(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】熱可塑性フィルムの生成方法および生成装置
(51)【国際特許分類】
B29C 48/88 20190101AFI20230828BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20230828BHJP
B29C 48/154 20190101ALI20230828BHJP
【FI】
B29C48/88
B29C48/08
B29C48/154
(21)【出願番号】P 2020553903
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042211
(87)【国際公開番号】W WO2020090755
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2018202851
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591040708
【氏名又は名称】株式会社瑞光
(74)【代理人】
【識別番号】110001265
【氏名又は名称】弁理士法人山村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀幸
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1998/045116(WO,A1)
【文献】特開2010-221562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
B29C 44/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性フィルムFの生成装置であって、
前記フィルムFとなる熱可塑性の溶融樹脂を吐出口TOからフィルム状に吐出する吐出部Tと、
無端状の第1ベルトB1および第2ベルトB2と、
前記第1ベルトB1が巻き掛けられる第1ロールR1群と、
前記第2ベルトB2が巻き掛けられる第2ロールR2群とを備え、
前記第1および第2ロールR1,R2群は前記第1および第2ベルトB1,B2の双方が巻き掛けられる複数の共通ロールR3を含み、
前記共通ロールR3に巻き掛けられ前記フィルムFを挟んで互いに接する前記両ベルトB1,B2の部位において前記フィルムFを搬送するパスライン3が形成され、
前記パスライン3よりも上流において前記第1ロールR1群のうちの1つの第1ロールR1に前記溶融樹脂が到達するように前記吐出部Tの吐出口TOが設けられ、
前記共通ロールR3は前記吐出口TOから吐出され前記第1ロールR1に到達した溶融樹脂を冷却して固化させる冷却ロールを
含み、
ここにおいて、前記パスライン3の下流には、前記フィルムFをシートS1に合流させて積層させる合流部を更に備える、生成装置。
【請求項2】
請求項1において、前記1つの第1ロールR1は前記冷却ロールである、生成装置。
【請求項3】
請求項1において、前記1つの第1ロールR1における前記溶融樹脂が到達する部位よりも上流において、前記第1ベルトB1が前記1つの第1ロールR1に巻き掛けられている、生成装置。
【請求項4】
請求項3において、前記第1および第2ベルトB1,B2の幅Dは前記冷却ロールの軸方向Rsの長さLよりも小さく、前記第1および第2ベルトB2は、
前記フィルムFを挟んで搬送する第1位置P1と、前記フィルムを挟まない第2位置P2との間を、前記軸方向Rsに移動自在に設けられている、生成装置。
【請求項5】
請求項1において、前記フィルム状の溶融樹脂が前記1つの第1ロールR1に到達するように、前記フィルム状の溶融樹脂を前記1つの第1ロールR1に押し付ける手段を備える、生成装置。
【請求項6】
請求項5において、前記押し付ける手段は前記第1ロールR1の表面に向かって流体を吹き付けるブロワ4である、生成装置。
【請求項7】
