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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】セラミックス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/64 20060101AFI20230828BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
C04B35/64
H05K3/46 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019141056
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021024106
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 龍平
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-239157(JP,A)
【文献】特開2004-342683(JP,A)
【文献】特開平03-271165(JP,A)
【文献】特開2010-159184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/00-11/24
C04B 35/00-35/64
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面とは反対側の第2面とを有するシート材を、切断装置を用いて前記第1面から前記第2面に向けて打ち抜くことでセラミックス基板用の第1~第N(Nは2以上の整数)のグリーンシートを形成する工程と、
前記第1~第Nのグリーンシートを下方からこの順に有する積層体を焼成する工程と、を備え、
前記積層体では、
第1~第n(nはNよりも小さい整数)のグリーンシートが前記第1面を上方に向けた状態で配置されており、
第(n+1)~第Nのグリーンシートが前記第2面を上方に向けた状態で配置されており、
nは、Nの半分の値よりも大きく、
Nに対するnの比は65%以下であり、
Nは、60~100である、セラミックス基板の製造方法。
【請求項2】
前記積層体における前記第1~第Nのグリーンシートのうちの互いに隣り合う少なくとも一対のグリーンシートは、一方のグリーンシートの前記第1面と他方のグリーンシートの前記第1面とが互いに対向するように配置されている、請求項1に記載のセラミックス基板の製造方法。
【請求項3】
前記積層体では、前記第1~第Nのグリーンシートの前記第1面及び前記第2面のいずれか一方に塗布された離型用のスラリーが、互いに隣り合うグリーンシートの間に介在している、請求項1又は2に記載のセラミックス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電鉄、産業用機器、及び発電関係等の分野には、大電流を制御するパワーモジュールが用いられている。パワーモジュールに搭載される回路基板は、絶縁性のセラミックス基板を有する。セラミックス基板の製造方法としては、例えば特許文献1に記載されるような以下の製造方法が知られている。すなわち、セラミックの粉末を焼結助剤等と混合・混練した後に連続シートの形状に押出成形する工程と、当該連続シートを所要形状に打抜加工してグリーンシートを形成する工程と、グリーンシートを焼成する工程とが行われることで、セラミックス基板が製造される。グリーンシートの焼成工程では、10~20枚程度の所要枚数のグリーンシートが積み重ねられた状態でグリーンシートの焼成が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-60469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グリーンシートを焼成する工程において、焼成品(セラミックス基板)に反り等の変形が生じ得る。高品質のセラミックス基板を製造するためには、焼成工程において反りを抑制することが要求される。
【0005】
本開示は、反りを抑制することが可能なセラミックス基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るセラミックス基板の製造方法は、第1面と第1面とは反対側の第2面とを有するシート材を、切断装置を用いて第1面から第2面に向けて打ち抜くことでセラミックス基板用の第1~第N(Nは2以上の整数)のグリーンシートを形成する工程と、第1~第Nのグリーンシートを下方からこの順に有する積層体を焼成する工程と、を備える。上記積層体では、第1~第Nのグリーンシートのうちの少なくとも1つのグリーンシートが第2面を上方に向けた状態で配置されており、第1~第Nのグリーンシートのうちの残りのグリーンシートが第1面を上方に向けた状態で配置されている。
