(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】タイヤ金型の清掃方法及び清掃装置
(51)【国際特許分類】
B29C 33/72 20060101AFI20230828BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20230828BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
B29C33/72
B29C33/02
B29C35/02
(21)【出願番号】P 2019171210
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 修一
(72)【発明者】
【氏名】網本 光希
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-065232(JP,A)
【文献】特開2000-167854(JP,A)
【文献】特開2016-087988(JP,A)
【文献】特開平11-333846(JP,A)
【文献】特開2010-274482(JP,A)
【文献】特開2007-118460(JP,A)
【文献】特開2001-293729(JP,A)
【文献】特開平04-173213(JP,A)
【文献】特開2013-173295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 35/00-35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤに接する成形面から背面まで連通するベントホールと、前記ベントホールの内部に固定される筒状弁座および前記筒状弁座を閉止する位置及び開放する位置に移動可能な弁体を有する開閉弁と、を有するタイヤ金型の清掃方法であって、
前記タイヤ金型の前記背面に対して、ノズルを接触させる工程と、
前記ノズルを介して前記背面に開口する前記ベントホールの内部に気体
と共にドライアイスを噴射する工程と、
を含む、タイヤ金型の清掃方法。
【請求項2】
前記金型は、タイヤのトレッド部を成形するセクタであり、前記セクタの内周面が前記成形面であり、前記セクタの外周面が前記背面であり、
前記ノズルは、前記セクタの背面に開口する全ての前記ベントホールを通るように、前記セクタの外周面に沿って移動する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記ノズルのうち前記背面に接触するノズル先端部は、直径10cmの円以上の大きさを有する、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
タイヤに接する成形面から背面まで連通するベントホールと、前記ベントホールの内部に固定される筒状弁座および前記筒状弁座を閉止する位置及び開放する位置に移動可能な弁体を有する開閉弁と、を有するタイヤ金型の清掃装置であって、
前記タイヤ金型の前記背面に対して接触可能且つ可動に構成されたノズルと、
前記ノズルを介して前記背面に開口する前記ベントホールの内部に噴射する気体を供給する気体供給部と、
前記ノズルを介して前記背面に開口する前記ベントホールの内部に気体と共に噴射するドライアイスを供給するドライアイス供給部と、
を備える、タイヤ金型の清掃装置。
【請求項5】
前記金型は、タイヤのトレッド部を成形するセクタであり、前記セクタの内周面が前記成形面であり、前記セクタの外周面が前記背面であり、
前記ノズルは、前記セクタの背面に開口する全ての前記ベントホールを通るように、前記セクタの外周面に沿って移動する、請求項
4に記載の装置。
【請求項6】
前記ノズルのうち前記背面に接触するノズル先端部は、直径10cmの円以上の大きさを有する、請求項
4又は5に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ金型の清掃方法及び清掃装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-65232号公報(特許文献1)に示すように、空気入りタイヤの加硫に用いられるタイヤ金型には、エアを逃がすために、タイヤに接する成形面にベントホールが形成される。ベントホールへのゴムの流入を阻止するために、ベントホールには、ベントホールを開閉するための開閉弁が取り付けられる。開閉弁は、ベントホールの内部に固定される筒状の弁座と、ベントホールを閉じる閉止位置とベントホールを開放する開放位置とに移動可能な弁体と、を有する。
