(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】水分散体、金属用コーティング剤及び塗膜
(51)【国際特許分類】
C08L 43/02 20060101AFI20230828BHJP
C08F 2/24 20060101ALI20230828BHJP
C08F 30/02 20060101ALI20230828BHJP
C08F 246/00 20060101ALI20230828BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230828BHJP
C09D 125/18 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
C08L43/02
C08F2/24 A
C08F30/02
C08F246/00
C09D5/02
C09D125/18
(21)【出願番号】P 2020096508
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2020-07-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 亜沙子
(72)【発明者】
【氏名】高町 祐輝
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】瀧澤 佳世
【審判官】海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-228613(JP,A)
【文献】特開平07-238160(JP,A)
【文献】特開平02-256048(JP,A)
【文献】特開昭64-067236(JP,A)
【文献】特開昭63-023726(JP,A)
【文献】特開昭62-221432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L43/02
C08F230/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散体を含む、金属用コーティング剤であって、
前記水分散体は、構成モノマーとしてポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはその塩(A)と、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびカルボン酸ビニルからなる群から選択される少なくとも1種のモノマー(B)とを含有する重合体を含み、
前記重合体の全構成モノマー中、前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステル
および/またはその塩(A)の含有割合が0.1~20質量%、前記モノマー(B)の含有割合が70~99.8質量%であり、
反応性乳化剤(C)(ただし、前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはその塩(A)を除く)を用いて前記重合体を合成することにより得られ、
前記反応性乳化剤(C)の含有割合が、前記重合体の全構成モノマー中、0.1~20質量%であり
前記反応性乳化剤(C)は、
下記一般式(3-1)
【化1】
(式(3-1)中、R
2は、1-プロペニル基またはアリル基を表し、m1は1~3であり、A
1は、炭素数2~4のアルキレン基を示し、n1は1~50であり、Mは、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム残基、アルキルアンモニウム残基またはアルカノールアミン残基を表す)
で表される硫酸エステル塩、
下記一般式(3-2)
【化2】
(式(3-2)中、R
3は、1-プロペニル基またはアリル基を表し、R
4は、炭素数1~20のアルキル基を示し、A
2は、炭素数2~4のアルキレン基を示し、n2は1~50であり、Mは、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム残基、アルキルアンモニウム残基またはアルカノールアミン残基を表す)、
で表される硫酸エステル塩、
ポリオキシアルキレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルおよびその塩、
ポリオキシアルキレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテルリン酸エステルおよびその塩、
ポリオキシアルキレン-1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エチルエーテル硫酸エステルおよびその塩、並びに、
ポリオキシアルキレン-1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エチルエーテルリン酸エステルおよびその塩
からなる群より選ばれる1種以上である、金属用コーティング剤。
【請求項2】
水分散体を含む、金属用コーティング剤であって、
前記水分散体は、構成モノマーとしてポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはその塩(A)と、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびカルボン酸ビニルからなる群から選択される少なくとも1種のモノマー(B)とを含有する重合体を含み、
前記重合体の全構成モノマー中、前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステル
および/またはその塩(A)の含有割合が0.1~20質量%、前記モノマー(B)の含有割合が70~99.8質量%であり、
反応性乳化剤(C)(ただし、前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはその塩(A)を除く)を用いて前記重合体を合成することにより得られ、
前記反応性乳化剤(C)の含有割合が、前記重合体の全構成モノマー中、0.1~20質量%であり
前記反応性乳化剤(C)は、非イオン性反応性乳化剤を含む、金属用コーティング剤。
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルの
塩が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩及びアルカノールアミン塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の金属用コーティング剤。
【請求項4】
金属基板に形成された塗膜であって、
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属用コーティング剤を用いて得られる塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散体、金属用コーティング剤及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルに硫酸化剤やリン酸化剤を反応させた硫酸エステル(塩)やリン酸エステル(塩)が知られている。例えば、特許文献1には、該リン酸エステル(塩)を、種々のモノマーと共重合させるポリマー改質剤として用いることが記載されている。特許文献2には、該リン酸エステル(塩)を、重合用乳化分散剤として用いることが記載されている。特許文献3には、硫酸エステル(塩)やリン酸エステル(塩)を(メタ)アクリル酸エステル系及び/又はスチレン系単量体と、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と共重合させたものをロジン系エマルジョンサイズ用乳化分散剤として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-238160号公報
