IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アカデミア シニカの特許一覧

<>
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図1
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図2
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図3
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図4
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図5
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図6
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図7
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図8
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図9
  • 特許-細胞培養基材、その方法および使用 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】細胞培養基材、その方法および使用
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230828BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230828BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/00 A
C12Q1/02
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2022564269
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 US2021065683
(87)【国際公開番号】W WO2022147250
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】63/132,934
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/252,268
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,イン-チー
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0151564(US,A1)
【文献】特表2014-501099(JP,A)
【文献】Biomacromolecules,2018年,Vol.19,pp.158-166
【文献】Tissue Engineering,Vol.13, No.8,2007年,pp.2105-2117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養用基材であって、
a)エラストマー膜の表面上に積層された吸収性ポリマーと、
b)多価電解質多層であって、前記吸収性ポリマーは、前記多価電解質多層のポリカチオンまたはポリアニオンと直接接触している、多価電解質多層と
を含む表面コーティングを有するエラストマー膜を含んでなり、
前記エラストマー膜は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む、基材。
【請求項2】
前記吸収性ポリマーが、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、PEG-アクリレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLDLLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PL-co-GA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(p-HEMA)およびそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の基材。
【請求項3】
前記吸収性ポリマーが、PVA、PEG、PEG-アクリレート、PVP、PEI、PMMAまたはそれらの誘導体である、請求項2に記載の基材。
【請求項4】
前記吸収性ポリマーが、PVA、PEGまたはPEG-アクリレートである、請求項2に記載の基材。
【請求項5】
前記吸収性ポリマーが前記PDMSにコンジュゲートしている、請求項1に記載の基材。
【請求項6】
前記吸収性ポリマーと前記PDMSとがコンジュゲートしていない、請求項1に記載の基材。
【請求項7】
前記ポリカチオンがポリ(アミノ酸)である、請求項1に記載の基材。
【請求項8】
前記ポリアニオンがポリ(アミノ酸)である、請求項1に記載の基材。
【請求項9】
前記ポリカチオンが、ポリ(L-リシン)(PLL)、ポリ(L-アルギニン)(PLA)、ポリ(L-オルニチン)(PLO)、ポリ(L-ヒスチジン)(PLH)、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の基材。
【請求項10】
前記ポリカチオンが、PLL、PLA、PLOまたはPLHである、請求項9に記載の基材。
【請求項11】
前記ポリアニオンが、ポリ(L-グルタミン酸)(PLGA)、ポリ(L-アスパラギン酸)(PLAA)、またはそれらの組合せである、請求項1に記載の基材。
【請求項12】
前記多価電解質多層が、PLL/PLGA、PLL/PLAA、PLA/PLGA、PLA/PLAA、PLO/PLGA、PLO/PLAA、PLH/PLGA、PLH/PLAA、およびそれらの組合せからなる群から選択される、ポリカチオンおよびポリアニオンの二重層を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の基材。
【請求項13】
前記多価電解質多層が交互積層法によって形成される、請求項1に記載の基材。
【請求項14】
前記多価電解質多層がn個の二重層を含み、nは、1~30の範囲の整数であり、その最外層はポリカチオンまたはポリアニオンである、請求項1に記載の基材。
【請求項15】
前記多価電解質多層がn個のポリカチオンおよびポリアニオン二重層と追加のポリアニオン層とを含み、nは、1~30の範囲の整数であり、その最外層はポリアニオンである、請求項1に記載の基材。
【請求項16】
前記多価電解質多層がn個のポリカチオンおよびポリアニオン二重層と追加のポリカチオン層を含み、nは、1~30の範囲の整数であり、その最外層はポリカチオンである、請求項1に記載の基材。
【請求項17】
a)疎水性表面を有する前記エラストマー膜を準備する工程、
b)前記エラストマー膜のその疎水性表面を処理により修飾する工程、
c)前記エラストマー膜のその修飾された表面に吸収性ポリマーを適用する工程、および
d)前記吸収性ポリマー上に、ポリカチオンとポリアニオンの交互層を逐次に積層させて、多層膜の形で基材を形成する工程
を含む、請求項1に記載の基材を調製するための方法。
【請求項18】
前記処理が、プラズマ処理、コロナ放電またはUVオゾン処理である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記処理がヒドロシリル化である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記エラストマー膜の前記疎水性表面が前記処理後に照射または親水化される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記エラストマー膜の表面が、前記修飾された表面に前記吸収性ポリマーを適用した後に親水化される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記吸収性ポリマーが、PVA、PEGまたはPEG-アクリレートである、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記吸収性ポリマーが前記エラストマー膜の表面に架橋している、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記PDMSが架橋を含まない、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
請求項1に記載の基材を含む細胞培養システム。
【請求項26】
細胞および/または培養培地をさらに含む、請求項25に記載の細胞培養システム。
【請求項27】
細胞を培養するための方法であって、
a)請求項1に記載の基材を含む細胞培養システムを準備すること、
b)前記基材上に細胞を播種すること、および
c)1以上の単一細胞由来のスフェロイドを形成するのに十分な時間、好適な培地下で細胞を培養すること
を含む、方法。
【請求項28】
1以上の単一細胞由来のスフェロイドを取得し、所望により、特性評価するための方法であって、(a)請求項1に記載の基材上で異種細胞集団を培養して、前記表面コーティング上に配置された少なくとも1つの単一細胞由来のスフェロイドを取得すること、ここで、前記単一細胞は前記異種細胞集団内の細胞である;および所望により、(b)前記単一細胞由来のスフェロイドを分析して、それによって、前記単一細胞の少なくとも1つの特性を得ることを含む、方法。
【請求項29】
個別化(personalized)薬物スクリーニングのための方法であって、(a)癌患者由来の腫瘍細胞を含む複数の細胞を、請求項1に記載の基材上で培養して、前記表面コーティング上に配置された少なくとも1つの単一細胞由来のテューモロイドを取得すること、ここで、前記単一細胞は前記複数の細胞内の腫瘍細胞である;および(b)前記テューモロイドを1以上の候補薬剤と接触させ、前記癌を治療するための治療効力を示すテューモロイドにおける1以上の変化の存在または不在を検出することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年12月31日に出願された米国仮特許出願第63/132,934号および2021年10月5日に出願された米国仮特許出願第63/252,268号に対する優先権および利益を主張し、その開示は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
3Dスフェロイドモデルへの関心は、基礎科学から、腫瘍生物学、神経変性疾患、薬物毒性の研究を含む前臨床創薬応用まで、研究者の間で高まっている。三次元(3D)細胞培養法は、複雑な組織または腫瘍モデルを生成するためにますます使用されるようになっている。
【0003】
3D細胞培養法および市場で入手可能な製品を使用して形成されたスフェロイドには多くのばらつきがあり、これはそれらの読み出しに影響を与える可能性がある。例えば、超低接着(ULA:Ultra Low Attachment)プレートおよびハンギングドロップ法を含む3D細胞培養に広く使用されている非接着技術は、通常、細胞凝集によってスフェロイドを生成するため、好適であることは証明されていない。そのようなスフェロイドは、一般に、それらの元の不均質性を維持し、様々な特性を有する複数の細胞を抱えているため、細胞の不均質性をよりよく理解する必要がある。数万個の細胞がスフェロイド(すなわち、球形の塊)に凝結すると、栄養分と酸素の浸透が不足するため、数時間にわたって広範囲の中央壊死性コアが形成される可能性があり、それによって細胞増殖が妨げられる。中央壊死拡大は、実際の癌では稀な現象である。
【0004】
あるいは、マトリゲルは、オルガノイド形成などの組織に基づく細胞成長に慣用される埋め込み基材である。しかし、焦点ずれ、非効率的な化合物拡散、およびサンプル単離の難しさにより、ex vivoでの3Dスフェロイドに基づく応用でのその適用は制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スフェロイド形成を標準化することは、均質な3D細胞培養物を生成し、スフェロイドに基づくアッセイおよび薬物スクリーニングから再現性のある結果を得るために重要である。従って、単一細胞由来のスフェロイドを確実に形成することができる新しい細胞培養システムと方法の開発が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本開示は、細胞の培養において使用するための細胞培養基材(以下、「基材」と呼ぶ)を提供する。本明細書で提供される基材は、多価電解質(an polyelectrolyte)多層および吸収性ポリマーでコーティングされたエラストマー膜を含む。本明細書に記載されるコーティングは、含水保存に有利である。そのコーティングにより、周囲温度での長期保存によって引き起こされる望ましくない表面亀裂が細胞培養基材で起こらないようにすることができる。また、その基材を含む細胞培養システムも提供される。基材を調製する使用および方法、ならびにそれを含む細胞培養システムも同様に提供される。
【0007】
従って、本開示の一態様は、多価電解質多層、吸収性ポリマー、およびエラストマー膜を含む多層膜の形の基材を提供し、吸収性ポリマーは、エラストマー膜の上部に積層され、多価電解質多層は、吸収性ポリマーの上部に積層される。吸収性ポリマーと直接接触する多価電解質は、ポリカチオンまたはポリアニオンであり得る。基材の最外層は、ポリカチオンまたはポリアニオンであり得る。
【0008】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるエラストマーは、シリコーンエラストマーである。好ましい実施形態において、そのシリコーンエラストマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0009】
好適な吸収性ポリマーとしては、限定されるものではないが、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、PEG-アクリレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLDLLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PL-co-GA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(p-HEMA)およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記吸収性ポリマーは、PVA、PEG、PVP、PEI、PMMAまたはそれらの誘導体である。いくつかの実施形態において、その吸収性ポリマーは、PVAである。いくつかの実施形態において、その吸収性ポリマーは、PEGまたは、PEGMA、PEGDMAもしくはPEGDAなどのPEG-アクリレートである。いくつかの実施形態において、その吸収性ポリマーは、PLAまたは、PLLA、PDLAもしくはPLDLLAなどの誘導体である。いくつかの実施形態において、その吸収性ポリマーは、PGAまたは、PLGAなどの誘導体である。いくつかの実施形態において、その吸収性ポリマーは、PMAAまたは、pHEMAなどの誘導体である。
【0011】
特定の実施形態において、前記吸収性ポリマーの体積は、前記表面コーティングの総体積の0.01~10%である。
【0012】
本明細書に記載される多価電解質多層(multiplayers)は、カチオン性多価電解質(「ポリカチオン」と呼ぶ)と多価電解質(an polyelectrolyte)(「ポリアニオン」と呼ぶ)とを含む層対(「二重層」と呼ぶ)を少なくとも1つ含む。いくつかの実施形態において、そのポリカチオンは、ポリ(アミノ酸)である。いくつかの実施形態において、そのポリアニオンは、ポリ(アミノ酸)である。いくつかの実施形態において、そのポリカチオンとそのポリアニオンはポリ(アミノ酸)である。本明細書に記載されるポリ(アミノ酸)には、Lおよび/またはDアミノ酸形態が含まれ得る。本明細書に記載されるように、その多価電解質多層(multiplayers)は、ポリカチオンとポリアニオンとを交互積層法(layer-by-layer assembly)によって交互に積層させることによって形成することができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、(ポリカチオン/ポリアニオン)の式を有する多価電解質多層は、n個の、ポリカチオンとポリアニオンとの二重層(式中、nは、1~30の範囲の整数である)を含む。いくつかの実施形態において、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20である。いくつかの実施形態において、nは、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16の範囲にある。
