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特許7337922アミロイド沈着物を撮像するための方法および組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】アミロイド沈着物を撮像するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/10 20060101AFI20230828BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230828BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
A61K51/10 200
A61K47/68 ZNA
A61P9/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021523841
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 US2019058720
(87)【国際公開番号】W WO2020092474
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】62/753,410
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508344512
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク
【氏名又は名称原語表記】THE TRUSTEES OF COLUMBIA UNIVERSITY IN THE CITY OF NEW YORK
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レンツ,スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ミンツ,アキヴァ
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-528449(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0297439(US,A1)
【文献】国際公開第2019/006062(WO,A1)
【文献】Clinical Cancer Research, 2003, Vol.9, No.10, pp.3831s-3838s
【文献】Blood, 2010, Vol.116, No.13, pp.2241-2244
【文献】Blood, 2015, Vol.126, No.23, p.188,https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006497118471674
【文献】Blood, 2017, Vol.130, No.Suppl_1, p.509,http://doi.org/10.1182/blood.V130.Suppl_1.509.509
【文献】PNAS, 2018.10.30, Vol.115, No.46, pp.E10839-E10848,https://doi.org/10.1073/pnas.1805515115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 51/00-51/12
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出可能な分子が連結した抗体または抗原結合断片を含む、対象の心臓におけるアミロイド沈着物の存在、位置および/または量を検出するための組成物であって、前記抗体または前記抗原結合断片は、配列番号48を含む可変重鎖(V)と、
配列番号47を含む可変軽鎖(V)と、を有する、組成物。
【請求項2】
前記抗体または前記抗原結合断片は、キメラマウス-ヒト抗体である、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記検出可能な分子は、124Iである、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
前記検出可能な分子は、89Zrである、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
配列番号35を含むVと、配列番号36を含むVと、を有する抗体または抗原結合断片と比べ、前記抗体または前記抗原結合断片は、より高い親和性を有する、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[EFS-WEBを介して提出された配列表の参照]
EFS-Webを介して本願と共に電子的に提出した「8441-0018-1-ST25」と題する配列表のASCIIファイルの内容は、2019年1月22日に作成され、その大きさは16.9kbであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[優先権の主張]
本願は、2018年10月31日に出願された米国特許仮出願第62/753,410号の優先権を主張するものであり、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、検出可能な分子が連結または結合したヒト化およびキメラ(例えば、マウス-ヒト)抗体およびその抗原結合断片、ならびにアミロイド沈着物を検出および撮像するためにそれらを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
以下の説明は、本発明について単に読者の理解を助けるために提供されるものであり、先行技術を説明または構成することを認めるものではない。
【0005】
天然抗体は、通常、2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖で構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つのジスルフィド結合によって重鎖に連結している。重鎖間の追加のジスルフィド結合の数は、様々な抗体アイソタイプごとに異なる。最も単純なアイソタイプはIgGであり、これは2つの軽鎖および2つの重鎖のみを含み、2つの重鎖が2つのジスルフィド結合によって連結している。各重鎖は、一端に可変ドメイン(V)を有し、いくつかの隣接する定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V)を有し、他端に定常ドメインを有する。抗体の軽鎖および重鎖の各可変ドメインは、相補性決定領域(「CDR」)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントを含む。軽鎖の各CDRは、隣接する重鎖の対応するCDRと共に、抗体の抗原結合部位を形成する。軽鎖には、その定常領域に応じて、κとλの2つの主要なタイプがある。κとλの両方の軽鎖は、様々な重鎖タイプのいずれかと結合し得る。
【0006】
原発性アミロイドーシスとも呼ばれるアミロイド軽鎖アミロイドーシス(ALアミロイドーシス、ALまたはALA)は、米国で最も一般的な形態の全身性アミロイドーシスである。「アミロイドーシス」という用語は、共通の特徴、すなわち臓器および組織における病的不溶性原線維タンパク質の細胞外沈着を共有する疾患のクラスターを指す(Rodneyら、NEJM、25:898)。アミロイドーシスは、人の抗体産生細胞の機能不全によって引き起こされ、異常なタンパク質線維の産生を引き起こし、これが凝集して臓器および組織に不溶性アミロイド沈着物を形成する。アミロイドーシスの種類は、原線維沈着物を形成する前駆体タンパク質の性質によって決定される。原発性アミロイドーシスでは、原線維が免疫グロブリン軽鎖の断片を含み、続発性アミロイドーシスでは、原線維がアミロイドAタンパク質を含む。アミロイドーシスの現代の分類は、原線維沈着物を形成する前駆体血漿タンパク質の性質に基づいている。
【0007】
前駆体血漿タンパク質は多様であり、互いに無関係である。それにもかかわらず、すべての前駆体沈着物は、原線維沈着物の典型的な染色特性を担う共通の典型的なβプリーツシート構造を共有するアミロイド沈着物を生成する。アミロイドーシスの発症の最終段階では、患者の臓器にアミロイド原線維が沈着する。アミロイドーシスの死亡率は高く、現在の5年生存率は約28%である。
【0008】
これまでALの治療は、従来のまたは高用量の細胞傷害性化学療法を通して機能不全細胞を攻撃することにより、アミロイド形成性の前駆体軽鎖の合成を減らすことに向けられてきた。しかしながら、問題となる血漿細胞クローンを除去することで予後が改善されたにもかかわらず、不溶性アミロイド原線維が持続的に沈着することによる多臓器不全のため、死亡率は依然として高い。この治療法には2つの欠点がある。第一に、原線維沈着物は、かなりの沈着が起こるまで無症状であることが多い。したがって、かなりの沈着物が生じてしまう前に治療が行われる可能性が低い。第二に、この治療はせいぜい前駆体異常タンパク質の産生を停止するのに最も有効なだけで、既存の沈着物を除去するのに有効ではなく、病的沈着物が持続(または進行)するためにAL患者の予後は非常に悪いままである(Solomonら、Int.J.Exp.Clin.Invest.、2:269)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのため、アミロイド沈着物の治療的標的化および除去は、医学的にも非常に注目されている領域である。これに付随して、アミロイド沈着物の存在および位置を検出し、上述した標的化および除去の補助として、アミロイド沈着物の除去を監視することも非常に注目されている。本明細書に記載の組成物および方法は、そのような存在および位置を検出するためのこの要求を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書では、原発性(AL)アミロイドーシスに起因するものも含むアミロイド沈着物の存在、位置および量を検出するための組成物および方法が記載されている。本明細書に記載の組成物は、アミロイド沈着物(例えば、アミロイド軽鎖原繊維)に特異的に結合し且つ検出可能な分子が連結するヒト化またはキメラ抗体またはその断片(「抗原結合断片」)を含む。本明細書に記載の方法は、上述した組成物を、アミロイド沈着物を有する疑いのある対象に投与するステップと、画像診断による検出可能な分子の検出によって、アミロイド沈着物の存在、量および/または位置を検出するステップと、を含む。
【0011】
また、本方法は、アミロイド沈着物に対する診断用組成物の親和性に基づいて、本明細書に記載のヒト化またはキメラ抗体による治療のために患者を分類(stratifying)する方法を含む。また、本方法は、アミロイド沈着物に対する診断用組成物の親和性に基づいて、本明細書に記載の治療のためのヒト化またはキメラ抗体の適切な投与量を決定するステップを含む。すなわち、標識抗体または抗体断片の検出された親和性(取り込み)に基づいて、患者の適切な投与量を決定することができる。標識抗体または抗原結合抗体断片に対して強い親和性を示す患者は、標識抗体または抗原結合抗体断片に対して弱い親和性を示す患者よりも少ない量の治療用抗体または抗原結合抗体断片を必要とする場合がある。したがって、本発明は、本明細書に記載の標識抗体または抗体断片を患者に投与するステップと、アミロイド沈着物に対する標識抗体または抗体断片の親和性を決定するステップと、親和性の力に基づいて、キメラまたはヒト化抗体または抗体断片の投与量または一連の投与量を投与するステップと、を含む、本明細書に記載の治療のためのヒト化またはキメラ抗体の適切な投与量を決定する方法を提供する。
【0012】
一部の実施形態において、診断用組成物に含まれる本明細書に記載の抗体は、配列番号47を含むV領域と、配列番号48を含むV領域と、を有する。一部の実施形態において、抗体は、ヒトIgG1に由来する定常領域を有する。一部の実施形態において、抗体は、マウス同等物よりも高い親和性でアミロイド原繊維に結合する。一部の実施形態において、抗体は、配列番号36のV領域と配列番号35のV領域とを有するマウス抗体よりも高い親和性でアミロイド原繊維のβプリーツシート構造によって発現されるエピトープに結合する。また、一部の実施形態において、抗体は、κ(kappa)およびλ(lambda)アミロイド原繊維にインビボで結合する。
【0013】
