(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】吸引装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A24F 40/57 20200101AFI20230828BHJP
A24F 40/40 20200101ALI20230828BHJP
【FI】
A24F40/57
A24F40/40
(21)【出願番号】P 2022518496
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2020018141
(87)【国際公開番号】W WO2021220410
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【氏名又は名称】末松 亮太
(72)【発明者】
【氏名】隅井 干城
(72)【発明者】
【氏名】井上 康信
(72)【発明者】
【氏名】山田 学
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-500848(JP,A)
【文献】特開2017-113016(JP,A)
【文献】特表2019-509722(JP,A)
【文献】特表2019-526237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24F 40/00-47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引装置であって、
吸引物品を受け入れる受入部と、
前記受け入れた吸引物品を加熱する加熱部と、
前記加熱部に電力を供給する電源部と、
複数の加熱プロファイルに関するデータを格納するメモリと、
前記複数の加熱プロファイルに基づいて当該吸引装置の動作を制御する制御部と、
前記加熱部の温度を検出する温度検出部と、を備え、
前記制御部が、前記複数の加熱プロファイルに共通した予備加熱動作を実行し、
前記共通した予備加熱動作が、前記加熱部の温度を、前記複数の加熱プロファイルに共通した第1加熱期間にわたり、実質的に同一の第1加熱温度に維持させる第1予備加熱動作を含む、吸引装置。
【請求項2】
請求項1に記載の吸引装置であって、
前記第1加熱温度が、前記複数の加熱プロファイルに関し、前記温度検出部で検出される前記加熱部の所定の最高加熱温度である、吸引装置。
【請求項3】
前記所定の最高加熱温度が摂氏240度である、請求項2に記載の吸引装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の吸引装置において、
前記共通の予備加熱動作は、更に、前記第1予備加熱動作の前に、前記加熱部が前記複数の加熱プロファイルに共通した量の電力を前記
電源部から供給されて、前記加熱部の温度を前記第1加熱温度まで上昇させる第2予備加熱動作を含む、吸引装置。
【請求項5】
前記第2予備加熱動作で供給される前記電力の量が、前記第2予備加熱動作時における前記電源部の最高出力に基づく、請求項4に記載の吸引装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の吸引装置であって、第1通知部を更に備え、
前記制御部が、前記第1予備加熱動作の間は第1態様で前記第1通知部に通知させ、前記第2予備加熱動作の間は前記第1態様とは異なる第2態様で前記第1通知部に通知させる、吸引装置。
【請求項7】
請求項6に記載の吸引装置において、
前記第1通知部が複数のLEDを備え、
前記第1態様及び前記第2態様が、前記複数のLEDの組み合わせによる異なる発光パターンで構成される、吸引装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の吸引装置であって、第2通知部を更に備え、
前記制御部が、前記共通した予備加熱動作の完了に応じて、前記複数の加熱プロファイルに共通したタイミングで前記第2通知部に前記完了を通知させる、吸引装置。
【請求項9】
請求項8に記載の吸引装置において、
前記第2通知部が振動モータを備え、
前記完了の通知が前記振動モータの振動を含む、吸引装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載の吸引装置であって、ユーザによる押圧を受ける操作ボタンを更に備え、
前記制御部が、所定時間内の所定回数の前記押圧に応じて、前記複数の加熱プロファイルに基づく複数の動作モードの間で切り替えを行う、吸引装置。
【請求項11】
請求項10に記載の吸引装置であって、第3通知部を更に備え、
前記制御部が、前記切り替えを、第3態様で前記第3通知部に通知させる、吸引装置。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載の吸引装置であって、更に、
前記受入部に関する開口を開放可能なシャッターと、
前記開口が開放されたことを検出する開放検出部と、
を備え、
前記制御部が、前記開口が開放されている場合にのみ、前記複数の加熱プロファイルに基づく複数の動作モード間の切り替えを許可する、吸引装置。
【請求項13】
請求項1から12の何れか一項に記載の吸引装置において、
前記制御部が、前記予備加熱動作に続き、吸引時加熱動作を実行し、
前記吸引時加熱動作が、前記加熱部の温度を、第2加熱期間にわたり前記第1加熱温度に維持することを含み、
前記第2加熱期間が前記複数の加熱プロファイル毎に異なる、吸引装置。
【請求項14】
請求項13に記載の吸引装置において、
前記複数の加熱プロファイルが第1加熱プロファイル及び第2加熱プロファイルを含み、
前記第1加熱プロファイルにおける前記第2加熱期間が、前記第2加熱プロファイルにおける前記第2加熱期間よりも短く、
前記第1加熱プロファイルにおける前記第2加熱期間の経過後の前記加熱部の温度は、前記第2加熱プロファイルにおける前記第2加熱期間の経過後の前記加熱部の温度よりも早く第2加熱温度まで降下するように構成される、吸引装置。
【請求項15】
吸引物品を受け入れる吸引装置を動作させる方法であって、
複数の加熱プロファイルの内1つを特定するステップと、
前記吸引物品の加熱を開始するためのトリガを検出するステップと、
前記加熱プロファイルの1つに従って前記吸引物品を予備的に加熱するステップであって、
加熱部の温度を検出することと、前記複数の加熱プロファイルに共通した第1加熱期間にわたり、実質的に同一の第1加熱温度を維持することとを含む、ステップと、
前記加熱プロファイルに従って、前記吸引物品を加熱して吸引成分を生成するステップと、
を含む、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
前記第1加熱温度が、前記加熱プロファイルに関し、前記加熱部の所定の最高加熱温度である、方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の方法において、
前記予備的に加熱するステップが、更に、前記複数の加熱プロファイルに共通した量の電力を供給することにより、前記加熱部の温度を前記第1加熱温度まで上昇させることを含む、方法。
【請求項18】
請求項15から17の何れか一項に記載の方法において、
前記吸引成分を生成するステップが、前記第1加熱期間に続いて、前記加熱部の温度を第2加熱期間にわたり前記第1加熱温度に維持させることを含み、
前記第2加熱期間が前記複数の加熱プロファイル毎に異なる、方法。
【請求項19】
請求項15から18の何れか一項に記載の方法であって、更に、
前記吸引装置に設けられた、前記吸引物品を受け入れる開口をシャッターが開放したことを検出するステップと、
前記吸引装置に対する所定のユーザ操作に応じて、前記複数の加熱プロファイルに基づく複数の動作モード間で切り替えを行うステップとを含み、
前記開口が開放されている場合にのみ、前記切り替えが許可される、方法。
【請求項20】
請求項15から19の何れか一項に記載された方法を吸引装置に実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸引装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子装置の1つに、香味が付与されたエアロゾルのような吸引成分を生成する吸引装置が知られている。このような吸引装置では、通常、香味が付与された吸引物品(リフィルとも称される。)が装着されて、ユーザは吸引動作を行う。
【0003】
吸引装置の中には、吸引成分を加熱するための加熱プロファイルが予め複数種類用意され、選択可能とされるものも知られている。例えば、加熱プロファイルのユーザによる選択を可能とする吸引装置では、ユーザの嗜好に合わせた吸引体験がユーザに提供される。或いは、吸引物品の特性に応じて加熱プロファイルの自動的な選択を可能とする吸引装置では、吸引物品に適した吸引体験がユーザに提供される。ここで、吸引体験とは、例えば、エアロゾルの吸引によってユーザに提供される体験であり、ユーザにとっては、五感のうち少なくとも1つが刺激されることになる。