請求項1において、前記第1および第2ベルトB1,B2が選択的に掛け渡される別の共通ロールR3を更に備える、生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば使い捨てオムツなどの使い捨て吸収性物品の一部に利用できる熱可塑性フィルムの生成方法および生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、吸収性物品の積層体として、一対の不織布シートの間にエラストマーフィルム(elastomer film)を挟んだ構造が提案されている。また、この積層体の製造ラインにおいて、溶融状態の樹脂から前記フィルムを生成する提案がなされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
上記従来技術では、溶融した状態の樹脂を吐出口からフィルム状に押し出し、押し出されたフィルム状で粘着性を有するプレエラストマー(pre‐elastomer)を冷却することでエラストマーフィルムを生成し、その後、エラストマーフィルムを不織布シートに積層している。
【0005】
かかる製造ラインにおいて、一旦、積層体の製造を停止し、その後、前記製造を再開する場合、前記粘着性のプレエラストマーのパスライン(pass line:搬送系路)を形成してエラストマーフィルムのパスラインを形成する必要がある。しかし、従来はオペレータが粘着性のプレエラストマーの先端部を引っ張ってプレエラストマーのパスラインを形成していた。かかる作業はプレエラストマーが完全に固化していないことがあるため、困難を伴う。
【0006】
例えば吸収性物品の製造ラインにおいてエラストマーフィルムを生成し、エラストマーフィルムを弾性部材として用いる場合、製造する製品のサイズの変更等でしばしばラインを停止させることがあり、上記のような作業も多くなる。
【0007】
本発明の目的は、熱可塑性フィルムの生産ラインにおいて生産ラインが停止しても容易にフィルム用パスラインを形成可能な熱可塑性フィルムの生成方法および装置を提供する。
【0008】
本発明の製造装置は、熱可塑性フィルムFの生成装置であって、
前記フィルムFとなる熱可塑性の溶融樹脂を吐出口TOからフィルム状に吐出する吐出部Tと、
無端状の第1ベルトB1および第2ベルトB2と、
前記第1ベルトB1が巻き掛けられる第1ロールR1群と、
前記第2ベルトB2が巻き掛けられる第2ロールR2群とを備え、
前記第1および第2ロールR1,R2群は前記第1および第2ベルトB1,B2の双方が巻き掛けられる複数の共通ロールR3を含み、
前記共通ロールR3に巻き掛けられ前記フィルムFを挟んで互いに接する前記両ベルトB1,B2の部位において前記フィルムFを搬送するパスライン3が形成され、
前記パスライン3よりも上流において前記第1ロールR1群のうちの1つの第1ロールR1に前記溶融樹脂が到達するように前記吐出部Tの吐出口TOが設けられ、
前記共通ロールR3は前記吐出口TOから吐出され前記第1ロールR1に到達した溶融樹脂を冷却して固化させる冷却ロールを含む。
【0009】
一方、本発明の生成方法は、熱可塑性フィルムFの生成方法であって、
前記フィルムFとなる熱可塑性の溶融樹脂を吐出口TOからフィルム状に吐出する吐出部Tと、
無端状の第1ベルトB1および第2ベルトB2と、
前記第1ベルトB1が巻き掛けられる第1ロールR1群と、
前記第2ベルトB2が巻き掛けられる第2ロールR2群と、
前記第1および第2ロールR1,R2群に含まれ前記第1および第2ベルトB1,B2の双方が巻き掛けられる複数の共通ロールR3とを用い、
前記第1ロールR1群のうちの1つの第1ロールR1にフィルム状の前記溶融樹脂が到達するように前記溶融樹脂を前記吐出部Tの吐出口TOから吐出する工程と、
前記第1ロールR1に到達した溶融樹脂を冷却ロールで冷却して固化した前記フィルムFを得る工程と、
前記共通ロールR3に巻き掛けられ前記フィルムFを挟んで互いに接する前記両ベルトの部位において形成されたパスライン3に沿って前記フィルムを搬送する工程とを備える。
【0010】
