(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】灌流バイオリアクタ及び関連する使用方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/36 20060101AFI20230828BHJP
C12M 3/06 20060101ALI20230828BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230828BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20230828BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20230828BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230828BHJP
【FI】
C12M1/36
C12M3/06
C12N1/00 B
C12N1/02
C12P21/02 C
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020517855
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 US2018055891
(87)【国際公開番号】W WO2019079188
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-09-22
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】アンジェリーニ、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ウィットマー、アシュリー
(72)【発明者】
【氏名】デビアス、アンソニー
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0145563(US,A1)
【文献】国際公開第2016/196315(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオリアクタに細胞培養物を供給することであって、前記バイオリアクタ中の条件により、前記細胞培養物が目的のタンパク質(POI)を産生できるようにする、前記細胞培養物を供給すること、
前記バイオリアクタ内の前記
細胞培養物の1つ以上のプロセスパラメータ(PP)を、ラマンプローブによって測定することであって、前記プロセスパラメータが、栄養素濃度、生細胞濃度、及びタンパク質属性からなる群から選択される、前記PPを測定すること、
細胞培養内容物を含む前記バイオリアクタの重量を測定すること、
第1の排出導管を使用して、第1の指
定速度で、前記細胞培養物から無細胞の使用済み培地を除去すること、
第2の排出導管を使用して、第2の指
定速度で、前記細胞培養物から細胞を除去すること、
投入導管を使用して、第3の指
定速度で、前記細胞培養物に新鮮培地または栄養素の一方または両方を導入すること、および
前記バイオリアクタを通る全体的な流れの速度である灌流速度を一定の灌流速度設定値に基づき維持するために、前記第1の指
定速度、第2の指
定速度、及び第3の指
定速度のうち少なくとも1つを、前記第1の指
定速度、第2の指
定速度、及び第3の指
定速度のうちの他の
少なくとも1つ
の変化に応じて調節すること、を含み、
前記投入導管
の前記第3の指定速度、前記
第1の排出導管
の前記第1の指定速度、および/または前記第2の排出導管の前記第2の指定速度が、ラマンプローブ測定値と前記バイオリアクタの重量測定値とに基づいて調節されて、(i)前記プロセスパラメータの1つ以上が、所定の範囲内に維持され、(ii)前記細胞培養物を含む前記バイオリアクタの前記重量が、所定の範囲内に維持され、且つ(iii)前記投入導管の前記第3の指
定速度と、前記
第1の排出導管
の前記第1の指
定速度と
、前記第2の排出導管の前記第2の指
定速度とが、それらの速度のそれぞれ所定の範囲内に維持される、バイオリアクタシステムの制御方法。
【請求項2】
ラマンによる前記バイオリアクタ内の前記
細胞培養物の前記1つ以上のプロセスパラメータの測定は、少なくとも1時間に1回行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、定常状態で30日間、1mL当たり少なくとも3000万細胞の平均生細胞濃度で、前記細胞培養物を維持するように構成されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオリアクタは少なくとも10Lの容積を有しており、前記方法は、前記バイオリアクタ及び前記細胞培養物の前記重量
の変動を20gの範囲内に維持するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオリアクタは少なくとも10Lの容積を有しており、前記方法は、前記細胞培養物を含む前記バイオリアクタの前記重量
の変動を、前記細胞培養物を含む前記バイオリアクタの初期重量の0.1パーセント以内に維持するように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
プロセスパラメータがそれぞれの所望の範囲内の設定点の値からずれる場合には、前記設定点の値からの前記プロセスパラメータのずれを減らすように、無細胞培地の除去、細胞の除去、または新鮮培地もしくは栄養素の一方もしくは両方の導入の1つ以上が調節される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
1日当たり少なくとも2バイオリアクタ容積の使用済み培地が前記第1の排出導管を通して除去される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1日当たり最大3バイオリアクタ容積の使用済み培地が前記第1の排出導管を通して除去される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記プロセスパラメータは、前記細胞培養物の温度と前記細胞培養物のpHとを含み、前記温度は35~36℃に維持され、前記pHは6.85~7.15に維持される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記プロセスパラメータは、細胞特異的生産性を含み、前記方法は、少なくとも25~37日間、少なくとも15~25pg/細胞/日の細胞特異的生産性で、前記細胞培養物中の細胞を維持するように構成されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記プロセスパラメータは、グルコース濃度を含み、前記方法は、グルコース濃度を約5mM~約85mM、または約1g/L~約15.5g/Lに維持するように構成されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記プロセスパラメータは、乳酸塩濃度を含み、前記方法は、約60mM未満、または約6g/L未満の乳酸塩濃度を維持するように構成されている、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記プロセスパラメータは、アンモニア濃度を含み、前記方法は、約15mM未満のアンモニア濃度を維持するように構成されている、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
無細胞の使用済み培地の除去、細胞の除去、及び新鮮培地または栄養素の一方または両方の導入のそれぞれは、それぞれのポンプによって制御される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記バイオリアクタは、細胞を保留し、液体が通過できるように構成されたフィルタを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の指
定速度、第2の指
定速度、及び第3の指
定速度の少なくとも1つが調節されるときに、前記全体的な流れの速度が一定に維持される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記バイオリアクタの前記灌流速度を前記一定の灌流速度設定値に基づき維持するために、前記投入導管
の前記第3の指定速度、前記
第1の排出導管の
前記第1の指定速度、および前記第2の排出導管の前記第2の指定速度が、前記ラマンプローブ測定値と前記バイオリアクタの重量測定値とに基づいて調節される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記
バイオリアクタシステムを通る前記灌流速度は、前記一定の灌流速度設定値に基づき維持されて、前記バイオリアクタ内の濃度に基づいて変動しない、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記
バイオリアクタシステムを通る前記灌流速度は、実質的に一定に維持される、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記フィルタは、中空糸を通じて細胞培養物を循環させる1つのポンプと、分離に先立ち細胞密度の低い液体を除去する別のポンプとによって、交互接線流の下で動作する、中空糸フィルタモジュールであり、
前記交互接線流は、
(i)前記中空糸の膜表面と同じ方向の1つの流れと、
(ii)前記中空糸の前記膜表面に垂直な方向の別の流れと、
を導くことにより実現される、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記投入導管からの新鮮培地および栄養素の総投入量を、前記第1の排出導管からの無細胞使用済み培地および前記第2の排出導管からの細胞の合計排出量に等しくなるように維持するように、前記投入導管の前記第3の指定速度、前記第1の排出導管の前記第1の指定速度、および前記第2の排出導管の前記第2の指定速度が、前記ラマンプローブ測定値と前記バイオリアクタの重量測定値とに基づいて調節される、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の指定速度を前記バイオリアクタ内の前記細胞培養物中の細胞の増殖速度に等しくなるように維持するように、前記投入導管の前記第3の指定速度
、前記第1の排出導管前記第1の指定速度
、および前記第2の排出導管の前記第2の指定速度
が、前記ラマンプローブ測定値と前記バイオリアクタの重量測定値とに基づいて調節される、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記バイオリアクタにおける前記1つ以上のプロセスパラメータについての前記ラマンプローブ測定値を使用した第1のフィードバックループを確立して、前記1つ以上のプロセスパラメータのそれぞれの所定の範囲内のための設定点を設定すること、および
前記第1の排出導管の前記第1の指定速度、前記第2の排出導管の前記第2の指定速度、または前記投入導管の前記第3の指定速度を、前記第1のフィードバックループに基づき調節して、前記1つ以上のプロセスパラメータを維持すること
をさらに含む、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞培養内容物を含む前記バイオリアクタの重量測定値を使用した第2のフィードバックループを確立して、前記重量の所定の範囲内のための設定点を設定すること、および
前記第2のフィードバックループに基づいて前記重量測定値と前記重量のための設定点との差を補正して、前記重量を前記所定の範囲内に維持すること
をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願(複数可)の相互参照
本特許出願は、米国特許法第119条の下で、2017年10月16日に出願された米国仮特許出願第62/572,918号に対する利益を主張するものであり、この米国仮特許出願の全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、灌流バイオリアクタ及び関連する使用方法を対象とする。
【背景技術】
【0003】
バイオリアクタを使用して、タンパク質などの生物由来物質を製造するために、細胞培養物を維持することができる。流加式のバイオリアクタでは、培養中に、1種類以上の栄養素がバイオリアクタに供給され、生物由来物質はバッチの終了までバイオリアクタ内に留まる。灌流バイオリアクタは、流加リアクタに関する性能課題のいくつかに応え、1990年代後半に普及し始めた。しかし、最先端の灌流バイオリアクタでは、利用可能な制御戦略の数が限られていること、データの欠落、及び高額な費用に悩まされている。
【0004】
例えば、灌流リアクタの制御ソリューションでは、ポンプの偏流とプロセスの変動とに対処しながら、投入及び排出の供給ポンプの体積流量を較正しようと試みる。しかし、いずれかの2つの所与のポンプ間の固有差(例えば、製造上のばらつき)と、厳格な制御を達成することができないこととが原因で、産生の実行に失敗すると、バイオリアクタは過剰充填されるか、または空になることがあり得る。また、既存の制御ソリューションは、例えば、アンモニア、グルコース、及びタンパク質の品質属性などの別種のパラメータを測定する能力に欠ける。本開示の実施形態は、既存の灌流バイオリアクタの1つ以上の制約及び欠点に対処する。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、とりわけ、タンパク質産生のための細胞培養プロセスを制御するのに有用な、バイオリアクタを制御する方法、及びバイオリアクタシステムに関する。本明細書に開示される実施形態のそれぞれは、他の実施形態のいずれかに関連して説明される特徴事項の1つ以上を含んでもよい。
【0006】
本開示は、バイオリアクタに細胞培養物を供給すること、バイオリアクタ内の細胞培養物の1つ以上のプロセスパラメータを、ラマンプローブによって測定すること、第1の排出導管を使用して、第1の指定された速度で、細胞培養物から無細胞の使用済み培地を除去すること、第2の排出導管を使用して、第2の指定された速度で、細胞培養物から細胞を除去すること、投入導管を使用して、第3の指定された速度で、細胞培養物に新鮮培地または栄養素の一方または両方を導入すること、及びラマンプローブの測定値に基づいて、第1の指定された速度、第2の指定された速度、または第3の指定された速度の1つ以上を変更することを含む、バイオリアクタシステムの制御方法に関する。