【0014】
いくつかの実施形態において、ポリアニオン(ポリカチオン/ポリアニオン)の式を有する多価電解質多層は、n+1個のポリアニオン層とn個のポリカチオン層(式中、nは、1~30の範囲の整数である)を含む。いくつかの実施形態において、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20である。いくつかの実施形態において、nは、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16の範囲にある。
【0015】
いくつかの実施形態において、ポリカチオン(ポリアニオン/ポリカチオン)の式を有する多価電解質多層は、n+1個のポリカチオン層とn個のポリアニオン層(式中、nは、1~30の範囲の整数である)を含む。いくつかの実施形態において、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20である。いくつかの実施形態において、nは、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16の範囲にある。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記ポリカチオンは、ポリ(L-リシン)(PLL)、ポリ(L-アルギニン)(PLA)、ポリ(L-オルニチン)(PLO)、ポリ(L-ヒスチジン)(PLH)、またはそれらの組合せである。好ましい一実施形態において、そのポリカチオンは、PLLである。
【0017】
好ましい実施形態において、前記ポリアニオンは、ポリ(L-グルタミン酸)(PLGA)、ポリ(L-アスパラギン酸)(PLAA)、またはそれらの組合せである。好ましい一実施形態において、そのポリアニオンは、PLGAである。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記多価電解質多層は、PLL/PLGA、PLL/PLAA、PLA/PLGA、PLA/PLAA、PLO/PLGA、PLO/PLAA、PLH/PLGA、PLH/PLAA、およびそれらの組合せからなる群から選択するポリカチオン/ポリカチオン(polycation/polycation)の層対(すなわち、二重層)を少なくとも1つ含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される二重層は、PLLおよびPLGAの組合せを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される二重層は、PLOおよびPLGAの組合せを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される二重層は、PLHおよびPLGAの組合せを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される二重層は、PLAおよびPLGAの組合せを含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される二重層は、PLLおよびPLAAの組合せを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される二重層は、PLOおよびPLAAの組合せを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される二重層は、PLHおよびPLAAの組合せを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される二重層は、PLAおよびPLAAの組合せを含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、30nm~30μmの範囲の厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、表面コーティングは、100nm~20μmの範囲の厚さを有する。いくつかの実施形態において、表面コーティングは、200、400、600または800nmの厚さを有する。いくつかの実施形態において、表面コーティングは、1、5、10、15または20μmの厚さを有する。
【0022】
本開示の表面コーティングは、従来の培養方法と比較して、限定されるものではないが、腫瘍細胞、多能性および分化複能性幹細胞および前駆細胞、造血細胞ならびに免疫細胞を含む様々な細胞についての増殖速度を向上させる。加えて、保水性が向上した表面コーティングは、周囲温度での長期保存による脱水によって引き起こされる望ましくない表面亀裂が表面コーティングで起こらないようにする利点を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、本開示の基材を調製するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法は、(a)支持体を準備する工程;(b)その支持体の表面上へエラストマーを適用する工程;(c)そのエラストマー上へ吸収性ポリマーを適用する工程;(d)その吸収性ポリマー上に、ポリカチオンとポリアニオンの交互層を逐次に積層させて、積層膜を形成する工程;および(e)その支持体から積層膜を剥離して、基材を得る工程を含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、そのエラストマーは、PDMSである。いくつかの実施形態において、そのPDMSは、疎水性表面を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法は、(a)疎水性表面を有するPDMS膜を準備する工程;(b)PDMSのその疎水性表面を処理により修飾する工程;(c)PDMSのその修飾された表面へ吸収性ポリマーを適用する工程;および(d)その吸収性ポリマー上に、多価電解質の交互層を逐次に積層させる工程を含み、それによって、コーティングされたPDMS膜が得られる。
【0025】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される処理は、プラズマ処理、コロナ放電またはUVオゾン処理である。いくつかの実施形態において、PDMSの疎水性表面は、前記処理後に照射または親水化される。いくつかの実施形態において、PDMS表面は、PDMSの修飾された表面に前記吸収性ポリマーを適用した後に親水化される。いくつかの実施形態において、PDMSの疎水性表面は、PDMSの修飾された表面にPVAを適用した後に親水性表面に変換される。
【0026】
いくつかの実施形態において、PDMSの疎水性表面は、ヒドロシリル化によって修飾される。いくつかの実施形態において、そのヒドロシリル化は、白金触媒によるヒドロシリル化である。いくつかの実施形態において、PDMS表面は、表面が修飾されたPDMSにPEG-アクリレートを適用した後に親水化される。いくつかの実施形態において、前記吸収性ポリマー(例えば、PEGまたはPEG-アクリレート)は、PDMS表面に共有結合している(すなわち、コンジュゲートしている)。架橋剤は、吸収性ポリマーとエラストマーとの架橋を促進するために、使用し得る。例示的な架橋剤としては、限定されるものではないが、マレイン酸、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ブタナール(ブチルアルデヒド)、ホウ酸ナトリウム、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0027】
いくつかの実施形態において、PDMSは架橋を含まない。
【0028】
本明細書に記載される支持体は、任意の好適な材料で作製することができる。例示的な材料としては、限定されるものではないが、金属、ガラスおよび二酸化ケイ素が挙げられる。いくつかの実施形態において、支持体は、ガラスまたはシリコーンウエハーで作製されている。
【0029】
別の態様において、本発明は、本開示の基材でコーティングされた表面を有する細胞培養物品を提供する。例示的な細胞培養物品としては、限定されるものではないが、細胞培養ディッシュ、細胞培養プレート、例えば、シングルウェルプレートおよびマルチウェルプレート(6、12、96、384、および1536ウェルプレートなど)が挙げられる。
【0030】
別の態様において、本発明は、本開示の細胞培養物品を含む細胞培養システムを提供する。いくつかの実施形態において、その細胞培養システムは細胞をさらに含む。いくつかの実施形態において、その細胞培養システムは培養培地をさらに含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される細胞培養システムは、細胞、特に、単一細胞または低密度細胞(例えば、存在量が1ミリリットル中に1000個未満の細胞)の3Dへの効率的かつスケーラブルな繁殖を可能にし、市場の現在のプラットフォーム(例えば、超低接着(ULA:Ultra Low Attachment)プレート、ハンギングドロップ)では形成されなかった難しい細胞種で3D細胞培養物を形成することを可能にする。
【0032】
本明細書に開示されるように、多価電解質多層および培養培地の1以上のパラメーターは、細胞のための1以上の微小環境選択基準に基づいて、ユーザーによって選択され得る。
【0033】
本明細書に開示される細胞培養システムは、細胞の付着および成長だけでなく、培養細胞(例えば、3D細胞培養物、組織および器官)の生存可能な採取も可能にする。生存細胞の採取ができないことは、市場の現在のプラットフォームにおける重大な欠点であり、生産能力に十分な数の細胞を構築して維持することが困難になる。本開示の実施形態の一態様によれば、細胞培養システムから、生存細胞(80%~100%の生存、または約85%~約99%の生存、または約90%~約99%の生存など)を採取することが可能である。例えば、採取された細胞のうち、少なくとも80%が生存可能であり、少なくとも85%が生存可能であり、少なくとも90%が生存可能であり、少なくとも91%が生存可能であり、少なくとも92%が生存可能であり、少なくとも93%が生存可能であり、少なくとも94%が生存可能であり、少なくとも95%が生存可能であり、少なくとも96%が生存可能であり、少なくとも97%が生存可能であり、少なくとも98%が生存可能であり、または少なくとも99%が生存可能である。いくつかの実施形態において、細胞は、細胞解離酵素、例えば、トリプシン、TrypLE、またはアキュターゼを使用して、細胞培養表面から放出させることができる。好ましい実施形態において、細胞は、細胞解離酵素を使用せずに、細胞培養表面から放出させることができる。
【0034】
別の態様において、本開示は、本明細書に開示される基材を使用して、細胞を培養し、所望により、細胞を採取するための方法を提供する。細胞を培養するための方法は、(a)本開示の基材を準備する工程;(b)前記基材上に細胞を播種する工程;(c)好適な条件下で細胞を培養する工程;および(d)所望により、培養細胞を採取する工程を含む。いくつかの実施形態において、培養細胞(すなわち、細胞産物)は、スフェロイドなどの3D細胞培養物である。いくつかの実施形態において、本明細書において生成されたスフェロイドは、基材に付着している。いくつかの実施形態において、本明細書において生成されたスフェロイドは、基材に半付着している。いくつかの実施形態において、スフェロイドは、単一細胞増殖を介して単一細胞から誘導される。いくつかの実施形態において、本発明の基材は、細胞培養物品内に収容される。例示的な実施形態の方法では、任意の好適な物品を使用することができる。培養細胞(例えば、培養し、採取した細胞)は、分析および特性評価、薬物スクリーニング、単一細胞由来のクローンの単離、細胞バンクの作成、ならびに動物モデルの作出などの様々な用途に使用し得る。
【0035】
本明細書に記載されるように、前記細胞は生細胞である。いくつかの実施形態において、それらの細胞は哺乳類細胞である。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、組織細胞、免疫細胞、内皮細胞、幹細胞、上皮細胞、間葉細胞、中皮細胞、腫瘍細胞または腫瘍関連細胞である。
【0036】
本明細書に記載されるように、細胞を培養することは、細胞を維持することおよび/または増殖させることを含む。いくつかの実施形態において、細胞を培養することは、細胞を維持することを含む。いくつかの実施形態において、細胞を培養することは、細胞を増殖させることを含む。いくつかの実施形態において、細胞を培養することは、細胞を分化させることをさらに含み得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、間葉系幹細胞(MSC)または多能性幹細胞(PSC)(胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)を含む)などの幹細胞である。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、腫瘍細胞である、前記培養細胞は、腫瘍スフェロイドである。腫瘍スフェロイドは、細胞株、腫瘍組織または液体生検から誘導され得る。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される腫瘍スフェロイドは、癌患者から得られた血液サンプルから単離された循環腫瘍細胞(CTC)から誘導される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される血液サンプルは、全血である。血液サンプルは、液体生検によって得ることができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される癌患者は、転移性癌を有するヒト癌患者である。いくつかの実施形態において、血液サンプルは、治療的処置の前、その間、および/またはその後に癌患者から得られる。
【0039】
いくつかの実施形態において、本発明の基材は、例えば、皮膚に貼付するパッチとして使用することができる。本明細書において生成された培養細胞は、細胞療法に使用し得る。
【0040】
本開示の別の態様は、単一細胞由来のスフェロイドをin vitroで調製する方法を提供し、その方法は、(a)本開示の基材を含む細胞培養システムを準備する工程;(b)サンプルから細胞(例えば、腫瘍細胞および/または腫瘍関連細胞)を単離して、単離された細胞を準備する工程;(c)単離された細胞を前記基材上に播種する工程;および(d)1以上のスフェロイドを生成するのに十分な時間、好適な培地下で細胞を培養する工程を含み、1以上のスフェロイドは単一細胞由来である。
【0041】
本開示の別の態様は、各々が遺伝的に同一である均質な細胞集団から構成される単一細胞由来のクローンを単離するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1Aは、本開示の基材の一実施形態の側面断面図である。吸収性ポリマー102は、エラストマー101(例えば、PDMS)上に積層される。101と102とは架橋されていない。301はポリアニオンである。302はポリカチオンである。103は4個の301と302との二重層を含む多価電解質多層(multiplayers)の一実施形態である。最外層は301である。図1Bは、本開示の基材の一実施形態の側面断面図である。吸収性ポリマー102は、エラストマー101(例えば、PDMS)上に積層される。101と102とは架橋されている。301はポリアニオンである。302はポリカチオンである。103は4個の301と302との二重層を含む多価電解質多層(multiplayers)の一実施形態である。最外層は301である。
図2図2Aは、本開示の基材の一実施形態の側面断面図である。吸収性ポリマー102は、エラストマー101(例えば、PDMS)上に積層される。101と102とは架橋されていない。301はポリアニオンである。302はポリカチオンである。103は5個の302層と4個の301層を含む多価電解質多層(multiplayers)の一実施形態である。最外層は302である。図2Bは、本開示の基材の一実施形態の側面断面図である。吸収性ポリマー102は、エラストマー101(例えば、PDMS)上に積層される。101と102とは架橋されている。301はポリアニオンである。302はポリカチオンである。103は5個の302層と4個の301層を含む多価電解質多層(multiplayers)の一実施形態である。最外層は302である。
