IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 江崎グリコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-コアシェル型冷菓 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】コアシェル型冷菓
(51)【国際特許分類】
   A23G 9/04 20060101AFI20230828BHJP
   A23G 9/32 20060101ALI20230828BHJP
   A23G 9/44 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
A23G9/04
A23G9/32
A23G9/44
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019145364
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021023238
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 芳雄
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-299552(JP,A)
【文献】特開2019-030274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個当たりの重量が5~11gであるコアシェル型冷菓であって、シェルの凝固点はコアの凝固点よりも高く、シェルは脂肪、乳化剤及び水を含み、前記シェルの脂肪分は0.2~7質量%であり、前記シェルの固形分は3~35質量%であり、コアが70~90体積%、シェルが10~30体積%である、コアシェル型冷菓。
【請求項2】
シェルが1~6質量%の脂肪分、10~20質量%の固形分と90~80質量%の水を含む、請求項1に記載のコアシェル型冷菓。
【請求項3】
コアが、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、ジェラート、果汁及び/又は果肉の凍結物、フローズンヨーグルトからなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載のコアシェル型冷菓。
【請求項4】
シェルがチョコレート類を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のコアシェル型冷菓。
【請求項5】
コアが75~85体積%、シェルが15~25体積%である、請求項1~4のいずれか1項に記載のコアシェル型冷菓。
【請求項6】
コアが75~80体積%、シェルが20~25体積%である、請求項5に記載のコアシェル型冷菓。
【請求項7】
シェルの凝固点は、コアの凝固点よりも3~5℃高い、請求項1~6のいずれか1項に記載のコアシェル型冷菓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル型冷菓に関する。
【背景技術】
【0002】
一口サイズのアイスクリームなどの冷菓が市販されているが、この一口サイズの冷菓は、気温の高い室内では数分間放置すると表面がやわらかくなり、場合によっては表面が溶けてしまう恐れがあった。また、輸送中に冷菓の温度が上昇した場合に、冷菓の表面が溶けたり、冷菓がやわらかくなって変形する恐れがあった。
【0003】
そのため、冷菓の表面を氷グレーズ(特許文献1)でコーティングすることが知られている。
【0004】
氷グレーズは、特に十分な厚さを有する場合、内部の冷菓の変形を防止できるが、氷グレーズを噛み砕くまで内部の冷菓の味が感じられなかったり、水っぽさを感じる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-296290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、十分な流通強度を有し、かつ、やわらかい噛みだし、氷っぽさのない風味、スッキリした後口であることを両立できる冷菓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のコアシェル型冷菓を提供するものである。
項1. コアシェル型冷菓であって、シェルの凝固点はコアの凝固点よりも高く、シェルは脂肪、乳化剤及び水を含み、前記シェルの脂肪分は0.2~7質量%であり、前記シェルの固形分は3~35質量%であり、コアが70~90体積%、シェルが10~30体積%である、コアシェル型冷菓。
項2. シェルが1~6質量%の脂肪分、10~20質量%の固形分と90~80質量%の水を含む、項1に記載のコアシェル型冷菓。
項3. コアが、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、ジェラート、果汁及び/又は果肉の凍結物、フローズンヨーグルトからなる群から選ばれる、項1又は2に記載のコアシェル型冷菓。
項4. シェルがチョコレート類を含む、項1~3のいずれか1項に記載のコアシェル型冷菓。
項5. コアが75~85体積%、シェルが15~25体積%である、項1~4のいずれか1項に記載のコアシェル型冷菓。
項6. コアが75~80体積%、シェルが20~25体積%である、項5に記載のコアシェル型冷菓。
項7. シェルの凝固点は、コアの凝固点よりも3~5℃高い、項1~6のいずれか1項に記載のコアシェル型冷菓。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水っぽさがなく、且つ、流通強度も保っているので、氷グレーズを用いた従来品よりも風味が濃厚であり、また、コーチングチョコレートのような水分の無いコーティング材と比較して、アイス特有の冷たさを維持しており、夏場の暑い時期でも喉ごしもすっきりとして、食べやすい冷菓を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例のヒートショックテストの概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコアシェル型冷菓は、より凝固点の低いコアの冷菓とより凝固点の高いシェルから構成される。