【文献】特開平07-228613号公報
【文献】特開平05-239797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルの硫酸塩やリン酸塩を構成モノマーとして含む重合体の水分散体を金属表面に塗布して形成される塗膜は耐水性などに優れることから、例えば、金属へのコーティング用途として好適である。しかしながら、近年では、金属等にコーティングする用途に対する要求性能はますます高まっており、例えば、塗膜が金属に強く密着していること、その塗膜が耐摩耗性に優れることが要求されており、この観点から、金属に対する密着性および耐摩耗性に優れる塗膜を形成できる水分散体の開発が急務となっていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、金属に対する密着性に優れ、しかも、耐摩耗性にも優れる塗膜を形成することができる水分散体、該水分散体を含む金属用コーティング剤、並びに、該水分散体から形成される塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造の構成単位を有する重合体と、反応性の乳化剤を含むことにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
構成モノマーとしてポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはその塩(A)を含有する重合体を含み、
反応性乳化剤(C)(ただし、前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはその塩(A)を除く)を用いて前記重合体を合成することにより得られる、水分散体。
項2
前記反応性乳化剤(C)は非イオン性反応性乳化剤および芳香族系アニオン性反応性乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳化剤を含む、項1に記載の水分散体。
項3
前記重合体は、構成モノマーとして更に(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびカルボン酸ビニルからなる群から選択される少なくとも1種のモノマー(B)を含有する、項1または2に記載の水分散体。
項4
前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルの塩(A)が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩及びアルカノールアミン塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれか1項に記載の水分散体。
項5
項1~4のいずれか1項に記載の水分散体を含む、金属用コーティング剤。
項6
項1~4のいずれか1項に記載の水分散体または項5に記載の金属用コーティング剤を用いて得られる塗膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る水分散体によれば、金属に対する密着性に優れ、しかも、耐摩耗性にも優れる塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0010】
1.水分散体
本発明の水分散体は、構成モノマーとしてポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはその塩(A)を含有する重合体を含み、反応性乳化剤(C)(ただし、前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはその塩(A)を除く)を用いて前記重合体を合成することにより得られる。
【0011】
本発明の水分散体によれば、金属に対する密着性に優れる塗膜を形成することができ、しかも、耐摩耗性にも優れる塗膜を形成することができる。
【0012】
本明細書において、前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはその塩(A)を「モノマー(A)」と略記する。
【0013】
(重合体)
本発明の水分散体において、重合体は、構成モノマーとして前記モノマー(A)を含有する。念のための注記に過ぎないが、本明細書において、重合体の構成モノマーとは、重合体を形成するための繰り返しの構成単位を意味する。より厳密にいうと、前記重合体は、モノマー(A)に由来する構成単位を含むものである。本明細書において「モノマーに由来する構成単位」とは、モノマーが重合して形成される構成単位もしくはその誘導体のことをいう。ここでいう誘導体は、モノマーが重合して形成される構成単位がさらに中和または加水分解等されて形成される構成単位等を意味する。例えば、モノマーが前記モノマー(A)である場合であって、重合後に形成される構成単位が塩型である場合、この塩型を酸型に変換した構成単位が前記誘導体に相当する。あるいは、モノマーがモノマー(A)である場合であって、重合後に形成される構成単位が酸型である場合、この酸型を中和して塩型に変換した構成単位も前記誘導体に相当する。
【0014】
モノマー(A)は、ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステル(以下、酸型のリン酸エステルということもある)であってもよいし、その塩の形態であってもよい。あるいは、モノマー(A)はそれらの混合物であってもよい。つまり、前記重合体は、構成モノマーとして、ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステル(酸型のリン酸エステル)と、ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルの塩の両方を構成モノマーとして有することもできる。
【0015】
モノマー(A)が塩の形態である場合、塩の種類は特に限定されず、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩及びアルカノールアミン塩からなる群より選択される少なくとも1種とすることができる。アルカリ金属としては、Na、K等が例示され、アルカリ土類金属としては、Mg、Ca等が例示される。アルキルアンモニウムとしては、モノメチルアンモニウム、ジプロピルアンモニウム等が例示され、アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が例示される。
【0016】
モノマー(A)は、酸型のリン酸エステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアルカノールアミン塩からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、この場合、水分散体は、金属に対する密着性に優れ、耐摩耗性にも優れ、さらに耐水白化にも優れる塗膜を形成することができる。
【0017】
例えば、モノマー(A)がアンモニウム塩である場合、水分散体の加熱および乾燥時に大部分のアンモニアが脱離する。これにより、モノマー(A)は前述の酸型のリン酸エステルになり得るので、後記する塗膜の状態において、重合体は酸型のリン酸エステルを構成モノマーとして含み得る。
【0018】
モノマー(A)は、リン酸モノエステルであってもよいし、あるいは、リン酸ジエステルであってもよい。モノマー(A)は両者の混合物とすることもできる。
【0019】
モノマー(A)のさらなる具体例としては、例えば、下記一般式(1)
(X)kP(=O)(OL)3-k (1)
で表される化合物が挙げられる。
【0020】
