(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】電解質要素及び電解質要素を組み込んだセル
(51)【国際特許分類】
H01M 10/39 20060101AFI20230828BHJP
H01M 10/6571 20140101ALI20230828BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20230828BHJP
【FI】
H01M10/39 A
H01M10/39 D
H01M10/39 C
H01M10/6571
H01M10/615
(21)【出願番号】P 2020542209
(86)(22)【出願日】2018-10-12
(86)【国際出願番号】 GB2018052943
(87)【国際公開番号】W WO2019073260
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-08-31
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520129713
【氏名又は名称】リナ エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン リチャード
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-080483(JP,A)
【文献】特表2015-523681(JP,A)
【文献】特開平05-144426(JP,A)
【文献】特開平11-121031(JP,A)
【文献】特表2012-521073(JP,A)
【文献】特表2018-511922(JP,A)
【文献】特開2015-138648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/39
H01M 10/6571
H01M 10/615
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ナトリウム金属ハロゲン化物充電式バッテリー用の電解質要素であって、
非反応性金属の穿孔シートと、
前記穿孔シートの一方の面に結合されたセラミック副層に結合されることによって、前記穿孔シートの一方の面に間接的に結合されたナトリウムイオン伝導性セラミックの非透過性層と、を備え、
前記セラミック副層は多孔質かつ透過性であり、前記セラミック副層は前記穿孔シートにおける孔を覆って延
び、
前記穿孔シートは、50μmから500μmまでの範囲の厚さであり、
前記セラミック副層は、10μmから100μmまでの範囲の厚さであり、
前記非透過性層は、5μmから50μmまでの範囲の厚さである、
電解質要素。
【請求項2】
前記非透過性セラミック層は、非多孔質である、請求項1に記載の電解質要素。
【請求項3】
前記多孔質のセラミック副層は、ナトリウムイオン伝導体でもある材料からなる、請求項1又は請求項2に記載の電解質要素。
【請求項4】
前記穿孔シートの前記非反応性金属が、ニッケル、アルミニウム含有フェライト鋼、或いはクロミア又はCrMnスピネル酸化物の表面コーティングを形成する鋼である、請求項1から3の何れか一項に記載の電解質要素。
【請求項5】
前記非反応性金属は、空気中で加熱されることによりアルミナの付着性酸化物コーティングが形成されたアルミニウム含有フェライト鋼である、請求項4に記載の電解質要素。
【請求項6】
前記穿孔シートが、正方形配列又は六角形配列上で100μmから200μmの間隔で20μmから60μmの幅の孔である穿孔を有する金属箔である、請求項1から
5の何れか一項に記載の電解質要素。
【請求項7】
前記穿孔シートが、拡張金属シートである、請求項1から
6の何れか一項に記載の電解質要素。
【請求項8】
請求項1から
7の何れか一項に記載の電解質要素を組み込んだ充電式溶融ナトリウム金属ハロゲン化物セル。
【請求項9】
ナトリウム/塩化ニッケルセルである、請求項
8に記載の充電式セル。
【請求項10】
請求項1から
7の何れか一項に記載の2つの電解質要素によって定められたポーチを備え、前記2つの電解質要素の縁部は、金属フレームに結合され、前記ポーチは容器内に装着されており、作動中に前記ポーチが金属塩化物及びクロロアルミネートナトリウムを含み、作動中に前記容器が不活性導電体及びナトリウムを含む、或いは、作動中に前記ポーチが不活性導電体及びナトリウムを含み、作動中に前記容器が金属塩化物及びクロロアルミネートナトリウムを含む、請求項
9に記載の充電式セル。
【請求項11】
