(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 611
(21)【出願番号】P 2019074937
(22)【出願日】2019-04-10
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】相羽 貴司
(72)【発明者】
【氏名】蔵 圭司
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-058573(JP,A)
【文献】特開2018-157079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電層が積層された圧電体であって、前記複数の圧電層の積層方向と直交する第1方向に離れた第1端と第2端とを有する圧電体と、
前記積層方向と直交する面である第1面に形成された複数の個別電極と、
前記積層方向と直交する面であって、前記積層方向における位置が前記第1面及び前記圧電体の中立面の前記積層方向における位置と異なる第2面に形成された第1共通電極と、
前記積層方向における位置が前記第1面、前記第2面及び前記中立面の前記積層方向における位置と異なる第3面に形成された配線部と、を備え、
前記積層方向において前記中立面は前記第1面と前記第3面の間に位置し、前記第2面は前記第1面と前記第3面の間に位置し、
前記圧電体は、前記第2面から前記第3面まで貫通する少なくとも1つの貫通孔を有し、
前記複数の個別電極は、前記第1端と前記第2端との間において、互いに間隙をあけて配置された複数の個別電極列を構成し、
前記複数の個別電極列は、第1個別電極列と、前記第1個別電極列と前記第1方向において隣接する第2個別電極列を有し、前記第1個別電極列は、前記第1方向において前記第1端と前記第2個別電極列との間に位置し、
前記第1個別電極列を構成する前記複数の個別電極は、前記積層方向と直交する方向であって、且つ、前記第1方向と交差する第2方向に沿って並ぶように配置され、
前記第1共通電極は、
前記第2面において、前記第1方向における前記第1個別電極列と前記第2個別電極列との間位置を通過するように前記第2方向に沿って延びる第1延在部と、
前記第2面において、前記第1延
在部から前記第1端に向かって突出した複数の第1突出部と、を備え、
各第1突出部は、前記第1個別電極列を構成する前記複数の個別電極の一つと、前記積層方向において部分的に重なり、
前記第1延在部と、前記配線部とは、前記少なくとも1つの貫通孔の内側に配置された導電性材料によって電気的に導通し
、
前記複数の個別電極列は、前記第2個別電極列と前記第1方向において隣接する第3個別電極列を有し、前記第2個別電極列は、前記第1方向において前記第1個別電極列と前記第3個別電極列との間に位置し、
前記第1共通電極は、
前記第2面において、前記第1方向における前記第2個別電極列と前記第3個別電極列との間位置を通過するように前記第2方向に沿って延びる第2延在部を有し、
前記配線部は、前記第3面において、前記第1方向における前記第1延在部と前記第2延在部との間を前記第1方向に延在し、
前記第2延在部と、前記配線部とは、前記少なくとも1つの貫通孔の内側に配置された導電性材料によって電気的に導通していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記積層方向において、前記中立面は前記第2面と前記第3面との間にある請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第1共通電極は、前記第2面において、前記積層方向において前記配線部と重なる部分を有していない請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記圧電体は、前記第2方向に離れた第3端と第4端とを有し、
前記配線部は、前記第2面において、前記第1方向における前記第3端と前記第1延在部との間、及び、前記第1方向における前記第3端と前記第2延在部との間を前記第1方向に延在して、前記第1延在部と前記第2延在部とを連結する連結部分を有し、
前記配線部の前記第3面に配置された部分は、前記積層方向において、少なくとも一部が前記連結部分と重なっている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記配線部の前記第3面に配置された部分の前記第2方向の幅は、前記連結部分の前記第2方向の幅より広い請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
さらに、前記第3面に形成された第2共通電極を備え、
前記第2共通電極は、前記第1方向における前記第1個別電極列と前記第3個別電極列との間の位置を通過するように前記第2方向に延びる第3延在部と、前記第3延在部から前記第2端に向かって突出した複数の第2突出部と、を備え、
各第2突出部は、前記第1個別電極列を構成する前記複数の個別電極の一つと、前記積層方向において部分的に重なり、
前記配線部の前記第3面に配置された部分の、前記第2方向において前記第3延在部と重なる部分には、前記第4端から前記第3端に向かう向きに窪んだ凹部が形成され、
前記配線部の前記連結部分の、前記第2方向において前記第3延在部と重なる部分には、前記第3端から前記第4端に向かう向きに窪んだ凹部が形成されている請求項4又は5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
さらに、前記配線部の前記第3面に配置された部分の、前記第2方向において前記第3延在部と重ならない部分には、前記第3端から前記第4端に向かう向きに窪んだ凹部が形成されている請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記圧電体は、前記第2方向に離れた第3端と第4端とを有し、
前記配線部の前記第3面に配置された部分は、前記第3面において、前記第1端と前記第3端の角部分または前記第2端と前記第3端の角部分に配置されている請求項1~6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクなどの液体を媒体に向けて吐出する液体吐出ヘッド及び当該液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置として、記録媒体に対して相対的に移動しつつ、記録媒体にインクを吐出して画像を形成するインクジェットプリンタのインクジェットヘッドが知られている。例えば、特許文献1に示されるインクジェットプリンタにおいては、複数の圧電材料層(セラミックスシート)が積層された圧電体を有するインクジェットヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のインクジェットヘッドにおいては、圧電材料層には、複数の電極列が形成されていることに起因して、圧電材料層を焼成するときに圧電材料層に反り変形が発生することが知られている。特許文献1においては、圧電体に生じる反り変形を低減するための構造として、圧電材料層の表面にダミー電極を形成することを提案している。
【0005】
本発明の目的は、インクジェットヘッドの圧電体に生じる反り変形を低減させることができる別の構造を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、複数の圧電層が積層された圧電体であって、前記複数の圧電層の積層方向と直交する第1方向に離れた第1端と第2端とを有する圧電体と、
前記積層方向と直交する面である第1面に形成された複数の個別電極と、
前記積層方向と直交する面であって、前記積層方向における位置が前記第1面及び前記圧電体の中立面の前記積層方向における位置と異なる第2面に形成された第1共通電極と、
前記積層方向における位置が前記第1面、前記第2面及び前記中立面の前記積層方向における位置と異なる第3面に形成された配線部と、
を備え、
前記積層方向において前記中立面は前記第1面と前記第3面の間に位置し、前記第2面は前記第1面と前記第3面の間に位置し、
前記圧電体は、前記第2面から前記第3面まで貫通する少なくとも1つの貫通孔を有し、
前記複数の個別電極は、前記第1端と前記第2端との間において、互いに間隙をあけて配置された複数の個別電極列を構成し、
前記複数の個別電極列は、第1個別電極列と、前記第1個別電極列と前記第1方向において隣接する第2個別電極列を有し、前記第1個別電極列は、前記第1方向において前記第1端と前記第2個別電極列との間に位置し、
前記第1個別電極列を構成する前記複数の個別電極は、前記積層方向と直交する方向であって、且つ、前記第1方向と交差する第2方向に沿って並ぶように配置され、
前記第1共通電極は、
前記第2面において、前記第1方向における前記第1個別電極列と前記第2個別電極列との間位置を通過するように前記第2方向に沿って延びる第1延在部と、
前記第2面において、前記第1延在部から前記第1端に向かって突出した複数の第1突出部と、を備え、
