(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】水生生物を飼育するための水槽内の水のきれいさを判定する判定システム、および水槽内の水質を維持するための水処理システムおよび水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20230828BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20230828BHJP
C02F 1/24 20230101ALI20230828BHJP
C02F 1/32 20230101ALI20230828BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20230828BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20230828BHJP
C02F 1/78 20230101ALI20230828BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20230828BHJP
C02F 9/00 20230101ALI20230828BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20230828BHJP
【FI】
C02F1/00 V
A01K63/04 A
A01K63/04 F
A01K63/04 Z
C02F1/24 C
C02F1/32
C02F1/44 A
C02F1/52 K
C02F1/78
C02F3/10 Z
C02F9/00
G06T7/00 350C
(21)【出願番号】P 2019138428
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2022-02-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】二見 賢一
(72)【発明者】
【氏名】西村 究
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大輔
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-033418(JP,A)
【文献】特開平06-119454(JP,A)
【文献】特開2005-080592(JP,A)
【文献】特開2005-080591(JP,A)
【文献】特開平06-027014(JP,A)
【文献】中国実用新案第204697757(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00
A01K 61/00 - 63/10
C02F 1/44
C02F 1/24
C02F 1/32
C02F 1/52
C02F 1/78
C02F 3/10
C02F 9/00
G06N 20/00
G06F 30/27
G06T 7/00
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水生生物飼育
に用いられる展示用水槽内の水のきれいさを判定する判定システムであって、
前記水槽
、前記水槽から抜き出した水を浄化する浄化装置、および前記水槽と前記浄化装置との間で水を循環させる循環ラインを含む水循環経路内の水の画像を生成する撮像装置と、
前記水の画像のデータを、機械学習アルゴリズムにより構築された画像解析モデルに入力し、前記水のきれいさの判定結果を出力する水質判定装置を備え
、
前記撮像装置は、前記水槽に隣接して配置されており、前記水槽内の水の画像を生成するように配置されていることを特徴とする水生生物を飼育するための水槽内の水のきれいさを判定する判定システム。
【請求項2】
生物飼育用の水槽内の水のきれいさを判定する判定システムであって、
前記水槽内の壁面に配置されたターゲット
と、
前記水槽内の前記ターゲットおよび水の画像を生成する
撮像装置と、
前記ターゲットおよび前記水の画像のデータを、機械学習アルゴリズムにより構築された画像解析モデルに入力し、前記水のきれいさの判定結果を出力する水質判定装置を備えていることを特徴とす
る判定システム。
【請求項3】
前記画像解析モデルは、前
記水の画像と、前
記水のきれいさを示す数値との複数の組み合わせからなる学習データを用いて、機械学習アルゴリズムに従って構築された学習済みモデルである、請求項1または2に記載の判定システム。
【請求項4】
生物飼育用の水槽と、
前記水槽から抜き出した水を浄化する浄化装置と、
前記水槽と前記浄化装置とを接続する循環ラインと、
前記水槽内の壁面に配置されたターゲットと、
前記水槽内の前記ターゲットおよび水の画像を生成する撮像装置と、
前記ターゲットおよび前記水の画像のデータを、機械学習アルゴリズムにより構築された画像解析モデルに入力し、前記水のきれいさの判定結果を出力する水質判定装置と、