本発明においては、吐出口から吐出して垂下されたフィルム状の溶融樹脂が第1ロール上の第1ベルトに到達し、冷却ロールで冷却された後に、パスラインに沿って搬送される。ここで、パスラインにおいてはフィルムが第1および第2ベルトに挟まれて搬送されるので、粘着性の溶融樹脂の先端部をオペレータが引っ張る作業が不要になり、フィルムをパスラインに自動的に導入することができる。
【0011】
本発明において、前記熱可塑性フィルムFはエラストマーフィルムFであってもよい。
【0012】
本発明において、熱可塑性フィルムは伸縮性が少ないプラストマーフィルムであってもよい。また、熱可塑性フィルムがエラストマーフィルムである場合、長さが2倍~数倍まで伸張し、かつ、元の長さに復元する伸縮性の大きいフィルムであってもよい。
【0013】
本発明において、溶融樹脂とは、熱可塑性の樹脂(例えば熱可塑性エラストマー)の軟化点以上の温度でTダイ等の吐出口からフィルム状に吐出される樹脂を意味する。
【0014】
熱可塑性エラストマーとは、加熱によって軟化し、外力によって変形するが、室温でゴム弾性を呈する高分子材料をいう。熱可塑性エラストマーとしては、たとえばポリエチレン共重合体を採用することができる(JPH10-29259 A参照)。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の生成装置の一実施例を示し、吐出口から溶融樹脂を垂下する工程を示す概略レイアウト図である。
【
図2】
図2は吐出口から垂下した溶融樹脂の先端部が第2ベルトで搬送される状態を示す同レイアウト図である。
【
図3】
図3はパスラインにフィルムが導入される状態を示す同レイアウト図である。
【
図4】
図4はフィルムがパスラインを搬送される状態を示す同レイアウト図である。
【
図5】
図5はフィルムが一対のシートの間に挟まれてシートに合流する状態を示す同レイアウト図である。
【
図6】
図6Aはベルトの移動機構の一例を示す断面図、
図6Bはベルト、フィルムおよび共通ロールの関係を示す概念図、
図6Cおよび
図6Dは各々ベルトとフィルムの関係を示す断面図である。
【
図7】
図7は一対のベルトがパスラインから移動された状態を示す同レイアウト図である。
【
図8】
図8は生成装置の他の例を示す概略レイアウト図である。
【
図10】
図10はベルトの移動機構の他の例を示す断面図である。
【0016】
図1~
図5および
図7~
図9において、図を見易くするために、第1および第2ベルトは互いに異なる濃度のグレーの太線で表示され、不織布シートはグレーの太線で表示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
好ましくは、前記1つの第1ロールR1は前記冷却ロールである。
【0018】
この場合、1つの第1ロールに到達した溶融樹脂が直ちに冷却され始める。
【0019】
好ましくは、前記1つの第1ロールR1における前記溶融樹脂が到達する部位よりも上流において、前記第1ベルトB1が前記1つの第1ロールR1に巻き掛けられている。
【0020】
この場合、フィルム状の溶融樹脂が第1ロールと第1ベルトにわたって拡がった状態で溶融樹脂を第1ロールに供給することができる。
【0021】
好ましくは、前記第1および第2ベルトB1,B2の幅Dは前記冷却ロールの軸方向Rsの長さLよりも小さく、前記第1および第2ベルトB2は、
前記フィルムFを挟んで搬送する第1位置P1と、前記フィルムを挟まない第2位置P2との間を、前記軸方向Rsに移動自在に設けられている。
【0022】
この場合、フィルムの先端がパスラインを通過してフィルムの搬送が安定した後に、両ベルトを第2位置に移動すれば、フィルムを両ベルトで挟まずに搬送することができる。
【0023】
好ましくは、前記フィルム状の溶融樹脂が前記1つの第1ロールR1に到達するように、前記フィルム状の溶融樹脂を前記1つの第1ロールR1に押し付ける手段を備える。
【0024】
この場合、第1ベルトと第2ベルトの間に溶融樹脂が導入される前に溶融樹脂を1つの第1ロールで搬送することができる。
【0025】
好ましくは、前記押し付ける手段は前記第1ロールR1の表面に向かって流体を吹き付けるブロワ4である。
【0026】
この場合、第1ロールの表面の広い面積にわたって溶融樹脂を押し拡げることができる。