【0004】
例えば、特許文献1には、加熱プロファイルに従って加熱要素を高温又は低温で加熱するよう動作温度が選択的に提供される電子蒸気吸引器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ユーザの嗜好や香味の種別に応じた吸引体験をユーザに提供するために、ユーザ自らが、複数の加熱プロファイルに応じた複数の動作モードの中から適切なものを選択するのを可能にし、及び/又は、環境に応じてものに切り替えるのを可能とすることが望ましい。一方で、例えば、電源を入れて加熱を開始してから吸引可能となるまでの期間が複数の加熱プロファイルごとに異なるような場合には、意図して特定の動作モードに切り替えたユーザに対し違和感を与えることもある。すなわち、動作モードの切り替えをユーザに特段意識させないような複数の加熱プロファイルを提供することが望ましい。
【0007】
本開示はこのような観点に鑑みてなされたものである。すなわち、本開示は、ユーザに提供する吸引体験の質(すなわち、吸引時の満足感)をより一層向上可能な吸引装置を提供することを目的とする。より詳しくは、ユーザによる動作モードの選択及び切り替えを柔軟に可能とする吸引装置を提供することを目的の1つとする。また、動作モードの切り替えをユーザに意識させないような吸引体験を実現できる吸引装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示によれば、第1観点において吸引装置が提供される。係る吸引装置は、吸引物品を受け入れる受入部と、受け入れた吸引物品を加熱する加熱部と、加熱部に電力を供給する電源部と、複数の加熱プロファイルに関するデータを格納するメモリと、複数の加熱プロファイルに基づいて当該吸引装置の動作を制御する制御部と、加熱部の温度を検出する温度検出部と、を備える。そして、制御部が、複数の加熱プロファイルに共通した予備加熱動作を実行し、共通した予備加熱動作が、加熱部の温度を、複数の加熱プロファイルに共通した第1加熱期間にわたり、実質的に同一の第1加熱温度に維持させる第1予備加熱動作を含む。
【0009】
かかる吸引装置によれば、共通した予備加熱動作が提供される。すなわち、ユーザは、動作モードの替えを特段意識する必要なく、同一のタイミングで吸引装置10を吸引可能することができるので、ユーザにとって直感的で使い易く、吸引体験の質を向上させることができる。
【0010】
第2観点の吸引装置は、第1観点の吸引装置において、第1加熱温度が、複数の加熱プロファイルに関し、温度検出部で検出される加熱部の所定の最高加熱温度である。
【0011】
第3観点の吸引装置は、第2観点の吸引装置において、所定の最高加熱温度が摂氏240度(℃)である。
【0012】
第4観点の吸引装置は、第1観点から第3観点の何れかの吸引装置において、共通の予備加熱動作は、更に、第1予備加熱動作の前に、加熱部が複数の加熱プロファイルに共通した量の電力を電力部から供給されて、加熱部の温度を第1加熱温度まで上昇させる第2予備加熱動作を含む。
【0013】
第5観点の吸引装置は、第4観点の吸引装置において、第2予備加熱動作で供給される電力の量が、第2予備加熱動作時における電源部の最高出力に基づく。
【0014】
第6観点の吸引装置は、第4観点又は第5観点の吸引装置であって、第1通知部を更に備え、制御部が、第1予備加熱動作の間は第1態様で第1通知部に通知させ、第2予備加熱動作の間は第1態様とは異なる第2態様で第1通知部に通知させる。
【0015】
第7観点の吸引装置は、第6観点の吸引装置において、第1通知部が複数のLEDを備え、第1態様及び第2態様が、複数のLEDの組み合わせによる異なる発光パターンで構成される。
【0016】
第8観点の吸引装置は、第1観点から第7観点の何れかの吸引装置であって、第2通知部を更に備え、制御部が、共通した予備加熱動作の完了に応じて、複数の加熱プロファイルに共通したタイミングで第2通知部に完了を通知させる。
【0017】
第9観点の吸引装置は、第8観点の吸引装置において、第2通知部が振動モータを備え、完了の通知が振動モータの振動を含む。
【0018】
第10観点の吸引装置は、第1観点から第9観点の何れかの吸引装置であって、ユーザによる押圧を受ける操作ボタンを更に備え、制御部が、所定時間内の所定回数の押圧に応じて、複数の加熱プロファイルに基づく複数の動作モードの間で切り替えを行う。
【0019】
第11観点の吸引装置は、第10観点の吸引装置であって、第3通知部を更に備え、制御部が、切り替えを、第3態様で第3通知部に通知させる。
【0020】
第12観点の吸引装置は、第1観点から第11観点の何れかの吸引装置であって、更に、受入部に関する開口を開放可能なシャッターと、開口が開放されたことを検出する開放検出部と、を備え、制御部が、開口が開放されている場合にのみ、複数の加熱プロファイルに基づく複数の動作モード間の切り替えを許可する。
【0021】
第13観点の吸引装置は、第1観点から第12観点の何れかの吸引装置において、制御部が、予備加熱動作に続き、吸引時加熱動作を実行し、吸引時加熱動作が、加熱部の温度を、第2加熱期間にわたり第1加熱温度に維持することを含み、第2加熱期間が複数の加熱プロファイル毎に異なる。
【0022】
第14観点の吸引装置は、第13観点の吸引装置において、複数の加熱プロファイルが第1加熱プロファイル及び第2加熱プロファイルを含み、第1加熱プロファイルにおける第2加熱期間が、第2加熱プロファイルにおける第2加熱期間よりも短く、第1加熱プロファイルにおける第2加熱期間の経過後の加熱部の温度は、第2加熱プロファイルにおける第2加熱期間の経過後の加熱部の温度よりも早く第2加熱温度まで降下するように構成される。
【0023】
また、第15観点において吸引物品を受け入れる吸引装置を動作させる方法が提供される。係る方法は、複数の加熱プロファイルの内1つを特定するステップと、吸引物品の加熱を開始するためのトリガを検出するステップと、加熱プロファイルの1つに従って吸引物品を予備的に加熱するステップであって、加熱部の温度を検出することと、複数の加熱プロファイルに共通した第1加熱期間にわたり、実質的に同一の第1加熱温度を維持することとを含む、ステップと、加熱プロファイルに従って、吸引物品を加熱して吸引成分を生成するステップと、を含む。
【0024】
かかる方法によれば、共通した予備加熱動作が提供される。すなわち、ユーザは、動作モードの替えを特段意識する必要なく、同一のタイミングで吸引装置10を吸引可能することができるので、ユーザにとって直感的で使い易く、吸引体験の質を向上させることができる。
【0025】
第16観点の方法は、第15観点の方法であって、第1加熱温度が、加熱プロファイルに関し、加熱部の所定の最高加熱温度である。
【0026】
第17観点の方法は、第15観点又は第16観点の方法において、予備的に加熱するステップが、更に、複数の加熱プロファイルに共通した量の電力を供給することにより、加熱部の温度を第1加熱温度まで上昇させることを含む。
【0027】
第18観点の方法は、第15観点から第17観点の何れかの方法において、吸引成分を生成するステップが、第1加熱期間に続いて、加熱部の温度を第2加熱期間にわたり第1加熱温度に維持させることを含み、第2加熱期間が複数の加熱プロファイル毎に異なる。
【0028】
第19観点の方法は、第15観点から第18観点の何れかの方法であって、更に、吸引装置に設けられた、吸引物品を受け入れる開口をシャッターが開放したことを検出するステップと、吸引装置に対する所定のユーザ操作に応じて、複数の加熱プロファイルに基づく複数の動作モード間で切り替えを行うステップとを含み、開口が開放されている場合にのみ、切り替えが許可される。
【0029】
更に、第20観点において、第15観点から第19観点の何れの方法を吸引装置に実行させるプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A】一実施形態に係る吸引装置の全体斜視図である。
【
図1B】吸引物品を保持した
図1Aの吸引装置の全体斜視図である。
【
図5】
図4の加熱動作に関する例示の状態遷移図である。
【
図6】
図4の吸引装置が実行する加熱動作の概略フロー図である。
【
図7】
図4の吸引装置が有する一例の加熱プロファイルのグラフ図である。
【
図8】
図4の吸引装置が有する他の例の加熱プロファイルのグラフ図である。
【
図9】
図4の吸引装置が実行する予備加熱動作の概略フロー図である。
【
図10】
図4の吸引装置が実行する吸引時加熱動作の概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本開示の一実施形態に係る吸引装置について添付図面と共に詳しく説明する。なお、本開示の実施形態において、吸引装置は電子たばこやネブライザを含むが、これらに限定されない。特に、ユーザが吸引するエアロゾル又は香味が付与されたエアロゾルを生成するための様々な吸引装置を含み得る。また、生成される吸引成分源は、エアロゾル以外にも、不可視の蒸気も含み得る。
【0032】
