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特許7337804六方晶窒化ホウ素粉末、及び六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末、及び六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20230828BHJP
【FI】
C01B21/064 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020535808
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2019030983
(87)【国際公開番号】W WO2020032060
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2018148504
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】築地原 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳孝
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-186205(JP,A)
【文献】特開2013-147403(JP,A)
【文献】特開2013-053018(JP,A)
【文献】国際公開第2018/101241(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/124126(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066277(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度が98質量%以上であり、比表面積が2.0m/g未満であり、
凝集粉末の含有量が8質量%以下であり、
金属の含有量が35ppm以下である、離型材用六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
平均粒径が2.0~30μmである、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
金属を含み、前記金属の含有量が35ppm以下である、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
金属を含み、前記金属の含有量が20ppm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
前記金属が、ナトリウム、カルシウム、マンガン、鉄及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項3又は4に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項6】
炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む原料粉末を、構成元素として窒素原子を有する化合物を含有するガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上1850℃未満の温度で加熱処理して加熱処理物を得る第一の工程と、
0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、前記第一の工程よりも高い温度で、前記加熱処理物を焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る第二の工程と、を有し、
前記六方晶窒化ホウ素粉末において、凝集粉末の含有量が8質量%以下であり、金属の含有量が35ppm以下である、離型材用六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項7】
前記第一の工程が2時間以上かけて行われる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第二の工程の加熱温度が1850~2050℃である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六方晶窒化ホウ素(hBN)粉末、及び六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(以下、単に「窒化ホウ素」という)は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等を有している。そのため、窒化ホウ素は、固体潤滑剤、溶融ガス及びアルミニウム等に対する離型材、並びに放熱材料用の充填材等に幅広く利用されている。
【0003】
特に離型材として用いる窒化ホウ素粉末には、離型性に優れること、及び金属等の不純物元素の含有量が少ないことが求められている。金型形状がますます複雑化・精密化している今日、半導体や電子材料等に用いる窒化ホウ素粉末には、従来よりもさらに金属不純物量が少なく、かつ高い離型性を有することが求められる。また、離型性の向上のため、比表面積の小さい窒化ホウ素粉末が求められている。
