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  • 特許-溶融炭酸塩型電池の電解質添加方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】溶融炭酸塩型電池の電解質添加方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20230828BHJP
   H01M 8/14 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
H01M4/88 T
H01M8/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022542375
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-31
(86)【国際出願番号】 CN2021114307
(87)【国際公開番号】W WO2022193551
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】202110299487.8
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522090095
【氏名又は名称】華能国際電力股分有限公司
【住所又は居所原語表記】Huaneng Building, NO.6 FuxingmenNei Street, Xicheng District Beijing 100031 (CN)
(73)【特許権者】
【識別番号】521438869
【氏名又は名称】中国華能集団清潔能源技術研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUANENG CLEAN ENERGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】Lab Block A, Huaneng Base, Beiqijia Future Science Park, Changping District, Beijing 102209, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲盧▼ 成壮
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 瑞云
(72)【発明者】
【氏名】程 健
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 冠▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】黄 ▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】白 ▲發▼▲キ▼
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-166195(JP,A)
【文献】実開平02-003661(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を水及びエタノールと混合して撹拌し、電解質混合溶液を得るステップ1と、
電極質量を秤量して電極の空隙率を測定し、電極内部の電解質の理論必要質量を算出するステップ2と、
電極を容器に入れて、電解質混合溶液を加えるステップ3と、
容器を乾燥条件下に置いて、水及びエタノールを完全に揮発させるステップ4と、
乾燥後の電極と電極上に付着させた電解質との全質量を秤量して、さらに、電極上に付着された電解質の質量を算出し、電解質の質量が、電極内部の電解質の理論必要質量の60%~80%である電極内部の電解質の実際必要質量を満たさない場合、ステップ3及びステップ4を繰り返し、電解質の質量が電極内部の電解質の実際必要質量を超える場合、電極内部の電解質の実際必要質量の範囲となるまで、余分な電解質を除去するステップ5と、
ステップ5で得られた電極を加熱して昇温し、加熱昇温が終了した後冷却し、溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加を完了するステップ6とを含む、ことを特徴とする溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法。
【請求項2】
ステップ1では、電解質はLi2CO3とK2CO3との混合物を用い、かつLi2CO3とK2CO3とのモル比が31:19である、ことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法。
【請求項3】
ステップ1では、電解質と水とエタノールとの質量比が、1:(1~2):(1.5~2)である、ことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法。