前記各穿孔金属シートが、穿孔されていない外周縁部を有し、前記シートの前記外周縁部は、前記金属フレームに溶接され、前記外周縁部と前記金属フレームによって定められた前記ポーチの外面は、非透過性の高分子電気絶縁体でコーティングされる、請求項
10に記載の充電式セル。
【請求項12】
前記各穿孔金属シートが、穿孔されていない外周縁部を有し、前記金属シートの穿孔部分は、多孔質のセラミック副層でコーティングされ、前記シートの前記外周縁部は、前記金属フレームに溶接され、ナトリウムイオン伝導性セラミックの前記非透過性層は、前記金属シートと前記金属フレームの両方を含む前記ポーチの外面を覆う、請求項
10に記載の充電式セル。
【請求項13】
請求項
8から
12の何れか一項に記載の複数の充電式セルを備えるバッテリーであって、隣接するセル間に電気ヒータを更に備える、バッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質要素、電解質要素を作製する方法、及び電解質要素を組み込んだセルに関する。また、本発明は、このようなセルから形成されたバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、例えば、ZEBRAセル(例えば、J.L.サドワース、「塩化ナトリウム/塩化ニッケル(ZEBRA)バッテリー(パワーソースジャーナル第100巻(2001年)149~163頁を参照)」と呼ぶことができる、ナトリウム/塩化ニッケルセルのような、溶融ナトリウム金属ハロゲン化物充電式バッテリーに関する。ナトリウム/塩化ニッケルセルは、ナトリウムイオンを伝導する固体電解質によって正電極から分離された液体ナトリウム負電極を組み込む。固体電解質は、例えば、β-アルミナからなることができる。正電極は、ニッケル、塩化ニッケル、並びに、使用時に液体であり、塩化ニッケルから固体電解質へナトリウムイオンの輸送を可能にする二次電解質として機能するナトリウムクロロアルミネートを含む。正電極はまた、アルミニウム粉末を組み込む。セルは、通常は350°C未満の温度で作動するが、157°Cであるナトリウムクロロアルミネートの融点を上回る必要があり、作動温度は、通常は270°Cから300°Cである。放電中の正常な反応は、以下の通りである。
カソード(正電極): NiCl2+2Na++2e-→Ni+2NaCl
アノード(負電極): Na→Na++e-
全体の結果は、(カソードにおける)無水塩化ニッケルが、(アノードにおける)金属ナトリウムと反応して塩化ナトリウムとニッケル金属を発生させ、セル電圧は、300°Cで2.58Vである。セルは通常、完全に放電された状態で組み立てられ、すなわち、塩化ナトリウムと混合するニッケル粉末をカソードに使用し、セルを充電することによってナトリウム金属と塩化ニッケルとを発生させる。カソード組成物はまた、硫化鉄を組み込むことができ、これは、繰り返される充電及び放電サイクル中のニッケルの粒径の変化を抑制する硫黄を提供し、鉄は、特にセル放電の終わりに向けて及び電流パルス中にセル性能を向上させる。このようなセルは通常、電解質としてβアルミナのセラミック管を利用し、これは円筒管となる場合があり、又は複雑な表面を有する管体となる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このタイプのセルは、他のバッテリー技術に優る理論的に大きな利点を有し、詳細には、競合する副反応が存在しないので、100%の充電効率が可能であり、自己放電がなく、セルは、充電形態においてで自己制御が可能であり、過充電故障を防ぐことができ、直列接続されたバッテリー内のセルが故障した場合、故障したセルは、損傷を受けていないセルの抵抗に匹敵する抵抗を有することになるので、この直列接続のバッテリーは、作動し続けることができ、セルが作られるその材料は安価である。しかしながら、これまでZEBRAセルは、電解質として少なくとも1mmの壁厚を有するナトリウムイオン伝導性セラミックの管体を使用していて、その結果、セルは、電解質が十分なナトリウムイオン伝導性を確実に有するように、約270°Cを上回る温度で作動する必要がある。電解質の厚さはまた、電解質が割れないことを確実にするために、周囲からの通常の起動時間が数時間内で測定されることを意味する。高い作動温度及び遅い起動時間により、このタイプのバッテリーは特定のニッチな用途に制限されてきた。しかしながら、サポートされていないこれよりも薄い電解質層は、製造、組み立て、及び作動中時の応力に耐えるには不十分な強さとなる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明は、非反応性金属の穿孔シートと、穿孔シートの一方の面に結合されたナトリウムイオン伝導性セラミックの非透過性層とを備えた電解質要素を提供する。
【0005】