【0007】
本開示の一実施形態は、バイオリアクタに細胞培養物を供給することであって、バイオリアクタ中の条件により、細胞培養物が目的のタンパク質(POI)を産生できるようにする、細胞培養物を供給すること、バイオリアクタ内の培養物のプロセスパラメータ(PP)を、ラマンによって測定することであって、プロセスパラメータが、栄養素濃度、生細胞濃度、及びタンパク質属性からなる群から選択される、PPを測定すること、細胞培養内容物を含むバイオリアクタの重量を測定すること、第1の排出導管を使用して、第1の指定された速度で、細胞培養物から無細胞の使用済み培地を除去すること、第2の排出導管を使用して、第2の指定された速度で、細胞培養物から細胞を除去すること、投入導管を使用して、第3の指定された速度で、細胞培養物に新鮮培地及び栄養素の一方または両方を導入することを含み、ならびに(i)プロセスパラメータの1つ以上を、所定の範囲内に維持すること、(ii)細胞培養物を含むバイオリアクタの重量を、所定の範囲内に維持すること、及び(iii)投入導管の第3の指定された速度と、排出導管のそれぞれの第1の指定された速度と第2の指定された速度とを、それらの速度のそれぞれ所定の範囲内に維持することのために、投入導管及び排出導管が、ラマンプローブ測定値とバイオリアクタの重量測定値とに基づいて調節される、バイオリアクタシステムの制御方法を対象とする。
【0008】
いくつかの実施形態では、ラマンによるバイオリアクタ内の培養物の1つ以上のプロセスパラメータの測定は、定期的な間隔で、例えば、少なくとも1時間に1回行われる。他の実施形態では、本方法は、定常状態で少なくとも約30日間、1mL当たり少なくとも約3000万細胞の平均生細胞濃度で、細胞培養物を維持するように構成されている。一実施形態において、バイオリアクタは、少なくとも2L、少なくとも3L、少なくとも10L、少なくとも35L、もしくは少なくとも50L、またはそれ以上の容積を有しており、本方法は、細胞培養物を含むバイオリアクタの重量の変動を、細胞培養物を含むバイオリアクタの初期重量の0.1パーセント以内に維持するように構成されている。例えば、バイオリアクタは少なくとも約10Lの容積を有しており、本方法は、バイオリアクタ及び細胞培養内容物の初期重量に基づいて決定された重量範囲内の変動、例えば、約20±2gの範囲内の変動で、バイオリアクタ及び細胞培養物の重量を維持するように構成されている。いくつかの実施形態では、バイオリアクタは、プロセスパラメータがそれぞれの所望の範囲内の設定点の値からずれる場合に、無細胞培地の除去、細胞の除去、ならびに新鮮培地及び栄養素の一方または両方の導入の1つ以上を制御され、その結果、バイオリアクタは、そのずれを減らすように調節される。1日当たり少なくとも2バイオリアクタ容積の使用済み培地が、第1の排出導管を通して除去される。1日当たり最大3バイオリアクタ容積の使用済み培地が、第1の排出導管を通して除去される。プロセスパラメータは、細胞培養物の温度と細胞培養物のpHとを含み、温度は約30~40℃、約32~約38℃、または約34~約38℃に維持され、pHは、約6.50~約7.50、約6.60~約7.40、約6.70~約7.40、約6.80~約7.30、約6.90~約7.20、約7.00~約7.10、約6.50、約6.55、約6.60、約6.65、約6.70、約6.75、約6.80、約6.85、約6.90、約6.95、約7.00、約7.05、約7.10、約7.15、約7.20、約7.25、約7.30、約7.35、約7.40、約7.45、または約7.50に維持される。プロセスパラメータは細胞特異的生産性を含み、本方法は、少なくとも25~37日間、少なくとも約15~60pg/細胞/日、約15~25pg/細胞/日、少なくとも約17~23pg/細胞/日、または少なくとも約19~21pg/細胞/日の細胞特異的生産性で、細胞培養物中の細胞を維持するように構成されている。プロセスパラメータはグルコース濃度を含み、本方法は、グルコース濃度を約5mM~約85mM、または約0.5g/L~約15.5g/L、約1g/L~約15.5g/L、約0.5g/L~約8g/L、約2g/L~約6g/L、もしくは約3g/L~約5g/Lに維持するように構成されている。プロセスパラメータは乳酸塩濃度を含み、本方法は、約60mM未満、または約6g/L未満、約5g/L未満、約4g/L未満、約3g/L未満、約2g/L未満、もしくは約1g/L未満の乳酸塩濃度を維持するように構成されている。プロセスパラメータはアンモニア濃度を含み、本方法は、約15mM未満、約12mM未満、約10mM未満、約9mM未満、約8mM未満、約7mM未満、約6mM未満のアンモニア濃度を維持するように構成されている。無細胞の使用済み培地の除去、細胞の除去、及び新鮮培地及び栄養素の一方または両方の導入のそれぞれは、それぞれのポンプによって制御される。バイオリアクタは、細胞を保留し、液体が通過できるように構成されたフィルタを含む。
【0009】
別の実施形態では、本開示は、バイオリアクタに細胞培養物を供給すること、バイオリアクタ内の細胞培養物の1つ以上のプロセスパラメータ(PP)を、ラマンプローブによって測定すること、及びラマンプローブからの測定値に基づいて、バイオリアクタの1つ以上の入力または出力を調節することを含む、バイオリアクタシステムの制御方法を対象とする。
【0010】
本開示による方法は、次のステップを含むものとして示されている。バイオリアクタに細胞培養物を供給すること(302)であって、バイオリアクタ中の条件により、細胞培養物が目的のタンパク質(POI)を産生できるようにする、細胞培養物を供給すること、バイオリアクタ内の培養物のプロセスパラメータを、ラマンによって測定すること(304)であって、プロセスパラメータが、少なくとも栄養素濃度、生細胞濃度、及びタンパク質属性からなる群から選択される、プロセスパラメータを測定すること、細胞培養物を含むバイオリアクタの所定の重量を測定すること(306)、第1の排出導管を使用して、第1の指定された速度で、細胞培養物から無細胞の使用済み培地を除去すること(308)、第2の排出導管を使用して、第2の指定された速度で、細胞培養物から細胞を除去すること(310)、投入導管を使用して、第3の指定された速度で、細胞培養物に新鮮培地及び栄養素の一方または両方を導入することを含み、ならびに(i)プロセスパラメータの1つ以上を、所定の範囲内に維持すること、(ii)細胞培養物を含むバイオリアクタの重量を、所定の範囲内に維持すること、及び(iii)投入導管の第3の指定された速度と、排出導管のそれぞれの第1の指定された速度と第2の指定された速度とを、それらの速度のそれぞれ所定の範囲内に維持することのために、投入導管及び排出導管が、ラマンプローブ測定値とバイオリアクタの重量測定値とに基づいて調節される(312)。
【0011】
さらに別の態様では、本開示は、投入導管及び少なくとも1つの排出導管を有するタンクと、少なくとも1つのポンプと、タンクに結合されたフィルタと、タンクに結合されたラマンプローブと、少なくとも1つのポンプ及びラマンプローブに結合されたコントローラであって、コントローラが、ラマンプローブからの入力に基づいて少なくとも1つのポンプを制御するように構成されている、コントローラとを備えるバイオリアクタ培養システムを対象とする。
【0012】
少なくとも1つの排出導管は、タンクからの流体の除去を制御するように構成された第2のポンプに接続するための第1の排出導管と、タンクからの細胞の除去を制御するように構成された第3のポンプに接続するための第2の排出導管とを含む。フィルタは、タンク内の細胞を保留し、液体がフィルタを通過できるように構成されている。ラマンプローブは、タンク内に配置されている。コントローラは、第1のポンプ、第2のポンプ、及び第3のポンプに結合されている。バイオリアクタは、タンク内の細胞培養物を含むタンクの重量を測定するように構成されたスケールを含み、コントローラは、スケールから重量データを受け取るように構成されている。コントローラは、タンクの重量を、重量の設定点と比較すること、及び比較に基づいて、第1のポンプ、第2のポンプ、及び第3のポンプの出力の1つ以上を調節することを行うように構成されている。コントローラは、ラマンプローブからスペクトルデータを受け取ること、受け取ったスペクトルデータに基づいて、細胞培養物のパラメータを判定すること、判定したパラメータを、パラメータの設定点と比較すること、ならびに比較に基づいて、第1のポンプ、第2のポンプ、または第3のポンプの出力の1つ以上を調節することを行うように構成されている。第1のポンプ、第2のポンプ、及び第3のポンプの1つ以上の出力を調節することが、判定したパラメータとパラメータの設定点との間のずれ、または受け取った重量と、重量の設定点との間のずれを減らす。本方法は、定常状態で30日間、1mL当たり少なくとも3000万細胞の平均生細胞濃度で、細胞培養物を維持するように構成されている。タンクは少なくとも10Lの容積を有しており、本方法は、細胞培養物を含むタンクの重量の変動を20gの範囲内に維持するように構成されている。タンクは少なくとも10Lの容積を有しており、本方法は、細胞培養物を含むバイオリアクタの重量の変動を、細胞培養物を含むタンクの初期重量の0.1パーセント以内に維持するように構成されている。コントローラは、受け取ったスペクトルデータに基づいて、バイオリアクタ培養物の複数のパラメータを判定すること、複数のパラメータのそれぞれを、複数のパラメータのそれぞれの設定点とそれぞれ比較すること、ならびに比較に基づいて、第1のポンプ、第2のポンプ、及び第3のポンプの1つ以上の出力を調節して、判定したパラメータとそれぞれの設定点との間のずれを減らすことを行うように構成されている。複数のパラメータは、温度、pH、栄養素濃度、乳酸塩濃度、アンモニア濃度、及び細胞特異的生産性を含む。フィルタは、細胞を保留し、液体が通過できるように構成されている。バイオリアクタはスケールを含み、タンク及びフィルタがスケール上に載っている。バイオリアクタはスケールを含み、タンクがスケール上に載っている。バイオリアクタはスケールを含み、タンクがスケールと物理的に接触している。
【0013】
投入導管及び少なくとも1つの排出導管を有するタンクと、少なくとも1つのポンプと、タンクと接触しているフィルタと、タンクに結合されたラマンプローブと、タンクと接触しているスケールと、少なくとも1つのポンプ、スケール、及びラマンプローブに結合されたコントローラとを備えるバイオリアクタ培養システム。いくつかの実施形態では、フィルタ及びタンクはスケールと接触している。別の実施形態では、フィルタはメッシュ材料を含む。いくつかの実施形態において、フィルタは、0.2μM~30μMの範囲の孔径を有するメッシュを含む。
【0014】
さらに別の実施形態では、本開示は、投入導管及び少なくとも1つの排出導管を有するタンクと、少なくとも1つのポンプと、タンクに結合されたフィルタと、タンクと接触しているスケールと、タンクに結合されたラマンプローブと、少なくとも1つのポンプ、スケール、及びラマンプローブに結合されたコントローラであって、コントローラが、ラマンプローブからの入力と、スケールからの入力とに基づいて、少なくとも1つのポンプを制御するように構成されている、コントローラとを備えるバイオリアクタ培養システムを対象とする。
【0015】
別の実施形態では、バイオリアクタ培養システムが開示されている。本バイオリアクタ培養システムは、タンクであって、タンクへの流体送出を制御するように構成された第1のポンプに接続するための投入導管と、タンクからの流体の除去を制御するように構成された第2のポンプに接続するための第1の排出導管と、タンクからの細胞の除去を制御するように構成された第3のポンプに接続するための第3の排出導管とを有するタンクと、タンクに結合されたフィルタであって、フィルタは、タンク内の細胞を保留し、液体がフィルタを通過できるように構成されている、フィルタと、タンク内の細胞培養物を含むタンクの重量を測定するように構成されたスケールと、タンク内に配置されたラマンプローブとを含む。この実施形態は、第1のポンプ、第2のポンプ、第3のポンプ、スケール、及びラマンプローブに結合されたコントローラであって、コントローラは、スケールから重量データを受け取ること、タンクの重量を、重量の設定点と比較すること、ラマンプローブからスペクトルデータを受け取ること、受け取ったスペクトルデータに基づいて、細胞培養物のパラメータを判定すること、判定されたパラメータをパラメータの設定点と比較すること、ならびに比較に基づいて、第1のポンプ、第2のポンプ、及び第3のポンプのスループットの1つ以上を調節することを行うように構成されているコントローラを含む。
【0016】
第1のポンプ、第2のポンプ、及び第3のポンプの1つ以上のスループットを調節することが、判定したパラメータとパラメータの設定点との間のずれ、または受け取った重量と、重量の設定点との間のずれを減らす。コントローラは、定常状態で30日間、1mL当たり少なくとも3000万細胞の平均生細胞濃度で、細胞培養物を維持するように構成されている。タンクは少なくとも3Lの容積を有しており、コントローラは、細胞培養物を含むタンクの重量の変動を20gの範囲内に維持するように構成されている。タンクは少なくとも3Lの容積を有しており、コントローラは、細胞培養物を含むバイオリアクタの重量の変動を、細胞培養物を含むタンクの初期重量の0.1パーセント以内に維持するように構成されている。コントローラは、受け取ったスペクトルデータに基づいて、バイオリアクタ培養物の複数のパラメータを判定すること、複数のパラメータのそれぞれを、複数のパラメータのそれぞれの設定点とそれぞれ比較すること、ならびに比較に基づいて、第1のポンプ、第2のポンプ、及び第3のポンプの1つ以上のスループットを調節して、判定したパラメータとそれぞれの設定点との間のずれを減らすことを行うように構成されている。複数のパラメータは、温度、pH、栄養素濃度、乳酸塩濃度、アンモニア濃度、及び細胞特異的生産性を含む。バイオリアクタ培養システムは、細胞を保留し、液体が通過できるように構成されたフィルタを含む。タンク及びフィルタは、スケール上に載っている。タンクはスケール上に載っている。
