(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】圧電体膜基板の製造方法および圧電体膜基板
(51)【国際特許分類】
H10N 30/076 20230101AFI20230828BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20230828BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20230828BHJP
C30B 29/32 20060101ALI20230828BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20230828BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20230828BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20230828BHJP
H01L 21/314 20060101ALN20230828BHJP
【FI】
H10N30/076
H10N30/853
H10N30/87
C30B29/32 D
C30B33/02
C23C14/08 K
C23C14/58 A
H01L21/314 A
(21)【出願番号】P 2023001901
(22)【出願日】2023-01-10
【審査請求日】2023-06-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】木内 万里夫
(72)【発明者】
【氏名】片山 信英
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-190890(JP,A)
【文献】特開2014-229902(JP,A)
【文献】特開2007-088443(JP,A)
【文献】国際公開第2020/090473(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/076
H10N 30/853
H10N 30/87
C30B 29/32
C30B 33/02
C23C 14/08
C23C 14/58
H01L 21/314
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に圧電体膜を形成する工程と、を備え、
前記圧電体膜を形成する工程は、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度でシード層となる第1層を前記下部電極上に形成する工程と、結晶化するとともに前記第1温度よりも低い第2温度で形成される部分を有する第2層を前記第1層上に形成する工程と、を含
み、
前記第2層を形成する工程は、前記第1層の形成後に連続して前記第1温度から前記第2温度に温度を変化させている間にも、前記第2層を形成する工程を含む、圧電体膜基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2層を形成する工程は、前記第1層よりも厚みの大きい前記第2層を形成する工程を含む、請求項1に記載の圧電体膜基板の製造方法。
【請求項3】
前記第1温度は、560℃以上700℃以下であり、
前記第2温度は、500℃以上560℃未満である、請求項1に記載の圧電体膜基板の製造方法。
【請求項4】
前記第1層の厚みは、前記圧電体膜全体の厚みに対して1%以上50%未満である、請求項2に記載の圧電体膜基板の製造方法。
【請求項5】
基板上に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に圧電体膜を形成する工程と、を備え、
前記圧電体膜を形成する工程は、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度でシード層となる第1層を前記下部電極上に形成する工程と、結晶化するとともに前記第1温度よりも低い第2温度で形成される部分を有する第2層を前記第1層上に形成する工程と、を含み、
前記第1層を形成する工程と、前記第2層を形成する工程とが順次行われることによって、前記第1層および前記第1層の結晶方位の特性を引き継いだ前記第2層の部分からなる単結晶状の第1領域と、前記第2層の残りの部分からなる多結晶状の第2領域とが順次形成される
、圧電体膜基板の製造方法。
【請求項6】
基板と、
前記基板上に形成された下部電極と、
前記下部電極上に形成された圧電体膜と、を備え、
前記圧電体膜は、
結晶化するとともにシード層となる第1層と、結晶化するとともに前記第1層上に形成された第2層とを含み、
前記第1層は、エピタキシャル成長した単結晶状の第1領域からなり、
前記第2層は、前記第1層の結晶方位の特性を引き継いだ単結晶状の前記第1領域と、前記第2層の残りの部分からなる多結晶状の第2領域とが形成されている、圧電体膜基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧電体膜基板の製造方法および圧電体膜基板に関し、特に、下部電極上に圧電体膜が形成される圧電体膜基板の製造方法および圧電体膜基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下部電極上に強誘電体が形成される強誘電体キャパシタの製造方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、下部電極上に強誘電体が形成されるとともに、強誘電体上に上部電極が形成される強誘電体キャパシタの製造方法が開示されている。