図3図3Aは、本開示の基材の一実施形態の側面断面図である。吸収性ポリマー102は、エラストマー101(例えば、PDMS)上に積層される。101と102とは架橋されていない。301はポリアニオンである。302はポリカチオンである。103は4個の、301と302との二重層を含む多価電解質多層(multiplayers)の一実施形態である。最外層は302である。図3Bは、本開示の基材の一実施形態の側面断面図である。吸収性ポリマー102は、エラストマー101(例えば、PDMS)上に積層される。101と102とは架橋されている。301はポリアニオンである。302はポリカチオンである。103は4個の、301と302との二重層を含む多価電解質多層(multiplayers)の一実施形態である。最外層は302である。
図4図4Aは、本開示の基材の一実施形態の側面断面図である。吸収性ポリマー102は、エラストマー101(例えば、PDMS)上に積層される。101と102とは架橋されていない。301はポリアニオンである。302はポリカチオンである。103は5個の301層と4個の302層を含む多価電解質多層(multiplayers)の一実施形態である。最外層は301である。図4Bは、本開示の基材の一実施形態の側面断面図である。吸収性ポリマー102は、エラストマー101(例えば、PDMS)上に積層される。101と102とは架橋されている。301はポリアニオンである。302はポリカチオンである。103は5個の301層と4個の302層を含む多価電解質多層(multiplayers)の一実施形態である。最外層は301である。
図5図5は、細胞培養物品202の例示的な実施形態を示す。201はエラストマー(例えば、PDMS)101、吸収性ポリマー102および多価電解質多層(multiplayers)103を含む基材104を収容するための細胞培養物品のウェルである。104は細胞培養物品202内の201に挿入することができる。202は細胞培養用の6、12、24、96およびそれ以上のウェルプレートと見なすことができる。
図6図6は、PDMSの表面修飾の反応スキームを示す。第1工程はSiH基をPDMS表面に導入することである(PDMS-SiH)。第2工程はPEG-PDMSコンジュゲートの形成に関与する。
図7図7は、本発明の基材上で培養したHCT116結腸直腸癌細胞の、完全DMEM培地を供給した癌細胞の成長中の1、2、3、4、5、6および7日目のタイムラプス顕微鏡観察を示す。(Leica DMI6000Bタイムラプス顕微鏡で10倍の対物レンズ下で撮影した画像)。
図8図8A~Cは、様々な培養プレート上での、4、7および14日間のHCT116結腸直腸癌細胞のex vivo培養の結果を示す。(A)組織培養プレート(TCP)、(B)PVA/PDMSコーティング表面を含む培養プレート、および(C)(PLL/PLGA)15/PVA/PDMSコーティング表面を含む培養プレート。細胞はTCPおよびPVA/PDMSコーティング表面に接着する一方で、(PLL/PLGA)15/PVA/PDMSコーティング表面ではスフェロイドを形成する。
図9図9A~Dは、患者由来の臨床サンプルのex vivo培養の結果を示す:(A)組織培養プレート(TCP)上で2週間成長させた、針生検からの乳癌細胞、(B)本発明の基材上で2週間成長させた、針生検からの乳癌細胞、(C)本発明の基材上で2週間成長させた、腫瘍組織からの尿路上皮癌細胞、(D)本発明の基材上で2週間成長させた、腫瘍組織からの結腸直腸癌細胞。
図10図10は、本発明の基材上で2週間成長させた、患者由来の乳房細胞および結腸直腸細胞の正常サンプル、ならびに患者由来の乳癌細胞および結腸直腸癌細胞の腫瘍サンプルのex vivo培養の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明
本開示は、細胞培養、特に、3D細胞培養に有用な基材に関する。その基材は、非常に均一な3D細胞培養物の形成を誘導することができる表面コーティングを含み、他の低接着表面では形成されなかった難しい初代細胞種での3D細胞培養物の形成を可能にする。本明細書に開示される基材は、構成可能であり、柔軟であり、様々な構成の任意の好適な細胞培養物品に適応可能である。
【0044】
本発明の基材
本開示は、細胞培養物品のコーティングまたは細胞の培養における使用のための基材を提供する。本明細書に開示される基材は、1個以上の多価電解質二重層、吸収性ポリマー、およびエラストマー膜(例えば、PDMS)を含む多価電解質多層を含む。場合によっては、その基材は、図1に示す通りである。図1に示すように、104は、細胞培養プレート202のウェル201内に積層された本発明の例示的な基材を示す。多価電解質多層103は、吸収性ポリマー102の上に積層される。エラストマー膜101は、ウェル表面201の上に直接積層され、一方、吸収性ポリマー102はエラストマー膜101の上に積層される。
【0045】
1)エラストマー
本明細書に開示される基材は、支持体としてエラストマー膜を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるエラストマーはシリコーンエラストマーである。本明細書に記載されるシリコーンエラストマーは親水性または疎水性であり得る。いくつかの実施形態において、そのシリコーンエラストマーは親水性シリコーンエラストマーである。いくつかの実施形態において、そのシリコーンエラストマーは疎水性シリコーンエラストマーである。好ましい実施形態において、そのシリコーンエラストマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(例えば、Dow CorningからSylgard 184(登録商標)、Alpine Technische Produkte GmbHからAlpagel K、またはSilicon SolutionsからNusil Shore 00の商品名で販売されている)である。
【0046】
場合によっては、エラストマー膜は、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、またはシリコーン樹脂などの1種以上の無機充填剤をさらに含む。エラストマー膜は、例えば、色、レオロジー、および/または貯蔵寿命を向上させるために、1種以上の添加剤をさらに含み得る。
【0047】
場合によっては、シリコーンエラストマー膜は、200mm未満、100mm未満、50mm未満、40mm未満、30mm未満、20mm未満、10mm未満、または1mm未満の厚さを有し得る。場合によっては、シリコーンエラストマー膜は、100mm未満の厚さを有する。場合によっては、シリコーンエラストマー膜は、50mm未満の厚さを有する。場合によっては、シリコーンエラストマー膜は、10mm未満の厚さを有する。場合によっては、シリコーンエラストマー膜は、1mm未満の厚さを有する。
【0048】
2)吸収性ポリマー
本明細書に記載される吸収性ポリマーは、水溶性であり、水溶液の取り込みおよび保持の結果として膨潤し得る親水性ポリマーである。本発明で使用し得る吸収性ポリマーの限定されないリストには、親水性および生体適合性グレードの以下のポリマーおよびそれらの誘導体が含まれる:当技術分野で公知の他の吸収性、親水性および生体適合性材料のうち、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、エチレンビニルアルコールコポリマー(一般には、親水性の程度がエチレン(疎水性)基とビニルアルコール(親水性)基の分布に依存する非生分解性材料)、ポリビニルアルコールとエチレンビニルアルコールのコポリマー、ポリアクリレート組成物、ポリウレタン組成物、ポリ(エチレングリコール)(PEG)(ポリ(オキシエチレン)(POE)およびポリ(エチレンオキシド)(PEO)としても知られる)、およびその誘導体(限定されるものではないが、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)およびポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)を含む);ポリアクリルアミド(アクリルアミド毒性残留物不含)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアミン、およびポリエチレンイミンなどの窒素含有材料;ポリ(乳酸)としても知られている様々な形態のポリラクチド(例えば、ポリ-L-ラクチド(PLLA)およびその誘導体、ポリ-D-ラクチド(PDLA)およびその誘導体、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLDLLA)およびその誘導体)、ポリ(グリコール酸)(PGA)(ポリグリコリドとしても知られている)、乳酸とグリコール酸のコポリマーであるポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PL-co-GA)、PLAおよび/またはPGAとPEGとのコポリマーなどの帯電材料;ポリメタクリル酸;ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(ポリ-HEMA)。
【0049】
いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーは、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、エチレンビニルアルコールのコポリマー、ポリビニルアルコールとエチレンビニルアルコールのコポリマー、ポリアクリレート組成物、ポリウレタン組成物、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、PEG-アクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアミン(PVAm)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLDLLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PL-co-GA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)およびポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(p-HEMA)からなる群から選択される。
【0050】
いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーは、PVA、PEG、PEG-アクリレート、ポリラクチド、PMMA、p-HEMA、それらの組合せまたは誘導体からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーは、PVAまたはそれらの誘導体である。いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーは、PEG、またはPEGMA、PEGDMAもしくはPEGDAなどのPEG-アクリレートである。いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーは、ポリラクチド、またはPLLA、PDLAもしくはPLDLLAなどの誘導体である。いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーは、PGA、またはPLGAなどの誘導体である。いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーは、PMAA、またはpHEMAなどの誘導体である。
【0051】
いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーは、約2,500g/mol~約200,000g/molの平均分子量を有する。場合によっては、吸収性ポリマーの平均分子量は、約5,000g/mol~約175,000g/mol、約5,000g/mol~約150,000g/mol、約5,000g/mol~約125,000g/mol、約5,000g/mol~約100,000g/mol、約5,000g/mol~約75,000g/mol、約5,000g/mol~約50,000g/mol、約5,000g/mol~約25,000g/mol、約5,000g/mol~約10,000g/mol、約10,000g/mol~約175,000g/mol、約10,000g/mol~約150,000g/mol、約10,000g/mol~約125,000g/mol、約10,000g/mol~約100,000g/mol、約10,000g/mol~約75,000g/mol、約10,000g/mol~約50,000g/mol、約10,000g/mol~約25,000g/mol、約20,000g/mol~約150,000g/mol、または約50,000g/mol~約150,000g/molである。
【0052】
いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーはPVAである。PVAは、約10,000g/mol~約125,000g/molの範囲の平均分子量を有し得る。場合によっては、PVAは、約10,000g/mol~約100,000g/mol、約10,000g/mol~約75,000g/mol、約10,000g/mol~約50,000g/mol、約20,000g/mol~約125,000g/mol、約20,000g/mol~約100,000g/mol、約20,000g/mol~約75,000g/mol、約20,000g/mol~約50,000g/mol、約50,000g/mol~約125,000g/mol、または約50,000g/mol~約100,000g/molの平均分子量を有する。
【0053】
いくつかの実施形態において、吸収性ポリマーはPEGである。場合によっては、PEGの平均分子量は、約200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1450、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3250、3350、3500、3750、4000、4250、4500、4600、4750、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、10,000、12,000、20,000、35,000、40,000、50,000、60,000、または100,000Daである。
【0054】
場合によっては、本明細書で利用されるPEGは不連続PEG(dPEG)である。不連続PEGは、2以上の繰り返しエチレンオキシド単位を含む高分子PEGであり得る。場合によっては、その不連続PEGは、2~60、2~50、または2~48の繰り返しエチレンオキシド単位を含む。場合によっては、そのdPEGは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、22、24、26、28、30、35、40、42、48、50またはそれ以上の繰り返しエチレンオキシド単位を含む。
【0055】
特定の実施形態において、吸収性ポリマーの体積は、表面コーティングの総体積の約0.01%~約10%である。場合によっては、吸収性ポリマーは、表面コーティングの総体積の、約0.01%~約9%v/v、約0.01%~約8%v/v、約0.01%~約7%v/v、約0.01%~約6%v/v、約0.01%~約5%v/v、約0.01%~約4%v/v、約0.01%~約3%v/v、約0.01%~約2%v/v、約0.01%~約1%v/v、約0.1%~約10%v/v、約0.1%~約9%v/v、約0.1%~約8%v/v、約0.1%~約7%v/v、約0.1%~約6%v/v、約0.1%~約5%v/v、約0.1%~約4%v/v、約0.1%~約3%v/v、約1%~約10%v/v、約1%~約9%v/v、約1%~約8%v/v、約1%~約7%v/v、約1%~約6%v/v、約1%~約5%v/v、約1%~約4%v/v、約2%~約10%v/v、または約5%~約10%v/vである。場合によっては、吸収性ポリマー(例えば、PVAまたはPEG)の体積は、表面コーティングの総体積の、約0.01%、約0.05%、約0.1%、約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、または約10%である。
【0056】
場合によっては、表面コーティングの総重量当たりの吸収性ポリマー(例えば、PVAまたはPEG)の重量は、約1%~約50%である。場合によっては、表面コーティングの総重量当たりの吸収性ポリマーの重量は、約1%~約40%である。場合によっては、表面コーティングの総重量当たりの吸収性ポリマーの重量は、約1%~約30%である。場合によっては、表面コーティングの総重量当たりの吸収性ポリマーの重量は、約1%~約20%である。場合によっては、表面コーティングの総重量当たりの吸収性ポリマーの重量は、約1%~約10%である。
【0057】
3)多価電解質多層
本明細書に開示されるように、本基材は、多価電解質多層(PEM)を含む。本明細書に記載されるPEMは、逆帯電したポリマー(すなわち、多価電解質)の交互層を複数含む。本明細書に記載される逆帯電したポリマーは、正に帯電した多価電解質(本明細書ではポリカチオンとも呼ぶ)と負に帯電した多価電解質(本明細書ではポリアニオンとも呼ぶ)の組合せを含む。
