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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】光学用ポリエステルフィルムロール
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20200101AFI20230829BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C08J7/04 Z CFD
B32B27/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019173930
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2020076063
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018180207
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藥師堂 健一
(72)【発明者】
【氏名】中島 祥浩
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 麻由
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-016644(JP,A)
【文献】特開2017-186510(JP,A)
【文献】特開2006-069119(JP,A)
【文献】特開2018-090740(JP,A)
【文献】特開2014-189007(JP,A)
【文献】特開2003-238706(JP,A)
【文献】特開2010-234644(JP,A)
【文献】特開2005-187779(JP,A)
【文献】特開2002-140811(JP,A)
【文献】特開2015-172180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08J 7/04- 7/06
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の表面(表面A)の算術平均粗さRaAが0.1nm以上2.0nm未満であり、前記表面Aとは反対側の表面(表面B)の算術平均粗さRaBが2.0nm以上10.0nm未満であるポリエステルフィルムが巻き取られてなるポリエステルフィルムロールであって、前記ポリエステルフィルムロール外面表面の平均帯電電位Vが-10.0kV以上10.0kV以下、帯電電位レンジRが10.0kV以下であり、前記表面A側の最外層と前記表面B側の最外層とを備える積層構成を有する光学用ポリエステルフィルムロール。
【請求項2】
前記表面A側の最外層の厚みが1μm以上である請求項1に記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
【請求項3】
前記表面B側の最外層の厚みが1μm未満である請求項1または2に記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
【請求項4】
前記表面A側がポリエステルフィルムロールの外面になるように巻き取られてなる請求項1~3のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
【請求項5】
前記表面B側がポリエステルフィルムロールの外面になるように巻き取られてなる請求項1~3のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムのヘイズHが0.1%以上1.5%以下である請求項1~5のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
【請求項7】
前記ポリエステルフィルムの厚みが20μm以上250μm以下である請求項1~6のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば反射防止フィルムや位相差層などを積層するための剥離フィルムなどを製造する際に用いられる、光学用ポリエステルフィルムロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性などに優れ、さまざまな分野で使用されている。
【0003】
特に近年では、光学フィルム用途として、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのFPD(フラットパネルディスプレイ)向けの機能フィルムとして使用されており、例えば、ディスプレイの表面反射や映り込みを抑えるための反射防止フィルム、位相差層などを積層するための剥離フィルム、偏光板の表面を守るための保護フィルム、光源の光を効率的に導光板に入射させるためのバックライト用高反射フィルム、側面から光源を照射させるエッジライトの光を拡散させる拡散フィルム、電磁波防止フィルム、近赤外防止フィルムなどの用途で使用されている。
【0004】
例えば反射防止フィルムとしては、ポリエステルフィルム上に直線偏光板、1/4波長板を積層することで構成され、画像表示パネルのパネル面に向かう外来光を直線偏光板により直線偏光に変換し、続く1/4波長板により円偏光に変換する。ここでこの円偏光による外来光は、画像表示パネルの表面等で反射するものの、この反射の際に偏光面の回転方向が逆転する。その結果、この反射光は、到来時とは逆に、1/4波長板により、直線偏光板で遮光される方向の直線偏光に変換された後、続く直線偏光板により遮光され、その結果、外部への出射が著しく抑制される。
【0005】
この種の反射防止フィルム等の光学フィルムにおいては、いわゆる転写法により作製すること、すなわち、例えば円偏光板による反射防止フィルムに転写法を適用する場合、支持体基材としてポリエステルフィルムを用いて、支持体基材のうえに、配向層と位相差層とを順次積層されてなる転写フィルムを用意し、位相差層が直線偏光板側となるようにしてこの転写フィルムを直線偏光板に貼り付けた後、支持体基材を剥離することで支持体基材の厚みを低減して円偏光板による反射防止フィルムを作製することで、全体の厚みを薄くすることができる(特許文献1~5)。
【0006】
一方、ポリエステルフィルムとしては、その製造安定性やハンドリング性、フィルムロールからの繰り出し時の剥離帯電防止の観点から、ポリエステルフィルム表面に粒子等を配置するなどして表面粗さを制御する方法が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-309290号公報
【文献】特開2006-323349号公報
【文献】特開2005-309290号公報
【文献】特開2006-323349号公報
【文献】特開2016-122158号公報
【文献】特開2016-98291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、支持体基材としてポリエステルフィルムを用いた転写法による光学フィルムを製造する場合においては、光学フィルムの表面粗さによって、剥離された光学機能層の表面外観が悪化しやすい。また、光学機能層の表面外観改善のためにポリエステルフィルムの表面粗さを小さくする場合には、フィルムのハンドリング性が悪くなりやすかったり、フィルム表面の帯電に起因して配向層や位相差層の光学ムラが発生しやすい。このため、従来のポリエステルフィルムは、反射防止フィルム用途や位相差層などを積層するための剥離フィルム用途として用いるには十分に満足のいくものとは言えず、表面粗さと剥離帯電防止性の両立が求められている。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の課題に鑑み、例えば反射防止フィルムや位相差層などを積層するための剥離フィルムなどを製造する際に用いられる、光学機能層の表面外観が悪化し難く、配向層や位相差層の光学ムラが発生し難い、光学用ポリエステルフィルムロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。上記目的を達成する本発明は以下である。
1) 一方の表面(表面A)の算術平均粗さRaAが0.1nm以上2.0nm未満であり、前記表面Aとは反対側の表面(表面B)の算術平均粗さRaBが2.0nm以上10.0nm未満であるポリエステルフィルムが巻き取られてなるポリエステルフィルムロールであって、前記ポリエステルフィルムロール外面表面の平均帯電電位Vが-10.0kV以上10.0kV以下、帯電電位レンジRが10.0kV以下である光学用ポリエステルフィルムロール。
2) 前記表面A側の最外層の厚みが1μm以上である、1)に記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
3) 前記表面B側の最外層の厚みが1μm未満である、1)または2)に記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
4) 前記表面A側がポリエステルフィルムロールの外面になるように巻き取られてなる、1)~3)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
5) 前記表面B側がポリエステルフィルムロールの外面になるように巻き取られてなる、1)~3)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
6) 前記ポリエステルフィルムのヘイズHが0.1%以上1.5%以下である、1)~5)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