【0011】
本明細書において、「コアシェル型冷菓」とは、中央の『コア』部分とそれを取り巻く『シェル』部分からなる二重構造からなる冷菓をいう。
【0012】
コアの冷菓としては、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、ジェラート、果汁及び/又は果肉の凍結物、フローズンヨーグルトなどが挙げられ、好ましくはアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、果汁及び/又は果肉の凍結物が挙げられる。
【0013】
シェルは、脂肪と乳化剤と水を含む。脂肪と乳化剤は、シェルの固形分の構成要素になる。シェルの固形分は、好ましくは3~35質量%、より好ましくは6~30質量%、さらに好ましくは8~25質量%、特に好ましくは10~20質量%である。
【0014】
シェルの水含有量は、好ましくは95~65質量%、より好ましくは94~70質量%、さらに好ましくは92~75質量%、特に好ましくは90~80質量%である。
【0015】
シェルの乳化剤含有量は、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.02~3質量%、さらに好ましくは0.05~1質量%、特に好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0016】
シェルの脂肪分は、好ましくは0.2~7.5質量%、より好ましくは0.5~7質量%、さらに好ましくは0.8~6.5質量%、特に好ましくは1~6質量%である。
【0017】
コアの固形分は、好ましくは30~50質量%、より好ましくは35~45質量%である。
【0018】
コアの凝固点は、好ましくは-5.0~-3.0℃、より好ましくは-4.5~-3.5℃である。シェルの凝固点は、好ましくは-2.0~0.0℃、より好ましくは-1.0~-0.5℃である。シェルの凝固点は、コアの凝固点よりも好ましくは3~5℃高く、より好ましくは3.5~4℃高い。
【0019】
シェルに必須成分として含まれ、コアに含まれていてもよい脂肪としては、カカオバター、ココアパウダー、カカオマス、チョコレート生地、準チョコレート生地などのカカオ系原料、食用油脂が挙げられる。食用油脂としては、乳脂肪、ショートニング、マーガリン、オリーブ油、大豆油、サフラワー油、コーン油、ごま油、ひまわり油、菜種油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、パーム分別油などの植物性油脂、ラード、魚油などの動物性油脂などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。乳脂肪としては、乳脂肪を含む、牛乳、全粉乳、練乳、チーズ、バター、生クリーム、ヨーグルトなどを使用することができる。チョコレート生地、準チョコレート生地は、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」に従うチョコレート生地および準チョコレート生地を含む。
【0020】
シェルに必須成分として含まれ、コアに含まれていてもよい乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤;レシチンなどが挙げられる。これらの乳化剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
シェルは、脂肪、乳化剤、水以外に風味成分を含むことができる。風味成分は、固形分の構成要素になる。また、コアも風味原料を含むことができる。風味成分としては、チョコレート、ココアパウダー、糖類、甘味料、果肉、果汁、コーヒー、カフェオレ、紅茶、抹茶などを挙げることができる。
【0022】
コア又はシェルに配合可能な糖類としては、砂糖(上白糖、グラニュー糖、粉糖、ザラメなど)、麦芽糖、乳糖、ブドウ糖、トレハロース、果糖、転化糖、水飴、異性化糖などが挙げられる。糖類は、1種類のみで用いられてもよいし、2種類以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0023】
コア又はシェルに配合可能な甘味料としては、糖アルコール、ステビア、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウムなどが挙げられる。甘味料は、1種類のみで用いられてもよいし、2種類以上が組み合わされてもよい。
【0024】
本明細書において、コア(アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、ジェラート、果汁及び/又は果肉の凍結物、フローズンヨーグルトなど)又はシェルに含まれ得る果肉、果汁としては、冷菓に通常用いられる任意の果肉、果汁が挙げられる。このような果肉、果汁としては、イチゴ、キイチゴ、クランベリー、ブルーベリーなどのベリー類、オレンジ、レモン、グレープフルーツなどの柑橘類、ブドウ、マスカット、ナシ、リンゴ、メロン、スイカ、バナナ、マンゴー、桃、さくらんぼ、びわ、かぼす、ゆず、すだち、柿、パイナップルなどの果汁または果肉が挙げられる。これらの果汁または果肉は、1種類のみで用いられてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。果汁、果肉の濃度は特に限定されないが、例えば10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上又は80質量%以上であり、上限は好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0025】