【0004】
窒化ホウ素粉末は、高温安定性、熱伝導性、及び潤滑性等に優れる。そのため、窒化ホウ素粉末は、カルボキシルメチルセルロース、及びリグニンスルホン酸ソーダ等の分散剤と共に水と混合してスラリーに調製され、マグネシウム、アルミニウム、及びアルミニウム合金等に対する潤滑性を有する離型材として用いられている(例えば、特許文献1)。この場合、上述のようなスラリーに更に水ガラス、燐酸塩、硝酸塩、及びコロイド状シリカ等を添加することも知られている(例えば、特許文献2)。しかし、上述のような手法によって調製される離型材には、金属元素が残留しており、半導体や電子材料等の特定の用途においては、使用が困難となる場合がある。
【0005】
従来の窒化ホウ素粉末の合成技術において、所定の助剤を加えることによって粒子の粒成長を促進させ、比表面積を小さくする技術がよく知られている。このような助剤としては、アルカリ金属を含有する化合物若しくはアルカリ土類金属(例えば、カルシウム等)を含有する化合物、又はイットリウムを含有する化合物(例えば、イットリア等)などが知られている(例えば、特許文献3)。
【0006】
一方、助剤を使用せずに、窒化ホウ素微粒子を製造する方法が知られている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭55-29506号公報
【文献】特開昭63-270798号公報
【文献】特開2016-60661号公報
【文献】国際公開第2015/122379号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述のような助剤を加えて窒化ホウ素粉末を合成する場合、原料粉末の焼成後に得られる窒化ホウ素粉末に、不純物として助剤に用いた金属が微量分(50ppm以上)残存し得る。さらには、上記窒化ホウ素粉末を酸処理(例えば、塩酸処理)して得られる粉末においても、同様に不純物として助剤に用いた金属が微量分(50ppm以上)残存し得る。
【0009】
また助剤を用いない窒化ホウ素粉末の合成においては、不純物量の極めて少ない窒化ホウ素粉を得ることができるものの、一次粒子の成長が必ずしも十分でないため、得られる窒化ホウ素粉末の比表面積が大きなものとなり得る。
【0010】
上述のとおり、小さな比表面積(マイクロオーダー以上の大きな粒径)と、高い窒化ホウ素純度とを十分に両立可能な窒化ホウ素粉末の製造方法が確立されているとはいえない。
【0011】
本開示は、従来にない、純度が高く、かつ比表面積の小さな窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。本開示はまた、上述のような窒化ホウ素粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定の原料粉末を、特定の条件で加熱処理することによって、従来にない、純度が高く、かつ比表面積の小さな窒化ホウ素粉末を合成できるとの知見を得て、当該知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本開示の一側面は以下を提供できる。
(1)純度が98質量%以上であり、比表面積が2.0m/g未満である、六方晶ホウ素粉末。
(2)平均粒径が2.0~30μmである、(1)に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
(3)不純物金属を含み、上記不純物金属の含有量が35ppm以下である、(1)又は(2)に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
(4)不純物金属を含み、上記不純物金属の含有量が20ppm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
(5)上記金属が、ナトリウム、カルシウム、マンガン、鉄及びニッケルを含む、(3)又は(4)に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
(6)離型材用である、(1)~(5)のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
(7)炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む原料粉末を、構成元素として窒素原子を有する化合物を含有するガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上1850℃未満の温度で加熱処理して加熱処理物を得る第一の工程と、上記第一の工程よりも高い温度で、上記加熱処理物を焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る第二の工程と、を有する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
(8)上記第一の工程が2時間以上かけて行われる、(7)に記載の製造方法。