従って、この電解質要素では、強度は、金属シートによって提供することができ、これにより、従来のZEBRAセルで必要とされるものと比較して、電解質の厚さを大幅に低減することが可能になる。これは、著しく低い温度で、例えば、200°C未満で適切に機能することができるセル又はバッテリーをもたらす。更に、セラミックの著しく薄い層は、周囲からの加熱によって引き起こされる応力もまた著しく低減するので、周囲からの起動時間は、僅か数分とすることができる。これら両方は、商業的に有利な利点である。
【0006】
第2の態様では、本発明は、非反応性金属の穿孔シートを形成し、更に650℃を上回る温度、通常は700℃を上回る温度でセラミックの前駆体を焼結することによって穿孔シートの一方の面に結合されたナトリウムイオン伝導性セラミックの非透過性層を形成することを含む、電解質要素の作製方法を提供する。
【0007】
セラミックの非透過性層は、通常は650°Cを超える高温で焼結プロセスによって作製することができ、この温度は、700°C、例えば、800°C、900°C、又は950°Cを超える可能性があるが、通常は1150℃未満である。セラミックの非透過性層は、無孔であるか、又は閉じた非接続孔を有することができる。非透過性層は、好ましくは、5%未満の多孔率であって、95%を超える密度である。セラミックの非透過性層は、穿孔シートの面に直接結合することができ、又は、穿孔シートの面に結合された多孔質のセラミック副層に結合することにより、穿孔シートの面に間接的に結合することができる。多孔質のセラミック副層は、透過性であるべきであり、15%から50%の多孔率(及び50%から85%の密度)を有することができ、更に、孔形成剤、及び非透過性セラミック層を作製するのに使用されるものよりも大きな粒子を含む組成物から作製することができる。セラミック層は、例えば、多孔質のセラミック副層を焼結し、その後、多孔質のセラミック副層を形成するのに使用されるものよりも小さい粒子で作製された高密度化最上層を形成して、非透過性セラミック層を形成することを含むプロセスによって作製することができる。非透過性セラミック層は、例えば、βアルミナを含むことができるが、これに加えて、焼結プロセス中にガラスを形成する材料を含むことができる。従って、非透過性セラミック層は、セラミック層と呼ばれるが、本明細書における「セラミック」という用語は、作動中に層がナトリウムイオンに対して伝導性である限り、セラミックとガラスの組み合わせを含む。非透過性セラミック層は、透過性であってはならない、すなわち、ガスに対して不透過性であり、その結果、作動中に液体に対して不透過性となる。
【0008】
ナトリウムイオン伝導性セラミックの非透過性層と穿孔シートの面との間に多孔質で透過性のセラミック副層が存在する場合、多孔質のセラミック副層は、ナトリウムイオン伝導体でもある材料のものとすることができる。これにより、ナトリウムイオン伝導性材料のより大きな表面積を提供するという利点を有することになる。或いは、多孔質セラミック副層は、ナトリウムイオンを伝導しない材料のものとすることができる。
【0009】
ナトリウム/塩化ニッケルセルで使用するために、穿孔シートにおける非反応性金属は、ニッケルであるか、又は特に最大で20%のクロム、0.5~12%のアルミニウム、並びに0.1~3%のイットリウムを有する鉄であるフェクラロイ(商標)として知られるタイプのアルミニウム含有フェライト鋼などの耐食性合金とすることができる。非反応性金属は、例えば、15%のクロム、4%のアルミニウム、並びに0.3%のイットリウムを有する鉄を含むことができる。この金属は、空気中で加熱されたときに、更なる酸化に対して合金を保護するアルミナの付着性酸化物コーティングを形成し、酸化物層もまた、セラミックの焼結中の腐食に対して合金を保護する。この金属が基板として使用され、セラミック層でコーティングされる場合に、金属上の酸化アルミニウム層は、セラミックコーティングと結合すると考えられているので、セラミック材料が金属基板に確実に接着する。別の潜在的な耐食性合金鋼は、加熱時に、クロミア又はCrMnスピネル表面酸化物層を形成するものとなり、この表面酸化物層は、電子導電性である。多孔質のセラミック副層を設けることで、電解質要素の製造時と電解質要素を組み込んだセルの使用時の両方で利点を提供する。
【0010】
ニッケル及び鋼などの金属は、セラミック材料よりも高い熱膨張度を有することは理解されるであろう。セラミック材料は、電解質が使用されるセルの作動温度を遙かに超える高温での焼結中に固体焼結構造を形成する。従って、セルの作動温度(例えば、250°C、又は300°C)は、焼結中の温度よりも大幅に低いので、セルの作動中に金属基板は、セラミック材料を圧縮状態に保持する。金属シートは、強度を提供し、更に、セラミックの非透過性層は、電解質に必要な電気絶縁性及びナトリウムイオン伝導特性を提供する。