【0017】
特定の実施形態において、本開示によるバイオリアクタ培養システムは、次の要素を含むものとして例示される。タンク(10)であって、タンクへの流体送出を制御するように構成された第1のポンプ(30)に接続するための投入導管と、タンクからの流体の除去を制御するように構成された第2のポンプ(40)に接続するための第1の排出導管と、タンクからの細胞の除去を制御するように構成された第3のポンプ(50)に接続するための第3の排出導管とを有するタンクと、タンクに結合され、タンクに接続され、または別の方法でタンクと流体連通しているフィルタ(100)であって、フィルタは、タンク内の細胞を保留し、液体がフィルタを通過できるように構成されている、フィルタと、タンク内の細胞培養物を含むタンクの重量を測定するように構成されたスケール(110)と、タンク内に配置されたラマンプローブ(18)と、第1のポンプ(30)、第2のポンプ(40)、第3のポンプ(50)、スケール(110)、及びラマンプローブ(18)に結合されたコントローラ(200)とを含む。
【0018】
本バイオリアクタ培養システムでは、コントローラ(200)は、スケール(110)から重量データを受け取ること、タンク(10)の重量を、重量の設定点と比較すること、ラマンプローブ(18)からスペクトルデータを受け取ること、受け取ったスペクトルデータに基づいて、細胞培養物のパラメータを判定すること、判定されたパラメータをパラメータの設定点と比較すること、ならびに比較に基づいて、第1のポンプ、第2のポンプ、及び第3のポンプのスループットの1つ以上を調節することを行うように構成されている。
【0019】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、様々な実施例を示し、説明と共に、開示される実施例及び実施形態の原理を説明するのに役立つ。
【0020】
本開示の態様は、添付の図面に示される実施形態に関連して実施され得る。これらの図面は、本開示の異なる態様を示し、必要に応じて、異なる図で同様の構造、構成要素、材料及び/または要素を示す参照番号には、同様のラベルが付けられる。具体的に示すもの以外の構造、構成要素、及び/または要素の様々な組み合わせが企図され、その組み合わせが本開示の範囲内であることが理解される。
【0021】
さらに、本明細書には多くの実施形態が記載され図示されている。本開示は、いずれかの単一の態様にもその実施形態にも、そのような態様及び/または実施形態のいずれかの組み合わせ及び/または順列にも限定されない。さらに、本開示の態様及び/またはその実施形態のそれぞれは、単独で、または本開示の他の態様及び/またはその実施形態の1つ以上と組み合わせて使用してもよい。簡単にするために、特定の順列及び組み合わせについては、本明細書では別途説明されず及び/または図示されない。特に、本明細書で「例示的」として説明される実施形態または実施態様が、例えば他の実施形態または実施態様よりも好ましいとまたは有利であると解釈されるべきではなく、その実施形態(複数可)は、実施形態(複数可)の「例」であることを反映しまたは示すことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本開示の一例によるバイオリアクタシステムの概略図である。
【
図2】
図1のバイオリアクタシステムの例示的なコントローラ、及びそのそれぞれの投入及び排出の概略図である。
【
図3】本開示による例示的な方法のフローチャートである。
【
図4】バッチの37日目時点での灌流バイオリアクタ中の測定生細胞濃度を、バッチの6日目時点での流加バイオリアクタ中の測定生細胞濃度と比較するグラフである。
【
図5】
図4を参照して説明される灌流バイオリアクタと流加バイオリアクタとの間の経時的な正規化された細胞特異的生産性を示すグラフである。
【
図6】生細胞濃度またはグルコースを制御しなかった灌流バイオリアクタの経時的な生細胞濃度を示すグラフである。
【
図7】
図6に記載される灌流バイオリアクタ中の経時的なグルコース濃度を示すグラフである。
【
図8】
図6に記載される灌流バイオリアクタにおける経時的な細胞生存率を示すグラフである。
【
図9】生細胞濃度を制御した灌流バイオリアクタの経時的な生細胞濃度を示すグラフである。
【
図10】
図9に記載される灌流バイオリアクタにおける定常状態の細胞生存率を示すグラフである。
【
図11】
図9に記載される灌流バイオリアクタにおける経時的な正規化されたタンパク質産生(滴定濃度)を示すグラフである。
【
図12】
図9に記載される灌流バイオリアクタ中の経時的なグルコース濃度を示すグラフである。
【
図13】灌流バイオリアクタ及び流加バイオリアクタからの生細胞濃度を比較するグラフである。
【
図14】
図13に記載されるバイオリアクタで達成された正規化されたタンパク質産生(滴定濃度)を比較するグラフである。
【
図15】ラマンプローブを使用して生細胞濃度を制御する灌流バイオリアクタの経時的な生細胞濃度を示すグラフである。
【
図16】
図15に記載される灌流バイオリアクタにおける経時的な細胞生存率を示すグラフである。
【
図17】
図15に記載される灌流バイオリアクタにおける経時的な正規化されたタンパク質産生(滴定濃度)を示すグラフである。
【
図18】
図15に記載される灌流バイオリアクタ中の経時的なグルコース濃度を示すグラフである。
【
図19】ラマンプローブを使用して生細胞濃度を制御する灌流バイオリアクタの経時的な生細胞濃度を示すグラフである。
【
図20】
図19に記載される灌流バイオリアクタにおける経時的な正規化されたタンパク質産生(滴定濃度)を示すグラフである。
【
図21】ラマンプローブを使用して生細胞濃度を制御する灌流バイオリアクタの経時的な生細胞濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
繰り返しになるが、本明細書には多くの実施形態が記載され図示されている。本開示は、いずれかの単一の態様にもその実施形態にも、そのような態様及び/または実施形態のいずれかの組み合わせ及び/または順列にも限定されない。本開示の態様及び/またはその実施形態のそれぞれは、単独で、または本開示の他の態様及び/またはその実施形態の1つ以上と組み合わせて使用してもよい。簡単にするために、それらの組み合わせ及び順列の多くは、本明細書では別途説明されない。
【0024】
特に、説明を簡潔かつ明確にするために、図の特定の態様は、様々な実施形態の一般的な構造及び/または構築方法を示すものとする。周知の特徴事項及び技法の記述及び詳細は、他の特徴事項を不必要に不明瞭にすることを避けるために、省略する場合がある。図の要素は必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。一部の特徴的な要素の寸法は、実施形態の例の理解を深めるために、他の要素に比べて誇張されている場合がある。例えば、当業者は、断面図が縮尺通りに描かれておらず、これが種々の構成要素間の比例関係を表すものと捉えるべきではないことを理解する。断面図は、図示されるアセンブリの様々な構成要素の説明に役立ち、それらの相互の相対配置を示すために提供される。
【0025】
以下、本開示を例示する添付の図面を参照して、本開示の例につき詳細に説明する。可能な限り、図面全体を通して、同一または類似の部分を示すために同じ参照番号が使用される。以下の説明では、「約」、「実質的に」、「およそ」などの相対的な語は、記載される数値に±10%の変動があり得ることを示すために使用される。さらに、特許請求の範囲において、値、制限、及び/または範囲は、値、制限、及び/または範囲の±10%を意味する。
【0026】
「導管」という用語は、流体が移動し得る流路、管類、連結部、通路などのことを指す。一例を挙げれば、導管には、Watson-Marlow製のバイオプレン熱可塑性チューブが含まれ得る。
【0027】
「バッチ培養」または「バッチ方式」とは、細胞で満たされ、かつ交換されることのない細胞培地の初期作用体積で満たされる構成単位(例えば、培養容器)のことを指す。そのようなバッチ培養では、培養プロセスの開始時に、細胞培養のための全ての成分が培養容器に供給される。培養は、栄養素が枯渇するか、老廃物が毒性レベルに達し、アポトーシスを引き起こすまで進行し得る。
【0028】
「流加細胞培養」または「流加培養」という語句は、初めに動物細胞及び培地が培養容器に供給され、培養終了前に細胞及び/または産物の定期的な収穫が有る無しにかかわらず、継続的に、または離散的なボーラス添加として、追加の培養栄養素が培養中の培養物に与えられるバッチ培養のことをいう。流加培養には、定期的に全培養物(細胞及び培地を含み得る)が取り除かれ、新鮮培地で置き換えられる「半連続流加培養」が含まれる。流加培養は、培養中の容器への成分の追加(または除去)によって、単純な「バッチ培養」と区別される。流加培養は、流加プロセスの間に培地が交換されない限りにおいて、灌流培養とはさらに区別することができるが、一方、灌流培養では、例えば、フィルタまたは細胞保留デバイスを用いることにより、細胞の全てまたは一部が培養物中に保留され、培地は、増殖阻害副産物が培養容器から常時または定期的に除去される間、連続的または断続的に供給される。灌流プロセスとは異なる流加プロセスでは、最大かまたは別の方法で判定される作用体積及び/またはタンパク質産生に達したことが判定されるまで培養を継続し、その後、流加培養産物が収穫される。
【0029】
また、目的のタンパク質を産生する方法としての灌流培養は、本開示の方法での使用が企図される。目的のタンパク質または抗体の産生のための灌流細胞培養方法は、当業者に知られている。
【0030】
用語「細胞」は、組換え核酸配列の発現に適した任意の細胞を含む。細胞には、原核生物及び真核生物の細胞がある。真核細胞には、酵母及び全ての哺乳動物細胞(ヒト及び非ヒト)、ならびに例えばハイブリドーマまたはクアドローマなどの細胞融合が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、細胞は、ヒト、サル、類人猿、ハムスタ、ラット、またはマウスの細胞である。他の実施形態では、細胞は、以下の細胞から選択される。CHO(例えば、CHO K1、DXB-11 CHO、Veggie-CHO)、COS(例えば、COS-7)、網膜細胞、リンパ球、Vero、CV1、腎臓(例えば、HEK293、293 EBNA、MSR 293、MDCK、HaK、BHK21)、HeLa、HepG2、WI38、MRC 5、Colo25、HB 8065、HL-60、Jurkat、Daudi、A431(上皮)、CV-1、U937、3T3、L細胞、C127細胞、SP2/0、NS-0、MMT細胞、腫瘍細胞、及び上記の細胞に由来する細胞株である。いくつかの実施形態では、細胞は、1つ以上のウイルス遺伝子を含む(例えば、ウイルス遺伝子を発現する網膜細胞(例えば、PER.C6(登録商標)細胞))。いくつかの実施形態では、細胞は、CHO細胞である。他の実施形態では、細胞は、CHO K1細胞である。
【0031】
「細胞株」とは、細胞の連続継代または継代培養を通じた特定の系統に由来する1つまたは複数の細胞を指す。「細胞」という用語は、「細胞集団」と同じ意味で使用される。
【0032】
現在の最先端の供給戦略を前提とすれば、CHO細胞は、CHO細胞流加培養のための標準的な工業上の値である、(約1週間の後に)10×106細胞/mLを超えるような細胞数と、例えば、(約2週間後に収穫される)2g/Lを超えるヒトIgGの滴定濃度の数値とを達成している。Kim,B J,et al.,Biotechnol Bioeng. 2012 January;109(1):137-45を参照のこと。重要な工業用哺乳類細胞株として十分に確立されているCHO細胞からは、実に10g/Lを超える抗体産生が報告されている。Omasa et al, Current Pharmaceutical Biotechnology,2010,11: 233-240を参照のこと。
【0033】
「細胞培地」及び「培地」という用語は、一般的には、炭水化物エネルギー源、必須アミノ酸、微量元素、ビタミンなどの、細胞の増殖を促進するために必要な栄養素を提供する哺乳類細胞の成長に使用される栄養溶液のことを指す。細胞培地は、細胞の増殖を補助する原料を供給する抽出物、例えば、血清またはペプトン(加水分解物)を含有し得る。培地は、動物由来の抽出物の代わりに、酵母由来抽出物または大豆抽出物を含有してもよい。化学的に定義された培地とは、全ての化学成分が既知の細胞培地をいう。化学的に定義された培地には、血清由来のペプトン、または動物由来のペプトンなどの動物由来の成分が全く含まれていない。また、培地は、タンパク質を含まなくてもよい。「新鮮培地」は、細胞培養物にまだ導入されていない培地、及び/または細胞培養物の細胞によってまだ利用されていない培地である。新鮮培地は、一般に、高水準の栄養素を含み、皆無かそれに近い老廃物を含み得る。「使用済み培地」とは、細胞培養物中の細胞によって使用された培地のことを意味する場合があり、一般に、新鮮培地中に存在している水準に比べて、低水準の栄養素(これらの栄養素は細胞培養物中の細胞によって利用され得るため)と、高水準の老廃物とを含み得る。
【0034】
灌流バイオリアクタでは、培地を細胞培養物から連続的に取り除き、新鮮培地と交換することができる。老廃物を除去しながら新鮮培地を絶えず添加することにより、細胞培養物中の細胞に、それらが高細胞濃度を達成するのに必要な栄養素を提供することができる。バッチ培養及び流加培養の間に絶えず条件が変化するのとは異なり、灌流法は、培養を定常状態にして維持する手段を提供する。一般的には、1日に約1培養容積が交換され、灌流で達成される細胞濃度は、通常、バッチ培養または流加培養のピーク時に達成される濃度の2倍から10倍以上である。栄養素の交換及び/またはアポトーシス細胞の除去により、細胞の生存を定常状態で長期間維持できるようになる。定常状態の産生においては、バッチの初期に産生されるタンパク質(または他の目的化合物)の品質属性は、バッチの後期に産生されるタンパク質(または他の目的化合物)の品質属性と実質的に同一であり得る。タンパク質は、グリコフォーム、電荷の不均一性、凝集、及び純度の様々な尺度などの様々な翻訳後修飾に基づいて評価することができる。そのようなリアクタ内の細胞培養物条件は絶えず変化しているので、流加リアクタでタンパク質の品質を実質的に同一にすることは、実現可能ではない。
