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特許7337641環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造
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  • 特許-環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造 図1
  • 特許-環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造 図2
  • 特許-環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造 図3
  • 特許-環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造 図4
  • 特許-環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造 図5
  • 特許-環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造 図6
  • 特許-環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造 図7
  • 特許-環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/447 20060101AFI20230828BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20230828BHJP
   F16J 15/44 20060101ALI20230828BHJP
   F16F 15/126 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
F16J15/447
F16J15/3232 201
F16J15/44 B
F16F15/126 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019186003
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021060110
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【弁理士】
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】杉原 弘恵
(72)【発明者】
【氏名】長浜谷 英明
(72)【発明者】
【氏名】関口 修
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-255814(JP,A)
【文献】特開2010-025138(JP,A)
【文献】特開2017-214994(JP,A)
【文献】実開昭55-020722(JP,U)
【文献】特開2017-067283(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199963(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/447
F16J 15/3232
F16J 15/44
F16F 15/126
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造であって、
前記ポケットは、軸線周りに前記軸線に沿って延びる環状の内周面を有しており、軸線方向において一方の側に凹む前記軸線周りに環状の凹部を形成しており、前記密封装置が取り付けられる被取付対象の貫通穴を貫通する前記軸線周りに回転可能な軸部材又は当該軸部材に取り付けられる機能部材を含む回転系に設けられており、
前記密封装置は、前記軸線周りに設けられた環状のシールリップと、前記軸線方向において前記一方の側に向かって延びる前記軸線周りに設けられた環状のサイドリップとを備えており、前記被取付対象の前記貫通穴に取り付けられて、前記軸部材又は前記機能部材と前記貫通穴との間の密封を図り、
前記ポケットは、第一付属環部材によって形成された第一ポケットと、前記第一付属環部材によって形成された前記第一ポケットの内部に配設された第二付属環部材によって形成された第二ポケットと、からなり、
前記第一付属環部材は、前記回転系が前記機能部材を含まない場合は、前記軸部材に取り付けられ、前記回転系が前記機能部材を含む場合は、前記機能部材とは別体の部材として前記回転系に設けられ、且つ
前記第二付属環部材は、前記第一付属環部材とは更に別体の部材であり、
前記被取付対象に取り付けられた前記密封装置において、前記シールリップは前記軸部材又は前記機能部材に摺動可能に接触し、前記サイドリップは、前記第二ポケットに向かって延びて、前記第二ポケットの内周面との間に環状の間隙を形成して当該第二ポケットによるラビリンスシールを形成し、
前記第一付属環部材は、前記第一ポケットの外周側となる当該第一付属環部材の外周側に複数のフィンを有し、
前記複数のフィンは、前記軸部材又は前記機能部材の回転により前記第一ポケットよりも外周側において、前記軸線に沿って前記軸部材又は前記機能部材から前記被取付対象へ向かって気流を発生させる、環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造。
【請求項2】
前記軸部材には、前記軸線に沿って前記軸部材を貫通する窓部を備え、
前記複数のフィンは、前記窓部の外周側に設けられている、請求項1に記載の環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造。
【請求項3】
一端側となる付け根部が前記第二付属環部材の周面側の一部に固定されたゴム状弾性体からなるリップシール部を更に有し、前記リップシール部は、他端側となる先端部が前記被取付対象と接触するように配置されている、請求項1又は2に記載の環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造。
【請求項4】
トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造であって、