前記判定結果に基づいて前記浄化装置の動作を制御する運転制御部を備えていることを特徴とする水槽内の水質を維持するための水処理システム。
【請求項5】
前記画像解析モデルは、前
記水の画像と、前
記水のきれいさを示す数値との複数の組み合わせからなる学習データを用いて、機械学習アルゴリズムに従って構築された学習済みモデルである、請求項
4に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記撮像装置は、前記水槽に隣接して配置されており、前記水槽内の水の画像を生成するように配置されている、請求項
4または
5に記載の水処理システム。
【請求項7】
前記浄化装置は、砂ろ過装置を備えている、請求項
4乃至
6のいずれか一項に記載の水処理システム。
【請求項8】
前記浄化装置は、凝集剤注入装置、浮上ろ過装置、繊維ろ過装置、膜ろ過装置、泡沫分離処理装置、オゾン処理装置、UV処理装置、接触酸化処理装置のうちの少なくとも1つをさらに備えている、請求項
7に記載の水処理システム。
【請求項9】
生物飼育用の水槽から抜き出した水を
浄化装置により浄化し、
前記水槽内の壁面に配置されたターゲットおよび前記水槽内の水の画像を生成し、
前記ターゲットおよび前記水の画像のデータを、機械学習アルゴリズムにより構築された画像解析モデルに入力し、前記水のきれいさの判定結果を前記画像解析モデルから出力し、
前記判定結果に基づいて前記浄化装置の動作を制御することを特徴とする水処理方法。
【請求項10】
前記画像解析モデルは、前
記水の画像と、前
記水のきれいさを示す数値との複数の組み合わせからなる学習データを用いて、機械学習アルゴリズムに従って構築された学習済みモデルである、請求項
9に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽内の水のきれいさを判定する判定システムに関し、特に、餌を定期的に投入して魚類、海獣類等の水生生物を飼育するための展示用の水槽内の水質を判定する判定システムに関する。また、本発明は、そのような水槽内の水質を維持するための水処理システムおよび水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鑑賞用に飼育される魚類、海獣類等の水生生物には、定期的に給餌がなされている。そのため、水生生物の飼育に使用される水槽内の水は、残餌や飼育生物の排泄物などによって濁る。濁りが生じた水槽水を浄化するために、水槽の水を抜き出して、砂ろ過で処理し、処理した水を水槽に戻す循環方法が一般に採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、水槽の水を微生物付着媒体あるいは粒状ろ材を用いて、循環濾過すると共に循環濾過工程の逆洗排水を膜分離工程で分離し、分離水を再利用する水の濾過方法が開示されている。
【0004】
養殖や水族館のようなアンモニア態窒素が含まれる海水を、膜ろ過を用いて浄化する方法も知られている。例えば、特許文献2には、膜ろ過を利用した水中生物の飼育水の製造装置の例が開示されている。特許文献3には、被処理水を膜モジュールに循環させてろ過処理する膜ろ過廃水処理装置の例が開示されている。
【0005】
特許文献4には、水棲生物を飼育するための飼育水槽の飼育水を処理するための水処理システムにおいて、脱窒菌による生物的反応と電気化学的反応を組み合わせて脱窒反応を行わせる脱窒槽を設け、脱窒槽に隔膜を設けることによって脱窒槽を陰極室と陽極室とに区分けし、陰極室と陽極室との各々に飼育水を通水し、飼育水槽と脱窒槽との間で飼育水を循環するようにした水処理システムの例が開示されている。
【0006】
特許文献5には、飼育水をろ過工程を通じて循環する方法において、砂層の上に生物付着単体層を配置した複数ろ過層を用いて飼育水をろ過することが開示されている。
特許文献6には、膜ろ過運転中に原水の水質を測定して、膜面への汚濁負荷を演算し、その汚濁負荷をパラメータとして逆洗工程に移行する膜ろ過装置の運転制御方法の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2520805号公報
【文献】特開2015-181973号公報
【文献】特開2000-61466号公報
【文献】特開2003-18938号公報
【文献】特許第6216174号公報
【文献】特開2008-229583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水族館などに設置されている展示用の水槽は、人が見てきれいと感じるような水を貯留していることが求められている。水槽内の水のきれいさを判定する要素として、濁度や色度がある。しかしながら、それらの数値が極めて低い場合には、測定装置の検出限界以下となり定量化が難しい場合があった。また、水槽の奥行きが長い場合には、低い濁度でも水が濁って見える場合がある。