式(1)中、kは1又は2であり、Lは、水素原子もしくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム残基、アルキルアンモニウム残基及びアルカノールアミン残基からなる群より選択される少なくとも1種を示す。式(1)中、Xは、下記(2)で表される1価の基である。
【0021】
【0022】
式(2)中、R1は、1-プロペニル基又はアリル基(即ち2-プロペニル基)を表し、Aは、炭素数2~4のアルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。
【0023】
式(1)において、一分子中にLを複数有する場合、複数のLは同一であってもよいし、一部又は全部が異なっていてもよい。
【0024】
式(1)において、Lがアルカリ金属である場合、アルカリ金属としては、Na、K等が例示され、Lがアルカリ土類金属である場合、アルカリ土類金属としては、Mg、Ca等が例示される。式(1)において、Lがアルキルアンモニウム残基である場合、アルキルアンモニウム残基としては、モノメチルアンモニウム残基、ジプロピルアンモニウム残基等が例示され、式(1)において、Lがアルカノールアミン残基である場合、アルカノールアミン残基としては、モノエタノールアミン残基、ジエタノールアミン残基、トリエタノールアミン残基等が例示される。
【0025】
式(1)において、Lは水素原子、もしくは、アルカリ金属、アンモニウム残基及びアルカノールアミン残基からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、この場合、水分散体は、金属に対する密着性に優れ、耐摩耗性にも優れ、さらに耐水白化にも優れる塗膜を形成することができる。
【0026】
式(1)で表される化合物において、R1は好ましくは1-プロペニル基である。R1の置換位置は、オルト位及び/又はパラ位であることが好ましく、より好ましくはオルト位である。
【0027】
式(2)において、AOで表されるオキシアルキレン基は直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられる。
【0028】
式(2)において、AOが炭素数2~4のアルキレンオキサイドである場合は、(AO)n鎖部位は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(1,4-ブチレンオキサイド)等の1種又は2種以上を用いた付加重合体とすることができる。オキシアルキレン基の付加形態は特に限定されず、1種類のアルキレンオキサイドを用いた単独付加体でもよく、2種類以上のアルキレンオキサイドを用いたランダム付加体、ブロック付加体、或いはそれらランダム付加とブロック付加の組み合わせでもよい。
【0029】
上記オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基が好ましく、2種類以上のオキシアルキレン基を含む場合、その1種類はオキシエチレン基であることが好ましい。(AO)n鎖部位は、好ましくは(AO)の全モル数に対してオキシエチレン基を50~100モル%、より好ましくは70~100モル%含有する。
【0030】
式(2)中、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1~9の範囲の数であることが好ましく、より好ましくは2~8である。一実施形態として、nは2~6でもよく、2~4でもよい。
【0031】
式(2)で表される1価の基(つまり、式(1)におけるX)において、好ましくは、下記式(2-1)で表される基である。
【0032】
【0033】
式(2-1)中、nは、式(2)中のnと同義である。
【0034】
モノマー(A)は、式(1)で表される化合物において、Lが水素原子である酸型の化合物と、Lが各種塩の形態である化合物との混合物とすることもできる。
【0035】
また、モノマー(A)は、式(1)で表される化合物において、k=1である化合物(リン酸モノエステル)と、k=2(リン酸ジエステル)である化合物の混合物とすることもできる。モノマー(A)がリン酸モノエステルまたはリン酸ジエステル、あるいは、これらの混合物である場合、リン酸モノエステルは、下記式(1-1)で表される化合物を例示することができ、リン酸ジエステルは、下記式(1-2)で表される化合物を例示することができる。
【0036】
【0037】
式(1-1)および式(1-2)中、R1、A、L、nは、前記式(1)及び(2)中のR1、A、L、nと同義である。モノマー(A)が両者の混合物である場合、双方のR1、A、L、nは、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、モノマー(A)が式(1-2)で表される化合物を含む場合、一分子中のR1は同一でも異なってもよい。
【0038】
式(1-1)および式(1-2)で表される化合物において、R1は好ましくは1-プロペニル基である。R1の置換位置は、オルト位及び/又はパラ位であることが好ましく、より好ましくはオルト位である。
【0039】
モノマー(A)の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を採用することにより、モノマー(A)を合成することができる。例えば、アリルフェノールにアルカリ触媒のもとでアルキレンオキサイドを高温、高圧下で付加させることにより、ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルを得て、これに公知のリン酸化剤を反応させることによりリン酸エステルを得ることができる。その後、必要に応じてアルカリ中和剤で中和することにより中和塩とすることもできる。中和剤は特に限定されない。
【0040】
本発明の水分散体において、前記重合体は、前記モノマー(A)を構成モノマーとして含む他、更に(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびカルボン酸ビニルからなる群から選択される少なくとも1種のモノマー(B)を構成モノマーとして含有することもできる。つまり、重合体は、モノマー(B)に由来する構成単位を含むことができる。
【0041】
重合体がモノマー(B)を構成モノマーとして含むことによって、水分散体から得られる塗膜は、金属に対する密着性が向上しやすくなる。従って、モノマー(B)は、重合体を形成する構成モノマーの主成分であることが好ましい。
【0042】
モノマー(B)において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうちの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデセニル、(メタ)アクリル酸イコシル、(メタ)アクリル酸ドコシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらはいずれか1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
モノマー(B)において、芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-,p-メチルスチレン、o-,m-,p-エチルスチレン、o-,m-,p-イソプロピルスチレン、o-,m-,p-tert-ブチルスチレン等が挙げられる。これらはいずれか1種用いても、2種以上併用してもよい。
【0044】
モノマー(B)において、カルボン酸ビニルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が挙げられ、これらはいずれか1種用いても、2種以上併用してもよい。
好ましいカルボン酸ビニルは、酢酸ビニルである。
