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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】車両用フード
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/10 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
B62D25/10 E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019037323
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020138683
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】堀内 正直
(72)【発明者】
【氏名】川野 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢治
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-176665(JP,A)
【文献】特開2015-089788(JP,A)
【文献】特開2009-040168(JP,A)
【文献】特開2011-046325(JP,A)
【文献】特開2018-135033(JP,A)
【文献】実開昭63-101288(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2005/0057076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開される車両用フードであって、
前記補強部材の周囲の端部から面状に延設されて前記インナーパネルに固定され、前記補強部材と前記インナーパネルとの間をつなぐ端辺を有する脚部を備え、
前記脚部が、
前記端辺にて板面を屈曲させてなる第一補強部と、
前記第一補強部と同一の前記端辺にて前記第一補強部よりも前記インナーパネルに近い位置で板面を屈曲させてなり、同一の前記端辺上において前記第一補強部とは不連続に形成された第二補強部とを有し、前記第一補強部と前記第二補強部との間には、板面を屈曲させていない部位が残る
ことを特徴とする、車両用フード。
【請求項2】
前記脚部が、車両外側に向かう下り勾配で傾斜した姿勢で配置され、その下端部が前記インナーパネルに固定される
ことを特徴とする、請求項1記載の車両用フード。
【請求項3】
前記脚部が、前記端辺にて前記第一補強部と前記第二補強部とに挟まれた位置で面状に形成され、前記第一補強部と前記第二補強部とを接続する接続部を有する
ことを特徴とする、請求項1または2記載の車両用フード。
【請求項4】
前記脚部が有する二つの前記端辺の各々に前記第一補強部と前記第二補強部とが形成され、
前記接続部が、前記脚部の幅方向の両端辺に配置される
ことを特徴とする、請求項3記載の車両用フード。
【請求項5】
前記脚部が、
前記補強部材の周囲の端部に対して傾斜した向きで接続される第一面部と、
前記第一面部に対して傾斜した向きで接続される第二面部と、
前記第二面部に対して傾斜した向きで接続され、前記インナーパネルに固定される第三面部とを有する
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の車両用フード。
【請求項6】
前記接続部が、前記第二面部に設けられる
ことを特徴とする、少なくとも請求項3に従属する請求項5記載の車両用フード。
【請求項7】
前記第二面部が、前記第一面部に接続される幅広部と、前記幅広部よりも幅方向の寸法が小さい幅狭部とを有し、
前記接続部が、前記幅狭部に設けられる
ことを特徴とする、請求項6記載の車両用フード。
【請求項8】
前記補強部材と前記第一面部との境界にて前記インナーパネル側に膨出した形状に形成された第一ビードを備える
ことを特徴とする、請求項5~7のいずれか1項に記載の車両用フード。
【請求項9】
前記第一面部と前記第二面部との境界にて前記アウターパネル側に膨出した形状に形成された第二ビードを備える
ことを特徴とする、請求項5~8のいずれか1項に記載の車両用フード。
【請求項10】
前記第一面部を水平方向に切り込んだ形状に形成されたスリットを備える
ことを特徴とする、請求項5~9のいずれか1項に記載の車両用フード。
【請求項11】
前記脚部の幅方向の両端辺に配置される前記接続部のレイアウトが、前記第一面部と前記第二面部との境界に対して平行である