【0007】
上述の製造方法では、積層体を焼成する工程において、積層体内の少なくとも1つのグリーリンシートの上方を向ける表面を、残りのグリーンシートと反対にすることで、焼成後のグリーンシートに生じる反りが抑制される。このため、上記製造方法により、セラミックス基板の反りを抑制することが可能となる。
【0008】
積層体における第1~第Nのグリーンシートのうちの互いに隣り合う少なくとも一対のグリーンシートは、一方のグリーンシートの第1面と他方のグリーンシートの第1面とが互いに対向するように配置されていてもよい。積層体内の少なくとも一対のグリーンシートが上記のように配置されることで、焼成後のグリーンシートに生じる反りが低減される。このため、上記製造方法により、セラミックス基板の反りを低減することが可能となる。
【0009】
上記積層体では、第n~第nのグリーンシートが第1面を上方に向けた状態で配置されていてもよく、第(n+1)~第nのグリーンシートが第2面を上方に向けた状態で配置されていてもよい。n、n及びnは、以下の式(1)を満たす1以上且つN以下の整数である。この場合、セラミックス基板の反りを抑制することが可能となる。
<n<n (1)
【0010】
上記積層体では、第1~第n(nはNよりも小さい整数)のグリーンシートが第1面を上方に向けた状態で配置されていてもよく、第(n+1)~第Nのグリーンシートが第2面を上方に向けた状態で配置されていてもよい。この場合、上方を向く面が異なる2つのブロック体を形成すればよいので、焼成工程を行う際の積層体の形成が容易である。
【0011】
nは、Nの半分の値よりも大きくてもよい。積層体の下部に位置し第1面が上方を向くグリーンシートの枚数を、積層体の上部に位置し第2面が上方を向くグリーンシートの枚数よりも多くすることで、焼成後のグリーンシートに生じる反りを更に低減することができる。
【0012】
上記積層体では、第1~第Nのグリーンシートの第1面及び第2面のいずれか一方に塗布された離型用のスラリーが、互いに隣り合うグリーンシートの間に介在していてもよい。この場合、スラリーを塗布する際に、n個のグリーンシートのいずれか一方の面に連続してスラリーを塗布し、残りのグリーンシートのいずれか一方の面に連続して離型用のスラリーを塗布すればよいので、スラリーの塗布作業が簡略化される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、反りを抑制することが可能なセラミックス基板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、一実施形態に係るセラミックス基板の斜視図である。
図2図2は、セラミックス基板の製造方法を示すフローチャートである。
図3図3(a)は、シート材を打ち抜くための切断装置を示す模式図である。図3(b)は、シート材の打ち抜きを説明するための模式的な側面図である。
図4図4は、焼成工程を説明するための模式図である。
図5図5は、積層体の一例を示す模式図である。
図6図6は、積層体の他の例を示す模式図である。
図7図7は、変形例に係る積層体を示す模式図である。
図8図8は、実施例1及び実施例2の評価結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例3及び比較例の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、説明に使用される上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0016】
図1は、一実施形態に係るセラミックス基板の斜視図である。図1に示されるセラミックス基板1は、セラミックスによって構成される絶縁性の基板である。セラミックス基板1を構成するセラミックスの種類は特に制限されないが、例えば、炭化物、酸化物及び窒化物等が挙げられる。具体的には、炭化ケイ素、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素等が挙げられる。
【0017】
セラミックス基板1は、平板状に形成されており、表面1Aと、表面1Aとは反対側の表面1Bと、を有する。表面1A(表面1B)は、区画線Lによって複数に区画されていてもよい。区画線Lは、例えば、表面1Aに形成された線状の溝であってもよい。セラミックス基板1の表面1A,1Bにおいて、区画ごとに金属層(不図示)が設けられることで複数の回路基板が形成されてもよい。金属層は、例えばアルミニウム又は銅で構成されており、電気回路を形成している。区画線Lに沿ってセラミックス基板1を切断することで、各回路基板に分割されてもよい。
