(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】新設埋込管の設置工法及び装置
(51)【国際特許分類】
C10B 29/02 20060101AFI20230828BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
C10B29/02
E04G23/02 Z
(21)【出願番号】P 2020047621
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000178011
【氏名又は名称】山九株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】本田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 珠樹
(72)【発明者】
【氏名】薬眞寺 尉之
(72)【発明者】
【氏名】上村 竜介
(72)【発明者】
【氏名】杉村 裕二
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-227033(JP,A)
【文献】中国実用新案第201495197(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第102703095(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 29/02
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉において嵩上げを行う炉床盤に新設埋込管を設置するための新設埋込管の設置工法であって、
既設スラブに埋め込まれた所定の既設埋込管に対応する鞘管がユニット化されてなる鞘管ユニットを前記既設スラブ上方に移動し、
前記鞘管ユニットを前記既設スラブ上に載置し、前記既設埋込管に対して上方から前記新設埋込管を嵌装し、
嵩上げを行うべき前記炉床盤全体において複数の前記鞘管ユニットを順次載置し、前記既設スラブ上にコンクリート打設することを特徴とする新設埋込管の設置工法。
【請求項2】
前記鞘管ユニットを前記既設スラブ上に載置する際にレベル出しすることを特徴とする請求項1に記載の新設埋込管の設置工法。
【請求項3】
前記鞘管ユニットは、前記既設スラブ側近よりクレーンにて垂下され、前記既設埋込管の上方に移動されて前記既設スラブ上に載置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の新設埋込管の設置工法。
【請求項4】
前記鞘管ユニットは、少なくとも1炉分がユニット化されてなることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の新設埋込管の設置工法。
【請求項5】
コークス炉において嵩上げを行う炉床盤に新設埋込管を設置するための新設埋込管の設置装置であって、
前記コークス炉の炉長と同等長さを有して延設されるフレームと、所定の既設埋込管に対応して前記フレームに支持される複数の鞘管と、を含んでなる鞘管ユニットを備え、
嵩上げを行うべき前記炉床盤全体において複数の前記鞘管ユニットが順次載置され、前記既設スラブ上にコンクリート打設されることを特徴とする新設埋込管の設置装置。
【請求項6】
前記鞘管ユニットを前記既設スラブ上に載置する際にレベル出しするレベル出しベースを更に備えることを特徴とする請求項5に記載の新設埋込管の設置装置。
【請求項7】
前記鞘管ユニットの長手方向に沿って複数のレベル出しベースが配設されることを特徴とする請求項6に記載の新設埋込管の設置装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉において嵩上げを行う炉床盤に新設埋込管を設置するための新設埋込管の設置工法及び設置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉の蓄熱室は、燃焼室からの燃焼排ガスを導入して熱を奪い、その熱で上部にある燃焼室に供給する燃料又は空気の温度を高める。蓄熱室には、燃料や空気を供給する多数の配管が列設され、これらの配管が燃焼室の炉床盤において埋込管として所定のピッチ間隔で配設される。
【0003】
既設の炉床盤の構造変更等のために、炉床盤のコンクリートスラブを嵩上げし、更にこれに伴い埋込管(鋼管)を新設する必要が生じる。その場合、先ずスラブ面から露出する既設の埋込管の根元を切断し、その後、コンクリートスラブの嵩上げ分に対応する長さの埋込管(新設埋込管)にすべく、鞘管等と称する埋込管を既設の埋込管に取付設置する。
【0004】
この種の鋼管等の切断装置等として、例えば特許文献1に記載の鋼管杭切断装置の取付具、あるいは特許文献2に記載の埋設管の設置工法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-188526号公報
【文献】特開2017-227033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来では、切断した鋼管あるいは鋼管杭に対して、1つずつ新たな埋込管を設置する方法等であるため、極めて多くの工数と時間を要し、工期が長くならざるを得なかった。
【0007】