この製造方法では、下部電極上に結晶化温度以上の温度で第1強誘電体層が形成され、第1強誘電体層上に結晶化温度未満の温度で第2強誘電体層が形成される。この製造方法では、第2強誘電体層がアモルファス型構造であり結晶型構造を有しないため、上部電極と第2強誘電体層との間の界面における欠陥の発生が抑制される。その結果、強誘電体キャパシタを不揮発性メモリに応用した場合に、強誘電体に対し反転動作を繰り返すうちに分極量が減少する疲労特性が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、メモリに適用される強誘電体の製造方法について記載されている一方、アクチュエータやセンサに適用される圧電体膜の製造方法については全く記載されていない。アクチュエータやセンサに適用される場合、圧電体膜は、アクチュエータ特性やセンサ特性が良好であることが求められる。また、圧電体膜のアクチュエータ特性やセンサ特性を良好にするためには、メモリに適用される場合と異なり、圧電体膜の結晶性が高いことが求められる。また、圧電体膜の結晶性を高くするためには、圧電体膜を高温で形成することが求められる。しかしながら、圧電体膜を高温で形成した場合には、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力が増大するという不都合がある。このため、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制しつつ、結晶性が高い圧電体膜を形成することが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜を形成することが可能な圧電体膜基板の製造方法および圧電体膜基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願発明者らが鋭意検討した結果、圧電体膜を形成する工程が、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度でシード層となる第1層を下部電極上に形成する工程と、結晶化するとともに第1温度よりも低い第2温度で形成される部分を有する第2層を第1層上に形成する工程と、を含むことによって、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜を得ることが可能であることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、この発明の第1の局面による圧電体膜基板の製造方法は、基板上に下部電極を形成する工程と、下部電極上に圧電体膜を形成する工程と、を備え、圧電体膜を形成する工程は、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度でシード層となる第1層を下部電極上に形成する工程と、結晶化するとともに第1温度よりも低い第2温度で形成される部分を有する第2層を第1層上に形成する工程と、を含み、第2層を形成する工程は、第1層の形成後に連続して第1温度から第2温度に温度を変化させている間にも、第2層を形成する工程を含む。
また、この発明の第2の局面による圧電体膜基板の製造方法は、基板上に下部電極を形成する工程と、下部電極上に圧電体膜を形成する工程と、を備え、圧電体膜を形成する工程は、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度でシード層となる第1層を下部電極上に形成する工程と、結晶化するとともに第1温度よりも低い第2温度で形成される部分を有する第2層を第1層上に形成する工程と、を含み、第1層を形成する工程と、第2層を形成する工程とが順次行われることによって、第1層および第1層の結晶方位の特性を引き継いだ第2層の部分からなる単結晶状の第1領域と、第2層の残りの部分からなる多結晶状の第2領域とが順次形成される。
【0008】
この発明の第1の局面による圧電体膜基板の製造方法では、上記のように、圧電体膜を形成する工程は、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度でシード層となる第1層を下部電極上に形成する工程と、結晶化するとともに第1温度よりも低い第2温度で形成される部分を有する第2層を第1層上に形成する工程と、を含む。これにより、結晶性が高い第1層(シード層)の影響を受けてある程度結晶性が高い第2層を形成することができる。その結果、結晶性が高い圧電体膜を得ることができる。また、第1温度よりも低い第2温度で形成される部分を有する第2層を第1層上に形成することにより、圧電体膜全体を高温で形成する場合に比べて、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することができる。これらの結果、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜を形成することができる。
【0009】
上記第1の局面による圧電体膜基板の製造方法において、好ましくは、第2層を形成する工程は、第1層よりも厚みの大きい第2層を形成する工程を含む。このように構成すれば、第2層の厚みを、第1温度で形成する第1層の厚みよりも大きくすることができるので、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力を容易に抑制することができる。
【0010】
