(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】筋電位測定データ解析プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/397 20210101AFI20230828BHJP
【FI】
A61B5/397
(21)【出願番号】P 2019179903
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【氏名又は名称】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】土屋 諒治
(72)【発明者】
【氏名】矢野 聖二
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-515565(JP,A)
【文献】特表2006-521844(JP,A)
【文献】特開2010-137015(JP,A)
【文献】特表2003-524459(JP,A)
【文献】特開2019-122655(JP,A)
【文献】特開2007-195813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/389
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋電位測定器により生成された波形データからブラキシズムの筋電位測定データを解析するプログラムであって、
平均化処理を行った前記波形データ又は前記波形データに基づくデータのうちから選ばれる
、覚醒時における意識した最大噛み締め及び/又はタッピングよる部分データの最大振幅に基づいて基準となる条件を決定するステップと、
前記基準となる条件を外れる区間、及び、該区間の前後一定時間のデータを不要な部分データとして抽出するステップと、を備える、筋電位測定データ解析プログラム。
【請求項2】
前記抽出した部分データを報知又は自動に除外するステップを有する、請求項1に記載の筋電位測定データ解析プログラム。
【請求項3】
前記筋電位測定器は、ブラキシズムを測定するために被験者の顔の表面に配置することが可能とされている請求項1又は2に記載の筋電位データ解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋電位測定データ解析のためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
筋の緊張状態を推定する方法として筋電位法が知られている。筋電位法は電極を通して筋の緊張に伴って発生する電位(筋電位)を計測することにより、電極の検出範囲にある筋が、どのタイミングでどの程度の強さで緊張しているかを推定することができる。例えば特許文献1には、筋電位測定器を備える筋活動監視システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筋電位測定器により得られた波形データには、商用電源の交流雑音、人の呼吸や体動等によって生じるドリフト雑音、及び、棘波のようなアーチファクトといった周波数成分による雑音等のような各種の雑音による部分のデータが含まれる。これらの雑音による部分のデータは差動増幅器や高低域の遮断フィルタを用いることで除去することが可能である。
【0005】
しかしながら、睡眠時のブラキシズム(歯ぎしり)の有無を判断するために咬筋や側頭筋の筋電位を筋電位測定器により測定する場合、長時間の計測であることに加え、電極と皮膚との接触状態の不安定(寝返り等によるずれ、テープ等の付着性)等により通常よりも雑音によるデータが入ることが多い。特に患者が自宅等において一人で計測できる測定器の場合、顔に配置していない状態で患者自身がスイッチのON/OFFをする可能性が高いため、一般的な筋電位測定器と比較して計測開始直後と計測終了直前にノイズが入り易く、その時間もバラつき易い。このような雑音による部分データは上記した雑音による部分データと種類として同じであるが、上記した方法や装置上の工夫で全て取り除くことは困難である。
特にブラキシズム測定では、一晩に発生する合計回数やその時間平均が評価の1項目となっており、当該雑音による部分データが抽出できないとこれが1回のブラキシズム発生として回数に加算されてしまい、測定精度に影響を与えてしまう。
【0006】
