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特許7338140鉛蓄電池用集電体、鉛蓄電池、および、鉛蓄電池用集電体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用集電体、鉛蓄電池、および、鉛蓄電池用集電体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/73 20060101AFI20230829BHJP
   H01M 4/82 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01M4/73 A
H01M4/82 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018194961
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020064736
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】枦 晃法
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/056417(WO,A1)
【文献】特開2005-056621(JP,A)
【文献】特開2014-127434(JP,A)
【文献】特開昭51-067929(JP,A)
【文献】特開昭52-120342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64 - 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠骨部と、
前記枠骨部の内側に形成され、内骨を有する格子部と、を備え、
前記内骨は、
繊維状の金属組織を有しており、
前記繊維状の金属組織が前記内骨の外周面に沿った面方向に延びる第1の外周部と、前記繊維状の金属組織が前記内骨の外周面に交差する深さ方向に延びる第2の外周部と、を備え、
前記内骨の延伸方向に略垂直な所定の断面において、前記第1の外周部の長さは、前記第2の外周部の長さよりも長い、鉛蓄電池用集電体。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛蓄電池用集電体であって、
前記所定の断面における前記内骨の外形は、前記延伸方向と前記格子部との両方に垂直な幅方向の両端部の厚さが、前記幅方向の中央部の厚さよりも薄くなっている、鉛蓄電池用集電体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鉛蓄電池用集電体であって、
前記所定の断面において、前記第2の外周部の長さは、前記断面の全周の40%以下である、鉛蓄電池用集電体。
【請求項4】
請求項3に記載の鉛蓄電池用集電体であって、
前記所定の断面において、前記第2の外周部の長さは、当該断面の全周の30%以下である、鉛蓄電池用集電体。
【請求項5】
鉛蓄電池であって、
正極板と、
負極板と、
前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を備え、
前記正極板と前記負極板との少なくとも一方は、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の鉛蓄電池用集電体と、
前記鉛蓄電池用集電体に塗布された電極材料と、を含む、鉛蓄電池。
【請求項6】
枠状の枠骨部と、前記枠骨部の内側に形成され、内骨を有する格子部と、を備え、前記格子部の少なくとも前記内骨の外周面は、繊維状組織が露出する第1の外周部と、粒状組織が露出する第2の外周部とを含んでおり、前記少なくとも一部の内骨は、当該内骨の延伸方向に略垂直な所定の断面において、前記第1の外周部の長さが、前記第2の外周部の長さよりも長くなるように構成された鉛蓄電池用集電体の製造方法であって、
圧延板を準備する準備工程と、
前記圧延板に対して打ち抜き加工を行うことにより、格子状に形成された複数の中間骨を有する中間集電体を形成する打ち抜き工程と、
前記中間集電体に対して前記中間集電体に略直交する第1の方向からプレス加工を行って、前記複数の中間骨の少なくとも一部について、前記第1の方向および前記中間骨の延伸方向の両方に直交する幅方向の少なくとも一端部が中央部より薄くなるように変形させることにより、前記少なくとも一部の内骨を形成するプレス工程と、を含む、鉛蓄電池用集電体の製造方法。
【請求項7】
鉛あるいは鉛合金により形成された圧延材に対して、前記圧延材の厚み方向から打ち抜き加工を行うことにより、中間集電体を形成する打ち抜き工程と、
前記中間集電体に対して、変形加工を行う変形工程と、を含む鉛蓄電池用集電体の製造方法であって、
前記打ち抜き工程では、前記中間集電体が、前記中間集電体に略平行で、かつ前記圧延材の圧延方向に略直交する方向に延伸する内骨を有するように前記圧延材を打ち抜き、
前記変形工程では、前記圧延材の厚み方向から前記内骨に変形加工を加えることにより、前記内骨の延伸方向に略垂直な所定の断面において、繊維状の金属組織が前記内骨の外周面に沿った面方向に延びる第1の外周部の長さが、繊維状の金属組織が前記内骨の外周面に交差する深さ方向に延びる第2の外周部の長さよりも長い内骨を形成する、鉛蓄電池用集電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、鉛蓄電池用集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池として鉛蓄電池が広く利用されている。例えば、鉛蓄電池は、自動車等の車両に搭載され、エンジン始動時におけるスタータへの電力供給源や、ライト等の各種電装品への電力供給源として利用される。
【0003】
鉛蓄電池は、正極板と負極板とを備える。正極板および負極板は、それぞれ、集電体と、集電体に支持された活物質とを有する。このような活物質が集電体に支持された構成を有する鉛蓄電池では、鉛蓄電池が長時間使用されると、集電体を構成する内骨の金属鉛が腐食して二酸化鉛に変化する。これにより、内骨の体積が膨張することとなり、その結果、集電体が変形することがある。集電体が変形すると、集電体と活物質との間の密着性が損なわれるため、活物質が集電体から脱落し、鉛蓄電池の寿命が短くなる。
【0004】