添付図面において、同一又は類似の要素には同一又は類似の参照符号が付され、各実施形態の説明において同一又は類似の要素に関する重複する説明は省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。更に、図面は模式的なものであり、必ずしも実際の寸法や比率等とは一致しない。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれることがある。
【0033】
(1)吸引装置の基本構造(外観)
図1A~
図1Cを参照して、一実施形態に係る吸引装置10の外観を説明する。
図1Aは、吸引装置10の全体斜視図であり、
図1Bは、エアロゾル生成基材を保持した状態の吸引装置10の全体斜視図であり、
図1Cは、エアロゾル生成基材の挿入方向から見た吸引装置10の平面図である。
【0034】
本実施形態において、吸引装置10は、例えば、エアロゾル源及び香味源を含む充填物等の香味発生基材を有するエアロゾル生成基材が着脱可能に装着される。そして、装着された吸引物品110を加熱することによって、香味を含むエアロゾルを生成するように構成される。
【0035】
当業者に理解されるように、エアロゾル生成基材は吸引物品110の一例である(以下、エアロゾル生成基材のことを「吸引物品」と総称することもある。)。エアロゾル生成基材に含まれるエアロゾル源は固体であってもよいし、液体であってもよい。エアロゾル源は、例えば、グリセリン、プロピレングリコールといった多価アルコールや、水等の液体であってもよい。エアロゾル源は、加熱することによって香喫味成分を放出するたばこ原料やたばこ原料由来の抽出物を含んでいてもよい。吸引装置10がネブライザ等の医療用吸入器である場合、エアロゾル源は、患者が吸入するための薬剤を含んでもよい。用途によっては、エアロゾル生成基材は香味源を含まなくてもよい。
【0036】
図1Aに示されるように、吸引装置10は、トップハウジング11Aと、ボトムハウジング11Bと、カバー12と、シャッター13と、操作ボタン14と、表示部18とを有する。トップハウジング11A及びボトムハウジング11Bは、互いに接続されることで、吸引装置10の最外のハウジング11を構成する。ハウジング11は、ユーザの手に収まるようなサイズであってもよい。この場合、ユーザが吸引装置10を使用するときに、ユーザは吸引装置10を手で保持して、エアロゾルを吸引することができる。
【0037】
トップハウジング11Aは、開口(不図示)を有し、カバー12は当該開口を閉じるようにトップハウジング11Aに結合される。
図1Bに示されるように、カバー12は、吸引物品110を挿入可能な開口12aを有する。シャッター13は、カバー12の開口12aを開閉するように構成される。例えば、シャッター13はスライド式とするのがよい。
【0038】
より詳しくは、シャッター13は、カバー12に取り付けられ、開口12aを閉塞する第1位置と開口12aを開放する第2位置との間を、カバー12の表面に沿って移動可能に構成される。
図1Cの例では、シャッター13は第1位置にあり、ユーザが指を掛けて矢印方向にシャッター13をスライドさせることにより、開口12aが開放されている。開口12aが開放された状態で、開口12aに吸引物品110が挿入され、開口12aに対向する受入部42が吸引物品110を受け入れて、吸引物品110の充填物が内部に保持される。
【0039】
操作ボタン14は、例えば、吸引装置10の電源のオンとオフを切り替えるために使用される。具体的には、ユーザは、
図1Bに示すように、吸引物品110を開口12aに挿入した状態で操作ボタン14を押圧(長押し)することにより、電源部20から加熱部40に電力を供給し、吸引物品110を加熱させることができる。吸引物品110が加熱されると、吸引物品110に含まれるエアロゾル源からエアロゾルが発生され、香味源の香味が当該エアロゾルに取り込まれる。ユーザは、吸引装置10から突出した吸引物品110の部分から吸引動作を行うことにより、香味を含むエアロゾルを吸引することができる。なお、本明細書において、エアロゾル生成基材である吸引物品110が開口12aに挿入される方向を、吸引装置10の長手方向とする。
【0040】
本実施形態において、操作ボタン14はまた、複数の動作モード間を切り替えるために用いることができる。具体的には、ユーザは、所定期間内に所定回数の操作ボタン14を連続的に押圧することにより、複数の動作モード間の切り替えを行うことができる。
【0041】
なお、
図1A~
図1Cに示される吸引装置10の構成は、本開示に係る吸引装置の構成の一例にすぎない。本開示に係る吸引装置10は、エアロゾル源を含む吸引物品110(エアロゾル生成基材)を加熱することによってエアロゾルを生成することができ、生成されたエアロゾル源をユーザが吸引することができるような、様々な形態で構成することができる。
【0042】
表示部18は、吸引装置10の動作状態に応じて、異なる態様の表示を行うことにより、ユーザに対して明示的な通知を行うように動作する。表示部18は、通知部60(後述)の一部として構成されてよい。
図1Cの例では、表示部18は、5つのLED(Light Emitting Diode)18a~18eを備え、それぞれが1又は複数の色で発光するように構成される。例えば、LED18aは、ユーザが選択している動作モードを提示するために複数色に対応したLEDであり、また、LED18b~18eは吸引装置10の動作状態を提示するために単色(白)に対応したLEDである。
【0043】
(2)吸引装置の内部構造
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る吸引装置10の内部構造について説明する。
図2は、
図1Aに示した矢視3-3における断面図である。吸引装置10は、ハウジング11(トップハウジング11A及びボトムハウジング11B)の内部空間に、電源部20と、回路部30と、加熱部40とを有する。回路部30は、第1回路基板31と、第1回路基板31に電気的に接続された第2回路基板32とを有する。
【0044】
第1回路基板31は、長手方向に延びて配置されてもよく、この場合、電源部20と加熱部40とは、第1回路基板31によって区画される。すなわち、加熱部40において発生する熱は、電源部20に伝達することが抑制されることになる。また、第2回路基板32は、トップハウジング11Aと電源部20との間に配置され、第1回路基板31の延在方向と直交する方向に延びてもよい。第2回路基板32に隣接して操作ボタン14が配置される。ユーザが操作ボタン14を押圧したとき、操作ボタン14の一部が、第2回路基板32と接触することになる。
【0045】
第1回路基板31及び第2回路基板32は、例えばマイクロプロセッサ等を含み、電源部20から加熱部40への電力の供給を制御することができる。すなわち、第1回路基板31及び第2回路基板32は、加熱部40による吸引物品110の加熱を制御する制御部50(後述)として構成することができる。
【0046】
電源部20は、第1回路基板31及び第2回路基板32に電気的に接続される電源21を有する。電源21は、例えば、充電式バッテリ又は非充電式のバッテリであり得る。電源21は、第1回路基板31及び第2回路基板32の少なくとも一方を介して、加熱部40と電気的に接続される。すなわち、電源21は、吸引物品110を加熱するように、加熱部40に電力を供給することができる。電源21が加熱部40に供給する電力量及び/又は電力を供給する時間は、制御部によって調整可能である。また、電源21は、加熱部40の長手方向に直交する方向に隣接して配置されてもよい。すなわち、電源21の大きさを大きくしても、吸引装置10の長手方向の長さが長くなることを抑制することができる。
【0047】
ここで、吸引装置10は、外部電源(不図示)と接続可能な端子22を有してもよい。端子22は、例えばマイクロUSB(Universal Serial Bus)等のケーブルと接続することができる。電源21が充電式バッテリである場合、電源21を端子22に外部電源を接続することにより、外部電源から電源21に電流が印加されて、電源21を充電することができる。また、端子22にマイクロUSB等のデータ送信ケーブルを接続することにより、吸引装置10の動作に関連するデータを外部装置との間で受け渡すことができる。
【0048】
加熱部40は、長手方向に延びる加熱アセンブリ41を有する。加熱アセンブリ41は、複数の筒状の部材から構成され、全体として筒状体をなしている。加熱アセンブリ41は、その内部に吸引物品110の一部を受け入れるよう収納可能に構成され、吸引物品110へ供給する空気の流路を画定する機能、及び吸引物品110を外周から加熱する機能を有する。
【0049】
より詳しくは、加熱部40は、ステンレス箔で構成された1又は複数の導電トラック(負荷)を、電気絶縁性を有するポリイミド(PI)フィルムで挟み込んで形成したPIフィルム・ヒータとして構成される。そして、PIフィルム・ヒータは、PIフィルムがステンレス管の外周に巻き付けられるように構成される。なお、当該ステンレス管は、内部に吸引物品110を受け入れる受入部42の一部として構成される。そして、負荷に対して電流が印加されて抵抗加熱し、PIフィルムを介してステンレス管に伝熱される結果、ステンレス管の内部に受け入れた吸引物品110が加熱されることになる。