(9)上記第二の工程の加熱温度が1850~2050℃である、(7)又は(8)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、従来にない、純度が高く、かつ比表面積の小さな窒化ホウ素粉末を提供することができる。本開示によればまた、上述のような窒化ホウ素粉末の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「○○~△△」で示される数値範囲は、特に断らない限り、「○○以上△△以下」を意味する。本明細書における「部」又は「%」は、特に断らない限り、質量基準である。また本明細書における圧力の単位は、特に断らない限り、ゲージ圧であり、「G」又は「gage」といった表記を省略する。
【0016】
本開示の窒化ホウ素粉末は、好ましくは離型材として用いられる。すなわち、本開示の窒化ホウ素粉末は、離型材用であってよい。例えば、当該窒化ホウ素粉末、分散剤及び溶媒を含むスラリーを調製し、当該スラリーを鋳型に噴霧又は塗布して膜を形成した後、当該膜の溶媒含有量を低減することで離型層を形成するために用いることができる。離型層の形成の対象は上述のように鋳型に限定されず、鋳型によって成形される物品(離型する製品)を対象にすることもできる。上記離型層は離型性に優れるため、品質に優れる製品を提供することができる。上記鋳型及び上記物品を構成する素材は、例えば、セラミックス及び金属等から選択される少なくとも1種を含有する。上記鋳型及び上記製品を構成する素材は、それぞれ異なってもよく、同一であってもよい。
【0017】
<窒化ホウ素粉末>
六方晶窒化ホウ素粉末の一実施形態は、純度が98質量%以上であり、比表面積が2.0m/g未満である。上記窒化ホウ素粉末は、純度が高く、かつ比表面積が小さいとの従来にない特徴を有する。
【0018】
窒化ホウ素粉末の純度は、98質量%以上であり、好ましくは99質量%以上である。純度が低すぎる場合、酸化ホウ素等の低融点の不純物が存在することになり、この不純物の存在によって、高温で窒化ホウ素粉末を使用する際等に離型性が低下する恐れがある。
【0019】
窒化ホウ素粉末の比表面積(窒化ホウ素の一次粒子の比表面積)は、2.0m/g未満であり、好ましくは1.5m/g以下、より好ましくは0.8m/g以下である。離型材として窒化ホウ素粉末を使用する際に緻密な離型層を生成しやすくする観点から、比表面積が小さい方が望ましい。窒化ホウ素粉末の比表面積が大きすぎると離型性が不十分となる恐れがある。窒化ホウ素粉末の比表面積の下限値は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.2m/g以上である。比表面積が0.2m/g未満の窒化ホウ素を得るためには、原料粉末の熱処理時間を長時間とする必要があるため、工業的には製造が困難となる傾向がある。
【0020】
窒化ホウ素粉末の平均粒径(窒化ホウ素の一次粒子の平均粒径)は、好ましくは2.0μm以上、より好ましくは4.0μm以上である。窒化ホウ素粉末の平均粒径の下限値が上記範囲内であることによって、緻密な離型層を形成しつつ、離型層の離型性をより十分なものとすることができる。窒化ホウ素粉末の平均粒径は、好ましくは30μm以下、より好ましくは30μm未満、更に好ましくは25μm以下、更により好ましくは25μm未満である。窒化ホウ素粉末の平均粒径の上限値が上記範囲内であることによって、離型層と鋳型との密着性の低下を抑制することができる。窒化ホウ素粉末の平均粒径は上述の範囲内で調整することができ、例えば、2.0~30μmであってよく、4.0~25μmであってよい。
【0021】
窒化ホウ素粉末が金属等の不純物を含む場合、半導体、電子材料等の用途において使用が困難になる場合がある。そのため、同じ純度の窒化ホウ素粉末であっても、金属等の不純物の少ないものがより望ましい。窒化ホウ素粉末における金属の含有量は、好ましくは35ppm以下であり、より好ましくは20ppm以下であり、特に好ましくは10ppm以下である。窒化ホウ素粉末における金属の含有量が上記範囲内であることによって、例えば、色むらによる外観不良、及び絶縁特性等の性能不良などによる品質の低下を抑制することができる。換言すれば、窒化ホウ素粉末における金属の含有量が上記範囲内であることによって、高品質の半導体及び電子材料等を提供することができる。上記金属の種類は、特に限定はないが、一般的にはナトリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、並びにマンガン、鉄、及びニッケル等の遷移元素などである。上記金属は、例えば、ナトリウム、カルシウム、マンガン、鉄及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0022】
より具体的には、窒化ホウ素粉末におけるナトリウム、カルシウム、マンガン、鉄及びニッケルの合計の含有量は、好ましくは35ppm以下であり、より好ましくは20ppm以下であり、特に好ましくは10ppm以下である。窒化ホウ素粉末におけるナトリウム、カルシウム、マンガン、鉄及びニッケルの合計の含有量が上記範囲内であることによって、例えば、色むらによる外観不良、及び絶縁特性等の性能不良などによる品質の低下をより抑制することができる。換言すれば、窒化ホウ素粉末におけるナトリウム、カルシウム、マンガン、鉄及びニッケルの合計の含有量が上記範囲内であることによって、より高品質の半導体及び電子材料等を提供することができる。
