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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】ショベル
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20230828BHJP
【FI】
E02F9/22 Q
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020549375
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019037932
(87)【国際公開番号】W WO2020067326
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2018181988
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018188453
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 純一
(72)【発明者】
【氏名】本田 圭二
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-104290(JP,A)
【文献】特開平09-088126(JP,A)
【文献】特開2015-067994(JP,A)
【文献】特開2016-169572(JP,A)
【文献】特開2017-179929(JP,A)
【文献】特開2018-091131(JP,A)
【文献】特開平07-180192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体に取り付けられるブームと、前記ブームの先端に取り付けられるアームと、前記アームの先端に取り付けられるエンドアタッチメントと有するアタッチメントと
ョベルの機体の安定状態に合わせて、前記アーム又は前記エンドアタッチメントの動作を補正する制御装置と、を備え
前記制御装置は、ショベルの前記機体が不安定状態に陥るような所定の動作に合わせて、前記アームの動作を補正し、前記アームを閉じ方向に動作させる、
ショベル。
【請求項2】
前記機体の安定度が相対的に高い場合、前記アーム及び前記エンドアタッチメントに操作内容又は自動運転機能の動作指令に応じた動作を行わせ、前記安定度が相対的に低い場合、前記操作内容又は前記動作指令に対応する動作よりも前記安定度が回復する方向に、前記アーム又は前記エンドアタッチメントの動作を補正する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
ショベルの前記所定の動作に合わせて、前記下部走行体及び前記上部旋回体を含む前記機体に作用しうる動的なモーメントを抑制するように、前記アームを閉じ方向に動作させる、
請求項1又は2に記載のショベル。
【請求項4】
前記所定の動作は、前記アタッチメントが前記エンドアタッチメントとしてのバケットの収容物を排出させる動作、前記アタッチメントを進行方向に向けて前記下部走行体が走行している状態で、前記下部走行体が急減速する動作、及び前記アタッチメントを進行方向に向けて前記下部走行体が走行している状態で、前記機体の前傾量が相対的に大きく増加する動作の少なくとも一つを含む、
請求項3に記載のショベル。
【請求項5】
ショベルの前記所定の動作に応じた、前記下部走行体及び前記上部旋回体を含む前記機体に作用している静的なモーメントの変化を抑制するように、前記アームを閉じ方向に動作させる、
請求項1又は2に記載のショベル。
【請求項6】
前記所定の動作は、前記エンドアタッチメントが前記機体に対して相対的に離れている状態での前記ブームの下げ動作、前記アタッチメントが前記エンドアタッチメントとしてのバケットに対象物を収容し持ち上げる動作、前記アタッチメントの向きが前記下部走行体の進行方向から離れるように、前記上部旋回体が旋回する動作、及び前記アタッチメントを進行方向に向けて前記下部走行体が走行している状態での前記機体の前傾量が増加する動作の少なくとも一つを含む、
請求項5に記載のショベル。
【請求項7】
前記アームを駆動するアームシリンダと、
前記アームシリンダのロッド側油室の作動油の圧力を開放するリリーフ弁と、を備え、
ショベルの前記所定の動作に合わせて、前記リリーフ弁に前記アームシリンダのロッド側油室の圧力を開放させて、自重で前記アームを閉じ方向に動作させる、
請求項1又は2に記載のショベル。
【請求項8】
前記アームシリンダのロッド側油室と前記リリーフ弁との間の油路に設けられ、前記アームの閉じ方向の操作が行われていない場合に、前記アームシリンダのロッド側油室の作動油を保持する作動油保持回路を備え、
ショベルの前記所定の動作に合わせて、前記作動油保持回路による前記アームシリンダのロッド側油室の作動油の保持機能を解除することにより、前記リリーフ弁による前記アームシリンダの作動油の圧力の開放機能を有効にする、
請求項7に記載のショベル。
【請求項9】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体に取り付けられるブームと、前記ブームの先端に取り付けられるアームと、前記アームの先端に取り付けられるエンドアタッチメントと有するアタッチメントと、を備え、
ショベルの機体の安定状態に合わせて、前記アーム又は前記エンドアタッチメントの動作を補正するショベルであって、
前記下部走行体の後部が浮き上がる可能性がある、又は、前記下部走行体の後部の浮き上がりが発生した場合に、前記エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くする、
ショベル。
【請求項10】
前記エンドアタッチメントの重量が相対的に大きい場合、又は、前記エンドアタッチメントの位置が前記下部走行体から相対的に離れている場合に、前記エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くする、
請求項9に記載のショベル。
【請求項11】
前記アタッチメントが前記エンドアタッチメントとしてのバケット内の収容物の排出動作を行う場合に、前記バケットの開き動作を相対的に遅くする、
請求項9に記載のショベル。
【請求項12】
前記バケットの位置が前記下部走行体から相対的に離れており、且つ、前記アタッチメントが前記排出動作を行う場合に、前記バケットの開き動作を相対的に遅くする、
請求項11に記載のショベル。
【請求項13】
前記アタッチメントが前記排出動作を行う場合、前記下部走行体の後部が浮き上がる可能性が相対的に高くなったとき、又は、前記下部走行体の後部の浮き上がりが発生したときに、前記バケットの開き動作を相対的に遅くする、
請求項11に記載のショベル。
【請求項14】
前記エンドアタッチメントを駆動するエンドアタッチメントシリンダを備え、
前記エンドアタッチメントシリンダに作動油を供給する油圧ポンプに吐出流量を制限させる、前記油圧ポンプから前記エンドアタッチメントシリンダに供給される作動油の流量を制御する制御弁に前記エンドアタッチメントシリンダへの流量を制限させる、又は、前記制御弁と前記エンドアタッチメントシリンダとの間の油路に設けられる絞り弁に、前記エンドアタッチメントシリンダから排出される作動油の流量を絞らせることにより、前記エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くする、
請求項9に記載のショベル。
【請求項15】
前記エンドアタッチメントシリンダの移動速度及び移動加速度の少なくとも一方を所定の上限値以下に制限することにより、前記エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くする、
請求項14に記載のショベル。
【請求項16】
前記アタッチメントの状態を検出する所定のセンサを備え、
前記所定のセンサの検出情報に基づき、前記上限値を算出する、
請求項15に記載のショベル。
【請求項17】
前記所定のセンサの検出情報に基づき、前記下部走行体の後部を浮き上がらせる方向の転倒モーメント及び前記下部走行体の後部の浮き上がりを抑制する方向の抑制モーメントを算出すると共に、前記転倒モーメントが前記抑制モーメントを下回るように前記上限値を算出する、
請求項16に記載のショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、掘削作業時において、ショベルの機体に発生する、後部の浮き上がり等の所定の不安定現象を抑制する技術が知られている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2018/062210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アタッチメントが空中にあるとき(以下、「アタッチメントの空中動作時」)にも、ショベルの動作に応じて、ショベルの機体に後部の浮き上がり等の不安定現象が発生する可能性がある。
【0005】
そこで、上記課題に鑑み、アタッチメントの空中動作時に、ショベルの機体に発生しうる不安定現象を抑制可能なショベルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態では、
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、
前記旋回体に取り付けられるブームと、前記ブームの先端に取り付けられるアームと、前記アームの先端に取り付けられるエンドアタッチメントと有するアタッチメントと
ョベルの機体の安定状態に合わせて、前記アーム又は前記エンドアタッチメントの動作を補正する制御装置と、を備え
前記制御装置は、ショベルの前記機体が不安定状態に陥るような所定の動作に合わせて、前記アームの動作を補正し、前記アームを閉じ方向に動作させる、
ショベルが提供される。
また、本発明の他の実施形態では、
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体に取り付けられるブームと、前記ブームの先端に取り付けられるアームと、前記アームの先端に取り付けられるエンドアタッチメントと有するアタッチメントと、を備え、
ショベルの機体の安定状態に合わせて、前記アーム又は前記エンドアタッチメントの動作を補正するショベルであって、
前記下部走行体の後部が浮き上がる可能性がある、又は、前記下部走行体の後部の浮き上がりが発生した場合に、前記エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くする、
ショベルが提供される。
【発明の効果】
【0007】
上述の実施形態によれば、アタッチメントの空中動作時に、ショベルの動作に応じて、ショベルの機体に発生しうる不安定現象を抑制可能なショベルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ショベルの一例を示す側面図である。
図2】ショベルの構成の第1例を示すブロック図である。
図3】ショベルの構成の第2例を示すブロック図である。
図4】ショベルの構成の第3例を示すブロック図である。
図5】作動油保持回路及びリリーフ弁を含む油圧回路の一例の詳細を示す図である。
図6A】ショベルの後部浮き上がり現象の具体例を示す図である。
図6B】ショベルの後部浮き上がり現象の具体例を示す図である。
図7】ショベルの機体に作用する静的転倒モーメントを説明する図である。
図8】下部走行体に対する上部旋回体の向きを考慮した場合のショベルの安定範囲の具体例を示す上面図である。
図9A】作業面の傾斜を考慮した場合のアタッチメントの安定範囲の具体例を示す上面図である。
図9B】作業面の傾斜を考慮した場合のアタッチメントの安定範囲の具体例を示す上面図である。
図10】ショベルの他の例を示す側面図である。
図11】ショベルの構成の第4例を示すブロック図である。
図12】後部浮き上がり現象を抑制する安定化制御の制御手法の一例を説明する図である。
図13】ショベルの構成の第5例を示す図である。
図14】ショベルの構成の第6例を示す図である。
図15】ショベル管理システムの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
[ショベルの概要]
まず、図1を参照して、本実施形態に係るショベル100の概要について説明をする。
【0011】
図1は、本実施形態に係るショベル100の一例を示す側面図である。
【0012】
本実施形態に係るショベル100は、下部走行体1と、旋回機構2を介して旋回自在に下部走行体1に搭載される上部旋回体3と、アタッチメント(作業アタッチメントの一例)としてのブーム4、アーム5、及びバケット6と、オペレータが搭乗するキャビン10とを備える。以下、ショベル100の前方は、ショベル100を上部旋回体3の旋回軸に沿って真上から平面視(以下、単に「平面視」と称する)で見たときに、上部旋回体3に対して、アタッチメントが延出する方向(以下、単に「アタッチメントの延出方向」と称する)に対応する。また、ショベル100の左方及び右方は、それぞれ、ショベル100を平面視で見たときに、キャビン10内のオペレータの左方及び右方に対応する。
【0013】
下部走行体1は、例えば、左右一対のクローラを含み、それぞれのクローラが走行油圧モータ1L,1R(図2図4参照)で油圧駆動されることにより、ショベル100を走行させる。
【0014】
上部旋回体3は、旋回油圧モータ2A(図2図4参照)で駆動されることにより、下部走行体1に対して旋回する。
【0015】
ブーム4は、上部旋回体3の前部中央に俯仰可能に枢着され、ブーム4の先端には、アーム5が上下回動可能に枢着され、アーム5の先端には、バケット6が上下回動可能に枢着される。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、それぞれ、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。
【0016】
また、バケット6には、クレーン作業用のフック80が取り付けられる。フック80は、基端が、アーム5とバケット6との間を連結するバケットピン62に回動可能に連結される。これにより、フック80は、掘削作業等のクレーン作業以外の作業が行われる場合、2本のバケットリンク70の間に形成されるフック収納部50に収納される。
【0017】
また、バケット6は、エンドアタッチメントの一例であり、ショベル100には、バケット6とは異なる種類のエンドアタッチメント(例えば、破砕機、リフティングマグネット等、バケット6と用途の異なるエンドアタッチメントや、大型バケット等、バケット6と用途以外の仕様が異なるエンドアタッチメント)が取り付けられてもよい。つまり、ショベル100は、作業内容等に合わせて、適宜、エンドアタッチメントの種類を交換可能に構成されてよい。
【0018】
キャビン10は、オペレータが搭乗する操縦室であり、上部旋回体3の前部左側に搭載される。
【0019】
ショベル100は、キャビン10に搭乗するオペレータ(以下、便宜的に「搭乗オペレータ」)の操作に応じて、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の被駆動要素を動作させる。
【0020】
また、ショベル100は、所定の外部装置(例えば、後述の管理装置200)から受信される遠隔操作信号に応じて、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の動作要素(被駆動要素)を動作させてもよい。即ち、ショベル100は、遠隔操作されてもよい。ショベル100が遠隔操作される場合、キャビン10の内部は、無人状態であってよい。
【0021】
また、ショベル100は、キャビン10の搭乗オペレータの操作や外部装置のオペレータ(以下、便宜的に「遠隔オペレータ」)の遠隔操作の内容に依らず、自動で油圧アクチュエータを動作させてもよい。これにより、ショベル100は、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の被駆動要素の少なくとも一部を自動で動作させる機能(以下、「自動運転機能」)を実現する。以下、搭乗オペレータ及び遠隔オペレータを包括的にオペレータと称する場合がある。
【0022】
自動運転機能には、搭乗オペレータの操作や遠隔操作オペレータの遠隔操作に応じて、操作対象の被駆動要素(油圧アクチュエータ)以外の被駆動要素(油圧アクチュエータ)を自動で動作させる機能(いわゆる「半自動運機能」)が含まれてよい。また、自動運転機能には、搭乗オペレータの操作や遠隔オペレータの遠隔操作がない前提で、複数の被駆動要素(油圧アクチュエータ)の少なくとも一部を自動で動作させる機能(いわゆる「完全自動運転機能」)が含まれてよい。ショベル100において、完全自動運転機能が有効な場合、キャビン10の内部は無人状態であってよい。また、自動運転機能には、ショベル100の周囲の作業者等の人のジェスチャをショベル100が認識し、認識されるジェスチャの内容に応じて、複数の被駆動要素(油圧アクチュエータ)の少なくとも一部を自動で動作させる機能(「ジェスチャ操作機能」)が含まれてよい。また、半自動運転機能や完全自動運転機能やジェスチャ操作機能には、自動運転の対象の被駆動要素(油圧アクチュエータ)の動作内容が予め規定されるルールに従って自動的に決定される態様が含まれてよい。また、半自動運転機能や完全自動運転機能やジェスチャ操作機能には、ショベル100が自律的に各種の判断を行い、その判断結果に沿って、自律的に自動運転の対象の被駆動要素(油圧アクチュエータ)の動作内容が決定される態様(いわゆる「自律運転機能」)が含まれてもよい。
