(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】防振対象物の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/43 20060101AFI20230829BHJP
F16F 15/06 20060101ALI20230829BHJP
E04F 15/18 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
E04B5/43 H
F16F15/06 A
E04F15/18 601C
(21)【出願番号】P 2019123713
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 利明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩章
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3042633(JP,U)
【文献】特開2018-179041(JP,A)
【文献】特開2003-160991(JP,A)
【文献】特開平07-189522(JP,A)
【文献】特開2012-062927(JP,A)
【文献】特開2006-104883(JP,A)
【文献】特開2005-054447(JP,A)
【文献】特開平04-014543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/00-5/48
E04H 9/00-9/16
F16F 15/00-15/36
E04F 15/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体を有する防振装置
の設置後に該防振装置上に、第一構成体及び第二構成体を有する防振対象物を施工する防振対象物の施工方法であって、
前記第一構成体の鉛直荷重よりも大きな荷重で前記弾性体を
予圧縮させた状態で、前記防振装置上に前記第一構成体を施工する第一構成体施工工程と、
前記第一構成体上に前記第二構成体を施工し、前記弾性体を圧縮させ
て前記防振装置を作動可能にする第二構成体施工工程と、
を備える防振対象物の施工方法。
【請求項2】
前記第一構成体施工工程において、前記第一構成体の鉛直荷重よりも大きく、かつ、前記第一構成体及び前記第二構成体の鉛直荷重よりも小さい荷重で前記弾性体を
予圧縮させる、
請求項1に記載の防振対象物の施工方法。
【請求項3】
前記第二構成体施工工程において、前記防振装置上にコンクリートを打設し、前記第二構成体の少なくとも一部を施工する、
請求項1又は請求項2に記載の防振対象物の施工方法。
【請求項4】
前記防振装置は、前記弾性体の圧縮量を増減する調整機構を有する、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の防振対象物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振対象物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルスプリングを用いた振動吸収ユニットが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、コイルスプリングを用いた衝撃絶縁器が知られている(例えば、特許文献2参照)。さらに、皿ばねを用いた免震装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-160991号公報
【文献】特開2003-239425号公報
【文献】特開平11-30278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、防振装置上に防振対象物を施工する際に、防振装置が作動すると、防振対象物が振動したり、傾いたりするため、防振対象物の施工性が低下する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、防振装置上に施工される防振対象物の施工性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様に係る防振対象物の施工方法は、弾性体を有する防振装置上に、第一構成体及び第二構成体を有する防振対象物を施工する防振対象物の施工方法であって、前記第一構成体の鉛直荷重よりも大きな荷重で前記弾性体を予圧縮させた状態で、前記防振装置上に前記第一構成体を施工する第一構成体施工工程と、前記防振装置上に前記第二構成体を施工し、前記弾性体を圧縮させる第二構成体施工工程と、を備える。
【0007】