ことを特徴とする、少なくとも請求項3に従属する請求項5~10記載の車両用フード。
【請求項12】
前記インナーパネルが、板面の左右両端の縁に沿って形成されて前記脚部を固定される縁部と、前記脚部の下方において前記板面を下方にへこませてなる梁部とを有する
ことを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の車両用フード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開された車両用フードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のコンパートメント(エンジンルームやモータールームなど)の上面を覆う車両用フードにおいて、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材を挿入した構造が知られている。例えば、インナーパネルにアーチ状のブラケットを固定し、ブラケットの板面をアウターパネルの裏面に沿って展開させた構造が提案されている(特許文献1参照)。また、アウターパネルの裏面に板状の補強部材を取り付けて剛性を高めた構造も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-306237号公報
【文献】特開2016-010995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用フードに外力が作用したときのエネルギーは、アウターパネルや補強部材の変形によって吸収される。したがって、その変形形状を制御することができれば、緩衝性能が向上しうる。一方、既存の車両用フードはこのような点が十分に考慮されたものとはいえず、改良の余地がある。例えば、補強部材をインナーパネルに固定するための構造に工夫を施すことで、さらなる緩衝性能の改善が期待される。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、車両用フードの補強部材の変形形状を制御して緩衝性能を向上させることである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の車両用フードは、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開される車両用フードである。この車両用フードは、前記補強部材の周囲の端部から面状に延設されて前記インナーパネルに固定され、前記補強部材と前記インナーパネルとの間をつなぐ端辺を有する脚部を備える。前記脚部は、前記端辺にて板面を屈曲させてなる第一補強部と、前記第一補強部と同一の前記端辺にて前記第一補強部よりも前記インナーパネルに近い位置で板面を屈曲させてなり、同一の前記端辺上において前記第一補強部とは不連続に形成された第二補強部とを有する。前記第一補強部と前記第二補強部との間には、板面を屈曲させていない部位が残る。
【発明の効果】
【0007】
補強部材の脚部の端辺にて、第二補強部を第一補強部と不連続に形成することで、外力作用時に第一補強部と第二補強部との間を頂点とした山折れの変形を促すことができる。これにより、アウターパネルとインナーパネルとに囲まれた空間を効率よく使って、補強部材の変形のストロークを大きくすることができ、車両用フードの緩衝性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例としての車両用フードの分解斜視図である。
図2】補強部材の上面図である。
図3】補強部材の前脚部を拡大して示す斜視図である。
図4】(A)は前脚部の側面図であり、(B)~(D)は前脚部の断面図である。
図5】(A),(B)は外力による前脚部の変形を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.車両用フード]
図1図5を参照して、実施例としての車両用フード10を説明する。この車両用フード10は、車両の前部に設けられるコンパートメント(エンジンルームやモータールームなどの車載品収容室)の上面を被覆する部材である。コンパートメントの後端部近傍には、車体に対して車両用フード10を開閉可能に枢支するヒンジや、車両用フード10を開放方向に付勢するスプリングが設けられる。また、コンパートメントの前端部近傍には、車両用フード10の閉鎖状態を維持するためのフードロック装置や、開放状態を保持させるのに用いられるサポートロッドなどが設けられる。
【0010】
