(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】重荷重用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 1/00 20060101AFI20230829BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20230829BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230829BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20230829BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B60C1/00 A
B60C11/03 300D
C08K3/36
C08L7/00
C08L9/06
(21)【出願番号】P 2019170572
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶田 久貴
(72)【発明者】
【氏名】端場 俊文
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-131695(JP,A)
【文献】特開2019-131648(JP,A)
【文献】特開2008-222156(JP,A)
【文献】特開2019-023035(JP,A)
【文献】特開2019-131649(JP,A)
【文献】特開2015-000924(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182780(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00、11/00-11/24
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴムと、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムの少なくとも1種とを含むゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積(N
2SA)が175m
2/g以上のシリカ20質量部以上と、粘着樹脂4.0質量部以上とを含有するゴム組成物
(ただし、下記(a)のタイヤ用ゴム組成物、および(b)のタイヤ用ゴム組成物を除く)からなり、接地面積に対する周方向溝の面積比率S1と接地面積に対する横溝の面積比率S2との差が3.0%以上であるトレッドを備える重荷重用タイヤ。
(a)ジエン系ゴムからなるゴム成分、シリカ、樹脂、及び、下記一般式(1)で表されるHLBが10以下のエーテルエステル化合物、を含むタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
(式中、R
1
及びR
2
はそれぞれ独立に炭素数1~30の炭化水素基を表し、R
3
は炭素数2~4のアルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、(R
3
O)
n
の60質量%以上がオキシエチレン基からなる。)
(b)ゴム成分100質量部に対し、シリカ、可塑剤、および、アミノグアニジン酸付加塩を含んでなるタイヤ用ゴム組成物であって、可塑剤が樹脂20質量部以上を含むものであるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
スチレンブタジエンゴムのスチレン含量が5~25質量%、ビニル含量が10~45モル%、かつ重量平均分子量20万以上である、請求項1記載の重荷重用タイヤ。
【請求項3】
シリカ100質量部に対してスルフィド基を有するシランカップリング剤を8~18質量部含有する、請求項1または2記載の重荷重用タイヤ。
【請求項4】
粘着樹脂が、C5系石油樹脂、C5C9系石油樹脂、C9系石油樹脂、テルペン系樹脂、およびロジン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項5】
前記ゴム成分中にイソプレン系ゴムを35質量%以上含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項6】
前記ゴム成分100質量部に対し、カーボンブラックを25質量部以上含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項7】
窒素吸着比表面積(N
2
SA)が100m
2
/g以上のカーボンブラックを含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の重荷重用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能、および耐チッピング性能がバランスよく改善された重荷重用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トラック・バス用タイヤの耐摩耗性能を改良する手法として、カーボンブラックを微粒子化ないし高ストラクチャー化する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のカーボンブラックを微粒子化ないし高ストラクチャー化する手法では、タイヤの低燃費性能の改善については充分とはいえない。また、微粒子化に伴う加工性の悪化によりカーボンブラックの分散性も悪化し、逆にタイヤの耐摩耗性が悪化する場合もある。そのため、従来のカーボンブラックの改良による性能向上手法には限界があった。
【0005】
また、近年の環境規制の影響から、トラック・バス用タイヤにおいても、耐摩耗性能だけでなく、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐チッピング性能等を高度に両立する要求が高まっている。
【0006】
本発明は、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能、および耐チッピング性能がバランスよく改善された重荷重用タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定のゴム成分、所定のシリカ、および粘着樹脂を含有し、かつ接地面積に対する周方向溝の面積比率と接地面積に対する横溝の面積比率との差が所定の範囲内であるゴム組成物から構成されるトレッドを備える重荷重用タイヤは、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能、および耐チッピング性能がバランスよく改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕イソプレン系ゴムと、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムの少なくとも1種とを含むゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積(N2SA)が175m2/g以上のシリカ20質量部以上と、粘着樹脂4.0質量部以上とを含有するゴム組成物からなり、接地面積に対する周方向溝の面積比率S1と接地面積に対する横溝の面積比率S2との差が3.0%以上であるトレッドを備える重荷重用タイヤ、
