(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-28
(45)【発行日】2023-09-05
(54)【発明の名称】制震ユニットの設置方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
E04H9/02 311
(21)【出願番号】P 2019207184
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】内海 良和
(72)【発明者】
【氏名】富田 和磨
(72)【発明者】
【氏名】山口 温弘
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-240318(JP,A)
【文献】特開2014-231897(JP,A)
【文献】特開2012-219533(JP,A)
【文献】特許第3541186(JP,B2)
【文献】特開平07-003886(JP,A)
【文献】特開2011-006903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張力が作用して制震力を発生する制震部と、
前記制震部とピン接合されて前記制震部を第一方向に引っ張る第一引張部と、
前記制震部とピン接合されて前記制震部を前記第一方向と反対の第二方向に引っ張る第二引張部と、
を有する制震ユニットを設置する制震ユニットの設置方法であって、
前記第一引張部と前記制震部とをピン接合する第一ピン接合ステップと、
前記第一ピン接合ステップの後に、前記制震部を前記第二方向に引張緊張する引張緊張ステップと、
前記引張緊張ステップの後に、前記第二引張部と前記制震部とをピン接合する第二ピン接合ステップと、
前記第二ピン接合ステップの後に、前記引張緊張を解除する緊張解除ステップと、
を有することを特徴とする制震ユニットの設置方法。
【請求項2】
引張力が作用して制震力を発生する制震部と、
前記制震部とピン接合されて前記制震部を第一方向に引っ張る第一引張部と、
前記制震部とピン接合されて前記制震部を前記第一方向と反対の第二方向に引っ張る第二引張部と、
を各々有する2つの制震ユニットを前記第一方向に並べて設置する制震ユニットの設置方法であって、
前記2つの制震ユニットのうちの一方の前記制震ユニットの前記第一引張部と前記制震部とをピン接合し、前記2つの制震ユニットのうちの他方の前記制震ユニットの前記第二引張部と前記制震部とをピン接合する第一ピン接合ステップと、
前記第一ピン接合ステップの後に、前記一方の前記制震ユニットの前記制震部と前記他方の前記制震ユニットの前記制震部とを互いに近づく方向に引張緊張する相互引張緊張ステップと、
前記相互引張緊張ステップの後に、前記一方の前記制震ユニットにおける前記第二引張部と前記制震部とをピン接合し、前記他方の前記制震ユニットにおける前記第一引張部と前記制震部とをピン接合する第二ピン接合ステップと、
前記第二ピン接合ステップの後に、前記引張緊張を解除する相互緊張解除ステップと、
を有することを特徴とする制震ユニットの設置方法。
【請求項3】
請求項2に記載の制震ユニットの設置方法であって、
前記一方の前記制震ユニットが設けられる第一構面と、前記他方の前記制震ユニットが設けられる第二構面とは、前記第一構面及び前記第二構面の法線方向における位置が互いに異なっており、前記一方の前記制震ユニットにおける前記第二引張部と、前記他方の前記制震ユニットにおける前記第一引張部とは重なっていることを特徴とする制震ユニットの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震ユニットの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、制震ユニットとして、例えば、建物の上部側に設けられた上側水平部材と、この上側水平部材よりも下方に設けられた下側水平部材との間に取り付けられ、上側水平部材と下側水平部材との間の水平力を吸収して振動を減衰させる制震装置は知られている(例えば、特許文献1参照)。この減衰装置(制震ユニット)は、変位ユニットと、この変位ユニットと上側水平部材との間に配された上部側張力付与手段と、変位ユニットと下側水平部材との間に配された下部側張力付与手段とを有している。上部側張力付与手段及び下部側張力付与手段は、ターンバックルを有する一対のブレースから構成されており、ターンバックルを用いてその長さを調整することにより、変位ユニットを上下に引っ張る張力を適宜調節できるように構成されている。変位ユニットは、上部側張力付与手段と繋がった支持片と下部側張力付与手段と繋がった支持片とが粘弾性で固着されており、振動により変位ユニットが変形することにより、支持片間に挟まれた粘弾性体にせん断変形が生じて振動エネルギーが吸収されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような制震装置は、設置する際に初期張力が付与されている。このとき、従来の制震装置のように粘弾性体の変形により振動エネルギーを吸収するような制震装置は、ターンバックルにより初期張力を付与することが可能であるが、より大きな制震性能を備える制震装置の場合には、より大きな初期張力が必要であり、ターンバックルでは初期張力を付与すことができないという課題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、大きな初期張力を容易に付与して設置することが可能な制震ユニットの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明の制震ユニットの設置方法は、