図1に示すように、車両用フード10は、アウターパネル1(フードアウターパネル)とインナーパネル2(フードインナーパネル)との間に補強部材3(フードロックリンフォースアッパー)が展開された構造を持つ。アウターパネル1は車両用フード10の外表面をなす部材であり、表側の板面には意匠的な塗装や凹凸加工が施される。また、アウターパネル1の前部には、コンパートメント内に導入される冷却風が通過する開口部が形成されたグリル補強部11が設けられる。グリル補強部11には、車両のグリル12が取り付けられる。車両のヘッドランプ13は、コンパートメントよりも前方において、車体に取り付けられる。ヘッドランプ13の位置は、車両用フード10の閉鎖状態において、グリル12の左右側方となる位置に設定される。
【0011】
インナーパネル2は、アウターパネル1に対して所定の間隔をあけて、その下方に配置され、アウターパネル1の外縁部に対して接合される。インナーパネル2の板面には、強度や剛性を高めるための凹凸が設けられる。本実施形態のインナーパネル2には、縁部14と梁部15とが設けられる。縁部14は、インナーパネル2の左右両端の縁に沿って形成されたほぼ水平な部位であり、補強用のフランジとして機能する。また梁部15は、板面を下方にへこませるとともに、そのへこみを縁部14の内側に沿って車両前後方向に連ねた部位であり、インナーパネル2の曲げ剛性を高める構造断面として機能する。
【0012】
補強部材3は、アウターパネル1とインナーパネル2とで囲まれた空間内において、アウターパネル1の板面に沿って面状に配置される。補強部材3の材質は、アルミ合金(例えば、Al-Mg系合金やAl-Mg-Si系合金など)である。補強部材3は、アウターパネル1やインナーパネル2に対して固定される。例えば、本実施形態の補強部材3は、アウターパネル1に対してマスチック接着剤で固定されるとともに、インナーパネル2に対して溶接固定される。
【0013】
車両の上面視における補強部材3の全体形状は、弓なりに湾曲したブーメラン形状に準えられ、車幅方向の中央部付近が車両前方に飛び出すようなレイアウトで配置される。また、補強部材3の形状は、車両の上面視で左右対称(鏡面対称)である。図2に示すように、本実施形態の補強部材3は、前方面部4と一対の後方面部5とを有する。前方面部4とは、補強部材3のうち車両前部に位置する半月状の部位である。また、後方面部5とは、その左右両端部のそれぞれから、車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長された部位である。前方面部4と後方面部5との境界線を、図2中に一点鎖線で例示する。ただし、前方面部4及び後方面部5は一体に形成されており、これらの境界は便宜的に定めたものに過ぎない。
【0014】
補強部材3には、インナーパネル2に固定される三対の脚部6,7,8が設けられる。これらの脚部6,7,8は、補強部材3からその外側かつ下方に向かって斜めに延設される。以下、前方面部4に設けられる脚部を前脚部6と呼ぶ。また、後方面部5に設けられる脚部のうち、車両外側に位置するものを後脚部7と呼び、車両内側に位置するものを第二後脚部8と呼ぶ。
【0015】
前脚部6は、前方面部4の前端部であって、グリル補強部11の左右両側方(グリル12を避けた位置)に配置される。車両の上面視における前脚部6の位置は、図2に示すように、ヘッドランプ13の裏側に相当する位置である。前脚部6の先端は、インナーパネル2の縁部14に対して面接触した状態で固定され、例えばスポット溶接で固定される。車両の上面視で前方面部4から前脚部6が伸びる方向は、斜め前方(車両外側かつ前方へ向かう方向)とされる。
【0016】
前方面部4の前端辺のうち左右の前脚部6によって挟まれた部分には、下方に向かって折り曲げられたフランジ16が形成される。ただし、フランジ16の左右両端部は、前脚部6に達する手前で途切れている。前方面部4の前端辺のうち、前脚部6に隣接する車両中央側の部位には、フランジ16が形成されない。一方、前脚部6に隣接する車両外側の部位には、第二フランジ17が形成される。第二フランジ17は、前方面部4の左右側端辺を下方に向かって折り曲げて形成された部位であり、前脚部6の板面につながるように設けられる。第二フランジ17の後端部は、後方面部5に達する手前で途切れている。
【0017】
後脚部7及び第二後脚部8は、後方面部5から延設される。後脚部7は、後方面部5の車両外側端辺のうち、車両後方寄り(端部寄り)の位置に配置される。これに対し、第二後脚部8は、後方面部5の車両内側端辺のうち、車両後方寄り(端部寄り)の位置に配置される。大まかにいえば、後脚部7及び第二後脚部8の位置は、ブーメラン形状における左右両端部(二つの先端)に相当する位置に設定される。また、ブーメラン形状の外側に配置されるのが後脚部7であり、ブーメラン形状の内側に配置されるのが第二後脚部8である。
