えば、体内にレザフィリン(登録商標)と称される光感受性物質が投与されると、光感受性物質は癌細胞に蓄積される。
【0036】
光感受性物質が蓄積された箇所に医療ライトガイド1から赤色レーザを照射すると、光感受性物質が蓄積された癌細胞を選択的に破壊することが可能となる。このように、PDTでは、医療ライトガイド1からの赤色レーザの照射によって癌細胞を破壊できるため、外科手術を不要とすることができ、患者への負担が小さいという特徴を有する。赤色レーザの波長は一例として664nmである。なお、以下では、赤色レーザを光と称する。
【0037】
医療ライトガイド1は、方向D1に延びる棒状とされており、方向D1に沿うように患者の体内に挿入される。医療ライトガイド1の
図1には図示されていない部分も含めた全体の長さは、例えば、3mが好適であり、2m以上且つ4m以下であってもよい。医療ライトガイド1は、光ファイバ11、マーカ12,13及びチューブ14を備える。チューブ14は、例えば、筒状とされている。一例として、チューブ14の内径は400μm以上且つ800μm以下である。
【0038】
チューブ14は、プラスチックによって形成されていてもよい。また、チューブ14は、フッ素樹脂によってコーティングされていてもよい。チューブ14は、光ファイバ11及びマーカ12,13を覆うことにより、光ファイバ11及びマーカ12,13を保護する保護チューブである。例えば、チューブ14の先端部14aは、医療ライトガイド1の終端(先端)を成す終端部分であり、終端(先端)に向かって突出する曲面状とされている。先端部14aには、例えば、フッ素樹脂がコーティングされていてもよい。
【0039】
本実施形態に係る光ファイバ11は、例えば、棒状とされており、光ファイバ11の光軸Lが延びる方向である方向D1に延在する。光ファイバ11は、例えば、透明なプラスチックによって構成されている。光ファイバ11は、光源から出力された光を伝搬し、マーカ12とマーカ13との間に位置する照射部11aから当該光を照射する。当該光は、前述したように赤色レーザであり、当該光の波長は、例えば、600nm以上且つ700nm以下である。照射部11aの方向D1の長さは、例えば、10mm以上且つ30mm以下である。
【0040】
照射部11aは、医療ライトガイド1の側方D2に当該光を照射する。また、照射部11aとチューブ14の内面との間には間隙Sが設けられているので、当該光を側方D2に確実に散乱することができる。側方D2は、医療ライトガイド1が延びる方向D1に交差する方向である。照射部11aは、光ファイバ11の表面11bに形成されており、光ファイバ11の内部の光を表面11bから側方D2に照射する。
【0041】
マーカ12は、例えば、加締め又は接着剤によって光ファイバ11に固定されている。マーカ12は、医療ライトガイド1の先端部(終端部)に設けられている。マーカ12は、例えば、光ファイバ11が挿通されるリング状とされている。マーカ12は、X線を遮蔽する金属によって構成されている。マーカ12の材料は、例えば、白金系合金である。一例として、マーカ12はPt-Ir合金によって構成されている。
【0042】
このようにマーカ12がX線を遮蔽する白金系合金等によって形成されることにより、マーカ12をX線不透過マーカとして機能させることができる。マーカ13は、光ファイバ11を覆って光ファイバ11を保護する。マーカ13は、マーカ12と同様、X線を遮蔽する金属によって形成されていてもよく、この場合、X線不透過マーカとして機能する。
【0043】
図2は、光ファイバ11の光軸Lを含む断面を示している。
図1及び
図2に示されるように、光ファイバ11の照射部11aは、方向D1に沿って並設された複数の溝15を有する。各溝15は、光ファイバ11の周方向に一周続いており、光ファイバ11の周方向に延びる環状凹部とされている。本実施形態において、方向D1に沿って互いに隣接する2つの溝15の間隔P1は、光ファイバ11の先端11c側に向かうに従って徐々に狭くなっている。
【0044】