各第1突出部は、前記第1個別電極列を構成する前記複数の個別電極の一つと、前記積層方向において部分的に重なり、
前記第1延在部と、前記配線部とは、前記少なくとも1つの貫通孔の内側に配置された導電性材料によって電気的に導通し、
前記複数の個別電極列は、前記第2個別電極列と前記第1方向において隣接する第3個別電極列を有し、前記第2個別電極列は、前記第1方向において前記第1個別電極列と前記第3個別電極列との間に位置し、
前記第1共通電極は、
前記第2面において、前記第1方向における前記第2個別電極列と前記第3個別電極列との間位置を通過するように前記第2方向に沿って延びる第2延在部を有し、
前記配線部は、前記第3面において、前記第1方向における前記第1延在部と前記第2延在部との間を前記第1方向に延在し、
前記第2延在部と、前記配線部とは、前記少なくとも1つの貫通孔の内側に配置された導電性材料によって電気的に導通していることを特徴とする液体吐出ヘッドが提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によれば、第1共通電極は、第1延在部と、第1延在部から突出する複数の第1突出部を有している。第1共通電極の第1延在部と、第1突出部とは、第2面に形成され、配線部は第3面に形成されている。配線部が第2面に形成されている場合に比べて、第2面に形成される金属膜の面積を小さくすることができる。さらに、第2面の金属膜の面積を小さくした分を、中立面を挟んで第1面と反対側にある第3面に形成することにより、圧電体が第3面に向かって凸になるように変形する反り変形を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタ1の概略を示す平面図である。
【
図2】本実施形態に係るインクジェットヘッド5と配線部材50の概略図である。
【
図3】本実施形態に係る積層体の概略分解図である。
【
図4】本実施形態に係るインクジェットヘッドの概略断面図であり、(a)は走査方向の概略断面図であり、(b)は搬送方向の概略断面図である。
【
図5】本実施形態に係る上部圧電層140の上面図である。
【
図6】本実施形態に係る中間圧電層240の上面図である。
【
図7】本実施形態に係る下部圧電層340の上面図である。
【
図8】(a)は、本実施形態に係る上部圧電層140と中間圧電層240の重なりを示す概略図であり、(b)は上部圧電層140と下部圧電層340の重なりを示す概略図である。
【
図9】本実施形態に係る導体膜350を説明するための、中間圧電層240及び下部圧電層340の一部拡大図である。
【
図10】変更形態に係る導体膜350及び延在部291、292を説明するための、中間圧電層240及び下部圧電層340の一部拡大図である。
【
図11】変更形態に係る導体膜360及び延在部295を説明するための、中間圧電層240及び下部圧電層340の一部拡大図である。
【
図12】変更形態に係る延在部352の切欠き部352aと、延在部292の切欠き部292aを説明するための、中間圧電層240及び下部圧電層340の一部拡大図である。
【
図13】変更形態に係る延在部352の切欠き部352a、352bと、延在部292の切欠き部292aを説明するための、中間圧電層240及び下部圧電層340の一部拡大図である。
【
図14】圧電体に発生する変形を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<プリンタの概略構成>
本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、プラテン2と、キャリッジ3と、キャリッジ駆動機構4と、インクジェットヘッド5と、搬送機構6と、コントローラ7と、インク供給ユニット8とを主に備えている。
【0010】
プラテン2の上面には、記録媒体である記録用紙100が載置される。キャリッジ3は、キャリッジ駆動機構4により、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10,11に沿って左右方向(以下、走査方向ともいう)に往復移動するように構成されている。キャリッジ駆動機構4は、ベルト12と、プラテン2の走査方向両側においてプラテン2を挟むように配置された2つのコロ13と、キャリッジ駆動モータ14とを備える。キャリッジ3にはベルト12が連結されている。ベルト12は、走査方向に離れて配置されている2つのコロ13の間を、上から見て、走査方向に長い長円状の環になるように張り回されている。
図1に示されるように、右側のコロ13はキャリッジ駆動モータ14の回転軸に連結されている。キャリッジ駆動モータ14を回転させることにより、ベルト12を2つのコロ13の周りで周回させることができる。これに伴ってベルト12に連結されたキャリッジ3を走査方向に往復移動させることができる。
【0011】
インクジェットヘッド5は、キャリッジ3に取り付けられており、キャリッジ3とともに走査方向に往復移動する。インク供給ユニット8は、4色(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)のインクがそれぞれ貯留された4つのインクカートリッジ17と、4つのインクカートリッジ17が装着されるカートリッジホルダ18と、不図示のチューブとを備える。インクジェットヘッド5と4つのインクカートリッジ17とは、不図示のチューブを通じて接続されている。これにより、4色のインクがインク供給ユニット8からインクジェットヘッド5へ供給される。
【0012】
インクジェットヘッド5の下面(
図1の紙面向こう側の面)には、複数のノズル23が形成されている(
図3参照)。複数のノズル23は、インクカートリッジ17から供給されたインクを、プラテン2に載置された記録用紙100に向けて吐出する。
【0013】
搬送機構6は、前後方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18,19を有する。搬送機構6は、2つの搬送ローラ18,19によって、プラテン2に載置された記録用紙100を前方(以下、搬送方向ともいう)に搬送する。
【0014】
コントローラ7は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、制御回路を含むASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を備える。コントローラ7は、ROMに格納されたプログラムに従い、ASICにより、記録用紙100への印刷等の各種処理を実行する。例えば、印刷処理においては、コントローラ7は、PC等の外部装置から入力された印刷指令に基づいて、インクジェットヘッド5やキャリッジ駆動モータ14等を制御して、記録用紙100に画像を印刷させる。具体的には、キャリッジ3とともにインクジェットヘッド5を走査方向に移動させながらインクを吐出させるインク吐出動作と、搬送ローラ18、19によって記録用紙100を搬送方向に所定量搬送する搬送動作とを、交互に行わせる。
【0015】
インクジェットヘッド5は、流路ユニット20、振動板30、圧電体40、配線部材50を主に備えている(
図2参照)。流路ユニットは、
図2、3に示すように、5枚の金属プレート21A~21Eと、ノズルプレート22を含む。また、流路ユニット20の金属プレート21Aの上には、振動板30が接合されている。以下の説明においては、流路ユニットと振動板30とを合わせたものを、積層体60と呼ぶ。つまり、積層体60は、
図3に示すように、振動板30と、5枚の金属製のプレート21A~21Eと、ノズルプレート22を有し、これらのプレートをこの順に積層し、接合したものである。以下の説明においては、積層体60においてこれらのプレートが積層された方向を積層方向と呼ぶ。
【0016】
振動板30は、搬送方向に長尺な略矩形状の金属プレートである。なお、金属プレート21A~21E及びノズルプレート22も同様の平面形状を有する略矩形状のプレートである。
図2、
図3に示されるように、振動板30の、搬送方向の端部には、後述のマニホールドにインクを供給するためのインク供給口となる4つの開口31a~31dが形成されている。4つの開口31a~31dは走査方向(左右方向)に並んで配置されている。開口31aはイエローインク用のインク供給口であり、開口31bはマゼンタインク用のインク供給口であり、開口31cはシアンインク用のインク供給口であり、開口31dは、ブラックインク用のインク供給口である。ブラックインク用のマニホールドは3本あり、開口31dは3本のマニホールドにブラックインクを供給すための供給口である。これに対して、カラーインク(シアン、マゼンタ、イエローの各インク)用のマニホールドは1本であり、開口31a~31cはそれぞれ、1本のマニホールドにカラーインクの1つを供給するための供給口である。そのため、開口31dの面積は、開口31a~31cの面積よりも大きくなっている。
【0017】