【0018】
車両の上面視で後方面部5から第二後脚部8が伸びる方向は、前脚部6とは正反対の方向であって、斜め後方(車両内側かつ後方へ向かう方向)とされる。また、後方面部5から後脚部7が伸びる方向は、車両前方とされる。これにより、後脚部7の基端から先端までの距離が長くなり、外力作用時における変形のストロークが大きくなる。また、後脚部7を車幅方向外側に伸ばした場合と比較して、後脚部7の車幅方向への突出が抑制される。
【0019】
後脚部7の先端は、インナーパネル2の縁部14に対して面接触した状態で固定(例えばスポット溶接)される。一方、第二後脚部8の先端は、インナーパネル2の板面に対して面接触した状態で固定され、例えばスポット溶接で固定される。また、図2に示すように、後方面部5の車両外側端辺には、第二フランジ17が形成されない。つまり、後方面部5と後脚部7との境界付近には断面二次モーメントを増加させるための補強構造をあえて適用しないことで、曲げ変形を許容している。
【0020】
前方面部4の後端辺や後方面部5の車両内側端辺には、階段状に形成された階段フランジ18が設けられる。階段フランジ18は、前方面部4や後方面部5の板面を下方及び車両後方に向かってクランク状に屈曲させた部位であり、第二後脚部8の板面につながるように形成される。これにより、補強部材3の端辺のうち、ブーメラン形状の内側に相当する全範囲が曲げ変形しにくい構造となる。
【0021】
[2.前脚部]
前脚部6は、補強部材3の前方面部4の縁端(周囲の端部)から面状に延設されて、インナーパネル2の縁部14に固定される。この前脚部6は、補強部材3の板面の端部にプレス加工を施すことで成形することができる。図3及び図4(A),(B)に示すように、前脚部6には、上から順に第一面部21,第二面部22,第三面部25が設けられる。
【0022】
第一面部21は、前脚部6の最上部に設けられる面状の部位である。この第一面部21は、前方面部4の縁端に対して傾斜した向きで斜めに接続される。図3に示すように、前方面部4と第一面部21との境界をなす第一屈曲部26は、山折りの稜線(上に凸の折れ目)となる。前方面部4に対する第一面部21の屈曲角度θ1は、図4(B)に示すように、少なくとも直角よりも浅い角度(例えば、20~80°)に設定される。また、前述の第二フランジ17は、第一面部21に対して滑らかに接続される。第一面部21を平面状とした場合、第二フランジ17は第一面部21と同一平面をなすように設ければよい。
【0023】
第二面部22は、第一面部21に隣接してその下方に設けられる面状の部位である。この第二面部22は、第一面部21に対して傾斜した向きで斜めに接続されるが、第一面部21に対する第二面部22の屈曲方向は、前方面部4に対する第一面部21の屈曲方向とは逆方向に設定される。また、第一面部21に対する第二面部22の屈曲角度θ2は、直角よりも浅い角度であって、第一面部21の屈曲角度θ1よりも小さい角度(例えば、10~70°)に設定される。第一面部21と第二面部22との境界をなす第二屈曲部27は、谷折りの溝(下に凸の折れ目)となる。
【0024】
本実施形態の第二面部22は、幅広部23と幅狭部24とに分類できる。第二面部22の上部をなす部分が幅広部23であり、第二面部22の下部をなす部分が幅狭部24である。図3に示すように、幅広部23は、第一面部21に隣接して接続される。また、幅狭部24は、幅広部23よりも幅方向の寸法が小さく形成される。したがって、第二面部22を正面から見ると、その形状はT字型(T-shaped)に見える。
【0025】
第三面部25は、第二面部22に隣接してその下方に設けられ、インナーパネル2の縁部14に固定される面状の部位である。この第三面部25は、第二面部22に対して傾斜した向きで斜めに接続される。第二面部22に対する第三面部25の屈曲方向は、第一面部21に対する第二面部22の屈曲方向と同じ方向に設定される。また、第二面部22に対する第三面部25の屈曲角度θ3は、屈曲角度θ2と同様に、直角よりも浅い角度であって第一面部21の屈曲角度θ1よりも小さい角度(例えば、10~70°)に設定される。
【0026】
本実施形態では、第三面部25の屈曲角度θ3が第一面部21の屈曲角度θ1と第二面部22の屈曲角度θ2との差に相当する角度に設定される。すなわち、θ312である。第一面部21の折り曲げが、第二面部22及び第三面部25を反対方向に折り曲げることによって元に戻される。これにより、第三面部25の姿勢が前方面部4と同じようにほぼ水平となり、インナーパネル2の縁部14に面接触しやすい向きとなる。また、第三面部25を前方面部4に対して平行にすることで、補強部材3の固定状態が安定する。