【請求項4】
ステップ1では、撹拌時間が1.5~2時間である、ことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法。
【請求項5】
ステップ2では、電極内部の電解質の理論必要質量の計算式が下式であり、
電解質=ρ電解質空隙=ρ電解質(V電極-m電極/ρニッケル
ここで、m電解質は電極内部の電解質の理論必要質量を表し、ρ電解質は電解質の密度を表し、V空隙は電極の空隙の体積を表し、V電極は電極の体積を表し、m電極は電極の質量を表し、ρニッケルは金属ニッケルの密度を表す、ことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法。
【請求項6】
ステップ4では、乾燥条件は、具体的には、温度30℃で換気することである、ことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法。
【請求項7】
ステップ6では、加熱昇温の工程は、具体的には、まず、窒素ガス雰囲気下、常温から450℃に昇温してから、水素ガス雰囲気下、450℃から650℃に昇温し、最後に、水素ガス雰囲気下、650℃で2時間保温することである、ことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法。
【請求項8】
5時間かけて常温から450℃に昇温する、ことを特徴とする請求項7に記載の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法。
【請求項9】
10時間かけて450℃から650℃に昇温する、ことを特徴とする請求項8に記載の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は溶融炭酸塩型燃料電池の分野に関し、具体的には、溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融炭酸塩型燃料電池の発電技術は高温燃料電池の発電技術として、燃料源が広く、モジュール化され、発電効率が高いなどの利点のため、国外では広く使用されている。近年、国内の水素エネルギー分野の技術の持続的な発展に伴い、燃料電池の発電技術も国内の視野に入ってきた。特に燃料電池の重要な材料の製造手段に関しては、溶融炭酸塩型燃料電池の電解質は主に炭酸塩、例えばLi2CO3とK2CO3又はLiCO3とNa2CO3である。電解質を炭酸塩膜としたり、電解質とセパレータとを同時に調製したり、電解質をチャネル内に投入したりすることが国外で使用されている。国外のこのような電解質の調製技術は溶融炭酸塩構造部材に対して設定されるものであり、国内の燃料電池に対しては制限がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願の目的は、従来技術に存在する欠陥を解決するために溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法を提供することであり、本願では、電解質を電極に添加することにより、電解質のチャネル内での分布を減少させ、両極板の厚さを効果的に減少させ、しかも、陰極に電解質を添加することで陰極材料のリチウム化を効率化し、燃料電池の性能を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成させるために、本願は下記技術的解決手段を採用する。
【0005】
溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法であって、
電解質を水及びエタノールと混合して撹拌し、電解質混合溶液を得るステップ1と、
電極質量を秤量して電極の空隙率を測定し、電極内部の電解質の理論必要質量を算出するステップ2と、
電極を容器に入れて、電解質混合溶液を加えるステップ3と、
容器を乾燥条件下に置いて、水及びエタノールを完全に揮発させるステップ4と、
乾燥後の電極と電極上に付着させた電解質との全質量を秤量して、さらに、電極上に付着させた電解質の質量を算出し、電解質の質量が、電極内部の電解質の理論必要質量の60%~80%である電極内部の電解質の実際必要質量を満たさない場合、ステップ3及びステップ4を繰り返し、電解質の質量が電極内部の電解質の実際必要質量を超える場合、電極内部の電解質の実際必要質量の範囲となるまで、余分な電解質を除去するステップ5と、
ステップ5で得られた電極を加熱して昇温し、加熱昇温が終了した後冷却し、溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加を完了するステップ6とを含む。
【0006】
さらに、ステップ1では、電解質はLi2CO3とK2CO3との混合物を用い、かつLi2CO3とK2CO3とのモル比が31:19である。