別の態様において、本発明は、検出可能な標識または分子に連結した本明細書に記載のヒト化またはキメラ抗体と、薬学的に許容される担体と、を含む組成物を提供する。
【0014】
本方法および本組成物において有用なキメラ抗体は、ベクター構築物11-1F4VK.pKN100および11-F4VH.pG1D200の哺乳動物細胞におけるコトランスフェクション、またはスーパーベクター構築物pG1KD200-11-1F4の哺乳動物細胞におけるトランスフェクションによって産生されてもよい。一部の実施形態において、ベクター構築物11-1F4VK.pKN100および11-F4VH.pG1D200のコトランスフェクションまたはスーパーベクター構築物pG1KD200-11-1F4のトランスフェクションは、COS細胞で生じる。このようにして産生された抗体を、「キメラ11-1F4抗体」と呼ぶ。また、本明細書の他の箇所に記載するように、キメラ11-1F4抗体の断片も、本方法および本組成物に有用である。
【0015】
一部の実施形態において、検出されたアミロイド沈着物は、原発性アミロイドーシスに起因する。一部の実施形態において、原発性アミロイドーシスは、心臓、腎臓、肝臓、肺、消化管、神経系、筋肉骨格系、軟部組織および皮膚からなる群から選択される少なくとも1つの臓器または組織の関与を含み、沈着物は、それらの臓器のうちの1つまたは複数で検出される。
【0016】
一態様において、本発明は、検出可能な標識またはマーカーが連結したヒト化またはキメラ抗体またはその抗原結合断片の診断上有効な量を、アミロイド沈着疾患と診断されたまたはその疑いのある患者に投与するステップと、画像診断によって、患者の体内におけるアミロイド沈着物に結合した検出可能な標識の存在、位置および/または量を検出するステップと、を含む、アミロイド沈着物を検出または撮像する方法を提供する。本態様において、抗体または抗原結合断片は、配列番号52を含む相補性決定領域(CDR)H1、配列番号53を含むCDRH2、および配列番号54を含むCDRH3を有する可変重鎖(V)と、配列番号49を含むCDRL1、配列番号50を含むCDRL2、および配列番号51を含むCDRL3を有する可変軽鎖(V)と、を有してもよい。別の態様において、本発明は、検出可能な分子に連結した上述した抗体または抗体断片と、薬学的に許容される担体と、を含む組成物を提供する。
【0017】
上述した態様の一部の実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、ヒト化抗体であってもよく、他の実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、キメラ抗体であってもよい。
【0018】
上述した態様の一部の実施形態において、抗体または抗原結合断片のV領域は、配列番号47を含んでもよく、V領域は、配列番号48を含んでもよい。
【0019】
上述した態様の一部の実施形態において、抗体または抗原結合断片は、ヒトIgG1に由来する定常領域を有してもよい。一部の実施形態において、抗体は、キメラ11-1F4抗体であってもよい。
【0020】
別の態様において、本発明は、標識抗体またはその抗原結合断片を投与し、画像診断による患者における標識の存在を検出することによって、アミロイド沈着疾患を有する疑いのある患者のアミロイド沈着疾患を検出する方法を提供する。
【0021】
本態様の一部の実施形態において、ヒト化またはキメラ11-1F4抗体は、ヒトIgG1に由来する定常領域を有する。
【0022】
別の態様において、本発明は、アミロイド沈着物を有する疑いのある患者におけるアミロイド沈着物の存在、位置および/または量をインビボで検出する方法を提供する。該方法は、検出可能な分子が連結した抗体または抗原結合断片を患者に投与するステップを含む。ここで、抗体または抗原結合断片は、配列番号53を含む相補性決定領域(CDR)H1、配列番号53を含むCDRH2、および配列番号54を含むCDRH3を有する可変重鎖(V)と、配列番号49を含むCDRL1、配列番号50を含むCDRL2、および配列番号51を含むCDRL3を有する可変軽鎖(V)と、を有する。また、該方法は、画像診断によるアミロイド沈着物に結合した検出可能な標識の検出によって、アミロイド沈着物の存在、位置および/または量を検出するステップを含む。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、アミロイド沈着物を有する疑いのある患者におけるアミロイド沈着物の存在、位置および/または量をインビボで検出する方法を提供する。該方法は、検出可能な分子が連結した抗体または抗原結合断片を患者に投与するステップを含む。ここで、抗体または抗原結合断片は、配列番号47を含むV領域と、配列番号48を含むV領域と、を有する。また、該方法は、画像診断による検出可能な標識の検出によって、アミロイド沈着物に結合したアミロイド沈着物の存在、位置および/または量を検出するステップを含む。
【0024】
上述したいずれかの方法の一態様において、本発明は、検出の方法が陽電子放出断層撮影法(PET)である上述した方法を提供する。検出の方法がPETである態様において、検出可能な標識は、124Iであってもよく、89Zrであってもよい。上述した方法の別の態様において、抗体は、キメラまたはヒト化11-1F4、その抗原結合断片および抗体CAEL-101から選択される。上述した方法のさらに別の態様において、アミロイド沈着物は、心臓で生じている。
【0025】
別の態様において、本発明は、検出可能な分子が連結した抗体または抗原結合断片を含む、対象におけるアミロイド沈着物の存在を検出するための組成物を提供する。ここで、抗体または抗原結合断片は、配列番号53を含む相補性決定領域(CDR)H1、配列番号53を含むCDRH2、および配列番号54を含むCDRH3を有する可変重鎖(V)と、配列番号49を含むCDRL1、配列番号50を含むCDRL2、および配列番号51を含むCDRL3を有する可変軽鎖(V)と、を有する。
【0026】
別の態様において、本発明は、検出可能な分子が連結した抗体または抗原結合断片を含む、対象におけるアミロイド沈着物の存在を検出するための組成物を提供する。ここで、抗体または抗原結合断片は、配列番号47を含むV領域と、配列番号48を含むV領域と、を有する。
【0027】
上述した組成物の一態様において、検出可能な分子は、124Iおよび89Zrから選択される。上述した組成物の別の態様において、抗体は、キメラまたはヒト化11-1F4またはその抗原結合断片および抗体CAEL-101から選択される。上述した組成物のさらに別の態様において、アミロイド沈着物は、心臓で生じている。
【0028】
別の態様において、本発明は、アミロイド沈着疾患と診断され且つアミロイド沈着物を有する患者における疾患の進行を監視する方法を提供する。該方法は、(a)上述した組成物を患者に投与し、画像診断を患者に実施して、アミロイド沈着物に結合した検出可能な分子の量を検出するステップと、(b)アミロイド沈着物を除去するように意図された治療法で患者を治療するステップと、(c)上述した組成物を患者に投与するステップと、(d)画像診断を患者に実施して、アミロイド沈着物に結合した検出可能な分子の量を検出するステップと、(e)ステップ(d)で検出された検出可能な分子の量と、ステップ(a)で検出された検出可能な分子の量とを比較するステップと、を含む。
【0029】
上述した方法のステップ(b)において、患者は、ヒト化またはキメラ11-1F4抗体またはその抗原結合断片および抗体CAEL-101から選択される抗体で治療されてもよい。上述した方法において、組成物は、上述した組成物のいずれかであってもよい。別の態様において、検出の方法は、PETであってもよい。別の態様において、検出方法がPETである場合、検出可能な標識は、124Iおよび89Zrから選択される。上述した方法の別の態様において、抗体は、ヒト化またはキメラ11-1F4またはその抗原結合断片およびCAEL-101から選択される。上述した方法の別の態様において、アミロイド沈着物は、心臓で生じている。
【0030】
別の実施形態において、本発明は、患者におけるアミロイド沈着物を除去する治療の効果を決定する方法を提供する。該方法は、(a)ヒト化またはキメラ11-F4抗体またはその抗体断片の治療上有効な投与量で患者を治療するステップと、(b)上述した組成物の1つの診断上有効な量を患者に投与するステップと、(c)画像診断によって、患者のリンパ節における診断用組成物から検出可能な分子の量を測定するステップと、を含む。ここで、リンパ節で検出された検出可能な分子の量が多いほど、治療の効果が高いといえる。本実施形態の一態様において、アミロイド沈着物は、心臓で生じている。
【0031】
本発明の一部の実施形態において、キメラ11-1F4抗体は、CAEL-101であり、抗体は、ACC番号PTA-125146としてATCCに寄託されたCHO細胞によって産生される。
【0032】
一部の実施形態において、原発性アミロイドーシスは、λ軽鎖原線維凝集体沈着物からなり、他の実施形態において、原発性アミロイドーシスは、κ軽鎖原線維凝集体沈着物からなり、さらに別の実施形態において、原発性アミロイドーシスは、κおよびλ軽鎖原線維凝集体沈着物からなる。
【0033】
上述した全体的な説明および以下の詳細な説明は、例示的および説明的であり、本発明のさらなる説明を提供するように意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】ハイブリドーマ細胞株からマウスVおよびV遺伝子をクローニングするために使用される戦略を概説する図である。
図2】マウス11-1F4抗体V領域遺伝子のDNAおよびアミノ酸配列(それぞれ配列番号39および配列番号35)のリストである。
図3】マウス11-1F4抗体V領域遺伝子のDNAおよびアミノ酸配列(それぞれ配列番号40および配列番号36)のリストである。
図4】免疫グロブリンκ軽鎖発現ベクターpKN100のマップである。これはpSV2ベクター断片からなり、SV40初期プロモーターおよび不完全SV40後期プロモーター、SV40複製起点およびCo1E1複製起点を有する。これはまた、アンピシリン耐性遺伝子およびneo遺伝子を有する。不完全SV40後期プロモーターがneo遺伝子を動かす。これはまた、HCMViプロモーター、免疫グロブリン可変領域遺伝子を挿入するためのマルチクローニングサイト(BamHIおよびHindIII制限部位を含む)、およびκ軽鎖発現カセットと同じ配向にあるspaC2終結シグナル配列(「Arnie」)によって終結するヒトκ定常領域遺伝子のcDNAを有する。
図5】免疫グロブリンγ1重鎖発現ベクターpG1D200のマップである。これはpSV2dhfrベクター断片からなり、SV40初期プロモーターおよび不完全SV40後期プロモーター、SV40複製起点およびCo1E1複製起点を有する。これはまた、アンピシリン耐性遺伝子およびdhfr遺伝子を有する。不完全SV40後期プロモーターがdhfr遺伝子を動かす。結果として、発現量が少ない。これにより、比較的低レベルのメトトレキサートを使用して、多重遺伝子/高発現レベルのクローンを選択することができる。これはまた、HCMViプロモーター断片、マルチクローニングサイト、ヒトγ1定常領域遺伝子(イントロン(-))のcDNA、およびそれに続くspaC2終結シグナル配列(「Arnie」)を有する。
図6】改変マウス11-1F4抗体V領域遺伝子のDNAおよびアミノ酸配列(それぞれ配列番号42および配列番号47)ならびにV遺伝子を改変するために使用されるオリゴヌクレオチドプライマーの配列(それぞれ配列番号41および配列番号43)のリストである。
図7】改変マウス11-1F4抗体V領域遺伝子のDNAおよびアミノ酸配列(それぞれ配列番号45および配列番号48)ならびにV遺伝子を改変するために使用されるオリゴヌクレオチドプライマーの配列(それぞれ配列番号44および配列番号46)のリストである。
図8】アミロイド原線維結合ELISAアッセイの結果を示すグラフである。キメラ11-1F4抗体を含有するcos細胞上清を、精製マウス11-1F4抗体と共に同じELISAプレートで別々に試験した。吸光度をOD405で読み取った。新sv=pG1KD200-11-1F4。新コトランスフェクション=11-1F4VHpG1D200+11-1F4VK.pKN100。
