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特許7337698コンジュゲート化のためのシステイン突然変異抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】コンジュゲート化のためのシステイン突然変異抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20230828BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230828BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230828BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230828BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230828BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20230828BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230828BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230828BHJP
【FI】
C07K16/00
C07K19/00 ZNA
A61P35/00
A61K47/68
A61K45/00
A61K38/05
A61K39/395 E
A61K39/395 M
A61K39/395 T
C12N15/13
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019546364
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 US2018020206
(87)【国際公開番号】W WO2018160683
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】62/465,129
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/561,151
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503188759
【氏名又は名称】シージェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワイト,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ライスク,クリス
(72)【発明者】
【氏名】ビーシェレ,トラビス
(72)【発明者】
【氏名】サスマン,ジャンゴ
(72)【発明者】
【氏名】ブルケ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ライスク,ジョセリン
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特許第5427348(JP,B2)
【文献】LI, J. Y. et al.,A Biparatopic HER2-Targeting Antibody-Drug Conjugate Induces Tumor Regression in Primary Models Refractory to or Ineligible for HER2-Targeted Therapy,Cancer Cell,2016年,Vol. 29, No. 1,P. 117-129
【文献】THOMPSON, P. et al.,Rational design, biophysical and biological characterization of site-specific antibody-tubulysin conjugates with improved stability, efficacy and pharmacokinetics,Journal of Controlled Release,2016年,Vol. 236,P. 100-116
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61P
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EU番号付けによる239位及び295位がそれぞれシステインにより占有されている重鎖定常領域を含む抗体であって、該抗体は該システインを介して薬物にコンジュゲート化されている、抗体薬物コンジュゲート。
【請求項2】
該抗体が、2つの重鎖および2つの軽鎖を含むヘテロ二量体であり、該抗体の1つの分子が、両方の重鎖における295位および239位のシステインへのコンジュゲート化により4分子の薬物にコンジュゲート化されている、請求項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項3】
重鎖定常領域がアイソタイプを有し、該アイソタイプがヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である、請求項1または2に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項4】
薬物がチューブリシンである、請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項5】
該抗体がグルクロニドリンカーを介して該薬物にコンジュゲート化されている、請求項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項6】
該抗体が下に示す構造を有する化合物にコンジュゲート化されている、請求項に記載の抗体薬物コンジュゲート
【化1】
【請求項7】
薬物がMMAE、MMAFまたは副溝結合物質である、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項8】
重鎖定常領域が配列番号9~12のいずれかの配列を有し、ただし、C末端リジンが存在しないことが可能である、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項9】
該抗体が、切断可能なリンカーを介して薬物にコンジュゲート化されている、請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項10】
抗体が薬物に直接コンジュゲート化されている、請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項11】
抗体がリンカーを介して薬物にコンジュゲート化されている、請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項12】
請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート及び生理学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項13】
EU番号付けによる239位および295位がシステインにより占有されている重鎖定常領域を含む抗体を含む抗体薬物コンジュゲートの製造方法であって、
該抗体を発現するように操作された細胞を培養すること、ここで該抗体は発現される、 該抗体を精製すること、及び
該抗体を、239位のシステインおよび295位のシステインを介して、薬物にコンジュゲート化すること、を含む、前記製造方法。
【請求項14】
239位および295位のシステイン間のジスルフィド結合の形成を阻害する還元剤と該抗体とを接触させることを更に含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
該細胞を培養する培地内に還元剤を含有させることにより、該抗体と還元剤とを接触させる、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
還元剤がジチオトレイトール、ベータ-メルカプトエタノールまたはトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンである、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
還元剤が0.1~2 mMの濃度のジチオトレイトールである、請求項16に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンジュゲート化のためのシステイン突然変異抗体に関する。
【0002】
関連出願に対する相互参照
本発明は、2017年2月28日付け出願の第62/465,129号および2017年9月20日付け出願の第62/561,151号(それらのそれぞれの全体をあらゆる目的で参照により本明細書に組み入れることとする)の利益を主張するものである。
【0003】
配列表に対する言及
本出願は、2018年2月20日付けで作成された59キロバイトの508682-ST25と称されるtxt配列表(これを参照により本明細書に組み入れることとする)を含む。
【背景技術】
【0004】
抗体の重鎖定常領域は、種々の効果をもたらす多数の変異を受けやすい。これらの効果には、エフェクター機能の増強または低減、安定性または半減期の増加または減少、翻訳後修飾の増強または低減、ならびにコンジュゲート化(conjugation、結合)のための部位の付与が含まれる。S239Cはコンジュゲート化のための部位として記載されているが、単独では2つの重鎖および2つの軽鎖の抗体における2つの薬物分子のローディングを可能にするに過ぎない。コンジュゲート化のための種々の部位は、コンジュゲート化試薬の利用可能性、抗体の発現およびグリコシル化パターン、ならびに抗体薬物コンジュゲートの貯蔵安定性、インビボ半減期および細胞毒性に応じて、適合性に関して様々でありうる。
【発明の概要】
【0005】
特許請求される発明の概要
本発明は、EU番号付け(ナンバリング)による295位がシステインにより占有されている重鎖定常領域を含む抗体または融合タンパク質を提供する。所望により、該抗体または融合タンパク質は295位のシステインを介して薬物または標識にコンジュゲート化されている。所望により、EU番号付けによる239位はシステインにより占有されている。所望により、該抗体または融合タンパク質は、295位および239位のシステインを介して薬物または標識にコンジュゲート化されている。
【0006】
もう1つの実施形態においては、該抗体または融合タンパク質はEU番号付けによる294位のシステインを介して薬物または標識にコンジュゲート化されている。所望により、EU番号付けによる239位はシステインにより占有されている。
【0007】
本発明は更に、2つの重鎖および2つの軽鎖を含むヘテロ二量体としての抗体を提供し、ここで、該抗体の1分子は両方の重鎖における295位および239位のシステインへのコンジュゲート化により薬物の4分子にコンジュゲート化されている。所望により、定常領域はアイソタイプを有し、これはヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である。
【0008】
本発明は更に、2つの重鎖および2つの軽鎖を含むヘテロ二量体としての抗体を提供し、ここで、該抗体の1分子は両方の重鎖における294位および239位のシステインへのコンジュゲート化により薬物の4分子にコンジュゲート化されている。所望により、定常領域はアイソタイプを有し、これはヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である。
【0009】