【0050】
代替では、吸引物品110を長手方向の中心軸から放射方向に加熱するように加熱アセンブリ41を配置して、加熱部を構成してもよい。
【0051】
ボトムハウジング11Bには、加熱アセンブリ41の内部に空気を流入するために、空気を流入させるための通気口15が形成される。具体的には、通気口15は、加熱アセンブリ41の一端部(
図2における左側の端部)と流体連通する。また、吸引装置10は、通気口15に着脱自在のキャップ16を有する。キャップ16は、通気口15に取り付けられた状態でも通気口15から加熱アセンブリ41の内部に空気が流入できるように構成され、例えば貫通孔又は切欠き(何れも不図示)等を有してもよい。キャップ16を通気口15に取り付けることで、加熱アセンブリ41内に受け入れた吸引物品110が発生する物質が、通気口15からハウジング11の外部に落下することを抑制することができる。また、キャップ16を取り外すことで、加熱アセンブリ41の内部又はキャップ16の内側をクリーニングすることもできる。
【0052】
加熱アセンブリ41の他の一端部(
図2における右側の端部)は、開口12aと流体連通する。開口12aと加熱アセンブリ41の他の一端部との間には、略筒状のアウターフィン17が設けられる。吸引物品110は、吸引装置10が開口12aを通じてその内部で受け入れているとき(
図1B)には、アウターフィン17を通過し、吸引物品110の一部が加熱アセンブリ41の内部に配置される。このため、アウターフィン17は、加熱アセンブリ41の他の一端部側の開口の大きさより、シャッター13側の開口12aの方が大きくなるように形成されることが好ましい。すなわち、ユーザは、開口12aからアウターフィン17の内部に向けて吸引物品110を挿入し易くなる。
【0053】
吸引物品110が開口12aから吸引装置10内に受け入れられている状態(
図1B)では、ユーザが、吸引物品110の吸引装置10から突出した部分、即ちフィルタ部115(後述)から吸引すると、それに応じて、通気口15から加熱アセンブリ41の内部に空気が流入する。流入した空気は、加熱アセンブリ41の内部を通過して、吸引物品110から生じるエアロゾルと共に、ユーザの口内に到達する。したがって、加熱アセンブリ41の通気口15に近い側が上流側となり、加熱アセンブリ41の開口12aに近い側(アウターフィン17に近い側)は下流側となる。
【0054】
なお、
図2の例では、長手方向に沿って流路が直線状を形成するように位置に通気口15を設けているが、必ずしもこれに限定されない。これ以外にも、例えば、長手方向に対し垂直方向となるようなボトムハウジング11Bの表面上の位置に通気口15を設けてもよく、この場合は、流路は略L字状を形成することになる。
【0055】
(3)吸引物品の構造
ここで、
図3を参照して、本実施形態に係る吸引装置10に受け入れられる、香味源を収容したエアロゾル生成基材である吸引物品110の構成についても説明しておく。
図3は、吸引物品110の矢視3-3における断面図である。吸引物品110は、充填物111(香味発生基材の一例に相当する)と、充填物111を巻装する第1の巻紙112とを含む基材部110Aと、基材部110Aとは反対側の端部を形成する吸口部110Bとを有する。基材部110Aと吸口部110Bは、第1の巻紙112とは異なる第2の巻紙113によって連結されている。ただし、第2の巻紙113を省略し、第1の巻紙112を用いて基材部110Aと吸口部110Bを連結することもできる。
【0056】
吸口部110Bは、紙管部114と、フィルタ部115と、紙管部114とフィルタ部115との間に配置された中空セグメント部116とを有する。中空セグメント部116は、例えば、1つ又は複数の中空チャネルを有する充填層と、充填層を覆うプラグラッパーとを含む。充填層における繊維の充填密度が高いので、吸引時、空気やエアロゾルは中空チャネルのみを流れることになり、充填層内をほとんど流れない。吸引物品110において、フィルタ部115でのエアロゾル成分の濾過によるエアロゾルのデリバリ量の減少を少なくしたいときに、フィルタ部115の長さを短くして中空セグメント部116で置き換えることは、エアロゾルのデリバリ量を増大させるために有効である。
【0057】
図3の例では、吸口部110Bは3つのセグメントから構成されている。別の例では、吸口部110Bは1つ又は2つのセグメントから構成されてもよいし、4つ又はそれ以上のセグメントから構成されてもよい。例えば、中空セグメント部116を省略し、紙管部114とフィルタ部115を互いに隣接するように配置して吸口部110Bを形成することもできる。
【0058】
吸引物品110の長手方向の長さは、40mm~90mmであることが好ましく、50mm~75mmであることがより好ましく、50mm~60mmであることがさらに好ましい。吸引物品110の円周は15mm~25mmであることが好ましく、17mm~24mm以下であることがより好ましく、20mm~22mmであることがさらに好ましい。また、吸引物品110における基材部110Aの長さは20mm、第1の巻紙112の長さは20mm、中空セグメント部116の長さは8mm、フィルタ部115の長さは7mmであってもよい。これら個々のセグメントの長さは、製造適性、要求品質等に応じて、適宜変更できる。
【0059】
吸引物品110の充填物111は、所定温度で加熱されてエアロゾルを発生するエアロゾル源を含有し得る。エアロゾル源の種類は、特に限定されず、用途に応じて種々の天然物からの抽出物質及び/又はそれらの構成成分を選択することができる。エアロゾル源には、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、1,3-ブタンジオール、及びこれらの混合物等が想定される。充填物111中のエアロゾル源の含有量は、特に限定されず、十分にエアロゾルを発生するとともに、良好な香喫味の付与の観点から、通常5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上であり、また、通常50重量%以下であり、好ましくは20重量%以下である。
【0060】
吸引物品110の充填物111は、香味源としてたばこ刻みを含有し得る。たばこ刻みの材料は特に限定されず、ラミナや中骨等の公知の材料を用いることができる。吸引物品110における充填物111の含有量の範囲は、円周22mm、長さ20mmの場合、例えば、200mg~400mgであり、250mg~320mgであることが好ましい。充填物111の水分含有量は、例えば、8~18重量%であり、10~16重量%であることが好ましい。このような水分含有量であると、巻染みの発生を抑制し、基材部110Aの製造時の巻上適性を良好にする。充填物111として用いるたばこ刻みの大きさやその調製法については特に制限はない。例えば、乾燥したたばこ葉を、幅0.8mm~1.2mmに刻んだものを用いてもよい。また、乾燥したたばこ葉を平均粒径が20μm~200μm程度になるように粉砕して均一化したものをシート加工し、それを幅0.8mm~1.2mmに刻んだものを用いてもよい。さらに、上記のシート加工したものについて刻まずにギャザー加工したものを充填物111として用いてもよい。
【0061】
吸引物品110の第1の巻紙112及び第2の巻紙113は、坪量が例えば20gsm~65gsmであり、好ましくは25gsm~45gsmである原紙から作られることができる。第1の巻紙112及び第2の巻紙113の厚みは、特に限定されないが、剛性、通気性、及び製紙時の調整の容易性の観点から、10μm~100μmであり、好ましくは20μm~75μmであり、より好ましくは30μm~50μmである。
【0062】
吸引物品110の第1の巻紙112及び第2の巻紙113には填料が含まれ得る。填料の含有量は、第1の巻紙112及び第2の巻紙113の全重量に対して10重量%以上60重量%未満を挙げることができ、15重量%~45重量%であることが好ましい。好ましい坪量の範囲(25gsm~45gsm)に対して、填料が15重量%~45重量%であることが好ましい。填料としては、例えば、炭酸カルシウム、二酸化チタン、カオリン等を使用することができる。このような填料を含む紙は、吸引物品110の巻紙として利用する外観上の観点から好ましい白色系の明るい色を呈し、恒久的に白さを保つことができる。そのような填料を多く含有させることで、例えば、巻紙のISO白色度を83%以上にすることができる。また、吸引物品110の巻紙として利用する実用上の観点から、第1の巻紙112及び第2の巻紙113は8N/15mm以上の引張強度を有することが好ましい。この引張強度は、填料の含有量を少なくすることで高めることができる。具体的には、上記で例示した各坪量の範囲において示した填料の含有量の上限よりも填料の含有量を少なくすることで、高めることができる。
【0063】
(4)吸引装置の機能ブロック構成