図9】ヒト心臓由来アミロイドーマを移植したマウスに[124I]CAEL-101を注射し、注射後4日目に撮像したマウスのPET画像である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明によれば、検出可能な分子がそれぞれ連結したヒト化抗体、キメラ抗体(例えば、マウス-ヒト抗体)またはその抗原結合断片を含む組成物が提供され、これは、アミロイド沈着物の存在、位置および量をインビボで検出するのに有用である。これらの組成物は、ヒト抗マウス抗体(HAMA)反応をほとんどまたは全く生じさせることなく、アミロイド沈着物の検出、位置特定(localization)および/または定量化を可能にする。本発明は、検出可能なマーカーに連結した抗体または抗体断片の少なくとも1つと、薬学的に許容される担体と、を含む組成物を提供し、また、アミロイド沈着物が存在する場合のアミロイド沈着物の検出に効果的な、マーカーが連結した抗体または抗体断片の有効な量を患者に投与し、画像診断によるアミロイド沈着物に結合した検出可能なマーカーの存在、量および/または位置を検出することで、アミロイド沈着物の位置および量を検出する方法を提供する。
【0036】
さらに本発明によれば、該方法は、アミロイド沈着疾患の治療における効果を監視または決定するために提供される。アミロイド沈着疾患と診断され且つアミロイド沈着物を有する患者における疾患の進行を監視する方法は、
(a)検出可能な分子が連結したヒト化またはキメラ11-1F4抗体またはその抗原結合断片の診断上有効な量を患者に投与し、アミロイド沈着物に結合した検出可能な分子の量を検出するステップと、
(b)ヒト化またはキメラ11-1F4抗体またはその抗原結合断片などの、アミロイド沈着物を除去するように意図された治療法で患者を治療するステップと、
(c)検出可能な分子が連結したヒト化またはキメラ11-1F4抗体またはその抗原結合断片の診断上有効な量を患者に投与し、アミロイド沈着物に結合した検出可能な分子の量を検出するステップと、
(d)ステップ(c)で検出された検出可能な分子の量と、ステップ(a)で検出された検出可能な分子の量とを比較するステップと、
を含む。
【0037】
本実施形態において、本発明は、アミロイド沈着物を除去するように意図された治療の前と後の両方で、本明細書に記載のマーカーが連結した抗体または抗体断片を患者に投与し、治療後に検出されたアミロイド沈着物の大きさおよび範囲と、治療前に測定された大きさおよび範囲との差を測定することによって、患者におけるアミロイド沈着物(存在する場合)の量の変化の程度を測定することを目的としている。
【0038】
さらに、対象におけるアミロイド沈着物をインビボで検出する方法が提供される。該方法は、(a)検出可能な分子に連結した本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片を1つまたは複数含む組成物を対象に投与するステップと、(b)画像診断によって、アミロイド沈着物に結合した抗体またはその抗原結合断片に連結した検出可能な薬剤を検出するステップと、を含む。
【0039】
上述した方法において、検出のステップ(ステップ(b))は、PET(陽電子放出断層撮影法)、SPECT(単一光子放射断層撮影法)、MRI、蛍光撮像またはその他の適切な画像診断方法を用いて実施されてもよい。PETは、好ましい撮像方法である。検出可能な分子を用いた腫瘍やその他の沈着物を撮像するためのPETの使用がよく知られている。この画像診断用薬剤の調製とPETでの使用については、例えばBaillyら(Int.J.Mol.Sci.2017,18,57)、Boermanら(J Nucl Med,2011;52:1171-1172)、およびMayerら(J Nucl Med,2017;58:538-546)による説明に記載されており、その全内容が参照により本明細書に組み込まれている。これらの参考文献は、主に癌性腫瘍の検出を目的としているが、それらに記載されている材料および方法は、アミロイド沈着物を検出するために同様に有用である。
【0040】
上述した方法におけるインビボでの撮像ステップは、診断を目的とした全身の撮像、または治療レジメンに対する疾患の進行や患者の反応を評価するように、心臓、腎臓、脾臓、神経系または消化器系などの特定部位を定量的且つ局所的に撮像するものであってもよい。上述した方法における検出ステップは、検出可能な薬剤が11C、13N、15O、18F、64Cu、62Cu、124I、76Br、82Rb、89Zrまたは68Gaなどのアイソトープである陽電子放出断層撮影法(PET)、特定の用途に応じて検出可能な薬剤が99mTc、111In、123I、201Tlまたは133Xeなどの放射性追跡子である単一光子放射断層撮影法(SPECT)、ならびに検出可能な薬剤が例えばガドリニウム、酸化鉄ナノ粒子および炭素被覆した鉄-コバルトナノ粒子などである磁気共鳴撮像法(MRI)を含むがこれらに限定されない任意の画像診断技術であってもよい。本明細書に記載する実施例において、抗体は、124Iまたは89Zrで標識される。
【0041】
本明細書に記載の検出可能な分子(本明細書において「標識」、「マーカー」または「薬剤」と呼ぶ場合がある)は、当該技術分野では周知の任意の適切な方法を介して、抗体またはその断片に連結(本明細書において「結合」と呼ぶ場合がある)してもよい。例えば、以下は限定するものではないが、検出可能な薬剤は、共有結合またはイオン相互作用を介して抗体または抗体断片に連結してもよい。結合は、化学的な架橋反応を介して実現されてもよく、バクテリア、酵母または哺乳動物細胞に基づくシステムなどの任意のペプチド発現システムと組み合わされた組換えDNA方法論を用いた融合を介して実現されてもよい。抗体またはその断片を検出可能な薬剤に連結するための方法は、上述した参考文献に示されているように、当業者には周知である。
【0042】
さらに本明細書において、患者のアミロイド沈着物による診断用組成物の取り込みによって決定される、アミロイド沈着物に対する診断用組成物の親和性に基づいて、治療のための本明細書に記載のヒト化またはキメラ抗体の適切な投与量を決定する方法が提供される。すなわち、標識抗体または抗体断片の検出された取り込みに基づいて、患者の投与量を決定することができる。標識抗体または抗体断片の高い取り込みを示す患者は、標識抗体または抗体断片の低い取り込みを示す患者よりも少ない量の治療用抗体または抗体断片を必要とする場合がある。したがって、本発明は、治療のための本明細書に記載のヒト化またはキメラ抗体の適切な投与量を決定する方法を提供する。該方法は、本明細書に記載の標識抗体または抗体断片を患者に投与するステップと、アミロイド沈着物による標識抗体または抗体断片の取り込みを決定するステップと、検出された取り込み量に基づいて、キメラまたはヒト化抗体または抗体断片の投与量または一連の投与量を投与するステップと、を含む。
【0043】
さらに本明細書において、本明細書に記載のキメラまたはヒト化抗体または抗体断片を用いてアミロイド沈着物を除去する治療の効果を決定する方法が提供される。該方法は、(a)本明細書に記載のキメラまたはヒト化抗体または抗体断片などの、アミロイド沈着物を除去するように意図された治療法の治療上有効な投与量で患者を治療するステップと、(b)本明細書に記載の診断用組成物の診断上有効な量を患者に投与するステップと、(c)患者のリンパ節における診断用組成物から検出可能な分子の量を測定するステップと、を含む。ここで、リンパ節で検出された検出可能な分子の量が多いほど、治療の効果が高いといえる。
【0044】
[定義]
本方法は、本明細書に記載する特定の実施形態に限定されず、変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するために使用されるものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。本技術の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0045】
本明細書において使用される特定の用語は、以下の定義された意味を有し得る。本明細書および特許請求の範囲において使用される単数形の「a」、「an」および「the」には、文脈が明確にそうでないと示さない限り、単数参照および複数参照を含む。例えば、「細胞(a cell)」という用語は、単一の細胞だけでなく、その混合物を含む複数の細胞を含む。
【0046】
本明細書において使用される「含む(comprising)」という用語は、組成物および方法が列挙された要素を含むが、他の要素を排除することを意図していない。「~から本質的になる(consisting essentially of)」は、組成物および方法を定義するために使用される場合、組成物または方法にとって本質的に重要な他の要素を排除することを意味する。「~からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲に定義する組成物および実質的な方法ステップにおいて、他の成分の微量元素を超えるものを排除することを意味する。これらの移行用語の各々によって定義される実施形態は、本発明の範囲に含まれる。したがって、本方法および本組成物は、追加のステップおよび成分を含むことができ(含む(comprising))、あるいは重要でないステップおよび組成物を含むことができ(~から本質的になる(consisting essentially of))、あるいは本明細書に記載の方法ステップまたは組成物のみからなる(~からなる(consisting of))ことができることを意図している。
【0047】
本明細書において使用される「約(about)」は、その値からプラスまたはマイナス10%を意味する。
【0048】
本明細書において使用される「任意(optional、optionally)」は、以下に記載する事象または状況が発生してもしなくてもよく、記載が、その事象または状況が発生する場合と発生しない場合とを含むことを意味する。
【0049】
本明細書において使用される「個体(individual)」、「患者(patient)」または「対象(subject)」という用語は、個々の生物、脊椎動物、哺乳動物(例えば、ウシ、イヌ、ネコまたはウマ)、またはヒトであり得る。好ましい実施形態において、個体、患者または対象は、ヒトである。
【0050】
本明細書において使用される「単離抗体(isolated antibody)」という用語は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すように意図されている(例えば、アミロイド原線維に特異的に結合する単離抗体は、アミロイド原線維に結合しない抗体を実質的に含まない)。ただし、アミロイド軽鎖原線維(例えば、κおよび/またはλ原線維)のエピトープに特異的に結合する単離抗体は、アミロイドA原線維などの他のタンパク質に対して交差反応性を有する場合がある。しかしながら、抗体は、好ましくは常にヒトアミロイド軽鎖原線維に結合する。また、単離抗体は、典型的には他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まない。
【0051】
本明細書において使用される「診断上有効な量」という用語は、患者または対象に投与したときに、アミロイド沈着物が存在する場合に患者または対象におけるその沈着物を画像診断によってインビボで検出、位置特定および/または定量化することができる、検出可能なマーカーが連結した抗体または抗体断片の量を意味する。当業者によってたとえその量が診断上有効な量であるとみなされたとしても、診断上有効な量は、アミロイド沈着物の検出に必ずしも有効ではないことが強調される。診断上有効な量は、投与経路および剤形、対象の年齢および体重、および/または診断開始時のアミロイドーシスの種類や病期などの対象の状態、ならびに他の要因に基づいて、変化する場合がある。
【0052】
本明細書において使用される「ヒト化抗体(humanized antibody)」という用語は、ヒト以外の哺乳動物に由来する抗体のCDR、ならびにヒト化抗体のフレームワーク領域(FR)および定常領域を有する抗体を指す。ヒト化抗体は、人体におけるヒト化抗体の抗原性が低下するため、本発明による診断用組成物における要素として有用である。
【0053】
本明細書において使用される「抗体断片」という用語は、抗体のCDRを含みながら、無傷の抗体の構造体の一部を削除するように設計された抗体の一部を意味する。抗体断片の設計は、当該技術分野では周知であり、(例えば)Holligerらにより、Nature Biotechnology:23(9),1126-1135(2005)に記載されており、その全内容が参照により本明細書に組み込まれている。本明細書において使用される「抗原結合断片」は、アミロイド沈着物に結合する抗体断片を意味する。
【0054】