光ファイバ11は、ポリマー光ファイバ(POF:Polymer OpticalFiber)である。光ファイバ11は、光軸Lが延びる方向D1に延在するコア11d、及びコア11dを覆うクラッド11eを有し、コア11d及びクラッド11eは共に樹脂製である。例えば、コア11dの材料は、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Polymethyl methacrylate)又はポリカーボネート(polycarbonate)を含んでいる。クラッド11eの材料は、フッ素が添加されたポリマーを含んでおり、一例としてPMMAを含んでいる。
【0045】
例えば、コア11dの直径A2(外径)は、クラッド11eの外径A1の0.90倍以上且つ0.98倍以下である。例えば、クラッド11eの外径A1が500μmである場合には、コア11dの直径A2は450μm以上且つ490μm以下である。複数の溝15のそれぞれは、コア11dに達している。各溝15は、クラッド11eの表面11bの幅A3(方向D1の幅)が広く、深くなるにつれて当該幅が狭くなる略三角形状を有する。すなわち、各溝15の断面が三角形状とされている。クラッド11eの表面11bの溝15の幅A3は、例えば、クラッド11eの外径A1の0.05倍以上且つ0.10倍以下(一例として25μm以上且つ50μm以下)である。
【0046】
互いに隣接する2つの溝15の間隔P1は、例えば、クラッド11eの表面11bの溝15の幅A3の2倍以上且つ30倍以下である。すなわち、間隔P1の最小値が幅A3の2倍以上であり、且つ間隔P1の最大値が幅A3の30倍以下である。また、複数の溝15の深さH1は、一定とされている。なお、本明細書において、溝の深さとは、溝加工等の加工が施されていない光ファイバの表面部分からの深さを示している。
【0047】
各溝15の深さH1は、クラッド11eの径方向の厚さA5(コア11dに達する深さ)以上且つクラッド11eの外径A1の0.10倍以下(一例として50μm以下)である。この場合、各溝15における光の散乱性を確保しつつ、光ファイバ11の変形及び光ファイバ11の強度劣化を抑制することができる。
【0048】
複数の溝15のそれぞれは、例えば、アブレーション加工によって作製される。すなわち、各溝15は熱の影響が抑えられた非熱加工によって形成されており、例えば、レーザ光を吸収した箇所の分子結合が破壊されて飛散することによって各溝15が形成される。従って、熱加工の溶融による湾曲した溝ではなく、鋭利な略三角形状の溝15が形成されうる。
【0049】
光軸Lを含む断面において略三角形状とされた各溝15の一角を成す各溝15の底部15aは、コア11dに達している。また、各溝15の底部15aから延びる面15bは、光を散乱する粗面である。面15bの表面粗さは、例えば、光ファイバ11を伝搬する光の波長の5倍以上且つ50倍以下である。面15bの表面粗さは、例えば、算術平均粗さで示され、コア11dを通る光を各溝15から散乱させることが可能な程度の値を有する。
【0050】
本実施形態において、面15bの算術平均粗さは、光ファイバ11を伝搬する光の波長の5倍以上且つ50倍以下である。「算術平均粗さ」は、JIS B 0601において定義されている算術平均粗さRaを示しており、表面の凹凸の程度を表す指標である。「算術平均粗さ」が大きくなるほど表面の凹凸の程度が大きくなり、「算術平均粗さ」が小さくなるほど鏡面に近づくことを示している。また、「算術平均粗さ」と当該表面における光の散乱現象とは関連性を有する。本実施形態では、前述したように光ファイバ11の内部を伝搬する光の波長は600nm以上且つ700nm以下であり、面15bの表面粗さは、例えば、3μm以上且つ35μm以下である。
【0051】
次に、医療ライトガイド1の組み立ての手順について説明する。まず、予め光ファイバ11を製造する。光ファイバ11の製造方法は、例えば、アブレーションにより加工する工程を備える。具体例として、レーザスポットの径を数十μmに絞って紫外線レーザを光ファイバ11の表面11bに照射してアブレーション加工を行う。アブレーション加工により、前述したように、粗面である面15bを有する複数の溝15が作製される。次に、光ファイバ11をマーカ12,13に通し、マーカ12,13のそれぞれを加締め又は接着剤によって光ファイバ11に固定する。その後、マーカ12,13をチューブ14に挿入すると共にチューブ14を接着剤でマーカ12,13に固定することにより、医療ライトガイド1の組み立てが完了する。
【0052】
次に、本実施形態に係る光ファイバ11、医療ライトガイド1、及び光ファイバ11の製造方法から得られる作用効果について説明する。