【0027】
好ましくは、前記第1および第2ベルトB1,B2が選択的に掛け渡される別の共通ロールR3を更に備える。
【0028】
この場合、冷却ロールの数を増減するこができる。
【0029】
好ましくは、前記パスライン3の下流には、前記フィルムFをシートS1に合流させて積層させる合流部を更に備える。
【0030】
この場合、フィルムとシートとが積層された積層体を形成できる。
【0031】
好ましくは、前記フィルム状の溶融樹脂が前記第1ベルトB1および前記第1ロールR1の双方にわたって前記第1ロールの軸方向Rsに拡がった状態で、前記フィルム状の溶融樹脂が前記第1ベルトB1および前記第1ロールR1上に到達した後に搬送されて前記パスライン3に向かって導入される。
【0032】
更に好ましくは、前記フィルムFが前記第1ベルトB1および前記共通ロールR3の双方にわたって前記軸方向Sに拡がった状態で、前記フィルムFが前記パスライン3を搬送される。
【0033】
これらの場合、フィルムがパスラインを通過するまでは、第1および第2ベルトでフィルムを搬送でき、フィルム用パスラインの形成が容易である。一方、フィルムの状態が安定した後は両ベルトを外すことで共通ロールにより形成されるパスラインに沿ってフィルムを搬送することができる。
【0034】
1つの前記各実施態様または下記の実施例に関連して説明および/または図示した特徴は、1つまたはそれ以上の他の実施態様または他の実施例において同一または類似な形で、および/または他の実施態様または実施例の特徴と組み合わせて、または、その代わりに利用することができる。
【実施例】
【0035】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかし、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。本発明の範囲は請求の範囲によってのみ定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
なお、本明細書のカタカナ表記の一部には、その意味をより明瞭にするために英単語を()書で併記している。
【0036】
以下、本発明の一実施例を
図1~
図7に基づいて説明する。
まず、生成装置100について説明する。
図7の本フィルムの生成装置はフィルムFを不織布からなる第1および第2シートS1,S2の間に挟んだ積層体Wの製造装置200の一部を構成する。
【0037】
本実施例において生成される熱可塑性フィルムは例えばエラストマーフィルムFである。このエラストマーフィルムFは、吐出部Tの吐出口TOから吐出された溶融状態の樹脂がプレエラストマーMの状態でフィルム用パスライン3を通過する間に冷却されて固化されて生成される。ここで、プレエラストマーMとは、溶融状態で吐出口を出た直後の弾性のない液体に近い性質の膜状(フィルム状)の熱可塑性エラストマーを意味する。
【0038】
図5において、第1および第2ベルトB1,B2は共通ロールR3に巻き掛けられ前記フィルムM,Fを挟んで互いに接する両ベルトB1,B2の部位において前記フィルムM,Fを搬送する。
図7に示すように、定常運転時には前記フィルム用パスライン3のフィルムM,Fは共通ロールR3に直接巻き掛けられた状態となる。
【0039】
図5において、前記吐出部Tは、プレエラストマーMとなる溶融状態の樹脂を吐出口TOから垂下してフィルム状の前記プレエラストマーMを連続的に吐出する。吐出部Tの斜め下方にはブロワ(押し付ける手段)4が設けられていてもよい。
【0040】
図5において、前記ブロワ4は前記第1ロールR1の表面に向かって流体を吹き付けることで、フィルム状の溶融樹脂が前記第1ロールR1に拡がった状態で到達するように、前記フィルム状の溶融樹脂を前記第1ロールR1に押し付ける。
【0041】
図5において、第1および第2ベルトB1,B2は、無端状で、各々、第1ロールR1群および第2ロールR2群とに巻き掛けられている。前記第1および第2ロールR1,R2群は前記第1および第2ベルトB1,B2の双方が巻き掛けられる複数の共通ロールR3を含む。なお、第1および第2ベルトB1,B2は前記各ロールR1~R3のうちのいずれか1つの駆動ロールを介して回転駆動され、この回転駆動により他のロールR1~R3を従動回転させていてもよい。
