(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】蒸気エージング方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/00 20060101AFI20230828BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20230828BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20230828BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
C04B5/00 C
C21C5/28 C
C21C1/02 L
C21C7/00 J
(21)【出願番号】P 2020159905
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】木口 淳平
(72)【発明者】
【氏名】井上 健
(72)【発明者】
【氏名】笠井 菜生
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-196343(JP,A)
【文献】特開2020-117420(JP,A)
【文献】特開2020-121899(JP,A)
【文献】特開平08-259284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 5/00 - 5/06
F27D 15/00
C21C 1/02
C21C 5/28
C21C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ処理槽内に収容した製鋼スラグに上記スラグ処理槽の底部側から蒸気を供給し、上記製鋼スラグを蒸気エージングする方法であって、
上記製鋼スラグ中に粒度0.425mm超のスラグが95質量%以上を占める1又は複数の通気部が設けられたスラグ層を形成する工程を備え、
上記1又は複数の通気部が平面視で上記スラグ層内に部分的に延在し、
上記スラグ層の高さをH[m]、上記1又は複数の通気部の平均高さをh[m]とし、上記スラグ層の底部の面積をS[m
2]、上記1又は複数の通気部の底部の合計面積をs[m
2]とした場合、
h/Hが2/3以上であり、且つ下記(1)又は下記(2)の条件を満たす蒸気エージング方法。
(1)2/3≦h/H<5/6の場合、s/S≧{11.23-10.84×(h/H)}/100
(2)5/6≦h/H≦1の場合、s/S≧{3.7-1.8×(h/H)}/100
【請求項2】
上記スラグ処理槽が、その底部から立設される端壁によって画定される閉塞端と、この閉塞端と水平方向に対向する開放端とを有しており、
上記スラグ層形成工程で、上記通気部の上記開放端側の側面を上記閉塞端側から上記開放端側に向けて上方から下方に傾斜させる請求項1に記載の蒸気エージング方法。
【請求項3】
上記スラグ層形成工程で、上記通気部の上記閉塞端側の側面を上記閉塞端側から上記開放端側に向けて上方から下方に傾斜させる請求項2に記載の蒸気エージング方法。
【請求項4】
上記スラグ層形成工程で、上記通気部を上記スラグ処理槽の底部から設ける請求項1、請求項2又は請求項3に記載の蒸気エージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気エージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の排出量の低減や、天然資源の保護等の観点から、製鋼工程で生成される製鋼スラグ(転炉スラグ、溶銑予備処理スラグ、電気炉スラグ等)の土工材料や路盤材料等として使用が検討されている。
【0003】
一方で、製鋼スラグは、遊離石灰(CaO)を含有しており、水と反応してCa(OH)2となり、体積が膨張して崩壊するという欠点を有する。そのため、製鋼スラグを使用するに当たっては、事前に膨張崩壊のおそれを低減しておく必要がある。
【0004】
このような観点から、製鋼スラグをスラグ処理槽内に収容し、製鋼スラグに高温の蒸気を吹き込むことで蒸気エージングする手法が採用されている(特開平8-259284号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記公報には、スラグ処理槽の底部に粒径の大きい石類からなる床敷層を設け、この床敷層上にスラグを堆積することで、スラグに均一に蒸気を供給できることが記載されている。