上記第1の局面による圧電体膜基板の製造方法において、好ましくは、第1温度は、560℃以上700℃以下であり、第2温度は、500℃以上560℃未満である。このように構成すれば、第1温度が560℃以上700℃以下であることにより、第1層を容易に結晶化させるとともにエピタキシャル成長させることができる。また、第2温度が500℃以上560℃未満であることにより、第2層を結晶化させつつ圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することができる。
【0011】
上記第1の局面による圧電体膜基板の製造方法において、好ましくは、第2層を形成する工程は、第1層の形成後に連続して第1温度から第2温度に温度を変化させている間にも、第2層を形成する工程を含む。このように構成すれば、第1層の結晶性を第2層に引き継がせやすくすることができるので、より結晶性が高い第2層を形成することができる。また、第1温度から第2温度に温度を変化させている間には、第2層を形成しない場合と異なり、第1温度から第2温度に温度を変化させている間にも、第2層を形成することができるので、生産性を向上させることができる。
【0012】
この場合、好ましくは、第1層の厚みは、圧電体膜全体の厚みに対して1%以上50%未満である。このように構成すれば、第1層の厚みを圧電体膜全体の厚みに対して1%以上にすることにより、第1層をシード層として容易に機能させることができる。また、第1層の厚みを圧電体膜全体の厚みに対して50%未満にすることにより、第1層の厚みが過度に大きくなることを抑制することができるので、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することができる。
【0013】
上記第2の局面による圧電体膜基板の製造方法では、第1層を形成する工程と、第2層を形成する工程とが順次行われることによって、第1層および第1層の結晶方位の特性を引き継いだ第2層の部分からなる単結晶状の第1領域と、第2層の残りの部分からなる多結晶状の第2領域とが順次形成される。このように構成すれば、第1領域と第2領域とが順次形成されることにより、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜を形成することができる。
【0014】
上記目的を達成するために、この発明の第3の局面による圧電体膜基板は、基板と、基板上に形成された下部電極と、下部電極上に形成された圧電体膜と、を備え、圧電体膜は、結晶化するとともにシード層となる第1層と、結晶化するとともに第1層上に形成された第2層とを含み、第1層は、エピタキシャル成長した単結晶状の第1領域からなり、第2層は、第1層の結晶方位の特性を引き継いだ単結晶状の第1領域と、第2層の残りの部分からなる多結晶状の第2領域とが形成されている。
【0015】
この発明の第3の局面による圧電体膜基板では、上記のように構成する。これにより、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度でシード層となる第1層を下部電極上に形成するとともに、結晶化するとともに第1温度よりも低い第2温度で形成される部分を有する第2層を第1層上に形成した結果、圧電体膜が第1領域と第2領域とを含む圧電体膜基板を得ることができる。その結果、上記第1の局面による圧電体基板の製造方法と同様に、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜を形成することが可能な圧電体膜基板を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のように、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態による圧電体膜基板を示す断面図である。
【
図2】一実施形態による圧電体膜の第1領域と第2領域とを説明するための模式的な断面図である。
【
図3】一実施形態による製造工程の基板を示す断面図である。
【
図4】一実施形態による製造工程の下部電極を形成した状態を示す断面図である。
【
図5】一実施形態による製造工程の圧電体膜の第1層を形成した状態を示す断面図である。
【
図6】一実施形態による製造工程の圧電体膜の第2層を形成した状態を示す断面図である。
【
図7】一実施形態による製造工程の圧電体膜の第1層および第2層を形成する際の温度プロファイルを示すグラフである。
【
図8】一実施形態による製造工程の上部電極を形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(圧電体膜基板の構成)
図1および
図2を参照して、本発明の一実施形態による圧電体膜基板100の構成について説明する。
【0020】
圧電体膜基板100は、各々がデバイスとなる複数の個片に分割される圧電体膜基板である。複数の個片の各々がデバイスとなる。デバイスは、たとえば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスである。また、MEMSデバイスは、たとえば、センサやアクチュエータとして用いられる。
【0021】
図1に示すように、圧電体膜基板100は、基板1と、下部電極2と、圧電体膜3と、上部電極4とを備える。
【0022】
基板1は、シリコン基板である。下部電極2は、基板1上に形成されている。具体的には、下部電極2は、単結晶の基板1上にエピタキシャル成長により単結晶として形成されている。また、下部電極2は、絶縁層、電極層およびバッファ層を含む多層膜の電極である。絶縁層、電極層およびバッファ層は、基板1側からこの順に配置されている。また、絶縁層は、酸化ジルコニウム(ZrO2)、または、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)などの材料により形成されている。電極層は、プラチナ(Pt)、イリジウム(Ir)、酸化セリウム(CeO2)、銅酸化物高温超電導体(LSCO)、ランタン(La)、または、ストロンチウム(Sr)などの材料により形成されている。バッファ層は、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)、または、ニッケル酸ランタン(LaNiO3)などの材料により形成されている。なお、下部電極2の各層の材料は、特に限定されない。また、下部電極2は、単層の電極であってもよい。