【0018】
続いて、一実施形態に係るセラミックス基板の製造方法として、セラミックス基板1の製造方法を説明する。図2は、セラミックス基板の製造方法を示すフローチャートである。図3(a)は、シート材を打ち抜くための切断装置を示す模式図である。図3(b)は、シート材の打ち抜きを説明するための模式的な側面図である。図4は、焼成工程を説明するための模式図である。
【0019】
セラミックス基板1の製造方法では、まずセラミックスで構成されるシート材を形成する工程(S01)が行われる。工程(S01)では、最初に、粉状のセラミックス、焼成助剤及びバインダーを含む混合物からなる原料スラリーを形成する。例えば、セラミックスとして窒化ケイ素が用いられてもよく、バインダーとして有機成分を含むものが用いられてもよい。そして、原料スラリーをドクターブレード法、カレンダー法、又は押し出し法等によって離型フィルム上に所定の厚みで塗布する。その後、塗布された原料スラリーを乾燥させて離型フィルムから剥がすことによって、シート材10が形成される。工程(S01)にて形成されるシート材10は、複数のセラミックス基板1の母材である。以下では、シート材10の両表面のうち離型フィルムと接触していなかった一方を「表面10A」とし、離型フィルムと接触していた他方を「表面10B」と称する。
【0020】
次に、切断装置20を用いてシート材10を打ち抜く工程(S02)が行われる。工程(S02)では、図3(a)及び図3(b)に示されるように、切断装置20を用いてシート材10を表面10A(第1面)から表面10B(第2面)に向けて打ち抜くことで、シート材10から個片化されたグリーンシート30を形成する。切断装置20は、例えば、グリーンシート30の外縁に対応した形状の切断刃を含む上金型20aと、シート材10を載置可能な下金型20bとを有する打抜き装置である。一例として、図3(b)に示されるように、表面10Bが下金型20bに接触するようにシート材10が下金型20bに載置された状態で、切断刃を含む上金型20aが表面10Aから表面10Bに向かう方向に下金型20bまで移動することで、1つのグリーンシート30がシート材10から打ち抜かれる。工程(S02)では、切断装置20を用いた複数回の打抜き(切断)が繰り返されることで、複数枚のグリーンシート30が形成される。以下では、表面10Aに対応するグリーンシート30の表面を「表面30A」とし、表面10Bに対応するグリーンシート30の表面を「表面30B」と称する。
【0021】
次に、複数のグリーンシート30それぞれのいずれか一方の表面に離型用のスラリーを塗布する工程(S03)が行われる。離型用のスラリーは、複数のグリーンシート30を積層して焼成させる際に、互いに隣り合うグリーンシート30同士が付着することを抑制する機能を有する。一例として、ロールコーターを用いてグリーンシート30のいずれかの表面に離型用のスラリーが塗布されてもよい。離型用のスラリーとして、窒化ホウ素を含む材料が用いられてもよい。
【0022】
次に、複数のグリーンシート30から構成される積層体40を脱脂及び焼成する工程(S04)が行われる。積層体40は、第1~第N(Nは、2以上の整数である。)のグリーンシート30を下方からこの順に有する。つまり、積層体40は、積み重ねられた状態のN個のグリーンシート30を含んでいる。なお、「第1」は、下方から数えて1番目に位置するグリーンシート30であることを表しており、「第N」は、下方から数えてN番目に位置するグリーンシート30であることを表している。Nは、例えば、60~100であってもよい。換言すると、工程(S04)では、60~100枚のグリーンシート30を有する積層体40を脱脂及び燃焼してもよい。積層体40の脱脂工程では、積層体40を脱脂炉に収容して、300℃~700℃程度の温度にて脱脂する。これにより、各グリーンシート30に含まれるバインダーが除去される。そして、積層体40の焼成工程では、図4に示されるように、既に脱脂された積層体40を焼成炉46に収容して、1600℃~2000℃程度の温度にて焼成する。
【0023】
積層体40において、第1~第Nのグリーンシート30は、表面30A及び表面30Bのいずれか一方が上方を向くように、一対のセッター50A,50B間に配置されている。セッター50A,50Bは、セラミックス基板を作成する際に用いられる公知のもの(例えば成形品)であり、例えば、セッター50A,50Bを構成する材料は窒化ホウ素を含んでいてもよい。図4に示されるように、下方に位置するセッター50A上に第1のグリーンシート30が配置されており、第Nのグリーンシート30上にセッター50Bが配置されている。第1~第Nのグリーンシート30は、互いに隣り合うグリーンシート30同士の間に離型用のスラリーが介在した状態でセッター50A,50B間に配置されている。