【0027】
図3に示すように、第一屈曲部26には第一ビード28が設けられ、第二屈曲部27には第二ビード29が設けられる。第一ビード28は、補強部材3の前方面部4と第一面部21との境界において、下方のインナーパネル2側に膨出した形状に形成される。一方、第二ビード29は、第一面部21と第二面部22との境界において、上方のアウターパネル1側に膨出した形状に形成される。これらのビード28,29の形状は、縦方向に細長い楕円形状や円形,卵形などに設定される。ビード28,29を設けることで、外力作用時における第一屈曲部26及び第二屈曲部27の変形が減少し、第一面部21及び第二面部22の屈曲角度θ1,θ2が維持されやすくなる。
【0028】
第一面部21には、横長のスリット30が設けられる。スリット30は、横方向の寸法が長く縦方向の寸法が短い矩形の開口部であり、第一面部21の板面を水平方向に切り込むことによって形成される。図3に示すように、スリット30の位置は、第一ビード28と第二ビード29との間を上下方向に分断する位置に設定される。スリット30の延在方向は、第一屈曲部26,第二屈曲部27の延在方向とほぼ平行である。このように、ビード28,29に挟まれた部位にスリット30を設けることで、外力作用時における第一面部21の面内での変形が促進される。
【0029】
第二面部22及び第三面部25には、前脚部6の端辺(補強部材3とインナーパネル2との間をつなぐ端辺)を補強するための第一補強部31,第二補強部32,第三補強部33が設けられる。これらの補強部31~33は、板面を屈曲させてなる部位であり、前脚部6の端辺に沿って形成される。本実施形態の補強部31~33は、第二面部22,第三面部25の板面を隆起させた形状を有する。すなわち、板面を二回屈曲させることで、断面形状をクランク状にしている。例えば、第二面部22の幅狭部24の断面形状は、図4(C)に示すように、左右両端部が中央部よりも隆起した形状(上下逆向きのハット形)に形成される。補強部31~33の隆起方向(突出方向)は、後述する接続部35での山折れの変形を阻害しないように、車両外側または上方に設定される。
【0030】
第一補強部31は、第二面部22の幅広部23から幅狭部24にかけての端辺に沿って、曲線状に形成される。第一補強部31により、幅広部23の下部から幅狭部24の上部までの範囲が補強され、曲げ変形への耐性が向上する。一方、第二補強部32は、第一補強部31とは不連続となるように、幅狭部24の端辺に沿って直線状に形成される。第二補強部32の位置は、第一補強部31よりもインナーパネル2に近い位置(第三面部25に近い位置)に設定される。第一補強部31と第二補強部32との離隔距離は、数ミリメートル程度である。また、第三補強部33は、第三面部25の端辺に沿って直線状に設けられ、第二補強部32に連なるように形成される。第三補強部33は、第二補強部32の下端をそのまま第三面部25まで延長したものに相当する。第二補強部32及び第三補強部33により、幅狭部24の下部から第三面部25までの範囲が補強され、曲げ変形への耐性が向上する。
【0031】
図3に示すように、第一補強部31と第二補強部32とが不連続に設けられることから、これらの間には、板面を屈曲させていない部位が残る。以下、この部位を接続部35と呼ぶ。接続部35は、第一補強部31と第二補強部32とに挟まれた位置で、面状に形成される。接続部35は、例えばU字断面の曲面状に形成してもよいし、V字溝形状にしてもよいし、平坦な面状に形成してもよい。図4(D)に示すように、本実施形態の接続部35は平面状であり、第二面部22の幅狭部24の左端辺と右端辺との二箇所に設けられる。また、二つの接続部35は、高さ方向の位置がほぼ同一になるように配置される。したがって、二つの接続部35を結ぶラインはほぼ水平となる。また、二つの接続部35を結ぶラインの延在方向は、第一屈曲部26,第二屈曲部27の延在方向とほぼ平行である。
【0032】
接続部35に隣接する上下の部位は、接続部35と比較して曲げ変形が生じにくく、接続部35のみが曲げ変形しやすい構造となっている。このように、第一補強部31と第二補強部32との間に接続部35を設けることで、相対的に接続部35の近傍で屈曲が生じやすくなる。また、第一面部21の上端に位置する第一屈曲部26は第一ビード28によって補強され、第一面部21の下端に位置する第二屈曲部27は第二ビード29によって補強される。これにより、補強部材3の前方面部4に外力が作用したときには、その外力が第二面部22に伝達されやすくなる。したがって、接続部35を屈曲の頂点とした山折れ変形が促進され、補強部材3の変形のストローク(変位量)が大きくなる。