【0007】
さらに、ステップ1では、電解質と水とエタノールとの質量比が、1:(1~2):(1.5~2)である。
【0008】
さらに、ステップ1では、撹拌時間が1.5~2時間である。
【0009】
さらに、ステップ2では、電極内部の電解質の理論必要質量の計算式が下式であり、
電解質=ρ電解質空隙=ρ電解質(V電極-m電極/ρニッケル
ここで、m電解質は電極内部の電解質の理論必要質量を表し、ρ電解質は電解質の密度を表し、V空隙は電極の空隙の体積を表し、V電極は電極の体積を表し、m電極は電極の質量を表し、ρニッケルは金属ニッケルの密度を表す。
【0010】
さらに、ステップ4では、乾燥条件は、具体的には、温度30℃で換気することである。
【0011】
さらに、ステップ6では、加熱昇温の工程は、具体的には、まず、窒素ガス雰囲気下、常温から450℃に昇温してから、水素ガス雰囲気下、450℃から650℃に昇温し、最後に、水素ガス雰囲気下、650℃で2時間保温する。
【0012】
さらに、5時間かけて常温から450℃に昇温する。
【0013】
さらに、10時間かけて450℃から650℃に昇温する。
【発明の効果】
【0014】
従来技術に比べて、本願は以下の有益な技術的効果がある。
【0015】
本願では、電解質が電極に添加され、電極材料が多孔質構造であり、その内部の70%以上が空隙であるので、所定質量の電解質を充填することができ、一方、従来の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質が一般的にチャネル内に配置され、本願の方法では、加熱昇温によって電解質が電解質の空隙に含浸され、電解質の添加が実現され、このような電解質添加方法は、チャネル内での電解質の分布を減少させ、両極板の厚さを効果的に減少させ、しかも、陰極材料に電解質が添加されるので、加熱昇温においてニッケルが炭酸リチウムと化学反応を起こしてLiNiO2を生成し、これにより、陰極材料のリチウム化を効率化し、燃料電池の性能を向上させることができる。
【0016】
さらに、本願は昇温工程を正確に制御し、室温から450℃への昇温は窒素ガスの保護下で行われ、これにより電極の酸化が回避され、450℃から650℃への昇温は水素ガスの保護下で行われ、電解質が溶融して電極の空隙に含浸し、水素ガス雰囲気下では酸化されたニッケル電極の一部が還元されることができ、650℃での保温により、ニッケルが炭酸リチウムと化学反応を起こしてLiNiO2を生成することができ、これにより、陰極材料のリチウム化を効率化する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願の電極への電解質添加の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0019】
溶融炭酸塩型燃料電池の電解質添加方法は、以下のステップを含む。
1、電解質(モル比31:19のLi2CO3とK2CO3、)と水とエタノールを1:(1~2):(1.5~2)の質量比で混合し、1.5~2時間撹拌し、電解質混合溶液を得る。
2、電極質量を秤量して電極の空隙率を測定し、電極内部の電解質の必要量を算出し、計算式が下式であり、
電解質=ρ電解質空隙=ρ電解質(V電極-m電極/ρニッケル
ここで、m電解質は電極内部の電解質の理論必要質量を表し、ρ電解質は電解質の密度を表し、V空隙は電極の空隙の体積を表し、V電極は電極の体積を表し、m電極は電極の質量を表し、ρニッケルは金属ニッケルの密度を表す。
3、電極をトレイに入れて、電解質混合溶液を加える。
4、トレイをオーブンに入れて、水及びエタノールが完全に揮発されるまで、温度30℃及び通気を保持する。
5、電極と電解質との全質量を秤量して、さらに、電極上に付着させた電解質の質量を算出し、電解質の質量が、電極内部の電解質の理論必要質量の60%~80%である電極内部の電解質の実際必要質量を満たさない場合、ステップ3及びステップ4を繰り返し、電解質の質量が電極内部の電解質の実際必要質量を超える場合、電極内部の電解質の実際必要質量の範囲となるまで、余分な電解質を除去する。
6、電極と電解質を加熱炉に入れて、加熱工程として常温~450℃(N2保護)5時間、450~650℃(H2保護)10時間、650℃で保温(H2保護)2時間、炉冷(H2保護)とし、窒素ガス及び水素ガスの雰囲気により電極の酸化が阻止される。
【0020】
本願では、電解質を水及びエタノールと混合して溶液とし、電解質を水及びエタノールに溶解させ、エタノールの添加により溶剤の揮発が効率化され、加熱により電解質が電極に配置され、従来の電解質と電極の混合・調製と異なり、加熱中にガス保護が利用され、これにより、ニッケル電極の酸化が防止され、電極中の有効電解質を確保し、電解質の浪費を回避するために、陰極電解質の添加量は式及び電解質の必要質量範囲に応じて厳格に制御されなければならない。
【0021】