〔2〕スチレンブタジエンゴムのスチレン含量が5~25質量%、ビニル含量が10~45モル%、かつ重量平均分子量20万以上である、〔1〕記載の重荷重用タイヤ、
〔3〕シリカ100質量部に対してスルフィド基を有するシランカップリング剤を8~18質量部含有する、〔1〕または〔2〕記載の重荷重用タイヤ、
〔4〕粘着樹脂が、C5系石油樹脂、C5C9系石油樹脂、C9系石油樹脂、テルペン系樹脂、およびロジン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の重荷重用タイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0009】
所定のゴム成分、所定のシリカ、および粘着樹脂を含有し、かつ接地面積に対する周方向溝の面積比率と接地面積に対する横溝の面積比率との差が所定の範囲内であるゴム組成物から構成されるトレッドを備える重荷重用タイヤは、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能、および耐チッピング性能がバランスよく改善される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る重荷重用タイヤのトレッドパターンを平面に展開した展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示に係る重荷重用タイヤは、所定のゴム成分、所定のシリカ、および粘着樹脂を含有し、接地面積に対する周方向溝の面積比率S1と接地面積に対する横溝の面積比率S2との差が3.0%以上であるゴム組成物から構成されるトレッドを備えるタイヤである。理論に拘束されることは意図しないが、本発明の効果が発揮されるメカニズムとしては、例えば以下のように考えられる。
【0012】
イソプレン系ゴムにスチレンブタジエンゴム(SBR)やブタジエンゴム(BR)を分散させることで、走行時の衝撃が緩和される。さらに、窒素吸着比表面積(N2SA)が175m2/g以上のシリカを所定量含有することで、かかる微粒子シリカがカーボンブラック同士の隙間に入り、シリカ粒子同士の凝集には影響を与えずに、低発熱性を維持しながら、ゴム、カーボンブラック、およびシリカが非常に強く相互作用するために、耐久性能や耐摩耗性能がより向上するものと考えられる。
【0013】
さらに、粘着樹脂を所定量含有することで、イソプレン系ゴムと相互作用して破断伸びが向上し、耐チッピング性能が向上する、さらにゴム組成物の配合物粘度を下げ、混練中のフィラー(カーボンブラック、シリカ等)の分散性を向上させることで、低燃費性能が改善するものと考えられる。
【0014】
さらに、接地面積に対する周方向溝の面積比率S1と接地面積に対する横溝の面積比率S2との差(S1-S2)を3.0%以上とすることで、タイヤトレッド部の剛性が上がり、耐摩耗性および耐チッピング性能を高度に両立することができる。
【0015】
本開示の一実施形態であるトレッド用ゴム組成物の作製を含む重荷重用タイヤについて、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0016】
[トレッド用ゴム組成物]
本開示に係るタイヤは、イソプレン系ゴムと、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムの少なくとも1種とを含むゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積(N2SA)が175m2/g以上のシリカ20質量部以上と、粘着樹脂4.0質量部以上とを含有するゴム組成物によってトレッドが構成される。
【0017】
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴムのスチレン含量が5~25質量%、ビニル含量が10~45モル%、かつ重量平均分子量20万以上であるスチレンブタジエンゴムを含有することが好ましい。
【0018】
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、シリカ100質量部に対してスルフィド基を有するシランカップリング剤を8~18質量部含有することが好ましい。
【0019】
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、C5系石油樹脂、C5C9系石油樹脂、C9系石油樹脂、テルペン系樹脂、およびロジン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の粘着樹脂を含有することが好ましい。
【0020】
<ゴム成分>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分としてイソプレン系ゴムと、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)の少なくとも1種を含有する。ゴム成分は、イソプレン系ゴムとSBRとBRとを含有するゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴム、SBRおよびBRのみからなるゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴムおよびSBRのみからなるゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴムおよびBRのみからなるゴム成分としてもよい。
【0021】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0023】
イソプレン系のゴム成分中の含有量は、耐チッピング性能の観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、35質量%以上が特に好ましい。一方、ウェットグリップ性能の観点からは、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、65質量%以下が特に好ましい。
【0024】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでも、低燃費性能および耐摩耗性能を良好に改善できるという点から、E-SBRが好ましい。これらSBRは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
