(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】目標速度検出装置および目標速度検出方法
(51)【国際特許分類】
F41G 7/22 20060101AFI20230828BHJP
【FI】
F41G7/22
(21)【出願番号】P 2019159817
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 賢司
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-088347(JP,A)
【文献】特開2011-191128(JP,A)
【文献】特開平09-303993(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104991247(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41G 7/00
F41G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛しょう体に搭載される目標速度検出装置において、
目標からのレーダエコーを捕捉するアンテナ部と、
前記捕捉されたレーダエコーから受信信号を生成する受信部と、
前記受信信号を処理する信号処理部とを具備し、
前記信号処理部は、
前記受信信号をデジタル信号に変換する変換部と、
前記デジタル信号を処理する検出処理部とを備え、
前記検出処理部は、
前記デジタル信号をフーリエ変換して周波数軸方向のスペクトル波形を得るフーリエ変換機能と、
前記スペクトル波形において既定のしきい値レベルを超える
目標検出点を検出する
検出機能と、
前記目標検出点が複数検出された場合に、前記スペクトル波形と当該スペクトル波形の理論波形とを比較して、前記目標のドップラ周波数
のピーク位置を決定する決定機能と、
前記ドップラ周波数
のピーク位置に基づいて前記目標の速度を検出する速度検出機能とを備える、目標速度検出装置。
【請求項2】
前記フーリエ変換機能は、前記受信信号に窓関数を乗算したうえで前記デジタル信号にフーリエ変換を施し、
前記理論波形は、前記窓関数のフーリエ変換波形である、請求項1に記載の目標速度検出装置。
【請求項3】
前記決定機能は、
前記検出された複数の
目標検出点のうち前記周波数軸上での上位2点目と前記理論波形のピークとを重ね、
前記複数の
目標検出点のうち前記周波数軸上での上位1点目と前記理論波形との誤差が最小となる前記理論波形のピーク位置を、前記目標のドップラ周波数
のピーク位置と決定する、請求項1に記載の目標速度検出装置。
【請求項4】
目標からのレーダエコーを捕捉するアンテナ部と、前記捕捉されたレーダエコーの受信信号をデジタル信号に変換する信号処理部と、検出処理部とを備え、
飛しょう体に搭載される装置の目標速度検出方法であって、
前記検出処理部が、前記デジタル信号をフーリエ変換して周波数軸方向のスペクトル波形を得る過程と、
前記検出処理部が、前記スペクトル波形において既定のしきい値レベルを超える
目標検出点を検出する過程と、
前記検出処理部が、
前記目標検出点が複数検出された場合に、前記スペクトル波形と当該スペクトル波形の理論波形とを比較して、前記目標のドップラ周波数
のピーク位置を決定する過程と、
前記検出処理部が、前記ドップラ周波数
のピーク位置に基づいて前記目標の速度を検出する過程とを具備する、目標速度検出方法。
【請求項5】
前記検出処理部は、前記受信信号に窓関数を乗算したうえで前記デジタル信号にフーリエ変換を施し、
前記理論波形は、前記窓関数のフーリエ変換波形である、請求項4に記載の目標速度検出方法。
【請求項6】
前記検出処理部は、
前記検出された複数の
目標検出点のうち前記周波数軸上での上位2点目と前記理論波形のピークとを重ね、
前記複数の
目標検出点のうち前記周波数軸上での上位1点目と前記理論波形との誤差が最小となる前記理論波形のピーク位置を、前記目標のドップラ周波数
のピーク位置と決定する、請求項4に記載の目標速度検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、目標速度検出装置および目標速度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば飛しょう体に搭載されるシーカは、電波等を用いたレーダの原理により目標を検出する。飛しょう体前方のレーダ(アンテナ)だけでは、目標に最接近したときに見失うため、側方にアンテナを別途搭載する方式が一般的であった。これに対し、前方のアンテナで側方探知を兼用し、軽量化等を図る手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