【0023】
[ショベルの一例]
次に、ショベル100の一例について説明する。
【0024】
<ショベルの構成>
図1に加えて、図2図5を参照して、ショベル100の具体的な構成について説明する。
【0025】
図2図4は、本実施形態に係るショベル100の構成の第1例~第3例を示すブロック図である。具体的には、図2図4は、相互に、後述するリリーフ弁V8Rに関連する油圧回路の構成が異なる。図5は、作動油保持回路90及びリリーフ弁V8Rを含む油圧回路の一例を示す図であり、具体的には、図4に示すショベル100の構成に対応する作動油保持回路90及びリリーフ弁V8Rを含む油圧回路の一例を示す図である。
【0026】
尚、図中において、機械的動力ラインは二重線、高圧油圧ラインは実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御ラインは点線でそれぞれ示される。
【0027】
本例に係るショベル100の油圧駆動系は、上述の如く、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6のそれぞれを油圧駆動する走行油圧モータ1L,1R、旋回油圧モータ2A、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9等の油圧アクチュエータを含む。また、本実施形態に係るショベル100の油圧駆動系は、エンジン11と、レギュレータ13と、メインポンプ14と、コントロールバルブ17とを含む。
【0028】
エンジン11は、油圧駆動系におけるメイン動力源であり、例えば、上部旋回体3の後部に搭載される。具体的には、エンジン11は、後述するコントローラ30による直接或いは間接的な制御の下、予め設定される目標回転数で一定回転し、メインポンプ14及びパイロットポンプ15を駆動する。エンジン11は、例えば、軽油を燃料とするディーゼルエンジンである。
【0029】
レギュレータ13は、メインポンプ14の吐出量を制御する。例えば、レギュレータ13は、コントローラ30からの制御指令に応じて、メインポンプ14の斜板の角度(以下、「傾転角」)を調節する。
【0030】
メインポンプ14は、例えば、エンジン11と同様、上部旋回体3の後部に搭載され、高圧油圧ラインを通じてコントロールバルブ17に作動油を供給する。メインポンプ14は、上述の如く、エンジン11により駆動される。メインポンプ14は、例えば、可変容量式油圧ポンプであり、上述の如く、コントローラ30による制御の下、レギュレータ13により斜板の傾転角が調節されることでピストンのストローク長が調整され、吐出流量(吐出圧)が制御されうる。
【0031】
コントロールバルブ17は、例えば、上部旋回体3の中央部に搭載され、搭乗オペレータによる操作装置26の操作や遠隔オペレータによる遠隔操作に応じて、油圧アクチュエータの制御を行う油圧制御装置である。コントロールバルブ17は、上述の如く、高圧油圧ラインを介してメインポンプ14と接続され、メインポンプ14から供給される作動油を、オペレータの操作内容に応じて、油圧アクチュエータ(走行油圧モータ1L,1R、旋回油圧モータ2A、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9)に選択的に供給する。具体的には、コントロールバルブ17は、メインポンプ14から油圧アクチュエータのそれぞれに供給される作動油の流量と流れる方向を制御する複数の制御弁(例えば、アームシリンダ8に対応する後述の制御弁17A等)を含む。
【0032】
本実施形態に係るショベル100の操作系は、パイロットポンプ15と、操作装置26とを含む。
【0033】
パイロットポンプ15は、例えば、上部旋回体3の後部に搭載され、パイロットライン25を介して操作装置26に作動油(パイロット圧)を供給する。パイロットポンプ15は、例えば、固定容量式油圧ポンプであり、上述の如く、エンジン11により駆動される。
【0034】
操作装置26は、キャビン10の操縦席付近に設けられ、オペレータが各種動作要素(下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、バケット6等)の操作を行うための操作入力手段である。換言すれば、操作装置26は、それぞれの動作要素を駆動する油圧アクチュエータ(即ち、走行油圧モータ1L,1R、旋回油圧モータ2A、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9等)の操作をオペレータが行うための操作入力手段である。
【0035】
図2図4に示すように、操作装置26は、例えば、パイロットライン25を通じてパイロットポンプ15から供給される作動油を利用する油圧パイロット式である。操作装置26は、メインポンプ14から供給される作動油を利用して、その操作内容に応じたパイロット圧をその二次側のパイロットライン27に出力する。操作装置26は、その二次側のパイロットライン27を通じてコントロールバルブ17に接続される。これにより、コントロールバルブ17には、操作装置26における下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の操作状態に応じたパイロット圧が入力される。そのため、コントロールバルブ17は、操作装置26における操作状態に応じた、それぞれの油圧アクチュエータの動作を実現することができる。
【0036】
また、操作装置26は、例えば、操作内容に応じた電気信号(以下、「操作信号」)を出力する電気式であってもよい。操作装置26から出力される操作信号は、例えば、コントローラ30に取り込まれる。コントローラ30は、受信される操作信号に応じて、操作装置26の操作内容に応じた制御指令を、パイロットポンプ15とコントロールバルブ17のパイロットポートとの間を結ぶパイロットラインに介設される油圧制御弁(以下、「操作用制御弁」)に出力する。これにより、操作用制御弁から操作装置26の操作内容に応じたパイロット圧がコントロールバルブ17に供給される。そのため、コントロールバルブ17は、搭乗オペレータ等の操作装置26に対する操作内容に応じた、それぞれの油圧アクチュエータの動作を実現することができる。
【0037】
尚、ショベル100が遠隔操作される場合についても、操作用制御弁が利用されてよい。例えば、コントローラ30は、外部装置から受信される遠隔操作信号に応じて、遠隔操作の内容に応じた制御指令を操作用制御弁に出力する。これにより、操作用制御弁から遠隔操作の内容に応じたパイロット圧がコントロールバルブ17に供給される。そのため、コントロールバルブ17は、遠隔オペレータによる遠隔操作の内容に応じた、それぞれの油圧アクチュエータの動作を実現することができる。また、ショベル100が自動運転機能を有する場合についても、操作用制御弁が利用されてよい。例えば、コントローラ30は、オペレータの操作に依らず、自動運転機能による油圧アクチュエータの動作に対応する制御指令を出力する。これにより、操作用制御弁から自動運転機能による油圧アクチュエータの動作に応じたパイロット圧がコントロールバルブ17に供給される。そのため、コントロールバルブ17は、自動運転機能に対応するそれぞれの油圧アクチュエータの動作を実現することができる。
【0038】
操作装置26は、例えば、ブーム4(ブームシリンダ7)、アーム5(アームシリンダ8)、バケット6(バケットシリンダ9)、及び上部旋回体3(旋回油圧モータ2A)のそれぞれを操作するレバー装置を含む。また、操作装置26は、例えば、左右の下部走行体1(走行油圧モータ1L,1R)のそれぞれを操作するペダル装置或いはレバー装置を含む。
【0039】
本実施形態に係るショベル100の制御系は、コントローラ30と、操作圧センサ29と、表示装置40と、入力装置42と、音出力装置44と、フック収納状態検出装置51と、ブーム姿勢センサS1と、アーム姿勢センサS2と、バケット姿勢センサS3と、機体姿勢センサS4と、ブームボトム圧センサS7Bと、ブームロッド圧センサS7Rと、アームボトム圧センサS8Bと、アームロッド圧センサS8Rと、バケットボトム圧センサS9Bと、バケットロッド圧センサS9Rと、リリーフ弁V8Rとを含む。
【0040】
コントローラ30は、ショベル100の駆動制御を行う。コントローラ30は、その機能が任意のハードウェア、或いは、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせ等により実現されてよい。例えば、コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ装置、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性の補助記憶装置、及び各種入出力用のインタフェース装置等を含むコンピュータを中心に構成される。コントローラ30は、例えば、補助記憶装置等にインストールされる一以上のプログラムをCPU上で実行することにより実現される機能部として、動的不安定状態判定部301と、静的不安定状態判定部302と、安定化制御部303を含む。
【0041】
尚、コントローラ30の機能の一部は、他のコントローラ(制御装置)により実現されてもよい。即ち、コントローラ30の機能は、複数のコントローラにより分散される態様で実現されてもよい。
【0042】
操作圧センサ29は、上述の如く、操作装置26の二次側(パイロットライン27)のパイロット圧、即ち、操作装置26におけるそれぞれの動作要素(油圧アクチュエータ)の操作状態に対応するパイロット圧を検出する。操作圧センサ29による操作装置26における下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の操作状態に対応するパイロット圧の検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0043】
表示装置40は、キャビン10内のオペレータから視認し易い位置に配置され、コントローラ30による制御下で、各種情報画像を表示する。表示装置40は、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)ディスプレイ等である。
【0044】
入力装置42は、キャビン10内の着座したオペレータから手が届く範囲に設けられ、オペレータによる各種操作入力を受け付け、操作入力に応じた信号をコントローラ30に出力する。入力装置42は、例えば、各種情報画像を表示する表示装置のディスプレイに実装されるタッチパネル、操作装置26に含まれるレバー装置のレバー部の先端に設けられるノブスイッチ、表示装置40の周囲に設置されるボタンスイッチ、レバー、トグル、ダイヤル、表示装置40に実装されるタッチパネル、表示装置40と別体のタッチパッド等を含みうる。
【0045】
例えば、入力装置42は、掘削作業等を行うための通常モードとフック80を用いてクレーン作業を行うためのクレーンモードとの間でショベル100の動作モードをオペレータ等が切り替えるための操作入力を受け付けるクレーンモードスイッチを含んでよい。このとき、通常モードは、操作装置26を通じたオペレータの操作に対するアタッチメント(例えば、ブーム4)の動作速度が相対的に速いショベル100の動作モードであり、クレーンモードは、操作装置26を通じたオペレータの操作に対するアタッチメントの動作速度が相対的に遅いショベル100の動作モードである。これにより、クレーン作業時において、例えば、オペレータによる操作に対するブーム4の動作が比較的緩慢になるため、ショベル100は、吊荷を安定して吊り上げたり、移動させたりすることができる。コントローラ30は、クレーンモードスイッチがオン操作されると、ショベル100の動作モードを通常モードからクレーンモードに切り替え、クレーンモードスイッチがオフ操作されると、ショベル100の動作モードをクレーンモードから通常モードに切り替える。
【0046】
尚、コントローラ30は、クレーンモードにおいて、エンジン11の目標回転数を通常モードの場合よりも低く設定する。これにより、コントローラ30は、クレーンモードにおいて、アタッチメントの動作を通常モードよりも緩慢にすることができる。
【0047】
音出力装置44は、キャビン10内に設けられ、コントローラ30による制御下で、各種音声を出力する。音出力装置44は、例えば、スピーカやブザー等である。
【0048】
フック収納状態検出装置51は、フック80のアタッチメント(フック収納部50)への収納状態を検出する。フック収納状態検出装置51は、例えば、フック収納部50内にフック80が存在する場合、導通状態になり、フック収納部50内にフック80が存在しない場合に遮断状態となるスイッチである。フック収納状態検出装置51は、ケーブル35を通じてコントローラ30と接続され、コントローラ30は、フック収納状態検出装置51の導通/非導通によって、フック80がフック収納部50に収納されているか否かを判断できる。
【0049】
尚、コントローラ30は、フック収納状態検出装置51による検出情報に基づき、自動的に、クレーンモードと通常モードとの間でショベル100の動作モードを切り替えてもよい。この場合、クレーンモードスイッチは、省略されてもよい。例えば、コントローラ30は、フック収納状態検出装置51が導通状態から遮断状態に切替わることにより、フック80がフック収納部50から取り出されたと判断すると、ショベル100の動作モードを通常モードからクレーンモードに切り替えてよい。また、コントローラ30は、フック収納状態検出装置51が遮断状態から導通状態に切替わることにより、フック80がフック収納部50に戻されたと判断すると、ショベル100の動作モードをクレーンモードから通常モードに切り替えてよい。
【0050】
ブーム姿勢センサS1は、ブーム4に取り付けられ、ブーム4の上部旋回体3に対する姿勢角度、具体的には、俯仰角度(以下、「ブーム角度」)を検出する。ブーム姿勢センサS1は、例えば、側面視において、上部旋回体3の旋回平面に対してブーム4の両端の支点を結ぶ直線が成す角度を検出する。ブーム姿勢センサS1は、例えば、ロータリエンコーダ、加速度センサ、角加速度センサ、6軸センサ、IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)等を含んでよく、以下、アーム姿勢センサS2、バケット姿勢センサS3、機体姿勢センサS4についても同様である。ブーム姿勢センサS1によるブーム角度θ1に対応する検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0051】
アーム姿勢センサS2は、アーム5に取り付けられ、アーム5のブーム4に対する姿勢角度、具体的には、回動角度(以下、「アーム角度」)、例えば、側面視において、ブーム4の両端の支点を結ぶ直線に対してアーム5の両端の支点を結ぶ直線が成す角度を検出する。アーム姿勢センサS2によるアーム角度θ2に対応する検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0052】
バケット姿勢センサS3は、バケット6に取り付けられ、バケット6のアーム5に対する姿勢角度、具体的には、回動角度(以下、「バケット角度」)、例えば、側面視において、アーム5の両端の支点を結ぶ直線に対してバケット6の支点と刃先とを結ぶ直線が成す角度を検出する。バケット姿勢センサS3によるバケット角度θ3に対応する検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0053】
機体姿勢センサS4は、機体、具体的には、上部旋回体3の姿勢状態を検出する。機体姿勢センサS4は、例えば、上部旋回体3に取り付けられ、上部旋回体3の前後方向及び左右方向の2軸回りの姿勢角度、つまり、傾斜角度(以下、「前後傾斜角」及び「左右傾斜角」)を検出する。また、機体姿勢センサS4は、上部旋回体3の上下方向の姿勢角度、つまり、旋回軸2X回りの旋回角度を検出する。機体姿勢センサS4による傾斜角度(前後傾斜角及び左右傾斜角)及び旋回角度に対応する検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0054】
ブームロッド圧センサS7R及びブームボトム圧センサS7Bは、それぞれ、ブームシリンダ7に取り付けられ、ブームシリンダ7のロッド側油室の圧力(以下、「ブームロッド圧」)及びボトム側油室の圧力(以下、「ブームボトム圧」)を検出する。ブームロッド圧センサS7R及びブームボトム圧センサS7Bによるブームロッド圧及びブームボトム圧に対応する検出信号は、それぞれ、コントローラ30に取り込まれる。