プレート21Aは、複数の圧力室26として機能する開口が、規則的に形成された金属プレートである。また、振動板30の4つの開口31a~31dと重なる位置には、それぞれ開口が形成されている。複数の圧力室26は、配列ピッチPで搬送方向に配列された圧力室列25を構成しており、そのような圧力室列25が12列形成されている。12列の圧力室列25は、走査方向(左右方向)に並んで配置されている。
【0018】
12列の圧力室列25のうち、6列はカラーインク用の圧力室列25であり、残りの6列はブラックインク用の圧力室列25である。
図2に示されるように、6列のブラックインク用の圧力室列25は、搬送方向において、開口31dと並ぶように設けられている。6列のカラーインク用の圧力室列25は、2列のシアンインク用の圧力室列25、2列のマゼンタインク用の圧力室列25、2列のイエローインク用の圧力室列25を有している。2列のシアンインク用の圧力室列25は、搬送方向において、開口31cと並ぶように設けられている。2列のマゼンタインク用の圧力室列25は、搬送方向において、開口31bと並ぶように設けられている。2列のイエローインク用の圧力室列25は、搬送方向において、開口31aと並ぶように設けられている。
【0019】
2列のシアンインク用の圧力室列25の間では、搬送方向における圧力室26の位置が、各圧力室列25の配列ピッチPの半分(P/2)だけずれている。2列のマゼンタインク用圧力室列25、2列のイエローインク用の圧力室列25についても同様である。6列のブラックインク用の圧力室列25は、搬送方向おける圧力室26の位置が、各圧力室列25の配列ピッチPの半分(P/2)だけずれている2つの圧力室列25(圧力室列25のペア)を3組有している。なお、
図2においては明確には図示されていないが、3組の圧力室列25のペアは、それぞれ、互いに配列ピッチPの1/3だけ搬送方向にずれて配置されている。そのため、全体として、6つの圧力室列25は、搬送方向おける圧力室26の位置が、互いに、各圧力室列25の配列ピッチPの1/6だけずれている。
【0020】
プレート21Bには、後述のマニホールド27(共通インク室)から各圧力室26へ通じる流路を形成する連通孔28a及び各圧力室26から後述の各ノズル23へ通じる流路を形成する連通孔28bが形成されている。プレート21Cの上面には、圧力室26とマニホールド27とを連通する連通路28cが凹部として形成されている。さらに、プレート21Cには、マニホールド27から圧力室26へ通じる流路を形成する連通穴28d及び圧力室26からノズル23へ通じる流路を形成する連通穴28eがそれぞれ形成されている。また、プレート21B、21Cの、振動板30の4つの開口31a~31dと重なる位置には、それぞれ開口が形成されている。プレート21D,21Eには、マニホールド27を形成する貫通孔29a,29bが形成され、さらに、圧力室26からノズル23へ通じる流路を形成する連通穴29c、29dがそれぞれ形成されている。
【0021】
ノズルプレート22は合成樹脂(例えばポリイミド樹脂)のプレートであり、プレート21Aに形成された圧力室26に対応して、ノズル23が形成されている。
【0022】
これらの振動板30、プレート21A~21E及びノズルプレート22が積層されて接合されることにより、
図4(a)、(b)に示されるような、マニホールドから圧力室26を経てノズル23に至る複数の流路が形成されている。同時に、マニホールド27に対してインクを供給するためのインク供給流路も形成される。
【0023】
振動板30及びプレート21A~21Eは金属プレートであるため、金属拡散接合により接合できる。また、ノズルプレート22は樹脂製のプレートであるため、金属拡散接合ではなく、接着剤などによりプレート21Eに接合される。なお、ノズルプレート22は金属プレートであってもよく、その場合には、他のプレートと同様に金属拡散接合により接合することができる。あるいは、全てのプレートを接着剤などにより接合してもよい。
【0024】
<圧電体40>
例えば
図2,3に示されるように、振動板30の上には、圧電体40が配置されている。圧電体40は略矩形状の平面形状を有している。
図4(a),(b)に示されるように、圧電体40には複数の圧電素子401が形成されている。複数の圧電素子401は、複数の圧力室26にそれぞれ対応して設けられている。各圧電素子401は振動板30と協働して、対応する圧力室26の容積を変える。これにより、各圧電素子401は振動板30と協働して、対応する圧力室26内のインクに圧力を加えて、当該圧力室26に連通するノズル23からインクを吐出させるためのエネルギーをインクに付与している。
【0025】
以下、圧電体40の構成について説明する。
図4(a),(b)に示されるように、圧電体40は、3つの圧電層(上部圧電層140、中間圧電層240、下部圧電層340)、個別電極(上部電極)141、中間共通電極(中間電極)241、及び下部共通電極(下部電極)341を有する。振動板30の上には、下部圧電層340、中間圧電層240、上部圧電層140がこの順に積層されている。3つの圧電層140、240、340は、例えば、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料で構成されている。あるいは、3つの圧電層140、240、340は、鉛が含有されていない非鉛系の圧電材料で形成されていてもよい。下部圧電層340の上面には、下部共通電極341が配置され、中間圧電層240の上面には、中間共通電極241が配置され、上部圧電層140の上面には個別電極141が配置されている。
【0026】
以下の説明において、上部圧電層140の走査方向の両端部を端部140L、140Rと呼び、搬送方向の両端部を端部140U、140Dと呼ぶ(
図5参照)。中間圧電層240の走査方向の両端部を端部240L、240Rと呼び、搬送方向の両端部を端部240U、240Dと呼ぶ(
図6参照)。下部圧電層340の走査方向の両端部を端部340L、340Rと呼び、搬送方向の両端部を端部340U、340Dと呼ぶ(
図7参照)。
【0027】
図5に示されるように、上部圧電層140の走査方向の端部140Lには、搬送方向に1列に並んだ6つの導体膜180Lが形成されている。各導体膜180Lには、それぞれ、スルーホール181Lと端子182Lが形成されている。スルーホール181Lの内側には、導体膜180Lを形成する導電性材料と同じ導電性材料が充填されている。上部圧電層140の搬送方向の端部140Uには、走査方向に1列に並んだ7つの導体膜180Uが形成されている。各導体膜180Uには、それぞれ、スルーホール181Uと端子182Uが形成されている。7つの導体膜180Uのスルーホール181Uは、後述の中間共通電極241の7つの延在部244の搬送方向の端部と積層方向において重なるように配置されている。各スルーホール181Uの内側には、導体膜180Uを形成する導電性材料と同じ導電性材料が充填されている。スルーホール181L、181U内の導電体は、後述のように、中間圧電層240の上面に形成された中間共通電極241(
図6参照)と、下部圧電層340の上面に形成された導体膜350(
図7参照)と導通している。端子182L、182Uは、後述のFPC51の不図示の端子と接続される。端子182L、182Uは、中間共通電極241に対して、FPC51を通じてドライバIC52から所定の電位(例えば24V)を供給するための端子として機能している。
【0028】
上部圧電層140の走査方向の端部140Rには、搬送方向に1列に並んだ6つの導体膜180Rが形成されている。各導体膜180Rには、それぞれ、スルーホール181Rと端子182Rが形成されている。スルーホール181Rの内側には、導体膜180Rを形成する導電性材料と同じ導電性材料が充填されている。スルーホール181Rの内部に充填された導電体は後述のスルーホール281R(
図6参照)の内部に充填された導電体を通じて下部共通電極341(
図7参照)と導通している。端子182Rは、後述のFPC51の不図示の端子と接続される。端子182Rは、下部共通電極341に対して、FPC51を通じてドライバIC52から所定の電位(例えば0V)を供給するための端子として機能している。
【0029】
<個別電極141>
図4(a),(b)に示されるように、上部圧電層140の上面の、複数の圧力室26にそれぞれ対応した位置には、複数の個別電極141が形成されている。個別電極141は、例えば、白金(Pt)やイリジウム(Ir)などで形成されている。
図5に示されるように、12列の圧力室列25に対応して、12列の個別電極列150が形成されている。12列の個別電極列150は走査方向に並んでいる。各個別電極列の各個別電極列150は、搬送方向に所定のピッチPで並んだ37個の個別電極141を含んでいる。12列の個別電極列150のうち、走査方向(左右方向)において上部圧電層140の端部140Lに近いものから数えてから1番目と2番目、3番目と4番目、5番目と6番目、7番目と8番目、9番目と10番目、11番目と12番目の個別電極列150はそれぞれ個別電極列のペアを形成している。なお、以下の説明においては、走査方向において、上部圧電層140の端部140Lに近いものから数えてn番目にあるものを、単に左からn番目と呼んでいる。中間圧電層240及び下部圧電層340においても同様に、走査方向において、中間圧電層240の端部240L(