引張力が作用して制震力を発生する制震部と、
前記制震部とピン接合されて前記制震部を第一方向に引っ張る第一引張部と、
前記制震部とピン接合されて前記制震部を前記第一方向と反対の第二方向に引っ張る第二引張部と、
を有する制震ユニットを設置する制震ユニットの設置方法であって、
前記第一引張部と前記制震部とをピン接合する第一ピン接合ステップと、
前記第一ピン接合ステップの後に、前記制震部を前記第二方向に引張緊張する引張緊張ステップと、
前記引張緊張ステップの後に、前記第二引張部と前記制震部とをピン接合する第二ピン接合ステップと、
前記第二ピン接合ステップの後に、前記引張緊張を解除する緊張解除ステップと、
を有することを特徴とする制震ユニットの設置方法である。
【0007】
このような制震ユニットの設置方法によれば、制震部を第一方向に引っ張る第一引張部とピン接合された制震部を第二方向に引張緊張することにより、例えばターンバックルが介在されたPC鋼棒を引張材として用い、ターンバックルにより引張力を付与する場合よりも大きな力で引張緊張することが可能である。そして、制震部が第二方向に引張緊張されている状態で第二引張と制震部とをピン接合し、その後、引張緊張を解除することにより、第一引張部及び第二引張部は同様に引張緊張され初期張力が導入される。このため、大きな初期張力を容易に付与して制震ユニットを設置することが可能である。
【0008】
また、引張力が作用して制震力を発生する制震部と、
前記制震部とピン接合されて前記制震部を第一方向に引っ張る第一引張部と、
前記制震部とピン接合されて前記制震部を前記第一方向と反対の第二方向に引っ張る第二引張部と、
を各々有する2つの制震ユニットを前記第一方向に並べて設置する制震ユニットの設置方法であって、
前記2つの制震ユニットのうちの一方の前記制震ユニットの前記第一引張部と前記制震部とをピン接合し、前記2つの制震ユニットのうちの他方の前記制震ユニットの前記第二引張部と前記制震部とをピン接合する第一ピン接合ステップと、
前記第一ピン接合ステップの後に、前記一方の前記制震ユニットの前記制震部と前記他方の前記制震ユニットの前記制震部とを互いに近づく方向に引張緊張する相互引張緊張ステップと、
前記相互引張緊張ステップの後に、前記一方の前記制震ユニットにおける前記第二引張部と前記制震部とをピン接合し、前記他方の前記制震ユニットにおける前記第一引張部と前記制震部とをピン接合する第二ピン接合ステップと、
前記第二ピン接合ステップの後に、前記引張緊張を解除する相互緊張解除ステップと、
を有することを特徴とする制震ユニットの設置方法である。
【0009】
このような制震ユニットの設置方法によれば、一方の制震ユニットにおいて制震部と第一引張部とをピン接合し、他方の制震ユニットにおいて制震部と第二引張部とをピン接合して、互いの制震部を互いに近づく方向に引張緊張することにより、一方の制震ユニットの第一引張部と他方の制震ユニットの第二引張部とを、例えばターンバックルが介在されたPC鋼棒を引張材として用い、ターンバックルにより引張力を付与する場合よりも大きな力で引張緊張することが可能である。そして、各々の制震部が互いに近づく方向に引張緊張されている状態で一方の制震ユニットの制震部と第二引張部とを、また、他方の制震ユニットの制震部と第一引張部とをピン接合し、その後、互いの制震部に作用している引張緊張を解除することにより、各々の制震ユニットの第一引張部及び第二引張部がそれぞれ同様に引張緊張され初期張力が導入される。このため、2つの制震ユニットに同時に大きな初期張力を容易に付与して2つの制震ユニットを設置することが可能である。
【0010】
かかる制震ユニットの設置方法であって、
前記一方の前記制震ユニットが設けられる第一構面と、前記他方の前記制震ユニットが設けられる第二構面とは、前記第一構面及び前記第二構面の法線方向における位置が互いに異なっており、前記一方の前記制震ユニットにおける前記第二引張部と、前記他方の前記制震ユニットにおける前記第一引張部とは重なっていることを特徴とする。
【0011】
このような制震ユニットの設置方法によれば、一方の制震ユニットが設けられる第一構面と、他方の制震ユニットが設けられる第二構面とは、法線方向における位置が互いに異なっているので、2つの制震ユニットが法線方向に重ならないように第1方向及び第二方向に並べて配置するよりも狭い範囲に2つの制震ユニットを配置することが可能である。このとき、一方の制震ユニットの第二引張部と、他方の制震ユニットの第一引張部とが重なっているので、制震ユニット同士が互いに干渉することなく各々の制震部をより近づけて配置することが可能である。またこのとき、各々の制震部は第1方向及び第二方向に並んで配置されるので、2つの制震部を互いに近づく方向に容易に引張緊張することが可能である。このため、複数の制震ユニットに容易に初期引張力を導入して設置することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大きな初期張力を容易に付与して設置することが可能な制震ユニットの設置方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】建物において本実施形態に係る複数の制震ユニットが組み込まれている貫通空間を示す図である。
