(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】極限環境における電子用途のための高信頼性鉛フリーはんだ合金
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20230828BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20230828BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
C22C13/00
C22C13/02
(21)【出願番号】P 2020544349
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(86)【国際出願番号】 US2018058477
(87)【国際公開番号】W WO2019094243
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-10-27
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598085065
【氏名又は名称】アルファ・アセンブリー・ソリューションズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALPHA ASSEMBLY SOLUTIONS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】ハズニン、ムハンマド
(72)【発明者】
【氏名】コー、リクウェイ
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-167714(JP,A)
【文献】特表2016-500578(JP,A)
【文献】特開2005-319470(JP,A)
【文献】特開2001-058287(JP,A)
【文献】特開2002-246742(JP,A)
【文献】特開2005-153007(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0100474(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102091882(CN,A)
【文献】特開2016-120524(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0066089(US,A1)
【文献】特開2015-077601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0263234(US,A1)
【文献】国際公開第2018/067426(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/26
C22C 13/00
C22C 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛フリーはんだ合金であって、
3.1~3.8重量%の銀と、
0.5~0.8重量%の銅と、
1.5~3.2重量%のビスマスと、
0.05~1.0重量%のコバルトと、
1.0~3.0重量%のアンチモンと、
0.005~0.02重量%のチタンと、
残部のスズ
と、任意の不可避不純物と
から成る、鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
0.01~0.1重量%のニッケルを更に含む、請求項
1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
0.05重量%のニッケルを含む、請求項
2に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項4】
3.8重量%の銀を含む、請求項
1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項5】
0.8重量%の銅を含む、請求項
1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項6】
1.5重量%のビスマスを含む、請求項
1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項7】
3.0重量%のビスマスを含む、請求項