図6参照)に近いものから数えてn番目にあるもの、及び、下部圧電層340の端部340L(
図7(a)参照)に近いものから数えてn番目にあるもの、をいずれも左からn番目と呼んでいる。各個別電極列150のペアの間では、搬送方向における個別電極141の位置が、各個別電極列150の配列ピッチPの半分(P/2)だけずれている。また、左から7番目と8番目、9番目と10番目、11番目と12番目の各個別電極列150のペアは、搬送方向において、互いに、上記配列ピッチPの1/3だけずれている。そのため、左から7番目と8番目、9番目と10番目、11番目と12番目の各個別電極列150は、互いに、搬送方向における個別電極141の位置が、各個別電極列150の配列ピッチPの1/6だけずれている。
【0030】
12列の個別電極列150のうち、左から1番目と2番目、3番目と4番目、5番目と6番目の個別電極列150のペアは、それぞれ、シアンインク用の圧力室列25、マゼンタインク用の圧力室列25、イエローインク用の圧力室列25に対応している。また、左から7番目と8番目、9番目と10番目、11番目と12番目の3つの個別電極列のペアは、ブラックインク用の圧力室列25に対応している。
【0031】
各個別電極141は、矩形の平面形状を有する幅広部142と、幅広部142から左右方向(走査方向)のいずれか一方に延びる幅狭部143とを備える。各幅狭部143には、後述の配線部材50のFPC51に設けられた不図示の接点と電気的に接合されるバンプ143aが形成されている。
図5に示されるように、12列の個別電極列150のうち、左から1番目、3番目、5番目、8番目、10番目、12番目の個別電極列150を構成する個別電極141においては、幅広部142の走査方向の端部142Rから上部圧電層140の端部140Rに向かって幅狭部143が走査方向に延びている。12列の個別電極列150のうち、左から2番目、4番目、6番目、7番目、9番目、11番目の個別電極列150を構成する個別電極141においては、幅広部142の走査方向の端部142Lから上部圧電層140の端部140Lに向かって幅狭部143が走査方向に延びている。なお、幅狭部143は、対応する圧力室26に形成されたノズルと走査方向において反対側に延在している(
図4(a)参照)。つまり、左から1番目、3番目、5番目、8番目、10番目、12番目の圧力室列25を構成する圧力室26においては、各圧力室26の、走査方向の中央よりも上部圧電層140の端部140Lに近い位置にノズル23が形成されている。左から2番目、4番目、6番目、7番目、9番目、11番目の圧力室列25を構成する圧力室26においては、各圧力室26の、走査方向の中央よりも上部圧電層140の端部140Rに近い位置にノズル23が形成されている。
【0032】
走査方向に隣り合う個別電極列150のうち、(1)左から1番目の個別電極列150と左から2番目の個別電極列150、(2)左から3番目にある個別電極列150と左から4番目の個別電極列150、(3)左から5番目にある個別電極列150と左から6番目の個別電極列150、(4)左から8番目にある個別電極列150と左から9番目の個別電極列150、(5)左から10番目にある個別電極列150と左から11番目の個別電極列150は、それぞれ、個別電極列150を構成する個別電極141の幅狭部143が、走査方向において互いに向かい合うように配置されている。そのため、これらの2つの個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142の、走査方向における間隔の大きさ(L1)は、走査方向において幅狭部143が向き合っていない2つの個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142の、走査方向における間隔の大きさ(L2)よりも大きい。なお、左から6番目の個別電極列150と、左から7番目の個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142の、走査方向における間隔の大きさ(L3)は、L1,L2よりもさらに大きい。これは、左から1番目~6番目までの個別電極列150がカラーインク用の圧力室列25に対応し、左から7番目~12番目までの個別電極列150がブラックインク用の圧力室列25に対応していることに起因している。
【0033】
走査方向における、左から6番目の個別電極列150と、左から7番目の個別電極列150との間には、搬送方向に個別電極141の配列ピッチPと同じ配列ピッチPで並ぶダミー電極171により構成されたダミー電極列170が設けられている。ダミー電極171は、個別電極141の幅広部142に対応するように作られたものであり、ダミー電極171の大きさ及び形状は、個別電極141の幅広部142の大きさ及び形状とほぼ同じである。なお、ダミー電極171にはドライバIC51から電位が供給されるわけではないので、個別電極141の幅狭部143に相当する部分は設けられていない。左から6番目の個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142とダミー電極171との走査方向における間隔の大きさと、左から7番目の個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142とダミー電極171との走査方向における間隔の大きさとは、L1となっている。
【0034】
上部圧電層140の上面に形成される個別電極141、ダミー電極171、導体膜180L、180R、180Uは、いずれもスクリーン印刷により形成することができる。これらは、同じ導電性材料を用いて同一の工程で印刷して形成することができる。あるいは、別の工程で印刷して形成することもできる。
【0035】
<中間共通電極241>
図4(a)、(b)に示されるように、中間圧電層240の上面には、7つの中間共通電極241が形成されている。
図6に示されるように、各中間共通電極241は、搬送方向に延在する延在部244と、延在部244から走査方向に突出する複数の突出部245とを有する。左から2番目から7番目の中間共通電極241の延在部244においては、複数の突出部245は各延在部244から走査方向の両側に突出している。左から1番目の中間共通電極241の延在部243においては、複数の突出部245は、延在部243から中間圧電層240の端部240Rに向かって走査方向に突出している。なお、以下の説明において、左からn番目の中間共通電極241の延在部243のことを、単に左からn番目の延在部243と記載する。
【0036】
図8(a)に示されるように、各延在部244は、個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142と積層方向において重ならないように、走査方向において隣り合う2つの個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142の間を、搬送方向に延びている。
図6に示されている7つの延在部244のうち、左から2番目の延在部244は、左から2番目と3番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から3番目の延在部244は、左から4番目と5番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から4番目の延在部244は、左から6番目の個別電極列150を構成する幅広部142と、ダミー電極列170を構成するダミー電極171の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から5番目の延在部244は、左から7番目と8番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から6番目の延在部244は、左から9番目と10番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から7番目の延在部244は、左から11番目と12番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。
【0037】
左側から4番目の延在部244は、カラーインク用の圧力室列25とブラックインク用の圧力室列25との境に位置している。左側から4番目の延在部244の幅は、L1である(