幾つかの抗体または融合タンパク質においては、薬物はチューブリシン(tubulysin)である。所望により、薬物は、グルクロニドリンカーを介して該抗体にコンジュゲート化される薬物である。所望により、該抗体は、チューブリシンおよびグルクロニドリンカーを提供する以下に示す構造を有する化合物にコンジュゲート化されている。
【0010】
【化1】
【0011】
所望により、薬物はMMAE、MMAFまたは副溝結合物質またはPBDである。所望により、重鎖定常領域は配列番号5~12のいずれかの配列を有しうる。ただし、C末端リジンは存在しないことが可能である。
【0012】
所望により、該抗体または融合タンパク質は、切断可能なリンカーを介して薬物にコンジュゲート化されている。
本発明は更に、前記の抗体または融合タンパク質を含む医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明は更に、チューブリシンMにコンジュゲート化されたシステインによってEU番号付けによる239位が占有されている重鎖定常領域を含む抗体または融合タンパク質を提供する。
【0014】
本発明は更に、EU番号付けによる239位および295位がシステインにより占有されている重鎖定常領域を含む抗体または融合タンパク質の製造方法を提供する。該方法は、該抗体または融合タンパク質をコードするように操作された細胞を培養して該抗体または融合タンパク質を発現させ、該抗体または融合タンパク質を精製することを含む。所望により、該方法は更に、該抗体または融合タンパク質を239位および295位のシステインを介して薬物にコンジュゲート化することを含む。所望により、該方法は更に、239位および295位のシステイン間のジスルフィド結合の形成を阻害する還元剤と該抗体を接触させることを含む。所望により、該抗体または融合タンパク質を培養する培地内に還元剤を含有させることにより、該抗体または融合タンパク質を還元剤と接触させる。所望により、還元剤はジチオトレイトール、ベータ-メルカプトエタノールまたはトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンである。所望により、還元剤は0.1~2 mMの濃度のジチオトレイトールである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、突然変異部位およびグリカン鎖の相対位置を示す抗体構造のモデルを示す。
図2図2は、突然変異の導入がグリカン分布の変化をもたらしたことを示している。
図3図3は、vcMMAE ADCをラット血漿に7日間さらした後のマレイミド安定性を示す。
図4図4は、チューブリシンADCをラット血漿に7日間さらした後のチューブリシン安定性を示す。
図5図5は、2つの突然変異部位においてコンジュゲート化されたチューブリシンADCをラット血漿に7日間さらした後のチューブリシン安定性を示す。
図6図6はチューブリシン安定性をも示す。
図7図7は、二重突然変異を有するADCをラット血漿にさらした後の細胞毒性の相違を示す。
図8図8は腫瘍異種移植モデルにおける種々の抗体薬物コンジュゲートを比較している。
図9図9は腫瘍異種移植モデルにおける種々の抗体薬物コンジュゲートを比較している。
図10図10A:典型的なIgG1グリコシル化パターン、図10B:S239C突然変異グリコシル化パターン、図10C:Q295Cグリコシル化パターン、図10D:S239C/Q295C二重変異グリコシル化パターン。
図11図11:(上)S239C/Q295C突然変異を有するmAbの安定発現のための、(下)S239C/Q295C突然変異を有するmAbの一過性発現のためのグリコシル化パターン。
図12図12:(上)S239C/E294C突然変異mAb、(中)S239C/Q295C突然変異mAb、および(下)野生型グリカンのグリカンパターンのPLRP-MS分析。
図13図13:親mAbにおいて互いに共有結合したH16(S239C)(配列番号21)およびH19(Q295C)(配列番号22)を示す非還元ペプチドマップ。
図14図14:S239C/Q295C突然変異体を使用した場合の産生グリカンならびに細胞培地内の種々のDTTおよびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)濃度を比較する安定発現データ。
図15図15:維持された1.2mMジチオトレイトール(DTT)中で培養された場合の一過性発現されたS293C/Q295C突然変異体のグリカン分析。
【0016】
定義
単離された抗体またはADCは、典型的には、その製造または精製から生じる夾雑タンパク質およびその他の夾雑物で少なくとも50% w/wの純度であるが、抗体が、その使用を容易にすることを目的とする、過剰な製薬上許容されるキャリアー(1つまたは複数)または他の媒体と結びついている可能性は排除されない。抗体またはADCは、製造または精製からの夾雑タンパク質および夾雑物で、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または99% w/wの純度であることもある。
【0017】
抗体の、単独での、またはADCの構成成分としての、標的抗原に対する特異的結合は、少なくとも106、107、108、109、または1010 M-1の親和性を意味する。特異的結合は、検出できるほど大きく、少なくとも1つの無関係な標的に対して生じる非特異的結合から区別することができる。特異的結合は、特定の官能基間の結合の形成、または特別な空間的適合性(たとえば、鍵と鍵穴の様式)の結果であると考えられるのに対して、非特異的結合は通常、ファンデルワールス力の結果である。しかしながら、特異的結合は、モノクローナル抗体が唯一の標的と結合することを、必ずしも意味するものではない。
【0018】
抗体の基本構造単位は、サブユニットの四量体である。それぞれの四量体は、2対のポリペプチド鎖を含み、各ペアは1つの「軽」鎖(約25 kDa)および1つの「重」鎖(約50-70 kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、抗原認識に一義的に関与する、約100-110またはそれ以上のアミノ酸からなる可変領域を含む。この可変領域は、初めは、切断可能なシグナルペプチドに連結されて発現される。シグナルペプチドのない可変領域は、成熟可変領域と呼ばれることもある。したがって、たとえば、軽鎖成熟可変領域は、軽鎖シグナルペプチドを持たない軽鎖可変領域である。各鎖のカルボキシ末端部分は定常領域となる。重鎖定常領域は、エフェクター機能に主に与る。
【0019】
軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類され、それぞれIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEとして抗体のアイソタイプを規定する。軽鎖および重鎖において、可変領域と定常領域は、約12個またはそれ以上のアミノ酸からなる“J”領域によって連結されており、重鎖については約10個またはそれ以上のアミノ酸からなる“D”領域も含まれる。(概略は、Fundamental Immunology (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y., 1989, Ch. 7を参照されたいが、これは参考としてそのまま本明細書に含められる)。
【0020】
それぞれの軽鎖/重鎖ペアの成熟可変領域は、抗体結合部位を形成する。したがって、インタクトな抗体は2つの結合部位を有する。二機能性もしくは二重特異性抗体の場合を除き、2つの結合部位は同一である。その鎖はいずれも、相補性決定領域もしくはCDRとも呼ばれる3つの超可変領域で連結された、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)という、同一の一般構造を示す。各ペアのそれぞれの鎖のCDRはフレームワーク領域によって配置され、特異的なエピトープとの結合が可能になる。軽鎖および重鎖はともに、N末端からC末端に向かって、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含有する。各ドメインへのアミノ酸の割当は、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1987 and 1991)、またはChothia & Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987); Chothia et al., Nature 342:878-883 (1989)、の定義に則している。Kabatは、広く使用されるナンバリング規則(Kabatナンバリング)も提供しており、異なる重鎖間、または異なる軽鎖間で対応する残基には同じ番号が割り振られる。
【0021】
「抗体」という用語は、インタクトな抗体、ならびにその結合フラグメントを含む。典型的には、抗体フラグメントは、標的との特異的結合をめぐって、その起源であるインタクトな抗体と競合するが、そうしたフラグメントには、分離された重鎖、軽鎖、Fab、Fab'、F(ab')2、F(ab)c、ダイアボディ、Dab、ナノボディ、およびFvが含まれる。フラグメントは、組換えDNA技法によって、またはインタクトな免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的分離によって、作製することができる。「抗体」という用語は、ダイアボディ(ホモ二量体Fvフラグメント)もしくはミニボディ(minibody)(VL-VH-CH3)、二重特異性抗体なども含む。二重特異性もしくは二機能性抗体は、2つの異なる重鎖/軽鎖ペア、ならびに2つの異なる結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である(たとえば、Songsivilai and Lachmann, Clin. Exp. Immunol., 79:315-321 (1990); Kostelny et al., J. Immunol., 148:1547-53 (1992)を参照されたい)。「抗体」という用語には、抗体そのもの(ネイキッド抗体)、または細胞傷害性薬物もしくは細胞増殖抑制性薬物に結合された抗体が含まれる。
【0022】
「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、連続したアミノ酸から形成されてもよいが、1つもしくは複数のタンパク質の三次フォールディングによって並置される不連続なアミノ酸から形成されることもある。連続したアミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒に暴露されたときに維持されるのに対して、三次フォールディングにより形成されたエピトープは、変性溶媒による処理で失われる。エピトープは、典型的には、少なくとも3つのアミノ酸、通常はそれ以上の、少なくとも5個、もしくは8-10個のアミノ酸を、ユニークな立体構造の中に含んでいる。エピトープの立体構造を決定する方法には、たとえば、x線結晶構造解析および2次元核磁気共鳴がある。たとえば、Epitope Mapping Protocols, in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed. (1996)を参照されたい。
【0023】
「患者」という用語には、予防的または治療的処置を受けるヒトおよび他の哺乳動物被験体が含まれる。
【0024】
アミノ酸置換を保存的または非保存的として分類するために、アミノ酸を次のようにグループ化する:グループI(疎水性側鎖):Met、Ala、Val、Leu、Ile;グループII(中性親水性側鎖):Cys、Ser、Thr;グループIII(酸性側鎖):Asp、Glu;グループIV(塩基性側鎖):Asn、Gln、His、Lys、Arg;グループV(鎖配向に影響を及ぼす残基):Gly、Pro;およびグループVI(芳香族側鎖):Trp、Tyr、Phe。保存的置換は、同一分類内のアミノ酸の間の置換であることが必要である。非保存的置換は、これらの分類のうち1分類のメンバーを別の分類のメンバーと交換することとなる。