【0058】
例示的なポリカチオンとしては、限定されるものではないが、ポリ(L-リシン)(PLL)、ポリ(L-アルギニン)(PLA)、ポリ(L-オルニチン)(PLO)、ポリ(L-ヒスチジン)(PLH)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸](PAGA)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAEMA)、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)、およびそれらの組合せが挙げられる。場合によっては、ポリカチオンはPLLである。場合によっては、ポリカチオンはPLOである。場合によっては、ポリカチオンはPLHである。場合によっては、ポリカチオンはPLAである。
【0059】
例示的なポリアニオンとしては、限定されるものではないが、ポリ-L-グルタミン酸(PLGA)、ポリ-L-アスパラギン酸(PLAA)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)(PMAA)、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(NIPAM)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)(PAMPS)、およびそれらの組合せが挙げられる。場合によっては、ポリアニオンはPLGAである。場合によっては、ポリアニオンはPLAAである。
【0060】
多価電解質多層は、ポリカチオンとポリアニオンとを交互積層法によって交互に積層させることによって形成し得る。本明細書に記載される多価電解質多層は、ポリカチオン層とポリアニオン層とを含む二重層を少なくとも1つ含む。
【0061】
いくつかの実施形態において、PEMは、約1個の二重層~約100個の二重層を含み得る。いくつかの実施形態において、PEMは、約1個の二重層~約50個の二重層を含み得る。いくつかの実施形態において、PEMは、約1個の二重層~約30個の二重層を含み得る。いくつかの実施形態において、PEMは、約1個の二重層~約20個の二重層を含み得る。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16個の範囲にある。いくつかの実施形態において、二重層の数は3個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は4個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は5個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は6個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は7個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は8個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は9個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は10個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は11個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は12個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は13個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は14個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は15個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は16個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は17個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は18個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は19個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は20個である。
【0062】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、ポリカチオンが、PLL、PLO PLH、およびPLAから選択され、ポリアニオンが、PLGAおよびPLAAから選択される、正に帯電した多価電解質と負に帯電した多価電解質との二重層を1個以上含む。いくつかの実施形態において、セット数は、1~100、3~60、3~50、または3~30セットの範囲である。いくつかの実施形態において、セット数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20セットより多い。いくつかの実施形態において、セット数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20セットである。いくつかの実施形態において、セット数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16セットの範囲にある。
【0063】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、PLLとPLGAとの二重層を1個以上含む。いくつかの実施形態において、PLLとPLGAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、または3~30個の範囲である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個より多い。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16個の範囲にある。
【0064】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、PLOとPLGAとの二重層を1個以上含む。いくつかの実施形態において、PLOとPLGAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、または3~30個の範囲である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個より多い。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16個の範囲にある。
【0065】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、PLHとPLGAとの二重層を1個以上含む。いくつかの実施形態において、PLHとPLGAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、または3~30個の範囲である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個より多い。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16個の範囲にある。
【0066】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、PLAとPLGAとの二重層を1個以上含む。いくつかの実施形態において、PLAとPLGAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、または3~30個の範囲である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個より多い。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16個の範囲にある。
【0067】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、PLLとPLAAとの二重層を1個以上含む。いくつかの実施形態において、PLLとPLAAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、または3~30個の範囲である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個より多い。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16個の範囲にある。
【0068】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、PLOとPLAAとの二重層を1個以上含む。いくつかの実施形態において、PLOとPLAAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、または3~30個の範囲である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個より多い。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16個の範囲にある。
【0069】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、PLHとPLAAとの二重層を1個以上含む。いくつかの実施形態において、PLHとPLAAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、または3~30個の範囲である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個より多い。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16個の範囲にある。
【0070】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多価電解質多層は、PLAとPLAAとの二重層を1個以上含む。いくつかの実施形態において、PLAとPLAAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、または3~30個の範囲である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個より多い。いくつかの実施形態において、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個である。いくつかの実施形態において、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16個の範囲にある。
【0071】
薄膜(thin film)としてのPEMの厚さは、広い範囲、例えば、約30nm~約30μm、または約100nm~約20μmの範囲にあり得る。いくつかの実施形態において、その厚さは、約100nm~約500nm、約500nm~約1μm、または約1μm~約10μmである。いくつかの実施形態において、その厚さは、約200、400、600、800nm、またはその間の任意の数である。いくつかの実施形態において、その厚さは、約1、5、10、15または20μm、またはその間の任意の数である。
【0072】
PEMを特性評価するために数多くの方法論が利用可能である。いくつかの実施形態において、その方法論は、偏光解析法(厚さ)、散逸モニタリングを伴う水晶振動子マイクロバランス(吸着質量、粘弾性)、接触角分析(表面エネルギー)、フーリエ変換赤外分光法(官能基)、X線光電子分光法(化学組成)、走査電子顕微鏡法(表面構造)、および原子間力顕微鏡法(粗さ/表面構造)を含み得る。
【0073】
いくつかの実施形態において、PEMは、ポリアニオンまたはポリカチオン溶液を混合物としてまたは逐次にディッシュ中またはその上にピペッティングすることによって積層させ得る。
【0074】
いくつかの実施形態において、PEMは、ディップコーティングによって表面上に形成される。ディップコーティングでは、本基材を多価電解質溶液に一定時間(通常は10~15分)浸漬し、続いて、複数回すすぎ、逆電荷を有する第2の多価電解質溶液に浸漬する。このプロセスは、所望の数の層が達成されるまで繰り返される。
【0075】
いくつかの実施形態において、PEMは、スプレーコーティングによって表面上に形成される。いくつかの実施形態において、多価電解質を3~10秒間表面上に噴霧し、続いて、10~30秒間休止/排水し、3~20秒間水噴霧により表面をすすぎ、さらに10秒間休止し、逆電荷の多価電解質を用いてサイクルを繰り返し得る。
【0076】
いくつかの実施形態において、PEMは、スピンコーティングによって表面上に形成される。スピンコーティングは、システムの溶液ベースのコーティングのための高度に制御された方法である。一般的なスピンコーティング手順には、10~15秒間のスピンコーティング、15~30秒間の「スピンコーティング」水による少なくとも1回のすすぎ、および逆帯電した多価電解質を用いたこの手順の繰り返しが含まれる。洗浄工程はスピンコーティングでは必要ではない場合がある。
【0077】
4)細胞培養基材の構築
本開示の別の態様は、本開示の細胞培養基材を製造するための方法を特徴とする。本明細書に記載される方法は、(a)支持体を準備する工程;(b)その支持体の表面上へエラストマーを適用する工程;(c)そのエラストマー上へ吸収性ポリマーを適用する工程;(d)その吸収性ポリマー上に、多価電解質の交互層を逐次に積層させて、多層膜を形成する工程;および(e)その多層膜を支持体から剥離して、基材を得る工程を含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるエラストマーは、シリコーンエラストマーである。いくつかの実施形態において、そのシリコーンエラストマーはポリジメチルシロキサン(PDMS)である。いくつかの実施形態において、そのPDMSは親水性表面を含む。いくつかの実施形態において、そのPDMSは疎水性表面を含む。いくつかの実施形態において、表面修飾は、PDMS疎水性表面を親水性表面に変換するために使用される。
【0079】
いくつかの実施形態において、本開示の基材を調製する方法は、(a)疎水性表面を有するPDMSを準備する工程;(b)PDMSのその疎水性表面を処理により修飾する工程;(c)PDMSのその修飾された表面へ吸収性ポリマーを適用する工程;および(d)その吸収性ポリマー上に、多価電解質の交互層を逐次に積層させる工程を含み、それによって、多層膜を含む基材が得られる。
【0080】
いくつかの実施形態において、前記処理は、プラズマ処理、コロナ放電またはUVオゾン処理を含む。いくつかの実施形態において、PDMSの疎水性表面は前記処理後に照射される。いくつかの実施形態において、PDMS表面は、PDMSの修飾された表面に前記吸収性ポリマーを適用した後に親水化される。いくつかの実施形態において、PDMSの疎水性表面は、PDMSのその修飾された表面にPVAを適用した後に親水性表面に変換され得る。いくつかの実施形態において、PDMSの疎水性表面は、ヒドロシリル化によって修飾される。いくつかの実施形態において、PDMS表面は、表面が修飾されたPDMSにPEG-アクリレートを適用した後に親水化される。いくつかの実施形態において、PDMSとPEGは、親水化されたPDMS表面を準備するために架橋される。架橋剤は、吸収性ポリマーとPDMSとの架橋を促進するために、使用し得る。例示的な架橋剤としては、限定されるものではないが、マレイン酸、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ブタナール(ブチルアルデヒド)、ホウ酸ナトリウム、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0081】
本明細書に記載されるように、表面は、表面上の水滴に対する接触角が90度未満である場合(接触角は液滴内部を通過する角度として定義される)、親水性である。実施形態は、90度から0度までの接触角を有する親水性表面を含む;当業者は、明示的に述べられた境界の間の全ての範囲および値が企図されることをすぐに理解するであろう。例えば、次のいずれかが上限または下限として利用可能である:90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、2、0度。