7) 前記ポリエステルフィルムの厚みが20μm以上250μm以下である、1)~6)のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルムロール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば反射防止フィルムや位相差層などを積層するための剥離フィルムなどを製造する際に用いられる、光学機能層の表面外観が悪化し難く、配向層や位相差層の光学ムラが発生し難い、光学用ポリエステルフィルムロールを提供することができるため、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明のポリエステルフィルムロールを実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明における「フィルム」とは、2次元的な構造物、例えば、シート、プレート、および膜などを含む意味に用いられる。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムロールは、ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステルフィルムを巻き取ってなることが重要である。ポリエステル樹脂は、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性などに優れ、ポリエステル樹脂からなるポリエステルフィルムは、例えば、反射防止フィルム用途や位相差層などを積層するための剥離フィルム用途として好ましく用いることができる。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムロールは、一方の表面(表面A)の算術平均粗さRaAが0.1nm以上2.0nm未満であるポリエステルフィルムを巻き取ってなることが重要である。RaAが2.0nm以上であると、反射防止フィルム用途や位相差層などを積層するための剥離フィルム用途として用いたときに光学機能層の表面外観が悪化しやすく、光学用ポリエステルフィルムロールとして不適切となる。また、RaAを0.1nm未満とすることは、フィルム表面形成メカニズムの観点から実質的に不可能である。RaAは、0.1nm以上1.0nm未満であることが好ましく、0.2nm以上0.8nm未満であることがより好ましく、0.3nm以上0.6nm未満であることが特に好ましい。
【0015】
一方の表面(表面A)の算術平均粗さRaAを0.1nm以上2.0nm未満とするための手段としては特に限定されないが、表面Aを構成する層に粒子を含有させない方法をとることが特に好ましい。表面Aを構成する層に粒子を含有する場合においいても粒子径や含有量を適宜調整することによってかかる範囲に制御することができる。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムロールは、前記表面Aとは反対側の表面(表面B)の算術平均粗さRaBが2.0nm以上10.0nm未満であるポリエステルフィルムを巻き取ってなることが重要である。RaBが10.0nm以上であると、透明性が悪化しやすく、光学用ポリエステルフィルムロールとして不適切となる。また、RaBが2.0nm未満であると、フィルムの剥離帯電が強くなりやすく、各種光学フィルム用途として用いた場合に配向層や位相差層等の光学ムラが発生する場合があり、また、フィルムの摩擦が高くなることからフィルムの取扱い性が悪化する場合があり、光学用ポリエステルフィルムロールとして不適切となる。RaBは、3.0nm以上8.0nm未満であることが好ましく、3.2nm以上6.0nm未満であることがより好ましく、3.5nm以上5.0nm未満であることが特に好ましい。
【0017】
前記表面Aとは反対側の表面(表面B)の算術平均粗さRaBを2.0nm以上10.0nm未満とするための手段としては特に限定されないが、表面Bを構成する層に粒子を含有させる方法をとることが特に好ましく、粒子径や含有量を適宜調整することによってかかる範囲に制御することができる。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムロールは、ロール外面表面の平均帯電電位Vが-10.0kV以上10.0kV以下であることが重要である。なお、本発明において、ロール外面表面の平均帯電電位Vは、ポリエステルフィルムロール表面からフィルムを3周巻き出した後に、電位計を用いてポリエステルフィルムロールの幅方向3点(幅方向の両端部からそれぞれ5cm内側の位置、および幅方向中心の位置)の位置の電位を測定し、その平均値を算出することで得ることができる。ロール外面表面の平均帯電電位Vが-10.0kV未満となる場合、あるいは10.0kVを超える場合においては、各種光学フィルム用途として用いた場合に配向層や位相差層等の光学ムラが発生する場合があり、光学用ポリエステルフィルムロールとして不適切となる。ロール外面表面の平均帯電電位Vは-8.0kV以上8.0kV以下であることが好ましく、-5.0kV以上6.0kV以下であることがより好ましく、-3.0kV以上5.0kV以下であることが特に好ましい。
【0019】
ロール外面表面の平均帯電電位Vを-10.0kV以上10.0kV以下とするための手段としては特に限定されないが、例えば、前記表面Aおよび前記表面Bの算術平均粗さを適宜調整すること、フィルム製造工程を走行する工程フィルムを除電すること、フィルムの少なくとも一方の表面に帯電防止機能を有する層を配置すること、表面A側の最外層を構成する樹脂Aと表面B側の最外層を構成する樹脂Bとの帯電列差を小さくすること、などの方法をとることができる。
【0020】
ここで、表面A側の最外層を構成する樹脂Aと表面B側の最外層を構成する樹脂Bとの帯電列差を小さくする方法のひとつの態様として、表面A側の最外層を構成する樹脂Aと表面B側の最外層を構成する樹脂Bに、共通する任意の樹脂成分をそれぞれ含有させることが好ましく、さらに、共通する任意の樹脂成分を樹脂Aおよび樹脂Bにそれぞれ30質量%以上含有させることがさらに好ましい。また、本発明のポリエステルフィルムロールを構成するフィルムが基材の片面にのみ塗布層を有する構造である場合においては、基材がポリエステル系樹脂から構成されているため、前記した共通する任意の樹脂成分としてポリエステル系樹脂を設定し、塗布層をポリエステル系樹脂成分とすることが、特に好ましい態様となる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムロールは、帯電電位レンジRが10.0kV以下であることが重要である。なお、本発明において、帯電電位レンジRは、ポリエステルフィルムロール表面からフィルムを3周巻き出した後に、電位計を用いてポリエステルフィルムロールの幅方向3点(幅方向の両端部からそれぞれ5cm内側の位置、および幅方向中心の位置)の位置の電位を測定し、最大値と最小値の差を算出することで得ることができる。帯電電位レンジRが10.0kVを超える場合においては、各種光学フィルム用途として用いた場合に配向層や位相差層等の光学ムラが発生する場合があり、光学用ポリエステルフィルムロールとして不適切となる。帯電電位レンジRは8.0kV以下であることが好ましく、6.0kV以下であることがより好ましく、4.0kV以下であることが特に好ましい。
【0022】
帯電電位レンジRを10.0kV以下とするための手段としては特に限定されないが、例えば、ポリエステルフィルムロールにおけるフィルムの幅方向の厚みムラを小さくすること、フィルム製造工程における工程ロール(搬送ロールやコンタクトロールなど)の、表面材質、表面導電抵抗、表面形状などを適宜調整すること、フィルムがロールに巻き取られる工程において巻き取り途中のフィルムロール表面に除電を施しながらフィルムを巻き取る方法とすること、などの方法をとることができる。
【0023】
ポリエステルフィルムロールにおけるフィルムの幅方向の厚みムラが大きい場合には、ロール状に巻き取られた際に、幅方向でフィルム同士の密着の程度にバラツキが生じやすくなり、電位を測定する際にフィルムを巻き出したときの剥離帯電の程度にもバラツキが生じやすくなることから、帯電電位レンジRが大きくなりやすい。フィルムの幅方向の厚みムラは、実施例に記載した方法により得られる最大厚み差ΔTmaxを指標として評価することができ、本発明のポリエステルフィルムロールにおけるフィルムは、最大厚み差ΔTmaxが2.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがさらに好ましく、0.8μm以下であることが特に好ましい。最大厚み差ΔTmaxを制御する方法は特に限られるものでは無いが、例えば、ポリエステルフィルムを溶融製膜する際に溶融したポリエステルをシート状に吐出する口金のスリット厚みなどを制御する方法が挙げられる。
【0024】
フィルム製造工程における工程ロールの表面材質としては、特に限定されないが、ニトリルゴム(アクリルニトリルとブタジエンの共重合体)、クロロプレンゴム(ポリクロルプレン)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、およびクロロスルホン化ポリエチレンゴムから選択された少なくとも1つのゴムであることが好ましい。より好ましくはクロロプレンゴムを用いることである。
【0025】
フィルム製造工程における工程ロールの表面導電抵抗は1×10~1×10Ωに調整することが好ましい。工程ロールの表面導電抵抗は、例えば表面材質にカーボンを含有させることで適宜調整ができる。
【0026】