【0003】
タイヤ加硫初期においては、弁体が弁座から離れる開放位置に位置することで、ベントホールが開放され、金型の内部の気体が金型の外部へ吸引される。その後、タイヤ加硫後期においては、ゴムがベントホールに近づくことによって、金型の内部の圧力が低下したり、ゴムが弁体に接したりする。これにより、弁体が弁座に接する閉止位置に移動するため、ベントホールが閉止される。
【0004】
その後、加硫が完了したタイヤを取り出すために、金型がタイヤから離れるように移動することによって、弁体は、開放位置に戻る。ところで、例えば、弁体及び弁座に、ゴムの残滓が付着することによって、弁体が閉止位置から開放位置に戻らずに、ベントホールが閉止されたままになる場合がある。
【0005】
なお、金型の成形面の清掃には、特開2016-87988号公報(特許文献2)に示すように金型の成形面に対してドライアイスを吹き付ける記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-65232号公報
【文献】特開2016-87988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
開閉弁の詰まりを除去するために、超音波振動器を弁体に接触させて弁体を振動させて詰まりを除去することが行われている。しかし、1つのタイヤを成形するための金型には、4000~5000個の開閉弁が取り付けられており、開閉弁の詰まりを一つ一つ除去するのには膨大な時間などの作業コストが必要となる。一方、上記ドライアイスを金型の成形面に吹き付けることは、成形面に付着したゴムのゴミを除去することには効果を発揮するが、開閉弁の固着を除去することができない。
【0008】
本開示は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、開閉弁の詰まりの除去作業に要する作業コストを低減可能なタイヤ金型の清掃方法及び清掃装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のタイヤ金型の清掃方法は、タイヤに接する成形面から背面まで連通するベントホールと、前記ベントホールの内部に固定される筒状弁座および前記筒状弁座を閉止する位置及び開放する位置に移動可能な弁体を有する開閉弁と、を有するタイヤ金型の清掃方法であって、前記タイヤ金型の前記背面に対して、ノズルを接触させる工程と、前記ノズルを介して前記背面に開口する前記ベントホールの内部に気体を噴射する工程と、を含む。
【0010】
このように、タイヤ金型の背面に対してノズルを接触させ、ノズルを介して背面に開口するベントホールの内部に気体を噴射するので、開閉弁における弁体が筒状弁座に固着した場合であっても、気体の噴射圧力によって弁体が稼働し、溜まった煤及び弁体を固着するゴムカスを効率的に清掃可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】弁体が開放位置にある状態の開閉弁を示す拡大図
【
図6】弁体が閉止位置にある状態の開閉弁を示す拡大図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
[金型2]
図1~4を用いて、清掃対象の金型2について説明する。
図1~4に示すように、タイヤ加硫には、複数の金型2が用いられる。複数の金型2は、成形面2dがタイヤ20のサイドウォール部21に接する一対のサイドモールド2a,2aと、成形面2dがタイヤ20のトレッド部22に接する複数のセクタ2bと、タイヤ20のビード部が嵌合される一対のビードモールド2c,2cと、を有する。
【0014】
なお、図中において、タイヤ回転軸と平行なタイヤ幅方向D1と、タイヤ径方向D2と、タイヤ周方向D3とを示している。
【0015】
一対のサイドモールド2a,2aは、成形室1aの内部にセットされるタイヤ20に対して、タイヤ幅方向D1に離間して配置されている。また、複数のセクタ2bは、一対のサイドモールド2a,2aの側方に配置され、且つ、成形室1aの内部にセットされるタイヤ20に対して、タイヤ周方向D3に沿って環状に並列されている。一方のサイドモールド2aは、他方のサイドモールド2aに対して、タイヤ幅方向D1で接離可能であり、また、複数のセクタ2bは、サイドモールド2aに対して、タイヤ径方向D2で接離可能である。これにより、複数の金型2は、
図1及び
図2に示すように、タイヤ20を出し入れするための型開き位置と、