【0009】
実際に水槽内の水が濁った場合は、過去の知見に基づきベテランの運転員が水処理装置の運転条件を決定し、水槽内のきれいさを目視で確認しながら、運転条件の変更を行っている。しかし、これは運転員の経験と技量に依るところが大きく、運転員による判断にばらつきがあり、水槽内のきれいさが安定しない場合があった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、水槽内の水のきれいさ、すなわち水槽内の水質を正しく判定することができる判定システムを提供することにある。また、本発明は、水槽内の水質(きれいさ)を維持することができる水処理システムおよび水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様では、生物飼育用の水槽内の水のきれいさを判定する判定システムであって、前記水槽を含む水循環経路内の水の画像を生成する撮像装置と、前記水の画像のデータを、機械学習アルゴリズムにより構築された画像解析モデルに入力し、前記水のきれいさの判定結果を出力する水質判定装置を備えている、判定システムが提供される。
【0012】
一態様では、前記画像解析モデルは、前記水循環経路内の水の画像と、前記水循環経路内の水のきれいさを示す数値との複数の組み合わせからなる学習データを用いて、機械学習アルゴリズムに従って構築された学習済みモデルである。
一態様では、前記撮像装置は、前記水槽に隣接して配置されており、前記水槽内の水の画像を生成するように配置されている。
【0013】
一態様では、生物飼育用の水槽と、前記水槽から抜き出した水を浄化する浄化装置と、前記水槽と前記浄化装置とを接続する循環ラインと、前記水槽、前記浄化装置、および前記循環ラインを含む水循環経路内の水の画像を生成する撮像装置と、前記水の画像のデータを、機械学習アルゴリズムにより構築された画像解析モデルに入力し、前記水のきれいさの判定結果を出力する水質判定装置と、前記判定結果に基づいて前記浄化装置の動作を制御する運転制御部を備えている、水処理システムが提供される。
【0014】
一態様では、前記画像解析モデルは、前記水循環経路内の水の画像と、前記水循環経路内の水のきれいさを示す数値との複数の組み合わせからなる学習データを用いて、機械学習アルゴリズムに従って構築された学習済みモデルである。
一態様では、前記撮像装置は、前記水槽に隣接して配置されており、前記水槽内の水の画像を生成するように配置されている。
一態様では、前記浄化装置は、砂ろ過装置を備えている。
一態様では、前記浄化装置は、凝集剤注入装置、浮上ろ過装置、繊維ろ過装置、膜ろ過装置、泡沫分離処理装置、オゾン処理装置、UV処理装置、接触酸化処理装置のうちの少なくとも1つをさらに備えている。
【0015】
一態様では、生物飼育用の水槽、前記水槽から抜き出した水を浄化する浄化装置、および前記水槽と前記浄化装置とを接続する循環ラインを含む水循環経路内の水の画像を生成し、前記水の画像のデータを、機械学習アルゴリズムにより構築された画像解析モデルに入力し、前記水のきれいさの判定結果を前記画像解析モデルから出力し、前記判定結果に基づいて前記浄化装置の動作を制御する、水処理方法が提供される。
一態様では、前記画像解析モデルは、前記水循環経路内の水の画像と、前記水循環経路内の水のきれいさを示す数値との複数の組み合わせからなる学習データを用いて、機械学習アルゴリズムに従って構築された学習済みモデルである。
【発明の効果】
【0016】
ディープラーニング等の機械学習アルゴリズムにより、水質判定装置は、水のきれいさの状態を学習し、ベテランの運転員と同等、あるいは同等以上の水のきれいさの判定が可能な画像解析モデルを構築することで、水槽内の水質、具体的には水のきれいさの判定を、適切およびリアルタイムに行うことができる。また、本発明によれば、実際に水質変動が水槽内で起こった場合においても、水処理システムは、水の画像に基づいて、水のきれいさを適切に判定でき、適切な水処理が可能となり、水槽内のきれいさを安定的に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】水処理システムの一実施形態を示す図である。
【
図3】水処理システムの他の実施形態を示す図である。
【
図4】水処理システムのさらに他の実施形態を示す図である。
【
図6】水処理システムのさらに他の実施形態を示す図である。
【
図7】水質判定装置の構成の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る水のきれいさを判定する判定システム、およびその判定結果を活用した水処理システムの最適化運転について説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