第1態様に係る防振対象物の施工方法によれば、先ず、第一構成体施工工程において、第一構成体の鉛直荷重よりも大きな荷重で弾性体を予圧縮させた状態で、防振装置上に第一構成体を施工する。
【0008】
次に、第二構成体施工工程において、前記第一構成体上に第二構成体を施工し、弾性体を圧縮させる。つまり、第一構成体及び第二構成体の鉛直荷重によって、弾性体が予圧縮量を超えて圧縮され、伸縮可能となる。この弾性体の伸縮によって、第一構成体及び第二構成体の振動が吸収される。したがって、防振対象物の振動が低減される。
【0009】
ここで、第一構成体施工工程では、前述したように、第一構成体の鉛直荷重よりも大きな荷重で、防振装置の弾性体を予圧縮させておく。これにより、第一構成体の施工中には、弾性体が圧縮せず、防振装置が作動しない。そのため、第一構成体が振動したり、傾いたりすることが抑制される。したがって、第一構成体の施工性が向上する。
【0010】
また、防振装置の作動を阻止する方法としては、例えば、弾性体の圧縮を物理的に制限するロック機構を防振装置に設けることが考えられる。しかしながら、この場合、例えば、防振対象物の施工後にロック機構を解除し、防振装置を作動可能にする必要がある。
【0011】
これに対して本発明では、第二構成体施工工程において、防振装置上に第二構成体を施工し、弾性体を圧縮させる。つまり、本発明では、防振装置上に第二構成体を施工することにより、防振装置が作動可能になる。したがって、本発明では、前述したロック機構の解除が不要となるため、防振対象物の施工性が向上する。
【0012】
第2態様に係る防振対象物の施工方法は、第1態様に係る防振対象物の施工方法において、前記第一構成体施工工程において、前記第一構成体の鉛直荷重よりも大きく、かつ、前記第一構成体及び前記第二構成体の鉛直荷重よりも小さい荷重で前記弾性体を予圧縮させる。
【0013】
第2態様に係る防振対象物の施工方法によれば、第一構成体施工工程において、第一構成体の鉛直荷重よりも大きく、かつ、第一構成体及び第二構成体の鉛直荷重よりも小さい荷重で弾性体を予圧縮させる。
【0014】
これにより、第一構成体の施工中に弾性体を圧縮させずに、第二構成体の施工中に弾性体を圧縮させ、防振装置を作動可能にすることができる。したがって、第一構成体の施工性が向上する。
【0015】
第3態様に係る防振対象物の施工方法は、第1態様又は第2態様に係る防振対象物の施工方法において、前記第二構成体施工工程において、前記第一構成体上にコンクリートを打設し、前記第二構成体の少なくとも一部を施工する。
【0016】
第3態様に係る防振対象物の施工方法によれば、第二構成体施工工程において、第一構成体上にコンクリートを打設し、第二構成体の少なくとも一部を施工する。
【0017】
ここで、第二構成体施工工程では、第二構成体の施工中に弾性体が圧縮し、防振装置が作動可能になる。この場合、例えば、第二構成体が鉄骨造であって鉄骨部材の建て方中に防振装置が作動すると、建て方精度の確保が難しくなり、第二構成体の施工性が低下する可能性がある。
【0018】
これに対して本発明では、前述したように、第二構成体施工工程において、第一構成体上にコンクリートを打設し、第二構成体の少なくとも一部を施工する。このようなコンクリートの打設作業では、鉄骨部材の建て方と比較して、要求される施工精度が緩和される。したがって、第二構成体の施工精度を確保しつつ、第二構成体の施工中に防振装置を作動可能にすることができる。
【0019】
第4態様に係る防振対象物の施工方法は、第1態様~第3態様の何れか1つに係る防振対象物の施工方法において、前記防振装置は、前記弾性体の圧縮量を増減する調整機構を有する。
【0020】
第4態様に係る防振対象物の施工方法によれば、防振装置は、前記弾性体の圧縮量を増減する調整機構を有する。これにより、弾性体を容易に予圧縮させることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明に係る防振対象物の施工方法によれば、防振装置上に施工される防振対象物の施工性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施形態に係る防振対象物の施工方法によって施工された段床を示す側面図である。
【
図2】
図1に示される防振装置を示す拡大断面図である。
【
図3】
図2に示される防振装置を示す平面図である。
【
図4】弾性体が自然状態の防振装置を示す
図2に対応する断面図である。
【
図5】弾性体が
予圧縮された状態の防振装置を示す
図2に対応する断面図である。
【
図6】防振装置上に段床土台が施工された状態を示す
図2に対応する断面図である。
【
図7】