【0023】
窒化ホウ素粉末が、凝集粉末を含有する場合、窒化ホウ素粉末を用いて形成される離型層の離型性が低下する傾向にあるため、凝集粉末の含有量は少ないことが好ましい。窒化ホウ素粉末における凝集粉末の含有量は、例えば、8質量%以下、又は3質量%以下であってよい。窒化ホウ素粉末は凝集粉末を含まないことが更に好ましい。
【0024】
窒化ホウ素粉末は、好ましくは純度が98質量%以上であり、比表面積が2.0m/g未満であり、平均粒径が2.0μm以上であり、且つ金属含有量が35ppm以下である。
【0025】
<窒化ホウ素粉末の製造方法>
窒化ホウ素粉末の製造方法の一実施形態は、炭素含有化合物(炭素原料)及びホウ素含有化合物を含む原料粉末を、構成元素として窒素原子を有する化合物を含有するガス雰囲気(窒素含有ガス雰囲気ともいう)、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上1850℃未満の温度で加熱処理して加熱処理物を得る第一の工程と、第一の工程よりも高い温度で、上記加熱処理物を焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る第二の工程と、を有する。
【0026】
上記窒化ホウ素粉末の製造方法は、いわゆる炭素還元法を応用した製造方法である。本製造方法は上述の構成を有することによって、高純度、低比表面積の窒化ホウ素粉末を製造することが可能である。なお、炭素還元法を応用した上述の製造方法は、ホウ酸メラミンなどその他を原料とする窒化ホウ素を合成する他の手法に比べて、肉厚な一次粒子が合成されることから、低比表面積の窒化ホウ素粉末を得るのに好適である。
【0027】
第一の工程は、原料粉末を、構成元素として窒素原子を有する化合物の存在下で、加圧及び加熱することで窒化ホウ素を生成させる工程である。第二の工程は、加熱処理物を、構成元素として窒素原子を有する化合物の存在下で、更に引き続き、加圧及び高温で加熱することによって鱗片状の窒化ホウ素の一次粒子を成長させさらに脱炭させる工程である。以下に原料粉末、各工程の条件等について説明する。
【0028】
炭素含有化合物(炭素原料)は、構成元素として炭素原子を有する化合物であり、ホウ素含有化合物及び構成元素として窒素原子を有する化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。上述の製造方法においては、純度が高く比較的安価な原料を用いることが望ましく、炭素含有化合物としては、例えば、カーボンブラック及びアセチレンブラック等が挙げられる。
【0029】
ホウ素含有化合物は、構成元素としてホウ素を有する化合物であり、炭素含有化合物及び構成元素として窒素原子を有する化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。上述の製造方法においては、純度が高く比較的安価な原料を用いることが望ましく、ホウ素含有化合物としては、例えば、ホウ酸及び酸化ホウ素などが挙げられる。ホウ素含有化合物として、ホウ酸を使用する場合、得られる窒化ホウ素の収量を最大化するために事前に脱水しておくことが望ましく、さらに同様の理由で、焼成前に成型を行うことで高密度原料として使用することが望ましい。
【0030】
構成元素として窒素原子を有する化合物は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。構成元素として窒素原子を有する化合物は、一般にガスの形で供給される。構成元素として窒素原子を有する化合物としては、例えば、窒素及びアンモニア等が挙げられる。構成元素として窒素原子を有する化合物を含有するガス(窒素含有ガスともいう)としては、例えば、窒素ガス、アンモニアガス、及びこれらの混合ガス等が挙げられる。窒素含有ガスは、窒化反応による炭窒化ホウ素の形成を促進する観点、及びコストの観点から、好ましくは窒素ガスを含み、より好ましくは窒素ガスである。窒素含有ガスとして混合ガスを用いる場合には、窒素ガスの割合が、好ましくは95体積/体積%以上である。
【0031】
原料粉末は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物に加えて、その他の化合物を含有してもよい。その他の化合物としては、例えば、核剤としての窒化ホウ素粉末等が挙げられる。原料粉末が、核剤としての窒化ホウ素粉末を含有することで、合成される窒化ホウ素粉末の平均粒径をより容易に制御することができる。原料粉末は、好ましくは核剤を含む。原料粉末が核剤を含むことによって、比表面積の調整が容易となり、比表面積が0.2~0.8m/gである窒化ホウ素粉末をより容易に製造することができる。
【0032】
核剤としての窒化ホウ素粉末を使用する場合には、核剤としての窒化ホウ素粉末の含有量は、原料粉末100質量部を基準として、例えば、0.05~8質量部であってよい。核剤としての窒化ホウ素粉末の含有量が0.05質量部以上とすることで核剤としての効果をより十分なものとすることができる。核剤としての窒化ホウ素粉末の含有量が8質量部以下であることで窒化ホウ素粉末の収量の低下を抑制することができる。