【0082】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される基材は、(ポリアニオン/ポリカチオン)/X/PDMSを含み、このポリアニオン/ポリカチオンは、PLGA/PLL、PLAA/PLL、PLGA/PLA、PLAA/PLA、PLGA/PLO、PLAA/PLO、PLGA/PLHおよびPLAA/PLHから選択され、Xは、PVA、PEG、PEG-アクリレートまたはPVPであり、nは、1~20の範囲の整数であり、所望により、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20である。いくつかの実施形態において、nは、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16の範囲にある。いくつかの実施形態において、XはPEG-アクリレートであり、PEG-アクリレートはPDMSに架橋している。いくつかの実施形態において、XはPVAであり、PDMSとPVAは架橋を含まない。
【0083】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される基材は、(ポリカチオン/ポリアニオン)/X/PDMSを含み、このポリカチオン/ポリアニオンは、PLL/PLGA、PLL/PLAA、PLA/PLGA、PLA/PLAA、PLO/PLGA、PLO/PLAA、PLH/PLGAおよびPLH/PLAAから選択され、Xは、PVA、PEG、PEG-アクリレートまたはPVPであり、nは、1~20の範囲の整数であり、所望により、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20である。いくつかの実施形態において、nは、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16の範囲にある。いくつかの実施形態において、XはPEG-アクリレートであり、PEG-アクリレートはPDMSに架橋している。いくつかの実施形態において、XはPVAであり、PDMSとPVAは架橋を含まない。
【0084】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される基材は、ポリカチオン(ポリアニオン/ポリカチオン)/X/PDMSを含み、このポリアニオン/ポリカチオンは、PLGA/PLL、PLAA/PLL、PLGA/PLA、PLAA/PLA、PLGA/PLO、PLAA/PLO、PLGA/PLHおよびPLAA/PLHから選択され、Xは、PVA、PEG、PEG-アクリレートまたはPVPであり、nは、1~20の範囲の整数であり、所望により、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20である。いくつかの実施形態において、nは、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16の範囲にある。いくつかの実施形態において、Xは、PEG-アクリレートであり、PEG-アクリレートは、PDMSに架橋している。いくつかの実施形態において、XはPVAであり、PDMSとPVAは架橋を含まない。
【0085】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される基材は、ポリアニオン(ポリカチオン/ポリアニオン)/X/PDMSを含み、このポリカチオン/ポリアニオンは、PLL/PLGA、PLL/PLAA、PLA/PLGA、PLA/PLAA、PLO/PLGA、PLO/PLAA、PLH/PLGAおよびPLH/PLAAから選択され、Xは、PVA、PEG、PEG-アクリレートまたはPVPであり、nは、1~20の範囲の整数であり、所望により、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20である。いくつかの実施形態において、nは、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、または14~16の範囲にある。いくつかの実施形態において、XはPEG-アクリレートであり、PEG-アクリレートはPDMSに架橋している。いくつかの実施形態において、XはPVAであり、PDMSとPVAは架橋を含まない。
【0086】
本明細書に記載されるエラストマー膜の表面コーティングは、脱水または含水(hydrated)され得る。いくつかの実施形態において、その表面コーティングは脱水状態にある。他の実施形態において、その表面コーティングは含水状態にある。本明細書で使用する場合、「脱水状態」および「含水状態」はそれぞれ、表面コーティングの総体積に対する水溶液(例えば、水)の体積を指す。脱水状態において、水溶液(例えば、水)の体積は、表面コーティングの総体積の20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、1%未満、または0.5%未満である。含水状態において、水溶液(例えば、水)の体積は、表面コーティングの総体積の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、またはそれより多い。
【0087】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるエラストマー膜の表面コーティングは、水溶液(例えば、水)を含む。場合によっては、その水溶液(例えば、水)は、表面コーティングの総重量の約1%~約60重量%である。場合によっては、その水溶液(例えば、水)は、表面コーティングの総重量の約1%~約50重量%、約1%~約40重量%、約1%~約30重量%、約1%~約20重量%、約10%~約60重量%、約10%~約50重量%、約10%~約40重量%、約10%~約30重量%、約10%~約20重量%、約20%~約60重量%、約20%~約50重量%、約20%~約40重量%、または約30%~約60重量%である。
【0088】
いくつかの実施形態において、前記基材は充填剤をさらに含む。場合によっては、その充填剤は、限定されるものではないが、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、またはシリコーン樹脂などの無機充填剤を含む。
【0089】
ポリカチオンおよびポリアニオンのそれぞれ、ならびに吸収性ポリマーは、本開示における使用のために水溶液に溶解され得る。その水溶液は、有機溶媒を含まないか、または実質的に含まない。例えば、重合後にポリマー中に有機溶媒が残留する結果として、水溶液中に少量の有機溶媒が存在する場合があることが理解されるであろう。本明細書で使用する場合、「実質的に含まない」とは、水溶液中の有機溶媒に関する場合、水溶液が1重量%未満の有機溶媒を含むことを意味する。多くの実施形態において、水溶液は、0.8%未満、0.5%未満、0.2%未満または0.1%未満の有機溶媒を含有する。
【0090】
ポリカチオンおよびポリアニオンのそれぞれ、ならびに吸収性ポリマーは、コーティングの目的のために任意の好適な濃度で水溶液に溶解され得る。
【0091】
細胞培養システム
本開示は、本開示の基材を含み、細胞を培養するように構成された細胞培養物品を含む細胞培養システムを提供する。
【0092】
本明細書に開示される基材は、様々な構成の任意の好適な細胞培養物品に構成可能であり、適応可能である。例示的な細胞培養物品としては、限定されるものではないが、細胞培養ディッシュ、細胞培養プレート、例えば、シングルウェルプレートおよびマルチウェルプレート(6、12、96、384、および1536ウェルプレートなど)が挙げられる。本明細書に記載される細胞培養物品は、ソーダライムガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、バイコールガラス、クォーツガラスなどのガラス材料;ケイ素;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、エチレン-アクリル酸コポリマー、エチレン-メチルアクリレートコポリマー、エチレン-メタクリル酸コポリマー、エチレン-メチルメタクリレートコポリマー、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、およびポリメタクリル酸メチル、またはこれらの誘導体などのプラスチックまたはポリマーを含む、任意の好適な材料から作製され得る。
【0093】
いくつかの実施形態において、その細胞培養システムは細胞をさらに含む。いくつかの実施形態において、それらの細胞は細胞株に由来する。いくつかの実施形態において、それらの細胞は哺乳類細胞である。いくつかの実施形態において、それらの細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、組織細胞、免疫細胞、内皮細胞、幹細胞、上皮細胞、間葉細胞、中皮細胞、癌細胞または腫瘍関連細胞である。いくつかの実施形態において、その細胞培養システムは培養培地をさらに含む。
【0094】
本明細書に開示される細胞培養システム、細胞の付着および成長だけでなく、培養細胞(例えば3D細胞培養物、組織および器官)の生存可能な採取も可能にする。本開示のいくつかの実施形態によれば、それらの細胞培養システムを使用して、生存細胞(80%~100%の生存、または約85%~約99%の生存、または約90%~約99%の生存など)を採取することができる。例えば、採取された細胞のうち、少なくとも80%が生存可能であり、少なくとも85%が生存可能であり、少なくとも90%が生存可能であり、少なくとも91%が生存可能であり、少なくとも92%が生存可能であり、少なくとも93%が生存可能であり、少なくとも94%が生存可能であり、少なくとも95%が生存可能であり、少なくとも96%が生存可能であり、少なくとも97%が生存可能であり、少なくとも98%が生存可能であり、または少なくとも99%が生存可能である。いくつかの実施形態において、細胞は、細胞解離酵素、例えば、トリプシン、TrypLE、またはアキュターゼを使用してまたは使用せずに、細胞培養システムから放出させることができる。
【0095】
その方法および使用
1)細胞を培養するための方法
特定の理論に縛られるものではないが、本明細書に開示される基材は細胞のロバストな増殖および/または安定な維持を可能にすると考えられる。従って、本開示は、細胞を培養するための方法を提供する。その方法は、(a)本開示の基材を含む細胞培養システムを準備する工程;(b)前記基材の表面上に細胞を播種する工程;および(c)好適な培地下で細胞を培養する工程を含む。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、スフェロイドを形成するのに十分な時間培養される。好ましい実施形態において、スフェロイドは3Dスフェロイドである。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるスフェロイドは、単一細胞増殖によって生成される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるスフェロイドは、細胞凝集を伴わない単一細胞増殖によって生成される。いくつかの実施形態において、スフェロイドは均一な大きさを有する。
【0096】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される細胞は、細胞株、組織生検または液体生検に由来し得る。いくつかの実施形態において、それらの細胞は哺乳類細胞である。いくつかの実施形態において、それらの細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、組織細胞、免疫細胞、内皮細胞、幹細胞、上皮細胞、間葉細胞、中皮細胞、癌細胞または腫瘍関連細胞である。
【0097】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される細胞は、間葉系幹細胞(MSC)または多能性幹細胞(PSC)(胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)を含む)などの幹細胞である。
【0098】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される細胞は癌細胞である。本明細書に記載される例示的な癌としては、限定されるものではないが、急性リンパ性癌、急性骨髄性白血病、胞巣状横紋筋肉腫(alveolar rhabdomycosarcoma)、骨癌、脳癌、乳癌、肛門、肛門管の癌または肛門直腸癌、眼の癌、肝内胆管癌、関節の癌、頸部の癌、胆嚢または胸膜癌、鼻、鼻腔または中耳の癌、口腔の癌、外陰の癌、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性癌、結腸癌、食道癌、子宮頸癌、消化管カルチノイド腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、腎臓癌、喉頭癌、肝臓癌、肺癌、悪性中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫、鼻咽頭癌、非ホジキンリンパ腫、卵巣癌、膵臓癌、腹膜癌、大網および腸間膜癌(mesentary cancer)、咽頭癌、前立腺癌、直腸癌、腎癌、皮膚癌、小腸癌、軟組織癌、胃癌、精巣癌、甲状腺癌、尿管癌、ならびに膀胱癌が挙げられる。
【0099】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される細胞は腫瘍関連細胞である。例示的な腫瘍関連細胞としては、限定されるものではないが、腫瘍細胞クラスター、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、癌関連マクロファージ様細胞(CAML)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、腫瘍関連単球/マクロファージ系列細胞(MMLC)、癌幹細胞、腫瘍微小塞栓、腫瘍関連間質細胞(TASC)、腫瘍関連骨髄細胞(TAMC)、腫瘍関連制御性T細胞(Treg)、癌関連線維芽細胞(CAF)、腫瘍由来内皮細胞(TEC)、腫瘍関連好中球(TAN)、腫瘍関連血小板(TAP)、腫瘍関連免疫細胞(TAI)、骨髄由来抑制細胞(MDSC)、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0100】
例示的な細胞としては、低密度細胞、単一細胞、希少細胞、またはそれらの組合せが挙げられる。低密度細胞は、播種した場合に、基材上に1cmあたり5000個未満の細胞、例えば、基材上に1cmあたり1、5、10、20、50、100、200、300、500、1000、2000、3000、4000、または4500個のいずれか以下の細胞であり得る。
【0101】
いくつかの実施形態において、工程(c)における単離された細胞の播種は、基材表面(すなわち、細胞成長表面)上に1cmあたり細胞1個~細胞10個の密度で細胞をプレーティングすることを含む。いくつかの実施形態において、工程(c)における単離された細胞の播種は、基材表面上に1cmあたり細胞10個~細胞100個の密度で細胞をプレーティングすることを含む。いくつかの実施形態において、工程(c)における単離された細胞の播種は、基材表面上に1cmあたり細胞100個~細胞1000個の密度で細胞をプレーティングすることを含む。
【0102】
いくつかの実施形態において、それらの細胞は、約2日~約5週間の範囲の期間、約3~約14日間など、例えば、約7日間培養される。いくつかの実施形態において、それらの細胞は3日間培養され、スフェロイドは約40μm~約200μmの範囲の平均直径を有する。
【0103】
例示的な実施形態の方法では、任意の好適な培養培地を使用することができる。例示的な培養培地としては、限定されるものではないが、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、上皮細胞増殖因子(EGF)および/または塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、B27補給剤を添加したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、上皮細胞増殖因子(EGF)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の混合物が挙げられる。
【0104】
2)単一細胞由来のスフェロイドを調製する方法
別の態様において、本開示は、単一細胞由来のスフェロイドを調製する方法を提供し、その方法は、(a)本開示の基材を含む細胞培養システムを準備する工程;(b)前記基材の表面上に細胞を播種する工程;および(d)好適な培地下で細胞を十分な時間培養して、単一細胞由来のスフェロイドを形成する工程を含む。本明細書に記載されるスフェロイドは、単一細胞増殖によって生成される。いくつかの実施形態において、スフェロイドは均一な大きさを有する。いくつかの実施形態において、単一細胞由来のクローンは、本開示の基材上に半付着または緩く付着している。