図2に示される複数の弾性体の加重変形関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る防振対象物の施工方法について説明する。
【0024】
(段床)
先ず、本実施形態に係る防振対象物の施工方法によって施工される段床10の構成について説明する。なお、段床10は、防振対象物の一例である。
【0025】
図1に示されるように、段床10は、例えば、映画館や劇場等の設置面M上に設置される。この段床10は、段床土台20と、段床スラブ30とを有している。なお、段床土台20は、第一構成体の一例である。また、段床スラブ30は、第二構成体の一例である。
【0026】
段床土台20は、鉄骨造とされており、側面視にて三角形状に形成されている。この段床土台20は、複数の下部フレーム22、上部フレーム24、及び連結フレーム26を有している。複数の下部フレーム22、上部フレーム24、連結フレーム26は、H形鋼等の鉄骨部材によって形成されている。
【0027】
下部フレーム22は、段床土台20の下面に沿って配置されている。この下部フレーム22の上側には、上部フレーム24が配置されている。上部フレーム24は、段床土台20の斜面に沿って配置されている。この下部フレーム22と上部フレーム24との間には、複数の連結フレーム26が配置されている。
【0028】
複数の連結フレーム(鉄骨柱)26は、上下方向に沿って配置されており、下部フレーム22と上部フレーム24とを連結している。
図2に示されるように、連結フレーム26の下端部には、ダイアフラム28が設けられる。このダイアフラム28は、後述する防振装置40の上側ベースプレート46に取り付けられる。
【0029】
図1に示されるように、段床土台20の斜面上には、段床スラブ30が設けられている。段床スラブ30は、鉄筋コンクリート造とされている。この段床スラブ30は、例えば、段床土台20上に仮設された図示しない型枠内に鉄筋等を配筋した状態で、コンクリートを打設することにより形成される。また、段床スラブ30は、階段状に形成されている。この段床スラブ30は、複数の段部30Aを有している。複数の段部30Aには、例えば、可動席32が設置される。
【0030】
可動席32は、例えば、図示しないモータ等によって前後、左右、及び上下に揺動される。この際、可動席32から段床10を介して設置面Mに振動が伝達される。この対策として本実施形態では、段床10が複数の防振装置40を介して設置面Mに支持されている。なお、可動席32は、段床10を加振する振動源の一例である。
【0031】
(防振装置)
図2に示されるように、防振装置40は、下側ベースプレート42と、上側ベースプレート46と、複数の弾性体50と、調整機構60とを備えている。下側ベースプレート42及び上側ベースプレート46は、鋼板等の金属板によって形成されている。また、下側ベースプレート42及び上側ベースプレート46は、矩形状に形成されている。
【0032】
下側ベースプレート42は、図示しないアンカー等によって設置面Mに固定されている。この下側ベースプレート42の上側に、上側ベースプレート46が配置されている。上側ベースプレート46は、下側ベースプレート42と上下方向に対向して配置されている。
【0033】
上側ベースプレート46の上面には、ダイアフラム28が重ねられた状態で図示しないボルト等によって接合されている。これにより、上側ベースプレート46が、ダイアフラム28を介して段床土台20の連結フレーム26と接合されている。また、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間には、複数の弾性体50が配置されている。
【0034】
図3に示されるように、弾性体50は、平面視にて、防振装置40(下側ベースプレート42及び上側ベースプレート46)の角部にそれぞれ配置されている。
図2に示されるように、弾性体50は、例えば、弾性を有するコイルスプリング等によって形成されている。この弾性体50は、伸縮方向を上下方向として配置されている。これらの弾性体50によって、上側ベースプレート46が、上下方向に振動可能に支持されている。
【0035】
複数の弾性体50は、下側カバー44及び上側カバー48によって覆われている。下側カバー44は、下側ベースプレート42に設けられている。また、下側カバー44は、下側ベースプレート42の外周部から上方へ壁状に延出されている。この下側カバー44は、
図3に示されるように、平面視にて、矩形の枠状に形成されており、複数の弾性体50を取り囲んでいる。この下側カバー44の外側には、上側カバー48が配置されている。
【0036】
上側カバー48は、平面視にて、矩形の枠状に形成されており、下側カバー44及び複数の弾性体50を取り囲んでいる。
図2に示されるように、上側カバー48は、上側ベースプレート46の外周部から下方へ壁状に延出されている。