前記トーショナルダンパは、ハブと、当該ハブの外周を覆う軸線を中心とする環状の質量体と、前記ハブと前記質量体との間に配設されて前記ハブと前記質量体とを弾性的に接続するダンパ弾性体とを備え、前記トーショナルダンパは、前記ハブが被取付対象の貫通穴に挿通された状態で回転軸の一端に取り付けられ、
前記オイルシールは、前記軸線を中心とする環状のシールリップと、前記軸線を中心とする環状のサイドリップとを備え、前記被取付対象の前記貫通穴に取り付けられて、前記ハブと前記被取付対象の前記貫通穴との間を密封し、
前記ハブは、前記軸線を中心とする環状のボス部と、当該ボス部の外周側に位置する前記軸線を中心とする環状のリム部と、前記ボス部と前記リム部とを接続する前記軸線を中心とする円盤状の円盤部を備え、
前記トーショナルダンパに取り付けられた前記ハブとは別体に設けられた前記軸線を中心とする環状の第一付属環部材と、当該第一付属環部材の内部に更に設けられた前記軸線を中心とする環状の板金からなるスリンガとを更に備え、
前記第一付属環部材によって第一ポケットが形成され、当該第一ポケット内に前記スリンガによって第二ポケットが形成され、
前記第一付属環部材は、前記第一ポケットの外周側となる当該第一付属環部材の外周側に複数のフィンを有し、
前記オイルシールにおいて、前記シールリップは前記ボス部に直接又は間接的に摺動可能に当接し、前記サイドリップは、前記第二ポケットに向かって延びて、前記第二ポケットの内周面との間に環状の間隙を形成して当該第二ポケットによるラビリンスシールを形成する、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造。
【請求項5】
前記第一付属環部材は、前記第一ポケットの外周側となる当該第一付属環部材の外周側に複数のフィンを有し、
前記複数のフィンは、前記回転軸の回転により前記第一ポケットよりも外周側において、前記軸線に沿って前記被取付対象へ向かって気流を発生させる、請求項4に記載のトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造。
【請求項6】
前記円盤部は、前記軸線に沿って前記円盤部を貫通する窓部を備え、
前記複数のフィンは、前記窓部の外周側に設けられている、請求項5に記載のトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造。
【請求項7】
一端側となる付け根部が前記スリンガの周面側の一部に接続固定されたゴム状弾性体からなるリップシール部を更に有し、前記リップシール部は、他端側となる先端部が前記被取付対象と接触するように配置されている、請求項4~6のいずれか一項に記載のトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、および、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造に関し、例えば、車両等のエンジンの回転軸に発生する捩り振動を吸収するためのトーショナルダンパと、このトーショナルダンパのためのオイルシールとによって形成される密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両のエンジンにおいて、クランクシャフトの一端には、クランクシャフトの回転変動によって発生する捩り振動を低減するために、トーショナルダンパが取り付けられている。一般に、車両のエンジンにおいて、このトーショナルダンパはダンパプーリとして用いられており、動力伝達用のベルトを介して、ウォーターポンプやエアコン用コンプレッサ等の補機にエンジンの動力の一部を伝達する。また、このトーショナルダンパと、クランクシャフトが挿通される例えばフロントカバーの貫通穴との間の空間はオイルシールによって密封されている。
【0003】
従来、車両のエンジンにおいて用いられているトーショナルダンパでは、トルクを上昇させることなく、泥水や砂、ダスト等の異物に対する耐ダスト性を向上させるべく、トーショナルダンパにおけるハブの環状突起部とエンジンにおけるフロントカバーの環状突起部との間の組み合わせによる非接触のラビリンスシール構造を採用している。近年、このような構造において、更に耐ダスト性を向上させる手法として、トーショナルダンパとフロントカバーの間に遠心ファンを設置し、遠心ファンの回転時に発生する気流によりトーショナルダンパとフロントカバーの隙間から侵入するダストを吹き飛ばす技術についても提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-214994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すような遠心ファンの気流を利用した技術においては、一定のダストを吹き飛ばすことができるものの、トーショナルダンパとフロントカバーの隙間から侵入するダストを十分に防ぐことができず、密封構造についての更なる改善が求められていた。また、遠心ファンが停止している状態では気流が全く発生しないため、停止時においてもダストの侵入を有効に抑制する技術の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、従来に比して異物に対する耐ダスト性を更に向上し得る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下の環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造、及び、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造を提供する。
【0008】
[1] 環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造であって、
前記ポケットは、軸線周りに前記軸線に沿って延びる環状の周面を有しており、軸線方向において一方の側に凹む前記軸線周りに環状の凹部を形成しており、前記密封装置が取り付けられる被取付対象の貫通穴を貫通する前記軸線周りに回転可能な軸部材又は当該軸部材に取り付けられる機能部材を含む回転系に設けられており、
前記密封装置は、前記軸線周りに設けられた環状のシールリップと、前記軸線方向において前記一方の側に向かって延びる前記軸線周りに設けられた環状のサイドリップとを備えており、前記被取付対象の前記貫通穴に取り付けられて、前記軸部材又は前記機能部材と前記貫通穴との間の密封を図り、