図4を参照して、本実施形態に係る吸引装置10の機能構成を説明する。
図4は、吸引装置10の構成を概略的に示すブロック図である。吸引装置10は、電源部20と、加熱部40と、受入部42と、制御部50と、通知部60と、センサ70と、メモリ80と、接続部90とを備える。
【0064】
電源部20は、加熱部40、制御部50、通知部60、センサ70、メモリ80、及び接続部90等の各構成要素に電力を供給するように構成される。特に、電源部20は、吸引物品110を加熱するために、予め設定された加熱プロファイルに従い、制御部から命令された出力で加熱部40に電力を供給する。代替では、電源部20は、電源21を含む別の装置と接続されるように構成されてもよい。
【0065】
加熱部40は、電源部20から電力が供給されることにより、負荷に電流が印加されて抵抗加熱する。そして、受入部42内部に向けて外周から伝熱することよって、受入部42に受け入れられている吸引物品110を加熱する。受入部42は、開口12aを通じて吸引物品110を、図示された矢印の方向に受け入れ、充填物111を保持するように構成される。
【0066】
制御部50は、吸引装置10の動作を制御するように構成される。また、制御部50は、吸引装置10が備える各構成要素との間で情報を受け渡しするように構成される。制御部50は、マイクロプロセッサ又はマイクロコンピュータとして構成された電子回路モジュールとしてもよい。制御部50は、メモリ80に格納されたコンピュータ実行可能命令に従って吸引装置10の動作を制御するようにプログラムされる。また、制御部50は、メモリ80からデータを読み出して該データを吸引装置10の動作の制御に利用し、又は、データをメモリ80に格納する。
【0067】
本実施形態において、制御部50は、メモリ80に格納された複数の加熱プロファイルに基づいて、吸引装置10の動作を制御するように構成される。より詳しくは、制御部50は、特定される1つの加熱プロファイルに応じた加熱動作を行う。加熱動作には、複数の加熱プロファイルに共通する予備加熱動作が含まれる。共通の予備加熱動作は、温度上昇のための予備加熱動作と、温度維持のための予備加熱動作とを含む。温度上昇のための予備加熱動作では、制御部50が、複数の加熱プロファイルに共通した量の電力を電源部20から加熱部40に供給させて、加熱部40の温度を、複数の加熱プロファイルの間で実質的に同一の最高加熱温度まで上昇させる。また、温度維持のための予備加熱動作は、加熱部40の温度を、複数の加熱プロファイルに共通した所定の加熱期間にわたり、実質的に同一の所定の最高加熱温度に維持させる。
【0068】
ここで、本願において、2つの温度が「実質的に同一」であるとは、仮に2つの温度の値が厳密には同一でない場合でも、その温度差が、ユーザが自らの吸引体験において(香味で)変化を感じない程度の範囲内にあることをいう。例えば、本実施形態に係る吸引装置10を加熱させるような場合は、摂氏20度未満の温度差も実質的に同一というための範囲に含まれてよい。より詳しくは、本発明者が鋭意実験した結果、吸引開始時は摂氏マイナス5度から摂氏プラス10度未満の温度差の範囲であれば、また、吸引開始以外の時は、摂氏マイナス10度から摂氏プラス10度未満の温度差の範囲であれば、ユーザに変化を感じさせないことが判明している。
【0069】
このように、本実施形態の吸引装置10は、複数の動作モードに基づく加熱プロファイルに共通した予備加熱動作を実現する。これにより、吸引装置10の予備加熱時の動作において、複数の動作モードの間で、吸引装置10が吸引可能となるまでの時間が共通化されることになる。すなわち、ユーザは、動作モードの替えを特段意識する必要なく、同一のタイミングで吸引装置10を吸引可能とすることができるので、ユーザにとって直感的で使い易く、吸引体験の質を向上させることができる。
【0070】
例えば、予備加熱動作の期間が全体として共通するものの、温度上昇のための予備加熱動作に関する複数の加熱プロファイルが異なり、その部分の加熱期間が異なるような場合がある。この場合、製造業者は、温度維持のための予備加熱動作に関する加熱プロファイルを微調整しつつ予備動作を全体として共通化させる必要がある。微調整においては、予備加熱時に生じる周囲の温度や連続吸引時の余熱のような周囲環境の乱れを考慮しなければならず、製造業者にとって煩わしいものとなる。他方、本実施形態のように、温度上昇のための予備加熱動作を共通化することにより、製造業者は、製造時に複数の加熱プロファイルの設定データを共通化するだけでよいので、製造時の行程を簡素化することができる。
【0071】
また、温度維持のための予備加熱動作に関する複数の加熱プロファイルが異なるような場合には、特に、吸引装置10に対する調整のみならず、吸引物品110側に対しても調整を行わなければならない場合もある。しかしながら、例えば、吸引物品110を販売した後に事後的に吸引物品110に対して調整を実施するのは現実的ではない。他方、本実施形態のように、温度維持のための予備加熱動作の期間を共通化することにより、このような事態を回避することができる。
【0072】
図4に戻り、制御部50はタイマ55を内蔵し、クロック(例えば、RTC(real time clock))に基づいて所望の期間を測定するように構成されてもよい。例えば、制御部50は、電源部20が加熱部40に電力を供給している期間、温度検出部72によって加熱部40が所望の温度に維持されている期間、及び吸引検出部74によって吸引動作が検出されている期間のような様々な動作期間をタイマで測定することができる。
【0073】
通知部60は、ユーザに対して明示的な通知を行うように構成される。特に、吸引装置10の動作状態及び/又は状態遷移に応じた通知を行う。具体的には、通知部60は、発光、表示、発声、振動、及びこれらの任意の組み合わせによって、ユーザに対して様々な態様の通知を行うのがよい。通知部60は、複数のLED18a~18eを備え、それぞれが1つ以上の色で多様な発光のパターン(点灯、消灯、及び点滅)を構成してもよい。また、通知部60は、振動モータを備えて多様な振動のパターンを構成して、複数のLED18a~18eの発光のパターンと組み合わされてもよい。本実施形態において、通知部60は、モード切替通知部62と、予備加熱期間通知部64と、予備加熱完了通知部66と、加熱期間通知部68とを備え、各々は、LED18a~18e及び振動モータの全部又は一部を含んで構成されてよい。
【0074】
モード切替通知部62に対し、制御部50は、複数の動作モード間の切り替えを通知させてもよい。例えば、切り替えは、LED18aを動作モードに応じて異なる色で発光させると共に、第2通知部による振動モータを振動させることにより、切り替えをユーザに示してもよい。これにより、ユーザは、複数の動作モード間の切り替えの完了を吸引装置10の振動によって把握することができる。
【0075】
予備加熱期間通知部64に対し、制御部50は、温度上昇のための予備加熱動作の期間中と温度維持のための予備加熱動作の期間中とを、異なる態様で通知させてもよい。例えば、温度上昇のための予備加熱動作の期間中は3つのLED18a~cを時間の経過と共に段階的に発光させ、また、温度維持のための予備加熱動作の期間中は5つのLED18a~eを時間の経過と共に段階的に発光させることを通じて、予備加熱動作期間の段階をユーザに示してもよい。すなわち、複数のLEDの組み合わせによる異なる発光パターンが構成されてよい。
【0076】
このように、異なる態様の通知を行うことにより、ユーザは、予備加熱動作の進行状況を直感的に把握することができる。また、それぞれの態様において、時間の経過と共に段階的にLEDを発光させる発光パターンを構成することにより、ユーザは、より一層予備加熱動作の進行状況を直感的に把握することができる。
【0077】
予備加熱完了通知部66に対し、制御部50は、予備加熱動作期間の満了に応じて、予備加熱動作の完了を通知させてもよい。例えば、振動モータを1秒間にわたり振動させることにより、予備加熱動作の完了をユーザに示してもよい。これにより、ユーザは、予備加熱動作の完了を吸引装置10の振動によって把握することができる。
【0078】
加熱期間通知部68に対し、制御部は、予備加熱動作後の吸引時加熱動作の期間中に、5つのLED18a~eを時間の経過と共に段階的に発光させることを通じて、加熱期間の段階をユーザに示してもよい。これに加えて、吸引時加熱動作期間の満了の30秒前及び加熱期間の満了時のような特定の時点で、振動モータを振動させることを通じて、吸引に関する特定の時点をユーザに示してもよい。
【0079】
このように、時間の経過と共に段階的にLEDを発光させる発光パターンを構成すること、及び吸引に関する特定の時点で振動モータを振動させることにより、ユーザは、より一層予備加熱動作の進行状況を直感的に把握することができる。
【0080】