【0105】
いくつかの実施形態において、前記細胞は細胞株に由来する。いくつかの実施形態において、それらの細胞は哺乳類細胞である。いくつかの実施形態において、それらの細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、組織細胞、免疫細胞、内皮細胞、幹細胞、上皮細胞、間葉細胞、中皮細胞、癌細胞または腫瘍関連細胞である。
【0106】
いくつかの実施形態において、それらの細胞は、間葉系幹細胞(MSC)または多能性幹細胞(PSC)(胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)を含む)などの幹細胞である。
【0107】
いくつかの実施形態において、それらの細胞は癌細胞である。いくつかの実施形態において、それらの細胞は癌細胞である。特定の実施形態において、それらの癌細胞はヒト原発腫瘍組織から単離される。特定の実施形態において、それらの癌細胞は癌患者の血液サンプルから単離される。本明細書に記載される例示的な癌としては、限定されるものではないが、急性リンパ性癌、急性骨髄性白血病、胞巣状横紋筋肉腫(alveolar rhabdomycosarcoma)、骨癌、脳癌、乳癌、肛門、肛門管の癌または肛門直腸癌、眼の癌、肝内胆管癌、関節の癌、頸部の癌、胆嚢または胸膜癌、鼻、鼻腔または中耳の癌、口腔の癌、外陰の癌、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性癌、結腸癌、食道癌、子宮頸癌、消化管カルチノイド腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、腎臓癌、喉頭癌、肝臓癌、肺癌、悪性中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫、鼻咽頭癌、非ホジキンリンパ腫、卵巣癌、膵臓癌、腹膜癌、大網および腸間膜癌(mesentary cancer)、咽頭癌、前立腺癌、直腸癌、腎癌、皮膚癌、小腸癌、軟組織癌、胃癌、精巣癌、甲状腺癌、尿管癌、ならびに膀胱癌が挙げられる。
【0108】
いくつかの実施形態において、それらの細胞は腫瘍関連細胞である。例示的な腫瘍関連細胞としては、限定されるものではないが、腫瘍細胞クラスター、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、癌関連マクロファージ様細胞(CAML)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、腫瘍関連単球/マクロファージ系列細胞(MMLC)、癌幹細胞、腫瘍微小塞栓、腫瘍関連間質細胞(TASC)、腫瘍関連骨髄細胞(TAMC)、腫瘍関連制御性T細胞(Treg)、癌関連線維芽細胞(CAF)、腫瘍由来内皮細胞(TEC)、腫瘍関連好中球(TAN)、腫瘍関連血小板(TAP)、腫瘍関連免疫細胞(TAI)、骨髄由来抑制細胞(MDSC)、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0109】
例示的な細胞としては、低密度細胞、単一細胞、希少細胞、またはそれらの組合せが挙げられる。低密度細胞は、播種した場合に、基材上に1cmあたり5000個未満の細胞、例えば、基材上に1cmあたり1、5、10、20、50、100、200、300、500、1000、2000、3000、4000、または4500個のいずれか以下の細胞であり得る。
【0110】
いくつかの実施形態において、工程(c)における単離された細胞の播種は、基材表面(すなわち、細胞成長表面)上に1cmあたり細胞1個~細胞10個の密度で細胞をプレーティングすることを含む。いくつかの実施形態において、工程(c)における単離された細胞の播種は、基材表面上に1cmあたり細胞10個~細胞100個の密度で細胞をプレーティングすることを含む。いくつかの実施形態において、工程(c)における単離された細胞の播種は、基材表面上に1cmあたり細胞100個~細胞1000個の密度で細胞をプレーティングすることを含む。
【0111】
いくつかの実施形態において、前記培養工程は、2~8日(例えば、2、3、4、5、6、7、または8日)間にわたって行われる。他の実施形態において、その培養工程は、7~14日(例えば、7、8、9、10、11、12、13、または14日)間にわたって行われる。他の実施形態において、その培養工程は、1~4週間(例えば、1、2、3、または4週間)にわたって行われる。いくつかの実施形態において、それらの細胞は3日間培養され、スフェロイドは約40μm~約200μmの範囲の平均直径を有する。
【0112】
例示的な実施形態の方法では、任意の好適な培養培地を使用することができる。例示的な培養培地としては、限定されるものではないが、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、上皮細胞増殖因子(EGF)および/または塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、B27補給剤を添加したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、上皮細胞増殖因子(EGF)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の混合物が挙げられる。
【0113】
いくつかの実施形態において、単一細胞由来のスフェロイドの大きさは、直径200μm未満である。いくつかの実施形態において、単一細胞由来のスフェロイドの大きさは、直径150μm未満である。いくつかの実施形態において、単一細胞由来のスフェロイドの大きさは、直径約40、50、60、70、80、90、100、110、120、130または140μmである。
【0114】
特定の実施形態において、単一細胞由来のスフェロイドは、治療薬をスクリーニングするために使用し得る。特定の実施形態において、治療薬をスクリーニングする方法は、(a)生成された単一細胞由来のスフェロイドに被験物質を適用すること;および(b)単一細胞由来のスフェロイドに対する被験物質の効果を評価することを含む。いくつかの実施形態において、被験物質の効果は、例えば遺伝子またはタンパク質の生化学的活性および/または発現レベルを分析するために、イメージングシステムを用いて分析される。
【0115】
いくつかの実施形態において、生成された単一細胞由来のスフェロイドは、腫瘍スフェロイドである。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される被験物質は、細胞傷害性または細胞増殖抑制性化学療法薬などの化学療法薬である。いくつかの実施形態において、治療薬は、免疫チェックポイント阻害薬などの免疫チェックポイント阻害薬である。いくつかの実施形態において、治療薬は核酸薬である。いくつかの実施形態において、治療薬は、限定されるものではないが、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、および樹状細胞を含む治療用細胞組成物である。
【0116】
いくつかの実施形態において、それらの細胞は、約2日~約5週間の範囲の期間、例えば、約3~約14日間、例えば、約7日間培養される。いくつかの実施形態において、それらの細胞は3日間培養され、少なくとも1つの3Dスフェロイドは約40μm~約200μmの範囲の平均直径を有する。
【0117】
いくつかの態様において、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載される細胞培養システムを使用する培養方法のいずれか1つに従って生成された単一細胞由来のスフェロイド(例えば、腫瘍スフェロイド)である。いくつかの態様において、本明細書に記載される細胞培養システムを使用する培養方法のいずれか1つに従って誘導された単一細胞由来のスフェロイド(例えば、腫瘍スフェロイド)のライブラリーが提供される。
【0118】
3)単一細胞由来のクローンを単離する方法
単一細胞由来のクローンは、ゲノム編集技術が日常の検査業務に組み込まれるにつれて、ますます重要になっている。単一細胞を単離するための従来の方法である限界希釈法は、プロトコールをわずかに変更するだけで大きく変化し得る単クローン性の統計的確率に依存している。この技術は、単一細胞の単離には非常に非効率的であるが、細胞生存力を維持する。逆に、フローサイトメトリーは、単一細胞クローンを高効率で提供することができるが、細胞生存力に悪影響を及ぼす。これらのプラットフォームの共通の特徴は、一般に、微細構造内にランダムに閉じ込められることによって「個別化された(individualized)」多数の細胞を含む懸濁液から開始される。これらの方法はどちらも混合および/または移動中にかなりの細胞損失が発生するため、細胞集団が小さい場合は実用的ではない。本発明の方法は、生存可能な単一細胞クローンを単離するための効率的な代替法を提供する。いくつかの実施形態において、その方法は、微細構造内に細胞を個別に閉じ込めることを必要はない。
【0119】
いくつかの実施形態において、本明細書では、単一細胞由来のクローンを単離する方法が提供される。本明細書に記載される方法は、1)本開示の基材を含む細胞培養システムを使用して異種細胞集団を培養して、単一細胞由来のクローンを含む複数の細胞クローンを取得すこと;および2)その細胞培養システムから単一細胞由来のクローンを単離することを含む。
【0120】
いくつかの実施形態において、異種細胞集団は付着細胞を含む。いくつかの実施形態において、異種細胞集団は非付着細胞を含む。いくつかの実施形態において、異種細胞集団は、細胞株から単離された細胞を含む。いくつかの実施形態において、異種細胞集団は、対象の液体生検から単離された細胞を含む。いくつかの実施形態において、異種細胞集団は、対象の組織生検から単離された細胞を含む。いくつかの実施形態において、異種細胞集団は、遺伝的に操作された細胞を含む。いくつかの実施形態において、異種細胞集団は、遺伝子突然変異を含むように操作された細胞を含む。いくつかの実施形態において、異種細胞集団は、異種ヌクレオチド配列を含むように操作された細胞を含む。
【0121】
いくつかの実施形態において、単一細胞由来のクローンは、本開示の基材上に半付着または緩く付着している。
【0122】
いくつかの実施形態において、7日以上の培養後、細胞培養システムにおいて細胞残屑は観察されない。
【0123】
いくつかの実施形態において、前記培養工程は、2~8日(例えば、2、3、4、5、6、7、または8日)間にわたって行われる。他の実施形態において、その培養工程は、7~14日(例えば、7、8、9、10、11、12、13、または14日)間にわたって行われる。他の実施形態において、その培養工程は、1~4週間(例えば、1、2、3、または4週間)にわたって行われる。
【0124】
いくつかの実施形態において、単一細胞由来のクローンは、単一細胞由来のスフェロイドを形成する。いくつかの実施形態において、単一細胞由来のクローンは、約40μm~約200μmの直径を有する。いくつかの実施形態において、単一細胞由来のクローンは、約50μm~約150μmの直径を有する。場合によっては、単一細胞由来のクローンは、約50μm~約120μm、約50μm~約100μm、約50μm~約80μm、約50μm~約60μm、約80μm~約150μm、約80μm~約120μm、約80μm~約100μm、約100μm~約200μm、約100μm~約150μm、または約100μm~約120μmの直径を有する。
【0125】
場合によっては、単一細胞由来のクローンは、単一細胞由来のスフェロイドを形成する。場合によっては、そのスフェロイドは、約8~約1000個の細胞を含む。場合によっては、そのスフェロイドは、約8~約800個の細胞、約8~約500個の細胞、約8~約400個の細胞、約8~約300個の細胞、約8~約200個の細胞、約8~約100個の細胞、約10~約1000個の細胞、約10~約800個の細胞、約10~約500個の細胞、約10~約400個の細胞、約10~約300個の細胞、約10~約200個の細胞、約10~約100個の細胞、約50~約1000個の細胞、約50~約800個の細胞、約50~約500個の細胞、約50~約400個の細胞、約50~約300個の細胞、約50~約200個の細胞、約100~約1000個の細胞、約100~約800個の細胞、約100~約500個の細胞、約100~約400個の細胞、約100~約300個の細胞、約300~約1000個の細胞、約300~約800個の細胞、約300~約500個の細胞、約500~約1000個の細胞、または約500~約800個の細胞を含む。
【0126】
いくつかの実施形態において、前記基材上に配置された細胞の少なくとも10%は、単一細胞由来のスフェロイドを形成する。いくつかの実施形態において、前記基材上に配置された細胞の少なくとも20%は、単一細胞由来のスフェロイドを形成する。いくつかの実施形態において、前記基材上に配置された細胞の少なくとも30%は、単一細胞由来のスフェロイドを形成する。いくつかの実施形態において、前記基材上に配置された細胞の少なくとも40%は、単一細胞由来のスフェロイドを形成する。いくつかの実施形態において、前記基材上に配置された細胞の少なくとも50%は、単一細胞由来のスフェロイドを形成する。いくつかの実施形態において、前記基材上に配置された細胞の少なくとも60%は、単一細胞由来のスフェロイドを形成する。いくつかの実施形態において、前記基材上に配置された細胞の少なくとも70%は、単一細胞由来のスフェロイドを形成する。
【0127】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法は、前記単一細胞由来のクローンを分析して、それによって、その単一細胞の特性を得ることをさらに含む。場合によっては、単一細胞由来のクローンを分析する工程は、単一細胞由来のクローンを配列決定分析に供することを含む。いくつかの実施形態において、その分析工程は遺伝子型判定分析を実行することを含む。いくつかの実施形態において、遺伝子型判定分析はPCRを用いた分析である。いくつかの実施形態において、遺伝子型判定分析はアレイハイブリダイゼーションを用いた分析である。いくつかの実施形態において、その分析工程はコピー数多型を分析することを含む。いくつかの実施形態において、その分析工程は遺伝子突然変異を分析することを含む。いくつかの実施形態において、その分析工程は一塩基多型を分析することを含む。
【0128】
いくつかの実施形態において、単一細胞由来のクローンを分析する工程は、単一細胞由来のクローンをプロテオミクス分析に供することを含む。例示的なプロテオミクス分析としては、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、二次元ゲル電気泳動、またはキャピラリー電気泳動などのゲル電気泳動;高速液体クロマトグラフィー(HPLC);およびアフィニティークロマトグラフィーが挙げられる。
【0129】
いくつかの実施形態において、単一細胞の特性は、以下の1つ以上を含む:遺伝子型、エピジェネティックなプロファイル、遺伝子もしくはタンパク質の発現レベル、薬物に対する応答、薬物耐性プロファイル、または転移能。
【0130】
いくつかの態様において、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載される細胞培養システムを使用する培養方法のいずれか1つに従って生成された単一細胞由来のクローンである。いくつかの態様において、本明細書に記載される細胞培養システムを使用する培養方法のいずれか1つに従って誘導された単一細胞由来のクローンのライブラリーが提供される。
【0131】
キット
特定の実施形態において、本明細書に開示されるのは、本明細書に記載される細胞培養基材を含むキットまたは物品である。場合によっては、そのキットは、パッケージ、またはバイアル、チューブなどの1以上の容器を受け入れるように区分化された容器をさらに含み、その容器(単数または複数)のそれぞれは、本明細書に記載される方法において使用される別個の要素の1つを含んでいる。好適な容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、および試験管が含まれる。一実施形態において、それらの容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成される。
【0132】
場合によっては、そのキットは、内容物一覧を記載するラベルおよび/または使用説明書、ならびに使用説明書(例えば、本明細書に記載される細胞培養基材を使用して異種細胞集団を培養して、単一細胞由来のクローンを含む複数の細胞クローンを取得するための説明書)を含む添付文書をさらに含む。一般に、一連の説明書もまた含まれる。