【0011】
穿孔シートは、例えば、50μmから最大500μmまでの範囲、より好ましくは80μmから250μmの厚さとすることができる。例えば、穿孔シートは、例えば、20μmから60μm、例えば30μmの直径の孔の穿孔を有する金属箔とすることができ、孔は、100μmから200μm、例えば150μmの間隔、又は正方形の配列又は六角形の配列で150μmから300μm、例えば、200μmの間隔で60μmから100μm、例えば、70μmの直径のより大きな孔で提供される。配列中の孔間の中心間離隔距離は、孔の直径の2倍から10倍とすることができる。このような穿孔は、レーザー又は化学エッチングによって作製することができる。或いは、穿孔シートは、拡張金属シート、すなわち、複数のスリットが設けられて、スリットがアパーチャに広がるように長さ方向及び幅方向に伸張されたシートとすることができる。この場合、金属シートは、好ましくは、セラミック層を形成する前に、金属シートを平坦になるようにプレス又はカレンダー加工されることになる。また、平坦になるようにカレンダー加工される場合、穿孔シートとして金網メッシュを使用することもできる。セラミック層の厚さは、貫通孔を有さないほど十分に厚いので非透過性である限り、穿孔シートの厚さ未満とすることができる。例えば、セラミック層の厚さは、50μm以下、例えば20μm又は10μmの厚さとすることができる。
【0012】
本発明は、ここで、単なる例証として、添付図面を参照しながらより具体的に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図1の電解質を組み込んだ、本発明のナトリウム/塩化ニッケルセルの断面図を示す。
【
図3】
図2に示されるセルを組み込んだバッテリーの概略側面図を示す。
【
図4】
図1の電解質を組み込んだ、本発明の代替のナトリウム/塩化ニッケルセルの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照すると、電解質要素10は、ニッケルなどの金属シート11、又はフェクラロイ(商標)として知られるタイプのようなアルミニウム含有フェライト鋼、又は空気中で加熱されたときにCrMn酸化物スケールを形成する鋼を含む。シート11は、0.2mmの厚さである。シートの大部分、すなわち中央領域12は、例えば、レーザードリルによって穿孔されて、極めて多数の貫通孔14を生成し、各孔は、平均直径30μmであり、例えば六角形の配列で150μmから200μmだけ分離され、レーザードリルプロセスの結果として、各孔14は、実際にはその長さに沿って、例えばレーザーが入射する上面(図示のように)で35μmから反対側の表面で25μmまで僅かにテーパーが付けられている。シート11の周辺近くの幅5mmの縁部15は、穿孔されていない。孔の寸法及び離隔距離は、ここでは例証として与えられ、代替形態として、孔14は、例えば50μmから100μmの平均直径であり、且つ200μmから800μmだけ分離することができる。また、孔14は、化学エッチングなどの異なる技術によって作製することができること、及び結果としてこれらの断面輪郭は、図示されたものとは異なってもよいことは理解されるであろう。
【0015】
シート11がアルミニウム含有フェライト鋼である場合、全ての表面上に付着性アルミナ層を形成するように、空気中高温で加熱することができる。貫通孔14を形成した後、酸化によりアルミナ層が適切に形成された場合、穿孔中央領域12の一方の面は、ナトリウムイオン伝導性セラミックの不透過性コーティング層16で覆われる。この層16を形成するために、複数の異なるセラミックが好適である。例えば、β’’アルミナ、又はNa1+xZr2SixP3-xO12などの材料、又はNa3PO4-Na2SO4などの組み合わせ、又はNa3PS4などのガラスセラミックが、この目的に好適である。層16は、好ましくは、100μm未満、より好ましくは30μm未満、例えば20μm、又は10μmの厚さである(明確にするために、図では誇張された厚さで示される)。層16は、例えば、水又は有機アルコールなどの液体と結合されてスラリーを形成された粉末形態での材料を堆積させることによって堆積され、乾燥、及び焼結される。堆積は、スクリーン印刷などの技法を用いることができる。焼結は、セラミック材料の組成に応じた高温を必要とするが、通常は700℃を上回り、例えば800℃又は900℃である。一部の材料では、更に高い焼結温度を必要とする場合がある。
【0016】
ここで