フィルム製造工程における工程ロールの表面形状は、特に限定されないが、例えば、斜めに溝を掘ったもの(この加工を以下「網目加工」と称する)を好適に用いることができる。この網目加工の溝は、幅1~2mm、深さ1~1.5mmで、角度が工程ロール幅方向に対して20~45°の角度でX字状に付与することが好ましく、このときの溝を付与した際に残る工程ロール表面形状は、菱形あるいは正方形が規則正しく配置された態様となる
発明のポリエステルフィルムロールにおけるポリエステルフィルムは、前記表面A側の最外層の厚みが1μm以上であることが好ましい。なお、前記表面A側の最外層の厚みは、フィルム断面の顕微鏡写真により当該層の厚みを計測することによって得ることができる。前記表面A側の最外層の厚みが1μm未満である場合には、表面Aの算術平均粗さRaAが2.0nm以上となりやすいため好ましくない。前記表面A側の最外層の厚みは2μm以上250μm以下であることがより好ましく、38μm以上188μm以下であることがさらに好ましく、50μm以上150μm以下であることが特に好ましい。
【0027】
前記表面A側の最外層の厚みを1μm以上とするための手段としては特に限定されないが、例えば、単層からなる基材の片方の面に塗布層を設け、塗布層を表面B側の最外層とし、基材層全体を表面A側の最外層とする方法、共押出法による複合フィルムを基材として片方の面に塗布層を設け、塗布層を表面B側の最外層とし、基材である複合フィルムのうち表面A側に露出する層を表面A側の最外層とする方法、などの方法をとることができる。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムロールにおけるポリエステルフィルムは、前記表面B側の最外層の厚みが1μm未満であることが好ましい。なお、前記表面B側の最外層の厚みは、フィルム断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像から当該層の厚みを計測することによって得ることができる。前記表面B側の最外層の厚みが1μm以上である場合には、表面Bの算術平均粗さRaBが2.0nm未満になりやすかったり、フィルムの透明性が悪化しやすいため好ましくない。なお、前記表面B側の最外層の厚みは0.01μm以上0.5μm以下であることがより好ましく、0.02μm以上0.3μm以下であることがさらに好ましく、0.03μm以上0.2μm以下であることが特に好ましい。
【0029】
前記表面B側の最外層の厚みを1μm未満とするための手段としては特に限定されないが、例えば、基材の片方の面に塗布層を設け、塗布層を表面B側の最外層とすることが好ましい方法として例示できる。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムロールは、前記表面A側がポリエステルフィルムロールの外面になるように巻き取られてなることが好ましい態様として例示される。前記表面A側がポリエステルフィルムロールの外面になるように巻き取られてなる場合は、ポリエステルフィルムロールを反射防止フィルムとして加工する際、あるいは位相差層などを積層するための剥離フィルムとして加工する際に、光学機能層を設ける面、すなわち表面A側をフィルム加工工程中の上側に配置しやすくなり、加工性が優れる。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムロールは、前記表面B側がポリエステルフィルムロールの外面になるように巻き取られてなることが好ましい態様として例示される。前記表面B側がポリエステルフィルムロールの外面になるように巻き取られてなる場合は、フィルム製造工程中のフィルム巻き取り工程において発生するフィルム帯電を抑制しやすいため、ポリエステルフィルムロール外面表面の平均帯電電位Vおよび帯電電位レンジRを所定の範囲に設計しやすいなど、ポリエステルフィルムロール表面の帯電抑制性に優れる。
【0032】
本発明のポリエステルフィルムロールにおけるポリエステルフィルムは、ヘイズHが0.1%以上1.5%以下であることが好ましい。ヘイズHが1.5%を超える場合には、光学機能層を設ける際の例えば紫外線照射による硬化が不十分となる場合がある。また、ヘイズHを0.1%未満とすることは、前記表面B側の算術平均粗さRaBが2.0nm以上であることが本発明のポリエステルフィルムロールにおいて重要であることから技術的に困難である。本発明のポリエステルフィルムフィルムロールを構成するフィルムのヘイズHは、0.1%以上1.2%以下であることがより好ましく、0.1%以上1.0%以下であることが特に好ましい。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムロールにおけるポリエステルフィルムは、厚みが20μm以上250μm以下あることが好ましい。フィルムロールを構成するフィルムの厚みが250μmを超える場合には、光学機能層を設ける際の例えば紫外線照射による硬化が不十分となる場合がある。また、フィルムロールを構成するフィルムの厚みが20μm未満である場合には、フィルムの取り扱い性およびフィルム加工性が悪化する場合がある。本発明のポリエステルフィルムフィルムロールを構成するフィルムの厚みは、38μm以上200μm以下であることがより好ましく、50μm以上188μm以下であることがさらに好ましく、75μm以上125μm以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明のポリエステルフィルムロールにおけるポリエステルフィルムは、フィルムを構成する樹脂がポリエステル樹脂であることが重要であるが、本発明でいうポリエステル樹脂とは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称である。ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレン-α,β-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成成分を主成分とするものが良いが、これら構成成分は1種のみ用いても、2種以上併用してもよいが、中でも、品質、経済性などを総合的に考慮すると、ポリエチレンテレフタレートを主成分とすることが好ましい。また、これらポリエステル樹脂には、さらに他のジカルボン酸成分やジオール成分が一部、好ましくは20モル%以下共重合されていてもよい。
【0035】
上述したポリエステル樹脂の、JIS K7367(2000)に従い、25℃のo-クロロフェノール中で測定したときの極限粘度は、0.4dl/g以上1.2dl/g以下となることが好ましく、0.5dl/g以上0.8dl/g以下となることが特に好ましい。
【0036】
さらに、このポリエステル樹脂中には、本発明の重要な要件を満たす限り、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤、架橋剤等が添加されていてもよい。
【0037】
また、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、ホモポリエチレンテレフタレートであって、実質的に他の共重合成分および/または他の樹脂成分を含まないことが特に好ましい。ポリエステル樹脂がホモポリエチレンテレフタレートであって実質的に他の共重合成分および/または他の樹脂成分を含まないこととすることで、高い結晶性を得やすく、ポリエステルフィルムロールを反射防止フィルムとして加工する際、あるいは位相差層などを積層するための剥離フィルムとして加工する際に、優れた加工性を示しやすい。なお、本発明でいう実質的に他の共重合成分および/または他の樹脂成分を含まないこととは、共重合成分としては、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸以外のジカルボン酸成分を、また、ジオール成分としてエチレンジオール以外のジオール成分を、共重合成分として意図的に共重合させないことを意味する。また他の樹脂成分としては、ホモポリエチレンテレフタレートとは別に、ホモポリエチレンテレフタレートと相溶性のある樹脂、例えばホモポリエチレンテレフタレート以外のポリエステル樹脂や、非相溶性であっても100nm以下の分散サイズで分散される副成分として添加される樹脂成分のことを意味する。すなわち、前述したような各種添加剤、ならびに、ホモポリエチレンテレフタレートを重合するために添加する各種触媒や、易滑性や防眩性等の付与等を目的として添加されるような、フィルム化した後でも任意の形状を維持する高分子系粒子等の各種粒子、および不純物等は、ここでは該当しない。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムロールは、フィルムロールを構成するフィルム中における環状三量体の含有量が0.01質量%以上1.00質量%以下であっても良い。なお、ここでいう環状三量体とはエステル環状三量体のことを意味する。環状三量体の含有量をかかる範囲とすることで、高い結晶性を得やすく、ポリエステルフィルムロールを反射防止フィルムとして加工する際、あるいは位相差層などを積層するための剥離フィルムとして加工する際に、優れた加工性を示しやすい。なお、環状三量体の含有量を0.01質量%未満とすることは、環状三量体の生成メカニズムの観点から実質的に不可能である。フィルムロールを構成するフィルム中の環状三量体の含有量を0.01質量%以上1.00質量%以下とする手段は、特に限定されないが、環状三量体の含有量が少ないポリエステル樹脂を原料としてフィルムを製造することが特に好ましい手段である。環状三量体の含有量が少ないポリエステル樹脂の製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えば、ポリエステル樹脂の製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