【0042】
図5において、前記共通ロールR3は冷却ロールT1~T3を含み、前記冷却ロールは吐出口TOから吐出され前記第1ロールR1(第1冷却ロールT1)に到達した溶融樹脂を冷却して固化させる。冷却ロールとしては例えば、第1~第3冷却ロールT1~T3が設けられていてもよい。
なお、各冷却ロールは溶融樹脂またはフィルムを冷却するためのもので、冷媒が流れることによりロール表面を冷却する流路を内部に備えていてもよい。
【0043】
図5において、前記吐出部Tの吐出口TOは前記パスライン3よりも上流において第1ロールR1群のうちの最も上流の冷却ロールT1に溶融樹脂が到達するように設けられていてもよい。第1冷却ロールT1における溶融樹脂が到達する部位よりも上流において、第1ベルトB1が第1冷却ロールT1に巻き掛けられている。
【0044】
図6Bに示すように、第1および第2ベルトB1,B2は各々一対設けられている。前記第1および第2ベルトB1,B2の幅Dは前記各冷却ロールT1~T3の軸方向Rsの長さLよりも小さい。第1および第2ベルトB2は、
図6BのフィルムFの両側縁を挟んで搬送する第1位置P1と、
図6Cまたは
図6Dのフィルムを挟まない第2位置P2との間を
図6Aの軸方向Rsに移動自在に設けられている。
【0045】
図6Aは各ベルトトB1,B2の移動機構300の一例を示す。
図6Aに示す第1ロールR1,R1(および第2ロールR2,R2)は軸方向Rsに離間して一対設けられていると共に軸方向Rsにスライド移動可能な移動ロールR10を構成する。
【0046】
図6Aの各移動ロールR10には、ベルトB1又はB2を介してクランプロールR4が押し付けられている。前記クランプロールR4および移動ロールR10は、スライダ5を介して案内レール6に沿って軸方向Rsに移動自在に設けられている。
【0047】
図6Aの前記スライダ5はエアシリンダのような駆動源に連結されており、エアシリンダの収縮で
図6Bの前記第1位置P1または第2位置P2に対応する位置の間を往復移動する。なお、
図6Dのように、第2位置P2において、第1ベルトB1と第2ベルトB2とは互いに対面しない位置まで移動してもよい。
【0048】
図7は各ベルトB1,B2がフィルム用パスライン3から退避した状態を示す。この図に示す定常運転時においてプレエラストマーMおよびエラストマーフィルムFはフィルム用パスライン3において共通ロールR3の表面のみに接し各ベルトB1,B2には接していない。
【0049】
つぎに、定常的な製造方法について説明する。
【0050】
図7は連続的に積層体Wを生成する定常運転時を示す。この図において吐出部TはTダイと呼ばれる周知の押出成形機で、溶融状態の熱可塑性エラストマー(樹脂)がTダイに一時的に貯留されている。Tダイは、その吐出口TOからプレエラストマーMとなる溶融状態の樹脂をフィルム状に吐出してプレエラストマーMを連続的に生成する。
【0051】
図7の吐出口TOから吐出されたプレエラストマーMは第1冷却ロールT1の外周面に巻き込まれて一時冷却されると共に、下流の第2および第3冷却ロールT2,T3の外周面に向かって搬送される。これにより、プレエラストマーMは概ね固化してエラストマーフィルム(熱可塑性フィルムの一例)Fとしての弾性(伸縮性)を持つようになる。
【0052】
図7の第2および第3冷却ロールT2,T3に向かったプレエラストマーMは第2および第3冷却ロールT2,T3の外周面によって二次冷却される。これにより、プレエラストマーMは完全に固化してエラストマーフィルム(弾性フィルム)Fとなる。
【0053】
図7において、前記二次冷却されたエラストマーフィルムFは更に下流のニップロールNrの間で挟まれた後、接合ロールArに向かう。接合ロールArはニップロールNrよりも周速度(搬送速度)が大きく、そのため、エラストマーフィルムFはニップロールNrと接合ロールArとの間で搬送方向に伸張される。
【0054】
すなわち、