【0035】
バイオリアクタ中の培養条件により、ばらつきのないタンパク質材料の提供に向けて、細胞培養物が目的のタンパク質(POI)を産生できるようになる。細胞培養物のいくつかの培養条件では、1つ以上のプロセスパラメータを、グルコース濃度、グルタミン酸塩濃度、及びグルタミン濃度;アンモニア濃度;乳酸塩濃度;総細胞密度;生細胞密度;ならびにタンパク質属性などの栄養素濃度からなる群から少なくとも選択することができる。
【0036】
本バイオリアクタの方法により、培地(例えば、栄養素など)、タンパク質、及びバイオリアクタ内外の細胞などの様々な構成物質の流れに対する制御を設定することが可能になる。本バイオリアクタの方法は、第1の排出導管を使用して、第1の指定流速で、細胞培養物から無細胞の使用済み培地を除去することを含む。本方法は、第2の排出導管を使用して、第2の指定流速で、細胞培養物から細胞を除去することを含む。本方法は、投入導管を使用して、第3の指定流速で、新鮮培地または栄養素の一方または両方を細胞培養物に導入することを含む。バイオリアクタのラマンプローブ測定値に基づいて、第1の指定流速、第2の指定流速、及び第3の指定流速の1つ以上が調節される。第1の指定流速、第2の指定流速、及び第3の指定流速の1つ以上は、プロセスパラメータの1つ以上を所定の範囲内に維持するように、バイオリアクタのラマンプローブ測定値に基づいて調節される。第1の指定流速、第2の指定流速、及び第3の指定流速は、投入導管の第3の指定流速と、排出導管のそれぞれの第1の指定流速及び第2の指定流速とを、それぞれの所定の範囲内に維持するように、バイオリアクタのラマンプローブ測定値に基づいて調節される。
【0037】
無細胞の使用済み培地の除去、細胞の除去、及び新鮮培地または栄養素の一方または両方の導入のそれぞれは、それぞれのポンプによって制御される。バイオリアクタは、細胞を保留し、液体が通過できるように構成されたフィルタを含む。
【0038】
本開示の方法及びシステムは、他にも理由があるが、安定した産生プロセスを採用する目的で、バイオリアクタ及びその内容物の重量を制御する方法を含む。本方法は、細胞培養内容物を含むバイオリアクタの重量を測定することを含む。さらなる実施形態では、本方法は、上記の通り導管に関連して説明した流速の制御に組み合わせて、バイオリアクタの重量を制御することを採用する。本方法は、細胞培養内容物を含むバイオリアクタの重量を測定することを含み、第1の指定流速、第2の指定流速、及び第3の指定流速の1つ以上が、測定した重量に基づいて調節される。第1の指定流速、第2の指定流速、及び第3の指定流速は、投入導管の第3の指定流速と、排出導管のそれぞれの第1の指定流速及び第2の指定流速とを、それぞれの所定の範囲内に維持するように、測定した重量に基づいて調節される。第1の指定流速、第2の指定流速、及び/または第3の指定流速は、細胞培養物及びバイオリアクタの重量を所定の範囲内に維持するように調節される。ラマンプローブによるバイオリアクタ内の細胞培養物のプロセスパラメータ(PP)の測定は、少なくとも1時間に1回行われる。本方法は、定常状態で少なくとも約30日間、1mL当たり少なくとも3000万細胞の平均生細胞濃度で、細胞培養物を維持するように構成されている。バイオリアクタは少なくとも10Lの容積を有しており、本方法は、バイオリアクタ及び細胞培養物の重量の変動を20gの範囲内に維持するように構成されている。バイオリアクタは少なくとも10Lの容積を有しており、本方法は、細胞培養物を含むバイオリアクタの重量の変動を、細胞培養物を含むバイオリアクタの初期重量の0.1パーセント以内に維持するように構成されている。プロセスパラメータがそれぞれの所望の範囲内の設定点の値からずれる場合には、そのずれを減らすように、無細胞培地の除去、細胞の除去、及び新鮮培地または栄養素の一方または両方の導入の1つ以上が調節される。例えば、1日当たり少なくとも2バイオリアクタ容積の使用済み培地が第1の排出導管を通して除去されるか、または1日当たり最大3バイオリアクタ容積の使用済み培地が第1の排出導管を通して除去される。
【0039】
また、1つ以上のプロセスパラメータは、細胞培養物の温度と細胞培養物のpHとを含み、温度は35~36℃に維持され、pHは6.85~7.15に維持される。他の実施形態では、pHは、約6.50~約7.50、約6.60~約7.40、約6.70~約7.40、約6.80~約7.30、約6.90~約7.20、約7.00~約7.10、約6.50、約6.55、約6.60、約6.65、約6.70、約6.75、約6.80、約6.85、約6.90、約6.95、約7.00、約7.05、約7.10、約7.15、約7.20、約7.25、約7.30、約7.35、約7.40、約7.45、または約7.50に維持される。
【0040】
1つ以上のプロセスパラメータは細胞特異的生産性を含み、本方法は、少なくとも25~37日間、少なくとも15~25pg/細胞/日の細胞特異的生産性で、細胞培養物中の細胞を維持するように構成されている。
【0041】
1つ以上のプロセスパラメータはグルコース濃度を含み、本方法は、グルコース濃度を約5mM~約85mM、または約1g/L~約15.5g/Lに維持するように構成されている。
【0042】
1つ以上のプロセスパラメータは乳酸塩濃度を含み、本方法は、約60mM未満、または約6g/L未満の乳酸塩濃度を維持するように構成されている。
【0043】
1つ以上のプロセスパラメータはアンモニア濃度を含み、本方法は、約15mM未満のアンモニア濃度を維持するように構成されている。
【0044】
「定常状態」という用語は、細胞培養物の栄養素の濃度、プロセスパラメータ、または品質属性を、不変の水準、一定の水準、または安定した水準に維持することを指す。不変の水準、一定の水準、または安定した水準とは、所定の設定点または所定の設定範囲の中の水準を指すと解される。設定点、したがって定常状態水準は、細胞培養物産生の期間中に、オペレータによってシフトされる場合がある。設定点または定常状態水準は、設定された値の範囲またはしきい値を含む場合もある。
【0045】
「所定の」という用語は、量または設定値を指し、その値は、ユーザによって手動で、またはコントローラによって1つ以上のアルゴリズムに従って、確定されまたは計算される。
【0046】
特定の治療用タンパク質製品の製造プロセス全体を通して、品質に及ぼす潜在的な影響、特に臨床的インパクトに基づいて、管理を必要とする製品属性またはタンパク質品質属性が特定され得る。関連したタンパク質品質属性は、純度、安全性、及び/または有効性に影響を与える可能性がある。品質属性とは、所望の製品(タンパク質)品質を保証する適切な制限、範囲、または分布の中にあるべき、製造される製剤の物理的、化学的、生物学的、または微生物学的な特性または特質を指す。例えば、International Council for Harmonization(ICH)のQ8(R2)Pharmaceutical Development(ICH,August 2009)を参照のこと。タンパク質製品の品質属性には、高分子量種、凝集体、電荷異性体、外観、色、pH、効能、翻訳後修飾(グリカン含有率及び分布)、導電率、等電点、電荷の不均一性、ジスルフィド結合スクランブリング、遊離システイン、宿主細胞タンパク質が含まれ得るが、これらに限定されず、製品の品質に大きな影響を与える属性と見なされる場合がある。特定のプロセスパラメータは、製造プロセス中の運用上の信頼性及び一貫性のために、生産培養中に適切な制限、範囲、または分布内で制御される。プロセスパラメータには、初期細胞密度、初期細胞生存率、最終細胞生存率、総タンパク質(滴定濃度)、生細胞数(VCC)、栄養素濃度(グルコース、リン酸塩、アミノ酸など)、アンモニア、pH、乳酸塩などが含まれ得る。製造プロセス中に特定のプロセスパラメータに敏感である製剤は、その特定の属性のしきい値を超えるかまたは下回るタンパク質属性の変化を引き起こす可能性があるため、適切な制御が必要である。そのため、プロセスパラメータには、その変動が上記の品質属性に定義されるしきい値以上の影響を与える可能性のあるプロセスパラメータが含まれることもあり、したがって、プロセスパラメータは、プロセスが所望の品質の物質を生産することを保証するために、監視され、または制御される必要がある。
【0047】
「細胞特異的生産性」、「細胞特異的速度」などの用語は、特定の、例えば1細胞当たりの、または細胞の質量もしくは体積の尺度単位での産物発現率を指す。細胞特異的生産性は、例えば、1細胞当たりの1日に産生されるタンパク質のグラム数で測定される。
【0048】
バイオリアクタシステム1は、バイオリアクタタンク10、供給貯留槽28、供給ポンプ30、放出ポンプ40、及び収穫ポンプ50を含み得る。バイオリアクタシステム1はまた、ATFポンプ70、放出タンク80、及び収穫タンク90を含み得る。ポンプ30、40、50、及び70は、コントローラ200に作動的に結合され得る。ただし、いくつかの例では、ATFポンプ70は、別個のコントローラ102に結合され、制御されてもよい。
【0049】
バイオリアクタタンク10は、多数の運用規模に合わせて所定の大きさに作られるバット、バレル、容器、フラスコ、または他の好適な入れ物であり得る。例えば、バイオリアクタタンク10の容積は、約1L~約20,000L、約5L~約10,000L、約10L~約1,000L、約20L~約100L、約50L、少なくとも約1L、少なくとも約10L、少なくとも約50L、少なくとも約100L、少なくとも約200L、少なくとも約500L、少なくとも約1,000L、少なくとも約10,000L、約20,000L未満、約10,000L未満、約1,000L未満、約500L未満、約200L未満、または約100L未満であってもよい。他の実施形態では、バイオリアクタタンク10は、少なくとも2L、少なくとも3L、少なくとも10L、少なくとも35L、もしくは少なくとも50L、またはそれ以上の容積を有する。バイオリアクタタンク10は、金属(例えば、鋼またはステンレス鋼)、金属合金、ガラス、及び/またはポリマ(例えば、使い捨てできる、一度使うだけのバイオリアクタ)から作ることができる。
【0050】
ポンプ30、40、及び50は、例えば、蠕動ポンプ、隔膜ポンプ、ピストンポンプ、電動ポンプなどの任意好適なポンプを含み得る。一例では、ポンプ30、40、及び50は、互いに実質的に同一であってもよい。別の例では、ポンプ30、40、及び50のうちの1つ以上は、他のもの(複数可)と異なっていてもよい。さらに別の例では、ポンプ70は、ポンプ30、40、及び50のいずれか1つと同様であってもよい。供給貯留槽28は、バイオリアクタタンク10用の任意好適な栄養素供給物源を含んでもよく、栄養素供給物は、好適な導管を介して供給ポンプ30によりバイオリアクタタンク10に誘導されてもよい。栄養素供給物(培養基)は、炭素源(例えば、グルコース)、水、塩、アミノ酸源、及び/または他の栄養素を含んでもよい。
【0051】
蓋12がバイオリアクタタンク10の上部を覆い得、様々な構成要素及び器具が、蓋12を通ってバイオリアクタタンク10の内部に延在し得る。例えば、通気装置14、撹拌機16、ラマンプローブ18、導管20、及び導管22は、蓋12を通って延在し得る。また一方、通気装置14、撹拌機16、ラマンプローブ18、導管20、及び導管22のいずれかまたは全ては、例えば、バイオリアクタタンク10の側面を通してなど、他の何らかの好適な仕方でバイオリアクタタンク10に作動的に結合され得ることが企図される。
【0052】
通気装置14は、バイオリアクタタンク10内の細胞培養物に酸素及び/または他のガスを供給するように構成されたスパージャであってもよい。通気装置14は、酸素または他のガスの供給源に結合されてもよく、ガスが細胞培養物中で泡立ち、それによって細胞培養物を曝気するように、ガスを細胞培養物に誘導することができる。いくつかの例では、穿孔チューブスパージャと組み合わせて、マイクロスパージャが使用されてもよい。
【0053】
撹拌機16は、バイオリアクタタンク10内で細胞培養物を混合するように構成された任意好適な撹拌機であってもよい。撹拌機16は、機械的及び/または磁気的な機構によって、上部駆動または下部駆動にすることができる。下部駆動の撹拌機は、例えば、温度、pH、溶存酸素、発泡体、二酸化炭素、及びその他のセンサなどの計測設備のために、同様に、酸、アルカリ、発泡体、新鮮培地の入口のための入口ポート、及び出口ポートなどのために、蓋12内のスペースを解放することができるので、場合によっては望まれ得る。撹拌機16は、ラジアル撹拌機、軸方向撹拌機、ラシュトン撹拌羽根、ピッチブレード撹拌羽根、マリンブレード撹拌羽根などを含んでもよい。
【0054】
例えば、ラマンプローブ18は、例えば、ステンレス鋼の囲いの中にあり、透明な、例えば、サファイアまたはガラスの窓を有する光ファイバラマンプローブであってもよい。ラマンプローブ18は、細胞培養物2のラマンサンプリングを可能にするように構成され得る。ラマンプローブ18は、細胞培養物2に単色光(例えば、785nmまたは別の好適な波長のレーザ)を照射し、細胞培養物2からの散乱光を検出するように構成され得る。
【0055】
ラマン分光法は、サンプルの同定及び定量のためにその場でラマンプローブを挿入することによって使用できる、分子振動に関する情報を提供する振動分光法の一形態である。いくつかの実施形態では、プロセス変数の監視は、その場ラマン分光法を使用して行われる。その場ラマン分析は、ラマン分光計で分析するためにサンプルの一部を抽出する必要なしに、その元の場所でサンプルを分析する方法である。その場ラマン分析は、ラマン分光分析器が非侵襲的であり、これは汚染のリスクを減らし、細胞培養物の生存率またはタンパク質の品質に影響を与えずに非破壊的であるという点で有利である。その場ラマン分析は、細胞培養物における1つ以上のプロセス変数のリアルタイム評価を提供できる。ラマンプローブの製造業者には、tech5usa、Anton Paar、InPhotonics、Kaiser Optical Systems、Inc.、及びFiberTech Opticaなどがあるが、これらに限定されない。
【0056】