図6参照)。カラーインク用の圧力室列25とブラックインク用の圧力室列25との境において、走査方向における圧力室列25間の間隔が広くなっていることに応じて、左側から4番目の延在部244の幅は他の6つ延在部244の幅よりも広い。なお、他の6つの延在部244の幅は全て同じである。なお、左から2、3、5、6、7番目の延在部244に関して、走査方向において各延在部244を挟む2つの個別電極列150を構成する個別電極141は、走査方向において幅広部142が互いに向かい合うように配置されている。2つの幅広部142の、走査方向における間隔の大きさはL2である(
図5参照)ので、これに合わせて、上記5つの延在部244の走査方向の幅もL2となっている(
図6参照)。なお、本明細書において、所定方向の幅とは、ある一箇所における幅を意味するのではなく、所定方向に直交する直交方向における平均値を意味する。
【0038】
次に、
図8(a)を参照しつつ、圧力室26、個別電極141及び中間共通電極241の位置関係について説明する。
図8(a)においては、走査方向に並んだ4列の個別電極の列が図示されているが、ここでは、
図8(a)の左から2番目の個別電極の列に含まれる個別電極141と、それと積層方向において重なる圧力室26及び中間共通電極241を例に挙げてこれらの位置関係を説明する。
【0039】
圧力室26の走査方向の長さは、個別電極141の幅広部142の走査方向の長さよりも長い。なお、幅広部142と幅狭部143を合わせた個別電極141全体の走査方向の長さは、圧力室26の走査方向の長さよりも長い。中間共通電極241の突出部245の走査方向の長さは、個別電極141の幅広部142の走査方向の長さとほぼ同じである。
【0040】
ノズル23は、走査方向において、圧力室の走査方向の端部26Lよりも端部26Rに近い位置にある。圧力室26の端部26Rは、走査方向において、延在部244の走査方向の端部244Lと端部244Rの間に位置している。圧力室26の端部26Lは、走査方向において、幅広部142の端部142Lと幅狭部143の走査方向の端部143Lの間に位置している。中間共通電極241の突出部245の走査方向の端部245Lと、幅広部142の端部142Lは、走査方向において、ほぼ同じ位置にある。個別電極141の幅広部142の走査方向の端部141Rと、延在部244の端部244Lと、ノズル23とは、走査方向においてほぼ同じ位置にある。
【0041】
中間共通電極241の突出部245の搬送方向の中央位置と、圧力室26の搬送方向の中央位置と、個別電極141の幅広部142の搬送方向の中央位置は、搬送方向においてほぼ一致している。圧力室26の搬送方向の長さは、中間共通電極241の突出部245の搬送方向の長さよりも長く、これらの長さの比は約2:1となっている。そのため、圧力室26の搬送方向の両端部分(圧力室の搬送方向の長さの1/4程度)は、積層方向において、中間共通電極241の突出部245と重なっていない。また、個別電極141の幅広部142の、搬送方向の長さは、圧力室26の搬送方向の長さよりも長い。
【0042】
<導体膜280L>
図6、9に示されるように、中間圧電層240の走査方向の端部240Lの、積層方向において6つの導体膜180Lと重なる位置には6つの導体膜280Lが形成されている。各導体膜280Lの、積層方向においてスルーホール181Lと重なる位置にはスルーホール281Lが形成されている。スルーホール281Lの内部には、導体膜280Lを形成する導電性材料と同じ導電性材料が充填されている。スルーホール281Lの内部に充填された導電性材料は、スルーホール181Lの内部に充填された導電性材料と導通している。
【0043】
<導体膜280U>
図6、9に示されるように、中間圧電層240の搬送方向の端部240Uの、積層方向において7つの導体膜180Uと重なる位置には、7つ導体膜280Uが形成されている。各導体膜280Uの、積層方向においてスルーホール181Uと重なる位置にはスルーホール281Uが形成されている。スルーホール281Uの内部には、導体膜280Uを形成する導電性材料と同じ導電性材料が充填されている。スルーホール281Uの内部の導電性材料は、スルーホール181Uの内部に充填された導電性材料と導通している。7つの導体膜280Uの走査方向における位置はそれぞれ、中間共通電極241の7つの延在部244の走査方向における位置と同じであり、7つの導体膜280Uは、中間共通電極241の7つの延在部244とそれぞれ導通している。
【0044】
<導体膜280R>
図6に示されるように、中間圧電層240の走査方向の端部240Rの、積層方向において6つの導体膜180Rと重なる位置には6つの導体膜280Rが形成されている。各導体膜280Rの、積層方向においてスルーホール181Rと重なる位置にはスルーホール281Rが形成されている。スルーホール281Rの内部には、導体膜280Rを形成する導電性材料と同じ導電性材料が充填されている。スルーホール281Rの内部の導電性材料は、スルーホール181Rの内部に充填された導電性材料と導通している。
【0045】
中間圧電層240の上面に形成される7つの中間共通電極241、導体膜280L、280R、280Uは、いずれもスクリーン印刷により形成することができる。これらは、同じ導電性材料を用いて同一の工程で印刷して形成することができる。あるいは、別の工程で印刷して形成することもできる。
【0046】
<下部共通電極341>
図4に示されるように、下部圧電層340の上面には、下部共通電極341が形成されている。
図7に示されるように、下部共通電極341は、下部圧電層340の搬送方向の端部340Dを覆うように走査方向(左右方向)に延在する延在部342と、下部圧電層340の走査方向の端部340Rを覆うように搬送方向に延在する延在部343と、延在部342から下部圧電層340の搬送方向の端部340Uに向かって搬送方向に延在する6本の延在部344と、各延在部344から走査方向の両側に突出する複数の突出部345とを有する。また、延在部343からも複数の突出部345が下部圧電層340の走査方向の端部340Lに向かって走査方向に突出している。なお、延在部342は、積層方向において圧力室26及び個別電極141と重ならない位置にある。また、積層方向において、中間共通電極241とも重ならない位置にある。
【0047】
6本の延在部344は、それぞれ、個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142と積層方向において重ならないように、走査方向において隣り合う2つの個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142の間を、搬送方向に延びている。
図6において、6つの延在部344のうち、左から1番目の延在部244は、左から1番目と2番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から2番目の延在部344は、左から3番目と4番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から3番目の延在部244は、左から5番目と6番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から3番目の延在部244は、ダミー電極列170を構成するダミー電極171と、左から7番目の個別電極列150を構成する幅広部142との走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から5番目の延在部344は、左から8番目と9番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。左側から6番目の延在部344は、左から10番目と11番目の個別電極列150を構成する幅広部142の走査方向における間を通るように搬送方向に延在している。
【0048】
なお、左側から4番目の延在部344は、カラーインク用の圧力室列25とブラックインク用の圧力室列25との境に位置している。6つの延在部344の幅は同じである。左から4番目の延在部344を除く5つの延在部344に関して、走査方向において各延在部344を挟む2つの個別電極列150を構成する個別電極141は、走査方向において幅狭部143が互いに向き合うように配置されている(
図5参照)。つまり、左から4番目の延在部344を除く5つの延在部344に関して、走査方向において各延在部344を挟む2つの個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142の、走査方向における間隔の大きさはL1となっている。また、左から4番目の延在部344を走査方向に挟む、ダミー電極列170を構成するダミー電極171と左から7番目の個別電極列150を構成する個別電極141の幅広部142との間の走査方向における間隔の大きさもL1となっている。これに合わせて、6つの延在部344の走査方向における幅も全てL1となっている(
図7参照)。
【0049】
次に、
図8(b)を参照しつつ、圧力室26、個別電極141及び下部共通電極341の位置関係について説明する。
図8(b)においては、走査方向に並んだ4列の個別電極の列が図示されているが、ここでは、