【0007】
しかしながら、上記公報に記載されている構成によっては、スラグとは別個に床敷層を配置することを要するため、床敷層を設けた分だけスラグ処理槽に収容できるスラグの容積が減少する。また、上記公報に記載されている構成によっては、スラグ内における蒸気の流れ自体を制御することは困難である。加えて、上記公報に記載されている構成によると、スラグ又は石類の篩分け作業を要することとなり、作業効率が悪化するおそれや、篩分け後の粒の置き場が必要となることで、作業スペースが大きくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、スラグ層内の蒸気の流れを制御することで、製鋼スラグの膨張崩壊を効率的に抑制することが可能な蒸気エージング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る蒸気エージング方法は、スラグ処理槽内に収容した製鋼スラグに上記スラグ処理槽の底部側から蒸気を供給し、上記製鋼スラグを蒸気エージングする方法であって、上記製鋼スラグ中に粒度0.425mm超のスラグが95質量%以上を占める1又は複数の通気部が設けられたスラグ層を形成する工程を備え、上記スラグ層の高さをH[m]、上記1又は複数の通気部の平均高さをh[m]とし、上記スラグ層の底部の面積をS[m2]、上記1又は複数の通気部の底部の合計面積をs[m2]とした場合、下記(1)又は下記(2)の条件を満たす。
(1)2/3≦h/H<5/6の場合、s/S≧{11.23-10.84×(h/H)}/100
(2)5/6≦h/H≦1の場合、s/S≧{3.7-1.8×(h/H)}/100
【0010】
当該蒸気エージング方法は、上記スラグ層形成工程で、上記(1)又は上記(2)の条件を満たすように製鋼スラグ中に上記1又は複数の通気部を形成することで、スラグ層内の蒸気の流れを制御し、上記製鋼スラグの蒸気エージングを効率的に行うことができる。従って、当該蒸気エージング方法は、製鋼スラグの膨張崩壊を効率的に抑制することができる。
【0011】
上記スラグ処理槽が、その底部から立設される端壁によって画定される閉塞端と、この閉塞端と水平方向に対向する開放端とを有しており、上記スラグ層形成工程で、上記通気部の上記開放端側の側面を上記閉塞端側から上記開放端側に向けて上方から下方に傾斜させるとよい。このように、上記スラグ処理槽が、その底部から立設される端壁によって画定される閉塞端と、この閉塞端と水平方向に対向する開放端とを有しており、上記スラグ層形成工程で、上記通気部の上記開放端側の側面を上記閉塞端側から上記開放端側に向けて上方から下方に傾斜させることによって、上記通気部の体積の増加を抑えつつ、上記通気部と上記製鋼スラグとの接触面積を十分に確保しやすい。これにより、蒸気エージング効率を向上しやすい。
【0012】
上記スラグ層形成工程で、上記通気部の上記閉塞端側の側面を上記閉塞端側から上記開放端側に向けて上方から下方に傾斜させるとよい。このように、上記スラグ層形成工程で、上記通気部の上記閉塞端側の側面を上記閉塞端側から上記開放端側に向けて上方から下方に傾斜させることによって、上記通気部と上記製鋼スラグとの接触面積を大きくしやすい。これにより、蒸気エージング効率を向上しやすい。
【0013】
上記スラグ層形成工程で、上記通気部を上記スラグ処理槽の底部から設けるとよい。このように、上記スラグ層形成工程で、上記通気部を上記スラグ処理槽の底部から設けることによって、蒸気を、製鋼スラグを介さず上記通気部に直接的に導入することができる。これにより、蒸気の流れをより確実に制御し、蒸気エージング効率を向上しやすい。
【0014】
なお、本発明において、「粒度」とは、JIS-Z8801-1:2019に準拠した測定方法によって測定される値を意味する。「スラグ層の高さ」とは、スラグ層の任意の10点における高さの平均値を意味する。なお、「スラグ層の高さ」とは、スラグ処理槽に開放端が設けられている場合、この開放端に起因して生じるスラグ層の傾斜部分(安息角で形成された傾斜部分)を除く領域の任意の10点における高さの平均値を意味する。「1又は複数の通気部の平均高さ」とは、各通気部について底部と頂部との垂直距離を求めたうえ、全ての通気部についての垂直距離を平均した値を意味する。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の一態様に係る蒸気エージング方法は、スラグ層内の蒸気の流れを制御することで、製鋼スラグの膨張崩壊を効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る蒸気エージング方法のフロー図である。