水のきれいさとは、人が水を目視したときに水がきれいであると感じる程度を表す心理的な評価であり、主として水質に依存する。水質を決定する要素には、濁度[FTUまたはNTU、度]、透明度[m]、透視度[cm]、微粒子量、色度、色彩(XYZ表色系で表現する色度)などが挙げられる。しかしながら、これらの要素の数値に基づいて水がきれいか否かを一意に決定することは難しい。例えば、濁度が低いと、一般に、人は水をきれいと感じるが、濁度が同じであっても、人は、青色の水を、黄色い水よりもきれいと感じる傾向がある。このように、水のきれいさは、観察者の感覚に依存して変わりうる。
【0020】
水の濁度、微粒子量、色度、色彩などを測定する装置は存在する。これらの測定装置から得られた測定値と「きれいさ」との認知関係性、それぞれの測定値の影響度等に基づいて、多変量解析などの手法を用いて「きれいさ」を判定することもできるが、本発明では水の画像に基づいて水のきれいさを判断することに特徴がある。
【0021】
以下に説明する実施形態は、人によって変わりうる水のきれいさの判断のばらつきをなくし、かつ人の感覚に基づいて構築された学習済みモデルを用いて水のきれいさを判定する判定システムを提供する。特に、以下に説明する判定システムは、熟練した観察者と同等、あるいは同等以上の水のきれいさの判定が可能である。
【0022】
まず、水処理システムの構成の一実施形態について記載する。本実施形態に係る水処理システムは、淡水又は海水などの自然水からなる水を収容し、各種水生生物、特に魚類や海獣類を鑑賞用に飼育するための水族館等に設置可能な水槽の循環浄化システム(生命維持システム:Life Support System)である。本実施形態に係る水処理システムは、水槽から抜き出した水を浄化した後に水槽に戻す白濁浄化処理装置に好適に利用することができる。
【0023】
図1に示すように、水処理システムは、水を貯留する水槽1と、水槽1から抜き出した水を浄化する浄化装置3と、水槽1と浄化装置3との間での水の循環の可能とする循環ライン7と、水槽1を少なくとも含む水循環経路内の水のきれいさを判定する判定システム11と、水のきれいさの判定結果に基づいて浄化装置3の動作を制御する運転制御部20とを備えている。
【0024】
循環ライン7の一端は、水槽1の側壁または底部に接続され、循環ライン7の他端は水槽1の側壁または上部に接続されている。水は、循環ライン7を通って水槽1と浄化装置3との間を循環する。本実施形態においては、水循環経路は、水槽1と、浄化装置3と、循環ライン7を含んでいる。すなわち、水は、水槽1と、浄化装置3と、循環ライン7を通って循環する。水のきれいさを判定する判定システム11は、水循環経路内の水の画像を生成する撮像装置12と、水の画像に基づいて水循環経路内の水のきれいさを判定する水質判定装置13を備えている。
【0025】
水槽1としては特に限定されるものではないが、水族館の展示水槽、養殖用水槽、活魚水槽等の種々の形状及び大きさの水槽が使用できる。特に、高い澄明性が要求される水を貯留する展示用の水槽が好適に使用できる。
【0026】
水槽1内には、魚介類、甲殻類、海水ほ乳類、水生植物、海草等を含む水生生物を収容することができる。水槽1の容量は特に限定されるものではないが、数m3~数万m3程度の容量の水槽1を用いることができる。例えば、容量が1m3以上、更には1000m3以上、更には5000m3以上の容量を持つ水槽1を用いることができる。
【0027】
浄化装置3は、砂ろ過装置4と、水槽1と砂ろ過装置4との間に配置された循環ポンプ6を備えている。循環ポンプ6および砂ろ過装置4は、循環ライン7に接続されている。循環ポンプ6が作動すると、水は循環ライン7を通って水槽1と砂ろ過装置4との間を循環する。より具体的には、循環ポンプ6が作動すると、水槽1内の水は循環ライン7および循環ポンプ6を通って砂ろ過装置4に送られ、砂ろ過装置4を通過することによって浄化され、浄化された水は循環ライン7を通って水槽1に戻される。
【0028】
浄化装置3に送られる水には、水槽1内の水生生物が排泄する尿素、残餌が分解されて発生したアンモニア等が含まれている。浄化装置3は、このような水を浄化処理するための装置である。
【0029】
本実施形態では、浄化装置3は砂ろ過装置4を備えているが、浄化装置3の具体的構成は特に限定されない。図示しないが、一実施形態では、浄化装置3は、水槽1から砂ろ過装置4に送られる水に凝集剤を注入する凝集剤注入装置をさらに備えてもよい。凝集剤の例としては、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、通常のPACよりも塩基度が高い高塩基度ポリ塩化アルミニウムが挙げられる。
【0030】
浄化装置3は、砂ろ過装置4に加えて、または代えて、浮上ろ過装置、繊維ろ過装置、膜ろ過装置などの種々のろ過装置、泡沫分離処理装置、オゾン処理装置、UV処理装置、接触酸化処理装置のうちの少なくとも1つを備えてもよい。特許文献5に記載されるような、砂を充填した砂層と、砂層の上部に堆積され、表面又は内部に微生物担体を付着させた微生物付着担体層の複数ろ過層からなる処理装置を本実施形態の浄化装置3として使用してもよい。