【0045】
モノマー(B)の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。モノマー(B)は、市販品等から入手することもできる。
【0046】
重合体は、本発明の効果が阻害されない程度である限り、モノマー(A)およびモノマー(B)以外の他のモノマーを構成モノマーとして含むことができる。他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジオレフィンモノマー、エチレン、無水マレイン酸、マレイン酸メチル等が挙げられる。
【0047】
以上のように、本発明の水分散体において、重合体は前述のように、モノマー(A)を必須の構成モノマーとして含み、好ましくは、モノマー(B)も含む。
【0048】
重合体の全構成モノマー中、モノマー(A)の含有量は特に限定されない。例えば、重合体の全質量に対し、モノマー(A)の含有割合は0.1~20質量%とすることができ、0.2~15質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましい。
【0049】
重合体の全構成モノマー中、モノマー(B)の含有量は特に限定されない。例えば、重合体の全質量に対し、モノマー(B)の含有割合は70~99.8質量%とすることができ、80~99.4質量%であることが好ましく、85~99質量%であることがより好ましい。
【0050】
重合体の重量平均分子量(Mw)は特に限定されず、例えば、10万~1000万とすることができ、100万~500万であることが好ましい。ここで、重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
【0051】
重合体の形状及び大きさも特に限定されず、例えば、金属コーティング剤で適用されている形状及び大きさとすることができ、特には、公知の乳化重合で形成される形状及び大きさを広く採用することができる。
【0052】
(反応性乳化剤)
前述のように、重合体は、反応性乳化剤(C)の存在下での重合反応により得られることから、重合体は、反応性乳化剤(C)をいわば構成モノマーとして含み得る。つまり、反応性乳化剤(C)は、モノマー(A)等の重合体を形成するためのモノマー成分と共重合し得るものであり、重合体はモノマー(A)と反応性乳化剤(C)との共重合体ということもできる。もっとも、重合反応で使用される反応性乳化剤(C)は必ずしも全てが重合体に取り込まれるわけではない(つまり、必ずしも全てが重合体の構成モノマーとして含まれるわけではない)。重合体に取り込まれなかった反応性乳化剤(C)は、乳化剤または分散剤として水分散体に含まれ得る。なお、反応性乳化剤(C)は、前記モノマー(A)以外の化合物であり、具体的に、前記ポリオキシアルキレンプロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよびその塩(A)以外の化合物である。
【0053】
反応性乳化剤(C)の種類は特に限定されず、公知の反応性乳化剤を広く適用することができる。反応性乳化剤(C)としては、種々のアニオン性反応性乳化剤および非イオン性反応性乳化剤が挙げられ、例えば、重合性不飽和基およびポリオキシアルキレン基を有する化合物を挙げることができる。かかる化合物を、以下、「化合物(C1)」と表記する。
【0054】
前記重合性不飽和基としては、例えば、1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリル基などが挙げられ、これらを1種または2種以上有することもできる。前記ポリオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられ、これらを1種または2種以上有することもできる。ポリオキシアルキレン基は、オキシエチレン基を50~100モル%含有することが好ましく、より好ましくは70~100モル%含有することであり、ポリオキシエチレン基であることが好ましい。
【0055】
アニオン性反応性乳化剤としては、例えば、重合性不飽和基、ポリオキシアルキレン基およびアニオン性基それぞれを有する化合物を挙げることができる。以下、斯かる化合物を「化合物C1」と略記する。
【0056】
化合物(C1)は、アニオン性親水基を有することもできる。この場合、後記する水分散体を得るための乳化重合時における乳化効果を高めることが可能となる。アニオン性親水基としては、SO3M基、COOM基、PO3M2基、PO2M基などが挙げられ、これらを1種または2種以上有してもよい。ここで、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム残基、アルキルアンモニウム残基またはアルカノールアミン残基を表す。これらの中でもアニオン性親水基としてはSO3M基が好ましい。
【0057】
化合物(C1)の具体例としては、ポリオキシアルキレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩、およびポリオキシアルキレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。より詳細には、下記一般式(3-1)で表される硫酸エステル塩および下記一般式(3-2)で表される硫酸エステル塩からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0058】
【0059】
式(3-1)および(3-2)中、R2およびR3は、1-プロペニル基またはアリル基(即ち2-プロペニル基)を表し、好ましくは1-プロペニル基を示す。R2およびR3の置換位置は、オルト位および/またはパラ位であることが好ましく、より好ましくはオルト位である。
【0060】
式(3-1)および(3-2)中、m1は、α-メチルベンジル基の置換基数を示し、平均値で1~3の範囲にあり、好ましくは1~2の範囲にある。α-メチルベンジル基の置換位置は、オルト位および/またはパラ位であることが好ましい。
【0061】
式(3-1)および(3-2)中、R4は、炭素数1~20のアルキル基を示し、より好ましくは炭素数5~15のアルキル基を示す。R4の置換位置は、オルト位および/またはパラ位であることが好ましく、より好ましくはオルト位である。
【0062】
式(3-1)および(3-2)中、A1およびA2は、それぞれ炭素数2~4のアルキレン基を示す。従って、A1OおよびA2O(以下、これらをまとめて「AO」と表記)で表される基はオキシアルキレン基である。オキシアルキレン基は直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられる。
【0063】
式(3-1)および式(3-2)において、AOの炭素数が2~4であるアルキレンオキサイドである場合は、(AO)n鎖部位は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(1,4-ブチレンオキサイド)等の1種又は2種以上を用いた付加重合体とすることができる。オキシアルキレン基の付加形態は特に限定されず、1種類のアルキレンオキサイドを用いた単独付加体でもよく、2種類以上のアルキレンオキサイドを用いたランダム付加体、ブロック付加体、或いはそれらランダム付加とブロック付加の組み合わせでもよい。
【0064】
上記オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基が好ましく、2種類以上のオキシアルキレン基を含む場合、その1種類はオキシエチレン基であることが好ましい。(AO)n鎖部位は、好ましくは(AO)の全モル数に対してオキシエチレン基を50~100モル%、より好ましくは70~100モル%含有する。
【0065】