【
図2】
図2は、
図1の蒸気エージング方法で使用するスラグ処理槽を示す模式的斜視図である。
【
図3】
図3は、スラグ層形成工程によって形成されたスラグ層を示す模式的断面図である。
【
図5】
図5は、スラグの通気度測定装置を示す模式図である。
【
図6】
図6は、
図3とは異なる形態に係るスラグ層の模式的断面図である。
【
図7】
図7は、実施例及び比較例におけるスラグ層に対する熱電対の挿入箇所を示す模式的平面図である。
【
図8】
図8は、No.1における熱電対による温度の測定結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、No.2で形成されたスラグ層の模式的断面図である。
【
図10】
図10は、No.2における熱電対による温度の測定結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、No.3における熱電対による温度の測定結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、No.4で形成されたスラグ層の模式的断面図である。
【
図13】
図13は、No.4における熱電対による温度の測定結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、No.5における熱電対による温度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載の数値については、記載された上限値と下限値とを任意に組み合わせることが可能である。本明細書では、組み合わせ可能な上限値から下限値までの数値範囲が好適な範囲として全て記載されているものとする。
【0018】
[第一実施形態]
<蒸気エージング方法>
当該蒸気エージング方法では、スラグ処理槽内に収容した製鋼スラグに上記スラグ処理槽の底部側から蒸気を供給し、上記製鋼スラグを蒸気エージングする。当該蒸気エージング方法は、
図1に示すように、上記製鋼スラグ中に粒度0.425mm超のスラグが95質量%以上を占める1又は複数の通気部が設けられたスラグ層を形成する工程(スラグ層形成工程S1)を備える。また、当該蒸気エージング方法は、スラグ層形成工程S1で形成されたスラグ層を蒸気エージングする工程(エージング工程S2)を備える。
【0019】
〔製鋼スラグ〕
本発明における製鋼スラグとは、製鋼プロセスで製造されるスラグを意味しており、例えば転炉スラグ(脱炭スラグ)、溶銑予備処理スラグ(脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ)、電気炉スラグ等が挙げられる。中でも、本発明における製鋼スラグとしては、粒度0.425mm以下のスラグが20質量%以上含まれるスラグが好適に用いられる。具体的には、本発明における製鋼スラグとしては、転炉スラグが好ましい。当該蒸気エージング方法によると、転炉スラグのような通気性が低く、かつ遊離石灰(CaO)の含有量が大きいスラグであっても、蒸気エージング効果を十分に高めることができる。
【0020】
〔蒸気エージング装置〕
当該蒸気エージング方法は、
図2の蒸気エージング装置10を用いて行うことができる。蒸気エージング装置10は、スラグ処理槽1と、スラグ処理槽1の底部11に配置される複数本の蒸気管2とを備える。
【0021】
スラグ処理槽1は、底部11から立設される端壁12と、底部11から立設され、かつ端壁12の両側縁に接続される一対の側壁13とを有する。一対の側壁13は、互いに対向するように端壁12の垂直方向に延びている。一対の側壁13の端壁12と接続される側と反対側の側縁は、他の側壁が接続されていない自由端縁とされている。スラグ処理槽1は、端壁12によって画定される閉塞端12aと、閉塞端12aと水平方向に対向する開放端12bとを有している。スラグ処理槽1は、平面視で、閉塞端12a、開放端12b及び一対の側壁13の内面で囲まれる領域がスラグ収容領域として構成されている。
【0022】