1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項8】
0.05重量%のコバルトを含む、請求項
1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項9】
1.0重量%のアンチモンを含む、請求項
1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項10】
1.5重量%のアンチモンを含む、請求項
1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項11】
0.008重量%のチタンを含む、請求項
1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2017年11月9日出願の「HIGH RELIABILITY LEAD-FREE SOLDER ALLOY FOR ELECTRONIC APPLICATIONS IN EXTREME ENVIRONMENTS」と題された米国特許仮出願第62/583,939号、及び2018年6月28日出願の「HIGH RELIABILITY LEAD-FREE SOLDER ALLOY FOR ELECTRONIC APPLICATIONS IN EXTREME ENVIRONMENTS」と題された米国特許出願第16/022,345号に対する利益を主張する。米国特許仮出願第62/583,939号及び米国特許出願第16/022,345号の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、概して、電子用途の鉛フリーはんだ合金に関する。
【背景技術】
【0003】
はんだ合金は、様々な電子デバイスの製造及び組み立てに広く使用されている。従来、はんだ合金は、スズ-鉛系合金であった。スズ-鉛系合金は、好適な融点及びペースト状範囲、濡れ特性、延性、及び熱伝導率を含む、所望の材料特性を有するはんだを調製するために使用された。しかしながら、鉛は、広範囲の悪影響を引き起こし得る、毒性の高い環境に有害な物質である。結果として、研究は、所望の材料特性を有する鉛フリーはんだ合金を製造することに焦点を当ててきた。
【0004】
本開示は、特定の先行技術の合金と比較して、より低い過冷却温度、改善された熱機械的信頼性、及び極端な高温と低温の天候における耐高温クリープ性を提供する高信頼性鉛フリーはんだ合金に関する。
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様によると、鉛フリー合金は、3.1~3.8重量%の銀と、0.5~0.8重量%の銅と、0.0~3.2重量%のビスマスと、0.03~1.0重量%のコバルトと、0.005~0.02重量%のチタンと、残部のスズと、を任意の不可避不純物と共に含む。任意選択的に、合金は、0.01~0.1重量%のニッケルを更に含んでもよい。
【0006】
本開示の別の態様によると、鉛フリー合金は、3.8重量%の銀と、0.7重量%の銅と、1.5重量%のビスマスと、0.05重量%のコバルトと、0.008重量%のチタンと、残部のスズと、を任意の不可避不純物と共に含む。任意選択的に、合金は、0.05重量%のニッケルを更に含んでもよい。
【0007】
本開示の別の態様によると、鉛フリー合金は、3.1~3.8重量%の銀と、0.5~0.8重量%の銅と、0.0~3.2重量%のビスマスと、0.05~1.0重量%のコバルトと、1.0~3.0重量%のアンチモンと、0.005~0.02重量%のチタンと、残部のスズと、を任意の不可避不純物と共に含む。任意選択的に、合金は、0.01~0.1重量%のニッケルを更に含んでもよい。
【0008】
本開示の別の態様によると、鉛フリー合金は、3.8重量%の銀と、0.8重量%の銅と、1.5重量%のビスマスと、0.05重量%のコバルトと、1.0重量%のアンチモンと、0.008重量%のチタンと、残部のスズと、を任意の不可避不純物と共に含む。任意選択的に、合金は、0.05重量%のニッケルを更に含んでもよい。
【0009】
前述の一般的な説明及び以下の「発明を実施するための形態」は両方とも、様々な実施形態を記載し、本特許請求対象の性質及び特徴を理解するための概要又はフレームワークを提供することを意図していることを理解されたい。添付図面は、様々な実施形態の更なる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。図面は、本明細書に記載される様々な実施形態を示し、本説明と共に、本特許請求対象の原理及び動作を明白にする役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0010】