図7のニップロールNrは接合ロールArよりも上流において前記エラストマーフィルムFを挟む。エラストマーフィルムFがフィルム用パスライン3を通過した後に、ニップロールNrにおけるエラストマーフィルムFの搬送速度Vsよりも接合ロールArにおけるエラストマーフィルムFの搬送速度Vが大きいことによって、両シートS1,S2に接合される前のエラストマーフィルムFは搬送方向に伸張される。これにより、エラストマーフィルムFにプレストレス(張力)が付与される。
【0055】
このように、溶融樹脂はプレエラストマー(フィルム原料)Mの状態を経てエラストマーフィルム(熱可塑性フィルム)Fとなる。ここで、物質としての溶融樹脂からプレエラストマーMへの遷移やプレエラストマーMからエラストマーフィルムFへの遷移をどの時点で呈するかは、ガラス転移温度や樹脂の厚さや室温により区々であり、定かではない。
【0056】
例えば、溶融樹脂は吐出口TOを出た直後にプレエラストマーMとなり、一見した外観は固体のようであるが、弾性のない液体に近い性質の場合がある。
【0057】
一方、プレエラストマーMはニップロールNrから下流において引っ張られている部位ではエラストマーフィルムFに変化しているが、ニップロールNrの上流の第2冷却ロールT2に接してからエラストマーフィルムFになる場合や、第1冷却ロールT1に接してからエラストマーフィルムFになる場合など区々である。
【0058】
したがって、フィルム用パスライン3は、フィルムが少なくとも一部においてプレエラストマー(フィルム原料)Mの状態の当該フィルムの搬送経路を意味する。
【0059】
一方、
図7の接合ロールArには、不織布からなる第1および第2シートS1,S2が供給される。各シートS1,S2は、それぞれ、シート用の第1または第2パスライン1,1Aに沿って接合ロールArに供給される。
【0060】
図7のエラストマーフィルムFは第1および第2シートS1,S2に挟まれた状態で接合ロールArに導入され、接合ロールAr上において、一対のシートS1およびS2とエラストマーフィルムFとが超音波ホーンHによって互いに接合されて積層され積層体Wが生成される。
【0061】
すなわち、
図7のエラストマーフィルムFがフィルム用パスライン3を通過した後に、ホーンHが接合ロールArに対し超音波振動を繰り返し、エラストマーフィルムFを接合ロールAr上において第1および第2シートS1,S2に接合して積層体Wが生成される。こうして、接合ロールArの外周面に沿って両シートS1,S2およびエラストマーフィルムFが重なって搬送され、接合ロールArに対しホーンHが超音波振動することにより、両シートS1,S2およびエラストマーフィルムFに超音波エネルギーが付与され、フィルムFが両シートS1,S2に接合されて積層される。
【0062】
なお、積層体WはホーンHによる超音波接合ではなく、加熱ロールにより熱溶着されて生成されてもよい。
また、前記接合は前記積層体Wが伸縮領域と接合領域とを交互に有するように、例えば、間欠的になされてもよい。
【0063】
図7の積層体Wの生産は連続的に行われるが、サイズ変更などに伴い、一旦、前記生産が停止される場合がある。この場合、新たなエラストマーフィルムFについて、
図1~
図5に示すフィルム用パスライン3の形成が実行される。
【0064】
つぎに、積層体の製造装置200について説明する。
図7において、ニップロールNrおよび各冷却ロールT1~T3は図示しないモータにより周速度Vsで回転駆動される。一方、前記接合ロールArは図示しないモータによって前記周速度Vsよりも大きい周速度Vで回転駆動される。
【0065】
図7において、シート用の各パスライン1,1AはシートSを搬送するための1つまたは複数のロール21および接合ロールArなどで形成されている。前記積層体のパスライン2は積層体Wを搬送するための接合ロールArおよびロール22などで形成されている。前記フィルム用パスライン3はプレエラストマーMまたはエラストマーフィルムFを搬送するための第1~第3冷却ロールT1~T3と、共通ロールR3と、エラストマーフィルムFを両シートS1,S2に接合するための接合ロールArなどで形成されている。なお、積層体Wのパスライン2は一対のシート用のパスライン1,1Aおよびフィルム用パスライン3が接合ロールArにおいて合流して形成される。