前記ポケットは、第一付属環部材によって形成された第一ポケットと、前記第一付属環部材によって形成された前記第一ポケットの内部に配設された第二付属環部材によって形成された第二ポケットと、からなり、
前記第一付属環部材は、前記回転系が前記機能部材を含まない場合は、前記軸部材に取り付けられ、前記回転系が前記機能部材を含む場合は、前記機能部材とは別体の部材として前記回転系に設けられ、且つ
前記第二付属環部材は、前記第一付属環部材とは更に別体の部材であり、
前記被取付対象に取り付けられた前記密封装置において、前記シールリップは前記軸部材又は前記機能部材に摺動可能に接触し、前記サイドリップは、前記第二ポケットに向かって延びて、前記第二ポケットの周面との間に環状の間隙を形成して当該第二ポケットによるラビリンスシールを形成し、
前記第一付属環部材は、前記第一ポケットの外周側となる当該第一付属環部材の外周側に複数のフィンを有し、
前記複数のフィンは、前記軸部材又は前記機能部材の回転により前記第一ポケットよりも外周側において、前記軸線に沿って前記軸部材又は前記機能部材から前記被取付対象へ向かって気流を発生させる、環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造。
【0010】
] 前記軸部材には、前記軸線に沿って前記軸部材を貫通する窓部を備え、
前記複数のフィンは、前記窓部の外周側に設けられている、前記[]に記載の環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造。
【0011】
[3] 一端側となる付け根部が前記第二付属環部材の周面側の一部に固定されたゴム状弾性体からなるリップシール部を更に有し、前記リップシール部は、他端側となる先端部が前記被取付対象と接触するように配置されている、前記[1]又は[2]に記載の環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造。
【0012】
] トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造であって、
前記トーショナルダンパは、ハブと、当該ハブの外周を覆う軸線を中心とする環状の質量体と、前記ハブと前記質量体との間に配設されて前記ハブと前記質量体とを弾性的に接続するダンパ弾性体とを備え、前記トーショナルダンパは、前記ハブが被取付対象の貫通穴に挿通された状態で回転軸の一端に取り付けられ、
前記オイルシールは、前記軸線を中心とする環状のシールリップと、前記軸線を中心とする環状のサイドリップとを備え、前記被取付対象の前記貫通穴に取り付けられて、前記ハブと前記被取付対象の前記貫通穴との間を密封し、
前記ハブは、前記軸線を中心とする環状のボス部と、当該ボス部の外周側に位置する前記軸線を中心とする環状のリム部と、前記ボス部と前記リム部とを接続する前記軸線を中心とする円盤状の円盤部を備え、
前記トーショナルダンパに取り付けられた前記ハブとは別体に設けられた前記軸線を中心とする環状の第一付属環部材と、当該第一付属環部材の内部に更に設けられた前記軸線を中心とする環状の板金からなるスリンガとを更に備え、
前記第一付属環部材によって第一ポケットが形成され、当該第一ポケット内に前記スリンガによって第二ポケットが形成され、
前記オイルシールにおいて、前記シールリップは前記ボス部に直接又は間接的に摺動可能に当接し、前記サイドリップは、前記第二ポケットに向かって延びて、前記第二ポケットの周面との間に環状の間隙を形成して当該第二ポケットによるラビリンスシールを形成する、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造。
【0013】
] 前記第一付属環部材は、前記第一ポケットの外周側となる当該第一付属環部材の外周側に複数のフィンを有し、
前記複数のフィンは、前記回転軸の回転により前記第一ポケットよりも外周側において、前記軸線に沿って前記被取付対象へ向かって気流を発生させる、前記[]に記載のトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造。
【0014】
] 前記円盤部は、前記軸線に沿って前記円盤部を貫通する窓部を備え、
前記複数のフィンは、前記窓部の外周側に設けられている、前記[]に記載のトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造。
【0015】
[7] 一端側となる付け根部が前記スリンガの周面側の一部に接続固定されたゴム状弾性体からなるリップシール部を更に有し、前記リップシール部は、他端側となる先端部が前記被取付対象と接触するように配置されている、前記[4]~[6]のいずれかに記載のトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造によれば、従来に比して異物に対する耐ダスト性を更に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るダンパプーリとオイルシールとを用いた密封構造の概略構成を示すための、軸線に沿う断面における部分断面図である。
図2図1に示す密封構造の部分拡大図である。
図3図1に示す密封構造におけるトーショナルダンパの概略構造を示すための背面図である。
図4図1に示す密封構造に用いられる外周に複数のフィンを設けた第一付属環部材の概略構成を示す略線的部分拡大斜視図である。
図5図4に示すフィンの側面視形状を示す側面図である。
図6】複数のフィンにより軸線x方向に沿って外側から内側へ気流が生じる現象の説明に供するフィンを示す平面図である。
図7】複数のフィンにより生じた気流の方向の説明に供する部分拡大断面図である。
図8】本発明の第2の実施の形態に係るダンパプーリとオイルシールとを用いた密封構造の概略構成を示すための、軸線に沿う断面における部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造の概略構成を示すための、軸線に沿う断面における部分断面図である。図2は、図1に示す密封構造の部分拡大図である。図3は、図1に示す密封構造におけるトーショナルダンパの概略構造を示すための背面図である。本発明の第1の実施の形態に係るトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造は、例えば、自動車のエンジンや回転用の密閉にオイルシールを利用するその他の汎用機器に適用することができる。
【0020】