【0033】
窒化ホウ素粉末の製造方法における第一の工程及び第二の工程は加圧環境下において行われる。第一の工程及び第二の工程における圧力は、0.25MPa以上5.0MPa未満である。第一の工程及び第二の工程における圧力が0.25MPa未満の場合には、副生成物として炭化ホウ素が生成し、且つ得られる窒化ホウ素粉末の比表面積が大きくなるため好ましくない。第一の工程及び第二の工程における圧力が5.0MPa以上の場合には、炉自体のコストが大きくなるとともに酸化ホウ素が揮発しづらくなることから更に長時間の焼成が必要となり工業的に不利である。第一の工程及び第二の工程における圧力は、経済的な観点から、好ましくは0.25MPa以上1.0MPa以下であり、より好ましくは0.25MPa以上1.0MPa未満である。
【0034】
第一の工程における加熱温度は1600℃以上1850℃未満であり、好ましくは1650~1800℃である。第一の工程における加熱時間は、例えば、2時間以上であってよく、3時間以上であってよい。第一の工程における加熱時間は、例えば、10時間以下でよい。第一の工程における加熱温度及び加熱時間を上記範囲内とすることで、副生成物の生成をより十分に抑制することができる。第一の工程における昇温速度は、特に制限されるものではないが、例えば、0.5℃/分等の低速であってもよい。
【0035】
第二の工程における加熱温度は第一の工程よりも高い温度に設定される。第二の工程における加熱温度は、例えば、1850~2050℃であってよく、1900℃~2025℃であってよい。第二の工程における加熱温度を上記範囲内とすることで、比表面積のより小さな窒化ホウ素粉末を調整することができる。第二の工程における加熱温度の下限値を1850℃以上とすることによって、一次粒子の成長を十分なものとすることによって比表面積をより大きなものとすることができる。第二の工程における加熱温度の上限値を2050℃以下とすることによって、窒化ホウ素粉末の黄色化を抑制し、外観の悪化を抑制することができる。
【0036】
第二の工程における加熱時間(高温焼成時間)は、例えば、0.5時間以上であってよく、1時間以上であってよい。第二の工程における加熱時間を0.5時間以上とすることによって、一次粒子の成長をより十分なものとすることができる。第二の工程における加熱時間は、経済的な観点から、例えば、30時間以下であってよく、25時間以下であってよい。
【0037】
窒化ホウ素粉末の製造方法は、第一の工程及び第二の工程に加えて、他の工程を有していてもよい。他の工程としては、例えば、第一の工程の前に、原料粉末の脱水を行う工程、及び原料粉末の圧縮成形を行う工程等が挙げられる。窒化ホウ素粉末の製造方法が脱水を行う工程及び圧縮成形を行う工程等を更に有することで、原料粉末中のホウ素含有化合物等に由来する揮発物の発生が抑制され、上記揮発物の炉内への付着、融着等による汚染等を抑制することができ、炉体の負荷を少なくすることができる。
【0038】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0039】
以下、本開示について、実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
各種測定方法は、以下のとおりである。
【0041】
(1)窒化ホウ素粉末の平均粒径
窒化ホウ素粉末の平均粒径(窒化ホウ素の一次粒子の平均粒径)は、ISO 13320:2009に準拠し、粒度分布測定機(日機装株式会社製、商品名:MT3300EX)を用いて測定した。また、得られた平均粒径は体積統計値による平均粒径である。得られた平均粒径はメジアン値(d50)である。粒度分布測定に際し、該凝集体を分散させる溶媒には水を、分散剤にはヘキサメタリン酸を用いた。このとき水の屈折率には1.33を、また、窒化ホウ素粉末の屈折率については1.80の数値を用いた。
【0042】
(2)窒化ホウ素粉末の純度
窒化ホウ素粉末の純度は次の方法によって求めた。具体的には、試料を水酸化ナトリウムでアルカリ分解し、水蒸気蒸留法によってアンモニアを蒸留して、これをホウ酸水溶液に捕集した。この捕集液を硫酸規定液で滴定することによって、窒素原子(N)の含有量を求めた。その後、以下の式(1)に基づいて、試料中の窒化ホウ素(BN)の含有量を決定し、窒化ホウ素粉末の純度を算出した。なお、窒化ホウ素の式量は24.818g/mol、窒素原子の原子量は14.006g/molを用いた。
試料中の窒化ホウ素(BN)の含有量[質量%]=窒素原子(N)の含有量[質量%]×1.772・・・(1)
【0043】
(3)窒化ホウ素粉末の比表面積
窒化ホウ素の一次粒子の凝集体の比表面積はJIS Z 8803:2013に準拠し、測定装置を用い測定した。当該比表面積は、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出した値である。
【0044】
(4)窒化ホウ素粉末の金属含有量
窒化ホウ素粉末の金属含有量は、ICP発光分析法の加圧酸分解法によって測定した。分析した金属(ナトリウム、カルシウム、マンガン、鉄及びニッケル)の中から最も含有量が多い金属元素の値を金属含有量とした。