前述のとおり、本実施形態においては、複数の加熱プロファイルの間で予備加熱動作が共通化される。そして、予備加熱動作が開始されてから予備加熱動作期間が満了するまでの間、複数の加熱プロファイルに共通したタイミングで予備加熱期間通知部64及び予備加熱完了通知部66による通知動作が実行される。すなわち、予備加熱動作においては、複数の加熱プロファイルの間で共通した通知が行われ、ユーザに示されることになる。特に、共通のタイミングで予備加熱完了を通知されたユーザにとって、複数の動作モード間の違いを意識させることなく、後続の吸引動作に移行することができる。すなわち、本実施形態の吸引装置10は、ユーザにとって直感的で使い易く、吸引体験の質を向上させる点で有利である。
【0081】
センサ70は、吸引装置10の各種動作状態を検出するように構成される。本実施形態において、センサ70は、温度検出部72と、吸引検出部74と、押圧検出部76と、開放検出部78とを備える。
【0082】
温度検出部72は、加熱部40(より詳細には、加熱部40に含まれる負荷)の温度を検出するように構成される。例えば、温度検出部は、加熱部40の負荷の抵抗値を求めるのに要する値(加熱部40の負荷を流れる電流値、加熱部40の負荷に印加される電圧値等)を検出するように構成される。加熱部40の負荷の抵抗値が温度依存性を有する場合、検出された加熱部40の負荷の抵抗値に基づいて、加熱部40の温度を推定することができる。代替では、温度検出部は、加熱部40の温度を検出する温度センサを含んでもよい。
【0083】
吸引検出部74は、通気口15から加熱アセンブリ41への空気取込流路及び/又はエアロゾル流路内の圧力の変動を検出する圧力センサ又は流量を検出する流量センサを使用して、ユーザによる吸口部110Bを通じた一連の吸引動作を検出するように構成される。吸引検出部74を用いて、制御部50は、ユーザによる吸引回数及び/又は吸引時間を決定することができる。また、吸引検出部74は、吸引物品110のコンポーネントの重量を検出する重量センサを使用して吸引動作を検出するように構成されてもよい。或いは、エアロゾル源が液体である場合には内部液面の高さを検出するように構成されてもよい。
【0084】
押圧検出部76は、ユーザによる操作ボタン14の押圧を受けたことを検出するように構成される。具体的には、ユーザが操作ボタン14を押圧したときに、操作ボタン14の一部が、その近傍に配置されている第2回路基板32と接触したことが検出される。
【0085】
本実施形態において、制御部50は、押圧検出部76での検出に応じて、複数の加熱プロファイルに基づく複数の動作モード間の切り替えを行う。具体的には、所定期間内に所定回数の操作ボタン14の押圧を受けたことが押圧検出部76により検出されたことに応じて、制御部50は、複数の動作モード間の切り替えを行うように構成されるのがよい。すなわち、ユーザは嗜好に応じて吸引体験を自らカスタマイズすることができ、また、吸引装置10の利便性を向上させることができる。
【0086】
開放検出部78は、開口12aがシャッター13によって開放された(又は閉塞された)ことを検出するように構成される。具体的には、シャッター13が、カバー12上で、開口12aを閉塞する第1位置又は開口12aを開放する第2位置の何れに位置しているかについて機械的に判定される。本実施形態において、開放検出部78が開口12aの開放を検出し、開口12aが開放されている場合にのみ、制御部50は、複数の動作モード間の切り替えを許可するように構成される。これにより、ユーザが意図しない場面で、誤操作により動作モードが勝手に切り替わるのを防止することができる。
【0087】
上記以外にも、電源部20のSOC(State of Charge,充電状態)、電源部20の放電状態、電流積算値、電圧等を検出する際にセンサ70が用いられてもよい。電流積算値は、電流積算法やSOC-OCV(Open Circuit Voltage,開回路電圧)法等によって求められてもよい。
【0088】
メモリ80は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の記憶媒体であり、コンピュータ実行可能命令を含む、吸引装置10の動作に関連する様々なデータを格納するように構成される。本実施形態において、メモリ80は、複数の加熱プロファイルに関するデータを格納してもよい。加熱プロファイルは、吸引装置10の動作モードを定義する設定データであり、特に、加熱温度及び加熱時間を含む加熱情報に基づいて、加熱部40による加熱開始から終了までの加熱動作態様を定義する。制御部50は、このような加熱プロファイルに従って、電源部20に対し、加熱部40に電力を供給させることになる。なお、加熱プロファイルは、吸引物品に収容される香味の種別に応じて個別に設定されても、ユーザによる手動の設定を可能としてもよい。
【0089】
また、メモリ80は、コンピュータ実行可能命令に加えて、吸引装置10の動作の制御に必要な設定データ、及びファームウェア等のプログラムを格納する。例えば、メモリ80は、通知部60の制御方法(発光、発声、振動等の態様等)、及び、センサ70により検出された値等に関するデータを格納してもよい。設定データは、ユーザの入力を通じて設定可能としてもよい。
【0090】
接続部90は、吸引装置10を外部装置に通信可能に接続する際に使用される。ここでの通信は、有線通信及び/又は無線通信としてよい。有線通信の場合は、外部接続端子(端子22)を用いて、マイクロUSB等のデータ送信ケーブルを接続することにより、吸引装置10の動作に関連するデータを外部装置との間で入/出力を行うように構成される。他方、接続部90による通信が無線通信である場合には、Bluetooth(例えば、BLE;Bluetooth Low Energy)による近距離無線通信等が含まれ、接続部92は通信モジュールとなる。
【0091】
吸引装置10が端子22を介して外部入力装置と接続される際、外部装置からの命令に基づいて、メモリ80内に格納された吸引装置10の各種設定データ及び/又はファームウェアを書き換え可能となるように構成されるのがよい。例えば、吸引装置10は、接続部90を介して、通知部60の制御態様(発光、発声、振動等)、及び吸引時の加熱プロファイルの一部(加熱時に許容される温度範囲、加熱時間、吸引回数等)に関する情報を書き換え可能とするように構成されるのがよい。
【0092】
(5)吸引装置の概略の動作
図5及び
図6を参照して、本実施形態に係る吸引装置10の概略の動作例について説明する。
図5は、吸引装置10が実行する加熱動作に関し、ユーザの操作に応じた吸引装置10の状態遷移の例である。
図6は、吸引装置10が実行する加熱動作の全体のフロー図である。なお、これらは例示にすぎず、特に
図5に示される各状態以外にも、多くの状態が存在して然るべきことが当業者には理解される。
【0093】
本実施形態において、吸引装置10の状態には、「使用不可能状態」と「使用可能状態」とが含まれる。吸引装置10は、ユーザの操作に応じて、これらの状態の間を遷移させることができる。「使用可能状態」には、「待機状態」と、「加熱状態」と、「加熱停止状態」とが含まれ、吸引装置10は、ユーザの操作に応じて、加熱動作においてこの順序で状態を遷移させることができる。更に、加熱状態には、予備加熱状態と、これに続く吸引可能状態とが含まれる。
【0094】
吸引装置10の初期状態は、ユーザが吸引装置10に対して何も操作しておらず、吸引装置10を動作させていない「使用不可能状態」である(START)。ユーザは、吸引装置10のシャッター13を開放する(OP1)。これに応じて、開放検出部78は、シャッターが開口12aを開放したことを検出する(ステップS10)。
【0095】
ステップS10の結果、吸引装置10は活性化されて、「使用可能状態」のうちの「待機状態」に遷移する。これに応じて、通知部60は、LED18aを現在の動作モードに応じた色で発光させてもよい。「待機状態」は、吸引装置10が加熱動作を実行する前の状態であり、特に、予備加熱動作の開始を待機している状態である。「待機状態」において、ユーザは、吸引物品110を開口12aから挿入する。これに応じて、受入部44は、吸引物品110を内部に受け入れる(ステップS20)。
【0096】
また、「待機状態」では、吸引装置10の加熱動作に先立ち、メモリ80に格納された複数の加熱プロファイルの内1つを特定して有効化する(ステップS30)。複数の加熱プロファイルには複数の動作モードがそれぞれ関連付けられており、ユーザは、どの動作モードで吸引装置10を動作させるかを自ら決定することができる。例えば、複数の動作モードには、「標準モード」と「パワーモード」が含まれる。「標準モード」とは、ユーザが安定した香味を持続的に味わうことができる加熱モードである。「パワーモード」は、「標準モード」と比べ、ユーザはより強力な吸引体験を得ることができる加熱モードであり、1本の吸引物品110につき、より高い吸引体験の質をユーザに与えることを意図している。
【0097】
なお、吸引装置10の出荷時の初期設定では、動作モードは「標準モード」に設定されているのがよく、「標準モード」に対応した加熱プロファイルが有効化されている。ユーザは、動作モードの切り替えの操作を通じて、「標準モード」と「パワーモード」の間を選択的に切り替えるよう設定することができる(OP2)。切り替えの操作は、所定期間内に所定回数の連続的な操作ボタン14の押圧としてよく、例えば、1回目の操作ボタン14の押圧から1000ミリ秒以内に2回の押圧としてもよい(この場合、合計3回の連続押圧となる。)。このような切り替えの操作に応じて、選択された動作モードに対応した加熱プロファイルが有効化される。