【0033】
図5(A)は、前脚部6を含む車両用フード10の断面形状を示す図であり、図5(B)は、車両用フード10の上方からアウターパネル1に外力が作用したときの前脚部6の変形状態を例示する図である。図5(A)に示すように、前脚部6の第一屈曲部26や第二屈曲部27や第一補強部31は、インナーパネル2の梁部15の直上方に位置している。また、前脚部6の第三面部25は、インナーパネル2の縁部14と梁部15との境界線付近に位置している。
【0034】
車両用フード10の上方からアウターパネル1に外力が作用すると、その外力が補強部材3の前方面部4を介して前脚部6に伝達される。前脚部6の第一面部21は、その上端及び下端が第一ビード28及び第二ビード29によって補強されているため、比較的小さい変形を生じさせつつ、荷重を板面に沿って伝達する。一方、第二面部22には相対的に屈曲しやすい接続部35が設けられているため、板面が接続部35の近傍で屈曲する。
【0035】
図5(B)に示すように、第一面部21から入力される荷重は、第二屈曲部27を中心として第二面部22を反時計回りに回動させるように作用する。したがって、第二面部22の上部が梁部15の中に落ち込むように変形し、接続部35を屈曲の頂点とした山折れ変形が生じる。また、前方面部4の板面に沿って第一面部21へと入力される荷重は、第一面部21の上部を時計回りに回動させるように作用する。したがって、第一面部21の上部が車両外側(図中右側)へと傾倒し、スリット30を起点とする屈曲変形が生じる。このように前脚部6は、変形の過程で縁部14よりも下方に落ち込みながら外力のエネルギーを吸収し、梁部15の内部で変形を完了させる。
【0036】
[3.効果]
(1)上記の車両用フード10では、補強部材3の前脚部6に第一補強部31と第二補強部32とが設けられる。第二補強部32は、第一補強部31とは不連続に形成される。このような構造により、外力作用時に第一補強部31と第二補強部32との間で曲げ変形が生じやすくすることができる。したがって、第一補強部31と第二補強部32を連続させた構造と比較して、補強部材3の変形のストロークを大きくすることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0037】
(2)図4(A),(B)に示すように、前脚部6は、車両外側に向かう下り勾配で傾斜した姿勢で配置される。これにより、前脚部6の板面が下方に落ち込むように変形させることが容易となり、補強部材3の変形形状の制御性を高めることができる。また、補強部材3の前方面部4に入力された外力を車両外側に分散させやすくすることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0038】
(3)前脚部6の端辺には、第一補強部31と第二補強部32とに挟まれた位置で面状に形成された接続部35が設けられる。相対的に曲げ変形が生じやすい接続部35を第一補強部31と第二補強部32との間に配置することで、外力作用時に接続部35を頂点とした山折れの変形を促すことができる。これにより、アウターパネル1とインナーパネル2とに囲まれた空間を効率よく使って、補強部材3の変形のストロークを大きくすることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。また、接続部35のない構造と比較して、前脚部6のねじれ変形を抑制することができ、適切な変形形状を期待することができる。
【0039】
(4)図3に示すように、接続部35は前脚部6の幅方向の両端辺に配置される。これにより、二つの接続部35を結ぶラインが稜線となるような屈曲変形を促すことができる。つまり、接続部35の近傍における屈曲形状を制御することができ、補強部材3の変形形状の制御性を高めることができる。また、変形した後の前脚部6がインナーパネル2の梁部15を構成する部材に干渉しにくくなり、前脚部6を適切な形状に変形させることができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0040】
(5)図4(A),(B)に示すように、前脚部6には、第一面部21,第二面部22,第三面部25が設けられる。これらの面部21,22,25のうち、インナーパネル2に固定されているのは第三面部25のみである。また、外力作用時に第一屈曲部26から第三面部25へと至る外力の伝達経路は、あらかじめ屈曲した状態となっている。これにより、前脚部6が屈曲変形しやすいような外力の伝達経路を形成することができ、前脚部6を意図した通りに変形させることができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0041】