スラグ処理槽1のサイズとしては、スラグ処理槽1に収容されたスラグ層を適切に蒸気エージングできる限り特に限定されるものではない。閉塞端12aと開放端12bとの間隔の下限としては、例えば15mが好ましく、20mがより好ましい。閉塞端12aと開放端12bとの間隔の上限としては、例えば30mが好ましく、25mがより好ましい。一対の側壁13の内面同士の間隔の下限としては、例えば5mが好ましく、7mがより好ましい。一対の側壁13の内面同士の間隔の上限としては、例えば12mが好ましく、10mがより好ましい。端壁12及び一対の側壁13の高さの下限としては、例えば1.5mが好ましく、2mがより好ましい。端壁12及び一対の側壁13の高さの上限としては、例えば4.5mが好ましく、4mがより好ましい。
【0023】
蒸気管2は、スラグ処理槽1の閉塞端12aから開放端12bに亘って、一対の側壁13と平行に延びている。蒸気管2の閉塞端12a側の端部には、蒸気供給機(不図示)が接続されている。蒸気管2には、長手方向に沿って複数の蒸気穴2aが設けられている。蒸気管2は、周壁の左右両側にそれぞれ複数の蒸気穴2aを有する。複数の蒸気穴2aは、蒸気管2の長手方向の両端に亘って等間隔で配置されている。蒸気管2は、蒸気供給機から導入された蒸気を複数の蒸気穴2aから放出することで、上記スラグ層に蒸気を供給するよう構成されている。
【0024】
蒸気管2の本数としては、特に限定されるものではなく、例えば5本以上15本以下とすることができる。上記管2の長手方向に隣接する蒸気穴2aのピッチとしては、特に限定されるものではなく、例えば30cm以上50cm以下とすることができる。蒸気穴2aの直径としては、特に限定されるものではなく、例えば3mm以上10mm以下とすることができる。
【0025】
(スラグ層形成工程)
スラグ層形成工程S1では、スラグ処理槽1内に例えば
図3及び
図4に示すスラグ層40を形成する。スラグ層形成工程S1では、例えばスラグ処理槽1内に製鋼スラグ20を収容したうえで、製鋼スラグ20の一部分(例えばスラグ処理槽1の平面視における中心部分)をショベルで取り除き、この取り除いた部分に通気部30を装入することでスラグ層40を形成する。スラグ層形成工程S1で形成されるスラグ層40の平均高さとしては、例えば2.0m以上2.5m以下程度とすることができる。一対の側壁13の対向方向における通気部30の平均幅wは、スラグ処理槽1の一対の側壁13の内面同士の間隔Wよりも小さい。一対の側壁13の内面同士の間隔Wに対する通気部30の平均幅wの比としては、例えば0.35以上0.6以下とすることができる。なお。「通気部の平均幅」とは、通気部の底部の任意の10点における幅の平均値を意味する。
【0026】
スラグ層形成工程S1では、スラグ層40の高さをH[m]、1又は複数の通気部30の平均高さをh[m]とし、スラグ層40の底部の面積をS[m2]、1又は複数の通気部30の底部の合計面積をs[m2]とした場合、下記(1)又は下記(2)の条件を満たすように製鋼スラグ20中に1又は複数の通気部30を形成する。
(1)2/3≦h/H<5/6の場合、s/S≧{11.23-10.84×(h/H)}/100
(2)5/6≦h/H≦1の場合、s/S≧{3.7-1.8×(h/H)}/100
【0027】
上記(1)及び上記(2)の条件の技術的意義について説明する。本発明者らは、下記式1で求められるK値(通気抵抗指数)と蒸気エージング効果との関係を鋭意検討した。K=(ΔP/L)/(ρ・Un) ・・・1
但し、上記式1において、L:原料層厚、ΔP:原料の圧損、ρ:流体の密度、U:流体の空塔速度を意味する。
【0028】
その結果、K値が0.13を超えると、蒸気エージングの際に棚吊りや局所的な吹き抜けが発生しやすくなることが分かった。この検討結果に基づき、本発明者らは、スラグ層40のK値が0.13以下になるように1又は複数の通気部30を設けることで、蒸気エージング効果を高めることができるとの知見を得た。また、粉(粒度0.425mm以下のスラグ)の含有量とK値との関係について鋭意検討したところ、K値を0.13以下に保つためには、通気部30における粉の含有量は5質量%以下であることを要することが分かった。さらに、本発明者らは、K値の好ましい下限値についても検討したところ、K値が0.04未満であると、スラグ中の粉の含有量が不十分となり、蒸気が吹き抜けを起こす場合が多くなることが分かった。なお、本発明者らは、粒度の大きいスラグ層の上に粒度の小さいスラグ層を積層し、粒度の大きいスラグ層の下方から空気を導入することで、通気性を改善できるか否かについても検討した。しかしながら、この構成によると、粉の含有量が多い場合には、粒度の小さいスラグ層が浮き上がり、所望の通気性改善効果は得られなかった。