【0023】
圧電体膜3は、下部電極2上に形成されている。また、圧電体膜3は、強誘電性を示すチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)により形成されている。また、圧電体膜3の熱膨張係数は、下部電極2の熱膨張係数と異なる。
【0024】
図2は、後方散乱電子回折(EBSD:Electron BackScatter Diffraction)などの結晶方位解析技術による圧電体膜3の解析結果を模式的に示している。
図2において、互いに異なるハッチングの部分は、圧電体膜3の結晶方位が異なることを表している。
【0025】
ここで、本実施形態では、
図2に示すように、圧電体膜3は、下部電極2に隣接して配置され、単結晶状の第1領域31と、第1領域31に隣接して配置され、多結晶状の第2領域32とを含む。第1領域31は、圧電体膜3の下側の領域であって、結晶方位が略揃っている領域であり、略単結晶になっている。第2領域32は、圧電体膜3の第1領域31よりも上側の領域であって、複数の結晶方位が入り混じるように分布した領域であり、多結晶状になっている。第1領域31と第2領域32とは、後述する製造方法により圧電体膜3を形成することにより、形成されている。また、第2領域32の厚みTh2は、第1領域31の厚みTh1よりも大きい。なお、第1領域31と第2領域32との境界は、厚み方向の一定の位置に存在するわけではなく、測定する場所ごとに第1領域31と第2領域32との厚みは異なる。しかし、各場所の第1領域31と第2領域32の厚みを平均すると、厚みTh1と厚みTh2となる。厚みTh1は、第1領域31の平均厚みを意味している。また、厚みTh2は、第2領域32の平均厚みを意味している。
【0026】
図1に示すように、上部電極4は、圧電体膜3上に形成されている。上部電極4は、結晶質であってもよいし、非晶質であってもよい。また、上部電極4は、電極層およびバッファ層を含む多層膜の電極である。バッファ層および電極層は、圧電体膜3側からこの順に配置されている。また、電極層は、チタン(Ti)、金(Au)、プラチナ(Pt)または二酸化イリジウム(IrO
2)などの材料により形成されている。バッファ層は、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO
3)およびニッケル酸ランタン(LaNiO
3)などの材料により形成されている。なお、上部電極4の各層の材料は、特に限定されない。また、上部電極4は、単層の電極であってもよい。
【0027】
(圧電体膜基板の製造方法)
図3~
図8を参照して、圧電体膜基板100の製造方法を説明する。圧電体膜基板100の製造方法は、各々がデバイスとなる複数の個片に分割される圧電体膜基板の製造方法である。圧電体膜基板100の製造方法は、基板1を準備する工程と、基板1上に下部電極2を形成する工程と、下部電極2上に圧電体膜3を形成する工程と、圧電体膜3上に上部電極4を形成する工程とを備える。
【0028】
図3に示すように、基板1を準備する工程では、シリコン基板が準備される。
図4に示すように、基板1上に下部電極2を形成する工程では、スパッタリングにより、絶縁層、電極層およびバッファ層を含む多層膜、または、単層膜が、基板1上に積層される。この際、基板1が加熱されることにより、結晶化するとともにエピタキシャル成長する温度で、単結晶の基板1上に下部電極2が形成される。これにより、単結晶の基板1の結晶方位の特性を引き継いだ単結晶の下部電極2が形成される。
【0029】
ここで、本実施形態では、
図5および
図6に示すように、下部電極2上に圧電体膜3を形成する工程は、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度Te1(
図7参照)でシード層となる第1層33を下部電極2上に形成する工程と、結晶化するとともに第1温度Te1よりも低い第2温度Te2(
図7参照)で形成される部分を有する第2層34を第1層33上に形成する工程と、を含む。第1層33を形成する工程では、スパッタリングにより、強誘電性を示す圧電体が下部電極2上に積層される。これにより、第1層33が形成される。第2層34を形成する工程では、スパッタリングにより、第1層33と同じ材料の圧電体が第1層33上に積層される。これにより、第2層34が形成される。なお、
図6(および
図8)では、便宜上、第1層33と第2層34との境界を見えるように示しているが、同じ材料により形成しているため、実際には、第1層33と第2層34との境界は全くまたはほぼ存在しない。
【0030】
また、本実施形態では、第2層34を形成する工程では、第1層33よりも厚みの大きい第2層34が形成される。すなわち、第2層34の厚みTh4は、第1層33の厚みTh3よりも大きい。第1層33の厚みTh3は、圧電体膜3全体の厚みに対して約1%以上約50%未満であることが好ましい。また、第2層34の厚みTh4は、圧電体膜3全体の厚みに対して約50%以上であることが好ましい。たとえば、圧電体膜3全体の厚みが約5μmである場合、第1層33の厚みTh3は約0.05μm以上約2.5μm未満であることが好ましく、第2層34の厚みTh4は約2.5μm以上であることが好ましい。また、圧電体膜3全体の厚みは、約1μm以上約5μm以下であることが好ましい。