本発明はかかる実情に鑑み、効率よく、高い精度で新設埋込管を設置できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の新設埋込管の設置工法は、コークス炉において嵩上げを行う炉床盤に新設埋込管を設置するための新設埋込管の設置工法であって、既設スラブに埋め込まれた所定の既設埋込管に対応する鞘管がユニット化されてなる鞘管ユニットを前記既設スラブ上方に移動し、前記鞘管ユニットを前記既設スラブ上に載置し、前記既設埋込管に対して上方から前記新設埋込管を嵌装し、嵩上げを行うべき前記炉床盤全体において複数の前記鞘管ユニットを順次載置し、前記既設スラブ上にコンクリート打設することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の新設埋込管の設置装置は、コークス炉において嵩上げを行う炉床盤に新設埋込管を設置するための新設埋込管の設置装置であって、前記コークス炉の炉長と同等長さを有して延設されるフレームと、所定の既設埋込管に対応して前記フレームに支持される複数の鞘管と、を含んでなる鞘管ユニットを備え、嵩上げを行うべき前記炉床盤全体において複数の前記鞘管ユニットが順次載置され、前記既設スラブ上にコンクリート打設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、効率よく、高い精度で新設埋込管を設置し、コークス炉改修工事の工期の大幅な短縮が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る嵩上げを行うコークス炉の例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る炉床盤の既設スラブ上における既設埋込管の配設例を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る既設スラブ上の既設埋込管が所定長さに切断された状態を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る鞘管ユニットの構成例を示す平面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る鞘管ユニットの長手方向視の側面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る鞘管ユニットのフレームに固定される鞘管を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る鞘管ユニットのフレームに固定される吊り部材を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態における炉床盤に載置され鞘管ユニットを示す平面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るレベル出しベースの斜視図及び断面図である。
【
図10】本発明の実施形態における改修工事現場におけるクレーンによる鞘管ユニットの移動作業の様子を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態における既設スラブに鞘管ユニットを載置する際の様子を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態における炉床盤の全ての既設埋込管に対して鞘管が嵌装された状態を示す図である。
【
図13】本発明の実施形態における炉床盤の嵩上げ完成時の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき、本発明における好適な実施の形態を説明する。
本発明の実施形態において、例えば
図1のように老朽化したコークス炉100を解体して、既存の同じ基礎部(炉床盤1)の上に同規模で新しい炉体を建設するものとし、既存の炉床盤1にコンクリートを打設してその嵩上げを行う。この場合、当該コークス炉100において、
図2のように炉床盤1の既設スラブ2上には多数の既設埋込管3が所定の間隔ピッチで列設されている。なお、既設スラブ2はPS(Pusher Side)及びCS(Coke Side)間の炉長方向(本例では
図2のX方向)で、炉団長方向(
図2のY方向)に沿った極めて広い領域に亘っている。
コークス炉100は基本的に煉瓦製であり、炉床盤の上に多数の煉瓦を積み重ねて構成される。
【0013】
煉瓦が解体され既設スラブ2が露出したコークス炉100において、既設スラブ2に埋め込まれている既設埋込管3はその埋込面から所定高さ位置で、その垂直方向に対してフラットに切断される。既設埋込管3を切断するために、例えば前述した従来例に係る埋込管切断装置等を使用する。
図3は、既設スラブ2上の既設埋込管3がそれぞれ、埋込管切断装置等により所定長さに切断された状態を示している。各既設埋込管3に対して新設埋込管が嵌装される。
【0014】
本発明のコークス炉100において嵩上げを行う炉床盤1に新設埋込管を設置するための新設埋込管の設置工法では、既設スラブ2に埋め込まれた所定の既設埋込管3に対応する鞘管がユニット化されてなる鞘管ユニットを既設スラブ2上方に移動し、鞘管ユニットを既設スラブ2上に載置する際にレベル出しすると共に、既設埋込管3に対して上方から新設埋込管を嵌装し、嵩上げを行うべき炉床盤1全体において複数の鞘管ユニットを順次載置し、その後、既設スラブ2上にコンクリートを打設する。
【0015】
また、本発明の新設埋込管の設置装置は、コークス炉100の炉長と同等長さを有して延設されるフレームと、所定の既設埋込管3に対応してフレームに支持される複数の鞘管とを含んでなる鞘管ユニットと、鞘管ユニットを既設スラブ2上に載置する際にレベル出しするレベル出しベースと、を備える。
【0016】
図4は、本実施形態における鞘管ユニット10の構成例を示す平面図である。炉長方向Xに延びる相互に平行な一対のフレーム11の両側(炉団長方向Y)にはそれぞれ、上下方向を向いて支持された複数の鞘管12が列設される。本実施形態では少なくとも1炉分の鞘管12がユニット化されて鞘管ユニット10が構成されるが、2炉分以上の鞘管12がユニット化されてもよく、このような鞘管ユニット10を使用して、新設埋込管の嵌装が行なわれる。なお、鞘管12は、既設埋込管3の外径にぴったりと嵌装するように径寸法が設定されている。
【0017】