【0025】
配列同一性パーセントは、最大限にアラインされた配列で決定される。
【0026】
配列同一性は、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)などのアルゴリズムを使用しデフォルトのギャップパラメーターを用いて配列をアラインすることによって、または観察と最適なアラインメントによって、求めることができる(すなわち、比較ウィンドウの全体にわたって配列類似性の最高パーセントをもたらす)。配列同一性パーセントは、比較ウィンドウ全体にわたって2つの最適にアラインされた配列を比較し、マッチする位置の数を得るために、両方の配列に同一残基が存在する位置の数を求め、比較ウィンドウにおいてギャップの数を考慮しないでマッチした位置の数を、マッチおよびミスマッチ位置の総数(すなわちウィンドウサイズ)で割って、結果を100倍することによって計算し、配列同一性パーセントを得る。抗体配列はKabatのナンバリング規則によって、同じ番号を付された位置を占める残基が揃うようにアラインされる。アラインメント後、被験配列を基準配列と比較すると、被験配列と基準配列との配列同一性パーセントは、ギャップの数を考慮しないで、被験配列と基準配列の両方で同一のアミノ酸によって占められる位置の数を、2つの領域のアラインされた位置の総数で割って、パーセンテージに変換するために100を掛けたものである。
【0027】
1つもしくは複数の列挙された要素を「含む」組成物または方法は、具体的に列挙されていない他の要素を含んでいてもよい。たとえば、抗体を含む組成物は、抗体を単独で含んでいてもよいが、他の成分と組み合わせて含んでいてもよい。
【0028】
値の範囲の表示(記載)は、その範囲内の、またはその範囲を定めるすべての整数を含む。
【0029】
抗体のエフェクター機能は、IgのFcドメインが寄与する機能のことをいう。そのような機能は、たとえば、抗体依存性細胞傷害、抗体依存性細胞食作用、または補体依存性細胞傷害とすることができる。そうした機能は、たとえば、食作用もしくは溶解作用を有する免疫細胞上のFc受容体へのFcエフェクタードメインの結合によって、または補体系の補体へのFcエフェクタードメインの結合によってなされると考えられる。典型的には、Fcの結合した細胞もしくは補体成分による影響は、結果として標的細胞の阻害および/または不足をもたらす。抗体のFc領域は、Fc受容体(FcR)発現細胞を動員し、そうした細胞を抗体で覆われた標的細胞と近接させることができる。FcγRIII (CD16)、FcγRII (CD32)、およびFcγRIII (CD64)などのIgGに対する表面FcRを発現する細胞は、IgGで覆われた細胞の破壊のためにエフェクター細胞として機能することができる。こうしたエフェクター細胞には、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、および好酸球がある。IgGによるFcγRの結合は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)もしくは抗体依存性細胞食作用(ADCP)を活性化する。ADCCには、膜孔形成タンパク質およびプロテアーゼを介してCD16+エフェクター細胞が関与するのに対して、食作用には、CD32+およびCD64+エフェクター細胞が関与する(Fundamental Immunology, 4th ed., Paul ed., Lippincott-Raven, N.Y., 1997, Chapters 3, 17 and 30; Uchida et al., 2004, J. Exp. Med. 199:1659-69; Akewanlop et al., 2001, Cancer Res. 61:4061-65; Watanabe et al., 1999, Breast Cancer Res. Treat. 53:199-207を参照されたい)。ADCCおよびADCPに加えて、細胞に結合した抗体のFc領域は、補体古典経路を活性化して補体依存性細胞傷害(CDC)を引き起こすこともできる。補体系のC1qは、抗体が抗原と複合体を形成すると、抗体のFc領域に結合する。細胞に結合した抗体とC1qの結合は、C4およびC2のプロテアーゼ活性化に関与するイベントのカスケードを開始させ、C3転換酵素を生成させることができる。C3転換酵素によるC3のC3bへの切断によって、C5b、C6、C7、C8およびC9などの終末補体成分の活性化が可能になる。まとめると、これらのタンパク質は、抗体で覆われた細胞表面に細胞膜障害性複合体孔を形成する。これらの孔は、細胞膜の完全性を破壊し、標的細胞を死滅させる(Immunobiology, 6th ed., Janeway et al., Garland Science, N. Y., 2005, Chapter 2を参照されたい)。
【0030】
「細胞傷害効果」は、標的細胞の減少、除去、および/または死滅を意味する。「細胞傷害性薬物」は、細胞に対する細胞傷害効果を有する薬剤を指す。細胞傷害性薬物は、抗体と結合することができるが、抗体と併用して投与することもできる。
【0031】
「細胞増殖抑制効果」は、細胞増殖の阻害を意味する。「細胞増殖抑制性薬物」は、それによって特定の細胞サブセットの成長および/または増殖を阻害する、細胞に対する細胞増殖抑制効果を有する薬物を指す。細胞増殖抑制性薬物は、抗体と結合することができるが、抗体と併用して投与することもできる。
【0032】
「製薬上許容される」という用語は、動物、より詳細にはヒトに使用するために、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって承認され、もしくは承認可能であること、または米国薬局方もしくは他の一般に認められた薬局方に記載されていることを意味する。「製薬上適合性のある成分」という用語は、抗体もしくはADCと組み合わせられる、製薬上許容される賦形剤、アジュバント、添加剤、または溶媒を指す。
【0033】
「製薬上許容される塩」という表現は、抗体もしくはその複合体、または抗体とともに投与される薬剤の製薬上許容される有機塩もしくは無機塩を指す。例となる塩には、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、過リン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチジン酸塩(gentisinate)、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、糖酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸、およびパモ酸(すなわち1,1’-メチレンビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸))塩がある。製薬上許容される塩は、たとえば酢酸イオン、コハク酸イオンまたは他の対イオンなどの、別の分子を含むことになる。対イオンは、親化合物の電荷を安定化する任意の有機もしくは無機部分であってもよい。さらに、製薬上許容される塩は、その構造内に1つ以上の電荷を帯びた原子を有することがある。複数の荷電原子が製薬上許容される塩の一部であるような事例は、複数の対イオンを有する可能性がある。したがって、製薬上許容される塩は、1つもしくは複数の荷電原子、および/または1つもしくは複数の対イオンを有する可能性がある。
【0034】
文脈からそうでないことが明らかでない限り、「約」という用語は、表示された値の標準偏差の範囲内の値を含む。
【0035】
ヒト化抗体は、非ヒト「ドナー」抗体に由来するCDRをヒト「アクセプター」抗体配列の中につなぎ合わせた遺伝子組換え抗体である(たとえば、Queen, U.S. Pat. Nos. 5,530,101 and 5,585,089; Winter, U.S. Pat. No. 5,225,539, Carter, U.S. Pat. No. 6,407,213, Adair, U.S. Pat. Nos. 5,859,205 6,881,557, Foote, U.S. Pat. No. 6,881,557を参照されたい)。アクセプター抗体配列は、たとえば、成熟ヒト抗体配列、そうした配列の合成物、ヒト抗体配列のコンセンサス配列、または生殖系列領域配列とすることができる。したがって、ヒト化抗体は、ドナー抗体に完全に、または実質的に由来する、好ましくはKabatにより定義されたそのCDR、ならびに、あるとすれば、ヒト抗体配列に完全に、または実質的に由来する、可変領域フレームワーク配列および定常領域を有する抗体である。ナノボディおよびdAb以外は、ヒト化抗体はヒト化重鎖およびヒト化軽鎖を含有する。対応する残基(Kabatにより定義される)の少なくとも85%、90%、95%または100%がそれぞれのCDR間で同一である場合、ヒト化抗体中のCDRは、実質的に、非ヒト抗体中の対応するCDRに由来する。Kabatにより定義される対応する残基の少なくとも85%、90%、95%または100%が同一であるならば、抗体鎖の可変領域フレームワーク配列、または抗体鎖の定常領域は、実質的に、それぞれヒト可変領域フレームワーク配列またはヒト定常領域に由来する。
【0036】
キメラ抗体は、非ヒト抗体(たとえばマウス)の軽鎖および重鎖の成熟可変領域を、ヒトもしくは非ヒト霊長類軽鎖および重鎖定常領域と組み合わせた抗体である。このような抗体は実質的に、または完全に、マウス抗体の結合特異性を保持しているが、3分の2はヒトもしくは非ヒト霊長類配列である。
【0037】
べニア抗体(ベニア化された抗体、veneered antibody)は、複数のCDRの一部、通常すべて、を保持し、非ヒト抗体の非ヒト可変領域フレームワークの一部を保持するが、BまたはT細胞エピトープ、たとえば露出残基(Padlan, Mol. Immunol. 28:489, 1991)に関与する可能性がある他の可変領域フレームワーク残基を、ヒト抗体配列の対応する位置からの残基で置き換えた、ヒト化抗体の一種である。その結果、抗体において、CDRは完全に、または実質的に非ヒト抗体に由来し、非ヒト抗体の可変領域フレームワークは置換によってよりヒトに近くなっている。
【0038】
抗体薬物複合体(ADC)は、薬物と結合した抗体を含む。薬物は、薬理活性、通常は細胞傷害活性または細胞増殖抑制活性を有することが判明し、または推測される化合物である。
【0039】
抗体薬物コンジュゲートの抗体成分が239および/もしくは295位または239および/もしくは294位にシステインを含むと記載されている場合、それは、該コンジュゲート内の薬物へのコンジュゲート化の前に該抗体がシステインを含むことを意味する。該コンジュゲートにおいては、システインは、そのスルフヒドリル基の、薬物またはリンカーへの結合により、誘導体化される。
【0040】
抗体が薬物にコンジュゲート化されていると記載されている場合、連結は、直接的なもの、または1以上の連結部分を介した間接的なものでありうる。
【0041】
詳細な説明
I.全般
本発明は、EU番号付けによる294位または295位にシステインを含む、そして所望により、EU番号付けによる239位にシステインを含む修飾された重鎖定常領域を提供する。これらのシステイン残基は薬物または標識へのコンジュゲート化(conjugation、結合)のための部位を提供する。通常のヘテロ二量体抗体形態においては、重鎖当たり2つのシステインが存在する場合、そのような部位が抗体分子当たり4つ存在して、薬物または標識の4つに対して抗体1分子の化学量論を可能にする。239位のシステインの存在下または非存在下の294位または295位のシステインの選択は、発現の容易さ、安定性および細胞毒性の点で、多数の他の位置におけるシステインと比較して有利である。本発明はまた、チューブリシンMにコンジュゲート化されたEU番号付けによる295位のシステインを含む修飾された重鎖定常領域を提供する。