【0055】
アームロッド圧センサS8R及びアームボトム圧センサS8Bは、それぞれ、アームシリンダ8に取り付けられ、アームシリンダ8のロッド側油室の圧力(以下、「アームロッド圧」)、及びボトム側油室の圧力(以下、「アームボトム圧」)を検出する。アームロッド圧センサS8R及びアームボトム圧センサS8Bによるアームロッド圧及びアームボトム圧に対応する検出信号は、それぞれ、コントローラ30に取り込まれる。
【0056】
バケットロッド圧センサS9R及びバケットボトム圧センサS9Bは、それぞれ、バケットシリンダ9に取り付けられ、バケットシリンダ9のロッド側油室の圧力(以下、「バケットロッド圧」)及びボトム側油室の圧力(以下、「バケットボトム圧」)を検出する。バケットロッド圧センサS9R及びバケットボトム圧センサS9Bによるバケットロッド圧及びバケットボトム圧に対応する検出信号は、それぞれ、コントローラ30に取り込まれる。
【0057】
リリーフ弁V8Rは、コントローラ30からの制御指令に応じて、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油を作動油タンクTに排出し、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油の圧力を開放する。これにより、アームシリンダ8は、ロッドの先端で連結されているアーム5の自重によって、ロッド側、つまり、伸長側に移動し、結果として、アーム5は、閉じ方向に動作(回動)する。
【0058】
例えば、図2に示すように、リリーフ弁V8Rは、アームシリンダ8のロッド側油室とコントロールバルブ17との間の高圧油圧ラインに設けられてよい。また、例えば、図3に示すように、リリーフ弁V8Rは、アームシリンダ8のロッド側油室とコントロールバルブ17内のアームシリンダ8に対応する制御弁17Aとの間の高圧油圧ラインのうちのコントロールバルブ17に内蔵される部分に設けられてもよい。つまり、リリーフ弁V8Rは、コントロールバルブ17の内外問わず、アームシリンダ8に対応する制御弁17Aとアームシリンダ8のロッド側油室との間の高圧油圧ラインに設けられてよい。
【0059】
尚、リリーフ弁V8Rは、制御弁17Aに内蔵されてもよい。この場合、リリーフ弁V8Rは、制御弁17Aにおけるアームシリンダ8のロッド側油室と接続されるポートと連通する油路からコントロールバルブ17内のセンタバイパス油路(メインポンプ14の作動油を作動油タンクTまで循環させる油路)に作動油を排出させる態様であってよい。
【0060】
また、図4に示すように、アームシリンダ8のロッド側油室とコントロールバルブ17との間の高圧油圧ラインに作動油保持回路90が設けられる場合がありうる。作動油保持回路90は、操作装置26を通じてアーム5の閉じ方向の操作(以下、「アーム閉じ操作」)が行われていない場合に、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油(の油圧)を保持する。これにより、例えば、作動油保持回路90は、アームシリンダ8側を上流としたときの下流側で、作動油の漏れ等が発生した場合であっても、アーム5が閉じ方向に落下するような事態を防止できる。
【0061】
この場合、リリーフ弁V8Rは、アームシリンダ8のロッド側油室とコントロールバルブ17内の制御弁17Aとの間の高圧油圧ライン上における作動油保持回路90よりも制御弁17A側(アームシリンダ側を上流としたときの下流側)に設けられてよい。具体的には、リリーフ弁V8Rは、図4に示すように、コントロールバルブ17の外、つまり、作動油保持回路90とコントロールバルブ17との間の高圧油圧ラインに設けられてもよい。また、リリーフ弁V8Rは、図3の場合と同様、アームシリンダ8のロッド側油室とコントロールバルブ17内のアームシリンダ8に対応する制御弁17Aとの間の高圧油圧ラインのうちのコントロールバルブ17に内蔵される部分に設けられてもよい。また、リリーフ弁V8Rは、上述の如く、制御弁17Aに内蔵されてもよい。
【0062】
図5に示すように、作動油保持回路90は、コントロールバルブ17とアームシリンダ8のロッド側油室との間を接続する高圧油圧ラインに介設される。作動油保持回路90は、主に、保持弁90aと、スプール弁90bとを含む。
【0063】
保持弁90aは、コントロールバルブ17からアームシリンダ8のロッド側油室への作動油の流入を許容する。具体的には、保持弁90aは、操作装置26に対するアーム5の開き方向の操作(以下、「アーム開き操作」)に対応して、油路901を通じてコントロールバルブ17から供給される作動油を、油路903を通じてアームシリンダ8のロッド側油室に供給する。一方、保持弁90aは、アームシリンダ8のロッド側油室(油路903)からコントロールバルブ17に接続される油路901への作動油の流出を遮断する。保持弁90aは、例えば、ポペット弁である。
【0064】
また、保持弁90aは、油路901から分岐する油路902の一端に接続され、油路902に配置されるスプール弁90bを通じてアームシリンダ8のロッド側油室の作動油を下流の油路901(コントロールバルブ17)に排出することができる。具体的には、保持弁90aは、油路902に設けられるスプール弁90bが非連通状態(図中の左端のスプール位置)の場合、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油が作動油保持回路90の下流側(油路901)に排出されないように保持する。一方、保持弁90aは、スプール弁90bが連通状態(図中の中央或いは右端のスプール位置)の場合、油路902を経由して、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油を作動油保持回路90の下流側に排出することができる。
【0065】
スプール弁90bは、油路902に設けられ、保持弁90aにより遮断されるアームシリンダ8のロッド側油室の作動油を作動油保持回路90の下流(油路901)に迂回して排出させることができる。スプール弁90bは、油路902を非連通にする第1のスプール位置(図中の左端のスプール位置)、油路902を絞って連通にする第2のスプール位置(図中の中央のスプール位置)、及び、油路902を全開で連通にする第3のスプール位置(図中の右端のスプール位置)を有する。このとき、第2のスプール位置において、スプール弁90bは、パイロットポートに入力されるパイロット圧の大きさに応じて、その絞り度合いが可変される。
【0066】
スプール弁90bは、パイロットポートにパイロット圧が入力されない場合、スプールが第1のスプール位置にあり、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油は、油路902を経由した作動油保持回路90の下流(油路901)に排出されない。一方、スプール弁90bは、そのパイロットポートにパイロット圧が入力される場合、そのパイロット圧の大きさに応じて、スプールが第2の位置或いは第3の位置の何れかにある。具体的には、スプール弁90bは、パイロットポートに作用するパイロット圧が大きくなるほど、第2の位置における絞り度合いが小さくなると共に、スプールが第2のスプール位置から第3のスプール位置に近づく。そして、スプール弁90bは、パイロットポートに作用するパイロット圧がある程度大きくなると、スプールが第3のスプール位置になる。
【0067】
また、本例では、スプール弁90bにパイロット圧を入力するパイロット回路が設けられる。当該パイロット回路は、パイロットポンプ15とアーム閉じ用リモコン弁26Aaと、電磁切換弁92と、シャトル弁94とを含む。
【0068】
アーム閉じ用リモコン弁26Aaは、パイロットライン25Aを通じて、パイロットポンプ15と接続される。アーム閉じ用リモコン弁26Aaは、操作装置26のうちのアームシリンダ8を操作するレバー装置に含まれ、パイロットポンプ15から供給される作動油を利用して、アーム5の閉じ操作に対応するパイロット圧をパイロットライン27Uに出力する。
【0069】
電磁切換弁92は、パイロットポンプ15とアーム閉じ用リモコン弁26Aaとの間のパイロットライン25Aから分岐し、アーム閉じ用リモコン弁26Aaをバイパスしてシャトル弁94の一方の入力ポートに接続されるパイロットライン25Bに設けられる。電磁切換弁92は、パイロットライン25Bの連通/非連通状態を切り換える。
【0070】
シャトル弁94は、一方の入力ポートにパイロットライン25Bの一端が接続され、他方のポートには、アーム閉じ用リモコン弁25Aaの二次側のパイロットライン27Uの一端が接続される。シャトル弁94は、二つの入力ポートのうちのパイロット圧が高い方をスプール弁90bのパイロットポートに出力する。これにより、アーム閉じ操作がされている場合、シャトル弁94からスプール弁90bのパイロットポートにパイロット圧が作用し、スプール弁90bが連通状態になる。そのため、スプール弁90bは、レバー装置26Aに対するアーム閉じ操作に対応して、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油を油路902経由で作動油保持回路90の下流(油路901)に排出することができる。つまり、スプール弁90bは、操作装置26に対するアーム閉じ操作と連動し、操作装置26を通じてアーム閉じ操作が行われる場合に、保持弁90aにより遮断された作動油をアームシリンダ8のロッド側油室から排出する。また、シャトル弁94は、操作装置26を通じてアーム閉じ操作がされていない場合であっても、コントローラ30による制御下で、電磁切換弁92からシャトル弁94を経由してスプール弁90bのパイロットポートにパイロット圧を作用させることができる。そのため、コントローラ30は、電磁切換弁92を介して作動油保持回路90(スプール弁90b)の作動油保持機能を解除し、操作装置26(レバー装置)に対するアーム閉じ操作の有無に依らず、油路902を連通状態にして、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油を作動油保持回路90の下流(油路901)に排出させることができる。よって、コントローラ30は、電磁切換弁92を介して作動油保持回路90の作動油保持機能を解除することにより、作動油保持回路90よりも下流側、つまり、コントロールバルブ17側に配置されるリリーフ弁V8Rによるアームシリンダ8のロッド側油室の圧力の開放機能を有効にすることができる。そして、コントローラ30は、リリーフ弁V8Rによるアームシリンダ8のロッド側油室の圧力の開放機能が有効な状態で、リリーフ弁V8Rに制御指令を出力することで、リリーフ弁V8Rにアームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放させることができる。
【0071】
尚、リリーフ弁V8Rは、作動油保持回路90の保持弁90aよりもアームシリンダ8側の高圧油圧ラインに設けられてもよい。この場合、リリーフ弁V8Rは、作動油保持回路90の作動油保持機能の解除の有無に依らず、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油を作動油タンクTに排出させることができる。つまり、コントローラ30は、作動油保持回路90の作動油保持機能を解除することなく、リリーフ弁V8Rに制御指令を出力することで、リリーフ弁V8Rにアームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放させることができる。また、リリーフ弁V8Rの代わりに、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油をアームシリンダ8のボトム側油室に排出(供給)する制御弁(再生弁)が採用されてもよい。この場合、再生弁は、コントローラ30からの制御指令に応じて、全閉状態から制御指令の内容に対応する開度で開放される。これにより、アーム5の自重で、アームシリンダ8のロッド側油室の作動油が再生弁を通じてアームシリンダ8のボトム側油室に再生され、アーム5が下げ方向に動作する。
【0072】
動的不安定状態判定部301は、ショベル100の下部走行体1及び上部旋回体3を含む機体が動的な不安定状態(以下、「動的不安定状態」)にあるか否かを判定する。機体の動的不安定状態は、アタッチメントの空中動作時において、ショベル100の動作に応じて機体に作用する動的な外乱(例えば、アタッチメントの動作の反モーメントや下部走行体1の走行時に作用するモーメント等)に起因して、所定の不安定現象が発生する可能性がある状態を表す。また、機体の動的不安定状態には、アタッチメントの空中動作時以外(例えば、アタッチメントの掘削動作時)において、ショベル100の動作に応じて機体に作用する動的な外乱に起因して、所定の不安定現象が発生する可能性がある状態を含んでもよい。
【0073】
例えば、図6図6A図6B)は、所定の不安定現象の一例として、ショベル100の機体(下部走行体1)の後部が浮き上がる不安定現象(以下、「後部浮き上がり現象」)の具体例を示す図である。具体的には、図6Aは、ショベル100がバケット6に土砂ESを収容している(抱えている)状態を示す図であり、図6Bは、ショベル100が図6Aの状態からバケット6の開き動作を行い、バケット6に収容された土砂ESを排出している状態を示す図である。
【0074】
図6Aに示すように、アタッチメントが空中でバケット6に土砂ESを抱えた状態で、オペレータの操作に応じて、バケット6が開き動作を行うと、その動的な外乱としての反モーメント(以下、「動的転倒モーメント」)がアタッチメントを通じて、上部旋回体3に作用する。
【0075】
当該動的転倒モーメントは、下部走行体1の前端部(本例では、左右一対のクローラのうちの一方の外端)の接地点を支点(以下、「転倒支点」)として、ショベル100の機体を前方に転倒させる方向、つまり、下部走行体1の後部を浮き上がらせる方向に作用する。また、当該動的転倒モーメントは、バケット6の位置が転倒支点から離れるほど、つまり、バケット6の位置が機体(下部走行体1及び上部旋回体3)から離れるほど、大きくなる。また、当該動的モーメントは、バケット6の収容物を含む重量が大きいほど、大きくなる。また、当該動的転倒モーメントは、バケット6の開き動作が速いほど(具体的には、加速度が大きいほど)、大きくなる。また、図6Aに示すように、下部走行体1に対する上部旋回体3の向き、つまり、アタッチメントの延出方向が下部走行体1の進行方向とずれている場合、下部走行体1の接地点の前端が機体に近づくため、相対的に、バケット6の位置が転倒支点から遠ざかり、当該動的転倒モーメントが大きくなる。
【0076】
そのため、バケット6の機体に対する位置関係、バケット6の収容物を含む重量、バケット6の開き動作の速度や加速度、上部旋回体3の下部走行体1に対する向き等の条件によっては、当該転倒モーメントが相対的に大きくなり、図6Bに示すように、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性がある。
【0077】
また、例えば、ショベル100が、ブーム4を下げつつアーム5を開く態様で、バケット6の土砂等を外部に排出させる場合もありうる。この場合についても、同様に、アタッチメントの当該動作に起因する動的転倒モーメントが機体に作用し、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性がある。
【0078】
また、例えば、アタッチメントを進行方向に向けてショベル100(下部走行体1)が走行している最中に、オペレータの操作によって、或いは、地面の凹凸等の影響でショベル100の走行が妨げられて、下部走行体1が急減速してしまうような場合がありうる。この場合、ショベル100の急減速に起因して機体及びアタッチメントに作用する慣性力に基づく転倒支点回りの動的転倒モーメントが機体に作用し、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性がある。
【0079】
尚、"アタッチメントを進行方向に向けて"いる状態には、下部走行体1の進行方向とアタッチメントの向きとが完全に一致している状態だけでなく、下部走行体1の進行方向とアタッチメントの向きとの差異が比較的小さい状態も含まれる。以下の例示についても同様である。
【0080】
また、例えば、アタッチメントを進行方向に向けてショベル100(下部走行体1)が走行している最中に、斜度が比較的大きい下り傾斜地に進入したり、比較的大きな窪みに下部走行体1の前部が落ちてしまったりすると、機体の前傾量が急に増加する場合がある。この場合、機体の前傾量の急増により、機体に下方への加速度(重力加速度)が生じ、直後に、地面に下部走行体1の前部が接地することで、機体(下部走行体1)に急減速が生じる。すると、この急減速に応じて、アタッチメントに作用する慣性力に基づく転倒支点回りの動的転倒モーメントが作用し、ショベルの後部浮き上がり現象が発生する可能性がある。
【0081】