【0045】
〔実施例1〕
実施例1は、以下のように、窒化ホウ素粉末を合成した。
【0046】
ホウ酸(株式会社高純度化学研究所製)100質量部と、アセチレンブラック(デンカ株式会社製、グレード名:HS100)25質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合して混合粉末(原料粉末)を得た。得られた混合粉末を250℃の乾燥機にいれ、3時間保持することでホウ酸の脱水を行った。脱水後の混合粉末200gをプレス成型機の直径100Φの型に入れ、加熱温度:200℃及びプレス圧:30MPaの条件にて成型を行った。このようにして得られた原料粉末の成型体を焼成に用いた。
【0047】
上記成型体をカーボン雰囲気炉内に静置し、0.8MPaに加圧された窒素雰囲気において昇温速度:5℃/分で1800℃まで昇温し、1800℃にて3時間保持して上記成型体の加熱処理を行った(第一の工程)。その後、カーボン雰囲気炉内を昇温速度:5℃/分で2000℃まで更に昇温し、2000℃にて7時間保持して上記成型体の加熱処理物を高温で焼成した(第二の工程)。焼成後の緩く凝集した窒化ホウ素をヘンシェルミキサーで解砕し、目開き:75μmの篩を通した。篩を通過した粉末を、実施例1の窒化ホウ素粉末とした。得られた窒化ホウ素粉末の純度、比表面積、平均粒径及び金属含有量を測定し、結果を表1に示した。
【0048】
(5)離型性評価
上述のようにして得られた窒化ホウ素粉末の離型材として性能(離型性)を評価した。まず、離型材を塗布する対象となる成型体を以下のとおり調製した。酸素量:1.0%且つ比表面積:10m/gの窒化珪素粉末に、イットリアを2.5mol%添加し、メタノールを加えて湿式ボールミルで5時間湿式混合し混合物を得た。得られた混合物を濾過し、濾集物を乾燥することによって混合粉末を得た。上記混合粉末を金型に充填し、20MPaの成形圧で金型成形した後、200MPaの成形圧でCIP成形することによって板状の成形体(5mm×50mm×50mm)を調製した。
【0049】
次に、上述のようにして得られる窒化ホウ素粉末をノルマルヘキサン溶液に分散させ、濃度:1質量%のスラリーを調製した。調製したスラリーを上述の成形体上に厚み10μmとなるように上記成型体の両面に塗布し、乾燥して離型層を設けた基材を調製した。同様の方法で30枚の基材を調製し、当該基材を30枚重ねたブロックを用意した。当該ブロックを、カーボンヒータを有する電気炉内に静置し、1900℃及び0.9MPaの条件下で、6時間焼成した。焼成後の上記基材同士のはく離面を目視観察して、下記の基準で離型性を評価した。Aが最も離型性に優れることを意味する。
A:いずれの基材同士も自然と離型し、かつ基材のはく離面に不純物由来の黒点等が見受けられなかった。
B:いずれの基材同士も自然と離型し、かつ基材のはく離面に不純物由来の黒点等が少し見受けられた。
C:基材同士が離型しない、又は基材のはく離面に不純物由来の黒点等が見受けられた。
【0050】
〔実施例2〕
実施例2では、第二の工程における加熱温度を1900℃にしたこと以外は実施例1と同様にして窒化ホウ素粉末を製造した。
【0051】
〔実施例3〕
実施例3では、第一の工程及び第二の工程における圧力を0.3MPaにしたこと以外は実施例1と同様して窒化ホウ素粉末を製造した。
【0052】
〔実施例4〕
実施例4では、実施例1の原料粉末に、核剤として窒化ホウ素(デンカ株式会社製、グレード名:GP)1質量部を更に配合したこと以外は実施例1と同様して窒化ホウ素粉末を製造した。
【0053】
〔実施例5〕
実施例5では、実施例1で得られた窒化ホウ素粉末を、ジェット粉砕機(第一実業株式会社製、商品名:PJM-80)を用いて、粉砕圧力:0.2MPaの粉砕条件で更にジェットミル粉砕したこと以外は実施例1と同様して窒化ホウ素粉末を製造した。
【0054】
〔実施例6〕
実施例6は、実施例1の原料粉末に、核剤として窒化ホウ素(デンカ株式会社製、グレード名:SGP)10質量部を更に配合したこと、及び第二の工程における加熱時間を40時間にしたこと以外は実施例1と同様して窒化ホウ素粉末を製造した。
【0055】
〔比較例1〕
市販品の窒化ホウ素粉末を比較例1とした。比較例1の窒化ホウ素粉末の評価を表2に示した。
【0056】
〔比較例2〕
比較例2は、第二の工程における加熱温度を2000℃から1800℃に変更したこと以外は実施例1と同様して窒化ホウ素粉末を製造した。比較例2の窒化ホウ素粉末の評価を表2に示した。
【0057】
〔比較例3〕
比較例3は、第一の工程及び第二の工程における圧力を0.2MPaにしたこと以外は実施例1と同様して窒化ホウ素粉末を製造した。比較例3の窒化ホウ素粉末の評価を表2に示した。なお、比較例3の製造条件の下では、実施例1に比べ炉内の汚染の程度が大きかった。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示によれば、従来にない、純度が高く、かつ比表面積の小さな窒化ホウ素粉末を提供することができる。本開示によればまた、上述のような窒化ホウ素粉末の製造方法を提供することができる。