【0053】
光ファイバ11及び医療ライトガイド1では、クラッド11eの表面11bからコア11dまで切り欠かれた複数の溝15を備える。よって、光ファイバ11のコア11dを通る光を複数の溝15のそれぞれから光ファイバ11の側方D2に照射することができる。また、光ファイバ11の光軸Lを含む断面において、複数の溝15のそれぞれは、深くなるにつれて幅が狭くなる略三角形状を有し、各溝15の面15bは粗面である。従って、略三角形状とされた複数の溝15のそれぞれから光ファイバ11の側方D2に光を散乱させることができる。また、各溝15の面15bが粗面とされていることにより、各溝15から光ファイバ11の側方D2に均一に光を散乱させることができる。更に、光ファイバ11では、粗面化された複数の略三角形状の溝15を形成すればよいので、製造を容易に行うことができる。
【0054】
また、面15bの表面粗さは、光ファイバ11を伝搬する光の波長の5倍以上且つ50倍以下である。従って、各溝15において光の屈折を抑えると共に、各溝15から光を効果的に散乱させることができる。
【0055】
また、コア11dの直径A2は、クラッド11eの外径A1の0.90倍以上且つ0.98倍以下である。よって、各溝15が浅くても各溝15がコア11dに達するので、溝が深すぎることによる光ファイバ11の強度の低下を抑制することができる。
【0056】
また、クラッド11eの表面11bの溝15の幅A3は、クラッド11eの外径A1の0.05倍以上且つ0.10倍以下であり、溝15の深さH1は、クラッド11eの外径A1の0.10倍以下である。よって、溝15の加工による光ファイバ11の歪みを抑制することができると共に、精度よく各溝15を作製することができる。
【0057】
また、互いに隣接する2つの溝15の間隔P1は、光が進む先端11c側に向かうにつれて狭くなっている。よって、光ファイバ11の基端側から先端11c側に向かうにつれて2つの溝15の間隔P1が狭くなるので、光ファイバ11の基端側から出射する光の強度と光ファイバ11の先端側から出射する光の強度とをより均一にすることができる。なお、第1実施形態では、溝15の深さH1が一定である例について説明した。しかしながら、溝15の深さH1は、例えば光ファイバ11の先端11c側に向かうにつれて徐々に深くなってもよく、適宜変更可能である。
【0058】
また、互いに隣接する2つの溝15の間隔P1は、クラッド11eの表面11bの溝15の幅A3の2倍以上且つ30倍以下である。よって、複数の溝15から確実に光を散乱させることができると共に、溝15の作製を容易に行うことができる。
【0059】
また、コア11dの材料は、ポリメタクリル酸メチル樹脂又はポリカーボネートであり、クラッド11eの材料は、フッ素が添加されたポリマーである。コア11dがポリメタクリル酸メチル樹脂を含むことにより、コア11dにおける光の透過率を高めることができる。一方、コア11dがポリカーボネートを含むことにより、耐熱性を高めることができる。また、クラッド11eにフッ素が添加されることにより、光ファイバ11におけるコア11dとクラッド11eの屈折率差を高めることができる。
【0060】
医療ライトガイド1は、前述した光ファイバ11を備えるので、光ファイバ11の側方D2に均一に光を散乱させることができると共に、製造を容易に行うことができる。また、光ファイバ11にマーカ12,13が設けられているので、マーカ12,13の位置を検出することによって体内等における医療ライトガイド1の位置を容易に把握することができる。更に、複数の溝15とチューブ14の内面との間に間隙Sが設けられているので、チューブ14に対して外力が付与されても、間隙Sの内側に位置する複数の溝15に外力を伝達させにくくすることができる。従って、外力の付与による光ファイバ11の破損を抑制することができる。また、マーカ12,13は、X線を遮蔽する金属によって構成されており、光ファイバ11に固定されていてもよい。この場合、マーカ12,13はX線を遮蔽する金属によって設けることができる。
【0061】