図8(b)の左から2番目の個別電極の列に含まれる個別電極141と、それと積層方向において重なる圧力室26及び下部共通電極341を例に挙げてこれらの位置関係を説明する。
【0050】
下部共通電極341の突出部345の走査方向の長さは、個別電極141の幅広部142の走査方向の長さとほぼ同じである。
【0051】
圧力室26の端部26Lは、走査方向において、延在部344の走査方向の端部344Lと端部344Rの間に位置している。圧力室26の端部26Rは、下部共通電極341の突出部345の走査方向の端部345Rと走査方向においてほぼ同じ位置にある。下部共通電極341の延在部344の端部344Rは、走査方向において、圧力室26aの端部26Lと個別電極141の幅広部142の端部142Lとの間にある。
【0052】
なお、上述のように、幅広部142の端部142Lは、中間共通電極241の突出部245の走査方向の端部245Lと、走査方向においてほぼ同じ位置にある(
図8(a)参照)。そのため、中間共通電極241の突出部245と、下部共通電極341の延在部344とは、積層方向において重なっていないことがわかる。また、中間共通電極241の延在部244の端部244Lは、ノズル23と走査方向においてほぼ同じ位置にある(
図8(a)参照)。そのため、下部共通電極341の突出部345と、中間共通電極241の延在部244とが走査方向において重なっていることが分かる。
【0053】
下部共通電極341の突出部345の搬送方向の中央位置は、搬送方向に隣り合う2つの圧力室26の間の間隙の中央位置と、搬送方向においてほぼ一致している。搬送方向に隣り合う2つの圧力室26の間の間隙の、搬送方向の長さは、下部共通電極341の突出部345の搬送方向の長さよりも短い。そのため、圧力室26の搬送方向の両端部分は、積層方向において、下部共通電極341の突出部345と重なっている。なお、圧力室26と下部共通電極341の突出部345との積層方向における重なり部分の、搬送方向の長さは、圧力室26の搬送方向の長さの1/4よりも短い。上述のように、圧力室26の搬送方向の両端部分において、圧力室26の搬送方向の長さの1/4程度は、積層方向において、中間共通電極241の突出部245と重なっていない。そのため、下部共通電極341の突出部345と中間共通電極241の突出部245とは積層方向において重なっていない。
【0054】
なお、上述のように、圧力室26の搬送方向の中央位置と、個別電極141の幅広部142の搬送方向の中央位置は、搬送方向においてほぼ一致しており、且つ、個別電極141の幅広部142の、搬送方向の長さは、圧力室26の搬送方向の長さよりも長い。そのため、幅広部142の搬送方向の両端部分は、積層方向において、下部共通電極341の突出部345と重なっている。幅広部142と下部共通電極341の突出部345との積層方向における重なり部分の、搬送方向の長さは、圧力室26と下部共通電極341の突出部345との積層方向における重なり部分の、搬送方向の長さよりも長い。
【0055】
<導体膜350>
図7、9に示されるように、下部圧電層340には、導体膜350が形成されている。導体膜350は本開示の配線部の一部である。導体膜350は、下部圧電層340の端部340Lにおいて搬送方向に延在する延在部351と、下部圧電層340の端部340Uにおいて延在部351から端部340Rに向かって走査方向に延在する延在部352とを有する。
【0056】
延在部351は、上部圧電層140の導体膜180L及びスルーホール181Lと積層方向において重なる位置にある。
図9に示されるように、延在部351は、中間圧電層240の導体膜280L及びスルーホール281Lとも積層方向において重なる位置にある。延在部352は、上部圧電層140の導体膜180U及びスルーホール181Uと積層方向において重なる位置にある。また、延在部352は、中間圧電層240の導体膜280U及びスルーホール281Uとも積層方向において重なる位置にある。なお、延在部351は、下部圧電層340の端部340Lと端部340Uとの角部分において、延在部352と連結している。
【0057】
延在部351は、スルーホール181L、281Lに充填された導電性材料を通じて、上部圧電層140の導体膜180L及び端子182Lと導通している。延在部352は、スルーホール181U、281Uに充填された導電性材料を通じて、上部圧電層140の導体膜180U及び端子182Uと導通している。さらに、延在部352は、スルーホール281Uに充填された導電性材料を通じて、中間圧電層240の導体膜280Uと導通している。上述のように、7つの導体膜280Uは、7つの中間共通電極241の延在部244とそれぞれ導通している。
【0058】
このように、6つの導体膜180Lと、6つの導体膜280Lと、7つの導体膜180Uと、7つの導体膜280Uと、下部圧電層340の導体膜350の延在部351、352とは、スルーホール181L、181U、281L、281Uに充填された導電性材料と、を介して、7つの中間共通電極241と導通している。
図6、9に示されるように、中間圧電層240の表面においては、7つの中間共通電極241は互いに接続されていない。しかしながら、
図7、9に示されるように、下部圧電層340の導体膜350等を通じて、7つの中間共通電極241は互いに接続されている。端子182L及び端子182Uの全てが、全ての中間共通電極241と電気的に繋がっているので、ドライバIC52から端子182L及び端子182Uに供給された電荷を、全ての延在部244に分配することができる(
図9参照)。6つの導体膜180Lと、6つの導体膜280Lと、7つの導体膜180Uと、7つの導体膜280Uと、下部圧電層340の導体膜350の延在部351、352と、スルーホール181L、181U、281L、281Uに充填された導電性材料とが、本開示の配線部に対応する。
【0059】
下部圧電層340の上面に形成される下部共通電極341と、導体膜350は、いずれもスクリーン印刷により形成することができる。これらは、同じ導電性材料を用いて同一の工程で印刷して形成することができる。あるいは、別の工程で印刷して形成することもできる。
【0060】
<配線部材50>
図2に示されるように、配線部材50は、フレキシブル配線基板51(FPC51)と、FPC51に配置されたドライバIC52とを備える。フレキシブル配線基板51に形成された不図示の接点は、各個別電極141の幅狭部143に設けられたバンプ143aと電気的に接続されており、各個別電極141に対して、個別に電位を設定できる。また、上述のように、ドライバIC52は、中間共通電極241及び下部共通電極341に対して、所定の定電位を設定することができる。
【0061】
<圧電素子401の駆動>
上述のように圧電体40は、複数の圧力室26を覆うように振動板30の上に配置された、平面視で略矩形状の板状の部材である(例えば
図2参照)。圧電体40には、複数の圧力室26にそれぞれ対応して設けられた複数の圧電素子401が形成されている。以下、圧電素子401の駆動について説明する。上部圧電層140の、積層方向において個別電極141と中間共通電極241とに挟まれた部分(以下、第1活性部41という(
図4(a),(b)参照))は、積層方向に分極している。また、上部圧電層140と中間圧電層240の、積層方向において個別電極141と下部共通電極341とに挟まれた部分(以下、第2活性部42という(
図4(a),(b)参照))も、積層方向に分極している。ここで、ドライバIC51が通電されている状態において、中間共通電極241には常に所定の第1電位(例えば24V)が印加され、下部共通電極341には常に所定の第2電位(例えば0V)が印加されている。また、各個別電極141には第1電位と第2電位とが選択的に印加される。具体的には、ある個別電極141に対応する圧力室26からインクを吐出しないときには、個別電極141には第2電位が付与されている。このとき、個別電極141と下部共通電極341との間には電位差が生じないので、第2活性部42は変形しない。しかしながら、個別電極141と中間共通電極241との間には、第1電位と第2電位の電位差(ここでは24V)が生じている。これにより、第1活性部41は下側(圧力室26側)に凸になるように変形している。
【0062】
ある個別電極141に対応する圧力室26からインクを吐出するときには、個別電極141に第1電位が付与された後、第2電位に戻される。つまり、第2電位から第1電位に上がり、所定時間経過後に第2電位に戻るようなパルス状の電圧信号が個別電極141に付与される。個別電極141に第1電位が付与されるときには、個別電極141と中間共通電極241との間の電位差がなくなるので、下側(圧力室26側)に凸になるように変形していた第1活性部41が、元に戻ろうとする。このとき、第1活性部41は上に向かって変位するので、これにより、圧力室26の体積が増大する。このとき、個別電極141と下部共通電極341との間には電位差(ここでは24V)が生じ、第2活性部42は圧力室26の中央部分を上に持ち上げるように変形するので、圧力室26の体積の増加を大きくすることができる。次に、個別電極141の電位が第2電位に戻ると、上述のように、個別電極141と下部共通電極341との間には電位差がなくなるので、第2活性部42はもとにもどるが、個別電極141と中間共通電極241との間には、再び第1電位と第2電位の電位差(ここでは24V)が生じる。これにより、第1活性部41は下側(圧力室26側)に凸になるように変形する。このときに圧力室26に加えられた圧力により、圧力室26内のインクがノズル23から吐出される。