(6)図4(A),(B)に示すように、接続部35を第二面部22に設けることで、接続部35を屈曲の頂点とした山折れ変形を生じやすくすることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。また、図5(B)に示すように、第二面部22が山折れ変形をしたときに、第一面部21を梁部15の内側へ落とし込ませやすくすることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0042】
(7)図3に示すように、第二面部22に幅広部23と幅狭部24とを形成し、幅狭部24に接続部35を配置することで、接続部35の近傍での屈曲変形を促進することができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。また、第二面部22の下部の幅寸法を小さくすることで、第三面部25の幅寸法も小さくすることができ、前脚部6をコンパクトにすることができる。
【0043】
(8)図3に示すように、第一屈曲部26に第一ビード28を設けることで、第一面部21の上端での変形を抑制することができ、屈曲角度θ1を維持しやすくすることができる。これにより、外力作用時に第二面部22に伝達される外力を大きくすることができ、第二面部22を適切に変形させることができる。
(9)同様に、第二屈曲部27に第二ビード29を設けることで、第一面部21の下端での変形を抑制することができ、屈曲角度θ2を維持しやすくすることができる。これにより、外力作用時に第二面部22に伝達される外力を大きくすることができ、第二面部22を適切に変形させることができる。
【0044】
(10)図3に示すように、第一面部21にスリット30を設けることで、第一面部21の面内での屈曲変形を促すことができる。また、二つのビード28,29に挟まれた部位にスリット30を設けることで、屈曲角度θ1,θ2を維持したまま第一面部21の中間部を屈曲させることができる。これにより、図5(B)に示すように、第一面部21の上部を車両外側へと傾倒させることができ、変形のストロークを大きくすることができる。また、スリット30を梁部15の底に接近させることができ、変形後の前脚部6の形状を梁部15の溝形状に近づけることができる。つまり、梁部15の内側の空間を効率よく使って前脚部6を変形させることができる。
【0045】
(11)なお、二つの接続部35を結ぶラインを第二屈曲部27と平行に配置することで、前脚部6の変形形状を適正化することができる。例えば、図5(B)に示す状態からさらに変形が進行した場合に、第一面部21を梁部15の底に対してほぼ平行にすることができる。つまり、変形後の前脚部6の形状を梁部15の溝形状に近づけることができる。
【0046】
(12)図5(A),(B)に示すように、インナーパネル2の梁部15を前脚部6の下方に配置することで、前脚部6を梁部15の内側に折り込まれるように変形させることができる。したがって、梁部15の内側の空間を効率よく使って前脚部6を変形させることができる。
【0047】
[4.変形例]
上記の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、本実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0048】
上述の実施形態では、第二面部22の板面を二回屈曲させて隆起させることによって第一補強部31を形成している。一方、第二面部22の板面を一回屈曲させた部位を第一補強部31としてもよい。第二補強部32や第三補強部33についても同様であり、前脚部6の端辺を補強するために屈曲させた構造となっていればよい。少なくとも、第一補強部31と第二補強部32との間に接続部35を設けることで、上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。
【符号の説明】
【0049】
1 アウターパネル
2 インナーパネル
3 補強部材
4 前方面部
5 後方面部
6 前脚部(脚部)
7 後脚部(脚部)
8 第二後脚部(脚部)
10 車両用フード
11 グリル補強部
12 グリル
13 ヘッドランプ
14 縁部
15 梁部
16 フランジ
17 第二フランジ
18 階段フランジ
21 第一面部
22 第二面部
23 幅広部
24 幅狭部
25 第三面部
26 第一屈曲部
27 第二屈曲部
28 第一ビード
29 第二ビード
30 スリット
31 第一補強部
32 第二補強部
33 第三補強部
35 接続部
図1
図2
図3
図4
図5