【0042】
239位、294位および295位のシステインは、疎水性薬物、例えばチューブリシンまたはPBDへのコンジュゲート化に特に有利である。本発明の実施はメカニズムの理解に左右されないが、そのようなコンジュゲート化部位の近傍のグリコシル化は疎水性部分をマスクして、それらの安定性および半減期を増加させると考えられている。
【0043】
II.重鎖定常領域
ヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の典型的な野生型配列は配列番号1~4として示されている。本発明の好ましい定常領域は、295位がシステインにより占有されていること(それぞれ配列番号5~8)、あるいは295位および239位がシステインにより占有されていること(それぞれ配列番号9~12)以外は、配列番号1、2、3または4の配列を有する。本発明の他の好ましい定常領域は、294位がシステインにより占有されていること(それぞれ配列番号13~16)、あるいは294位および239位がシステインにより占有されていること(それぞれ配列番号17~20)以外は、配列番号1、2、3または4の配列を有する。
【0044】
定常領域が、示されているアイソタイプのものであるとみなされるのは、それが、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個以下の置換、欠失または内部挿入において、そのアイソタイプと異なる場合である。ただし、CH1ドメインは、上部ヒンジ領域と同様に、完全に除去されうる。示されている配列番号からの変異は、1つ又は幾つかの自然アロタイプまたはイソアロタイプ変異、エフェクター機能、例えば補体媒介性細胞傷害もしくはADCCを増強もしくは低減するための変異(例えば、Winterら, 米国特許第5,624,821号; Tsoら, 米国特許第5,834,597号; およびLazarら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:4005, 2006を参照されたい)、またはヒトにおける半減期を延長するための変異(例えば、Hintonら, J. Biol. Chem. 279:6213, 2004を参照されたい)に相当することが可能であり、それらに対する典型的な置換には、250位のGlnおよび/または428位(EU番号付け)のLeuが含まれる。他の変異は、例えばN-X-S/TモチーフにおけるN-結合グリコシル化のような翻訳後修飾の部位を付加または除去しうる。変異には、二重特異性抗体の製造のために異なる重鎖の間のヘテロ二量体の形成を促進するための、ノブ(knob)(すなわち、より大きなアミノ酸による1以上のアミノ酸の置換)またはホール(hole)(すなわち、より小さなアミノ酸による1以上のアミノ酸の置換)の導入も含まれうる。ノブおよびホールのペアを形成させるための典型的な置換としては、それぞれ、T336YおよびY407Tが挙げられる(Ridgewayら, Protein Engineering vol.9 no.7 pp.617-621, 1996)。定常領域のC末端からの1以上の残基、特に重鎖上のC末端リジンは、翻訳後修飾の結果として喪失しうる。
【0045】
修飾された定常領域、およびそのような定常領域を含む抗体または融合タンパク質は、好ましくは、発現の容易さ、安定性、グリコシル化の低下、コンジュゲート化の可能性、ならびに実質的に変化しないエフェクター機能および抗原に対するアフィニティにより特徴づけられる。すなわち、結合アフィニティは、典型的には、実験誤差内で同一であり、あるいは、アイソタイプが適合した野生型定常領域を有する適切な対照抗体の2または3倍の少なくとも範囲内である。エフェクター機能に関しても同様である。
【0046】
アイソタイプ適合対照と比較した場合の、修飾定常領域または修飾定常領域を含む抗体もしくは融合タンパク質の免疫原性は、チャレンジの際のT細胞増殖または樹状突起成熟からインビトロで(Gaitondeら, Methods Mol. Biol. 2011;716:267-80)、あるいは、集団間で投与抗体に対する反応性抗体の頻度を比較することによりインビボで評価されうる。修飾定常領域または修飾定常領域を含む抗体もしくは融合タンパク質の免疫原性は、好ましくは、アイソタイプ適合対照とは有意には異ならず、あるいは、アイソタイプ適合対照より2、3または5倍大きいことより劣悪ではない。
【0047】
III.抗体および融合タンパク質
前記の修飾重鎖定常領域は抗体または融合タンパク質内に組込まれうる。例えば、2価単一特異性抗体の発現のためには、修飾重鎖定常領域は、重鎖可変領域に融合した形態で、そして軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を含む軽鎖と共に発現される。重鎖および軽鎖は重鎖のCH1領域および軽鎖定常領域を介して互いに結合して、ヘテロ二量体を形成する。ついで2つのヘテロ二量体は、通常の抗体の場合と同様に、IgG重鎖のヒンジ、CH2およびCH3領域の結合によりペアを形成して、四量体単位を形成する。二重特異性抗体の発現のためには、修飾重鎖定常領域は、異なる標的特異性の2つの重鎖可変領域のそれぞれに融合した形態で発現される。それらの重鎖のそれぞれは、共発現した軽鎖と合体することが可能であり、該重鎖-軽鎖複合体は、両方の重鎖が存在するヘテロ二量体を形成しうる。軽鎖可変領域は単位内で同じ(例えば、US 20100331527A1を参照されたい)または異なりうる。
【0048】
修飾定常領域は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ベニヤ(veneered)抗体またはヒト抗体を含む任意のタイプの操作された抗体と共に使用されうる。抗体はモノクローナル抗体または遺伝子操作されたポリクローナル抗体調製物でありうる(US 6,986,986を参照されたい)。
【0049】
融合タンパク質の場合、修飾定常領域は、異種ポリペプチドに結合した形態で発現される。融合タンパク質内の異種ポリペプチドは、免疫グロブリン定常領域に天然では結合していないポリペプチドである。そのようなポリペプチドは、完全長タンパク質、または完全長タンパク質により結合される抗原への特異的結合を保有するのに十分な長さのその任意の断片でありうる。例えば、異種ポリペプチドは受容体細胞外ドメインまたはそれに対するリガンドでありうる。異種ポリペプチドは定常領域のN末端における結合領域を提供し、単に結合領域と称されることもある。IgG CH1領域は、典型的には、融合タンパク質のための定常領域内に含まれない。ヒンジ領域またはその一部、特に上部ヒンジ領域は時には除去され、または合成リンカーペプチドにより置換される。典型的な受容体タンパク質であって、その細胞外ドメインが本発明の修飾重鎖定常領域と組合されうるものには、TNF-アルファ受容体ECD、LFA-3 ECD、CTLA-4 ECD、IL-1R1 ECD、TPO模倣物、VEGFR1またはVEGFR2 ECDが含まれる。
【0050】
IV.抗体発現
抗体鎖または融合タンパク質をコードする核酸は固相合成、重複オリゴヌクレオチド断片のPCR増幅または既存核酸の部位特異的突然変異誘発により製造されうる。そのような核酸は発現ベクター内で発現される。ベクターは、修飾重鎖定常領域および/またはヒト軽鎖定常領域をコードするように設計されることが可能であり、この場合、それらは、挿入された重鎖および軽鎖可変領域または異種ポリペプチドとの融合物として発現されうる。
【0051】
ベクター内の複製起点および発現制御要素(プロモーター、エンハンサー、シグナルペプチドなど)は、種々の細胞型、例えば細菌、酵母または他の真菌、昆虫細胞、および哺乳類細胞における使用のために設計されうる。哺乳類細胞は、本発明の抗体または融合タンパク質をコードするヌクレオチドセグメントを発現するための好ましい宿主である(Winnacker, From Genes to Clones, (VCH Publishers, NY, 1987)を参照されたい)。無傷異種タンパク質を分泌しうる多数の適切な宿主細胞系が当技術分野において開発されており、CHO細胞系、種々のCOS細胞系、HeLa細胞、HEK293細胞、L細胞および非抗体産生骨髄腫(Sp2/0およびNS0を含む)を含む。好ましくは、細胞は非ヒト細胞である。好ましくは、本発明の抗体または融合タンパク質はモノクローナル細胞系から発現される。
【0052】
これらの細胞の発現ベクターは発現制御配列、例えば複製起点、プロモーター、エンハンサー(Queenら, Immunol. Rev. 89:49 (1986))、および必要なプロセシング情報部位、例えばリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写ターミネーター配列を含みうる。好ましい発現制御配列は、内因性遺伝子、サイトメガロウイルス、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルスなどに由来するプロモーターである。Coら, J. Immunol. 148:1149 (1992)を参照されたい。
【0053】
細胞は、発現される抗体または融合タンパク質をコードする1以上のベクターでトランスフェクトされる。多鎖抗体の場合、重鎖および軽鎖は、同じまたは別々のベクター上で発現されうる。多重特異性複合体の発現のためには、該複合体の成分(すなわち、異なる抗体または融合タンパク質)をコードするDNAは、同じまたは異なるベクター上に存在しうる。
【0054】
抗体または融合タンパク質鎖は発現され、シグナルペプチドの除去のためにプロセシングされ、合体(集合)され、宿主細胞から分泌される。抗体または融合タンパク質は通常の抗体精製方法により細胞培養上清から精製されうる。ハイブリッド定常領域がIgG部分を含む場合、精製は、アフィニティ試薬としてプロテインAまたはプロテインGを使用するクロマトグラフィー工程を含みうる。イオン交換、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーまたはHPLCのような通常の抗体精製方法も用いられうる(全般的には、Scopes, Protein Purification (Springer-Verlag, NY, 1982)を参照されたい)。
【0055】
幾つかの方法においては、重鎖が(a)239位および(b)294または295位の両方の位置にシステインを含む抗体または融合タンパク質を、コンジュゲート化の前に還元剤で処理して、ジスルフィド結合、特に、239位および294または295位のシステイン間の分子内ジスルフィドの形成を妨げる。好ましくは、還元剤は、抗体を培養するために使用される培地内に含有させる。スルフヒドリル結合を保護するための適切な還元剤の例には、ジチオスレイトール、ベータメルカプトエタノールまたはトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンまたはそれらの任意の組合せが含まれる。好ましい還元剤は培地内のジチオスレイトールである。培地内のジチオスレイトールまたは他の還元剤の濃度は、例えば、0.1~5 mM、または0.5~2.5、または0.9~1.5 mMでありうる。
【0056】
逆に、239位および294または295位にシステインを含有する抗体または融合タンパク質を、還元剤を含有しない培地内で培養すると、GlcNacのトリおよびテトラ・アンテナ分岐ならびに/または過シアル化が生じる。
【0057】
V.抗体薬物コンジュゲート