そこで、本発明は上記問題に鑑み、ブラキシズム測定において測定精度を高めることができる筋電位測定データ解析プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、筋電位測定器により生成された波形データからブラキシズムの筋電位測定データを解析するプログラムであって、波形データ又は波形データに基づくデータのうちから選ばれる所定の部分データに基づいて基準となる条件を決定するステップと、条件から外れる部分データを抽出するステップと、を備える、筋電位測定データ解析プログラムである。
【0008】
抽出した部分データを報知又は自動に除外するステップを有するように構成してもよい。
【0009】
また、筋電位測定器は、ブラキシズムを測定するために被験者の顔の表面に配置することが可能とされてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、筋電位測定器により収集された波形データ等から、ブラキシズム以外の原因により発生した雑音による部分のデータを効率よく抽出することができ、ブラキシズムの測定精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1はブラキシズム測定のための筋電位測定の手順を示す図である。
【
図2】
図2はデータの取得S2の過程を示す図である。
【
図3】
図3は得られる波形データの例の一部を示す図である。
【
図4】
図4は得られる波形データの例の一部を示す図である。
【
図5】
図5は得られる波形データの例の一部を示す図である。
【
図6】
図6は取得データの解析S3の過程を示す図である。
【
図7】
図7は電子計算機10の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について形態例に基づき説明する。ただし本発明はこれら形態例に限定されるものではない。
【0013】
ブラキシズム測定のための筋電位測定は例えば
図1に示した手順で行うことができ、ここには筋電位測定器の準備S1、データの取得S2、及び、取得データの解析S3の過程を有する。
【0014】
筋電位測定器の準備S1は、被験者の顔のうちブラキシズムの有無を判断するための咬筋や側頭筋の筋電位を測定することができる筋電位測定器を準備する過程である。
筋電位測定器の種類、筋電位測定器の顔への配置方法等は特に限定されることなく公知の通りであるが、この中でも筋電位測定器は他の機器と接続されておらず、得られた波形データはその本体に着脱可能な保存媒体(例えばマイクロSD等)に逐次保存される形態であることが好ましく、小型(70mm×50mm×20mm以内)であることがさらに好ましい。これにより、測定している間における通常の睡眠の再現性を高めることができ、ブラキシズム測定の精度を高めることができる。また、筋電位測定器の顔部への配置手段も特に限定されることはないが、例えば粘着両面テープによる貼り付け等を挙げることができる。
このように小型で他の部材から独立して配置する筋電位測定器では、雑音による部分データの種類や量が多くなる傾向にあり、後述する本形態の取得データの解析S3により効果的にこのような雑音による波形データの抽出が可能である。
【0015】
データの取得S2は、筋電位測定器により波形データを取得する過程であり、例えば次のように行うことができる。
図2にフローを示した。
図2からわかるように、データの取得S2は、スイッチを入れるS21、筋電位測定器の配置S22、キャリブレーションS23、測定S24、筋電位測定器の取り外しS25、及び、スイッチを切るS26の各過程を含む。各過程については次の通りである。
【0016】
スイッチを入れるS21は、筋電位測定器のスイッチをいれる過程である。本形態ではスイッチを入れた時点から波形データの収集が開始される。
【0017】
筋電位測定器の配置S22では、スイッチを入れるS21の過程でデータ収集が始まった筋電位測定器を被験者の顔面に配置する。詳しくは、被験者の顔のうちブラキシズムの有無を判断するための咬筋や側頭筋の筋電位を測定することができる位置に筋電位測定器を配置する。
【0018】
キャリブレーションS23はキャリブレーション動作をする過程である。キャリブレーション動作とは、被験者に強く噛み締め動作及び/又はタッピング(上下の歯を繰り返し合わせる)等の動作をしてもらうことであり、この動作によりそのときにおける意識された最大噛み締めの波形データを得ることができる。噛み締め動作とタッピング動作の両方をしてもらった時にはそれらの動作を組み合わせた特徴的な波形データを得ることができる。
キャリブレーション動作は一連の測定において1回であるとは限らず、複数回行われてもよい。再度のキャリブレーション動作は、例えば測定中に筋電位測定器が外れた後にこれを再装着した際や計測終了前に行う。