光ファイバ11の製造方法は、アブレーションにより加工する工程を備える。アブレーションによる加工では、溶融痕が残る熱加工とは異なり、レーザのエネルギーで分子結合を破壊して複数の溝15を形成する。従って、溶融痕による曲面形状の発生が抑制されるので、略三角形状であって鋭利な形状の溝15を形成することができる。その結果、加工を容易に行うことができると共に、各溝15における光の散乱性を一層高めることができる。
【0062】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る光ファイバ21について
図3を参照しながら説明する。
図3は、光ファイバ21の光軸Lを含む断面を示している。光ファイバ21は、前述した溝15とは異なる態様の溝25を備える点が第1実施形態と相違する。以下では、第1実施形態と重複する説明を適宜省略する。光ファイバ21は、方向D1に沿って並設された複数の溝25を有し、複数の溝25のそれぞれは、例えば、アブレーション加工によって作製される。
【0063】
方向D1に沿って互いに隣接する2つの溝25の間隔P2は一定(略同一)とされている。複数の溝25の深さH2は、光ファイバ21の先端側に向かうに従って徐々に深くなっている。例えば、深さH2の最小値は溝25の底部25aがコア11dに達する深さであり、深さH2の最大値はクラッド11eの外径A1の0.10倍以下(一例として50μm以下)である。
【0064】
以上、第2実施形態に係る光ファイバ21では、溝25は、光が進む先端側に向かうにつれて深くなっている。よって、光ファイバ21の基端側から先端側に向かうにつれて溝25が深くなるので、光ファイバ21の基端側から出射する光の強度と光ファイバ21の先端側から出射する光の強度とをより均一にすることができる。なお、第2実施形態では、互いに隣接する2つの溝25の間隔P2が一定である例について説明した。しかしながら、溝25の間隔P2は、例えば光ファイバ21の先端側に向かうにつれて徐々に狭くなってもよく、適宜変更可能である。
【0065】
(第3実施形態)
続いて、第3実施形態に係る光ファイバ31について
図4を参照しながら説明する。
図4は、光ファイバ31の側方D2に光を照射する照射部31aを示す側面図である。照射部31aは、光ファイバ31の光軸Lに交差する方向に一周にわたって切り欠かれた複数の溝35を有し、複数の溝35のそれぞれは光ファイバ31の周方向に一周続く環状凹部である。方向D1に沿って互いに隣接する2つの溝35の間隔P3は、光ファイバ31の先端31c側に向かうにつれて狭くなっている。また、各溝35の深さH3は、例えば、一定である。
【0066】
照射部31aは、粗面加工(粗面化)された粗面31bを有する。本実施形態において、粗面31bは、溝35が形成されていない光ファイバ31の表面を示している。粗面31b及び溝35には粗面加工が施されており、粗面加工は、例えば、サンドブラストによって実行される。粗面31b及び溝35には粗面加工によってスクラッチ傷が形成されてもよい。各溝35は、光ファイバ31のコアに達しているため、粗面31bよりも、コア11dに達する溝35における光の散乱性の方が大きい。
【0067】
光ファイバ31の製造方法は、レーザで熱加工を行って溝35を作製する工程と、光ファイバを粗面化する工程とを備える。溝35を作製する工程では、例えば、CO
2レーザを光ファイバに照射して熱加工を行う。このとき、例えば
図5に示されるように、溝35の方向D1の両側が熱の影響で盛り上がり微小な凸35aが生じることがある。
【0068】
図4に示されるように、溝35を作製した後には、光ファイバを粗面化する工程を実行し、例えば、サンドブラストによって粗面加工を行い溝35を粗面化すると共に粗面31bを作製する。なお、溝35及び粗面31bの粗面化は、例えばサンドブラスト等によって一度に行うため、各溝35の表面粗さは粗面31bの表面粗さと同等(実質同一)となる。粗面31bの表面粗さは、例えば前述した面15bの表面粗さと同様、光ファイバ31を伝搬する光の波長の5倍以上且つ50倍以下である。サンドブラストによる粗面加工を行うと、溝35の凸35aが削られて解消されるため、盛り上がりが抑制された光ファイバ31を製造することができる。
【0069】