以下、説明の便宜上、軸線x方向において矢印a(図1参照)方向を外側とし、軸線x方向において矢印b(図1参照)方向を内側とする。より具体的には、外側とは、エンジンから離れる方向であり、内側とは、エンジンに近づく方向でありエンジン側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(図1の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(図1の矢印d方向)を内周側とする。
【0021】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造1は、トーショナルダンパとしてのダンパプーリ10と、オイルシール20とを備える。ダンパプーリ10は、エンジンのクランクシャフト51の一端にボルト52によって固定されている。オイルシール20は、エンジンのフロントカバー53の貫通穴54に装着されており、当該フロントカバー53とダンパプーリ10との間を密封している。
【0022】
ダンパプーリ10は、ハブ11と、質量体としてのプーリ12と、ハブ11とプーリ12との間に配設されたダンパ弾性体13とを備える。ハブ11は、軸線xを中心とする環状の部材であり、内周側のボス部14と、外周側のリム部15と、ボス部14とリム部15とを接続する略円盤状の円盤部16とを備える。ハブ11は、例えば、金属材料から鋳造等によって製造されている。
【0023】
ハブ11のボス部14は、貫通穴14aが形成された軸線xを中心とする環状の部分であり、外側(矢印a方向)の部分の外周面から外周側(矢印c方向)に向かって円盤部16が延びている。ボス部14は、円筒状の内側(矢印b方向)の部分の外周側の面である外周面14bを備えている。ボス部14の外周面14bは、滑らかな面となっており、後述するように、オイルシール20のシール面となっている。
【0024】
ハブ11のリム部15は、軸線xを中心とする環状の、より具体的には円筒状の部分であり、ボス部14に対して同心的に当該ボス部14よりも外周側(矢印c方向)に位置する部分である。リム部15の内周側(矢印d方向)の面である内周面15aからは円盤部16が内周側(矢印d方向)に向かって延びている。リム部15の外周側の面である外周面15bにはダンパ弾性体13が圧着されている。
【0025】
円盤部16は、ボス部14とリム部15との間に延びて、ボス部14とリム部15とを接続している。円盤部16は、軸線xに対して垂直な方向に延びていてもよく、軸線xに対して傾斜する方向に延びていてもよい。また、円盤部16は、軸線xに沿う断面(以下、単に「断面」ともいう)が湾曲した形状であっても、真っ直ぐに延びる形状であってもよい。
【0026】
また、図1及び図2に示すように、円盤部16には、円盤部16を内側(矢印b方向)と外側(矢印a方向)との間を貫通する貫通穴である窓部16aが少なくとも1つ形成されており、本実施の形態においては、4つの窓部16aが軸線xに対して同心的に周方向に等角度間隔で形成されている(例えば、図3参照)。この窓部16aによって、ハブ11、ひいてはダンパプーリ10の軽量化が図られている。
【0027】
プーリ12は、軸線xを中心とする環状の部材であり、ハブ11の外周側を覆う形状を呈している。具体的には、プーリ12の内周側(矢印d方向)の面である内周面12aは、ハブ11のリム部15の外周面15bに対応した形状を有している。プーリ12は、その内周面12aがリム部15の外周面15bに径方向(矢印cd方向)において間隔を空けて対向するように位置している。また、プーリ12の外周側(矢印c方向)の面である外周面12bには、環状のv溝12cが複数形成されており、図示しないタイミングベルトが巻回可能である。
【0028】
ダンパ弾性体13は、プーリ12とリム部15との間に設けられている。ダンパ弾性体13は、ダンパゴムであり、耐熱性、耐寒性、及び疲労強度において優れたゴム状弾性材料から架橋(加硫)成形されて形成されている。ダンパ弾性体13は、プーリ12とリム部15との間に圧入されており、プーリ12の内周面12aとリム部15の外周面15bとに嵌着されて固定されている。
【0029】
ダンパプーリ10において、プーリ12とダンパ弾性体13とがダンパ部を形成しており、ダンパ部の捩り方向固有振動数が、クランクシャフト51の捩れ角が最大となる所定の振動数域である、クランクシャフト51の捩り方向固有振動数と一致するように同調されている。つまり、ダンパ部の捩り方向固有振動数がクランクシャフト51の捩り方向固有振動数と一致するように、プーリ12の円周方向の慣性質量と、ダンパ弾性体13の捩り方向剪断ばね定数とが調整されている。
【0030】
上述のように、ダンパプーリ10は、エンジンにおいてクランクシャフト51の一端に取り付けられている。具体的には、クランクシャフト51の一端がハブ11のボス部14の貫通穴14aに挿通され、外側(矢印a方向)からボルト52がクランクシャフト51に螺合されて、ダンパプーリ10がクランクシャフト51に固定されている。また、クランクシャフト51とボス部14との間には、クランクシャフト51とボス部14とに係合する半月キー等のキーが設けられて、ダンパプーリ10がクランクシャフト51に対して相対回動不能になっている。
【0031】
ダンパプーリ10は、クランクシャフト51に取り付けられた状態において、ボス部14の外周面14bのうち内側(矢印b方向)の部分がフロントカバー53の貫通穴54内に挿通された状態になっており、ボス部14の外周面14bと、フロントカバー53との間に環状の空間が形成されている。
【0032】
オイルシール20は、軸線xを中心とする環状の金属製の補強環21と、軸線xを中心とする環状の弾性体から成る弾性体部22とを備える。弾性体部22は、補強環21に一体的に取り付けられている。補強環21の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。弾性体部22の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0033】
補強環21は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部22は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、補強環21は成形型の中に配置されており、弾性体部22が架橋(加硫)接着により補強環21に接着され、弾性体部22が補強環21と一体的に成形される。