【0066】
つぎに、新たな積層体Wの生産に先立って必要なフィルム用パスライン3にフィルムを通過させる工程について説明する。
【0067】
図1において、吐出口TOから垂下されたプレエラストマーMの一方の側面に対向するように第1冷却ロールT1が配置される。したがって、吐出部Tから吐出されたプレエラストマーMは第1冷却ロールT1に接触することなく、真下に向かって垂下される。
【0068】
すなわち、
図1のプレエラストマーMとなる溶融状態の樹脂が吐出部Tの吐出口TOから垂下され、フィルム状のプレエラストマーMが連続的に吐出される。こうして、プレエラストマーMは鉛直面に沿って、1つの平らな平面上を各ロールT1,T2,T3に触れることなく垂下される。
【0069】
一方、吐出口TOの真下においては、第2ベルトB2が横方向にないし斜め横方向に搬送されている。第2ベルトB2が搬送されている状態で、
図2のように、吐出口TOから吐出されて垂下した前記プレエラストマーMの先端部Eは第2ベルトB2で受け止められる。
【0070】
この受け止め後、
図3に示すように、前記先端部Eは前記第2ベルトB2に重なり、当該重なった状態でプレエラストマーMは第2ベルトB2により前記フィルム用パスライン3に向かって搬送される。
【0071】
すなわち、
図3のプレエラストマーMはフィルム用パスライン3に導入されると共に、第1冷却ロールT1および第1ベルトB1に接触するようにフィルム用パスライン3に導入される。こうして、
図4のように、第1ロールR1群のうちの1つの第1冷却ロールT1にフィルム状の溶融樹脂が到達するように溶融樹脂が前記吐出部Tの吐出口TOから吐出されるようになる。
【0072】
図4の前記フィルム用パスライン3は共通ロールR3に巻き掛けられフィルムFを挟んで互いに接する両ベルトの部位において形成されている。前記プレエラストマーMは前記フィルム用パスライン3に沿って搬送される。このパスライン3において第1冷却ロールT1に到達した溶融樹脂およびプレエラストマーMは各冷却ロールT1,T2,T3で冷却されて固化したエラストマーフィルムFになる。
【0073】
これらの工程において、
図6Bに示すように、フィルム状の溶融樹脂は第1ベルトB1および第1ロールR1の双方にわたって第1ロールR1の軸方向Rsに拡がった状態で、フィルム上の溶融樹脂が第1ベルトB1および前記第1ロールR1上に到達した後に搬送されて前記パスライン3(
図5)に向かって導入される。
【0074】
同様に、
図6Bに示すように、フィルムFは前記第1ベルトB1および共通ロールR3の双方にわたって軸方向Rsに拡がった状態で、フィルムFはパスライン3を搬送される。
【0075】
こうして、
図5のようにエラストマーフィルムFの先端部Eが合流部である接合ロールArに到達すると、以下に説明するようにフィルム用パスライン3から第1および第2ベルトB1,B2が
図6C,
図6Dおよび
図7に示すように、取り除かれる。
【0076】
すなわち、
図6Bのように、両ベルトB1,B2はフィルムF(M)の幅方向の両側縁に沿って配置された第1位置P1から、
図6Cまたは
図6Dに示すように、フィルムF(M)から外れた第2位置P2に移動される。これにより、両ベルトB1,B2はフィルムF(M)を挟んで搬送する第1位置P1から、フィルムF(M)を挟まない第2位置P2に軸方向Rsに移動する。
【0077】
図6Bの両ベルトB1,B2および前記各共通ロールR3に接触していた前記フィルムF(M)は、前記両ベルトの軸方向Rsへの移動により、
図7のように前記両ベルトB1,B2に接触することなく、各共通ロールR3に接触しながら搬送される。
【0078】
図6Aにおいて、前記両ベルトの移動は、前記スライダ5がモータやエアシリンダのようなアクチュエータの作動により前記案内レール6に沿って軸方向Rsの外側に移動され、前記第1ロールR1,(R2)およびクランプロールR4が軸方向Rsの外側に移動することで実行される。
【0079】