【0133】
特定の技術用語
特に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、特許請求される主題が属する分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、単に例示および説明するためのものであり、特許請求される主題を限定するものではないことを理解されたい。本願において、単数形の使用は、特に断りのない限り、複数形を含む。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上明らかに別の意味を示していない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。本願において、「または」の使用は、特に断りのない限り、「および/または」を意味する。さらに、用語「含む(including)」、ならびに「含む(include)」、「含む(includes)」および「含まれる(included)」などの他の形態の使用は、限定的ではない。
【0134】
本明細書で使用する場合、範囲および量は、「約」特定の値または範囲として表すことができる。約はまた、正確な量も含む。従って「約5μL」は、「約5μL」と「5μL」を意味する。一般に、用語「約」は、実験誤差の範囲内であると予想される量を含む。
【0135】
本明細書で使用されているセクションの見出しは、単に構成することを目的としており、説明されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0136】
本明細書で使用する場合、用語「含む(comprising)」は、方法が列挙された工程または要素を含むが、他のものを除外しないことを意味することを意図している。「から本質的になる(Consisting essentially of)」とは、特許請求された方法の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を及ぼさない工程または要素を包含するためにのみ、請求項をオープンとすることを意味するものとする。「からなる(Consisting of)」とは、請求項で指定されていない要素または工程を除外することを意味するものとする。これらの変形用語のそれぞれによって定義される実施形態は、本開示の範囲内にある。
【0137】
本明細書で使用する場合、用語「正に帯電した多価電解質」は、2つ以上の正電荷を含む複数のモノマー単位または非ポリマー分子を包含する。場合によっては、正に帯電した多価電解質は、正の正味電荷を有する、電荷陽性基、電荷中性基、または電荷陰性基を含む複数のモノマー単位または非ポリマー分子も包含する。
【0138】
本明細書で使用する場合、用語「カチオン性ポリマー」は、複数のモノマー単位または非ポリマー分子を包含する。場合によっては、カチオン性ポリマーは合成ポリマーである。他の例において、カチオン性ポリマーは天然ポリマーである。
【0139】
本明細書で使用する場合、用語「カチオン性ポリペプチド」とは、2つ以上の正電荷を含むポリペプチドを指す。場合によっては、カチオン性ポリペプチドは、正に帯電したアミノ酸残基、負に帯電した残基、および極性残基を含むが、そのポリペプチドの正味電荷は正である。場合によっては、カチオン性ポリペプチドは、8~100アミノ酸長である。場合によっては、カチオン性ポリペプチドは、8~80、8~50、8~40、8~30、8~25、8~20、8~15、10~100、10~80、10~50、10~40、10~30、10~20、20~100、20~80、20~50、20~40、20~30、30~100、30~80、30~50、40~100、40~80、または50~100アミノ酸長である。
【0140】
本明細書で使用する場合、用語「負に帯電した多価電解質」は、2つ以上の負電荷を含む複数のモノマー単位または非ポリマー分子を包含する。場合によっては、負に帯電した多価電解質は、負の正味電荷を有する、電荷陽性基、電荷中性基、または電荷陰性基を含む複数のモノマー単位または非ポリマー分子も包含する。
【0141】
本明細書で使用する場合、用語「アニオン性ポリマー」は、複数のモノマー単位または非ポリマー分子を包含する。場合によっては、アニオン性ポリマーは合成ポリマーである。他の例において、アニオン性ポリマーは天然ポリマーである。
【0142】
本明細書で使用する場合、用語「アニオン性ポリペプチド」とは、2つ以上の負電荷を含むポリペプチドを指す。場合によっては、アニオン性ポリペプチドは、正に帯電したアミノ酸残基、負に帯電した残基、および極性残基を含むが、そのポリペプチドの正味電荷は負である。場合によっては、アニオン性ポリペプチドは、8~100アミノ酸長である。場合によっては、アニオン性ポリペプチドは、8~80、8~50、8~40、8~30、8~25、8~20、8~15、10~100、10~80、10~50、10~40、10~30、10~20、20~100、20~80、20~50、20~40、20~30、30~100、30~80、30~50、40~100、40~80、または50~100アミノ酸長である。
【0143】
本明細書で使用する場合、用語「吸収性ポリマー」は、1つ以上の親水基を含む複数のモノマー単位または非ポリマー分子を包含する。場合によっては、吸収性ポリマーは、水溶液に対して透過性である。他の例において、吸収性ポリマーは、不透過性であるか、または水溶液を吸収しない。場合によっては、吸収性ポリマーは、非反応性ポリマー、または反応性基、例えば、別の化合物と共有結合を形成する基を含まないポリマーを包含する。
【0144】
本明細書で使用する場合、用語「ポリマー」は、ホモポリマーおよびコポリマーの両方、分岐および非分岐、ならびに天然または合成ポリマーを含む。
【0145】
本明細書で使用する場合、用語「エラストマー」とは、粘弾性特性、低結晶度、および高非晶質含有量を有するポリマーを指す。場合によっては、エラストマーは、他の材料と比較して低いヤング率および高い破断点伸びを有する。場合によっては、エラストマーは、炭素、水素、酸素、および/またはケイ素のモノマーから生成された非晶質ポリマーである。
【0146】
本明細書で使用する場合、免疫細胞は、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、およびリンパ球(B細胞およびT細胞)を包含する。
【0147】
内皮細胞は、血管およびリンパ管の内面を覆う細胞である。例示的な内皮細胞としては、高内皮細静脈(HEV)、骨髄の内皮、および脳の内皮が挙げられる。
【0148】
上皮細胞は、器官および血管の外面、および内臓腔の内面を覆う細胞である。例示的な上皮細胞としては、扁平上皮、立方上皮、および円柱上皮が挙げられる。
【0149】
本明細書で使用する場合、用語「幹細胞」は、成体幹細胞および胚性幹細胞を包含する。例示的な幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞(MSC)、神経幹細胞、上皮幹細胞、皮膚幹細胞、胚性幹細胞(ESC)、および人工多能性幹細胞(iPSC)が挙げられる。
【実施例
【0150】
これらの実施例は、単に例示的な目的で提供され、本明細書に提供される特許請求の範囲を限定するものではない。
【0151】
実施例1:本発明の基材の構築
疎水性表面を有するPDMSの調製
疎水性表面を有するPDMSを調製するための手順は、10:1(w/w)比のPDMSモノマーAと硬化剤B(Sylgard 184シリコーンエラストマーキット、Dow Corning)からなるPDMS混合物を混合することにある。混合物をペトリディッシュに注ぎ、70℃で15時間硬化させる。得られたPDMS膜(約1mm厚)は疎水性である。
【0152】
任意の好適なPDMS親水性表面修飾を使用して、疎水性表面を親水性表面に変換し得る。以下はPDMS親水性表面修飾の例示的な実施形態である。
【0153】
PVA積層によるPDMSの親水性表面修飾
処理の第1の工程は、PDMS表面を酸素プラズマに曝し、続いて、プラズマ酸化したPDMS表面を水中1~2wt%のPVAに短時間(例えば、10分間)曝すことである。酸素プラズマ処理は、PDMS表面に表面シラノール基(Si-OH)、アルコール性ヒドロキシル(C-OH)、およびカルボン酸(COOH)のラジカル種を生成し、これらの種は、PVA分子と活性化されたPDMS表面との水素結合を可能にし、これにより、永久的に親水化された表面がもたらされる。PVA処理されたPDMS表面は、長期的に親水性を保持する。
【0154】
接触角測定を適用して、PDMS表面特性に対するPVA積層の効果を調べることができる。プラズマおよびPVAで処理されたPDMSは、未処理のPDMSよりも低い水-空気接触角を示す。PVAコーティングを施したプラズマ酸化したPDMS表面の表面粗さは、未処理のPDMS表面よりも高くなっている。
【0155】
ヒドロシリル化およびPEGコンジュゲーションによるPDMSの親水性表面修飾
図6は、ヒドロシリル化によるPDMSの例示的な親水性表面修飾を示す。ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート(PEG-アクリレート)を使用して、PDMS表面上のPEG-アクリレート鎖を共有結合することによってPDMSの疎水性表面を修飾することができる。PDMS表面へのSiH基の導入には、酸触媒作用を使用して、PDMSのMeSiOをPHMSのHMeSiOと交換することを必要とする。これにより、その表面上に高密度のSiH基を有するPDMSがもたらされる。
【0156】
処理の第1の工程は、メタノールを含むポリヒドロメチルシロキサン(PHMS)にPDMSを浸漬することによって、PDMS表面にSiH基を導入することである(PDMS-SiH)。触媒量(catalystic amount)のトリフルオロメタンスルホン酸を添加し、システムを約30分間、室温に置く。次に、PDMS表面を溶媒(例えば、メタノール、ヘキサン)中で逐次に洗い流して、残留反応物を除去し、真空下で乾燥させる。
【0157】
処理の第2の工程は、PDMS-SiHサンプルをPEG-アクリレートとジエチレングリコールジメチルエーテル(1:3、v/v)の混合物に導入することによって、PEG修飾されたPDMS表面を調製することである。触媒量のKarstedtの触媒(白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体)を反応混合物に加え、70℃で十分な反応時間撹拌する。修飾されたPDMS表面は、未処理のPDMSよりも低い水-空気接触角と高い表面エネルギーを示す。
【0158】
多価電解質多層の構築
PLL(分子量150K~300K)、PLGA(分子量50K~100K)、PLO(0.01%)溶液、PLH(分子量5K~25K)、PLA(分子量15K~70K)は、Sigma-Aldrich(セントルイス、MO、USA)から市販されている。ポリカチオンおよびポリアニオンの両方をTris-HClバッファー(pH7.4)に溶解し、Tris-HClバッファーで洗い流した後PVAまたはPEGでコーティングされた表面上に積層させる。ポリカチオンまたはポリアニオンの各層を積層させ、10分間インキュベートした後、Tris-HClバッファーで3回(2分間、1分間、および1分間)洗浄する。PLL/PLGA、PLO/PLGA、PLH/PLGAおよびPLA/PLGA多層膜は、以下のように、PVAまたはPEGコーティング表面上への交互自己積層(layer-by-layer self-assembly)によって製造することができる。
【0159】
PLL/PLGA多層
いくつかの実施形態において、多価電解質多層は、PVA/PDMSまたはPEG/PDMSの表面上にPLLおよびPLGAを逐次に積層させることにより構築することができるPLL/PLGA多層である。各積層工程は、プレート表面にPLLまたはPLGA溶液を加え、10分間インキュベートし、3回(2分間、1分間、および1分間)洗浄することを含む。
【0160】
一実施形態において、(PLGA/PLL)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLL)/PVA/PDMSから構成される基材コーティングが構築される。一実施形態において、(PLGA/PLL)10/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLL)15/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLL(PLGA/PLL)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLL(PLGA/PLL)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLL(PLGA/PLL)10/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLL(PLGA/PLL)15/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLL)/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLL)/PEG/PDMSから構成される基材コーティングが構築される。一実施形態において、(PLGA/PLL)10/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLL)15/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLL(PLGA/PLL)/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLL(PLGA/PLL)/P PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLL(PLGA/PLL)10/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLL(PLGA/PLL)15/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。
【0161】
PLO/PLGA多層
いくつかの実施形態において、多価電解質多層は、PVA/PDMSまたはPEG/PDMSの表面上にPLOおよびPLGAを逐次に積層させることにより構築することができるPLO/PLGA多層である。各積層工程は、プレート表面にPLOまたはPLGA溶液を加え、10分間インキュベートし、3回(2分間、1分間、および1分間)洗浄することを含む。
【0162】
一実施形態において、(PLGA/PLO)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLO)/PVA/PDMSから構成される基材コーティングが構築される。一実施形態において、(PLGA/PLO)10/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLO)15/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLO(PLGA/PLO)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLO(PLGA/PLO)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLO(PLGA/PLO)10/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLO(PLGA/PLO)15/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLO)/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLO)/PEG/PDMSから構成される基材コーティングが構築される。一実施形態において、(PLGA/PLO)10/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLO)15/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLO(PLGA/PLO)/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLO(PLGA/PLO)/P PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLO(PLGA/PLO)10/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLO(PLGA/PLO)15/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。