【0031】
微生物の付着していないろ材のみによる物理ろ過による処理装置も、本実施形態の浄化装置3に含むことができる。例えば、浄化装置3は、砂ろ過装置4に加えて、または代えて、浮上ろ過装置、繊維ろ過装置、膜ろ過装置などの種々のろ過装置を備えてもよい。浮上ろ過装置は、ろ材が配置された容器内に被処理水を上向流に通水し、ろ材を浮上させてろ過する装置である。ろ材の種類は、特に制限なく、種々の素材、サイズ、形状のものが使用できる。例えば、ろ材としては、アンスラサイト、ウレタンフォーム、活性炭、ポリスチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。繊維ろ過装置は、繊維ろ材を用いたろ過装置である。
【0032】
浄化装置3は、砂ろ過装置4に加えて、または代えて、泡沫分離処理装置、オゾン処理装置、UV処理装置、接触酸化処理装置のうちの少なくとも1つを備えてもよい。泡沫分離処理装置は、気泡を発生させて、水に含まれる異物を気泡に吸着させることで水を浄化する装置である。オゾン処理およびUV処理は、有機物の酸化分解及び微生物や細菌、ウイルスの殺菌処理等を主たる目的として行われる。オゾン処理装置は、例えば、水にオゾン含有気体を吹き込むことにより水を処理する装置である。オゾンを被処理水に含ませる方法には、公知の方法が適用できる。UV処理装置は、被処理水に380nm以下の光を照射することで水を処理する装置である。UV処理装置に使用される光源は、特に制限されない。例えば、光源の例として、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、LEDなどが挙げられる。
【0033】
接触酸化処理装置は、石などの媒体や紐状繊維、各種プラスチックろ材に担持された微生物が水中の有機物を処理する装置である。微生物付着媒体は、好気的状態でも嫌気的状態でもよいが、少なくとも好気的に維持された充填層に保持されることが好ましい。好気、嫌気の各条件を維持する方法には、公知の方法が適用できる。
【0034】
好気条件を維持する方法としては、被処理水に酸素を吹き込むことにより酸素を被処理水に含ませ、その水をろ過層に通す方法や、直接酸素をろ過層に供給する方法等が挙げられる。被処理水に酸素を含ませてろ過層に通す場合には、水槽1内の水を一旦、曝気槽に移送して曝気槽内で酸素を水中に溶解させる方法や、ろ過設備の前段に泡沫分離処理装置を設置する方法等が挙げられる。直接酸素をろ過層に供給する場合には、散気装置により直接ろ過層下部から酸素を供給する方法等が挙げられる。
【0035】
次に、撮像装置12、水質判定装置13、および運転制御部20について記載する。撮像装置12は、水槽1、浄化装置3、および循環ライン7を含む水循環経路内の水の静止画像または連続画像を生成することができるイメージセンサ(例えばCCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ)を備えたデジタルカメラである。デジタルカメラの仕様としては、常に焦点距離を一定とさせるため、マニュアルフォーカス機能を備えたものが望ましく、画素数は500万画素以上、望ましくは1,000万画素以上のものが好適である。
【0036】
本実施形態においては、撮像装置12は、水槽1の側壁に隣接して配置されており、水槽1の内部を向いている。より具体的には、
図1に示すように、撮像装置12は、水槽1の側壁の透明窓1aを通して水槽1内の水の画像を生成するように配置されている。水槽1の内部には、水槽1内の水のきれいさの判定を容易にするために、ターゲット15が配置されている。ターゲット15は、物体でもよく、あるいは水槽1の壁面に描かれた模様であってもよい。撮像装置12は、ターゲット15を向いて配置されている。
【0037】
図2は、
図1に示す撮像装置12によって生成された画像の一例を示す模式図である。本実施形態においては、撮像装置12は、ターゲット15が画像上に現れるように配置される。一実施形態では、撮像装置12は、水槽1の上方から水槽1内の水の画像を生成するように配置されてもよい。さらに、一実施形態では、撮像装置12は、水槽1に流入する水、または水槽1から流出した水の画像を生成するように配置されてもよい。具体的には、
図3に示すように、撮像装置12は、浄化装置3から水槽1に延びる循環ライン7の部分を流れる水の画像を撮像するように配置されていてもよいし、または、
図4に示すように、水槽1から浄化装置3に延びる循環ライン7の部分を流れる水の画像を撮像するように配置されていてもよい。
【0038】