【0039】
本発明のポリエステルフィルムロールは、フィルムロールを構成するフィルムが二軸配向フィルムであることが好ましい。なお、ここで言う「二軸配向」とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸配向フィルムは一般に、二軸延伸法、すなわち、未延伸状態のシートをシート長手方向および幅方向に各々2.5~5.0倍程度延伸し、その後、熱処理を施し、結晶配向を完了させることにより得ることができる。また、二軸延伸法としては、逐次二軸延伸法を用いても良いし、同時二軸延伸法を用いても良い。さらには、二軸延伸を施した後に再度、フィルム長手方向あるいはフィルム幅方向に延伸を施す、再延伸法を施しても良い。フィルムロールを構成するフィルムを二軸配向フィルムとすることで、高い結晶性を得やすく、ポリエステルフィルムロールを反射防止フィルムとして加工する際、あるいは位相差層などを積層するための剥離フィルムとして加工する際に、優れた加工性を示しやすい。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムロールは、本発明の重要な要件を満たす限り、そのフィルムロールを構成するフィルム構成に制限はなく、単層フィルムであっても、積層フィルムであっても良い。積層フィルムとする場合においては、例えば、層A/層Bの積層フィルムすなわち2種2層積層フィルム、層B/層A/層Bの積層フィルムすなわち2種3層積層フィルム、層B/層A/層Cの積層フィルムすなわち3種3層積層フィルム等の構成を挙げることができる。
【0041】
本発明のポリエステルフィルムロールを構成するフィルムを積層構成フィルムとする場合においては、その積層方法は制限されるものではなく、例えば、共押出法による積層方法、貼り合わせによる積層方法、これの組み合わせによる方法等を挙げることができるが、透明性と製造安定性の観点から、共押出法を採用することが好ましい。
【0042】
本発明のポリエステルフィルムロールを構成するフィルムを積層構成フィルムとする場合においては、それぞれの層に異なる機能を付与すること目的として、異なる樹脂構成としても良い。例えば、層B/層A/層Bの積層フィルムすなわち2種3層積層フィルムとする場合には、透明性の観点から層Aをホモポリエチレンテレフタレートで構成し、層Bには、易滑性付与のために、粒子を添加する等の方法を挙げることができる。
【0043】
次に本発明のポリエステルフィルムロールの製造方法を、ポリエステル樹脂としてホモポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)を用いた場合を例にして説明する。ただし、本発明のポリエステルフィルムロールはこれに限定されるものではない。
【0044】
PETペレット(環状三量体含有量1.0~0.3質量%、極限粘度0.5~0.8dl/g)を真空乾燥した後、押出機に供給し260~300℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10~60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化せしめて未延伸PETフィルムを作製する。この未延伸フィルムを70~100℃に加熱されたロール間で縦方向(フィルムの進行方向を指し「長手方向」ともいう)に2.5~5.0倍延伸する。続いて、このフィルムをクリップで把持して予熱ゾーンに導き、75~95℃の温度まで加熱を行い、引き続き連続的に90~115℃の加熱ゾーンで横方向(フィルムの進行方向とは直交する方向を指し「幅方向」ともいう)に3.0~5.0倍延伸し、続いて200~240℃の加熱ゾーンで5~60秒間熱処理を施し、100~200℃の冷却ゾーンを経て結晶配向の完了したポリエステルフィルムを得る。なお、上記熱処理中に必要に応じて3~12%の弛緩処理を施してもよい。二軸延伸は逐次延伸あるいは同時二軸延伸のいずれでもよく、また縦、横延伸後、縦、横いずれかの方向に再延伸してもよい。得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムの端部をカットした後に巻き取り中間製品とし、その後スリッターを用いて所望の幅にカット後、円筒状のコアに巻き付け所望の長さのポリエステルフィルムロールを得ることができる。なお、巻き取り時に巻姿改善のためにフィルム両端部にエンボス処理を施しても良い。
【0045】
本発明のポリエステルフィルムロールは、ポリエステルフィルムロールを構成するフィルムの片面、あるいはフィルムの両面に塗布層を設けても良い。また、塗布層は、一方の面に2層以上の複数層の塗布層であっても良いし、両面に塗布層を設ける場合は、一方の面と、その反対の面で異なる組成物を塗布しても良い。さらには、フィルム表面Aの算術平均粗さRaAおよびフィルム表面Bの算術平均粗さRaBを所定の値にコントロールしやすい観点から、フィルム表面Aには塗布層を設けずに、フィルム表面Bにのみ塗布層を設けることが特に好ましい態様である。そして、フィルム表面Aに塗布層を設けずにフィルム表面Bにのみ塗布層を設ける態様においては、ロール外面表面の平均帯電電位Vをコントロールしやすい観点から、フィルム表面Bを構成する塗布層がフィルム表面Aとの帯電列差が小さいこと、すなわち、フィルム表面Bを構成する塗布層がポリエステル系樹脂を含有することが最も好ましい態様である。
【0046】
本発明のポリエステルフィルムロールを構成するフィルムの表面に設ける塗布層としては、本発明の重要な要件を満たす限り特に限定されないが、各種公知の塗布層を設けることができ、例えば、フィルムに易滑性を付与するための粒子含有組成物層、フィルムの表面硬度や耐擦過性を補完するためのハードコート層、別に設けるハードコート層等の機能層との接着性を補完するための易接着層、別に設けるハードコート層と基材ポリエステルフィルム間の屈折率差により生じる光の干渉ムラを抑制するための高屈折率層、フィルム表面へのオリゴマー析出に起因する白化を抑制するためのオリゴマーブロック層、あるいは、他のフィルムとの貼り合わせを行うために設ける粘着層等が挙げられる。
【0047】
本発明のポリエステルフィルムロールを構成するフィルムの表面に設ける塗布層としては、例えば、易滑性と易接着性、または易滑性とオリゴマーブロック性といった、複数の機能をひとつの塗布層で補完することも可能であり、また、片方の面に易滑性と易接着性を補完する塗布層を設け、その上にハードコート層を設け、さらにもう片方の面に易滑性とオリゴマーブロック性の両方を補完する塗布層を設けるといった構成をとることができる等、塗布面、機能、ひとつの塗布層で補完する機能の数と種類、塗布層数の組み合わせ等に、なんら制限は受けない。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムロールを構成するフィルムの表面に塗布層を設ける場合において、塗布層を設ける方法としては、ポリエステルフィルムの製造工程とは別工程で塗布を行う方法、いわゆるオフラインコーティング方法と、ポリエステルフィルムの製造工程中に塗布を行い、塗布層がコーティングされたポリエステルフィルムを一気に得る、いわゆるインラインコーティング方法の両方を用いる事が可能である。本発明のポリエステルフィルムロールを構成するフィルムにおいては、コストの面や、塗布厚みの均一化の面からインラインコーティング方法を採用することが好ましく、その場合に用いる塗液の溶剤は、環境汚染や防爆性の点から水系であることが好ましい。
【0049】
本発明のポリエステルフィルムロールを構成するフィルムの表面に塗布層を設ける場合においては、ポリエステルフィルムの製造方法として、前記インラインコーティング法を用いて、以下の工程1)~4)をこの順にて実施する方法が、前述した塗布層の特性を発現させ、かつ生産性を高める観点から、特に好ましい方法として挙げられる。
1) ベースとなるポリエステルフィルムの工程フィルムの少なくとも片面に、塗布層を形成する塗液を塗布する塗布工程。
2) ベースとなるポリエステルフィルムの工程フィルムに塗布された塗液を加熱乾燥することによって、塗布層を形成せしめる加熱乾燥工程。
3) 塗布層が形成された工程フィルムを延伸する延伸工程。
4) 延伸された工程フィルムを加熱し、熱処理を行う熱処理工程。
【0050】
前記1)項に記載した塗布工程における塗布方法は、特に限定されるものではなく、例えばリバースコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、ダイコート法などを用いることができるが、塗布層の厚みムラを低減する観点から、グラビアコート法およびバーコート法を用いるが好ましく、計量バーによるバーコート方式を用いることが特に好ましい。計量バーによるバーコート方式を用いる場合に用いる計量バーに関して、その直径は特には限定されないが、通常は10~30mmの範囲となる。また、計量のための溝の作成方法は、ワイヤーを円筒形の部材に巻き付けるワイヤーバー方式を採用してよいし、部材表面に螺旋状溝を掘った方式を採用しても良い。なお、塗布均一性の観点から、計量バーの振れ量に関しては、150μm以下であるものを用いるが好ましく、100μm以下であるものを用いることが特に好ましい。
【0051】
前記2)項に記載した加熱乾燥工程において、加熱乾燥後の塗布層面のフィルム表面の温度を75~95℃の範囲に調整する事が好ましい。加熱乾燥後の塗布層面のフィルム表面の温度が75℃未満である場合には、フィルムの予熱が不十分となり、引き続き実施される延伸工程でのフィルム破れが発生しやすい傾向がある。また、加熱乾燥後の塗布層面のフィルム表面の温度が95℃を越える場合には、塗布層の延伸時の均一性が損なわれる場合があり、塗布層の厚みのバラツキが大きくなる傾向がある。