【0037】
下側カバー44の上部と上側カバー48の下部とは、防振装置40を横(側面)から見て、重なるように配置されている。これらの上側カバー48及び下側カバー44によって、複数の弾性体50の側面が覆われている。
【0038】
下側カバー44は、上側ベースプレート46との間に間隔を空けて配置されている。これと同様に、上側カバー48は、下側ベースプレート42との間に間隔を空けて配置されている。これにより、複数の弾性体50の伸縮に伴って、下側カバー44が上側ベースプレート46に接触することが抑制されるとともに、上側カバー48が下側ベースプレート42に接触することが抑制される。
【0039】
なお、上側カバー48及び下側カバー44は、必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0040】
(調整機構)
複数の弾性体50には、弾性体50の圧縮量を増減する調整機構60がそれぞれ設けられている。調整機構(予圧縮機構)60は、ネジ部材62と、係止部材64と、調整ナット66とを有している。
【0041】
ネジ部材62は、下側ベースプレート42に立てられている。このネジ部材62は、弾性体50の内側に配置されており、弾性体50を上下方向に貫通している。また、ネジ部材62の上部は、上側ベースプレート46及びダイアフラム28に形成された貫通孔46A,28Aを貫通し、上側ベースプレート46及びダイアフラム28から上方へ突出している。このネジ部材62の上部には、ネジ部(雄ネジ部)62Aが設けられている。ネジ部62Aには、係止部材64を介して調整ナット66が取り付けられている。
【0042】
係止部材64は、円盤状に形成されている。また、係止部材64の中央部には、図示しない貫通孔が形成されている。この貫通孔には、ネジ部材62が上下方向にスライド可能に貫通されている。また、係止部材64の上面には、調整ナット66が溶接等によって接合されている。これにより、ネジ部材62に対して調整ナット66を回転させると、係止部材64が調整ナット66と共に回転し、ネジ部材62に沿って上下方向(弾性体50の伸縮方向)に移動する。
【0043】
係止部材64の外径は、上側ベースプレート46の貫通孔46Aよりも大きくされている。これにより、係止部材64の外周部が、上側ベースプレート46の上面における貫通孔46Aの周縁部に係止可能とされている。一方、係止部材64の外径は、ダイアフラム28の貫通孔28Aよりも小さくされている。これにより、係止部材64が、ダイアフラム28に接触せず、貫通孔28A内に配置可能とされている。
【0044】
ここで、
図4には、各弾性体50が圧縮されていない、すなわち各弾性体50が自然状態の防振装置40が示されている。各弾性体50が自然状態の場合、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間隔Tを間隔T0とする。この状態から、各弾性体50の圧縮量を増加させる場合は、ネジ部材62に対して調整ナット66を締め込む。これにより、調整ナット66及び係止部材64がネジ部材62に沿って下側ベースプレート42側(下方)へ移動し、上側ベースプレート46の上面における貫通孔46Aの周縁部に係止部材64が係止される。
【0045】
この状態で、ネジ部材62に対して調整ナット66をさらに締め込むと、
図5に示されるように、係止部材64によって上側ベースプレート46が下方へ押圧され、調整ナット66、係止部材64、及び上側ベースプレート46がネジ部材62に沿って下方へ移動する。これにより、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間隔Tが、間隔T0から間隔TNに狭くなる(TN<T0)。この結果、弾性体50が圧縮され、弾性体50の圧縮量が増加する。
【0046】
一方、弾性体50の圧縮量を減少させる場合は、ネジ部材62に対して調整ナット66を緩め、調整ナット66及び係止部材64をネジ部材62に沿って上方へ移動させる。これにより、弾性体50が伸長(復元)し、弾性体50の圧縮量が減少する。この際、伸長した弾性体50によって、上側ベースプレート46が押し上げられ、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間隔Tが広くなる。
【0047】
(防振対象物の施工方法)
次に、本実施形態に係る防振対象物の施工方法の一例について説明する。
【0048】
(
予圧縮工程)
先ず、
予圧縮工程について説明する。
図4には、前述したように、各弾性体50が自然状態の防振装置40が示されている。この状態から、
予圧縮工程では、
図5に示されるように、調整機構60によって各弾性体50を