【
図2】
図1におけるA-A断面を示す模式図である。
【
図5】
図4における1つの制震ユニットを示す図である。
【
図9】下制震ユニットの制震部の構成を示す分解斜視図である。
【
図10】上制震ユニットと下制振ユニットに初期引張力を導入する状態を示す側面図である。
【
図11】2つの制震ユニットずつ初期張力を導入して設置する設置方法を示す図である。
【
図12】1つの制震ユニットに初期張力を導入して設置する設置方法を示す図である。
【
図13】
図13(a)は、2階層毎に配置された制震ユニットを示す図であり、
図13(b)は、4階層毎に配置された制震ユニットを示す図であり、
図13(c)は、5階層毎に配置された制震ユニットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る制震ユニットの設置方法の一例を図を用いて説明する。
本実施形態においては、複数の階層を有する建物1において上下方向に貫通する空間を形成する、例えば
図1、
図2に示すようなエレベータ竪穴区画S1に複数の制震ユニット2が組み込まれた制震構造を例に挙げて制震ユニットの設置方法を説明する。
【0015】
本実施形態における制震構造は、建物1内のエレベータ竪穴区画S1内にて互いに間隔を隔てて立設する2本の柱3の間に上下方向に貫通する貫通空間S2が設けられている。
【0016】
以下の説明においては、立設されている柱3に沿う方向を上下方向、2本の柱3が間隔を隔てて並ぶ方向を左右方向、水平面内において左右方向と交差(直交)する方向を奥行き方向として示す。制震構造を構成する各部位であっても、また、制震構造を構成する各部材については単体の状態であっても、制震構造が組み込まれている状態で上下方向、左右方向、奥行き方向となる方向にて方向を特定して説明する。
【0017】
図3に示すように、2本の柱3間には、当該2本の柱3間を繋ぐ横材1aが、奥行き方向に間隔を隔てて階層毎に設けられている。各横材1aは小梁であり、例えば、H型鋼で形成されており、ウェブのみがボルト・ナットにより柱3側とピン接合されており、フランジ部は接合されていない。また、各横材1aの奥行き方向の幅は柱3の奥行き方向の幅W1よりも十分狭い。横材1aは、柱3の奥行き方向における両端にてそれぞれ、2本の柱3を繋ぐように各階床の近傍に掛け渡されている。
【0018】
奥行き方向に間隔を隔てて設けられている2本の横材1aの間には、複数の階層に亘って上下方向に貫通する貫通空間S2が設けられており、この貫通空間S2に左右方向の外力を制震する複数の制震ユニット2が設けられている。すなわち、2本の柱3の奥行き方向の幅W1は、貫通空間S2の奥行き方向の幅W2よりも広く、貫通空間S2内には当該2本の柱3間に掛け渡される横材などの水平構造部材は設けられていない。なお、2本の柱3間には、必ずしも横材1a等は設けられていなくとも構わない。この場合には、2本の柱3間の空間全体が、複数の階層に亘って上下方向に貫通する貫通空間に相当する。
【0019】
本実施形態の制震ユニット2は、
図2、
図4に示すように、複数階層に亘る貫通空間S2のうちの、上下方向に繋がり3階層に亘る空間でなる各連続空間S3にそれぞれ配置されている。貫通空間S2における複数の制震ユニット2の配置については後で詳述する。以下の制震ユニット2の説明においては、
図5に示すように、連続空間S3の上下に繋がる3つの階層の各空間を上空間S3a、中空間S3b、下空間S3cとして説明する。尚、
図5では説明の便宜上、1つの制震ユニット2のみを示し、他の制震ユニット2を省略している。
【0020】
各制震ユニット2は、
図5に示すように上空間S3aの上部側及び下空間S3cの下部側において2本の柱3の互いに対向する面3aにガゼットプレート4を介してボルトとナットによりピン接合され、連続空間S3の対角線上に配置される4つの引張部51、52と、4つの引張部51、52に支持されて中空間S3bの中央に配置される制震部6と、を有している。すなわち、制震ユニット2は、4つの引張部51、52と制震部6とにより、連続空間S3の3つの階層の空間S3a、S3b、S3cに亘るX字状のブレースをなしている。
【0021】
4つの引張部51、52は、制震部6の上側にて、第一方向としての上方向に制震部6を引っ張る上ブレース材5aと、制震部6とピン接合され上ブレース材5aと連結される上連結材18と、が連結されている2つの第一引張部51と、制震部6の下側にて、第二方向としての下方向に制震部6を引っ張る下ブレース材5bと、制震部6とピン接合され下ブレース材5bと連結される下連結材16と、が連結されている2つの第二引張部52とである。上ブレース材5a、上連結材18、下ブレース材5b、及び、下連結材16は、いずれも平板状の部材で構成され、上ブレース材5aと上連結材18、及び、下ブレース材5bと下連結材16は、それぞれボルト・ナットによりピン接合されている。
【0022】