図3及び
図4に示すように、タイヤ20を成形するための型閉め位置との間を移動可能である。
【0016】
金型2は、ベントホール3aを有する金型本体3と、成形室1a内の気体を排出するために、ベントホール3aを開閉する開閉弁4とを備えている。なお、金型本体3の材質は、特に限定されないが、例えば、金型本体3は、アルミ、鋼鉄、ステンレス鋼等の金属で形成されている、という構成でもよい。
【0017】
ベントホール3aは、成形面2dから裏面に開口している。ベントホール3aは、金型2の内部(成形室1a)と外部とを連通している。なお、
図2及び
図4においては、ベントホール3aは、それぞれの金型2に一つ図示されているが、ベントホール3aの個数は、特に限定されない。例えば、全てのセクタ2bに対してタイヤ1つ分で4000~5000個のベントホール3aが設けられていることが多い。
【0018】
図5及び
図6に示すように、開閉弁4は、気体が通過可能な孔5aを有しベントホール3aの内部に固定される筒状弁座5と、孔5aを閉止する閉止位置と孔5aを開放する開放位置とに移動可能な弁体6とを有する。また、開閉弁4は、弁体6が閉止位置から開放位置へ向かうように、弁体6に力を加えるコイルバネ等のバネ7を有する。なお、開閉弁4は、ベントホール3aの内端部に配置されている。
【0019】
図5に示す開閉弁4においては、バネ7が弁体6に力を加えることによって、弁体6は、弁座5の孔5aを開放する開放位置に位置している。弁体6の座面6aは、弁座5の座面5bから離れている。これにより、成形室1aの内部とベントホール3aとが連通しているため、ベントホール3aは、開状態である。
【0020】
一方、
図6に示す開閉弁4においては、弁体6がバネ7からの力に反して、弁体6は、弁座5の孔5aを閉止する閉止位置に位置している。このとき、弁体6の座面6aは、弁座5の座面5bと接している。これにより、成形室1aの内部とベントホール3aとが連通していないため、ベントホール3aは、閉状態である。タイヤの加熱及び加圧による加硫成形工程を繰り返し実行すると、ゴムカスや煤が開閉弁4内部に固着して、弁体6が弁座5に固着してしまう。
【0021】
[清掃装置]
清掃装置8は、
図7に示すように、ノズル80と、気体供給部81と、ドライアイス供給部82と、を有する。ドライアイス供給部82は省略可能である。ノズル80は、金型2(セクタ2b)の背面2eに接触可能且つ可動に構成されている。金型2の背面2eは、成形面2dの反対側の面である。
図2に示すように、ベントホール3aは、成形面2dから背面2eに連通している。
図7に示すように、ノズル80は、金型2としてのセクタ2bの背面2eに開口する全てのベントホール3aを通るように、セクタ2bの外周面に沿って移動可能に構成されていることが好ましい。具体的には、タイヤの軸を中心としたセクタ2bの外周面2eに沿った円弧に沿った移動と、タイヤの軸に平行なタイヤ幅方向D1に沿った直線に沿った移動と、タイヤ径方向D2に沿った直線移動と、が可能であることが好ましい。
【0022】
図7に示すように、ノズル80は、金型2の背面2eに接触するノズル先端部80aを有する。ノズル先端部80aは、直径10cmの円以上の大きさを有することが好ましい。ノズル先端部の大きさが、直径10cm以上の円以上であれば、少なくとも2つのベントホールがノズル先端部に入ることが多いので、効率的に清掃可能となる。ノズル先端部80aからの気体又はドライアイスの漏れを抑制するためには、ノズル先端部80aの周縁部に、スポンジやゴム等の弾性部材を設けて、ノズル先端部80aと背面2eとの隙間を無くすことが好ましい。
【0023】
気体供給部81は、ノズル80に接続されており、ノズル80を介して背面2eに開口するベントホール3aの内部に噴射する気体を供給する。気体供給部81としては、ブロア等が挙げられる。
【0024】
ドライアイス供給部82は、ノズル80を介して背面2eに開口するベントホール3aの内部に気体と共に噴射するドライアイスを供給する。ドライアイス供給部82は、気体供給部81とノズル80とを接続する流路にドライアイスを供給することで実現可能となる。
【0025】
なお、ノズル80を金型2の成形面2dに対面する位置に移動可能に構成して、成形面2dに対して気体又はドライアイスを噴射可能に構成してもよい。また、ノズル80は別の第2のノズルを設け、第2のノズルを金型2の成形面2dに対面する位置に移動可能に構成して、成形面2dに対して気体又はドライアイスを噴射可能に構成してもよい。
【0026】