【0024】
積層体40は、全てのグリーンシート30の表面の向きが一致しないように形成されている。つまり、積層体40では、第1~第Nのグリーンシート30のうちの少なくとも1つのグリーンシート30が表面30Bを上方に向けた状態で配置されており、第1~第Nのグリーンシートのうちの残りのグリーンシート30が表面30Aを上方に向けた状態で配置されている。また、第1~第Nのグリーンシート30のうちの互いに隣り合う少なくとも一対のグリーンシート30は、一方のグリーンシート30の表面30Aと他方のグリーンシート30の表面30Aとが互いに対向するように配置されていてもよい。当該一対のグリーンシート30では、下方に位置するグリーンシート30が表面30Aを上方に向けた状態で配置されており、上方に位置するグリーンシート30が表面30Bを上方に向けた状態で配置されている。この場合、一方のグリーンシート30の表面30Aと他方のグリーンシート30の表面30Aとは、離型用のスラリーを介して互いに対向していてもよい。以下に、これらの配置関係を満たす積層体40を例示する。
【0025】
図5は、積層体の一例を示す模式図である。図5に示される積層体40では、1枚ごとに向きが交互に変更された状態で第1~第Nのグリーンシート30が配置されている。図5に示される積層体40では、mを0以上且つN未満の整数としたときに、第(2m+1)のグリーンシート30が、表面30Aを上方に向けた状態で配置されており、第(2m)のグリーンシート30が、表面30Bを上方に向けた状態で配置されている。第(2m+1)のグリーンシート30は、下方から奇数番目に配置されているグリーンシート30であり、第(2m)のグリーンシート30は、下方から偶数番目に配置されているグリーンシート30である。
【0026】
なお、図5では、理解を容易にするために、焼成後の反りの状態が示されている。焼成工程では、グリーンシート30の周縁部において、工程(S02)での打ち抜き方向に応じて反りが生じ得る。上記の例では、シート材10の表面10Aから表面10Bに向けて切断装置20により打ち抜きが行われるので、焼成後において表面30Aから表面30Bに向かう向きに周縁部が突出するように反りが生じている。図5に示される積層体40を焼成する前の工程(S03)において、第(2m+1)のグリーンシート30では表面30Aに離型用のスラリー36が塗布され、第(2m)のグリーンシート30では表面30Bに離型用のスラリー36が塗布されてもよい。
【0027】
図6は、積層体の別の例を示す模式図である。図6に示される積層体40は、表面30Aを上方に向けた状態で互いに重ねられた複数枚のグリーンシート30から構成されるブロック体と、表面30Bを上方に向けた状態で互いに重ねられた複数枚のグリーンシート30から構成されるブロック体とを有する。図6に示されるように、積層体40では、第1~第n(nは、Nよりも小さい整数である。)のグリーンシート30が表面30Aを上方に向けた状態で配置されており、第(n+1)~第Nのグリーンシート30が表面30Bを上方に向けた状態で配置されている。この場合、第1~第nのグリーンシート30はブロック体Bdを構成しており、第(n+1)~第Nのグリーンシート30はブロック体Buを構成している。
【0028】
nは、Nの半分の値以下であってもよい。つまり、ブロック体Bdのグリーンシート30の枚数が、ブロック体Buのグリーンシート30の枚数と同じであるか、又は少なくてもよい。反り量をより低減する観点から、nは、Nの半分の値よりも大きくてもよい。つまり、ブロック体Bdのグリーンシート30の枚数が、ブロック体Buのグリーンシート30の枚数よりも多くてもよい。一例として、全体のグリーンシート30の枚数に対するブロック体Bdのグリーンシート30の枚数の比(以下、「枚数比」という。)が、51%~65%であってもよい。あるいは、枚数比が55%~60%であってもよい。
【0029】
図6に示される積層体40を焼成する前の工程(S03)において、ブロック体Bdを構成するグリーンシート30では表面30Aに離型用のスラリー36が塗布され、ブロック体Buを構成するグリーンシート30では表面30Bに離型用のスラリー36が塗布されてもよい。なお、ブロック体Bdを構成するグリーンシート30において表面30Bに離型用のスラリー36が塗布され、ブロック体Buを構成するグリーンシート30において表面30Aに離型用のスラリー36が塗布されてもよい。あるいは、ブロック体Bd,Buを構成するグリーンシート30の双方において、表面30A及び表面30Bのいずれか一方に離型用のスラリー36が塗布されてもよい。