【0029】
本発明者らは、K値を上記範囲内に収める観点から、
図5の通気度測定装置50を用いてスラグ層40における1又は複数の通気部30の好ましい存在態様について検討した。具体的には、直径200mm、高さ400mmの円筒状の本体51の内周面を粒度0.425mm以下の微粉で被覆し、周壁からの空気の流れを防止したうえで、本体51内にスラグ試料Xを高さ300mmまで装入した。スラグ試料Xは、本体51の底部の中心部分に粒度0.425mm超のスラグが95質量%以上を占める製鋼スラグからなる通気部X1を有し、通気部X1の周囲に粒度0.425mm以下のスラグが20質量%以上含まれる転炉スラグからなる製鋼スラグX2を有する構成とした。スラグ試料Xの装入に当たっては、ホッパー(不図示)を用い、50mm篩を介して本体51内に装入することでスラグ装入時の偏析を抑制した。スラグ試料Xの装入後、本体51の下方側からスラグ試料X内に空気Gを供給した。この際、本体51に供給される空気Gが十分に分散されるよう、本体51への空気の導入経路には十数個のビー玉52aが充填されたロート状の空気導入部52を設けた。スラグ試料Xが流動化する直前まで空気Gを供給し、スラグ試料Xの底部に取り付けた差圧計53でスラグ試料Xの圧損を測定し、スラグ試料Xの高さHに対する通気部X1の高さhの比及びスラグ試料Xの底部の面積Sに対する通気部X1の底部の面積sの比と、K値との関係を求めた。この結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
表1に示すように、h/H=2/3の場合、s/S≧0.040でK値が0.13以下となり、h/H=5/6の場合、s/S≧0.022でK値が0.13以下となり、h/H=1の場合、s/S≧0.018でK値が0.13以下となることが分かる。これらの結果から、線形補間により上述の条件(1)及び(2)が導かれる。
【0032】
また、表1に示すように、h/H=2/3の場合、及びh/H=5/6の場合は、s/Sが表1に記載のいずれの値であってもK値は0.04以上である一方、h/H=1の場合には、K値を0.04以上とするためには少なくともs/S<0.1の条件を満たすことが必要であることが分かる。これらの結果から、5/6≦h/H≦1の場合、上記(2)の条件に加え、下記(3)の条件を満たすことが好ましいことが分かる。
(3)s/S<0.1
【0033】
スラグ層形成工程S1では、通気部30の開放端12b側の側面を閉塞端12a側から開放端12b側に向けて上方から下方に傾斜させることが好ましい。当該蒸気エージング方法は、製鋼スラグ20の一部分をショベルで取り除いた後に、閉塞端12a側から通気部30を装入することで、通気部30を構成するスラグの流動を利用して通気部30の開放端12b側の側面を容易に傾斜させることができる。当該蒸気エージング方法は、スラグ層形成工程S1で通気部30の開放端12b側の側面を傾斜させることで、通気部30の体積の増加を抑えつつ、通気部30と製鋼スラグ20との接触面積を十分に確保しやすい。これにより、蒸気エージング効率を向上しやすい。
【0034】
スラグ層形成工程S1では、通気部30の閉塞端12a側の側面を閉塞端12a側から開放端12b側に向けて上方から下方に傾斜させることが好ましい。当該蒸気エージング方法は、例えば製鋼スラグ20の一部分をショベルで取り除いた後に、製鋼スラグ20に傾斜面を形成し、この傾斜面上に通気部30を装入することで、通気部30の閉塞端12a側の側面を傾斜させることができる。当該蒸気エージング方法は、スラグ層形成工程S1で通気部30の閉塞端12a側の側面を傾斜させることで、通気部30と製鋼スラグ20との接触面積を大きくしやすい。これにより、蒸気エージング効率を向上しやすい。
【0035】
スラグ層形成工程S1では、通気部30をスラグ処理槽1の底部11から設けるとよい。当該蒸気エージング方法は、製鋼スラグ20の一部分をスラグ処理槽1の底部11までショベルで取り除いた後、この部分に通気部30を装入することで、通気部30をスラグ処理槽1の底部11から容易に設けることができる。当該蒸気エージング方法は、通気部30をスラグ処理槽1の底部11から設けることで、後述するエージング工程S2で、蒸気を、製鋼スラグ20を介さず通気部30に直接的に導入することができる。これにより、蒸気の流れをより確実に制御し、蒸気エージング効率を向上しやすい。
【0036】
(エージング工程)