【0031】
図7は、第1層33および第2層34を形成する際の温度プロファイルを示すグラフである。
図7のグラフでは、縦軸は基板1の温度を示し、横軸は時間を示している。
図7に示すように、第1層33を形成する工程では、基板1が加熱されることにより、第1温度Te1で第1層33が形成される。また、第2層34を形成する工程では、基板1が加熱されることにより、主に第2温度Te2で第2層34が形成される。第1温度Te1は、第1層33をエピタキシャル成長させる観点から、第1層33が結晶化する温度の中でも比較的高い温度が好ましく、約560℃以上約700℃以下であることが好ましい。また、第2温度Te2は、下部電極2と圧電体膜3との熱膨張係数の差に起因する膜応力を低減する観点から、第2層34が結晶化する温度の中でも比較的低い温度が好ましく、約500℃以上約560℃未満であることが好ましい。第1温度Te1および第2温度Te2は、特に限定されないが、たとえば、第1温度Te1を約600℃とし、第2温度Te2を約540℃としてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、第2層34を形成する工程では、第1層33の形成後に連続して第1温度Te1から第2温度Te2に温度を変化させている間にも、第2層34が形成される。すなわち、第1温度Te1から第2温度Te2に温度を変化させている間、および、第2温度Te2になった後の両方において、第2層34が形成される。第2層34は、第1温度Te1から第2温度Te2に温度を変化させている間に形成される部分と、第2温度Te2になった後に形成される部分とを有する。また、第1層33を形成する工程と、第2層34を形成する工程とは、時間を空けずに連続して行われる。すなわち、第1層33を形成する工程と、第2層34を形成する工程とにおいて、中断することなくスパッタリングが行われ続ける。なお、第1層33および第2層34は、スパッタリング以外のPLD(パルスレーザーデポジション)やCVD(ケミカルベイパーデポジション)により形成されてもよい。
【0033】
また、第1層33を形成する工程では、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度Te1で成膜することにより、単結晶の下部電極2の結晶方位の特性を引き継いだ単結晶の第1層33が形成される。また、第2層34を形成する工程では、第1温度Te1から第2温度Te2に温度を変化させている間および結晶化する第2温度Te2で成膜することにより、まず、シード層となる単結晶の第1層33の影響を受けて第1層33の結晶方位の特性を引き継いだ単結晶状の第2層34の部分が形成される。その後、単結晶の第1層33の影響をあまり受けなくなって、多結晶状の第2層34の部分が形成される。すなわち、本実施形態では、第1層33を形成する工程と、第2層34を形成する工程とが順次行われることによって、第1層33および第1層33の結晶方位の特性を引き継いだ第2層34の部分からなる単結晶状の第1領域31(
図2参照)と、第2層34の残りの部分からなる多結晶状の第2領域32(
図2参照)とが順次形成される。なお、第1領域31の厚みTh1は、第1層33の厚みTh3よりも大きい。また、第2領域32の厚みTh2は、第2層34の厚みTh4よりも小さい。
【0034】
以上のように、圧電体膜3を形成する工程では、第1領域31と第2領域32とを含む圧電体膜3が形成される。また、圧電体膜3を形成する工程では、ペロブスカイト型構造を有する圧電体膜3が形成される。なお、ペロブスカイト型構造のAサイトに、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、または、カルシウム(Ca)などの元素をドーピングする処理は行われない。
【0035】
図8に示すように、圧電体膜3上に上部電極4を形成する工程では、スパッタリングにより、電極層およびバッファ層を含む多層膜、または、単層膜が、圧電体膜3上に積層される。この際、基板1が加熱されないことにより常温で、圧電体膜3上に上部電極4が形成される。これらにより、圧電体膜基板100が製造される。
【0036】
その後、デバイス用の形状に加工する処理が行われる場合には、たとえばフォトリソグラフィにより、下部電極2、圧電体膜3および上部電極4をデバイス用の形状に加工する処理が行われる。フォトリソグラフィの場合、エッチング液を用いたウェットエッチングやエッチングガスを用いたドライエッチングにより、不要部分を除去し、必要部分を残すことにより、下部電極2、圧電体膜3および上部電極4をデバイス用の形状に加工する処理が行われる。また、圧電体膜基板100がデバイス用の個片に分割される際には、たとえばブレードを用いて、圧電体膜基板100がデバイス用の個片に切断される。
【0037】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0038】
本実施形態では、上記のように、圧電体膜基板100の製造方法は、基板1上に下部電極2を形成する工程と、下部電極2上に圧電体膜3を形成する工程と、を備え、圧電体膜3を形成する工程は、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度Te1でシード層となる第1層33を下部電極2上に形成する工程と、結晶化するとともに第1温度Te1よりも低い第2温度Te2で形成される部分を有する第2層34を第1層33上に形成する工程と、を含む。
【0039】