図2を参照すると、初期の充電されてない状態で示された、充電式溶融ナトリウム/塩化ニッケルセル20の断面図が示されており、この図は縮尺通りではない。セル20は、セラミックコーティング層16が外側に面した2つの電解質要素10から形成されたポーチ21を備え、その非穿孔の外周縁部15は、通常はニッケルの金属フレーム22に溶接される(穿孔孔14は、
図2では示されていない)。この溶接プロセスは、レーザー溶接を用いることができる。次いで、縁部15と金属フレーム22の外縁部とは、セル20の作動温度に耐えることができるPTFEなどのポリマーの電気絶縁コーティング23でコーティングされる。粉末混合物24は、電解質要素10の間にポーチ21を充填し、電解質要素10の間に、良好な電気的接触を確保するために粉末混合物24内に埋め込まれる拡張メッシュニッケルシート25が存在する。粉末混合物24は、ニッケル粉末、塩化ナトリウム、及びクロロアルミン酸ナトリウム(NaAlCl4)を含み、好ましくはまた、少ない割合の硫化鉄及び塩化鉄、並びにアルミニウム粉末を含む。粉末混合物24は、構成材料の偏析を抑制するために、ポーチ21に導入される前に混合され粒状化することができる。金属フレーム22は、外部電極接点として機能する突出タブ26を含む。電気絶縁コーティング23は、金属フレーム22の全ての露出部分を覆い、タブ26の大部分を覆って、末端部分を非コーティング状態のまま残しておいて、電気的接触を可能にする。
【0017】
ポーチ21は、ステンレス鋼缶28内の中央に位置付けられ、炭素フェルト30は、電解質要素10とステンレス鋼缶28との間のスペースを満たし、ポーチ21の外面及びステンレス鋼缶28の内面は、カーボンブラックで噴霧される。その後、突出タブ26は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの高温熱可塑性ポリマーを使用して、ステンレス鋼缶28の隣接部分にシールされ、従ってシール32が存在する。このようにしてシールされる前に、ステンレス鋼缶28が排気されて空気が除去される。その結果、高温耐熱室温加硫シリコーンの更なる外部シール34が存在することができる。
【0018】
この記載は、放電状態のセル20の場合であり、セルを製造することができる形態である。セルが作動するために、塩化ナトリウムアルミニウムが溶融する、200°Cなどの157°Cを超える温度まで加熱する必要があり、このような温度では、セラミック層16は、ナトリウムイオンを十分に伝導することになる。溶融したクロロアルミン酸ナトリウムは、ナトリウムイオンが塩化ナトリウムと電解質要素10のセラミック層16との間のポーチ21内で拡散することを可能にする。セル20は、外部パワーサプライからの電圧をステンレス鋼缶28(これは、外部パワーサプライの負電極に接続される)と突出タブ26(正電極に接続される)の間に加えることにより充電することができる。その結果、電解質要素10のセラミック層16を介してナトリウムイオンが引き寄せられて炭素フェルト30と接触し、ここでナトリウム金属が形成され、同時に、ポーチ21内で残りの塩化物イオンがニッケルと反応して塩化ニッケルを形成する。これらは、放電中に起こる反応の逆である。つまり、セル20が完全に充電されると、ポーチ21内でニッケル粉末の相当な部分が塩化ニッケルに変換され、ステンレス鋼缶28内のスペースの大部分を占有するナトリウム金属が存在し、これが高温に起因して溶融する。
【0019】
セル20内の電解質の厚さは、セラミック層16の厚さであり、上述のように、厚さが僅か10μm又は20μmとすることができることは理解されるであろう。これは、従来のZEBRAセルで必要とされるように270°Cを超えてセルが作動する場合に、電解質が極めて僅かな電気抵抗を提供することを意味し、また、優れたセル性能が、有意に低い作動温度で、或いはβアルミナよりもナトリウムイオン伝導率が幾分低いセラミック材料で達成することができることを意味する。更に、本発明のセルの単位体積あたりの利用可能な総エネルギーは、約0.43kWh/Lであり、これは、ZEBRAセルで達成可能なエネルギー(0.13kWh/L)よりもかなり大きいが、単位体積あたりの利用可能な電力は、約1.9kW/Lであり、これは、最新の充電式リチウムイオンバッテリーの約2倍であり、ZEBRAセル(0.04kW/L)によって利用できるものより何倍も大きい。
【0020】
再び
図1を参照すると、好ましい修正形態において、非透過性セラミックコーティング層16は、