以下、実施例を参照しながら本願についてさらに詳細に説明する。
【0022】
実施例1
1、電解質Li2CO3、K2CO3と水とエタノールを所定の割合(20:20:30、質量比)で混合し、1.5時間撹拌した。
2、電極質量を秤量した結果、33gであり、電極の空隙率を測定した結果、77%であり、電極内部の電解質の理論必要量を算出した結果、25.3gであった。
3、電解質の添加に必要な電極をトレイに入れて、電解質とエタノールとの混合溶液を加え、質量を100gとした。
4、トレイをオーブンに入れて、エタノールを完全に揮発させるまで、温度を30℃としながら換気する。
5、電極と電解質との全質量を秤量した結果、電極内部の電解質の必要質量の範囲(75%理論必要量)を満たす52gであった。
6、電極と電解質を加熱炉に入れて、加熱工程として常温~450℃(N2保護)5時間、450~650℃(H2保護)10時間、650℃で保温2時間(H2保護)、炉冷(H2保護)とし、窒素ガス及び水素ガスの雰囲気によって電極の酸化が阻止された。
7、冷却後の電極と電解質の重量を秤量した結果、50.9gであり、電解質の添加質量を計算した結果、17.9gであった。
8、電極を電池セルに組み立て、性能をテストし、ここで、電池セルは電解質50gを必要とし、電極には塩17.9gが含まれており、残りの電解質はチャネルに配置された。電池セルの開回路電圧は1.3905Vであり、電池の電流密度は93A/cm2であり、チャネル内に電解質50gを添加するという従来の方法よりも開回路電圧は0.05V増加し、電流密度は10A/cm2増加した。
【0023】
実施例2
1、電解質Li2CO3、K2CO3と水とエタノールを所定の割合(20:40:40、質量比)で混合し、1.8時間撹拌した。
2、電極質量を秤量した結果、30gであり、電極の空隙率を測定した結果、77%であり、電極内部の電解質の理論必要量を算出した結果、24.1gであった。
3、電解質の添加に必要な電極をトレイに入れて、電解質とエタノールの混合溶液を加え、質量を100gとした。
4、トレイをオーブンに入れて、エタノールを完全に揮発させるまで、温度を30℃としながら換気する。
5、電極と電解質の全質量を秤量した結果、電極内部の電解質の必要質量の範囲(電極の電解質理論質量の60%)を満たす44.5gであった。
6、電極と電解質を加熱炉に入れて、加熱工程として常温~450℃(N2保護)5時間、450~650℃(H2保護)10時間、650℃で2時間保温(H2保護)、炉冷(H2保護)とし、窒素ガス及び水素ガスの雰囲気によって電極の酸化が阻止された。
7、冷却後の電極と電解質の重量を秤量した結果、43gであり、電解質の添加質量を計算した結果、13gであった。
8、電極を電池セルに組み立て、性能をテストし、ここで、電池セルは、電解質50gを必要とし、電極には塩13gが含まれており、残りの電解質はチャネルに配置された。電池セルの開回路電圧は1.3885Vであり、電池の電流密度は94A/cm2であり、チャネル内に電解質50gを添加するという従来の方法よりも、開回路電圧は0.04V増加し、電流密度は9A/cm2増加した。
【0024】
実施例3
1、電解質Li2CO3、K2CO3と水とエタノールを所定の割合(20:30:35、質量比)で混合し、2時間撹拌した。
2、電極質量を秤量した結果、35gであり、電極の空隙率を測定した結果、77%であり、電極内部の電解質の理論必要量を算出した結果、27.1gであった。
3、電解質の添加に必要な電極をトレイに入れて、電解質とエタノールの混合溶液を加え、質量を100gとした。
4、トレイをオーブンに入れて、エタノールを完全に揮発させるまで、温度を30℃としながら換気する。
5、電極と電解質の全質量を秤量した結果、電極内部の電解質の必要質量の範囲(電極の理論電解質必要量の78%)を満たす56.1gであった。
6、電極と電解質を加熱炉に入れて、加熱工程として常温~450℃(N2保護)5時間、450~650℃(H2保護)10時間、650℃で2時間保温(H2保護)、炉冷(H2保護)とし、窒素ガス及び水素ガスの雰囲気によって電極の酸化が阻止された。
7、冷却後の電極と電解質の重量を秤量した結果、55.1gであり、電解質の添加質量を計算した結果、20.1gであった。
8、電極を電池セルに組み立て、性能をテストし、ここで、電池セルは電解質50gを必要とし、電極には塩20.1gが含まれており、残りの電解質はチャネルに配置された。電池セルの開回路電圧は1.401Vであり、電池の電流密度は96A/cm2であり、チャネル内に電解質50gを添加するという従来の方法よりも、開回路電圧は0.06V増加し、電流密度は12A/cm2増加した。
【0025】
以上は本願の好適な実施例に過ぎず、本願を限定するためのものではなく、本願の精神及び原則を逸脱することなく行われる全ての修正、等価置換や改良などは、本願の保護範囲に含まれるべきである。
図1