エージング工程S2では、スラグ層形成工程S1で形成されたスラグ層40に保熱カバー(不図示)を被せたうえ、複数本の蒸気管2からスラグ層40に蒸気を供給する。エージング工程S2では、スラグ層40に複数の熱電対(不図示)を挿入し、スラグ層40の温度を測りつつ、蒸気エージングすることが好ましい。
【0037】
エージング工程S2では、例えば全ての熱電対の温度が90℃以上、好ましくは93℃以上になるまでスラグ層40を昇温させ、全ての熱電対の温度が上記下限以上となった状態でスラグ層40を保熱する。蒸気エージングを効率的に行う観点からは、スラグ層40の昇温時間は短いことが好ましい。この点について、当該蒸気エージング方法は、スラグ層40に1又は複数の通気部30を設けることで、スラグ層40の通気性を高め、蒸気の流れを安定化させることができる。その結果、スラグ層40を均一に加熱し、スラグ層40の昇温時間を短縮することができる。
【0038】
<利点>
当該蒸気エージング方法は、スラグ層形成工程S1で、上述の(1)又は(2)の条件を満たすように製鋼スラグ20中に1又は複数の通気部30を形成することで、スラグ層40内の蒸気の流れを制御し、製鋼スラグ20の蒸気エージングを効率的に行うことができる。従って、当該蒸気エージング方法は、製鋼スラグの膨張崩壊を効率的に抑制することができる。また、当該蒸気エージング方法は、蒸気の使用量を削減することで蒸気エージングの低コスト化を図ることができる。
【0039】
当該蒸気エージング方法は、通気性を高めるための層をスラグ層40とは別個に設けることを要しないので、スラグの処理量を大きくして蒸気エージング効率を高めることができる。
【0040】
当該蒸気エージング方法は、スラグ層40の昇温時間を短くすることで、装置の稼働サイクル数を増加することができる。また、装置の稼働サイクル数を増加することで、装置のコンパクト化を図ることができる。
【0041】
[第二実施形態]
<スラグ層形成工程>
図6を参照して、
図1の蒸気エージング方法のスラグ層形成工程S1の変形例について説明する。本実施形態におけるスラグ層形成工程S1では、製鋼スラグ21中に粒度0.425mm超のスラグが95質量%以上を占める複数(2つ)の通気部(第1通気部31a及び第2通気部31b)が設けられたスラグ層41を形成する。スラグ層41は、
図3のスラグ層40と同様、スラグ層41の高さをH[m]、複数の通気部31a、31bの平均高さをh[m]とし、スラグ層41の底部の面積をS[m
2]、複数の通気部31a、31bの底部の合計面積をs[m
2]とした場合、上述(1)又は(2)の条件を満たしている。
【0042】
スラグ層形成工程S1では、まずスラグ処理槽1の閉塞端12a側から第1通気部31aを形成する予定の領域の手前まで製鋼スラグ21を装入する。これにより、製鋼スラグ21の開放端12b側の側面は、スラグの流動によって、閉塞端12a側から開放端12b側に向けて上方から下方に傾斜した傾斜面に形成される。続いて、スラグ層形成工程S1では、第1通気部31aを形成する予定の領域と一対の側壁との間の空間に製鋼スラグ21を装入する。そして、スラグ層形成工程S1では、製鋼スラグ21に囲まれた空間(第1通気部31aを形成する予定の領域)に第1通気部31aを装入する。さらに、スラグ層形成工程S1では、第1通気部31aの形成後に、第1通気部31aの開放端12b側に製鋼スラグ21を装入してゆく。スラグ層形成工程S1では、この手順を繰り返し行うことで、
図6のスラグ層41を形成することができる。
【0043】
上述の手順で形成されることで、通気部31a、31bの閉塞端12a側の側面は製鋼スラグ21の安息角で傾斜した傾斜面となり、開放端12b側の側面は通気部31a、31bの安息角で傾斜した傾斜面となる。すなわち、通気部31a、31bは、閉塞端12a側の側面及び開放端12b側の側面がいずれも安息角で傾斜した層状に設けられる。この構成によると、通気部31a、31bの閉塞端12a側の側面及び開放端12b側の側面は、いずれも閉塞端12a側から開放端12b側に向けて上方から下方に傾斜する。また、この構成によると、通気部31a、31bの閉塞端12a側の側面と開放端12b側の側面との傾斜角度は近似する。その結果、通気部31a、31bと製鋼スラグ20との接触面積を大きくして蒸気エージング効率を向上しやすい。
【0044】
通気部31a、31bは、