式(3-1)および(3-2)中、n1およびn2は、それぞれオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1~50の範囲の数であることが好ましく、より好ましくは5~30である。
【0066】
式(3-1)および(3-2)中、Mは、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属原子、アンモニウム残基、アルキルアンモニウム残基またはアルカノールアミン残基を表す。アルキルアンモニウム残基としては、例えば、モノメチルアンモニウム残基、ジプロピルアンモニウム残基等が挙げられ、アルカノールアミン残基としては、例えば、モノエタノールアミン残基、ジエタノールアミン残基、トリエタノールアミン残基等が挙げられる。
【0067】
前記化合物(C1)の他例であるアニオン性反応性乳化剤(以下、「化合物C2」)としては、例えば、重合性不飽和基、ポリオキシアルキレン基(例えば、アルキレンの炭素数が2~4、オキシアルキレン単位の数が1~20)およびアニオン性基それぞれを有する化合物を挙げることができる。具体的な化合物C2としては、ポリオキシアルキレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテルリン酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレン-1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エチルエーテル硫酸エステルおよびその塩、および、ポリオキシアルキレン-1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エチルエーテルリン酸エステルおよびその塩等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。アニオン性反応性乳化剤のその他の例としては、アルキルアルケニルスルホコハク酸塩等が挙げられる。
【0068】
アニオン性反応性乳化剤は、芳香環を含まない脂肪族系アニオン性反応性乳化剤であってもよいし、芳香族系アニオン性反応性乳化剤であってもよいし、これらの併用でもよい。中でも、アニオン性反応性乳化剤は、芳香族系アニオン性反応性乳化剤を少なくとも含むことが好ましく、芳香族系アニオン性反応性乳化剤のみであってもよい。
【0069】
反応性乳化剤(C)が非イオン性反応性乳化剤を含む場合、その種類としては、重合性不飽和基を有し、非イオン性である限りは特に限定されず、例えば、公知の非イオン性反応性乳化剤を広く使用することができる。例えば、重合性不飽和基と、ポリオキシアルキレン部位(例えば、アルキレンの炭素数が2~4、オキシアルキレン単位の数が10~200)を有する化合物を挙げることができる。非イオン性反応性乳化剤は、スチレン化フェニル部位を有していてもよい。
【0070】
非イオン性反応性乳化剤の具体例としては、ポリオキシアルキレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルプロペニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル、および、ポリオキシアルキレン-1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エチルエーテルからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0071】
反応性乳化剤(C)が、アニオン性反応性乳化剤を含む場合、あるいは、非イオン性反応性乳化剤を含む場合、水分散体から形成される塗膜は、金属に対する密着性および耐摩耗性が高まりやすい。反応性乳化剤(C)は、アニオン性反応性乳化剤のみであってもよいし、非イオン性反応性乳化剤のみであってもよい。また、反応性乳化剤(C)は、アニオン性反応性乳化剤および非イオン性反応性乳化剤の混合物であってもよく、この場合、両者の混合割合は特に限定されず、任意の割合とすることができる。
【0072】
中でも反応性乳化剤(C)は前記非イオン性反応性乳化剤および前記芳香族系アニオン性反応性乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0073】
本発明の水分散体において、前記重合体は、モノマー(A)およびモノマー(B)並びに反応性乳化剤(C)以外にも、必要に応じて他のモノマーを構成モノマーとして含むことができる。他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジオレフィンモノマー、エチレン、無水マレイン酸、マレイン酸メチル等が挙げられる。
【0074】
以上のように、本発明の水分散体において、重合体は前述のように、モノマー(A)を必須の構成モノマーとして含み、さらに、反応性乳化剤(C)も重合体中に存在する。反応性乳化剤(C)は重合体を形成するためのモノマー成分と共重合し得る。重合体(A)は、モノマー(A)および反応性乳化剤(C)の他、モノマー(B)を含むことができ、さらにその他モノマーを構成モノマーとして含むこともできる。
【0075】
重合体の全構成モノマー中、モノマー(A)の含有量は特に限定されない。例えば、重合体の全質量に対し、モノマー(A)の含有割合は0.1~20質量%とすることができ、0.2~15質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましい。
【0076】
重合体の全構成モノマー中、モノマー(B)の含有量は特に限定されない。例えば、重合体の全質量に対し、モノマー(B)の含有割合は70~99.8質量%とすることができ、80~99.4質量%であることが好ましく、85~99質量%であることがより好ましい。
【0077】
重合体中に含まれる反応性乳化剤(C)由来の成分の含有割合は、例えば、重合体の全質量に対し、0.1~20質量%とすることができ、0.2~15質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましい。
【0078】
重合体がその他モノマーを構成モノマーとして含む場合、その含有量は、例えば、重合体の全質量に対し、その他モノマーの含有割合は20質量%以下とすることができ、10質量%であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0079】
重合体の重量平均分子量(Mw)は特に限定されず、例えば、10万~1000万とすることができ、100万~500万であることが好ましい。ここで、重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
【0080】
重合体の形状および大きさも特に限定されず、例えば、金属コーティング剤で適用されている形状および大きさとすることができ、特には、公知の乳化重合で形成される形状および大きさを広く採用することができる。
【0081】
本発明の水分散体は、必要に応じて非反応性乳化剤を含むこともできる。非反応性乳化剤は、ラジカル重合性の官能基を有さず、乳化重合において、重合反応性を示さない乳化剤である。斯かる非反応性乳化剤の種類は特に限定されず、例えば、公知のアニオン性乳化剤および非イオン性乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳化剤を挙げることができる。
【0082】