コアシェル型冷菓の形状は、特に限定されないが、好ましくは球状、半球状、楕円体状、立方体状、直方体状、ドーナツ状、正四面体状、四角柱状、四角錐状、四角錐台状、直円柱状、円錐台状などが挙げられ、より好ましくは球状、半球状、立方体状、直方体状、四角錐台状、円錐台状などが挙げられる。
【0026】
コアシェル型冷菓において、コアは好ましくは70~90体積%、より好ましくは75~85体積%、さらに好ましくは75~80体積%であり、シェルは好ましくは10~30体積%、より好ましくは15~25体積%、さらに好ましくは20~25体積%である。
【0027】
コアシェル型冷菓の1個当たりの重量は、特に限定されないが、例えば5~11g、好ましくは7~9gである。
【0028】
コアのシェルによるコーティングは、コアとなる冷菓にシェルのコーティング液を例えばシャワーのようにかけてもよく、コーティング溶液に浸漬してもよい。コーティング液の温度は、例えば、2~10℃である。コーティング溶液の粘度は5℃で1000 cp未満が好ましく、より好ましくは5℃で50~600 cp程度である。シェルをコーティング液で被覆後に冷却することにより、本発明のコアシェル型冷菓を得ることができる。
【実施例
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1~5及び比較例1~2
以下表1、表2に示す各成分を含むぶどうコアとぶどうシェルから構成される球状のコアシェル型冷菓を作製した。各コアシェル型冷菓において、シェルの厚さは均一であり、質量はいずれも約7.8gであり、コア80質量%、シェル20質量%であった。
【0031】
試験例1
表1及び表2に示される6種のコアシェル型冷菓について、流通強度を評価するために以下の条件でヒートショックテストを行った。表2の粘度は、5℃で、B型粘度計(ロータ:No.2、回転数:30rpm、測定時間:30secで自動停止)を用いて測定した。
【0032】
<ヒートショックテスト>
・-10℃の恒温槽に一定の荷重をかけた状態で保存する。
・24時間後、48時間後に球状のコアシェル型冷菓のつぶれ具合、コアの内容物のシェル外への染み出しを目視で確認する。
【0033】
実験は、図1に示すように、アルミパウチに3列×4行となるようにコアシェル型冷菓をパッキングして行った。
・最も荷重のかかるのは、最下段の冷菓であり、上に重なる3つ分の重量23.4gがかかることを想定し、雰囲気温度-10℃にて加速試験とした。目視での観察は、最下段の冷菓について、以下の評価基準に基づき行った。
【0034】
<流通強度の評価基準>
◎:48時間後でも球状のコアシェル型冷菓がつぶれず、コアが溶けることによるシェル表面への染み出しがない、
○:24時間後では球状のコアシェル型冷菓がつぶれず、コアが溶けることによるシェル表面への染み出しがないが、48時間後では、コアシェル型冷菓がわずかに変形するか、コアが溶けることによるシェル外部への染み出しがわずかにあった。
×:24時間後で球状のコアシェル型冷菓がつぶれ、コアが溶けることによるシェル表面への染み出しがあった。
【0035】
全固形分4%~20%、全脂肪分0.7%~4%の実施例2~4においては、48時間後でも球状のコアシェル型冷菓がつぶれず、コアが溶けることによるシェル表面への染み出しがなかった。全固形分3%、全脂肪分0.5%の実施例1においては、24時間後では球状のコアシェル型冷菓がつぶれず、コアが溶けることによるシェル表面への染み出しがないが、48時間後では、コアが溶けることによるシェル外部への染み出しがわずかにあった。全固形分30%、全脂肪分6%の実施例5においては、24時間後では球状のコアシェル型冷菓がつぶれなかったが、48時間後では、コアシェル型冷菓がわずかに変形した。
【0036】
なお、チョココアに固形分40質量%のチョコシェルを上記その他のコアシェル型冷菓と同様にして形成することを試みたが、均一なコーティングができなかったので、試験例1,2での評価は行わなかった。
【0037】
試験例2(噛みだしの軟らかさと水っぽさに関する官能評価)
表1及び表2に示される6種のコアシェル型冷菓について、噛みだしの軟らかさと水っぽさの官能評価を以下の条件で行った。
【0038】
<官能評価>
・各コアシェル型冷菓を―20℃の冷凍庫に1昼夜保管し、品温を一定にする。
・騒音、異臭のない官能評価室にて、5名の熟練官能パネラーに、6種コアシェル型冷菓を提示し、「噛みだしの軟らかさ」、「水っぽさのない風味」の評価を行った。
・サービングの順番は、(i)比較例1のぶどうを対照品として評価した後に、(ii)~(vi)実施例1~5をランダムに提供し、比較例1との相対評価を行った。官能評価結果として、以下の評価水準に基づき行った。
【0039】
<噛みだしの評価基準>
◎:十分に冷却された‐20℃の品温において、比較例1に対し、明らかに噛みだしが軟らかい。
○:十分に冷却された‐20℃の品温において、比較例1よりも、噛みだしが軟らかい。
×:十分に冷却された‐20℃の品温において、比較例1と同様に噛みだしが硬い。
【0040】
<水っぽさの評価基準>
◎:十分に冷却された‐20℃の品温において、比較例1に対し、水っぽさを感じない。
○:十分に冷却された‐20℃の品温において、比較例1よりも、水っぽさが軽減している。
×:十分に冷却された‐20℃の品温において、比較例1と同様に、水っぽさが感じられる。
【0041】
全固形分10%~30%、全脂肪分2%~6%の実施例3~5においては、冷凍庫から出して直ぐに食べても噛みこむことができ、水っぽさを感じない為、喫食時にストレスがなく、コアシェル型冷菓の風味を味わうことができた。全固形分3%~4%、全脂肪分0.5%~0.7%の実施例1~2においては、若干硬さが増すものの、十分に噛みこむことができ、水っぽさも軽減していた。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
図1