【0019】
測定S24はブラキシズム測定をする過程である。ブラキシズム測定は、通常は一晩に亘って継続し、波形データの収集は中断されずに行われる。
図3乃至
図5には得られる波形データの例の一部を示す。
図3乃至
図5では横軸に時間、縦軸に信号レベルを取っている。
図4、
図5は
図3の波形データの一部を拡大した図である。これらからわかるように、ここまでの波形データには通常時の部分の波形データ及びブラキシズム発生時における部分の波形データの他、スイッチを入れるS21から筋電位測定器の配置S22まで間(取り付け前)の部分の波形データ、キャリブレーションによる部分の波形データ、及び、こすれ等による雑音による部分の波形データが含まれている。
【0020】
筋電位測定器の取り外しS25では、測定S24の過程を終えて筋電位測定器を被験者の顔面から取り外す。このときにはまだ筋電位測定器は作動しており、波形データの収集は継続されている。
【0021】
スイッチを切るS26は、筋電位測定器のスイッチを切る過程である。この時点で波形データの収集が終了する。従って最終的に得られる波形データには、上記の他、筋電位測定器の取り外しS25からスイッチを切るS26までの間の部分の波形データも含まれている。
【0022】
図1に戻って取得データの解析S3について説明する。取得データの解析S3は、データの取得S2で得た波形データ又はこれに基づいて得られたデータを解析してブラキシズムのデータとして精度を高める過程であり、例えば次のように行うことができる。
図6にフローを示した。
図6からわかるように、取得データの解析S3は、基準条件の決定S31、不要部分の抽出S32、不要部分の報知S33、及び、不要部分の削除S34を含んでいる。各過程については次の通りである。なお、ここで「部分データ」とは、波形データ又はこれに基づいて得られたデータのうちの一部のデータを意味する。
【0023】
基準条件の決定S31は、この後の過程である不要部分の抽出S32をする際の要不要を判定する基準となる条件を決める過程である。すなわち、この基準条件の決定S31で決められた条件に基づいて不要な部分データであるかを判定する。
この基準条件は雑音による部分データと雑音による部分データでないことを区別することができれば特に限定されることはなく、
図4に示したように覚醒時における意識した最大噛み締め及び/又はタッピング(キャリブレーション時の動作)による部分データの最大振幅を基準値にとることができる。ただしこれに限らず、例えば睡眠時に記録した最大の噛み締め及び/又はタッピングよる部分データの最大振幅を基準値としてもよい。またこれら最大振幅に所定の係数を乗じた値を基準値とすることもできる。所定の係数は1以上が好ましく、特に意識下と比較して無意識下で発揮される最大筋力の比率以上である1.3以上2.0以下であることがより好ましい。その間でユーザー係数を変更できるようにしてもよい。このような基準条件を決めるための部分データの抽出は手動であるか自動であるかを問わない。例えば噛み締めとタッピングとを連続で行った場合にはその部分データの波形も特徴的になるため、自動に抽出しやすくなる。
なお、基準条件の決定S31に供されるデータは、データの取得S2で得た波形データそのものであってもよいし、この波形データに平均化処理等のような所定の処理を行ったデータであってもよく、この場合は波形データに基づくデータが供される。
また、基準条件には筋電位測定器の測定が可能な電位の大きさの最大値(感度の最大値)を併用してもよい。例えば波形データから決めた基準値と感度の最大値から決めた基準値の最小値を最終的な基準条件として採用することもできる。
【0024】
不要部分の抽出S32は、波形データ又は波形データに基づくデータから、基準条件の決定S31で得られた基準条件に基づいて決まる部分データを抽出する過程である。これにより、ブラキシズム解析としては不要である筋電位測定器の取り付けまでの間の部分データ、筋電測定器の取り外しからスイッチを切るまでの間の部分データ、及び、こすれ等による雑音による部分データを、通常の部分データ及びブラキシズム発生の際の部分データと区別して抽出することができる。
すなわち少なくとも基準条件の決定S31で得た基準条件から外れる部分データ(例えば
図4に「取り付け前」、
図5に「雑音」で示した部分データ)を抽出する。