制震部6は、
図6~
図9に示すように、左右の柱3にそれぞれ接合された2つの第一引張部51と各々面内方向に回動自在に連結される3枚の上制震板材7と、左右の柱3にそれぞれ接合された2つの第二引張部52と各々面内方向に回動自在に連結される2枚の下制震板材8と、を有している。3枚の上制震板材7及び2枚の下制震板材8はいずれも平板状の部材である。
【0023】
3枚の上制震板材7は、奥行き方向に互いに間隔を隔てて対面して配置され、2枚の下制震板材8は、奥行き方向に互いに間隔を隔てて対面して配置されている。3枚の上制震板材7の下側にて対向している部位間に、2枚の下制震板材8の上側の部位が1枚ずつ挿入されている。すなわち、3枚の上制震板材7は下側に、また、2枚の下制震板材8は上側に、それぞれ奥行き方向に重なる重なり部7a、8aを有している。
【0024】
3枚の上制震板材7の重なり部7aには、各下制震板材8側の面に各々摩擦板9が固定されており、2枚の下制震板材8の重なり部8aの両面には、滑り板10が固定されている。ここで、摩擦板9は、例えば、有機系摩擦材や無機系摩擦材であり、滑り板10は、例えばステンレスやチタンなどの耐食性を有する材料によって形成される。
【0025】
3枚の上制震板材7の重なり部7a、及び、摩擦板9には、上下方向に適宜間隔を隔ててボルト11が挿通される円形状のボルト挿通孔7b、9aが形成されており、2枚の下制震板材8、及び、滑り板10には、ボルト挿通孔7b、9aの間隔と同じ間隔で、左右方向に長い長孔8b、10aが設けられている。
【0026】
摩擦板9が固定された3枚の上制震板材7と、滑り板10が固定された2枚の下制震板材8とは、重ねられた状態でボルト挿通孔7b、9a及び長孔8b、10aにボルト11が挿通されている。挿通されたボルト11には、ボルト11の先端側に、重ねられた複数枚の皿ばね12が挿通され、ナット13が締め込まれて制震部6が構成されている。
【0027】
制震部6の3枚の上制震板材7の上端の左右の角部、及び、2枚の下制震板材8の下端の左右の角部には連結ボルト14が挿通される連結ボルト挿通孔7c、8cが設けられている。
制震部6の奥行き方向における両面には、左右の端部に沿って上制震板材7から下制震板材8に亘る縦板材15が重ねられている。
【0028】
図8に示すように、対向する下制震板材8間、及び、下制震板材8と縦板材15との間には、第二引張部52の3枚の下連結材16が介在されて下方に突出されている。2枚の縦板材15及び3枚の下連結材16には、2枚の下制震板材8と同様に連結ボルト挿通孔15a、16aが設けられており、各連結ボルト挿通孔8c、15a、16aに連結ボルト14が挿通されている。連結ボルト14は、先端部にねじ部を有するボルトである。連結ボルト14の頭部と上制震板材7及び下制震板材8との間には、座金が介在されており、ねじ部にはナット14aが締着されている。
【0029】
下制震板材8よりも下方に突出している3枚の下連結材16の下端部側には、対向する下連結材16間にそれぞれスプライスプレート17が介在されている。2枚のスプライスプレート17間には、真ん中の下連結材16と下ブレース材5bの端面同士が対向するように配置され、スプライスプレート17と下連結材16及び下ブレース材5bがボルトとナットによりピン接合されて、下連結材16と下ブレース材5bとが連結されている。尚、下制震板材8、縦板材15、下連結材16、スプライスプレート17、下ブレース材5bが、ほぼ平行に重なるようにスペーサーが適宜介在されている。
【0030】
3枚の上制震板材7間には、上ブレース材5aと制震部6とを繋ぐ2枚の上連結材18が介在されて上方に突出されている。3枚の上制震板材7と重ねられた2枚の縦板材15及び2枚の上連結材18には、3枚の上制震板材7と同様に連結ボルト挿通孔18aが設けられており、各連結ボルト挿通孔7c、18aに連結ボルト14が挿通されている。
【0031】
上制震板材7よりも上方に突出している2枚の上連結材18の上端部側には、上ブレース材5aが介在されており、対向する2枚の上連結材18間に真ん中の上制震板材7と上ブレース材5aとの端面同士が対向するように配置され、上連結材18と上ブレース材5aがボルトとナットによりピン接合されて、上制震板材7と上ブレース材5aとが連結されている。尚、上制震板材7、縦板材15、上連結材18、上ブレース材5aが、ほぼ平行に重なるようにスペーサーが適宜介在されている。
【0032】
本制震構造が備える複数の制震ユニット2の各制震部6には、
図6に示すように、制震ユニット2を設置する際に初期引張力を導入するために、上引張力導入部70または下引張力導入部80のいずれかが設けられている。上引張力導入部70及び下引張力導入部80の構成と、上引張力導入部70または下引張力導入部80が設けられている位置については、後述する。
【0033】
以上の構成により、3階層に亘る連続空間S3に設置され、第一引張部51及び第二引張部52とともにX字状のブレースを形成する制震部6は、上制震板材7、下制震板材8、縦板材15が互いに回動自在に連結されて、機構上矩形状の平行リンクとして機能する。すなわち、左右の縦板材15が4つの連結ボルト14を関節軸として上制震板材7及び下制震板材8に対して回動することにより、上制震板材7と下制震板材8とが互いに平行な姿勢を保ったまま相対移動するように構成されている。
