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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】免疫賦活化作用を有する乳酸菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230828BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20230828BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20230828BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
A61K35/747
A61P37/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021086355
(22)【出願日】2021-05-21
(65)【公開番号】P2022179099
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2021-12-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-03
【微生物の受託番号】NITE  P-03358
【微生物の受託番号】NITE  P-03359
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500175565
【氏名又は名称】株式会社ぐるなび
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓司
(72)【発明者】
【氏名】澤田 和典
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】田中 耕一郎
【審判官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-227043(JP,A)
【文献】特開2018-174772(JP,A)
【文献】特開2005-333919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1
A23L33
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受領番号:NITE AP-03358及び受領番号:NITE AP-03359からなる群から選ばれるラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)である乳酸菌。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む、組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む、免疫賦活剤。
【請求項4】
IL-12の産生を促進し、基準株JCM1558T株と比較してIL-10の産生量に対するIL-12の産生量の比を高くする、請求項3に記載の免疫賦活剤。
【請求項5】
請求項1に記載の乳酸菌の死菌体。
【請求項6】
請求項1に記載の乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む、食品。
【請求項7】
請求項1に記載の乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む、免疫賦活作用を有する機能性食品。
【請求項8】
請求項1に記載の乳酸菌又はその培養物を含む、スターターカルチャ。
【請求項9】
請求項1に記載の乳酸菌又はその培養物を食品原料と接触させ、発酵させる工程を含む、発酵食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに単離されたラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)の新規株、並びに当該新規株が有する免疫賦活作用を利用した食品及び医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は従来から、整腸作用やヒトの健康に有益な効果をもたらすプロバイオティクスとして知られている。乳酸菌とは、乳酸を生成する細菌の総称であり、乳酸菌と呼ばれる微生物群は分類学上の多数の属や種にまたがっている。代表的な乳酸菌として、ラクトバチルス属、エンテロコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属等に属する細菌が知られている。こうした乳酸菌の分類には、16SrRNA遺伝子の塩基配列に基づく系統解析が利用されている。乳酸菌の生態や生理学的な特徴は極めて多様である。一部の乳酸菌は、投与された際に、整腸作用を有するほか、免疫調節作用、血圧低下作用、アレルギー低下作用、抗コレステロール作用などの生理作用を発揮することが見出されている。
【0003】
ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)は、グラム陽性の通性嫌気性乳酸菌であり、漬物から分離されることの多い乳酸菌として知られている。ラクトバチルス・ペントーサスの特定の菌株については、免疫賦活作用や免疫調節作用を有する菌株が単離されている(特許文献1:特開2005-333919号公報、特許文献2:特許第5557483号公報)。このような機能性を有する乳酸菌を利用して、漬物、ヨーグルトやチーズなどの乳製品、さらには乳酸菌を含むサプリメント又は医薬品などの製品が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-333919号公報
【文献】特許第5557483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
様々な乳酸菌種において、数多くの機能性に関する報告がある中で、どの株がより優れているかを評価するためには同種の乳酸菌の学術的な基準株を指標として比較することが望ましい。しかしながら現状では、乳酸菌添加の有無によってサイトカインの産生量が変化したかという検討をしている報告がほとんどであり、同種の基準株を指標として比較を行った報告は少なく、特許文献2:特許第5557483号のように限られている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは、漬物から単離した新規の乳酸菌であるラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)KY5-L2株(受領番号:NITE AP-03358)及びKY5-L10株(受領番号:NITE AP-03359)について、ラクトバチルス・ペントーサスの基準株であるJCM1558T株とそれぞれ比較検討を行った。その結果、驚くべきことにマウス脾臓細胞培養物に対してKY5-L2株、及びKY5-L10株の加熱殺菌菌体を添加した場合に、基準株の加熱殺菌菌体を添加した場合と比較して、IL-12誘導能が顕著に高く、そしてIL-12とIL-10の誘導能のバランスがIL-12に傾くことを見出し、本発明に至った。
【0007】
したがって、本発明は、以下の発明に関する:
[1] 受領番号:NITE AP-03358及び受領番号:NITE AP-03359からなる群から選ばれるラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)である乳酸菌。
[2] 項目1に記載の乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む、組成物。
[3] 項目1に記載の乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む、免疫賦活剤。
[4] IL-12の産生を促進し、基準株JCM1558T株と比較してIL-10の産生量に対するIL-12の産生量の比を高くする、項目3に記載の免疫賦活剤。
[5] 項目1に記載の乳酸菌の死菌体。
[6] 項目1に記載の乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む、食品。
[7] 項目1に記載の乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む、免疫賦活作用を有する機能性食品。
[8] 項目1に記載の乳酸菌又はその培養物を含む、スターターカルチャ。
[9] 項目1に記載の乳酸菌又はその培養物を食品原料と接触させ、発酵させる工程を含む、発酵食品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乳酸菌は、免疫機能の賦活化に関わるIL-12の産生を誘導する。これにより、基準株と比較して、免疫バランスを免疫促進側にシフト可能であり、乳酸菌又はその培養物を摂取した対象において免疫賦活効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明にかかるラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)受領番号:NITE AP-03358のKY5-L2株及び受領番号:NITE AP-03359のKY5-L10株、並びにラクトバチルス・ペントーサスの基準株であるJCM1558T株を、マウス脾臓細胞培養物に添加した際のIL-12p70の産生量の変化を示す。
図2図2は、本発明にかかるラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)受領番号:NITE AP-03358のKY5-L2株及び受領番号:NITE AP-03359のKY5-L10株、並びにラクトバチルス・ペントーサスの基準株であるJCM1558T株を、マウス脾臓細胞培養物に添加した際のIL-10の産生量の変化を示す。