SBRのスチレン含量は、ウェットグリップ性能および耐摩耗性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上より好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、グリップ性能の温度依存性および耐摩耗性能の観点からは、25質量%以下が好ましく、24質量%以下がより好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される。
【0026】
SBRのビニル含量は、シリカとの反応性の担保、ゴム強度や耐摩耗性能の観点から10モル%以上が好ましく、13モル%以上がより好ましく、16モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、温度依存性の増大防止、ウェットグリップ性能、破断伸び、および耐摩耗性能の観点から、45モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、35モル%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0027】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から20万以上が好ましく、30万以上がより好ましく、50万以上がさらに好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、250万以下が好ましく、200万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0028】
SBRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、耐チッピング性能およびウェットグリップ性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0029】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率が50%未満のBR(ローシスBR)、シス1,4結合含有率が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0030】
ハイシスBRのシス1,4結合含有率は、95%以上が好ましく、97%以上がより好ましい。ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、BR150L、JSR(株)製のBR730等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のBUNA-CB25等が挙げられる。
【0031】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のVCR-303、VCR-412、VCR-617等が挙げられる。
【0032】
変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、ZSエラストマー(株)製のBR1250H(スズ変性)、S変性ポリマー(シリカ用変性)等が挙げられる。
【0033】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性およびグリップ性能等の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0034】
BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、耐摩耗性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、ウェットグリップ性能の観点からは、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が特に好ましい。
【0035】
(その他のゴム成分)
本開示に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBRおよびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、ゴム工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
<フィラー>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、フィラーとしてシリカを含有する。また、カーボンブラックを含有することが好ましい。
【0037】
(シリカ)
本開示に係るトレッド用ゴム組成物にシリカを配合することにより、低燃費性能、耐摩耗性能、および高速走行時の操縦安定性を向上させることができる。シリカとしては、特に限定されるものではなく、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。シリカは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐摩耗性能の観点から、175m2/g以上であり、180m2/g以上が好ましく、190m2/g以上がより好ましく、200m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0039】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、低燃費性能とウェットグリップ性能とのバランスを向上させる観点から、20質量部以上であり、25質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましい。また、シリカのゴムへの分散性の悪化により、低燃費性能および耐摩耗性能が低下することを抑制する観点からは、150質量部以下が好ましく、130質量部以下が好ましく、110質量部以下がさらに好ましい。
【0040】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、具体的にはN110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0041】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐候性や補強性の観点から、50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましい。また、分散性、低燃費性能、破壊特性および耐久性の観点からは、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」のA法に準じて測定される値である。
【0042】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐候性や補強性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能の観点からは、40質量部以下が好ましく、35質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0043】
(その他のフィラー)