本明細書において使用される「薬学的に許容される担体(pharmaceutically-acceptable carrier)」という用語は、例えば「Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Delivery Systems」第10版(2014)に記載されているような、患者に投与するための医薬化合物または診療用化合物(例えば、検出可能な分子に連結したキメラ抗体)と混和するための材料を意味する。
【0055】
本明細書において使用される「検出可能な分子」、「検出可能なマーカー」、「検出可能な薬剤」および「検出可能な標識」という同義語は、PET、SPECTおよびMRIなどを含む(ただしこれらに限定されない)画像診断技術によってインビボで検出される可能性がある物質を意味する。
【0056】
本明細書において使用される「画像診断」または「撮像」という用語は、検出される組織または物質に結合する抗体または抗体断片に連結することで、位置が特定された検出可能な分子を有する患者または対象における組織または物質(アミロイド沈着物など)の存在、位置および/または量を決定するように、患者または対象における検出可能な分子をインビボで撮像する方法を意味する。
【0057】
[抗AL抗体]
[[マウス抗原線維抗体]]
近年の動物研究では、マウス11-1F4抗体と、AL原線維に存在するβプリーツシート構造に共通するエピトープに対する他のマウス抗ヒト軽鎖特異的抗体とを投与すると、ヒトALκおよびALλアミロイド沈着物が完全に分解されることが示されている。これらのマウス抗体の一部は、米国特許第8,105,594号(以下「594号特許」)明細書に記載されており、その全内容が参照により本明細書に組み込まれている。
【0058】
受容種がマウス抗体を抗原として認識し、それに対する抗体を産生するため、マウス抗体は、他の動物種(ヒトなど)への投与には一般的に適さない。ある種からの抗体が別の種に注入された場合の抗原性は、通常、定常ドメインの一部によって引き起こされる。このような抗原性反応は、マウス抗体の所望の治療効果を阻害または防止する。ヒトの場合、この抗原性反応は、ヒト抗マウス抗体(HAMA)と呼ばれる。594号特許に記載されている抗体は、ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答を介して、ヒトにおいて高い免疫原性を示す可能性がある。HAMA反応は、通常、ヒトのレシピエントからのマウス抗体の急速な除去をもたらすので、HAMAは、マウス抗体がヒトの治療や診断にもたらす利点を大きく制限する。そのため、これらのマウス抗体は、患者におけるアミロイド原線維の沈着物を検出するために患者に投与するのには適していない。したがって、本発明は、投与後の患者において免疫原性HAMA反応を生じる可能性が低い、アミロイド沈着疾患を検出および/または監視するための組成物を提供する。
【0059】
[[ヒト化およびキメラ抗原線維抗体]]
本発明は、検出可能な分子が連結したヒト化およびキメラ抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を提供する。本明細書に記載の組成物は、対象におけるアミロイド沈着物の位置および量を撮像するために有用である。典型的には、抗体は、重(H)鎖ポリペプチドの2つの同一コピーと、軽(L)鎖ポリペプチドの2つのコピーと、を含む4つのポリペプチドからなる。典型的には、各重鎖は、2つのN末端可変(V)領域と、3つのC末端定常(CH1、CH2およびCH3)領域と、を有し、各軽鎖は、1つのN末端可変(VまたはV)領域と、1つのC末端定常(CL)領域と、を有する。また、抗体における軽鎖および重鎖の各可変ドメインは、相補性決定領域(「CDR」)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントを含む。軽鎖における各CDRは、隣接する重鎖における対応するCDRと共に、抗体の抗原結合部位を形成する。軽鎖および重鎖の各対の可変領域が抗体の抗原結合部位を形成する一方で、定常領域は、構造的支持を提供し、抗原結合によって開始される免疫反応を調節する。
【0060】
キメラ抗体は、非ヒト化抗体の可変領域をヒト化抗体の定常領域に組み込んでいる。例えば、キメラ11-1F4抗体は、ヒトIgG1などのヒト化抗体のFc領域でマウス可変領域を発現させることで産生されてもよい。
【0061】
非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含む、ヒト化型の非ヒト(例えばマウス)抗体を得ることができる。一般に、ヒト化抗体は、1つまたは2つ以上の可変ドメインを有してもよい。可変領域は、非ヒト免疫グロブリンに由来し、フレームワーク領域(FR)は、ヒト免疫グロブリン配列に対応する。したがって、一部の実施形態において、ヒト化抗AL抗体は、ヒト化抗体フレームワーク領域を有する。このような抗体は、既知の技術によって調製することができる。
【0062】
マウス11-1F4モノクローナル抗体は、アラン・ソロモン医学博士(米国テネシー州ノックスビル市のテネシー大学医療科学センター)に寄託されたSP2/0ハイブリドーマ細胞によって産生される抗AL抗体である。ハイブリドーマ細胞株は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC寄託PTA-105)から入手可能である。以下の表1には、11-1F4抗体のV領域(配列番号36)およびV領域(配列番号35)が示されている。表2には、重鎖および軽鎖のCDR配列が示されている。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
既知のヒト抗体配列を使用して、上述したVおよびV領域の遺伝子をクローニングして、キメラ11-1F4抗体を作製することができる。キメラ11-1F4抗体は、それに相当するマウス抗体と同様に、アミロイドのβプリーツシート構造によって発現されるエピトープに結合する。驚くべきことに、以下の実施例6が示すように、このキメラ抗体は、それが由来する11-1F4マウス抗体よりも高い親和性でALアミロイド原線維に結合する。
【0066】
既知のヒト抗体配列を使用して、CDR領域の遺伝子をクローニングして、ヒト化型の抗体を作製することもできる。キメラ型の11-1F4抗体と同様に、ヒト化型も、それに相当するマウス抗体よりも高いアミロイド原線維に対する結合親和性を有し得る。
【0067】
当業者であれば、本明細書に記載のヒト化およびキメラ抗体は、あらゆる種類のヒト定常領域および/またはフレームワーク領域を利用することができることを理解するであろう。例えば、本明細書に記載のヒト化およびキメラ抗体は、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む)、IgA、IgE、IgH、またはIgMの定常領域および/またはフレームワーク領域を有してもよい。好ましい実施形態において、本明細書に記載のヒト化またはキメラ11-1F4抗体は、ヒトIgG1定常領域を有する。
【0068】
一部の実施形態において、本明細書に記載の抗体は、抗体がアミロイド原線維(例えば、κおよび/またはλ軽鎖原線維)に結合する能力を維持する限り、1つまたは複数の置換、挿入または欠失を含んでもよい。例えば、一部の実施形態において、本発明のキメラ11-1F4抗体は、抗体がアミロイド原線維に結合する能力を維持する限り、本明細書に記載の対応する重鎖および軽鎖配列と比較して、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または約100%の同一性を有する重鎖および軽鎖を有してもよい。一部の実施形態において、本発明のヒト化11-1F4抗体は、抗体がアミロイド原線維に結合する能力を維持する限り、本明細書に記載の対応するCDR配列と比較して、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または約100%の同一性を有するCDRを有してもよい。
【0069】
[略語]
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウシ胎児血清(FBS)、リボ核酸(RNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、コピーDNA(cDNA)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、分(min)、秒(sec)、トリス-ホウ酸緩衝液(TBE)。
【0070】
アミノ酸は、IUPAC略語によって次の通り表される:アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)。ヌクレオチドについても、同様に次の通り表される:アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)、ウラシル(U)、アデニンまたはグアニン(R)、シトシンまたはチミン(Y)、グアニンまたはシトシン(S)、アデニンまたはチミン(W)、グアニンまたはチミン(K)、アデニンまたはシトシン(M)、シトシンまたはグアニンまたはチミン(B)、アデニンまたはグアニンまたはチミン(D)、アデニンまたはシトシンまたはチミン(H)、アデニンまたはシトシンまたはグアニン(V)、および任意の塩基(N)。
【0071】
[ヒト化またはキメラ抗体]
本発明のキメラ抗体を産生するために、米国特許第8,105,594号明細書に記載されているマウス11-1F4モノクローナル抗体重鎖およびκ軽鎖可変領域遺伝子をPCR改変して、哺乳動物細胞におけるキメラ11-1F4抗体の発現を促進した。改変された可変領域遺伝子の詳細な配列分析を実施した。改変された可変領域遺伝子を適切な哺乳動物発現ベクターにクローニングし、構築物11-1F4VHpG1D200および11-1F4VK.pKN100を作製した。EcoRI制限酵素消化およびライゲーションによって、11-1F4VHpG1D200および11-1F4VK.pKN100構築物から、単一スーパーベクター構築物pG1KD200-11-1F4を作製した。最後に、コトランスフェクションと単一スーパーベクタートランスフェクションの両方によって、キメラ11-1F4抗体をCOS細胞で一過的に発現させた。便宜上、コトランスフェクションまたはトランスフェクションのためにCOS細胞を選択したが、当業者であれば他の哺乳動物細胞株を使用できることを認識するであろう。アミロイド原線維に対するキメラ11-1F4抗体の結合能力の特性を、直接結合ELISAによって決定した。予想外且つ有益なことに、キメラ11-1F4抗体は、マウス11-1F4抗体よりも高い親和性でアミロイド原線維に結合した。
【0072】
典型的には、抗体は、重(H)鎖ポリペプチドの2つの同一コピーと、軽(L)鎖ポリペプチドの2つのコピーと、を含む4つのポリペプチドからなる。典型的には、各重鎖は、1つのN末端可変(V)領域と、3つのC末端定常(CH1、CH2およびCH3)領域と、を有し、各軽鎖は、1つのN末端可変(VまたはV)領域と、1つのC末端定常(CL)領域と、を有する。軽鎖および重鎖の各対の可変領域は、抗体の抗原結合部位を形成する。
【0073】
本発明の組成物および方法で有用な抗体は、配列番号47のV領域と配列番号48のV領域とを有するキメラマウス-ヒトモノクローナル抗体、または配列番号49~54のCDR配列を含むヒト化モノクローナル抗体であってもよい。これらの抗体は、アミロイド原線維のβプリーツシート構造によって発現されるエピトープに結合する。さらに、驚くべきことに、これらの抗体は、配列番号36のV領域と配列番号35のV領域とを有する、それらが由来する11-1F4マウス抗体よりも高い親和性でこのエピトープに結合する。本発明は、ヒト患者におけるアミロイド沈着物を検出する方法を含む。該方法は、薬学的に許容される担体において検出可能な分子に連結する1つの上述した抗体の診断上有効な投与量を患者に投与するステップを含む。抗体組成物は、任意の従来の投与経路によって投与されてもよいが、非経口投与(静脈内など)が好ましい。薬学的に許容される担体は、当該技術分野では周知であり、適切なものが医学分野の当業者によって選択され得る。
【0074】