これに対して、従来、集電体の腐食による変形を抑制するために、表面層の平均結晶粒径が中心層の平均結晶粒径に比べて小さい集電体を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-56622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、集電体の腐食は、集電体の内骨の表面に露出する結晶粒界に沿って進行し易い。このため、特許文献1に記載の従来の鉛蓄電池では、たとえ表面層の平均結晶粒径が中心層の平均結晶粒径に比べて小さくても、内骨の表面に露出する結晶粒界に沿って腐食が進行することに変わりはないため、集電体の腐食による変形を十分に抑制できず、改善の余地があった。
【0007】
本明細書では、鉛蓄電池用集電体の腐食による変形を抑制することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される鉛蓄電池用集電体は、鉛蓄電池用集電体であって、枠骨部と、前記枠骨部の内側に形成され、内骨を有する格子部と、を備え、前記内骨は、繊維状の金属組織を有しており、前記繊維状の金属組織が前記内骨の外周面に沿った面方向に延びる第1の外周部と、前記繊維状の金属組織が前記内骨の外周面に交差する深さ方向に延びる第2の外周部と、を備え、前記内骨の延伸方向に略垂直な所定の断面において、前記第1の外周部の長さは、前記第2の外周部の長さよりも長い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図である。
図2図1のII-IIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
図3図1のIII-IIIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
図4】正極集電体212のYZ平面構成を示す説明図である。
図5図4のV-Vの位置における縦内骨410のXY断面の撮像画像を示す説明図である。
図6図5における縦内骨410のXY断面の一部分を拡大して示す説明図である。
図7】正極集電体212の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図8】縦内骨410における第2の外周部432の長さの割合と正極集電体212における腐食率および変形量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される鉛蓄電池用集電体は、鉛蓄電池用集電体であって、枠骨部と、前記枠骨部の内側に形成され、内骨を有する格子部と、を備え、前記内骨は、繊維状の金属組織を有しており、前記繊維状の金属組織が前記内骨の外周面に沿った面方向に延びる第1の外周部と、前記繊維状の金属組織が前記内骨の外周面に交差する深さ方向に延びる第2の外周部と、を備え、前記内骨の延伸方向に略垂直な所定の断面において、前記第1の外周部の長さは、前記第2の外周部の長さよりも長い。
【0012】
本鉛蓄電池用集電体では、格子部の内骨は、繊維状の金属組織が内骨の外周面に沿った面方向に延びる第1の外周部と、繊維状の金属組織が内骨の外周面に交差する深さ方向に延びる第2の外周部とを備える。一般に、集電体の腐食は、外周面に露出する結晶粒界において優先的に進行する。第1の外周部においては、繊維状の金属組織が内骨の面方向に延びているため、結晶粒界は、内骨の深さ方向よりも内骨の面方向に長く延びている。このため、第1の外周部側に形成される腐食層は、内骨の面方向に沿って形成され、深さ方向において内骨の内部の深い位置までは形成されにくい。その結果、第1の外周部に沿って形成された腐食層は、集電体(内骨)との接合強度が低く、集電体(第1の外周部)と腐食層との界面にガスが発生すると、集電体から比較的容易に剥離する。
【0013】
一方、第2の外周部においては、繊維状の金属組織が内骨の深さ方向に延びているため、結晶粒界は、内骨の面方向よりも内骨の深さ方向に長く延びている。このため、第2の外周部側に形成される腐食層は、第1の外周部とは異なり、内骨の内部の深い位置まで楔状に延びる。その結果、第2の外周部に沿って形成された腐食層は、集電体(内骨)との接合強度が高く、集電体(第2の外周部)と腐食層との界面にガスが発生したとしても集電体から剥離しにくく、内骨に応力を与えて内骨を変形させる。すなわち、繊維状の金属組織が内骨の深さ方向に延びる第2の外周部では、繊維状の金属組織が内骨の面方向に延びる第1の外周部に比べて、腐食層が剥離し難く、集電体の変形の要因となる腐食層からの応力を受け易い。
【0014】
これに対して、本鉛蓄電池用集電体では、内骨の延伸方向に略垂直な所定の断面において、第1の外周部の長さは、第2の外周部の長さよりも長い。すなわち、内骨の外周面において、繊維状の金属組織が内骨の面方向に延びる部分の方が、繊維状の金属組織が内骨の深さ方向に延びる部分よりも広い。このため、繊維状の金属組織が内骨の面方向に延びる部分の方が、繊維状の金属組織が内骨の深さ方向に延びる部分よりも狭い構成に比べて、集電体の腐食による変形を抑制することができる。
【0015】
(2)上記鉛蓄電池用集電体において、前記所定の断面において、前記第2の外周部の長さは、前記断面の全周の40%以下である構成としてもよい。本鉛蓄電池用集電体では、所定の断面において、第2の外周部の長さは、断面の全周の40%以下である。これにより、所定の断面において、第2の外周部の長さが断面の全周の40%より大きい構成に比べて、集電体の変形の要因となる腐食層からの応力が軽減され、集電体の腐食による変形を効果的に抑制することができる。
【0016】
(3)上記鉛蓄電池用集電体において、前記所定の断面において、前記第2の外周部の長さは、当該断面の全周の30%以下である構成としてもよい。本鉛蓄電池用集電体では、所定の断面において、第2の外周部の長さは、断面の全周の30%以下である。これにより、所定の断面において、第2の外周部の長さが断面の全周の30%より大きい構成に比べて、集電体の変形の要因となる腐食層からの応力が軽減され、集電体の腐食による変形をより確実に抑制することができる。
【0017】
(4)上記鉛蓄電池において、鉛蓄電池であって、正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を備え、前記正極板と前記負極板との少なくとも一方は、上記いずれかの鉛蓄電池用集電体と、前記鉛蓄電池用集電体に塗布された電極材料と、を含む構成としてもよい。本鉛蓄電池によれば、集電体の腐食による変形が抑制される。なお、極板(正極板、負極板)は、集電体と電極材料(活物質、添加剤、その他)とから構成される。すなわち、電極材料は、極板から集電体を取り除いたものであり、一般に「活物質」ともいわれるものである。