以下、上述のように、ショベル100の動作に応じて、機体に作用する動的な外乱(動的転倒モーメント)に起因して所定の不安定現象が発生するシチュエーションを"動的不安定シチュエーション"と称する。
【0082】
例えば、動的不安定状態判定部301は、転倒支点(下部走行体1の前端部の接地点)回りに、ショベル100の機体を前方に転倒させる転倒モーメントと、前方への転倒を抑制する抑制モーメントと比較することで、ショベル100の機体が動的不安定状態であるか否かを判定してよい。
【0083】
転倒モーメントには、アタッチメントの自重による静的な転倒モーメント(以下、「静的転倒モーメント」)と、ショベル100の動作に伴う上述の動的転倒モーメントが含まれる。このうち、動的転倒モーメントは、アタッチメントの負荷状態、つまり、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9のそれぞれの推力F1~F3、アタッチメントの姿勢状態及び動作状態、つまり、ブーム4、アーム5、及びバケット6のそれぞれの支点回りの姿勢角度、角速度、角加速度等に依存する。一方、抑制モーメントは、ショベル100の機体、つまり、下部走行体1及び上部旋回体3の自重や転倒支点とそれぞれの重心との間の距離等に依存する。
【0084】
よって、動的不安定状態判定部301は、負荷状態、姿勢状態、及び動作状態に関する検出情報、つまり、各センサS1~S3、S7B,S7R,S8B,S8R,S9B,S9R等の検出値に基づき、転倒モーメントを算出することができる。また、動的不安定状態判定部301は、ショベル100の下部走行体1及び上部旋回体3の自重と、それぞれの重心と転倒支点との間の距離等から抑制モーメントを算出することができる。そして、動的不安定状態判定部301は、転倒モーメント及び抑制モーメントの算出値との間に、転倒モーメントが抑制モーメントを超えない範囲の所定の条件式(以下、「動的転倒抑制条件式」)を満足するか否かを判定してよい。これにより、動的不安定状態判定部301は、当該動的転倒抑制条件式を満足しない場合に、ショベル100の機体が動的不安定状態にあると判定できる。
【0085】
また、例えば、動的不安定状態判定部301は、ショベル100の動作に応じて、動的に不安定現象が発生し易い具体的なシチュエーション(動的不安定シチュエーション)を把握することにより、ショベル100の機体が動的不安定状態にあるか否かを判定してもよい。
【0086】
具体的には、動的不安定状態判定部301は、アタッチメントがバケット6内の収容物の排出動作(例えば、図6A,6Bに示すような土砂ESの排土動作)を行う場合に、ショベル100の機体が動的不安定状態にあると判定してよい。このとき、コントローラ30は、ブーム姿勢センサS1、アーム姿勢センサS2、及びバケット姿勢センサS3の検出値から把握される現在のアタッチメントの姿勢状態や、直前のショベル100の動作状態(例えば、バケット6に土砂等を収容したアタッチメントの姿勢状態で旋回動作が行われたか否か等)に基づき、アタッチメントがバケット6内の収容物の排出動作を行うか否かを判断してよい。
【0087】
また、動的不安定状態判定部301は、アタッチメントを進行方向に向けてショベル100(下部走行体1)が走行している最中に、下部走行体1が急減速する場合に、ショベル100の機体が動的不安定状態であると判定してよい。このとき、コントローラ30は、機体姿勢センサS4により検出される上部旋回体3の旋回角度に基づき、アタッチメントの向きと下部走行体1の進行方向との一致度を判断してよい。また、コントローラ30は、機体姿勢センサS4(に含まれる加速度センサ等)の検出値に基づき、下部走行体1の減速状態を判断してよい。
【0088】
また、動的不安定状態判定部301は、アタッチメントを進行方向に向けてショベル100(下部走行体1)が走行している最中に、機体の傾斜量が急に増加する場合に、ショベル100の機体が動的不安定状態であると判定してよい。このとき、コントローラ30は、機体姿勢センサS4の検出情報に基づき、機体の傾斜量の増加状態を判断してよい。
【0089】
静的不安定状態判定部302は、ショベル100の機体が静的な不安定状態(以下、「静的不安定状態」)にあるか否かを判定する。機体の静的不安定状態は、アタッチメントの空中動作時において、機体に動的な外乱が作用しないような静的或いは準静的状況下であると仮定したときに、機体に所定の不安定現象が発生する可能性がある状態を表す。このとき、ショベル100の静的状況とは、ショベル100が静止している状況を表す。また、ショベル100の準静的状況とは、機体への動的な外乱が無視できる程度に緩やかなショベル100の動作状況を表し、例えば、クレーン作業におけるショベル100(アタッチメント)の動作状況である。
【0090】
例えば、図7は、所定の不安定現象の一例として、アタッチメントの静的或いは準静的状況下におけるショベル100の機体の後部浮き上がり現象を発生させる静的転倒モーメント、及び後部浮き上がり現象を抑制する抑制モーメントを説明する図である。
【0091】
図7に示すように、ブーム4の重心位置に作用する自重W4、アーム5の重心位置に作用する自重W5、及びバケット6の重心位置に作用する自重W6は、下部走行体1の前端接地点である転倒支点F回りに、ショベル100の機体を前方に転倒させる、つまり、機体の後部を浮き上がらせる静的転倒モーメントを機体に作用させる。
【0092】
一方、旋回機構2を含む下部走行体1の重心位置に作用する自重W1及び上部旋回体3の重心位置に作用する自重W3は、転倒支点F回りに、機体の前方への転倒、つまり、機体の後部の浮き上がりを抑制する抑制モーメントを機体に作用させる。
【0093】
よって、アタッチメントの空中動作時におけるショベル100の静的或いは準静的な状況下で、アタッチメントの先端、つまり、バケット6の位置が相対的に機体(転倒支点F)から離れてしまった場合、静的転倒モーメントが増加する方向に変化する。特に、バケット6の位置が機体から相対的に離れてしまっている状態で、ブーム4が下げ動作を行うと、ブーム4が上部旋回体3との連結点を支点として下がるのに応じて、バケット6の位置は、転倒支点Fから更に離れていってしまう。そのため、静的転倒モーメントが過大になって機体の後部が浮き上がり、機体が前方に転倒してしまう可能性がある。
【0094】
また、図7に示すように、バケット6に土砂ES等の収容物が収容された場合、バケット6に土砂ES等の収容物が収容されていない場合に比べて、転倒モーメントが増加する方向に変化する。そのため、例えば、土砂等の対象物をバケット6に収容し持ち上げる動作を行う際に、アタッチメントの姿勢状態によっては、静的転倒モーメントが過大になって機体の後部が浮き上がり、機体が前方に転倒してしまう可能性がある。
【0095】
また、図7に示すように、上部旋回体3の向き、つまり、アタッチメントの向き(延出方向)と、下部走行体1の進行方向との間の差が相対的に大きくなると、下部走行体1の転倒支点Fが機体(下部走行体1及び上部旋回体3)の重心位置に近くなる一方、アタッチメント(ブーム4、アーム5、及びバケット6)の重心位置から遠ざかる。その結果、転倒モーメント(静的転倒モーメント)は、増加する方向に変化する一方、抑制モーメントは、減少する方向に変化する。よって、上部旋回体3の向き、つまり、アタッチメントの向きと、下部走行体1の進行方向との間の差が相対的に大きくなると、アタッチメントの姿勢状態によっては、静的転倒モーメントが抑制モーメントに対して相対的に過大になって機体の後部が浮き上がり、機体が前方に転倒してしまう可能性がある。
【0096】
また、例えば、アタッチメントを進行方向に向けてショベル100(下部走行体1)が走行している最中に、下り傾斜地に進入してしまうと、静的転倒モーメントが相対的に大きくなる、つまり、増加する方向に変化する一方、抑制モーメントが相対的に小さくなる、つまり、減少する方向に変化する。よって、アタッチメンを進行方向に向けてショベル(下部走行体1)が走行している状態で、下り傾斜地に侵入し機体の前傾量が増加した場合、静的転倒モーメントが抑制モーメントに対して相対的に過大になって機体の後部が浮き上がり、機体が前方に転倒してしまう可能性がある。
【0097】
以下、上述のように、ショベル100の動作に応じた、静的なモーメント(静的転倒モーメント及び抑制モーメント)の変化によって、所定の不安定現象が発生しうるシチュエーションを"静的不安定シチュエーション"と称する。
【0098】
例えば、静的不安定状態判定部302は、転倒支点回りに、静的転倒モーメントと抑制モーメントとを比較することで、ショベル100の機体が静的不安定状態であるか否かを判定してよい。具体的には、静的不安定状態判定部302は、各センサS1~S4の検出値に基づき、静的な転倒モーメントを算出することができる。また、静的不安定状態判定部302は、ショベル100の下部走行体1及び上部旋回体3の自重と、それぞれの重心と転倒支点との間の距離等から抑制モーメントを算出することができる。そして、静的不安定状態判定部302は、静的転倒モーメント及び抑制モーメントの算出値との間に、静的転倒モーメントが抑制モーメントを超えない範囲の所定の条件式(以下、「静的転倒抑制条件式」)を満足するか否かを判定してよい。これにより、静的不安定状態判定部302は、当該静的転倒抑制条件式を満足しない場合に、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定できる。
【0099】
また、例えば、静的不安定状態判定部302は、下部走行体1を基準とするバケット6の位置、バケット6の収容物を含む重量、下部走行体1を基準とする上部旋回体3の向き(アタッチメントの延出方向)、ショベル100の作業面の傾斜状態等に基づき、ショベル100の機体が静的不安定状態にあるか否かを判定してもよい。上述の如く、ショベル100の機体への不安定現象の発生は、下部走行体1を基準とするバケット6の位置、バケット6の収容物を含む重量、下部走行体1を基準とする上部旋回体3の向き(アタッチメントの延出方向)、ショベル100の作業面の傾斜状態等に影響されるからである。このとき、静的不安定状態判定部302は、ブーム姿勢センサS1、アーム姿勢センサS2、及びバケット姿勢センサS3の検出値と、既知のブーム4、アーム5、及びバケット6のリンク長等に基づき、下部走行体1を基準とするバケット6の位置を算出できる。また、静的不安定状態判定部302は、ブーム姿勢センサS1、アーム姿勢センサS2、及びバケット姿勢センサS3の検出値と、ブームボトム圧センサS7Bにより検出されるブームボトム圧等に基づき、バケット6の重量を算出できる。また、静的不安定状態判定部302は、機体姿勢センサS4の検出値に基づき、下部走行体1に対する上部旋回体3の向き(例えば、旋回角度)を算出できる。また、静的不安定状態判定部302は、機体姿勢センサS4の検出値に基づき、下部走行体1を基準とする作業面の傾斜状態(傾斜の有無や傾斜方向)等を算出できる。具体的には、静的不安定状態判定部302は、アタッチメントの静的或いは準静的状況下で、後部浮き上がり現象等の所定の不安定現象が発生しにくさを表す安定度(以下、「静的安定度」)を算出し、静的安定度が所定基準を下回った場合に、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定してよい。
【0100】
また、例えば、静的不安定状態判定部302は、ショベル100の機体に静的に不安定現象(後部浮き上がり現象)が発生し易い具体的なシチュエーション(静的不安定シチュエーション)を把握することにより、ショベル100の機体が静的不安定状態にあるか否かを判定してもよい。
【0101】
具体的には、静的不安定状態判定部302は、アタッチメントの空中動作時において、バケット6の位置が機体から相対的に離れている(具体的には、転倒支点からバケット6までの距離が所定閾値より離れている)場合に、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定してよい。また、静的不安定状態判定部302は、アタッチメントの空中動作時において、バケット6が機体(転倒支点)に対して相対的に離れている状態で、ブーム4の下げ動作が行われている場合に、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定してもよい。このとき、コントローラ30は、ブーム姿勢センサS1、アーム姿勢センサS2、及びバケット姿勢センサS3の検出値に基づき、バケット6の機体に対する相対位置やブーム4の動作状態を判断できる。
【0102】
また、静的不安定状態判定部302は、アタッチメントが土砂等の対象物を収容し持ち上げる動作を行っている場合に、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定してよい。また、静的不安定状態判定部302は、バケット6が機体(転倒支点)に対して相対的に離れている状態で、タッチメントが土砂等の対象物を収容し持ち上げる動作を行っている場合に、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定してもよい。このとき、コントローラ30は、ブーム姿勢センサS1、アーム姿勢センサS2、及びバケット姿勢センサS3の検出値や操作装置26のアタッチメントに関する操作状態に基づき、アタッチメントの動作状態を判断できる。

【0103】
また、静的不安定状態判定部302は、アタッチメントの向きが下部走行体1の進行方向から離れるように、上部旋回体3が旋回している場合、ショベル100の機体が静的不安定状態であると判定してもよい。また、静的不安定状態判定部302は、バケット6が機体(転倒支点)に対して相対的に離れている状態で、アタッチメントの向きが下部走行体1の進行方向から離れるように、上部旋回体3が旋回している場合に、ショベル100の機体が静的不安定状態であると判定してもよい。このとき、コントローラ30は、機体姿勢センサS4の検出値や操作装置26の上部旋回体3に関する操作状態に基づき、下部走行体1の進行方向に対する上部旋回体3の旋回状態を判断できる。
【0104】
また、静的不安定状態判定部302は、アタッチメントを進行方向に向けて走行体が走行している最中に、ショベル100の機体の前傾量が(比較的緩やかに)増加した場合、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定してよい。また、静的不安定状態判定部302は、バケット6が機体(転倒支点)に対して相対的に離れている状態で、アタッチメントを進行方向に向けて走行体が走行している最中に、ショベル100の機体の前傾量が(比較的緩やかに)増加した場合に、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定してもよい。このとき、コントローラ30は、機体姿勢センサS4の検出値に基づき、下部走行体1の進行方向に対するアタッチメントの向きや機体の前傾状態を判断できる。
【0105】
安定化制御部303は、ショベル100の機体に発生する不安定現象(例えば、上述の後部浮き上がり現象)の発生を抑制し、ショベル100の機体を安定化させる制御(以下、「安定化制御」を行う。安定化制御の詳細は、後述する。
【0106】
<安定化制御の詳細>
次に、図6図6A,6B)、図7に加えて、図8図9図9A,9B)を参照して、コントローラ30による安定化制御の詳細について説明する。
【0107】
〔安定化制御の第1例〕
安定化制御部303は、動的不安定状態判定部301により、ショベル100の機体が動的不安定状態にあると判定された場合に、リリーフ弁V8R或いはリリーフ弁V8R及び電磁切換弁92に制御指令を出力し、アームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放する。
【0108】
これにより、例えば、安定化制御部303は、図6Aの場合のように、アタッチメントがバケット6の開き動作による土砂ES等の収容物の排出動作を行う場合に、アームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放させることができる。そのため、バケット6の開き動作による動的な外乱がアーム5からブーム4を介して機体に伝達される過程において、アームシリンダ8がアーム5の自重で、伸長方向、つまり、アーム5の閉じ方向に移動できるようになる。よって、バケット6の開き動作による動的な外乱がアームシリンダ8の伸長方向への移動によって、少なくともその一部が吸収され、動的な外乱が機体に対する動的転倒モーメントとして伝達されにくくなり、ショベル100の動的な後部浮き上がり現象を抑制できる。
【0109】
また、例えば、安定化制御部303は、アタッチメントがブーム4の下げ動作とアーム5の開き動作によるバケット6の土砂等の収容物が排出動作を行う場合に、アームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放させることができる。よって、同様に、ブーム4の下げ動作及びアーム5の開き動作による動的な外乱が機体に対する動的転倒モーメントとして伝達されにくくなり、ショベル100の動的な後部浮き上がり現象を抑制できる。