シリカおよびカーボンブラック以外の補強用充填剤としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来からゴム工業において一般的に用いられているものを配合することができる。
【0044】
シリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有率は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、55質量%以上が特に好ましい。また、該シリカの含有率は、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。
【0045】
シリカとカーボンブラックのゴム成分100質量部に対する合計含有量は、耐摩耗性能の観点から、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、55質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および耐摩耗性能が低下することを抑制する観点からは、180質量部以下が好ましく、160質量部以下がより好ましく、140質量部以下がさらに好ましい。
【0046】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXT等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等が挙げられ、スルフィド基を有するシランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
シランカップリング剤(好ましくは、スルフィド基を有するシランカップリング剤)を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、8.0質量部以上が好ましく、8.5質量部以上がより好ましく、9.0質量部以上がさらに好ましく、9.5質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、18質量部以下が好ましく、16質量部以下がより好ましく、14質量部以下がさらに好ましく、12質量部以下が特に好ましい。
【0048】
<樹脂成分>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、樹脂成分として粘着性樹脂を含有する。粘着性樹脂としては、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂、クマロン系樹脂等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも石油樹脂が好適に用いられる。
【0049】
石油樹脂としては、特に限定されないが、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。脂肪族系石油樹脂としては、炭素数4~5個相当の石油留分(C5留分)であるイソプレンやシクロペンタジエン等の不飽和モノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂(C5系石油樹脂とも称される。)を用いることができる。芳香族系石油樹脂としては、炭素数8~10個相当の石油留分(C9留分)であるビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン等のモノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂(C9系石油樹脂とも称される。)を用いることができる。脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂としては、上記C5留分とC9留分を共重合することにより得られる樹脂(C5C9系石油樹脂とも称される。)が用いられる。また、前記の石油樹脂を水素添加したものを使用してもよい。なかでもC5C9系石油樹脂およびジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)、が好適に用いられる。
【0050】
C5C9系石油樹脂としては、例えば、LUHUA社製のPRG-80、PRG-140、Qilong社製のG-100、東ソー(株)製のペトロタック(登録商標)60、ペトロタック70、ペトロタック90、ペトロタック100、ペトロタック100V、ペトロタック90HM等の市販品が好適に用いられる。
【0051】
テルペン系樹脂は、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、フェノール系樹脂、ロジン系樹脂、クマロン系樹脂等の他の粘着性樹脂よりもSP値が低く、その値がSBR(SP値:8.9)とBR(SP値:8.2)の間にあり、ゴム成分との相溶性の観点から好ましい。なかでもテルペンスチレン樹脂は、SBRとBRの両方に対して特に相溶性がよく、ゴム成分中に硫黄が分散しやすくなることから、好適に用いられる。
【0052】
テルペン系樹脂は、特に限定されるものではなく、テルペン化合物を重合して得られるポリテルペン樹脂;テルペン化合物とともに芳香族化合物を共重合して得られるテルペン芳香族樹脂;テルペン樹脂を芳香族化合物で変性して得られる芳香族変性テルペン樹脂;およびそれらの水素添加物等が挙げられる。テルペン芳香族樹脂としては、テルペンフェノール樹脂が好ましく、芳香族変性テルペン樹脂としては、テルペンスチレン樹脂が好ましい。
【0053】
ポリテルペン樹脂は、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種を原料とする樹脂である。テルペンフェノール樹脂は、前記テルペン化合物およびフェノール系化合物を原料とする樹脂である。テルペンスチレン樹脂は、前記テルペン化合物およびスチレンを原料とする樹脂である。ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂は、水素添加処理を行った樹脂(水添ポリテルペン樹脂、水添テルペンスチレン樹脂)であってもよい。テルペン系樹脂への水素添加処理は、公知の方法で行うことができ、また市販の水添樹脂を使用することもできる。
【0054】
テルペン系樹脂は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本開示では、テルペン系樹脂は市販品が用いられてもよい。このような市販品は、ヤスハラケミカル(株)等によって製造販売されるものが例示される。
【0055】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0056】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0057】
クマロン系樹脂は、クマロンを主成分する樹脂であり、例えば、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、クマロンとインデンとスチレンを主成分とする共重合樹脂等が挙げられる。