【0018】
(5)本明細書に開示される鉛蓄電池用集電体の製造方法は、枠状の枠骨部と、前記枠骨部の内側に形成され、内骨を有する格子部と、を備え、前記格子部の少なくとも前記内骨の外周面は、繊維状組織が露出する第1の外周部と、粒状組織が露出する第2の外周部とを含んでおり、前記少なくとも一部の内骨は、当該内骨の延伸方向に略垂直な所定の断面において、前記第1の外周部の長さが、前記第2の外周部の長さよりも長くなるように構成された鉛蓄電池用集電体の製造方法であって、圧延板を準備する準備工程と、前記圧延板に対して打ち抜き加工を行うことにより、格子状に形成された複数の中間骨を有する中間集電体を形成する打ち抜き工程と、前記中間集電体に対して前記中間集電体に略直交する第1の方向からプレス加工を行って、前記複数の中間骨の少なくとも一部について、前記第1の方向および前記中間骨の延伸方向の両方に直交する幅方向の少なくとも一端部が中央部より薄くなるように変形させることにより、前記少なくとも一部の内骨を形成するプレス工程と、を含む。本鉛蓄電池用集電体の製造方法によれば、腐食による変形が抑制された集電体を製造することができる。
【0019】
(6)本明細書に開示される鉛蓄電池用集電体の製造方法は、鉛あるいは鉛合金により形成された圧延材に対して、前記圧延材の厚み方向から打ち抜き加工を行うことにより、中間集電体を形成する打ち抜き工程と、前記中間集電体に対して、変形加工を行う変形工程と、を含む鉛蓄電池用集電体の製造方法であって、前記打ち抜き工程では、前記中間集電体が、前記中間集電体に略平行で、かつ前記圧延材の圧延方向に略直交する方向に延伸する内骨を有するように前記圧延材を打ち抜き、前記変形工程では、前記圧延材の厚み方向から前記内骨に変形加工を加える。本鉛蓄電池用集電体の製造方法によれば、内骨の延伸方向に略垂直な所定の断面において、上記第1の外周部の長さが、上記第2の外周部の長さよりも長いことによって腐食による変形が抑制された集電体を製造することができる。
【0020】
A.実施形態:
A-1.構成:
(鉛蓄電池100の構成)
図1は、本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図である。図2は、図1のII-IIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。図3は、図1のIII-IIIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。なお、図2および図3では、便宜上、後述する極板群20の構成が分かりやすく示されるように、極板群20の構成が実際とは異なる形態で表現されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、鉛蓄電池100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0021】
図1から図3に示すように、鉛蓄電池100は、筐体10と、正極側端子部30と、負極側端子部40と、複数の極板群20とを備える。以下では、正極側端子部30と負極側端子部40とを、まとめて「端子部30,40」ともいう。
【0022】
(筐体10の構成)
筐体10は、電槽12と、蓋14とを有する。電槽12は、上面に開口部を有する略直方体の容器であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14は、電槽12の開口部を塞ぐように配置された部材であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14の下面の周縁部分と電槽12の開口部の周縁部分とが例えば熱溶着によって接合される。これにより、筐体10内に外部との気密が保たれた空間が形成されている。筐体10内の空間は、隔壁58によって、所定方向(本実施形態ではX軸方向)に並ぶ複数の(例えば6つの)セル室16に区画されている。以下では、複数のセル室16が並ぶ方向(X軸方向)を、「セル並び方向」という。
【0023】
筐体10内の各セル室16には、1つの極板群20が収容されている。そのため、例えば、筐体10内の空間が6つのセル室16に区画されている場合には、鉛蓄電池100は6つの極板群20を備える。また、筐体10内の各セル室16には、希硫酸を含む電解液18が収容されており、極板群20の全体が電解液18中に浸かっている。電解液18は、蓋14に設けられた注液口(図示せず)からセル室16内に注入される。
【0024】
(極板群20の構成)
極板群20は、複数の正極板210と、複数の負極板220と、セパレータ230とを備える。複数の正極板210および複数の負極板220は、正極板210と負極板220とが交互に並ぶように配置されている。以下では、正極板210と負極板220とを、まとめて「極板210,220」ともいう。
【0025】
正極板210は、正極集電体212と、正極集電体212に支持された正極活物質216とを有する。正極集電体212は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金(例えばPb-Ca系合金を含む)により形成されている。また、正極集電体212は、その上端付近に、上方に突出する正極耳部214を有している。正極集電体212の詳細構成については後述する。正極活物質216は、二酸化鉛を含んでいる。正極活物質216は、さらに公知の添加剤を含んでいてもよい。このような構成の正極板210は、例えば、二酸化鉛を含む正極活物質用ペーストを正極集電体212に塗布または充填し、正極活物質用ペーストを公知の条件で熟成・乾燥させた後、公知の化成処理を行うことにより作製することができる。なお、本実施形態における正極活物質216は、正極板210から正極集電体212を取り除いたものであり、特許請求の範囲における電極材料に相当する。
【0026】