重鎖定常領域内に導入されたシステイン残基は、抗体薬物コンジュゲート(ADC)としての薬物、特に細胞毒性部分または細胞増殖抑制性部分へのコンジュゲート化のための部位を提供する。裸抗体と比較して、ADCは追加的なメカニズム、特に、抗体に結合した毒性部分の、細胞内部への送達をもたらし、それにより、細胞を殺し、またはその増殖を阻害する。現在、以下の4つのADCが販売されている:ブレンツキシマブ・ベドチン(brentuximab vedotin)(抗CD30、商品名:ADCETRIS(登録商標);Seattle GeneticsおよびMillennium/Takedaにより販売されている)、トラスツズマブ・エムタンシン(trastuzumab emtansine)(抗HER2、商品名:Kadcyla(登録商標);GenentechおよびRocheにより販売されている)、イノツズマブ・オゾガマイシン(inotuzumab ozogamicin)(抗CD22、商品名Besponsa;Pfizerにより販売されている)およびゲムツズマブ・オゾガマイシン(gemtuzumab ozogamicin)(抗CD33、商品名:Mylotarg;Pfizerにより販売されている)。他の多数のADCは種々の開発段階にある。
【0058】
薬物と抗体とを結合するための技法はよく知られている(たとえば、Arnon et al., “Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy,” in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy (Reisfeld et al. eds., Alan R. Liss, Inc., 1985); Hellstrom et al., "Antibodies For Drug Delivery," in Controlled Drug Delivery (Robinson et al. eds., Marcel Dekker, Inc., 2nd ed. 1987); Thorpe, "Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review," in Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications (Pinchera et al. eds., 1985); "Analysis, Results, and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy," in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy (Baldwin et al. eds., Academic Press, 1985); およびThorpe et al., 1982, Immunol. Rev. 62:119-58を参照されたい。また、たとえばWO 89/12624も参照されたい。)。
【0059】
システインは遊離スルフヒドリル基を含有し、これはアミンよりも求核性が強く、通常、タンパク質においてもっとも反応性の高い官能基である。スルフヒドリルはほとんどのアミンとは異なり、中性pHにおいて反応性が高いので、アミンの存在下で選択的に他の分子と結合することができる。この選択性によって、スルフヒドリル基は抗体を連結するための最適なリンカーとなる。抗体分子当たりの薬物分子数の平均は、多くの場合1、2、3、または4個である。
【0060】
薬物は、それが(たとえば、加水分解によって、抗体分解によって、または切断試薬によって)抗体から切り離されない限り、その活性を小さくするように、結合することができる。こうした薬物は切断可能なリンカーによって抗体に結合されるが、このリンカーは標的細胞の細胞内環境中での切断に対しては感受性であるが、細胞外環境に対しては実質的に感受性でないリンカーであって、その複合体は、標的細胞によって内部移行されると(たとえば、エンドソーム環境中、または、たとえばpH感受性もしくはプロテアーゼ感受性によって、リソソーム環境中で、またはカベオラ環境中で)抗体から切断されることになる。
【0061】
典型的には、ADCは薬物と抗体の間にリンカー領域を含んでなる。リンカーは、細胞内条件下で切断可能となり、そうしてリンカーの切断は細胞内環境中で(たとえば、リソソームまたはエンドソームまたはカベオラの内部で)抗体から薬物を遊離させることになる。リンカーは、たとえば、リソソームプロテアーゼもしくはエンドソームプロテアーゼなどの細胞内ペプチダーゼもしくはプロテアーゼ酵素によって切断される、ペプチドリンカーとすることができる。典型的には、ペプチドリンカーは少なくとも2アミノ酸長または少なくとも3アミノ酸長である。切断作用物質には、カテプシンBおよびC、ならびにプラスミンを含めることができる(たとえば、Dubowchik and Walker, 1999, Pharm. Therapeutics 83:67-123を参照されたい)。もっとも典型的なのは、標的細胞内に存在する酵素によって切断可能なペプチドリンカーである。たとえば、がん組織中で高度に発現される、チオール依存性プロテアーゼであるカテプシンBによって切断可能なペプチドリンカーを使用することができる(たとえば、Phe-LeuまたはGly-Phe-Leu-Glyペプチドを含有するリンカー)。このようなリンカーは他に、たとえば、US 6,214,345に記載されている。細胞内プロテアーゼにより切断可能なペプチドリンカーの例には、Val-CitリンカーまたはPhe-Lysジペプチドが含まれる(たとえば、US 6,214,345を参照されたいが、これはVal-Citリンカーを有するドキソルビシンの合成を記載する)。薬物の細胞内プロテアーゼ遊離を用いることの利点は、その薬剤が結合されているときには通常、弱められており、その複合体の血清安定性が通常は高いという点である。
【0062】
切断可能なリンカーは、pH感受性、すなわち特定のpH値における加水分解に対して感受性であってもよい。典型的には、pH感受性リンカーは、酸性条件下で加水分解可能である。たとえば、たとえば、リソソーム内で加水分解可能な、酸に不安定なリンカー(たとえば、ヒドラゾン、セミカルバゾン、チオセミカルバゾン、cis-アコニット酸アミド、オルトエステル、アセタール、ケタールなど)を使用することができる(たとえば、US 5,122,368; 5,824,805; 5,622,929; Dubowchik and Walker, 1999, Pharm. Therapeutics 83:67-123; Neville et al., 1989, Biol. Chem. 264:14653-14661を参照されたい)。このようなリンカーは、血中のような中性pH条件下では比較的安定であるが、リソソームのおおよそのpHであるpH 5.5ないし5.0より低いpHでは不安定である。このような加水分解可能なリンカーの一例が、チオエーテルリンカーである(たとえばアシルヒドラゾン結合を介して薬物に結合されるチオエーテルなど(たとえばUS 5,622,929を参照されたい))。
【0063】
他のリンカーは還元条件下で切断可能である(たとえばジスルフィドリンカー)。ジスルフィドリンカーには、SATA (N-スクシンイミジル-S-アセチルチオ酢酸)、SPDP (N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸)、SPDB (N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)酪酸) およびSMPT (N-スクシンイミジル-オキシカルボニル-alpha-メチル-alpha-(2-ピリジル-ジチオ)トルエン)、を用いて作製できるリンカーが含まれる(たとえば、Thorpe et al., 1987, Cancer Res. 47:5924-5931; Wawrzynczak et al., In Immunoconjugates: Antibody Conjugates in Radioimagery and Therapy of Cancer (C. W. Vogel ed., Oxford U. Press, 1987を参照されたい。またU.S. Patent No. 4,880,935も参照されたい)。
【0064】
リンカーは、マロン酸リンカー(Johnson et al., 1995, Anticancer Res. 15:1387-93)、マレイミドベンゾイルリンカー(Lau et al., 1995, Bioorg-Med-Chem. 3(10):1299-1304)、または3’-N-アミドアナログ(Lau et al., 1995, Bioorg-Med-Chem. 3(10):1305-12)であってもよい。
【0065】
リンカーは、薬物にじかに(直接)結合している、マレイミド-アルキレン-またはマレイミド-アリールリンカーのような切断できないリンカーであってもよい(たとえば薬物)。活性のある薬物-リンカーは、抗体の分解によって遊離される。
【0066】
リンカーは、抗体上に存在する基と反応する官能基を含んでなるものである。たとえば、リンカーは、リンカーの硫黄原子と抗体の硫黄原子との間のジスルフィド結合を介して、抗体に連結されることがある。別の例として、リンカーは、伸長単位(stretcher unit)のマレイミド基を介して抗体の硫黄原子との結合を形成することができる。硫黄原子は、鎖間ジスルフィドのシステイン残基、または抗体に導入されたシステイン残基に由来するものとすることができる。
【0067】
抗体に結合できる細胞傷害性薬物の有用な種類としては、たとえば、抗チューブリン薬、DNA副溝結合薬、DNA複製阻害薬、化学療法増感薬、ピロロベンゾジアゼピン二量体などが挙げられる。他の種類の細胞傷害性薬物の例としては、アントラサイクリン、アウリスタチン、カンプトテシン、デュオカルマイシン、エトポシド、マイタンシノイド、およびビンカアルカロイドがある。細胞傷害性薬物の例の中には、アウリスタチン(たとえば、アウリスタチンE、AFP、MMAF、MMAE)、DNA副溝結合薬(たとえば、エンジインおよびレキシトロプシン)、デュオカルマイシン、タキサン(たとえば、パクリタキセルおよびドセタキセル)、ビンカアルカロイド、ドキソルビシン、モルホリノドキソルビシン、およびシアノモルホリノドキソルビシンなどもある。
【0068】
細胞傷害性薬物は、化学療法薬、たとえば、ドキソルビシン、パクリタキセル、メルファラン、ビンカアルカロイド、メトトレキサート、マイトマイシンC、またはエトポシドなどとすることができる。薬物はまた、CC-1065アナログ、カリケアミシン、マイタンシン、ドラスタチン10のアナログ、リゾキシン、またはパリトキシンとすることもできる。
【0069】
細胞傷害性薬物はアウリスタチンであってもよい。アウリスタチンは、アウリスタチンE誘導体、たとえばアウリスタチンEとケト酸との間で形成されるエステル、とすることができる。たとえば、アウリスタチンEは、パラアセチル安息香酸またはベンゾイル吉草酸と反応させて、それぞれAEBおよびAEVBを生成することができる。他の典型的なアウリスタチンとしては、アウリスタチンフェニルアラニンフェニレンジアミン(AFP)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、およびモノメチルアウリスタチンE(MMAE)がある。さまざまなアウリスタチンの合成および構造は、たとえば、US 2005-0238649およびUS2006-0074008に記載されている。
【0070】
細胞傷害性薬物はDNA副溝結合薬とすることができる。(たとえばUS 6,130,237を参照されたい)。たとえば、副溝結合薬は、CBI化合物またはエンジイン(たとえばカリケアミシン)とすることができる。もう1つのタイプの副溝結合薬は、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)二量体である。PBDは、そのN10-C11イミン/部分を介した、DNAの副溝内にあるグアニン残基のC2位アミノ基との共有結合によって、その生物活性を発揮する。例示的な抗体-薬物コンジュゲートとしては、PBDに基づく抗体-薬物コンジュゲート、すなわち、薬物構成要素がPBD薬物である抗体-薬物コンジュゲートが挙げられる。