上記構成により、結晶性が高い第1層33(シード層)の影響を受けてある程度結晶性が高い第2層34を形成することができる。その結果、結晶性が高い圧電体膜3を得ることができる。また、第1温度Te1よりも低い第2温度Te2で形成される部分を有する第2層34を第1層33上に形成することにより、圧電体膜3全体を高温で形成する場合に比べて、圧電体膜3と下部電極2との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することができる。これらの結果、圧電体膜3と下部電極2との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜3を形成することができる。
【0040】
本実施形態では、上記のように、第2層34を形成する工程は、第1層33よりも厚みの大きい第2層34を形成する工程を含む。これにより、第2層34の厚みTh4を、第1温度Te1で形成する第1層33の厚みTh3よりも大きくすることができるので、圧電体膜3と下部電極2との熱膨張係数の差に起因する膜応力を容易に抑制することができる。
【0041】
本実施形態では、上記のように、第1層33の厚みTh3は、圧電体膜3全体の厚みに対して1%以上50%未満である。これにより、第1層33の厚みTh3を圧電体膜3全体の厚みに対して1%以上にすることにより、第1層33をシード層として容易に機能させることができる。また、第1層33の厚みTh3を圧電体膜3全体の厚みに対して50%未満にすることにより、第1層33の厚みTh3が過度に大きくなることを抑制することができるので、圧電体膜3と下部電極2との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することができる。
【0042】
本実施形態では、上記のように、第1温度Te1は、560℃以上700℃以下であり、第2温度Te2は、500℃以上560℃未満である。これにより、第1温度Te1が560℃以上700℃以下であることにより、第1層33を容易に結晶化させるとともにエピタキシャル成長させることができる。また、第2温度Te2が500℃以上560℃未満であることにより、第2層34を結晶化させつつ圧電体膜3と下部電極2との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することができる。
【0043】
本実施形態では、上記のように、第2層34を形成する工程は、第1層33の形成後に連続して第1温度Te1から第2温度Te2に温度を変化させている間にも、第2層34を形成する工程を含む。これにより、第1層33の結晶性を第2層34に引き継がせやすくすることができるので、より結晶性が高い第2層34を形成することができる。また、第1温度Te1から第2温度Te2に温度を変化させている間には、第2層34を形成しない場合と異なり、第1温度Te1から第2温度Te2に温度を変化させている間にも、第2層34を形成することができるので、生産性を向上させることができる。
【0044】
本実施形態では、上記のように、第1層33を形成する工程と、第2層34を形成する工程とが順次行われることによって、第1層33および第1層33の結晶方位の特性を引き継いだ第2層34の部分からなる単結晶状の第1領域31と、第2層34の残りの部分からなる多結晶状の第2領域32とが順次形成される。これにより、第1領域31と第2領域32とが順次形成されることにより、圧電体膜3と下部電極2との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜3を形成することができる。
【0045】
(実施例)
下記の表1および2を参照して、本実施形態による圧電体膜基板100の評価を行った実験結果(実施例)について説明する。
【0046】
下記の表1は、比較例1と実施例との各々の下部電極と圧電体膜との熱膨張係数の差に起因する膜応力の測定結果を表している。実施例の圧電体膜基板では、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度で第1層を形成し、結晶化する第2温度で形成される部分を有する第2層を形成する上記実施形態の製造方法で、圧電体膜を形成した。比較例1の圧電体膜基板では、結晶化するとともにエピタキシャル成長する温度で圧電体膜全体を単結晶として形成した。比較例1および実施例の各々の圧電体膜の厚みは、約2μmとした。
【表1】
【0047】
表1に示すように、実施例では、比較例1に比べて、下部電極と圧電体膜との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大が抑制されている。このことから、上記実施形態の製造方法により圧電体膜を形成することにより、単結晶の圧電体膜を形成する場合に比べて、下部電極と圧電体膜との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能であることが分かった。
【0048】
下記の表2は、比較例2と実施例との各々の圧電定数-d
31、比誘電率ε
r、および、性能指数FOMの測定結果を表している。実施例の圧電体膜基板では、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度で第1層を形成し、結晶化する第2温度で形成される部分を有する第2層を形成する上記実施形態の製造方法で、圧電体膜を形成した。比較例2の圧電体膜基板では、結晶化する温度で圧電体膜全体を多結晶として形成した。
【表2】
【0049】