以上、第3実施形態に係る光ファイバ31では、光を照射する照射部31aが光を散乱する粗面31bを有する。よって、照射部31aにおいて光を光ファイバ31の側方D2に散乱させることができる。また、照射部31aは光軸Lに交差する方向に一周にわたって切り欠かれた複数の溝35を有する。従って、複数の溝35のそれぞれから光ファイバ31の側方D2に光を散乱させることができる。更に、光ファイバ31では、光を散乱する粗面31bと複数の溝35とを形成すればよいので、製造を容易に行うことができる。
【0070】
また、複数の溝35のそれぞれの表面粗さは、粗面31bの表面粗さと同等であり、互いに隣接する2つの溝35の間隔P3は、光が進む先端31c側に向かうに従って狭くなっている。よって、光ファイバ31の基端側から先端31c側に向かうにつれて2つの溝35の間隔P3が狭くなるので、光ファイバ31の基端側において散乱する光の強度と光ファイバ31の先端31c側において散乱する光の強度とを均一にすることができる。なお、第3実施形態では、溝35の深さH3が一定である例について説明した。しかしながら、溝35の深さは、例えば光ファイバ31の先端31c側に向かうにつれて徐々に深くなってもよく、適宜変更可能である。
【0071】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る光ファイバ41について
図6を参照しながら説明する。
図6は、光ファイバ41の照射部41aの例を示す側面図である。照射部41aは、粗面41b、及び方向D1に沿って並設された複数の溝45を有する。方向D1に沿って互いに隣接する2つの溝45の間隔P4は一定とされている。複数の溝45の深さH4は、光ファイバ41の先端41c側に向かうに従って徐々に深くなっている。光ファイバ41の製造方法は、第3実施形態の光ファイバ31の製造方法と同様である。
【0072】
以上、第4実施形態に係る光ファイバ41では、溝45は、光が進む先端41c側に向かうにつれて深くなっている。よって、光ファイバ41の基端側から先端41c側に向かうにつれて溝45が深くなるので、光ファイバ41の基端側から出射する光の強度と先端41c側から出射する光の強度とをより均一にすることができる。なお、第4実施形態では、互いに隣接する2つの溝45の間隔P4が一定である例について説明した。しかしながら、溝45の間隔P4は、例えば光ファイバ41の先端41c側に向かうにつれて徐々に狭くなってもよく、適宜変更可能である。
【0073】
(第5実施形態)
続いて、第5実施形態に係る光ファイバ51について
図7を参照しながら説明する。
図7は、光ファイバ51の側方D2に光を照射する照射部51aを示す側面図である。照射部51aは複数の溝55を有し、複数の溝55のそれぞれは光ファイバ51の周方向に一周続いている。方向D1に沿って互いに隣接する2つの溝55の間隔P5は、光ファイバ51の先端51c側に向かうにつれて広くなっている。各溝55の深さH5は、例えば、一定であり、前述した深さH1~H4よりも浅い。
【0074】
照射部51aは、第3実施形態と同様、粗面加工された粗面51bを有する。粗面51bにはサンドブラスト等による粗面加工が施されており、各溝55には粗面加工が施されていない。各溝55は、粗面加工が施されていないため、粗面51bと比較して光の散乱性が低い。例えば、各溝55は、表面が滑らかであるため、各溝55における光の散乱は抑制される。すなわち、第5実施形態に係る光ファイバ51では、粗面51bにおいて光の散乱が生じると共に、各溝55においては光の散乱が生じにくい。
【0075】
光ファイバ51を製造する製造方法は、光ファイバ51を粗面化する工程と、レーザで熱加工を行って溝55を作製する工程とを備える。光ファイバ51を粗面化する工程では、例えば、サンドブラストによって粗面加工を行い、照射部51aを全体的に粗面化して粗面51bを作製する。光ファイバ51を粗面化する工程を実行した後には、レーザで熱加工を行って溝55を作製する工程を実行する。溝55を作製する工程では、例えば、CO2レーザを粗面51bに照射して熱加工を行う。このとき、粗面51bが熱によって溶けた後に冷却して固まるため、ごく浅く且つ表面が滑らかとされた溝55が形成される。溝55の表面粗さは、粗面51bの表面粗さよりも小さい。
【0076】