【0110】
また、例えば、安定化制御部303は、アタッチメントを進行方向に向けて下部走行体1が走行している状態で、下部走行体が急減速した場合に、アームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放させることができる。よって、下部走行体1の急減速に伴う転倒支点回りの動的転倒モーメントの少なくとも一部をアームシリンダ8の伸長方向への移動によって吸収させ、ショベル100の動的な後部浮き上がり現象を抑制できる。
【0111】
また、例えば、安定化制御部303は、アタッチメントを進行方向に向けて下部走行体1が走行している状態で、機体の傾斜量が急に増加した場合に、アームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放させることができる。よって、下部走行体1の急傾斜地への侵入や大きな窪みへの落ち込み等に応じて、アタッチメントが下方に急加速した後、急減速することでアタッチメントに作用する慣性力に基づく転倒支点回りの動的転倒モーメントの少なくとも一部をアームシリンダ8の伸長方向への移動によって吸収させ、ショベル100の動的な後部浮き上がり現象を抑制できる。
【0112】
つまり、安定化制御部303は、動的不安定状態判定部301により、ショベル100の機体が動的不安定状態にあると判定された場合に、オペレータの操作状態(操作の有無)に依らず、自動的或いは半自動的に、アーム5を閉じ方向に動作させる。具体的には、安定化制御部303は、当該ショベル100の動作に応じて、ショベル100の機体に作用する動的なモーメント(動的転倒モーメント)を抑制するように、アーム5を閉じ方向に動作させる。これにより、安定化制御部303は、ショベル100の動作に応じて機体に作用する動的転倒モーメントによる機体の不安定現象(後部浮き上がり現象)の発生を抑制することができる。
【0113】
また、安定化制御部303は、アーム5を閉じ方向に動作させると、図7に示すように、バケット6をより静的に安定な方向である機体側、つまり、転倒支点側に近づけることができる。よって、安定化制御部303は、静的転倒モーメントを抑制し、ショベル100の機体の静的な安定性についても向上させることができる。
【0114】
尚、安定化制御部303は、アームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放させる代わりに、オペレータの操作状態(操作の有無)に依らず、コントロールバルブ17からアームシリンダ8のボトム側油室に作動油を供給させてもよい。つまり、安定化制御部303は、動的不安定状態判定部301により、ショベル100の機体が動的不安定状態にあると判定された場合に、オペレータの操作状態(操作の有無)に依らず、積極的に、アームシリンダ8を伸長方向に移動させることにより、アーム5を閉じ方向に動作させてもよい。後述する安定化制御の第2例の場合についても同様である。
【0115】
〔安定化制御の第2例〕
安定化制御部303は、静的不安定状態判定部302により、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定された場合に、リリーフ弁V8R或いはリリーフ弁V8R及び電磁切換弁92に制御指令を出力し、アームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放する。
【0116】
これにより、安定化制御部303は、アーム5の自重によって、アームシリンダ8を伸長方向に移動させ、アーム5を閉じ方向に動作させることができる。そのため、安定化制御部303は、図7に示すように、バケット6をより静的に安定な方向である機体側に近づけることができる。
【0117】
つまり、安定化制御部303は、静的不安定状態判定部302により、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定された場合に、オペレータの操作の有無に依らず、自動的或いは半自動的に、アーム5を閉じ方向に動作させる。これにより、安定化制御部303は、ショベル100の静的或いは準静的状況下で、機体の不安定現象(後部浮き上がり現象)の発生を抑制することができる。
【0118】
具体的には、安定化制御部303は、当該ショベル100の動作に応じた、下部走行体1及び上部旋回体3を含む機体に作用している静的なモーメント(静的転倒モーメント及び抑制モーメント)の変化を抑制するように、アーム5を閉じ方向に動作させることができる。
【0119】
例えば、安定化制御部303は、アタッチメントの空中動作時において、バケット6の位置が機体から相対的に離れてしまった(具体的には、転倒支点からバケット6までの距離が所定閾値より離れている)場合に、アーム5を閉じ方向に動作させることができる。また、安定化制御部303は、アタッチメントの空中動作時において、バケット6が機体(転倒支点)に対して相対的に離れている状態で、ブーム4の下げ動作が行われている場合に、アーム5を閉じ方向に動作させることができる。よって、安定化制御部303は、バケット6の位置が機体から離れることによる静的転倒モーメントの増加を抑制し、機体に発生しうる所定の不安定現象を抑制することができる。
【0120】
また、例えば、安定化制御部303は、アタッチメントが土砂等の対象物を収容し持ち上げる動作を行っている場合に、アーム5を閉じ方向に動作させることができる。また、例えば、安定化制御部303は、バケット6が機体(転倒支点)に対して相対的に離れている状態で、タッチメントが土砂等の対象物を収容し持ち上げる動作を行っている場合に、アーム5を閉じ方向に動作させることができる。よって、安定化制御部303は、バケット6に土砂等が収容されることによるアタッチメントの先端部の重量の増加による静的転倒モーメントの増加を抑制し、機体に発生しうる所定の不安定現象を抑制することができる。
【0121】
また、例えば、安定化制御部303は、アタッチメントを進行方向に向けて走行体が走行している最中に、前記機体の前傾量が(比較的緩やかに)増加した場合に、アーム5を閉じ方向に動作させることができる。また、安定化制御部303は、バケット6が機体(転倒支点)に対して相対的に離れている状態で、アタッチメントを進行方向に向けて走行体が走行している最中に、機体の前傾量が(比較的緩やかに)増加した場合に、アーム5を閉じ方向に動作させることができる。よって、安定化制御部303は、下部走行体1の走行時における作業面の前傾方向への傾斜状態の変化に伴う静的転倒モーメントの増加を抑制し、機体に発生しうる所定の不安定現象を抑制することができる。
【0122】
また、例えば、安定化制御部303は、ショベル100の準静的な動作時、例えば、クレーン作業時等に、ショベル100の機体が静的不安定状態にあると判定されると、オペレータの操作の有無に依らず、アーム5を閉じ方向に動作させる。これにより、オペレータがクレーン作業に対応するアーム5以外の操作(例えば、ブーム4の下げ操作等)に集中し、ショベル100の機体が静的不安定状態になってしまっても、オペレータの操作の有無に依らず、機体への不安定現象の発生を抑制できる。
【0123】
また、例えば、図8は、下部走行体1に対する上部旋回体3の向き(即ち、アタッチメントの向き)を考慮した場合のアタッチメントの安定範囲の具体例を示す上面図である。図中では、安定範囲の外縁、つまり、下部走行体1から見て、安定範囲とその外側に位置する不安定範囲との境界(以下、「安定範囲境界」)TBLが図示されている。以下、後述の図9図9A,9B)についても同様である。
【0124】
アタッチメントの安定範囲は、ショベル100の静的或いは準静的状況下で、機体に後部浮き上がり現象等の所定の不安定現象が発生しにくく、機体が静的に安定状態にあるときの下部走行体1を基準とするアタッチメントの作業範囲(つまり、アタッチメントの先端であるバケット6の位置の範囲)として予め規定される。例えば、安定範囲は、上述の静的安定度が所定基準以上の範囲であり、安定範囲境界TBLは、当該所定基準に相当する。
【0125】
図8に示すように、安定範囲境界TBLは、下部走行体1の進行方向と上部旋回体3の向き(アタッチメントの向き)が同じである場合、機体の中心から相対的に離れた位置に設定される。一方、安定範囲境界TBLは、下部走行体1の進行方向と上部旋回体3の向きとが同じでなく、その差異が相対的に大きい場合、機体の中心(旋回中心AX)から相対的に近くなり、上部旋回体3の向きが下部走行体1の進行方向と90°の差がある場合に、機体の中心に最も近くなる。下部走行体1の進行方向と上部旋回体3の向きに差異が生じると、上部旋回体3(アタッチメント)の向きを基準としたときの下部走行体1の前端部、つまり、転倒支点が機体の中心(旋回中心AX)に相対的に近づくからである。つまり、アタッチメントの安定範囲は、ショベル100の旋回中心AXから見て、下部走行体1の進行方向(図中の前後方向)では、相対的に広く設定される。一方、アタッチメントの安定範囲は、ショベル100の旋回中心AXから見た向きが下部走行体1の進行方向から相対的に大きく離れると、相対的に狭くなり、ショベル100の旋回中心AXから見た向きが下部走行体1の幅方向になると、最も狭くなる。
【0126】
また、図9図9A,9B)は、作業面の傾斜を考慮した場合のアタッチメントの安定範囲の具体例を示す上面図である。具体的には、図9Aは、作業面の傾斜を考慮した場合のアタッチメントの安定範囲の一例を示す上面図であり、下部走行体1の幅方向(具体的には、図中の右方向)に作業面が下り傾斜している場合のアタッチメントの安定範囲の具体例を示す上面図である。また、図9Bは、作業面の傾斜を考慮した場合のアタッチメントの安定範囲の他の例を示す上面図であり、下部走行体1の進行方向(具体的には、図中の前方)に向かって作業面が下り傾斜している場合のアタッチメントの安定範囲の具体例を示す上面図である。
【0127】
尚、図9A図9Bでは、図8の場合と同様、アタッチメントの安定範囲に、下部走行体1に対する上部旋回体3の向きも考慮されている。図9A図9Bの安定範囲境界TBLに隣接する点線は、作業面が傾斜していない場合の安定範囲境界(つまり、図8の安定範囲境界TBL)を表している。
【0128】
図9A図9Bに示すように、安定範囲境界TBLは、ショベル100の旋回中心AXから見て、作業面の傾斜の下り方向で、相対的に近くなる一方、作業面の傾斜の上り方向で、相対的に遠くなる。つまり、アタッチメントの安定範囲は、ショベル100の旋回中心AXから見て、作業面の傾斜の下り方向に相対的に狭くなる一方、作業面の傾斜の上り方向に相対的に広くなる。具体的には、図9Aに示すように、アタッチメントの安定範囲は、作業面の下り方向である図中の左方向に相対的に狭くなる一方、作業面の上り方向である図中の右方向に相対的に広くなっている。また、図9Bに示すように、アタッチメントの安定範囲は、作業面の下り方向である図中の上方向に相対的に狭くなる一方、作業面の上り方向である図中の下方向に相対的に広くなっている。上述の如く、アタッチメントの向きが下り方向になってしまうと、静的転倒モーメントが相対的に大きくなり、且つ、抑制モーメントが相対的に小さくなる一方、アタッチメントの向きが上り方向になると、静的転倒モーメントが相対的に小さくなり、且つ、抑制モーメントが相対的に大きくなるからである。
【0129】
また、バケット6の土砂等の収容物を含む重量が考慮された上で、図8図9A図9Bに示すようなアタッチメントの安定範囲が規定されてもよい。この場合、アタッチメントの安定範囲は、下部走行体1を基準として、バケット6の土砂等の収容物を含む重量が大きくなるほど、相対的に狭くなる一方、バケット6の土砂等の収容物を含む重量が大きくなるほど、相対的に広くなる。
【0130】
よって、安定化制御部303は、図8図9A図9Bに示すようなアタッチメントの安定範囲に基づき、ショベル100の機体の安定化制御を行うことができる。具体的には、静的不安定状態判定部302は、下部走行体1から見たバケット6の位置が安定範囲境界BLを超えた場合に、ショベル100の機体が静的不安定状態であると判定し、安定化制御部303は、当該判定結果に応じて、アーム5を閉じ方向に動作させる。これにより、安定化制御部303は、下部走行体1に対する上部旋回体3の向き、作業面の傾斜状態、バケット6の収容物を含む重量等によるショベル100の機体の静的安定性への影響を考慮しながら、ショベル100の機体に後部浮き上がり現象等の所定の不安定現象の発生を抑制できる。
【0131】
尚、上述した一例では、コントローラ30は、動的不安定状態である場合、或いは、静的不安定状態である場合に、アーム5を閉じ方向に動作させるが、当該態様には限定されない。例えば、コントローラ30は、下部走行体1の後部浮き上がり現象等の不安定現象が発生した場合(具体的には、発生直後)に、アーム5の閉じ方向に動作させてもよい。これにより、既に発生した下部走行体1の後部浮き上がり現象等の所定の不安定現象の増大を抑制し、早期に不安定現象を収束させることができる。この場合、コントローラ30は、機体姿勢センサS4の検出値や上部旋回体3に搭載される周囲を撮像する撮像装置の撮像画像に基づき、下部走行体1の後部浮き上がり現象等の発生を検出してよい。また、本例に係るショベル100の安定化制御は、当然の如く、ショベル100がオペレータにより操作される場合だけでなく、ショベル100が自動運転機能により動作する場合についても採用されてよい。以下、後述するショベル100の他の例における安定化制御についても同様である。
【0132】
[ショベルの他の例]
次に、ショベル100の他の例について説明する。以下、上述の一例と異なる部分を中心に説明を行い、同じ或いは対応する構成の説明を省略する場合がある。
【0133】
<ショベルの構成>
図10図11を参照して、ショベル100の具体的な構成について説明する。
【0134】
図10は、本実施形態に係るショベル100の他の例を示す側面図である。図11は、本実施形態に係るショベル100の構成の第4例を示すブロック図である。
【0135】
尚、図11において、機械的動力ラインは二重線、高圧油圧ラインは実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御ラインは点線でそれぞれ示される。
【0136】
本例に係るショベル100の油圧駆動系は、上述の一例の場合と同様、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6のそれぞれを油圧駆動する走行油圧モータ1L,1R、旋回油圧モータ2A、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9等の油圧アクチュエータを含む。また、本実施形態に係るショベル100の油圧駆動系は、上述の一例の場合と同様、エンジン11と、レギュレータ13と、メインポンプ14と、コントロールバルブ17とを含む。
【0137】
コントロールバルブ17は、上述の一例の場合と同様、オペレータによる操作に応じて、油圧アクチュエータの制御を行う油圧制御装置である。コントロールバルブ17は、上述の如く、高圧油圧ラインを介してメインポンプ14と接続され、メインポンプ14から供給される作動油を、操作装置26の操作状態に応じて、油圧アクチュエータ(走行油圧モータ1L,1R、旋回油圧モータ2A、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9)に選択的に供給する。具体的には、コントロールバルブ17は、メインポンプ14から油圧アクチュエータのそれぞれに供給される作動油の流量と流れる方向を制御する制御弁171~176を含む。具体的には、制御弁171は、走行油圧モータ1Lに対応し、制御弁172は、走行油圧モータ1Rに対応し、制御弁173は、旋回油圧モータ2Aに対応し、制御弁174は、バケットシリンダ9に対応し、制御弁175は、ブームシリンダ7に対応し、制御弁176は、アームシリンダ8に対応する。
【0138】
本実施形態に係るショベル100の操作系は、上述の一例の場合と同様、パイロットポンプ15と、操作装置26とを含む。
【0139】
本実施形態に係るショベル100の制御系は、コントローラ30と、吐出圧センサ28と、操作圧センサ29と、表示装置40と、入力装置42と、音出力装置44と、ブーム姿勢センサS1と、アーム姿勢センサS2と、バケット姿勢センサS3と、機体姿勢センサS4と、旋回状態センサS5と、撮像装置S6と、ブームボトム圧センサS7Bと、ブームロッド圧センサS7Rと、アームボトム圧センサS8Bと、アームロッド圧センサS8Rと、バケットボトム圧センサS9Bと、バケットロッド圧センサS9Rとを含む。
【0140】
コントローラ30は、上述の一例の場合と同様、ショベル100の駆動制御を行う。
【0141】
例えば、コントローラ30は、オペレータの操作に基づくアタッチメントの空中動作に起因して、ショベル100(下部走行体1)の後部が浮き上がる不安定現象(以下、「後部浮き上がり現象」)が発生する可能性がある場合に、後部浮き上がり現象の発生を抑制する安定化制御を行う。