【0071】
PBDは次の一般構造を有する:
【化2】
【0072】
これらのPBDは、芳香環Aおよびピロール環Cの両方で、置換基の数、種類、および位置が異なり、C環の飽和度が異なる。B環では、N10-C11の位置に、イミン(N=C)、カルビノールアミン(NH-CH(OH))、またはカルビノールアミンメチルエーテル(NH-CH(OMe))のいずれかが存在し、これがDNAのアルキル化に関与する求電子中心となる。既知の天然物はすべて、キラルC11a位においてS型の立体配置を有し、そのためPBDは、C環からA環に向かって見たときに、右巻きとなっている。このことが、B型DNAの副溝(マイナーグルーブ)と同じらせん性であるための適切な三次元形状をPBDに与え、結合部位におけるぴったりしたフィットをもたらす。副溝において付加物を形成するPBDの能力によって、PBDはDNAプロセシングに干渉することが可能になり、したがって、PBDを抗腫瘍薬として使用することが可能になる。
【0073】
これらの分子の生物活性は、2つのPBD単位を、フレキシブルリンカーを介してC8/C’-ヒドロキシル官能基によって繋ぎ合わせることによって強化することができる。PBD二量体は、パリンドローム5’-Pu-GATC-Py-3’鎖間架橋のような配列選択的DNA損傷を形成すると考えられ、それが主にPBD二量体の生物活性に関与していると考えられる。
【0074】
ある実施形態において、PBDベースの抗体薬物複合体は、抗体に連結されたPBD二量体を含んでなる。PBD二量体を形成する単量体は、同一でも別々でもよく、すなわち対照または非対称とすることができる。PBD二量体は、リンカーと結合するのに適した任意の位置で抗体に連結することができる。たとえば、ある実施形態において、PBD二量体は、C2の位置に抗体とその化合物を連結するためのアンカーとなる置換基を有することがある。別の実施形態において、PBD二量体のN10の位置が、抗体とその化合物を連結するためのアンカーとなることがある。
【0075】
典型的には、PBDベースの抗体薬物複合体は、PBD薬物と、原発がんの抗原に結合する抗体との間にリンカーを含んでなる。リンカーは、切断可能なユニット(たとえば、酵素の標的基質となるアミノ酸もしくはアミノ酸の連続配列)、または切断できないリンカー(たとえば、抗体の分解により遊離されるリンカー)を含む可能性がある。リンカーはさらに、抗体との結合のためにマレイミド基、たとえばマレイミドカプリルを含んでいてもよい。リンカーは、実施形態によっては、さらに、たとえばp-アミノベンジルアルコール (PAB)ユニットのような自壊性基を含有することもある。
【0076】
複合体用のPBDの例は、WO 2011/130613に記載され、下記のとおりであるが、式中の波線はリンカーとの結合部位を示しており、あるいはその製薬上許容される塩である。
【0077】
【化3】

リンカーの例は次のとおりであるが、式中の波線は薬物との結合部位を示しており、抗体はマレイミド基で連結される。
【0078】
【化4】
【0079】
PBDベースの抗体薬物複合体の例には、以下に示す抗体薬物複合体(式中、Abは本明細書に記載の抗体である)
【化5】
またはその製薬上許容される塩がある。薬物負荷量は、抗体当たりの薬物リンカー分子の数、pで表される。
【0080】
細胞傷害性もしくは細胞増殖抑制性薬物は、抗チューブリン薬とすることができる。抗チューブリン薬の例には、タキサン(たとえばタキソール(登録商標)(パクリタキセル)、タキソテール(登録商標)(ドセタキセル))、T67 (Tularik)、ビンカアルカロイド(たとえばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、およびビノレルビン)、およびアウリスタチン(たとえばアウリスタチンE、AFP、MMAF、MMAE、AEB、AEVB)がある。アウリスタチンの例を以下の図III-XIIIに示す。他の適当な抗チューブリン薬には、たとえば、バッカチン誘導体、タキサンアナログ(たとえばエポチロンAおよびB)、ノコダゾール、コルヒチンおよびコルセミド、エストラムスチン、クリプトフィシン、セマドチン、マイタンシノイド、コンブレタスタチン、ディスコデルモリド、およびエリュテロビンなどがある。
【0081】
細胞傷害性薬物は、別の一群の抗チューブリン薬であるマイタンシノイドとすることができる。たとえば、マイタンシノイドは、マイタンシン、またはDM-1もしくはDM-4などの薬物リンカーを含有するマイタンシンとすることができる(ImmunoGen, Inc.; see also Chari et al., 1992, Cancer Res. 52:127-131)。
【0082】
抗体薬物複合体の例として、次のvcMMAEおよびmcMMAF抗体薬物複合体が挙げられるが、このpは薬物負荷量を表し、典型的には1から4の範囲であって、好ましくは2又は4であり、Abは抗体である。
【0083】
【化6】
vcMMAE
【0084】
【化7】
mcMMAF
【0085】
抗体へのコンジュゲート化のための他の細胞毒性物質としては、チューブリシンおよびその類似体が挙げられ、これは、以下に例示する抗チューブリン物質のもう1つのグループである。
【0086】
幾つかの態様においては、それらの細胞毒性物質はベータ-グルクロニドリンカーを介して抗体にコンジュゲート化される。グルクロニドリンカーは、バリン-シトルリンおよびバリンアラニンのようなプロテアーゼ切断可能リンカーに代わる親水性代替物であり、細胞内ベータ-グルクロニダーゼを利用して薬物放出を開始させる。
【0087】
295または294位および239位の二重システイン変異体は疎水性薬物へのコンジュゲート化に特に適している。なぜなら、グリカン残基の近傍のコンジュゲート化部位は、疎水性薬物を遮蔽(マスク)するように働くからである。これらの細胞毒性物質に結合するチューブリシンおよびグルクロニドリンカーはWO2016040684に更に詳細に記載されている。
【0088】
二重システイン残基へのコンジュゲート化のためのグルクロニド結合チューブリシン薬物リンカー化合物の非限定的な例は、チューブリシン薬物単位がチューブリシンMまたはデスメチルチューブリシンMである化合物8および9(後記)により示される。チューブリシンMは(αS,γR)-γ-[[[2-[(1R,3R)-1-(アセチルオキシ)-4-メチル-3-[メチル[(2S,3S)-3-メチル-2-[[[(2R)-1-メチル-2-ピペリジニル]カルボニル]アミノ]-1-オキソペンチル]アミノ]ペンチル]-4-チアゾリル]カルボニル]アミノ]-α-メチル-ベンゼンペンタン酸としても公知であり、CAS番号936691-46-2を有する。
【化8】
グルクロニドリンカーに連結されたチューブリシンMのエーテル変異体を前記に示す。
【0089】
グルクロニドに基づくチューブリシン薬物リンカー化合物8ならびにそのチューブリシンエステルおよびエーテル変異体(それらはWO20160404684に詳細に記載されており、参照により本明細書に具体的に組み入れることとする)の製造は以下の反応スキームにより例示される。
【化9】
【0090】
mDPR(Boc)-OH(これはその活性化エステルmDPR(BOC)-OSuおよびmDPR(BOC)-OPFFに変換される)の製造はNature Biotech, 2014, 32, 1059-1062に記載されており(そのための方法を参照により本明細書に具体的に組み入れることとする)、グルクロニド中間体(これはチューブリシンMの四級化のために臭素化される)はMolecular Cancer Therapeutics 15, 938-945 (2016)に記載されている(そのための方法を参照により本明細書に具体的に組み入れることとする)。
【0091】
チューブリシンMおよびその類似体の抗体薬物コンジュゲート[ここで、ツブバリン(tubuvaline)残基のアセタート基はエーテルまたは別のエステル基により置換されている][これらは、チューブリシンMep残基の第三級アミン窒素への、その窒素原子の四級化によるグルクロニドリンカーの結合を有し、薬物リンカー化合物(例えば、前記のもの)から製造されうる]は以下のとおりに例示される。
【化10】
【0092】
式中、R2Aは-C(=O)R2Bであり、ここで、R2Bはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、3-メチル-プロパ-1-イル、3,3-ジメチル-プロパ-1-イルまたはビニルであり、あるいはR2Aはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、プロパ-2-エン-1-イルまたは2-メチル-プロパ-2-エン-1-イルであり、R7Bは-Hまたは-OHであり、pは薬物ローディングを表し、通常、1~4の範囲であり、幾つかの態様においては2または4であり、Abは抗体であり、Sはシステイン295またはシステイン239からの硫黄原子である。
【0093】
抗体または融合タンパク質はまた、295位および所望により239位を占有するシステインを介して、検出可能マーカー、例えば酵素、発色団または蛍光標識にコンジュゲート化されうる。
【0094】
抗体は、薬物または標識にコンジュゲート化されるだけでなく、抗体結合を阻害する阻害性または遮蔽性ドメインに結合した切断可能なリンカーを介して連結されることも可能である(例えば、WO2003/068934、WO2004/009638、WO2009/025846、WO2101/081173およびWO2014103973を参照されたい)。リンカーは、特定の組織または病状に特異的な酵素により切断されるように設計可能であり、したがって、所望の位置で優先的に抗体が活性化されることを可能にする。遮蔽部分は、抗体の結合部位に直接結合することにより作用することが可能であり、あるいは立体障害により間接的に作用することが可能である。
【0095】
VI. 標的
こうした抗体の中にはがん細胞抗原に特異的なものもあり、細胞表面上の抗原は、抗体が結合すると細胞の内部に移行可能となることが好ましい。抗体が向かうことができる標的としては、がん細胞上の受容体、およびそのリガンドまたは対抗受容体が挙げられる(たとえばCD3、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD34、CD40、CD44、CD47、CD52、CD70、CD79a、CD123、Her-2、EphA2、GPC3、リンパ球関連抗原1、VEGFもしくはVEGFR、CTLA-4、LIV-1、ネクチン-4、CD74、およびSLTRK-6)。
【0096】
本発明の方法を適用するのに適した市販の抗体およびその標的の例には、ブレンツキシマブもしくはブレンツキシマブベドチン、CD30、アレムツズマブ、CD52、リツキシマブ、CD20、トラスツズマブHer/neu、ニモツズマブ、セツキシマブ、EGFR、ベバシズマブ、VEGF、パリビズマブ、RSV、アブシキマブ、GpIIb/IIIa、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ、ゴリムマブTNFα、バシリキシマブ、ダクリズマブ、IL-2、オマリズマブ、IgE、ゲムツズマブもしくはvadastuximab、CD33、ナタリズマブ、VLA-4、ベドリズマブ α4β7、ベリムマブ、BAFF、オテリキシズマブ、テプリズマブ CD3、オファツムマブ、オクレリズマブ CD20、エプラツズマブ CD22、アレムツズマブ CD52、エクリズマブ C5、カナキムマブ IL-1β、メポリズマブ IL-5、レスリズマブ、トシリズマブ IL-6R、ウステキヌマブ、ブリアキヌマブ IL-12、23、hBU12 (CD19) (US20120294853)、ヒト化1F6もしくは2F12 (CD70) (US20120294863)、BR2-14aおよびBR2-22a (LIV-1) (WO2012078688)がある。抗体例の配列のいくつかは、配列表で与えられる。