本明細書に記載され且つ特許請求される組成物および方法に有用なキメラ抗体およびその抗原結合断片(ならびにキメラ抗体を作製する方法)は、2018年6月28日付で提出され、共同所有の特許協力条約出願PCT/US18/399805(2017年6月29日付で出願された米国特許出願第62/526,835号に基づく優先権を有する整理番号8441-0004WO)、および2018年7月24日付で提出され、共同所有の特許協力条約出願PCT/US2018/043374(整理番号8441-0009WO)に記載されており、その全内容が参照により本明細書に組み込まれている。本抗体を作製するのに有用な材料には、図5および図6にそれぞれ示す11-1F4VK.pKN100および11-F4VH.pG1D200からなる群から選択されるベクター構築物、ならびに上述した2つのベクター構築物から作製された超構築物(superconstruct)pG.1KD20011-1F4が含まれる。他の有用な材料は、改変マウス11-1F4抗体V領域遺伝子(配列番号42)と、改変11-1F4抗体V領域遺伝子(配列番号45)と、それぞれのプライマーである配列番号41、43、44および46と、を含む。本抗体は、ベクター構築物11-1F4VK.pKN100および11-F4VH.pG1D200または超構築物pG.1KD20011-1F4のCOS(チャイニーズハムスター卵巣)細胞などの適切な哺乳動物宿主細胞へのコトランスフェクションによって作製されてもよい。
【0075】
ヒト化またはキメラ11-1F4抗体を作製、試験および使用する方法を、以下の実施例の節でさらに詳細に説明する。
[診断用製法]
本明細書に記載の方法に適した診断用組成物は、検出可能なマーカーにそれぞれ連結した本明細書に記載のヒト化またはキメラ11-1F4抗体、ヒト化抗体または抗原結合抗体断片と、薬学的に許容される担体または希釈剤と、を含むことができる。
【0076】
組成物は、静脈内、皮下、腹腔内または筋肉内投与のために配合されてもよいが、静脈内投与が好ましい。
【0077】
様々な剤形のための薬理学的に許容される担体が当技術分野で知られている。例えば、液体製剤用の溶媒、可溶化剤、懸濁化剤、等張剤、緩衝剤および無痛化剤が知られている。一部の実施形態において、医薬組成物は、1つまたは複数の保存剤、酸化防止剤、安定化剤などの追加の成分を含む。
【0078】
滅菌注射液は、マーカーが連結した抗体または抗体断片の必要な量を、必要に応じて上述した成分の1つまたは複数の組み合わせと共に適切な溶媒に組み込み、次いで滅菌精密濾過法によって調製することができる。一般に、分散液は、診断用組成物を、基本的な分散媒および上述した他の成分のうちの必要な成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。
[診断および監視の方法]
一般に、アミロイドーシスは、アミロイドと呼ばれる異常なタンパク質の蓄積によって引き起こされる。アミロイドは、骨髄で産生され、いずれの組織または臓器にも沈着し得る。この具体的な原因は、アミロイドーシスの種類に依存する。
【0079】
アミロイドーシスまたはアミロイド疾患には、ALアミロイドーシス、AAアミロイドーシスおよび遺伝性アミロイドーシスを含むいくつかのタイプがある。
【0080】
ALアミロイドーシス(免疫グロブリン軽鎖アミロイドーシス)は、最も一般的なタイプで、心臓、腎臓、皮膚、神経および肝臓に発症する。以前は原発性アミロイドーシスとして知られていたALアミロイドーシスは、分解できない異常な抗体を骨髄が産生することで発生する。抗体は、アミロイド斑として様々な組織に沈着し、組織または臓器の正常な機能を阻害する。
【0081】
以前は続発性アミロイドーシスとして知られていたAAアミロイドーシスは、一般に腎臓に発症するが、消化管、肝臓または心臓に発症する場合もある。これは、関節リウマチまたは炎症性腸疾患などの慢性感染性疾患または炎症性疾患に伴って発症することが多い。
【0082】
遺伝性アミロイドーシス(家族性アミロイドーシス)は、通常、肝臓、神経、心臓および/または腎臓に発症することが多い遺伝性障害である。出生時に存在する多くの異なるタイプの遺伝子異常が、アミロイド疾患または遺伝性アミロイドーシスのリスクの増加と関連している。アミロイド遺伝子異常のタイプおよび位置は、特定の合併症のリスク、症状が最初に現れる年齢および疾患の経時的進行に影響を及ぼす。
【0083】
アミロイド疾患が心臓に発症すると、多数のタイプの合併症を引き起こし得る。アミロイド沈着物または斑は、心臓が心拍の間に血液で満たされる能力を低下させる。拍動ごとに送られる血液量が少なくなり、息切れの原因となる。また、心臓内または心臓周囲のアミロイド沈着物や斑は、不整脈およびうっ血性心不全などの臓器障害の原因にもなる。
【0084】
アミロイド疾患が腎臓に発症すると、腎臓の濾過能力が損なわれ、タンパク質が血液から尿に漏出することが多くなる(すなわち、タンパク尿)。さらに、体から老廃物を除去する腎臓の能力が低下し、最終的に腎不全につながり得る。
【0085】
本明細書において、原発性(AL)アミロイドーシスなどのアミロイド沈着疾患に罹患しているまたは罹患していると疑われる患者におけるアミロイド沈着物を検出、位置特定および/または定量化する方法を提供する。該方法では、アミロイド沈着物が存在する場合にそれを検出、位置特定および/または定量化するのに効果的な量で、検出可能なマーカーに連結したヒト化またはキメラ11-1F4抗体またはその抗原結合断片と薬学的に許容される担体とを患者(例えば、ヒト患者)に投与し、次いで、画像診断によって、患者におけるアミロイド沈着物に結合した検出可能な分子を検出して、アミロイド沈着物が存在する場合にその範囲、位置および/または量を決定することができる。
【0086】
また、本明細書において、アミロイド沈着疾患と診断され且つアミロイド沈着物を有する患者における疾患の進行を監視する方法が提供される。該方法は、
(a)検出可能な分子が連結したヒト化またはキメラ11-1F4抗体またはその抗原結合断片の診断上有効な量を患者に投与し、画像診断を患者に実施して、アミロイド沈着物に結合した検出可能な分子の量を検出するステップと、
(b)ヒト化またはキメラ11-1F4抗体またはその抗原結合断片などの、アミロイド沈着物を除去するように意図された治療法で患者を治療するステップと、
(c)検出可能な分子が連結したヒト化またはキメラ11-1F4抗体またはその抗原結合断片の診断上有効な量を患者に投与し、画像診断を患者に実施して、アミロイド沈着物に結合した検出可能な分子の量を検出するステップと、
(d)ステップ(c)で検出された検出可能な分子の量と、ステップ(a)で検出された検出可能な分子の量とを比較するステップと、を含む。
【0087】
上述した監視方法は、あらゆる治療を開始する前から実施することができ、または、治療レジメンの最中に使用することができる。すなわち、上述したステップ(a)は、患者におけるあらゆる治療の前にアミロイド沈着物の基準量を決定することができ、または、上述したステップ(a)は、1つまたは複数の治療コースの後に実施して、次の治療コースの効果を決定することができる。
【0088】
一部の実施形態において、アミロイド沈着疾患(例えば、原発性アミロイドーシス)は、心臓、腎臓、肝臓、肺、消化管、神経系、筋肉骨格系、軟部組織および皮膚からなる群から選択される少なくとも1つの臓器または組織の関与を含む。
【0089】
一部の実施形態において、本明細書に記載の方法は、再発性または難治性ALAを患っている患者を治療することを含む。一部の実施形態において、患者は、κALAを有し得る。いくつかの実施形態において、患者は、λALAを有し得る。
【0090】
例示的な診断用の量は、治療される個体の大きさや健康状態に応じて変化し得る。一部の実施形態において、PETについて放射性標識されたヒト化またはキメラ11-1F4抗体の診断上有効な量は、約1~10mCiである。しかしながら、いくつかの状況や他の画像診断モダリティでは、投与量はより高くてもよく、低くてもよい。画像診断技術の当業者であれば、(例えば)上述した参考文献に記載されているように、適切な量の標識抗体または抗体断片を選択する方法を知っているであろう。
【0091】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供される。しかしながら、本発明は、これらの実施例に記載される特定の条件または詳細に限定されるものではないことに留意されたい。本明細書で参照されるすべての出版物は、参照により本明細書に組み込まれている。
【実施例1】
【0092】
[マウス11-1F4抗体のPCRクローニングおよびDNA配列決定]
マウス11-1F4モノクローナル抗体重鎖および軽鎖可変領域遺伝子をPCRクローニングし、単離されたすべての可変領域遺伝子(疑似的なものおよび機能性なもの)の詳細な配列分析を実施した。マウス11-1F4抗体重鎖および軽鎖可変領域遺伝子の詳細なDNAおよびアミノ酸配列を得た。
【0093】
[材料]
培地成分および他のすべての組織培養材料は、ライフテクノロジーズ社(英国)から入手した。RNA溶液キットはストラタジーン社(米国)から入手し、第1鎖cDNA合成キットはファルマシア社(英国)から購入した。AmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼを含むRCR反応のためのすべての構成成分および機器は、パーキンエルマー社(米国)から購入した。TOPO TA Cloning(登録商標)キットは、インビトロジェン社(米国)から入手した。アガロース(UltraPure(商標))は、ライフテクノロジーズ社(英国)から入手した。ABI PRISM(登録商標)Big Dye(商標)ターミネーターサイクルシーケンシング準備反応キットのプレミックスサイクルシーケンシングキットおよびABI PRISM(登録商標)310シーケンシングマシンは、共にPEアプライド・バイオシステムズ社(米国)から購入した。他のすべての分子生物学的製品は、ニュー・イングランド・バイオラボ社(米国)およびプロメガ社(米国)から入手した。
【0094】
[方法]
図1は、マウスモノクローナル抗体11-1F4を産生するハイブリドーマ細胞株からマウスVおよびV遺伝子をPCRクローニングするために使用される戦略を概説する図である。
【0095】
α-ヒト軽鎖モノクローナル抗体11-1F4を産生するSP2/0ハイブリドーマ細胞株の2つのクローン(B2C4およびB2D6)は、親切にもアラン・ソロモン医学博士(米国テネシー州ノックスビル市のテネシー大学医療科学センター)によって提供された。ハイブリドーマ細胞株は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC寄託PTA-105)から入手可能である。細胞株を、20%(v/v)FBS、ペニシリン/ストレプトマイシンおよびL-グルタミンで補充されたDMEM培地を使用して培養した。10個の細胞の総生細胞計数に達するまで細胞を培養した。
【0096】
細胞を各クローンから別々に次の通り収穫した。マウスハイブリドーマ細胞株を、適切な培養培地での懸濁で、約10個の細胞の総生細胞計数を提供するのに十分な量まで増殖させた。培養上清を収穫し、ハイブリドーマ細胞をベンチトップ遠心分離機(250g、5分)でペレット化した。細胞を20mlのPBSに穏やかに再懸濁し、生細胞計数のために100μlのアリコートを採取した。アリコートの細胞を再度ペレット化し、200μlのPBSおよび200μlのトリパンブルーを100μlの細胞に添加し、穏やかに混合した。10μlのこの混合物を使い捨て細胞計数スライドにピペットで入れ、9つの小さな正方形中の白血球の数を顕微鏡下で数えた。青色細胞(すなわち、死細胞)は数えなかった。計数工程を繰り返し、結果を平均し、平均結果に9×10を掛けて、20mlのPBS中の細胞の生細胞計数を得た。十分な細胞を収穫して、これらをRNA単離のために10mlの溶液Dに再懸濁した(ストラタジーン社のRNA単離キットを使用、下記参照)。
【0097】
次いで、製造業者の指示書に従って、ストラタジーン社のRNA単離キットを使用して、各クローンの細胞から個別に総RNAを単離した。1mlの2M酢酸ナトリウム(pH4.0)を試料に添加し、管を繰り返し反転させて、管の内容物を完全に混合した。管に10.0mlのフェノール(pH5.3~5.7)を添加し、反転させて内容物を再び完全に混合した。混合物に2.0mlのクロロホルム-イソアミルアルコール混合物を添加し、管に蓋をして10秒間激しく振盪し、管を氷中で15分間インキュベートした。試料を、氷上で予冷した50mlの厚肉丸底遠心管に移し、管を10000×gの遠心分離機で4℃で20分間回転させた。遠心分離後に、管に2つの相が見えた。上部水相はRNAを含有し、下部フェノール相および中間相はDNAおよびタンパク質を含有していた。RNAを含有する上部水相を新しい遠心管に移し、下部フェノール相を廃棄した。等量のイソプロパノールを水相に添加し、内容物を反転させて混合し、次いで、管を-20℃で1時間インキュベートしてRNAを沈殿させた。管を10000×gの遠心分離機で4℃で20分間回転させた。遠心分離後に、RNAを含有する管の底のペレットを取り出し、上清を廃棄した。ペレットを3.0mlの溶液Dに溶解し、3.0mlのイソプロパノールを管に添加し、内容物をよく混合した。管を-20℃で1時間インキュベートした後に、10000×gの遠心分離機で4℃で10分間再度回転させ、管から上清を除去して廃棄した。(注:この時点まで、RNAはイソチオシアン酸グアニジンの存在によってリボヌクレアーゼから保護されていたが、ここでもはや保護されなくなった。)ペレットを75%(v/v)エタノール(DEPC処理水(25%))で洗浄し、ペレットを真空下で2~3分間乾燥させた。RNAペレットを0.5~2mlのDEPC処理水に再懸濁した。