【0142】
例えば、上述の如く、図6図6A図6B)は、ショベル100の後部浮き上がり現象の具体例を示す図である。
【0143】
図6Aに示すように、アタッチメントが空中でバケット6に土砂ESを抱えた状態で、オペレータの操作に応じて、バケット6が開き動作を行うと、その動的な外乱としての反力、具体的には、反モーメント(以下、「転倒モーメント」)がアタッチメントを通じて、上部旋回体3に作用する。
【0144】
当該転倒モーメントは、下部走行体1の前端(本例では、一方のクローラの外端)の接地点を支点(以下、「転倒支点」)として、ショベル100の機体(下部走行体1及び上部旋回体3)を前方に転倒させる方向、つまり、下部走行体1の後部を浮き上がらせる方向に作用する。また、当該転倒モーメントは、バケット6の位置が転倒支点から離れるほど、つまり、バケット6の位置が機体(下部走行体1及び上部旋回体3)から離れるほど、大きくなる。また、当該転倒モーメントは、バケット6の開き動作が速いほど(具体的には、加速度が大きいほど)、大きくなる。また、図6Aに示すように、上部旋回体3の向き、つまり、上部旋回体に対するアタッチメントの延出方向が下部走行体1の進行方向とずれている場合、下部走行体1の接地点の前端が機体に近づくため、相対的に、バケット6の位置が転倒支点から遠ざかり、当該転倒モーメントが大きくなる。
【0145】
そのため、バケット6の機体に対する位置関係、バケット6の開き動作の加速度、上部旋回体3の下部走行体1に対する向き等の条件によっては、当該転倒モーメントが相対的に大きくなり、図6Bに示すように、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生しうる。
【0146】
そこで、コントローラ30は、後部浮き上がり現象が発生する可能性がある場合、或いは、後部浮き上がり現象が発生した場合に、バケット6の動作制限を行うことで、後部浮き上がり現象の発生の抑制、或いは、発生した後部浮き上がり現象の増大の抑制を図る。安定化制御の詳細は、後述する。
【0147】
吐出圧センサ28は、メインポンプ14の吐出圧を検出する。吐出圧センサ28により検出された吐出圧に対応する検出信号は、コントローラ30に取り込まれる。
【0148】
旋回状態センサS5は、上部旋回体3に取り付けられ、上部旋回体3の旋回状態に関する検出情報を出力する。旋回状態センサS5は、例えば、上部旋回体3の旋回角速度や旋回角度を検出する。旋回状態センサS5は、例えば、ジャイロセンサ、レゾルバ、ロータリエンコーダ等を含む。旋回状態センサS5により検出される旋回状態に関する検出情報は、コントローラ30に取り込まれる。
【0149】
尚、旋回状態センサS5は、省略されてもよい。機体姿勢センサS4は、上部旋回体3の旋回状態に関する情報(旋回角度)を出力できるからである。また、機体姿勢センサS4の構成のうちの上部旋回体3の旋回状態に関する情報を出力する機能の方が省略されてもよい。
【0150】
撮像装置S6は、ショベル100の周辺を撮像する。撮像装置S6は、ショベル100の前方を撮像するカメラS6F、ショベル100の左方を撮像するカメラS6L、ショベル100の右方を撮像するカメラS6R、及び、ショベル100の後方を撮像するカメラS6Bを含む。
【0151】
カメラS6Fは、例えば、キャビン10の天井、即ち、キャビン10の内部に取り付けられている。また、カメラS6Fは、キャビン10の屋根、ブーム4の側面等、キャビン10の外部に取り付けられていてもよい。カメラS6Lは、上部旋回体3の上面左端に取り付けられ、カメラS6Rは、上部旋回体3の上面右端に取り付けられ、カメラS6Bは、上部旋回体3の上面後端に取り付けられている。
【0152】
撮像装置S6(カメラS6F,S6B,S6L,S6R)は、それぞれ、例えば、非常に広い画角を有する単眼の広角カメラである。また、撮像装置S6は、ステレオカメラや距離画像カメラ等であってもよい。撮像装置S6による撮像画像は、コントローラ30に取り込まれる。
【0153】
[安定化制御の詳細]
次に、図12を参照して、コントローラ30による安定化制御の詳細について説明する。
【0154】
図12は、後部浮き上がり現象を抑制する安定化制御の制御手法の一例を説明する図である。具体的には、図12は、安定化制御により制限されたバケットシリンダ9の縮み方向の移動速度V、つまり、バケット6を開き方向に駆動するときのバケットシリンダ9の移動速度Vの時間変化を表す。
【0155】
上述の如く、アタッチメントの空中動作時に、バケット6の動作に起因して、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性がある。
【0156】
これに対して、コントローラ30は、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性がある場合に、バケット6の開き動作を遅くする。これにより、アタッチメントの空中動作時におけるバケット6の開き動作に起因する、ショベル100を前方に転倒させようとする転倒モーメントを相対的に小さくすることができる。そのため、コントローラ30は、ショベル100の後部浮き上がり現象の発生を抑制することができる。
【0157】
例えば、コントローラ30は、ショベル100の機体(上部旋回体3)に作用する、前方に転倒させようとする転倒モーメントと、前方への転倒を抑制しようとする抑制モーメントとの関係に基づき、ショベル100の後部浮き上がりの発生を抑制するためのバケットシリンダ9の縮み方向への移動速度(以下、単に「移動速度」)V及び移動加速度(以下、単に「移動加速度」)αのそれぞれの上限値を設定する。
【0158】
転倒モーメントには、アタッチメントの自重による静的な転倒モーメント(以下、「静的転倒モーメント」)と、アタッチメントの動作に伴う動的な転倒モーメント(以下、「動的転倒モーメント」)が含まれる。このうち、動的転倒モーメントは、アタッチメントの負荷状態、つまり、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9のそれぞれの推力F1~F3、アタッチメントの姿勢状態及び動作状態、つまり、ブーム4、アーム5、及びバケット6のそれぞれの支点回りの姿勢角度、角速度、角加速度等に依存する。一方、抑制モーメントは、ショベル100の機体(下部走行体1及び上部旋回体3)の自重や転倒支点とそれぞれの重心との間の距離等に依存する。
【0159】
よって、コントローラ30は、アタッチメントの負荷状態、姿勢状態、及び動作状態に関する検出情報、つまり、各センサS1~S4、S7B,S7R,S8B,S8R,S9B,S9R等の検出値に基づき、バケット6の開き方向への角速度及び角加速度に対応するバケットシリンダ9の移動速度V及び移動加速度αを変数として含む転倒モーメントの算出式を算出することができる。また、コントローラ30は、ショベル100の下部走行体1及び上部旋回体3の自重と、それぞれの重心と転倒モーメントとの間の距離等から抑制モーメントを算出することができる。そして、コントローラ30は、転倒モーメントの算出式と、抑制モーメントの算出値との間に、転倒モーメントが抑制モーメントを超えない範囲の条件式(以下、「転倒抑制条件式」)を設定し、当該転倒抑制条件式を満足するように、バケットシリンダ9の移動速度の上限値(以下、「上限移動速度」)Vlim及び移動加速度の上限値(以下、「上限移動加速度」)αlimを設定してよい。また、コントローラ30は、バケット6の角速度及び角加速度を変数として含む転倒モーメントの算出式を利用して、バケット6の開き方向の角速度及び角加速度の上限を設定した上で、バケットシリンダ9の上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlimに変換してもよい。また、コントローラ30は、転倒モーメントの算出式と抑制モーメントの算出値との間の転倒抑制条件式を満足するように予め規定された変換式や変換マップを利用して、各センサS1~S3、S7B,S7R,S8B,S8R,S9B,S9R等の検出値から、直接的に、バケットシリンダ9の上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlimを導出してもよい。
【0160】
コントローラ30は、所定の制御周期ごとに、上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlimを導出する。そして、コントローラ30は、バケットシリンダ9の移動速度V及び移動加速度αのそれぞれが上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlim以下になるように、バケットシリンダ9の動作制御を行う。具体的には、コントローラ30は、レギュレータ13に制御指令を出力し、メインポンプ14の流量を制御(制限)することにより、バケットシリンダ9の移動速度V及び移動加速度αのそれぞれが上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlim以下になるようにする。このとき、コントローラ30は、算出した上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlimを適用した予め規定される制御マップを利用し、メインポンプ14を制御することで、バケットシリンダ9の移動速度Vや移動加速度αのそれぞれが上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlim以下になるようにしてよい。また、コントローラ30は、バケットシリンダ9の移動速度や移動加速度の測定値をモニタリングしながら、例えば、フィードバック制御等を適用することで、バケットシリンダ9の移動速度Vや移動加速度αのそれぞれが上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlim以下になるようにしてもよい。このとき、コントローラ30は、バケットシリンダ9に取り付けられる、シリンダの位置、移動速度、移動加速度等を検出可能なシリンダセンサの検出値に基づき、バケットシリンダ9の移動速度V及び移動加速度αをモニタリングしてよい。
【0161】
図12に示すように、本例では、時刻t1において、上限移動加速度αlimよりも大きい移動加速度αを伴って、バケットシリンダ9が縮み方向に移動し始めている。
【0162】
すると、時刻t2において、移動加速度αが上限移動加速度αlimよりも大きい状態であることに起因して、コントローラ30は、バケットシリンダ9の移動加速度αを上限移動加速度αlimに制限し始める。これにより、コントローラ30は、バケット6の開き方向の角加速度を相対的に遅くすることができるため、ショベル100の後部浮き上がり現象の発生を抑制することができる。
【0163】
そして、時刻t3において、バケットシリンダ9の移動速度Vが上限移動速度Vlimに到達すると、コントローラ30は、それ以上に移動速度Vが上昇しないように、バケットシリンダ9の移動速度Vを制限する。これにより、コントローラ30は、バケット6の開き方向の角速度を相対的に遅くすることができるため、ショベル100の後部浮き上がり現象の発生を更に抑制することができる。
【0164】
尚、本例(図12)において、上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlimは、一定であるが、所定の制御周期ごとに算出されるため、時間経過に応じて、変化する場合がある。
【0165】
上限移動速度Vlimや上限移動加速度αlimは、上述の如く、転倒抑制条件式を満足するように、設定される。そのため、コントローラ30は、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性の有無を具体的に判断せずとも、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性がある場合に、バケット6の開き動作を相対的に遅くすることができる。
【0166】
例えば、バケット6に土砂等の収容物があったり、バケット6が通常仕様より重量が大きい仕様品に変更されたりし、バケット6の収容物を含む重量が相対的に大きい場合、静的転倒モーメント及びバケット6の開き動作に伴う動的転倒モーメントの双方が相対的に大きくなるため、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性がある。また、バケット6の位置が転倒支点、つまり、下部走行体1から相対的に離れている場合、静的転倒モーメントが相対的に大きくなるため、バケット6の開き動作に起因する動的転倒モーメントが発生すると、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性がある。また、アタッチメントがバケット6内の収容物の排出動作(例えば、図3に示すような土砂ESの排土動作)を行う場合、バケット6の収容物を含む重量が相対的に大きく、静的転倒モーメントが相対的に大きくなり、且つ、バケット6の開き動作に伴い動的転倒モーメントが実際に発生するため、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性がある。また、上述の条件(バケット6の位置に関する条件、バケット6の収容物を含む重量に関する条件、及びバケット6の排出動作に関する条件)が複数組み合わる場合には、更に、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性が高くなる。このようなシチュエーション(以下、「後部浮き上がりシチュエーション」)において、コントローラ30は、バケットシリンダ9の移動速度V及び移動加速度αのそれぞれを上限移動速度Vlim及び上限移動加速度αlim以下になるように制限し、バケット6の開き動作を相対的に遅くすることができる。
【0167】
また、コントローラ30は、具体的に、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性があるか否かを判断した上で、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性があると判断した場合に、バケット6の開き動作を相対的に遅くしてもよい。これにより、コントローラ30は、例えば、各センサS1~S4、S7B,S7R,S8B,S8R,S9B,S9R等の検出値に基づき、ショベル100の転倒モーメントを算出し、その算出値が所定閾値を超えた場合に、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性があると判断してよい。また、コントローラ30は、ショベル100の転倒モーメント及び抑制モーメントを算出し、抑制モーメントの算出値から転倒モーメントの算出値を減算した減算値が所定閾値以下になった場合に、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性があると判断してよい。
【0168】
また、コントローラ30は、上述のような後部浮き上がりシチュエーションにある場合に、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性があると判断し、バケット6の開き動作を相対的に遅くしてもよい。これにより、コントローラ30は、具体的に、後部浮き上がり現象が発生する可能性があるシチュエーションを特定した上で、バケット6の開き動作を制限できる。そのため、コントローラ30は、バケット6の開き動作が制限されうる期間を限定し、ショベル100の作業効率との両立を図ることができる。具体的には、コントローラ30は、バケット6に土砂等の収容物があったり、バケット6が通常仕様より大型の仕様品に変更されたりし、バケット6の収容物を含む重量が相対的に大きい場合に、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性があると判断してよい。このとき、コントローラ30は、例えば、撮像装置S6(カメラS6F)の撮像画像に基づき、バケット6に土砂等が収容されているか否かを把握してよい。また、コントローラ30は、例えば、ブーム姿勢センサS1、アーム姿勢センサS2、及びバケット姿勢センサS3の検出値と、既知のブーム4、アーム5、及びバケット6のリンク長等から算出されるバケット6の位置や外部から見たバケット6の絶対的な姿勢状態等に基づき、バケット6に土砂等が収容されているか否かを把握してもよい。また、コントローラ30は、例えば、入力装置42を通じて、オペレータにより設定入力される、現在取り付けられているバケット6の種類に関する情報に基づき、バケット6が通常使用より重量が大きい仕様品であるか否かを把握してよい。また、コントローラ30は、バケット6の位置が下部走行体1から相対的に離れている(より具体的には、所定閾値を超えている)場合、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性があると判断してよい。このとき、コントローラ30は、上述の如く、例えば、ブーム姿勢センサS1、アーム姿勢センサS2、及びバケット姿勢センサS3の検出値と、既知のブーム4、アーム5、及びバケット6のリンク長等に基づき、バケット6の位置を把握してよい。また、コントローラ30は、アタッチメントがバケット6内の収容物の排出動作を行う場合に、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性があると判断してよい。このとき、コントローラ30は、ブーム姿勢センサS1、アーム姿勢センサS2、及びバケット姿勢センサS3の検出値から把握される現在のアタッチメントの姿勢状態や、直前のショベル100の動作状態(例えば、バケット6に土砂等を収容したアタッチメントの姿勢状態で旋回動作が行われたか否か等)に基づき、アタッチメントがバケット6内の収容物の排出動作を行うか否かを判断してよい。