特許又は出願ファイルは、カラーで製作された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(単数又は複数)を有する本特許又は特許出願公開のコピーは、要求があり、必要な手数料の納付があったときに特許庁から提供される。
【0011】
以下は、添付図面に示される実施例の説明である。図面は必ずしも縮尺どおりではなく、図面の特定の特徴及び特定の図は、明確又は簡潔にするために、誇張した縮尺で示されているか、又は概略的に示されている場合がある。
【0012】
【
図1A】鋳放し状態にある先行技術のSAC305のSEM顕微鏡写真である。
【0013】
【
図1B】125℃で24時間時効処理された、先行技術のSAC305合金のSEM顕微鏡写真である。
【0014】
【
図2A】鋳放し状態にある、本開示による合金のSEM顕微鏡写真である。
【0015】
【
図2B】125℃で24時間時効処理された、本開示による合金のSEM顕微鏡写真である。
【0016】
【
図3】先行技術のSAC305合金の示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry、DSC)チャートである。
【0017】
【
図4】本開示による合金の示差走査熱量測定(DSC)チャートである。
【0018】
【
図5】本開示による合金の示差走査熱量測定(DSC)チャートである。
【0019】
【
図6】本開示による合金の示差走査熱量測定(DSC)チャートである。
【0020】
【
図7】本開示による合金の示差走査熱量測定(DSC)チャートである。
【0021】
【
図8】本開示による合金の示差走査熱量測定(DSC)チャートである。
【0022】
【
図9A】本開示による2つの合金と先行技術のSAC305合金との濡れ時間の比較を示す棒グラフである。
【0023】
【
図9B】本開示による2つの合金と先行技術のSAC305合金との最大濡れ力の比較を示す棒グラフである。
【0024】
【
図10A】本開示による合金と先行技術のSAC305合金との広がり率の比較を示す棒グラフである。
【0025】
【
図10B】本開示による合金と先行技術のSAC305合金との広がり性の比較を示す棒グラフである。
【0026】
【
図11A】3つの異なる基板に対する本開示による合金の広がり率を示す棒グラフである。
【0027】
【
図11B】3つの異なる基板に対する本開示による合金の広がり性を示す棒グラフである。
【0028】
【
図12A】260℃での、本開示による合金と先行技術のSAC305合金との銅線溶解速度の比較を示す線グラフである。
【0029】
【
図12B】280℃での、本開示による合金と先行技術のSAC305合金との銅線溶解速度の比較を示す線グラフである。
【0030】
【
図13A】260℃での、本開示による合金と先行技術のSAC305合金との銅線溶解速度を比較する、一連の比較光学顕微鏡写真を示す。
【0031】
【
図13B】280℃での、本開示による合金と先行技術のSAC305合金との銅線溶解速度を比較する、一連の比較光学顕微鏡写真を示す。
【0032】
【
図14A】本開示による合金と先行技術のSAC305合金との硬度の比較を示す棒グラフである。
【0033】
【
図14B】本開示による合金と先行技術のSAC305合金との硬度の比較を示す棒グラフであり、両合金とも、150℃にて等温で時効処理されている。
【0034】
【
図15】本開示による合金及び先行技術のSAC305合金の応力-ひずみ曲線を示す線グラフである。
【0035】
【
図16】本開示による合金と先行技術のSAC305合金との極限引張強度の比較を示す棒グラフである。
【0036】
【
図17】鋳放し及び150℃で144時間の時効後の両方の、本開示による合金及び先行技術のSAC305合金に関する時間の関数としてのクリープひずみを示した線グラフである。
【0037】
【
図18A】150℃で240時間、720時間、及び1440時間の時効後の、本開示による合金とその下層の銅基板との境界面の一連の顕微鏡写真を示す。
【0038】
【
図18B】150℃で240時間、720時間、及び1440時間の時効後の、先行技術のSAC305合金とその下層の銅基板との境界面の一連の顕微鏡写真を示す。