バイオリアクタタンク10は、その中に中空糸フィルタを有するフィルタシステム100に連結されてもよい。中空フィルタ膜(例えば、ポリスルホン)は、約0.3mm~約6.0mm、約0.5mm~約3.0mm、約0.5mm~約2.0mm、約0.3mm超、約0.5mm超、約6.0mm未満、約3.0mm未満、または約2.0mm未満の内径を有する1つ以上の管状膜を含み得る。膜中のメッシュ材料は、メッシュの細孔のサイズが、細胞培養物2からの細胞の直径に近くなるように選択されて、細胞の破片と使用済み培地とがフィルタを通過できるようにしながら、細胞の高保留率を確保するのに効果的となり得る。一例では、メッシュの孔径は、約0.2μm~約30μmであるが、他の好適な範囲及び値もまた企図される。目的のタンパク質またはその他の生物由来物質は、フィルタの細孔サイズ(例えば、0.2μmまたは50kD)に基づいて、灌流させまたは保留させることができる。
【0057】
導管20及びポンプ70を介して、バイオリアクタタンク10からの流体がフィルタシステム100に送出され得る。ポンプ70は、流体がフィルタシステム100からバイオリアクタタンク10に逆流することを可能にする可逆性であってもよい。フィルタシステム100は、交互接線流の下で動作し得る。一例では、交互接線流は、中空繊維の膜表面と同じ方向(例えば、接線方向)に1つの流れが存在し、その流れが行きつ戻りつしていること、及び上記のフィルタ表面に実質的に垂直な方向に別の流れが存在することを意味し得る。交互接線流は、中空糸を含むフィルタモジュールにわたって細胞培養物を循環させる、あるポンプ(例えば、ポンプ70)と、フィルタ分離に先立って、細胞密度の低い液体を除去する別のポンプ(例えば、ポンプ50)とを使用して実現することができる。交互接線流は、他の細胞保留機構に典型的なファウリング及びせん断の問題を防ぐのに有用であり得る。
【0058】
代替として、例えば、限外濾過、精密濾過、及び接線流濾過などの他の濾過機構(膜濾過機構など)を利用してもよい。
【0059】
放出ポンプ40は、導管22を介してバイオリアクタタンク10から細胞を除去するように構成され得る。導管22は、細胞の凝集及び詰まり(例えば、導管22が培養物2の粘度に対して狭すぎる場合に生じる可能性がある)を回避するように選択された浸漬管であり得る。導管22としては、熱可塑性エラストマチューブ(例えば、バイオプレン)が含まれ得る。放出ポンプ40は、例えばプロセッサ200によって制御されてもよい。放出ポンプ40を介した細胞放出により、バイオリアクタタンク10内の細胞培養物2から細胞を除去することができる。細胞放出率(放出ポンプ40及びコントローラ200の排出によって制御される)は、細胞培養物2中の細胞の増殖速度に基づいて判定されてもよい。細胞培養物2において安定した細胞密度を維持するために、放出速度と細胞増殖速度とが互いにほぼ等しいかまたは実質的に等しいことが望まれ得る。いくつかの例では、細胞培養物2のかなりの量が貴重な産物と共に細胞放出から除去されている場合に、その放出物を収集し処理して、産物を回収することができる。
【0060】
バイオリアクタタンク10は、バイオリアクタタンク10及び細胞培養物2の重量を測定するように構成されたスケール110上に配置してもよい。スケール110は、コントローラ200に結合されてもよく、バイオリアクタタンク10及び細胞培養物2の重量をコントローラ200に連続的に送ってもよい。いくつかの例では、例えば、フィルタ収納容器及びその中の中空膜フィルタを含むフィルタシステム100の少なくとも一部は、スケール110上に配置することもできる。スケール110は、スケール上に載っている構成要素の重量を測定するように構成された任意好適なスケールまたはロードセルであってもよい。
【0061】
図1及び
図2を参照すると、コントローラ200は、ラマンプローブ18、スケール110、及び他のセンサからデータを受け取るように構成されてもよく、そのデータに基づいて、供給ポンプ30、放出ポンプ40、及び収穫ポンプ50のうちの1つ以上を通る流体の流量を制御するように構成されてもよい。
【0062】
コントローラ200は、ラマンプローブ18から未加工スペクトルデータを受け取って、例えば、グルコース濃度、グルタミン濃度、グルタミン酸塩濃度、アンモニア濃度、乳酸塩濃度、総細胞密度、滴定濃度、及び生細胞密度などのプロセスパラメータを判定するように構成されてもよい。コントローラ200は、これらの判定したプロセスパラメータを使用して、供給ポンプ30、放出ポンプ40、及び収穫ポンプ50を通る流体の流れの1つ以上を調節するフィードバックループを確立することができる。すなわち、コントローラ200は、グルコース濃度(例えば、約5mM~約85mM、または約0.5g/L~約15.5g/L、約1g/L~約15.5g/L、約0.5g/L~約8g/L、約2g/L~約6g/L、または約3g/L~約5g/L)、グルタミン濃度(例えば、約8mM未満、約7mM未満、約6mM未満、約5mM未満、または約4mM未満)、グルタミン酸塩濃度(例えば、約5mM未満、約4mM未満、約3mM未満、約2mM未満、または約1mM未満)、アンモニア濃度(例えば、約15mM未満、約12mM未満、約10mM未満、約9mM未満、約8mM未満、約7mM未満、約6mM未満)、乳酸塩濃度(例えば、約6g/L未満、約5g/L未満、約4g/L未満、約3g/L未満、約2g/L未満、または約1g/L未満)、総細胞密度(例えば、約30MM超、約35MM超、約40MM超、約45MM超、約50MM超、約55MM超、約60MM超、または約65MM超)、及び生細胞密度(例えば、少なくとも3000万細胞毎mL、少なくとも3500万細胞毎mL、少なくとも5000万細胞毎mL、または少なくとも7500万細胞毎mL)のうちの1つ以上の設定点を定め、(ラマンプローブ18からのラマンスペクトルに基づいて)判定した値を、それらの値のそれぞれの設定点と比較することができる。
【0063】
コントローラ200は、負のフィードバックループを利用して、設定点の値(または設定された値の範囲)と判定した値との差を補正することができる。例えば、判定したグルコース濃度が設定点のグルコース濃度よりも大きい場合は、コントローラ200は、例えば、グルコース濃度の低下を促進するために、供給ポンプ30の排出を減らし、放出ポンプ40の排出を減らし、及び/または収穫ポンプ50の排出を増やしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を減らし、収穫ポンプ50の排出を減らしてもよい。例えば、判定したグルタミン濃度が設定点のグルタミン濃度よりも大きい場合は、コントローラ200は、例えば、グルタミン濃度の低下を促進するために、供給ポンプ30の排出を減らし、放出ポンプ40の排出を減らし、及び/または収穫ポンプ50の排出を増やしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を減らし、収穫ポンプ50の排出を減らしてもよい。例えば、判定したグルタミン酸塩濃度が設定点のグルタミン酸塩濃度よりも大きい場合は、コントローラ200は、例えば、グルタミン酸塩濃度の低下を促進するために、供給ポンプ30の排出を減らし、放出ポンプ40の排出を減らし、及び/または収穫ポンプ50の排出を増やしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を減らし、収穫ポンプ50の排出を減らしてもよい。例えば、判定したアンモニア濃度が設定点のアンモニア濃度よりも大きい場合は、コントローラ200は、例えば、アンモニア濃度の低下を促進するために、供給ポンプ30の排出を減らし、放出ポンプ40の排出を増やし、及び/または収穫ポンプ50の排出を減らしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を増やし、収穫ポンプ50の排出を増やしてもよい。例えば、判定した乳酸塩濃度が設定点の乳酸塩濃度よりも大きい場合は、コントローラ200は、例えば、乳酸塩濃度の低下を促進するために、供給ポンプ30の排出を増やし、放出ポンプ40の排出を減らし、及び/または収穫ポンプ50の排出を増やしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を減らし、収穫ポンプ50の排出を減らしてもよい。例えば、判定した総細胞密度が設定点の総細胞密度よりも大きい場合は、コントローラ200は、例えば、総細胞密度の低下を促進するために、供給ポンプ30の排出を減らし、放出ポンプ40の排出を増やし、及び/または収穫ポンプ50の排出を減らしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を減らし、収穫ポンプ50の排出を減らしてもよい。例えば、判定した生細胞密度が設定点の生細胞密度よりも大きい場合は、コントローラ200は、例えば、生細胞密度の低下を促進するために、供給ポンプ30の排出を減らし、放出ポンプ40の排出を増やし、及び/または収穫ポンプ50の排出を減らしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を減らし、収穫ポンプ50の排出を減らしてもよい。
【0064】
例えば、判定したグルコース濃度が設定点のグルタミン濃度よりも小さい場合は、コントローラ200は、例えば、グルコース濃度の上昇を促進するために、供給ポンプ30の排出を増やし、放出ポンプ40の排出を増やし、及び/または収穫ポンプ50の排出を減らしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を増やし、収穫ポンプ50の排出を増やしてもよい。例えば、判定したグルタミン濃度が設定点のグルタミン濃度よりも小さい場合は、コントローラ200は、例えば、グルタミン濃度の上昇を促進するために、供給ポンプ30の排出を増やし、放出ポンプ40の排出を増やし、及び/または収穫ポンプ50の排出を減らしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を増やし、収穫ポンプ50の排出を増やしてもよい。例えば、判定したグルタミン酸塩濃度が設定点のグルタミン酸塩濃度よりも小さい場合は、コントローラ200は、例えば、グルタミン酸塩濃度の上昇を促進するために、供給ポンプ30の排出を増やし、放出ポンプ40の排出を増やし、及び/または収穫ポンプ50の排出を減らしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を増やし、収穫ポンプ50の排出を増やしてもよい。例えば、判定した乳酸塩濃度が設定点の乳酸塩濃度よりも小さい場合は、コントローラ200は、例えば、乳酸塩濃度の上昇を促進するために、供給ポンプ30の排出を増やし、放出ポンプ40の排出を増やし、及び/または収穫ポンプ50の排出を減らしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を増やし、収穫ポンプ50の排出を増やしてもよい。例えば、判定した総細胞密度が設定点の総細胞密度よりも小さい場合は、コントローラ200は、例えば、総細胞密度の上昇を促進するために、供給ポンプ30の排出を増やし、放出ポンプ40の排出を減らし、及び/または収穫ポンプ50の排出を増やしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を増やし、収穫ポンプ50の排出を増やしてもよい。例えば、判定した生細胞密度が設定点の生細胞密度よりも小さい場合は、コントローラ200は、例えば、生細胞密度の上昇を促進するために、供給ポンプ30の排出を増やし、放出ポンプ40の排出を減らし、及び/または収穫ポンプ50の排出を増やしてもよく、またはコントローラ200は、供給ポンプ30の排出を増やし、収穫ポンプ50の排出を増やしてもよい。
【0065】
ただし、システムを通る全体的な灌流は、所与の設定値に維持される(灌流速度は、リアクタ内の濃度に基づいて変動しない)。同様に、コントローラ200は、負のフィードバックループを使用して、バイオリアクタ重量(及び細胞培養物2の重量)を制御してもよい。
【0066】
リアクタに投入される様々な栄養素の加算または減算を、他の投入に対する対応する変更と組み合わせて、リアクタに投入される材料の総質量及び/または総体積が同じままであることを保証できることに留意すべきである。すなわち、灌流速度は一定に維持されるため、1つの栄養素、例えば、グルコース溶液、グルタミン、グルタミン酸塩などの増加は、対応する最初の栄養素供給流の質量または体積の減少に付随して起こり得る。
【0067】
一実施形態では、システムは、少なくとも2つのフィードバックループを含むことができる。1つは重量制御用であり、1つはプロセスパラメータの制御用である(例えば、VCC、グルコース、グルタミン、グルタミン酸塩、アンモニア、乳酸塩など)。一例では、様々な投入ポンプ及び排出ポンプは、競合するループによって制御されることはない。例えば、灌流速度を設定し(例えば、20L/日)、その後ラマンプローブ18が1つ以上の培養値を測定し、コントローラ200が、ラマンプローブ18からの測定値に基づいて、取るべきステップを評価してもよい。コントローラ200は、例えば、VCCが高すぎると判定した場合、コントローラ200は、放出ポンプ40を介して細胞の除去を開始することができ、同時に収穫ポンプ50の流速を減少させて、システムを通る全体積が一定のままであるようにすることができる。他のプロセスパラメータ(例えば、グルコース、グルタミン、グルタミン酸塩、アンモニア、乳酸塩、及び総細胞密度)が高すぎるかまたは低すぎると感知された場合に、コントローラ200が取るべき追加のステップが、上に述べられている。
【0068】
グルコース、ラクトース、グルタミン、グルタミン酸塩などを追加するために、第2の供給ポンプを追加してもよい。代替実施形態では、または加えて、細胞を除去することによっても、アンモニアの増加に反応するように放出を調節することができる。
【0069】
コントローラ200は、ヘッドレスコンピュータシステム(例えば、モニタ、キーボード、及びマウスのないシステム)に配置してもよい。したがって、コントローラ200は、ネットワーク接続か、または例えばシリアル接続などの他の何らかの接続を介して制御されるサーバに設置されてもよい。コントローラ200は、サーバの1つ以上に障害が発生した場合に備えて、1つ以上の冗長サーバにクローンを作ってもよい。
【0070】