【0058】
樹脂成分のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性、低燃費性能、耐摩耗性能および耐チッピング性能の観点から、4.0質量部以上であり、4.5質量部以上が好ましく、5.0質量部以上がより好ましく、6.0質量部以上がさらに好ましく、7.0質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能およびウェットグリップ性能の観点からは、40質量部以下が好ましく、35質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましく、20質量部以下が特に好ましい。
【0059】
樹脂成分の軟化点は、ウェットグリップ性能の観点から、160℃以下が好ましく、145℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。また、該軟化点は、20℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。なお、本開示において、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。また、レース用タイヤにおいて好ましく使用されるコレシン(軟化点:145℃、BASF社製)は、グリップ性能に優れる一方、設備との強粘着の問題が生じやすく、本分岐アルカンは、良好な金属離型性を示す。
【0060】
樹脂成分の重量平均分子量(Mw)は、揮発しにくく、ウェットグリップ性能が良好である点から、300以上が好ましく、400以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。また、該Mwは、15000以下が好ましく、10000以下がより好ましく、8000以下がさらに好ましい。
【0061】
樹脂成分のSP値は、ゴム成分(特にSBR)との相溶性が優れる点から、8~11の範囲が好ましく、8~10の範囲がより好ましく、8.3~9.5の範囲がさらに好ましい。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することでSBRおよびBRとの相溶性が向上し、耐摩耗性能および破断伸びを改善できる。
【0062】
<その他の配合剤>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、オイル、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0063】
オイルとしては、例えば、アロマチックオイル、プロセスオイル、パラフィンオイル等の鉱物油等が挙げられる。なかでも、環境への負荷低減という理由からプロセスオイルを使用することが好ましい。
【0064】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0065】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0066】
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪酸金属塩、アミドエステル、脂肪酸金属塩とアミドエステル若しくは脂肪酸アミドとの混合物が好ましく、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物が特に好ましい。具体的には、例えば、Schill&Seilacher社製のEF44、WB16等の脂肪酸石鹸系加工助剤が挙げられる。
【0067】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0068】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0070】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0071】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0072】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0073】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性能を得るという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、劣化の観点からは、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下がさらに好ましい。
【0074】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス(株)製のKA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0075】
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
【0076】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0078】
本開示に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロール等の一般的なゴム工業で使用される公知の混練機で、前記各成分のうち、加硫剤および加硫促進剤以外の成分を混練りした後、これに、加硫剤および加硫促進剤を加えてさらに混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。
【0079】
[タイヤ]
本開示に係るタイヤは、前記トレッド用ゴム組成物により構成されるトレッドを備えるものであり、特にカテゴリーは限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバス等の重荷重車用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、ランフラットタイヤ、非空気入りタイヤ等として使用することができるが、重荷重車用タイヤとすることが好ましい。また、本開示に係るタイヤは、耐摩耗性能と耐チッピング性能に優れるので、悪路路面(未舗装の荒れた路面)の走行に適している。
【0080】
上記トレッド用ゴム組成物から構成されるトレッドを備えたタイヤは、上記トレッド用ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、トレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【0081】
図1に、本開示の一実施形態に係る重荷重用タイヤのトレッドパターンを平面に展開した展開図の一例を示すが、本開示はこれに限定されるものではない。本開示に係る重荷重用タイヤを構成するトレッド2は、
図1に示すように、タイヤ周方向に連続して延びる(