【0039】
【
図19】本開示による合金及び先行技術のSAC305合金に関する、150℃での時効時間に応じた合計IMC厚さを示した線グラフである。
【0040】
【
図20】本開示による合金及び先行技術のSAC305合金に関する、150℃での時効時間に応じたCu
3Sn IMC厚さを示した線グラフである。
【0041】
前述の「発明の概要」、並びに以下の「発明を実施するための形態」は、図面と併せて読むと、より良く理解されるであろう。「特許請求の範囲」は、図面に示される配置及び手段に限定されないことを理解されたい。更に、図に示される外観は、装置の記載された機能を得るために採用され得る多くの装飾的外観のうちの1つである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下の「発明を実施するための形態」には、本開示の実施形態の完全な理解を提供するために、具体的な詳細が記載される場合がある。しかしながら、開示された実施例が、これらの具体的な詳細の一部又は全てを伴わずに実施され得ることが当業者には明らかであろう。簡潔にするために、周知の特徴又はプロセスについては詳細に記載しない場合がある。加えて、共通又は類似の要素を識別するために、同様の又は同一の参照番号が使用される場合がある。
【0043】
様々な電子機器用途、特に極限環境に好適な新規な鉛フリーはんだ合金組成物が以下に記載される。これらのはんだ合金組成物は、様々な形態で使用され得る。例えば、はんだ合金組成物は、バー、ワイヤ、はんだ粉末、はんだペースト、又は別の所定のプリフォームの形態で使用され得る。これらのはんだ合金組成物は、スズ系、具体的にはスズ-銀-銅(「SAC」と呼ばれることもある)系である。
【0044】
モノのインターネット(Internet of Thing、IoT)の始まりとともに、電子デバイスはますます困難な動作環境でアプリケーションを見出だし、より高い電力密度につなげている。その結果、電子組立業界では、より高い温度で動作することができるはんだが急務となっている。自動車、列車、航空宇宙、石油掘削、ダウンホールガス探査、及び発電所などのパワーエレクトロニクスアプリケーションの動作温度は、多くの場合100℃~200℃の間で変動する。長時間高温に曝されたはんだ接合部は、機械的強度と構造的完全性を失うことがよくある。
【0045】
少量のコバルトをスズ-銀-銅はんだに添加することで、過冷却温度を著しく低減し、大きなAg3Sn小板の形成を低減する(その形成は、そうでなければ、劣った機械的性能をもたらす可能性がある)。更に、コバルト及びチタンの相乗効果により、微細で均一で安定した微細構造が得られる。このような微細構造は、はんだ接合の疲労寿命を大幅に向上させる可能性がある。スズ-銀-銅合金への添加剤として、ビスマスとアンチモンの両方がスズマトリックスに溶解し、固溶体強化剤とし、これにより、特に過酷な環境でのはんだの機械的特性及び熱機械的信頼性が向上する。
【0046】
表1~5に示される組成物は、特定の先行技術の合金よりも優れた望ましい特性を呈することが見出されている。例えば、表1~5に記載されている鉛フリーはんだ組成物は、特定の先行技術の合金と比較して、過冷却温度が低く、適度な濡れと広がりの性能、向上した熱機械的信頼性、及び極端な高温と低温の天候における耐高温クリープ性を提供する。
【0047】
表1は、スズ、銀、銅、ビスマス、コバルト、及びチタンを含む本開示によるいくつかの組成物を提供する。必要に応じて、これらの組成物は更にニッケルを含み得る。
【0048】
【0049】
表2は、特定の実施例として示される、本開示によるいくつかの組成物を提供する。
【0050】
【0051】
表3は、スズ、銀、銅、ビスマス、コバルト、チタン、及びアンチモンを含む、本開示によるいくつかの組成物を提供する。必要に応じて、これらの組成物は更にニッケルを含み得る。
【0052】
【0053】
表4は、特定の実施例として示される、本開示によるいくつかの組成物を提供する。
【0054】
【0055】
表5は、特定の実施例として示される、本開示によるいくつかの組成物を提供する。
【0056】
【0057】