図3図3は、本発明にかかるラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)受領番号:NITE AP-03358のKY5-L2株及び受領番号:NITE AP-03359のKY5-L10株、並びにラクトバチルス・ペントーサスの基準株であるJCM1558T株を、マウス脾臓細胞培養物に添加した際のIL-12とIL-10の比(IL-12/IL-10)の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)に属する単離された乳酸菌の新規株KY5-L2株(受領番号:NITE AP-03358)又はKY5-L10株(受領番号:NITE AP-03359)に関する。これらの乳酸菌は、しば漬けの発酵物から単離されており、全ゲノム解析に供されている。これらの菌株は、16SrRNA遺伝子の塩基配列に基づく系統解析によりラクトバチルス・ペントーサスに属することが決定されている。本発明にかかる菌株の加熱殺菌菌体がマウスの培養脾臓細胞に添加された場合に、免疫機能の賦活化に関わるIL-12の高い産生量を誘導する(図1)。これにより、基準株JCM1558T株と比較すると、本発明にかかる菌株により、免疫バランスが免疫促進側にシフトすることを意味する。乳酸菌を摂取した場合にも同様のサイトカイン誘導能を発揮すると考えられ、本発明の菌株を免疫機能の活性を賦活化する免疫賦活剤として使用することができる。本発明の乳酸菌には、受領番号:NITE AP-03358、及び受領番号:NITE AP-03359で寄託されている株、並びに当該株と同等の免疫賦活作用を有する、当該株の子孫株又は変異株も包含する。
【0011】
免疫賦活作用とは、免疫活性を亢進することをいう。免疫は、炎症促進性サイトカイン、例えばIL-12、IL-6、TNF-α等の産生量と、炎症抑制性サイトカイン、例えばIL-10等の産生量とのバランスにより調節されている。炎症促進性サイトカインの産生が増加すると、免疫バランスは免疫促進側にシフトし、これにより免疫賦活作用が生じる。免疫賦活作用は、培養細胞による炎症促進性サイトカインの発現量又は産生量により簡易的に計測することができる。また、炎症促進性サイトカインと炎症抑制性サイトカインとの比に基づき、免疫賦活と免疫鎮静のどちらの作用が強いのかを決定することができる。培養細胞としては、特に脾臓細胞、マクロファージ、単球などの細胞を利用することができる。別の手法として、経口投与された動物における免疫機能を測定することによっても計測することができる。
【0012】
免疫賦活作用により、本発明に係る乳酸菌を摂取することで、ウイルスや細菌などによる感染症に対し、また癌などの疾患に対しても抵抗性となり、これらの疾患に対して、治療又は予防効果を発揮する。
【0013】
本発明の別の態様では、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)に属する単離された乳酸菌の新規株KY5-L2株(受領番号:NITE AP-03358)及びKY5-L10株(受領番号:NITE AP-03359)からなる群から選ばれる乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む組成物又は免疫賦活剤にも関する。免疫賦活剤は、投与された場合に生体において、免疫機能を亢進することができる物をいう。免疫賦活剤は、IL-12産生促進剤ともいうことができる。免疫賦活剤を投与、好ましくは経口投与することにより、動物において免疫賦活作用が発揮される。本発明の組成物及び免疫賦活剤は、医薬品として使用されてもよいし、食品又は機能性食品として用いられてもよい。免疫機能が亢進されることで、ウイルスや細菌による感染症、癌の治療、予防、軽減、又は緩和することができる。したがって、本発明の免疫賦活剤とは、感染症や癌の治療又は予防剤ともいうことができる。本発明の免疫賦活剤は、動物、特にヒトに対して投与されることが好ましいが、家畜動物、ペット動物、実験動物、動物園動物などに対して投与されてもよい。本発明の組成物及び免疫賦活剤を動物の食餌に混ぜて飼料として与えてもよいし、本発明の乳酸菌で発酵された食品を飼料として与えてもよい。
【0014】
本発明の別の態様ではKY5-L2株(受領番号:NITE AP-03358)及びKY5-L10株(受領番号:NITE AP-03359)からなる群から選ばれる乳酸菌、その培養物、又は死菌体を含む食品に関する。このような食品は、本発明の乳酸菌を添加することで製造される。本発明に係る乳酸菌を含む食品は、免疫賦活作用を有しうる。このような食品の例として、発酵野菜製品、発酵乳製品、発酵魚製品、発酵肉製品、発酵調味料、乳酸菌飲料、食べるぬか床が挙げられる。発酵野菜製品の一例として、漬物が挙げられる。漬物では、本発明にかかる乳酸菌を添加して発酵された発酵漬物が好ましいが、浅漬けや酢漬けなど、発酵を介していない漬物であってもよい。発酵を介していない漬物に対し、本発明にかかる乳酸菌又はその培養物を添加することで、免疫賦活作用を付与することができる。発酵乳製品としては、チーズ、ヨーグルト、バターなどが挙げられる。
【0015】
漬物に用いられる食品原料として、一般に市販されている漬物に用いられる任意の野菜が使用され、ナス、ダイコン、カブ、ニンジン、ショウガ、ミョウガ、キュウリ、ゴーヤ、ピーマン、トウガラシ、ハクサイ、アオナ、高菜、野沢菜、壬生菜、シソ、ニンニク、トマト、ゴボウ、米、豆類、糠などが挙げられるが、これらに限定されることを意図するものではない。これらの野菜は、通常、洗浄後、塩を含む調味料で下漬け処理を行い、その後に本発明の乳酸菌を添加して発酵処理が行なわれる。下漬け処理及び発酵処理は、目的の漬物製品に応じて適宜選択されうる。発酵処理として、目的の野菜とともに、任意に添加物を加えて発酵される。かかる添加物として糠、ふすま、昆布、唐辛子、陳皮などが使用されうる。食品原料としては、上述の野菜類の他、生乳、加工乳、大豆、米、ぬかなどが用いられる。