図7において、前記両ベルトの移動により両ベルトB1,B2がフィルム用パスライン3から退避すると、前述のように、フィルムFが定常的に生成され、一対のシートS1,S2の間に挟まれて、積層体Wが連続的に生成される。
【0080】
図8および
図9は他の実施例を示す。
図8および
図9に示すように、本実施例において、吐出部Tおよびブロワ4は第1冷却ロールT1に対し、水平方向に移動自在である。
【0081】
すなわち、吐出部Tは第2ベルトB2の真上の
図8の位置から
図9の第1冷却ロールT1に接近した位置に移動する。一方、
図8のブロワ4は第1冷却ロールT1から離れた位置から
図9の第2冷却ロールT2に接近した位置に移動する。
【0082】
これにより、
図8の吐出口TOから垂下したプレエラストマーMはブロワ4からの流体で第1冷却ロールT1に到達し易いだけでなく、
図9のように、第1冷却ロールT1に接触する面積が大きくなって、両ベルトB1,B2に挟まれる前に冷却され易くなる。
【0083】
図10は各ベルトB1,B2をパスライン3から退避させるためのスライド機構300の他の例を示す。
図10の例は
図6AのクランプロールR4に代えて、あるいは、
図6AのクランプロールR4に加えて、
図10の一対のスライドローラR5,R5を備える。
【0084】
図10のスライド機構300は1本のベルトB1(B2)毎に設けられている。このスライド機構300のスライドローラR5,R5は案内レール6に対しスライドするスライダ5に取り付けられており、前記各冷却ロールT1~T3(
図1)の軸方向Rs、つまり、ベルト幅方向Rsに移動自在である。
【0085】
図10の一対のスライドローラR5,R5は、各ベルトB1(B2)の表面(平面)に直交する方向に軸線が設定され、各ベルトB1(B2)の両側に配置されている。
【0086】
今、一対のスライドローラR5,R5がベルト幅方向Rsに移動されると、一方のスライドローラR5がベルトB1(B2)の側面を押すことで、ベルトB1(B2)がベルト幅方向Rsに移動されて、二点鎖線で示すようにパスライン3(
図1)から取り除かれる。
なお、スライドローラR5,R5がベルトB1(B2)を押す際にベルトB1(B2)は捩じれるが、スライドローラR5,R5がベルトB1(B2)を押し終わると、二点鎖線で示すように、ベルトB1(B2)は捩じれていない状態に戻る。
【0087】
ところで、
図1の吐出口TOから吐出されたプレエラストマーMは生成当初は品質にバラツキがあり、したがって、生成当初のプレエラストマーMを切断除去して廃棄してもよい。
【0088】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
たとえば、冷却ロールは1本のみ設けられていてもよい。また、冷却ロールを設けずに、プレエラストマーを空冷により冷却してもよい。
したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる本発明の範囲内のものと解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は使い捨てオムツなどの着用物品の積層体の一部を構成する熱可塑性フィルムの製造に利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1:シート用の第1パスライン 1A:シート用の第2パスライン
2:積層体のパスライン 3:フィルム用パスライン
4:ブロワ 5:スライダ 6:案内レール
100:生成装置 200:製造装置 300:スライド機構
B1:第1ベルト B2:第2ベルト D:幅
F:エラストマーフィルム(熱可塑性フィルム) M:プレエラストマー E:先端部
Ar:接合ロール H:ホーン Nr:ニップロール
T:吐出部 TO:吐出口
T1:第1冷却ロール T2:第2冷却ロール T3:第3冷却ロール
P1:第1位置 P2:第2位置
R1:第1ロール R2:第2ロール R3:共通ロール R4:クランプロール
R5:スライドローラ R10:移動ロール
Rs:軸方向 L:長さ
S1:第1シート S2:第2シート W:積層体