[清掃方法]
装置8の動作を説明する。
図8では、加硫装置から取り外された金型2(セクタ2b)を清掃する例を説明する。まず、タイヤ金型2の背面2eに対して、ノズル80を接触させる。次に、ノズル80を介して背面2eに開口するベントホール3aの内部に気体を噴射する。ノズル80を介して背面2eに開口するベントホール3aの内部に気体と共にドライアイスを噴射することが好ましい。ノズル80は、気体又はドライアイスを噴射しながら、セクタ2bの背面2eに開口する全てのベントホール3aを通るように、セクタ2bの外周面2eに沿って移動する。この際、1つのセクタ2bの全てのベントホール3aに対する気体又はドライアイスの噴射が完了してから、他のセクタ2bの清掃へ移行してもよい。また、複数のセクタ2bの外周面2eが連続するようにセクタ2bを円環状に並べた状態にし、ノズル80を複数のセクタ2bの外周面2eに跨って移動するようにしてもよい。
【0027】
以上のように、本実施形態のタイヤ金型2の清掃方法は、
タイヤ20に接する成形面2dから背面2eまで連通するベントホール3aと、ベントホール3aの内部に固定される筒状弁座5および筒状弁座5を閉止する位置及び開放する位置に移動可能な弁体6を有する開閉弁4と、を有するタイヤ金型2の清掃方法であって、
タイヤ金型2の背面2eに対して、ノズル80を接触させる工程と、
ノズル80を介して背面2eに開口するベントホール3aの内部に気体を噴射する工程と、
を含む。
【0028】
本実施形態のタイヤ金型2の清掃装置8は、
タイヤ金型2に接する成形面2dから背面2eまで連通するベントホール3aと、ベントホール3aの内部に固定される筒状弁座5および筒状弁座を閉止する位置及び開放する位置に移動可能な弁体6を有する開閉弁4と、を有するタイヤ金型2の清掃装置8であって、
タイヤ金型2の背面2eに対して接触可能且つ可動に構成されたノズル80と、
ノズル80を介して背面2eに開口するベントホール3aの内部に噴射する気体を供給する気体供給部81と、
を備える。
【0029】
このように、タイヤ金型2の背面2eに対してノズル80を接触させ、ノズル80を介して背面2eに開口するベントホール3aの内部に気体を噴射するので、開閉弁4における弁体6が筒状弁座5に固着した場合であっても、気体の噴射圧力によって弁体6が稼働し、溜まった煤及び弁体6を固着するゴムカスを効率的に清掃可能となる。
【0030】
本実施形態の方法のように、ノズル80を介して背面2eに開口するベントホール3aの内部に気体と共にドライアイスを噴射することが好ましい。
本実施形態の装置8のように、ノズル80を介して背面2eに開口するベントホール3aの内部に気体と共に噴射するドライアイスを供給するドライアイス供給部82を備えることが好ましい。
【0031】
このようにすれば、固形物であるドライアイスを噴射するので、弁体を稼働させやすく、更に弁体自体を清掃することが可能となる。それでいて、ドライアイスは常温において気化してベントホール及び開閉弁内部で異物として残らないので、固形物による詰まりを防止可能となる。
【0032】
本実施形態のように、金型2は、タイヤ20のトレッド部を成形するセクタ2bであり、セクタ2bの内周面が成形面2dであり、セクタ2bの外周面2eが背面2eであり、ノズル80は、セクタ2bの背面2eに開口する全てのベントホール3aを通るように、セクタ2bの外周面2eに沿って移動することが好ましい。
【0033】
このようにノズル80を移動させれば、複数のベントホール3aを効率的に清掃可能となる。
【0034】
本実施形態のように、前記ノズルのうち前記背面に接触するノズル先端部は、直径10cmの円以上の大きさを有することが好ましい。
【0035】
このように、ノズル先端部80aの大きさが、直径10cm以上の円以上であれば、少なくとも2つのベントホールがノズル先端部に入ることが多いので、効率的に清掃可能となる。
【0036】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0037】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0038】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0039】
2 金型
20 タイヤ
2d 成形面
2e 背面
2e 外周面
3a ベントホール
4 開閉弁
5 筒状弁座
6 弁体
80 ノズル
80a ノズル先端部
81 気体供給部
82 ドライアイス供給部