予圧縮(プレロード)させる。この際、調整機構60は、段床土台20の鉛直荷重P1よりも大きく、かつ、段床土台20及び段床スラブ30の鉛直荷重P2よりも小さい荷重(以下、「
予圧縮荷重PN」という)で、各弾性体50を
予圧縮(プレロード)させる。これにより、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間隔Tが、間隔T0から間隔TNに狭くなる(TN<T0)。
【0049】
具体的には、先ず、
図1に示されるように、段床土台20を構成する下部フレーム22、上部フレーム24、及び連結フレーム26等の重量の合計値から、段床土台20の鉛直荷重P1を算出する。また、段床スラブ30を構成するコンクリート及び鉄筋等の重量から、段床スラブ30の重量を算出する。そして、段床土台20及び段床スラブ30の鉛直荷重P2を算出する。
【0050】
次に、
図7に示されるように、複数の弾性体50の荷重変形関係(バネ特性)を示すグラフから、段床土台20の鉛直荷重P1に対応する各弾性体50の圧縮量δ1、及び段床土台20及び段床スラブ30の鉛直荷重P2に対応する各弾性体50の圧縮量δ2を求める。
【0051】
次に、調整機構60によって、各弾性体50の
予圧縮量δNが、圧縮量δ1よりも大きく、かつ、圧縮量δ2よりも小さくなるように弾性体50を圧縮(
予圧縮)させる(δ1<δN<δ2)。この結果、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間隔Tが、間隔T0から間隔TNに狭くなる。なお、
図2に示されるグラフは、一例である。
【0052】
(第一構成体施工工程)
次に、第一構成体施工工程について説明する。
図6に示されるように、第一構成体施工工程では、各防振装置40の弾性体50を上記のように
予圧縮させた状態で、複数の防振装置40上に段床土台20の下部フレーム22等を建て方し、段床土台20を施工する。この際、複数の防振装置40の各弾性体50は、
予圧縮されているため圧縮されず、防振装置40が作動しない。したがって、下部フレーム22等の建て方精度等が向上する。
【0053】
なお、第一構成体施工工程では、弾性体50の圧縮量はδNのままとなり、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間隔Tも間隔TNのままとなる。
【0054】
(第二構成体施工工程)
次に、第二構成体施工工程について説明する。
図1に示されるように、第二構成体施工工程では、段床土台20上に段床スラブ30を施工する。具体的には、先ず、段床土台20の上部フレーム24上に図示しない型枠を仮設する。次に、型枠内に鉄筋等を配筋し、コンクリートを打設する。これにより、段床土台20上に段床スラブ30を施工し、段床10を構築する。
【0055】
ここで、段床土台20上に段床スラブ30を施工すると、段床土台20及び段床スラブ30の鉛直荷重P2によって、各防振装置40の弾性体50が圧縮(圧縮量δ2)される。これにより、上側ベースプレート46が下方へ移動し、上側ベースプレート46と係止部材64との間に隙間Gが形成されるとともに、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間隔Tが、間隔TNから間隔T2に狭くなる。この結果、防振装置40が作動可能になる。
【0056】
その後、例えば、段床スラブ30の段部30A上に可動席32が設置される。
【0057】
(効果)
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0058】
本実施形態に係る防振対象物の施工方法によれば、先ず、
図5に示されるように、
予圧縮工程において、調整機構60により、複数の防振装置40の各弾性体50を
予圧縮させる。この際、調整機構60は、段床土台20の鉛直荷重P1よりも大きく、かつ、段床土台20及び段床スラブ30の鉛直荷重P2よりも小さい
予圧縮荷重PNで、複数の防振装置40の各弾性体50を
予圧縮(
予圧縮量δN)させる。
【0059】
次に、
図6に示されるように、第一構成体施工工程において、複数の防振装置40の各弾性体50を
予圧縮させた状態で、複数の防振装置40上に段床土台20を施工する。この際、複数の防振装置40の各弾性体50は、
予圧縮されているため圧縮されず、各弾性体50の圧縮量はδNのままとなる。また、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間隔Tも間隔TNのままとなる。
【0060】
次に、
図1に示されるように、第二構成体施工工程において、防振装置40上に段床スラブ30を施工する。これにより、
図2に示されるように、段床土台20及び段床スラブ30の鉛直荷重P2によって、複数の防振装置40の各弾性体50が