図1の破線で示されるように、非透過性セラミック層16bにより覆われた多孔質で透過性の副層16aに置き換えられ、破線で示されているように、非透過性層16bもまた、透過性の副層16aの端部を封入する。多孔質で透過性の副層16aは、非透過性セラミック層16bと同じナトリウムイオン伝導性セラミックのものとすることができるが、通常は幾分大きい粒子を含むスラリーから形成されることになる。多孔質の副層16aは、最初に堆積、乾燥、並びに焼結して、その後、非透過性セラミック層16bが上端に堆積、乾燥、並びに焼結することができ、或いは、副層16aは、堆積並びに乾燥されて、その後、非透過性セラミック層16bを形成するスラリーが上端に堆積されて乾燥され、その後、組み合わされた層16が、単一の焼結ステップを受ける。
【0021】
多孔質で透過性のセラミック副層16aは、10μmから100μmの間の厚さとすることができ、非透過性層16bは、5μmから50μmの範囲の厚さ、例えば、20μm、30μm、又は40μmとすることができる。
【0022】
多孔質で透過性の副層16aを設けることにより、特に孔14全体にわたって貫通孔が存在するリスクなしで、より薄い非透過性セラミック層16bを使用することが可能となる。非透過性セラミック層16bの堆積は、最小限の可塑剤を含むスラリー内の微粒子を使用し、堆積物が乾燥すると、高グリーン密度を有することができるようになり、前駆体を圧密化することで焼結を助けることができるので、グリーン前駆体は、焼結ステップの前にプレス加工することによって圧密化することができる。多孔質副層16aなしでは、孔14全体にわたる乾燥セラミック材料に対する機械的支持が不足し、焼結又は作動中に亀裂を生じることになる局所応力集中をもたらす傾向がある。対照的に、多孔質セラミック副層16aは、粗い粒子と可塑剤などの添加剤を有する配合物から堆積することができ、堆積物が乾燥すると、添加剤が堆積物を共に保持する傾向があるので、グリーン前駆体は、より高いグリーン強度を有するが、より低いグリーン密度を有する場合があり、そのため、この配合物は、製造中に孔14を覆って自己支持するのに十分なグリーン強度を有する。更に、多孔質副層16aの焼結中に生じる比較的小さな寸法変化は、最小限の応力集中をもたらすので、亀裂が発生しなくなる。セラミック副層16aは、多孔質であるが、孔のサイズは遙かに小さく、孔は、金属シート11を通る孔14よりも均一に分布しているので、セラミック副層16aは、非透過性層16bに対して好適な支持を提供する。更に、多孔質副層16aを設けることで、金属シート11と非透過性層16bとの間の熱膨張の不整合の影響が低減される。
【0023】
加えて、多孔質セラミック副層16aは、非透過性セラミック層16bの付着を後で促進するテクスチャ面を作成するように堆積することができる。
【0024】
上述のように、非透過性セラミック層16が非透過性セラミック層16bによって覆われた多孔質セラミック副層16aによって置き換えられる場合、多孔質で透過性セラミック副層16aは、反応種が横方向で孔14から又は孔に向かって拡散することを可能にし、イオン反応がセラミック層16の外面上でより均一に起こることを確実にし、よって電解質/電極界面にて最大電極効率を達成する。
【0025】
上述のセル20は、約2.58Vの放電中に電圧を供給する。より大きな電圧が必要な場合、又は単一のセル20から利用可能であるよりも多くの電流が必要な場合、複数のセル20を組み合わせて、直列、並列、又は直列のセルの並列接続を有するバッテリーを形成することができる。セル20は、ZEBRAセルから利用可能な利点を提供するが、上述のように、重要な更なる利点を提供する。ZEBRAバッテリーと同様に、セル20は、副反応がなく、100%クーロン効率を提供し、有機電解質がないので、火災の危険性が回避され、高い周囲温度に耐性があり、且つ熱遮断を容易に可能にし、破裂した場合に安全で火事の際に自己消火し、これらの条件下で発生する安全で可逆的な別の反応が存在するので、過放電及び放電不足が問題とならず、帯電状態での自己放電がなく、そのため保存可能期間が長く、組み立て中に必要とされる有害な化学物質がない。直列のセルを有するバッテリーパックの形式では、故障したセル(電解質が壊れた)が短絡として故障することになるので、個々のセルの故障は、有意な悪影響を与えない。
【0026】
ZEBRAセルと比較して、電解質要素10の強度が金属シート11によって提供されるので、セル20が大幅により堅牢となり、セル20及び電解質要素10がかなり薄肉であるので、セル20は、より高い加熱速度及びより大きな熱勾配を生じることができ、熱伝達のためのより良い熱結合を提供し、拡散経路が短くなるので、より高出力のセルを提供することができる。
【0027】
セル20が単独で使用される場合、セルを作動温度まで加熱するための外部熱源と、環境に対する熱損失を最小限に抑えるための断熱材を備える必要がある。複数のセル20が組み合わされて1つのバッテリーにされる場合、各セル20は、自己完結型であるので、隣接するセル間で電解質を共有することはなく、よって結合セル20は、単に、セル20を互いに隣接して配置することのみ必要となるが、互いから電気的に絶縁され、電気端子(缶28及びタブ26それぞれ)を望ましい方式で接続する。単一のセル20と同様に、バッテリーは、外部熱源及び外部断熱材を必要とする。