【0052】
また、加熱乾燥工程における加熱乾燥方法については特には限定されず、例えば熱風を吹き付ける方法や非接触式のヒーターで加熱する方法などを挙げることができるが、加熱乾燥の均一性の観点から、熱風を吹き付ける方法を採用することが好ましい。また、加熱乾燥工程終了後の塗布層面のフィルム表面を非接触温度計にて測定し、該測定結果が上述の温度範囲となるように決められた目標値に制御されるように、加熱乾燥工程における熱風の風速および/または温度を制御する(目標温度より高くなった場合は風速を落とすか温度を下げる。目標温度より低くなったときは風速を上げるか温度を上げる)方法を用いることが、長時間連続生産時の塗布厚みの変動抑制の観点で好ましい。
【0053】
なお、インラインコート法においては、通常、オーブンによる加熱乾燥後に横延伸を実施するが、両端部はクリップに把持されているため、塗布は中央部のみに実施される場合が多い。このため、塗布が施されているフィルム中央部と塗布が施されていないフィルム端部とでは、延伸時のフィルム温度に差が生じる場合があり、この場合、相対的に温度が高いフィルム端部が、より延伸されやすい状態となっている。また、塗布層中に各種架橋剤等が含有されている場合においては、計量バーやグラビアロールが長期の連続生産による目詰まりにより経時で塗布厚みが減少する傾向があり、こ場合には、横延伸時のフィルム中央部のフィルム温度が上昇するため、フィルム中央部が比較的延伸されやすい傾向となり、フィルム中央部の横延伸の実効倍率が上昇することで、横延伸後の塗布層厚みが薄くなる場合がある。これらの実情を鑑みて、加熱乾燥工程終了後のフィルム温度を、フィルム幅方向、あるいは連続生産時の経時で一定に制御することが、好ましい態様となる。
【0054】
前記3)項の延伸工程においては、塗布層が形成された工程フィルムに90~115℃に設定した熱風を吹き付けながら、フィルム幅方向に3.0~5.0倍に延伸することが好ましい態様である。熱風の温度が90℃未満である場合は、延伸時にフィルム破れが発生する場合があり、一方、熱風の温度が115℃を越える場合には、前記加熱乾燥時の状況と同様に、塗布層の厚みの均一性が悪化しやすい傾向あるため、好ましくない。また、フィルムの横延伸倍率が3.0倍未満である場合には、フィルム幅方向の強度が悪化しやすかったり、フィルム幅方向の厚みの均一性が悪化しやすい傾向があり、一方で、フィルムの横延伸倍率が5.0倍を越える場合には、延伸時にフィルム破れが発生しやすい傾向があるため、好ましくない。
【0055】
前記4)項の熱処理工程においては、200℃~240℃に設定した熱風を5~60秒間吹き付ける方法が好ましい。この工程においては、工程フィルムの結晶化を促進することで、フィルムを構成する高分子の二次構造、三次構造を固定化し、フィルムの耐熱変形性、熱寸法安定性、耐薬品性などを向上させる事ができる。熱処理工程の温度および時間については、上記した範囲内において、目標とするフィルム特性に応じて調整する事ができる。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、各種物性の測定方法を記載する
(1)厚み:T
ダイヤルゲージ(ミツトヨ社製“No2110S-10”)を用いて、フィルムの任意の20点を測定し、平均値を厚みTとした。
【0057】
(2)最大厚み差:ΔTmax
フィルムロール表面からフィルムを巻き出し、幅方向全長に切れ目を入れて短冊状にサンプリングし、ダイヤルゲージ(ミツトヨ社製“No2110S-10”)を用いて、フィルムの一方の端部から1cm内側の位置を最初の測定点として、もう一方の端部に向かって1cm移動する毎にフィルム厚みを測定し、フィルム幅方向全長にわたるフィルム厚みのデータを得た。次いで、任意の測定点とその次の測定点でのフィルム厚みの差の絶対値ΔTを算出し、幅方向全長におけるΔTのうち最大値を選択して、ΔTmaxとした。
【0058】
(3)最外層厚み(表面Aおよび表面B):TAおよびTB
最外層厚みが1μm以上である場合には金属顕微鏡を用いた方法により最外層厚みの測定を行い、最外層厚みが1μm未満である場合には透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた方法により最外層厚みの測定を行った。
【0059】
(3-1)金属顕微鏡を用いた方法
フィルムの断面を、ライカマイクロシステムズ(株)製金属顕微鏡LeicaDMLMを用いて、100倍~1000倍の任意の倍率により、透過光で写真撮影し、最外層の厚みを測定した。合計で20点の厚み測定を行い、20点の平均値を、表面A側の最外層の厚みTAあるいは表面B側の最外層の厚みTBとした。基材フィルムが複合フィルムである場合など、層間の界面が不明確である場合には、任意の層に染料を任意量添加して、その他の製造条件は変更せずにサンプルフィルムを作成して測定した。
【0060】
(3-2)透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた方法
フィルムの断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて10万倍の倍率で撮影を行い、最外層の厚みを測定した。合計で20点の厚み測定を行い、20点の平均値を、表面A側の最外層の厚みTAあるいは表面B側の最外層の厚みTBとした。
【0061】
・試料調整:RuO染色FIB法
SMI3200SE(SIINT(株)製)
FB-2000A II Micro Sampling System(日立(株)製)
Strata400S(FEI社製)
スパッタコート(白金、10nm)後に、C(炭素)のデポジション製膜を実施。
【0062】
・観察装置:高分解透過型電子顕微鏡(日立製 H9000UHR II)
・観察条件:加速電圧300kV
(4)算術平均粗さ(表面Aおよび表面B):RaAおよびRaB
触針式表面粗さ計を用い、JIS-B0601(1994年)に準拠して下記条件にて表面Aおよび表面Bの算術平均粗さを測定した。1ヵ所の測定で幅方向に20回走査し、同様に計3ヵ所測定し、得られた結果の平均値をRaAおよびRaBとした。
・測定装置:小坂研究所製高精度薄膜段差測定器ET-10
・触針先端半径:0.5μm
・触針荷重:0.05mN
・測定長:1mm
・カットオフ値:0.08mm
・測定環境:温度23℃湿度65%RH
(5)ヘイズ:H
JIS-K-7105(1985年)に基づいて、ヘイズメーター(スガ試験機製“HGM-2GP”)を用いて、3回の測定を行い、平均値をヘイズHとした。
【0063】
(6)平均帯電電位:V
フィルムロールを構成するコアに中吊り棒を挿入し、中吊り棒の両端を架台に掛けることでフィルムロールを宙吊りにし、フィルムロールからフィルムを3周巻き出して、電位計(株式会社キーエンス製 静電気測定器SK-H050)を用いて露出したフィルムロール表面の帯電量を測定した。フィルムロールの幅方向3点の位置(幅方向の両端部からそれぞれ5cm内側の位置、および幅方向中心の位置)で電位を測定し、その平均値を平均帯電電位Vとした。
【0064】
(7)帯電電位レンジ:R
前記(5)平均帯電電位Vの測定過程で得られたフィルムロールの幅方向3点の位置(幅方向の両端部からそれぞれ5cm内側の位置、および幅方向中心の位置)の電位測定値のうち、最大値と最小値の差を算出して、帯電電位レンジRとした。
【0065】
(8)転写層の表面外観
(8-1)光学転写フィルムの作成
フィルムロールからフィルムを巻き出してフィルムを搬送し、表面A側に配向層に係る塗工液Aを塗工し、乾燥装置により塗工液Aを乾燥させた後、塗工液Aの塗工側より直線偏光による紫外線を照射して塗工液Aを硬化させて、表面A側に配向層を設けた。続いて、配向層の上に位相差層に係る塗工液Bを塗工し、乾燥装置により塗工液Bを乾燥させた後、塗工液Bの塗工側と未塗工側の両側より直線偏光による紫外線を照射して塗工液Bを硬化させて、配向層の上に位相差層を設けることで、光学転写フィルムを得た。
【0066】
(塗工液A)
三洋化成工業(株)製のファインキュアーPXV-18を用いて、その組成物中に、フッ素含有界面活性剤(DIC社製 メガファックF-554)を0.025質量%の割合で添加したものを用いた。
【0067】
(塗工液B)
メルク(株)製 RMM28Bを用いた。
【0068】
(8-2)光学機能フィルムの作成
直線偏光板と粘着層と剥離フィルムとがこの順で積層された積層体を巻き取ってなる直線偏光板ロールを、剥離フィルムを剥離しながら粘着層が露出するように巻き出し、前記光学転写フィルムの位相差層と直線偏光版ロールの粘着層とが積層されるように貼り合わせて、加圧ロールにより加圧して、その後、剥離ロールによって配向層とフィルムとの界面で剥離を行うことで位相差層と配向層とで構成される転写層を転写して、直線偏光板と粘着層と位相差層と配向層とがこの順で積層された光学機能フィルムを得た。
【0069】
(8-3)転写層の表面外観の評価
前記(8-1)及び(8-2)の方法で得た光学機能フィルムを用いて、暗室内において、配向層側より三波長蛍光灯による投光を行い、配向層表面に投影された光源像を観察し、下記の基準にて転写層の表面外観の評価を行った。
・A:配向層表面に投影された光源像の輪郭が明確であり、転写層の表面外観が良好であった。
・B:配向層表面に投影された光源像の輪郭は不明確であったが、光源像の全体像は十分に認知可能であり、転写層の表面外観は十分に実用に耐えるものであった。
・C:配向層表面に投影された光源像の輪郭が不明確であり、光源像の全体像も認知できず、転写層の表面外観は不良であった。
【0070】
(9)加工性
前記(8-1)に記載の加工時における加工性を、下記の基準にて評価した。