予圧縮量δNを超えて圧縮され、各弾性体50の圧縮量がδ2になる。また、下側ベースプレート42と上側ベースプレート46との間隔Tが、間隔TNから間隔T2に狭くなる。この結果、各弾性体50が伸縮可能となる。
【0061】
そのため、段床スラブ30の施工後では、複数の防振装置40の各弾性体50によって、段床土台20及び段床スラブ30の振動が吸収される。したがって、段床10の振動が低減される。
【0062】
ここで、第一構成体施工工程では、前述したように、段床土台20の鉛直荷重P1よりも大きな予圧縮荷重PNで、防振装置40の弾性体50を予圧縮させておく。これにより、段床土台20の施工中には弾性体50が圧縮せず、防振装置40が作動しない。そのため、段床土台20の施工中には、段床土台20が振動したり、傾いたりすることが抑制される。したがって、段床土台20の施工性が向上する。
【0063】
ここで、防振装置40の作動を阻止する方法としては、例えば、弾性体50の圧縮を物理的に制限するロック機構を防振装置40に設けることが考えられる。しかしながら、この場合、段床10の施工後にロック機構を解除し、防振装置40を作動可能にする必要がある。
【0064】
これに対して本実施形態では、第二構成体施工工程において、段床土台20上に段床スラブ30を施工し、弾性体50を圧縮させる。つまり、本実施形態では、段床土台20上に段床スラブ30を施工することにより、防振装置40が作動可能になる。したがって、本実施形態では、前述したロック機構の解除が不要となるため、段床10の施工性が向上する。
【0065】
また、本実施形態では、第二構成体施工工程において、段床土台20上にコンクリートを打設し、段床スラブ30を施工する。この第二構成体施工工程では、段床スラブ30の施工中に弾性体50が圧縮し、防振装置40が作動可能になる。
【0066】
ここで、比較例として、例えば、第二構成体施工工程において、段床土台20上に鉄骨部材を建て方する場合、鉄骨部材の建て方中に防振装置40が作動すると、建て方精度の確保が難しくなり、鉄骨部材の施工性が低下する可能性がある。
【0067】
これに対して本実施形態では、前述したように、第二構成体施工工程において、防振装置40上にコンクリートを打設し、段床スラブ30を施工する。このようなコンクリートの打設作業では、鉄骨部材の建て方と比較して、要求される施工精度が緩和される。したがって、本実施形態では、段床スラブ30の施工精度を確保しつつ、段床スラブ30の施工中に防振装置40が作動可能にすることができる。
【0068】
さらに、防振装置40は、前記弾性体50の圧縮量を増減する調整機構60が設けられている。これにより、弾性体50を容易に予圧縮させることができる。
【0069】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0070】
上記実施形態では、第一構成体としての段床土台20が鉄骨造とされている。しかし、第一構成体は、鉄骨造に限らず、鉄骨鉄筋コンクリート造や、鉄筋コンクリート造等のコンクリート造であっても良い。
【0071】
また、上記実施形態では、第二構成体としての段床スラブ30の全体が、現場打ちコンクリートで形成されている。しかし、第二構成体の少なくとも一部が現場打ちコンクリートで形成されても良い。また、第二構成体は、例えば、プレキャストコンクリート部材によって形成されても良い。さらに、第二構成体は、鉄筋コンクリート造等のコンクリート造に限らず、鉄骨造であっても良いし、コンクリート造と鉄骨造との混合構造とされても良い。
【0072】
また、第二構成体には、段床スラブ30だけに限らず、段床スラブ30及び複数の可動席32を含ませても良い。つまり、第二構成体施工工程において、段床土台20上に段床スラブ30及び複数の可動席32を施工することにより、複数の防振装置40の各弾性体50を圧縮させても良い。また、上記実施形態における調整機構60の構成は、適宜変更可能である。
【0073】
また、上記実施形態では、振動源が可動席32とされている。しかし、振動源は、可動席32に限らず、種々の振動を発生する装置や機器であっても良い。
【0074】
また、上記実施形態に係る防振対象物の施工方法は、段床10に限らず、振動する種々の構造体や装置、機器に適用可能である。
【0075】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0076】
10 段床(防振対象物)
20 段床土台(第一構成体)
30 段床スラブ(第二構成体)
40 防振装置
50 弾性体
60 調整機構
P1 鉛直荷重(第一構成体の鉛直荷重)
P2 鉛直荷重(第一構成体及び第二構成体の鉛直荷重)
PN 予圧縮荷重