【0034】
補強環21は、例えば、断面略L字状の形状を呈しており、円盤部21aと、円筒部21bとを備える(図2参照)。円盤部21aは、軸線xに略垂直な方向に広がる中空円盤状の部分である。円筒部21bは、円盤部21aの外周側(矢印c方向)の端部から軸線x方向において内側(矢印b方向)に延びる円筒状の部分である。
【0035】
弾性体部22は、補強環21に取り付けられており、本実施の形態においては補強環21を外側(矢印a方向)及び外周側(矢印c方向)から覆うように当該補強環21と一体的に成形されている。弾性体部22は、リップ腰部23と、シールリップ24と、ダストリップ25とを備える。
【0036】
リップ腰部23は、補強環21の円盤部21aにおける内周側(矢印d方向)の端部の近傍に位置する部分である。シールリップ24は、リップ腰部23から内側(矢印b方向)に向かって延びる部分であり、補強環21の円筒部21bに対向して配置されている。ダストリップ25は、リップ腰部23から軸線x方向に向かって延びる部分である。
【0037】
シールリップ24は、内側(矢印b方向)の端部に、その断面形状が内周側(矢印d方向)に向かって凸の楔形状の環状のリップ先端部24aを有している。リップ先端部24aは、後述するように、ハブ11のボス部14の外周面14bと摺動可能に当該外周面14bに密接して接触するように形成されており、ダンパプーリ10との間を密封するようになっている。また、シールリップ24の外周側(矢印c方向)には、当該シールリップ24を径方向(矢印cd方向)において内周側(矢印d方向)に押し付けるガータースプリング26が嵌着されている。
【0038】
ダストリップ25は、リップ腰部23から延びる部位であり、外側(矢印a方向)且つ内周側(矢印d方向)に斜めに延出している。ダストリップ25により、使用状態におけるリップ先端部24a方向への異物の侵入の防止が図られている。
【0039】
また、弾性体部22は、外側カバー27と、ガスケット部28とを備える。外側カバー27は、補強環21の円盤部21aを外側(矢印a方向)から覆い、ガスケット部28は、補強環21の円筒部21bを外周側(矢印c方向)から覆っている。
【0040】
また、オイルシール20は、外側(矢印a方向)に向かって延びるサイドリップ29を備える。サイドリップ29の詳細については、図2を用いて後述する。
【0041】
上述のように、オイルシール20は、フロントカバー53の貫通穴54と、ダンパプーリ10のボス部14の外周面14bとの間に形成される空間を密封している。具体的には、オイルシール20は、フロントカバー53の貫通穴54に圧入されて取り付けられ、弾性体部22のガスケット部28が圧縮されて当該フロントカバー53の内周側(矢印d方向)の面である内周面に液密に当接している。これにより、オイルシール20とフロントカバー53の貫通穴54との間が密閉されている。また、シールリップ24のリップ先端部24aが、ハブ11のボス部14の外周面14bに液密に当接し、オイルシール20とダンパプーリ10との間が密閉されている。
【0042】
図1に示す密封構造1は、ダンパプーリ10に取り付けられたハブ11とは別体に設けられた第一付属環部材と、この第一付属環部材の内周側に更に別体に設けられた第二付属環部材とを備えている。図1において、第一付属環部材は、後述する第一ポケット30を画成している環状の第一ポケット形成部材34であり、第二付属環部材は、環状の板金からなるスリンガ44である。第一ポケット形成部材34及びスリンガ44は、回転軸である軸部材としてのボス部14に取り付けられた付属環部材である。以下、第一ポケット形成部材34を第一付属環部材とし、スリンガ44を第二付属環部材とする。第一ポケット形成部材34及びスリンガ44は、ダンパプーリ10に取り付けられたハブ11とオイルシール20との間に配置されている。
【0043】
密封構造1は、第一付属環部材としての第一ポケット形成部材34によって画成された第一ポケット30と、第二付属環部材としてのスリンガ44によって画成された第二ポケット40とを有する。第一ポケット形成部材34は、ボス部14の外周面14bと内周側(矢印d方向)で接続固定される環状の内環部と、第一ポケット形成部材34の外周側(矢印c方向)を構成する環状の外環部と、第一ポケット形成部材34の内環部と外環部とを繋ぐように延びる中間部とを有している。第一ポケット30は、第一ポケット形成部材34の内環部の外周側(矢印c方向)の面である周面33と、第一ポケット形成部材34の外環部の内周側(矢印d方向)の面である周面31と、周面31と周面33との間を繋ぐように延びる底面32と、を備えている。第一ポケット形成部材34によって画成された第一ポケット30は、第一ポケット30の周面33から外周側(矢印c方向)に向かって拡がり、かつ、軸線xに沿って一方の側である外側(矢印a方向)に凹む軸線xを中心とする環状の凹部である。第一ポケット形成部材34の外周側(矢印c方向)に位置する外環部の外周側(矢印c方向)には、後述する複数のフィン70が配設されていることが好ましい。即ち、第一ポケット形成部材34は、後述する複数のフィン70を支持するための支持部材であってもよい。
【0044】
スリンガ44は、軸部材としてのボス部14に対して設けられた鍔部材としての第二付属環部材である。スリンガ44は、ボス部14の外周面14b又は第一ポケット形成部材34の内環部と内周側(矢印d方向)で接続固定される環状の内環部と、スリンガ44の外周側(矢印c方向)を構成する環状の外環部と、スリンガ44の内環部と外環部とを繋ぐように延びる中間部とを有している。スリンガ44は、第一ポケット形成部材34によって形成される第一ポケット30の内部に配置される。このため、第二ポケット40は、第一ポケット30の内部に存在する。第二ポケット40は、第一ポケット30と同様に、第二ポケット40の周面43から外周側(矢印c方向)に向かって拡がり、かつ、軸線xに沿って一方の側である外側(矢印a方向)に凹む軸線xを中心とする環状の凹部である。第一ポケット30及び第二ポケット40の詳細については、図2を用いて後述する。
【0045】
図2は、トーショナルダンパであるダンパプーリ10とオイルシール20とを用いた密封構造1の部分拡大図である。図2に示すように、第一ポケット30を画成する第一ポケット形成部材34は、ハブ11の円盤部16よりも内側(矢印d方向)に、このハブ11とは別体に設けられている。第一ポケット30は、オイルシール20が配置された側から外側(矢印a方向)に向かって凹む軸線xを中心とする環状の凹部である。