【0034】
柱3に地震動等が入力されていない状態では、平行リンクをなしている制震部6の関節軸をなす4本の連結ボルト14に対し第一引張部51及び第二引張部52を介して3階層に亘る連続空間S3の対角線方向に均等に引張力が作用しており、平行リンクをなす制震部6は長方形状をなしている。
【0035】
そして、柱3に地震動等が入力されて柱3が水平荷重により変形すると、X字状のブレースの2本の対角線のうち一方の対角線上に張られた第一引張部51及び第二引張部52の張力が他方の対角線上に張られた第一引張部51及び第二引張部52の張力よりも大きくなるため、平行リンクをなしている制震部6も柱3に追従して平行四辺形をなすように変形する。このとき制震部6が変形することにより、上制震板材7と下制震板材8とが互いに平行な姿勢を保ったまま相対移動するため、上制震板材7に固定された摩擦板9と下制震板材8に固定された滑り板10とが皿ばね12により圧縮された状態で摺動し振動を減衰させる引張ダンパーとして機能する。
【0036】
本実施形態の制震ユニット2は、2本の柱3間の貫通空間S2に複数設けられており、互いに異なる連続空間S3にそれぞれ配置されている。より具体的には、例えば、最下の階層から2つ上の階層までの3階層に亘る連続空間S3、最下の階層の1つ上の2階をなす階層(以下、2階という)から4階をなす階層(以下、4階という)までの3階層に亘る連続空間S3、3階をなす階層(以下、3階という)から5階をなす階層(以下、5階という)までの3階層に亘る連続空間S3、というように、1階層ずつ上側にずれた各3階層に亘る各連続空間S3にそれぞれ制震ユニット2が配置されている。
【0037】
各連続空間S3は3階層に亘っており、1階層ずつずれているので、貫通空間S2の連続空間S3のうちの最下に位置する連続空間S3の下空間S3cと最上に位置する連続空間S3の上空間S3a以外の空間は、複数の連続空間S3に共有されており、共有されている空間では、制震ユニット2の一部が奥行き方向に重なっている。例えば、最下の階層を含む連続空間S3は、2階が最下となる連続空間S3及び3階が最下となる連続空間S3に共有する空間を有しており、最下の階層を含む連続空間S3に配置され3階まで至るように配置される制震ユニット2の一部は、2階が最下となる連続空間S3及び3階が最下となる連続空間S3に配置された制震ユニット2の一部と、奥行き方向に異なる位置に配置されている。
【0038】
また、4階から6階までの3階層に亘る連続空間S3に配置される制震ユニット2は、最下の階層を含む連続空間S3に配置された制震ユニット2の直上に配置され、5階から7階までの3階層に亘る連続空間S3に配置される制震ユニット2は、2階から4階までの3階層に亘る連続空間S3に配置された制震ユニット2の直上に配置され、6階から8階までの3階層に亘る連続空間S3に配置される制震ユニット2は、3階から5階までの3階層に亘る連続空間S3に配置された制震ユニット2の直上に配置されている。
【0039】
すなわち、複数の制震ユニット2は、上下方向に連なって列をなすように配置されており、上下方向に連なった制震ユニット2の列が、奥行き方向に3列並ぶと共に、奥行き方向において隣り合う列の制震ユニット2同士は、上下方向の位置が1階層ずつずれている。
【0040】
このため、各連続空間S3に1つずつ配置された制震ユニット2は、その一部が、1つ上の階を下空間S3cとする連続空間S3に設けられた制震ユニット2、及び、2つ上の階を下空間S3cとする連続空間S3に設けられた制震ユニット2と、奥行き方向に重なるように配置されている。すなわち、空間を共有する連続空間S3に配置された制震ユニット2同士は、それらの一部が奥行き方向に重なっている。
【0041】
このとき、各連続空間S3に配置される制震ユニット2はいずれも各連続空間S3の中空間S3bの中央に制震部6が配置されるので、上下に隣り合う制震ユニット2が備える制震部6同士は、奥行き方向に重なることはなく、第一引張部51または第二引張部52の一部が重なるように配置される。
【0042】
このため、本実施形態の制震構造のように、3階層に亘る連続空間S3に設置する制震ユニット2を備える場合には、上下に1階層ずらして奥行き方向に2つの制震ユニット2の一部が重なるように配置するには、4階層にわたる貫通空間S2が必要であり、上下に1階層ずらして奥行き方向に3つの制震ユニット2の一部が重なるように配置するには5階層にわたる貫通空間S2が必要である。すなわち、複階層に亘る連続空間S3に設置する制震ユニット2を備える場合には、1つの制震ユニット2が配置される連続空間S3の階層数よりも、少なくとも奥行き方向に重ねて配置する制震ユニット2の数だけ多い階層分の貫通空間S2が必要である。
【0043】
次に、本実施形態の制震構造における制震ユニット2の設置方法について説明する。
図11に示すように、まず、貫通空間S2に設置する複数の制震ユニット2を各々、ガゼットプレート4を介して柱3に仮固定する(STEP1:仮固定ステップ)。ここで仮固定とは、ガゼットプレート4と各制震ユニット2の上ブレース材5a及び下ブレース材5bとを接合するボルト、各制震ユニット2の上ブレース材5aと上連結材18とを接合するボルト、及び、下ブレース材5bと下連結材16とを接合するボルトがいずれも緩められた状態で取り付けられている状態を示している。