飛しょう体のすぐ横を通過する目標を、前方のアンテナは検知できない。このため目標との会合時刻は、前方方向で目標を捉えられていた時点での検出結果から予測される。よって目標の距離と速度とを、高い精度で検出することが求められる。
しかしながら既存の技術では、目標との距離が近くなると目標の形状が広がりを持つようになることから、レーダ波の反射点が複数観測されてしまい、結果として速度の検出誤差が生じやすかった。
【0005】
そこで、目的は、検出精度を向上させた目標速度検出装置および目標速度検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、目標速度検出装置は、アンテナ部、受信部、信号処理部を具備する。アンテナ部は、目標からのレーダエコーを捕捉する。受信部は、捕捉されたレーダエコーから受信信号を生成する。信号処理部は、受信信号を処理する。信号処理部は、受信信号をデジタル信号に変換する変換部と、デジタル信号を処理する検出処理部とを備える。検出処理部は、フーリエ変換機能、ポイント検出機能、決定機能、および速度検出機能を備える。フーリエ変換機能は、デジタル信号をフーリエ変換して周波数軸方向のスペクトル波形を得る。ポイント検出機能は、スペクトル波形において既定のしきい値レベルを超えるポイントを検出する。決定機能は、スペクトル波形と当該スペクトル波形の理論波形とを比較して、目標のドップラ周波数を決定する。速度検出機能は、ドップラ周波数に基づいて目標の速度を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係わる目標速度検出装置を搭載する飛しょう体の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、目標検出部5の一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、飛しょう体1と目標7との位置関係の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、検出処理器17の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、受信信号のフーリエ変換波形の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、受信信号のフーリエ変換波形の他の例を示す図である。
【
図7】
図7は、飛しょう体1と目標7との位置関係の他の例を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7の各反射点から観測されるフーリエ変換波形のピーク位置の例を示す図である。
【
図9】
図9は、
図8に示される各反射点のフーリエ変換波形を周波数軸上で重ねた波形を示す図である。
【
図10】
図10は、速度の広がり方について説明するためのシミュレーションの結果の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、誤差最小値が最も小さい状態での理論波形のピーク位置を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、実施形態に係わる目標速度検出装置を搭載する、飛しょう体の一例を示すブロック図である。飛しょう体1は、誘導部2、弾頭部3、および操舵部4を備える。誘導部2は、目標7の方向へ飛しょうするための誘導信号を出力する。操舵部4は、この誘導信号に従って、飛しょう体1の姿勢を目標7の方向に向け制御する。また、誘導部2は、目標との会合時刻を予測し、会合時刻で弾頭部3を起爆すべく起爆信号を生成出力する。
【0009】
誘導部2は、目標速度検出装置としての目標検出部5および目標追随部6を備える。目標検出部5は、いわゆる電波シーカとしての機能を備え、目標7を検出する。目標追随部6は、上記誘導信号を生成するのに加え、目標7との会合時刻を予測し、会合時刻に基づいて起爆信号を生成する。
【0010】
図2は、目標検出部5の一例を示す機能ブロック図である。目標検出部5は、目標7の方向へ電波(送信波)を送信し、目標7からの電波(反射波:レーダエコー)を捕捉するアレイアンテナ部13を備える。目標検出部5は、さらに、アンテナ制御器11、送信器12、受信器14、および信号処理器15を備える。