負極板220は、負極集電体222と、負極集電体222に支持された負極活物質226とを有する。負極集電体222は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、負極集電体222は、その上端付近に、上方に突出する負極耳部224を有している。負極活物質226は、鉛(海綿状鉛)を含んでいる。負極活物質226は、さらに、公知の他の添加剤(例えば、カーボン、リグニン、硫酸バリウム等)を含んでいてもよい。このような構成の負極板220は、例えば、鉛を含む負極活物質用ペーストを負極集電体222に塗布または充填し、該負極活物質用ペーストを公知の条件で熟成・乾燥させた後、公知の化成処理を行うことにより作製することができる。なお、本実施形態における負極活物質226は、負極板220から負極集電体222を取り除いたものであり、特許請求の範囲における電極材料に相当する。
【0027】
セパレータ230は、絶縁性材料(例えば、ガラスや合成樹脂)により形成されている。セパレータ230は、互いに隣り合う正極板210と負極板220との間に介在するように配置されている。セパレータ230は、一体部材として構成されてもよいし、正極板210と負極板220との各組合せについて設けられた複数の部材の集合として構成されてもよい。
【0028】
極板群20を構成する複数の正極板210の正極耳部214は、例えば鉛または鉛合金により形成された正極側ストラップ52に接続されている。すなわち、複数の正極板210は、正極側ストラップ52を介して電気的に並列に接続されている。同様に、極板群20を構成する複数の負極板220の負極耳部224は、例えば鉛または鉛合金により形成された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、複数の負極板220は、負極側ストラップ54を介して電気的に並列に接続されている。以下では、正極側ストラップ52と負極側ストラップ54とを、まとめて「ストラップ52,54」ともいう。
【0029】
鉛蓄電池100において、一のセル室16に収容された負極側ストラップ54は、例えば鉛または鉛合金により形成された接続部材56を介して、該一のセル室16の一方側(例えばX軸正方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。また、該一のセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56を介して、該一のセル室16の他方側(例えばX軸負方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、鉛蓄電池100が備える複数の極板群20は、ストラップ52,54および接続部材56を介して電気的に直列に接続されている。なお、図2に示すように、セル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56ではなく、後述する正極柱34に接続されている。また、図3に示すように、セル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54は、接続部材56ではなく、後述する負極柱44に接続されている。
【0030】
(端子部30,40の構成)
正極側端子部30は、筐体10におけるセル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端部付近に配置されており、負極側端子部40は、筐体10におけるセル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端部付近に配置されている。
【0031】
図2に示すように、正極側端子部30は、正極側ブッシング32と、正極柱34とを含む。正極側ブッシング32は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極側ブッシング32の下側部分は、インサート成形により蓋14に埋設されており、正極側ブッシング32の上側部分は、蓋14の上面から上方に突出している。正極柱34は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極柱34は、正極側ブッシング32の孔に挿入されている。正極柱34の上端部は、正極側ブッシング32の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接により正極側ブッシング32に接合されている。正極柱34の下端部は、正極側ブッシング32の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。
【0032】
図3に示すように、負極側端子部40は、負極側ブッシング42と、負極柱44とを含む。負極側ブッシング42は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極側ブッシング42の下側部分は、インサート成形により蓋14に埋設されており、負極側ブッシング42の上側部分は、蓋14の上面から上方に突出している。負極柱44は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極柱44は、負極側ブッシング42の孔に挿入されている。負極柱44の上端部は、負極側ブッシング42の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接により負極側ブッシング42に接合されている。負極柱44の下端部は、負極側ブッシング42の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。
【0033】
鉛蓄電池100の放電の際には、正極側端子部30の正極側ブッシング32および負極側端子部40の負極側ブッシング42に負荷(図示せず)が接続され、各極板群20の正極板210での反応(二酸化鉛から硫酸鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(鉛(海綿状鉛)から硫酸鉛が生ずる反応)により生じた電力が該負荷に供給される。また、鉛蓄電池100の充電の際には、正極側端子部30の正極側ブッシング32および負極側端子部40の負極側ブッシング42に電源(図示せず)が接続され、該電源から供給される電力によって各極板群20の正極板210での反応(硫酸鉛から二酸化鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(硫酸鉛から鉛(海綿状鉛)が生ずる反応)が起こり、鉛蓄電池100が充電される。
【0034】
A-2.正極集電体212の詳細構成:
図4は、正極集電体212のYZ平面構成を示す説明図である。図4に示すように、正極集電体212は、略矩形状の枠体である枠300と、該枠300の内周側に配置された内側部400とを備える。正極集電体212は、例えば鉛または鉛合金(鉛カルシウム合金など)により形成されている。枠300は、特許請求の範囲における枠骨部に相当し、内側部400は、特許請求の範囲における格子部に相当する。
【0035】
枠300は、上下方向(Z軸方向)に略平行に延びる一対の縦枠骨310と、上下方向に略直交する水平方向(Y軸方向)に略平行に延びる一対の横枠骨320とを備える。内側部400は、上下方向に略平行に延びる複数本(本実施形態では14本)の縦内骨410と、水平方向に略平行に延びる複数本(本実施形態では11本)の横内骨420とを含む。内側部400では、複数本の縦内骨410と複数本の横内骨420とが互いに略直交するように格子状に形成されており、かつ、各交差点では、縦内骨410と横内骨420とが接合されることにより電気的に接続されている。各内骨410,420は、直線状に延びる線状体である。
【0036】
また、本実施形態では、複数本の縦内骨410のうち、正極耳部214から下方に延びる1本の縦内骨410である基本縦内骨412の軸方向に直交する断面の面積は、基本縦内骨412の全長にわたって、他の縦内骨410の軸方向に直交する断面の面積よりも大きくなっている。このため、基本縦内骨412は、他の縦内骨410に比べて、電気抵抗が小さくなり、電流が流れやすい。縦内骨410と横内骨420とは、特許請求の範囲における内骨に相当する。なお、本明細書では、略平行とは、2つの骨(枠骨または内骨)のなす角T(0度≦T≦90度)が5度以下であることを意味し、略直交(略垂直)とは、2つの骨(枠骨または内骨)のなす角X(0度≦X≦90度)が85度以上であることを意味する。
【0037】
図5は、図4のV-Vの位置における縦内骨410のXY断面の撮像画像を示す説明図である。また、図6は、図5における縦内骨410のXY断面の一部分を拡大して示す説明図である。以下、縦内骨410および横内骨420のそれぞれについて、正極集電体212に略直交する方向(X軸方向)の長さを「各内骨410,420の厚さ」という。また、縦内骨410について、正極集電体212に略平行で、かつ、縦内骨410に略直交する方向(Y軸方向)を「縦内骨410の幅方向」といい、該縦内骨410の幅方向の長さを「縦内骨410の幅」という。また、横内骨420について、正極集電体212に略平行で、かつ、横内骨420に略直交する方向(Z軸方向)を「横内骨420の幅方向」といい、該横内骨420幅方向の長さを「横内骨420の幅」という。
【0038】
図5に示すように、縦内骨410の延伸方向(Z軸方向)に略垂直なXY断面において、縦内骨410の外形は、縦内骨410の幅方向(Y軸方向)の両端部の厚さが中央部の厚さより薄くなっている。具体的には、縦内骨410のXY断面における外形は、略八角形状である。本実施形態では、縦内骨410のXY断面における外形および大きさは、縦内骨410の全長にわたって、略同一である。
【0039】
また、図5に示すように、縦内骨410の外周面430は、一対の第1の外周部431と一対の第2の外周部432とを含む。第1の外周部431は、正極集電体212に略直交する方向(X軸方向)における縦内骨410の両側のそれぞれに位置する。各第1の外周部431は、繊維状の金属組織が、縦内骨410の外周面430に沿った面方向(以下、単に「縦内骨410の面方向」という)に延びている表面領域である。なお、本実施形態では、一対の第1の外周部431は、縦内骨410の外周面430のうち、一対の第2の外周部432を除く表面領域である。一方、第2の外周部432は、正極集電体212の幅方向(Y軸方向)における縦内骨410の両側のそれぞれに位置する。第2の外周部432は、繊維状の金属組織が、縦内骨410の外周面430に交差する深さ方向(以下、単に「縦内骨410の深さ方向」という)に延びている表面領域である。換言すれば、一対の第2の外周部432は、縦内骨410の幅方向(Y軸方向)の両端に位置する表面領域であり、縦内骨410の表面領域のうち、第1の外周部ではない表面領域である。
【0040】
図5および図6に示すような繊維状の金属組織は、例えば、圧延により結晶粒が延伸されることにより形成される圧延組織である。そのため、第1の外周部431において、繊維状の金属組織の結晶粒界は、縦内骨410の深さ方向(図5および図6のX軸方向)よりも第1の外周部431に沿った方向(Y軸方向)に長く延びている。
【0041】
同様に、第2の外周部432において、結晶粒界は、第2の外周部432に沿った方向よりも第2の外周部432に交差する方向(X軸方向)に長く延びている。なお、本実施形態の正極集電体212を、圧延シートを打ち抜き加工することで作製した場合には、打ち抜き時に、打ち抜き方向上側の層が巻き込まれて塑性変形し、第2の外周部432の表層には、縦内骨410の面方向に延びる繊維状の金属組織が露出する場合がある。そのような場合であっても、表面から一定以上の深さ(例えば55μm)の位置では、深さ方向に延びる繊維状の金属組織(換言すれば、結晶粒界が縦内骨410の深さ方向に延びる金属組織)が形成されている。なお、本実施形態においては、このように表面から一定以上の深さの位置において、縦内骨410の深さ方向に延びる繊維状の金属組織が形成されている縦内骨410の表面領域についても、第2の外周部432であるとする。
【0042】
また、第1の外周部431と第2の外周部432とは、次のようにして判別することができる。図5に示すように、縦内骨410の所定の断面においては、層状の金属組織が観察される。ここで、断面において縦内骨410の面方向に沿った層状の組織が観察できる部分を、第1の外周部431とする。また、縦内骨410の外周面430付近において層状の組織が縦内骨410の深さ方向から縦内骨410の面方向に折れ曲がっている部分、あるいは、縦内骨410の外周面430において層状の組織が観察できない部分を、第2の外周部とする。
【0043】
本実施形態の縦内骨410では、縦内骨410の全長にわたって、XY断面において、一対の第1の外周部431の長さの合計が、一対の第2の外周部432の長さの合計よりも長くなっている。換言すれば、XY断面において、縦内骨410の全周長に対する第1の外周部431の長さの合計の割合は、縦内骨410の全周長に対する第2の外周部432の長さの合計の割合より高い。すなわち、縦内骨410の外周面430において、繊維状の金属組織が縦内骨410の面方向に延びる部分の方が、繊維状の金属組織が縦内骨410の深さ方向に延びる部分より広くなっている。なお、XY断面において、第2の外周部432の長さは、縦内骨410のXY断面の全周の40%以下であることが好ましく、縦内骨410のXY断面の全周の30%以下であることがより好ましい。