図3の通気部30と同様、スラグ処理槽1の底部11から設けられていることが好ましい。当該蒸気エージング方法は、上述のように、スラグ層形成工程S1で、製鋼スラグ21に囲まれた空間に通気部31a、31bを装入することで、通気部31a、31bをスラグ処理槽1の底部11から容易に設けることができる。
【0045】
<利点>
当該蒸気エージング方法は、スラグ層形成工程S1を上述の手順で行うことによっても、スラグ層41の蒸気の流れを制御することで、製鋼スラグ21の膨張崩壊を効率的に抑制することができる。
【0046】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0047】
上記通気部の具体的な形状は上記実施形態に記載の形状に限定されるものではない。例えば上記通気部の開放端側の側面及び閉塞端側の側面の一方又は両方は傾斜していなくてもよい。
【0048】
上記通気部は、スラグ処理槽の底部から離間して設けられていてもよい。つまり、上記通気部と上記スラグ処理槽の底部との間には製鋼スラグが介在していてもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0050】
[実施例]
[No.1]
図2の蒸気エージング装置10を用いて製鋼スラグの蒸気エージングを行った。スラグ処理槽1としては、閉塞端12aと開放端12bとの間隔が23m、一対の側壁13の内面同士の間隔が8.5m、端壁12及び一対の側壁13の高さが2.5mのものを用いた。蒸気管2の本数は9本で、外周が150mm×250mmの四角筒状のものを用いた。蒸気穴2aの直径は6mmで、蒸気管2の側壁の対向位置に400mmピッチで58か所設けた。
【0051】
この蒸気エージング装置10に、
図3及び
図4に示すスラグ層40を形成した(スラグ層形成工程)。No.1では、閉塞端12aから開放端12b側に10mの間隔を空けた位置の底部11から通気部30を形成した。閉塞端12aと開放端12bとの対向方向(側壁13の延在方向)における通気部30の底部の幅は2.4mとした。このスラグ層形成工程によって形成されたスラグ層40の高さHは2.4m、通気部30の平均高さhは1.9m、スラグ層40の底部の面積Sは195.5m
2、通気部30の底部の面積sは9.1m
2であった。通気部30の閉塞端12a側の側面及び開放端12b側の側面は、いずれも閉塞端12a側から開放端12b側に向けて上方から下方に傾斜したものとした。製鋼スラグ20としては、表2の粒度分布を有する転炉スラグを用いた。通気部30としては、粒度0.425mm超のスラグが96.8質量%を占める脱燐スラグを用いた。
【0052】
【0053】
上記スラグ層形成工程で形成されたスラグ層に保熱カバーを被せ、この保熱カバーからスラグ層40に
図7の配置で9本の熱電対P1~P9を挿入した。具体的には、スラグ処理槽の閉塞端12aとのピッチが5mとなる位置に3つの熱電対P7、P8、P9を挿入し、これらの熱電対P7、P8、P9から開放端12b側に6.5mのピッチで3つの熱電対P4、P5、P6を挿入し、さらにこれらの熱電対P4、P5、P6から開放端12b側に6.5mのピッチで3つの熱電対P1、P2、P3を挿入した。閉塞端12aの延在方向と平行な方向に隣接する熱電対同士のピッチは3.2mとし、側壁の内面とこの側壁に隣接する熱電対とのピッチは1.05mとした。また、熱電対P1~P9のスラグ層40への挿入深さは200mmとした。この状態で、各蒸気管2から3ton/hrの流量でスラグ層40に蒸気を供給した(エージング工程)。このエージング工程における熱電対P1~P9による温度の測定結果を
図8に示す。
【0054】
[No.2]
上記スラグ層形成工程で、
図9のスラグ層42を形成した以外はNo.1と同様にして蒸気エージングを行った。No.2では、閉塞端12aから開放端12b側に6.5mの間隔を空けた位置の底部11から第1通気部32aを設け、さらに第1通気部32aから開放端12b側に4.4mの間隔を空けた位置の底部11から第2通気部32bを設けた。閉塞端12aと開放端12bとの対向方向(側壁の延在方向)における第1通気部32a及び第2通気部32bの底部の幅はそれぞれ1mとした。このスラグ層形成工程によって形成されたスラグ層42の高さHは2.4m、第1通気部32a及び第2通気部32bの平均高さhは1.9m、スラグ層42の底部の面積Sは195.5m
2、第1通気部32a及び第2通気部32bの底部の合計面積sは7.6m