スズ-銀-銅(Sn-Ag-Cu)系へのビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、コバルト(Co)及び/又はニチタン(Ti)の制御された添加を使用して、合金の結晶粒構造を精密化し、合金の機械的強度を高める。より具体的には、コバルトを合金に添加して、結晶粒構造を精密化し、過冷却温度を低下させることができる。更に、コバルト及びチタンの相乗効果により、微細で均一で安定した微細構造につながる。このような微細構造は、はんだ接合の疲労寿命を大幅に向上させる可能性がある。スズ-銀-銅系への添加物として、ビスマス及びアンチモンは両方とも、スズに溶解し、合金に添加されて、固溶体強化を提供し、したがって合金の機械的特性及び任意の結果として生じるはんだ接合の熱サイクル信頼性を、特に過酷な環境で改善することができる。また、ビスマスは、合金の固相線温度を低下させ、その表面張力を低下させ、それにより、濡れ性を改善する。アンチモンは、合金の機械的強度を高める。任意選択的に、ニッケルを添加して、合金の機械的特性を更に向上させてもよい。加えて、ゲルマニウム又はリンなどの元素を添加して、合金の耐酸化性を改善させてもよい。本出願において主張される特定の組成範囲で達成される上述の機構間の適切な相乗効果は、合金の機械的特性と、結果として生じる任意のはんだ接合部の、特に過酷環境での耐熱サイクル性と、を最適化する。
【0058】
開示された組成範囲は、特定の先行技術の合金よりも優れた熱疲労及び耐クリープ性を示すことが見出された。本明細書に記載の高信頼鉛フリーはんだ組成物は、過冷却温度の大幅な低減、適度な濡れと広がりの性能、向上した熱機械的信頼性、及び極端な高温と低温の天候における耐高温クリープ性を提供する。開示されたはんだ組成物は、大幅に低減された過冷却温度、及び向上した熱機械的信頼性及び耐クリープ性を示すことが見出された。大きなAg3Sn血小板の形成が防止される。開示されたはんだ組成物は、自動車、列車、航空宇宙、石油掘削、ダウンホールガス探査、及び発電所における用途を含むがこれらに限定されない、高温又は過酷な環境における電子機器用途に適している。
【0059】
図1A及び
図1Bは、96.5重量%のスズ、3.0%の銀及び0.5重量%の銅を含む先行技術の合金(「SAC305」)の表面の領域の走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope、「SEM」)による顕微鏡写真を示す。
図2A及び
図2Bは、表4に示す実施例4.5の組成物による合金の表面の領域のSEM顕微鏡写真を示す。
図1A及び
図2Aは、鋳放しの合金を示し、一方、
図1B及び
図2Bは、125℃の温度で24時間の時効後の合金を示す。SEM顕微鏡写真から分かるように、高温での時効中のSAC305(
図1A及び
図1Bに示される)の結晶粒構造は粗大である。対照的に、実施例4.5の合金は、125℃での時効中に、そのより微細でより均一な結晶粒構造を維持する(
図2Aと
図2Bとの比較)。微細構造はAg
3Sn及びCu
6Sn
5沈殿物を含有し、ビスマス及びアンチモンは各々、スズマトリックス中に溶解し、固溶体強化をもたらす。コバルト及びチタンは、微量合金元素として作用して、微細構造を微細化する。微細化されたAg
3Sn及びCu
6Sn
5沈殿物及び固溶体の強化は、高温での、特に過酷な環境における、時効中に微細構造を安定化させる。
【0060】
【0061】
図3~8に示されるように、はんだ合金の溶融特性を、示差走査熱量測定(「DSC」)によって決定した。はんだ合金の過冷却(すなわち、加熱開始温度と冷却開始温度との温度差)を測定した。過冷却は、結晶の沈殿が自発性ではないが、活性化エネルギーを必要とするために生じる。
図3は、96.5重量%のスズ、3.0%の銀及び0.5重量%の銅を含む先行技術のSAC305合金のDSC曲線を示す。4、
図5、
図6、
図7及び
図8は、表4にそれぞれ示す実施例4.1、4.2、4.3、4.4、及び4.5の組成物による合金のDSC曲線を示す。加えて、DSC分析からのデータを表6に示す。
【0062】
スズ-銀-銅(Sn-Ag-Cu)はんだの高過冷却挙動は、溶融したスズはんだが固化するのが困難であることを示す。高過冷却は、液相から固相を核形成するのが困難であることに起因する。大きな過冷却は、スズデンドライト、共晶微細構造、主要な金属間化合物(Ag3Sn、Cu6Sn5)などの微細構造の特徴に影響を与え、はんだの機械的特性に影響を与える場合がある。このような過冷却は、はんだ接合部の信頼性に深刻な影響を与える場合があり、接合部が異なる時間に凝固するという不都合な状況を引き起こす可能性がある。これは、凝固した接合部に応力集中をもたらし、機械的故障を引き起こす可能性がある。例えば、SAC305合金の過冷却温度は、20℃である。本開示による合金は、実施例4.3合金について示されるように、より小さな過冷却、例えば4.5℃ほどの低さを示す。