【0098】
切り替えの操作は押圧検出部76によって検出され、これに応じて、モード切替通知部62による通知が実行される。具体的には、制御部50は、モード切替通知部62に対し、複数の動作モード間の切り替えを通知させる。
【0099】
次いで、吸引装置10を「待機状態」から「加熱状態」に移行させるために、ユーザは、操作ボタン14の押圧の操作を行う(OP3)。例えば、例えば、2秒間以上にわたる操作ボタン14の長押操作としてもよい。このような操作ボタン14の押圧は、押圧検出部76によって検出される。つまり、押圧検出部76は、吸引物品110の加熱を開始するためのトリガを検出する(ステップS40)。
【0100】
「加熱状態」のうちの「予備加熱状態」は、電源部20から加熱部40への電力供給が開始されて、吸引物品110がエアロゾルを生成可能な「吸引可能状態」となるまでの予備加熱動作期間における状態である。加熱部40は、ステップS30で特定された加熱プロファイルに従い、吸引物品110を予備的に加熱する予備加熱動作を実行する(ステップS50)。予備加熱動作期間において、予備加熱期間通知部64による通知が行われる。また、予備加熱動作期間が満了すると、予備加熱完了通知部66による予備加熱完了の通知が行われる。なお、予備加熱動作期間における予備加熱動作の詳細は後述する。
【0101】
予備加熱動作期間が満了すると、引き続き、吸引装置10は、「予備加熱状態」から「吸引可能状態」に自動的に移行される。「吸引可能状態」は、予備加熱動作の完了に応じて、吸引装置10がエアロゾルを生成可能な状態であり、ユーザによる吸引動作を受け付け可能な状態である。加熱部40は、ステップS30で特定された加熱プロファイルに従い、吸引物品110を加熱して吸引成分を生成する吸引時加熱動作を実行する(ステップS60)。
【0102】
ステップS60で吸引物品110を加熱した後、吸引装置10は「加熱停止状態」に自動的に移行される。「加熱停止状態」は、電源部20から加熱部40への電力の供給が停止された状態であり、尚もユーザによる吸引動作を受け付け可能な状態である。つまり、制御部が電源部20に対して電力の供給を停止させた後の一定の動作も、吸引時加熱動作に含まれてよい。吸引時加熱動作において、加熱期間通知部68による通知が行われる。また、吸引時加熱動作の期間が満了すると、同様に、その旨の通知が行われてもよい。吸引時加熱動作の詳細は後述する。
【0103】
吸引時加熱動作の期間が満了した後、ユーザは、最後に吸引装置10のシャッター13を閉塞させる(OP4)。これに応じて、開放検出部78は、シャッターが開口12aを閉塞したことを検出して、吸引装置10は「使用可能状態」から「使用不可能状態」に移行され、初期状態に戻る(END)。
【0104】
(6)吸引装置の個別動作
図7~
図10を参照して、本実施形態に係る吸引装置10の個別動作の例について説明する。
図7は、吸引装置10における「標準モード」に対応した一例の加熱プロファイルのグラフ図であり、
図8は、「パワーモード」に対応した一例の加熱プロファイルのグラフ図である。また、
図9は、吸引装置が実行する加熱動作における予備加熱動作の概略フロー図であり、
図10は、吸引時加熱動作の概略フロー図である。なお、
図7及び
図8の加熱プロファイルには、これら予備加熱動作及び吸引時加熱動作に応じたプロファイルが含まれている。
【0105】
本実施形態に係る吸引装置10を動作させることにより、ユーザ自らが選択した動作モードに応じた適切な吸引体験をユーザに提供することができる。このような吸引装置10を動作はユーザにとって直感的であり、吸引体験の質を向上させることができる。特に、
図7及び
図8の加熱プロファイルの例は、何れも凸形状の関数となるように定義される。つまり、吸引装置10の加熱開始後、ユーザによる吸引体験の質が徐々に向上され、更に一定のタイミングでユーザの満足感はピークを迎える。そして、その後徐々に満足感がピークアウトして低下することになる。すなわち、ユーザにとって、いつ喫煙可能期間が満了するかを直感的に予測することができる。これにより、ユーザの吸引体験の質をより一層向上させることができる。
【0106】
(6-1)予備加熱動作
図9に示されるように、予備加熱動作は、ステップS40で吸引物品110の加熱を開始するトリガが検出されたのに応じて開始される。最初に制御部50は、温度検出部72に対し、加熱部40の温度の検出を開始させ、また、内蔵タイマ55による測定を開始する(ステップS52)。次いで、制御部50は、温度上昇のための予備加熱動作を実行する。具体的には、制御部50は、電源部20に対し、加熱部40に向けて電力を供給させることにより、加熱部40の温度を所定の加熱温度まで上昇させる。より詳しくは、予備加熱動作時における電源部20の最高出力で、電源部20から加熱部40に電力を供給させて、加熱部40の温度を所定の最高加熱温度まで上昇させる(ステップS54)。
【0107】
ここで、電源部20から加熱部40に供給される電力の量は、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとの間で共通である。また、所定の最高加熱温度は、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとを通じて、温度検出部72で検出し得る所定の最高加熱温度であり、例えば、摂氏240度(℃)に設定されるのがよい。これにより、温度上昇のための予備加熱動作において、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとで共通して、加熱部40の温度を、時間t
0で摂氏240度まで線形に上昇させることができる(
図7及び
図8)。なお、時間t
0は、予備加熱動作時における電源部20の最高出力の大きさによって異なるものとなる。
【0108】
制御部50は、温度検出部72及びタイマ55を用いて、加熱部40の温度が所定の最高加熱温度に達したかを判定する(ステップS55)。加熱部40の温度が最高加熱温度に達していない場合は(No)、最大30秒にわたりステップS54の動作を継続させる。なお、30秒経過しても加熱部40の温度が最高加熱温度に達しないような場合には、電源部20の出力が不足しているものとして、予備加熱動作を中断させるのがよい。
【0109】
ステップS55で加熱部40の温度が最高加熱温度に達した場合(Yes)、制御部50は、温度上昇のための予備加熱動作に続き、温度維持のための予備加熱動作を実行する。具体的には、制御部50は、一定期間にわたり加熱部40の温度を最高加熱温度に維持させるよう、高温加熱を継続させる(ステップS56)。温度維持のための予備加熱動作は、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとの間で共通である。具体的には、摂氏240度の最高加熱温度を維持するための一定期間t
1が加熱プロファイルの間で共通であり、例えば、10~15秒の範囲内の期間(この例では、14秒)に設定されるのがよい(
図7及び
図8)。
【0110】
ステップS57で温度維持のために高温加熱する期間が一定期間t1に達して、温度維持のための予備加熱動作期間が満了した場合(Yes)、制御部50は、予備加熱動作を終了して、引き続き、吸引時加熱動作を開始する。
【0111】
(6-2)吸引時加熱動作
図10に示されるように、吸引時加熱動作は、予備加熱動作期間が満了した場合に(ステップS57、Yes)、予備加熱動作に続いて実行される。
【0112】
最初に制御部50は、温度維持のための予備加熱動作で維持されてきた加熱部40の最高加熱温度を更に維持させるよう、高温加熱を継続させる(ステップS61)。吸引時加熱動作において、温度維持のために高温加熱を継続させる一定期間t
2は、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとの間で異なるように設定されるのがよい。具体的には、摂氏240度の最高加熱温度を維持する一定期間t
2は、「標準モード」の加熱プロファイルでは1秒に設定されるのがよい(
図7)。一方で、「パワーモード」の加熱プロファイルではこれを36秒に設定されるのがよい(
図8)。
【0113】
ここでは、「標準モード」の加熱プロファイルは、「パワーモード」の加熱プロファイルほど強力な吸引体験をユーザに提供しなくてもよい。つまり、ユーザに提供する満足度の観点から、「標準モード」の加熱プロファイルにおいて最高加熱温度を維持する一定期間t2の方が、「パワーモード」の加熱プロファイルにおける同期間t2よりも短く設定されてよい。
【0114】
当業者にとって、生成されるエアロゾルの香味は、加熱温度によってそのバランスが変わることが知られている。そして、吸引時加熱動作において、最高加熱温度を維持させるための加熱期間が加熱プロファイル毎に異なるように設定された加熱プロファイルを用意することにより、ユーザにとって、香味のバランスが変わることない、満足度の強弱に応じた吸引体験をユーザ自らが選択することができるようになる。