コントローラ200は、カルマンフィルタリング、例えば、線形二次推定(LQE)をラマンプローブ18からのラマンスペクトルデータに適用するように構成してもよい。カルマンフィルタリングは、時間の経過に伴う一連の測定値を使用するアルゴリズムをスペクトルデータに適用して、単一の測定値のみに基づくものよりも正確な傾向がある未知変数の推定値を生成することを含み得る。したがって、判定されたプロセスパラメータは、フィルタリングされたモデルに基づいていてもよい。ラマンプローブ18からのスペクトルデータを処理するために、コントローラ200が、他種のフィルタリングを使用し得ることも企図される。
【0071】
コントローラ200は、PI(プロセス情報)ヒストリアンを含んでもよく、またはそれ以外の場合は、PI(プロセス情報)ヒストリアンに結合されてもよい。PIヒストリアンは、プロセス制御システムからのデータを記録することができる時系列データベースを備えたアプリケーションであってもよい。PIヒストリアンによって、ユーザが、リアルタイム情報の記録、分析、及び監視を行えるようにすることができる。コントローラ200は、例えば、スケール110からの重量値、ラマンプローブ18からのスペクトルデータ、ならびに供給ポンプ30、放出ポンプ40、及び収穫ポンプ50のポンプ速度を、PIヒストリアンに格納することができる。
【0072】
図3は、本開示による方法300を示す。方法300の1つ以上のステップは、順序によらず実行されるか、他のステップと同時に実行されるか、または完全に省かれてもよい。方法300は、ステップ302で開始することができ、ここではバイオリアクタシステム1を組み立てることができ、細胞培養物2をバイオリアクタタンク10中に供給し、細胞培養物2に細胞株を植え付けることができる。次に、方法300は、ステップ304に進むことができ、細胞培養物2のプロセスパラメータが、ラマンプローブ18によって、及び/または追加もしくは他のセンサによって、バイオリアクタ内で測定される。プロセスパラメータは、ラマンプローブ18によって取得されたラマンスペクトルデータから判定される前述のパラメータのいずれかを含み得る。方法300は、ステップ306に進むことができ、ここでバイオリアクタタンク10(内部に細胞培養物2を含む)の重量が、スケール110によって測定されて、プロセッサ200に提供される。
【0073】
方法300は、ステップ306からステップ308に進むことができ、ここでは、ポンプ70を作動させて、導管20を介してバイオリアクタタンク10から細胞培養物(培地及び細胞)を抜き取ることにより、また、収穫ポンプ50を作動させて、フィルタシステム100から溶液を抜き取ることにより、細胞培養物2からの無細胞の使用済み培地が、第1の指定速度で除去される。方法300は、ステップ308からステップ310に進むことができ、ここで放出ポンプ40により、第2の指定速度で、排出導管22を使用して、細胞培養物から細胞を除去することができる。方法300は、ステップ310からステップ312に進むことができ、新鮮培地及び栄養素の一方または両方は、培地及び栄養素の総投入量が、放出ポンプ40及び収穫ポンプ50の合算した排出量と等しくなるのを保つように、投入導管及び供給ポンプ30を使用して、第3の指定速度で、細胞培養物に導入することができる。指定速度は、ポンプが作動し及び/または維持される速度の設定値または速度の範囲であってもよい。指定速度は、コントローラ200によって決定されてもよい。
【0074】
ステップ302から312のそれぞれは、任意の順序で行われてもよく、場合によっては、コントローラ200によって実行される複数のフィードバックループを介して、リアルタイムで同時に行われ得ることが企図される。
【0075】
ステップ308、310、及び312は、ステップ304でラマンプローブ18から、及びステップ306でスケール110から受け取ったデータに基づき、コントローラ200によって制御されてもよい。バイオリアクタタンク10(及びその内部に含有される細胞培養物2)の重量は、PID(比例-積分-微分)ループを介して制御することができる。さらに、コントローラ200は、ラマンプローブ18から取得されるラマンスペクトルを分析して、例えば、グルコース濃度、グルタミン濃度、グルタミン酸塩濃度、アンモニア濃度、乳酸塩濃度、総細胞密度、及び生細胞密度などを含む1つ以上のプロセスパラメータを判定するように構成されてもよい。これらの変数のそれぞれを、負のフィードバックループによって制御することもできる。
【0076】
本開示の例は、既存の制御ソリューションにエレガントで、柔軟性があり、安価なソリューションを提供することができ、データの欠落を比較的少なくすることができる。本開示の制御戦略は、安定したバイオリアクタ水準の制御を発揮し得る。例えば、水準の変動は、本開示の制御システムを使用して、+/-0.5L/日から+/-0.01L/日に減少した。また、重量変動の改善も達成されており、例えば、容積測定較正などの他のシステムを使用した5~10%の重量変動から、本明細書に開示の制御システムを使用して、0.1~0.5%の誤差まで減少している。この改善は、少なくとも部分的には、ポンプの容積測定較正から、重量及びその他のパラメータに基づいたソフトウェア制御バージョンにシステムを変更したことに起因している可能性がある。さらに、本開示の制御システムは、プロセス情報(PI)アラーム(例えば、電子メールアラート)と完全に統合させてもよく、リモートでアクセスしてシャットダウンすることができる。さらに、本開示のシステム及び方法は、従来のシステム及び方法よりも再現性及び信頼性の高い結果を提供することができる。
【0077】
実施例1(
図4及び
図5)
実施例1に記載された実験は、灌流バイオリアクタを流加バイオリアクタと比較し、流加バイオリアクタに対する灌流バイオリアクタにおいて、より高く達成された生細胞濃度及び細胞特異的生産性を示す。
【0078】
一実験では、細胞株及び培地を用いて、15L容量のバイオリアクタを培養した。バイオリアクタの設定点は、温度(摂氏35.5度)、撹拌(250RPM)、pH(CO2及び炭酸水素ナトリウムを使用して制御した)(6.85~7.15)、及び作用体積(11L)を含んでいた。0.2μmの中空糸フィルタを装備したATF4細胞保留デバイスをバイオリアクタに結合した。中空糸フィルタは細胞を保留したが、タンパク質及び栄養素は通過させた。2つのリアクタ容積(または22Lの培地)を24時間ごとにフィルタに通した。
【0079】
バイオリアクタ及びATFの両方をスケール上に配置した。バイオリアクタ、細胞培養物、及びATFの重量は、イーサネット(登録商標)接続を介して、制御ソフトウェアを実行しているコンピュータに送った。重量を設定点(11.0kg、例えば、バイオリアクタの作用体積)と比較し、PIDコントローラ(MATLABで設計してあるが、制御ソフトウェアSynTQを介して実行した)が供給ポンプを使用するかどうかを判定した。収穫ポンプを、所望の灌流速度(1日当たり2リアクタ容積)に相当する一定の速度に設定した。供給ポンプ及び灌流ポンプは、OPC信号をKepwareサーバにブロードキャストするSynTQソフトウェアを使用して自動的に制御した。Kepwareサーバは、この信号を、イーサネット(登録商標)接続を介してMODBUSアナログ出力モジュールにブロードキャストし、このMODBUSアナログ出力モジュールは、デジタル値を4~20mAのハードウェア上のミリアンペア出力に変換した。
【0080】
このシステムを使用すると、バイオリアクタの重量を最初の11kgの重量の+/-10g(0.09%)以内に制御することができた。このシステムを実施するより前に、バイオリアクタにおいてバイオリアクタの重量を一晩で0.5kg(4.54%)超の範囲内に制御することはできなかった。同じシステム内で、Kaiser Opticalのラマンプローブを使用して、細胞培養物からのラマンスペクトルを捕捉した。コントローラは、以前のバッチで開発したモデルを利用して、細胞数、グルコース、乳酸塩、アンモニア、及びその他の栄養素濃度を予測した。ラマンプローブは、例えば、SIMCAなどのコンピュータプログラムで後に分析される数千の様々なスペクトルを捕捉する。複数の成分分析、及び所与のパラメータのオフラインデータを使用して、プログラムは全てのプローブ測定値にわたってモデルを作成する。次に、このSIMCAモデルをSynTQにアップロードし、このSIMCAモデルに、プローブが読み取り(例えば、15分から45分ごとなど)を行うたびにリアルタイムでアクセスさせる。
【0081】
ラマンプローブを用いた様々な栄養素の制御により、細胞株の生産性の向上、長期にわたる細胞培養での生存率の増加、及びタンパク質の複数態様の品質改善が可能になる。
【0082】
図4は、本開示による灌流バイオリアクタのバッチの37日目での最大生細胞濃度(別紙「Ex.」1)を示し、この濃度は、同等サイズの流加リアクタのバッチの7日目での最大生細胞濃度(Ex.2)の約2倍である。最大生細胞濃度が37日目に達成されたという事実は(流加バイオリアクタの6日目とは対照的に)、灌流バイオリアクタプロセスの堅牢性と長寿命とを明らかにする。
【0083】
図5は、流加プロセス(Ex.2)の1~12日目の細胞特異的生産性(cSP)に対する灌流バッチプロセス(Ex.1)の12~25日目のcSPを示す。同様の生産性を、灌流バッチの25~37日目に達成した。
【0084】
灌流バッチでVCCが50×106細胞/mLを超えるには、1日当たり3リアクタ容積の灌流速度が必要であったが、これは多くの場合商業的に禁止されている可能性がある。
【0085】
「プッシュトゥロー(push-to-low)」戦略を使用した培地の最適化により、必要な灌流速度は低下する。例えば、細胞を20×106細胞/mLに増殖させて、定常状態に保たせる。灌流速度を、5日間、2リアクタ容積/日に設定することができる。5日目に、灌流速度は1.5リアクタ容積/日に減少し得る。細胞が持ちこたえる場合、灌流速度は5日後に1リアクタ容積/日に減少する可能性がある。細胞が死滅し始めるとなれば、アミノ酸分析または他の分析を用いて、培地をより良く強化する方法、例えば、培地中の栄養素を補充するか、または培地中の栄養素濃度を調節するなどを決定することができる。1つの非限定的な例では、戦略は、Bayeretal.による「ThePushtoLowApproachforOptimizationofHighDensityPerfusionCulturesofAnimalCells」(Adv.BioChem.Engin./Biotechnol.2006,101:75-98.)に記載されている。
【0086】
NOVA Flexデータを取得することができ、この場合、サンプルを分析することにより、オフライン測定値を取得する。以前のNOVAデータを使用して、ラマンモデルを構築することができ、その時点でプローブをリアクタに挿入することができ、モデルは、1日1回でNOVAのような手動サンプリングを必要とするのではなく、15~45分ごと、1秒ごと、1分ごと、2分ごと、3分ごと、4分ごと、5分ごと、10分ごと、15分ごと、20分ごと、25分ごと、30分ごと、35分ごと、40分ごと、45分ごと、50分ごと、55分ごと、1時間ごと、2時間ごと、3時間ごと、4時間ごと、5時間ごと、または6時間ごとにVCCデータを提供できる。
図5は、所与の実行の20日目を示す。実行の最初の20日間は、NOVAデータを収集するために使用し、このNOVAデータは、実行の後半部分のラマンモデルを作成するために使用した。
【0087】
次の実施例では、特定のプロセスパラメータの一般的な範囲は次の通りである。pH:6.85~7.40、溶存酸素:30~60%、35~55%、40~50%、または45%、温度:34~37.5℃、及び撹拌:ベンチトップで150~300RPM、175~275RPM、200~250RPM、または225RPMである。
【0088】
実施例2(
図6~
図8)
実施例2に記載した実験は、VCC増加またはグルコースを制御していない灌流バイオリアクタのデータを示す。細胞が急速に大きな細胞密度に増殖し、次いで培地内の栄養素を枯渇させると11日目までに急速に減少したために、VCCは、7日目にピークに達することを観察した(
図6)。VCCの定常状態を達成するには、重量のみの制御では不十分であった。
【0089】
また、グルコースを灌流実行中に制御しなかった。培養は、灌流動作の間に培地中のグルコースに依存して細胞に栄養を与えたため、これはその後、培養中に細胞死をもたらした。細胞が成長するにつれて、グルコースは着実に減少したが、培地は常に供給されていた(
図7)。
図8に示されるように、細胞生存率を監視するときに見られるように、10日後に起こるグルコース検出の急増は完全な細胞死によるものであり、したがってグルコースの消費によるものではなかった。
【0090】
この実験では、15Lベンチトップバイオリアクタに、mAb1を産生するチャイニーズハムスタ卵巣(CHO)細胞を、所与の濃度で植え付けた。細胞は、実行中に一定に保たれる特定の溶存酸素、温度、撹拌、及びpHで培養した。また、細胞には新鮮培地及び栄養素を、灌流供給の形態で、1日当たりリアクタ容積の2倍の速度で提供した。RepligenのXCell ATF4システムを使用して灌流液から除去された同量の供給物をリアクタに加えることにより、リアクタの容積を一定に保った。これは、バイオリアクタシステムの重量を監視し、コンピュータ支援フィードバックループ制御システムを使用して、所与の標的重量の+/-0.05kg以内の重量を維持することで達成した。この灌流生産の実行中に、VCCまたはその他の任意のバイオリアクタのパラメータを制御するラマン制御も放出制御も提供しなかった。
【0091】
同様の実験(図に示していない)では、流速も1日当たり2バイオリアクタの培地供給に設定したが、重量を監視しなかったので、ポンプの変動を適切に制御できなかった。
【0092】
この類似の灌流実験では、供給ポンプと灌流液ポンプとを同等の流速(ポンプの容積測定較正により決定した)に設定した。この方法では、互いに一致するに足りるほど正確な流速を提供することができず、一晩の間(例えば、バイオリアクタがアクティブに監視されなかった期間)に、供給ポンプは、灌流液ポンプが除去できた量よりも多くの培地を反応器に加えた。その結果、リアクタがあふれ、培養物が失われた。
【0093】
実施例3(
図9~
図12)