・A:2000mの連続加工を行ったとき、全長にわたって泡の混入や紫外線硬化不足などの塗工不良は発生せず、安定した加工が可能であり、加工性は良好であった。
・B:2000mの連続加工を行ったとき、泡の混入や紫外線硬化不足などの塗工不良が合計値として1~5箇所の位置で発生したが、加工性は十分に実用に耐えるものであった。
・C:2000mの連続加工を行ったとき、泡の混入や紫外線硬化不足などの塗工不良が合計値として6箇所以上の位置で発生し、加工性は不良であった。
【0071】
(10)剥離性
前記(8-2)に記載の加工時において、配向層とフィルムとの界面で剥離を行ったときの剥離性を、下記の基準にて評価した。
・A:2000mの連続加工を行ったとき、全長にわたって配向層の剥離残りは発生せず、剥離性は良好であった。
・B:2000mの連続加工を行ったとき、配向層の剥離残りが1~3箇所の位置で発生したが、加工性は十分に実用に耐えるものであった。
・C:2000mの連続加工を行ったとき、配向層の剥離残りが4箇所以上の位置で発生し、剥離性は不良であった。
【0072】
(11)転写層の均一性
暗室内において、三波長蛍光灯、偏光板A、前記(8-1)及び(8-2)の方法で得た光学機能フィルム、偏光板Bをこの順に配置し、偏光板B側より目視により観察を行い、下記の基準にて転写層の均一性の評価を行った。なお、偏光板Aと偏光板Bとの位置関係はクロスニコルの位置関係とし、光学機能フィルムの全幅を3mの長さにわたって目視観察を行った。
・AA:明暗のムラはなく、転写層の均一性は特に良好であった。
・A:明暗のムラが1~3個所の位置で確認された。
・B:明暗のムラが4~5個所の位置で確認された。
・C:明暗のムラが6個所以上の位置で確認され、転写層の均一性は不良であった。
【0073】
(12)フィルムの取扱性
前記(8-1)及び(8-2)の加工を行う際において、加工機へのフィルムロール取り付けから加工開始までの加工準備を行うときのフィルム取扱性について、下記の基準にて評価を行った。
・AA:前記(8-1)及び(8-2)の加工準備をそれぞれ10回ずつ行ったとき、すべて問題なく作業することができ、フィルムの取扱性は特に良好であった。
・A:前記(8-1)及び(8-2)の加工準備をそれぞれ10回ずつ行ったとき、フィルムロールからフィルムをうまく巻き出せなかったり、フィルムが工程中をうまく通過しなかったりするなどの不具合が1~2回発生した。
・B:前記(8-1)及び(8-2)の加工準備をそれぞれ10回ずつ行ったとき、フィルムロールからフィルムをうまく巻き出せなかったり、フィルムが工程中をうまく通過しなかったりするなどの不具合が3~4回発生した。
・C:前記(8-1)及び(8-2)の加工準備をそれぞれ10回ずつ行ったとき、フィルムロールからフィルムをうまく巻き出せなかったり、フィルムが工程中をうまく通過しなかったりするなどの不具合が5回以上発生し、フィルムの取扱性は不良であった。
【0074】
(13)総合評価
前記(8)~(12)までの評価結果から、下記の基準にて評価を行った。
・A:前記(8)~(12)の評価結果が、すべてA以上であった。
・B:前記(8)~(12)の評価結果のうち、もっとも評価の低かった評価項目の評価結果がBであった。
・C:前記(8)~(12)の評価結果のうち、もっとも評価の低かった評価項目の評価結果がCであった。
【0075】
[使用したポリエステル樹脂]
(PET-1)
テレフタル酸とエチレングリコールの反応物であるエステル化反応物を予め255℃の溶融状態で貯留させ、さらにテレフタル酸とエチレングリコールとをテレフタル酸に対するエチレングリコールのモル比が1.15になるようにスラリー状にしてエステル化反応槽の温度を保ちながら定量供給し、水を留出させながらエステル化反応を行い、エステル化反応物を得た。得られたエステル化反応物を、重合反応槽に移送し、リン酸を含むエチレングリコール溶液と酢酸マグネシウム4水和物を含むエチレングリコール溶液、三酸化アンチモンを含むエチレングリコール溶液、水酸化カリウムを含むエチレングリコール溶液を別々に、得られるポリエステル樹脂に対して、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、リン元素をM/Pが2.8に、アンチモン元素として60ppmとなるように添加し、引き続いて重合反応槽内を除々に減圧にし、30分で0.13kPa以下とし、それと同時に除々に昇温して280℃とし、重合反応を実施した。その後、窒素ガスによって重縮合反応槽を常圧に戻し、口金より冷水中にストランド状に吐出し、押し出しカッターによって円柱状にペレット化し、表面結晶化装置によって予備結晶化し、ポリエステル樹脂(PET-1)を得た。
【0076】
(PET-2)
ポリエステル樹脂(PET-1)を用いて、回転式真空乾燥装置により、0.13KPaの減圧下、215℃の温度で20時間固相重合を行い、ポリエステル樹脂(PET-2)を得た。
【0077】
(PET-3)
重合反応槽に移送後の各種重合触媒のエチレングリコール溶液を添加する際に、さらに、平均粒子径が0.3μmの架橋ポリスチレン粒子を含むエチレングリコール溶液を添加したこと以外は、ポリエステル樹脂(PET-1)と同様の方法により、ポリエステル樹脂(PET-3)を得た。得られたポリエステル樹脂(PET-3)の架橋ポリスチレン粒子含有量は0.02質量%であった。
【0078】
(PET-4)
重合反応槽に移送後の各種重合触媒のエチレングリコール溶液を添加する際に、さらに、平均粒子径が2μmのシリカ粒子を含むエチレングリコール溶液を添加したこと以外は、ポリエステル樹脂(PET-1)と同様の方法により、ポリエステル樹脂(PET-4)を得た。得られたポリエステル樹脂(PET-4)のシリカ粒子含有量は0.02質量%であった。
【0079】
[使用した塗液]
(塗液-1)
窒素ガス雰囲気下で、ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸40モル部、テレフタル酸50モル部、5-スルホイソフタル酸ナトリウム5モル部、グリコール成分としてエチレングリコール95モル部、ジエチレングリコール5モル部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブチルチタネート(触媒)を全ジカルボン酸成分100万質量部に対して100質量部添加して、160~240℃で5時間エステル化反応を行った後、溜出液を取り除いた。その後、トリメリット酸5モル部と、テトラブチルチタネートを更に全ジカルボン酸100万質量部に対して100質量部添加して、240℃で、反応物が透明になるまで溜出液を除いたのち、220~280℃の減圧下において、重縮合反応を行い、ポリエステル(A)を得た。その後、ポリエステル(A)を100.0質量部、メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標) MW12LF:有効成分50質量%、イソプロピルアルコール17質量%含有)を有効成分換算で50.0質量部、コロイダルシリカ(粒径140nm)を40質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で2.2質量部、シリカ粒子(粒径300nm)を20質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で0.6質量部、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルを3.0質量部、水を92.0質量部混合して、塗液-1を得た。
【0080】
(塗液-2)
窒素ガス雰囲気下で、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸85モル部、5-スルホイソフタル酸ナトリウム5モル部、グリコール成分としてエチレングリコール100モル部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブチルチタネート(触媒)を全ジカルボン酸成分100万質量部に対して100質量部添加して、160~240℃で5時間エステル化反応を行った後、溜出液を取り除いた。その後、1,3,5-トリメリット酸10モル部と、テトラブチルチタネートを更に全ジカルボン酸100万質量部に対して100質量部添加して、240℃で、反応物が透明になるまで溜出液を除いたのち、220~280℃の減圧下において、重縮合反応を行い、ポリエステル(B)を得た。その後、ポリエステル(A)をポリエステル(B)に変更したこと以外は、塗液-1と同様の方法により、塗液-2を得た。
【0081】
(塗液-3)
有効成分を、ポリエステル(A)を100質量部、メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標) MW12LF:有効成分70質量%、イソプロピルアルコール17質量%含有)を有効成分換算で40質量部、オキサゾリン系架橋剤(日本触媒(株)製“エポクロス”(登録商標) WS500:有効成分40質量%、1-メトキシ-2-プロパノール38質量%含有)を有効成分換算で10質量部、コロイダルシリカ(粒径140nm)を40質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で2.2質量部、シリカ粒子(粒径300nm)を20質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で0.6質量部混合してなることに変更したこと以外は、塗液-1と同様の方法により、塗液-3を得た。
【0082】
(塗液-4)