撮像装置12によって生成された画像は、水質判定装置13に送られる。撮像装置12は、通信ネットワーク、有線通信、無線通信などの信号伝送装置によって水質判定装置13に接続されている。水質判定装置13は、水のきれいさを画像から判定する画像解析モデルが格納された記憶装置110と、画像解析モデルの演算アルゴリズムに従って演算を実行する演算装置120を備えている。水質判定装置13は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。
【0039】
画像解析モデルは、ニューラルネットワークから構成されている。記憶装置110には、画像解析モデルを機械学習アルゴリズムに従って構築するためのプログラムがさらに格納されている。演算装置120は、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行することによって画像解析モデルを構築するように構成されている。機械学習アルゴリズムに従って画像解析モデルを構築することは、画像解析モデルを構成するニューラルネットワークの重みなどのパラメータを最適化する工程を含む。
【0040】
機械学習アルゴリズムの例としては、SVR法(サポートベクター回帰法)、PLS法(部分最小二乗法:Partial Least Squares)、ディープラーニング法(深層学習法)、ランダムフォレスト法、または決定木法などが挙げられるが、特にディープラーニング法が好適である。ディープラーニング法は、隠れ層が多層化されたニューラルネットワークをベースとする学習法である。本明細書では、入力層と、二層以上の隠れ層と、出力層で構成されるニューラルネットワークを用いた機械学習をディープラーニングと称する。ディープラーニング法を用いることで、これまで人の目と経験を基に判定していた水のきれいさを、水の画像に基づいてコンピュータにより判定が可能となる。
【0041】
画像解析モデルは、水の画像と、その水のきれいさを示す数値との複数の組み合わせからなる学習データ(訓練データまたは教師データともいう)を用いて構築された、学習済みモデルである。学習データを構成する水の画像は、撮像装置12によって生成される。学習データを構成する、水のきれいさを示す数値は、正解データであり、熟練した人が水槽1内の水を見てその水のきれいさを3段階評価で表した数値である。本実施形態では、水のきれいさを示す数値は、1:きれい、2:ふつう、3:改善必要の3段階評価で与えられる。ただし、本発明は、3段階評価に限らず、例えば、2段階評価、または4段階評価またはそれ以上の段階評価であってもよい。
【0042】
画像解析モデルのパラメータ(重みなど)を最適化するために、水の画像と、その水のきれいさを示す数値との多数の組み合わせからなる学習データが用意される。水質判定装置13は、この学習データを用いて機械学習アルゴリズムにより画像解析モデルを構築する。画像解析モデルのパラメータには、重みの他に、バイアスが含まれることがある。このようにして構築された学習済みモデルである画像解析モデルは、記憶装置110内に格納される。
【0043】
水質判定装置13は、画像のデータを所定の周期で撮像装置12から取得し、記憶装置110内に記憶する。水質判定装置13は、画像のデータを画像解析モデルに入力し、水のきれいさを示す数値、すなわち判定結果を画像解析モデルから出力する。
【0044】
図5は、画像解析モデルの一例を示す模式図である。画像解析モデルは、入力層101と、複数の隠れ層(中間層ともいう)102と、出力層103を有したニューラルネットワークである。
図5に示す画像解析モデルは、4つの隠れ層102を有しているが、画像解析モデルの構成は
図5に示す実施形態に限られない。画像解析モデルは、5つ以上の隠れ層102を有してもよい。
【0045】
画像解析モデルの入力層101には水の画像のデータが入力される。より具体的には、画像のデータを構成する各ピクセルの数値が入力層101に入力される。画像はカラー画像であるので、各ピクセルの赤色、緑色、青色を表す数値が凝集剤判定モデルの入力層101の対応するノード(ニューロン)に入力される。
【0046】
画像解析モデルの出力層103は、水のきれいさを表す数値を出力する。例えば、水のきれいさを示す数値が、1:きれい、2:ふつう、3:改善必要の3段階評価で与えられている場合は、画像解析モデルの出力層103は、1から3までのいずれかの数値を出力する。ただし、
図5に示す画像解析モデルの構成は一例であって、本発明は、
図5に示す例に限定されない。
【0047】
上記のように構築された画像解析モデルに、水の画像データを入力すると、コンピュータから構成された水質判定装置13は、ニューラルネットワークを構成する多層パーセプトロンのアルゴリズムに従って演算を実行し、画像解析モデルは、水のきれいさの判定結果を表す数値を出力する。
【0048】