【0097】
VII. 医薬組成物および治療法
上記の方法にしたがって作製された抗体薬物コンジュゲートは有効な投与計画で投与されるが、その有効な投与計画とは、上記のあらゆる適応症を含めて、がん、自己免疫疾患、もしくは感染症などの、治療を目指す疾患の発症を遅らせ、重症度を軽減し、それ以上の増悪を抑制し、および/または、少なくとも1つの徴候もしくは症状を改善する、投与量、投与経路、および投与回数を意味している。患者がすでに疾患に罹患しているならば、その投与計画は、治療上有効な投与計画ということができる。患者の疾患リスクは母集団より高いがまだ症状は出ていないならば、投与計画は、予防上有効な投与計画ということができる。場合によっては、個々の患者において、治療上または予防上の有効性を、ヒストリカルコントロールまたは同一患者の過去の経験と比べて観察することができる。他の例では、治療患者集団における前臨床試験または臨床試験で、未治療患者のコントロール集団と比較して、治療上または予防上の有効性を示すことができる。
【0098】
抗体薬物コンジュゲートに関する投与量はたとえば、0.001 mg/kg~100 mg/kg、5 mg~50 mg/kg、10 mg~25 mg/kg、1 mg/kg~7.5 mg/kg、または2 mg/kg~7.5 mg/kgまたは3 mg/kg~7.5 mg/kg被験体体重、または0.1~20、または0.5~5 mg/kg体重(たとえば0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10 mg/kg)または固定用量として10~15000、200~15000もしくは500~10,000 mgである。活性モノクローナル抗体薬物複合体、たとえばアウリスタチン又はチューブリシンにコンジュゲート化された複合体、の投与量はたとえば、1 mg/kg~7.5 mg/kg、または2 mg/kg~7.5 mg/kgまたは3 mg/kg~7.5 mg/kg被験体体重、または0.1~20、または0.5~5 mg/kg体重(たとえば、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10 mg/kg)または固定用量として10~1500もしくは200~1500 mgである。高活性モノクローナル抗体薬物複合体、たとえばPBDにコンジュゲート化された複合体、の投与量はたとえば、1.0μg/kg~1.0 mg/kg、または1.0μg/kg~500.0μg/kg被験体体重である。
【0099】
方法によっては、患者は、ADCを、2、3、または4週間おきに投与される。投与量は、その治療が予防的であるか治療的であるかにかかわらず、また、その疾患が急性か慢性かにかかわらず、数ある要因の中で、投与回数、患者の状態、ならびに、前治療があればそれに対する反応に左右される。用量はまた、結合、エフェクター機能または細胞傷害性の低下にも左右される。
【0100】
投与は、非経口、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、くも膜下腔内、腹腔内、局所、鼻腔内、または筋肉内とすることができる。投与は、たとえば腫瘍内などに、直接局在化させることもできる。静脈内もしくは皮下投与によって体循環に入る投与が好ましい。静脈内投与はたとえば、30~90分のように時間をかける点滴によって、または単回ボーラス注入によって、行うことができる。
【0101】
投与回数は、特に、血液循環中での抗体の半減期、患者の状態、および投与経路によって決まる。頻度は、毎日、毎週、毎月、3か月ごと、または患者の状態の変化もしくは治療中のがんの進行に応じて不規則な間隔とすることができる。静脈内投与の頻度は、より頻回の、またはより少ない投与もありうるが、たとえば、一連の治療期間にわたって週2回から年4回までである。静脈内投与の他の頻度の例は、より頻回の、またはより少ない投与もありうるが、たとえば、一連の治療期間にわたって週1回から4週間に3回までである。皮下投与については、投与頻度はたとえば、毎日から毎月であるが、より頻回の、またはより少ない投与もありうる。
【0102】
投薬回数は、疾患の特性(たとえば、急性症状を呈するか慢性症状か)および治療に対する疾患の反応によって決まる。急性疾患、または慢性疾患の急性増悪には、1~10回で十分なことが多い。急性疾患、または慢性疾患の急性増悪に対して、単回ボーラス投与、場合によっては分割された形の投与で十分なこともある。急性疾患もしくは急性増悪の再発に対して治療を繰り返すことができる。慢性疾患に対しては、少なくとも1、5もしくは10年間、または患者の一生の間、抗体を一定間隔で、たとえば毎週、隔週、毎月、3か月ごと、6か月ごとに、投与することができる。
【0103】
非経口投与用の医薬組成物は、無菌で、実質的に等張性(240~360 mOsm/kg)であって、GMP条件下で製造されることが好ましい。医薬組成物は単位剤形(すなわち1回投与分の剤形)として提供することができる。医薬組成物は、1つもしくは複数の生理学的に許容される担体(基剤)、賦形剤、添加剤もしくは補助剤を用いて製剤することができる。製剤は選択される投与経路次第で決まる。注射用には、抗体は、水溶液として製剤されるが、好ましくはハンクス液、リンゲル液、または生理食塩水もしくは酢酸バッファー(注射部位の不快感を低減するため)などの生理的に適合するバッファー中で製剤することができる。溶液は、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの配合剤を含有することができる。あるいはまた、抗体は、適切な溶媒、たとえば滅菌発熱性物質除去蒸留水、による使用前構成用に、凍結乾燥された形をとることもある。液体製剤中の抗体濃度は、たとえば、10 mg/mlなど、1~100 mg/mlとすることができる。
【0104】
本発明の抗体による治療は、化学療法、放射線照射、幹細胞治療、外科手術、抗ウイルス薬、抗生物質、免疫抑制薬もしくは免疫刺激薬、または治療中の疾患に対して有効な他の治療と、併用することができる。がんまたは自己免疫疾患治療用のADCとともに投与することができる、有用な他の薬剤群には、たとえば、がん細胞上に発現される他の受容体に対する抗体、抗チューブリン薬(たとえばアウリスタチン)、DNA副溝結合薬、DNA複製阻害薬、アルキル化薬(たとえば、シスプラチン、モノ(プラチナ)、ビス(プラチナ)および三核プラチナ錯体、ならびにカルボプラチンなどの、プラチナ錯体)、アントラサイクリン類、抗生物質、葉酸代謝拮抗薬、代謝拮抗薬、化学療法増感薬、デュオカルマイシン類、エトポシド類、フッ化ピリミジン類、イオノフォア類、レキシトロプシン類(lexitropsins)、ニトロソウレア類、プラチノール類(platinols)、予備形成化合物、プリン代謝拮抗薬、ピューロマイシン類、放射線増感薬、ステロイド類、タキサン類、トポイソメラーゼ阻害薬、ビンカアルカロイド類などがある。
【0105】
抗体による治療は、抗体なしである以外は同じ治療(たとえば化学療法)と比べて、腫瘍患者の無増悪生存期間中央値または全生存期間を、特に再発性または難治性の場合、少なくとも30%もしくは40%、好ましくは50%、60%~70%、または100%以上も長くすることができる。それに加えて、またはその代わりに、抗体を含む治療(たとえば標準的化学療法)は、抗体なしである以外は同じ治療(たとえば化学療法)と比べて、腫瘍患者の完全奏効率、部分奏効率、もしくは客観的奏効率(完全+部分)を、少なくとも30%もしくは40%、好ましくは50%、60%~70%だけ高め、または100%も高めることができる。
【0106】
典型的には、臨床試験(たとえば第II相、第II/III相もしくは第III相試験)において、前記の、標準治療のみ(または+プラセボ)を受けた対照患者群に対する、標準治療+抗体による治療を受けた患者の無増悪生存期間中央値および/または奏効率の増加は、統計上有意であり、たとえばp = 0.05もしくは0.01、または0.001レベルである。完全奏効率および部分奏効率は、たとえば国立がん研究所および/または食品医薬品局により記載または承認された、がんの臨床試験で通常使用される客観的基準によって求められる。
【0107】
明確な理解のために本発明を詳細に記述したが、一定の変更を添付の請求の範囲内で実行できる。本出願に記載の出版物、アクセッション番号、ウェブサイト、特許文書などはすべて、参考としてその全体が、それぞれが個別に示されているのと同じように本明細書に含まれる。その範囲内でさまざまな情報が、さまざまな時点の引用を伴っており、本出願の有効出願日の時点で存在する情報を意味する。有効出願日は、当該のアクセッション番号を開示するもっとも早い優先出願の日付である。文脈から明らかでない限り、本発明のいかなる要素、実施形態、ステップ、特徴もしくは態様も、他のいずれかと組み合わせて実施することができる。
(実施例)
【0108】
抗体の発現および精製
IgG1 Fc突然変異を含有するDNA鎖を、ギブソン・アセンブリー(Gibson Assembly)を使用して、発現ベクター内にクローニングした。システイン突然変異体プラスミドおよび対応軽鎖をフリースタイル(Freestyle)CHO-S細胞内にトランスフェクトし、生じた上清を9日後に回収した。重鎖内に該システイン突然変異を含有する抗体をMabセレクトプロテインAアフィニティカラムにより精製した。
【0109】
グリカン分析
システインが操作された抗体を、逆相(RP)UPLC-MSを使用して、質量およびグリカン含量に関して評価した。抗体を、DTTを使用して還元し、ついで脱グリコシル化処理(PNGアーゼ)の存在下および非存在下で分析した。
【0110】
マレイミドおよびチューブリシン安定性アッセイ
マレイミドの加水分解および安定性を評価するために、システインが操作された抗体を、vcMMAEを使用してコンジュゲート化し、ついでラット血漿中で0、4および7日間インキュベートした。ADCを、抗ヒト捕捉樹脂を使用して血漿から精製し、DTTで還元し、ついで、RP UPLC-MSを使用して分析した。薬物含有重鎖を分析し、18ダルトンの質量増加を評価することにより、マレイミド加水分解を確認した。各時点のDAR(薬物抗体比)を比較することにより、マレイミドの安定性を評価した。薬物喪失を1317ダルトンの喪失として測定し、t=0における全薬物に基づく残存全薬物の百分率として計算した。
【0111】
チューブリシンの安定性を評価するために、システインが突然変異した抗体を、チューブリシンMを使用してコンジュゲート化し、ついでラット血漿中で0、4および7日間インキュベートした。ADCを、抗ヒト捕捉樹脂を使用して血漿から精製し、還元し、ついで、RP UPLC-MSを使用して分析した。薬物含有重鎖を分析し、42ダルトンの質量減少を評価することにより、酢酸チューブリシンの加水分解を確認した。
【0112】
細胞培養
Hep3B、HepG2およびHuh7細胞をATCCから入手した。JHH-7細胞をそれぞれCreative Bioarrayから入手した。Hep3BおよびHepG2細胞を、5% CO2を含有する37℃の加湿インキュベーター内で、10% FBSを含有するEMEM内で増殖させた。Huh7細胞を、5% CO2を含有する37℃の加湿インキュベーター内で、10% FBSを含有するDMEM内で増殖させた。JHH-7細胞を、5% CO2を含有する37℃の加湿インキュベーター内で、10% FBSを含有するWilliams-E内で増殖させた。
【0113】
インビトロ細胞毒性