【0028】
ここで
図3を参照すると、バッテリー40の一部の概略側面図が部分的に断面で示されている。バッテリー40は、電気的に直列に接続された複数のセル20からなり、1つのセルの突出タブ26は、隣接するセルの缶28に電気的に接続されており、4つのセル20のみが示されている。連続するセル20の間には、電気ヒータ42があり、各電気ヒータが、電気絶縁体の層内又は層間に封入されたヒータ要素からなる。電気ヒータ42は、外部電力供給源44(個々の接続は図示されていない)に接続することができ、電力供給源44は、セル20の少なくとも1つのセルの温度を監視するように配置された少なくとも1つの温度センサー46からの信号に応答して制御されている。全てのセル20は、電気的及び熱的絶縁の層48内に封入される。電気ヒータ42は、セル20を必要な作動温度まで加熱するように配置される。例証として、電気ヒータは、プリントヒータ要素を備えるタイプとすることができる。
【0029】
他の文脈では、代替の加熱方法を用いることが適切な場合がある。例えば、複数のセル20からなるバッテリーが、例えば、自動車の内燃機関と組み合わせて使用される場合、排気ガスからの熱は、熱交換器を使用してセル20に伝達することができる。同様に、このようなバッテリーが、組み合わされた熱及び電力ユニットと共に使用される場合、熱源は、セル20を必要な作動温度まで加熱するのに使用することができる。
【0030】
電解質要素10、セル20、並びにバッテリー40は、例証としてのみ説明されていること、及びこれらは、複数の方法で変更することができることが理解されるであろう。例えば、上述のように、電解質要素10は、金属シート11に隣接するセラミック副層16aが多孔質である一方、金属シート11から遠いセラミック副層16bが非多孔であるセラミック層16を含むことができ、また、スクリーン印刷のような従来の湿式厚膜技術によって、又はスプレー堆積のようなより高い溶媒対固体比を使用する堆積プロセスによって堆積することができる。上述のように、穿孔孔14は、上記のものとは異なるサイズを有することができ、金属シート11及びセラミック層16の厚さは、上記のものとは異なる可能性がある。
【0031】
セル20に関しては、ポーチ21の外周付近の電気絶縁体23は、上記のものとは異なる材料のものとすることができ、セラミック層16のものとは異なる厚さとすることができる。ポーチ21内の拡張メッシュニッケルシート25は、穿孔金属シート又は金網メッシュで置き換えることができ、あらゆる場合において、フレーム22に固定されるか、或いはフレーム22と一体化することができる。或いは、粉末混合物24を通過して十分な電気伝導性が存在する場合、拡張メッシュニッケルシート25は、省略することができる。電解質要素10とステンレス鋼缶28との間のスペースに関しては、これによって、炭素フェルト30に加えて又はその代わりに、1又は2以上の金属箔要素を封入して、溶融ナトリウムに対する電気的接触及びウィッキングを提供することができる。
【0032】
また、セル20に関しては、アノード区画を囲むようにカソード区画を配置することが実現可能であり、その逆ではないことは理解されるであろう。
【0033】
ここで
図4を参照すると、その初期の非充電状態で示されている、代替の充電式溶融ナトリウム/塩化ニッケルセル50の断面図が示されており、図は縮尺通りではない。セル50は、2つの電解質要素52で形成され、その各々が、
図1に示すような穿孔孔14(
図4では示さず)と、非穿孔の平坦な周辺リム55とを有する皿型金属シート53からなるポーチ51を備える。金属シート53は、空気中で加熱されるとCrMnスピネル酸化物層を形成する合金鋼のものである。リム55は、例えば、ポーチ51内のスペースにスチールウール57を挿入した後にレーザー溶接によって金属フレーム56に溶接される。金属フレーム56は、突出タブ58を定める。
【0034】
その後、組み立てられたポーチ51は、十分高い温度にまで空気中で加熱されて、表面全体にCrMnスピネル酸化物を形成する。CrMnスピネル酸化物は、イオン拡散に対する障壁として機能する。その後、穿孔孔14を有する金属シート53の部分は、セラミック材料のための前駆体の粒子を含むスラリーでこのような部分を覆い、乾燥及び焼結することによって多孔質セラミックの副層60で外側がコーティングされる。次いで、フレーム56とタブ58の先端を除く全てとを含むポーチ51全体が、適切なスラリーに浸漬され、引き抜かれ、乾燥及び焼結されて、非多孔質のナトリウムイオン伝導セラミック層62でコーティングされるようになる。この非多孔質のセラミック層62は、例えば、10μmの厚さとすることができ、これは、非透過性で、上述の非透過性セラミック層16bに対応する。