【0016】
本発明に係る乳酸菌、その培養物、又はその死菌体を含む食品は、免疫賦活作用を有する機能性食品として製造されてもよい。機能性食品とは、機能を発揮することが特定された食品のことをいう。機能性食品としては、本発明にかかる乳酸菌又はその培養物を含み、免疫賦活作用を表示されたサプリメント、機能性表示食品、特定保健用食品、および飲料剤などが挙げられる。
【0017】
IL-12は、IL-12p35とIL-12p40から構成されるヘテロ二量体のタンパク質であり、炎症性のサイトカインとして知られている。ヘテロ二量体のことを、特にIL-12p70と呼ぶ。IL-12は、細菌を貪食した食細胞および樹状細胞によって主に産生される。IL-12は、NK細胞の刺激の他、ナイーブT細胞をTh1細胞への分化を誘導し、細菌やウイルスに対する抵抗性を付与するとともに、抗血管新生活性を示し、免疫関連疾患の病因となりうる。
【0018】
IL-10は、35~40kDの2つのサブユニットから構成されるホモ二量体タンパク質であり、炎症抑制性のサイトカインとして知られている。IL-10は、主に2型ヘルパーT細胞(Th2)より産生され、活性化B細胞、単球、肥満細胞、又は角化細胞などからも産生される。IL-10の生理作用は、多岐に渡るが、マクロファージにおけるIFN-γの合成を阻害し、また単核細胞におけるIL-12の産生を阻害することが知られており、炎症反応に対し抑制的に寄与する。また、IL-10は、CD4+T細胞の増殖とサイトカイン合成を阻害することも知られている。
【0019】
培養細胞により産生されるIL-12の産生量とIL-10の産生量のバランス、例えば比(IL-10/IL-12比又はIL-12/IL-10比)を、炎症に対する作用を示す指標として使用することができる。IL-10に対するIL-12比が高くなるほど、炎症促進性であることを示し、低くなると炎症抑制性であることを示す。基準株を適用した場合のIL-10の産生量とIL-12の産生量のバランスと比較することで、乳酸菌の炎症に対する作用を決定することができる。
【0020】
本発明における乳酸菌の培養物は、一例として乳酸菌を培地で培養した培養液である。培養物には、乳酸菌及び/又はその死菌体が含まれうる。培養物は、乳酸菌を公知の方法で培養することにより得られる。乳酸菌の培養に通常用いられる培地、例えばMRS培地、BCP培地などが用いられ、乳酸菌株に応じ適切なpH、例えば3~8、好ましくは4~7を選択しうる。株の分離・保存のために固体培地が用いられてよいし、液体培地が用いられてもよい。培養は、10~45℃、好ましくは25~40℃、さらにより好ましくは30~37℃で、嫌気条件又は好気条件下で行なわれうる。培養物に遠心分離を適用して、乳酸菌を収集することができる。収集された乳酸菌の菌体をそのまま、又は殺菌処理後の死菌体を製剤化し、サプリメントを製造することができる。このようなサプリメントは、錠剤、カプセル剤、液剤に剤形されうる。本発明に乳酸菌は、死菌体について免疫賦活作用が誘導されることが見いだされている。理論に限定されることを意図するものではないが、かかる作用は、死菌体の構成成分の一部、例えば細胞外多糖(EPS)により誘導されるものであり、生きた乳酸菌でも当然に同等の作用が発揮される。腸内での生存し、菌叢を構成する観点では、生きた乳酸菌の使用が好ましい。
【0021】
本発明の乳酸菌を医薬品に用いる場合には、生きた乳酸菌又は死菌体を、適切な賦形剤とともに製剤化することとを含む。剤形としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、坐剤、注射剤などを上げることができる。本医薬品は、経口、経直腸など任意の投与経路で投与されてよいが、腸内へ簡便に投与する観点で経口投与が好ましい。
【0022】
発明の別の態様では、KY5-L2株(受領番号:NITE AP-03358)及びKY5-L10株(受領番号:NITE AP-03359)からなる群から選ばれる乳酸菌、又はその培養物を含むスターターカルチャに関する。スターターカルチャとは、特定の菌叢での発酵を促進するために使用される乳酸菌又はその培養物をいう。スターターカルチャとしては、単離培養された乳酸菌の培養物又は培養物から収集された菌体を凍結乾燥された粉末であってもよいし、乳酸菌を含む培養物又はその凍結物であってもよい。スターターカルチャの一例として、乾燥菌体やぬか床が挙げられる。食品原料に添加される前に、前培養を行うことで対数増殖期にある培養物をスターターカルチャとして用いてもよい。
【0023】
本発明の一の態様では、本発明にかかる乳酸菌又はその培養物と食品原料とを接触させる工程を含む、発酵食品の製造方法にも関する。乳酸菌又はその培養物はスターターカルチャとして添加されてもよいし、別に製造された発酵物の一部として添加されてもよい。乳酸菌又はその培養物と食品原料とを接触後、発酵工程が行なわれる。ここで接触とは、、乳酸菌又はその培養物を食品原料に添加すること、及び食品原料を乳酸菌又はその培養物に添加することを含み、さらに混合が行われてもよい。発酵工程は、適切な温度管理がされていてもよいし、周囲環境の温度で行なわれてもよい。発酵期間は、良味を呈するよう、食品の種類に応じて適宜選択される。