【0098】
アマシャム・ファルマシア・バイオテク社の第1鎖cDNA合成キットに付属のNot I-d(T)18プライマーを使用して、製造業者の指示書に従って、11-1F4ハイブリドーマmRNAの1本鎖DNAコピーを産生した。後述するように、単離された2つのRNA試料の各々に1つの反応を実施した。使用した成分は、バルク第1鎖cDNA反応混合物、クローニングFPLCpure(商標)マウス逆転写酵素、RNAguard(商標)、BSA、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP、200mM DIT水溶液、Not I-d(T)18プライマー:5’-d[AACTGGAAGAATTCGCGGCCGCAGGAA18]-3’、およびDEPC処理水であった。
【0099】
20μlのDEPC水中の全RNAのうちの約5μgを65℃で10分間加熱し、次いで、氷上で冷却した。バルク第1鎖cDNA反応混合物を穏やかにピペットで入れて均一な懸濁液を得て、0.5mlのマイクロ遠心管に反応を次の通り設定した:総量33μlについて、20μlの変性RNA溶液、11μlのバルク第1鎖cDNA反応混合物、1μlのNot I-d(T)18プライマーおよび1μlのDTT溶液。反応物質をピペットで入れて穏やかに混合し、37℃で1時間インキュベートした。
【0100】
次いで、マウス重鎖およびκ軽鎖可変領域遺伝子(それぞれV遺伝子およびV遺伝子)を、JonesおよびBendigによって記載された方法(Bio/Technology、9:88)を使用して、ssDNA鋳型からPCR増幅した。
【0101】
適切な定常領域プライマー(VについてMHC1~MHC3およびVについてMKCの等モル混合物)を使用して、変性リーダー配列に特異的なプライマー(VについてMHV1-MHV12およびVについてMKV1~MKV11)の各々に対して別々のPCR反応を準備した。表1および表2は、それぞれVおよびV領域遺伝子を増幅するために使用したプライマーを詳述している。合計で、12の重鎖反応および11のκ軽鎖反応を実施した。後述するようにすべての場合において、AmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼを使用して鋳型cDNAを増幅した。
【0102】
完成したcDNAの第1鎖合成反応物を90℃で5分間加熱して、RNA-cDNA二本鎖を変性させ且つ逆転写酵素を不活性化し、氷上で冷却した。11のGeneAmp(商標)PCR反応管をMKV1-11で標識した。各管について、各反応混合物が69.3μlの滅菌水、10μlの10×PCR緩衝液II、6μlの25mM MgCl、それぞれ2μlのdNTPの10mMストック溶液、2.5μlの10mM MKCプライマー、2.5μlの10mM MKVプライマーのうちの1つ、および1μlのRNA-cDNA鋳型混合物を含有する100μlの反応混合物を調製した。次いで、管の各々に0.7μlのAmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼを添加し、完成した反応混合物に50μlの鉱油を重ねた。
【0103】
同様の一連の反応混合物を上述したように調製して、マウス重鎖可変領域遺伝子をPCRクローニングした。ただし、今回は12の反応管を標識し、12のMHVプライマーのうちの1つと適切なMHCプライマーとをそれぞれに添加した。すなわち、例えば、マウスγ1重鎖の可変ドメイン遺伝子をPCR増幅するために、MHC G1プライマーを使用した。
【0104】
反応管をDNAサーマルサイクラーに装填し、(94℃で1.5分間の初期溶融後)94℃で1分間、50℃で1分間および72℃で1分間のサイクルを25回繰り返した。最後のサイクルに続いて、72℃で10分間の最終伸長ステップを行った後に、4℃に冷却した。2.5分の延長したランプ時間を使用したアニーリング(50℃)ステップと伸長(72℃)ステップとの間を除いて、サイクルの各ステップの間で30秒間のランプ時間を設けた。各PCR反応からの10μlのアリコートを、0.5μg/mlの臭化エチジウムを含有する1%(w/v)アガロース/1×TBE緩衝液ゲルで泳動して、どのリーダープライマーがPCR産物を産生するかを決定した。陽性PCRクローンの大きさは、約420bp~500bpであった。
【0105】
上述したPCR増幅工程をさらに2回繰り返し、完全長可変ドメイン遺伝子を増幅すると思われるPCR反応を選択した。各潜在的PCR産物の6μlのアリコートを、製造業者の指示書に記載されるように、TA Cloning(登録商標)キットによって提供されるpCR(商標)IIベクターに直接クローニングした。形質転換大腸菌細胞の10.0%(v/v)、1.0%(v/v)および0.1%(v/v)のアリコートを、50μg/mlのアンピシリンを含有する個々の直径90mmのLB寒天プレートにピペットで入れ、25μlのX-Galストック溶液および40μlのIPTGストック溶液を重ね、37℃で一晩インキュベートした。陽性コロニーをPCRスクリーニングによって同定した。
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
各PCR反応からの5μlのアリコートを1%アガロース/TBE(pH8.8)ゲルに泳動して、正しい大きさ(約450bp)のPCR産物を産生したものを決定した。このように同定されたこれらの推定上の陽性PCR産物を、TA Cloning(登録商標)キットによって提供されるpCR2.1ベクターに直接クローニングし、製造業者のプロトコルに記載されるようにTOP10コンピテント細胞に形質転換した。正しい大きさのインサートを有するプラスミドを含有するコロニーを、GussowおよびClacksonの方法(Nucleic Acids Res.、17:4000)に従って、1212および1233オリゴヌクレオチドプライマー(表3)を使用してコロニーをPCRスクリーニングすることによって同定した。このように同定されたこれらの推定上の陽性クローンを、ABI PRISM 310 Genetic AnalyzerおよびABI PRISM BigDye(商標)ターミネーターを使用し、二本鎖プラスミドDNAの配列を決定した。B2C4ハイブリドーマ細胞株クローンからのVおよびV遺伝子のそれぞれ3つの陽性クローンを配列決定し、B2D6ハイブリドーマ細胞株クローンからのV遺伝子の4つの陽性クローンおよびV遺伝子の6つも同様に配列決定した。
【0109】
【表5】
【0110】
マウス11-1F4抗体重鎖可変領域遺伝子を増幅するために各ハイブリドーマクローン(B2C4およびBCD6)に対して実施した12のPCR反応の結果を表4(a)に示す。
【0111】
変性リーダー配列プライマーMHV7は、MHCGI-3定常領域プライマーの混合物(表1)と組み合わせると、B2C4ハイブリドーマ細胞株とB2D6ハイブリドーマ細胞株の両方に由来する鋳型cDNAから約600bpのPCR産物を産生した。このバンドは、平均V遺伝子についての予想サイズ(450bp)よりも大きかったので、これ以上の調査は行わなかった。その一方で、変性リーダー配列プライマーMHV6は、MHCGI-3定常領域プライマーの混合物(表1)と組み合わせると、B2C4ハイブリドーマ細胞株とB2D6ハイブリドーマ細胞株の両方に由来する鋳型cDNAからV遺伝子について予想サイズ(450bp)のPCR産物を産生した。
【0112】
表4は、SP2/0ハイブリドーマ細胞株B2C4およびB2D6からマウス11-1F4モノクローナル抗体重鎖可変領域遺伝子(a)および軽鎖可変領域遺伝子(b)をクローニングするために実施したPCR増幅の結果を示す。3列目には、実際のPCR結果が記録されている。プライマーの特定の組み合わせでバンドが観察された場合、塩基対の大きさ(bp)が適切なスペースに記録された。
【0113】
【表6】
【0114】
B2C4由来のPCR産物からの3つのクローンおよびB2D6由来のPCR産物からの5つのクローンの配列分析によって、単一重鎖可変領域配列が明らかになった(図2)。
【0115】
使用したクローニング戦略(この領域に隣接するプライマー、すなわちリーダー配列および定常領域配列に特異的なプライマーを使用することによる可変領域遺伝子全体の増幅)によって、完全なFR1配列を同定することができた。配列決定された8つのクローンはすべて、この領域で同一の配列を有していた(図2)。
【0116】
マウス11-1F4抗体κ軽鎖可変領域遺伝子を増幅するために各ハイブリドーマクローン(B2C4およびBCD6)に対して実施した11のPCR反応の結果を表4(b)に示す。
【0117】
変性リーダー配列プライマーMKV6は、MKC定常領域プライマー(表2)と組み合わせると、B2C4ハイブリドーマ細胞株のみに由来する鋳型cDNAから約200bpのPCR産物を産生した。このバンドは、V遺伝子についての予想サイズ(450bp)よりもはるかに小さかったので、これ以上の調査は行わなかった。
【0118】
変性リーダー配列プライマーMKV2は、MKC定常領域プライマー(表2)と組み合わせると、B2C4ハイブリドーマ細胞株とB2D6ハイブリドーマ細胞株の両方に由来する鋳型cDNAから、バンドの予想サイズ450bpよりも小さいPCR産物を産生した(アガロースゲル上で見た場合)。さらに、以前のVクローニングでは、MKV2プライマーが周知のκ軽鎖偽遺伝子を増幅することが分かった。したがって、この産物がマウス11-1F4抗体V遺伝子ではなく偽遺伝子であることを確認するために、各PCR産物の1つのクローンの配列分析を実施した。この配列分析によって、当該PCRクローンが実際に偽遺伝子であることが明らかになった。
【0119】
最後に、変性リーダー配列プライマーMKV1は、MKC定常領域プライマー(表1)と組み合わせると、B2C4ハイブリドーマ細胞株とB2D6ハイブリドーマ細胞株の両方に由来する鋳型cDNAから、V遺伝子についてほぼ予想サイズ(450bp)のPCR産物を産生した。
【0120】
B2C4由来のPCR産物の3つのクローンおよびB2D6由来のPCR産物の4つのクローンの配列分析によって、偽遺伝子として同定できなかった単一κ軽鎖可変領域の配列が明らかになった。
【0121】
ここで、ハイブリドーマmRNAから(定常領域特異的およびリーダー配列に特異的なプライマーを使用して)11-1F4抗体重鎖可変領域遺伝子をクローニングし、配列決定した。
【0122】
この配列を翻訳すると、TVSSペプチド配列が得られた。Kabatデータベース(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest)に記録された122の再配列されたヒトV遺伝子の分析によって、これらの配列の84%がTVSSペプチド配列を有することが明らかになった。したがって、単離されたV遺伝子が正しい11-1F4抗体遺伝子配列であると結論付けられた。
【0123】
マウス11-1F4抗体の可変領域κ軽鎖遺伝子も、機能しないV偽遺伝子と同様に、クローニングおよび配列決定に成功した。この偽遺伝子は、Carrollら(Molecular Immunology(1988)25:991)によって初めて同定された。この配列は、元のMOPC-21腫瘍(SP2/0を含む)に由来するすべての標準的な融合パートナーに存在する異常なmRNA転写産物から生じる。異常なmRNAの結果として、23位の不変システインがチロシン残基によって置き換えられ、VJジョイントがフレーム外になり、105位に停止コドンが生じる。
【0124】
リンパ系細胞やハイブリドーマ細胞では、2つ以上の再配列された軽免疫グロブリンmRNAを合成することが一般的である。これらのmRNAは通常、機能的なV遺伝子では通常見られない終止コドンまたはフレームシフトの存在のために非生産的である。これらの偽メッセンジャーは、機能的なポリペプチドをコードしていないという事実にもかかわらず、V領域PCRの基質として非常に優れているため、ハイブリドーマから免疫グロブリン遺伝子をクローニングする際にしばしば大きな問題を引き起こす。