有効成分を、ポリエステル(A)を100.0質量部、メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標) MW12LF:有効成分50質量%、イソプロピルアルコール17質量%含有)を有効成分換算で50.0質量部、コロイダルシリカ(粒径140nm)を40質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で2.2質量部、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルを3.0質量部混合してなることに変更したこと以外は、塗液-1と同様の方法により、塗液-4を得た。
【0083】
(塗液-5)
有効成分を、ポリエステル(A)を100.0質量部、メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標) MW12LF:有効成分50質量%、イソプロピルアルコール17質量%含有)を有効成分換算で50.0質量部、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルを3.0質量部混合してなることに変更したこと以外は、塗液-1と同様の方法により、塗液-5を得た。
【0084】
(塗液-6)
有効成分を、ポリエステル(A)を100.0質量部、メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標) MW12LF:有効成分50質量%、イソプロピルアルコール17質量%含有)を有効成分換算で50.0質量部、コロイダルシリカ(粒径40nm)を40質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で2.2質量部、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルを3.0質量部混合してなることに変更したこと以外は、塗液-1と同様の方法により、塗液-6を得た。
【0085】
(塗液-7)
有効成分を、ポリエステル(A)を100.0質量部、メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標) MW12LF:有効成分50質量%、イソプロピルアルコール17質量%含有)を有効成分換算で50.0質量部、コロイダルシリカ(粒径140nm)を40質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で7.0質量部、シリカ粒子(粒径300nm)を20質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で2.0質量部、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルを3.0質量部混合してなることに変更したこと以外は、塗液-1と同様の方法により、塗液-7を得た。
【0086】
(塗液-8)
有効成分を、ポリエステル(A)を100.0質量部、メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標) MW12LF:有効成分50質量%、イソプロピルアルコール17質量%含有)を有効成分換算で50.0質量部、コロイダルシリカ(粒径140nm)を40質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で4.5質量部、シリカ粒子(粒径300nm)を20質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で1.4質量部、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルを3.0質量部混合してなることに変更したこと以外は、塗液-1と同様の方法により、塗液-8を得た。
【0087】
(塗液-9)
有効成分を、ポリエステル(A)を100.0質量部、メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標) MW12LF:有効成分50質量%、イソプロピルアルコール17質量%含有)を有効成分換算で50.0質量部、コロイダルシリカ(粒径140nm)を40質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で1.0質量部、シリカ粒子(粒径300nm)を20質量部混合してなる水分散液を有効成分換算で0.3質量部、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルを3.0質量部混合してなることに変更したこと以外は、塗液-1と同様の方法により、塗液-9を得た。
【0088】
(塗液-10)
メチルメタクリレートを64.0質量部、エチルアクリレートを34質量部、アクリル酸を1質量部、アクリロニトリルを1質量部の組成で共重合してなるアクリル樹脂共重合体をアクリル(A)とし、有効成分として、ポリエステル(A)をアクリル(A)に変更したこと以外は塗液-1と同様の方法により、塗液-10を得た。
【0089】
(塗液-11)
有効成分として、ポリエステル(A)100.0質量部を、アクリル(A)70.0質量部およびポリエステル(A)30.0質量部に変更したこと以外は塗液-1と同様の方法により、塗液-11を得た。
【0090】
(塗液-12)
有効成分として、ポリエステル(A)100.0質量部を、アクリル(A)50.0質量部およびポリエステル(A)50.0質量部に変更したこと以外は塗液-1と同様の方法により、塗液-12を得た。
【0091】
[使用した工程ロール]
(工程ロールA)
クロロプレンゴム製、表面導電抵抗:3×10Ω
(工程ロールB)
ニトリルゴム製、表面導電抵抗:2×10Ω
(工程ロールC)
エチレン・プロピレン・ジエンゴム製、表面導電抵抗:7×10Ω
(工程ロールD)
工程ロールAのロール表面に、幅1.5mm、深さ1.0mmで、角度が工程ロール幅方向に対して30°の角度でX字状に網目加工を施して、工程ロールDとした。工程ロールDのロール表面形状は、菱形が規則正しく配置された態様であった。
【0092】
(工程ロールE)
クロロプレンゴム製、表面導電抵抗:7×1010Ω
(工程ロールF)
ニトリルゴム製、表面導電抵抗:2×1011Ω
[ポリエステルフィルムの作成]
(実施例1)
PET-1を真空中160℃で4時間乾燥した後、押出機に供給し285℃で溶融押出を行った。ステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き5μmのフィルターで、次いで平均目開き14μmのステンレス鋼粉体を焼結したフィルターで濾過した後、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度20℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。なお、この時キャスティングドラムの反対面から温度10℃の冷風を長手方向に8段設置した間隙2mmのスリットノズルから風速20m/sでフィルムに吹き付け、両面から冷却を実施した。
この未延伸フィルムを予熱ロールにて70℃に予熱後、上下方向からラジエーションヒーターを用いて90℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に3.1倍延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向(一軸延伸)フィルムとした。このフィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、フィルムの表面張力を55mN/mとした。
【0093】
次いで、塗液-1を上記一軸延伸フィルムの両面にバーコーターを用いて塗布した。なお、メタリングワイヤーバーは直径13mm、ワイヤー径0.1mm(#4)のものを用いた。
塗液を塗布した1軸延伸フィルムをクリップで把持してオーブンに導き、温度120℃、風速20m/分の熱風にて加熱乾燥した。引き続き連続的に延伸工程に導き、温度100℃、風速15m/分の熱風にて加熱しながら幅方向に3.7倍延伸した。得られた二軸配向フィルムを引き続き連続的に温度230℃、風速20m/分の熱風にて15秒間熱処理を実施後、230℃から120℃まで冷却しながら5%の弛緩処理を施し、続けて50℃まで冷却した。引き続き幅方向両端部を除去した後に巻き取り、厚み100μmのポリエステルフィルム中間製品を得た。
その後、ポリエステルフィルム中間製品を1500mm幅にスリットし、フィルムがコアに巻き取られる部分で交流電圧印加式除電器により除電しながら、フィルムを2000m巻き取り、本発明のポリエステルフィルムロールを得た。中間製品のスリット工程における工程ロールは、搬送ロールには工程ロールAを、コンタクトロールには工程ロールDをそれぞれ採用した。
ここで得られた本発明のポリエステルフィルムロールの評価結果を表1に示す。ここで得られた本発明のポリエステルフィルムロールは、転写層の表面外観、加工性、剥離性、転写層の均一性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として特に好適に使用できるものであった。
【0094】
(実施例2~10)
表1記載のフィルム構成と工程ロールに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、本発明のポリエステルフィルムロールを得た。ここで得られた本発明のポリエステルフィルムロールの評価結果を表1に示す。
【0095】
実施例2、4のポリエステルフィルムロールは、十分な加工性があり、転写層の表面外観および剥離性に優れ、また転写層の均一性およびフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0096】