【0024】
変異株とは、単離された菌株に対し、人為的又は偶発的変異が加えられた菌株のことを指す。変異株は、単離された菌株を継代することで自然に生じうるし、変異原、例えば変異を引き起こす化学物質で処理する化学処理や、紫外線、X線、ガンマ線などを照射する物理処理が挙げられる。化学処理としては、核酸に作用して変異を生じさせる物質、例えば亜硝酸、ヒドロキシルアミン、アクリジンの他に、塩基アナログ、例えば5-ブロモウラシル、2-アミノプリンなどが用いられる。
【0025】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0026】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例
【0027】
実施例1:試験に供した乳酸菌株と培地
(1)乳酸菌菌株と培養培地
基準株としてラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)JCM1558T株を使用した。基準株は理化学研究所 微生物材料開発室から入手した。評価株としては、漬物から分離したKY5-L2株(受領番号:NITE AP-03358)及びKY5-L10株(受領番号:NITE AP-03359)を使用した。これらの乳酸菌は全ゲノム解析を行い、種を同定した。これらの乳酸菌は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託された(受領日:2020年12月25日)。
培地はベクトンアンドディッキンソン社製のMRS培地を使用した。平板培地で使用する場合は寒天濃度が1.5%となるように添加した。製造者のマニュアルに従い、121℃ 15分で加熱滅菌したものを使用した。
(2)乳酸菌の加熱菌体の調製
あらかじめ作製した、使用する乳酸菌株のグリセロールストックを、MRS平板培地に塗抹した。三菱ガス化学社製アネロパックを使用し、嫌気的に30℃で18時間培養を行なった。得られた菌体を、ネジ口試験管に入れたMRS液体培地に1白金耳分接種し、30℃で24時間静置培養を行い、これを前培養とした。前培養液を、同じくネジ口試験管に入れたMRS液体培地に、波長600nmで測定した時の濁度が0.1となるように接種し、30℃で24時間、静置培養を行なった。培養後の培養液を1mL取り、20400xg4℃10分で遠心し生理食塩水で菌体を洗浄する作業を2回繰り返したのち、湿菌体重量を測定した。湿菌体重量が10mg得られる培養液量をエッペンチューブに取り、80℃で30分加熱を行なった。加熱後の菌体をさらに20400xg5分20℃で遠心したのち、PBSバッファー(ニッポンジーン社製10x PBS Buffer pH7.4を10倍希釈)で洗浄したのち、再度20400xg5分20℃で遠心したものを1mLのPBSバッファーに懸濁し、これを加熱菌体サンプルとした。
【0028】
(3)IL-12誘導能評価
BALB/cマウス(雌性、10週齢)から脾臓細胞を採取し、細胞濃度が2.5×106cells/mlとなるよう細胞液を調製した。これに、乳酸菌の加熱菌体サンプル(菌体の終濃度は0.5又は1.0μg/ml)を添加して培養を行なった。培養は37℃、5%CO2環境下で行い、IL-12を測定するサンプルについては24時間、IL-10を測定するサンプルについては5日間培養した。その後、遠心にて培養上清を回収しIL-12p70およびIL-10濃度をELISA法にて測定した(n=3)。ラクトバチルス・ペントーサスの菌株を用いた場合のIL-12についての結果を図1に示す。ラクトバチルス・ペントーサスの菌株を用いた場合のIL-10についての結果を図2に示す。ラクトバチルス・ペントーサスの菌株を用いた場合のIL-10とIL-12の比(IL-12/IL-10)についての結果を図3に示す。乳酸菌KY5-L2株及びKY5-L10株は、IL-12及びIL-10の産生を誘導した。一方、基準株JCM1558T株もIL-10及びIL-12の両方の産生を誘導した。しかしながら、IL-10の産生量とIL-12の産生量のバランスについて比較すると、KY5-L2株及びKY5-L10株では、IL-10の産生量とIL-12の産生量のバランスが、IL-12側にシフトしており、基準株JCM1558T株と比較して、免疫バランスを免疫促進側にシフトさせる。
【0029】
製造例1:ヨーグルト
乳酸菌KY5-L2株(受領番号:NITE AP-03358)又はKY5-L10株(受領番号:NITE AP-03359)を牛乳に植菌し、室温で3日間静置し、ヨーグルトを調製した。
【0030】
製造例2:漬物
ナスをスライスし、ナスの重量の15%の赤しその葉と混ぜ合わせ、ナスと赤しその重量の4%の塩を添加して、10分放置し、揉み合わせた後に絞って水を捨てる。漬物容器に移し、KY5-L2株(受領番号:NITE AP-03358)又はKY5-L10株(受領番号:NITE AP-03359)を添加し、重石をして10日間室温で放置し、柴漬けを製造した。
図1
図2
図3