実施例3で説明する実験は、VCC制御を備えた灌流バイオリアクタのデータを示す。VCC制御(
図9)は、生存率(
図10)、タンパク質産生(
図11)、及び栄養素(
図12)の安定した定常状態をもたらした。
【0094】
この実験では、15Lベンチトップバイオリアクタに、mAb2を産生するCHO細胞を、所与の濃度で植え付けた。細胞は、実行中に一定に保たれる特定の溶存酸素、温度、撹拌、及びpHで培養した。また、細胞には新鮮培地及び栄養素を、灌流供給の形態で、1日当たりリアクタ容積の2倍の速度で提供した。ATF4システムを使用して灌流液から除去された同量の供給物をリアクタに加えることにより、リアクタの容積を一定に保った。これは、システムの重量を監視し、コンピュータ制御システムを使用して、所与の標的のプラス0.05kgまたはマイナス0.05kgの範囲内の重量を維持することで達成した。この実行にはラマン制御を使用せず、VCCのサンプリング後にポンプの放出速度を手動で設定した。このプロセスには複数のサンプルが必要であり、放出速度を1日に複数回調節する必要があった。
【0095】
VCCを灌流生産培養中に制御し、標的のVCCは42.5×106細胞/mL(40~45×106細胞/mL)であった。それに伴って、VCCが標的を超えて上昇した場合、放出速度は増加し、VCCが標的を下回った場合、放出速度は減少した。
【0096】
実施例4(
図13及び
図14)
この実施例の実験では、灌流培養法(
図14)を流加培養法(
図13)と比較する。灌流培養法は、類似の条件下(
図13)での同じタンパク質の流加細胞培養法と比較して、約4倍の最大細胞数を達成することができた。流加培養はパイロットスケールで行い、灌流実験はベンチスケール(15L)で行った。撹拌及び曝気の戦略を、撹拌のための単位体積あたりの電力アプローチと、曝気のための体積一致戦略による体積とを用いて、ベンチスケールまで縮小させた。
【0097】
灌流培養法は、同じ時間で、流加リアクタで生産されたものと比較して、3.5倍の量のタンパク質を生産することができた(
図14)。
【0098】
灌流培養法は、mAb2を産生する所与の濃度のCHO細胞を植え付けた15Lベンチトップバイオリアクタを提供することにより実施した(Ex.5及びEx.7)。細胞は、実行中に一定に保たれる特定の溶存酸素、温度、撹拌、及びpHで培養した。また、細胞には新鮮培地及び栄養素を、灌流供給の形態で、1日当たりリアクタ容積の2倍の速度で提供した。この実行での培地は、以前の実験と比較して、濃度を増加させた重要な栄養素を補充しており、その結果、灌流実験中に、細胞をより高い細胞密度に押し上げることができた。重量制御システムを使用して、所与の標的の重量を0.05kg以内に維持することにより、リアクタの容積を一定に保った。灌流の生産実行中は、ラマンコントロールも放出コントロールも提供しなかった。
【0099】
流加細胞培養(Ex.6及びEx.8)は、類似の条件下(溶存酸素、温度、撹拌、及びpH)で行った。
【0100】
実施例5(
図15~
図18)
図15~
図18に記載した実験は、この灌流システムで30日より長く定常状態に維持され、生存率、グルコース、及び滴定濃度、ならびにVCCの有益な結果を示す(例えば、
図15~
図18を参照)。
【0101】
ラマン、放出、及び重量管理を伴う灌流培養法は、mAb2を産生する所与の濃度のCHO細胞を植え付けた15Lベンチトップバイオリアクタを提供することにより実施した。細胞は、実行中に一定に保たれる特定の溶存酸素、温度、撹拌、及びpH範囲で培養した。また、細胞には新鮮培地及び栄養素を、灌流供給の形態で、1日当たりリアクタ容積の2倍の速度で提供した。この実行での培地は、(実施例2及び3と比較して)濃度を増加させた重要な栄養素を補充しており、その結果、細胞をより高い細胞密度に押し上げることができた。重量制御システムを使用して、ATF4システムを使用して灌流液から除去された同量の供給物をリアクタに加え、システムの重量を監視し、コンピュータフィードバック制御システムを使用して、所与の標的のプラス0.05kgまたはマイナス0.05kgの範囲内の重量を維持することで、リアクタの容積を一定に保った。
【0102】
ラマン制御とラマンフィードバックに基づく自動放出制御とを使用して、この実行でVCCを制御した(
図15)。最初の実験(Ex.9)では、ラマン放出戦略は、40×10
6細胞/mLのVCCを維持するように設定した。VCCの範囲は35~45×10
6細胞/mLであり、これは前の実験での手動放出で発生した標的よりわずかに広いものであった(実施例3)。ただし、システムは、1日に1回しかサンプリングされておらず、この灌流実行では調節は(実施例3で説明した手動放出による1日に複数回の複数の調節と比較して)必要なかった。
【0103】
2回目の実験(Ex.10)では、1日当たり1リアクタ容積の灌流速度で、VCCを10×106細胞/mLに設定したことを除き、条件は最初の実験と類似していた。
【0104】
実施例6(
図19及び
図20)
一実験では、細胞株及び培地を用いて、3つの異なるバイオリアクタを培養した。バイオリアクタの容量は、3L(Ex.11)、15L(Ex.12)、及び50L(Ex.13)(シングルユースバイオリアクタ)であった。バイオリアクタの設定点は、温度(摂氏35.5度)、撹拌(250RPM)、pH(CO
2及び炭酸水素ナトリウムを使用して制御した)(6.85~7.15)、及び作用体積(それぞれ、2L、10L、35L)を含んでいた。これらのパラメータは全て、実行中は一定に保った。各バイオリアクタは、0.2ミクロンフィルタを装備したATF(それぞれATF2、ATF4、ATF6)細胞保留デバイスと結合させた。中空糸フィルタは細胞を保留したが、タンパク質は24時間後に通過させた。
【0105】
3つの全てのスケールで、ラマン、放出、及び重量制御を使用して、各システムで灌流培養を実行した。実施例5と同様に、この実験の培地には追加の栄養素を補充した。各システム内の重量は、ATF4及びATF6で+/-0.05kgに、ならびに所与の標的の+/-1kg(スケール自体の機器の制限による)に制御した。
【0106】
ラマン制御とラマンフィードバックに基づく自動放出制御とを使用して、この実行(
図19)でVCCを40×10^6細胞/mLに設定した。ラマンプローブの変動を50L ATF6システムで観察した。これは、ラマン制御モデルが大規模向けにまだ最適化されていなかったためと予想する。
【0107】
これらの3つの実行全てにおいて、灌流速度は1.8~2RV/日の間に設定し、全てのスケールアップパラメータは従来の方法を使用して設定した。
【0108】
この実験の結果、同等のタンパク質生産性(
図20)を、5日間にわたり、3つ全てのシステムで達成した。
【0109】
実施例7(
図21)
一実験では、細胞株及び培地を用いて、単一のバイオリアクタを培養した。バイオリアクタの容量は15Lであった(Ex.14)。バイオリアクタの設定点は、温度(摂氏35.5度)、撹拌(250RPM)、pH(CO
2及び炭酸水素ナトリウムを使用して制御した)(6.85~7.15)を含んでいた。これらのパラメータは全て、実行中は一定に保った。バイオリアクタは、0.2ミクロンフィルタを装備したATF4細胞保留デバイスと結合させた。中空糸フィルタは細胞を保留したが、タンパク質は24時間後に通過させた。
【0110】
灌流培養は、ラマン、放出、及び重量制御を使用して、システムで実行した。実施例5と同様に、この実験の培地には追加の栄養素を補充した。各システム内の重量は、所与の標的のATF4で、+/-0.05kgに制御した。
【0111】
ラマン制御とラマンフィードバックに基づく自動放出制御とを使用して、この実行(
図21参照)でVCCを70×10^6細胞/mLに設定した。
【0112】
この実行の灌流速度は、培養物中に追加の細胞を補い、培地の枯渇が起こらないことを保証するように、2.5RV/日に設定した。
【0113】
リアクタは、機器の故障によりバッチが終了するまでの7日間、VCCを70×10^6細胞/mL以上に維持することができた。この間、生存率は90%を超えて維持され、健全な培養を示した。本開示の制御システムの実施前には、このような高密度での持続的な生産は不可能であった。
【0114】
特に、本明細書における「一実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、または特性が、本開示の一実施形態、一部の実施形態、または全ての実施形態に含まれ、使用され、及び/または組み込まれ得ることを意味する。本明細書における「一実施形態では」または「別の実施形態では」という表現の使用または出現は、同じ実施形態を参照するものではなく、また、一つ以上の他の実施形態と必ずしも相互に排他的な別個のまたは代替の実施形態である必要もなく、単一の排他的実施形態に限定されるものでもない。同じことが「実施態様」及び「実施例」という用語にも当てはまる。本開示は、いずれかの単一の態様にもその実施形態にも、そのような態様及び/または実施形態のいずれかの組み合わせ及び/または順列にも限定されない。さらに、本開示の態様及び/またはその実施形態のそれぞれは、単独で、または本開示の他の態様及び/またはその実施形態の1つ以上と組み合わせて使用してもよい。簡単にするために、特定の順列及び組み合わせについては、本明細書では別途説明されず及び/または図示されない。
【0115】
さらに、上記のように、本明細書で「例示的」として説明される実施形態または実施態様が、例えば他の実施形態または実施態様よりも好ましいとまたは有利であると解釈されるべきではなく、1つまたは複数の実施形態が例示的な実施形態(複数可)であることを伝えること、または示すことを意図している。
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、以下に記載する。
[項目1]
バイオリアクタに細胞培養物を供給することであって、前記バイオリアクタ中の条件により、前記細胞培養物が目的のタンパク質(POI)を産生できるようにする、前記細胞培養物を供給すること、
前記バイオリアクタ内の前記培養物の1つ以上のプロセスパラメータ(PP)を、ラマンプローブによって測定することであって、前記プロセスパラメータが、栄養素濃度、生細胞濃度、及びタンパク質属性からなる群から選択される、前記PPを測定すること、
細胞培養内容物を含む前記バイオリアクタの重量を測定すること、
第1の排出導管を使用して、第1の指定された速度で、前記細胞培養物から無細胞の使用済み培地を除去すること、
第2の排出導管を使用して、第2の指定された速度で、前記細胞培養物から細胞を除去すること、
投入導管を使用して、第3の指定された速度で、前記細胞培養物に新鮮培地または栄養素の一方または両方を導入することを含み、ならびに
(i)前記プロセスパラメータの1つ以上を、所定の範囲内に維持すること、(ii)前記細胞培養物を含む前記バイオリアクタの前記重量を、所定の範囲内に維持すること、及び(iii)前記投入導管の前記第3の指定された速度と、前記排出導管のそれぞれの前記第1の指定された速度と前記第2の指定された速度とを、それらの速度のそれぞれ所定の範囲内に維持することのために、前記投入導管及び前記排出導管が、前記ラマンプローブ測定値と前記バイオリアクタの重量測定値とに基づいて調節される、バイオリアクタシステムの制御方法。
[項目2]
ラマンによる前記バイオリアクタ内の前記培養物の前記1つ以上のプロセスパラメータの測定は、少なくとも1時間に1回行われる、項目1に記載の方法。
[項目3]
前記方法は、定常状態で30日間、1mL当たり少なくとも3000万細胞の平均生細胞濃度で、前記細胞培養物を維持するように構成されている、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目4]
前記バイオリアクタは少なくとも10Lの容積を有しており、前記方法は、前記バイオリアクタ及び前記細胞培養物の前記重量を20gの範囲内に維持するように構成されている、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目5]
前記バイオリアクタは少なくとも10Lの容積を有しており、前記方法は、前記細胞培養物を含む前記バイオリアクタの前記重量を、前記細胞培養物を含む前記バイオリアクタの初期重量の0.1パーセント以内に維持するように構成されている、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目6]
プロセスパラメータがそれぞれの所望の範囲内の設定点の値からずれる場合には、前記ずれを減らすように、無細胞培地の除去、細胞の除去、または新鮮培地もしくは栄養素の一方もしくは両方の導入の1つ以上が調節される、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目7]
1日当たり少なくとも2バイオリアクタ容積の使用済み培地が前記第1の排出導管を通して除去される、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目8]
1日当たり最大3バイオリアクタ容積の使用済み培地が前記第1の排出導管を通して除去される、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目9]
前記プロセスパラメータは、前記細胞培養物の温度と前記細胞培養物のpHとを含み、前記温度は35~36℃に維持され、前記pHは6.85~7.15に維持される、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目10]
前記プロセスパラメータは、細胞特異的生産性を含み、前記方法は、少なくとも25~37日間、少なくとも15~25pg/細胞/日の細胞特異的生産性で、前記細胞培養物中の細胞を維持するように構成されている、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目11]
前記プロセスパラメータは、グルコース濃度を含み、前記方法は、グルコース濃度を約5mM~約85mM、または約1g/L~約15.5g/Lに維持するように構成されている、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目12]