図5は、本実施形態における鞘管ユニット10の長手方向視の側面図である。本実施形態ではフレーム11として例えば一対のH鋼を使用し、そのH字が90°回転した状態で配置構成される。各H鋼の上下の内側フランジ11a同士がそれぞれブリッジ13を介して結合されて、フレーム11として一体化する。フレーム11及びブリッジ13は溶接により結合される。フレーム11の長手方向に沿って所定のピッチ間隔で複数のブリッジ13が配設され、フレーム11全体として堅固な構造体が構成される。
【0018】
各H鋼の上下の外側フランジ11bにはそれぞれ、既設埋込管3に対応するように新設埋込管となるべき鞘管12が上下方向に取り付けられる。この場合、H鋼の上下の外側フランジ11bに対して溶接により固定された上下対をなすブラケット14がフレーム11から側方に突出し、鞘管12は溶接によりブラケット14に固定される。このブラケット14は
図6に示すように例えば台形状の形状を有し、その台形の斜辺に溶接15により鞘管12が固定される。
【0019】
図4に示すようにフレーム11の両側にはそれぞれ、長手方向に沿って所定間隔おいて一対の吊り部材16が突設される。ここで、本発明の鞘管ユニット10は、クレーンにて垂下されて設置現場に移動されるため、そのクレーン側の垂下用フックを掛けるために吊り部材16を有している。吊り部材16は
図7に示されるように、各H鋼の上下の外側フランジ11bに跨りフレーム11と直交するように配置され、溶接によりH鋼に固定される。吊り部材16には、クレーン側のフックを通し掛けるためのフック穴16aが設けられ、この例ではクレーンにより鞘管ユニット10を4つの吊り部材16を介して、即ち4点支持するようにしている。
【0020】
嵩上げを行うべき炉床盤1全体において、クレーン操作で
図8のように複数の鞘管ユニット10が順次載置され、鞘管ユニット10ごとに既設埋込管3に対して上方から新設埋込管である鞘管12が嵌装される。
【0021】
上述のクレーンを使って鞘管ユニット10を既設スラブ2上に載置する際に鞘管ユニット10はレベル出しされる。
図9は、鞘管ユニット10をレベル出しするために使用されるレベル出しベース17を示している。既設埋込管3の間のスペースを利用して、鞘管ユニット10の長手方向に沿って複数のレベル出しベース17が配設される。レベル出しベース17は
図9(a)のように、例えば一対のアングル鋼18が対称的に付き合わせるかたちで結合されてなる。一対のアングル鋼18の間にはスペーサ19と2つのナット20が挟まれ、これらのスペーサ19及びナット20を介して溶接により一対のアングル鋼18が相互に結合される。
【0022】
2つのナット20は、フレーム11を構成する一対のH鋼の間隔に合わせて相互に距離をおいて配置され、それぞれアジャストボルト21が上下に通される。アジャストボルト21は
図9(b)のように、フレーム11のH鋼を支えると共に、適宜上下高さを調節することでフレーム11の高さ調整を行ない、これによりレベル出しベース17が鞘管ユニット10をレベル出しすることができる。レベル出しベース17の基部は複数のアンカボルト22により既設スラブ2に固定される。
【0023】
本発明の新設埋込管の設置工法において、鞘管ユニット10は予め、コークス炉改修工事現場から離れた別の組立て場所で組立てられ、その後トレーラで改修工事現場に搬入される。改修工事現場では
図10のようにクレーン200で鞘管ユニット10を垂下し、設置現場である既設スラブ2上まで移動する。なお、クレーン200の垂下用フックを吊り部材16に引っ掛けて、鞘管ユニット10は安定的に支持される。
【0024】
鞘管ユニット10を載置する既設スラブ2には
図11に示されるように、鞘管ユニット10の長手方向に沿って複数(例えば4~6)のレベル出しベース17が配設されており、クレーン200により鞘管ユニット10がレベル出しベース17上に置かれる。この際、レベル出しベース17のアジャストボルト21は高さ調節されているため、鞘管ユニット10は既設スラブ2上に実質的に水平に載置される。鞘管ユニット10がレベル出しベース17上に置かれることで、既設埋込管3に対応する鞘管12を極めて精度よく上方から嵌装することができる。
【0025】
鞘管ユニット10の載置作業が順次繰り返され、嵩上げを行うべき炉床盤1全体において、
図12に示されるように全ての既設埋込管3に対して鞘管12が嵌装される。
既設スラブ2上には更に、
図13に示されるようにコンクリート23が所定高さまで打設される。コンクリート23の打設により鞘管ユニット10は、コンクリート23から所定長さ露出する鞘管12を残して全体がコンクリート23内に埋設され、炉床盤1の嵩上げが完成する。
【0026】
本発明によれば、鞘管ユニット10を使って本実施形態のように1炉分の鞘管12を一括で、既設埋込管3に対して極めて効率よく嵌装し、この作業を繰り返すことで工期の大幅な短縮が可能になる。従来の1つずつ新たな埋込管を設置する方法等では、それに伴い大掛かりな設備等を必要とする。本発明ではそのような設備等をなくし、新設埋込管位置合せ後の溶接固定作業が不要になる等の利点があり、工期短縮に加えてコスト削減を実現する。
【0027】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
本実施形態では、1炉分の鞘管12をユニット化した鞘管ユニット10の例で説明したが、2炉分以上がユニット化されてもよく、これにより更なる工期短縮を図ることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 炉床盤、2 既設スラブ、3 既設埋込管、10 鞘管ユニット、11 フレーム、12 鞘管、13 ブリッジ、14 ブラケット、15 溶接、16 吊り部材、17 レベル出しベース、18 アングル鋼、19 スペーサ、20 ナット、21 アジャストボルト、22 アンカボルト、100 コークス炉、200 クレーン。