【0044】
なお、横内骨420の延伸方向(Y軸方向)に略垂直なXZ断面において、横内骨420の外形は、上記縦内骨410のXY断面における外形と略同一であり、横内骨420の幅方向(Z軸方向)の両端部の厚さが中央部の厚さより薄くなっている。本実施形態では、横内骨420は、全長にわたって、XZ断面における外形が略同一である。横内骨420の外周面440は、全体的に、主として、縦内骨410の面方向に延びる繊維状の金属組織を有している。
【0045】
A-3.本実施形態の正極集電体212の製造方法:
上述した構成の正極集電体212の製造方法は、例えば以下の通りである。図7は、正極集電体212の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0046】
はじめに、圧延板を準備する(S110)。圧延板は、例えば鉛合金からなるスラブを、図示しない圧延機を用いて所定の幅および厚さとなるように圧延加工することにより形成された板状部材である。圧延板における金属組織(金属組織を構成する結晶粒界)は、圧延機による圧延方向(図4に示す正極集電体212のY軸方向)に沿って延びている。
【0047】
次に、圧延板に対して打ち抜き加工を行うことにより、格子状に形成された複数の中間骨を有する中間集電体を形成する(S120)。ここで、中間集電体は、後述するプレス加工を行う前の状態のものである。中間集電体における各中間骨の延伸方向に略直交する断面の外形は、略直方体状である。中間骨には、上記圧延板の圧延方向に略直交する方向(Z軸方向)に延びている第1の中間骨と、圧延方向に略平行な方向(Y軸方向)に延びている第2の中間骨とが含まれる。第1の中間骨の外周面のうち、中間集電体に略平行な表面(XY平面)は、縦内骨410の面方向に延びる繊維状の金属組織を有しており、中間集電体に略垂直な表面(XZ平面)は、縦内骨410の深さ方向に延びる繊維状の金属組織を有している。また、第2の中間骨の外周面は、外周に沿った方向に延びる繊維状の金属組織を有している。
【0048】
次に、中間集電体の各中間骨に対して、該中間集電体に略直交する方向(X軸方向)からプレス加工を行い、正極集電体212を作製する(S130)。具体的には、プレス加工により、各中間骨を、該中間骨の幅方向(中間集電体に平行で、かつ、中間骨に略直交する方向)の両端部が中央部より薄くなるように変形させる。これにより、繊維状の金属組織が縦内骨410の深さ方向に延びる第2の外周部432が狭くなり、その結果、上述の縦内骨410が形成される。また、第2の中間骨の両端部が潰されることによって、上述の横内骨420が形成される。
【0049】
A-4.本実施形態の効果:
正極集電体212が、上述したように鉛や鉛合金で形成されている場合、鉛蓄電池100の使用中に正極集電体212が変形することがある。この正極集電体212の変形のメカニズムは次の通りである。すなわち、正極集電体212の腐食は、正極集電体212(縦内骨410、横内骨420)の表面に露出する結晶粒界に沿って正極集電体212の内部に進行する。正極集電体212の金属Pbが電気化学的な酸化を受けることによって生じた腐食層(腐食生成物)であるPbOに変化する際に体積膨張を起こし、腐食された結晶粒界付近に応力が発生する。この応力が、未だ腐食していない正極集電体212の内部にかかることによって縦内骨410や横内骨420が体積膨張によって延び、その結果、正極集電体212が変形する。正極集電体212が変形すると、正極集電体212から正極活物質216が脱落して鉛蓄電池100の容量が低下したり、正極集電体212の近傍に配置された負極板220や負極側ストラップ54との間で短絡したりするおそれがある。
【0050】
これに対して、本実施形態の鉛蓄電池100では、正極集電体212の縦内骨410の外周面430は、繊維状の金属組織が縦内骨410の面方向に延びる第1の外周部431と、繊維状の金属組織が縦内骨410の深さ方向に延びる第2の外周部432と、を備える。第1の外周部431における結晶粒界は、第1の外周部431(縦内骨410の外周面430)に交差する方向(X軸方向)よりも第1の外周部431に沿った方向(Y軸方向)に長く延びている。すなわち、図5からも分かるように、第1の外周部431においては、繊維状の金属組織が縦内骨410の外周面430からの深さ方向に積層されて層状となっている。そのため、第1の外周部431における結晶粒界は、該第1の外周部431に沿った方向(Y軸方向)に長く延びており、縦内骨410の内部の深い位置まで延びていない。これにより、第1の外周部431側に形成される腐食層は、第1の外周部431に沿って長く延びるように形成されやすく、縦内骨410の内部の深い位置までは形成されにくい。その結果、第1の外周部431に沿って形成された腐食層は、正極集電体212との接合強度が低く、正極集電体212(第1の外周部431)と腐食層との界面にガスが発生する際に正極集電体212から比較的容易に剥離する。
【0051】
一方、繊維状の金属組織が縦内骨410の深さ方向に延びる第2の外周部432における結晶粒界は、第2の外周部432(縦内骨410の外周面430)に沿った方向よりも第2の外周部432に交差する方向(X軸方向)に長く延びている。すなわち、図5からも分かるように、第2の外周部432においては、繊維状の金属組織が縦内骨410の深さ方向に延びているため、結晶粒界も、第2の外周部432に略直交する方向に延びている。そのため、第2の外周部432においては、結晶粒界が縦内骨410の内部の深い部位まで延びている。このため、第2の外周部432側に形成された腐食層は、第2の外周部432に沿って長く延びにくく、縦内骨410の内部の深い位置まで楔状に延びやすい。その結果、第2の外周部432に沿って形成される腐食層は、正極集電体212との接合強度が高く、正極集電体212(第2の外周部432)と腐食層との界面にガスが発生する際にも正極集電体212から剥離しにくい。そのため、第2の外周部422の表面には腐食層が成長することとなり、縦内骨410の内部に応力を与えて縦内骨410を変形させる。なお、第2の外周部432の表層が、上述したように、打ち抜き加工によって形成され縦内骨410の面方向に延びる繊維状の金属組織で覆われている場合であっても、縦内骨410の面方向に延びる繊維状の金属組織は、上述したように腐食により早期に剥離するため、繊維状の金属組織が縦内骨410の深さ方向に延びている場合と同様の形態で腐食が進行する。