2であった。第1通気部32a及び第2通気部32bの閉塞端12a側の側面及び開放端12b側の側面は、いずれも閉塞端12a側から開放端12b側に向けて上方から下方に傾斜したものとした。No.2のエージング工程における熱電対P1~P9による温度の測定結果を
図10に示す。
【0055】
[No.3]
上記スラグ層形成工程で、
図6のスラグ層41を形成した以外はNo.1と同様にして蒸気エージングを行った。No.3では、閉塞端12aから開放端12b側に6.5mの間隔を空けた位置の底部11から第1通気部31aを設け、さらに第1通気部31aから開放端12b側に6.5mの間隔を空けた位置の底部11から第2通気部31bを設けた。閉塞端12aと開放端12bとの対向方向(側壁の延在方向)における第1通気部31a及び第2通気部31bの底部の幅はそれぞれ1mとした。このスラグ層形成工程によって形成されたスラグ層41の高さHは2.4m、第1通気部32a及び第2通気部32bの平均高さhは1.9m、スラグ層41の底部の面積Sは195.5m
2、第1通気部31a及び第2通気部31bの底部の合計面積sは7.6m
2であった。第1通気部31a及び第2通気部31bは、閉塞端12b側の側面が製鋼スラグ21の安息角で形成され、開放端12b側の側面が通気部31a、31bの安息角で形成された層状に形成した。No.3のエージング工程における熱電対P1~P9による温度の測定結果を
図11に示す。
【0056】
[No.4]
上記スラグ層形成工程で、
図12のスラグ層43を形成した以外はNo.1と同様にして蒸気エージングを行った。No.4では、閉塞端12aから開放端12b側に4.9mの間隔を空けた位置の底部11から第1通気部33aを設け、さらに第1通気部33aから開放端12b側に4.9mの間隔を空けた位置の底部11から第2通気部33bを設け、さらに第2通気部33bから開放端12b側に4.9mの間隔を空けた位置の底部11から第3通気部33cを設けた。閉塞端12aと開放端12bとの対向方向(側壁の延在方向)における第1通気部33a、第2通気部33b及び第3通気部33cの底部の幅はそれぞれ0.6mとした。このスラグ層形成工程によって形成されたスラグ層43の高さHは2.4m、第1通気部33a、第2通気部33b及び第3通気部33cの平均高さhは1.9m、スラグ層43の底部の面積Sは182.8m
2、第1通気部33a、第2通気部33b及び第3通気部33cの底部の合計面積sは6.84m
2であった。第1通気部33a、第2通気部33b及び第3通気部33cは、閉塞端12b側の側面が製鋼スラグ23の安息角で形成され、開放端12b側の側面が通気部33a~33cの安息角で形成された層状に形成した。No.4のエージング工程における熱電対P1~P9による温度の測定結果を
図13に示す。
【0057】
[比較例]
[No.5]
上記スラグ層形成工程で、製鋼スラグのみからなるスラグ層を形成した以外はNo.1と同様にして蒸気エージングを行った。No.5のエージング工程における熱電対P1~P9による温度の測定結果を
図14に示す。
【0058】
<評価結果>
図8、
図10、
図11、
図13及び
図14に示すように、スラグ層に1又は複数の通気部を形成したNo.1~No.4は、通気部を形成しなかったNo.5に比べて全ての熱電対P1~P9で測定される温度が所定の温度に至るまでの昇温時間が短くなっている。特に、通気部の形状を層状としたNo.3及びNo.4は、全ての熱電対P1~P9で測定される温度が所定の温度に至るまでの昇温時間を大きく短縮できている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明の一態様に係る蒸気エージング方法は、蒸気エージング効率を高め、製鋼スラグの膨張崩壊を効率的に抑制するのに適している。
【符号の説明】
【0060】
1 スラグ処理槽
2 蒸気管
2a 蒸気穴
10 蒸気エージング装置
11 底部
12 端壁
12a 閉塞端
12b 開放端
13 側壁
20、21、23 製鋼スラグ
30 通気部
31a、32a、33a 第1通気部
31b、32b、33b 第2通気部
33c 第3通気部
40、41、42、43 スラグ層
50 通気度測定装置
51 本体
52 空気導入部
52a ビー玉
53 差圧計
P1~P9 熱電対
X スラグ試料
X1 通気部
X2 製鋼スラグ
G 空気
H スラグ層の高さ
h 通気部の平均高さ
S スラグ層の底部の面積
s 通気部の底部の合計面積
W 一対の側壁の内面同士の間隔
w 一対の側壁の対向方向における通気部の平均幅