【0169】
また、コントローラ30は、上述のような後部浮き上がりシチュエーションにある場合で、更に、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性が相対的高いと判断したときに、バケット6の開き動作を遅くしてもよい。これにより、コントローラ30は、後部浮き上がり現象が発生する可能性があるシチュエーションを特定し、且つ、後部浮き上がり現象が発生する可能性が相対的に高まったことを確認した上で、バケット6の動作を制限できる。そのため、コントローラ30は、バケット6の開き動作が制限されうる期間を更に限定し、ショベル100の作業効率を向上させることができる。
【0170】
また、コントローラ30は、メインポンプ14を制御する代わりに、他の方法で、バケット6の開き動作を相対的に遅くしてもよい。
【0171】
例えば、図13図14は、それぞれ、本実施形態に係るショベル100の構成の第5例及び第6例を示すブロック図である。
【0172】
図13に示すように、本例では、操作装置26とコントロールバルブ17との間のパイロットライン27、具体的には、バケット6の開き操作以外の操作に対応するパイロットライン27A及びバケット6の開き操作に対応するパイロットライン27Bのうち、パイロットライン27Bに減圧弁V27Bが設けられる。減圧弁V27Bは、コントローラ30からの制御指令が入力されない場合、操作装置26からパイロットライン27Bに出力される、バケット6に関する操作に対応するパイロット圧をそのままコントロールバルブ17内のバケットシリンダ9に対応する制御弁174に作用させる。一方、減圧弁V27Bは、コントローラ30からの制御指令が入力される場合、当該制御指令に応じて、操作装置26からパイロットライン27Bに出力される、バケット6に関する操作に対応するパイロット圧を減圧し、減圧したパイロット圧をコントロールバルブ17内のバケットシリンダ9に対応する制御弁174に作用させる。これにより、減圧弁V27Bは、オペレータの操作装置26に対するバケット6に関する操作の実際の操作量よりも小さい操作量に相当する減圧したパイロット圧をコントロールバルブ17内のバケットシリンダ9に対応する制御弁174に作用させることができる。よって、コントローラ30は、減圧弁V27Bに制御指令を出力することにより、バケット6の開き動作を制限し、その動作を相対的に遅くすることができる。
【0173】
また、図14に示すように、本例では、バケットシリンダ9のボトム側油室とコントロールバルブ17との間の高圧油圧ラインに流量制御弁V9Bが設けられる。
【0174】
流量制御弁V9B(絞り弁の一例)は、コントローラ30から制御指令が入力される場合、当該制御指令に応じて、バケットシリンダ9のボトム側油室からコントロールバルブ17に向けて排出される作動油の流量を制限する(絞る)。これにより、流量制御弁V9Bは、バケット6の開き動作に対応するバケットシリンダ9の縮み方向の移動速度を相対的に遅くすることができる。よって、コントローラ30は、流量制御弁V9Bに制御指令を出力することにより、バケット6の開き動作を制限し、その動作を相対的に遅くすることができる。
【0175】
また、コントローラ30は、バケット6の動作制限を行う場合に、オペレータの操作に依らず、バケット6の動作制限がなされていること(つまり、安定化制御が行われていること)を通知してもよい。具体的には、コントローラ30は、表示装置40や音出力装置44に制御指令を出力することにより、視覚的な画像情報や聴覚的な音声情報を用いて、オペレータに当該通知を行ってよい。これにより、オペレータは、バケット6の動作制限が行われる場合に、その旨を把握することができるので、コントローラ30は、不意に、バケット6の動作制限が行われることによるオペレータの違和感を軽減させることができる。
【0176】
尚、上述した他の例では、バケット6の動作制限がされるが、他の種類のエンドアタッチメントが取り付けられている場合についても同様の動作制限が行われてよい。即ち、上述した他の例の制御内容は、アーム5の先端に任意のエンドアタッチメントが取り付けられている場合に適用されてよい。
【0177】
[ショベルの更に他の例]
次に、ショベル100の更に他の例について説明する。
【0178】
上述のショベル100の一例及び他の例は、適宜組み合わせられてよい。即ち、ショベル100は、上述の一例及び他の例のそれぞれに特有の内容の双方を含んでもよい。
【0179】
例えば、ショベル100は、下部走行体1の後部浮き上がり現象を抑制するために、アーム5の動作を補正し、閉じ方向へ動作させる機能と、バケット6の動作を補正し、動作速度を相対的に遅くする機能との双方を有してもよい。
【0180】
これにより、ショベル100は、下部走行体1の後部浮き上がり現象の発生や発生した後部浮き上がり現象の増大を更に抑制させることができる。
【0181】
[ショベル管理システムの構成]
次に、図15を参照して、ショベル管理システムSYSの構成について説明する。
【0182】
図15に示すように、ショベル100は、ショベル管理システムSYSの構成要素であってもよい。
【0183】
ショベル管理システムSYSは、ショベル100と、管理装置200と、携帯端末300とを含む。ショベル管理システムSYSに含まれるショベル100は、一台であっても複数台であってもよい。また、ショベル管理システムSYSに含まれる携帯端末300は、一台であってもよいし、複数台であってもよい。
【0184】
ショベル管理システムSYSは、例えば、管理装置200において、ショベル100から各種情報を収集し、ショベル100の運用状況や故障の有無等を監視する。また、ショベル管理システムSYSは、例えば、管理装置200から携帯端末300に対して、ショベル100に関する各種情報を配信したり、管理装置200からショベル100に制御指令を送信したりする。
【0185】
<ショベルの構成>
図15に示すように、ショベル100は、通信装置T1を含み、管理装置200と通信可能に構成される。
【0186】
通信装置T1は、所定の通信回線NWを通じて、ショベル100の外部装置(例えば、管理装置200)と通信を行う。通信回線NWは、例えば、基地局を末端とする移動体通信網を含んでよい。また、通信回線NWは、例えば、通信衛星を利用する衛星通信網を含んでもよい。また、通信回線NWは、例えば、インターネット網を含んでもよい。また、通信回線NWは、例えば、ブルートゥース(登録商標)やWiFi等の規格に基づく近距離通信網であってもよい。
【0187】
通信装置T1は、例えば、コントローラ30の制御下で、ショベル100で取得される各種情報を管理装置200にアップロード(送信)する。また、通信装置T1は、例えば、管理装置200から通信回線NWを通じて送信される情報を受信する。通信装置T1により受信される情報は、コントローラ30に取り込まれる。
【0188】
通信装置T1以外のショベル100のその他の構成は、例えば、図2図4図11図13図14等で表されてよい。そのため、その他の構成に関する説明を省略する。
【0189】
<管理装置の構成>
管理装置200は、ショベル100の外部に配置される。管理装置200は、例えば、ショベル100が作業を行う作業現場とは異なる場所に設置されるサーバである。当該サーバは、クラウドサーバであってもよいし、エッジサーバであってもよい。また、管理装置200は、例えば、ショベル100が作業を行う作業現場の管理事務所に配置される管理端末であってもよい。
【0190】
管理装置200は、制御装置210と、通信装置220と、表示装置230と、入力装置240とを含む。
【0191】
制御装置210は、管理装置200の動作に関する各種制御を行う。制御装置210は、その機能が任意のハードウェア、或いは、任意のハードウェア及びソフトウェアの組み合わせにより実現されてよい。制御装置210は、例えば、CPU、RAM等のメモリ装置、ROM等の補助記憶装置、及び各種の入出力用のインタフェース装置等を含むコンピュータを中心に構成される。以下、後述する携帯端末300の制御装置310についても同様である。
【0192】
通信装置220は、通信回線NWを通じて、所定の外部装置(例えば、ショベル100や携帯端末300)と通信を行う。通信装置220は、例えば、制御装置210の制御下で、ショベル100や携帯端末300に各種情報や制御指令等を送信する。また、通信装置220は、例えば、ショベル100や携帯端末300から送信(アップロード)される情報を受信する。通信装置220により受信される情報は、制御装置210に取り込まれる。
【0193】
表示装置230は、制御装置210の制御下で、管理装置200の管理者や作業者等(以下、「管理者等」)に向けて、各種情報画像を表示する。表示装置230は、例えば、有機EL(Electroluminescence)ディスプレイや液晶ディスプレイである。以下、後述する携帯端末300の表示装置330についても同様である。
【0194】
入力装置240は、管理装置200の管理者等からの操作入力を受け付け、制御装置210に出力する。入力装置240は、例えば、ボタン、トグル、レバー、ジョイスティック、キーボード、マウス、タッチパネル等の任意のハードウェアの操作入力手段を含む。また、入力装置240は、表示装置230に表示される、ハードウェアの操作入力手段(例えば、タッチパネル)を通じて操作可能な仮想的な操作入力手段(例えば、ボタンアイコン等)を含んでもよい。以下、後述する携帯端末300の入力装置340についても同様である。
【0195】
本例では、上述のショベル100(コントローラ30)の機能の一部は、管理装置200の制御装置210に移管されてよい。
【0196】
例えば、上述のショベル100の一例における動的不安定状態判定部301、静的不安定状態判定部302、及び安定化制御部303の機能は、管理装置200(制御装置210)に移管されてよい。
【0197】
制御装置210は、例えば、ショベル100からアップロードされる情報に基づき、上述と同様の方法で、ショベル100の機体が動的不安定状態にあるか否かや、静的不安定状態にあるか否かを監視(判定)してよい。そして、制御装置210は、ショベル100が動的不安定状態にある、或いは、静的不安定状態にあると判定した場合、通信装置220を通じて、アームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放するように指令する制御指令をショベル100に送信してよい。
【0198】
また、制御装置210は、例えば、ショベル100の機体が動的不安定状態にあるか否かや、静的不安定状態にあるか否かの監視結果(判定結果)に関する情報を携帯端末300に逐次送信してもよい。これにより、携帯端末300を所持するショベル100の管理者や作業現場の監督者等は、ショベル100の外部からその安定状態を把握することができる。
【0199】
また、例えば、上述のショベル100の他の例における安定化制御に関する機能は、管理装置200(制御装置210)に移管されてよい。
【0200】
制御装置210は、例えば、ショベル100からアップロードされる情報に基づき、上述と同様の方法で、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性があるか否かを判定(監視)してよい。そして、ショベル100の後部浮き上がり現象が発生する可能性があると判定した場合、通信装置220を通じて、エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くするように指令する制御指令をショベル100に送信してよい。
【0201】
また、制御装置210は、例えば、ショベル100に後部浮き上がり現象が発生する可能性があるか否かの監視結果(判定結果)に関する情報を携帯端末300に逐次送信してもよい。これにより、携帯端末300を所持するショベル100の管理者や作業現場の監督者等は、ショベル100の外部からその安定状態を把握することができる。
【0202】
<携帯端末の構成>
携帯端末300は、ショベル100のオーナ、管理者、作業現場の監督者、オペレータ等により所持される。携帯端末300は、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、ラップトップ型のコンピュータ端末等である。
【0203】
携帯端末300は、制御装置310と、通信装置320と、表示装置330と、入力装置340とを含む。
【0204】
制御装置310は、携帯端末300の動作に関する各種制御を行う。
【0205】
通信装置320は、通信回線NWを通じて、所定の外部装置(例えば、管理装置200)と通信を行う。通信装置320は、例えば、制御装置310の制御下で、管理装置200に各種情報を送信する。また、通信装置320は、例えば、管理装置200から送信(ダウンロード)される情報を受信する。通信装置320により受信される情報は、制御装置310に取り込まれる。
【0206】
表示装置330は、制御装置310の制御下で、携帯端末300のユーザに向けて各種情報画像を表示する。
【0207】
入力装置340は、携帯端末300のユーザからの操作入力を受け付け、制御装置310に出力する。
【0208】
携帯端末300のユーザは、入力装置340に対して所定の操作を行い、制御装置310にインストールされる所定のアプリケーションプログラム(以下、「ショベル安定状態閲覧アプリ」)を起動させる。そして、携帯端末300のユーザは、ショベル安定状態閲覧アプリに対応する所定のアプリ画面上で、入力装置340を通じて、ショベル100の安定状態に関する監視結果の閲覧を要求する要求信号を管理装置200に送信させるための操作を行う。制御装置310は、当該操作に応じて、通信装置320を通じて、要求信号を管理装置200に送信する。これにより、管理装置200は、携帯端末300からの要求信号に応じて、ショベル100の安定状態に関する監視結果(判定結果)を所定の制御周期毎に携帯端末300に逐次送信する。よって、携帯端末300のユーザは、ショベル100の外部からショベル100の安定状態を確認することができる。
【0209】
また、携帯端末300は、通信装置320を通じて、ショベル100と直接的に通信可能な構成であってもよい。この場合、上述のショベル100の一例における動的不安定状態判定部301、静的不安定状態判定部302、及び安定化制御部303の機能や上述のショベル100の他の例における安定化制御に関する機能は、携帯端末300の制御装置310に移管されてもよい。
【0210】
[作用]
次に、本実施形態に係るショベル100の作用について説明する。
【0211】
本実施形態では、コントローラ30は、ショベル100の機体の安定状態に合わせて、アーム5又はエンドアタッチメントの動作を補正する。具体的には、コントローラ30は、ショベル100の機体の安定度が相対的に高い場合、アーム5及びエンドアタッチメントにその操作内容又は自動運転機能の動作指令に応じた動作を行わせる。一方、コントローラ30は、ショベル100の安定度が相対的に低い場合、操作内容又は自動運転機能に関する動作指令に対応する動作よりも安定度が回復する方向に、アーム5又はエンドアタッチメントの動作を補正してよい。
【0212】
これにより、アタッチメントの空中動作時において、ショベル100の機体の安定度を相対的に高くなる方向に回復させることができる。そのため、コントローラ30は、アタッチメントの空中動作時に、ショベル100の機体に発生しうる不安定現象を抑制することができる。
【0213】
尚、コントローラ30は、ショベル100の安定状態に合わせて、アーム5又はエンドアタッチメントの動作を補正するのに加えて、ブーム4の動作を補正してもよい。例えば、コントローラ30は、後部浮き上がり現象が発生する可能性がある場合に、ブームシリンダ7のボトム側油室の圧力を開放してもよい。これにより、ブームシリンダ7がクッションの役割を果たし、後部浮き上がり現象の発生が抑制される。
【0214】
また、本実施形態では、コントローラ30は、ショベル100の動作に応じて、アーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0215】