画像解析モデルから出力された数値(1~3のうちのいずれか)は、水質判定装置13から運転制御部20に送られる。運転制御部20は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。運転制御部20は、通信ネットワーク、有線通信、無線通信などの信号伝送装置によって水質判定装置13に接続されている。運転制御部20は、水質判定装置13から送られた水のきれいさの判定結果、すなわち水のきれいさを示す数値に基づいて浄化装置3の運転を制御する。例えば、水のきれいさを示す数値が1:「きれい」であれば、運転制御部20は、現状の浄化装置3の運転条件を維持するか、或いは、省エネを図るために、循環ポンプ6の回転速度を低下させてもよい。水のきれいさを示す数値が2:「ふつう」であれば、運転制御部20は、浄化装置3の現状の運転条件を維持する。
【0049】
水のきれいさを示す数値が3:「改善必要」であれば、運転制御部20は、循環ポンプ6の回転速度を増加させ、浄化装置3に移送される水の流量を増加させる。浄化装置3が凝集剤注入装置を備えている場合は、運転制御部20は、凝集剤注入装置に指令を発して、凝集剤の水への注入率を増加させてもよい。運転制御部20は、循環ポンプ6の回転速度と凝集剤の注入率の両方を増加させてもよい。浄化装置3が、砂ろ過装置4に加えて、オゾン処理装置を備えている場合は、運転制御部20は、オゾン処理装置に指令を発してオゾンの水への注入率を増加させてもよい。運転制御部20は、循環ポンプ6の回転速度とオゾンの注入率の両方を増加させてもよい。
【0050】
このように、水槽1と浄化装置3との間を循環する水のきれいさ(または水質)が、予め設定されたレベルに維持されるように、運転制御部20は、水のきれいさの判定結果に基づいて、浄化装置3の動作を制御する。最適な判定結果は、任意に設定することができる。例えば、数値1を基準に設定してもよいし、または数値2を基準に設定してもよい。
【0051】
撮像装置12は、所定の周期で、例えば1時間毎に水の画像を生成し、画像のデータを水質判定装置13に送る。水質判定装置13は、画像のデータを受け取ると、画像のデータを画像解析モデルに入力し、水のきれいさの判定結果を出力する。判定結果は運転制御部20に送られ、運転制御部20は判定結果に基づいて浄化装置3の動作を制御する。このように、水処理システムは、水のきれいさの判定結果から、浄化装置3の動作を自動的に最適化することが可能となる。
【0052】
図6は、水処理システムのさらに他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、上述した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態の水処理システムは、水循環流路内の水の濁度を測定する濁度測定装置30をさらに備えている。濁度測定装置30は、運転制御部20に電気的に接続されている。濁度測定装置30は、水の濁度を測定し、濁度の測定値を運転制御部20に送信するように構成されている。
【0053】
図6に示す実施形態では、濁度測定装置30は、水槽1から浄化装置3に延びる循環ライン7に接続されており、水槽1から流出した水の濁度を測定するように配置されている。一実施形態では、濁度測定装置30は、水槽1内の水の濁度を測定するために、水槽1内に配置されてもよい。
図3に示す実施形態の場合は、濁度測定装置30は、水槽1に流入する水の濁度を測定するために、浄化装置3から水槽1に延びる循環ライン7に接続されてもよい。
【0054】
図6に示すように、浄化装置3は、砂ろ過装置4に加えて、オゾン処理装置33と、水槽1からの水を砂ろ過装置4またはオゾン処理装置33のいずれかに選択的に導く流路切換弁35をさらに備えている。砂ろ過装置4とオゾン処理装置33は、並列に配列されている。流路切換弁35は、電動モータなどのアクチュエータを備えたアクチュエータ駆動型の自動弁である。流路切換弁35は運転制御部20に電気的に接続されており、流路切換弁35の動作は運転制御部20によって制御される。
【0055】
水のきれいさを決定する要素を、主として濁度と色度と仮定したとき、水質判定装置13によって得られた水のきれいさの判定結果と、濁度測定装置30によって得られた濁度の測定値とから、水の色度を推定することができる。具体的には、運転制御部20は、水のきれいさの判定結果を示す数値から、濁度の測定値を減算することで、水の色度を推定することができる。
【0056】
オゾン処理装置33は、水の色を除去する機能を有する。したがって、水の色度が予め設定されたしきい値よりも高い場合には、運転制御部20は、流路切換弁35を操作して、水槽1からの水をオゾン処理装置33に導く。結果として、水の色が除去される。一方、水の色度が予め設定されたしきい値よりも低い場合は、運転制御部20は、流路切換弁35を操作して、水槽1からの水を砂ろ過装置4に導く。このようにして、水処理システムは、色度の推定値に基づいて、水に対する適切な処理を実行することができる。一実施形態では、浄化装置3は、オゾン処理装置33に代えて、泡沫分離処理装置を備えてもよい。泡沫分離処理装置は、オゾン処理装置33と同様に、水の色を除去する機能を有している。