実施例3、9、10のポリエステルフィルムロールは、転写層の表面外観、加工性、剥離性、転写層の均一性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として特に好適に使用できるものであった。
【0097】
実施例5のポリエステルフィルムロールは、十分な転写層の均一性があり、また転写層の表面外観、加工性、剥離性、フィルムの取扱性に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0098】
実施例6、7のポリエステルフィルムロールは、十分な加工性があり、また転写層の表面外観、剥離性、転写層の均一性、フィルムの取扱性に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0099】
実施例8のポリエステルフィルムロールは、十分な加工性があり、転写層の表面外観、剥離性、フィルムの取扱性に優れており、また転写層の均一性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0100】
(実施例11~20)
表2記載のフィルム構成と工程ロールに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、本発明のポリエステルフィルムロールを得た。ここで得られた本発明のポリエステルフィルムロールの評価結果を表2に示す。
【0101】
実施例11、16のポリエステルフィルムロールは、十分な転写層の表面外観と加工性があり、剥離性、転写層の均一性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0102】
実施例12、17のポリエステルフィルムロールは、十分な転写層の表面外観と加工性があり、剥離性に優れ、また転写層の均一性とフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0103】
実施例13のポリエステルフィルムロールは、十分な転写層の均一性があり、また転写層の表面外観、加工性、剥離性、フィルムの取扱性に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0104】
実施例14のポリエステルフィルムロールは、転写層の表面外観、加工性、剥離性、転写層の均一性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として特に好適に使用できるものであった。
【0105】
実施例15のポリエステルフィルムロールは、十分な加工性があり、転写層の表面外観、剥離性に優れ、また転写層の均一性とフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0106】
実施例18、20のポリエステルフィルムロールは、十分な転写層の表面外観、加工性、および剥離性があり、転写層の均一性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0107】
実施例19のポリエステルフィルムロールは、十分な転写層の表面外観、加工性、および剥離性があり、また転写層の均一性とフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0108】
(実施例21~30)
表3記載の原料を用いて、それぞれ独立した別々の真空乾燥機により真空中160℃で4時間乾燥した後、それぞれ独立した別々の押出機に供給し、フィルムとして表3記載の層構成、積層厚みになるよう、共押出法によって溶融押出を行い、表3記載の工程ロールを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、本発明のポリエステルフィルムを得た。なお、表3記載の基材層構成の項目における表記において、例えば「B/A/B」の表記は、基材層の構成として、基材層Aの両面に基材層Bを配置したこと、すなわち、基材層B/基材層A/基材層Bの層構成で構成したことを意味する。得られたポリエステルフィルムロールの評価結果を表3に示す。
【0109】
実施例21、23のポリエステルフィルムロールは、十分な転写層の均一性があり、転写層の表面外観、加工性、剥離性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0110】
実施例22のポリエステルフィルムロールは、十分な加工性と転写層の均一性があり、転写層の表面外観、剥離性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0111】
実施例24、25、26のポリエステルフィルムロールは、十分な転写層の表面外観、加工性、剥離性、および転写層の均一性があり、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0112】
実施例27、30のポリエステルフィルムロールは、転写層の表面外観、加工性、剥離性、転写層の均一性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として特に好適に使用できるものであった。
【0113】
実施例28、29のポリエステルフィルムロールは、十分な加工性があり、転写層の表面外観および剥離性に優れ、また転写層の均一性およびフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0114】
(実施例31~35)
表4記載のフィルム構成に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、本発明のポリエステルフィルムロールを得た。ここで得られた本発明のポリエステルフィルムロールの評価結果を表1に示す。
【0115】
実施例31、32、34のポリエステルフィルムロールは、十分な転写層の均一性があり、転写層の表面外観、加工性、剥離性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0116】
実施例33、35のポリエステルフィルムロールは、十分な加工性があり、転写層の表面外観、剥離性、転写層の均一性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0117】
(実施例36)
実施例1のポリエステルフィルムロールにおいて、フィルム幅方向の厚みムラの変更を行い、フィルムの厚みデータが表4記載の最大厚み差ΔTmaxに調整して、本発明のポリエステルフィルムロールを得た。ここで得られた本発明のポリエステルフィルムロールの評価結果を表4に示す。
【0118】
実施例36のポリエステルフィルムロールは、十分な加工性があり、転写層の表面外観、剥離性、転写層の均一性に優れ、またフィルムの取扱性に特に優れており、光学フィルム用途として好適に使用できるものであった。
【0119】
(比較例1~6)
表5記載のフィルム構成と工程ロールに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ポリエステルフィルムロールを得た。なお、表5記載の基材層構成の項目における「A」の表記は、基材層の構成として、基材層Aの単層構成としたことを意味する。得られたポリエステルフィルムロールの評価結果を表5に示す。
【0120】
比較例1、6のポリエステルフィルムロールは、転写層の均一性に劣り、光学フィルム用途として使用することが困難であった。
【0121】
比較例2のポリエステルフィルムロールは、加工性と転写層の均一性に劣り、光学フィルム用途として使用することが困難であった。
【0122】
比較例3のポリエステルフィルムロールは、転写層の表面外観に劣り、光学フィルム用途として使用することが困難であった。
【0123】
比較例4のポリエステルフィルムロールは、転写層の表面外観と加工性に劣り、光学フィルム用途として使用することが困難であった。
【0124】
比較例5のポリエステルフィルムロールは、転写層の表面外観、剥離性、および転写層の均一性に劣り、光学フィルム用途として使用することが困難であった。
【0125】
(比較例7~10)
表5記載のフィルム構成と工程ロールに変更したこと以外は、実施例21と同様の方法により、ポリエステルフィルムロールを得た。なお、表5記載の基材層構成の項目における表記において、例えば「B/A/B」の表記は、基材層の構成として、基材層Aの両面に基材層Bを配置したこと、すなわち、基材層B/基材層A/基材層Bの層構成で構成したことを意味する。得られたポリエステルフィルムロールの評価結果を表5に示す。
【0126】
比較例7、8、9のポリエステルフィルムロールは、転写層の均一性に劣り、光学フィルム用途として使用することが困難であった。
【0127】
比較例10のポリエステルフィルムロールは、転写層の表面外観に劣り、光学フィルム用途として使用することが困難であった。
【0128】
(比較例11~13)
表6記載のフィルム構成に変更し、フィルム幅方向の厚みムラが表6記載のデータとなるように調整したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ポリエステルフィルムロールを得た。得られたポリエステルフィルムロールの評価結果を表6に示す。
【0129】
比較例11、12、13のポリエステルフィルムロールは、転写層の均一性に劣り、光学フィルム用途として使用することが困難であった。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】
【0133】
【表4】
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】