【0044】
次に、各制震ユニット2に初期引張力を導入する。初期引張力の導入は、貫通空間S2に仮固定された複数の制震ユニット2を、最上に配置された制震ユニット2から2つずつ組にして、各組毎に行う。貫通空間S2に仮固定された複数の制震ユニット2が奇数の場合には、例えば、最下に配置された制震ユニット2には単独で初期引張力を導入する。
【0045】
まず、組をなす2つの制震ユニット20、21に初期引張力を導入する方法について説明する。以下の説明では、各組の2つの制震ユニット20、21のうちの上側を上制震ユニット20と称し、下側を下制震ユニット21と称して説明する。また、
図10に示すように、仮固定された状態で、下制震ユニット21が設けられる第二構面P2の方が、上制震ユニット20が設けられる第一構面P1よりも奥行き方向において手前側に位置しており、
図6に示すように、上制震ユニット20の第二引張部52と下制震ユニット21の第一引張部51とは、奥行き方向に重なっている。ここで、奥行き方向が、第一構面P1及び第二構面P2の法線方向に相当する。
【0046】
図10に示すように、組をなす2つの制震ユニット20、21には各々、上制震ユニット20の制震部6が有する2枚の下制震板材8のうちの手前側に位置する下制震板材8に、下方に突出させて下引張力導入部80が設けられており、下制震ユニット21の制震部6が有する3枚の上制震板材7のうちの真ん中に位置する上制震板材7に、上方に突出させて上引張力導入部70が設けられている。
【0047】
下引張力導入部80は、手前側の下制震板材8の左右方向における中央に設けられ、下制震板材8が下方に延長されるように溶接されている下延長部80aと、下延長部80aの下端に溶接された下導入板部80bとを有している。下導入板部80bは、上制震ユニット20が仮固定された状態でほぼ水平面をなしており、溶接されている下延長部80aの手前側及び奥側に延出されている。下導入板部80bには、下延長部80aの手前側及び奥側にそれぞれ、上下方向に貫通する貫通孔80cが設けられている。
【0048】
上引張力導入部70は、真ん中の制震板材7の左右方向における中央に設けられ、上制震板材7が上方に延長されるように溶接されている上延長部70aと、上延長部70aの上端に溶接された上導入板部70bとを有している。下制震ユニット21が仮固定された状態で、上導入板部70bはほぼ水平面をなしており、溶接されている上延長部70aの手前側及び奥側に延出されている。上導入板部70bには、上延長部70aの手前側及び奥側にそれぞれ、上下方向に貫通する貫通孔70cが設けられている。上制震ユニット20及び下制震ユニット21が仮固定された状態では、上導入板部70bと下導入板部80bとは、上下方向に間隔を空けて対向している。
【0049】
2つの制震ユニット20、21に初期引張力を導入する場合には、まず、上制震ユニット20の第一引張部51と制震部6及びガゼットプレート4とをピン接合し、下制震ユニット21の第二引張部52と制震部6及びガゼットプレート4とをピン接合する(STEP2:第一ピン接合ステップ)。具体的には、上制震ユニット20の上ブレース材5aとガゼットプレート4及び上連結材18とを接合するボルトを締め込んでピン接合し、下制震ユニット21の下ブレース材5bとガゼットプレート4及び下連結材16とを接合するボルトを締め込んでピン接合する。上制震ユニット20の制震部6と連結ボルト14によりピン接合されている上連結材18と上ブレース材5aとが連結されることにより上制震ユニット20の第一引張部51と制震部6とがピン接合され、下制震ユニット21の制震部6と連結ボルト14によりピン接合されている下連結材16と下ブレース材5bとが連結されることにより下制震ユニット21の第二引張部52と制震部6とがピン接合される。このとき上制震ユニット20の下ブレース材5bとガゼットプレート4及び下連結材16とを接合するボルトは緩められたままであり、下制震ユニット21の上ブレース材5aとガゼットプレート4及び上連結材18とを接合するボルトは緩められたままである。
【0050】
次に、上制震ユニット20に設けられている下導入板部80bの2つの貫通孔80cと、下制震ユニット21に設けられている上導入板部70bの2つの貫通孔70cとに、両端部にねじ溝が形成されたPC鋼棒19をそれぞれ挿通し、PC鋼棒19の両端部にナット19aを螺合する。PC鋼棒19は、例えばセンターホールジャッキなどの引張緊張装置により引っ張られつつ螺合されたナット19aが締められ、上制震ユニット20の制震部6と下制震ユニット21の制震部6とが互いに近づく方向に引張緊張して所望の引張力を作用させる(STEP3:相互引張緊張ステップ)。
【0051】
次に、上制震ユニット20の第二引張部52と制震部6及びガゼットプレート4とをピン接合し、下制震ユニット21の第一引張部51と制震部6及びガゼットプレート4とをピン接合する(STEP4:第二ピン接合ステップ)。具体的には、上制震ユニット20の下ブレース材5bとガゼットプレート4及び下連結材16とを接合するボルトを締め込んでピン接合し、下制震ユニット21の上ブレース材5aとガゼットプレート4及び上連結材18とを接合するボルトを締め込んでピン接合する。上制震ユニット20の制震部6と連結ボルト14によりピン接合されている下連結材16と下ブレース材5bとが連結されることにより上制震ユニット20の第二引張部52と制震部6とがピン接合され、下制震ユニット21の制震部6と連結ボルト14によりピン接合されている上連結材18と上ブレース材5aとが連結されることにより下制震ユニット21の第一引張部51と制震部6とがピン接合される。