【0030】
次に、グリーンシート30に塗布されている離型用のスラリー36を除去する工程(S05)が行われる。工程(S05)では、例えば、積層体40から1枚ずつグリーンシート30を分離した後に、当該グリーンシート30を洗浄することにより離型用のスラリー36を除去してもよい。
【0031】
次に、離型用のスラリー36が除去されたグリーンシート30の表面に区画線Lを形成する工程(S06)が行われてもよい。工程(S06)では、例えばレーザを用いてグリーンシート30の少なくとも一方の表面を加工することで区画線Lを形成する。以上により、図1に示されるセラミックス基板1が製造される。グリーンシート30の表面30Aはセラミックス基板1の表面1Aに対応しており、グリーンシート30の表面30Bはセラミックス基板1の表面1Bに対応している。
【0032】
以上説明したように、一実施形態に係るセラミックス基板1の製造方法は、表面10Aと表面10Aとは反対側の表面10Bとを有するシート材10を、切断装置20を用いて表面10Aから表面10Bに向けて打ち抜くことでセラミックス基板1用の第1~第Nのグリーンシート30を形成する工程と、第1~第Nのグリーンシート30を下方からこの順に有する積層体40を焼成する工程と、を備える。この積層体40では、第1~第Nのグリーンシート30のうちの少なくとも1つのグリーンシート30が表面30Bを上方に向けた状態で配置されており、第1~第Nのグリーンシート30のうちの残りのグリーンシート30が表面30Aを上方に向けた状態で配置されている。
【0033】
積層体40を焼成する工程(S04)において、積層体40内の少なくとも1つのグリーンシート30の上方を向ける表面を、残りの積層体40と反対にすることで、焼成後のグリーンシート30に生じる反りが抑制される。積層体40内の一部のグリーンシート30の向きを変えることで、焼成工程での反応が反りを低減するように作用するため、反りが抑制されると考えられる。上記製造方法により、セラミックス基板1の反りを抑制することが可能となる。
【0034】
積層体40における第1~第Nのグリーンシート30のうちの互いに隣り合う少なくとも一対のグリーンシート30は、一方のグリーンシート30の表面30Aと他方のグリーンシート30の表面30Aとが互いに対向するように配置されていてもよい。積層体40内の少なくとも一対のグリーンシート30が上記のように配置されることで、焼成後のグリーンシート30に生じる反りが低減される。このため、上記製造方法により、セラミックス基板1の反りを低減することが可能となる。
【0035】
積層体40では、第1~第nのグリーンシート30が表面30Aを上方に向けた状態で配置されていてもよく、第(n+1)~第Nのグリーンシート30が表面30Bを上方に向けた状態で配置されていてもよい。この場合、上方を向く面が異なる2つのブロック体を形成すればよいので、焼成工程を行う際の積層体40の形成が容易である。
【0036】
nは、Nの半分の値よりも大きくてもよい。積層体40の下部に位置し表面30Aが上方を向くグリーンシート30の枚数を、積層体40の上部に位置し表面30Bが上方を向くグリーンシート30の枚数よりも多くすることで、焼成後のグリーンシート30に生じる反りを更に低減することができる。
【0037】
積層体40では、第1~第Nのグリーンシート30の表面30A及び表面30Bのいずれか一方に塗布された離型用のスラリーが、互いに隣り合うグリーンシート30の間に介在していてもよい。この場合、離型用のスラリーを塗布する際に、第1~第nのグリーンシート30の表面30A,30Bの一方に連続して離型用のスラリーを塗布し、残りのグリーンシート30の表面30A,30Bの一方に連続して離型用のスラリーを塗布すればよいので、当該スラリーの塗布作業が簡略化される。
【0038】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、セラミックス基板1(グリーンシート30)は、直方体形状以外の形状を有していてもよい。セラミックス基板1(グリーンシート30)の角において面取りが施されていてもよい。また、セラミックス基板1に区画線Lが形成されていなくてもよい。この場合、1枚のグリーンシート30から1つのセラミックス基板1が形成されてもよい。
【0039】
図7は、変形例に係る積層体を示す模式図である。上記では図6を用いて2つのブロック体Bd,Buからなる積層体の場合について説明したが、積層体40は、2つのブロック体Bd,Buに加えて1枚又は複数枚の別のグリーンシート30を有してもよい。すなわち、積層体40において、第n~第nのグリーンシート30が表面30Aを上方に向けた状態で配置され、第(n+1)~第nのグリーンシート30が表面30Bを上方に向けた状態で配置されていてもよい。n、n及びnは、以下の式(1)を満たす1以上且つN以下の整数である。