【0057】
上述した各実施形態における水質判定装置13は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。前記少なくとも1台のコンピュータは、1台のサーバまたは複数台のサーバであってもよい。水質判定装置13は、撮像装置12に通信線で接続されたエッジサーバであってもよいし、インターネットなどのネットワークによって撮像装置12に接続されたクラウドサーバであってもよいし、あるいは撮像装置12に接続されたネットワーク内に設置されたフォグコンピューティングデバイス(ゲートウェイ、フォグサーバ、ルーターなど)であってもよい。水質判定装置13は、インターネットなどのネットワークにより接続された複数のサーバであってもよい。例えば、水質判定装置13は、エッジサーバとクラウドサーバとの組み合わせであってもよい。
【0058】
図7は、水質判定装置13の構成の一実施形態を示す模式図である。水質判定装置13は、プログラム、画像解析モデル、データなどが格納された記憶装置110と、記憶装置110に格納されているプログラムに含まれる命令、および画像解析モデルの演算アルゴリズムに従って演算を行うCPU(中央処理装置)またはGPU(グラフィックプロセッシングユニット)などの演算装置120と、データ、プログラム、および各種情報を記憶装置110に入力するための入力装置130と、処理結果や処理されたデータを出力するための出力装置140と、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークに接続するための通信装置150を備えている。
【0059】
記憶装置110は、演算装置120がアクセス可能な主記憶装置111と、プログラム、画像解析モデル、データを格納する補助記憶装置112を備えている。主記憶装置111は、例えばランダムアクセスメモリ(RAM)であり、補助記憶装置112は、ハードディスクドライブ(HDD)またはソリッドステートドライブ(SSD)などのストレージ装置である。
【0060】
入力装置130は、キーボード、マウスを備えており、さらに、記録媒体からプログラムおよびデータを読み取るための記録媒体読み取り装置132と、記録媒体が接続される記録媒体ポート134を備えている。記録媒体は、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、光ディスク(例えば、CD-ROM、DVD-ROM)や、半導体メモリー(例えば、USBフラッシュドライブ、メモリーカード)である。記録媒体読み取り装置132の例としては、CD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブなどの光学ドライブや、メモリーリーダーが挙げられる。記録媒体ポート134の例としては、USBポートが挙げられる。記録媒体に記憶されているプログラムおよび/またはデータは、入力装置130を介して水質判定装置13に導入され、記憶装置110の補助記憶装置112に格納される。出力装置140は、ディスプレイ装置141、印刷装置142を備えている。
【0061】
機械学習アルゴリズムにより構築された学習済みモデルは記憶装置110に格納されている。この学習済みモデルは、入力層と、複数の隠れ層(中間層ともいう)と、出力層を有したニューラルネットワークである(
図5参照)。水質判定装置13を構成するコンピュータは、記憶装置110に電気的に格納されたプログラムに従って動作する。すなわち、水質判定装置13を構成するコンピュータは、水循環経路内の水(例えば水槽1内の水)の画像のデータを撮像装置12から取得するステップと、画像のデータを、学習済みモデルである画像解析モデルに入力するステップと、ニューラルネットワークを構成する多層パーセプトロンのアルゴリズムに従って演算を実行することによって、画像解析モデルから、水のきれいさの判定結果を表す数値を出力するステップを実行する。さらに、水質判定装置13を構成するコンピュータは、上記画像解析モデルを構築するステップ、および上記画像解析モデルを更新するステップを実行する。
【0062】
上記ステップを水質判定装置13に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して水質判定装置13に提供される。または、プログラムは、インターネットなどの通信ネットワークを介して通信装置150から水質判定装置13に入力されてもよい。
【0063】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0064】
1 水槽
3 浄化装置
4 砂ろ過装置
6 循環ポンプ
7 循環ライン
11 判定システム
12 撮像装置
13 水質判定装置
20 運転制御部
30 濁度測定装置
33 オゾン処理装置
35 流路切換弁
110 記憶装置
120 演算装置