以上、第5実施形態に係る光ファイバ51では、複数の溝55のそれぞれの表面粗さは、粗面51bの表面粗さよりも小さく、互いに隣接する2つの溝55の間隔P5は、光が進む先端51c側に向かうに従って広くなっている。また、各溝55の表面粗さは、溝55でない粗面51bの表面粗さよりも小さいので、各溝55よりも溝55でない粗面51bの方が光の散乱性が高い。光ファイバ51では、基端側から先端51c側に向かうにつれて2つの溝55の間隔P5が広くなるので、相対的に光の散乱性が高い粗面51bの領域が先端51cに向かうほど広くなる。従って、光ファイバ51の基端側において散乱する光の強度と光ファイバ51の先端51c側において散乱する光の強度とを均一にすることができる。なお、第5実施形態では、各溝55の深さH5が一定である例について説明した。しかしながら、各溝55の深さH5は一定でなくてもよい。
【0077】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態に係る医療ライトガイド60について
図8~
図10を参照しながら説明する。
図8は、第6実施形態に係る医療ライトガイド60の光ファイバ61の側面図である。
図9の(a)部は、光ファイバ61の溝15を示す断面図である。
図9の(b)部は、光ファイバ61のマーカ溝62を示す断面図である。
図10の(a)部、(b)部及び(c)部のそれぞれは、体内に挿入された医療ライトガイド60の位置を模式的に示す図である。
【0078】
図8に示されるように、光ファイバ61は、前述した照射部11aと、体内における医療ライトガイド60の位置を示すマーカ溝62とを有する。照射部11aは、例えば、体内の患部に光を照射する患部照射用溝群であり、前述したように、照射部11aは方向D1に沿って形成された複数の溝15を有する。互いに隣接する2つの溝15の間隔は、例えば、光が進む先端11c側に向かうにつれて狭くなっている。
【0079】
光ファイバ61は、例えば、2つのマーカ溝62を有する。但し、光ファイバ61は1つ又は3つ以上のマーカ溝62を有していてもよく、マーカ溝62の数は適宜変更可能である。光ファイバ61の照射部11aの方向D1の長さをNとすると、例えば、Nの値は5mm以上且つ10mm以下である。マーカ溝62から複数の溝15までの距離は、例えばNであり、照射部11a、すなわち、複数の溝15の方向D1の長さと同一である。また、複数のマーカ溝62の間隔は、例えばNであり、複数の溝15の方向D1の長さ(照射部11aの長さ)と同一であってもよい。但し、マーカ溝62から複数の溝15までの距離、及び複数のマーカ溝62の間隔は、N以外であってもよく、適宜変更可能である。
【0080】
図9の(a)部及び(b)部に示されるように、マーカ溝62は、照射部11aの溝15と同様、光ファイバ61のクラッド11eの表面11bからコア11dまで切り欠かれている。マーカ溝62は、深くなるにつれて幅が狭くなる略三角形状を有する。マーカ溝62の深さH6は、溝15の深さH1よりも浅く、例えば、コア11dの表面に届く程度とされていてもよい。
【0081】
以上の光ファイバ61を備える医療ライトガイド60は、例えば、患者の体外から比較的アクセスしやすい部位に挿入される。当該部位としては、例えば、子宮頸管を含む子宮部、又は直腸を含む大腸部が挙げられる。以下では、
図10の(a)部、(b)部及び(c)部を参照しながら、身体Bの体内B1に医療ライトガイド60を挿入して体内B1の患部B2に医療ライトガイド60から光を照射する方法の例について説明する。
【0082】
例えば、患部B2の長さは、患者によって異なる。しかしながら、患部B2の長さに応じて照射部の長さが異なる複数の医療ライトガイドを用意することは効率の点で好ましくない場合がある。そこで、本実施形態では、例えば患部B2の長さが30mmである場合に、長さがN(例えば10mm)の照射部11aを有する光ファイバ61を
図10の(a)部、(b)部及び(c)部の3回に分けて移動しながら、3回に分けて患部B2に光を照射する。このとき、溝15とマーカ溝62との間隔がN、又は複数のマーカ溝62の間隔がNである場合、体内B1における照射部11aの位置の把握、及び照射部11aから患部B2への光の照射を効率よく行うことができる。
【0083】