非反応性乳化剤において、アニオン性乳化剤は、例えば、公知の脂肪族系アニオン性乳化剤および芳香族系アニオン性乳化剤を広く挙げることができる。例えば、アニオン性乳化剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル部位を有する化合物、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル部位を有する化合物、ポリオキシアルキレンアルケニルフェニルエーテル部位を有する化合物、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル部位を有する化合物、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル部位を有する化合物を挙げることができる。
【0083】
具体的なアニオン性乳化剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルケニルフェニルエーテル硫酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルリン酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルケニルフェニルエーテルリン酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルスルホコハク酸およびその塩、ポリオキシアルキレンアルケニルスルホコハク酸およびその塩、アルキルスルホコハク酸およびその塩、ジアルキルスルホコハク酸およびその塩、アルケニルスルホコハク酸およびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル酢酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル酢酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルケニルフェニルエーテル酢酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル酢酸エステルおよびその塩、アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、アルキル硫酸およびその塩、並びに、アルキルリン酸およびその塩が例示される。これらは1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、アニオン性乳化剤は、塩である形態と塩でない形態との混合物であってもよい。
【0084】
非反応性乳化剤において、アニオン性乳化剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステルおよびその塩、並びに、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルおよびその塩からなる群より選ばれる1種を含むことが好ましい。
【0085】
非反応性乳化剤において、非イオン性乳化剤は、例えば、ポリオキシアルキレン部位を有する化合物を挙げることができる。
【0086】
具体的な非イオン性乳化剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンナフチルエーテル、ポリオキシアルキレントリブロックポリマー(例としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等)が例示される。これらは1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0087】
非反応性乳化剤は、金属に対する塗膜の密着性が向上しやすく、耐摩耗性も向上しやすいという観点から、少なくともアニオン性乳化剤を含むことが好ましい。この場合、非反応性乳化剤は、アニオン性乳化剤と非イオン性乳化剤との併用とすることができ、あるいは、アニオン性乳化剤のみであってもよい。アニオン性乳化剤と非イオン性乳化剤との併用の場合、例えば、アニオン性乳化剤と非イオン性乳化剤の総質量に対するアニオン性乳化剤の含有割合を50質量%、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0088】
(水分散体)
本発明の水分散体は、前記重合体を含み、その他、重合体の製造時に反応性乳化剤(C)を使用した場合、重合体に取り込まれなかった反応性乳化剤(C)を含み得る。さらに、重合体の製造時に非反応性乳化剤を使用した場合は、斯かる非反応性乳化剤も水分散体に含まれる。例えば、重合体100質量部に対して、非反応性乳化剤は0.01質量部以上含まれ、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることが特に好ましい。また、重合体100質量部に対し、非反応性乳化剤は20質量部以下含まれ、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。
【0089】
水分散体は、媒体として水系溶媒を含む。水系溶媒は、水、低級アルコール(例えば、炭素数1~3のアルコール)、もしくはこれらの混合溶媒が挙げられる。重合体の分散性が安定しやすいという点で、水系媒体は水であることが好ましい。
【0090】
水分散体において、重合体の濃度は特に限定されない。水分散体からの塗膜が形成されやすいという点で、水分散体中の重合体の濃度は、20~70質量%とすることができ、35~55質量%とすることが好ましい。
【0091】
水分散体はその他、本発明の効果が阻害されない限り、重合体および非反応性乳化剤以外に各種の添加剤を含むこともできる。添加剤としては、例えば、着色剤、pH調整剤、増粘剤、顔料、防腐剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種又は2種以上が水分散体に含まれていてもよい。添加剤は、例えば、重合体100質量部あたり、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。
【0092】
(水分散体の製造方法)
本実施形態に係る水分散体の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の乳化重合法を広く適用することができる。乳化重合法の一例として、重合用溶媒として水を用い、重合用モノマーを、乳化剤を用いて水中に乳化させ、これに重合開始剤を加えて反応させる方法が挙げられる。重合用モノマーとして、前記モノマー(A)の前駆体(前記リン酸エステル)を含む場合は、重合体が生成した後、アルカリで中和することにより、水分散体が得られる。
【0093】
アルカリとしては、公知の化合物を広く使用することができ、中でも水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン;等が挙げられる。
【0094】
前記重合用モノマーは少なくともモノマー(A)を含む。重合用モノマーがモノマー(A)を含むことにより、乳化重合の重合安定性が向上し、得られる水分散体中には凝集物が発生しにくくなる。また、得られた重合体は構成モノマーとしてモノマー(A)を含むことで、重合体が形成された後の凝集も防止されやすい。
【0095】
前記重合用モノマーはモノマー(A)の他、モノマー(B)を含むことができる。前記重合用モノマーの全量に対し、モノマー(A)の含有割合は0.1~20質量%とすることができ、0.2~15質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましい。また、前記重合用モノマーの全量に対し、モノマー(B)の含有割合は70~99.8質量%とすることができ、80~99.4質量%であることが好ましく、85~99質量%であることがより好ましい。
【0096】
水分散体の製造方法で使用する乳化剤は、例えば、前記反応性乳化剤(C)および/または非反応性乳化剤を含む。反応性乳化剤(C)を併用する場合、反応性乳化剤の全て又は一部がモノマー(A)等とともに共重合されて重合体に取り込まれてもよく、あるいは、一部が重合体に取り込まれ、一部は取り込まれずにそのまま残り乳化剤または分散剤として水分散体に含まれてもよい。