【0011】
アンテナ制御器11は、送信波の送信方向を指示する。送信器12は、電波(送信波)を生成する。受信器14は、アレイアンテナ部13からの受信波(レーダエコー)を検波する。
信号処理器15は、A/D変換器16および検出処理器17を備える。A/D変換器16は、受信器14からのアナログの検波出力信号をデジタル信号に変換する。検出処理器17は、A/D変換器16からのデジタル信号から目標を検出し、目標7の距離、角度、速度を求める。そして検出処理器17は、これらの情報を目標追随部6に渡す。さらに検出処理器17は、次回の送信波の方向をアンテナ制御器11に出力する。次に、上記構成における作用を説明する。
【0012】
図3は、飛しょう体1と目標7との位置関係の一例を示す図である。なお、議論を簡単にするため以下では2次元で説明するが、3次元空間でも同様の議論が成り立つ。
図3において、飛しょう体1は速度Vmで直進し、進行方向に対し目標相対方向θ1の方向に目標7が存在する。目標は速度Vtで直進し、飛しょう体の進行方向に対しθ2の方向に進行する。このときの目標相対速度Vtmは、式(1)で示される。
Vtm=Vm・cosθ1+Vt・cos(θ2-θ1) … (1)
図4は、検出処理器17による目標速度の検出に係わる処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4のステップS1にて、検出処理器17は、デジタル化された受信信号に対してフーリエ変換処理を施し、
図5に示されるようなフーリエ変換波形(電力値)を得る。なお、高調波除去等のため、受信信号に窓関数を乗算したうえでフーリエ変換を行うのが好ましい。ここで、
図5および
図6のグラフの縦軸は電力値を示し、横軸はシミュレーションにおけるポイント番号を示す。横軸は周波数と等価である。
【0013】
図4のステップS2にて、検出処理器17は、フーリエ変換波形に対してしきい値判定処理を行う。例えば
図5の点線で示される電力値をしきい値レベルとすると、検出処理器17は、しきい値を超えた電力値を示す3つの点を、目標検出点として記録する。次のステップS3にて、検出処理器17は、目標検出点の個数を判定する。目標検出点が3以下であれば、目標の検出速度にばらつきが無いとみなせるので、検出処理器17はステップS4で、ピーク点から目標速度を算出する。
【0014】
目標検出点が1個であれば、ステップS4において、検出点の周波数をそのまま目標のドップラ周波数として目標の速度(ドップラ速度)を求めることができる。目標検出点が2個または3個であれば、検出処理器17は、各点の周波数の平均値または電力値を用いての重み付き平均値から目標のドップラ周波数fdを求め、式(2)により目標の速度Vdを求める。
【0015】
Vd=fd・C/2f … (2)
ここで、Cは光速、fは送信周波数である。
ステップS3で目標検出点が0個であれば、目標はいないとして処理は終了する。
【0016】
ここで問題になるのは、ステップS3で、4個以上の目標検出点が検出された場合である。つまり
図6に示されるように、例えば5個の目標検出点が検出される場合がある。これは、飛しょう体1から見た目標が空間的に広がりを持つときに生じる現象であり、
図7に示されるケースに相当する。
【0017】
図7に示されるように、目標20に接近すると、飛しょう体1にとっては電波の反射点の数が増えたように見える。飛しょう体1から見て、例えば横方向に複数(3個)の反射点があるとすると、受信信号のフーリエ変換波形(
図6)は周波数方向に広がる。また、受信電力がしきい値を超える検出点の数も増えてしまう。
【0018】
図4に戻って説明を続ける。ステップS3において、4個以上の目標検出点が検出された場合、目標速度もばらついて観測される。ここで処理手順はステップS5に分岐し、検出処理器17は、ステップS5~ステップS10の処理を実行して、目標検出点が4個以上観測された場合の目標速度を求める。ここで、複数の反射点からのフーリエ変換の波形が周波数方向に広がる要因を、
図8を参照して説明する。
【0019】
図8は、
図7の各反射点から観測されるフーリエ変換波形のピーク位置の例を示す図である。反射点1~3からの信号を単独で受信したときの波形は、各反射点の角度の違い(
図7)から、相対速度が異なって見えるので、ピーク位置も周波数方向に変化する。実際には各反射点からの反射波が同時に受信されるので、