また、不要部分の区間抽出として、基準条件を外れる区間だけでなくその前後一定時間以上(例えば1分)を不要な部分データと判別したり、一定時間内に基準条件から外れる割合やピークの回数(例えば1分以内に20%以上)を抽出したりしてもよい。これにより精度が悪い可能性のある計測区間を不要部分に設定できる。またこの時間は、睡眠の数時間の計測においてブラキシズム回数や時間平均に影響を及ぼさない程度(例えば10分以内)が好ましく、基準条件を外れる周期より長いこと(例えば10秒以上)が望ましい。そして、その間でユーザーが変更できるようにしてもよい。
また、睡眠時に該当しないため、不要部分としてキャリブレーション動作とその前後の一定時間を含めてもよい。
【0025】
不要部分の報知S33は、不要部分の抽出S32で抽出された部分データを報知する過程である。報知の方法は特に限定されることはないが、波形データ又は波形データに基づくデータの表示の画面上で抽出された部分データを他の部分データとは異なる色で示したり、異なる明るさで示したりすることが挙げられる。
【0026】
不要部分の削除S34は、不要部分の抽出S33で抽出された部分データを削除する過程である。これにより波形データ又は波形データに基づくデータから不要な部分データが削除され、ブラキシズム測定の測定精度を高めることができる。
【0027】
不要部分の報知S33は必要に応じて設ければよく必ずしも設けなくてもよい。すなわち、不要部分の抽出S32により抽出された部分データに対して操作者が確認し、その後に個別又はまとめてこの部分データの削除する指令をしてから不要部分の削除S34が行われるときには、不要部分の報知S33が必要となる。一方、不要部分の抽出S32により抽出された部分データを報知することなく自動に不要部分の削除S34により削除する場合には、必ずしも不要部分の報知S33の過程を有する必要はない。
【0028】
これら各過程が属する取得データの解析S3の過程は、コンピュータ等の電子計算機により行なわれる。すなわち、取得データの解析S3に含まれる基準条件の決定S31、不要部分の抽出S32、不要部分の報知S33、及び、不要部分の削除S34の各過程は、これに対応する各ステップを備えるプログラムを電子計算機が演算してその結果を出力することにより行われる。
図7に説明のための図を示した。
図7からわかるように、電子計算機10は、演算子11、RAM12、記憶手段13、受信手段14、及び出力手段15を備えている。
【0029】
演算子11は、いわゆるCPU(中央演算子)により構成されており、上記した各構成部材に接続され、これらを制御することができる手段である。また、記憶媒体として機能する記憶手段13等に記憶された各種プログラムを実行し、これに基づいて各種データの生成やデータの選択をする手段として演算を行うのも演算子11である。本形態ではこの記憶手段13に、取得データの解析S3に含まれる各過程に対応するステップを有するプログラムが記憶され、これを演算子11で演算して結果を得ている。
【0030】
RAM12は、演算子11の作業領域や一時的なデータの記憶手段として機能する構成部材である。RAM12は、SRAM、DRAM、フラッシュメモリ等で構成することができ、公知のRAMと同様である。
【0031】
記憶手段13は、各種演算の根拠となるプログラムやデータが保存される記憶媒体として機能する部材である。また記憶手段13には、プログラムの実行により得られた中間、最終の各種結果を保存することができてもよい。本形態ではこの記憶手段13に、取得データの解析S3に含まれる各過程に対応するステップを有するプログラムが記憶されている。
【0032】
受信手段14は、筋電位測定器に含まれた着脱可能な記憶媒体に接続され、ここに記憶された波形データを取り入れるための機能を有する部材である。
【0033】
出力手段15は、演算子11の演算により得られた結果のうち外部に出力すべき情報を出力する機能を有する部材であり、本形態ではモニター21が接続され、該モニター21により操作者が画面で結果が見られるようにされている。
【0034】
電子計算機10によれば、筋電位測定器に含まれた着脱可能な記憶媒体から、受信手段14を介して波形データ又は波形データに基づくデータが取り込まれ、記憶手段13に記憶された取得データの解析S3を実行するプログラムに基づき演算子11で演算を行って、その結果を出力手段15を介してモニター21に表示する。なお、電子計算機10に波形データが取り込まれ、電子計算機10で波形データに基づくデータが作成されてもよい。
これにより操作者は、最終的に不要な部分データが削除されて精度が高められたブラキシズム測定結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0035】
10 電子計算機
11 演算子
12 RAM
13 記憶手段
14 受信手段
15 出力手段