図1の例では、タイヤ周方向に沿って直線状に延びる)周方向溝3、4、5と幅方向に延びるセンター横溝9、センターサイプ13、ミドル横溝15、ショルダー横溝21とを有している。該トレッドは、正規リムにリム組みされ、かつ正規内圧が充填された無負荷の正規状態において、正規荷重を負荷してトレッドを平面に押し付けたときの、接地面積に対する周方向溝の面積比率S1と接地面積に対する横溝の面積比率S2との差(S1-S2)が3.0%以上であり、3.2%以上が好ましく、3.5%以上がより好ましく、3.7%以上が好ましく、3.9%以上が特に好ましい。前記S1とS2との差の上限値は特に制限されないが、トレッド部の剛性を維持し、耐摩耗性能と耐チッピング性能を高める観点から、7.0%以下が好ましく、5.0%以下がより好ましい。
【0082】
なお、本明細書において「横溝」とは、周方向溝3、4、5によって仕切られたセンター陸部6、ミドル陸部7、またはショルダー陸部8を横切る溝またはサイプであって、幅方向の両端を結ぶ直線が、タイヤ幅方向に対して0~30°の角度で傾斜したものを指す。前記の溝およびサイプは、その末端が周方向溝と連通していてもよいし、していなくてもよい。ここで、「溝」は、少なくとも2.0mmよりも大きい幅の凹みをいい、「サイプ」は、幅が2.0mm以下(好ましくは0.5~2.0mm)の細い切り込みをいう。
【0083】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、ETRTOであれば“Measuring Rim”とする。
【0084】
「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”とする。
【0085】
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”とする。
【0086】
図1において、トレッド部2には、タイヤ周方向に連続してのびる周方向溝が設けられている。本開示の周方向溝は、タイヤ赤道C上に設けられる1本のセンター周方向溝3、センター周方向溝3の両側に各1本配されるミドル周方向溝4、及び、各ミドル周方向溝4、4とそのタイヤ軸方向外側のトレッド端Teとの間に配される一対のショルダー周方向溝5、5を含んでいる。なお、周方向溝の数は特に限定されず、例えば1~4つであってもよい。また、周方向溝3、4、5は、ジグザグ状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、直線状や波状にのびるものでもよい。
【0087】
「トレッド端」Teは、外観上、明瞭なエッジによって識別しうるときには当該エッジとする。しかしながら、エッジが識別不能の場合には、正規リムにリム組みされかつ正規内圧を充填した無負荷である正規状態のタイヤに、正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置として定められる。
【0088】
図1において、センター周方向溝3は、ジグザグ状にのびている。本開示のセンター周方向溝3は、センター長辺部3Aと、センター短辺部3Bとを交互に含んでいる。センター長辺部3Aは、タイヤ周方向に対して一方側に傾斜している。センター短辺部3Bは、センター長辺部3Aとは逆向きに傾斜している。このようなセンター周方向溝3は、センター周方向溝3の両側の陸部の踏面と路面との間の水膜を効果的に集めることができるため、排水性能を高める。また、センター短辺部3Bは、タイヤ周方向に対する角度θ2が大きいため、直進走行時、センター短辺部3Bを閉じる向きに力が作用するので、センター短辺部3B近傍の陸部のタイヤ周方向への変形が抑制され、路面に対する滑りが小さくなる。これにより、ヒールアンドトウ摩耗が抑制される。
【0089】
センター周方向溝3は、センター長辺部3Aとセンター短辺部3Bとの交差位置でタイヤ軸方向一方側(
図1では右側)へ凸となるジグザグの頂部3hと、センター長辺部3Aとセンター短辺部3Bとの交差位置でタイヤ軸方向他方側(
図1では左側)へ凸となるジグザグの頂部3kとを有している。
【0090】
センター長辺部3Aのタイヤ周方向に対する角度θ1は、好ましくは、0.5~6.5度である。センター短辺部3Bのタイヤ周方向に対する角度θ2は、好ましくは、5~15度である。かかる範囲とすることにより、排水性能を確保するとともに陸部の剛性低下を抑制することができる。
【0091】
センター周方向溝3の両側の陸部の剛性を大きくするとともに、センター周方向溝3の両側の陸部の路面に対する滑りを小さくする観点より、センター長辺部3Aのタイヤ周方向の長さL0とセンター短辺部3Bのタイヤ周方向の長さL2との比L0/L2は、1.3~2.3が好ましい。
【0092】
このような各周方向溝3乃至5によって、トレッド部2には、各一対のセンター陸部6、6、ミドル陸部7、7、及び、ショルダー陸部8、8が設けられている。センター陸部6は、センター周方向溝3とミドル周方向溝4との間に形成されている。ミドル陸部7は、ミドル周方向溝4とショルダー周方向溝5との間に形成されている。ショルダー陸部8は、ショルダー周方向溝5とトレッド端Teとの間に形成されている。
【0093】
センター陸部6には、センター周方向溝3とミドル周方向溝4との間を継ぐオープンタイプのセンターサイプ13が設けられている。かかるサイプは、センター陸部6のタイヤ周方向のブロック縁の接地時、幅を閉じる向きに変形するので、隣合うサイプの壁面同士が密着して支え合い、陸部の剛性低下を抑制する。従って、センターサイプ13は、高い接地圧が作用しかつ排水し難いセンターブロック11において、排水性能と耐偏摩耗性能とをバランス良く高める。センターサイプ13は、ジグザグ状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、波状や正弦波状や直線状にのびるものでもよい。
【0094】
センター陸部6には、センター横溝9がタイヤ周方向に複数本設けられている。センター横溝9は、直線状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、波状や正弦波状やジグザグ状にのびるものでもよい。
【0095】
ミドル陸部7には、ミドル横溝15がタイヤ周方向に複数本設けられている。ミドル横溝15は、直線状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、波状や正弦波状やジグザグ状にのびるものでもよい。
【0096】
ショルダー陸部8には、ショルダー横溝21がタイヤ周方向に複数本設けられている。ショルダー横溝21は、直線状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、波状や正弦波状やジグザグ状にのびるものでもよい。
【実施例】
【0097】
以下、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0098】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