【0097】
乳化剤の使用量は、例えば、重合用モノマー100質量部に対し、0.01質量部以上とすることができ、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることがさらに好ましく、0.3質量部以上であることが特に好ましい。また、重合用モノマー100質量部に対し、乳化剤の使用量は20質量部以下とすることができ、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。
【0098】
乳化重合において、重合反応に用いる重合開始剤は、例えば、公知の乳化重合で用いられる重合開始剤を広く使用することができる。例えば、過酸化水素、過硫酸塩化合物、および、アゾ化合物等を挙げることができる。過硫酸塩化合物は、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなど等が挙げられ、アゾ化合物は、例えば、2,2’-アゾビス-2-メチルプロピオンアミジン塩酸塩、2,2’-アゾビス-2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン塩酸塩、2-カルバモイルアゾイソブチロニトリル等が挙げられる。また、公知の反応促進剤を併用してもよい。
【0099】
乳化重合において、重合温度や重合時間等の重合条件については特に限定されず、使用するモノマーの種類等に応じて適宜設定することができる。
【0100】
2.金属用コーティング剤および塗膜
本発明の水分散体は、各種用途の適用することができ、特に、本発明に係る水分散体を用いることで、金属に対する耐水密着性に優れ、しかも、耐摩耗性にも優れる塗膜を形成することができることから、金属用コーティング剤の使用に適している。また、水分散体は、製造時に乳化重合の重合安定性に優れることから凝集が発生しにくく、これにより、金属等に対してコーティングがしやすく、均一な塗膜を形成しやすい点おいても金属用コーティング剤の使用に適している。
【0101】
(金属コーティング剤)
本発明の金属用コーティング剤は、前記水分散体を含む限りは特に限定されない。金属用コーティング剤は、前記水分散体のみからなるものであってもよいし、その他の添加剤等を含むものであってもよい。金属用コーティング剤のその他添加剤は特に制限されず、公知の金属用コーティング剤に含まれる添加剤を広く挙げることができる。
【0102】
本発明の金属用コーティング剤によれば、金属に対する密着性に優れ、耐摩耗性にも優れる塗膜を形成することができる。金属用コーティング剤でコーティングさせる金属の種類は特に限定されず、金属単体の基板、二種以上の金属を含有する金属アロイ、金属合金等、各種の金属基板を対象とすることができる。中でも、金属用コーティング剤は、ステンレスに対して優れた密着性を有する塗膜を形成することができる。
【0103】
(塗膜)
塗膜は、水分散体又は金属用コーティング剤を用いて得ることができる。塗膜の形成方法は特に限定されず、例えば、公知の塗膜の形成方法を広く採用することができる。塗膜の形成方法の一例として、水分散体又は金属用コーティング剤を基材に塗布し、加熱および乾燥することにより、基材表面に塗膜を形成することができる。従って、塗膜は、水分散体または金属用コーティング剤の乾燥物を含む。基材は、前記金属基板を用いることができる。
【0104】
上記塗膜は、水分散体又は金属用コーティング剤から形成されるため、金属に対する耐水密着性に優れ、耐摩耗性にも優れ、加えて、耐水白化性および防錆性にも優れるものである。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0106】
(モノマーA)
[合成例1:モノマー(A-1)の合成]
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に、フェノール94g(1.0モル)、NaOH40g(1.0モル)およびアセトン210gを仕込み、撹拌しながら内温を40℃に昇温した。次にアリルクロライド76g(1.0モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに40℃に2時間保ち、反応を行った。反応生成物を濾過し、副生したNaClを除去した後、減圧下にアセトンを除去し、アリルフェニルエーテル134gを得た。
【0107】
このアリルフェニルエーテルをオートクレーブに仕込み、200℃で5時間撹拌保持した。この段階で転位反応が起こり、アリルフェノールとした。このアリルフェノール134gをオートクレーブに移し、水酸化カリウムを触媒とし、圧力147kPa、温度130℃の条件にて、エチレンオキサイド(EO)132g(3モル)を付加させた。このとき、アリル基は1-プロペニル基へと変化した。
【0108】
次に、この2-(1-プロペニル)フェノールEO3モル付加体266g(1.0モル)に、20℃を超えないように冷却しながら無水リン酸71g(0.5モル)を滴下し、滴下終了後70℃に昇温して5時間反応した。斯かる反応により、下記式(1-1-1)で表されるポリオキシエチレン(3モル)1-プロペニルフェニルエーテルリン酸モノエステル(以下、(A-1)と略記する)を得た。なお、式中、EOはオキシエチレン基を表す(以下も同じ)。
【0109】
【0110】
[合成例2:モノマー(A-2)の合成]
無水リン酸の使用量を47g(0.33モル)とした以外は合成例1と同様の操作を行うことにより、前記式(1-1-1)で表されるリン酸モノエステルと、下記式(1-2-1)で表されるリン酸ジエステルとの混合物(モル比1:1)であるポリオキシエチレン(3モル)スチレン化1-プロペニルフェニルエーテルリン酸セスキエステル(以下、(A-2)と略記する)を得た。
【0111】
【0112】
[合成例3:モノマー(A-3)の合成]
無水リン酸の使用量を36g(0.25モル)とした以外は合成例1と同様の操作を行うことにより、前記式(1-2-1)で表されるポリオキシエチレン(3モル)スチレン化1-プロペニルフェニルエーテルリン酸ジエステル(以下、(A-3)と略記する)を得た。
【0113】
[合成例4:モノマー(A-4)の合成]
エチレンオキサイドの使用量を220g(5モル)とした以外は合成例1と同様の操作を行うことにより、下記式(1-1-2)で表されるポリオキシエチレン(5モル)スチレン化1-プロペニルフェニルエーテルリン酸モノエステル(以下、(A-4)と略記する)を得た。
【0114】
【0115】
[合成例5:モノマー(A-5)の合成]
エチレンオキサイドの使用量を220g(5モル)とした以外は合成例2と同様の操作を行うことにより、前記式(1-1-2)で表されるモノエステルと下記式(1-2-2)で表されるジエステルとの混合物であるポリオキシエチレン(5モル)スチレン化1-プロペニルフェニルエーテルリン酸セスキエステル(以下、(A-5)と略記する)を得た。
【0116】
【0117】
[合成例6:モノマー(A-6)の合成]
エチレンオキサイドの使用量を220g(5モル)とした以外は合成例3と同様の操作を行うことにより、前記式(1-2-2)で表されるポリオキシエチレン(5モル)スチレン化1-プロペニルフェニルエーテルリン酸ジエステル(以下、(A-6)と略記する)を得た。
【0118】
[合成例7:モノマー(A-7)の合成]
合成例1と同様の操作で得たモノマー(A-1)33.7gと水酸化ナトリウム4.0gを反応させる事で、ポリオキシエチレン(3モル)スチレン化1-プロペニルフェニルエーテルリン酸モノエステルのナトリウム塩(以下、(A-7)と略記する)を得た。
【0119】
[合成例8:モノマー(A-8)の合成]