これにより、アタッチメントの空中動作時において、ショベル100が機体に動的転倒モーメントを作用しうるような動作を行っても、アームシリンダ8の伸長方向、つまり、アーム5の閉じ方向に対応する移動によって、ショベル100の動作に起因する動的な外乱(動的転倒モーメント)の少なくとも一部が吸収され、ショベル100の機体に作用しにくくなる。また、アタッチメントの空中動作時において、ショベル100の動作に応じた、静的なモーメント(静的転倒モーメント及び抑制モーメント)の変化が生じるような場合でも、静的転倒モーメントの相対的な増加を抑制させることができる。よって、コントローラ30は、アタッチメントの空中動作時に、ショベル100の機体に発生しうる不安定現象を具体的に抑制することができる。
【0216】
尚、コントローラ30は、後部浮き上がり現象以外の不安定現象を抑制してもよい。例えば、図6Aに示すように、バケット6の収容物を外部に排出させるアタッチメントの動作が行われる場合、アタッチメントの動作に起因する動的な外乱によって、ショベル100の機体に不安定現象としての振動が発生する場合がありうる。このような場合についても、アーム5を動作させることによって、ショベル100(アタッチメント)の動作に起因する動的な外乱の少なくとも一部が吸収され、ショベル100の機体の振動を抑制することができる。
【0217】
また、本実施形態では、コントローラ30は、当該ショベル100の動作に応じて、ショベル100の機体に作用しうる動的なモーメント(動的転倒モーメント)を抑制するように、アーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0218】
これにより、コントローラ30は、具体的に、ショベル100の動作に応じて、ショベルの機体に作用しうる動的な外乱に対応する形で、アタッチメントの空中動作時における機体に発生しうる不安定現象を抑制することができる。
【0219】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントがバケット6の収容物を排出させる動作を行う場合、アーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0220】
これにより、コントローラ30は、動的なモーメント(動的転倒モーメント)が生じうる具体的なシチュエーションでの不安定現象の発生や増大を抑制することができる。
【0221】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントを進行方向に向けて下部走行体1が走行している状態で、下部走行体1が急減速した場合、アーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0222】
これにより、コントローラ30は、動的なモーメント(動的転倒モーメント)が生じうる具体的なシチュエーションでの不安定現象の発生や増大を抑制することができる。
【0223】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントを進行方向に向けて下部走行体1が走行している状態で、機体の前傾量が急に増加した場合、アーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0224】
これにより、コントローラ30は、動的なモーメント(動的転倒モーメント)が生じうる具体的なシチュエーションでの不安定現象の発生や増大を抑制することができる。
【0225】
また、本実施形態では、コントローラ30は、当該ショベル100の動作に応じた、機体に作用している静的なモーメント(静的転倒モーメント及び抑制モーメント)の変化を抑制するように、アーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0226】
これにより、コントローラ30は、具体的に、ショベル100の動作に応じた、機体に作用している静的なモーメント(静的転倒モーメント及び抑制モーメント)の変化に対応する形で、アタッチメントの空中動作時における機体に発生しうる不安定現象を抑制することができる。
【0227】
また、本実施形態では、コントローラ30は、バケット6が機体に対して相対的に離れている状態でのブーム4の下げ動作に応じて、アーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0228】
これにより、コントローラ30は、静的なモーメントの変化が生じうる具体的なシチュエーションでの不安定現象の発生や増大を抑制することができる。
【0229】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントがバケット6に土砂等の対象物を収容し持ち上げる動作に応じて、アーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0230】
これにより、コントローラ30は、静的なモーメントの変化が生じうる具体的なシチュエーションでの不安定現象の発生や増大を抑制することができる。
【0231】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントの向きが下部走行体1の進行方向から離れるように、上部旋回体3が旋回するのに応じて、アーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0232】
これにより、コントローラ30は、静的なモーメントの変化が生じうる具体的なシチュエーションでの不安定現象の発生や増大を抑制することができる。
【0233】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントを進行方向に向けて下部走行体1が走行している状態でのショベル100の機体の前傾量の増加に応じて、アーム5を閉じ方向に動作させてもよい。
【0234】
これにより、コントローラ30は、静的なモーメントの変化が生じうる具体的なシチュエーションでの不安定現象の発生や増大を抑制することができる。
【0235】
また、本実施形態では、コントローラ30は、ショベル100の動作に応じて、リリーフ弁V8Rにアームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放させて、自重でアーム5を閉じ方向に動作させてよい。
【0236】
これにより、コントローラ30は、アーム5を自重で動作させることで、ショベル100の静的不安定状態や動的不安定状態を解消させることができる。
【0237】
また、本実施形態では、コントローラ30は、ショベル100の動作に応じて、作動油保持回路90によるアームシリンダ8のロッド側油室の作動油の保持機能を解除することにより、リリーフ弁V8Rによるアームシリンダ8の作動油の圧力の開放機能を有効にしてよい。
【0238】
これにより、コントローラ30は、リリーフ弁V8Rよりも上流側、つまり、アームシリンダ8側にアーム5の落下防止用の作動油保持回路90が設けられている場合であっても、リリーフ弁V8Rでアームシリンダ8のロッド側油室の圧力を開放させることができる。よって、ショベル100は、アーム5の落下防止機能(アームシリンダ8のロッド側油室の作動油保持機能)と、ショベル100の機体の安定化制御に関する機能(アームシリンダ8の圧力の開放機能)とを両立させることができる。
【0239】
また、本実施形態では、コントローラ30は、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生するが可能性がある場合に、エンドアタッチメント(バケット6)の開き動作を相対的に遅くする。
【0240】
これにより、エンドアタッチメント(バケット6)の開き動作に起因して上部旋回体3に作用する動的転倒モーメントを抑制し、空中でのバケットの開き動作に起因する下部走行体1の後部浮き上がり現象を抑制することができる。
【0241】
尚、コントローラ30は、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生した場合に、バケット6の開き動作を相対的に遅くしてもよい。これにより、既に発生した下部走行体1の後部浮き上がり現象の増大を抑制し、早期に後部浮き上がり現象を収束させることができる。この場合、コントローラ30は、機体姿勢センサS4の検出値や撮像装置S6の撮像画像に基づき、下部走行体1の後部浮き上がり現象の発生を検出してよい。
【0242】
また、本実施形態では、コントローラ30は、エンドアタッチメントの重量(バケット6の場合、収容物を含む重量)が相対的に大きい場合、又は、エンドアタッチメントの位置が下部走行体1から相対的に離れている場合に、バケット6の開き動作を相対的に遅くしてよい。
【0243】
これにより、コントローラ30は、静的転倒モーメントが相対的に大きく、エンドアタッチメントの開き動作に起因して、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性が高い具体的な状況で、下部走行体1の後部浮き上がり現象の発生を抑制できる。また、コントローラ30は、同状況で、発生した後部浮き上がり現象の増大を抑制し、後部浮き上がり現象を早期に収束させることができる。
【0244】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントがバケット6内の収容物の排出動作を行う場合に、バケット6の開き動作を相対的に遅くしてよい。
【0245】
これにより、コントローラ30は、バケット6の開き動作が行われ、上部旋回体3に動的転倒モーメントが作用する可能性が高い具体的な状況において、下部走行体1の後部浮き上がり現象の発生を抑制することができる。同様に、コントローラ30は、同状況で、発生した後部浮き上がり現象の増大を抑制し、後部浮き上がり現象を早期に収束させることができる。
【0246】
また、本実施形態では、コントローラ30は、バケット6の位置が下部走行体1から相対的に離れており、且つ、アタッチメントがバケット6内の収容物の排出動作を行う場合に、バケット6の開き動作を相対的に遅くしてもよい。
【0247】
これにより、コントローラ30は、静的転倒モーメントが相対的に大きく、且つ、バケット6の開き動作が行われ、上部旋回体3に動的転倒モーメントが作用し、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性が非常に高い具体的な状況において、下部走行体1の後部浮き上がり現象の発生を抑制することができる。同様に、コントローラ30は、同状況で、発生した後部浮き上がり現象の増大を抑制し、後部浮き上がり現象を早期に収束させることができる。
【0248】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントがバケット6内の収容物の排出動作を行う場合、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性が相対的に高くなったとき、又は、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生したときに、バケット6の開き動作を相対的に遅くしてもよい。
【0249】
これにより、下部走行体1の後部浮き上がり現象が発生する可能性が相対的に高くなったり、実際に発生したりするまで、バケット6の動作が制限されない。よって、コントローラ30は、後部浮き上がり現象の抑制を図りつつ、ショベル100の作業効率を向上させることができる。
【0250】
また、本実施形態では、コントローラ30は、レギュレータ13を通じて、バケットシリンダ9(エンドアタッチメントシリンダの一例)に作動油を供給するメインポンプ14に吐出流量を制限させることにより、エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くしてよい。また、コントローラ30は、減圧弁V27Bを通じて、メインポンプ14からバケットシリンダ9に供給される作動油の流量を制御するコントロールバルブ17内の制御弁174にバケットシリンダ9への流量を制限させることにより、エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くしてもよい。また、コントローラ30は、流量制御弁(絞り弁)V9Rに、バケットシリンダ9(のボトム側油室)から排出される作動油の流量を絞らせることにより、エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くしてもよい。
【0251】
これにより、コントローラ30は、具体的に、バケットシリンダ9に供給される作動油を制限させて、エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くすることができる。
【0252】
また、本実施形態では、コントローラ30は、バケットシリンダ9の移動速度V及び移動加速度αを所定の上限値以下に制限することにより、エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くしてよい。
【0253】
これにより、コントローラ30は、エンドアタッチメントの開き動作を相対的に遅くする具体的な制御態様を実現することができる。
【0254】
尚、コントローラ30は、バケットシリンダ9の移動速度V及び移動加速度αのうちの何れか一方だけに上限値を設定し、当該一方だけを上限値以下に制限してもよい。
【0255】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントの状態を検出する所定のセンサ(各センサS1~S4、S7B,S7R,S8B,S8R,S9B,S9R等)の検出情報に基づき、バケットシリンダ9の移動速度及び移動加速度の少なくとも一方の上限値(上限移動速度Vlim、上限移動加速度αlim)を算出する。
【0256】
これにより、コントローラ30は、静的転倒モーメント及び動的転倒モーメントに影響するアタッチメントの姿勢状態や動作状態等を考慮して、上限値を算出することができる。よって、コントローラ30は、そのときの状況に合わせて、より適切に、エンドアタッチメントの開き動作を制限することができる。
【0257】
また、本実施形態では、コントローラ30は、アタッチメントの状態を検出する所定のセンサの検出情報に基づき、下部走行体1の後部を浮き上がらせる方向の転倒モーメント及び下部走行体1の後部の浮き上がりを抑制する方向の抑制モーメントを算出する。そして、コントローラ30は、算出した転倒モーメントが抑制モーメントを下回るように、バケットシリンダ9の上限移動速度Vlimや上限移動加速度αlimを算出する。
【0258】
これにより、コントローラ30は、ショベル100の転倒を抑制可能なバケットシリンダ9の移動速度や移動加速度の上限値を算出できる。
【0259】
以上、本発明を実施するための形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0260】
また、上述した実施形態及び変形例では、ショベル100は、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の各種動作要素を全て油圧駆動する構成であったが、その一部が電気駆動される構成であってもよい。つまり、上述した実施形態で開示される構成等は、ハイブリッドショベルや電動ショベル等に適用されてもよい。
【0261】
最後に、本願は、2018年9月27日に出願した日本国特許出願2018-181988号、及び2018年10月3日に出願した日本国特許出願2018-188453号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0262】
1 下部走行体
1L 走行油圧モータ
1R 走行油圧モータ
2A 旋回油圧モータ
2 旋回機構
3 上部旋回体
4 ブーム
5 アーム
6 バケット
7 ブームシリンダ
8 アームシリンダ
9 バケットシリンダ
10 キャビン
11 エンジン
13 レギュレータ
14 メインポンプ(油圧ポンプ)
15 パイロットポンプ
17 コントロールバルブ
17A 制御弁
25,25A パイロットライン
26 操作装置
27,27A,27B,27U パイロットライン
28 吐出圧センサ
29 操作圧センサ
30 コントローラ
40 表示装置
42 入力装置
44 音出力装置
50 フック収納部
51 フック収納状態検出装置
62 バケットピン
70 バケットリンク
80 フック
90 作動油保持回路
90a 保持弁
90b スプール弁
92 電磁切換弁
94 シャトル弁
100 ショベル
S1 ブーム姿勢センサ
S2 アーム姿勢センサ
S3 バケット姿勢センサ
S4 機体姿勢センサ
S5 旋回状態センサ
S6 撮像装置
S6B,S6F,S6L,S6R カメラ
S7B ブームボトム圧センサ
S7R ブームロッド圧センサ
S8B アームボトム圧センサ
S8R アームロッド圧センサ
S9B バケットボトム圧センサ
S9R バケットロッド圧センサ
V8R リリーフ弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15