【0063】
<圧電層の反り変形について>
図5に示されるように、上部圧電層140の表面には、個別電極141などの金属膜が形成されている。
図6に示されるように、中間圧電層240の表面には、中間共通電極241などの金属膜が形成されている。
図7に示されるように、下部圧電層340の上面には、下部共通電極341などの金属膜が形成されている。
【0064】
一般に、圧電層の表面に個別電極、中間共通電極、下部共通電極などの金属膜を形成する場合には、圧電材料のシートの上に印刷などの手法により金属膜を形成し、それを焼成している。その際、
図14に示されるように、焼成された圧電層に圧縮方向の熱応力が残留する。以下の説明においては、焼成した圧電層に残留する熱応力を単に残留応力と呼ぶ。残留応力の強さは、金属膜の面積が大きいほど大きくなる。積層方向において、中立面NPを挟んで上側に残留する残留応力の大きさと、下側に残留する残留応力の大きさが異なる場合には、これらの残留応力の差に応じて、圧電体40が積層方向に反るように変形する。本明細書においては、このような圧電体40の積層方向の反りを反り変形と呼ぶ。
【0065】
なお、圧電層の表面に、金属膜の疎な部分と密な部分とが形成される場合、これらの間で残留応力の大きさが異なるため、焼成された圧電層に波状の変形(ウネリ)が生じることも知られている(
図13参照)。特に、金属膜が疎な部分と密な部分とが所定の方向に並んでいる場合には、当該所定の方向において、圧電層のウネリが顕著に現れると考えられる。本明細書においては、このような圧電層の波状の変形(ウネリ)は、上述の反り変形と区別している。
【0066】
積層方向において、中立面NPを挟んで上側と下側に金属膜が形成されている場合、それぞれの金属膜から中立面NPまでの積層方向における距離がほぼ同じである場合には、中立面NPの上側の金属膜の面積と、中立面NPの下側の金属膜の面積の大小関係により、圧電体が上側に反るか下側に反るかが決まる。金属膜の面積が大きいほど、残留応力が大きくなる。そのため、中立面NPの上側の金属膜の面積が、下側の金属膜の面積よりも大きい場合には、圧電体が下側に凸になるような反り変形が発生する。逆に、中立面NPの下側の金属膜の面積が、上側の金属膜の面積よりも大きい場合には、圧電体が上側に凸になるような反り変形が発生する。
【0067】
積層方向において、中立面NPを挟んで上側と下側に金属膜が形成されている場合であって、それぞれの金属膜から中立面NPまでの積層方向における距離が異なる場合には、中立面NPの上側の金属膜の面積と中立面NPから上側の金属膜までの積層方向の距離との積と、中立面NPの下側の金属膜の面積と中立面NPから下側の金属膜までの積層方向の距離との積との大小関係により、圧電体が上側に反るか下側に反るかが決まる。
【0068】
本実施形態においては、
図14に示されるように、中立面NPの下側には、下部共通電極341が設けられているのに対して、中立面NPの上側には、中間共通電極241と個別電極141が設けられている。個別電極141と中立面NPとの間の積層方向の距離は、中間共通電極241と中立面NPとの間の積層方向の距離、及び、下部共通電極341と中立面NPとの間の積層方向の距離よりも長い。また、上部圧電層140の表面に形成されている金属膜(個別電極141など)の面積と、中間圧電240の表面に形成されている金属膜(中間共通電極241など)の面積との和は、下部圧電層340の表面に形成されている金属膜(下部共通電極342など)の面積よりも大きい。これらに起因して、本実施形態においては、圧電体40には、下側に凸になるような反り変形が生じている。
【0069】
本実施形態において、下部圧電層340に形成されている導体膜350は、7つの中間共通電極241の延在部244を連結するように、中間圧電層240の表面に形成することも可能である。しかしながら、本実施形態においては、中間圧電層240の表面に形成される金属膜の面積を減らすために、導体膜350を下部圧電層340の表面に形成している。これにより、中立面NPより上側にある金属膜の面積を減らし、且つ、中立面NPより下側にある金属膜の面積を増やすことができる。これにより、導体膜350に相当する部分を中間圧電層240の上に形成する場合と比べて、圧電体40が下側に凸になる反り変形を低減させることができる。
【0070】
<変更形態>
上記実施形態においては、中間圧電層240の上面には、7つの中間共通電極241の延在部244を走査方向に連結する金属膜は形成されていなかった。しかしながら、本開示はそのような態様に限られない。例えば、
図10に示されるように、中間圧電層240の上面に、導体膜280Lを連結するように搬送方向に延在する延在部291と、導体膜280Uを連結するように走査方向に延在する延在部292とを有する導体膜290を形成することができる。導体膜290は本開示の配線部の一部である。なお、延在部292は、複数の延在部244を走査方向に連結している。これにより、複数の延在部244は、導体膜350だけでなく延在部291,292によっても連結されているので、ドライバIC52から端子182L及び端子182Uに供給された電荷を、延在部244に分配する経路を増やすことができ、電気的な信頼性を向上させることができる。また、
図10に示されるように、延在部291の走査方向の幅を延在部351の走査方向の幅よりも狭くし、延在部292の搬送方向の幅を延在部352の搬送方向の幅よりも狭くている。これにより、中間圧電層240に形成される金属膜の面積が大きくなりすぎることを抑えることができ、圧電体40が下側に凸になる反り変形を抑制することができる。
【0071】
上記実施形態においては、下部圧電層340の上面に設けられた導体膜350の延在部352は、積層方向において、中間共通電極241の全ての延在部244と重なるように、走査方向に延在していた。しかしながら、本実施形態はそのような態様には限られない。例えば、
図11に示されるように、導体膜360が、積層方向において全ての導体膜280Lと重なるように、下部圧電層340の端部340Lにおいて搬送方向に延在する延在部361と、延在部361から端部340Rに向かって走査方向に延在する延在部362とを有していてもよい。ここで、延在部362の走査方向の長さは上記実施形態の延在部352の走査方向の長さよりも短い。延在部362は、端部340Lに最も近い導体膜280Uと積層方向において重なっているが、端部340Lから数えて2番目の導体膜280Uとは積層方向に重なっていない。なお、延在部362の走査方向の長さが、上記実施形態の延在部352の走査方向の長さよりも短くなっている代わりに、
図11に示されるように、中間圧電層240の上面には、全ての導体膜280Uを連結するように走査方向に延在する延在部295が形成されている。なお、延在部362の搬送方向の幅は、延在部295の搬送方向の幅よりも狭い。
【0072】
導体膜360が、下部圧電層340の端部340Lと端部340Uとの角に配置されており、導体膜360の延在部361が積層方向において全ての導体膜280Lと重なっている。そして、導体膜360は、延在部361から、端部340Lに最も近い導体膜280Uと積層方向において重なる位置まで延在する延在部362を有している。これにより、複数の端子182Lに供給された電荷を、導体膜360を介して端部340Lに最も近い導体膜280Uまで供給することができる。前述のように、導体膜360の面積を大きくしても圧電体40の反り変形を大きくすることには寄与しない。そのため、導体膜360の面積を大きくすることができ、これにより、複数の端子182Lに供給された電荷を安定して端部340Lに最も近い導体膜280Uまで供給することができる。端部340Lに最も近い導体膜280Uまで供給された電荷の一部は、当該導体膜280Uに接続された延在部244に供給され、残りは、延在部295を通って走査方向に離れた延在部244に供給される。このように、端部340Lに最も近い導体膜280Uまで供給された電荷は、複数の延在部244に向かって枝分かれしながら供給される。そのため、延在部295の搬送方向の幅は、延在部362の搬送方向の幅よりも狭くすることができる。これにより、延在部295の搬送方向の幅を延在部362の搬送方向の幅と同じにしたときと比べて、中間圧電層240の上面に形成される金属膜の面積を小さくすることができ、圧電体40の反り変形を低減させることができる。
【0073】
上記実施形態及び変更形態において、導体膜350の延在部352、及び、中間共通電極241の延在部292は、走査方向に延在する矩形状の形状を有していた。しかしながら、