前記プロセスパラメータは、乳酸塩濃度を含み、前記方法は、約60mM未満、または約6g/L未満の乳酸塩濃度を維持するように構成されている、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目13]
前記プロセスパラメータは、アンモニア濃度を含み、前記方法は、約15mM未満のアンモニア濃度を維持するように構成されている、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目14]
無細胞の使用済み培地の除去、細胞の除去、及び新鮮培地または栄養素の一方または両方の導入のそれぞれは、それぞれのポンプによって制御される、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目15]
前記バイオリアクタは、細胞を保留し、液体が通過できるように構成されたフィルタを含む、先行項目のいずれか1項に記載の方法。
[項目16]
バイオリアクタに細胞培養物を供給すること、
前記バイオリアクタ内の前記細胞培養物の1つ以上のプロセスパラメータを、ラマンプローブによって測定すること、
第1の排出導管を使用して、第1の指定された速度で、前記細胞培養物から無細胞の使用済み培地を除去すること、
第2の排出導管を使用して、第2の指定された速度で、前記細胞培養物から細胞を除去すること、
投入導管を使用して、第3の指定された速度で、前記細胞培養物に新鮮培地または栄養素の一方または両方を導入することを含み、及び
前記ラマンプローブの測定値に基づいて、前記第1の指定された速度、前記第2の指定された速度、または前記第3の指定された速度の1つ以上を変更することを含む、バイオリアクタシステムの制御方法。
[項目17]
投入導管及び少なくとも1つの排出導管を有するタンクと、
少なくとも1つのポンプと、
前記タンクに結合されたフィルタと、
前記タンクに結合されたラマンプローブと、
前記少なくとも1つのポンプ及び前記ラマンプローブに結合されたコントローラであって、前記コントローラが、前記ラマンプローブからの入力に基づいて前記少なくとも1つのポンプを制御するように構成されている、前記コントローラとを備える、バイオリアクタ培養システム。
[項目18]
前記少なくとも1つの排出導管は、前記タンクからの流体の除去を制御するように構成された第2のポンプに接続するための第1の排出導管と、前記タンクからの細胞の除去を制御するように構成された第3のポンプに接続するための第2の排出導管とを含む、項目17に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目19]
前記フィルタは、前記タンク内に細胞を保留し、液体が前記フィルタを通過できるように構成されている、項目17または項目18に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目20]
前記ラマンプローブは前記タンク内に配置されている、項目17~19のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目21]
前記コントローラは、第1のポンプ、前記第2のポンプ、及び前記第3のポンプに結合されている、項目17~20のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目22]
前記タンク内の細胞培養物を含む前記タンクの重量を測定するように構成されたスケールをさらに含み、前記コントローラは、前記スケールから重量データを受け取るように構成されている、項目17~21のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目23]
前記コントローラは、前記タンクの前記重量を、前記重量の設定点と比較すること、及び前記比較に基づいて、前記第1のポンプ、前記第2のポンプ、及び前記第3のポンプの出力の1つ以上を調節することを行うように構成されている、項目22に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目24]
前記コントローラは、前記ラマンプローブからスペクトルデータを受け取ること、受け取った前記スペクトルデータに基づいて、前記細胞培養物のパラメータを判定すること、判定した前記パラメータを、前記パラメータの設定点と比較すること、ならびに前記比較に基づいて、前記第1のポンプ、前記第2のポンプ、または前記第3のポンプの出力の1つ以上を調節することを行うように構成されている、項目17~23のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目25]
前記第1のポンプ、前記第2のポンプ、及び前記第3のポンプの1つ以上の前記出力を調節することが、判定した前記パラメータと前記パラメータの前記設定点との間のずれ、または受け取った前記重量と前記重量の前記設定点との間のずれを減らす、項目24に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目26]
前記方法は、定常状態で30日間、1mL当たり少なくとも3000万細胞の平均生細胞濃度で、前記細胞培養物を維持するように構成されている、項目17~25のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目27]
前記タンクは少なくとも10Lの容積を有しており、前記方法は、前記細胞培養物を含む前記タンクの前記重量を20gの範囲内に維持するように構成されている、項目17~26のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目28]
前記タンクは少なくとも10Lの容積を有しており、前記方法は、前記細胞培養物を含む前記バイオリアクタの前記重量を、前記細胞培養物を含む前記タンクの初期重量の0.1パーセント以内に維持するように構成されている、項目17~27のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目29]
前記コントローラは、
受け取った前記スペクトルデータに基づいて、前記バイオリアクタ培養物の複数のパラメータを判定すること、
複数の前記パラメータのそれぞれを、複数の前記パラメータのそれぞれの設定点とそれぞれ比較すること、ならびに
前記比較に基づいて、前記第1のポンプ、前記第2のポンプ、及び前記第3のポンプの1つ以上の出力を調節して、判定した前記パラメータとそれぞれの前記設定点との間のずれを減らすことを行うように構成されている、項目28に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目30]
複数の前記パラメータは、温度、pH、栄養素濃度、乳酸塩濃度、アンモニア濃度、及び細胞特異的生産性を含む、項目29に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目31]
前記フィルタは、細胞を保留し、液体が通過できるように構成されている、項目17~30のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目32]
スケールをさらに含み、前記タンク及び前記フィルタが前記スケール上に載っている、項目17~31に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目33]
スケールをさらに含み、前記タンクが前記スケール上に載っている、項目17~31のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目34]
スケールをさらに含み、前記タンクが前記スケールと物理的に接触している、項目17~31のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目35]
投入導管及び少なくとも1つの排出導管を有するタンクと、
少なくとも1つのポンプと、
前記タンクに結合されたフィルタと、
前記タンクと接触しているスケールと、
前記タンクに結合されたラマンプローブと、
前記少なくとも1つのポンプ、前記スケール、及び前記ラマンプローブに結合されたコントローラであって、前記コントローラが、前記ラマンプローブからの入力と前記スケールからの入力とに基づいて、前記少なくとも1つのポンプを制御するように構成されている、前記コントローラとを備える、バイオリアクタ培養システム。
[項目36]
タンクであって、前記タンクへの流体送出を制御するように構成された第1のポンプに接続するための投入導管と、前記タンクからの流体の除去を制御するように構成された第2のポンプに接続するための第1の排出導管と、前記タンクからの細胞の除去を制御するように構成された第3のポンプに接続するための第2の排出導管とを有する前記タンクと、
前記タンクに結合されたフィルタであって、前記フィルタは、前記タンク内の細胞を保留し、液体が前記フィルタを通過できるように構成されている、前記フィルタと、
前記タンク内の細胞培養物を含む前記タンクの重量を測定するように構成されたスケールと、
前記タンク内に配置されたラマンプローブと、
前記第1のポンプ、前記第2のポンプ、前記第3のポンプ、前記スケール、及び前記ラマンプローブに結合されたコントローラであって、前記コントローラは、
前記スケールから重量データを受け取ること、
前記タンクの前記重量を前記重量の設定点と比較すること、
前記ラマンプローブからスペクトルデータを受け取ること、
受け取った前記スペクトルデータに基づいて、前記細胞培養物のパラメータを判定すること、
判定された前記パラメータを前記パラメータの設定点と比較すること、ならびに
前記比較に基づいて、前記第1のポンプ、前記第2のポンプ、及び前記第3のポンプのスループットの1つ以上を調節することを行うように構成されている前記コントローラと
を備える、バイオリアクタ培養システム。
[項目37]
前記第1のポンプ、前記第2のポンプ、及び前記第3のポンプの1つ以上の前記スループットを調節することが、判定した前記パラメータと前記パラメータの前記設定点との間のずれ、または受け取った前記重量と前記重量の前記設定点との間のずれを減らす、項目36に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目38]
前記方法は、定常状態で30日間、1mL当たり少なくとも3000万細胞の平均生細胞濃度で、前記細胞培養物を維持するように構成されている、項目36~37のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目39]
前記タンクは少なくとも10Lの容積を有しており、前記方法は、前記細胞培養物を含む前記タンクの前記重量を20gの範囲内に維持するように構成されている、項目36~38のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目40]
前記タンクは少なくとも10Lの容積を有しており、前記方法は、前記細胞培養物を含む前記バイオリアクタの前記重量を、前記細胞培養物を含む前記タンクの初期重量の0.1パーセント以内に維持するように構成されている、項目36~39のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目41]
前記コントローラは、
受け取った前記スペクトルデータに基づいて、前記バイオリアクタ培養物の複数のパラメータを判定すること、
複数の前記パラメータのそれぞれを、複数の前記パラメータのそれぞれの設定点とそれぞれ比較すること、ならびに
前記比較に基づいて、前記第1のポンプ、前記第2のポンプ、及び前記第3のポンプの1つ以上の前記スループットを調節して、判定した前記パラメータとそれぞれの前記設定点との間のずれを減らすことを行うように構成されている、項目36~40のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目42]
複数の前記パラメータは、温度、pH、栄養素濃度、乳酸塩濃度、アンモニア濃度、及び細胞特異的生産性を含む、項目41に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目43]
細胞を保留し、液体が通過できるように構成されているフィルタをさらに含む、項目36~42のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目44]
前記タンク及び前記フィルタが前記スケール上に載っている、項目43に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目45]
前記タンクが前記スケール上に載っている、項目36~44のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目46]
前記タンクが前記スケールと物理的に接触している、項目36~45のいずれか1項に記載のバイオリアクタ培養システム。
[項目47]
投入導管及び少なくとも1つの排出導管を有するタンクと、
少なくとも1つのポンプと、
前記タンクに結合されたフィルタと、
前記タンクに結合されたラマンプローブと、
前記少なくとも1つのポンプ及び前記ラマンプローブに結合されたコントローラであって、前記コントローラが、前記ラマンプローブからの入力に基づいて前記少なくとも1つのポンプを制御するように構成されている、前記コントローラとを備える、バイオリアクタ培養システム。
[項目48]
タンクであって、前記タンクへの流体送出を制御するように構成された第1のポンプに接続するための投入導管と、前記タンクからの流体の除去を制御するように構成された第2のポンプに接続するための第1の排出導管と、前記タンクからの細胞の除去を制御するように構成された第3のポンプに接続するための第2の排出導管とを有する前記タンクと、
前記タンクに結合されたフィルタであって、前記フィルタは、前記タンク内の細胞を保留し、液体が前記フィルタを通過できるように構成されている、前記フィルタと、
前記タンク内の細胞培養物を含む前記タンクの重量を測定するように構成されたスケールと、
前記タンク内に配置されたラマンプローブと、
前記第1のポンプ、前記第2のポンプ、前記第3のポンプ、前記スケールに結合されたコントローラとを備える、バイオリアクタ培養システム。
[項目49]
本開示の図1及び図2に示される、バイオリアクタシステム。
[項目50]
本開示の図3に示される、バイオリアクタシステムの制御方法。