【0063】
図3を
図4~
図8と比較することによって、及び表6を再検討することによって分かるように、いくつかの例示的な合金は、先行技術のSAC305合金と比較して、過冷却の顕著な低減を示す。例えば、先行技術のSAC305合金については、加熱開始(T
1)は217℃であり、冷却開始(T
2)は197℃であり、20℃の過冷却(ΔT)をもたらしている。実施例4.3の合金については、T
1は約217.5℃であり、T
2は、約213℃であり、約4.5℃の過冷却(ΔT)をもたらしている。
【0064】
図9A及び
図9Bは、先行技術のSAC305合金、実施例4.3の合金、及び実施例4.5の合金の間の濡れ時間(
図9A)及び最大濡れ力(
図9B)の比較を示す。濡れ実験を、IPC(Association Connecting Electronics Industries)標準のIPC-TM-650に従って行った。この標準は、合計濡れ時間及び最大濡れ力を決定することを伴う濡れ平衡試験を伴う。より短い濡れ時間は、より高い濡れ性に対応する。より短い濡れ時間及びより高い濡れ力は、より良好な濡れ性能を反映し、所与のはんだ付けプロセスの下での広がり及びフィレット形成と相関する。
図9A及び
図9Bは、実施例4.3及び4.5合金の濡れ性能が、先行技術のSAC305合金よりも良好である(又はそれに匹敵する最小値である)ことを示す。
【0065】
はんだの濡れ性能は、広がり率及び広がり性に関して表現され得る。広がり面積は、はんだ付けパッド基板上のはんだがどの程度であるかを示し、広がり率として示され得る。広がり試験を、IPC(IPC J-STD-004B、TM2.4.46)及びJIS Z 3197標準に従って行った。広がり率及び広がり性を、裸銅(Cu)、水溶性プリフラックス(Organic Solderability Preservative、OSP)コーティングされた銅、及び無電解ニッケル置換金(Electroless Nickel Immersion Gold、ENIG)めっき銅の3つの異なる基板について調査した。はんだ合金(円形プリフォーム)を、フラックスを使用して試験対象基板上に溶融させた。濡れ面積は、試験前及び試験後の光学顕微鏡を使用して測定した。広がり率は、リフロー/溶融後の濡れ面積をリフロー/溶融前の濡れ面積で割ることによって計算される。はんだ高さを測定して広がり性(又は広がり係数)を計算した。広がり性は、以下の式を使用して計算した。式中、SR=広がり性、D=はんだの直径(球形であると想定される)、H=広がったはんだの高さ、V=はんだの体積(g/cm3)(試験したはんだの質量及び密度から推定):
【0066】
【0067】
図10Aは、2つの異なる温度(260℃及び300℃)での裸銅基板上での先行技術のSAC合金と比較した、実施例4.6の合金の広がり率の比較を示す。
図10Bは、2つの異なる温度(260℃及び300℃)における先行技術のSAC合金と比較した、実施例4.6の合金の広がり性の比較を示す。
【0068】
図11Aは、255℃における3つの異なる銅基板(OSP、裸銅、及びENIG)上での実施例4.6の合金の広がり率の比較を示す。
図11Bは、255℃での3つの異なる銅基板(OSP、裸銅、及びENIG)上での実施例4.6の合金の広がり性の比較を示す。
【0069】
図12A、
図12B、
図13A、及び
図13Bは、260℃(
図12A及び
図13A)及び280℃(
図12B及び
図13B)におけるSAC305合金と実施例4.3の合金(合金-M)との間の銅溶解速度の比較を示す。これらの図に見られるように、銅溶解速度は、SAC305合金と比較して、実施例4.3の合金ではかなり遅くなる。銅溶解試験は、洗浄し、脱脂し、酸溶液中で洗浄し、すすぎ洗いし、乾燥させた純銅線を用いて行った。試験は、260℃及び280℃の2つの温度で実施した。銅ワイヤを、5秒、10秒、及び20秒間、溶融はんだに曝露した。銅ワイヤの断面を、面積測定及び分析の実行を含め、光学顕微鏡法により分析した。
【0070】
図14Aは、先行技術のSAC305合金と比較した、実施例4.5の合金の硬度値を示す。棒グラフから分かるように、実施例4.5の合金の硬度は、先行技術のSAC305合金の硬度よりおよそ2倍である。
図14Bは、先行技術のSAC305合金と比較した、実施例4.6の合金の硬度値を示す。更に、実施例4.6の合金は、鋳放し、150℃で144時間の時効後、及び150℃で720時間の時効後の硬度試験の結果を示す