【0052】
すなわち、繊維状の金属組織が縦内骨410の深さ方向に延びる第2の外周部432では、繊維状の金属組織が縦内骨410の面方向に延びる第1の外周部431に比べて、腐食層が剥離し難く、正極集電体212の変形の要因となる腐食層からの応力を受け易い。
【0053】
本実施形態の正極集電体212では、縦内骨410は、当該縦内骨410の延伸方向に略垂直なXY断面において、第1の外周部431の長さが、第2の外周部432の長さよりも長くなるように構成されている。すなわち、縦内骨410の外周面430において、繊維状の金属組織が縦内骨410の面方向に延びる部分の方が、繊維状の金属組織が縦内骨410の深さ方向に延びる部分より広い。このため、本実施形態の正極集電体212は、XY断面において繊維状の金属組織が縦内骨410の面方向に延びる部分の方が、繊維状の金属組織が縦内骨410の深さ方向に延びる部分より狭い構成に比べて、腐食層が剥離し易いため、正極集電体212の腐食による変形を抑制することができる。なお、上述したように、横内骨420の外周面440には、主として、繊維状の金属組織が外周に沿った方向に延びているため、横内骨420の腐食による変形は小さい。
【0054】
図8は、縦内骨410における第2の外周部432の長さの割合と正極集電体212における腐食率および変形量との関係を示すグラフである。第2の外周部432の長さの割合(%)は、XY断面において、縦内骨410の外周面430の全長に対する第2の外周部432の長さの割合である。腐食率(%)は、正極集電体212(第2の外周部432)について、腐食前の初期の質量に対する、腐食前の初期の質量と腐食による質量減少後の現在の質量との差分の割合である。変形量(mm)には、正極集電体212の幅方向(Y方向)の寸法(図4では、左側の縦枠骨310の左側面から右側の縦枠骨310の右側面までの距離)の増加量と、正極集電体212の上下方向(Z方向)の寸法(図4では、上枠骨321の上面から下枠骨322の下面までの距離)の増加量とが含まれる。試験条件と試験結果の測定方法とは、以下の通りである。
【0055】
まず、正極活物質216を支持しない正極集電体212を用いて構成された正極板を備える試験電池を組み立てる。試験電池は、単板セルであり、1枚の上記正極板と、該正極板を挟持する2枚の負極板とを備える。各負極板は袋状セパレータに収容されている。
【0056】
次に、試験電池を、75℃の水槽内で定電流1.7A(電流密度:0.0054A/cm)による過充電試験を5日間行い、その後、2日間休止させる操作(1週間)を、3回繰り返す(3週間)。電流密度を算出する際には、正極集電体212(格子体)の見かけ上の電極面積を用いるものとする。見かけ上の電極面積は、正極集電体212の幅方向(Y方向)の寸法と上下方向(Z方向)の寸法との積の2倍とする。上記操作を3回繰り返した後、試験電池を解体する。そして、解体された試験電池の正極集電体212のうち、幅方向(Y方向)に最も膨らんでいる部分(一対の縦枠骨310同士が最も離れている部分)の寸法を測定し、その測定結果と、試験前の正極集電体212の幅方向の寸法とを比較して、正極集電体212の幅方向の寸法の増加量を求める。また、正極集電体212のうち、上下方向(Z方向)に最も膨らんでいる部分(一対の横枠骨320同士が最も離れている部分)の寸法を測定し、その測定結果と、試験前の正極集電体212の上下方向の寸法とを比較して、正極集電体212の上下方向の寸法の増加量を求める。次に、正極集電体212を水洗し、マンニット処理により腐食層を除去して乾燥し、上述の計算式を用いて腐食率を求める。
【0057】
図8に示すように、第2の外周部432の長さの割合が54.3%のサンプル1では、腐食率は76.0%であり、正極集電体212の幅方向(Y方向)の寸法の増加量は5.6mmであり、正極集電体212の上下方向(Z方向)の寸法の増加量は3.8mmであった。第2の外周部432の長さの割合が43.8%のサンプル2では、腐食率は73.1%であり、正極集電体212の幅方向の寸法の増加量は5.5mmであり、正極集電体212の上下方向の寸法の増加量は1.0mmであった。第2の外周部432の長さの割合が40.0%のサンプル3では、腐食率は73.9%であり、正極集電体212の幅方向の寸法の増加量は2.5mmであり、正極集電体212の上下方向の寸法の増加量は0mmであった。第2の外周部432の長さの割合が17.4%のサンプル4では、腐食率は70.6%であり、正極集電体212の幅方向の寸法の増加量は0.35mmであり、正極集電体212の上下方向の寸法の増加量は0mmであった。これらの結果から、腐食率が略同一であっても、第2の外周部432の長さの割合が低いほど、正極集電体212の変化量が小さくなることが分かる。なお、第2の外周部432の長さの割合は、プレス加工を行う条件を適宜変更することで、所望の値にすることができる。
【0058】
また、第2の外周部432の長さの割合が40%以下であれば、特に、正極集電体212の上下方向の寸法の増加量を抑制することができる。また、第2の外周部432の長さの割合が30%以下であれば、特に、正極集電体212の幅方向の寸法を抑制することができる。
【0059】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0060】
上記実施形態における鉛蓄電池100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、枠骨部として、矩形状の枠体である枠300を例示したが、例えば、矩形以外の四角形状(正方形状)の枠体であるとしてもよいし、四角形以外の多角形状(例えば五角形等)の枠体であるとしてもよい。また、上記実施形態では、横内骨420が、縦内骨410と略直交している構成について例示したが、横内骨420は、縦内骨410と所定の角度で交差していてもよい。すなわち、横内骨420は、縦内骨410に対して所定の角度をなす斜め骨を備えていてもよい。
【0061】