【0125】
11-1F4抗体V遺伝子配列は、2つの異なるPCR産物から単離された7つ別個のPCRクローンの詳細な配列分析後に同定され、配列番号36が得られた。すべての配列が同一であったので、これが正しい11-1F4抗体κ軽鎖可変領域配列として認められた。
【0126】
クローニングされたVおよびV領域遺伝子を使用して、キメラマウス-ヒト11-1F4モノクローナル抗体を作製し、次いで、これを分析してAL原線維への特異的な結合を確認した。
【実施例2】
【0127】
[キメラマウス-ヒト11-1F4(c11-1F4)抗体の構築]
キメラマウス-ヒト抗体の一部として哺乳動物細胞で上述した11-1F4のVおよびV可変領域遺伝子の一過的発現を可能にするためには、特異的に設計されたPCRプライマーを使用して5’末端および3’末端を改変することが必要であった(表5)。オリゴヌクレオチドプライマーF39836およびF39837を使用して11-1F4V遺伝子をPCR改変し、プライマーF39835およびF58933を使用して11-1F4V遺伝子をPCR改変した。逆方向(BAK)プライマーF39836およびF39835は、それぞれVおよびV遺伝子の5’末端に、HindIII制限部位、コザック翻訳開始部位および免疫グロブリンリーダー配列を導入した。順方向(FOR)オリゴヌクレオチドプライマーF39837は、V遺伝子の3’末端に、スプライスドナー部位およびBamHI制限部位を導入した。順方向(FOR)オリゴヌクレオチドプライマーF58933は、V遺伝子の3’末端に、ApaI制限部位を含むγ-1CH遺伝子の最初の22塩基対を付加した。
【0128】
【表7】
【0129】
コザックコンセンサス配列は、可変領域配列の効率的な翻訳に不可欠である(Kozak、J Mol Bio、196:947)。これは、リボソームが翻訳を開始する正しいAUGコドンを定義し、最も重要な塩基は、AUG開始の上流-3位のアデニン(またはわずかに好ましくはグアニン)である。
【0130】
免疫グロブリンリーダー配列は、発現した抗体が培地に分泌されることを保証するように、容易に収穫および精製することができる。この例で使用したリーダー配列は、VおよびVクローニングの工程中にハイブリドーマcDNAからクローニングされたマウス11-1F4のVおよびVリーダー配列であった。
【0131】
スプライスドナー配列は、軽鎖可変領域を適切な定常領域に正しくインフレームで付着させ、130bpのV:Cイントロンをスプライシングで切り出すために重要である。重鎖可変領域を、Apal部位を介してその適切な定常領域遺伝子に直接付着させたので、スプライスドナー部位の必要性が排除された。
【0132】
サブクローニング制限部位HindIIIおよびBamHI、ならびにHindIllおよびApalは、それぞれ改変VおよびV可変領域遺伝子を括るものであり、様々な独自の制限部位を使用することで、適切な哺乳動物発現ベクターへの方向性のあるサブクローニングを保証している。
【0133】
まず、11-1F4軽鎖可変領域遺伝子を慎重に分析して、望ましくないスプライスドナー部位、スプライスアクセプター部位およびコザック配列を同定した(表6参照)。重鎖可変領域遺伝子と軽鎖可変領域遺伝子の両方について、後に機能的な全抗体のサブクローニングおよび/または発現を妨げることになる余分なサブクローニング制限部位の存在について分析した。何も見つからなかった。
【0134】
【表8】
【0135】
可変領域遺伝子ごとに、別個のPCR反応を次の通り準備した。上述したプラスミド11-1F4V.pCR2.1および11-1F4V.pCR2.1を鋳型として使用した。100μlの反応混合物を各PCR管で調製した。各混合物は、最大41μlの滅菌水、10μlの10×PCR緩衝剤I、8μlのdNTPの10mMストック溶液、1μlの10mM 5’順方向プライマー、1μlの10mM 3’逆方向プライマーおよび1μlの1/10希釈の鋳型DNAを含有していた。最後に、0.5μlのAmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼ(2.5ユニット)を添加した後に、完成した反応混合物に50μlの鉱油を重ねた。反応管をDNAサーマルサイクラーに装填し、(94℃で1分間の初期融解後)94℃で30秒間、68℃で30秒間および72℃で50秒間のサイクルを25回繰り返した。最後のサイクルに続いて、72℃で7分間の最終伸長ステップを行って、4℃に冷却した。各PCR反応管からの10μlのアリコートを、0.5μg/mlの臭化エチジウムを含有する1.2%(w/v)アガロース/1×TBE緩衝剤ゲルで泳動して、PCR産物の大きさおよび存在を決定した。陽性PCRクローンの大きさは、約420bpであった。このように同定された推定上の陽性PCR産物を、Topo TA Cloning(登録商標)キットによって提供されるpCR2.1ベクターに直接クローニングし、製造業者のプロトコルに記載されるようにTOP10コンピテント細胞に形質転換した。GussowおよびClacksonの方法に従って、1212および1233オリゴヌクレオチドプライマー(表3)を使用してコロニーをPCRスクリーニングして、正しい大きさのインサートを有するプラスミドを含有するコロニーを同定した。ABI PRISM 310 Genetic AnalyzerおよびABI PRISM BigDye(商標)ターミネーターを使用して、上述した推定上の陽性クローンを二本鎖プラスミドDNA配列決定した。Topo TAにクローニングされたVおよびV遺伝子の2つの陽性クローンを配列決定した。
【0136】
正しく改変された11-1F4Vおよび11-1F4V遺伝子を含むクローンを同定し、これらのクローンからの改変V遺伝子をそれぞれの発現ベクターにサブクローニングして、哺乳動物細胞におけるキメラ重鎖およびκ軽鎖の発現を促進した。改変された11-1F4V遺伝子を、HindIII-BamHI断片として発現ベクターpKN100にサブクローニングした(図4)。このベクターは、ヒトκ定常領域遺伝子(アロタイプKm(3 Ala153、Ser191))を含んでいる。また、改変された11-1F4V遺伝子を、HindIII-ApaI断片として発現ベクターpG1D200(図5)にサブクローニングした。このベクターは、ヒトγ1定常領域遺伝子(アロタイプ:G1m(-1 Glu377、Met38I、-2 Ala462、3 Arg222、Ser229))を含んでいる。使用したκ定常領域アロタイプとγ1定常領域アロタイプは、いずれも白人集団で一般的に見られる。次いで、ライゲーションした発現構築物である11-1F4VK.pKN100および11-1F4VH.pG1D200を使用してDH5αコンピテント細胞を形質転換し、元のPCR改変プライマーを使用して上述したPCRスクリーニング法により陽性クローンを同定した(表4)。発現ベクターは、容易に入手可能である。
【実施例3】
【0137】
[COS細胞におけるキメラ11-1F4の一過的発現のための単一スーパーベクターの構築]
キメラ11-1F4抗体の両方の免疫グロブリン鎖を発現する単一スーパーベクターを次の通り構築した。11-1F4κ軽鎖発現カセット(HCMViプロモーター、11-1F4κ軽鎖可変領域遺伝子およびκ軽鎖定常領域遺伝子を含む)を、11-1F4VK.pKN100構築物から制限酵素消化(1位および2490位のEcoRI)し(図4)、次いで、固有のEcoRI(4297位、図5)を介して、11-1F4VHpG1D200構築物にライゲーションした。このライゲーションによって、11-1F4キメラ抗体の重鎖とκ軽鎖の両方を含むスーパーベクター構築物pG1KD200-11-1F4が構築された。
【実施例4】
【0138】
[COS細胞におけるキメラγ1/κ.11-1F4全抗体の一過的発現]
キメラ11-1F4抗体を、次の2つの方法で欧州細胞培養コレクション(ECACC)のCOS細胞で一過的に発現させた:
(i)それぞれ10μgのベクター構築物11-1F4VK.pKN100および11-1F4VH.pG1D200のコトランスフェクションによるもの。コトランスフェクションは二重に行った。
(ii)13μgの単一スーパーベクター構築物pG1KD200-11-1F4のトランスフェクションによるもの。スーパーベクターのトランスフェクションは5回行った。
【0139】
次の通りトランスフェクション法を使用した。10%(v/v)FCS、580μg/mlのL-グルタミン、および50ユニット/mlのペニシリン/50μg/mlのストレプトマイシンを補充したDMEM(以下、「培地」)を用いて、COS細胞株を150cmのフラスコでコンフルエントになるまで増殖した。細胞をトリプシン処理し、ベンチトップ遠心分離機で遠心沈殿させ(250g、5分間)、次いで、6mlの培地に再懸濁した後に、これを25mlの新鮮な予熱培地をそれぞれ含む3つの150cmのフラスコに均等に分けた。細胞を5%CO中37℃で一晩インキュベートし、翌日、指数関数的に増殖している間に収穫した。各フラスコは、約1×10個の細胞を含んでいた。細胞を再度トリプシン処理し、前と同様にペレット化し、20mlのPBSで洗浄し、次いで、細胞濃度が1×10細胞/mlになるように十分なPBSに再懸濁した。洗浄した700μlのCOS細胞をGene Pulser(登録商標)キュベットにピペットで入れ、次いで、そこに1μlの重鎖発現ベクターDNAとκ軽鎖発現ベクターDNA(それぞれ10μg)の両方または13μgのスーパーベクター構築物を添加した。Bio-Rad Gene Pulser(登録商標)装置を使用して、1900V、25μFの静電容量パルスを混合物に供給した。各実験トランスフェクションおよび(COS細胞をDNAの非存在下で電気穿孔した)「DNAなし」対照についてパルスを繰り返した。COS細胞の効率を試験するために、以前に発現した抗体の陽性制御も実施した。
【0140】
COS細胞を室温で10分間回復させ、次いで、10%(v/v)γ-グロブリンを含まないFBS、580μg/mlのLグルタミンおよび50ユニット/mlのペニシリン/50μg/mlのストレプトマイシンを補充した予熱した8mlのDMEMを含む直径10cmの組織培養皿に穏やかにピペットで移し、5%CO、37℃で72時間インキュベートした後に、分析のためにCOS細胞上清を収穫した。72時間のインキュベーション後に、培地を回収し、回転させて細胞片を除去し、キメラ抗体の産生およびc11-1F4抗体の抗原結合についてELISAによって分析した。
【実施例5】
【0141】
[捕捉ELISAを介したキメラγ1/κ11-1F4抗体の定量化]
発現後に、COS細胞の上清に存在するIgG分子全体を、捕捉ELISAアッセイを使用して定量化した。IgG分子を、固定化ヤギ抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的抗体を介してNunc-Immuno MaxiSorb(商標)プレート上に捕捉し、抗ヒトκ軽鎖ペルオキシダーゼコンジュゲート抗体を介して検出した。以下と同じ方法で、同じプレート上の既知の濃度の標準IgG抗体を捕捉および検出して、標準曲線を作成した。96ウェル(穴)イムノプレートの各ウェルを、PBSで希釈した0.4μg/mlヤギ抗ヒトIgG抗体の100μlのアリコートでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。過剰なコーティング溶液を除去し、プレートを200μl/ウェルの洗浄緩衝液(1xPBS、0.1%TWEEN)で3回洗浄した。第2列のB行~G行のウェルを除くすべてのウェルに、100μlのSEC緩衝液を分注した。ヒトIgG1/κ抗体のSEC緩衝液中1μg/ml溶液を標準として調製し、200μl/ウェルを第2列のB行およびC行のウェルにピペットで入れた。トランスフェクトしたcos細胞の培地を遠心分離し(250g、5分)、上清を保存した。(COS細胞をDNAの非存在下でトランスフェクトした)「DNAなし」対照からの上清200μlのアリコートを、第2列のD行のウェルにピペットで入れ、実験上清の200μl/ウェルのアリコートを第2列のE行、F行およびG行のウェルにピペットで入れた。第2列のB行~G行のウェルの200μlのアリコートを混合し、次いで、100μlを各ウェルから第3列の隣接ウェルに移した。このプロセスを、標準試料、対照試料および実験試料の一連の2倍希釈液で第11列まで続け、次いで、すべてを37℃で1時間インキュベートし、すべてのウェルを洗浄緩衝液の200μlのアリコートで6回すすいだ。ヤギ抗ヒトκ軽鎖ペルオキシダーゼコンジュゲートをSEC緩衝液で5000倍希釈し、100μlの希釈コンジュゲートを各ウェルに添加し、インキュベーションとすすぎステップを繰り返した。各ウェルに150μlのK-BLUE基質を添加し、暗所中25℃で10分間インキュベートした。50μlのRED STOP溶液を各ウェルに添加して反応を停止し、655nmで光学濃度を読み取った。