図14Bに示すように、先行技術のSAC305合金とは対照的に、その硬度を保つ。
【0071】
本開示による合金の熱膨張係数(coefficient of thermal expansion、CTE)も測定した。はんだとその下層の基板とのCTEの不一致は、繰り返し荷重中の疲労破壊をもたらし得る。CTEの不一致が増すと、剪断ひずみも大きくなり、構成要素の熱サイクル寿命を減少させる。CTEの不一致に起因して応力集中部位にひび割れが始まり、伝播する場合がある。はんだ接合部のひび割れは、はんだとその下層の基板とのCTEの差を低減することによって低減され得る。表7は、先行技術のSAC305合金と比較し、下層の例示的な基板のCTEを参照した、本開示による合金のCTEを示す。
【0072】
【0073】
先行技術のSAC305合金と比較した、本開示による例示的な合金(実施例4.6の合金)の引張応力-ひずみグラフを
図15に示す。鋳造はんだを機械加工し、サイズ100mm×6mm×3mmの矩形片に切断した。試料を、150℃で最大720時間、等温で時効処理した。引張試験を、10
-2秒
-1のひずみ速度で室温にて実施した。合金の極限引張強度及び降伏強度を表8に示す。実施例4.6の合金に示される引張強度の有意な改善は、ビスマスの添加及び固溶体強化の効果に起因し得る。実施例4.6の合金はまた、先行技術のSAC305合金よりも延性が高いことを示している。150℃での時効後の、実施例4.6の合金及び先行技術のSAC305合金の引張強度特性を
図16に示す。実施例4.6の合金及び先行技術のSAC305合金のいずれも、高温での時効後の極限引張強度の低下を示しているが、この低下は、引張強度の42%低下を呈する先行技術のSAC305合金に関してかなり顕著である。
【0074】
【0075】
クリープ変形は、高い相同温度が関連するため、マイクロ電子パッケージングのはんだ接合部の主要故障モードである。はんだは、パッケージ内のチップと他の層との異なる熱膨張係数(CTE)に起因する熱機械的応力を経験する。これらの応力は、長期間の使用で塑性変形を引き起こし得る。はんだ合金は、室温でもクリープ変形を受ける場合がある。現実の用途では、電子モジュールは、-40℃~+125℃の温度範囲で動作し得、この温度範囲は、0.48~0.87T
m(はんだの融解温度の割合)の範囲である。応力下のデバイスにとって、これは急速クリープ変形の範囲である。このように、鉛フリーはんだにおけるクリープ変形を完全に理解することは、電子パッケージング産業にとって重要な懸念事項である。鋳造はんだを機械加工し、サイズ120mm×6mm×3mmの矩形片に切断した。試料を、150℃で最大144時間、等温で時効処理した。クリープ試験を10MPaの応力レベルで室温にて実施した。
図17に示すように、実施例4.6の合金は、先行技術のSAC305合金と比較して優れたクリープ抵抗を示す。実施例の合金によって呈されるクリープ抵抗は、微細構造を精密化するための微細合金の添加、並びに固溶体及び沈殿硬化などの強化機構に起因し得る。
【0076】
はんだ付け操作中に、固体基板からの材料が溶解し、はんだと混合され、金属間化合物(IMC)が形成されることを可能にする。薄く、連続的で、かつ均一なIMC層は、良好な結合のために重要である傾向がある。IMCなしでは、接合において冶金相互作用が生じないため、はんだ/導体接合部は弱くなる傾向がある。しかしながら、厚いIMC層は脆性であり得るため、境界面の厚いIMC層は、はんだ接合部の信頼性を低下させ得る。露出時間及び温度に応じて、はんだとOSP基板との間に形成されたIMC層を検査した。はんだ合金をOSP基板上で溶融させ、フラックスを使用してElectrovert OmniExcel 7 Zone Reflowオーブン内でリフローした。次いで、はんだ合金試料を最大1440時間、150℃の高温に曝露した。IMC層を異なる時効期間で評価した。
【0077】
図18A及び
図18Bは、150℃で最大1440時間の時効後の、実施例4.6の合金とSAC305合金とのIMC層成長の比較を示す。これらの図に見られるように、実施例4.6の合金及びSAC305合金の両方がIMC層成長を呈している。しかしながら、SAC305合金は、カーケンダルボイドの存在によって示されるように、脆性の兆候を示している(例えば、720時間の時効後)。両合金とも、はんだと銅基板との境界にCu
6Sn
5層及びCu
3Sn層の形成を示している。