【0052】
次に、PC鋼棒19の両端部に螺合されているナット19aを外し、PC鋼棒19を取り外して引張緊張を解除し、上制震ユニット20と下制震ユニット21とに初期引張力が導入され、2つの制震ユニット2の設置が完了する(STEP5:相互緊張解除ステップ)。
【0053】
このように、貫通空間S2の例えば上側から順に2つの制震ユニット2毎に初期引張力を導入して設置していく。貫通空間S2に設置する複数の制震ユニット2が偶数の場合には、この設置方法により貫通空間S2に配置されている全ての制震ユニット2に初期引張力を導入して設置が完了する。
【0054】
本実施形態の2つの制震ユニット20、21の設置方法によれば、上制震ユニット20において第一引張部51と制震部6及びガゼットプレート4とをピン接合し、下制震ユニットにおいて第二引張部52と制震部6及びガゼットプレート4をピン接合して、互いの制震部6を互いに近づく方向に引張緊張することにより、上制震ユニット20の第一引張部51と下制震ユニット21の第二引張部52とを、例えばターンバックルが介在されたPC鋼棒を引張材として用い、ターンバックルにより引張力を付与する場合よりも大きな力で引張緊張することが可能である。
【0055】
そして、各々の制震部6が互いに近づく方向に引張緊張されている状態で上制震ユニット20の第二引張部52と制震部6及びガゼットプレート4とを、また、下制震ユニット21の第一引張部51と制震部6及びガゼットプレート4とをピン接合し、その後、互いの制震部6に作用している引張緊張を解除することにより、各々の制震ユニット20、21の第一引張部51及び第二引張部52がそれぞれ同様に引張緊張され初期張力が導入される。このため、2つの制震ユニット20、21に同時に大きな初期張力を容易に付与して2つの制震ユニット20、21を設置することが可能である。
【0056】
また、上制震ユニット20が設けられる第一構面P1と、下制震ユニット21が設けられる第二構面P2とは、法線方向における位置が互いに異なっているので、2つの制震ユニット20、21が法線方向に重ならないように上下方向に並べて配置する場合よりも狭い空間に2つの制震ユニット20、21を配置することが可能である。このとき、上制震ユニット20の第二引張部52と、下制震ユニット21の第一引張部51とが重なっているので、制震ユニット20、21同士が互いに干渉することなく各々の制震部6をより近づけて配置することが可能である。またこのとき、各々の制震部6は上下方向に並んで配置されるので、2つの制震部6を互いに近づく方向に容易に引張緊張することが可能である。このため、複数の制震ユニット2に容易に初期引張力を導入して複数の制震ユニット2を設置することが可能である。
【0057】
上記実施形態においては、貫通空間S2に設けられている複数の制震ユニット2を予め全て仮固定した後に、上下に並ぶ2つの制震ユニットに順次初期引張力を導入する例について説明したが、これに限らず、例えば、上下に隣り合う2つの制震ユニット毎に、仮固定した後に初期引張力を導入する工程を順次繰り返しても構わない。
【0058】
貫通空間S2に仮固定された複数の制震ユニット2が奇数の場合には、例えば、貫通空間S2の最下に仮固定される制震ユニット2に、前述した上制震ユニット20と同様に上制震ユニット20の制震部6下引張力導入部80を備えておく。また、制震ユニット2の下方に位置する構造体に、前述した下制震ユニット21に備えた上引張力導入部70と同様の部材を、上導入板部70bと下導入板部80bとが上下方向に間隔を隔てて対向するように配置しておく。
【0059】
制震ユニット2に単独で初期引張力を導入して設置する場合には、まず、制震ユニット2の上ブレース材5aとガゼットプレート4及び上連結材18とを接合するボルトを締め込んでピン接合する(STEP6:第一ピン接合ステップ)。制震部6と連結ボルト14によりピン接合されている上連結材18と上ブレース材5aとが連結されることにより第一引張部51と制震部6とがピン接合される。このとき下ブレース材5bとガゼットプレート4及び下連結材16とを接合するボルトは緩められたままである。
【0060】
次に、制震ユニット2に設けられている下導入板部80bの2つの貫通孔80cと、構造体に設けられている上導入板部70bの2つの貫通孔70cとに、両端部にねじ溝が形成されたPC鋼棒19をそれぞれ挿通し、PC鋼棒19の両端部にナット19aを螺合する。PC鋼棒19は引張緊張装置により引っ張られつつ螺合されたナット19aが締められ、制震ユニット2の制震部6を構造体側にとなる下方向に引張緊張して所望の引張力を作用させる(STEP7:引張緊張ステップ)。
【0061】
次に、下ブレース材5bとガゼットプレート4及び下連結材16とを接合するボルトを締め込んでピン接合する(STEP8:第二ピン接合ステップ)。制震部6と連結ボルト14によりピン接合されている下連結材16と下ブレース材5bとが連結されることにより第二引張部52と制震部6とがピン接合される。