<n<n (1)
【0040】
一例として、nが1であり、nがNよりも小さくてもよい。この場合、図7に示されるように、2つのブロック体Bd,Buの上方に、1枚以上の別のグリーンシート30が配置されている。第(n+1)~第Nのグリーンシート30(以下、「上部積層体UL」という。)それぞれでは、いずれの表面が上方を向いていてもよい。例えば、上部積層体ULは、図7に示されるように、全てのグリーンシート30が同じ方向を向いて配置されている(表面30Aが上方を向いて積層されている)ブロック体であってもよい。上部積層体ULでは、表面30Aが上方を向くグリーンシート30と表面30Bが上方を向くグリーンシート30とが、互いに交互に積層されていてもよい。また、上部積層体ULに含まれる一部が、同じ方向を向く複数のグリーンシート30で構成されるブロック体であってもよい。積層体40に複数のブロック体Bdと複数のブロック体Buが含まれてもよい。この場合、一のブロック体Bu(ブロック体Bd)のグリーンシート30の枚数と、他のブロック体Bu(ブロック体Bd)のグリーンシート30の枚数とが互いに異なっていてもよい。
【0041】
上記の例とは異なり、nが1よりも大きく、nがNであってもよい。すなわち、積層体40において、2つのブロック体Bd,Buの下方に1枚以上の別のグリーンシート30が配置されていてもよい。あるいは、nが1よりも大きく、nがNよりも小さくてもよい。すなわち、積層体40において、2つのブロック体Bd,Buの上方及び下方それぞれに1枚以上の別のグリーンシート30が配置されていてもよい。積層体40が、2つのブロック体Bd,Buに加えて1枚又は複数枚の別のグリーンシート30を有する場合であっても、セラミックス基板1の反りを抑制することが可能となる。
【0042】
別の変形例では、図6又は図7に示される積層体40において、2つのブロック体Bd,Buを構成するグリーンシート30の合計の枚数が、積層体40全体のグリーンシート30の枚数の60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であってもよい。さらに別の変形例では、積層体40内のいずれか1つのブロック体を構成するグリーンシート30の枚数が、積層体40全体の60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であってもよい。この場合においても、セラミックス基板1の反りを抑制することが可能となる。
【実施例
【0043】
(実施例1)
窒化ケイ素粉末と焼結助剤(酸化マグネシウム粉末、酸化イットリウム粉末及び二酸化ケイ素粉末)を含む原料粉末を一軸加圧成形して成形体(シート材10)を作製した。このシート材10を、切断装置20を用いて表面10Aから表面10Bに向けて打ち抜いて、70枚のグリーンシート30を形成した。図5に示されるように、下方から奇数番目に位置するグリーンシート30が表面30Aを上方に向けて配置され、下方から偶数番目に位置するグリーンシート30が表面30Bを上方に向けて配置された状態の積層体40を形成した。積層体40を形成する前に、奇数番目のグリーンシート30では、表面30Aに離型用のスラリーを塗布し、偶数番目のグリーンシート30では、表面30Bに離型用のスラリーを塗布した。当該積層体40を一対のセッター50A,50Bで挟み、脱脂炉及び焼成炉を用いて脱脂及び焼成した。そして70枚のグリーンシート30それぞれにおいて離型用のスラリーを除去した。
【0044】
焼成工程において70枚のグリーンシート30に生じた反りを評価するために、所定の評価基準を用いた。具体的には、スリットゲージを利用して70枚のグリーンシート30のうちの評価基準を上回る枚数及び下回る枚数をカウントした。評価基準の値は、高品質のセラミックス基板1に要求される反り量に応じて150μmに設定した。評価結果は、図8に示すとおりであった。なお、図8では縦軸が下方からの積層枚数を示している。評価基準を上回る(満たす)基準内のグリーンシート30と、評価基準を下回る基準外のグリーンシート30とが、互いに異なるパターンで示されている。実施例1では、評価基準を満たすグリーンシート30の枚数が全体の49%であった。
【0045】
(実施例2)
実施例1と同様に70枚のグリーンシート30を形成した。第1~第35のグリーンシート30が表面30Aを上方に向けて配置され、第36~第70のグリーンシート30が表面30Bを上方に向けて配置された状態の積層体40を形成した。積層体40を形成する前に、第1~第35のグリーンシート30では、表面30Aに離型用のスラリーを塗布し、第36~第70のグリーンシート30では、表面30Bに離型用のスラリーを塗布した。実施例1と同様に、当該積層体40を脱脂及び焼成した後に、離型用のスラリーを除去した。