以上、第6実施形態に係る医療ライトガイド60では、マーカは、クラッド11eの表面11bからコア11dまで切り欠かれたマーカ溝62であって、マーカ溝62は、光軸Lを含む断面においてクラッド11eの表面11bの幅が広く、深くなるにつれて幅が狭くなる略三角形状を有する。この場合、光ファイバ61のコア11dを通る光をマーカ溝62から光ファイバ61の側方に照射することができる。従って、マーカ溝62から光ファイバ61の側方に照射された光を目視又はカメラで観察することによって、体内等における医療ライトガイド60の位置を容易に把握することができる。カメラとしては、例えば、コルポスコープ又は内視鏡カメラが挙げられる。マーカ溝62は、体内B1の患部B2に光を照射する溝15と同様且つ同時に形成することができる。従って、マーカをマーカ溝62として設けることによってマーカの作製を容易に行うことができる。その結果、マーカを低コスト且つ容易に設けることができる。
【0084】
また、マーカ溝62の深さH6は、複数の溝15のそれぞれの深さH1よりも浅くてもよい。この場合、マーカ溝62が深いことによってマーカ溝62から照射される光の強度が高くなって光の損失が大きくなる懸念を回避することができる。マーカ溝62の深さH6が複数の溝15のそれぞれの深さH1よりも浅い場合、マーカ溝62からの光の強度を抑えることができ、光の強度が大きすぎて撮影が困難となることを回避することができるので、カメラによるマーカ溝62の撮影を確実に行うことができる。
【0085】
また、マーカ溝62よりも光が進む先端11c側に複数の溝15が形成されており、マーカ溝62から複数の溝15までの距離は、複数の溝15の光軸Lが延びる方向D1の長さNと同一であってもよい。この場合、マーカ溝62に対する複数の溝15の位置を把握しやすくすることができる。
【0086】
また、複数のマーカ溝62を有し、複数のマーカ溝62よりも光が進む先端11c側に複数の溝15が形成されており、複数のマーカ溝62の間隔は、複数の溝15の光軸が延びる方向D1の長さNと同一であってもよい。この場合、複数のマーカ溝62を有することによって、体内B1における医療ライトガイド60の位置を更に分かりやすくすることができる。また、複数のマーカ溝62の間隔が複数の溝15の長さNと同一であることにより、各マーカ溝62に対する複数の溝15の位置を把握しやすくすることができる。
【0087】
以上、本発明に係る光ファイバ、医療ライトガイド、及び光ファイバの製造方法の各実施形態について説明した。しかしながら、本発明に係る光ファイバ、医療ライトガイド、及び光ファイバの製造方法は、前述の各実施形態に限定されず種々の変形が可能である。すなわち、光ファイバ及び医療ライトガイドの各部の構成、並びに、光ファイバの製造方法の各工程の内容及び順序は、特許請求の範囲の要旨の範囲内において適宜変更可能である。例えば、光ファイバに形成された溝の形状、大きさ、数及び配置態様については適宜変更可能である。
【0088】
また、前述した実施形態では、マーカ12,13を備える医療ライトガイド1、及びマーカ溝62を備える医療ライトガイド60について説明した。しかしながら、医療ライトガイドのマーカの数は、1個、又は3個以上であってもよく、適宜変更可能である。また、前述した実施形態では、照射部11aの方向D1の長さ、照射部11aからマーカ溝62までの距離、及び複数のマーカ溝62の間隔が共にNである例について説明した。この例と同様、照射部11aの方向D1の長さをNとしたときに、照射部11aからマーカ12までの距離、及びマーカ12からマーカ13までの距離、の少なくともいずれかがNであってもよい。更に、マーカの形状は、リング状に限られず、例えば、半円筒状であってもよく、適宜変更可能である。このように、マーカの数、形状、大きさ、材料及び配置態様は適宜変更可能である。また、チューブの形状、大きさ、数、材料及び配置態様は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0089】
1,60…医療ライトガイド、11,21,31,41,51,61…光ファイバ、11a,31a,41a,51a…照射部、11b…表面、11c,31c,41c,51c…先端、11d…コア、11e…クラッド、12,13…マーカ、14…チューブ、15,25,35,45,55…溝、15a,25a…底部、15b…面、31b,41b,51b…粗面、35a…凸、62…マーカ溝、A1…外径、A2…直径、A3…幅、B…身体、B1…体内、B2…患部、D1…方向、D2…側方、H1,H2,H3,H4,H5…深さ、L…光軸、N…長さ、P1,P2,P3,P4,P5…間隔。