【0046】
オイルシール20のサイドリップ29は、一方の側である外側(矢印a方向)に延びており、軸線xと平行に、又は、軸線xに対して外側(矢印a方向)及び外周側(矢印c方向)へ斜めに延びた部位である。
【0047】
特に、オイルシール20のサイドリップ29は、スリンガ44によって画成された第二ポケット40の周面41に向かって延びている。サイドリップ29は、その少なくとも一部が、径方向において第二ポケット40の周面41に対向しており、サイドリップ29の外側(矢印c方向)の端部である外側端29aと、第二ポケット40の周面41との間に、環状の所定の微小な幅の間隙である間隙g1が形成されている。サイドリップ29の外側の端部である外側端29aは、第二ポケット40の周面41に当接していない。
【0048】
サイドリップ29の外側端29aと第二ポケット40の周面41とが形成する環状の間隙g1は、ラビリンスシールを形成している。このため、ダンパプーリ10とフロントカバー53との間に加えて、ハブ11の円盤部16の窓部16aを介して外部から泥水や砂、ダスト等の異物が侵入してきても、サイドリップ29と第二ポケット40とが形成するラビリンスシール(間隙g1)によって、異物が更にシールリップ24側へ侵入することを抑制することができる
【0049】
また、第二ポケット40は、第一付属環部材としての第一ポケット形成部材34によって画成された第一ポケット30内に存在している。この第一ポケット30により、第二ポケット40を画成するスリンガ44を設けるスペースが確保でき、更に、スリンガ44との空間ができることで、ダストが直接サイドリップ29に侵入することを極めて有効に防止することができる。
【0050】
これにより、上述のようにダンパプーリ10から侵入する異物にオイルシール20のシールリップ24が曝されることを抑制することができる。このため、リップ先端部24aが異物を噛み込んで損傷又は劣化し、オイルシール20のシール性能が低下してオイルが漏洩してしまうことを抑制することができる。なお、ダンパプーリ10から侵入する異物とは、ダンパプーリ10とフロントカバー53との間を介して外部から侵入する異物、及びハブ11の円盤部16の窓部16aを介して外部から侵入する異物を含む。
【0051】
かかる構成に加えて、図1図2図4に示すように、第一ポケット形成部材34の外周側(矢印c方向)には、複数のフィン70が配設されていることが好ましい。複数のフィン70は、第一ポケット形成部材34の外周側(矢印c方向)において、軸線xとは垂直な径方向(矢印cd方向)に沿って外周側(矢印c方向)へ延びるように設けられている。例えば、フィン70は、第一ポケット形成部材34の、第一ポケット30の周面31を構成する外環部の外周面上であって、円盤部16の窓部16aの開口端の近傍に設けられている。このように構成することによって、第一ポケット形成部材34の回転に伴って、複数のフィン70がフロントカバー53とハブ11との間を周回して、気流Vを発生させることができる。
【0052】
フィン70は、所定の厚さを有する直方体形状であり、例えば、各種のゴム状弾性部材からなり、複数のフィン70を等間隔に固定する環状の第一ポケット形成部材34に対して架橋(加硫)接着されている。ゴム状弾性部材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。ただし、これに限るものではなく、フィン70を環状の第一ポケット形成部材34に対してプレス加工等により直接形成するようにしてもよい。
【0053】
フィン70は、ダンパプーリ10を内側(矢印b方向)から視たときに、内側(矢印b方向)を向いた正面70a、外周側(矢印c方向)を向いた天井面70b、右側(矢印e方向)を向いた右側面70c、左側(矢印f方向)を向いた左側面70d、および、外側(矢印a方向)を向いた後背面70eを備えている。
【0054】
フィン70の高さについては特に制限はなく、当該フィン70により発生させる気流V(図6参照)の風量、風速、または、風圧等に応じて任意に設定することが可能である。フィン70の高さは任意に設定することができる。
【0055】
図6に示すように、フィン70は、外側(矢印a方向)から内側(矢印b方向)に向かって軸線xから次第に傾くように、当該軸線xに対して所定の傾斜角度θに沿って斜めに配置された状態で第一ポケット形成部材34に設けられている。
【0056】
このフィン70は、環状の第一ポケット形成部材34に周方向に沿って等間隔で複数配置されている。但し、フィン70の数や傾斜角度θについても、当該フィン70により発生させる気流Vの風量、風速、または、風圧等に応じて任意に設定することが可能である。
【0057】
すなわち、矢印A方向に回転した場合、軸線xに対し、傾斜角度θに沿って斜めに等配された複数のフィン70の左側面70dにより内側(矢印b方向)に向かって空気が流れる気流Vを発生させることが可能となる。この気流Vは、複数のフィン70において同時に発生するので、外側(矢印a方向)から内側(矢印b方向)へ向かう気流Vが生じることになる。
【0058】
以上の構成を有する密封構造1においては、図7に示すように、複数のフィン70の回転により気流Vを発生させることができる。具体的には、複数のフィン70の正面70aから軸線x方向に沿って内側(矢印b方向)へ向かう軸線方向気流成分である「軸線方向気流Vx」が主に発生するとともに、複数のフィン70の天井面70bから軸線x方向とは垂直な径方向(cd方向)に沿って外周側(矢印c方向)へ向かう垂直方向気流成分である「垂直方向気流Vz」が発生する。
【0059】
この場合、軸線方向気流Vxは、フィン70の正面70aから内側(矢印b方向)へ向かってフロントカバー53とハブ11と間を横切るように流れた後、フロントカバー53の側面に沿って外周側(矢印c方向)へその流れの向きが変更され、フロントカバー53とハブ11と間から外部へ流出される。同時に、垂直方向気流Vzは、フィン70の天井面70bから外周側(矢印c方向)へ向かってフロントカバー53とハブ11と間から外部へ流出される。
【0060】
このように、複数のフィン70により発生した軸線方向気流Vx及び垂直方向気流Vzにより、フロントカバー53とハブ11との間から異物が侵入し難くなる。さらに、複数のフィン70により発生した軸線方向気流Vx及び垂直方向気流Vzは、双方が合成された状態の気流Vとして、フロントカバー53とハブ11と間から外部へ向かって流出することになる。このとき、気流Vの外部へ向かう風圧は、フロントカバー53とハブ11と間において所謂エアーカーテンのように作用する。