図12に示されるように、延在部352、延在部292にそれぞれ切欠き部352a,292aを形成することができる。なお、
図12において、上側には中間圧電層240に形成された中間共通電極241の延在部244、292の一部が図示されており、下側には、下部圧電層340に形成された下部共通電極341の延在部344の一部及び導体膜350の延在部352の一部が図示されている。
図12に示されるように、下部圧電層340において、導体膜350の延在部352の、搬送方向において下部共通電極341の延在部344と対向する部分に、切欠き352aを設けることができる。そして、中間圧電層240において、導体膜290の延在部292の、走査方向において切欠き352aと同じ位置に、切欠き292aを形成することができる。なお、切欠き292aは、
図12の上側から下側に向かって切欠かれている。
【0074】
上述のように、圧電層の表面に、金属膜の疎な部分と密な部分とが所定の方向に並んでいる場合には、当該所定の方向において、圧電層のウネリが生じる。
図12において、点線1~4に沿った断面における圧電層のウネリの様子が模式的に表されている。点線1に沿った断面では、下部共通電極341の延在部344がある部分が、金属膜が密である部分に対応するため、この部分が上に凸になるようにウネリが生じる。これに対して、点線2に沿った断面では、導体膜350の延在部352の切欠き352aが形成された部分が、金属膜が疎な部分に対応するため、この部分が上に凸になるようにウネリが生じる。
【0075】
次に、圧電体40の上端部に向かって搬送方向に延在する点線3と点線4との断面における圧電体40の変形を比較する。圧電体40の端部のような自由端においては、導体層などの金属膜が形成されている部分のうち、中立面より上にある金属膜は、残留応力により圧電体を上側に凸になるように変形させようとする。これに対して、導体層などの金属膜が形成されている部分のうち、中立面より下にある金属膜は、残留応力により圧電体を下側に凸になるように変形させようとする。
図14に示されるように、中立面は中間圧電層240の上面と下部圧電層340の上面とのほぼ中間に位置している。
【0076】
点線3に沿った部分では、下部圧電層340の上面に、導体層350の延在部352が配置されており、中間圧電層240の上面に、導体層290の延在部292が配置されている。中立面の両側において、ほぼ等距離の位置に、ほぼ同じ厚さの金属膜が形成されているので、これらの金属膜による変形が打ち消しあうことになり、点線3に沿った部分での変形はほとんどない。これに対して、点線4に沿った部分では、下部圧電層340の上面に導体層350の延在部352が配置されているが、中間圧電層240の上面においては切り欠き292aが形成されていて導体層290が形成されていない。中立面の下側に金属膜が偏在するので、点線4に沿った部分では圧電体40が下に凸になるように変形する。
【0077】
圧電体40の下面に接着剤を塗布し、圧電体40を振動板30が貼られた流路ユニット20(以下、単に流路ユニット20という)の上に貼り付ける工程を考える。下部共通電極341の延在部344が形成されている領域においては、
図12における点線1の断面のように、延在部344に沿った領域が上に凸になるように変形する。これにより、圧電体40の下面には、延在部344に沿って搬送方向に延在する複数の筋状の窪みが発生する。言い換えると、圧電体40と流路ユニット20との間には、筋状の空間が形成される。圧電体40の下面に塗布された接着剤のうち、余分な接着剤はこの筋状の窪みに沿って流れることができる。導体膜350の延在部352の、切欠き352aが形成されている領域においては、
図12における点線2の断面のように、圧電体40の、切欠き352aが形成されている部分が下に凸になるように変形し、隣接する2つの切欠き352aの走査方向の間の部分が上に凸になるように変形する。これに伴って、前述の筋状の窪みに沿って流れてきた接着剤は、切欠き352aが形成された部分を避けるように曲げられて、隣接する2つの切欠き352aの走査方向の間の部分に向かって流れる。さらに、搬送方向においては、圧電体40の、切欠き292aが形成されてない部分はほぼ平らであるのに対して(点線3の断面参照)、切欠き292aが形成されている部分は下に凸になるように変形している(点線4の断面参照)。圧電体40が下に凸になるように変形している部分からは、接着剤が流れ出にくい。これに対して、
図12のように切り欠き292aが形成されている部分と切り欠き292aが形成されていない部分がある場合には、切り欠き292aが形成されていない部分において、下に凸になる変形が小さくなっている。このように走査方向において下に凸になる変形が大きい部分と下に凸になる変形が小さい部分とを設けることにより、下に凸になる変形が小さい部分から効率よく余分な接着剤を圧電体40の外側に排出させることができる。
図12においては、隣接する2つの切欠き352aの走査方向の間の部分に向かって流れてきた余分な接着剤は、切欠き292aが形成されてない部分を通って、圧電体40の外側に排出される。このように、延在部352、延在部292にそれぞれ切欠き部352a,292aを形成することにより、圧電体40の下面に塗布された接着剤のうち、余分な接着剤を、圧電体40のウネリによって圧電体40と流路ユニット20との間に生じた空間を利用して圧電体40外側に排出することができる。
【0078】
さらに、
図13に示されるように、下部圧電層340において、導体膜350の延在部352の、搬送方向において2つの切り欠き292aの間の部分に、切欠き352bを設けることができる。なお、切欠き352bは、
図13の上側から下側に向かって切欠かれている。
【0079】
この場合には、点線4に沿った断面の変形は
図12の場合と同じであるが、点線3に沿った断面においては、中間圧電層240の上面に導体層290の延在部292が配置されているが、下部圧電層340の上面においては切り欠き352bが形成されていて導体層350が形成されていない。中立面の上側に金属膜が偏在するので、点線3に沿った部分では圧電体40が上に凸になるように変形する。これにより、
図12の場合と比べてさらに効率よく余分な接着剤を圧電体40の外側に排出させることができる。つまり、
図13においては、隣接する2つの切欠き352aの走査方向の間の部分に向かって流れてきた余分な接着剤は、切り欠き352bが形成された部分(切欠き292aが形成されてない部分)を通って、圧電体40の外側に排出される。このように、延在部352、延在部292にそれぞれ切欠き部352a、352b,292aを形成することにより、圧電体40の下面に塗布された接着剤のうち、余分な接着剤を、圧電体40のウネリによって圧電体40と流路ユニット20との間に生じた空間を利用して圧電体40外側に排出することができる。
【0080】
上記実施形態においては、圧電体40は3層の圧電層を有しており、各圧電層の上面に電極が形成されていた。しかしながら、本教示はこのような態様には限られない。圧電体は3層以上の圧電層を有してもよく、各圧電層において、下面に電極が形成されていてもよい。上記実施形態において、圧電素子は2つの共通電極(中間共通電極及び下部共通電極)を有していたが、本教示はそのような態様には限られず、1つの共通電極のみを有していてもよい。また、上記実施形態においては、積層方向において、一番上側に個別電極が形成され、個別電極よりも下側に共通電極(中間共通電極及び下部共通電極)が設けられていたが、本教示はそのような態様には限られない。例えば、積層方向において最も下側に個別電極が形成され、その上側に共通電極が設けられていてもよい。上記実施形態において、個別電極141は幅広部142と幅狭部143とを有していたが、個別電極の形状は必ずしもそのような態様には限られない。例えば、個別電極の搬送方向の幅が、走査方向において一様であってもよい。また、圧力室26の数、配置、形状、ピッチ等は任意に設定することができ、それに合わせて、個別電極の数、配置、形状、ピッチ等を調整することができる。
【0081】
以上説明した実施形態及び変更形態は、本教示を、記録用紙にインクを吐出して画像等を印刷するインクジェットヘッド5に適用したものである。上記実施形態において、インクジェットヘッド5はいわゆるシリアル式のインクジェットヘッドであったが、本教示はこれに限られず、いわゆるライン式のインクジェットヘッドにも適用しうる。また、本教示はインクを吐出するインクジェットヘッドには限られない。画像等の印刷以外の様々な用途で使用される液体吐出装置においても本教示は適用されうる。例えば、基板に導電性の液体を吐出して、基板表面に導電パターンを形成する液体吐出装置にも、本教示を適用することは可能である。
【0082】
5 インクジェットヘッド
40 圧電素子
140 上部圧電層
141 個別電極
240 中間圧電層
241 中間共通電極
340 下部圧電層
341 下部共通電極
350 導体膜