図19は、時効時間に応じた合計IMC厚さを示す。
図19に示すように、SAC305合金のIMC層は、実施例4.6の合金よりもはるかに厚い。微細構造を微細化するための微細合金の添加は、拡散を制限し、それにより、合計IMC成長も制限し得る。実施例4.6の合金のIMC厚さが小さいと、実施例4.6の合金が高温での長寿命用途に好適になる可能性が高い。
図20は、時効時間に応じた合計Cu
3Sn厚さを示す。両合金とも、Cu
6Sn
5とCu基板との境界面に、Cu
3Snの新しいIMC層が形成される。実施例4.6の合金では、微細合金の添加によって、Cu
3Snの成長が抑制され、カーケンダルボイドの形成が制限され得る。
【0078】
本明細書に記載される要素のいくつかは、任意選択的なものとして明示的に識別されているが、他の要素はこのように識別されていない。そのように識別されない場合であっても、いくつかの実施形態では、これらの他の要素のいくつかは、必須のものとして解釈されることを意図するものではなく、当業者には任意のものとして理解されるであろう。
【0079】
本開示は、特定の実装形態を参照して記載されているが、本方法及び/又はシステムの範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされてもよく、等価物が代用されてもよいことが当業者には理解されるであろう。加えて、その範囲から逸脱することなく、本開示の教示に特定の状況又は材料を適合させるために、多くの修正がなされてもよい。例えば、開示される実施例のシステム、ブロック、及び/又は他の構成要素は、組み合わされ、分割され、再配置され、かつ/ないしは他の方法で修正されてもよい。したがって、本開示は、開示される特定の実装形態に限定されない。代わりに、本開示は、文言上及び均等論上の両方において、添付の「特許請求の範囲」内の全ての実装形態を含む。
なお、上述のような本発明は、次の態様を包含していることを確認的に述べておく。
第1態様:鉛フリーはんだ合金であって、
3.1~3.8重量%の銀と、
0.5~0.8重量%の銅と、
0.0~3.2重量%のビスマスと、
0.03~1.0重量%のコバルトと、
0.005~0.02重量%のチタンと、
残部のスズとを、任意の不可避不純物と共に含む、鉛フリーはんだ合金。
第2態様:0.01~0.1重量%のニッケルを更に含む、第1態様の鉛フリーはんだ合金。
第3態様:0.05重量%のニッケルを含む、第2態様の鉛フリーはんだ合金。
第4態様:3.8重量%の銀を含む、第1態様の鉛フリーはんだ合金。
第5態様:0.7重量%の銅を含む、第1態様の鉛フリーはんだ合金。
第6態様:1.5~3.2重量%のビスマスを含む、第1態様の鉛フリーはんだ合金。
第7態様:1.5重量%のビスマスを含む、第6態様の鉛フリーはんだ合金。
第8態様:3.0重量%のビスマスを含む、第6態様の鉛フリーはんだ合金。
第9態様:0.03~0.05重量%のコバルトを含む、第1態様の鉛フリーはんだ合金。
第10態様:0.05重量%のコバルトを含む、第9態様の鉛フリーはんだ合金。
第11態様:0.008重量%のチタンを含む、第1態様の鉛フリーはんだ合金。
第12態様:鉛フリーはんだ合金であって、
3.1~3.8重量%の銀と、
0.5~0.8重量%の銅と、
0.0~3.2重量%のビスマスと、
0.05~1.0重量%のコバルトと、
1.0~3.0重量%のアンチモンと、
0.005~0.02重量%のチタンと、
残部のスズとを、任意の不可避不純物と共に含む、鉛フリーはんだ合金。
第13態様:0.01~0.1重量%のニッケルを更に含む、第12態様の鉛フリーはんだ合金。
第14態様:0.05重量%のニッケルを含む、第13態様の鉛フリーはんだ合金。
第15態様:3.8重量%の銀を含む、第12態様の鉛フリーはんだ合金。
第16態様:0.8重量%の銅を含む、第12態様の鉛フリーはんだ合金。
第17態様:1.5~3.2重量%のビスマスを含む、第12態様の鉛フリーはんだ合金。
第18態様:1.5重量%のビスマスを含む、第17態様の鉛フリーはんだ合金。
第19態様:3.0重量%のビスマスを含む、第17態様の鉛フリーはんだ合金。
第20態様:0.05重量%のコバルトを含む、第12態様の鉛フリーはんだ合金。
第21態様:1.0重量%のアンチモンを含む、第12態様の鉛フリーはんだ合金。
第22態様:1.5重量%のアンチモンを含む、第12態様の鉛フリーはんだ合金。
第23態様:0.008重量%のチタンを含む、第12態様の鉛フリーはんだ合金。