上記実施形態では、縦内骨410のXY断面における外形および大きさは、縦内骨410の全長にわたって、略同一であるとしているが、縦内骨410の延伸方向において位置が互いに異なる少なくとも2箇所の部分について、XY断面における外形および大きさの少なくとも一方が互いに異なっているとしてもよい。同様、上記実施形態では、横内骨420のXZ断面における外形および大きさは、横内骨420の全長にわたって、略同一であるとしているが、横内骨420の延伸方向において位置が互いに異なる少なくとも2箇所の部分について、XZ断面における外形および大きさの少なくとも一方が互いに異なっているとしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、縦内骨410では、縦内骨410の全長にわたって、XY断面において、一対の第1の外周部431の長さの合計が、一対の第2の外周部432の長さの合計よりも長くなっているとしたが、縦内骨410の延伸方向の少なくとも一部分において、XY断面において、一対の第1の外周部431の長さの合計が、一対の第2の外周部432の長さの合計よりも長くなっていればよい。
【0063】
より好ましくは、縦内骨410の延伸方向に垂直な所定の断面において、外周面430の長さに占める第1の外周部431の長さの割合の平均値と、外周面430の長さに占める第2の外周部432の長さの割合の平均値とを比較した場合に、第1の外周部431の長さの割合の平均値の方が、第2の外周部432の長さの割合の平均値よりも大きくなっていればよい。ここで、「第1の外周部431の長さの割合の平均値」および「第2の外周部432の長さの割合の平均値」の算出方法は、以下の通りである。なお、以下では、説明の便宜上、枠300の横枠骨320のうち、正極耳部214と接続している側の横枠骨320を上枠骨321(図4参照)と呼び、枠300の横枠骨320のうち、正極耳部214と接続していない側の横枠骨320(すなわち、上枠骨と対向する枠骨)を下枠骨322(図4参照)と呼ぶ。
【0064】
まず、正極集電体212のうち、正極耳部214を除いた、枠300および内側部400を3等分となるように切断する。具体的には、上枠骨321と下枠骨322との距離を3等分するように、下枠骨322の延伸方向に平行で、かつ正極集電体212の厚さ方向を含む第1平面Pおよび第2平面Qで正極集電体212を切断する。なお、第1平面Pは、上枠骨321側に位置する平面であり、第2平面Qは、下枠骨322側に位置する平面である。なお、上枠骨321と下枠骨322とが平行ではない場合には、正極集電体212を厚さ方向(X軸方向)から平面視した場合に、枠300で囲まれる面積が3等分となるように、下枠骨322の延伸方向に平行で、かつ正極集電体212の厚さ方向を含む第1平面Pおよび第2平面Qで正極集電体212を切断すればよい。また、第1平面Pまたは第2平面Qによって切断された縦内骨410が、縦内骨410と横内骨420とが接合された場所(所謂、ノード)である場合には、当該断面を除いて平均を出してもよく、縦内骨410の延伸方向の位置をノードではない場所となるように所定量ずらした位置で平均値の算出を行ってもよい。
【0065】
このとき、第1平面Pで切断された縦内骨410には、第1平面Pと交差する数(図4の例では14個)の断面が露出することとなる。そして、そのそれぞれの断面において、外周面430の長さに占める第1の外周部431の長さの割合と、外周面430の長さに占める第2の外周部432の長さの割合とを算出する。同様に、第2平面Qにより切断された縦内骨410に対しても、外周面430の長さに占める第1の外周部431の長さの割合と、外周面430の長さに占める第2の外周部432の長さの割合とを算出する。
【0066】
そして、それぞれの断面において算出された、第1の外周部431の長さの割合の算術平均を求め、「第1の外周部431の長さの割合の平均値」とする。同様に、それぞれの断面において算出された、第2の外周部432の長さの割合の算術平均を求め、「第2の外周部432の長さの割合の平均値」とする。
【0067】
さらに、上記実施形態では、縦内骨410に本発明が適用されているとしたが、縦内骨410に加えて、横内骨420と枠300との少なくとも一方においても、第1の外周部431の長さの合計が、第2の外周部432の長さの合計よりも長くなっていてもよい。
【0068】
また、上記実施形態における鉛蓄電池100において、負極板220を構成する負極集電体222について、少なくとも一部の内骨は、当該内骨の延伸方向に略垂直な所定の断面において、繊維状の金属組織が外周に沿った方向に延びる第1の外周部の長さが、繊維状の金属組織が外周の深さ方向に延びる第2の外周部の長さよりも長くなるように構成されているとしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態における鉛蓄電池100において、縦内骨410の外周面430が、一対の第1の外周部431と一対の第2の外周部432とを含む構成について説明したが、縦内骨410の外周面430の形状は、これに限られるものではない。すなわち、縦内骨410は、延伸方向に垂直な断面において、第1の外周部431の長さの合計が、第2の外周部432の長さの合計よりも長くなっていればよく、断面形状は特に限定されるものではない。例えば、縦内骨410の幅方向の片側にのみ第2の外周部432が形成されていてもよい。
【0070】
また、上記実施形態における鉛蓄電池100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、なお、図7におけるS120の打ち抜き加工とS130のプレス加工とを同時に行うとしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10:筐体 12:電槽 14:蓋 16:セル室 18:電解液 20:極板群 30:正極側端子部 32:正極側ブッシング 34:正極柱 40:負極側端子部 42:負極側ブッシング 44:負極柱 52:正極側ストラップ 54:負極側ストラップ 56:接続部材 58:隔壁 100:鉛蓄電池 210:正極板 212:正極集電体 214:正極耳部 216:正極活物質 220:負極板 222:負極集電体 224:負極耳部 226:負極活物質 230:セパレータ 300:枠 310:縦枠骨 320:横枠骨 400:内側部 410:縦内骨 412:基本縦内骨 420:横内骨 430:外周面 431:第1の外周部 432:第2の外周部 440:外周面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8