【0062】
次に、PC鋼棒19の両端部に螺合されているナット19aを外し、PC鋼棒19を取り外して引張緊張を解除して、制震ユニット2に初期引張力が導入され、制震ユニット2の設置が完了する(STEP9:緊張解除ステップ)。
【0063】
本実施形態の制震ユニット2の設置方法によれば、制震部6を上方向に引っ張る第一引張部51とピン接合された制震部6を下方向に引張緊張することにより、例えばターンバックルが介在されたPC鋼棒を引張材として用い、ターンバックルにより引張力を付与する場合よりも大きな力で引張緊張することが可能である。そして、制震部6が下方向に引張緊張されている状態で第二引張部52と制震部6とをピン接合し、その後、引張緊張を解除することにより、第一引張部51及び第二引張部52は同様に引張緊張され初期張力が導入される。このため、単体の制震ユニット2であったとしても大きな初期張力を容易に付与して制震ユニット2を設置することが可能である。
【0064】
本実施形態においては、貫通空間S2の最下に仮固定される制震ユニット2に初期引張力を導入して設置する設置方法について説明したが、これに限らず、例えば、単独で設置される制震ユニットに初期引張力を導入して設置する場合も同様である。このとき、制震ユニット2に設けられている下導入板部80bとPC鋼棒19により連結される部位は、構造体に限らず、所望の初期引張力を導入可能な剛性及び強度を備えたアンカーボルトや、ワイヤーなどを引っ掛けることが可能なフックなどでも構わない。
【0065】
上記実施形態においては、第一引張部51が上ブレース材5aと上連結材18とにより構成され、第二引張部52が下ブレース材5bと下連結材16とにより構成されている例について説明したが、第一引張部51及び第二引張部52は、単体の部材であっても構わない。この場合には、例えば、第一ピン接合ステップにおいて、第一引張部及び第二引張部のいずれか一方と制震部とを連結ボルトによりピン接合し、引張緊張ステップにおいて、制震部とピン接合されている第一引張部または第二引張部とは反対方向に制震部を引っ張り、第二ピン接合ステップにおいて、第一引張部及び第二引張部のうちの他方と制震部とを連結ボルトによりピン接合する。
【0066】
また、各制震ユニット2に引張力を導入する場合に、第一引張部51及び第二引張部52と制震部6とが予めいずれも仮固定されている必要はなく、例えば、第一引張部及び第二引張部のいずれか一方のみが制震部とピン接合され、他方が配置されていない状態で、制震部をピン接合されている第一引張部または第二引張部とは反対方向に引っ張り、その後、第一引張部及び第二引張部のうちの他方を配置して制震部とピン接合しても構わない。
【0067】
上記実施形態においては、上下に位置する上引張力導入部70の貫通孔70cと下引張力導入部80の貫通孔80cにそれぞれPC鋼棒19を挿通しナット19aを螺合して初期引張力を導入する方法を例に挙げて説明したが、これに限るものではない。例えば、上引張力導入部70の貫通孔70cと下引張力導入部80の貫通孔80cに掛け渡したワイヤーを、例えばレバーブロック(登録商標)などの引張緊張装置により上引張力導入部70と下引張力導入部80とが互いに近づく方向に引き付けて初期引張力を導入しても構わない。
【0068】
上記実施形態においては、2本の対角線上に配置される4つの引張部51、52に制震部6が支持されているX字状のブレースでなる制震ユニット2、20、21を例に挙げて説明したが、これに限るものではない。例えば、1本の対角線上に配置される2つの引張部の間に制震部が介在されて斜めに掛け渡されるブレースでなる制震ユニットであっても、一方の引張部と制震部とがピン接合された状態で、他方の引張部に制震部を引張緊張した後に、他方の引張部と制震部とをピン接合することにより設置することが可能である。
【0069】
また、上記実施形態においては、複数の制震ユニット2が上下方向に貫通する空間に設けられている例に付いて説明したが、これに限らず、複数の制震ユニットは、例えば、上下階のスラブの間など横方向に貫通する空間に設けられていても構わない。
【0070】
上記実施形態においては、貫通空間S2に設けられている複数の制震ユニット2のうちの上下方向に隣り合う制震ユニットの引張部が奥行き方向に重なるように配置されている例について説明したが、これに限らず、例えば、上下方向に隣り合う制震ユニットが奥行き方向に重なることなく同一構面内に設けられていても構わない。
【0071】
上記実施形態においては、連続空間を上下方向に繋がる3つの階層の空間として説明したが。これに限るものではない。例えば、
図13(a)に示すように連続空間S3を上下方向に繋がる2つの階層の空間としても、
図13(b)に示すように連続空間S3を上下方向に繋がる4つの階層の空間としても、
図13(c)に示すように連続空間S3を上下方向に繋がる5つの階層の空間としても、または、それ以上の階層の空間としても構わない。
【0072】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0073】
2 制震ユニット
6 制震部
51 第一引張部
52 第二引張部
P1 第一構面
P2 第二構面