図9に示されるように各反射点の単独波形が重なり、周波数方向に広がった波形となる。
【0020】
図10は、速度の広がり方について説明するためのシミュレーションの結果の一例を示す図である。計算では、Vm=500m/s、Vt=500m/s、θ1=10.2°、θ2=20°をそれぞれ仮定した。
図7のように、飛しょう体1と目標7が直線的に移動するとき、会合点にあたる反射点の角度において速度が最も速く、その点から離れるほど速度は低下する。従って、フーリエ変換波形上で周波数方向に目標成分が広がっていても、最も速い速度に対応する点を求めればよいことになる。
【0021】
図8からわかるように、最も速い速度成分は、全体の検出点のうち周波数の高い側に現れる。よってこの部分から、最も速い速度にあたるピーク点を推定できる。具体的には、検出点のうち、最も周波数の高いほうから2点が最も速い速度に相当する信号の成分であるとして、目標速度を計算する。
【0022】
図11は、
図6の波形に対する理論波形を示す図である。
図11(a)が観測波形(
図6)に対応し、その理論波形が
図11(b)である。理論波形は、受信信号に乗算される窓関数のフーリエ変換波形であり、速度成分の広がりがない時(反射点が1点)の理想的な波形と同じ形状を示す。
図11(b)では、実際の観測波形よりも周波数分解能を高めた波形を示している。
【0023】
再び
図4に戻って説明を続ける。
図4のステップS5において、検出処理器17は、縦軸のスケールを制御(オフセット)して、
図12の(a)に示されるように、検出点の周波数軸上での上位2点目(周波数の高いほうから2点目:
図11(a)の(A))と、理論波形のピークとを重ねる。
図12は、
図11の観測波形と理論波形とを周波数軸上で重ねたグラフである。横軸を拡大し、理論波形の分解能を8倍として示した。もちろん、さらに高い分解能としてもよい。
【0024】
ステップS6にて、検出処理器17は、検出点の周波数上位1点目(
図11(a)の(B))と理論波形との誤差(b)を算出し、その絶対値を誤差最小値として記憶する。次に検出処理器17は、ステップS7にて、理論波形を横軸に対して1点分スライドさせる。ステップS6の検出点の周波数上位1点目と理論波形との誤差(b)が正であれば、スライドさせる方向はグラフ上の左となる。誤差(b)が負であれば、スライド方向は右となる。
図12の例では、理論波形を左側にスライドさせることとなる。スライド後、検出点の周波数上位2点目と理論波形の電力値が同じになるように、理論波形の電力値を合わせる。
【0025】
次に検出処理器17は、ステップS8にて、スライド後の検出点の周波数上位1点目と理論波形との誤差を算出する。次に検出処理器17は、ステップS9にて、誤差最小値と、ステップS8にて求めた誤差の絶対値とを比較し、ステップS8にて求めた誤差の絶対値のほうが大きければステップS10の処理を行う。小さければ再びステップS7の処理に戻る。
【0026】
ステップS10では、検出処理器17は、誤差最小値が最も小さい時点の理論波形のピーク位置を、最も速い速度成分のドップラ周波数fdとみなし、その周波数の値から、式(2)に基づいて目標の速度Vdを算出する。
図13に、誤差最小値が最も小さい状態での理論波形のピーク位置を示す。
図13(d)が誤差最小値が最小の状態を示し、
図13(c)が、速度算出に係わるドップラ周波数fdのピーク位置を示す。
【0027】
以上説明したようにこの実施形態では、横方向に広がりを持つ目標の速度の特性より、観測結果の波形(フーリエ変換波形)と、理論値による波形とを比較することで、目標からのエコーにおけるドップラ周波数のピーク位置を高い精度で決定することが可能になる。すなわち、電波シーカによる目標速度検出において、目標の角度広がりによる速度の検出誤差を、速度特性と観測波形の特性を利用して軽減できるようにした。これにより目標速度を高い精度で検出することが可能となり、ひいては、目標との予測会合時刻も精度よく求めることができるようになる。
これらのことから、実施形態によれば、検出精度を向上させた目標速度検出装置および目標速度検出方法を提供することが可能となる。
【0028】
実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
1…飛しょう体、2…誘導部、3…弾頭部、4…操舵部、5…目標検出部、6…目標追随部、7…目標、11…アンテナ制御器、12…送信器、13…アレイアンテナ部、14…受信器、15…信号処理器、16…A/D変換器、17…検出処理器、20…目標。