【0061】
これにより、フロントカバー53とハブ11との間からオイルシール20に向かって侵入しようとする異物を気流Vによるエアーカーテンの作用により予め侵入させずに済むため、第一ポケット30及び第二ポケット40内へのダストの侵入を予め防止し、低トルク状態を維持したまま耐ダスト性を向上することができる。このため、これまでに説明したサイドリップ29とスリンガ44とが形成するラビリンスシールによる効果と相俟って、異物がシールリップ24側へ侵入することを極めて有効に抑制することができる。
【0062】
また、密封構造1では、複数のフィン70により気流Vを発生させることにより、フロントカバー53とハブ11との間に熱が籠もることを未然に防止することができる。これにより、ダンパ弾性体13のゴム熱硬化が進行することを阻止し、シール性および耐久性を悪化させずに済む。
【0063】
なお、本実施の形態においては、気流Vを発生させる機構として、図4に示すような複数のフィン70によって構成された、いわゆる軸心ファンを用いた例について説明したが、気流Vを発生させる機構については、図4に示すような構成に限定されることはない。例えば、図示は省略するが、遠心方向に気流を送り出すように複数のフィンが配置された、いわゆる遠心ファンを用いることもできる。
【0064】
複数のフィン70は、円盤部16の窓部16aの外周側に設けられていることが好ましい。このように構成することによって、窓部16aからの気流(及びダスト)が、フロントカバー53の側面に沿って外周側(矢印c方向)に向かい易く、複数のフィン70で更に外周側(矢印c方向)に向けて吹き飛ばすことができる。また、複数のフィン70が配設された環状の第一ポケット形成部材34の円盤部16側の側面(底面32)には孔が形成されていないことが好ましい。このように構成することによって、窓部16aからの気流(及びダスト)が、フロントカバー53の側面に沿って外周側(矢印c方向)により向かい易くなる。
【0065】
<第2の実施の形態>
次いで、本発明の第2の実施の形態に係るトーショナルダンパとしてのダンパプーリ10とオイルシール20とを用いた密封構造3について説明する。本発明の第2の実施の形態に係る密封構造3は、上述の本発明の第1の実施の形態に係る密封構造1に対して、更に、スリンガ44の周面側の一部に固定されたリップシール部80を更に有している。以下、上述の本発明の第1の実施の形態に係る密封構造1と同一の又は類似する機能を有する構成についてはその説明を省略して同一の符号を付し、異なる構成についてのみ説明する。
【0066】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係るダンパプーリ10とオイルシール20とを用いた密封構造3の概略構成を示すための、軸線に沿う断面における部分拡大断面図である。図8に示すように、密封構造3のダンパプーリ10においては、ダンパプーリ10に取り付けられたハブ11とは別体に設けられた第一ポケット形成部材34と、この第一ポケット形成部材34の内周側に別体で更に設けられた環状の板金からなるスリンガ44とを備えている。第一ポケット形成部材34の外周側(矢印c方向)には、複数のフィン70が配設されている。ハブ11とオイルシール20との間には、第一付属環部材としての第一ポケット形成部材34によって第一ポケット30が形成され、この第一ポケット30の内部に、第二付属環部材としてのスリンガ44によって第二ポケット40が形成されている。また、サイドリップ29の外側(矢印c方向)の端部である外側端29aと、第二ポケット40の周面41との間に、環状の所定の微小な幅の間隙である間隙g1が形成されている。そして、サイドリップ29の外側端29aと第二ポケット40の周面41とが形成する環状の間隙g1は、ラビリンスシールを形成している。
【0067】
本実施の形態においては、更に、一端側となる付け根部がスリンガ44の一部に固定されたゴム状弾性体からなるリップシール部80を更に有する。リップシール部80は、他端側となる先端部が被取付対象であるフロントカバー53と接触するように配置されている。ここで、リップシール部80は、上述したようにゴム状弾性体からなり、ハブ11のボス部14の回転により生じる遠心力により、その回転中においてリップシール部80の先端部がフロントカバー53の側面から離間するように構成されている。即ち、リップシール部80の先端部が被取付対象であるフロントカバー53と接触する状態が実現されるのは、ハブ11か回転していない状態(以下、「停止中」ともいう)である。上述したように、回転中においてリップシール部80の先端部がフロントカバー53の側面から離間するため、回転中のトルクの上昇を有効に抑制することができる。
【0068】
リップシール部80は、停止中において、ダンパプーリ10とフロントカバー53との間を介するように配置されており、ダンパプーリ10から侵入する異物にオイルシール20のシールリップ24が曝されることを極めて有効に抑制することができる。例えば、停止中においては、第一ポケット形成部材34の外周側(矢印c方向)に複数のフィン70を配設したとしても、複数のフィン70の回転に伴う気流V(図7参照)が発生しないため、停止中における耐ダスト性を、サイドリップ29と第二ポケット40(別言すれば、スリンガ44)とが形成するラビリンスシールと、フロントカバー53に接触したリップシール部80とによって実現することにより、耐ダスト性の更なる向上を図ることができる。
【0069】
一方で、回転中においては、サイドリップ29と第二ポケット40(別言すれば、スリンガ44)とが形成するラビリンスシールにより耐ダスト性の向上を図ることができる。また、第一ポケット形成部材34の外周側(矢印c方向)に複数のフィン70を配設した場合には、複数のフィン70によって発生した気流V(図7参照)によりフロントカバー53とハブ11との間からの異物の侵入が更に抑制され、サイドリップ29と第二ポケット40(別言すれば、スリンガ44)とが形成するラビリンスシールとともに耐ダスト性の向上が実現される。もちろん、フロントカバー53とハブ11との間にリップシール部80が存在することにより、このリップシール部80が異物に対する障壁にもなる。
【0070】