SBR:JSR(株)製のSBR1502(E-SBR、スチレン含量:23.5質量%、ビニル含量:18モル%、Mw:42万)
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(ビニル結合量:1.5モル%、シス1,4-含有率97%、Mw:44万)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイヤブラックN220(N2SA:115m2/g)
シリカ1:ソルベイ社製のZeosil Premium 200 MP(N2SA:210m2/g)
シリカ2:Rhodia社製のZeosil 115GR(N2SA:110m2/g)
シランカップリング剤:エボニック・デグッサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
粘着樹脂1:東ソー(株)製のペトロタック100V(C5C9系石油樹脂、軟化点:96℃、Mw:3800、SP値:8.3)
粘着樹脂2:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジン TO125(テルペンスチレン樹脂、軟化点:125℃、Mw:800、SP値:8.7)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
【0099】
(実施例および比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、混練物を得た。さらに、得られた混練物を前記バンバリーミキサーにより、排出温度150℃で4分間、再度混練りした(リミル)。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫することで、試験用ゴム組成物を作製した。
【0100】
また、前記未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機でタイヤトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、プレス加硫することにより、試験用タイヤ(12R22.5、トラック・バス用タイヤ)を製造した。
【0101】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物および試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0102】
<加工性試験>
各未加硫ゴム組成物について、JIS K 6300-1の「未加硫ゴム-物理特性-第1部:ムーニー粘度計による粘度およびスコーチタイムの求め方」に準じたムーニー粘度の測定方法に従い、130℃の温度条件にて、ムーニー粘度(ML1+4)を測定した。結果は比較例1のムーニー粘度を100とし、下記計算式による指数で示す。加工性指数が大きいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れることを示す。
(加工性指数)=(比較例1のML1+4)/(各配合のML1+4)×100
【0103】
<低燃費性能>
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターVESを用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で各加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定した。結果は比較例4のtanδを100とし、下記計算式による指数で示す。指数が大きいほど低燃費性に優れることを示す。
(低燃費性能指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合例のtanδ)×100
【0104】
<ウェットグリップ性能試験>
各試験用タイヤを最大積載量10トン積みのトラック(2-D車)の全輪に装着し、湿潤路面において初速度100km/hからの制動距離を測定した。下記の式により比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほどウェットグリップ性能に優れることを示す。なお、100以上を最低目標値とし、105以上が好ましい。
(ウェットグリップ性能指数)=
(比較例1のタイヤの制動距離)/(各試験用タイヤの制動距離)×100
【0105】
<耐摩耗性能>
各試験用タイヤを最大積載量10トン積みのトラック(2-D車)の全輪に装着し、走行距離8000km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を求めた。結果は比較例1のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離を100とし、下記計算式による指数で示す。指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
(耐摩耗性指数)=(各配合例のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)/(比較例1のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0106】
<耐チッピング性能>
各試験用タイヤを最大積載量10トン積みのトラック(2-D車)の全輪に装着し、走行距離8000km後のブロック欠け状態を目視で観察して評点をつけた。結果は比較例1の評点を100とし、下記計算式による指数で示す。指数が大きいほど、ブロック欠けが発生しておらず、耐チッピング性能が高いことを示す。
(耐チッピング性能指数)=(各配合例の評点)/(比較例1の評点)×100
【0107】
なお、加工性、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能および耐チッピング性能の総合性能(加工性、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能および耐チッピング性能の平均値)は、103以上を性能目標値とし、105以上が好ましく、107以上がより好ましい。
【0108】
【0109】
表1の結果より、所定のゴム成分、所定のシリカ、および粘着樹脂を含有し、かつ接地面積に対する周方向溝の面積比率S1と接地面積に対する横溝の面積比率S2との差が所定の範囲内であるゴム組成物から構成されるトレッドを備える本開示の重荷重用タイヤは加工性、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能、および耐チッピング性能がバランスよく改善されることがわかる。
【符号の説明】
【0110】
1 重荷重用タイヤ
2 トレッド部
3 センター周方向溝
4 ミドル周方向溝
5 ショルダー周方向溝
6 センター陸部
7 ミドル陸部
8 ショルダー陸部
9 センター横溝
13 センターサイプ
15 ミドル横溝
21 ショルダー横溝