圧電定数-d31は、センサ特性およびアクチュエータ特性に関する指標となり、値が高いほどセンサ特性およびアクチュエータ特性が良いことを示し、値が低いほどセンサ特性およびアクチュエータ特性が悪いことを示す。また、比誘電率εrは、センサ特性に関する指標となり、値が低いほどセンサ特性が良いことを示し、値が高いほどセンサ特性が悪いことを示す。また、比誘電率εrは、結晶性に関する指標ともなり、値が低いほど結晶性が高いことを示し、値が高いほど結晶性が低いことを示す。また、性能指数FOMは、圧電定数-d31と比誘電率εrにより得られ、圧電定数-d31の2乗に比例し、比誘電率εrに反比例する。性能指数FOMは、値が高いほど性能が良いことを示し、値が低いほど性能が悪いことを示す。
【0050】
表2に示すように、実施例では、比較例2に比べて、圧電定数-d31が高くなっている。このことから、上記実施形態の製造方法により圧電体膜を形成することにより、多結晶の圧電体膜を形成する場合に比べて、圧電定数-d31を高くして、センサ特性およびアクチュエータ特性を良好にすることが可能であることが分かった。
【0051】
また、実施例では、比較例2に比べて、比誘電率εrが低くなっている。このことから、上記実施形態の製造方法により圧電体膜を形成することにより、多結晶の圧電体膜を形成する場合に比べて、比誘電率εrを低くして、センサ特性を良好にするとともに、結晶性を高くすることが可能であることが分かった。
【0052】
また、実施例では、比較例2に比べて、性能指数FOMが高くなっている。このことから、上記実施形態の製造方法により圧電体膜を形成することにより、多結晶の圧電体膜を形成する場合に比べて、性能指数FOMを高くして、性能を良好にすることが可能であることが分かった。これらのことから、上記実施形態の製造方法によれば、圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜を形成することが可能であることが分かった。また、アクチュエータ特性およびセンサ特性を両立しており、アクチュエータやセンサに適した圧電体膜を形成することが可能であることが分かった。
【0053】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0054】
たとえば、上記実施形態では、第1層の厚みが圧電体膜全体の厚みに対して1%以上50%未満である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1層の厚みが、圧電体膜全体の厚みに対して1%未満であってもよいし、50%以上であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、第2層の厚みが圧電体膜全体の厚みに対して50%以上である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第2層の厚みが、圧電体膜全体の厚みに対して50%未満であってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、第1温度が560℃以上700℃以下である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1温度が560℃未満であってもよいし、700℃以上であってもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、第2温度が500℃以上560℃未満である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第2温度が500℃未満であってもよいし、560℃以上であってもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、第1温度および第2温度として成膜中のウエハの表面温度を示したが、成膜装置の設定温度の表示温度とは一致しない場合がある。また、ウエハ表面においても、常に全域にわたり一定の温度ではなく、場所毎に温度が異なる場合がある。
【0059】
また、上記実施形態では、第1層の形成後に連続して第1温度から第2温度に温度を変化させている間にも、第2層を形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1層の形成後に圧電体膜の形成を中断して、第1温度から第2温度に温度を変化させている間には、第2層を形成せずに、第2温度になった後に、第2層を形成してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、第2領域の厚みが第1領域の厚みよりも大きい例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1領域の厚みが第2領域の厚みよりも大きくてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 基板
2 下部電極
3 圧電体膜
31 第1領域
32 第2領域
33 第1層
34 第2層
100 圧電体膜基板
Te1 第1温度
Te2 第2温度
【要約】
【課題】圧電体膜と下部電極との熱膨張係数の差に起因する膜応力の増大を抑制することが可能で、かつ、結晶性が高い圧電体膜を形成することが可能な圧電体膜基板の製造方法を提供する。
【解決手段】この圧電体膜基板100の製造方法は、基板1上に下部電極2を形成する工程と、下部電極2上に圧電体膜3を形成する工程と、を備え、圧電体膜3を形成する工程は、結晶化するとともにエピタキシャル成長する第1温度Te1でシード層となる第1層33を下部電極2上に形成する工程と、結晶化するとともに第1温度Te1よりも低い第2温度Te2で形成される部分を有する第2層34を第1層33上に形成する工程と、を含む。
【選択図】
図6