アッセイを384ウェル組織培養処理プレート内で行い、CellTiter Glo(登録商標)(Promega)を使用して細胞生存率を評価した。1250個のHep3B、HepG2もしくはHuh7、または1500個のJHH-7細胞(ウェル当たり)を40μLの適切な培地内でプレーティングした。プレーティングの24時間後、細胞を、適切な濃度の示されている試験品を含有する10μLで処理した。投与の96時間後、10μLのCellTiter Gloを各ウェルに加え、エンビジョン(Envision)マルチラベルプレートリーダー(PerkinElmer)で全発光を測定した。平均生存率および標準偏差を、対照ビヒクル処理細胞と比較して、4回反復実験(quadruplicate)から計算した。
【0114】
インビボ抗腫瘍活性
施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)のプロトコルに従い、動物実験を行った。2.5×10 6 個のHep3Bまたは5×10 5 個のJHH-7細胞を無胸腺ヌードマウスの皮下に移植した。該研究の経過の全体にわたって両側ノギス測定により腫瘍の成長をモニターし、式(0.5×[長さ×幅 2 ])を用いて平均腫瘍体積を計算した。腫瘍が約100 mm3に達したら、示された治療群にマウスをランダムに割り当て、適切な治療の単一の200μLの用量を腹腔内投与した。Hep3Bの研究においては、各治療群は5匹のマウスからなるものであった。JHH-7の研究においては、各治療群は6匹のマウスからなるものであった。腫瘍を週2回測定し、腫瘍が1000 mm 3 に達したら、動物を犠死させた。
【0115】
結果
図1に示されているとおり、297位のグリカン鎖への物理的接近性に基づき、コンジュゲート化のための潜在的部位として、20個の突然変異を選択した。グリカン鎖は、コンジュゲート化部位に連結された疎水性薬物を遮蔽するように働きうると考えられた。14個の突然変異が成功裏に発現され、コンジュゲート化された。二重突然変異体としてS239Cと組合される8個の突然変異を選択した。二重突然変異を発現させ、コンジュゲート化した。
【0116】
図2は種々の突然変異に関するグリカンの分布を示す。主にG0であり、より少量のG1、G2などを伴うグリカン分布が好ましい。したがって、Q295Cのグリカン分布が(K246C、E294C、Y296C、V303C、K334C、I336CおよびS337Cと同様に)有利であるが、R301C、F243C、V262C、V264C、S267Cはそうではない。
【0117】
チューブリシンにコンジュゲート化された抗体をラット血漿中に37℃で7日間浸漬した。ついでADCを精製し、質量分析を用いて薬物分解に関して評価した。効力低下に関して、インビトロ細胞毒性アッセイを用いて、粗血漿混合物を評価した。
【0118】
図3は、Q295Cがマレイミドリンカーの中間的な安定性を示したことを示している。S239Cは、試験した突然変異のなかで最大のマレイミド安定性を示した。
【0119】
図4は、Q295Cがチューブリシン薬物の中間的な安定性をも示したことを示している。再び、S239Cは、試験した突然変異のなかで最大の安定性を示した。
【0120】
図5は、1つの突然変異がS239Cである幾つかの二重突然変異の組合せのチューブリシン安定性を示す。Q295Cは、試験した他の突然変異と比較して中間的な安定性を示した。しかし、S239C Q295C二重突然変異の安定性は、図6における棒線により表される個々の突然変異の場合から予想されるものより大きかった。
【0121】
図7は、それぞれ2つのがん細胞系に対する種々の二重突然変異の組合せの細胞毒性を示す。S239C Q295C二重突然変異体は中間的な細胞毒性を示した。
【0122】
S239C,Q295C二重突然変異の細胞毒性を、以下のとおりに、同じ抗体の種々の他のコンジュゲートと、マウス異種移植モデルにおいて比較した。
4830(8)[AT] 1 mg/kg
5937(4) 2 mg/kg
S239C K246C-5937(4) 2 mg/kg
S239C K290C-5937(4) 2 mg/kg
S239C Q295C-5937(4) 2 mg/kg
S239C V303C-5937(4) 2 mg/kg
S239C K246C V303C-5937(6) 1.33 mg/kg
S239C K246C V303C-6242(6) 1.33 mg/kg
S239C K246C V303C-6238(6) 1.33 mg/kg
S239C K246C V303C Q295C-5937(8) 1 mg/kg
1-6183(8) 1 mg/kg。
示されている用量は、薬物ローディングの化学量論には無関係に、等しいモルの薬物を送達する。
【0123】
図8は、チューブリシンにコンジュゲート化されたS239C Q295C二重突然変異体が腫瘍Hep3B-8の腫瘍成長の最大抑制を示したことを示している。図9はJHH7-E腫瘍細胞系に関する同じ結論を示している。
【0124】
二重変異のグリカン分析
単点突然変異S239CまたはQ295Cを含有する抗体は標準的なグリコシル化パターンを含有する(図10A~D)。S239CおよびQ295Cの変異のペア形成は、N-結合グリカンを伴う異常をもたらす。これらの異常グリカン(表1)は過シアル化ならびにGlcNacのトリおよびテトラアンテナ分岐を含む。一過性(図10D)および安定(図11)CHO細胞製造技術を用いて、これらのグリコシル化パターンは保存されていることが示された。また、S239CとE294Cとのペア形成もこの類似したグリコシル化パターンを示している(図12)。
【0125】
非還元RP-MSおよび非還元ペプチドマッピングによるこれらの分子の分析(図13)はN-結合グリカンの近傍の操作されたシステイン部位の鎖内ジスルフィド・ステープリング(stapling)を示している。これらの抗体の通常の還元および再酸化はこのステープリングを除去し、操作された部位を、異常グリカンが残存したまま、コンジュゲート化に利用可能にする。
【0126】
DTT(ジチオトレイトール)を使用した細胞培養
二重変異S239CおよびQ295Cを含有する抗体を還元条件下で一過性発現させた。DTT、TCEPおよびベータ-メルカプトエタノール(BME)を細胞培地内で0.1、1.0および1.2 mMの全濃度で還元剤として使用した(図14)。これらのタンパク質のグリカンパターンの分析は、DTTを培地の一部として使用した場合に、グリカンの複雑さの低減を示している(図15)。DTTの漸増濃度はシアリル化ならびにグリカンのトリおよびテトラアンテナ分岐の減少と相関している。これらの還元条件中で発現された抗体はSECによれば単量体であるらしく、親抗体に類似した結合を示す。これらの抗体の還元および酸化は、親抗体の場合と同様に、操作された部位をコンジュゲート化に利用可能にする。
【0127】
S239C/Q295C抗体のグリコシル化パターンは細胞発現系によっては影響されなかった。安定にトランスフェクトされた細胞系と一過性にトランスフェクトされた細胞系とにおいて抗体を発現させた場合、グリコシル化パターンは実質的に同等であった。例えば、以下の表1を参照されたい。
【0128】
【表1】
表1: S239C/Q295C突然変異体の一過性発現と安定発現とのグリコシル化分析
【0129】
IgG1 (配列番号1)
【0130】
IgG2 (配列番号2)
【0131】
IgG3 (配列番号3)
【0132】
IgG4 (配列番号4)
【0133】
IgG1 (配列番号5)
【0134】
IgG2 (配列番号6)
【0135】
IgG3 (配列番号7)
【0136】
IgG4 (配列番号8)
【0137】
IgG1 (配列番号9)
【0138】
IgG2 (配列番号10)
【0139】
IgG3 (配列番号11)
【0140】
IgG4 (配列番号12)
【0141】
IgG1 (配列番号13)
【0142】
IgG2 (配列番号14)
【0143】
IgG3 (配列番号15)
【0144】
IgG4 (配列番号16)
【0145】
IgG1 (配列番号17)
【0146】
IgG2 (配列番号18)
【0147】
IgG3 (配列番号19)
【0148】
IgG4 (配列番号20)

本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] EU番号付けによる295位がシステインにより占有されている重鎖定常領域を含む抗体または融合タンパク質。
[2] 295位のシステインを介して薬物または標識にコンジュゲート化されている、実施形態1に記載の抗体または融合タンパク質。
[3] EU番号付けによる239位がシステインにより占有されている、実施形態1に記載の抗体または融合タンパク質。
[4] 295位および239位のシステインを介して薬物または標識にコンジュゲート化されている、実施形態3に記載の抗体または融合タンパク質。
[5] 該抗体が、2つの重鎖および2つの軽鎖を含むヘテロ二量体であり、1分子の該抗体が、両方の重鎖における295位および239位のシステインへのコンジュゲート化により4分子の薬物にコンジュゲート化されている、実施形態4に記載の抗体。
[6] 定常領域がアイソタイプを有し、これがヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である、実施形態1~5のいずれかに記載の抗体または融合タンパク質。
[7] 薬物がチューブリシン(tubulysin)である、実施形態1~6のいずれかに記載の抗体または融合タンパク質。
[8] 薬物がグルクロニドリンカーを介して該抗体または融合タンパク質にコンジュゲート化されている、実施形態7に記載の抗体または融合タンパク質。
[9] 該抗体または融合タンパク質が、チューブリシンおよびグルクロニドリンカーを提供する以下に示す構造を有する化合物にコンジュゲート化されている、実施形態7に記載の抗体または融合タンパク質。
化1

[10] 薬物がMMAE、MMAFまたは副溝結合物質である、実施形態1~6のいずれかに記載の抗体または融合タンパク質。
[11] 重鎖定常領域が配列番号5~12のいずれかの配列を有し、ただし、C末端リジンが存在しないことが可能である、実施形態1~10のいずれかに記載の抗体または融合タンパク質。
[12] 該抗体が、切断可能なリンカーを介して薬物にコンジュゲート化されている、実施形態1に記載の抗体または融合タンパク質。
[13] 実施形態1~12のいずれかに記載の抗体または融合タンパク質を含む、医薬組成物。
[14] チューブリシンMにコンジュゲート化されたシステインによりEU番号付けによる239位が占有されている重鎖定常領域を含む抗体または融合タンパク質。
[15] EU番号付けによる239位および295位がシステインにより占有されている重鎖定常領域を含む抗体または融合タンパク質の製造方法であって、
該抗体または融合タンパク質をコードするように操作された細胞を培養して、該抗体または融合タンパク質を発現させ、
該抗体または融合タンパク質を精製することを含む、製造方法。
[16] 該抗体または融合タンパク質を239位および295位のシステインを介して薬物にコンジュゲート化することを更に含む、実施形態15に記載の製造方法。
[17] 239位および295位のシステイン間のジスルフィド結合の形成を阻害する還元剤と該抗体または融合タンパク質とを接触させることを更に含む、実施形態15に記載の製造方法。
[18] 該抗体または融合タンパク質を培養する培地内に還元剤を含有させることにより、該抗体または融合タンパク質と還元剤とを接触させる、実施形態17に記載の製造方法。
[19] 還元剤がジチオトレイトール、ベータ-メルカプトエタノールまたはトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンである、実施形態17または18に記載の製造方法。
[20] 還元剤が0.1~2 mMの濃度のジチオトレイトールである、実施形態18に記載の製造方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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