【0046】
実施例1と同じ評価基準を用いて、70枚のグリーンシート30に生じた反りを評価した。評価結果は、図8に示すとおりであった。実施例2では、評価基準を満たすグリーンシート30の枚数が全体の72%であった。
【0047】
(実施例3)
実施例1と同様に70枚のグリーンシート30を形成した。第1~第40のグリーンシート30が表面30Aを上方に向けて配置され、第41~第70のグリーンシート30が表面30Bを上方に向けて配置された状態の積層体40を形成した。積層体40を形成する前に、第1~第40のグリーンシート30では、表面30Aに離型用のスラリーを塗布し、第41~第70のグリーンシート30でも、表面30Aに離型用のスラリーを塗布した。実施例1と同様に、当該積層体40を脱脂及び焼成した後に、離型用のスラリーを除去した。
【0048】
実施例1と同じ評価基準を用いて、焼成工程において70枚のグリーンシート30に生じる反りを評価した。評価結果は、図9に示すとおりであった。図9では、横軸が下方からの積層枚数を示しており、縦軸がグリーンシート30の表面における高低差(μm)を示している。また、150μmに設定された評価基準Sが示されている。上記高低差は、グリーンシート30の表面30Bにおける最も低い位置と最も高い位置との差である。70枚のグリーンシート30において、最下層(第1)のグリーンシート30と、kを1以上の整数とした場合に第(10×k)のグリーンシート30とにおける高低差をそれぞれ測定し、測定値間は近似曲線で補間した。実施例3では、評価基準を満たすグリーンシート30の枚数が全体の100%であった。
【0049】
(比較例)
実施例1と同様に70枚のグリーンシート30を形成した。第1~第70(全て)のグリーンシート30が表面30Aを上方に向けて配置された状態の積層体40を形成した。積層体40を形成する前に、第1~第70のグリーンシート30では表面30Aに離型用のスラリーを塗布した。実施例1と同様に、当該積層体40を脱脂及び焼成した後に、離型用のスラリーを除去した。
【0050】
実施例3と同じ評価基準及び評価方法を用いて、70枚のグリーンシート30に生じた反りを評価した。この場合、評価基準を満たすグリーンシート30の枚数が全体の35%であった。
【0051】
実施例1~3における積層体40では、第1~第70のグリーンシート30のうちの少なくとも1つのグリーンシート30が表面30Bを上方に向けた状態で配置されており、第1~第70のグリーンシートのうちの残りのグリーンシート30が表面30Aを上方に向けた状態で配置されている。実施例1~3の評価結果では、比較例に比べて評価基準を満たすグリーンシート30の割合が大きい。すなわち、積層体40における上記配置により、グリーンシート30(セラミックス基板1)の反りが抑制されていることが確認された。
【0052】
実施例1~3における積層体40において、第1~第70のグリーンシート30のうちの互いに隣り合う少なくとも一対のグリーンシート30は、一方のグリーンシート30の表面30Aと他方のグリーンシート30の表面30Aとが互いに対向するように配置されている。この配置により、グリーンシート30(セラミックス基板1)の反りが抑制されていることが確認された。
【0053】
実施例2,3における積層体40は、表面30Aが上方を向くブロック体Bdと、表面30Bが上方を向くブロック体Buとを有している。実施例2,3の評価結果では、実施例1に比べて評価基準を満たすグリーンシート30の割合が大きい。すなわち、上記配置により、グリーンシート30(セラミックス基板1)の反りがより一層抑制されていることが確認された。
【0054】
実施例3における積層体40では、ブロック体Bdのグリーンシート30の数が、ブロック体Buのグリーンシート30の数よりも多い。実施例3の評価結果では、実施例2に比べて評価基準を満たすグリーンシート30の割合が大きい。すなわち、上記配置により、グリーンシート30(セラミックス基板1)の反り量が更に低下していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示によれば、反りを抑制することが可能なセラミックス基板の製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0056】
1…セラミックス基板、10…シート材、10A,10B…表面、20…切断装置、30…グリーンシート、30A,30B…表面、40…積層体、50A,50B…セッター。
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図9