【0163】
PLH/PLGA多層
いくつかの実施形態において、多価電解質多層は、PVA/PDMSまたはPEG/PDMSの表面上にPLHおよびPLGAを逐次に積層させることにより構築することができるPLH/PLGA多層である。各積層工程は、プレート表面にPLHまたはPLGA溶液を加え、10分間インキュベートし、3回(2分間、1分間、および1分間)洗浄することを含む。
【0164】
一実施形態において、(PLGA/PLH)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLH)/PVA/PDMSから構成される基材コーティングが構築される。一実施形態において、(PLGA/PLH)10/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLH)15/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLH(PLGA/PLH)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLH(PLGA/PLH)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLH(PLGA/PLH)10/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLH(PLGA/PLH)15/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLH)/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLH)/PEG/PDMSから構成される基材コーティングが構築される。一実施形態において、(PLGA/PLH)10/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLH)15/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLH(PLGA/PLH)/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLH(PLGA/PLH)/P PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLH(PLGA/PLH)10/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLH(PLGA/PLH)15/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。
【0165】
PLA/PLGA多層
いくつかの実施形態において、多価電解質多層は、PVA/PDMSまたはPEG/PDMSの表面上にPLAおよびPLGAを逐次に積層させることにより構築することができるPLA/PLGA多層である。各積層工程は、プレート表面にPLAまたはPLGA溶液を加え、10分間インキュベートし、3回(2分間、1分間、および1分間)洗浄することを含む。
【0166】
一実施形態において、(PLGA/PLA)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLA)/PVA/PDMSから構成される基材コーティングが構築される。一実施形態において、(PLGA/PLA)10/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLA)15/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLA(PLGA/PLA)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLA(PLGA/PLA)/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLA(PLGA/PLA)10/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLA(PLGA/PLA)15/PVA/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLA)/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLA)/PEG/PDMSから構成される基材コーティングが構築される。一実施形態において、(PLGA/PLA)10/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、(PLGA/PLA)15/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLA(PLGA/PLA)/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLA(PLGA/PLA)/P PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLA(PLGA/PLA)10/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。一実施形態において、PLA(PLGA/PLA)15/PEG/PDMSから構成される基材が構築される。
【0167】
水晶振動子マイクロバランス-散逸(QCM-D)測定
QCM実験を、Q-Sense E4(Biolin Scientific AB/Q-sence、スウェーデン)下で行った。酸化ケイ素(SiO)でコーティングされた水晶振動子チップ(ATカット水晶振動子、f0=5MHz)を0.1Mドデシル硫酸ナトリウムで洗浄した後、Milli-Q水で洗い流し、窒素下で乾燥させ、酸素プラズマに20秒間曝した。QCM-D測定では、チャンバーを25℃に安定させ、全ての測定を3次オーバートーン(15MHz)で記録した。連続表面コーティングをシミュレートするために、QCM-Dチャンバー内の各コーティング工程の濃度および洗浄条件は同一である。約1%ウシ血清アルブミン(BSA、Millipore、ベッドフォード、MA)を非特異的吸着調査に使用し、チャンバーの表面上に導入した。
【0168】
表面化学分析
本開示の表面コーティングの化学組成を、シリコーンウエハー上でのC60(10kV、10nA)エッチングによるX線光電子分光法(XPS;VersaProbe III、PHI)によって分析した。使用したパスエネルギーは、0.5eVのステップで93.9 eVであった。炭素、窒素、酸素およびケイ素の相対原子濃度を最大厚さ10nmまでのサンプル層で測定した。
【0169】
原子間力顕微鏡(AFM)の使用による表面粗さ測定
本開示の表面コーティングの粗さを、原子間力顕微鏡(AFM;Nanowizard 3、JPK instrument)を使用してタッピングモードで測定した。実験では、共振周波数134kHzのシリコーンカンチレバーを利用した。
【0170】
実施例2:単一細胞由来のスフェロイドの形成
図7は、本発明の基材上で培養したHCT116結腸直腸癌細胞の、完全DMEM培地を供給した癌細胞の成長中の1、2、3、4、5、6および7日目のタイムラプス顕微鏡観察を示す。(Leica DMI6000Bタイムラプス顕微鏡で10倍の対物レンズ下で撮影した画像)。
【0171】
実施例3:細胞株由来腫瘍スフェロイドの生成
本開示の基材は、細胞増殖のための細胞接着を可能にする生体適合性多層コーティング表面を提供し、表面上で直接スフェロイドを形成するための非汚染性も提供する。比較のために、図8A~Cは、様々な培養プレートでの、4、7および14日間のHCT116結腸直腸癌細胞のex vivo培養の結果を示す。(A)組織培養プレート(TCP)、(B)PVA/PDMSコーティング表面を含む培養プレート、および(C)(PLL/PLGA)15/PVA/PDMSコーティング表面を含む培養プレート。細胞はTCPおよびPVA/PDMSコーティング表面に接着する一方で、(PLL/PLGA)15/PVA/PDMSコーティング表面ではスフェロイド(すなわち、腫瘍スフェロイド)を形成する。
【0172】
実施例4:患者由来腫瘍スフェロイドの生成
本開示の基材を含む細胞培養システムを、様々な患者由来の臨床サンプルを用いて試験し、スフェロイドの培養および形成に成功した。図9A~Dは、患者由来の臨床サンプルのex vivo培養の結果を示す:(A)組織培養プレート(TCP)上で2週間成長させた、針生検からの乳癌細胞、(B)本発明の基材上で2週間成長させた、針生検からの乳癌細胞、(C)本発明の基材上で2週間成長させた、腫瘍組織からの尿路上皮癌細胞、(D)本発明の基材上で2週間成長させた、腫瘍組織からの結腸直腸癌細胞。
【0173】
生成されたスフェロイドは、医療および応用における将来の診断およびガイダンス(例:非侵襲的早期癌検出、個人医療ガイダンス、処置前および処置後の薬物耐性調査、免疫細胞に基づいた癌療法のための細胞活性評価)にさらに役立つ可能性があり、ex vivo培養した患者由来の初代CTC細胞を使用することによって癌進行に関与するメカニズムを解明するための実質的な材料を提供する。
【0174】
実施例5:ヒト由来のスフェロイドの生成
図10は、本発明の基材上で2週間成長させた、患者由来の乳房細胞および結腸直腸細胞の正常サンプル、ならびに患者由来の乳癌細胞および結腸直腸癌細胞の腫瘍サンプルのex vivo培養の結果を示す。
【0175】
本開示の好ましい実施形態を本明細書に示し、説明してきたが、そのような実施形態が単に例として示されていることは当業者には明らかであろう。当業者ならば、本開示から逸脱することなく、数多くの変形、変更、および置換を想起するであろう。本明細書に記載される本開示の実施形態に対する様々な代替形態が、本開示を実施する際に採用され得ることが理解されるべきである。以下の特許請求の範囲が本開示の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲内の方法および構造、ならびにそれらの同等物がそれによって包含されることが意図されている。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]細胞培養用基材であって、
a)エラストマー膜の表面上に積層された吸収性ポリマーと、
b)多価電解質多層であって、前記吸収性ポリマーは、前記多価電解質多層のポリカチオンまたはポリアニオンと直接接触している、多価電解質多層と
を含む表面コーティングを有するエラストマー膜を含んでなり、
前記エラストマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である、基材。
[実施形態2]前記吸収性ポリマーが、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、PEG-アクリレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLDLLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PL-co-GA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(p-HEMA)およびそれらの誘導体からなる群から選択される、実施形態1に記載の基材。
[実施形態3]前記吸収性ポリマーが、PVA、PEG、PEG-アクリレート、PVP、PEI、PMMAまたはそれらの誘導体である、実施形態2に記載の基材。
[実施形態4]前記吸収性ポリマーが、PVA、PEGまたはPEG-アクリレートである、実施形態2に記載の基材。
[実施形態5]前記吸収性ポリマーがPDMSにコンジュゲートしている、実施形態1に記載の基材。
[実施形態6]前記吸収性ポリマーと前記PDMSとがコンジュゲートしていない、実施形態1に記載の基材。
[実施形態7]前記ポリカチオンがポリ(アミノ酸)である、実施形態1に記載の基材。
[実施形態8]前記ポリアニオンがポリ(アミノ酸)である、実施形態1に記載の基材。
[実施形態9]前記ポリカチオンが、ポリ(L-リシン)(PLL)、ポリ(L-アルギニン)(PLA)、ポリ(L-オルニチン)(PLO)、ポリ(L-ヒスチジン)(PLH)、およびそれらの組合せからなる群から選択される、実施形態1に記載の基材。
[実施形態10]前記ポリカチオンが、PLL、PLA、PLOまたはPLHである、実施形態9に記載の基材。
[実施形態11]前記ポリアニオンが、ポリ(L-グルタミン酸)(PLGA)、ポリ(L-アスパラギン酸)(PLAA)、またはそれらの組合せである、実施形態1に記載の基材。
[実施形態12](ポリカチオン/ポリアニオン)の二重層が、PLL/PLGA、PLL/PLAA、PLA/PLGA、PLA/PLAA、PLO/PLGA、PLO/PLAA、PLH/PLGA、PLH/PLAA、およびそれらの組合せからなる群から選択される、実施形態1に記載の基材。
[実施形態13]前記多価電解質多層が交互積層法によって形成される、実施形態1に記載の基材。
[実施形態14]前記多価電解質多層がn個の二重層を含み、nは、1~30の範囲の整数であり、その最外層はポリカチオンまたはポリアニオンである、実施形態1に記載の基材。
[実施形態15]前記多価電解質多層がn個の(ポリカチオン/ポリアニオン)二重層と追加のポリアニオン層とを含み、nは、1~30の範囲の整数であり、その最外層はポリアニオンである、実施形態1に記載の基材。
[実施形態16]前記多価電解質多層がn個の(ポリアニオン/ポリカチオン)二重層と追加のポリカチオン層を含み、nは、1~30の範囲の整数であり、その最外層はポリカチオンである、実施形態1に記載の基材。
[実施形態17]a)疎水性表面を有するPDMSを準備する工程、
b)PDMSのその疎水性表面を処理により修飾する工程、
c)PDMSのその修飾された表面に吸収性ポリマーを適用する工程、および
d)前記吸収性ポリマー上に、ポリカチオンとポリアニオンの交互層を逐次に積層させて、多層膜の形で基材を形成する工程
を含む方法によって調製される、実施形態1に記載の基材。
[実施形態18]前記処理が、プラズマ処理、コロナ放電またはUVオゾン処理である、実施形態17に記載の基材。
[実施形態19]前記処理がヒドロシリル化である、実施形態17に記載の基材。
[実施形態20]PDMSの前記疎水性表面が前記処理後に照射または親水化される、実施形態17に記載の基材。
[実施形態21]前記PDMS表面が、PDMSの前記修飾された表面に前記吸収性ポリマーを適用した後に親水化される、実施形態17に記載の基材。
[実施形態22]前記吸収性ポリマーが、PVA、PEGまたはPEG-アクリレートである、実施形態17に記載の基材。
[実施形態23]前記吸収性ポリマーが前記PDMS表面に架橋している、実施形態17に記載の基材。
[実施形態24]前記PDMSが架橋を含まない、実施形態17に記載の基材。
[実施形態25]実施形態1に記載の基材を含む細胞培養システム。
[実施形態26]細胞および/または培養培地をさらに含む、実施形態25に記載の細胞培養システム。
[実施形態27]細胞を培養するための方法であって、
a)実施形態1に記載の基材を含む細胞培養システムを準備すること、
b)前記基材上に細胞を播種すること、および
c)1以上のスフェロイドを形成するのに十分な時間、好適な培地下で細胞を培養すること
を含む、方法。
[実施形態28]前記1以上のスフェロイドが単一細胞増殖によって生成される、実施形態27に記載の方法。
[実施形態29]前記1以上のスフェロイドが50μM~150μMの平均直径を有する、実施形態27に記載の方法。
[実施形態30]前記播種が、前記基材上に1cm あたり細胞1000個未満の密度で細胞をプレーティングすることを含む、実施形態27に記載の方法。
[実施形態31]単一細胞由来のスフェロイドを取得し、所望により、特性評価するための方法であって、(a)実施形態1に記載の基材上で異種細胞集団を培養して、前記表面コーティング上に配置された少なくとも1つの単一細胞由来のスフェロイドを取得すること、ここで、前記単一細胞は前記異種細胞集団内の細胞である;および所望により、(b)前記単一細胞由来のスフェロイドを分析して、それによって、前記単一細胞の少なくとも1つの特性を得ることを含む、方法。
[実施形態32]個別化(personalized)薬物スクリーニングのための方法であって、(a)癌患者由来の腫瘍細胞を含む複数の細胞を、実施形態1に記載の基材上で培養して、前記表面コーティング上に配置された少なくとも1つの単一細胞由来のテューモロイドを取得すること、ここで、前記単一細胞は前記複数の細胞内の腫瘍細胞である;および(b)前記テューモロイドを1以上の候補薬剤と接触させ、前記癌を治療するための治療効力を示すテューモロイドにおける1以上の変化の存在または不在を検出することを含む、方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10