リップシール部80を構成するゴム状弾性体の材質については特に制限はない。ゴム状弾性部材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0071】
リップシール部80のスリンガ44との固定方法については特に制限はない。例えば、スリンガ44の一部に対してゴム状弾性体を架橋(加硫)接着させてリップシール部80を固定させてもよい。リップシール部80の固定位置としては、環状のスリンガ44の外周側(矢印c方向)の最周面の一部であればよく、このスリンガ44の第二ポケット40の底部42寄りの外側(矢印a方向)であることが好ましい。このように構成することによって、リップシール部80によるシールと、サイドリップ29とスリンガ44とが形成するラビリンスシールとの2段階でのシール性を良好に確保することができる。
【0072】
<他の実施の形態>
以上、本発明の第1及び第2の実施の形態について説明したが、本発明は第1及び第2の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、第1及び第2の実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0073】
例えば、本発明に係る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造は、上述のトーショナルダンパであるダンパプーリ10とそのオイルシール20との間に適用された、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造に限られるものではなく、軸部材又は回転する機能部材と、これらに用いられる密封装置との間に適用されるものであってもよい。例えば、本発明に係る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造は、エンジンの後端や、車輪を保持するためのハブベアリングや、ディファレンシャル装置等に適用することができる。
【0074】
本発明に係る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造をエンジンの後端に適用する場合、クランクシャフトの後端においてケースとクランクシャフトの間の隙間を密封するために用いられるオイルシールが密封装置となり、フライホイールが機能部材となる。そして、フライホイールに直接、第一付属環部材としての第一ポケット形成部材34及び第二付属環部材としてのスリンガ44がフライホイールに取り付けられることにより、第一ポケット30及び第二ポケット40が形成される。
【0075】
また、本発明に係る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造をハブベアリングに適用する場合、外輪と内輪との間の隙間を密封するために用いられるシールが密封装置となり、内輪が軸部材となる。そして、第一ポケット30及び第二ポケット40が第一付属環部材としての第一ポケット形成部材34及び第二付属環部材としてのスリンガ44によって形成され、これらの付属環部材が内輪に取り付けられることにより内輪に各ポケット(第一ポケット30及び第二ポケット40)が形成される。
【0076】
また、本発明に係る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造をディファレンシャル装置に適用する場合、ハウジングと出力軸との間の隙間を密封するために用いられるシールが密封装置となり、出力軸が軸部材となる。そして、第一ポケット30及び第二ポケット40が第一付属環部材としての第一ポケット形成部材34及び第二付属環部材としてのスリンガ44によって形成され、これらの付属環部材が出力軸に取り付けられることにより出力軸に各ポケット(第一ポケット30及び第二ポケット40)が形成される。
【0077】
また、上述のような間隙g1(ラビリンスシール)を形成するスリンガ44及びサイドリップ29、並びに第一ポケット30を画成するための第一ポケット形成部材34をそれぞれ有しているものであれば、ダンパプーリ10、オイルシール20の形態は他の形態であってもよい。なお、第一ポケット形成部材34の外周側(矢印c方向)には、複数のフィン70が配設されていてもよい。
【0078】
更に、第1及び第2の実施の形態におけるダンパプーリ10は、円盤部16を内側(矢印b方向)と外側(矢印a方向)との間で貫通する貫通穴である窓部16aが形成されているものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、窓部16aが形成されていないものに対しても本発明は適用可能である。
【0079】
また、第1及び第2の実施の形態に係るダンパプーリ10とオイルシール20とを用いた密封構造1、3は、自動車のエンジンに適用されるものとしたが、本発明に係る密封構造1、3の適用対象はこれに限られるものではなく、他の車両や汎用機械、産業機械等の回転軸等、本発明の奏する効果を利用し得るすべての構成に対して、本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1、3:密封構造
10:ダンパプーリ(トーショナルダンパ)
11:ハブ
12:プーリ(質量体)
12a:内周面
12b:外周面
12c:v溝
13:ダンパ弾性体
14:ボス部(軸部材)
14a:貫通穴
14b:外周面
15:リム部
15a:内周面
15b:外周面
16:円盤部
16a:窓部
20:オイルシール(密封装置)
21:補強環
21a:円盤部
21b:円筒部
22:弾性体部
23:リップ腰部
24:シールリップ
24a:リップ先端部
25:ダストリップ
26:ガータースプリング
27:外側カバー
28:ガスケット部
29:サイドリップ
29a:外側端
30:第一ポケット(ポケット)
31:周面
32:底面
33:周面
34:第一ポケット形成部材(第一付属環部材)
40:第二ポケット(ポケット)
41:周面
42:底面
43:周面
44:スリンガ(第二付属環部材)
51:クランクシャフト(回転軸)
52:ボルト
53:フロントカバー(被取付対象)
54:貫通穴
70:フィン
70a:正面
70b:天井面
70c:右側面
70d:左側面
70e:後背面
70s:傾斜面
80:リップシール部
g1:間隙(ラビリンスシール)
X:軸線
V:気流
Vx:軸線方向気流(軸線方向気流成分)
Vz:垂直方向気流(垂直方向気流成分)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8