【0035】
ポーチ51は、ニッケル、又はCrMnスピネル酸化物層を形成する鋼のものとすることができる缶64に中央に位置付けられる。粉末混合物66は、ポーチ51の周りの缶64を充填する。上記の粉末混合物24と同様に、粉末混合物66は、ニッケル粉末、塩化ナトリウム、並びにクロロアルミン酸ナトリウム(NaAlCl4)を含み、好ましくはまた、少ない割合の硫化鉄及び塩化鉄、並びに、アルミニウム粉末を含む。粉末混合物66は、成分材料の偏析を抑制するために、缶64に導入される前に混合されて粒状化することができる。次いで、突出タブ58は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの高温熱可塑性ポリマーを使用して缶64の隣接する部分にシールされ、よってシール68が存在する。その後、上述のように高温耐熱室温加硫シリコーンの更なる外部シール34が存在することができる。
【0036】
次いで、セル50は、必要な作動温度まで加熱されて、セル20と実質的には同じ方法で充電され、溶融ナトリウム金属がポーチ51内に形成され、塩化ニッケルがポーチ51を取り囲む缶64内に形成されるようになる。第1の充電ステップの間、ポーチ51を有するあらゆる酸素がナトリウム金属と反応せず、それ以後は酸素が存在しないようになる。後続の放電及び充電は、上述のセル20と同様の方法で行われる。
【0037】
多孔質のセラミック副層60内で充電中に形成された溶融ナトリウムは、多孔質のセラミック副層60を通ってウィッキングされて、穿孔14を通って表面に出てくる。ポーチ51の金属シート53の表面上にCrMnスピネル酸化物スケールが存在することで、溶融ナトリウムとの良好な界面が与えられ、充電中に溶融ナトリウムがポーチ51にウィッキングされるのを助けることが明らかになった。従って、これによってカーボンブラックの供給の必要性が回避することができる。更に、金属シート53の表面上のCrMnスケールの電気伝導率は、溶融ナトリウムと金属シート53との間、及び結果としてフレーム56及びタブ58に対する電気伝導性を提供するのに十分である。結果的に、セル50は、セル20内に提供されるような拡張メッシュニッケルシート25の提供を必要としない。
【0038】
セル50は、端子の極性のみが異なって、セル20と実質的に同じ方法で作動し、複数のセル50は、バッテリー40と同等のバッテリーに組み立てることができる。
【0039】
電解質要素52などの電解質要素が、多孔質セラミック副層60を含む場合、これは、非多孔質のナトリウムイオン伝導セラミック層62を形成するのに使用されるのと同じセラミック材で作ることができる。通常、多孔質の副層60を生成するのに使用されるスラリーは、非多孔質のセラミック層62を生成するのに使用されるスラリーよりも大きい粒子を含むことになる。加えて、非多孔質のセラミック層62を生成するのに使用されるスラリーはまた、ガラス形成材料の粒子を含むことができる。或いは、多孔質のセラミック副層60は、非多孔質のナトリウムイオン伝導性セラミック層62の材料とは異なるセラミック材料のものとすることができ、実際に、多孔質のセラミック副層60は、ナトリウムイオン伝導体ではないセラミック材料のものとすることができる。非多孔質セラミック層62は、非透過性である必要があり、そのため孔を有していないことができ、又は閉じた非接続孔を有することができ、そのため、好ましくは5%未満の気孔率であり、95%を超える密度である。
【0040】
図1及び
図2の電解質要素10で使用される、更なる代替の金属シート11では、
図1に関して説明されたものとは異なる金属のものとすることができ、詳細には、CrMnスピネル酸化物を形成する鋼のものとすることができる。別の代替の金属シート11は、金属シート53のような皿状にされ、このような広いフレーム22を必要とすることなくポーチ21内の空間を増加させることができる。
【0041】
また、セル50に関しては、カソード区画をアノード区画内に配置することも実現可能であり、その逆ではないことは理解されるであろう。
【符号の説明】
【0042】
10 電解質要素
15 縁部
16 非透過性コーティング層
20 充電式溶融ナトリウム/塩化ニッケルセル
21 ポーチ
22 金属フレーム
23 電気絶縁コーティング
24 粉末混合物
25 拡張メッシュニッケルシート
26 突出タブ
28 ステンレス鋼缶
30 炭素フェルト
32 シール
34 外部シール