【実施例6】
【0142】
[キメラ11-1F4抗体の結合分析]
キメラ11-1F4抗体を、直接結合ELISAアッセイを使用して、アミロイド原線維への結合について試験した。合成原線維を免疫グロブリン軽鎖タンパク質から形成し、「低結合」ポリスチレンプレート(Costar、番号3474)を使用した固相ELISAベースアッセイにおける抗体の反応性を監視するために使用した。プレートをコーティングする直前に、250μgの原線維の塊をコーティング緩衝剤(pH7.5のリン酸緩衝生理食塩水中の0.1%ウシ血清アルブミン)で1mlに希釈した。次いで、出力を最大値の40%に設定したTekmar Sonic Disruptorの超音波プローブを使用して、試料を20秒間超音波処理して、それぞれ最大2~5個のプロトフィラメントで構成される短い原線維の溶液を得た。次いで、この溶液を5mlに希釈し、ボルテックスで十分に混合し、プレートのウェルに等分した。この工程により、各ウェルで50μg/mlの濃度の原線維溶液50μlが得られた。次いで、プレートを37℃のインキュベーターに蓋をせずに入れて、一晩乾燥させた。
【0143】
次いで、プレートを調製してから48時間以内にELISAアッセイを次の通り実施した。PBSに100μlの1%BSAを添加してウェルをブロッキングし、シェーカーを使用して室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS、0.05%Tween20(v/v)で3回洗浄した。プレートの各ウェルに、50μlのc11-1F4の溶液(0.1%BSA/PBS中の3μg/ml抗体)を添加し、シェーカーを使用してプレートを室温で1時間インキュベートした。プレートを(前回同様に)3回洗浄し、ビオチン化ヤギ抗マウスIgG抗体(Sigma番号B-8774、抗重鎖および軽鎖)を使用して、結合抗体の検出を行った。
【0144】
改変に成功したVおよびV遺伝子の配列分析によって、正しい配列が存在することが明らかになった。改変された11-1F4VおよびV遺伝子の詳細なDNAおよびアミノ酸配列を図3および図4に示す。改変されたVおよびV遺伝子をそれぞれ哺乳動物発現ベクターpG1D200およびpKN100にクローニングすることに成功し、得られた11-1F4VK.pKN100および11-1F4VHpG1D200構築物を、哺乳動物細胞のコトランスフェクションに使用した。
【0145】
次いで、11-1F4VK.pKN100および11-1F4VHpG1D200構築物を使用して、哺乳動物細胞でキメラ11-1F4抗体を発現する単一スーパーベクター(pG1KD200-11-1F4)も構築した。ECACCのCOS細胞のコトランスフェクションおよびスーパーベクタートランスフェクションによるキメラ11-1F4抗体の発現レベルを分析した。pG1KD200-11-1F4スーパーベクターのトランスフェクションから観察された発現レベル(10326ng/ml)は、11-1F4VK.pKN100および11-1F4VHpG1D200構築物の対応するコトランスフェクションから観察されたレベル(2820ng/ml)よりも3.7倍高かった。
【0146】
発現および定量化の後に、キメラ11-1F4抗体を、直接結合ELISAによって、標的抗原(親切にもNCIによって提供されたアミロイド原線維)への結合について試験した。結合ELISAの結果を図8に示す。2つの最良の個々のpG1KD200-11-1F4スーパーベクタートランスフェクションからの上清を、対応するコトランスフェクションからの1つの上清と並行して分析した。
【0147】
結果は、キメラ11-1F4抗体がそのマウスの抗体よりも高い親和性でアミロイド原線維に結合することを示した。通常、キメラ抗体は、元のマウス抗体に匹敵する結合親和性を有すると予想されるため、この結果は驚くべきものであり、予想外であった。特定の機構によって拘束されることを意図するものではないが、本発明者らは、11-1F4マウスV領域と、キメラ11-1F4抗体の作製に使用されるヒトγ1/κC領域とを組み合わせることで得られた正味の効果によって、より高い親和性を有する抗体が得られた可能性があると考えている。
【0148】
本明細書で使用したキメラ11-1F4モノクローナル抗体の一実施形態(本実施形態ではCAEL-101または抗体CAEL-101と呼ぶ場合がある)を分泌するCHO細胞(CAEL-101として同定)の試料は、ブダペスト条約に準拠して2018年6月27日にアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC寄託番号:PTA-125146)により寄託された。
【実施例7】
【0149】
[マウスにおけるヒトアミロイド沈着物の撮像]
心臓(κ1)、肝臓(κ1)、脾臓(λ1)および腎臓(λ6)からのヒトアミロイド抽出物は、親切にもタフツ大学によって提供された。凍結乾燥されたヒトアミロイド抽出物を25mlの滅菌PBSに懸濁し、3分間ホモジナイズした後に、12,000gで30分間遠心分離した。得られたペレット100mgを滅菌生理食塩水に再懸濁した。アミロイド抽出物をBalb/cマウスに皮下注射した。
【0150】
124I]CAEL-101:
cGMPグレードのCAEL-101を、標準的なヨードゲン反応を用いて、PET撮像に使用される陽電子放出核種である124Iで放射性標識した(Frakerら、Biochem Biophys Res Commun 80(4):849-57、およびMarkwellら、Biochem 17:4807-17)。ヒトアミロイド抽出物を移植して皮下にアミロイドーマを形成してから約5日後に、50~200μCiの[124I]CAEL-101をマウスに注射し、Inveon microPETスキャナを使用して注射後1日目、4日目および7日目に撮像を実施した。PMODソフトウェアパッケージで対象領域を描き、追跡子注入後1日目および4日目に腫瘍とバックグラウンド(アミロイド沈着物とバックグラウンド)の比(T:B)を計算して、アミロイドーマおよび対側のバックグラウンドのSUVmaxを得た。
【0151】
124I]CAEL-101は、ヒトアミロイド抽出物(心臓、肝臓、脾臓および腎臓に由来するκ1、λ1およびλ6サブタイプ)を保有するマウスの100%を撮像することに成功した。また、先行文献(Wallら、Blood.2010 116:2241)では機能しないと報告されていた心臓に由来するアミロイドーシスの撮像を初めて実証した(図9)。ヒトアミロイドーマは、追跡子注入後1日目および4日目の両方で可視化され、4日目にはT:B比が著しく増加した。4日目のT:B比は、2.1~4.2の範囲であった。様々なアミロイドーマの間では、取り込みに不均一性が見られた。例えば、κサブタイプを移植したマウスは、インビボでのT:B比(4.1±0.20)は、λサブタイプ(2.8±0.46)と比較して著しく良好であった。ただし、すべてのアミロイドーマでT:Bの取り込みが2.1を超えており、これは臨床的に優位であると考えられる。
【0152】
このように、様々なアミロイドーマの間で取り込みが不均一であるという結果は、リアルタイムのPET撮像を使用して、本明細書に記載のキメラまたはヒト化抗体による治療のための患者を分類すること、および抗体治療の適切な投与量を決定することに役立つ。すなわち、標識抗体または抗体断片の検出された取り込みに基づいて、患者の投与量を決定することができる。標識抗体または抗体断片に対して強い取り込み(親和性)を示す患者は、標識抗体または抗体断片に対して弱い取り込み(親和性)を示す患者よりも少ない量の治療用抗体または抗体断片を必要とする場合がある。したがって、本発明は、治療のための本明細書に記載のヒト化またはキメラ抗体の適切な投与量を決定する方法を提供する。該方法は、本明細書に記載の標識抗体または抗体断片を患者に投与するステップと、患者におけるアミロイド沈着物による標識抗体または抗体断片の取り込みを決定するステップと、標識抗体または抗体断片の決定された量に基づいてキメラまたはヒト化抗体または抗体断片の投与量または一連の投与量を患者に投与するステップと、を含む。
【0153】
89Zr]CAEL-101:
124I]CAEL-101は、アミロイドーマとの有意な結合を示したが、124I放射性標識が脱ハロゲン化するため、検出された活性の多くが甲状腺にあるか、標的にならない(甲状腺がブロックされている場合)。そこで、本出願人らは、より安定した放射性核種で放射性標識し、結合しなかった放射性標識を血液から除去した後(7日~10日後)に撮像することができる方法を模索した。2つの異なる戦略を用いて、CAEL-101を89-ジルコニウム(89Zr)で放射性標識し、[89Zr]-CAEL-101を産生した。戦略の1つは、抗体における無作為のリジンに結合する標準的なNCSリンカーを採用したものである(Eur J Nucl Mol Imaging.2010 Feb.37(2):250-59、およびCurr Radiopharm.2011 Apr.1;4(2):131-139)。この方法は、多くの臨床用途で使用されているが、理論的にはバッチ間で結合や生体内分布を変化させることができる複数の放射性異性体が生じることが示されている。そのため、本出願人は、二官能性デフェロキサミン-マレイミド架橋剤を使用してシステインを標的とした部位特異的アプローチでCAEL-101を放射性標識した(Nuclear Medicine and Biology、37(2010)289-297)。ヒト心臓アミロイド抽出物を皮下に移植してアミロイドーマを形成した約5日後に、50~200μCiの[89Zr]CAEL-101を動物に注射し、Inveon microPETスキャナを使用して注射後1日目、4日目、7日目、11日目および14日目に撮像を実施した。
【0154】
89Zr]CAEL-101の変異体の両方は、心臓アミロイド抽出物を保有するマウスを撮像することに成功した。ヒトアミロイドーマは、実験期間中(追跡子注射後14日間)、非常に良好に可視化され、放射性追跡子の著しい分解は見られなかった。これは、4日目および7日目で著しい分解が見られた[124I]CAEL-101とは対照的である。このようにアミロイド沈着物を長時間撮像することで、結合しなかった標識抗体を血液からかなり除去した後に、この標識抗体を使用して撮像を実施することができる。これにより、腫瘍とバックグラウンド(アミロイド沈着物とバックグラウンド)の比率が改善される。これは、心臓のアミロイド沈着物などの隣接する血液区画が多い臓器における疾患を撮像するのに重要な役割を果たす。追跡子注射後14日目でもアミロイドーマが観察されたことから、抗体結合成分がインビボで長期的に安定していることがわかった。先行文献では機能しないと報告されていた心臓に由来するアミロイドーシスの撮像を再び実証することができた。また、リンパ組織における同側取り込みを初めて観察した。これは、免疫不全のマウスにアミロイドーマを移植したことにより、食作用を受けた免疫細胞におけるアミロイドが排液節に移動したことが原因と考えられる。このモデルでは、ヒトアミロイドが存在するため、自発的なアミロイドの除去が生じる。この新しい観察結果は、PET追跡子のリンパ節への取り込みを調べることで、治療に対する反応を撮像する方法の基礎を提供できる可能性がある。
【0155】
本明細書の説明および特許請求の範囲において使用される「含む(comprise、comprises、comprising)」という単語および当該単語の変形は、特に明示されていない限り、他の特徴、添加剤、成分、整数またはステップを排除することを意図していない。これらの単語の範囲は、排他的な意味ではなく、包括的な意味を有するように広く解釈されるものである。
【0156】
以上、本明細書において本発明の組成物および方法を、実施例を参照して説明した。しかしながら、本発明はこれらに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の教示から逸脱することなく、当業者に知られているように種々の変形が可能であることが理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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