合成例1と同様の操作で得たモノマー(A-1)33.7gと25%アンモニア水6.8gを反応させ、水を留去する事で、ポリオキシエチレン(3モル)スチレン化1-プロペニルフェニルエーテルリン酸モノエステルのアンモニウム塩(以下、(A-8)と略記する)を得た。
【0120】
[合成例9:モノマー(A-9)の合成]
合成例1と同様の操作で得たモノマー(A-1)33.7gとモノエタノールアミン6.1gを反応させ、ポリオキシエチレン(3モル)スチレン化1-プロペニルフェニルエーテルリン酸モノエステルのモノエタノールアミン塩(以下、(A-9)と略記する)を得た。
【0121】
(モノマーB)
モノマーBとして、下記の(B-1)~(B-4)を準備した。
・(B-1):アクリル酸ブチル
・(B-2):メタクリル酸メチル
・(B-3):スチレン
・(B-4):酢酸ビニル
【0122】
(反応性乳化剤C)
反応性乳化剤Cとしては、下記表1に示す(C-1)~(C-6)の反応性乳化剤、および、(C-11)~(C-16)の反応性乳化剤を準備した。
【0123】
【0124】
(その他モノマー)
その他モノマー(a)として、下記の(a-1)~(a-3)を準備した。
・(a-1):アクリル酸
・(a-2):ヒドロキシエチルメタクリレートリン酸モノエステル(製品名:ライトエステルP-1M、共栄社化学(株)製)
【0125】
(実施例1)
後掲の表2に示すように、モノマー(A)として合成例1で得られた(A-1)2.5質量部と、モノマー(B)として(B-1)123.75質量部及び(B-2)123.75質量部の混合物と、反応性乳化剤(C)として(C-1)5質量部と、水107.15質量部とを混合し、乳化させることによりプレエマルションを得た。別途、滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコに、水117.11質量部及び炭酸水素ナトリウム0.25質量部を仕込み、上記プレエマルションのうち36.46質量部を加えて80℃に昇温して15分間混合した。次いで、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.38質量部を水10質量部に溶解した水溶液を加えて15分間反応させた後、残りのプレエマルションを3時間かけて滴下し、さらに1時間反応させた。続いて、過硫酸アンモニウム0.12質量部を水10質量部に溶解した水溶液を添加して1時間反応させた後、40℃に冷却し、中和剤としてアンモニア水でpH8に調整することにより、重合体と非反応性乳化剤(C)とを含む水分散体を得た。なお、アンモニア水で中和したことにより、水分散体の段階では、重合体の構成モノマー中、モノマー(A)のリン酸エステルはアンモニウム塩になった。
【0126】
(実施例2~7)
モノマー(A)、モノマー(B)、反応性乳化剤(C)及びその他モノマー(a)の種類及び使用量(質量部)を後掲の表2に示す配合に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で水分散体を得た。なお、実施例7では、中和剤としてアンモニア水の代わりに水酸化ナトリウム水溶液を使用したので、重合体の構成モノマー中、モノマー(A)のリン酸エステルはナトリウム塩になった。
【0127】
(実施例8~14)
モノマー(A)、モノマー(B)、反応性乳化剤(C)及びその他モノマー(a)の種類及び使用量(質量部)を後掲の表3に示す配合に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で水分散体を得た。なお、実施例9では、中和剤としてアンモニア水の代わりにモノエタノールアミンを使用したので、重合体の構成モノマー中、モノマー(A)のリン酸エステルはモノエタノールアミン塩になった。
【0128】
(実施例15、17~20、参考例16)
モノマー(A)、モノマー(B)、反応性乳化剤(C)及びその他モノマー(a)の種類及び使用量(質量部)を後掲の表4に示す配合に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で水分散体を得た。
【0129】
(実施例21、参考例22~26)
モノマー(A)、モノマー(B)、反応性乳化剤(C)及びその他モノマー(a)の種類及び使用量(質量部)を後掲の表5に示す配合に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で水分散体を得た。
【0130】
(比較例1~5)
モノマー(A)、モノマー(B)、反応性乳化剤(C)及びその他モノマー(a)の種類及び使用量(質量部)を後掲の表6に示す配合に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で水分散体を得た。
【0131】
(評価方法)
各実施例及び比較例並びに参考例で得られた水分散体について、下記の密着性1、密着性2、耐水白化性、防錆性および耐摩耗性を評価した。
【0132】
<密着性1>
水分散体をステンレス(SUS)板に膜厚が22μm(wet)となるように塗布し、105℃で10分乾燥し、試験片を得た。この試験片を用いて、JIS K 5400-8.5に準じて、碁盤目試験を実施し、剥がれの割合から、下記基準により判定を行った。
≪判定基準≫
A:剥がれの割合が0%
B:剥がれの割合が0%超25%未満
C:剥がれの割合が25%以上50%未満
D:剥がれの割合が50%以上75%未満
E:剥がれの割合が75%以上
【0133】
<密着性2>
塗布後の乾燥温度を60℃に変更した以外は密着性1と同様の方法で判定した。
【0134】
<耐水白化性>
水分散体をガラス板に膜厚が22μm(wet)となるように塗布し、105℃で10分乾燥して得たフィルムを、25℃の水に浸漬し、白化度を評価した。10ポイントの文字の上にフィルムを形成したガラス板を置き、フィルムを通して見た文字の識別性を下記基準により判定を行った。
≪判定基準≫
A:3日浸漬後も文字が見える。
B:1日浸漬後には文字が見えるものの、3日浸漬後には文字が見えない。
C:1日浸漬後には文字が見えない。
【0135】
<防錆性>
水分散体をステンレス(SUS)板に膜厚が22μm(wet)となるように塗布し、60℃で10分乾燥して得たフィルムに、JIS K 5600-5-6のクロスカット法に準拠して切り込みを入れた。このフィルムを3質量%の塩水に20℃で10日間浸漬後の状態を評価した。評価は錆の発生の具合について行い、下記基準により判定した。
≪判定基準≫
A:錆なし
B:クロスカット部のみ錆が見られる
C:全体に錆が見られる
【0136】
<耐摩耗性>
水分散体をステンレス(SUS)板に膜厚が22μm(wet)となるように塗布し、60℃で10分乾燥して得たフィルムに、JIS K 5600-5-10に準拠し、摩耗減量を測定した。比較例1で得られた水分散体で形成されたフィルムの摩耗減量(g)を基準として(100%として)、各フィルムの摩耗減量の割合を算出し、下記基準により判定した。
≪判定基準≫
A:50%以下
B:50~80%
C:80%以上
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
表2~6には、各実施例又は比較例並びに参考例で調製した水分散体の配合条件、並びに、水分散体から得られた塗膜の評価結果を示している。なお、各表の配合条件において、空欄部分はその原料を使用していないことを意味する。
【0143】
表2~5に示す評価結果と、表6に示す評価結果との対比からもわかるように、構成モノマーとして特定のリン酸エステル(A-1)~(A-9)のいずれかを含む重合体と、反応性乳化剤(C)とを含む水分散体から得られた塗膜は、金属(ステンレス)に対する密着性に優れ、耐摩耗性にも優れるものであった。さらに、これらの塗膜は、優れた耐水白化性および防錆性も兼ね備えるものであった。