【0115】
ステップS62で温度維持のために高温加熱する期間が一定期間t2に達した場合(Yes)、制御部50は、吸引時加熱動作において、最高加熱温度を維持する高温加熱動作を終了して、温度降下動作を開始する。具体的には、制御部50は、加熱部40を所定のレートで所定の温度に降下させるよう、一定期間t3にわたり温度降下のための加熱を実行させる(ステップS63)。温度降下のための一定期間t3は、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとの間で異なるように設定されるのがよい。
【0116】
より詳しくは、一定期間t
3は、「標準モード」の加熱プロファイルでは、30秒~50秒の範囲内の期間(この例では45秒)と設定されるのがよい(
図7)。一方で、「パワーモード」の加熱プロファイルでは60行~90秒の範囲内の期間(この例では80秒)と設定されるのがよい(
図8)。つまり、一定期間t
3においては、「標準モード」の加熱プロファイルの方が「パワーモード」の加熱プロファイルよりも早いレートで温度降下することになる。なお、温度降下動作において、「標準モード」の加熱プロファイルは摂氏200度まで加熱部40の温度を降下させる一方、「パワーモード」の加熱プロファイルでは、摂氏205度まで温度を降下させるのがよい。なお、摂氏200度と摂氏205度とは、前述のとおり、実質的に同一な温度であるとみなすことができる。何故ならば、ユーザが(香味で)変化を感じない範囲の温度差だからである。
【0117】
ここでは、「標準モード」の加熱プロファイルは、「パワーモード」の加熱プロファイルほど強力な吸引体験をユーザに提供しなくてもよい。つまり、ユーザに提供する満足度の観点から、「標準モード」の加熱プロファイルにおける一定期間t3の方が、「パワーモード」の加熱プロファイルにおける一定期間t3よりも短く設定されてよい。また、降下される温度も、「標準モード」の加熱プロファイルの方が、「パワーモード」の加熱プロファイルよりも低く設定してよい。
【0118】
このように、吸引時加熱動作において、最高加熱温度を維持するための一定期間t2や温度降下のための一定期間t3を加熱プロファイル毎に異なるように設定することにより、ユーザに対して、動作モードに応じた異なる吸引体験を柔軟に提供することができる。すなわち、ユーザにとって直感的であり、吸引体験の質を向上させることができる。
【0119】
ステップS64で温度降下のために加熱する期間が一定期間t3に達した場合(Yes)、制御部50は、温度降下動作を終了して、吸引時加熱動作において低温加熱動作を開始する。具体的には、制御部50は、加熱部40への電源供給を停止させるまでの間の期間にわたり、加熱部40の温度を、ステップS63で降下した温度に維持させるよう、低温加熱を継続させる(ステップS65)。低温加熱のための一定期間t4は、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとの間で異なるように設定されるのがよい。
【0120】
具体的には、一定期間t
4は、「標準モード」の加熱プロファイルでは、この例では214秒と設定されるのがよい(
図7)。一方で、「パワーモード」の加熱プロファイルでは、この例では144秒と設定されるのがよい(
図8)。つまり、一定期間t
4においては、「標準モード」の加熱プロファイルの方が「パワーモード」の加熱プロファイルよりも長く低温が維持されることになり、ユーザに提供する満足度の観点にも適う。
【0121】
ステップS66で温度降下のために加熱する期間が一定期間t
4に達した場合(Yes)、制御部50は、低温加熱を終了して、吸引時加熱動作において電源部20から加熱部40への電力供給を停止させる。具体的には、制御部50は、一定期間T
5にわたり、電力供給を停止させて、加熱部40の温度を降下させる(ステップS67)。より詳しくは、一定期間t
5は、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとの間で共通して144秒と設定するのがよい(
図8及び
図9)。
【0122】
ステップS68で電力供給を停止する期間が一定期間t
5に達した場合(Yes)、最後に、制御部50は、吸引時加熱動作を終了する(END)。一連の吸引時加熱動作の継続期間は、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとの間で共通して、この例では270秒と設定されるのがよい(
図8及び
図9)。
【0123】
このように、一連の吸引時加熱動作の期間を、「標準モード」の加熱プロファイルと「パワーモード」の加熱プロファイルとの間で共通化することにより、ユーザは、同一のタイミングで吸引動作を終了することができるので、ユーザは「標準モード」と「パワーモード」における動作モード間の違いを意識することがない。すなわち、ユーザにとって直感的であり、吸引体験の質を向上させることができる。
【0124】
(7)変更例
(7-1)加熱プロファイルの変更例
上記説明においては、加熱プロファイルに設定される一定時間t1~t5が所与の値に設定されるものとした。しかしながら、これに限定されず、変更例では一定時間t1~t5の情報に替えて、例えば、ユーザによる吸引動作回数が設定されてもよい。吸引動作回数を用いて加熱プロファイルが設定される場合、制御部50は、吸引検出部74に対し、ユーザの吸引動作における吸引回数を検出させるのがよい。
【0125】
このように、吸引動作回数を適用する場合は、ユーザによる吸引動作の実績が動的にフィードバックされるので、ユーザにとって、更に、直感的であり吸引体験の質を向上させることができる。
【0126】
また、
図7及び
図8に示される加熱プロファイルの例における加熱温度及び加熱期間の値は例示に過ぎず、実際には、ユーザに提供される吸引体験の質の観点もしくは満足度の観点から、及び/又は、吸引物品110の特性に応じて、様々な値に設定可能であることが当業者には理解される。
【0127】
(7-2)通知部の変更例
上記説明においては、通知部60は、複数のLED18a~18eを備え、それぞれが1つ以上の色で多様な発光のパターン(点灯、消灯、及び点滅)を構成してもよいものとした。また、振動モータを備えて多様な振動のパターンを構成して、複数のLED18a~18eの発光のパターンと組み合わされてもよいものとした。しかしながら、通知部60の構成及び通知の態様は、これに限定されず、ユーザに対して明示的な通知を行うように動作するものであれば任意のものでよく、発光、振動、表示、及び発声、並びにこれらの組み合わせ等によって実現することができる。これにより、ユーザに対し、更に、柔軟な通知態様を実現することができる。
【0128】
例えば、通知部60は、1又は複数のスピーカを含んでもよく、複数のLED18a~18e及び振動モータと共に、音に基づいてユーザに通知するように構成されてもよい。或いは、通知部60は、1又は複数のディスプレイを含んでもよく、ディスプレイ上に文字/画像情報を表示することでユーザに通知するように構成されてもよい。
【0129】
<他の実施形態>
上述の説明において、幾らかの実施形態に係る吸引装置及び方法が図面を参照して説明された。本開示は、プロセッサにより実行されると、当該プロセッサに、吸引装置を動作させる方法を実行させるプログラム、又は当該プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体としても実施され得ることが理解される。
【0130】
以上、本開示の実施形態が、その変更例及び適用態様と共に説明されたが、これらは例示にすぎず、本開示の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、実施形態の変更、追加、改良等を適宜行うことができることが理解されるべきである。本開示の範囲は、上述した実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、特許請求の範囲及びその均等物によってのみ規定されるべきである。
【符号の説明】
【0131】
10…吸引装置、11(11A,11B)…ハウジング、12…カバー、12a…開口、13…シャッター、14…操作ボタン、110…吸引物品(エアロゾル生成基材)、110A…基材部、110B…吸口部、111…充填物、112,113…巻紙、114…紙管部、115…フィルタ部、116…中空セグメント部、15…通気口、16…キャップ、17…アウターフィン、20…電源部、21…電源、22…外部端子、30…回路部、31,32…回路基板、40…加熱部、41…加熱アセンブリ、42…受入部、50…制御部、60…通知部、62…モード切替通知部、64…予備加熱期間通知部、66…予備加熱完了通知部、68…加熱期間通知部、70…センサ、72…温度検出部、74…吸引検出部、76…押圧検出部、78…開放検出部、80…メモリ、90…接続部